説明

積層状生地の製造方法

【課題】良好なコク味を有する層状ベーカリー食品を得るための積層状生地の製造方法、及び、該特徴を有するパイやデニッシュ、あるいはスイートロールに代表される層状ベーカリー食品を提供すること。
【解決手段】コク味強化剤を生地層間に供給する工程を含むことを特徴とする積層状生地の製造方法、及び、該製造方法によって得られた積層状生地を加熱処理することにより得られた層状ベーカリー食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好なコク味を有する層状ベーカリー食品を得るための積層状生地の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パイやデニッシュ、あるいはスイートロールに代表される層状ベーカリー食品は、通常は、シート状のロールイン油脂又はフラワーペーストを、小麦粉を主体とする生地に積載し、包み込み、圧延及び折りたたみの操作を複数回行なうことによって折り込む方法(折り生地方式)、あるいは、小片状のロールイン油脂又はフラワーペーストを小麦粉を主体とする生地に分散させたのち、圧延及び折りたたみの操作を複数回行なうことによって折り込む方法(練り生地方式)によって、積層状生地を製造した後、これを各種成形し、次いで、必要に応じホイロをとった後、焼成及び/又はフライ等の加熱処理することによって得られる。
【0003】
ここで、ロールイン油脂は、ベーカリー食品に層状構造を付与する目的に加え、生地中に油脂を練り込むのに比べてより多くの油脂を配合することができるため、油脂の風味を強調したい場合に古くから広く使用されている。このロールイン油脂を使用した層状ベーカリー食品の風味は、古くからバター風味の商品が好まれ、現在もこれが主流となっている。よって、ロールイン油脂には、バターやバター風味のマーガリンが使用されることが多い。
【0004】
また、フラワーペーストは、ベーカリー食品に層状構造を付与する目的に加え、風味を付与する目的で使用され、ベーカリー食品中に層状に呈味生地層を形成することで生地中に呈味成分を練り込むのに比べて風味を強く感じさせる効果があるため、最近、広く使用されている。このフラワーペーストを使用した層状ベーカリー食品の風味は、古くからカスタード風味の商品が好まれ、現在もこれが主流となっている。よって、フラワーペーストには、乳や乳製品、卵類、糖類が多く配合される。
【0005】
そして、層状ベーカリー食品に良好なコク味を付与するためには、ロールイン油脂及び/又はフラワーペーストの配合量を多くしたり、ロールイン油脂及び/又はフラワーペーストに、例えば、発酵バターやチーズなどの強いコク味を有する乳製品を使用することが行われてきた。
【0006】
しかし、ロールイン油脂及び/又はフラワーペーストの生地への配合量や、ロールイン油脂及び/又はフラワーペースト中のこれらの乳製品の配合量には限界があるため、層状ベーカリー食品に十分なコク味を得ることはできなかった。
ここで一般的に、乳製品の配合量が少ない場合であっても、層状ベーカリー食品に乳風味を付与するためには、香料を使用したロールイン油脂及び/又はフラワーペーストを使用することが行われている。しかし、香料は、風味は付与することはできても、コク味を付与することができない。
そこで、発酵調味剤や風味油脂等の、強呈味素材を生地やロールイン油脂に配合する方法が各種提案されている。(例えば特許文献1〜3参照)。
【0007】
しかし、これらの方法では、乳製品由来のコク味とは異質のコク味が付与されてしまうため、良好なコク味が得られないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開2005/120254号パンフレット
【特許文献2】特開2002−125580号公報
【特許文献3】特開2008−206526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、バターやチーズ等の乳製品の配合量が少ない場合であっても、良好なコク味を有する層状ベーカリー食品を得るための積層状生地の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記目的を達成すべく種々検討した結果、本発明者等は、ロールイン油脂及び/又はフラワーペーストを使用した層状ベーカリー食品の生地製造時に、ロールイン油脂やフラワーペーストとは別に、コク味を強化する成分を、折り込み時に塗布、噴霧などの方法で、層間に供給することで解決可能であることを知見した。
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、コク味強化剤を生地層間に供給する工程を含むことを特徴とする積層状生地の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の積層状生地の製造方法を使用して得られた層状ベーカリー食品は、良好なコク味を有する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明でいう層状ベーカリー食品とは、小麦粉を主体とする生地に、ロールイン油脂及び/又はフラワーペーストをロールイン後、各種積層方法により積層した、積層状生地を、常法により、成形、ホイロ等の処理をした後、焼成及び/又はフライ等の加熱処理をしたものであり、例えば、菓子パイ、中華パイ、タルト、デニッシュ、イーストパイ、クロワッサン、デニッシュドーナツ、デニッシュブレッド、フライドパイ、シナモンロール、スイートロール等を挙げることができる。
なお、上記ロールインの方法は、折り生地方式であっても練り生地方式であってもよい。
【0013】
上記小麦粉を主体とする生地に使用する小麦粉としては、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉、全粒粉、胚芽、小麦グルテンなどが挙げられ、好ましくは、強力粉と薄力粉を併用するか、又は強力粉のみを使用する。
上記小麦粉を主体とする生地には小麦粉以外の穀粉を使用してもよい。
なお、上記小麦粉以外の穀粉としては、ライ麦粉、コーンフラワー、米粉などが挙げられるが、小麦粉を主体とする生地に使用する全穀粉中において、蛋白含量が5〜18質量%となるように調整することが好ましく、8〜14質量%に調整することがより好ましい。
【0014】
上記小麦粉を主体とする生地に使用する他の成分としては、水、イースト、イーストフード、糖類、甘味料、乳や乳製品、油脂類、膨張剤、卵類、食塩、澱粉類、乳化剤、調味料、香辛料、着香料、着色料、ココア、チョコレート、ナッツ類、ヨーグルト、チーズ、抹茶、紅茶、コーヒー、豆腐、黄な粉、豆類、野菜類、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、果物、ハーブ、肉類、魚介類、保存料、日持ち向上剤、酵素などの材料を適宜用いることができる。
【0015】
上記糖類としては、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、酵素糖化水飴、乳糖、還元澱粉糖化物、異性化液糖、ショ糖結合水飴、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、ソルビトール、還元乳糖、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、デキストリン等を用いることができる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種または2種以上を使用することができる。
【0016】
上記甘味料としては、スクラロース、アセスルファムカリウム、ステビア、アスパルテーム等を用いることができる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種または2種以上を使用することができる。
【0017】
上記乳や乳製品としては、生乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、部分脱脂乳、脱脂乳、加工乳、クリーム、チーズ、濃縮ホエー、アイスクリーム類、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、無糖脱脂れん乳、加糖れん乳、加糖脱脂れん乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、蛋白質濃縮ホエイパウダー、バターミルクパウダー、加糖粉乳、調製粉乳、はっ酵乳、乳酸菌飲料、乳飲料、カゼインカルシウム、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、カゼインマグネシウム、ホエイプロテインコンセートレート、トータルミルクプロテイン等を用いることができる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種または2種以上を使用することができる。
【0018】
上記油脂類としては、マーガリン、ショートニング、バター、粉末油脂、液状油等を用いることができる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種または2種以上を使用することができる。
上記卵類としては、全卵、生卵黄、殺菌全卵、殺菌卵黄、加塩全卵、加塩卵黄、加糖全卵、加糖卵黄、酵素処理卵黄、酵素処理全卵等を用いることができる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種または2種以上を使用することができる。
【0019】
上記ロールイン油脂に使用する油脂としては、特に限定されないが、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油などの各種植物油脂、動物油脂並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される一又は二以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。本発明においては、これらの油脂を単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0020】
また、上記ロールイン油脂は、ショートニング、マーガリン、バターなどの可塑性油脂組成物や、サラダ油、流動ショートニング、溶かしバターなどの流動状の形態であっても、また、粉末油脂の形態であってもよいが、生地中への折り込みが容易であること、及び、良好な層状構造が得られやすいことから、可塑性油脂組成物であることが好ましい。該可塑性油脂組成物が乳化物である場合、その乳化形態は、油中水型、水中油型、及び二重乳化型のいずれでも構わないが、油中水型であることが好ましい。
【0021】
また、可塑性油脂組成物の場合、その形状は、ロールインの方式として折り生地方式を使用する場合はシート状、練り生地方式を使用する場合は小片状に適宜成形して使用する。
上記ロールイン油脂を使用する場合、その使用量は、特に制限されるものではないが、上記小麦粉を主体とする生地100質量部に対し、好ましくは15〜130質量部、より好ましくは30〜100質量部である。
【0022】
また、上記フラワーペーストは、一般的に、小麦粉や穀物デンプン等の澱粉類、油脂類、乳や乳製品、糖類、卵類、水等を混合した後、加熱して糊化させることによって得られるものをシート状又は小片状に整形したものであれば制限なく使用することができる。なお、このシート状とは、積層状生地の連続生産法において、たとえばポンプ等でシート状となるように押し出し成形するものをも含むものである。また、上記小片状とは、立方体状、直方体状、角柱状、円柱状、半円柱状、球状等の形状で、その大きさが、立方体状又は直方体状のものは一辺の長さが3〜35mm、好ましくは5〜15mm、角柱状のものは断面となる多角形の一辺が3〜35mmで長さが10〜100mm、好ましくは5〜15mmで長さが10〜35mm、円柱状又は半円柱状のものは直径が3〜35mm以下で長さが10〜100mm、好ましくは5〜15mmで長さが10〜35mm、球状のものは直径が3〜35mm、好ましくは5〜15mm程度のものである。
【0023】
上記フラワーペーストに使用する澱粉類としては、一般に食品に使用される、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、タピオカ澱粉、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉、モチ米澱粉などの澱粉や、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉、全粒粉、ライ麦粉、大麦粉、米粉などの穀粉類を特に制限なく使用することができる。
また、上記フラワーペーストに使用する、乳や乳製品、糖類、卵類、水については、上記小麦粉を主体とする生地に使用できるものを使用することができる。
上記フラワーペーストを使用する場合、その使用量は、特に制限されるものではないが、上記小麦粉を主体とする生地100質量部に対し、好ましくは15〜130質量部、より好ましくは40〜100質量部である。
なお、上記ロールイン油脂と上記フラワーペーストを併用する場合、ロールイン油脂とフラワーペーストの比率は、特に制限されないが、ロールイン油脂1質量部に対しフラワーペーストが0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜2質量部である。
【0024】
また、併用する場合、ロールイン油脂と上記フラワーペーストの層数の比は、特に制限されず、ロールイン油脂とフラワーペーストの層数との比(前者:後者)が、前者:後者が1:27〜27:1であることが好ましく、より好ましくは1:12〜12:1である。
また、上記積層状生地の層数は、小麦粉を主体とする生地の層数が、好ましくは9〜1296層、より好ましくは27〜256層である。
上記積層方法については特に制限されず、リバースシーター他公知の機械や麺棒などにより生地を圧延し、これを折りたたむ方法や、圧延した生地を切断して積み重ねる方法、あるいはラミネーターで積層する方法など、各種公知の方法を採ることが可能である。
【0025】
次に、本発明で使用するコク味強化剤について述べる。
上記コク味強化剤としては、一般に使用されるコク味強化剤を適宜使用することができる。該コク味強化剤としては、発酵調味液、風味油、酵素処理風味材、乳製品や穀物類の乳酸発酵物、遊離アミノ酸等を適宜使用することができるが、本発明では、乳製品由来のコク味とは異質のコク味が付与されてしまうことがない点で遊離アミノ酸を使用することが好ましい。
【0026】
なお、本発明でコク味強化剤として遊離アミノ酸を使用する場合、遊離アミノ酸として、バリン及びフェニルアラニンからなる群の中から選ばれた1種又は2種を含む疎水性アミノ酸と、リジンを含む塩基性アミノ酸と、酸性アミノ酸とを併用することが好ましい。この場合、この3種のアミノ酸の含有量は、全遊離アミノ酸中の、上記のバリン及びフェニルアラニンからなる群の中から選ばれた1種又は2種を含む疎水性アミノ酸の含有量が、好ましくは30〜60質量%、さらに好ましくは35〜55質量%、最も好ましくは40〜50質量%であり、上記のリジンを含む塩基性アミノ酸の含有量が、好ましくは35〜65質量%、さらに好ましくは40〜60質量%、最も好ましくは45〜55質量%であり、上記の酸性アミノ酸の含有量が、好ましくは1〜20質量%、さらに好ましくは2.5〜15質量%、最も好ましくは5〜10質量%である。
【0027】
なお、上記遊離アミノ酸とは、遊離アミノ酸、又は、アミノ酸の塩酸塩や、ナトリウム塩、カルシウム塩等の塩の形態の状態、或いはこれらの塩の水和物の状態を指し、ペプチドや蛋白質を構成する等の2個以上のアミノ酸結合体は含まない。
なお、本発明でコク味強化剤として遊離アミノ酸を使用する場合、さらに、乳清ミネラルを併用することが好ましい。
上記の「乳清ミネラル」とは、乳又はホエー(乳清)から、可能な限り蛋白質や乳糖を除去したものであり、高濃度に乳の灰分を含有するという特徴を有する。そのため、そのミネラル組成は、原料となる乳やホエー中のミネラル組成に近い比率となる。
本発明では、上記乳清ミネラルとして、乳風味の向上効果の面で、固形分中のカルシウム含量が好ましくは2質量%未満、さらに好ましくは1質量%未満、最も好ましくは0.5質量%未満である乳清ミネラルを使用することが好ましい。尚、該カルシウム含量は低いほど好ましい。
【0028】
牛乳から通常の製法で製造された乳清ミネラルは、固形分中のカルシウム含量が5質量%以上である。上記カルシウム含量が2質量%未満の乳清ミネラルは、乳又はホエーから、膜分離及び/又はイオン交換、さらには冷却により、乳糖及び蛋白質を除去して乳清ミネラルを得る際に、あらかじめカルシウムを低減した乳を使用した酸性ホエーを用いる方法、あるいは、甘性ホエーから乳清ミネラルを製造する際にカルシウムを除去する工程を挿入することで得ることができるが、工業的に実施する上での効率やコストの点で、甘性ホエーから乳清ミネラルを製造する際にある程度ミネラルを濃縮した後に、カルシウムを除去する工程を挿入することで得る方法を採ることが好ましい。ここで使用するカルシウムを除去の工程としては、特に限定されず、調温保持による沈殿法等の公知の方法を採ることができる。
【0029】
本発明において、上記乳清ミネラルの配合割合は、遊離アミノ酸1質量部に対し、固形分として好ましくは0.006〜2.1質量部、より好ましくは0.03〜0.6質量部である。
上記コク味強化剤の物性は、供給時において流動状であることが、生地に薄膜状に均一に供給可能な点で好ましい。
なお、上記コク味強化剤の物性が粉末状〜固体である場合は、液状油、ショートニング、マーガリン等の油脂組成物中に分散又は溶解させる方法や、コク味強化剤を溶解した水溶液とする方法により流動状とすることができる。
本発明の積層状生地の製造方法は、上記小麦粉を主体とする生地に、上記ロールイン油脂及び/又はフラワーペーストをロールインし、上記積層を行なって積層状生地を得る際に、上記コク味強化剤を生地層間に供給する工程を含むものである。
ここで上記コク味強化剤を上記生地層間に供給する方法としては、生地の積層方法やコク味強化剤の物性に応じて、適宜選択可能であるが、コク味強化剤を塗布、又は、噴霧する方法によるものであることが、生地に薄膜状に均一に供給可能な点で好ましい。
【0030】
上記コク味強化剤を生地層間に供給する時期は、特に制限されないが、積層状生地の全層数に占めるコク味強化剤を供給された層数をより多くすることができる点で、積層の最初の圧延時から供給することが好ましい。それにより、その後何回折っても、全部の生地層にコク味強化剤成分が接触した形の積層状生地、及び、層状ベーカリー食品が得られるからである。
ここで、積層状生地の全層数に占めるコク味強化剤を供給された層数の割合は、積層状生地の全層数の50%以上であることが好ましく、より好ましくは65%以上、さらに好ましくは75%以上、最も好ましくは100%である。
なお、最初の圧延時とは具体的には折り生地方式の場合はロールイン油脂及び/又はフラワーペーストをロールインした後の最初に圧延した時であり、練り生地方式の場合は、最初の積層のために圧延した時である。
【0031】
また、上記コク味強化剤を生地層間に供給する回数は、特に制限されないが、生地に余分の吸水や吸油をさせないために、1回のみとすることが好ましい。
よって、上記コク味強化剤は、最初の圧延時に1回のみ供給することが最も好ましい。
また、上記コク味強化剤の供給量は、使用するコク味強化剤の種類によって異なるが、例えば、コク味強化剤として上記遊離アミノ酸を使用する場合は、小麦粉を主体とする生地に使用する小麦粉100質量部あたり、遊離アミノ酸の合計量が、好ましくは0.001〜2質量部、さらに好ましくは0.005〜1質量部、一層好ましくは0.01〜0.8質量部である。なお、上記コク味強化剤を供給する際に流動状の形態で供給した際は、生地表面を乾燥させるため1〜15分、好ましくは5〜10分のレストタイムをとってから折り操作に入ることが好ましい。
また、上記コク味強化剤を供給した後、加熱処理までに5℃以下で2〜24時間のリタードを1回、又は2回以上取ってもよい。
【0032】
次に、本発明の層状ベーカリー食品について述べる。
本発明の層状ベーカリー食品は、上記の製造方法により得られた積層状生地を、必要に応じ圧延 、成形、ホイロ、ラックタイムをとった後、加熱して得られたものである。
上記加熱方法としては、焼成、フライ、蒸しが挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上の処理を行うことができる。
【0033】
上記積層状生地を焼成する場合、ホイロは、イーストを含まないベーカリー生地を使
用する場合は必要なく、イーストを配合したベーカリー生地を使用する場合のみ必要である。体積が大きく、層剥れの少ない層状ベーカリー食品を得るためには、ホイロは、好ましくは25〜40℃、相対湿度50〜80%で20〜90分、さらに好ましくは32〜38℃、相対湿度50〜80%で30〜60分で行なう。
上記積層状生地を焼成する場合の焼成条件は、通常のベーカリー食品と同様、好ましくは160〜250℃、特に170〜220℃で行なうのが好ましい。160℃未満であると、火通りが悪くなりやすく、また良好な食感が得られにくい。また、250℃を超えると、焦げを生じて食味が悪くなりやすい。
【0034】
上記積層状生地をフライする場合、ラックタイムは特に有効である。ラックタイムをとることにより、ベーカリー生地の水分を飛ばし、表面を固化させることができ、結果として、生地の水分を減少させること及びフライ操作時の吸油を減少させることができる点で、ラックタイムをとることが望ましく、時間にして10〜40分、相対湿度50%以下の環境中で静置することにより好ましい効果が得られる。
上記積層状生地のフライ操作は、通常のドーナツ等と同様、好ましくは160〜250℃、特に170〜220℃で行なうのが好ましい。160℃未満であると吸油が多く、良好な食感が得られにくい。250℃を超えると、焦げを生じて食味が悪くなりやすい。
なお、上記積層状生地を蒸す場合の蒸し条件は、通常の蒸しケーキ同様、好ましくは80〜120℃、特に90〜100℃、湿度は好ましくは90〜100%、さらに好ましくは95〜100%で行うのが好ましい。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例により何等制限されるものではない。
【0036】
<コク味強化剤の製造>
〔コク味強化剤Aの製造〕
バリン16質量部、フェニルアラニン16質量部、グリシン6質量部、アラニン8質量部、リジン42質量部、アルギニン6質量部、及び、グルタミン酸6質量部を混合し、疎水性アミノ酸46質量%、塩基性アミノ酸48質量%、酸性アミノ酸6質量%からなるコク味強化剤Aを得た。
〔コク味強化剤Bの製造〕
上記コク味強化剤A75質量部と、下記の製法で得られた乳清ミネラルA(固形分98%)25質量部を混合し、コク味強化剤Bを製造した。
【0037】
<乳清ミネラルの製造>
チーズを製造する際に副産物として得られる甘性ホエーをナノ濾過膜分離した後、さらに逆浸透濾過膜分離により固形分が20質量%となるまで濃縮し、次いで、これをさらにエバポレーターで濃縮し、スプレードライ法により、固形分98質量%の乳清ミネラルAを得た。得られた乳清ミネラルAの固形分中のカルシウム含量は2.2質量%であった。
【0038】
〔実施例1〕
強力粉50質量部、薄力粉50質量部、食塩1質量部、ショートニング5質量部、及び 、水56質量部をミキサーボウルに投入し、フックを用いて低速2分、中速2分ミキシングして得られた生地を、1kgに分割し、軽く丸めた後、2℃の冷蔵庫内で15時間生地をリタードした。この生地を、シーターを用いて厚さ5mmまで圧延した。ここに、下記の配合・製法で得られたロールイン油脂組成物A400gを積載し、包み込み、厚さ5mmまで圧延した。
ここで、上記コク味強化剤Aを水に溶解して5質量%水溶液とし、上記小麦粉を主体とする生地1kgに対し2g(上記小麦粉を主体とする生地に含まれる小麦粉100質量部に対し遊離アミノ酸は0.016質量部)塗布した。
そのまま8分放置した後、3つ折りし、生地の方向を90°変えて、さらに厚さ5mmまで圧延し3つ折りをおこなった。
ここで、2℃で2時間リタードした後、厚さ5mmまで圧延し3つ折りし、生地の方向を90°変えて、さらに厚さ5mmまで圧延し3つ折りをおこなった。2℃で2時間リタードした後、生地を厚さ6mmまで圧延し、直径60mmの菊型で生地を打ちぬいた。この打ちぬいた生地の両面にグラニュー糖を付着せたのち、シーターで厚さ2mmまで圧延し、ピケ穴をあけ、室温で10分レストを取った後、210℃に設定した固定窯で10分焼成し、リーフパイを得た。
得られたリーフパイについては焼成1時間後に風味の評価を行なったところ、良好なコク味を示した。
【0039】
〔実施例2〕
強力粉70質量部、薄力粉30質量部、食塩1.6質量部、砂糖6質量部、脱脂粉乳3質量部、イーストフード0.1質量部、イースト4質量部、水54質量部、及び、練り込み油脂(マーガリン)5質量部をミキサーボウルに投入し、フックを用いて低速3分、中速5分ミキシングして得られた生地を、1kgに分割し、軽く丸めた後、2℃の冷蔵庫内で15時間生地をリタードした。この生地を、シーターを用いて厚さ5mmまで圧延した。ここに、下記の配合・製法で得られたロールイン油脂組成物A200gを積載し、厚さ5mmまで圧延し、包み込み、厚さ5mmまで圧延した。
ここで、上記コク味強化剤Aを水に溶解して5質量%水溶液とし、上記小麦粉を主体とする生地1kgに対し2g(上記小麦粉を主体とする生地に含まれる小麦粉100質量部に対し遊離アミノ酸は0.016質量部)塗布した。
そのまま8分放置した後、3つ折りし、生地の方向を90°変えて、さらに厚さ5mmまで圧延し3つ折りをおこなった。
ここで、2℃で2時間リタードした後、厚さ5mmまで圧延し3つ折りし、生地を厚さ6mmまで圧延し、直径60mmの菊型で生地を打ちぬいた。この打ちぬいた生地の両面にグラニュー糖を付着させた後、シーターで厚さ4mmまで圧延し、ピケ穴をあけ、32℃・50分のホイロをとり、室温で10分レストを取った後、210℃に設定した固定窯で10分焼成し、リーフデニッシュパイを得た。
得られたリーフデニッシュパイについては焼成1時間後に風味の評価を行なったところ、良好なコク味を示した。
【0040】
〔実施例3〕
実施例2におけるコク味強化剤Aをコク味強化剤Bに変更し、塗布量も2gから2.7gに変更した以外は、実施例2と同様の配合・製法で、リーフデニッシュパイを得た。
得られたリーフデニッシュパイについては焼成1時間後に風味の評価を行なったところ、実施例2で得られたリーフデニッシュパイに比べ更に良好なコク味を示した。
【0041】
〔比較例1〕
実施例2におけるコク味強化剤Aを使用しない以外は、実施例2と同様の配合・製法で、リーフデニッシュパイを得た。
得られたリーフデニッシュパイについては焼成1時間後に風味の評価を行なったところ、コク味が全く感じられなかった。
【0042】
(ロールイン油脂組成物Aの調製)
パームステアリン(ヨウ素価=33)25質量部と、豚脂45質量部と、大豆液状油30質量部と、乳化剤としてステアリン酸モノグリセリド0.4質量部とレシチン0.1質量部を混合溶解した油相81質量%と、水16質量%、食塩1質量%、脱脂粉乳2質量%を混合溶解した水相とを、常法により油中水型の乳化物とし、急冷可塑化工程(冷却速度−20℃/分以上)にかけ、マーガリンタイプのロールイン油脂組成物を得た。なお、得られたロールイン油脂組成物は縦210mm、横285mm、厚さ9mmのシート状に成形した。
【0043】
〔実施例4〕
練り込み油脂(マーガリン)25質量部、上白糖25質量部、卵黄16質量部をミキサーボウルに投入し、竪型ミキサーにて低速3分、中速4分クリーミングした。次いで、強力粉80質量部、薄力粉20質量部、食塩1.0質量部、イースト6質量部、イーストフード0.1質量部、水30質量部をミキサーボウルに投入し、竪型ミキサーにて低速3分、中速8分ミキシングし、スイートロール生地を得た。
得られた積層状生地(スイートロール生地)は、1kgに分割し、フロアタイム30分(25℃)とった後、2℃で12時間静置した。次いで、リバースシーターを用いて、空折り4つ折りを1回行ない、この生地上に、下記の配合・製法で得られたシート状フラワーペーストA300gを積載し、厚さ5mmまで圧延し、包み込み、厚さ5mmまで圧延した。
ここで、上記コク味強化剤Aを水に溶解して5質量%水溶液とし、上記小麦粉を主体とする生地1kgに対し2g(上記小麦粉を主体とする生地に含まれる小麦粉100質量部に対し遊離アミノ酸は0.02質量部)塗布した。
そのまま8分放置した後、3つ折りし、生地の方向を90°変えて、さらに厚さ5mmまで圧延し3つ折りをおこなったのち、厚さ10mmまで圧延し、幅30mm、長さ150mmにカットして中央に1本切り込みを入れ、端部を3回くぐらせた蒟蒻成型とし、これを天板に並べ、温度34℃、相対湿度80%のホイロで50分醗酵させた後、上火200℃、下火180℃に設定した固定窯で14分焼成し、スイートロールを得た。
得られたスイートロールについては焼成1時間後に風味の評価を行なったところ、良好なコク味を示した。
〔比較例2〕
実施例4におけるコク味強化剤Aを使用しない以外は、実施例4と同様の配合・製法で、スイートロールを得た。
得られたスイートロールについては焼成1時間後に風味の評価を行なったところ、コク味が全く感じられなかった。
【0044】
<シート状フラワーペーストAの製造>
パーム油24.5%及びナタネ極度硬化油0.5%に、キサンタンガム0.01%及びペクチン0.3%を添加し、油相とした。水30%、デンプン4%、小麦粉3%、ゼラチン2%、砂糖混合果糖ブドウ糖液糖27%、脱脂粉乳3%、乾燥全卵5%及び香料0.69%を混合し、水相とした。この油相と水相とを混合、乳化、均質化した後、加熱殺菌し、次いで、22℃まで冷却した後、長さ400mm、幅200mm、厚さ8mmのシート状に成形し、カスタード風味のシート状フラワーペーストを得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コク味強化剤を生地層間に供給する工程を含むことを特徴とする積層状生地の製造方法。
【請求項2】
上記コク味強化剤が遊離アミノ酸であることを特徴とする請求項1記載の積層状生地の製造方法。
【請求項3】
上記コク味強化剤を、流動状の形態で供給することを特徴とする請求項1又は2記載の積層状生地の製造方法。
【請求項4】
上記コク味強化剤の供給方法が、塗布又は噴霧であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の積層状生地の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項記載の製造方法で得られた積層状生地を加熱処理することにより得られた層状ベーカリー食品。

【公開番号】特開2010−252666(P2010−252666A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105032(P2009−105032)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】