説明

積層樹脂成形体及びその製造方法

本発明は、成形加工時に変質せず、耐燃料油性、非溶出性、耐クリープ性、耐熱性、低温耐衝撃性等に優れ、層間接着力や耐燃料透過性、低温耐衝撃性の経時的低下を抑制し、燃料透過性を低く抑えることが可能である積層樹脂成形体を提供することである。 ポリアミド系樹脂からなる層(A)、耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂からなる層(B)、及び、接着性フッ素樹脂からなる層(C)を含む積層樹脂成形体であって、上記層(A)、上記層(B)及び上記層(C)は、この順に積層していることを特徴とする積層樹脂成形体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、積層樹脂成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
フッ素樹脂は、耐熱性、耐薬品性、耐候性、電気絶縁性、低摩擦性、非粘着性等の特性に優れているため、種々の用途に用いられている。にもかかわらず、フッ素樹脂は、高価であり、また、機械的強度や寸法安定性に劣るので、フッ素樹脂と他の有機材料又は無機材料とを積層することが検討されている。
しかしながら、元来、フッ素樹脂はその非粘着性や耐薬品性と相まって他材との親和性に劣るので、フッ素樹脂以外のその他の材料と加熱溶融接着による積層を試みても、接着強度が不充分であり、また、ある程度の接着強度が得られたとしても接着する相手材の種類によっては接着力に再現性がなく、常に安定した接着強度を得ることは困難であった。
フッ素樹脂とフッ素樹脂以外のその他の材料とを接着する方法としては、
(1) 接着する相手材の表面をサンドブラスター処理等により処理して物理的に表面積を増加して接着する方法、
(2) フッ素樹脂をナトリウム・エッチング、プラズマ処理、光化学的処理等の表面処理に供した後接着する方法、
(3) 接着剤を用いて接着する方法
等が挙げられる。
(1)及び(2)の方法は、それぞれ処理工程が必要であり、工程が複雑になるので生産性が悪く、また、接着する相手材の種類や形状が限定される。更に、接着力が不充分であり、得られる樹脂積層体に着色、傷等の外観上の問題が生じやすい。
(3)の方法に使用する接着剤としては、炭化水素系接着剤が挙げられる。炭化水素系接着剤を用いた樹脂積層体としては、ポリビニリデンフルオライド層又はエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体層を内層とし、エチレン/ビニルアルコール共重合体層を外層とし、内層と外層との間にエチレン/アクリル酸エステル共重合体を接着剤として用いた燃料用チューブが知られている(例えば、特開平5−247478号公報参照。)。
しかしながら、炭化水素系接着剤は、接着力が不充分であるとともに、接着剤自体の耐熱性が不充分であるので、フッ素樹脂を成形加工する際に高温下におくと、分解して剥離や着色等が起こり、また、得られる樹脂積層体は、接着剤層の耐熱性、耐薬品性、耐水性等が不充分であるので、温度や湿度、燃料種といった使用条件により接着力が低下し、また、経時変化によっても接着力が大きく低下するという問題があった。
重合体末端にカーボネート基を有するテトラフルオロエチレン共重合体からなる層を内層とし、エポキシ基を有するポリエチレンからなる層を中間層とし、ポリエチレンからなる層を外層とする樹脂積層体が開示されている(例えば、国際公開98/58973号パンフレット参照。)。
しかしながら、エポキシ基を有するポリエチレンからなる層を中間層として用いて、重合体末端にカーボネート基を有するテトラフルオロエチレン共重合体からなる層とポリエチレンからなる層とを積層した場合、初期接着強度は高いものの、経時的に接着強度が低下する傾向があり、また、エポキシ基を有するポリエチレンは、耐燃料油性が低く、樹脂積層体を燃料用チューブや燃料用タンク等に用いると、溶解するという問題があった。更に、バリア層がフッ素樹脂層だけでは樹脂積層体が燃料透過性に劣るという問題もあった。
酢酸ビニル単位Xモル%及び鹸化度Y%が、X×Y/100≧10.0を満足するエチレン/酢酸ビニル共重合体からなる層を用いて、重合体末端にカーボネート基を有するフッ素樹脂からなる層とポリエチレンからなる層とを接着した場合、接着強度が経時的に低下せず、また、このようなエチレン/酢酸ビニル共重合体は耐燃料油性に比較的優れていることが記載されている(例えば、国際公開01/14141号パンフレット参照。)。
しかしながら、燃料用チューブにおいて、最外層がポリエチレンからなる層である場合、ポリエチレンが耐クリープ性に劣るので、コネクター差し込み部分のような長期応力がかかる部位ではクラックを生じやすく、また、ポリエチレンの弾性率が比較的高いことにより、チューブを曲げ加工しづらく、また低温耐衝撃性に劣るという問題があった。また、使用しているフッ素樹脂の燃料透過速度がエチレン/ビニルアルコール共重合体の燃料透過速度に比べて高すぎ、長期使用中に層間剥離が起こるという問題があった。
最外層としてポリエチレンの代わりに引張り強さ等の機械的性質に優れたポリアミド12からなる層を用いた燃料用チューブとして、エチレン/ビニルアルコール共重合体からなる層を中間層とし、ポリアミド6からなる層を最内層とするものが開示されている(例えば、特開平3−177683号公報参照。)。しかしながら、ポリアミド系樹脂は、最内層に用いた場合、最内層を薄層としても、燃料を長期にわたって使用するとオリゴマー、モノマー及び可塑剤の溶出を起こし、エンジン周りのフィルターの目詰まりを引き起こすという問題があった。
オリゴマー、モノマー及び可塑剤の溶出を最小限にするために、最内層であるポリアミド6からなる層の厚さをできる限り薄くすると、チューブの形体変更や衝撃や応力による変形に際し、エチレン/ビニルアルコール共重合体からなる層がその材料の脆さからクラックを生じやすく、燃料チューブに求められる耐バースト性や低温耐衝撃性が不充分になるという問題があった。この問題を解決する手段は、従来、何ら示されていない。
エチレン/ビニルアルコール共重合体からなる層を最内層とする燃料用チューブが開示されているが(例えば、特開平3−177684号公報参照。)、この燃料用チューブは、エチレン/ビニルアルコール共重合体が燃料と接するので耐薬品性が不充分であり、また、エチレン/ビニルアルコール共重合体がその吸水性ゆえに大気中や燃料中の水分を吸収するので耐薬品透過性が低下するという問題があった。
このように、従来、フッ素樹脂とエチレン/ビニルアルコール共重合体とを含む樹脂積層体であって、成形加工時に着色せず、長期にわたって層間接着性を維持することができ、耐燃料油性、非溶出性、耐クリープ性及び耐熱性を満足した上で、形体変更時にエチレン/ビニルアルコール共重合体からなる層にクラックを生じやすいという問題を克服し、耐衝撃性、特に低温耐衝撃性が得られたものはなかった。
発明の要約
本発明の目的は、上記現状に鑑み、成形加工時に変質せず、耐燃料油性、非溶出性、耐クリープ性、耐熱性、低温耐衝撃性等に優れ、層間接着力や耐燃料透過性、低温耐衝撃性の経時的低下を抑制し、燃料透過性を低く抑えることが可能である積層樹脂成形体を提供することにある。
本発明は、ポリアミド系樹脂からなる層(A)、耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂からなる層(B)、及び、接着性フッ素樹脂からなる層(C)を含む積層樹脂成形体であって、上記層(A)、上記層(B)及び上記層(C)は、この順に積層していることを特徴とする積層樹脂成形体である。
発明の詳細な開示
以下に本発明を詳述する。
本発明の積層樹脂成形体は、ポリアミド系樹脂からなる層(A)、耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂からなる層(B)及び接着性フッ素樹脂からなる層(C)を含むものである。
本発明の積層樹脂成形体をなす上記層(B)を形成するものである耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂は、耐燃料透過性に優れた熱可塑性ポリマーからなる樹脂である。上記耐燃料透過性に優れた熱可塑性ポリマーは、ポリマー鎖同士及び/又はポリマー鎖内での凝集エネルギーが比較的大きいポリマーである。
上記耐燃料透過性に優れた熱可塑性ポリマーとしては、結晶化度が高いポリマー、又は、極性官能基を有し分子間力が大きいポリマーが好ましく、結晶化度が高く、かつ、極性官能基を有し分子間力が大きいポリマーがより好ましい。
上記耐燃料透過性に優れた熱可塑性ポリマーの耐燃料透過性としてはCE10(イソオクタン:トルエン=50:50(容量比)の混合物にエタノール10容量%を混合した試験用疑似燃料種)に対する60℃における燃料透過速度が1(g×mm/m/day)以下であることが好ましい。より好ましくは、0.5(g×mm/m/day)以下である。
上記耐燃料透過性に優れた熱可塑性ポリマーが有していてもよい極性官能基は、極性を有し接着性フッ素樹脂との接着に関与し得る官能基である。上記極性官能基は、接着性フッ素樹脂が有するものとして後述する接着性官能基と同じ官能基であってもよいが異なる官能基であってもよい。
上記極性官能基としては特に限定されず、例えば、接着性官能基として後述するもののほか、アミノ基、シアノ基、スルフィド基、ヒドロキシル基等が挙げられ、なかでも、アミノ基、カルボニルオキシ基、シアノ基、スルフィド基、ヒドロキシル基が好ましく、ヒドロキシル基がより好ましい。
上記耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂としては特に限定されないが、耐ガス透過性に優れる点で、エチレン/ビニルアルコール共重合体からなる樹脂;ポリアクリロニトリル樹脂〔PAN〕;ポリエチレンテレフタレート樹脂〔PET〕、ポリブチレンテレフタレート樹脂〔PBT〕、ポリエチレンナフタレート樹脂〔PEN〕、ポリブチレンナフタレート樹脂〔PBN〕、液晶ポリエステル〔LCP〕等の芳香環含有ポリエステル樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂〔PPS〕;ポリグリコール酸樹脂〔PGA〕;ポリビニルクロライド樹脂〔PVC〕;ポリビニリデンクロライド樹脂〔PVDC〕;ポリビニルフルオライド樹脂〔PVF〕;ポリビニリデンフルオライド樹脂〔PVDF〕等が好ましく、なかでも、エチレン/ビニルアルコール共重合体からなる樹脂がより好ましい。
上記耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂は、低温耐衝撃性を有するものであることが好ましく、−40℃でのアイゾット衝撃強度が2.5kJ/m以上であるものであることが好ましい。2.5kJ/m未満であると、得られる積層樹脂成形体の低温耐衝撃性が不充分となりやすい。より好ましい下限は、3.5kJ/mであり、更に好ましい下限は、4.5kJ/mである。上記アイゾット衝撃強度は、用途によるが通常考え得る用途としては、上記範囲内の値であれば、例えば20kJ/m以下であってもよい。
上記アイゾット衝撃強度は、ASTM D256−84に準拠して測定し得られる値であり、本明細書において、上記アイゾット衝撃強度は、U−F IMPACT TESTER(上島製作所社製)の試験台に−40℃の恒温槽から取り出した測定用サンプルをセットし、直ちに、荷重1.33kgのハンマーを用いて打撃速度3.46m/sで振り下ろし、破壊したときの衝撃エネルギー(kgf・cm)をジュール(J)換算し、サンプル断面積(m)で割ることにより算出される値である。
上記測定用サンプルは、例えばエチレン/ビニルアルコール共重合体からなる樹脂を用いる場合、上記エチレン/ビニルアルコール共重合体からなる樹脂を220〜230℃で20分間予熱し、3MPaで30秒加圧後水冷することにより、厚み3.2mmのプレスシートを得た後、幅12mm、長さ50mmに切削し、深さ2.54mmのノッチを入れ、−40℃の恒温槽に4時間保持することによって得られる。
本発明における上記層(B)を形成する耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂がエチレン/ビニルアルコール共重合体からなる樹脂である場合、上記エチレン/ビニルアルコール共重合体からなる樹脂としては、低温耐衝撃性を有するものが好ましい。低温耐衝撃性を有するエチレン/ビニルアルコール共重合体からなる樹脂としては、例えば、可塑剤を添加したもの、2種以上のポリアミド系樹脂を混合したもの、ヒドロキシ官能化ポリエーテルアミンを混合したもの等が挙げられ、このような樹脂としては、例えば、特開平8−269260号公報、特開昭53−88067号公報、特開昭59−20345号公報、特開昭52−141785号公報記載のもの等が挙げられる。
低温耐衝撃性を改善したエチレン/ビニルアルコール共重合体からなる樹脂として市販されているものとしては、例えば、エバールXEP505B(クラレ社製)等が挙げられる。
上記エチレン/ビニルアルコール共重合体からなる樹脂としては、用途によるが、上記耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂について上述したように、−40℃でのアイゾット衝撃強度が好ましくは2.5kJ/m以上、より好ましくは3.5kJ/m以上、更に好ましくは4.5kJ/m以上であるものが用いられ、上記範囲内の値であれば、例えば20kJ/m以下であってもよい。
本発明の積層樹脂成形体をなす上記層(B)を形成するものである耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂がエチレン/ビニルアルコール共重合体からなる樹脂である場合、上記エチレン/ビニルアルコール共重合体は、エチレン及び酢酸ビニルから得られたエチレン/酢酸ビニル共重合体を鹸化して得られるものである。共重合するエチレン及び酢酸ビニルの配合比としては、後述する式によって規定される酢酸ビニル単位のモル数の割合に応じて適宜決定される。
上記エチレン/ビニルアルコール共重合体は、酢酸ビニル単位がXモル%であるエチレン/酢酸ビニル共重合体を鹸化度Y%にて鹸化することよりなる上記エチレン/ビニルアルコール共重合体の製造において、上記酢酸ビニル単位Xモル%及び上記鹸化度Y%がX×Y/100≧7を充足するものであることが好ましい。X×Y/100<7であると、耐燃料透過性、層間接着力が不充分になることがある。X×Y/100≧10がより好ましく、X×Y/100≧50が更に好ましい。上記X×Y/100の値は、上記エチレン/ビニルアルコール共重合体が有するヒドロキシル基の含有率の指標であり、上記X×Y/100の値が大きいことは、上記エチレン/ビニルアルコール共重合体が有するヒドロキシル基の含有率が高いことを意味する。上記ヒドロキシル基は、上記耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂からなる層と積層する相手材との接着に関与し得る基であり、上記ヒドロキシル基の含有率が高いと、得られる積層樹脂成形体の層間接着性が向上する。本明細書において、上記「積層する相手材」は、接触して積層している材料のことをいう。
本明細書において、上記「酢酸ビニル単位Xモル%」とは、上記エチレン/ビニルアルコール共重合体の分子における付加されたエチレン及び酢酸ビニルの合計モル数〔N〕に占める、酢酸ビニル単位が由来する酢酸ビニルのモル数〔N〕の割合であって、下記式
(%)=(N/N)×100
で表されるモル含有率Xの平均値を意味する。上記酢酸ビニル単位Xモル%は、赤外吸収分光〔IR〕を用いて測定することにより得られる値である。
本明細書において、上記「酢酸ビニル単位」とは、上記エチレン/ビニルアルコール共重合体の分子構造上の一部分であって、酢酸ビニルに由来する部分を意味する。上記酢酸ビニル単位は、鹸化されてヒドロキシル基を有することとなってもよいし、鹸化しておらずアセトキシル基を有しているものであってもよい。
上記「鹸化度」は、鹸化された酢酸ビニル単位の数と鹸化されていない酢酸ビニル単位の数との合計に対する、鹸化された酢酸ビニル単位の数の割合を表す百分率である。上記鹸化度は、赤外吸収分光〔IR〕を用いて測定することにより得られる値である。
上記エチレン/ビニルアルコール共重合体であって、X及びYが上記式を満足するものとしては、例えばエバールF101(クラレ社製、酢酸ビニル単位X=68.0モル%;鹸化度Y=95%;X×Y/100=64.6)、メルセンH6051(東ソー社製、酢酸ビニル単位X=11.2モル%;鹸化度Y=100%;X×Y/100=11.2)、テクノリンクK200(田岡化学社製、酢酸ビニル単位X=11.2モル%;鹸化度Y=85%;X×Y/100=9.52)等の市販品が挙げられる。
上記エチレン/ビニルアルコール共重合体は、200℃におけるメルトフローレート[MFR]が0.5〜100g/10分であるものが好ましい。0.5g/10分未満であっても、100g/10分を超えても、エチレン/ビニルアルコール共重合体の溶融粘度と、層(C)をなす接着性フッ素樹脂の溶融粘度との差が大きくなるので、成形時に上記層(C)の厚み及び/又は上記層(B)の厚みにムラが生じることがあり好ましくない。好ましい下限は1g/10分であり、好ましい上限は50g/10分である。なお、本明細書において、MFRは、5kg荷重、オリフィス径2mm、ランド長8mmの条件で測定して得られた値である。
上記耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂は、本発明の目的を損なわない範囲で、例えば熱安定剤等の安定剤、補強剤、充填剤、紫外線吸収剤、顔料等の各種添加剤とともに用いて上記層(B)を形成してもよい。このような添加剤とともに層(B)を形成することにより、得られる積層樹脂成形体の熱安定性、硬度、耐摩耗性、帯電性、耐候性等の性質を向上することができる。
本発明の積層樹脂成形体を構成する上記層(C)を形成するものである接着性フッ素樹脂としては、少なくとも、上記耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂からなる層(B)との接着性を有するものが好ましい。上記接着性フッ素樹脂としては、例えば、接着性官能基を有することにより、及び/又は、接着性官能基とは異なる分子構造上の部位が加熱により接着性を発揮する構造に変化することにより、接着性を有するもの等が挙げられる。上記接着性フッ素樹脂としては、接着性に優れる点で、接着性官能基を有するものが好ましい。本明細書において、「接着性官能基」とは、上記耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂との接着に関与し得る官能基を意味する。
上記接着性官能基としては、上記層(B)をなす耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂が有する極性官能基と反応し得るか又は水素結合等の分子間相互作用をし得るものであれば特に限定されないが、カルボニル基[−C(=O)−]を有するものであることが好ましい。本明細書において、上記「カルボニル基を有する」とは、カルボニル基そのものである場合をも含む概念である。即ち、上記接着性官能基は、カルボニル基であってもよい。
上記カルボニル基を有する接着性官能基としては、例えば、カルボニル基、カーボネート基、ハロゲノホルミル基、ホルミル基、カルボキシル基、カルボニルオキシ基[−C(=O)O−]、酸無水物基[−C(=O)O−C(=O)−]、イソシアネート基、アミド基[−C(=O)−NH−]、イミド基[−C(=O)−NH−C(=O)−]、ウレタン結合[−NH−C(=O)O−]、カルバモイル基[NH−C(=O)−]、カルバモイルオキシ基[NH−C(=O)O−]、ウレイド基[NH−C(=O)−NH−]、オキサモイル基[NH−C(=O)−C(=O)−]等が挙げられる。上記カルボニル基としては、導入が容易であり、反応性が高い点から、カーボネート基の一部であるもの、ハロゲノホルミル基の一部であるものが好ましい。
上記カーボネート基は、一般に[−OC(=O)O−]で表される結合を有する基であり、−OC(=O)O−R基(式中、Rは、有機基、I族原子、II族原子、又は、VII族原子を表す。)で表されるものである。上記式中のRにおける有機基としては、例えばC〜C20アルキル基、エーテル結合を有するC〜C20アルキル基等が挙げられ、好ましくはC〜Cアルキル基、エーテル結合を有するC〜Cアルキル基等である。上記カーボネート基としては、例えば、−OC(=O)O−CH、−OC(=O)O−C、−OC(=O)O−C17、−OC(=O)O−CHCHOCHCH等が挙げられる。
上記ハロゲノホルミル基は、−COY(式中、Yは、VII族原子を表す。)で表されるものであり、例えば−COF、−COCl等が挙げられる。
上記接着性官能基の数は、積層する相手材の種類、形状、接着の目的、用途、必要とされる接着力、後述するテトラフルオロエチレン系共重合体の種類と接着方法等の違いにより適宜選択されうる。
上記接着性フッ素樹脂は、接着性官能基を有するものである場合、接着性官能基をポリマー鎖末端又は側鎖の何れかに有する重合体からなるものであってもよいし、ポリマー鎖末端及び側鎖の両方に有する重合体からなるものであってもよい。ポリマー鎖末端に接着性官能基を有する場合は、ポリマー鎖の両方の末端に有していてもよいし、いずれか一方の末端にのみ有していてもよい。上記接着性フッ素樹脂としては、上記接着性官能基を有するものである場合、ポリマー鎖末端に接着性官能基を有する重合体からなるものが、耐熱性、機械特性及び耐薬品性を低下させず、また、生産性、コスト面で有利であるので、好ましい。
上記接着性フッ素樹脂は、フッ素含有エチレン性単量体に由来する単量体単位を有する重合体からなるものである。上記接着性フッ素樹脂としては、フッ素含有エチレン性単量体に由来する単量体単位とフッ素非含有エチレン性単量体単位とを有する重合体からなるものであってよい。本明細書において、上記接着性フッ素樹脂をなす重合体についての「単位」は、重合体の分子構造の一部分であって、単量体に由来する部分を意味する。例えば、テトラフルオロエチレン単位は、−CF−CF−で表される。
上記フッ素含有エチレン性単量体は、フッ素原子を有し、接着性官能基を有しないビニル基含有単量体であり、例えば、テトラフルオロエチレン〔TFE〕、フッ化ビニリデン〔VdF〕、クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕、フッ化ビニル〔VF〕、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕、ヘキサフルオロイソブテン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕類、下記一般式(i):
CH=CX(CF (i)
(式中、Xは、水素原子又はフッ素原子を表し、Xは、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表し、nは、1〜10の整数を表す。)で表される単量体等が挙げられる。
上記フッ素非含有エチレン性単量体は、フッ素原子を有さず、接着性官能基を有しないビニル基含有単量体であり、例えば、エチレン〔Et〕、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。
上記接着性フッ素樹脂としては特に限定されないが、結晶性が比較的低く、得られる積層樹脂成形体が耐衝撃性に優れるものが好ましく、このようなものとしては、テトラフルオロエチレン系共重合体〔TFE系共重合体〕からなるものが好ましい。本明細書において、上記TFE系共重合体は、TFE単位を有する重合体である。上記TFE系共重合体は、TFE単位とともに、TFE以外のその他のフッ素含有エチレン性単量体に由来する単量体単位の1種若しくは2種以上及び/又はフッ素非含有エチレン性単量体に由来する単量体単位の1種若しくは2種以上を有するものであってもよい。上記TFE系共重合体としては、例えば、TFE/Et/HFP共重合体、TFE/Et共重合体、TFE/VdF/HFP共重合体、TFE/PAVE共重合体、TFE/HFP/PAVE共重合体等を好適に用いることができる。なお、ポリビニリデンフルオライドは、一般に、結晶性が高く、耐衝撃性に劣るといわれるが、微量の変性モノマーをVdFと共重合させることにより好適に用いることができる。
上記接着性フッ素樹脂は、側鎖に接着性官能基を有する重合体からなるものである場合、接着性官能基含有エチレン性単量体を目的の接着性フッ素樹脂に応じた種類と配合のフッ素含有エチレン性単量体と、所望によりフッ素非含有エチレン性単量体とを共重合させることによって得ることができる。なお、上記「接着性官能基含有エチレン性単量体」とは、接着性官能基を有するビニル基含有単量体を意味し、フッ素原子を有していてもよいし、有していなくてもよいが、接着性官能基を有しているという点において、上述した「フッ素含有エチレン性単量体」及び「フッ素非含有エチレン性単量体」とは異なる概念である。
上記接着性フッ素樹脂は、ポリマー鎖末端に接着性官能基を有するものであって、接着性官能基がカルボニル基である重合体からなるものである場合、後述するように、パーオキシカーボネートを重合開始剤として用いて得ることができる。
上記接着性フッ素樹脂は、例えば共押出により上記積層樹脂成形体を成形する場合、共押出する材料が熱分解せずに溶融し得る温度において、流動することが可能な溶融粘度を持っていることが好ましい。ポリアミド系樹脂と共押出により積層する場合、上記ポリアミド系樹脂を好適に加熱溶融接着し得る温度の範囲は約200℃〜300℃であるので、上記接着性フッ素樹脂は、この温度の範囲において流動することができる溶融粘度を有していることが好ましい。
上記接着性フッ素樹脂の融点は、150〜270℃であることが好ましい。150℃未満であると、燃料透過性を低く抑えることが困難になる場合があり、270℃を超えると、積層する相手材の種類が限定される場合があり、好ましくない。上記融点は、より好ましい下限が190℃であり、より好ましい上限が250℃であり、更に好ましい上限は230℃である。
上記接着性フッ素樹脂のメルトフローレート[MFR]は、1〜100g/10分であることが好ましい。1g/10分未満であっても、100g/10分を超えても、接着性フッ素樹脂の溶融粘度と、上記層(B)をなす耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂の溶融粘度との差が大きくなるので、成形時に上記層(C)の厚み及び/又は上記層(B)の厚みにムラが生じることがあり好ましくない。より好ましい上限は50g/10分である。本明細書において、上記MFRは、特定の測定温度において、5kg荷重、オリフィス径2mm、ランド長8mmの条件で測定することにより得られる値である。上記特定の測定温度は、融点が200℃以上、270℃以下である高融点タイプの接着性フッ素樹脂の場合、297℃であり、融点が150℃以上、200℃未満である低融点タイプの接着性フッ素樹脂の場合、265℃である。
上記接着性フッ素樹脂としては、得られる積層樹脂成形体の燃料透過性を低く抑える場合、融点が200℃以上、270℃以下である高融点タイプであり、297℃におけるMFRが0.1〜100g/10分であるものを好適に使用することができ、接着性フッ素樹脂と積層する相手材が耐熱性に乏しい場合、融点が150℃以上、200℃未満である低融点タイプであり、265℃におけるMFRが0.1〜100g/10分であるものを好適に使用することができる。
上記接着性フッ素樹脂の耐燃料透過性としては試験用疑似燃料種CE10での60℃における燃料透過速度が20(g×mm/m/day)以下であることが好ましい。より好ましくは、10(g×mm/m/day)以下、更に好ましくは、2(g×mm/m/day)以下である。上記試験用擬似燃料種CE10は、上述したものと同じである。
層(B)と接着性フッ素樹脂からなる層(C)とが接している場合、層(B)を形成する耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂の試験用疑似燃料種CE10に対する60℃における燃料透過速度〔Zb〕と、層(C)を形成する接着性フッ素樹脂の試験用疑似燃料種CE10に対する60℃における燃料透過速度〔Zc〕との比〔Zc/Zb〕は、100以下であることが好ましい。層(B)と層(C)とが接している場合、上記Zc/Zbは、100を超えると、燃料と接触させて使用する際に、層(B)と層(C)との間に液だまりが生じやすい。上記Zc/Zbのより好ましい上限は、50、更に好ましい上限は、30である。
上記Zc/Zbは、層(B)を形成する耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂と層(C)を形成する接着性フッ素樹脂とで同じ又は同等程度であることが特に好ましい。
本発明における接着性フッ素樹脂の好ましい具体例としては、下記共重合体(I)からなるもの、下記共重合体(II)からなるもの等が挙げられる。
(I)少なくとも、テトラフルオロエチレン及びエチレンを重合してなる共重合体、
(II)少なくとも、テトラフルオロエチレン及び下記一般式(ii)
CF=CF−Rf (ii)
(式中、Rfは、CF又はORfを表し、Rfは、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表される少なくとも1種以上の単量体を重合してなる共重合体。
上記共重合体(I)としては、例えば、少なくとも、テトラフルオロエチレン単位20〜80モル%、エチレン単位20〜80モル%、及び、これらと共重合可能なその他の単量体単位0〜60モル%からなる共重合体等が挙げられる。本明細書において、各単量体単位についてのモル%は、共重合体の分子鎖を構成する単量体単位の合計モル数のうち、上述の接着性官能基含有エチレン性単量体に由来する単量体単位のモル数を除いたモル数を100モル%とし、この100モル%中に占める各単量体単位の割合である。上記共重合体(I)におけるその他の単量体単位は、任意成分であり、得られる積層樹脂成形体の用途に応じて適宜共重合に供する。
上記共重合可能なその他の単量体としては、ヘキサフルオロプロピレン、トリクロロフルオロエチレン、プロピレン、下記一般式(iii):
CX=CX(CF (iii)
(式中、X及びXは、同一又は異なって、水素原子若しくはフッ素原子を表し、Xは、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表し、nは、1〜10の整数を表す。)で表される単量体、下記一般式(iv):
CF=CF−ORf (iv)
(式中、Rfは、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表される単量体等が挙げられ、通常これらの1種又は2種以上が用いられる。
上記共重合体(I)のような共重合体からなる接着性フッ素樹脂は、耐熱性、耐薬品性、耐候性、電気絶縁性、低薬液透過性、非粘着性に優れており、更に、比較的容易に融点を下げることが可能であるので、融点が比較的低く耐熱性がない有機材料との共押出が可能となり積層樹脂成形体を得やすいことから好ましい。
なかでも、
(I−1) 少なくとも、テトラフルオロエチレン単位30〜70モル%、エチレン単位20〜55モル%、及び、上記一般式(iii)で表される単量体単位0〜10モル%からなる共重合体、
(I−2) テトラフルオロエチレン単位30〜70モル%、エチレン単位20〜55モル%、ヘキサフルオロプロピレン単位1〜30モル%、並びに、上記テトラフルオロエチレンとも上記エチレンとも上記ヘキサフルオロプロピレンとも異なるその他の単量体単位0〜10モル%からなる共重合体、
(I−3) 少なくとも、テトラフルオロエチレン単位30〜70モル%、エチレン単位20〜55モル%、及び、上記一般式(iv)で表される単量体単位0〜10モル%からなる共重合体が好ましい。なお、上記共重合体(I−1)における上記一般式(iii)で表される単量体単位、共重合体(I−2)におけるその他の単量体単位、及び、共重合体(I−3)における上記一般式(iv)で表される単量体単位は、いずれも任意成分であり、得られる積層樹脂成形体の用途に応じて適宜共重合に供する。
上記共重合体(II)としては、例えば
(II−1) 少なくとも、テトラフルオロエチレン単位65〜95モル%、及び、ヘキサフルオロプロピレン単位5〜35モル%からなる共重合体、上記テトラフルオロエチレン単位の好ましい下限は75モル%であり、上記ヘキサフルオロプロピレン単位の好ましい上限は25モル%である、
(II−2) 少なくとも、テトラフルオロエチレン単位70〜97モル%、並びに、ヘキサフルオロプロピレン単位及び上記一般式(iv)で表される単量体単位の合計3〜30モル%からなる共重合体、
(II−3) 少なくとも、テトラフルオロエチレン単位70〜95モル%、並びに、ヘキサフルオロプロピレン単位及び上記一般式(iv)で表される単量体単位の合計5〜30モル%からなる共重合体、
(II−4) 少なくとも、テトラフルオロエチレン単位30〜80モル%、及び、ヘキサフルオロプロピレン単位とビニリデンフルオライド単位との合計20〜70モル%からなる共重合体等が挙げられる。
本発明における接着性フッ素樹脂の製造方法としては特に限定されず、公知の方法を使用し得る。側鎖に接着性官能基を有する重合体からなる接着性フッ素樹脂を製造する場合、目的とする接着性フッ素樹脂に合わせた種類及び配合のフッ素含有エチレン性単量体と接着性官能基含有エチレン性単量体と、所望により、フッ素非含有エチレン性単量体とを共重合することにより得ることができる。好適な接着性官能基含有エチレン性単量体としては、接着性官能基がカルボニル基を有するものである場合、パーフルオロアクリル酸フルオライド、1−フルオロアクリル酸フルオライド、アクリル酸フルオライド、1−トリフルオロメタクリル酸フルオライド、パーフルオロブテン酸等のフッ素を有する単量体;アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸クロライド、ビニレンカーボネート等のフッ素を有さない単量体がそれぞれ挙げられる。
ポリマー鎖末端に接着性官能基を有する重合体からなる接着性フッ素樹脂を得るためには種々の方法を採用することができるが、接着性官能基がカルボニル基を有するものである場合、パーオキシカーボネートを重合開始剤として用いて上述の各単量体を重合する方法が、経済性の面、耐熱性、耐薬品性等品質の面で好ましい。
上記パーオキシカーボネートとしては、ジイソプロピルパーオキジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート等が好ましい。
パーオキシカーボネートの使用量は、目的とする接着性フッ素樹脂の種類や組成、分子量、重合条件、使用するパーオキシカーボネートの種類によって異なるが、好ましくは、得られる接着性フッ素樹脂100質量部に対して0.05〜20質量部であり、特に好ましい下限は0.1質量部であり、特に好ましい上限は10質量部である。
上記接着性フッ素樹脂を得るための重合方法としては特に限定されず、例えば溶液重合、塊状重合、乳化重合等が挙げられるが、工業的にはフッ素系溶媒を用い、重合開始剤としてパーオキシカーボネートを使用した水性媒体中での懸濁重合が好ましい。懸濁重合においては、フッ素系溶媒を水に添加して使用し得る。懸濁重合に用いるフッ素系溶媒としては、CHCClF、CHCClF、CFCFCClH、CFClCFCFHCl等のハイドロクロロフルオロアルカン類;CFClCFClCFCF、CFCFClCFClCF等のクロロフルオロアルカン類;CFCFCFCF,CFCFCFCFCF,CFCFCFCFCFCF等のパーフルオロアルカン類;パーフルオロシクロブタン等のパーフルオロシクロアルカン類等が挙げられ、なかでも、パーフルオロアルカン類、パーフルオロシクロアルカン類が好ましい。フッ素系溶媒の使用量は、懸濁性、経済性の面から、水に対して10〜100質量%とすることが好ましい。
上記接着性フッ素樹脂を得るための重合において、重合温度は特に限定されず、0〜100℃でよい。重合圧力は、用いる溶媒の種類、量及び蒸気圧、重合温度等の他の重合条件に応じて適宜定められるが、通常0〜9.8MPaGであってよい。
上記接着性フッ素樹脂を得るための重合において、分子量調整のために、通常の連鎖移動剤、例えばイソペンタン、n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素;メタノール、エタノール等のアルコール;四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、塩化メチル等のハロゲン化炭化水素を用いてもよい。
上記接着性フッ素樹脂は、本発明の目的を損なわない範囲で、例えば、熱安定剤等の安定剤、補強剤、充填剤、紫外線吸収剤、顔料等の各種添加剤とともに用いて上記層(C)を形成してもよい。このような添加剤とともに層(C)を形成することにより、得られる積層樹脂成形体の熱安定性、表面硬度、耐摩耗性、帯電性、耐候性等の性質を向上することができる。
本発明における接着性フッ素樹脂からなる層は、上述の接着性フッ素樹脂及び必要に応じて配合されるその他の成分からなり、必要に応じて、上記接着性フッ素樹脂からなる層(C)は、導電性のものとすることができる。上記「導電性」とは、燃料、有機溶剤等の可燃性の揮発性有機物が絶縁体と長期間接触した場合に静電荷が蓄積して引火するおそれがあるが、この静電荷が蓄積しない程度の電気特性を有することを意味する。上記層(C)が導電性を有するものである場合、可燃性の揮発性有機物が上記層(C)における接着性フッ素樹脂のような絶縁体と接触しても、引火する可能性が低下する。上記層(C)は、可燃性の揮発性有機物と接する用途に用いる場合、導電性であるものが好ましい。上記接着性フッ素樹脂からなる層(C)を導電性のものとする場合、カーボンブラック、アセチレンブラック等の導電性材料を配合することが好ましい。その配合量は、上記接着性フッ素樹脂の20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。配合量の下限は、上述した静電荷が蓄積しない程度の電気特性を付与する量であればよい。
本発明の積層樹脂成形体をなす上記層(A)は、上記層(C)に用いた接着性フッ素樹脂と異なる熱可塑性樹脂からなるものである。上記層(A)に用いる熱可塑性樹脂としては特に限定されず、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアラミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂[PPO]等のポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂[ABS]、塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂[PEEK]、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂[PES]、ポリエーテルイミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂等が挙げられ、上記エチレン/ビニルアルコール共重合体と異なるものであれば酢酸ビニル系樹脂を用いてもよい。上記層(A)に用いる熱可塑性樹脂としては、他材との接着性及び機械的強靱性に優れるものであり、得られる積層樹脂成形体を可撓性にし得る点で、ポリアミド系樹脂が好ましい。
本発明の積層樹脂成形体において、耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂のうち、層(B)に用いているものは、層(A)における熱可塑性樹脂として同時に用いない。耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂のうち1種又は2種以上を選択して形成した層(B)と、熱可塑性樹脂のうち1種又は2種以上を選択して形成した層(A)とを有する本発明の積層樹脂成形体において、上記層(B)に耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂として用いる樹脂は、層(A)に熱可塑性樹脂として用いる樹脂よりも燃料透過性を低く抑える観点で選択し、一方、層(A)に熱可塑性樹脂として用いる樹脂は、本発明の積層樹脂成形体の力学的な強度を保持する観点で選択する。これらの観点から、上記層(B)の耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂としてポリエステル樹脂、PPS樹脂又はエチレン/ビニルアルコール共重合体からなる樹脂を選択した場合、層(A)の熱可塑性樹脂としてはポリアミド系樹脂を選択することが好ましく、上記ポリアミド系樹脂からなる層(A)は、引っ張り強度、耐バースト性、低温耐衝撃性、可撓性等の力学物性に優れたものとすることができる。
上記ポリアミド系樹脂は、分子内に繰り返し単位としてアミド結合[−NHCO−]を有する結晶性高分子からなるものである。このようなものとしては、例えば、アミド結合が脂肪族構造又は脂環族構造と結合している結晶性高分子からなる樹脂、いわゆるナイロン樹脂が挙げられる。ナイロン樹脂としては、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66、ナイロン66/12、ナイロン46、メタキシリレンジアミン/アジピン酸共重合体、及び、これらのうち少なくとも2種のブレンド物等が挙げられる。
本発明の積層樹脂成形体を燃料チューブとして用いる場合の大きな課題の一つが低温耐衝撃性の改良である。そのため、層(A)の熱可塑性樹脂として用いる上記ポリアミド樹脂においても、低温耐衝撃性を有するものが好ましい。
上記ポリアミド系樹脂の低温耐衝撃性を改善する方法としては、例えば、汎用ゴム及び炭素数4〜7のイソモノオレフィンとアルキルスチレンのハロゲン化コポリマーとの混合物を含む耐衝撃性改良剤を混合する方法;ポリブテン又はオルガノシロキサン混合物の何れかを配合する方法;第2相としてポリアミドマトリックスに結合する枝分かれ又は直鎖ポリマー粒子を混合する方法;ハロブチル組成物を溶融ブレンドする方法;エポキシ官能性及びカルボキシル官能性を含む含ポリ(ジオルガノシロキサン)ゴム粉末を混合する方法;ポリ(ジオルガノシロキサン)を相溶化させる方法;ポリ(ジオルガノシロキサン)化合物、無機充填剤、シリコーン添加剤等の耐衝撃性改良剤と相溶化剤をナイロンにブレンドする方法等が挙げられる。このような樹脂としては、例えば、特表平11−507979号公報、米国特許第4174358号明細書、特表2003−516457号公報、米国特許第5610223号明細書、仏国特許発明第2640632号明細書、米国特許出願公開第09/293915号明細書記載のもの等が挙げられる。
低温耐衝撃性を改善したポリアミド系樹脂として、市販されているものとしては、例えば、UBESTA 3030MI1(宇部興産社製)、A4877、A4878(ともにダイセル・デグサ社製)等が挙げられる。
上記ポリアミド系樹脂は、−40℃でのアイゾット衝撃強度が7kJ/m以上であるものであることが好ましい。7kJ/m未満であると、得られる積層樹脂成形体の低温耐衝撃性が不充分になりやすい。より好ましい下限は、10kJ/mであり、更に好ましい下限は、35kJ/mである。上記アイゾット衝撃強度は、用途によるが通常考え得る用途としては、上記範囲内の値であれば、例えば80kJ/m以下であってもよい。
上記アイゾット衝撃強度は、耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂について上述した通りである。
本発明の積層樹脂成形体において、−40℃でのアイゾット衝撃強度が上述の範囲内であるポリアミド系樹脂を用いることと、−40℃でのアイゾット衝撃強度が上述の範囲内である耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂を用いることとは、何れか一方を採用すればよいが、低温耐衝撃性を高める点で、両方とも採用することが好ましい。
本発明の積層樹脂成形体をなす上記層(A)を形成するものであるポリアミド系樹脂は、また、アミド結合を繰り返し単位として有しない構造が分子の一部にブロック共重合又はグラフト共重合されている高分子からなるものであってもよい。このようなポリアミド系樹脂としては、例えば、ナイロン6/ポリエステル共重合体、ナイロン6/ポリエーテル共重合体、ナイロン12/ポリエステル共重合体、ナイロン12/ポリエーテル共重合体等のポリアミド系エラストマーからなるもの等が挙げられる。これらのポリアミド系エラストマーは、ナイロンオリゴマーとポリエステルオリゴマーがエステル結合を介してブロック共重合することにより得られたもの、又は、ナイロンオリゴマーとポリエーテルオリゴマーとがエーテル結合を介してブロック共重合することにより得られたものである。上記ポリエステルオリゴマーとしては、例えば、ポリカプロラクトン、ポリエチレンアジペート等が挙げられ、上記ポリエーテルオリゴマーとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。上記ポリアミド系エラストマーとしては、ナイロン6/ポリテトラメチレングリコール共重合体、ナイロン12/ポリテトラメチレングリコール共重合体が好ましい。
上記ポリアミド系樹脂としては、ポリアミド系樹脂からなる層が薄層でも充分な機械的強度が得られることから、なかでも、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66、ナイロン66/12、ナイロン6/ポリエステル共重合体、ナイロン6/ポリエーテル共重合体、ナイロン12/ポリエステル共重合体、ナイロン12/ポリエーテル共重合体、及び、これらのうち少なくとも2種のブレンド物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
本発明において上記ポリアミド系樹脂の融点としては特に限定されず、例えば共押出により積層樹脂成形体を成形する場合、共押出する材料が溶融し得る温度において上記ポリアミド系樹脂が熱分解しない程度の温度であればよい。ポリアミド系樹脂の分子量としても特に限定されず、目的とする機械的強度が得られる程度の分子量であればよい。
上記ポリアミド系樹脂は、本発明の目的を損なわない範囲で、例えば、熱安定剤等の安定剤、補強剤、充填剤、紫外線吸収剤、顔料等の各種添加剤とともに用いて上記層(A)を形成してもよい。このような添加剤とともに層(A)を形成することにより、得られる積層樹脂成形体の熱安定性、表面硬度、耐摩耗性、帯電性、耐候性等の特性を向上することができる。
本発明の積層樹脂成形体は、ポリアミド系樹脂からなる層(A)、耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂からなる層(B)及び接着性フッ素樹脂からなる層(C)がこの順に積層しているものである。
上記積層樹脂成形体は、上記層(A)、上記層(B)及び上記層(C)のみから構成されるものであってもよいし、上記層(A)とも上記層(B)とも上記層(C)とも異なるその他の層が上記層(A)、上記層(B)及び上記層(C)と積層されたものであってもよい。本明細書において、上記「層(A)とも層(B)とも層(C)とも異なるその他の層」を単に「その他の層」ということがある。上記その他の層は、1種又は2種以上であってよい。
本発明の積層樹脂成形体は、上記層(B)と上記層(C)との間に上記その他の層として接着性の層を接着積層したものであってもよいが、接着性の層を介在させなくても上記層(B)と上記層(C)との接着性に優れる点で、上記層(B)と上記層(C)とが接しているものとすることができる。上記積層樹脂成形体は、上記層(B)と上記層(C)とが接しているものである場合、上記層(B)と上記層(C)との初期接着強度が20N/cm以上であるものが好ましい。上記初期接着強度は、実用上、25N/cm以上がより好ましい。上記積層樹脂成形体は、上記初期接着強度が20N/cm以上、燃料浸漬後の接着強度が20N/cmであるものがより好ましく、上記初期接着強度が25N/cm以上、燃料浸漬後の接着強度が25N/cmであるものが更に好ましい。本明細書において、上記初期接着強度及び上記燃料浸漬後の接着強度は、後述の測定方法により測定して得られた値である。
本発明の積層樹脂成形体は、上述のように、上記層(A)と上記層(B)との接着力が充分であるが、上記層(A)と上記層(B)との接着力を更に向上するために、上記層(A)と上記層(B)との間に上述のその他の層を接着層(D)として介在させたものであってもよい。上記接着層(D)は、上記層(A)のポリアミド系樹脂がナイロン6やナイロン6とナイロン12とのブレンド物である場合、用いなくとも上記層(A)と上記層(B)との接着力は充分であるが、特に上記層(A)のポリアミド系樹脂がナイロン11、ナイロン12である場合、用いることが好ましい。上記接着層(D)は、特に、上記層(A)にナイロン11、ナイロン12を用い、上記層(B)にエチレン/ビニルアルコール共重合体からなる樹脂を用いる場合、上記層(A)と上記層(B)との間に介在させることが好ましい。上記接着層(D)に用い得る樹脂としては、上記層(A)と上記層(B)の両方との接着性を有するものであれば特に限定されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを無水マレイン酸等で変性した変性ポリオレフィン;上記層(C)に用い得る接着性フッ素樹脂、但しこの場合、上記層(C)に用いる接着性フッ素樹脂と上記層(D)に用いる接着性フッ素樹脂を同一のものとする必要はない;上述した上記層(A)として用い得るポリアミド系樹脂及びこれらのうちの2種以上を混合したブレンド物;等が挙げられる。
積層樹脂成形体の耐熱性の観点からは、接着層(D)は接着性フッ素樹脂、ポリアミド樹脂、又は、接着性フッ素樹脂とポリアミド樹脂との混合物であることが好ましい。
耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂からなる層(B)を形成する熱可塑性ポリマーには、極性官能基を有し分子間力が大きいポリマーが用いられるため、吸水しやすいものが多い。この吸水の影響により、耐燃料透過性が低下したり、低温耐衝撃性が低下する。したがって、上記層(B)を水分から遮断することは積層樹脂成形体の物性の経時変化を抑制する上で非常に有効である。フッ素樹脂は水分に対するバリア性が高いため、接着層(D)に接着性フッ素樹脂を用いることは、上記層(B)をフッ素樹脂層で挟み込むことになり、上記層(B)の経時的な吸水を抑える効果があり、積層樹脂積層体の耐燃料透過性、低温耐衝撃性の経時的低下を抑制し得る点で好ましい。
上記接着層(D)として接着性フッ素樹脂を用いる場合、層(A)のアミン価が高い方が好ましい。
本発明の積層樹脂成形体は、上記積層樹脂成形体を振動や衝撃等から保護することを主目的として、上記層(A)の表面のうち上記層(B)とは反対側の表面上に、エラストマー層等上記その他の層を有するものであってもよい。上記エラストマー層を構成するエラストマーは熱可塑性エラストマーであってもよい。
本発明の積層樹脂成形体は、上記その他の層として導電層(E)を含むものであって、上記導電層(E)は、接着性フッ素樹脂からなる層(C)の表面のうち、耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂からなる層(B)とは反対側の表面に接しているものであってもよい。本明細書において、上記「導電層(E)」は、導電性であって、フッ素樹脂からなる層である。上記導電層(E)は、フッ素樹脂からなる層であるが、上記その他の層の一態様であることから明らかであるように、概念上、上記層(C)とは異なるものである。上記導電層(E)に用いるフッ素樹脂は、接着性フッ素樹脂であってもよいし、接着性フッ素樹脂とは異なるフッ素樹脂であってもよい。上記導電層(E)を含む積層樹脂成形体は、後述の燃料用チューブ、燃料用ホース又は燃料用タンクであるものが特に好ましく、この場合、導電性を活かす点で、上記導電層(E)を燃料に接する位置、通常、最内層に有するものが好ましい。
本発明の積層樹脂成形体は、上述の層(A)、層(B)及び層(C)が積層されてなるので、層間接着性に優れ、また、上記層(C)を形成する接着性フッ素樹脂が有する優れた耐燃料油性、耐薬品性、耐熱性、耐候性、電気絶縁性、非粘着性、非溶出性等の性質を有している。
また、燃料透過性に関しては、従来、積層体の燃料透過性は各単層の燃料透過性の和にすぎなかった。しかしながら、上記積層樹脂成形体は、上記耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂からなる層(B)とともに、ポリアミド系樹脂からなる層(A)を設けたことにより、上記積層樹脂成形体全体の燃料透過性を各単層の燃料透過性の和よりはるかに低く抑えることが可能となる。また、上記層(B)を設けることにより、通常高価な接着性フッ素樹脂からなる上記層(C)の厚さを比較的薄くすることが可能である。更に、上記積層樹脂成形体は、上記ポリアミド系樹脂からなる層(A)を設けることにより、クラックの発生が抑えられ、曲げ加工が容易となるので、容易に後述の蛇腹(corrugated)形状や渦巻き(convoluted)形状を作ることが可能で、しかも、これらの形状にした場合でも燃料透過性等が低く抑えられ、耐クラック性に優れるものである。
本発明の積層樹脂成形体は、層(A)をなすポリアミド系樹脂として低温耐衝撃性を有するものを用い、層(B)をなす耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂として低温耐衝撃性を有するものを用いることにより、チューブ全体としての低温耐衝撃性を大幅に改善し、接着性フッ素樹脂からなる層(C)の薄層化を可能とするものである。
上記接着性フッ素樹脂からなる層(C)の薄層化は、一般に高価といわれるフッ素樹脂の量を削減することができコスト面で有利であるほか、例えば燃料チューブのように規格により全体の厚みが決まっていたり、所定の厚みが好ましい用途に用いる場合に、層(B)を厚くすることができ、積層樹脂成形体全体としての耐燃料透過性を向上することができる。
上記接着性フッ素樹脂からなる層(C)は、積層樹脂成形体全体の厚みの25%以下であることが好ましく、例えば、本発明の積層樹脂成形体全体の厚さが1mmである場合、0.25mm以下、より好ましくは0.15mm、更に好ましくは0.1mm程度にまで薄層化することができる。接着性フッ素樹脂からなる層(C)を0.1mmにまで薄層化した場合であっても、上述のように耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂からなる層(B)とともに、ポリアミド系樹脂からなる層(A)を設けたことにより、積層樹脂成形体全体として耐燃料透過性を向上することができる。上記接着性フッ素樹脂からなる層(C)は、積層樹脂成形体全体の厚みの10%以下にすることもでき、その場合であっても、SAE−J2260記載の低温耐衝撃性試験で割れが発生しない積層体を得ることができる。
例えば、本発明の積層樹脂成形体全体の厚さが1mmである場合に、上記接着性フッ素樹脂からなる層(C)を0.1mmにまで薄層化した場合であっても、上記接着性フッ素樹脂からなる層(C)と上記耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂からなる層(B)とが強固な接着力で積層していることにより、上記層(A)を外層とする燃料チューブとした場合に、SAE−J2260記載の低温耐衝撃性試験で割れが発生しないチューブができる。
本発明の積層樹脂成形体は、フィルム形状、シート形状、チューブ形状、ホース形状、ボトル形状、タンク形状等の各種形状とすることができる。上記フィルム形状、シート形状、チューブ形状及びホース形状は、蛇腹(corrugated)形状又は渦巻き(convoluted)形状であってもよい。このうち、チューブ、ホース及びタンクは、燃料用として好適に用いることができる。上記積層樹脂成形体が燃料用チューブ、燃料用ホース又は燃料用タンクである場合、上述の層(C)は、燃料に接する位置、即ち、通常、最内層であるものが好ましい。従って、この場合、上記層(A)は外層、上記層(B)は中間層となり、上記層(C)は、上記層(A)と上記層(B)との位置関係としては内層となる。本明細書において、上記「外層」「内層」「中間層」は、チューブ、ホース、タンク等の内側・外側の概念を伴う形状において、上記層(A)、上記層(B)及び上記層(C)の3層のうちどの層が内側か外側か又はこの二者の間に位置するかを表すにすぎず、上記積層樹脂成形体は、上述のように、上記層(A)の表面のうち上記層(B)とは反対側の表面上、上記層(A)と上記層(B)との間、上記層(B)と上記層(C)との間、及び/又は、上記層(C)の表面のうち上記層(B)とは反対側の表面上にそれぞれその他の層を有するものであってもよい。
上記積層樹脂成形体は、ポリアミド系樹脂からなる層(A)を外層とし、接着性フッ素樹脂からなる層(C)を内層とし、及び、耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂からなる層(B)を中間層とするものが好ましく、この積層樹脂成形体は、燃料用チューブ、燃料用ホース又は燃料用タンクとして用いる場合、特に好ましい(この積層樹脂成形体を、以下、「燃料用積層樹脂成形体」ということがある。)。この場合、上記層(B)と上記層(C)とが接しているものがより好ましい。上記積層樹脂成形体は、上記層(B)と上記層(C)とが接しており、上記層(A)、上記層(B)及び上記層(C)のみから構成されているものであってもよい。
上記積層樹脂成形体は、更に、接着層(D)を含む積層樹脂成形体であって、上記接着層(D)は、ポリアミド系樹脂からなる層(A)と耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂からなる層(B)との間に存在するものが更に好ましい。この積層樹脂成形体は、上記層(A)を外層とし、上記層(C)を内層とし、及び、上記層(B)を中間層とする積層樹脂成形体であって、上記層(A)と上記層(B)との間に上記接着層(D)を有するものであり、燃料用チューブ、燃料用ホース又は燃料用タンクとして用いる場合、特に好ましい。この積層樹脂成形体は、上記接着層(D)を有することにより、上記層(A)と上記層(B)との接着力がより向上したものとすることができ、この接着力は、上述のように特に上記層(A)のポリアミド系樹脂がナイロン12である場合であっても充分なものにすることができる。この積層樹脂成形体においても、上記層(B)と上記層(C)とが接していることが好ましい。
上記積層樹脂成形体は、更に、上述の導電層(E)を含む積層樹脂成形体であって、上記導電層(E)は、接着性フッ素樹脂からなる層(C)の表面のうち、耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂からなる層(B)とは反対側の表面に接しているものであってもよい。この積層樹脂成形体は、燃料用チューブ、燃料用ホース又は燃料用タンクとして用いる場合、特に好ましい。この積層樹脂成形体は、上記接着層(D)を含まないものであってもよいが、上記接着層(D)を上記層(A)と上記層(B)との間に有するものが好ましく、また、上記層(B)と上記層(C)とが接しているものが好ましい。上記導電層(E)は、上記積層樹脂成形体における最内層であることが好ましい。上記積層樹脂成形体は、上記導電層(E)を含むものであるので、上記層(C)が導電性である必要はないが、上記層(C)が導電性であってもよい。
上記積層樹脂成形体は、特に燃料用チューブ、燃料用ホース又は燃料用タンクに好適に用いることができるが、燃料のみならず、燃料以外の可燃性の揮発性有機物に接する用途にも好適に用いることができる。
本発明の積層樹脂成形体を製造する方法としては、特に限定されず、各層をなす樹脂の種類、性質等に応じて、適宜選択される。上記方法としては、例えば、各層をなす材料を多層共押出する方法、各層をなす材料を別々にシート状又はフィルム状等の形状に成形した後、得られた各層を加熱下で加圧して熱融着することにより積層する方法等が挙げられる。
しかしながら、多層共押出する方法が、製造の効率の観点からは最も好ましい。
多層共押出のダイ温度としては、より高い接着剥離強度を得るために、樹脂が分解しない範囲でできるだけ高い方が好ましいので、225℃を越える温度とすることが好ましく、230℃以上が好ましい。従来、エチレン/ビニルアルコール共重合体を用いて多層共押出する場合、ダイ温度250℃以下で行っていたが、本発明の積層樹脂成形体製造方法においては、250℃を越える温度で成形することもできる。最内層に導電材料を用いない場合、ダイ温度240〜260℃であることが好ましい。最内層を導電材料とする場合は、メルトフラクチャーの抑制と抵抗値を低く抑制するという観点からむしろ250℃を越えるダイ温度での成形が好ましく、260℃以上がより好ましい。耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂の分解・劣化を押さえる意味から上限としては300℃が好ましく、290℃がより好ましく、280℃が更に好ましい。
上記層(B)としてエチレン/ビニルアルコール共重合体とする場合も、同様のダイ温度を使用することができる。
上記積層樹脂成形体は、上述のように、耐燃料油性、耐溶剤性、耐薬品性、非溶出性等に優れ、燃料透過性を低く抑えることができるものであるので、燃料、溶剤等と接する用途に用いることができる。
上記燃料としては特に限定されず、例えば、ガソリン、石油、軽油、重油等の燃料油;Fuel C等の擬似燃料;上記燃料油、擬似燃料等とパーオキサイドとを混合したパーオキサイド含有燃料;上記燃料油、擬似燃料等とメタノール、エタノール等とを混合したアルコール含有燃料等が挙げられる。上記燃料は、また、メタン、天然ガス、ジメチルエーテル等のガス状燃料であってもよい。上記積層樹脂成形体は、上記アルコール含有燃料の透過を抑えるものとして好適に用いることができる。
上記溶剤としては、溶剤として通常用いるものを主成分とするものであれば特に限定されず、例えば、酢酸、蟻酸、クレゾール、フェノール等の有機酸類;メタノール、エタノール等のアルコール類;エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、エタノールアミン等のアミン類;ジメチルアセトアミド等のアミド類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;ヘキサン等の炭化水素類;アセトン、ジメチルケトン等のケトン類;これらのうち1種又は2種以上の混合物等を主成分とするものが挙げられる。本明細書において、上記溶剤は、塗料等のように、上記溶剤として通常用いるものに樹脂等を溶解させて得られたものであってもよい。上記積層樹脂成形体は、上記溶剤として、なかでも、可燃性の揮発性有機物と接する用途に好適に用いることができる。
上記積層樹脂成形体は、上記耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂からなる層(B)を有することによりガス透過性が低く、上記接着性フッ素樹脂からなる層(C)を有することにより耐酸性、耐水性、非溶出性等に優れるものであるので、飲食物等と接する用途に用いても飲食物に臭いが移らず、飲食物を安定に輸送、保存等することができる。
上記積層樹脂成形体としては、以下の用途等に用いることができる。
チューブ、ホースとしては、気体、液体用として広く用いることができるが、特に、水用チューブ又は水用ホース、燃料電池用チューブ又は燃料電池用ホース、地下埋設可燃性流体用チューブ又は地下埋設可燃性流体用ホース、自動車燃料用チューブ若しくは自動車燃料用ホース等の燃料用チューブ又は燃料用ホース、溶剤用チューブ又は溶剤用ホース、塗料用チューブ又は塗料用ホース、自動車のラジエーターホース、エアコンホース、ブレーキホース、電線被覆材、飲食物用チューブ又は飲食物用ホース、医療用カテーテルや医療用チューブ、香水等の香りを閉じ込めるチューブ、ボトル、容器、タンク類;自動車のラジエータータンク、ガソリンタンク等の燃料用タンク、溶剤用タンク、塗料用タンク、半導体用薬液容器等の薬液容器、飲食物用タンク等
フィルム、シート類;食品用フィルム、食品用シート、薬品用フィルム、薬品用シート、ダイヤフラムポンプのダイヤフラムや各種パッキン等
その他;キャブレターのフランジガスケット、燃料ポンプのOリング等の各種自動車用シール、油圧機器のシール等の各種機械関係シール、ギア等
上記積層樹脂成形体は、上述のように、非溶出性、可撓性等に加え、耐衝撃性、特に低温耐衝撃性に優れるものであるので、チューブ又はホースとして好適に用いることができる。上記積層樹脂成形体は、上述のように、耐燃料油性等に優れ、燃料透過性が低いものであるので、上記チューブ若しくはホースは、燃料用チューブ又は燃料用ホースとして特に好適に用いることができる。燃料用チューブとして用いる場合も、低温耐衝撃性の観点からはSAE−J2260に記載の低温耐衝撃性試験により割れが発生しないチューブを提供することができる。
上記積層樹脂成形体は、上述のように、非溶出性、可撓性等に加え、耐衝撃性、特に低温耐衝撃性に優れるものであるので、タンクとして好適に用いることができる。最内層がポリエチレン等である樹脂積層体を接合してタンク形状にした従来品は、ポリエチレン等の層同士を張り合わせた接合面からその低接着性により内容物が漏れるという問題があった。本発明の積層樹脂成形体は、上記接着性フッ素樹脂からなる層(C)を最内層とするものである場合、接着性フッ素樹脂からなる層(C)同士が相溶性があり接着力にも優れるので、タンクとして用いても積層樹脂成形体の接合面から内容物が漏れにくい。
上記積層樹脂成形体は、上述のように、耐燃料油性に優れ、燃料透過性が低いものであるので、上記タンクは、燃料用タンクとして特に好適に用いることができる。
上記積層樹脂成形体は、上述の層(C)が導電性を有するものである場合、又は、上述の導電層(E)が上記層(C)の表面のうち、耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂からなる層(B)とは反対側の表面に接しているものである場合、上述の可燃性の揮発性有機物と接する用途に特に好適に用いることができる。この用途では、上記導電性の層(C)や導電層(E)は積層樹脂成形体において最内層であることが好ましい。このような積層樹脂成形体は、上記可燃性の揮発性有機物と接しても静電荷が蓄積せず、引火する可能性が低い。
本発明の積層樹脂積層体としては、上記層(C)又は導電層(E)を内層にして自動車用燃料チューブとして使用する場合、チューブ内面の表面抵抗値がSAE−J2260に定められた試験法に従い1MΩ/sq未満である積層体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、各種パラメーターの測定は以下のとおりに行った。
(1)カーボネート基の個数の測定
接着性フッ素樹脂の白色粉末又は接着性フッ素樹脂の溶融押出しペレットの切断片を室温で圧縮成形し、厚さ50〜200μmのフィルムを作成した。このフィルムの赤外吸収スペクトル分析によってカーボネート基〔−OC(=O)O−〕のカルボニル基由来のピークが1809cm−1(νC=O)の吸収波長に現れるので、そのνC=Oピークの吸光度を測定し、下記式(a)により接着性フッ素樹脂をなす重合体の主鎖炭素数10個あたりのカーボネート基の個数Nを算出した。
N=500AW/εdf (a)
A:カーボネート基〔−OC(=O)O−〕由来のνC=Oピークの吸光度
ε:カーボネート基〔−OC(=O)O−〕由来のνC=Oピークのモル吸光度係数。モデル化合物からε=170(l・cm−1・mol−1)とした。
W:接着性フッ素樹脂の組成から計算される単量体の平均分子量
d:フィルムの密度(g/cm
f:フィルムの厚さ(mm)
なお、赤外吸収スペクトル分析は、Perkin−Elmer FTIRスペクトロメーター1760X(パーキンエルマー社製)を用いて40回スキャンした。得られたIRスペクトルをPerkin−Elmer Spectrum for windows Ver.1.4Cにて自動でベースラインを判定させ、1809cm−1のピークの吸光度を測定した。なお、フィルムの厚さはマイクロメーターにて測定した。
(2)フルオロホルミル基の個数の測定
上記(1)と同様にして得られたフィルムの赤外スペクトル分析により、フルオロホルミル基〔−C(=O)F〕のカルボニル基由来のピークが1880cm−1(νC=O)の吸収波長に現れるので、そのνC=Oピークの吸光度を測定した。上記式(a)において、Aをフルオロホルミル基由来のνC=Oピークの吸光度とし、フルオロホルミル基由来のνC=Oピークのモル吸光度係数をモデル化合物によりε=600(l・cm−1・mol−1)とした以外は、上記式(a)を用いて上述の(1)カーボネート基の個数の測定と同様にしてフルオロホルミル基の個数を測定した。
(3)フッ素樹脂の組成の測定
19F−NMR分析により測定した。
(4)融点(Tm)の測定
セイコー型示差走査熱量計〔DSC〕を用い、10℃/分の速度で昇温したときの融解ピークを記録し、極大値に対応する温度を融点(Tm)とした。
(5)メルトフローレート(MFR)の測定
メルトインデクサー(東洋精機製作所社製)を用い、各測定温度において、5kg荷重下で直径2mm、長さ8mmのノズルから単位時間(10分間)あたりに流出するポリマーの質量(g)を測定した。
(6)初期接着強度の測定
チューブ状の積層樹脂成形体から1cm幅のテストピースを切り取り、テンシロン万能試験機にて、25mm/分の速度で180°剥離試験を行い、伸び量−引張強度グラフにおける極大5点平均を初期接着強度(N/cm)として求めた。
(7)燃料浸漬後の接着強度の測定
CM15(イソオクタン:トルエン=50:50(容量比)の混合物にメタノール15容量%を混合した燃料)に、チューブ状の積層樹脂成形体を60℃で168時間浸漬した後、上記(6)と同様にして接着強度(N/cm)を測定し、燃料浸漬後の接着強度とした。
(8)燃料透過速度の測定
単層の燃料透過速度の測定
チューブ状の積層樹脂成形体の各層に用いる樹脂のペレットを、それぞれ、直径120mmの金型に入れ、加熱したプレス機(フッ素樹脂:260℃、フッ素樹脂以外のその他の樹脂:230℃)にセットし、約2.9MPaの圧力で溶融プレスして、厚さ0.1mmのシートを得た。CE10(イソオクタン:トルエン=50:50(容量比)の混合物にエタノール10容量%を混合した試験用疑似燃料)を18ml投入した内径40mmφ、高さ20mmのSUS316製の透過速度測定用カップに得られたシートを入れ、60℃における質量変化を400時間まで測定した。時間あたりの質量変化、接液部のシートの表面積及びシートの厚さから燃料透過速度(g×mm/day/m)を算出した。
なお、表5及び表8で積層樹脂成形体全体の燃料透過速度の計算に使用した各樹脂単層の燃料透過速度の値を表1に示した。

積層樹脂成形体の燃料透過速度の測定
チューブ状の積層樹脂成形体を40cmの長さにカットし、容量120mlのSUS316製リザーバータンクをスエージロックで取りつけ、SAEJ1737に準じてCE10の透過量を測定し、チューブ状の積層樹脂成形体の肉厚より、燃料透過速度(g×mm/day/m)を算出した。
積層樹脂成形体の燃料透過速度の計算値Pは、上述の方法で測定した単層の燃料透過速度の実測値をもとに以下の式で算出した。
1/P=(l/P)+(l/P)+(l/P
P:積層樹脂成形体の燃料透過速度(計算値)(g×mm/day/m
、l、l:各単層の厚さ(mm)
、P、P:各単層の燃料透過速度(g×mm/day/m
(9) 溶出率の測定
チューブ状の積層樹脂成形体を1mの長さにカットし、金属製のクイックコネクターを両端に装着し、一方の端に金属製の封をした後、CE10(イソオクタン:トルエン=50:50(容量比)の混合物にエタノール10容量%を混合した試験用疑似燃料)を投入し、他方の端も同様に封をした。同様にして燃料を投入したチューブ状の積層樹脂成形体を3本準備し、60℃で48時間、積層樹脂成形体と燃料とを接触させた。48時間経過後、取り出した燃料をナスフラスコに入れて蒸発させ、更に、24時間、80℃の恒温槽で乾燥して、溶出物の質量を測定した。溶出物の質量、接液部の積層樹脂成形体の表面積、燃料の質量から溶出率(g/100ml/m)を算出した。
(10) 低温耐衝撃性試験
SAE−J2260に準拠して行った。即ち、予め−40℃で4時間冷却したチューブ状の積層樹脂成形体を10本準備し、−40℃雰囲気下で0.912Kg、半径15.88mmの球形の錘を305mmの高さからチューブ上に落下する操作を10本全てに対して繰り返し、チューブの内側及び外側から目視により割れの有無を観察した。10本全てに割れがなければ合格(○)、1本でも割れが認められれば不合格(×)と判定した。
また、実験例24及び実験例25については、低温耐衝撃性の経時変化を測定するための加速試験として、チューブ状の積層樹脂成形体にCE10を封入し、そのチューブの外側を40℃の水に1ヵ月浸漬した後、上記と同様に低温耐衝撃性試験を行った。
合成例1 接着性フッ素樹脂F−Aの合成
オートクレーブに蒸留水380Lを投入し、充分に窒素置換を行った後、1−フルオロ−1,1−ジクロロエタン75kg、ヘキサフルオロプロピレン155kg及びパーフルオロ(1,1,5−トリハイドロ−1−ペンテン)0.5kgを仕込み、系内を35℃、攪拌速度200rpmに保った。その後、テトラフルオロエチレンを0.7MPaまで圧入し、更に引き続いてエチレンを1.0MPaまで圧入した後、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート2.4kgを投入して重合を開始した。重合の進行と共に系内圧力が低下するので、テトラフルオロエチレン/エチレン/ヘキサフルオロプロピレン=40.5/44.5/15.0モル%の混合ガスを連続して供給し、系内圧力を1.0MPaに保った。そして、パーフルオロ(1,1,5−トリハイドロ−1−ペンテン)を合計量1.5kgとなるように連続して仕込み、20時間、攪拌を継続した。放圧して大気圧に戻した後、反応生成物を水洗、乾燥して205kgの粉末(接着性フッ素樹脂F−A)を得た。得られた粉末の分析結果を表3に示した。
合成例2 接着性フッ素樹脂F−Bの合成
合成例1と同様にして、表3に示した配合で接着性フッ素樹脂F−Bを得た。得られた重合体の分析結果を表3に示した。
合成例3 接着性フッ素樹脂F−Cの合成
オートクレーブに蒸留水400Lを投入し、充分に窒素置換を行った後、パーフルオロシクロブタン320kg、ヘキサフルオロプロピレン80kg、テトラフルオロエチレン19kg及びフッ化ビニリデン6kgを仕込み、系内を35℃、攪拌速度180rpmに保った。その後、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート5kgを投入して重合を開始した。重合の進行と共に系内圧力が低下するので、テトラフルオロエチレン/フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン=50/40/10モル%の混合ガスを連続して供給し、系内圧力を一定に保った。攪拌を30時間継続した後、放圧して大気圧に戻し、反応生成物を水洗、乾燥して195kgの粉末(接着性フッ素樹脂F−C)を得た。得られた粉末の分析結果を表3に示した。
合成例4 接着性フッ素樹脂F−Dの合成
オートクレーブに蒸留水400Lを投入し、充分に窒素置換を行った後、1−フルオロ−1,1−ジクロロエタン75kg、ヘキサフルオロプロピレン190kg、パーフルオロ(1,1,5−トリハイドロ−1−ペンテン)1.5kgを仕込み、系内を35℃、攪拌速度200rpmに保った。その後、テトラフルオロエチレンを0.7MPaまで圧入し、更に引き続いてエチレンを1.0MPaまで圧入し、その後にジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート2.6kgを投入して重合を開始した。重合の進行と共に系内圧力が低下するので、テトラフルオロエチレン/エチレン/ヘキサフルオロプロピレン=40.5/42.5/17.0モル%の混合ガスを連続して供給し、系内圧力を1.0MPaに保って30時間攪拌を継続した。放圧して大気圧に戻した後、反応生成物を水洗、乾燥して178kgの粉末を得た。次に、得られた粉末を単軸押出機(商品名:VS50−24、田辺プラスティック機械社製)を用いてシリンダ温度320℃で押出してペレット(接着性フッ素樹脂F−D)を得た。得られたペレットの分析結果を表3に示した。
合成例5 接着性フッ素樹脂F−Eの合成
オートクレーブに蒸留水25kgを投入し、充分に窒素置換を行った後、パーフルオロシクロブタン50kg及びパーフルオロ(メチルビニルエーテル)10kgを仕込み、系内を35℃、攪拌速度を215rpmに保った。その後、テトラフルオロエチレンを0.78MPaまで圧入し、その後にジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート150kgを投入して重合を開始した。重合の進行と共に系内圧力が低下するので、パーフルオロシクロブタン/テトラフルオロエチレン/パーフルオロメチルビニルエーテル=10/76.6/13.4モル%の混合ガスを連続して供給し、系内圧力を0.78MPaに保って30時間攪拌を継続した。放圧して大気圧に戻した後、反応生成物を水洗、乾燥して30kgの粉末(接着性フッ素樹脂F−E)を得た。得られた粉末の分析結果を表3に示した。
合成例6 フッ素樹脂F−Fの合成
合成例2で得られた接着性フッ素樹脂F−Bの粉末9.5kg、28%アンモニア水700g及び蒸留水10Lをオートクレーブに仕込み、攪拌しながら系を加熱し、80℃に保って7時間攪拌を継続した。そして、内容物を水洗、乾燥処理して粉末9.5kgを得た。このような処理を施すことによって、重合体が有する活性な官能基(カーボネート基とフルオロホルミル基)を反応性の低いアミド基に変換した。なお、このアミド基への変換が定量的に進んだことは赤外スペクトル分析により確認した。処理後のフッ素樹脂F−Fの分析結果を表3に示した。
合成例7 接着性フッ素樹脂F−Gの合成
合成例1で得られた接着性フッ素樹脂F−Bの粉末88kgと、アセチレンブラック12kgとをヘンシェルミキサーで混合した後、二軸押出機にて溶融混練してペレットを得た。得られたペレットの分析結果を表3に示した。
表2に、実験例において使用したエチレン/ビニルアルコール共重合体の商品名、酢酸ビニル単位Xモル%、鹸化度Y%、及び、X×Y/100の値を示した。

表3に、実験例において使用したフッ素樹脂の物性を示した。
なお、表3において、TFEは、テトラフルオロエチレンを表し、Etは、エチレンを表し、VdFは、フッ化ビニリデンを表し、HFPは、ヘキサフルオロプロピレンを表し、HF−Peは、パーフルオロ(1,1,5−トリハイドロ−1−ペンテン)を表し、PMVEは、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)を表す。

実験例において用いたポリアミド系樹脂は、以下のとおりである。
ポリアミド12〔PA12〕として、Vestamid X7297(Degussa AG社製)及びA4878(ダイセル・デグサ社製)を使用した。ポリアミド11〔PA11〕として、BESNP40TL(アトフィナ社製)を使用した。ポリアミド6〔PA6〕としてUBEナイロン1018I(宇部興産社製)を使用した。
ポリアミド系樹脂のブレンド物〔PAmix〕としては、ナイロン6(商品名:UBEナイロン1018I、宇部興産社製)とナイロン12(商品名:UBESTA3030B、宇部興産社製)とを、ナイロン6:ナイロン12=50:50(容量比)の割合でラボプラストミル(東洋精機社製)を用いて240℃で10分間溶融混練して得られたものを使用した。
実験例で使用したポリエチレン系樹脂は、低密度ポリエチレン〔LDPE〕(商品名:ペトロセン 292、東ソー社製)、及び、無水マレイン酸変性ポリエチレン〔変性PE〕(商品名:アドマーNF528、三井化学社製)であった。
実験例で使用したエチレン/ビニルアルコール共重合体からなる樹脂は、エバールF101A(クラレ社製)、メルセンH6051(東ソー社製)、テクノリンクK 200(田岡化学社製)、メルセンH6410M(東ソー社製)及びエバールXEP505B(クラレ社製)であった。
上述したポリアミド系樹脂及びエチレン/ビニルアルコール共重合体からなる樹脂のうち、エバールF101A、エバールXEP505B、Vestamid X7297及びA4878について、それぞれ上述した方法により測定サンプルを得たのち、ASTM D256−84に準拠して−40℃でのアイゾット衝撃強度を測定した。結果を表4に示す。

実験例1〜25 マルチマニホールドダイを装着した4種4層チューブの共押出装置を用いて、表5、表6、表7及び表8に示した各樹脂を4台の押出機にそれぞれ供給して外径8mm、内径6mmのチューブ状の積層樹脂成形体を連続成形した。成形条件及び得られたチューブの評価結果を表5〜8に示した。
なお、表5、表6、表7及び表8において、用いた記号は以下のとおりである。
PA12 A:Vestamid X7297(Degussa AG社製)
PA12 B:A4878(ダイセル・デグサ社製)
PA11:BESNP40TL(アトフィナ社製)
PA6:ナイロン6(商品名:UBEナイロン1018I、宇部興産社製)
PAmix:ナイロン6(商品名:UBEナイロン1018I、宇部興産社製)とナイロン12(商品名:UBESTA3030B、宇部興産社製)とのブレンド物
LDPE:ペトロセン 292(東ソー社製)
変性PE:アドマーNF528(三井化学社製)
EVOH1:エバールF101A(クラレ社製)
EVOH2:メルセンH6051(東ソー社製)
EVOH3:テクノリンクK 200(田岡化学社製)
EVOH4:メルセンH6410M(東ソー社製)
EVOH5:エバールXEP505B(クラレ社製)




表5から、中間層にX×Y/100≧7のエチレン/ビニルアルコール共重合体を用い、内層に接着性フッ素樹脂を用いた実験例1〜14の積層樹脂成形体の層間接着性は初期と共に燃料浸漬後においても良好であった。一方、表7の中間層にX×Y/100<7のエチレン/ビニルアルコール共重合体を用い、内層に接着性官能基をもたないフッ素樹脂を用いた実験例23では、層間は全く接着していなかった。
また、表5で内層に接着性フッ素樹脂を用いた実験例1〜14の積層樹脂成形体は、燃料へのオリゴマー等の溶出はほとんどなかったが、表7で内層にポリアミド系樹脂を用いた実験例21〜22では溶出率が高かった。
表5の実験例2と表7の実験例20とは、どちらも中間層にEVOH1と内層に接着性フッ素樹脂F−Bを用い、各層の厚みも同一だが、外層がLDPEである実験例20ではチューブ全体の燃料透過速度は各単層の燃料透過速度から計算した値とほぼ一致していたが、外層にポリアミド系樹脂を用いた場合には燃料透過速度が特に小さくなることがわかった。更には、同様に外層にポリアミド系樹脂を用いている表5の実験例1〜11、及び、実験例14でも、接着層の有無や各層の厚みに関わらず、各単層の燃料透過速度に基づく計算値に比べて、燃料透過速度の実測値がはるかに低く抑えられていた。
外層又は外層と中間層とに低温耐衝撃性に優れたものを用いた表6の実験例15〜17は、実験例18に比べ、内層を薄くしたにも関わらず積層樹脂成形体の低温耐衝撃性は向上しており、更に実験例17では各層の中で最も低温耐衝撃性が劣る中間層の厚みを厚くした場合でも低温耐衝撃性は良好であった。
表8で、接着層のみが異なる実験例24と実験例25とを比較すると、非フッ素系樹脂のPA12 mixを中間層に用いた実験例25では水浸漬後に低温耐衝撃性が大幅に低下していたが、接着性フッ素樹脂であるF−Bを用いた実験例24では、水浸漬後にも全く低温耐衝撃性が低下していないことがわかった。
また、表6で実験例17と実験例19とを比較すると、ダイ温度が比較的低い実験例19では、チューブ表面にメルトフラクチャーが発生し、チューブの表面抵抗が極めて高かったが、ダイ温度を高くして成形した実験例17では、チューブ表面にはメルトフラクチャーは発生せず、チューブの表面抵抗も低かった。
【産業上の利用可能性】
本発明は、上述の構成よりなるので、燃料透過性が各層の燃料透過性の和よりはるかに低く抑えられ、また、層間接着力、耐燃料油性、非溶出性、低温耐衝撃性が使用開始時と共に経時後にも優れた積層樹脂成形体を得ることができる。上記積層樹脂成形体は、上記の優れた特性を有しているので、燃料用チューブ、燃料用ホース、燃料用タンク等の用途に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド系樹脂からなる層(A)、耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂からなる層(B)、及び、接着性フッ素樹脂からなる層(C)を含む積層樹脂成形体であって、
前記層(A)、前記層(B)及び前記層(C)は、この順に積層している
ことを特徴とする積層樹脂成形体。
【請求項2】
ポリアミド系樹脂は、−40℃でのアイゾット衝撃強度が7kJ/m以上であるものである請求の範囲第1項記載の積層樹脂成形体。
【請求項3】
耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂は、−40℃でのアイゾット衝撃強度が2.5kJ/m以上であるものである請求の範囲第1又は2項記載の積層樹脂成形体。
【請求項4】
耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂は、エチレン/ビニルアルコール共重合体からなる樹脂である請求の範囲第1、2又は3項記載の積層樹脂成形体。
【請求項5】
エチレン/ビニルアルコール共重合体は、酢酸ビニル単位がXモル%であるエチレン/酢酸ビニル共重合体を鹸化度Y%にて鹸化することよりなる前記エチレン/ビニルアルコール共重合体の製造において、前記酢酸ビニル単位Xモル%及び前記鹸化度Y%がX×Y/100≧7を充足するものである請求の範囲第4項記載の積層樹脂成形体。
【請求項6】
層(B)と接着性フッ素樹脂からなる層(C)とが接している請求の範囲第1、2、3、4又は5項記載の積層樹脂成形体。
【請求項7】
層(B)を形成する耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂の試験用疑似燃料種CE10に対する60℃における燃料透過速度〔Zb〕と、層(C)を形成する接着性フッ素樹脂の試験用疑似燃料種CE10に対する60℃における燃料透過速度〔Zc〕との比〔Zc/Zb〕が100以下である請求の範囲第6項記載の積層樹脂成形体。
【請求項8】
接着性フッ素樹脂は、融点が150〜270℃のものである請求の範囲第1、2、3、4、5、6又は7項記載の積層樹脂成形体。
【請求項9】
接着性フッ素樹脂は、接着性官能基を有するものである請求の範囲第1、2、3、4、5、6、7又は8項記載の積層樹脂成形体。
【請求項10】
ポリアミド系樹脂からなる層(A)を外層とし、接着性フッ素樹脂からなる層(C)を内層とし、及び、耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂からなる層(B)を中間層とするものである請求の範囲第1、2、3、4、5、6、7、8又は9項記載の積層樹脂成形体。
【請求項11】
更に、接着層(D)を含む積層樹脂成形体であって、
前記接着層(D)は、ポリアミド系樹脂からなる層(A)と耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂からなる層(B)との間に存在するものである請求の範囲第10項記載の積層樹脂成形体。
【請求項12】
接着層(D)は、接着性フッ素樹脂からなる請求の範囲第11項記載の積層樹脂成形体。
【請求項13】
接着性フッ素樹脂からなる層(C)は、導電性である請求の範囲第10、11又は12項記載の積層樹脂成形体。
【請求項14】
更に、導電層(E)を含む積層樹脂成形体であって、
前記導電層(E)は、接着性フッ素樹脂からなる層(C)の表面のうち耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂からなる層(B)とは反対側の表面に接しているものである請求の範囲第10、11、12又は13項記載の積層樹脂成形体。
【請求項15】
積層樹脂成形体は、チューブ又はホースである請求の範囲第1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13又は14項記載の積層樹脂成形体。
【請求項16】
チューブは、燃料用チューブであり、ホースは、燃料用ホースである請求の範囲第15項記載の積層樹脂成形体。
【請求項17】
積層樹脂成形体は、タンクである請求の範囲第1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13又は14項記載の積層樹脂成形体。
【請求項18】
タンクは、燃料用タンクである請求の範囲第17項記載の積層樹脂成形体。
【請求項19】
接着性フッ素樹脂からなる層(C)の厚みが積層樹脂成形体全体の厚みの25%以下であり、低温耐衝撃性試験により割れが発生しない請求の範囲第15又は16項記載の積層樹脂成形体。
【請求項20】
ポリアミド系樹脂からなる層(A)、耐燃料透過性に優れた熱可塑性樹脂からなる層(B)、及び、接着性フッ素樹脂からなる層(C)を含む積層樹脂成形体を同時共押出により製造することよりなる積層樹脂成形体製造方法であって、
前記同時共押出は、ダイ温度を250℃を超える温度とするものである
ことを特徴とする積層樹脂成形体製造方法。

【国際公開番号】WO2004/069534
【国際公開日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【発行日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504915(P2005−504915)
【国際出願番号】PCT/JP2004/001387
【国際出願日】平成16年2月10日(2004.2.10)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】