説明

積層構造型超硬合金とその製造方法および前記超硬合金により形成された工具

【課題】超硬合金スクラップを活用しても、強度と靭性の両特性がバランスよく両立できる超硬合金とその製造方法およびそれで形成された工具を提供する。
【解決手段】表面層および内層の少なくとも二層のWC基超硬合金層が積層された積層構造型超硬合金であって、内層のAl含有率が表面層のAl含有率よりも高く、前記表面層の厚さが50μm以上1500μm以下であることを特徴とする積層構造型超硬合金、それを用いた切削用工具、金型用工具などの工具、超硬合金スクラップから得られる超硬のリサイクル粉末を用いて超硬合金を製造する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強度および靭性が共に優れる積層構造型超硬合金とその製造方法および前記超硬合金により形成された工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、切削工具として、WC(炭化タングステン)を主成分とし、Co(コバルト)などの鉄族元素を結合相とした超硬合金および超硬合金の基材表面に被覆膜を具える被覆切削工具が開発されている。
【0003】
超硬合金に求められる代表的な特性として、耐摩耗性(例えば、耐逃げ面摩耗性、耐クレーター摩耗性)、強度(例えば、耐欠損性、抗折力)、靭性(例えば、耐チッピング性、耐熱亀裂性)がある。
【0004】
これらの特性のうち、強度を向上させる方法として、WC原料に微粒WCを用い、WC結晶粒を細かくする方法が知られている。また、靭性を向上させる方法として、WC原料に粗粒WCを用い、WCを粗くする方法が知られている。
【0005】
しかしながら、これらの方法においては、強度と靱性がトレードオフの関係にあり、両特性を両立させることは難しい。強度及び靭性を両立させる方法として、粗粒に微粒を混合したWC粒子を有する超硬合金を用いる方法(たとえば、特許文献1)、平均粒径が異なるWC粒子を硬質相とするWC基超硬合金で表面層と内層とを構成し、二つの表面層で内層を挟む積層構造のWC基超硬合金を用いる方法(たとえば、特許文献2)が、提案されているが未だに充分な効果が得られていない。
【0006】
一方、超硬合金中の硬質相であるWCは希少資源であり、産出国が限られているため、価格の高騰を招きやすく、地球環境の保護と相俟って超硬合金のリサイクルに対する要望が一段と高まっている。
【0007】
超硬合金スクラップのリサイクル法には、超硬合金を酸やアルカリを用いて溶解し化学的にWやCoをリサイクルする湿式法と、亜鉛や錫を用いてWC粒子を溶解せずにリサイクルする亜鉛(錫)処理法がある。
【0008】
前記の処理法のうち、湿式法では超硬合金は酸やアルカリを用いて溶解され、Wは何段階もの精製工程を経て一旦パラタングステン酸アンモニウム(APT)に精製されるため、鉱石から精錬されたものと同様に非常に高純度であり、高品質のWC粉末を製造することができる。
しかしながら、湿式法の場合、精製工程で酸やアルカリなどを用いるため高価な公害防止設備が必要であり、また大量のエネルギーを使用する上、大規模なプラントを用いて製造しないと製造コストを低減できないという問題がある。
【0009】
これに対し、亜鉛(錫)処理法では、亜鉛や錫と超硬合金の結合相金属であるCoを不活性ガスや窒素ガスの雰囲気中で850℃程度の高温で反応させてCo−Zn、Co−Snの共晶融液からなる液相を発生させた後、さらに高温に昇温し、減圧雰囲気にすることで蒸気圧の高い亜鉛、錫を蒸発させて結合相をスポンジ状にすることにより超硬合金を脆化させる。この脆化した超硬合金はボールミルなどで簡単に粉砕でき、スクラップの原料組成およびWC粒径そのままの超硬合金のリサイクル粉末が得られる。このように比較的シンプルな設備で簡便にCoを含んだWC粉末が低コストで得られる特徴を有する。
【0010】
しかし、前記亜鉛(錫)処理法の場合、超硬合金にアルミナコーティングやTiAlNコーティングされた工具をスクラップ処理した場合には、リサイクルした粉末中にAlが残存しやすく、このようなリサイクル粉末を利用した超硬合金は強度が低下したり、強度が不安定となる問題がある。このため、亜鉛(錫)処理法を用いた超硬合金のリサイクルでは、原料となるスクラップの選別を強化して、Alの混入比率が大きくならないように管理したり、リサイクル粉末を活用する場合には、Alの悪影響が出ないように通常の原料粉末への投入比率を調整して使用するなどの制限が生じ、リサイクル粉末を活用する上で問題点となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平6−220571号公報
【特許文献2】特開平7−197265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記事情を鑑みて成されたものであり、本発明が解決しようとする課題は、強度と靭性が共に良好で、両特性が両立でき、さらに、アルミナコーティングされた超硬合金スクラップから得られるリサイクル粉末を有効に活用できる超硬合金とそれを用いた工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以上の課題を解決することを目的としてなされたものである。以下に本発明に関連する各技術について説明する。
【0014】
本発明に関連する第1の技術は、
表面層および内層の少なくとも二層のWC基超硬合金層が積層された積層構造型超硬合金であって、内層のAl含有率が表面層のAl含有率よりも高いことを特徴とする積層構造型超硬合金である。
【0015】
第1の技術によれば、前記課題である強度と靭性が共に良好で、両特性が両立でき、さらに、アルミナコーティングされた超硬合金スクラップから得られるリサイクル粉末を有効に活用できる超硬合金を提供することができる。
以下、詳細に説明する。
【0016】
超硬原料粉末中にAlが含まれていると、Alは容易に酸化されるため、製造工程中でAl酸化物となり易く、焼結体中ではAl酸化物(アルミナ)の形で存在し易い。Al酸化物は硬質相であるWCおよび結合相である鉄族金属との濡れ性が悪いため、Al酸化物の周辺に気孔を形成しやすく、またAl酸化物自身が破壊源となる。これらは超硬合金の機械的強度が低下する原因となる。したがって、通常、超硬合金中にはAlの量を極力少なくすることが求められる。
【0017】
しかしながら、本発明者らはAlの含有率の高い超硬合金は、同一組成、同一硬度のAlの含有率の低い超硬合金よりも、機械的強度には劣るが、亀裂進展の起こりにくさを表わす破壊靱性値が優れることを見出した。そして、この点に着目し、超硬合金層を少なくとも二層にし、機械的応力が必要とされる表面層にはAl含有率が低い超硬合金を配置して強度を高め、亀裂の進展抑制が必要とされる内層にはAl含有率が高い超硬合金を配置して靭性を高めることにより、全体で強度と靭性がバランスよく両立できる超硬合金とすることができることを見出した。
【0018】
そして、上記により従来Al含有率が高くて、適用が非常に制約されていたアルミナコーティングされた超硬合金スクラップのリサイクル粉末を有効に活用しながら、強度と靭性がバランスよく両立できる超硬合金を提供することができるようになった。
そして、リサイクル粉末として、湿式法よりも低コストの亜鉛(錫)処理法により製造された粉末を用いることができるため、上記の強度と靱性を両立させた超硬合金をより安価に提供することができ、地球環境の保護およびWCの供給リスクの回避に役立つ。
【0019】
第1の技術における基材の構成としては、例えばAlの含有率の低いWC基超硬合金層を表面層とし、Alの含有率の高いWC基超硬合金層を内層とする二層構造の積層構造型超硬合金や、Alの含有率の低いWC基超硬合金層でAlの含有率の高いWC基超硬合金層を両側から挟んだ三層構造の積層構造型超硬合金とする。また、積層構造はサンドイッチ状であっても同心円状であっても良い。
そして、本技術の積層構造型超硬合金を切削工具に用いる場合には、すくい面にAlの含有率の低いWC基超硬合金層が配される。金型用工具に用いる場合には、被加工材との接触面にAlの含有率の低いWC基超硬合金層が配される。即ち、機械的応力が必要とされる側にAl含有率の低いWC基基超硬合金層が配される。そして、二層構造の場合、本技術ではこのように機械的応力が必要とされる側を表面層と呼称している。
【0020】
次に、基材の組成は、WCを主成分とする硬質相と、CoやNi等の鉄族金属を主成分とする結合相とからなるWC基超硬合金で構成される。基材は、さらに、周期律表IVa、Va、VIa族の金属元素群から選択される1種以上の元素(a)や、同金属元素群から選択される1種以上の元素と炭素、窒素、酸素及び硼素からなる群から選択される1種以上の元素とからなる化合物(固溶体)(b)を含有していてもよい。
【0021】
具体的には、(a)の元素としてはCr、Ta、Nb、V、Tiなど、(b)の化合物としては、(Ta,Nb)C、VC、Cr、NbCなどが挙げられる。これらの元素や化合物は、焼結中においてWC粒子の粒の成長を抑制する働きをするものが多い。WC粒子が少な過ぎると、耐摩耗性や靭性が低下したり、焼結性が低下するため、WC粒子の含有量は70〜98質量%が好ましい。また、公知の組成の超硬合金を利用してもよく、表面層と内層におけるWC基超硬合金のAlの含有率を除く組成は同じであっても異なっていてもよい。
【0022】
本発明に関連する第2の技術は、
前記内層のAl含有率が50ppm以上であることを特徴とする第1の技術に記載の積層構造型超硬合金である。
【0023】
第2の技術においては、内層のAl含有率が50ppm以上であるため、内層の靭性がより向上した超硬合金を提供することができる。内層のAl含有率が100ppm以上であると、より好ましい。
【0024】
本発明に関連する第3の技術は、
前記Alが酸化物として存在することを特徴とする第1の技術または第2の技術に記載の積層構造型超硬合金である。
【0025】
前記のように、Al酸化物(以下、アルミナという)は、硬質相であるWCおよび結合相である鉄族金属との濡れ性が悪いため、アルミナの周辺には気孔が形成され、機械的強度低下の原因となる。
一方、切削中に発生する亀裂はアルミナとWCもしくは鉄族金属の界面を進展しやすく亀裂が湾曲しながら進展するため、亀裂の進展エネルギーが吸収される。さらに、前記の気孔が亀裂の進展エネルギーを吸収するため、Alが酸化物として超硬合金中に存在するときに超硬合金の靭性については向上することが分かった。
そして、両特性のバランスを考慮した場合、Alは酸化物として存在することの方が好ましいことが分かった。
【0026】
本発明に関連する第4の技術は、
前記酸化物がα型アルミナを含むことを特徴とする第3の技術に記載の積層構造型超硬合金である。
【0027】
アルミナにはα型、κ型、γ型、θ型など多数あるが、特にα型アルミナを含んだ場合に優れた靱性を得ることができる。これはα型アルミナは高温安定型であり、アルミナ粒子同士の結合力が高いため、亀裂がα型アルミナを迂回する形で進展しやすく、亀裂の偏向作用により亀裂進展エネルギーの吸収に有効に働くためと考えられる。
【0028】
本発明に関連する第5の技術は、
前記表面層と前記内層の各々に含まれる結合相量(体積%)が同量であることを特徴とする第1の技術ないし第4の技術のいずれか1つの技術に記載の積層構造型超硬合金である。
【0029】
WC基超硬合金は、焼結中に液相を生成させて緻密化を行う。このため、表面層と内層において生成する液相量が相違すると、焼結中に液相となる両層の結合相量が均衡化しようとする作用により、結合相の物質移動が生じる。
【0030】
そこで、第5の技術においては、表面層と内層に含まれる結合相量(体積%)を同量にすることにより、結合相の物質移動を防ぎ、表面層と内層の焼結後の硬度を、単体で焼結したときの硬度と同一の硬度とする。これにより、積層構造型超硬合金の各層の硬度を狙い通りのものとして、合金構造設計を容易にし、優れた合金特性が再現性よく発現することができる。
【0031】
なお、ここで結合相量(体積%)が同量であるとは、両層の結合相量(体積%)の差を多い結合相量(体積%)に対する比率で表した時の値が10%以内であることを意味している。
また、互いの結合相量差(体積%)が上記範囲内にあると、液相が表面層と内層の間で移動した場合でも、焼結体硬度の変化に与える影響は小さいため、前記と同趣旨の目的を達成することができる。
【0032】
本発明に関連する第6の技術は、
前記表面層中に含まれる結合相を構成するCo量(体積%)と前記内層中に含まれる結合層を構成するCo量(体積%)が同量であることを特徴とする第5の技術に記載の積層構造型超硬合金である。
【0033】
表面層と内層におけるCo量(体積%)が同量であると、Co中に固溶できるW量が、表面層と内層で同量となり、焼結時に生成した液相中のW溶質量が同等となり、溶質原子であるWの物質移動を抑制することができ好ましい。
【0034】
本発明に関連する第7の技術は、
前記表面層の表面にさらにセラミック被覆膜を有することを特徴とする第1の技術ないし第6の技術のいずれか1つの技術に記載の積層構造型超硬合金である。
【0035】
切削用工具は、一般的に100m/min〜500m/minの切削速度で使用され、特に鋼切削の場合、刃先温度は1000℃にも達するため、このような高温に耐える高い耐熱性が求められる。このような要求に対応する方法として切削用工具の表面にセラミック膜を被覆する方法を採用することにより、耐熱性、耐摩耗性を高めることができる。
また、本技術の積層構造型超硬合金を金型用工具に利用する場合にも、セラミック膜を被覆することにより、耐摩耗性向上、潤滑性向上、耐焼き付き性を向上させることができる。
【0036】
被覆用のセラミック材料としては、例えばTiN、TiAlN、Al、CrN、DLC等を適用することができ、厚すぎると耐欠損性が低下するため、被覆の厚さは0.1〜20μmとすることが好ましい。また、被覆には通常用いられるPVD、CVD、めっき等の方法を適用することができる。
【0037】
本発明に関連する第8の技術は、
前記内層のWC基超硬合金が、Znおよび/またはSnを用いたリサイクル法により製造された超硬粉末を用いて製造されていることを特徴とする第1の技術ないし第7の技術のいずれか1つの技術に記載の積層構造型超硬合金である。
【0038】
第8の技術によれば、Znおよび/またはSnを用いたリサイクル法(亜鉛(錫)処理法)により製造した超硬粉末を内層に使用して超硬合金を製造しても、強度や靭性の品質が安定して優れた超硬合金とすることができる。
【0039】
前記のように、超硬合金のスクラップの処理法として亜鉛(錫)処理法は湿式法よりも低コストではあるが、アルミナコーティングやTiAlNコーティングをした工具をスクラップ処理した場合には、リサイクルした粉末中にAlが不純物として残存しやすく、このリサイクル粉末を利用した超硬合金は強度が低下するという問題があった。本技術の超硬合金は、このような欠点を有する亜鉛(錫)処理法により製造した超硬粉末をも有効に活用できるようになる。そして、地球環境保護、WC供給リスク回避の観点からも有益である。
【0040】
本発明に関連する第9の技術は、
第1の技術ないし第8の技術のいずれか1つの技術に記載の積層構造型超硬合金により形成されていることを特徴とする工具である。
【0041】
第9の技術においては、前記各技術に記載の積層構造型超硬合金により形成されているため、強度と靭性に優れた工具を提供することができる。
本技術の具体的工具としては、たとえば、切削チップ、ドリル、エンドミルなどの切削工具、金型やパンチ、ダイスなどの耐摩工具、ビットなどの鉱山土木、都市開発用工具、スリッターなどの切断工具、測定冶具などの精密工具などが挙げられる。
【0042】
本発明に関連する第10の技術は、
前記工具が切削用工具であることを特徴とする第9の技術に記載の工具である。
【0043】
工具の中でも、切削用工具に本技術の積層構造型超硬合金を用いた場合には、Al含有率が高いWC基超硬合金が内層に存在しても、その影響は非常に小さい。これは、切削工具の場合、応力集中点は工具の表面近傍に存在するため、工具の強度は表面層のみで決まり、内層の超硬合金は硬さと靱性の機能を有することで、十分使用に耐えるからである。
このため、本技術の積層構造型超硬合金を切削用工具として有効に用いることができる。
【0044】
本発明に関連する第11の技術は、
前記工具が金型用工具であることを特徴とする第9の技術に記載の工具である。
【0045】
工具の中でも、金型用工具に本技術の積層構造型超硬合金を用いた場合には、Al含有率が高いWC基超硬合金が内部に存在しても、その影響は非常に小さい。これは、金型用工具の場合、表面層の面粗さ、WC粒径、組成、硬さにその性能が大きく影響され、内層の超硬合金の強度特性の影響は非常に小さいためである。
このため、本技術の積層構造型超硬合金を金型用工具として有効に用いることができる。
【0046】
本発明に関連する第12の技術は、
前記切削用工具の表面層の厚さが50μm以上1500μm以下であることを特徴とする第10の技術に記載の工具である。
【0047】
第12の技術においては、本技術の切削用工具の表面層の厚さが50μm以上1500μm以下であるため、切削加工時に欠損を引き起こしにくく、亀裂進展が起こりにくい切削用工具を提供することができる。
即ち、前記表面層の厚さが50μm未満であると、内層のAlの含有率の高いWC基超硬合金の機械的強度が低いことが原因で生じる切削加工時の欠損を引き起こし易くなる。また、表面層の厚さが1500μmを超えると、内層のAlの含有率の高いWC基超硬合金の特徴である優れた靭性を発揮することが困難になり易い。また、表面層の厚さが厚いため、内層の厚さが薄くなり、内層の体積が小さくなるため、リサイクル粉末を使用する量が少なく、コスト低減の効果が小さくなる。
熱亀裂の発生しやすいフライス加工や比較的弱い断続切削時には亀裂は緩やかに進展するため、亀裂長さは50μmから1500μmまで成長することがあり、この亀裂進展を抑制するためにAlの含有率の高いWC基超硬合金を表面から50μm以上1500μm以下の位置に配置することが有効であり、より好ましい厚さは100μm以上1000μm以下である。
一方、表面層にはAlの含有率の低いWC基超硬合金層を配置することで、強断続切削時の亀裂の発生を抑制できるため、亀裂が発生しにくく、亀裂進展の抑制効果に優れた切削用工具とすることができる。
【0048】
本発明に関連する第13の技術は、
第1の技術ないし第8の技術のいずれか1つの技術に記載の積層構造型超硬合金の製造方法であって、Znおよび/またはSnを用いたリサイクル法により製造された超硬粉末と、Znおよび/またはSnを用いたリサイクル法により製造された超硬粉末の含有比率が0〜50vol%の超硬粉末を用いて、同時に積層プレス成形後、焼結して前記内層と表面層が積層されたWC基超硬合金を製造することを特徴とする積層構造型超硬合金の製造方法である。
【0049】
前記の通り、アルミナコーティングされた超硬合金スクラップを原料としてZnおよび/またはSnを用いたリサイクル法(亜鉛(錫)処理法)により製造された超硬粉末を内層に使用して超硬合金を製造しても、強度や靭性の品質が安定して優れた超硬合金とすることができ、さらに、環境面での負荷が小さくかつ安価にこのような超硬合金を提供することができる。
【0050】
本発明に関連する第14の技術は、
前記表面層と前記内層を、結合相量(体積%)および/またはCo量(体積%)が同量である超硬粉末を用いて、同時に積層プレス成形することを特徴とする第13の技術に記載の積層構造型超硬合金の製造方法である。
【0051】
第14の技術においては、前記表面層と前記内層に、結合相量(体積%)および/またはCo量(体積%)が同量である超硬粉末を用いるため、焼結に際して結合相やWの物質移動を抑制することができ、優れた合金特性が再現性良く発現する積層構造型超硬合金を提供することができる。また、表面層と内層を同時に積層プレス成形するため、積層構造型超硬合金を安価に提供することができる。
【0052】
本発明は、以上の技術に基づくものであり、各請求項の発明は以下の通りである。
【0053】
即ち、請求項1に記載の発明は、
表面層および内層の少なくとも二層のWC基超硬合金層が積層された積層構造型超硬合金であって、内層のAl含有率が表面層のAl含有率よりも高く、前記表面層の厚さが50μm以上1500μm以下であることを特徴とする積層構造型超硬合金である。
【0054】
請求項2に記載の発明は、
前記内層のAl含有率が50ppm以上であることを特徴とする請求項1に記載の積層構造型超硬合金である。
【0055】
請求項3に記載の発明は、
前記Alが酸化物として存在することを特徴とする請求項1または2に記載の積層構造型超硬合金である。
【0056】
請求項4に記載の発明は、
前記酸化物がα型アルミナを含むことを特徴とする請求項3に記載の積層構造型超硬合金である。
【0057】
請求項5に記載の発明は、
前記表面層と前記内層の各々に含まれる結合相量(体積%)が同量であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の積層構造型超硬合金である。
【0058】
請求項6に記載の発明は、
前記表面層中に含まれる結合相を構成するCo量(体積%)と前記内層中に含まれる結合相を構成するCo量(体積%)が同量であることを特徴とする請求項5に記載の積層構造型超硬合金である。
【0059】
請求項7に記載の発明は、
前記表面層の表面にさらにセラミック被覆膜を有することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の積層構造型超硬合金である。
【0060】
請求項8に記載の発明は、
前記内層のWC基超硬合金が、Znおよび/またはSnを用いたリサイクル法により製造された超硬粉末を用いて製造されていることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の積層構造型超硬合金である。
【0061】
請求項9に記載の発明は、
請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の積層構造型超硬合金により形成されていることを特徴とする工具である。
【0062】
請求項10に記載の発明は、
前記工具が切削用工具であることを特徴とする請求項9に記載の工具である。
【0063】
請求項11に記載の発明は、
前記工具が金型用工具であることを特徴とする請求項9に記載の工具である。
【発明の効果】
【0064】
本発明によれば、強度と靭性が共に良好で、両特性が両立できる超硬合金とそれを用いた工具を提供することができる。また、アルミナコーティングされた超硬合金スクラップから得られる超硬のリサイクル粉末を有効に活用し、環境負荷を低減しつつ安価に優れた超硬合金を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は、強度試験に使用した被削材(SCM435:4溝材)の形状を概念的に示す図である。
【図2】図2は、靱性試験に使用した被削材(SCM435:4V溝材)の形状を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0066】
以下、本発明を実施するための最良の実施の形態につき、以下に示す実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、以下の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【0067】
実施例1、比較例
Al含有率が各々50ppm未満、および50ppm以上となるように、超硬合金スクラップから得られる超硬のリサイクル粉末を含むWC基超硬合金の原料粉末と結合相となるCoを体積比で88:12の比率で秤量後、アルコールを溶媒として用い、ボールミルで72時間湿式混合した。特にAl含有率が50ppm以上となるようにするにはアルミナコーティングされた工具の超硬合金スクラップから得られる超硬のリサイクル粉末をそのまま用いれば容易にでき、これにリサイクルでない新粉のWC基超硬合金の原料粉末を混合すればAl含有率を調整できる。
混合終了後スプレードライを用いて乾燥造粒を行いAl含有率が10ppmの混合粉末(A)、Al含有率が400ppmの合金混合粉末(B)の2系統の混合粉末を作製した。
次に特殊プレス機を用いて焼結後の形状がISO型番SNGN120408用素材(内接円:13.1mm、厚み:5.0mm)となる表面層/内層/表面層の3層サンドイッチ構造となるようにプレス成形体を作り、さらに1400℃で1時間保持して真空焼結を行った。
【0068】
表1に、作製したサンドイッチ構造焼結体の表面層厚み、表面層Al含有率、内層Al含有率を示した。なお、Al含有率は、ICP(Inductively Coupled Plasma)法による発光分析により、測定した。
【0069】
作製した焼結体に研削加工と刃先処理を施し、CVD法でTiN(0.5μm)/TiCN(6μm)/Al(3μm)/TiN(1μm)を被覆した。作製した試料の耐摩耗性、強度、靭性の評価を以下に記載の3つの切削試験により行った。
なお、強度試験の被削材としては図1に示す4溝材1、靱性試験の被削材としては図2に示す4V溝材2を用いた。
【0070】
(耐摩耗性)
被削材 :SCM435
切削速度:160m/min
送り :0.3mm/rev
切込み :1.5mm
湿式、10分間
【0071】
(強度)
被削材 :SCM435(4溝材)
切削速度:100m/min
切込み :2mm
乾式、30秒間
【0072】
(靭性)
被削材 :SCM435(4V溝材)
切削速度:150m/min
送り :0.3mm/rev
切込み :1.5mm
湿式
【0073】
耐摩耗性については摩耗量、強度については欠損が生じた送り量、靭性については欠損が生じるまでに切削できた時間を表1に示した。
【0074】
【表1】

【0075】
実施例2
表面層厚みが異なる試料を実施例1と同様にして作製し、同様に切削試験を実施した。その結果を表2に示した。
【0076】
【表2】

【0077】
表1、2より、本発明の範囲内にある試料は、耐摩耗性、強度および靭性がバランスよく切削性能に優れており、切削工具として寿命の長いことが分かる。
【符号の説明】
【0078】
1: 4溝材
2: 4V溝材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面層および内層の少なくとも二層のWC基超硬合金層が積層された積層構造型超硬合金であって、内層のAl含有率が表面層のAl含有率よりも高く、前記表面層の厚さが50μm以上1500μm以下であることを特徴とする積層構造型超硬合金。
【請求項2】
前記内層のAl含有率が50ppm以上であることを特徴とする請求項1に記載の積層構造型超硬合金。
【請求項3】
前記Alが酸化物として存在することを特徴とする請求項1または2に記載の積層構造型超硬合金。
【請求項4】
前記酸化物がα型アルミナを含むことを特徴とする請求項3に記載の積層構造型超硬合金。
【請求項5】
前記表面層と前記内層の各々に含まれる結合相量(体積%)が同量であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の積層構造型超硬合金。
【請求項6】
前記表面層中に含まれる結合相を構成するCo量(体積%)と前記内層中に含まれる結合相を構成するCo量(体積%)が同量であることを特徴とする請求項5に記載の積層構造型超硬合金。
【請求項7】
前記表面層の表面にさらにセラミック被覆膜を有することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の積層構造型超硬合金。
【請求項8】
前記内層のWC基超硬合金が、Znおよび/またはSnを用いたリサイクル法により製造された超硬粉末を用いて製造されていることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の積層構造型超硬合金。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の積層構造型超硬合金により形成されていることを特徴とする工具。
【請求項10】
前記工具が切削用工具であることを特徴とする請求項9に記載の工具。
【請求項11】
前記工具が金型用工具であることを特徴とする請求項9に記載の工具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−100607(P2013−100607A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−15627(P2013−15627)
【出願日】平成25年1月30日(2013.1.30)
【分割の表示】特願2007−276634(P2007−276634)の分割
【原出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(503212652)住友電工ハードメタル株式会社 (390)
【Fターム(参考)】