説明

積層樹脂成形体、積層樹脂成形体製造方法及び多層成形品

本発明の目的は、熱可塑性エラストマー等の熱可塑性ポリマー層と、含フッ素エチレン性重合体等の熱可塑性樹脂層とからなり、柔軟性と、低薬液透過性、耐薬品性、耐バクテリア性等とに優れ、熱可塑性エラストマーを発泡、劣化させることなく共押出成形を行うことができ、層間接着力が良好な積層樹脂成形体を提供することにある。本発明は、熱可塑性ポリマー層(A)、ポリアミド系樹脂層(B)及び熱可塑性樹脂層(C)を有する積層樹脂成形体であって、上記熱可塑性ポリマー層(A)、上記ポリアミド系樹脂層(B)及び上記熱可塑性樹脂層(C)は、この順に積層され、互いに強固に接着しており、上記熱可塑性ポリマーは、上記ポリアミド系樹脂と熱融着により接着するものであり、上記ポリアミド系樹脂は、アミン価が10〜60(当量/10g)であるものであり、上記熱可塑性樹脂は、官能基を有することにより熱融着によって上記ポリアミド系樹脂と強固に接着するものであり、上記官能基は、カルボニル基を有するものであることを特徴とする積層樹脂成形体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層樹脂成形体及びその製造方法並びに上記積層樹脂成形体からなる多層成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は、耐薬品性、非粘着性、ガスバリア性、非溶出性、防汚性、耐バクテリア性に優れた特性を有するため、薬液チューブ、塗装ライン用チューブ、飲料用チューブ等の工業用チューブ等の用途に使用されているが、高価であるので、この外周面に各種の熱可塑性樹脂を積層してなる積層チューブが提案されている。
【0003】
ポリアミド樹脂層とフッ素樹脂層とを積層してなる積層樹脂成形体は、機械特性や溶剤・燃料等のポリアミド樹脂を劣化させ得る薬液に対する低透過性が要求される多層成形品、例えば、自動車燃料配管用チューブ又はホース等の多層成形品用途に好適であるとされている。
【0004】
外層がポリアミド樹脂からなり、フッ素樹脂が内層として設けられた多層チューブとしては、ポリアミド樹脂層とフッ素樹脂層との間の接着力を確保するために、放射線照射を施し、両層の分子間に架橋構造を導入することが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、この技術は高価な装置の導入が不可欠であり、工程も複雑になり生産性について大いに問題があった。
【0005】
生産性に優れた共押出法を使用するために、フッ素樹脂そのものを改良することが考えられ、各種のフッ素樹脂材料が提案された。その一つとして、ポリアミド樹脂と積層するフッ素樹脂としてカーボネート基及び/又はハロホルミル基を有する含フッ素エチレン性重合体を使用した積層体が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
しかしながら、これらのポリアミド樹脂層とフッ素樹脂層とを積層してなる樹脂積層体は、薬液チューブ、塗装ライン用チューブ、飲料用チューブ等の工業用チューブや一部の燃料用チューブとして使用するには柔軟性が不充分であり、また、ポリアミド樹脂は結晶性樹脂であるので、外部からの視認性が要求される用途においては、透明性が低いという問題があった。
【0007】
一方、ポリウレタン系エラストマー等の熱可塑性エラストマーは、加硫ゴムに似た諸特性を持つ一方で、一般の熱可塑性樹脂と同じように成形加工ができ、また、柔軟性、透明性等の特性に優れていることから、工業用チューブをはじめ幅広い用途に用いられている。しかしながら、熱可塑性エラストマーは、耐薬品性、低薬液透過性、耐バクテリア性等に劣るという問題があった。
【0008】
熱可塑性エラストマーの問題を補完するものとして、耐薬品性、低薬液透過性、耐バクテリア性に優れ、更に、非粘着性、非溶出性、防汚性等にも優れたフッ素樹脂層と、その外周に各種の熱可塑性樹脂層とを積層してなる樹脂積層体が提案されている。
【0009】
ポリウレタン系エラストマー層とフッ素樹脂層との積層体としては、フッ素樹脂としてポリフッ化ビニリデン等を用いて共押出法により積層してなるチューブが開示されている(例えば、特許文献3及び特許文献4参照。)。しかしながら、得られるチューブは、ポリウレタン系エラストマー層とフッ素樹脂層との層間接着力が不充分で使用中の繰り返し曲げや振動で層間剥離を起こし、また、低薬液透過性及び耐薬品性も不充分であるという問題があった。
【0010】
ポリアミド樹脂層を中間層として熱可塑性エラストマー層とフッ素樹脂層とを積層する場合、ポリアミド樹脂は、一般に、成形時に加熱溶融されると容易に分解して低分子量物が発生したり、ゲル化したりするので、これを抑制するとともに、酸化等による着色を抑制するために、通常、重合時にモノカルボン酸やその誘導体を添加して、いわゆる末端封鎖を行っている。従って、ポリアミド樹脂はアミン価が一般に10(当量/10g)未満のものが広く使用されている。
【0011】
ポリアミド樹脂のアミン価が10(当量/10g)未満であると、ポリアミド樹脂層とフッ素樹脂層との間に充分な層間接着力を得るためには、フッ素樹脂との共押出を260℃以上の高温で行う必要があった。しかしながら、熱可塑性エラストマーは、そのような高温においては発泡等の成形上の不具合を生じるので、従来、ポリアミド樹脂及びフッ素樹脂と共押出することができないという問題があった。
【0012】
ポリアミド樹脂層を外層、含フッ素エチレン性重合体層を内層として積層してなる樹脂積層体としては、その最外層にゴム層を設けてもよいと記載されているものがある(例えば、特許文献5参照。)。しかしながら、この記載では、ゴムの種類、積層条件や、ゴム層を設けることによる効果等に関して、何ら具体的な記載はなく、単に最外層に使用し得るものとしてゴム層を例示しているにすぎない。
【0013】
含フッ素エチレン性重合体層、ポリアミド樹脂層、及び、熱可塑性エラストマー層をこの順に積層してなる樹脂積層体が開示されている(例えば、特許文献6参照。)。しかしながら、この特許文献には、ポリアミド樹脂についてアミン価等の具体的記載はない。
【0014】
このように、従来、熱可塑性エラストマー、ポリアミド樹脂及びフッ素樹脂を共押出する技術はなく、フッ素樹脂と熱可塑性エラストマーとを積層してなる樹脂積層体で、層間接着性、耐薬品性、透明性に優れたものはなかった。
また、これらのポリアミド樹脂層とフッ素樹脂とを積層してなる樹脂積層体では、積層体の両面に薬液が接触するような過酷な環境下での使用では、ポリアミド樹脂側から薬液が浸透することにより、ポリアミド樹脂が劣化し、充分な実用に耐えることが出来ないという問題や、ポリアミド樹脂の膨潤や、積層体中の添加剤が溶出することにより、積層体のサイズが大きく変化するという問題があった。また、フッ素樹脂を単層で用いる場合においては先述したように高価であるとともに、フッ素樹脂の弱点である強度が充分でないという問題もあった。
これらのポリアミド樹脂層とフッ素樹脂とを積層してなる樹脂積層体は、特にガソリンスタンド用の地下埋設チューブとして用いる場合、通常2重管が使用されており、内側の管は燃料が内側からも外側からも触れる可能性があり、外側のチューブも地中に埋設されることから、いずれのチューブも両面に耐薬品性、非粘着性、非溶出性、防汚性、耐バクテリア性等の特性を維持しつつ、低燃料透過性を有することや、埋設に耐えうるチューブの強度とが必要であったが、これらの条件を全て満足するものはなかった。
【0015】
【特許文献1】特開平5−8353号公報
【特許文献2】国際公開第99/45044号パンフレット
【特許文献3】特開平8−142151号公報
【特許文献4】特開平10−286897号公報
【特許文献5】国際公開第01/58686号パンフレット
【特許文献6】国際公開第98/58973号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、熱可塑性エラストマー等の熱可塑性ポリマー層と、含フッ素エチレン性重合体等の熱可塑性樹脂層とからなり、低薬液透過性、耐薬品性、耐バクテリア性等に優れ、熱可塑性エラストマーを発泡、劣化させることなく共押出成形を行うことができ、層間接着力が良好な積層樹脂成形体を提供することにある。
本発明の目的は、また、上記熱可塑性ポリマーの種類を選択することにより、上記目的に加えて、更に、(1)上記積層樹脂成形体に柔軟性をも付与すること(以下、「本発明の第1の目的」ということがある)、又は、(2)上記積層樹脂成形体に非粘着性、非溶出性、防汚性及び樹脂成形体の強度をも付与し、上記特性を積層体の両面に薬液が接触するような過酷な環境下でも維持しつつ、樹脂劣化や膨潤や添加剤溶出による積層体のサイズ変化を極力抑えて充分に実用に耐え得る積層樹脂成形体を提供すること(以下、「本発明の第2の目的」ということがある)にある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、熱可塑性ポリマー層(A)、ポリアミド系樹脂層(B)及び熱可塑性樹脂層(C)を有する積層樹脂成形体であって、上記熱可塑性ポリマー層(A)、上記ポリアミド系樹脂層(B)及び上記熱可塑性樹脂層(C)は、この順に積層され、互いに強固に接着しており、上記熱可塑性ポリマーは、上記ポリアミド系樹脂と熱融着により接着するものであり、上記ポリアミド系樹脂は、アミン価が10〜60(当量/10g)であるものであり、上記熱可塑性樹脂は、官能基を有することにより熱融着によって上記ポリアミド系樹脂と強固に接着するものであり、上記官能基は、カルボニル基を有するものであることを特徴とする積層樹脂成形体である。
本発明は、また、特に本発明の第1の目的の解決手段としては、上記積層樹脂成形体を製造する積層樹脂成形体製造方法であって、ダイ、及び、上記ダイに樹脂を供給する複数の押出機からなる共押出装置を用いて同時多層共押出法により積層させるものであり、上記ダイは、250℃以下の温度であることを特徴とする積層樹脂成形体製造方法である。
更に、本発明は、上記積層樹脂成形体からなる多層成形品である。
以下に本発明を詳述する。
【0018】
本発明の積層樹脂成形体は、熱可塑性ポリマー層(A)、ポリアミド系樹脂層(B)及び熱可塑性樹脂層(C)を有するものである。上記熱可塑性ポリマー層(A)、上記ポリアミド系樹脂層(B)及び上記熱可塑性樹脂層(C)は、この順に積層されている。
【0019】
本発明の積層樹脂成形体における熱可塑性ポリマー層(A)を形成する熱可塑性ポリマーは、上記ポリアミド系樹脂と熱融着により接着するものである。上記「熱融着により接着するもの」とは、本発明の積層樹脂成形体として熱融着により積層させたものについて、熱可塑性ポリマー層(A)とポリアミド系樹脂層(B)との間の初期接着力が25N/cm以上であるものを意味する。上記「熱融着により接着するもの」は、剥離不可能なものをも含む概念である。本明細書において、初期接着力は、後述する初期接着力の測定方法により得られた値である。
上記熱可塑性ポリマーは、上記ポリアミド系樹脂と熱融着により接着が得られるものであれば特に限定されないが、本発明の第1の目的において、柔軟性を有するものであることが好ましく、JIS K 7311に準拠して測定される100%モジュラスの値が35MPa以下であるものが好ましく、20MPa以下であるものがより好ましい。上記100%モジュラスの値としては、35MPa以下であれば、例えば2MPa以上であっても充分な機械的強度が得られる。
【0020】
上記熱可塑性ポリマーとしては、例えば熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー等が挙げられ、熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;ポリエチレンテレフタレート[PET]、ポリブチレンテレフタレート[PBT]等のポリエステル樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリ塩化ビニル樹脂;フッ素樹脂等が挙げられ、これらの変性樹脂及び/又はこれらの2種類以上の混合物であってもよい。
本明細書において、以下、「熱可塑性ポリマー」というときは、特に別の記載をしない限り、上記熱可塑性ポリマー層(A)を形成するものをいう。本明細書において、上記熱可塑性ポリマーは、上記熱可塑性ポリマー層(A)を形成するものであって、後述の範囲内のアミン価を有するものに限定されず、また、後述のカルボニル基を有するものに限定されない点で、ポリアミド系樹脂層(B)を形成するポリアミド系樹脂及び熱可塑性樹脂層(C)を形成する熱可塑性樹脂とは異なる概念である。上記熱可塑性ポリマーが上記熱可塑性樹脂層(C)を形成する熱可塑性樹脂とは異なる概念であることと同様に、上記熱可塑性ポリマーとして例示した上記熱可塑性樹脂は、上記熱可塑性樹脂層(C)を形成する熱可塑性樹脂とは異なる概念である。本発明の積層樹脂成形体に属する1つの積層樹脂成形体を形成するものとして、上記熱可塑性ポリマーとして用いるものと、上記ポリアミド系樹脂層(B)を形成するポリアミド系樹脂として用いるものと、上記熱可塑性樹脂層(C)を形成する熱可塑性樹脂として用いるものとは、相互に異なる種類であってもよいし、上記熱可塑性ポリマーとして用いるものと、上記熱可塑性樹脂層(C)を形成する熱可塑性樹脂として用いるものとが同種類であってもよい。
【0021】
上記熱可塑性エラストマーは、常温でゴム弾性を有し、高温では可塑化されて所望の形状に成形加工が可能なものである。上記熱可塑性エラストマーは、後述のポリアミド系樹脂との接着性が優れている点から、スチレン/ブタジエン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー及びフッ素系エラストマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものが好ましい。
本発明の第1の目的において、上記熱可塑性ポリマーとしては、柔軟性と透明性とが得られやすい点から熱可塑性エラストマーであることが好ましい。
本発明の第1の目的において、上記熱可塑性エラストマーは、スチレン/ブタジエン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー及びポリアミド系エラストマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものが好ましい。
【0022】
スチレン/ブタジエン系エラストマー[SBC]としては、例えばスチレン/ブタジエン/スチレン共重合体、スチレン/イソプレン/スチレン共重合体、スチレン/エチレン/ブタジエン/スチレン共重合体等が挙げられる。ポリオレフィン系エラストマー[TPO]としては、例えばポリプロピレン/ポリエチレンオキシド/ポリプロピレン共重合体、ポリプロピレン/ポリオレフィン系非晶質ポリマー/ポリプロピレン共重合体等が挙げられる。ポリエステル系エラストマー[TPEE]としては、例えばポリブチレンテレフタレート/ポリエーテル/ポリブチレンテレフタレート共重合体等が挙げられる。ポリウレタン系エラストマー[TPU]としては、長鎖ジオールとして、例えばポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオールを用いたもの等が挙げられる。ポリ塩化ビニル系エラストマー[TPVC]としては、PVC/可塑剤、PVC/ゴムのブレンドでPVCを部分架橋したものが挙げられる。ポリアミド系エラストマー[TPAE]としては、例えばナイロン6/ポリエステル共重合体、ナイロン6/ポリエーテル共重合体、ナイロン12/ポリエステル共重合体、ナイロン12/ポリエーテル共重合体、フッ素系エラストマーとしてはフッ素樹脂/フッ素ゴムブロック共重合体等が挙げられる。
上記熱可塑性エラストマーとしては、これらの1種又は2種以上を用いてなるものであってもよく、ナイロンとの接着性を改良するために変性されていても良い。
【0023】
上記熱可塑性エラストマーは、耐摩耗性及び後述のポリアミド系樹脂との接着性が優れている点から、ポリウレタン系エラストマーであることが好ましい。
上記ポリウレタン系エラストマーの構造はポリメリックグリコールからなるソフトセグメントと単分子鎖延長剤とイソシアネートで構成されるハードセグメントからなるものであればよい。上記ポリウレタン系エラストマーにおいて、上記各セグメントとしては、ショアA(ASTM D−2240)に準拠して測定した硬度が65〜100の範囲にあるものを用いることができる。上記硬度の好ましい下限は75であり、より好ましい下限は80であり、好ましい上限は95であり、より好ましい上限は90である。
また、上記熱可塑性エラストマーは、柔軟性の観点からポリオレフィン系エラストマーであることも好ましい形態の1つであり、ショアA(ASTM D−2240)に準拠して測定した硬度が40〜90の範囲にあるものを用いることができる。より好ましい範囲は45〜80である。
【0024】
本発明の第2の目的において、上記熱可塑性ポリマーとしては、積層体のサイズ変化を抑制し、耐薬品性、非粘着性、非溶出性、防汚性、耐バクテリア性が得られやすい点からフッ素樹脂であることが好ましい。
上記熱可塑性ポリマーとして用いるフッ素樹脂は、後述の含フッ素エチレン性重合体からなる樹脂と同じ概念である。上記熱可塑性ポリマーとしてフッ素樹脂を用い、かつ、後述の熱可塑性樹脂層(C)を形成する熱可塑性樹脂として含フッ素エチレン性重合体からなるものを用いる場合、前者のフッ素樹脂と後者の含フッ素エチレン性重合体からなるものとは、1つの積層樹脂成形体において、同じ種類であってもよいし、異なる種類であってもよい。
【0025】
本発明において、上記熱可塑性ポリマーは、本発明の目的を損なわない範囲で、可塑剤、耐衝撃材、顔料、無機物、カーボンブラックやアセチレンブラック等の導電性材料等の添加剤や上記熱可塑性ポリマー以外のその他の樹脂やゴムとともに用いて、上記熱可塑性ポリマー層(A)を形成してもよい。また、これらは、熱可塑性樹脂層(C)やポリアミド樹脂層(A)に使用している添加剤や樹脂やゴムと同種のものを用いてもよいし、異なるものを用いても良い。
【0026】
本発明の積層樹脂成形体におけるポリアミド系樹脂層(B)を形成するポリアミド系樹脂は、分子内に繰り返し単位としてアミド結合[−NHCO−]を有する結晶性高分子からなるものである。上記ポリアミド系樹脂としては、例えば、アミド結合が脂肪族構造又は脂環族構造と結合している結晶性高分子からなる樹脂、いわゆるナイロン樹脂が挙げられる。ナイロン樹脂としては、例えば、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66、ナイロン66/12、及び、これらのうち少なくとも2種からなるブレンド物等が挙げられる。
【0027】
上記ポリアミド系樹脂は、また、アミド結合を繰り返し単位として有しない構造が一部にブロック又はグラフト結合されているものであってもよい。このようなポリアミド系樹脂としては、例えば、ナイロン6/ポリエステル共重合体、ナイロン6/ポリエーテル共重合体、ナイロン12/ポリエステル共重合体、ナイロン12/ポリエーテル共重合体等のポリアミド樹脂エラストマーからなるもの等が挙げられる。これらのポリアミド樹脂エラストマーは、ナイロンオリゴマーとポリエステルオリゴマー又はポリエーテルオリゴマーとが、エステル結合又はエーテル結合を介してブロック共重合したものである。上記ポリエステルオリゴマーとしては、例えば、ポリカプロラクトン、ポリエチレンアジペート等を、ポリエーテルオリゴマーとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等がそれぞれ挙げられる。
【0028】
上記ポリアミド系樹脂は、上記熱可塑性ポリマーとして融点が低い熱可塑性エラストマーを用いる場合、上記熱可塑性エラストマーが発泡しない程度の比較的低い温度で共押出することが可能であり、また、ポリアミド系樹脂から形成されてなる層が薄層でも充分な機械的強度が得られることから、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66、ナイロン66/12、ナイロン6/ポリエステル共重合体、ナイロン6/ポリエーテル共重合体、ナイロン12/ポリエステル共重合体、ナイロン12/ポリエーテル共重合体、及び、これらのうち少なくとも2つからなるブレンド物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらのうち、特に柔軟性が優れているので、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン612がより好ましい。
【0029】
上記ポリアミド系樹脂のアミン価は10〜60(当量/10g)である。本発明ではポリアミド系樹脂のアミン価を上記範囲内に設定することにより、例えば上記熱可塑性ポリマーとして熱可塑性エラストマーを用い、上記熱可塑性エラストマーが発泡しない程度の比較的低い温度で共押出する場合においても、上記ポリアミド系樹脂層(B)と熱可塑性樹脂層(C)との層間接着力を優れたものとすることができる。上記アミン価が10(当量/10g)未満であると、上記熱可塑性エラストマーが発泡しない程度の比較的低い温度で共押出する場合に上記ポリアミド系樹脂層(B)と熱可塑性樹脂層(C)との層間接着力が不充分になる。60(当量/10g)を超えると、得られる積層樹脂成形体の機械的強度が不充分であり、また、貯蔵中に着色しやすくなりハンドリング性に劣る。好ましい下限は15(当量/10g)であり、好ましい上限は50(当量/10g)、より好ましい上限は35(当量/10g)である。
【0030】
なお、本明細書において、アミン価は、後述するアミン価の測定方法により得られる値であり、特に別の記載をしない限り、積層する前のポリアミド系樹脂のアミン価を意味する。積層する前のポリアミド系樹脂が有するアミノ基の数のうち、一部分は熱可塑性樹脂層(C)との接着に消費されると考えられるが、その数は上記ポリアミド系樹脂層(B)全体に対してごく微量であるので、上述した積層する前のポリアミド系樹脂のアミン価とポリアミド系樹脂層(B)におけるアミン価は、実質的に同程度となる。
【0031】
本発明において、ポリアミド系樹脂は、酸価が80(当量/10g)以下であることが好ましい。上記酸価が80(当量/10g)を超えても、アミン価が上記範囲にある限り、例えば上記熱可塑性ポリマーとして熱可塑性エラストマーを用い、上記熱可塑性エラストマーが発泡しない程度の比較的低い温度で共押出した場合の上記ポリアミド系樹脂層(B)と熱可塑性樹脂層(C)との層間接着力は充分である。しかしながら、ポリアミド系樹脂は、一般に、アミン価及び酸価が規定されるとある程度の分子量が決定されるものであり、この点から、酸価が80(当量/10g)を超えると、ポリアミド系樹脂の分子量が低下することがあるので好ましくない。より好ましくは70(当量/10g)以下、更に好ましくは60(当量/10g)以下である。なお、本明細書において、酸価は、後述する酸価の測定方法により得られる値である。
【0032】
本発明において、ポリアミド系樹脂の融点は特に限定されないが、130℃以上であることが好ましい。融点が130℃未満であると、形成されるポリアミド系樹脂層(B)の機械特性、耐熱性等に劣る場合がある。融点の上限は、上記熱可塑性ポリマー層(A)を形成する熱可塑性ポリマーの耐熱性に応じて適宜選択される。好ましい上限は260℃、より好ましい上限は230℃、更に好ましい上限は、210℃であり、より好ましい下限は150℃である。本明細書において、融点は、示差走査熱量計[DSC]により測定して得られる値である。
【0033】
本発明においてポリアミド系樹脂は、例えば押出成形やブロー成形に使用される場合には、相対粘度で表される分子量が1.8以上であることが好ましい。1.8未満であると、これらの成形の際の成形性に劣り、得られる積層樹脂成形体の機械的強度が低下する場合がある。より好ましくは、2.0以上である。一方、上限は、4.0であることが好ましい。4.0を超えると、ポリアミド系樹脂の重合自体が困難であり、成形の際の成形性も損なわれる場合がある。なお、上記相対粘度は、JIS K 6810に準じて測定される。
【0034】
上記ポリアミド系樹脂は、本発明の目的を損なわない範囲で、可塑剤や上記ポリアミド系樹脂以外のその他の樹脂とともに用いて上記ポリアミド系樹脂層(B)を形成してもよい。上記可塑剤は、形成されるポリアミド系樹脂層(B)の柔軟性を向上させ、特に積層樹脂成形体の低温機械特性を向上させることができる。
【0035】
上記可塑剤としては特に限定されず、例えば、ヘキシレングリコール、グリセリン、β−ナフトール、ジベンジルフェノール、オクチルクレゾール、ビスフェノールA、p−ヒドロキシ安息香酸オクチル、p−ヒドロキシ安息香酸−2−エチルヘキシル、p−ヒドロキシ安息香酸ヘプチル、p−ヒドロキシ安息香酸のエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物、p−ヒドロキシ安息香酸オクチル、p−ヒドロキシ安息香酸−2−エチルヘキシル、p−ヒドロキシ安息香酸ヘプチル、ε−カプロラクトン、フェノール類のリン酸エステル化合物、N−メチルベンゼンスルホンアミド、N−エチルベンゼンスルホンアミド、N−ブチルベンゼンスルホンアミド、トルエンスルホンアミド、N−エチルトルエンスルホンアミド、N−シクロヘキシルトルエンスルホンアミド等が挙げられる。
【0036】
上記ポリアミド系樹脂は、上記ポリアミド系樹脂以外のその他の樹脂とともに用いてポリアミド系樹脂層(B)を形成することにより、積層樹脂成形体の耐衝撃性を向上させることができる。ポリアミド系樹脂とともに用いてポリアミド系樹脂層(B)を形成する上記その他の樹脂としては、上記ポリアミド系樹脂と相溶性に優れるものが好ましく、例えば、エステル及び/又はカルボン酸変性オレフィン樹脂;アクリル樹脂、特に、グルタルイミド基を有するものからなるアクリル樹脂;アイオノマー樹脂;ポリエステル樹脂;フェノキシ樹脂;エチレン/プロピレン/ジエン共重合体;ポリフェニレンオキサイド等が挙げられる。上記エステル及び/又はカルボン酸変性オレフィン樹脂としては、例えばエチレン/メチルアクリレート共重合体、エチレン/アクリレート共重合体、エチレン/メチルアクリレート/無水マレイン酸共重合体、エチレン/エチルアクリレート共重合体、プロピレン/無水マレイン酸共重合体等が挙げられる。
【0037】
ポリアミド系樹脂は、また、本発明の目的を損なわない範囲で着色剤、各種添加剤等とともに用いて上記ポリアミド系樹脂層(B)を形成することができる。上記添加剤としては、例えば、帯電防止剤、難燃剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、結晶核剤、強化剤(フィラー)等が挙げられる。
【0038】
本発明の積層樹脂成形体における熱可塑性樹脂層(C)を形成する熱可塑性樹脂は、熱可塑性樹脂として通常認識されているものであればよい。上記熱可塑性樹脂は、含フッ素エチレン性重合体からなるものであることが好ましい。本明細書において、以下、「熱可塑性樹脂」という場合は、特に別の記載をしない限り、上記熱可塑性樹脂層(C)を形成するものをいい、上記熱可塑性ポリマー層(A)を形成する熱可塑性ポリマーとは上述したように同種類のものであっても異なる種類のものであってもよいが、上記ポリアミド系樹脂層(B)を形成するポリアミド系樹脂とは異なるものである。
【0039】
上記熱可塑性樹脂は、官能基を有することにより熱融着によって上記ポリアミド系樹脂層(B)を形成するポリアミド系樹脂と強固に接着するものであり、官能基なしでは層間の接着強度が弱く、使用中に層間剥離が発生し、実用上問題が発生するものである。上記「強固に接着するもの」とは、本発明の積層樹脂成形体として熱融着により積層させたものについて、ポリアミド系樹脂層(B)と熱可塑性樹脂層(C)との間の初期接着力が25N/cm以上のものを意味する。25N/cm未満であると、上記ポリアミド系樹脂層(B)と熱可塑性樹脂層(C)が層間剥離を起こすことがある。上記ポリアミド系樹脂層(B)と上記熱可塑性樹脂層(C)との間の初期接着力は、25N/cm以上であれば、例えば60N/cm以下であってもよい。
【0040】
上記熱可塑性樹脂は、従って、熱融着によって上記ポリアミド系樹脂層(B)と強固に接着するものであるためには、官能基を有する必要があり、この官能基は、上記ポリアミド系樹脂層(B)を形成するポリアミド系樹脂との接着に関与し得る基であればよい。本明細書において、上記ポリアミド系樹脂層(B)を形成するポリアミド系樹脂との接着に関与し得る基を、以下、「接着性官能基」という。本発明において、上記熱可塑性樹脂は、接着性官能基を有するものである。本明細書において、上記接着性官能基は、実際には、上記ポリアミド系樹脂をなす結晶性高分子が有するアミド結合やアミノ基等の基との配位性又は反応性を有する基であり、このような配位性又は反応性を有する基であれば、官能基と通常称される基のみならず、エステル結合等の結合と通常称される基をも含む概念である。上記結合と通常称される基は、熱可塑性樹脂における重合体の側鎖又は主鎖中に存在しているものである。
本明細書において、上記「熱可塑性樹脂は、接着性官能基を有する」とは、上記熱可塑性樹脂は、通常、重合体からなるものであるが、この重合体が接着性官能基を有することを意味する。
【0041】
上記熱可塑性樹脂が有する接着性官能基の数は、積層される相手材の種類、形状、接着の目的、用途、必要とされる接着力、熱可塑性樹脂の種類と接着方法等の違いにより適宜選択されうるが、接着性官能基の数が熱可塑性樹脂における重合体の主鎖炭素数1×10個あたり3〜1000個であることが好ましい。3個未満であると、上記ポリアミド系樹脂層(B)と熱可塑性樹脂層(C)との層間接着力が不充分になる場合がある。また、1000個を超えると、接着する際、接着性官能基の化学変化によって接着界面に出てくるガスの発生が悪影響を及ぼし、上記ポリアミド系樹脂層(B)と熱可塑性樹脂層(C)との層間接着力を低下させる場合がある。上記接着性官能基の数として、熱可塑性樹脂における重合体の主鎖炭素数1×10個あたり、より好ましい下限は10個であり、より好ましい上限は500個、更に好ましい上限は300個である。なお、本明細書において、官能基の数とは、後述する赤外吸収スペクトル分析により測定して得られる値であり、特に別の記載をしない限り、積層する前の熱可塑性樹脂における重合体が有する官能基の数を意味する。
【0042】
上記接着性官能基としては、例えば、カルボニル基を有する基等が挙げられる。上記カルボニル基を有する基としては、カルボニル基、カーボネート基、ハロホルミル基、ホルミル基、カルボキシル基、エステル結合、酸無水物[−C(=O)O−C(=O)−]、イソシアネート基等が挙げられる。これに対して、アミド[−C(=O)−NH−]、イミド[−C(=O)−NH−C(=O)−]、ウレタン結合[−NH−C(=O)O−]、ウレア[−NH−C(=O)−NH−]等は[−C(=O)−]を有するものであるが、これらは、カルボニル基、カーボネート基等の先に例示のものと異なり反応性に乏しく、上記ポリアミド系樹脂層(B)を形成するポリアミド系樹脂をなす結晶性高分子が有する基と基本的に反応し得ないものである。従って、本発明において、カルボニル基を有する基としては、少なくともアミド、イミド、ウレタン結合、ウレアを含まない。上記カルボニル基を有する基としては、導入が容易であり、上記ポリアミド系樹脂をなす結晶性高分子が有する基との反応性が高い点から、カーボネート基、ハロホルミル基が好ましい。
【0043】
上記カーボネート基は、一般に−OC(=O)O−で表される結合を有する基であり、−OC(=O)O−R基(Rは有機基又はVII族原子を示し、有機基としては、例えばC〜C20アルキル基であり、特にC〜C10アルキル基、エーテル結合を有するC〜C20アルキル基等を示す。)で表されるものである。上記カーボネート基としては、例えば−OC(=O)OCH、−OC(=O)OC、−OC(=O)OC17、−OC(=O)OCHCHCHOCHCH等が好ましく挙げられる。
【0044】
上記ハロホルミル基は、−COY(YはVII族原子を示す。)で表されるものであり、−COF、−COCl等が挙げられる。
【0045】
本発明における熱可塑性樹脂は接着性官能基を有するが、上記接着性官能基は、例えば、熱可塑性樹脂における重合体の末端に結合していてもよいし、側鎖に結合していてもよい。例えば、上記熱可塑性樹脂としては、接着性官能基がカルボニル基を有する基であり、上記カルボニル基がカーボネート基の一部及び/又はハロホルミル基の一部である場合には、
(1)カーボネート基のみを末端又は側鎖に有する熱可塑性樹脂、
(2)ハロホルミル基のみを末端又は側鎖に有する熱可塑性樹脂、及び、
(3)カーボネート基とハロホルミル基の両方を末端又は側鎖に有する熱可塑性樹脂があり、これらのいずれのものであってもよい。なかでも、重合体の末端に接着性官能基を有するものが、耐熱性、機械特性及び耐薬品性を著しく低下させない理由で又は生産性、コスト面で有利である理由で、好ましいものである。
【0046】
上記熱可塑性樹脂においては、上記接着性官能基を有する重合体が存在するのであれば、接着性官能基を含まない重合体が存在していてもよい。
【0047】
上記熱可塑性樹脂の種類は、目的、用途、使用方法、上記熱可塑性ポリマー層(A)及びポリアミド系樹脂層(B)を形成する樹脂の種類等に応じて適宜選択されるが、熱可塑性樹脂の融点は、160〜240℃であることが好ましい。熱可塑性樹脂の融点がこの範囲内であると、接着性官能基と上記ポリアミド系樹脂層(B)のポリアミド系樹脂における結晶性高分子が有する基との接着性がよく、成形性が良好であり、また、上記範囲内の熱可塑性樹脂の融点に適した温度で共押出することにより上記熱可塑性樹脂層(C)の透明性が向上するので好ましい。より好ましい上限は220℃である。
【0048】
上記熱可塑性樹脂における重合体としては特に限定されないが、含フッ素エチレン性重合体であることが好ましい。上記含フッ素エチレン性重合体は、フッ素樹脂の特徴である耐薬品性、耐溶剤性、耐候性、防汚性、非粘着性、耐バクテリア性等の優れた特性を有しており、得られる積層樹脂成形体にこのような優れた特性を付与することができる。含フッ素エチレン性重合体は、少なくともフッ素含有エチレン性単量体を重合してなるものであり、フッ素含有エチレン性単量体とフッ素非含有エチレン性単量体とを重合してなるものであってもよい。上記フッ素含有エチレン性単量体及びフッ素非含有エチレン性単量体は、それぞれ1種又は2種以上を使用してもよい。
【0049】
上記フッ素含有エチレン性単量体は、フッ素原子を有し、接着性官能基を有しないオレフィン性不飽和単量体であり、例えば、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニル、ヘキサフルオロプロピレン、ヘキサフルオロイソブテン、下記一般式(i)
CH=CX(CF (i)
(式中、Xは、H又はF、XはH、F又はCl、nは1〜10の整数を示す。)で表される単量体、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)類等が挙げられる。
【0050】
上記フッ素非含有エチレン性単量体は、フッ素原子を有さず、接着性官能基を有しないオレフィン性不飽和単量体であり、得られる含フッ素エチレン性重合体の耐熱性や耐薬品性等を低下させない点から、炭素数5以下のエチレン性単量体であることが好ましく、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。
【0051】
フッ素含有エチレン性単量体とフッ素非含有エチレン性単量体とを重合して含フッ素エチレン性重合体を得る場合、その単量体組成は、フッ素含有エチレン性単量体10〜100モル%、及び、フッ素非含有エチレン性単量体0〜90モル%の量比であってよい。上記フッ素含有エチレン性単量体の好ましい下限は30モル%であり、上記フッ素非含有エチレン性単量体の好ましい上限は70モル%の量比である。フッ素含有エチレン性単量体が10モル%未満であると、上述した含フッ素エチレン性重合体のフッ素樹脂としての特性が発現されないので、好ましくない。
本明細書において、「モル%」で表す単量体組成は、重合体における付加量を示すものであり、付加されて重合体を形成することとなった各種単量体のモル分率で表したものである。
【0052】
上記含フッ素エチレン性重合体においては、フッ素含有エチレン性単量体及びフッ素非含有エチレン性単量体の種類、組合せ、組成比等を選ぶことによって得られる含フッ素エチレン性重合体の融点又はガラス転移点を調節することができ、また、樹脂状のもの、エラストマー状のもののどちらにもなりうる。接着の目的や用途、得られる積層樹脂成形体の目的や用途に応じて、含フッ素エチレン性重合体の性状は適宜選択し得る。
【0053】
上記含フッ素エチレン性重合体の分子量については、含フッ素エチレン性重合体が熱分解温度以下で成形でき、しかも得られた積層樹脂成形体が含フッ素エチレン性重合体本来の優れた機械特性、耐薬品性等を発現できるような範囲であることが好ましい。メルトフローレート[MFR]を分子量の指標として、一般のフッ素樹脂の成形温度範囲である約230〜350℃の範囲の温度におけるMFRが0.5〜100g/10分、好ましくは265℃の温度におけるMFRが1〜50g/10分であることが好ましい。本明細書において、MFRは、後述するMFRの測定方法により得られる値である。
本発明における含フッ素エチレン性重合体としては、透明性に優れたものが好ましく、500μm厚のフィルムにおける全光透過率が85%以上のものが特に好ましい。
【0054】
本発明における含フッ素エチレン性重合体としては、耐熱性及び耐薬品性の面でテトラフルオロエチレン単位を必須とする含フッ素エチレン性重合体が、また、成形加工性の面でフッ化ビニリデン単位を必須とする含フッ素エチレン性共重合体が好ましい。なお、本明細書において、上記「単位」とは、重合体の分子構造の一部分であって、その単量体に由来する部分を意味する。
【0055】
上記熱可塑性樹脂における重合体が含フッ素エチレン性重合体である場合、上記接着性官能基は、含フッ素エチレン性重合体の末端に結合していてもよいし、側鎖に結合していてもよい。接着性官能基が重合体末端に結合している場合は、後述するパーオキサイド等の重合開始剤を用いる方法等によって含フッ素エチレン性重合体を得ることが可能であり、側鎖に結合している場合は、後述するように、接着性官能基含有エチレン性単量体を上記フッ素含有エチレン性単量体及び/又はフッ素非含有エチレン性単量体と共重合することによって得ることができる。上記「接着性官能基含有エチレン性単量体」とは、接着性官能基を有するオレフィン性不飽和単量体を意味する。上記接着性官能基含有エチレン性単量体は、フッ素原子を有していてもよいし、有していなくてもよいが、上述した「フッ素含有エチレン性単量体」及び「フッ素非含有エチレン性単量体」を含まない概念である。
【0056】
本発明における含フッ素エチレン性重合体の好ましい具体例としては、耐熱性、耐薬品性、耐候性、電気絶縁性、非粘着性に優れている点から、含フッ素エチレン性重合体が下記の単量体を重合してなるものである含フッ素エチレン性重合体(I)〜(V)等が挙げられる。本明細書において、以下、含フッ素エチレン性重合体についての単量体組成は、接着性官能基を側鎖に有する含フッ素エチレン性重合体を得る場合に共重合する接着性官能基含有エチレン性単量体以外の単量体の合計を100モル%としたときの値である。
【0057】
(I)テトラフルオロエチレン及びエチレンを重合してなる共重合体、
(II)少なくとも、テトラフルオロエチレン及び下記一般式(ii)
CF=CF−Rf (ii)
(式中、RfはCF又はORfを示し、Rfは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を示す。)で表される化合物を重合してなる共重合体、
(III)少なくとも、フッ化ビニリデンを重合してなる重合体、
(IV)少なくとも、下記a、b及びcからなる共重合体、
a.テトラフルオロエチレン20〜89モル%、好ましい上限は70モル%
b.エチレン10〜79モル%、好ましい下限は20モル%、好ましい上限は60モル%
c.下記一般式(ii)
CF=CF−Rf (ii)
(式中、RfはCF又はORfを示し、Rfは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を示す。)で表される化合物1〜70モル%、好ましい上限は60モル%、並びに、
(V)少なくとも、下記d、e及びfからなる共重合体。
d.フッ化ビニリデン15〜60モル%
e.テトラフルオロエチレン35〜80モル%
f.ヘキサフルオロプロピレン5〜30モル%
【0058】
なかでも、得られる積層樹脂成形体の透明性が優れている点から、上記含フッ素エチレン性重合体は、上記共重合体(IV)であることが好ましい。
【0059】
上記共重合体(I)として、例えば、少なくともテトラフルオロエチレン20〜89モル%、エチレン10〜79モル%、及び、これらと共重合可能な単量体0〜70モル%からなる共重合体等が挙げられる。上記テトラフルオロエチレンの好ましい上限は60モル%であり、上記エチレンの好ましい上限は60モル%、好ましい下限は20モル%である。
【0060】
上記テトラフルオロエチレン及びエチレンと共重合可能な単量体としては、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、上記一般式(i)で表される単量体、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)類、プロピレン等が挙げられ、通常これらの1種又は2種以上が用いられる。
【0061】
上記共重合体(I)のような含フッ素エチレン性重合体は、特に耐熱性、耐薬品性、耐候性、電気絶縁性、非粘着性、ガスバリアー性、非溶出性、耐バクテリア性に優れている。
【0062】
上記共重合体(I)のなかでも、
(I−1)少なくとも、テトラフルオロエチレン62〜80モル%、エチレン20〜38モル%、テトラフルオロエチレン及びエチレンと共重合可能な単量体0〜10モル%からなる共重合体、
(I−2)少なくとも、テトラフルオロエチレン20〜80モル%、エチレン10〜80モル%、ヘキサフルオロプロピレン0〜30モル%、テトラフルオロエチレン及びエチレンと共重合可能な単量体0〜10モル%からなる共重合体
等が、テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体の優れた性能を維持し、融点を比較的低くすることができ、積層される相手材との接着性を最大限に発揮できる点で好ましい。
【0063】
上記共重合体(II)としては、例えば、
(II−1)少なくともテトラフルオロエチレン65〜95モル%及びヘキサフルオロプロピレン5〜35モル%からなる共重合体;好ましくは、テトラフルオロエチレン75モル%以上及びヘキサフルオロプロピレン25モル%以下からなる共重合体
(II−2)少なくとも、テトラフルオロエチレン70〜97モル%及びCF=CFORf(Rfは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を示す)で表される単量体3〜30モル%からなる共重合体、
(II−3)少なくとも、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン及びCF=CFORf(Rfは上記と同じものを示す。)で表される単量体を重合してなる共重合体であって、ヘキサフルオロプロピレンとCF=CFORfで表される単量体との合計が5〜30モル%である共重合体等が好ましい。
上記(II−2)及び(II−3)は、パーフルオロ系共重合体であり、耐熱性、耐薬品性、撥水性、非粘着性、電気絶縁性、バリア性、非溶出性、耐バクテリア性等が特に優れている。
【0064】
上記共重合体(III)としては、少なくともフッ化ビニリデン15〜99モル%、テトラフルオロエチレン0〜80モル%、及び、ヘキサフルオロプロピレン又はクロロトリフルオロエチレンのいずれか1種以上0〜30モル%からなる共重合体等が挙げられる。
【0065】
例えば、
(III−1)少なくとも、フッ化ビニリデン30〜99モル%、及び、テトラフルオロエチレン1〜70モル%からなる共重合体、
(III−2)少なくとも、フッ化ビニリデン60〜90モル%、テトラフルオロエチレン0〜30モル%、及び、クロロトリフルオロエチレン1〜20モル%からなる共重合体、
(III−3)少なくとも、フッ化ビニリデン60〜95モル%、テトラフルオロエチレン0〜30モル%、及び、ヘキサフルオロプロピレン5〜30モル%からなる共重合体、
(III−4)少なくとも、フッ化ビニリデン15〜60モル%、テトラフルオロエチレン35〜80モル%、及び、ヘキサフルオロプロピレン5〜30モル%からなる共重合体等が挙げられる。
【0066】
本発明における含フッ素エチレン性重合体の製造方法としては特に限定されず、上述したように、側鎖に接着性官能基を有する含フッ素エチレン性重合体を製造する場合、接着性官能基含有エチレン性単量体を、目的の含フッ素エチレン性重合体に合わせた種類、配合のフッ素含有エチレン性単量体及びフッ素非含有エチレン性単量体と共重合することにより得ることができる。好適な接着性官能基含有エチレン性単量体としては、接着性官能基がカルボニル基を有する基である場合、パーフルオロアクリル酸フルオライド、1−フルオロアクリル酸フルオライド、アクリル酸フルオライド、1−トリフルオロメタクリル酸フルオライド、パーフルオロブテン酸等のフッ素を有する単量体;アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸クロライド、ビニレンカーボネート等のフッ素を有さない単量体がそれぞれ挙げられる。
【0067】
重合体末端に接着性官能基を有する含フッ素エチレン性重合体を得るためには種々の方法を採用することができるが、接着性官能基がカルボニル基を有する基である場合、パーオキサイド、特に、パーオキシカーボネートやパーオキシエステルを重合開始剤として用いて上述の含フッ素エチレン性重合体をなす単量体を重合する方法が、経済性の面、耐熱性、耐薬品性等品質の面で好ましく採用できる。この方法によれば、パーオキサイドに由来するカルボニル基、例えば、パーオキシカーボネートに由来するカーボネート基、パーオキシエステルに由来するエステル基、又は、これらの官能基を変換してなるハロホルミル基を、重合体末端に導入することができる。これらの重合開始剤のうち、パーオキシカーボネートを用いることが、重合温度を低くすることができ、開始反応に副反応を伴わないことからより好ましい。
上記パーオキシカーボネートとしては下記式(1)〜(4):
【0068】

【0069】
(式中、R及びRは、同一又は異なって、炭素数1〜15の直鎖状若しくは分岐状の一価飽和炭化水素基、又は、末端にアルコキシル基を有する炭素数1〜15の直鎖状若しくは分岐状の一価飽和炭化水素基を示し、Rは、炭素数1〜15の直鎖状若しくは分岐状の二価飽和炭化水素基、又は、末端にアルコキシル基を有する炭素数1〜15の直鎖状若しくは分岐状の二価飽和炭化水素基を示す。)で表される化合物が好ましい。
【0070】
なかでも、上記パーオキシカーボネートとしては、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−2−p−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート等が好ましい。
【0071】
パーオキシカーボネート、パーオキシエステル等の重合開始剤の使用量は、目的とする含フッ素エチレン性重合体の種類や組成、分子量、重合条件、使用する開始剤の種類等によって異なるが、得られる含フッ素エチレン性重合体100質量部に対して0.05〜20質量部であることが好ましく、より好ましい下限は0.1質量部であり、より好ましい上限は10質量部である。
【0072】
重合方法としては、特に限定されず、例えば、溶液重合、懸濁重合、乳化重合、塊状重合等が挙げられるが、工業的にはフッ素系溶媒を用い、重合開始剤としてパーオキシカーボネート等を使用した水性媒体中での懸濁重合が好ましい。懸濁重合においては、フッ素系溶媒を水に添加して使用することができる。懸濁重合に用いるフッ素系溶媒としては、例えばCHCClF、CHCClF、CFCFCClH、CFClCFCFHCl等のハイドロクロロフルオロアルカン類;CFClCFClCFCF、CFCFClCFClCF等のクロロフルオロアルカン類;パーフルオロシクロブタン、CFCFCFCF、CFCFCFCFCF、CFCFCFCFCFCF等のパーフルオロアルカン類等が挙げられ、なかでも、パーフルオロアルカン類が好ましい。フッ素溶媒の使用量は、懸濁性及び経済性の面から、水に対して10〜100質量%とするのが好ましい。
【0073】
重合温度は特に限定されず、0〜100℃でよい。重合圧力は、用いる溶媒の種類、量及び蒸気圧、重合温度等の他の重合条件に応じて適宜定められるが、通常0〜9.8MPaGであってよい。
【0074】
分子量調整のために、通常の連鎖移動剤、例えば、イソペンタン、n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素;メタノール、エタノール等のアルコール;四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、塩化メチル等のハロゲン化炭化水素等を用いることができる。末端のカーボネート基又はエステル基の含有量は、パーオキシカーボネート又はパーオキシエステルの使用量、連鎖移動剤の使用量、重合温度等の重合条件によって制御できる。
【0075】
末端にハロホルミル基を有する含フッ素エチレン性重合体を得るためには種々の方法を採用できるが、例えば、上述のカーボネート基又はエステル基を末端に有する含フッ素エチレン性重合体を加熱して、熱分解(脱炭酸)させることにより得ることができる。加熱温度は、カーボネート基又はエステル基の種類、含フッ素エチレン性重合体の種類等によって異なるが、重合体自体が270℃以上、好ましくは280℃以上、より好ましくは300℃以上になるように加熱することが好ましく、また、重合体自体が含フッ素エチレン性重合体のカーボネート基又はエステル基以外の部位の熱分解温度以下になるように加熱することが好ましく、より好ましくは400℃以下、更に好ましくは350℃以下である。
【0076】
熱可塑性樹脂層(C)は、熱可塑性樹脂を溶融押出してなるものであることが好ましく、上記含フッ素エチレン性重合体を溶融押出してなるものであることがより好ましい。上述したように、含フッ素エチレン性重合体を溶融押出する際の加熱等により、又は、経時的に、ハロホルミル基がカルボキシル基に分解してしまうことがあるので、上記熱可塑性樹脂層(C)において、カルボニル基は、含フッ素エチレン性重合体の主鎖炭素数1×10個あたり3〜1000個が好ましく、上記カルボニル基は、カーボネート基の一部であるもの、ハロホルミル基の一部であるもの、及び/又は、カルボキシル基の一部であるものであってよい。
【0077】
本発明における熱可塑性樹脂層(C)は、必要に応じ、その他の成分を配合してなるものであってもよいし、上述の含フッ素エチレン性重合体及び必要に応じて配合されるその他の成分からなるものであることが好ましい。上記含フッ素エチレン性重合体は、それ自体が有する接着性、耐熱性、耐薬品性等を損なわない範囲で単独で用いることが好ましいが、目的や用途に応じてその性能を損なわない範囲で、無機質粉末、ガラス繊維、炭素繊維、金属酸化物、カーボン等の種々の充填剤、顔料、紫外線吸収剤、その他任意の添加剤とともに用いて上記熱可塑性樹脂層(C)を形成することができる。機械特性の改善、耐候性の改善、意匠性の付与、静電防止、成形性改善等の目的で、また、添加剤以外に、上記含フッ素エチレン性重合体からなるもの以外のその他のフッ素樹脂や、上記ポリアミド系樹脂層(B)を形成するポリアミド系樹脂でなく上記含フッ素エチレン性重合体からなるものでもない熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の樹脂、合成ゴム等をともに用いることもできる。特に、カーボンブラック、アセチレンブラック等の導電性材料をともに用いると、得られる積層樹脂成形体が燃料配管用チューブや燃料配管用ホース等に用いられる場合、静電荷蓄積防止に有利である。
【0078】
本発明における熱可塑性樹脂層(C)は、必要に応じて導電性のものであってもよい。本発明でいう「導電性」とは、例えば、ガソリンのような引火性の流体が樹脂のような絶縁体と継続的に接触した場合に静電荷が蓄積して引火する可能性があるのであるが、この静電荷が蓄積しない程度の電気特性を有することをいい、例えば、SAEJ2260では表面抵抗が10Ω/□以下であると定められている。上記熱可塑性樹脂層(C)を導電性のものとする場合の上記導電性材料の配合割合は、上記熱可塑性樹脂層(C)を形成する樹脂及び必要に応じて配合されるその他の成分の合計の20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下がより好ましい。下限は、上記した表面抵抗値を付与することができる量であればよい。
【0079】
本発明の積層樹脂成形体は、上述のように、ポリアミド系樹脂層(B)が特定の範囲内のアミン価を有するポリアミド系樹脂から形成されてなるものであり、熱可塑性樹脂層(C)が接着性官能基、好ましくはカルボニル基を含有する基を有する熱可塑性樹脂から形成されてなるものであるので、上記ポリアミド系樹脂層(B)及び上記熱可塑性樹脂層(C)は、熱融着により強固に接着しているものである。上記ポリアミド系樹脂層(B)を形成するポリアミド系樹脂が有するアミド結合と、上記熱可塑性樹脂層(C)を形成する熱可塑性樹脂が有する接着性官能基とが加熱により反応、配位等の相互作用をすることにより、上記ポリアミド系樹脂層(B)及び上記熱可塑性樹脂層(C)の間に強固な接着を得ることができる。
【0080】
本発明の積層樹脂成形体は、また、上述のように、熱可塑性樹脂層(C)が官能基により上記ポリアミド系樹脂と充分に接着する熱可塑性樹脂から形成されてなるものであるので、上記熱可塑性樹脂層(C)と上記ポリアミド系樹脂層(B)とは、強固に接着しているものである。
【0081】
本発明の積層樹脂成形体は、従って、上記熱可塑性ポリマー層(A)、上記ポリアミド系樹脂層(B)及び上記熱可塑性樹脂層(C)が互いに強固に接着しているものである。本明細書において、上記「強固に接着しているもの」とは、上記上記熱可塑性ポリマー層(A)と上記ポリアミド系樹脂層(B)との間の初期接着力と、上記ポリアミド系樹脂層(B)と上記熱可塑性樹脂層(C)との間の初期接着力とが、それぞれ上述の範囲内の値を示すことを意味する。
【0082】
本発明の積層樹脂成形体は、上述の熱可塑性ポリマー層(A)、ポリアミド系樹脂層(B)及び熱可塑性樹脂層(C)を、逐次又は共押出成形する方法、成形体を加熱圧着する方法等によって得られ、このような方法を用いることにより、上述の熱可塑性ポリマー層(A)及びポリアミド系樹脂層(B)、並びに、ポリアミド系樹脂層(B)及び熱可塑性樹脂層(C)の層間接着力をそれぞれ充分なものとすることができる。上記積層樹脂成形体は、通常用いられる熱可塑性樹脂の成形機、例えば、射出成形機、圧縮成形機、ブロー成形機、押出成形機等を使用して製造することができ、シート状、チューブ状等、各種形状の積層樹脂成形体を得ることが可能である。上記積層樹脂成形体を多層チューブ、多層ホース、多層タンク等の多層成形品とする場合には、多層共押出成形、多層ブロー成形、多層射出成形等の成形方法を適用し得る。このうち、チューブ、ホース、シート等の成形には、押出成形、特に、同時多層共押出成形が好ましく、円筒形状等の中空状物品の成形にはブロー成形を好適に使用し得る。また、成形されたシートを他の基材と積層してライニング体を製造することもできる。
【0083】
同時多層共押出成形及びブロー成形の条件としては、熱可塑性ポリマーが劣化、発泡せず、また、上記ポリアミド系樹脂層(B)と熱可塑性樹脂層(C)との層間接着力が充分となる程度の温度に多層ダイの温度を設定する。多層ダイの温度は、広くは、300℃以下であるが、本発明の第1の目的において、250℃以下が好ましく、より好ましくは230℃以下、更に好ましくは220℃以下に設定され、本発明の第2の目的において、250℃を超え、300℃以下が好ましく、より好ましくは260℃以上、290℃以下に設定される。多層ダイの温度の下限は、上記ポリアミド系樹脂層(B)を形成するポリアミド系樹脂又は熱可塑性樹脂層(C)を形成する熱可塑性樹脂の融点のいずれか低い方の温度に設定される。シリンダ温度については各層を形成する樹脂の融点より10〜50℃高い温度が適当である。
【0084】
上記積層樹脂成形体は、上述の熱可塑性ポリマー層(A)、ポリアミド系樹脂層(B)及び熱可塑性樹脂層(C)のみが積層されてなるものでもよいし、上述の熱可塑性ポリマー層(A)、ポリアミド系樹脂層(B)及び熱可塑性樹脂層(C)以外のその他の層が1種又は2種以上積層されてなるものでもよい。
また、上記その他の層は、補強のためのガラス繊維層や、ポリエステルなどの樹脂のブレード層であっても良い。
上記積層樹脂成形体は、また、熱可塑性ポリマー層(A)及び熱可塑性樹脂層(C)がポリアミド系樹脂層(B)に接するものである場合、このポリアミド系樹脂層(B)は、2つのポリアミド系樹脂層、即ち、ポリアミド系樹脂層(B1)とポリアミド系樹脂層(B2)との間にその他の層(E)を1種又は2種以上挟んだものとすることができる。この積層樹脂成形体は、熱可塑性ポリマー層(A)、ポリアミド系樹脂層(B1)、その他の層(E)、ポリアミド系樹脂層(B2)及び熱可塑性樹脂層(C)から構成され、これら5層がこの順に積層している積層体として表される(以下、「積層樹脂成形体P」ということがある。)。
上記その他の層(E)を形成する樹脂としては、例えば、熱可塑性ポリマーとして上述した種類から選択することができる。上記積層樹脂成形体Pは、上記その他の層(E)に低価格の汎用熱可塑性ポリマーを用いることにより、一般に価格が高いポリアミド系樹脂の一部を低価格品に代替させてコスト低減を図ることができ、また、その他の層(E)を厚くすればコスト上昇を抑えながら用途に合わせて積層体を厚くすることができる。上記積層樹脂成形体Pは、また、上記その他の層(E)にポリアミド系樹脂よりも柔軟性が高い熱可塑性ポリマーを用いることにより、積層体全体としての柔軟性を用途に合わせて調整することができる。
上記積層樹脂成形体Pは、熱可塑性ポリマー層(A)を形成する熱可塑性樹脂ポリマーと、熱可塑性樹脂層(C)を形成する熱可塑性樹脂とが同じ種類である場合、特に、ともに含フッ素エチレン性重合体からなる樹脂である場合にも、好適な積層構造であり、本発明の第2の目的の達成に支障を来さない。本発明の第2の目的において、上記積層樹脂成形体Pは、調製容易等の点で、上記熱可塑性樹脂ポリマーと上記熱可塑性樹脂層とが同じ種類の含フッ素エチレン性重合体からなる樹脂であるものが好ましく、上述の共重合体(IV)であるものがより好ましく、また、上記その他の層(E)は、比較的低価格の熱可塑性ポリマーが好ましく、なかでも、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂、変性ポリオレフィン樹脂がより好ましい。
【0085】
本発明においては、上記熱可塑性樹脂層(C)は更に、フッ素樹脂からなる層(D)と積層されていてもよい。上記フッ素樹脂からなる層(D)は、必要に応じて、導電性を付与するために導電性材料を含むものであってもよい。この場合、導電性材料の配合量は、導電性を付与することができる量であればよく、熱可塑性樹脂層(C)について上述した配合割合であってよい。
【0086】
上記フッ素樹脂としては、溶融成形可能なフッ素樹脂であれば特に限定されず、例えば、テトラフルオロエチレン/フルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体[PFA]、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体[FEP]、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体[ETFE]、ポリクロロトリフルオロエチレン[PCTFE]、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体[ECTFE]等が挙げられる。また、上述の含フッ素エチレン性重合体であってもよい。
【0087】
本発明の積層樹脂成形体において、上記熱可塑性ポリマー層(A)上に、更に熱可塑ポリマー層(F)が積層されていてもよい。本発明の積層樹脂成形体は、本発明の第1の目的において、熱可塑性ポリマー層(A)を形成する熱可塑性ポリマーと熱可塑ポリマー層(F)を形成する熱可塑ポリマーとが熱可塑性エラストマーであるものが好ましく、熱可塑性ポリマー層(A)と熱可塑ポリマー層(F)とが互いに強固に接着する熱可塑性ポリマーを選択することが好ましい。上記熱可塑性ポリマー層(A)を形成する熱可塑性ポリマーと上記熱可塑ポリマー層(F)を形成する熱可塑ポリマーは、同種類であってもよいし、異なる種類であってもよい。上記熱可塑性ポリマー層(A)及び上記熱可塑ポリマー層(F)は、それぞれ添加剤等が添加されている場合、その添加剤等が同種類のものであってもよいし、異なる種類のものであってもよい。上記熱可塑ポリマー層(F)を形成する熱可塑ポリマーは、ポリアミド系樹脂の接着性を改良するために変性されたポリマーであってもよい。また、上記熱可塑性ポリマー層(A)と上記熱可塑ポリマー層(F)との間に、ガラス繊維層やブレードを設けてもよい。本発明の積層樹脂成形体は、例えば、燃料チューブに用いる場合、上記熱可塑ポリマー層(F)が上記熱可塑性ポリマー層(A)よりも耐油性を有する方が好ましい。上記熱可塑ポリマー層(F)は上記熱可塑性ポリマー層(A)よりも柔軟であってもよい。
本発明の第1の目的における積層樹脂成形体において、ポリアミド系樹脂層(B)は、厚みが熱可塑性ポリマー層(A)の厚みの5分の1以下であることが好ましい。熱可塑性ポリマー層(A)の厚みの5分の1を超えると、柔軟性が比較的低いポリアミド系樹脂が厚くなり、得られる積層樹脂成形体の柔軟性が低下するので好ましくない。ポリアミド系樹脂層(B)の厚みの下限は、上記熱可塑性ポリマー層(A)の厚みの5分の1以下であれば、例えば、上記熱可塑性ポリマー層(A)の厚みの40分の1以上であっても、適切な層間接着力を有することができる。
上記積層樹脂成形体は、上述の積層樹脂成形体Pである場合、ポリアミド系樹脂層(B1)、ポリアミド系樹脂層(B2)及びその他の層(E)の合計厚みが、熱可塑性ポリマー層(A)の厚みの5分の1以下であることが好ましい。
【0088】
本発明の第1の目的においては、また、熱可塑性樹脂層(C)の厚みは、特に限定されないが、0.5mm未満であることが好ましい。0.5mm以上であると、得られる積層樹脂成形体の透明性が低下する場合がある。熱可塑性樹脂層(C)の厚みの下限は、0.5mm未満であれば、例えば0.03mm以上であっても、耐薬品性、バリア性、耐バクテリア性等を呈することができる。
本発明の第2の目的において、上記積層樹脂積層体は、熱可塑性ポリマー層(A)と熱可塑性樹脂層(C)の厚みとの合計厚みが1.5mm以下であるものが好ましく、1mm以下であるものが好ましい。また上記合計厚みは、ポリアミド樹脂層(B)の厚みよりも薄いことが好ましい。上記合計厚みは、ポリアミド樹脂層(B)の厚みよりも厚い場合、上記積層樹脂積層体のチューブとしての強度が低下する場合がある。
【0089】
本発明の第1の目的において、積層樹脂成形体は、引張り弾性率が400MPa未満であることが好ましく、250MPa未満であることがより好ましい。引張り弾性率の下限は、50MPaであっても、引張り弾性率が上記範囲内にあれば、通常の工業用チューブ等の用途として充分な柔軟性を得ることができる。なお、本明細書において、上記引張り弾性率は、ASTM D−638(1999)に準拠して室温で測定した値である。
本発明の積層樹脂積層体は、その引っ張り強度が25MPa以上であるものが好ましい。
【0090】
本発明の積層樹脂成形体は、外部からの視認性が要求される等の用途の場合、全光透過率が75%以上であることが好ましい。75%未満であると、本発明の積層樹脂成形体を、例えば後述のチューブ又はホースに用いる場合、透明性が不充分であり、使用中に流通する流体や、内壁への付着物の有無を確認することができないので好ましくない。全光透過率の上限は、75%以上であれば、例えば97%以下であってもよい。得られる積層樹脂成形体の用途等によって適宜選択される。なお、本明細書において、上記全光透過率は、JIS K 7105に準拠して測定した値であり、チューブ又はホースの場合、チューブ又はホースをカッター等で切開し、平らに固定して測定を行って得られた値である。
【0091】
本発明の積層樹脂成形体は、上述の熱可塑性ポリマー層(A)、ポリアミド系樹脂層(B)及び熱可塑性樹脂層(C)が積層されてなるので、上記熱可塑性ポリマー層(A)を形成する熱可塑性ポリマーが有する優れた柔軟性及び透明性、並びに、上記熱可塑性樹脂層(C)を形成する熱可塑性樹脂が有する優れた耐薬品性、耐熱性、耐候性、電気絶縁性、非粘着性、バリア性、耐バクテリア性等の性質を有しており、また、上記ポリアミド系樹脂層(B)を形成するポリアミド系樹脂が特定の範囲のアミン価を有することにより、上記熱可塑性ポリマー層(A)を形成する熱可塑性ポリマーが熱可塑性エラストマーである場合、上記熱可塑性エラストマーが発泡しない程度の比較的低い温度で共押出しても、優れた層間接着力を有することが可能となる。
上記積層樹脂成形体は、本発明の第1の目的において、熱可塑性ポリマーとして上述の種類を選択することにより、更に優れた柔軟性を有するものにすることが可能である。
【0092】
本発明の積層樹脂積層体は、上記熱可塑性ポリマー層(A)及び上記熱可塑性樹脂層(C)が、それぞれ含フッ素エチレン層である場合、メタノール、エタノール、fuel C〔トルエン:キシレン=1:1(体積比)〕、CM15〔トルエン:キシレン:メタノール=42.5:42.5:15(体積比)〕及びCE10〔トルエン:キシレン:エタノール=45:45:10(体積比)〕よりなる群から選ばれる何れかの有機液体に、40℃の温度にて浸漬した場合であっても、その平面方向の長さの伸び及び直径の変化率が浸漬前の2%以下であることが好ましい。
本発明の積層樹脂積層体は、上記熱可塑性ポリマー層(A)及び上記熱可塑性樹脂層(C)が、それぞれ含フッ素エチレン層である場合、メタノール、エタノール、fuelC〔トルエン:キシレン=1:1(体積比)〕、CM15〔トルエン:キシレン:メタノール=42.5:42.5:15(体積比)〕及びCE10〔トルエン:キシレン:エタノール=45:45:10(体積比)〕よりなる群から選ばれる何れの有機液体に対しても、該有機液体の27℃での燃料透過速度が、1g/m/day以下であることが好ましく、0.5g/m/day以下であることがより好ましい。
【0093】
本発明の積層樹脂成形体は、ダイ、及び、上記ダイに樹脂を供給する複数の押出機からなる共押出装置を用いて同時多層共押出法により積層させることができる。本発明の第1の目的において、上記ダイは、250℃以下の温度であることが好ましい。
即ち、本発明の積層樹脂成形体製造方法は、ダイ温度を250℃以下にした場合、本発明の第1の目的を達成する積層樹脂成形体の製造方法として好適であり、ダイ、及び、上記ダイに樹脂を供給する複数の押出機からなる共押出装置を用いて同時多層共押出法により積層させるものであり、上記ダイは、250℃以下の温度であることを特徴とするものである。
本発明の積層樹脂成形体は、本発明の第2の目的において、上述のダイは、250℃を超えるの温度であって、かつ300℃以下の温度であることが好ましい。即ち、本発明の積層樹脂成形体製造方法は、ダイ温度を250℃を超えるの温度であって、かつ300℃以下の温度にした場合、本発明の第2の目的を達成する積層樹脂成形体の製造方法として好適である。
【0094】
上記ダイとしては、特に限定されず、通常、押出成形に用いるダイが使用できる。例えば、マニホールドダイ、ブロー成形用ダイ、リングダイ、スクリューダイ、チュービングダイ等が挙げられ、得られる積層樹脂成形体の用途に応じて適宜選択される。ダイの温度は、上述の多層ダイと同様、300℃以下であるが、本発明の第1の目的において、250℃以下が好ましく、より好ましくは230℃以下、更に好ましくは220℃以下に設定される。250℃以下、好ましくは230℃以下、より好ましくは220℃以下に設定される。温度の下限は、上記ポリアミド系樹脂層(B)を形成するポリアミド系樹脂又は熱可塑性樹脂層(C)を形成する熱可塑性樹脂のいずれか融点が低い方の樹脂の融点に設定されるが、好ましくは170℃以上、より好ましくは190℃以上である。
【0095】
本発明の積層樹脂成形体は、本発明の第1の目的において、柔軟性、耐薬品性、低薬液透過性、耐バクテリア性に優れている点で、上記熱可塑性ポリマーが熱可塑性エラストマーであり、上記熱可塑性樹脂が含フッ素エチレン性重合体であるものが好ましい。この場合、上記熱可塑性エラストマーとしては、ポリウレタン系エラストマーであることが好ましく、上記含フッ素エチレン性重合体としては、含フッ素エチレン性重合体のところで述べた共重合体(IV)であることが好ましい。
本発明の積層樹脂成形体は、本発明の第2の目的において、耐薬品性、非粘着性、非溶出性、防汚性、耐バクテリア性が積層体の両面に対して優れており、更に積層体としての低燃料透過性に優れていることから、上記熱可塑性樹脂、上記熱可塑性ポリマー両方が含フッ素エチレン性重合体であるものが好ましい。更に、上記含フッ素エチレン性重合体としては、含フッ素エチレン性重合体のところで述べた共重合体(IV)であることが更に好ましい。
【0096】
本発明の積層樹脂成形体は、多層成形品とすることができる。上記多層成形品は、上記積層樹脂成形体を少なくとも一部に有するものである。
【0097】
上記多層成形品としては、例えば、以下のものが挙げられる。
チューブ、ホース類:塗装ライン用チューブ又は塗装ライン用ホース、薬液チューブ又は薬液ホース、農薬用チューブ又は農薬用ホース、飲料用チューブ又は飲料用ホース、油圧チューブ又は油圧ホース、空圧チューブ又は空圧ホース、ガソリンスタンド用地下埋設チューブ、自動車燃料配管用チューブ又は自動車燃料配管用ホース、自動車のラジエーターホース、ブレーキホース、エアコンホース、電線ケーブル、燃料電池用ホース等。
フィルム、シート類:ダイヤフラムポンプのダイヤフラムや各種パッキン等の高度の耐薬品性が要求される摺動部材、ベルトコンベア、
タンク類:自動車のラジエータータンク、薬液ボトル、薬液タンク、バッグ、薬品容器、ガソリンタンク等。
その他:キャブレターのフランジガスケット、燃料ポンプのOリング等の各種自動車用シール、化学薬品用ポンプや流量計のシール等の化学関係シール、油圧機器のシール等の各種機械関係シール、ギア等。
なかでも、本発明の積層樹脂成形体は、多層成形品として、ホース又はチューブとすることが好ましい。
【0098】
上記積層樹脂成形体からなる多層成形品であって、ホース又はチューブであるものもまた、本発明のひとつである。上記ホース又はチューブとしては、上記と同様のものが挙げられる。
【0099】
上記多層成形品は、熱可塑性ポリマー層(A)を外層とし、熱可塑性樹脂層(C)を内層とし、及び、ポリアミド系樹脂層(B)を中間層とする薬液チューブ又は薬液ホースであることが好ましい。上記多層成形品は、熱可塑性樹脂、特に含フッ素エチレン性重合体から形成されてなる熱可塑性樹脂層(C)を内層とする場合、耐薬品性に優れているので、薬液チューブ又は薬液ホースに好適に使用し得る。
【0100】
上記薬液は、特に限定されず、例えば、酢酸、蟻酸、クレゾール、フェノール等の有機酸類;塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸類;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ溶液;メタノール、エタノール等のアルコール類;エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、エタノールアミン等のアミン類;ジメチルアセトアミド等のアミド類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;ガソリン、軽油、重油等の燃料、Fuel C等の擬似燃料、及び、これらとパーオキサイドやメタノール、エタノール等との混合燃料等の有機又は無機の液体が挙げられる。
【0101】
本発明の第1の目的において、上記多層成形品は、また、熱可塑性ポリマー層(A)を外層とし、熱可塑性樹脂層(C)を内層とし、及び、ポリアミド系樹脂層(B)を中間層とする塗装ライン用チューブ又は塗装ライン用ホースであることが好ましい。上記多層成形品は、熱可塑性樹脂、特に含フッ素エチレン性重合体から形成されてなる熱可塑性樹脂層(C)を内層とする場合、低薬液透過性であり耐薬品性に優れているので、特に限定されないが、塗装ライン用チューブ又は塗装ライン用ホースに好適に使用でき、例えばキシレンを用いて希釈されたインクを輸送させる場合にも好適に使用し得る。
【0102】
本発明の第1の目的において、上記多層成形品は、また、熱可塑性ポリマー層(A)を外層とし、熱可塑性樹脂層(C)を内層とし、及び、ポリアミド系樹脂層(B)を中間層とする飲料用チューブ又は飲料用ホースであることが好ましい。上記多層成形品は、熱可塑性樹脂、特に含フッ素エチレン性重合体から形成されてなる熱可塑性樹脂層(C)を内層とする場合、耐バクテリア性であるので衛生的であり、飲料用チューブ又は飲料用ホースに好適に使用できる。
【0103】
本発明の第1の目的において、上記多層成形品は、また、熱可塑性ポリマー層(A)を外層とし、熱可塑性樹脂層(C)を内層とし、及び、ポリアミド系樹脂層(B)を中間層とする自動車燃料配管用チューブ又は自動車燃料配管用ホースであることが好ましい。上記多層成形品は、熱可塑性樹脂、特に含フッ素エチレン性重合体から形成されてなる熱可塑性樹脂層(C)を内層とする場合、低燃料透過性であるので、自動車用燃料配管用チューブ又は自動車燃料配管用ホースに好適に使用し得る。
【0104】
本発明の第1の目的において、多層成形品である薬液チューブ又は薬液ホース、塗装ライン用チューブ又は塗装ライン用ホース、飲料用チューブ又は飲料用ホース、自動車用燃料配管用チューブ又は自動車燃料配管用ホースは、それぞれ、柔軟性、耐薬品性、低薬液透過性、耐バクテリア性に優れている点で、上記熱可塑性ポリマーが熱可塑性エラストマーであり、上記熱可塑性樹脂が含フッ素エチレン性重合体であるものが好ましい。この場合、上記熱可塑性エラストマーとしては、ポリウレタン系エラストマーやポリオレフィン系エラストマーであることが好ましく、上記含フッ素エチレン性重合体としては、含フッ素エチレン性重合体のところで述べた共重合体(IV)であることが好ましい。
【0105】
本発明の第2の目的において、多層成形品は、また、熱可塑性ポリマー層(A)を外層とし、熱可塑性樹脂層(C)を内層とし、及び、ポリアミド系樹脂層(B)を中間層とするガソリンスタンド用地下埋設チューブであることが好ましい。
この多層成形品は、熱可塑性樹脂、特に含フッ素エチレン性重合体を内層及び外層とする場合、低薬液透過性であり、耐薬品性、非溶出性に優れているので、特に内管に使用することは好ましく、アルコール添加燃料を輸送させる場合にも好適に使用し得る。タンク車からガソリンスタンドのタンクにガソリンを移送する場合は帯電によるスパークの可能性があるため、内管の内層の熱可塑性樹脂層(C)を導電性とすることが好ましい。上記含フッ素エチレン性重合体としては、含フッ素エチレン性重合体のところで述べた共重合体(IV)であることが好ましい。
本発明の第2の目的において、上記多層成形品は、低薬液透過性であり、耐薬品性、非溶出性、耐バクテリア性に優れているので、2重管の外管に用いることも好ましい。これらは同時に二重管として用いられることが好ましいが、内管、外管の片方だけでも用いる事ができる。チューブの直径は、5mm以上、100mm以下であってよい。
【0106】
本発明の第2の目的において、多層成形品におけるポリアミド樹脂層(B)は、ポリアミド/変性ポリオレフィン/ポリアミド、ポリアミド/変性ポリオレフィン/ポリオレフィン/変性ポリオレフィン/ポリアミド、ポリアミド/変性ポリオレフィン/エバール/変性ポリオレフィン/ポリアミド等が好ましい。上記エバールは、エチレン/酢酸ビニル共重合体の鹸化物である。
本発明の第2の目的において、上記多層成形品におけるポリアミド系樹脂層(B)は、上述の積層樹脂成形体Pの積層構造を構成する場合、2つのポリアミド系樹脂層、即ち、上述のポリアミド系樹脂層(B1)とポリアミド系樹脂層(B2)とに分割したものであり、この2つのポリアミド系樹脂層におけるポリアミド系樹脂は同種類であってもよいし、異なる種類であってもよいが、調製容易等の点で、同種類であることが好ましい。
【0107】
本発明の第2の目的において、多層成形品は、また、熱可塑性ポリマー層(A)を外層とし、熱可塑性樹脂層(C)を内層とし、及び、ポリアミド系樹脂層(B)を中間層とする薬液ボトルであることが好ましい。上記多層成形品は、熱可塑性樹脂、特に含フッ素エチレン性重合体を内層及び外層とする場合、低薬液透過性であり、ボトルの内面、外面とも耐薬品性、非溶出性に優れているので、薬液ボトルに最適に使用することができる。上記含フッ素エチレン性重合体としては、含フッ素エチレン性重合体のところで述べた共重合体(IV)であることが好ましい。
【発明の効果】
【0108】
本発明は、上述の構成よりなるので、柔軟性、低薬液透過性、耐薬品性、バリア性、耐バクテリア性等に優れ、また、燃料浸漬後のサイズ変化を起こさず、層間接着力に優れた積層樹脂成形体を得ることができる。上記積層樹脂成形体から得られる多層成形品は、チューブ又はホース等の用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0109】
以下に合成例、実施例及び比較例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、各種パラメーターの測定は以下のとおりに行った。
【0110】
(1)アミン価の測定
ポリアミド系樹脂1gをm−クレゾール50mlに加熱溶解し、これを1/10規定p−トルエンスルホン酸水溶液を用いて、チモールブルーを指示薬として滴定し、ポリアミド系樹脂10gに存在するアミノ基量を求めた。
(2)酸価の測定
ポリアミド系樹脂1gをベンジルアルコール50mlに加熱溶解し、これを1/30規定水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液を用いて、フェノールフタレインを指示薬として滴定し、ポリアミド系樹脂10gに存在するカルボキシル基量を求めた。
【0111】
(3)相対粘度の測定
JIS K 6810に準じて98%硫酸100mlにポリアミド系樹脂1gを溶解し、ウベローデ粘度管を用いて25℃で測定した。
(4)カーボネート基の個数の測定
後述の合成例7〜14で得られた含フッ素エチレン性重合体の白色粉末又は溶融押出して得られたペレットの切断片を室温にて圧縮成形し、厚さ0.05〜0.2mmのフィルムを作成した。このフィルムの赤外吸収スペクトル分析において、カーボネート基[−OC(=O)O−]のカルボニル基が帰属するピークが1809cm−1(νC=O)の吸収波長に現れるので、そのνC=Oピークの吸光度を測定した。下記式(1)によって主鎖炭素数10個当たりのカーボネート基の個数(N)を算出した。
【0112】
N=500AW/εdf (1)
A:カーボネート基[−OC(=O)O−]中のνC=Oピークの吸光度
ε:カーボネート基[−OC(=O)O−]中のνC=Oピークのモル吸光度係数(l・cm−1・mol−1)。モデル化合物からε=170とした。
W:モノマー組成から計算される単量体の平均分子量
d:フィルムの密度(g/cm
f:フィルムの厚さ(mm)
なお、赤外吸収スペクトル分析は、Perkin−Elmer FTIRスペクトロメーター1760X(パーキンエルマー社製)を用いて40回スキャンして行った。得られたIRスペクトルをPerkin−Elmer Spectrum for Ver.1.4Cを用いて自動でベースラインを判定し、1809cm−1のピークの吸光度を測定した。また、フィルムの厚さはマイクロメーターにて測定した。
【0113】
(5)フルオロホルミル基の個数の測定
上記(4)と同様にして得られたフィルムの赤外スペクトル分析において、カルボン酸フルオライド基[−C(=O)F]のカルボニル基が帰属するピークが1880cm−1(νC=O)の吸収波長に現れるので、そのνC=Oピークの吸光度を測定した。カルボン酸フルオライド基中のνC=Oピークのモル吸光度係数(l・cm−1・mol−1)をモデル化合物によりε=600とした以外は、上記式(1)を用いて上述の(4)カーボネート基の個数の測定と同様にしてフルオロホルミル基の個数を測定した。
【0114】
(6)カルボキシル基の個数の測定
上記(4)と同様にして得られたフィルムの赤外スペクトル分析において、カルボキシル基[−C(=O)OH]のカルボニル基が帰属するピークが1764cm−1(νC=O)の吸収波長に現れるので、そのνC=Oピークの吸光度を測定した。カルボキシル基中のνC=ピークのモル吸光度係数(l・cm−1・mol−1)をモデル化合物によりε=530とした以外は、上記式(1)を用いて上述の(4)カーボネート基の個数の測定と同様にしてカルボキシル基の個数を測定した。
【0115】
(7)含フッ素エチレン性重合体の組成の測定
19F−NMR分析により測定した。
(8)融点(Tm)の測定
セイコー型DSC装置を用い、10℃/分の速度で昇温したときの融解ピークを記録し、極大値に対応する温度を融点(Tm)とした。
(9)MFR(Melt Flow Rate)の測定
メルトインデクサー(東洋精機製作所社製)を用い、各温度、5kg荷重下で直径2mm、長さ8mmのノズルから単位時間(10分間)に流出するポリマーの重量(g)を測定した。
【0116】
(10)多層チューブ内外面の外観
得られたチューブを半円形に切断し、チューブの内面及び外面の表面を、目視又は50倍の実体顕微鏡を用いて観察し、表面の荒れ、発泡等の発生状況を以下の基準に従って判定した。
○:外観の不具合が全く見られない
△:全表面の2%未満に何らかの不具合が発生している
×:全表面の2%以上に何らかの不具合が発生している
(11)多層チューブの初期接着力の測定
チューブから長さ5cm、1cm幅のテストピースを切り取り、テンシロン万能試験機にて、25mm/分の速度で180°剥離試験を行い、伸び量−引っ張り強度グラフにおける極大5点平均を層間の初期接着力として求めた。
(12)全光透過率
チューブから長さ3cmを切り取り、一箇所を縦方向に裂き、開いて治具に固定し、ヘイズメーター(東洋精機製作所社製)で全光透過率を測定した。
(13)引張弾性率、引っ張り強度
ASTM D−638(1999)に準拠して、室温にて測定した値(MPa)である。(引張り速度50cm/min)
(14)燃料浸漬後のサイズ変化の測定
チューブを30cm切り取り、スエージロック(大阪バルブフィッティング社扱い)にて、チューブ内にCM15〔トルエン:キシレン:メタノール=42.5:42.5:15(体積比)〕を封入する。更に、このチューブを一定温度(40℃)に保った上記CM15の薬液浴に1000h浸漬した後、各サイズ浸漬前後で測定し、(変化量/元のサイズ)×100で変化率を測定した。測定値は絶対値で表示した。
(15)燃料透過速度
チューブを長さ200cm切り取り、チューブ内に薬液(CM15)を封入する。更に、このチューブを一定温度(27℃)に保った恒温槽に置き重量を測定して、時間に対する重量減の割合が一定になったところから算出した。面積はチューブの内面積を使用した。
【0117】
合成例1 ポリアミド系樹脂PA−A(ナイロン12)の合成
オートクレーブにω−ラウロラクタム20kg及び蒸留水1kgを仕込み、窒素置換後に280℃まで昇温した。次いで、同じ温度で系内を3.2MPaに5時間保持した後、徐々に放圧した。系が大気圧に戻るまでの間、ω−ラウロラクタムの水への溶解及び溶融を待って攪拌を行った。系が大気圧に戻った後、ステアリン酸100gを添加し、窒素気流下、260℃で更に5時間攪拌を続けた。その後、内容物を払出して水冷後、ペレタイザーを用いて白色のペレット(ポリアミド系樹脂PA−A)を得た。分析の結果、このペレットの融点は178℃、酸価は28(当量/10g)、アミン価は6.8(当量/10g)、相対粘度は3.0であった。
【0118】
合成例2 ポリアミド系樹脂PA−B(ナイロン12)の合成
ステアリン酸を添加せず窒素気流下での攪拌時間を4時間としたこと以外は合成例1と同様にしてポリアミド系樹脂PA−Bを得た。分析結果を表1に示した。
【0119】
合成例3 ポリアミド系樹脂PA−C(ナイロン11)の合成
オートクレーブに粉末状の11−アミノウンデカン酸20kg、蒸留水5kg及び30%リン酸水溶液100gを仕込み、窒素置換後に密閉状態で昇温し、120℃で2時間保持した。その後更に昇温して系内を220℃、0.4MPaで2時間保持した後、徐々に放圧した。系が大気圧に戻るまでの間、11−アミノウンデカン酸の水への溶解及び溶融を待って攪拌を行った。系が大気圧に戻った後、ステアリン酸110gを添加し、窒素気流下、265℃で更に4時間攪拌を続けた。次いで内容物を払出して水冷後、ペレタイザーを用いて白色のペレット(ポリアミド系樹脂PA−C)を得た。分析結果を表1に示した。
【0120】
合成例4 ポリアミド系樹脂PA−D(ナイロン11)の合成
ステアリン酸を添加せず窒素気流下での攪拌時間を3時間としたこと以外は合成例3と同様にして、ペレット(ポリアミド系樹脂PA−D)を得た。分析結果を表1に示した。
【0121】
合成例5 ポリアミド系樹脂PA−E(可塑剤含有ナイロン12)の合成
合成例2で得られたポリアミド系樹脂PA−B及びN−エチルトルエンスルホンアミドを重量比95/5の割合でドライブレンドして、2軸押出機(池貝鉄工所製、PCM−45)を用いて、260℃、吐出量350g/分で押出し、水冷後、ペレタイザーを用いて白色のペレット(ポリアミド系樹脂PA−E)を得た。分析結果を表1に示した。
【0122】
合成例6 ポリアミド系樹脂PA−F(ナイロン6)の合成
オートクレーブにε−カプロラクタム20kg及び蒸留水2kgを仕込み、窒素置換後に120℃に昇温し、同じ温度で保持してε−カプロラクタムの水への溶解及び溶融を待って攪拌を開始した。更に220℃まで昇温し、同じ温度で系内を0.4MPaに5時間保持した。その後、系を徐々に放圧しながら250℃まで昇温した。系が大気圧に戻った後、窒素気流下、250℃で更に3時間攪拌を続け、内容物を払出し、水冷後、ペレタイザーを用いて白色のペレットを得た。次に、このペレットを80℃の蒸留水に12時間浸漬してモノマー等の低分子量物を抽出した。そして、ペレットを充分に乾燥し、次の操作に供した。乾燥後のペレット(ポリアミド系樹脂PA−F)の分析結果を表1に示した。
【0123】

【0124】
合成例7 含フッ素エチレン性重合体F−Aの合成
オートクレーブに蒸留水380Lを投入し、充分に窒素置換を行った後、1−フルオロ−1,1−ジクロロエタン75kg、ヘキサフルオロプロピレン155kg及びパーフルオロ(1,1,5−トリハイドロ−1−ペンテン)0.5kgを仕込み、系内を35℃、攪拌速度200rpmに保った。その後、テトラフルオロエチレンを0.7MPaまで圧入し、更に引き続いてエチレンを1.0MPaまで圧入した後、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート2.4kgを投入して重合を開始した。重合の進行と共に系内圧力が低下するので、テトラフルオロエチレン/エチレン/ヘキサフルオロプロピレン=40.5/44.5/15.0モル%の混合ガスを連続して供給し、系内圧力を1.0MPaに保った。そして、パーフルオロ(1,1,5−トリハイドロ−1−ペンテン)を合計量1.5kgとなるように連続して仕込み、20時間、攪拌を継続した。そして、放圧して大気圧に戻した後、反応生成物を水洗、乾燥して205kgの粉末(含フッ素エチレン性重合体F−A)を得た。得られた粉末の分析結果を表2に示した。
【0125】
合成例8及び9 含フッ素エチレン性重合体F−B及びF−Cの合成
合成例7と同様にして、表2に示した配合で含フッ素エチレン性重合体F−B及びF−Cをそれぞれ得た。得られた重合体の分析結果を表2に示した。
【0126】
合成例10 含フッ素エチレン性重合体F−D
オートクレーブに蒸留水400Lを投入し、充分に窒素置換を行った後、パーフルオロシクロブタン320kg、ヘキサフルオロプロピレン80kg、テトラフルオロエチレン19kg及びフッ化ビニリデン6kgを仕込み、系内を35℃、攪拌速度180rpmに保った。その後、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート5kgを投入して重合を開始した。重合の進行と共に系内圧力が低下するので、テトラフルオロエチレン/フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン=50/40/10モル%の混合ガスを連続して供給し、系内圧力を一定に保った。攪拌を30時間継続した後、放圧して大気圧に戻し、反応生成物を水洗、乾燥して195kgの粉末(含フッ素エチレン性重合体F−D)を得た。得られた粉末の分析結果を表2に示した。
【0127】
合成例11 含フッ素エチレン性重合体F−Eの合成
オートクレーブに蒸留水400Lを投入し、充分に窒素置換を行った後、1−フルオロ−1,1−ジクロロエタン75kg、ヘキサフルオロプロピレン190kg、パーフルオロ(1,1,5−トリハイドロ−1−ペンテン)1.5kgを仕込み及び系内を35℃、攪拌速度200rpmに保った。その後、テトラフルオロエチレンを0.7MPaまで圧入し、更に引き続いてエチレンを10kg/cmまで圧入し、その後にジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート2.6kgを投入して重合を開始した。重合の進行と共に系内圧力が低下するので、テトラフルオロエチレン/エチレン/ヘキサフルオロプロピレン=40.5/42.5/17.0モル%の混合ガスを連続して供給し、系内圧力を1.0MPaに保って30時間攪拌を継続した。そして、放圧して大気圧に戻した後、反応生成物を水洗、乾燥して178kgの粉末を得た。次に、得られた粉末を単軸押出機(田辺プラクティス機械社製、VS50−24)を用いてシリンダ温度320℃で押出してペレット(含フッ素エチレン性重合体F−E)を得た。得られたペレットの分析結果を表2に示した。
【0128】
合成例12 含フッ素エチレン性重合体F−Fの合成
オートクレーブに蒸留水25kgを投入し、充分に窒素置換を行った後、パーフルオロシクロブタン50kg及びパーフルオロメチルビニルエーテル10kgを仕込み、系内を35℃、攪拌速度を215rpmに保った。その後、テトラフルオロエチレンを0.78MPaまで圧入し、その後にジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート150kgを投入して重合を開始した。重合の進行と共に系内圧力が低下するので、パーフルオロシクロブタン/テトラフルオロエチレン/パーフルオロメチルビニルエーテル=10/76.6/13.4モル%の混合ガスを連続して供給し、系内圧力を0.78MPaに保って30時間攪拌を継続した。そして、放圧して大気圧に戻した後、反応生成物を水洗、乾燥して30kgの粉末(含フッ素エチレン性重合体F−F)を得た。得られた粉末の分析結果を表2に示した。
【0129】
合成例13 含フッ素エチレン性重合体F−Gの合成
合成例8で得られた含フッ素エチレン性重合体F−Bの粉末9.5kg、28%アンモニア水700g及び蒸留水10Lをオートクレーブに仕込み、攪拌しながら系を加熱し、80℃に保って7時間攪拌を継続した。そして、内容物を水洗、乾燥処理して粉末9.5kgを得た。このような処理を施すことによって、重合体が有する活性な官能基(カーボネート基とフルオロホルミル基)を反応性の低いアミド基に変換した。なお、このアミド基への変換が定量的に進んだことは赤外スペクトル分析により確認した。処理後の重合体の分析結果を表2に示した。
【0130】
合成例14 含フッ素エチレン性重合体F−Hの合成
合成例8で得られた含フッ素エチレン性重合体F−Bとアセチレンブラックを重量比86:14でヘンシェルミキサーにて予備混合し、40Φの2軸押出機により245℃で溶融混練を行った(得られたアセチレンブラック混合物を、便宜上「含フッ素エチレン性重合体F−H」と称する。)。その分析結果は表2に示した。
【0131】
なお、表2中、TFEはテトラフルオロエチレンを、Etはエチレンを、HFPはヘキサフルオロプロピレンを、VdFはフッ化ビニリデンを、PMVEは、パーフルオロメチルビニルエーテルを、HF−Peはパーフルオロ(1,1,5−トリハイドロ−1−ペンテン)を、それぞれ表す。
【0132】


【0133】
実験例1
マルチマニホールドダイを装着した3種3層の共押出装置を用いて、外層が熱可塑性エラストマーから形成されてなる層、中間層がポリアミド系樹脂から形成されてなる層、内層が含フッ素エチレン性重合体から形成されてなる層となるように、外層、中間層及び内層用の押出機に表3に示した熱可塑性エラストマー、ポリアミド系樹脂及び含フッ素エチレン性重合体をそれぞれ供給して外径8mm、内径6mmのチューブを連続して成形した。成形条件及び得られたチューブの評価結果を表3に示した。
【0134】
実験例2〜20
実験例2〜11については表3に、実験例12〜20については表4にそれぞれ示した樹脂及び成形条件を用いたこと以外は、実験例1と同様にしてチューブを成形した。成形条件及び得られたチューブの評価結果を実験例2〜11については表3に、実験例12〜20については表4にそれぞれ示した。
【0135】
なお、表3〜4において、熱可塑性エラストマーTPU−1は、2288(長鎖ジオールとしてポリエーテルポリオール用いたポリウレタン系エラストマー、大日精化工業社製)、TPU−2は、1078(長鎖ジオールとしてポリエステルポリオール用いたポリウレタン系エラストマー、大日精化工業社製)、TPU−3は、890(長鎖ジオールとしてポリカーボネートポリオール用いたポリウレタン系エラストマー、大日精化工業社製)を表す。
【0136】


【0137】

【0138】
表3及び表4の結果からわかるように、実験例1〜11の各チューブは、チューブ内外表面の外観及び各層間の初期接着強度が良好であった。中間層を形成するポリアミド系樹脂が可塑剤を含んでいても外観及び初期接着強度は良好であった。これに比べて、アミン価が低いポリアミド系樹脂を使用した実験例13及び実験例15の各チューブ、並びに、アミン価が低いポリアミド系樹脂を使用して250℃を超えるダイ温度で成形した実験例12及び実験例14の各チューブは、中間層と内層との初期接着強度及びチューブ内外面の外観のいずれかにおいて劣っていた。
含フッ素エチレン性重合体中のカルボニル基を有する基をアミド基に変換してなる実験例16〜17の各チューブは、チューブ成形時のダイの温度に関係なく中間層と内層との初期接着強度及びチューブ内外面の外観が劣っていた。
実験例18〜19に示すようにポリアミドを中間層に使用しない場合はカルボニル基を有する含フッ素エチレン性重合体であっても良好な接着は得られなかった。
実験例20に示すように、外層をポリアミドとする二層チューブでは、全光透過率が劣っていた。
【0139】
実験例21〜24
マルチマニホールドダイを装着した3種3層の共押出装置を用いて、外層が熱可塑性エラストマーから形成されてなる層、中間層がポリアミド系樹脂から形成されてなる層、内層が含フッ素エチレン性重合体から形成されてなる層となるように、外層、中間層及び内層用の押出機に表5に示した熱可塑性エラストマー、ポリアミド系樹脂及び含フッ素エチレン性重合体をそれぞれ供給してチューブを連続して成形した。成形条件及び得られたチューブの評価結果を表5に示した。
なお、表5において熱可塑性エラストマーOP−1はポリオレフィン系エラストマーのサントプレン191−70PA(AESジャパン株式会社)を表わす。
【0140】


【0141】
表5の結果からわかるように、TFE/Et/HFP/HF−Peからなる含フッ素エチレン性重合体を内層に有し、ダイ温度250℃以下にて積層した実験例21〜22の各チューブは、チューブ内外表面の外観及び各層間の初期接着強度が良好であった。アミン価が低いポリアミド系樹脂を使用した実験例23のチューブは、中間層と内層との初期接着強度において劣っていた。ダイ温度を250℃を超える温度にした実験例24のチューブでは、成形できなかった。
【0142】
実験例25〜30
マルチマニホールドダイを装着した3種3層の共押出装置を用いて、外層が熱可塑性ポリマーから形成されてなる層、中間層がポリアミド系樹脂から形成されてなる層、内層が含フッ素エチレン性重合体から形成されてなる層となるように、外層、中間層及び内層用の押出機に表6に示した含フッ素エチレン性重合体、ポリアミド系樹脂及び含フッ素エチレン性重合体をそれぞれ供給してチューブを連続して成形した。成形条件及び得られたチューブの評価結果を表6に示した。
【0143】


【0144】
表6の結果からわかるように、外層及び内層に含フッ素エチレン性重合体を用いた実験例25〜28の各チューブ、なかでも、実験例28のチューブは、チューブ内外表面の外観及び各層間の初期接着強度が良好であった。中間層を形成するポリアミド系樹脂が可塑剤を含んでいても外観及び初期接着強度は良好であった。さらに燃料透過速度も0.5g/m/day以下に抑えられており、燃料浸漬後のサイズ変化も2%以内に抑えられていた。
これに比べて、アミン価が低いポリアミド系樹脂を使用した実験例29は、中間層と内層、外層との初期接着強度において劣っていた。
更に、外層に含フッ素エチレン性重合体がない実験例30は耐燃料透過性が悪く、燃料浸漬後のサイズ変化が2%を越えていた。
【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明は、上述の構成よりなるので、柔軟性、低薬液透過性、耐薬品性、バリア性、耐バクテリア性等に優れ、また、燃料浸漬後のサイズ変化を起こさず、層間接着力に優れた積層樹脂成形体を得ることができる。上記積層樹脂成形体から得られる多層成形品は、チューブ又はホース等の用途に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリマー層(A)、ポリアミド系樹脂層(B)及び熱可塑性樹脂層(C)を有する積層樹脂成形体であって、
前記熱可塑性ポリマー層(A)、前記ポリアミド系樹脂層(B)及び前記熱可塑性樹脂層(C)は、この順に積層され、互いに強固に接着しており、
前記熱可塑性ポリマーは、前記ポリアミド系樹脂と熱融着により接着するものであり、
前記ポリアミド系樹脂は、アミン価が10〜60(当量/10g)であるものであり、
前記熱可塑性樹脂は、官能基を有することにより熱融着によって前記ポリアミド系樹脂と強固に接着するものであり、
前記官能基は、カルボニル基を有するものである
ことを特徴とする積層樹脂成形体。
【請求項2】
熱可塑性ポリマーは、熱可塑性エラストマーである請求項1記載の積層樹脂成形体。
【請求項3】
熱可塑性樹脂は、含フッ素エチレン性重合体からなるものである請求項1又は2記載の積層樹脂成形体。
【請求項4】
熱可塑性エラストマーは、スチレン/ブタジエン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー及びポリアミド系エラストマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものである請求項2又は3記載の積層樹脂成形体。
【請求項5】
熱可塑性エラストマーは、ポリウレタン系エラストマーである請求項2又は3記載の積層樹脂成形体。
【請求項6】
ポリアミド系樹脂は、酸価が80(当量/10g)以下である請求項1、2、3、4又は5記載の積層樹脂成形体。
【請求項7】
引張り弾性率が400MPa未満である請求項1、2、3、4、5又は6記載の積層樹脂成形体。
【請求項8】
ポリアミド系樹脂層(B)は、厚みが熱可塑性ポリマー層(A)の厚みの5分の1以下である請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の積層樹脂成形体。
【請求項9】
全光透過率が75%以上である請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載の積層樹脂成形体。
【請求項10】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8又は9記載の積層樹脂成形体を製造する積層樹脂成形体製造方法であって、
ダイ、及び、前記ダイに樹脂を供給する複数の押出機からなる共押出装置を用いて同時多層共押出法により積層させるものであり、
前記ダイは、250℃以下の温度である
ことを特徴とする積層樹脂成形体製造方法。
【請求項11】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8又は9記載の積層樹脂成形体からなる多層成形品。
【請求項12】
ホース又はチューブである請求項11記載の多層成形品。
【請求項13】
多層成形品は、熱可塑性ポリマー層(A)を外層とし、熱可塑性樹脂層(C)を内層とし、及び、ポリアミド系樹脂層(B)を中間層とする薬液チューブ又は薬液ホースである請求項11記載の多層成形品。
【請求項14】
多層成形品は、熱可塑性ポリマー層(A)を外層とし、熱可塑性樹脂層(C)を内層とし、及び、ポリアミド系樹脂層(B)を中間層とする塗装ライン用チューブ又は塗装ライン用ホースである請求項11記載の多層成形品。
【請求項15】
多層成形品は、熱可塑性ポリマー層(A)を外層とし、熱可塑性樹脂層(C)を内層とし、及び、ポリアミド系樹脂層(B)を中間層とする飲料用チューブ又は飲料用ホースである請求項11記載の多層成形品。

【国際公開番号】WO2004/110756
【国際公開日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【発行日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506982(P2005−506982)
【国際出願番号】PCT/JP2004/008452
【国際出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】