説明

積層生地

【課題】生地表面のざらつきや縮みが少なく、焼いた時に内層が均一に良好に膨らむ生地であって、油っぽくなく、食感に優れた食品を提供可能な積層生地を提供する。
【解決手段】有機酸モノグリセリド、乳化剤および糖類を含有する積層生地。好ましくは、該有機酸モノグリセリドはラメラ構造体を形成し、乳化剤としてはショ糖脂肪酸エステルおよび/またはポリグリセリン脂肪酸エステルが、糖類としてはオリゴ糖が好ましい。この積層生地を用いて製造されたパイ、ペストリーまたはクロワッサンなどの食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイやペストリー、クロワッサンなどの生地として用いられる積層生地に関するものであり、より詳しくは、焼いたときに膨らみがよく、油っぽくなく食感のよい食品を製造することができる積層生地に関する。
本発明はまた、この積層生地を用いて製造された食品に関する。
【背景技術】
【0002】
パイやペストリー、クロワッサンなどは小麦粉などの穀粉を主材料として構成される生地層とバターやマーガリン、チョコレートなどを含むロールイン油脂から成る油脂層が組合わさった積層生地を用いて製造されている。
【0003】
これらの食品はいずれも軽く、サクミのある食感が求められており、この食感を達成するために、油脂や砂糖の配合比率を多くすることが行われているが、実際には食した際に、口の中でダマになり、ねとつく食感となり、また、粉っぽい感じになるという欠点があった。更に、油脂を増量することにより、生地の型抜き性が悪くなる、生地の伸展性は一時的に良くなるものの経時的に縮みが発生し厚みが不均一になる、生地表面がざらつく、生地から油浸みが生じる等の製造上の問題点があることに加えて、焼成時に内層が均一に膨らまないため全体のボリュームも不十分である(浮きが悪い)という問題や、焼成後、保存中に油の染み出しによるべとつきや、油脂の劣化による風味の低下という問題が生じていた。これに加えて、油っぽく高カロリーになるという欠点もあった。
【0004】
これらの製造上の問題点を解決するために、粉末原料と冷凍したシート状油脂を混合したものを使用することで、特殊なロールイン油脂製造機が不要となる簡便な練パイ生地の製造方法が提案されている(特許文献1)。また、短時間で火通り良く、内層各層の膨らみが良好であり、食感も良い折パイを製造するために、生地層中に固形状油脂を分散させる方法が提案されている(特許文献2)。さらに、内層が均一で浮きが良好であり、軽い食感で、口溶けが良いパイを製造するために、パイ生地中の一部を水中油型乳化物とする方法も提案されている(特許文献3)。
【0005】
しかし、これらの方法では、いずれも油脂の形状や状態が異なるのみで、配合される油脂量は通常の製造方法と変わらない、あるいは通常の製造方法よりも多くなるため、生地からの油浸みを完全に抑制することができず、焼成後、油っぽく高カロリーとなる場合があった。更に、油脂が劣化した場合に風味に悪影響を及ぼす可能性もあった。
【0006】
油っぽさを低減させるために、水と食品表面活性物質(例えばモノグリセリド)を含むラメラ相などの中間相を脂肪代用品として用い、生地に配合する技術が提案されている(特許文献4)。この方法は、低脂肪食品を製造する点では効果的であるが、生地物性や焼成後の食感に関しての検討はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−335850号公報
【特許文献2】国際公開WO2002−017727号パンフレット
【特許文献3】特開2010−57405号公報
【特許文献4】特表平10−501696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、生地表面のざらつきや縮みが少なく、焼いた時に内層が均一に良好に膨らむ生地であって、油っぽくなく、食感に優れた食品を提供可能な積層生地を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者が鋭意検討した結果、積層生地に有機酸モノグリセリドを添加することにより、上記課題を解決できる上に、ロールイン油脂量を低減しても内層が均一に膨らみ食感も良好となることが分かり、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明は、有機酸モノグリセリド、乳化剤および糖類を含有する積層生地、および、該積層生地を用いて製造された食品、に存する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の積層生地は、生地表面のざらつきや縮みが少なく、焼いた時の内層の膨らみが良好である。また、本発明の積層生地を用いて製造された食品は、油っぽくなく、食感に優れ、積層状態が良好(きれい)である。さらに、ロールイン油脂量を低減しても内層が均一に膨らみ食感も良好である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定はされない。
【0013】
本発明において、「積層生地」とは、少なくとも一部に複数枚の生地が積層された構造を有するものであり、ロールイン油脂を挟み込んだものであってもよく、ロールイン油脂を用いないものであってもよい。
また、本発明の積層生地の形状は特に制限はなく、シート状であってもよく、棒状であってもよい。また、渦巻き状であってもよい。
【0014】
[積層生地]
本発明の積層生地は、有機酸モノグリセリド、乳化剤および糖類を含有することを特徴とする。
【0015】
<有機酸モノグリセリド>
本発明で使用する有機酸モノグリセリドは、グリセリン1分子に脂肪酸1分子と有機酸1分子が結合した構造を有し、一般的には、有機酸の酸無水物と脂肪酸モノグリセリドを反応させることにより得られる。反応は、通常、無溶媒条件下で行われ、例えば無水コハク酸と炭素数18のモノグリセリドの反応では、温度120℃前後において90分程度で反応が完了する。かくして得られた有機酸モノグリセリドは、通常、有機酸、未反応モノグリセリド、ジグリセリド、その他オリゴマーを含む混合物となっている。本発明においては、このような混合物をそのまま使用してもよい。有機酸モノグリセリドの純度を高めたい場合は、蒸留モノグリセリドとして市販されているものを使用できる。また、有機酸部分が一部中和されたものを使用してもよい。
【0016】
上記の有機酸としては、例えば、コハク酸、クエン酸、酒石酸、ジアセチル酒石酸、リンゴ酸、アジピン酸、グルタル酸、マレイン酸、フマル酸などが挙げられる。これらの中では、食品用途に使用されるコハク酸、クエン酸、ジアセチル酒石酸が好ましい。
【0017】
上記の脂肪酸としては、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸などの炭素数8〜22の飽和または不飽和の脂肪酸が挙げられる。これらの中では風味の観点からステアリン酸を主成分とする脂肪酸が好ましく、特に構成脂肪酸の70重量%以上がステアリン酸であるものが好ましい。
【0018】
有機酸モノグリセリドとしては1種のみを用いてもよく、これを構成する有機酸や脂肪酸が異なるものを2種以上混合して用いてもよい。
【0019】
上記の有機酸モノグリセリドと水との混合物は、これらの量比、温度変化により様々な相状態をとることが可能である。これらの相状態のうち、本発明では保水力に優れる有機酸モノグリセリドのラメラ構造体(本発明では、これを「ラメラ構造体」と略称することがある。)を利用することが好ましい。このラメラ構造体については後述する。
【0020】
<乳化剤>
本発明で使用される乳化剤としては、特に制限されないが、ショ糖脂肪酸エステルやポリグリセリン脂肪酸エステルが好ましい。これらの乳化剤を用いることにより、有機酸モノグリセリドのラメラ構造が安定化されることに加えて、これを積層生地中に均一に分散させることができる。
【0021】
ショ糖脂肪酸エステルとしては、親水性が高く(HLB値が通常5〜18、好ましくは8〜15である。)、水分散性に優れ、高温で高粘性の水分散液の状態となるものが好ましい。構成脂肪酸として、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸などの炭素数14〜22の飽和または不飽和の脂肪酸が挙げられる。これらの中では、炭素数14〜18の飽和脂肪酸が好ましい。また、構成脂肪酸の70重量%以上がステアリン酸である脂肪酸が更に好ましい。
【0022】
ショ糖脂肪酸エステルは、それ自体既知の食品用乳化剤であり、市販されているものを使用できる。ショ糖脂肪酸エステルの市販品としては、例えば、「リョートーシュガーエステルS−1670」、「リョートーシュガーエステルP−1670」、「リョートーシュガーエステルM−1695」、「リョートーシュガーエステルO−1570」、「リョートーシュガーエステルS−1170」、「リョートーシュガーエステルS−570」、「リョートーシュガーエステルS−370」、「リョートーシュガーエステルB−370」、「リョートーシュガーエステルS−170」、「リョートーシュガーエステルER−190」、「リョートーシュガーエステルPOS−135」(以上、三菱化学フーズ社製、商品名);「DKエステルF−160」、「DKエステルF−140」、「DKエステルF−110」、「DKエステルF−70」、「DKエステルF−50」(以上、第一工業製薬社製、商品名)等が挙げられる。
【0023】
ポリグリセリン脂肪酸エステルも、ショ糖脂肪酸エステルと同様に、親水性が高く(HLB値が通常5〜18、好ましくは9〜16である。)、水分散性に優れ、高温で高粘性の水分散液の状態となるものが好ましい。斯かるポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、特に限定されないが、ポリグリセリンの平均重合度は通常2〜20、好ましくは3〜10であるものが挙げられる。また、構成脂肪酸は、通常、炭素数14〜22の飽和または不飽和の脂肪酸であり、構成脂肪酸の70重量%以上がステアリン酸であるポリグリセリン脂肪酸エステルが好ましい。なお、ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、グリセリンの重合度の揃ったものを用いることも出来、重合度が2のものはジグリセリン脂肪酸エステル、重合度が3のものはトリグリセリン脂肪酸エステルと呼ばれ、これらも本発明におけるポリグリセリン脂肪酸エステルに包含される。
【0024】
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、それ自体既知の食品用乳化剤であり、市販されているものを使用できる。ポリグリセリン脂肪酸エステルの市販品としては、例えば、「リョートーポリグリエステルS−10D」、「リョートーポリグリエステルM−10D」、「リョートーポリグリエステルS−24D」、「リョートーポリグリエステルS−28D」、「リョートーポリグリエステルO−50D」、「リョートーポリグリエステルB−100D」(以上、三菱化学フーズ社製、商品名);「SYグリスターMSW−7S」、「SYグリスターMS−5S」、「SYグリスターMS−3S」、「SYグリスターTS−3S」、「SYグリスターMO−5S」、「SYグリスタML−750」、「SYグリスターHB−750」、「SYグリスターCR−500」(以上、阪本薬品工業社製、商品名);「サンソフトQ−18S」、「サンソフトQ−14S」、「サンソフトQ−12S」、「サンソフトA−141E」、「サンソフトA−17E」(以上、太陽化学社製、商品名)、「ポエムDP−95RF」、「ポエムTRP−97RF」(以上、理研ビタミン社製、商品名)等が挙げられる。
【0025】
上記のショ糖脂肪酸エステルおよびポリグリセリン脂肪酸エステルは1種を単独で用いてもよく、ショ糖脂肪酸エステルの1種または2種以上と、ポリグリセリン脂肪酸エステルの1種または2種以上を併用してもよい。
【0026】
<糖類>
本発明で使用される糖類としては、例えば上白糖、粉糖、液糖、砂糖、麦芽糖、乳糖、転化糖、異性化糖、ブドウ糖、果糖、水飴、トレハロース、ソルビトール、マルチトール、ラクチトール、エリスリトール、マンニトール、はちみつ等の糖および糖アルコール、各種オリゴ糖、それらの混合物を使用することが出来る。
【0027】
これらの中ではオリゴ糖が好ましい。
オリゴ糖としては、マルトオリゴ糖(好ましくは重合度3〜7)、ニゲロオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、パノースオリゴ糖、ゲンチオオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、乳果オリゴ糖、それらのシラップ等が挙げられる。上記の糖類は、目的に応じ、適宜選択して使用され、例えば、生地の冷凍耐性を向上させる場合にはマルトオリゴ糖や糖アルコールが好ましい。
【0028】
<ラメラ構造体>
前述の如く、本発明において、有機酸モノグリセリドはラメラ構造体を形成していることが好ましい。
【0029】
ラメラ構造体とは、有機酸モノグリセリドを水に分散させた際に有機酸モノグリセリド2分子が親水基部分を水側に向け、疎水基部分(脂肪酸)が互いに向き合い、これが2次元的に広がった構造のことである。有機酸モノグリセリドは低濃度から高濃度領域の広い範囲でラメラ構造を形成し易いことが知られており、ナトリウム塩の状態において、濃度が約35〜85重量%のような高濃度領域で且つ温度が50℃以上の条件でラメラ構造体を形成する。この場合、ラメラ構造体が何層にも重なった状態が認められ、水溶液の粘度も高くなる。濃度が85重量%よりも高い場合は固体状態となり、濃度が35重量%よりも低い場合は水溶液にラメラ構造体が分散して粘性が比較的小さい状態となる。作業性などを考慮すると、低濃度かつ高温領域でラメラ構造体を形成させるのが好ましい。
【0030】
ただし、ラメラ構造体は、不安定であるため、乳化剤により構造を安定化させることが必要である。この安定化されたラメラ構造体は、親水基部分の強い水和力により層間に多量の水を保持し、その結果、小麦粉などに由来する澱粉粒からの水分移行が抑制される。
【0031】
本発明で使用するラメラ構造体は、有機酸モノグリセリドのみから構成されるものが好ましいが、有機酸モノグリセリドのみから構成されるラメラ構造体の一部が他の化合物等で置換された状態であってもよい。例えば、ショ糖脂肪酸エステルやポリグリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤で一部が置き換えられていてもよい。
【0032】
ラメラ構造体は、有機酸モノグリセリドを水に分散させるだけで常に生じるものではないが、有機酸モノグリセリドを含有する水分散液を物理的に攪拌して再分散せしめることにより、分散液として調製することが出来る。
【0033】
有機酸モノグリセリドによってラメラ構造体を形成する場合、その調製条件は、有機酸モノグリセリドと水との量比(重量比)は、通常1:1000〜10:1、好ましくは1:100〜1:1である。
また、有機酸モノグリセリドを水に分散させて有機酸モノグリセリドを含有する水分散液を調製する際の温度は、通常30〜90℃、好ましくは50〜70℃、これを物理的に攪拌して再分散させる際の温度は、通常30〜90℃、好ましくは50〜70℃である。該温度とは、ラメラ構造体形成時の水の温度を意味する。上記の物理的分散には、例えば気泡の混入を避けるため、例えばアンカーミキサー等を使用してゆっくりと撹拌する。撹拌速度は、通常10〜100rpm、好ましくは20〜50rpmである。すなわち、使用する有機酸モノグリセリドの種類に応じて適当な撹拌速度で撹拌することでラメラ構造体が得られる。一般的に、有機酸モノグリセリドを構成する脂肪酸の鎖長が長くなるにつれて、ラメラ構造体の形成温度が高くなる。前記温度範囲で、アンカーミキサー等を用いて、有機酸モノグリセリドと水の混合物を、上記のように、ゆっくりと撹拌することにより有機酸モノグリセリドのラメラ構造体が調製できる。この場合、有機酸モノグリセリドの水分散液中の含有量は、通常0.001〜30重量%、好ましくは0.01〜30重量%、より好ましくは0.1〜10重量%である。
【0034】
上記の方法で得られた水分散液中のラメラ構造体は比較的安定ではあるが、水を除去して乾燥固化すると、その構造は変化する。従って、ラメラ構造体を分散した水分散液は乾燥固化させずに積層生地に使用する。また、ラメラ構造体を分散した水分散液に高い剪断をかけると、ラメラ構造が変化する場合があるため、高い剪断をかけないことが好ましい。具体的には、例えば処理圧力20MPa(ゲージ圧)以上の高圧ホモジナイザーやコロイドミルなどの使用は避けた方が好ましい。
【0035】
ラメラ構造体が形成されているか否かの確認は例えば偏光顕微鏡による観察によって容易に行うことが出来る。ラメラ構造体が存在する場合は偏光十字が見られる。更に、ラメラ構造体の微細構造は、電子顕微鏡観察により観察することができる。例えば試料を液体窒素で凍結させ、高真空条件下で割断し、割断表面に金属を蒸着させることにより試料のレプリカを作製し、透過型電子顕微鏡(TEM)により観察する。これにより層状のラメラ構造体を観察することができる。
【0036】
<有機酸モノグリセリド、乳化剤および糖類含有組成物>
本発明では、有機酸モノグリセリド、特に有機酸モノグリセリドのラメラ構造体と乳化剤と糖類を含む組成物を調製し、この組成物を積層生地調製の際に配合して使用することが好ましい。なお、糖類は有機酸モノグリセリドのラメラ構造体に水溶液として加えるのが好ましいが、シラップの場合は水溶液とせずに、そのままラメラ構造体に配合することが出来る。また、乳化剤についても糖類と共に水溶液として添加するのが好ましい。
【0037】
即ち、後述の実施例に示されるように、乳化剤と糖類とを含む水溶液を調製し、一方、有機酸モノグリセリドのラメラ構造体の水分散液を調製し、ラメラ構造体の水分散液に、乳化剤と糖類を含む水溶液を添加して、有機酸モノグリセリド、乳化剤および糖類含有組成物を調製することが好ましい。
【0038】
この場合、有機酸モノグリセリド、乳化剤および糖類含有組成物中の有機酸モノグリセリドの含有量は、通常0.001〜30重量%、好ましくは0.01〜30重量%、より好ましくは0.1〜10重量%である。また、乳化剤の含有量は通常0.1〜50重量%、好ましくは1〜20重量%、より好ましくは3〜10重量%であり、糖類の含有量は通常1〜80重量%、好ましくは10〜60重量%、より好ましくは30〜50重量%である。
【0039】
組成物中の有機酸モノグリセリドの含有量が上記範囲内であることにより安定したラメラ構造体を形成し易くなる。また、組成物中の乳化剤の含有量が上記範囲であることにより、ラメラ構造体を安定化させ易くなる。更に、組成物中の糖類の含有量が上記範囲であることによりラメラ構造体を分散させ易くなる。
【0040】
<積層生地中の含有量>
本発明の積層生地中の有機酸モノグリセリドの含有量は、通常0.000001〜0.5重量%、好ましくは0.00001〜0.2重量%、更に好ましくは0.0001〜0.05重量%である。有機酸モノグリセリドの含有量が少ない場合は、積層生地に対する効果が不十分となり、多い場合は、積層生地中に均一に分散しなくなる傾向がある。
【0041】
本発明の積層生地中の乳化剤の含有量は、通常0.00001〜0.5重量%、好ましくは0.0001〜0.2重量%、更に好ましくは0.0003〜0.1重量%である。乳化剤の含有量が少ない場合は、有機酸モノグリセリドのラメラ構造体の分散が不十分となり、多い場合は、有機酸モノグリセリドのラメラ構造体を不安定化する場合がある。
【0042】
糖類の含有量は特に制限はないが、積層生地中の小麦粉100重量部に対して通常0.01〜50重量部、好ましくは0.1〜40重量部、さらに好ましくは1〜30重量部である。
糖類の含有量は、積層生地から製造される食品の種類によっても異なるが、前述の有機酸モノグリセリド、乳化剤および糖類含有組成物中に含まれる糖類のみでは積層生地に必要な糖類添加量を満たすことができない場合が多く、従って、通常の場合、積層生地製造時には、前述の有機酸モノグリセリド、乳化剤および糖類含有組成物中の糖類とは別に、糖類の必要量を混合する。
【0043】
<その他の成分>
本発明の積層生地には、上記有機酸モノグリセリド、乳化剤および糖類以外のその他の成分として、通常、小麦粉を含有し、その他、油脂類、塩類、水、さらに必要に応じて卵などを含有することが好ましい。
【0044】
本発明で使用する小麦粉は、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、特級薄力粉等の1種または2種以上が挙げられる。
【0045】
本発明で使用する油脂類の種類は、特に限定されないが、例えば、ナタネ油、ナタネ硬化油、コメ油、大豆油、コーン油、サフラワー油、ヒマワリ油、綿実油、ゴマ油、オリーブ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、ヤシ硬化油、カカオ脂等の植物油;バターオイル、牛脂、豚脂、鶏脂、魚油等の動物油;それらの水素添加油、それらの1種以上の混合物によるエステル交換油;これら油脂類を用いて製造されるマーガリンやショートニング等が挙げられ、これらの油脂類を単独或いは2種以上混合して用いることができる。また、油脂の形状としては、ダイス状、チップ状、シート状などいずれの形状のものを使用してもよく、シート状油脂としては、ロールイン油脂などが挙げられる。ロールイン油脂としては、例えば、チョコレートシートのような、カカオ脂と澱粉、砂糖などを混合したものを用いてもよい。
【0046】
なお、積層生地における油脂類の割合は、特に制限はないが、積層生地中の小麦粉100重量部に対して、通常30〜150重量部、好ましくは50〜120重量部、より好ましくは20〜90重量部である。油脂類の割合が上記下限値よりも少ないと、生地がまとまりにくく、食感も硬くなり過ぎる場合がある。油脂類の割合が上記上限値より多いと、生地がべたつき作業性が悪くなる場合がある。
【0047】
本発明で使用する卵は、特に限定はしないが、全卵、生卵黄、生卵白、凍結卵黄、凍結卵白等が挙げられる。また、積層生地が卵を含む場合、卵の含有割合は、小麦粉100重量部に対して50重量部以下、好ましくは1〜40重量部、より好ましくは3〜30重量部である。積層生地における卵の割合が多過ぎると、生地が軟化しすぎる場合がある。
【0048】
本発明で使用する塩類としては、食塩、重曹、重炭酸アンモニウムなどの1種または2種以上が挙げられる。また、ペストリーやクロワッサンを製造する場合は各種塩類を含むイーストフードなどを用いることができる。積層生地における塩類の割合は、積層生地から製造される食品の種類により異なるが、通常、小麦粉100重量部に対して、0.1〜3重量部、好ましくは0.5〜2重量部である。
【0049】
本発明の積層生地には必要に応じて、さらに全脂粉乳、脱脂粉乳などの乳製品やイーストを含有させることができる。さらに、本発明の効果を損なわない範囲において、前記以外の乳化剤の他、甘味料、香料、ビタミン、抗酸化剤などの公知の配合剤を加えてもよい。
【0050】
上記の乳化剤として、レシチン、リゾレシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
乳化剤以外の任意成分としては、例えば、ゲル形成物質(例えば、グルコマンナン、ガラクトマンナン、寒天、ゼラチン、ペクチン、カラギーナン、カードラン、キサンタンガム、ジェランガム、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸類、ポリグルタミン酸類等)、澱粉(例えば、コーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉、タピオカ澱粉、ハイアミロースコーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、さご澱粉、馬鈴薯澱粉、葛澱粉、甘藷澱粉等の天然澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉、架橋澱粉、過ヨウ素酸酸化澱粉、ヒドロキシプロピル化澱粉等の化工澱粉、粒状化澱粉、アルファ化澱粉、湿熱処理澱粉などの加工澱粉等)、有機酸(例えば、フマル酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、ジアセチル酒石酸、リンゴ酸、アジピン酸、グルタル酸、マレイン酸等)、リポ蛋白(例えば、乳性蛋白とレシチンと水の混合物、卵黄蛋白とレシチンと水の混合物、大豆蛋白とレシチンと水の混合物、トウモロコシ蛋白とリン脂質と水の混合物等)、甘味料、香料(例えば、オレンジフラワーウオーター、バターフレーバー、ミルクフレーバー、バニラオイル等)、ビタミン、抗酸化剤などが挙げられる。
【0051】
<調製方法>
本発明の積層生地は通常のパイ生地(折りパイ・練りパイ用)やペストリー生地などの製造方法に準じて調製すればよい。すなわち、まず、小麦粉、糖類、水、食塩、イーストなどを適宜選択使用してミキサーで混合する。生地がまとまったら、冷蔵庫で寝かし、続いてロールイン油脂を生地に練りこむ。なお、パイ生地のうち練りパイについては、ミキサー混合時にダイズ状やチップ状の小片の、バター、マーガリン、ショートニングなどの可塑性油脂を混合する。
【0052】
上記生地にロールイン油脂を練りこむ操作は公知の従来方法で行うことができる。例えば、冷蔵庫で寝かせた生地を取り出し、生地とロールイン油脂を同じ面積になるように調整して、シーターなどの機械を用いて何度か折り込みながら伸展させる。その結果、最終的に油脂層が4〜512枚となる積層生地が得られる。
【0053】
なお、前述の有機酸モノグリセリド、乳化剤および糖類含有組成物は、このような積層生地の製造工程のうち、小麦粉、糖類、水、食塩、イーストのミキシング工程において、他の材料と混合することが好ましい。
【0054】
[食品]
上述のようにして調製された本発明の積層生地を、通常の条件でオーブン等で焼成することにより、本発明の食品を製造することができる。
【0055】
本発明の積層生地から製造される食品としては、折パイ(フィュタージュ)に分類されるタルト、タルトレット、ミルフィーユ、フラン、アップルパイ、ジャムパイ、シュツルーテル、ミートパイ、練りパイ(パートブリゼ)、デニッシュペストリー、クロワッサンなどを挙げることができるが、何らこれらに限定されるものではない。
【0056】
本発明の積層生地は調製直後に用いてもよく、また、上記のように冷蔵で寝かせた後に加工してもよく、冷凍保存後に解凍して食品に加工してもよい。特に、冷凍保存される場合、本発明の積層生地は、有機酸モノグリセリド及び糖類を含むことにより、氷の結晶を小さくする効果があるため、解凍時の生地劣化を抑制することができ、好ましい。
【実施例】
【0057】
以下に本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。なお、以下において、「%」および「部」は何れも重量基準を意味する。
【0058】
〔有機酸モノグリセリド、乳化剤および糖類含有組成物の調製〕
[製造例1]
乳化剤としてHLB11のショ糖ステアリン酸エステル(三菱化学フーズ社製「リョートーシュガーエステルS−1170」)3.5部を、室温にて、糖類としてマルトオリゴ糖水溶液(三和澱粉工業社製「オリゴトース」)68部に分散し、撹拌しながら加温して75℃まで昇温し、ショ糖ステアリン酸エステルが分散したオリゴ糖水溶液(以下「オリゴ糖液」という)を得た。
一方で、有機酸モノグリセリドとして、コハク酸モノグリセリド(理研ビタミン社製「ポエムB−30」、脂肪酸としてステアリン酸を用いたもの)3.5部を脱塩水25部に分散し、60℃まで昇温しながら攪拌し、ラメラ構造体の水分散液を得た。
前記のオリゴ糖液を55℃まで冷却し、上記のコハク酸モノグリセリドのラメラ構造体の水分散液を加えて20分間攪拌した。次いで、45℃まで冷却することにより、ショ糖ステアリン酸エステルおよびマルトオリゴ糖を含むラメラ構造体の水分散液を調製した(以下「組成物A」と呼ぶ)。なお、組成物A中のコハク酸モノグリセリドのラメラ構造体の確認は偏光顕微鏡による観察によって行った。
【0059】
この組成物Aは、ショ糖ステアリン酸エステルを3.5重量%、マルトオリゴ糖を43重量%、コハク酸モノグリセリドのラメラ構造体を3.5重量%含むものである。
【0060】
[製造例2]
有機酸モノグリセリドとしてジアセチル酒石酸モノグリセリド(ダニスコ社製「PANODAN150」、脂肪酸としてステアリン酸を用いたもの)を用いた以外は、製造例1と同様にして、ショ糖ステアリン酸エステルおよびマルトオリゴ糖を含むラメラ構造体の水分散液を調製した(以下「組成物B」と呼ぶ)。なお、組成物B中のジアセチル酒石酸モノグリセリドのラメラ構造体の確認は偏光顕微鏡による観察によって行った。
【0061】
この組成物Bは、ショ糖ステアリン酸エステルを3.5重量%、マルトオリゴ糖を43重量%、ジアセチル酒石酸モノグリセリドのラメラ構造体を3.5重量%含むものである。
【0062】
〔練りパイ作製の実施例と比較例〕
[実施例1]
表1に記載の材料を配合し、以下の製造条件により、練りパイ生地を作製した。
【0063】
<製造条件>
[1]ミキシング:チップ状マーガリン以外のすべての原料をミキサーボウルに入れ、低速で撹拌し、続いてチップ状マーガリンを加えて低速で1〜2分間、捏上温度約10℃でミキシングした。
[2]寝かし:冷蔵庫で3時間寝かせた。
[3]シーター:3つ折り1回、4つ折り2回で48層のシート状生地とした。
[4]生地成形:ローラーカッターで10mm幅に印を付け包丁で生地を切った(長さ40mm×幅14mm×厚さ10mmにカット)。霧吹きで水噴霧後グラニュー糖をまぶした。
[5]焼成:上火210℃、下火210℃で15分間焼成した。
【0064】
焼成後の練りパイの状態および食感について評価した。結果を表2に示す。
【0065】
[比較例1]
表1に記載の配合のとおり、組成物Aを使用しない以外は、実施例1と同様にして、練りパイを作製し、評価した。結果を表2に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
表2から明らかなように、組成物Aを配合した練りパイ生地を用いて製造された練りパイは、内層の膨らみが良好であり、食感は、サクサク感(サクみ)があり、口溶けも良好であった。
【0069】
〔折りパイ作製の実施例と比較例〕
[実施例2,3]
表3に記載の材料を配合し、以下の製造条件により、折りパイ生地を作製した。
【0070】
<製造条件>
[1]ミキシング:ロールイン油脂以外のすべての原料を混合し、低速で2分間、中速で1分間ミキシングした。
[2]寝かし:冷蔵庫で3時間寝かせた(生地中心温度は約10℃)。
[3]シーター:ロールイン油脂と生地を同じ面積に調整し、ロールイン油脂を生地の間に挟み、2つ折り2回、3つ折り3回で厚み4mm(108層)のシート状生地とした。
[4]生地成形:パイローラーで穴あけ後、φ8cmの金型で型抜きした。
[5]焼成:上火200℃、下火195℃で16分間焼成した。
【0071】
捏ね上げ時の生地状態、シーター後のロールイン油脂折り込み時の積層生地の状態、焼成後の折りパイの厚みについて評価した。結果を表4に示す。
【0072】
[比較例2、3]
表3に記載の配合のとおり、組成物Bを使用しない以外は、実施例2,3と同様にして、折りパイを作製し、評価した。結果を表4に示す。
【0073】
【表3】

【0074】
【表4】

【0075】
表4から明らかなように、組成物Bを配合した折りパイ生地を用いて製造された折りパイは、生地表面のざらつきが少なく滑らかであり、生地のまとまりが良く縮みが少なく、伸展性に優れていた。また、焼成後の内層の膨らみも良好であった。また、ロールイン油脂の量を低減しても、内層が均一に膨らみ、油っぽくなく、小麦本来の香ばしさが強調された。
【0076】
〔デニッシュペストリー作製の実施例と比較例〕
[実施例4]
表5に記載の材料を配合し、以下の製造条件により、デニッシュペストリー生地を作製した。なお、ロールイン油脂としては、市販のチョコレートシートを用いた。このチョコレートシートに、組成物Aを添加し、ミキサーで攪拌後、シート状に広げて冷蔵保存し、使用した。
【0077】
<製造条件>
[1]ミキシング:ロールイン油脂及び組成物A以外のすべての原料を混合し、低速で5分間、中速で8分間、高速で1分間ミキシングした(捏ね上げ温度25℃)。
[2]一次発酵:ドウコンホイロにて27℃、湿度75%で30分間発酵させた。
[3]シーター:組成物Aを添加したロールイン油脂の2〜3倍の大きさにパン生地を伸ばし、中央にロールイン油脂を挟み包み込んだ。3つ折り6回で厚み8mmまで伸ばした(各処理時に−5℃、1時間のリタード実施)。
[4]生地成形:3cm×4cmに積層生地をカットした。
[5]二次発酵:ドウコンホイロにて27℃、湿度75%で60分間発酵させた。
[6]焼成:上火220℃、下火220℃で10分間焼成した。
【0078】
[比較例4]
表5に記載の配合のとおり、組成物Aを使用しない以外は、実施例4と同様にして、デニッシュペストリーを作製した。
【0079】
【表5】

【0080】
実施例4および比較例4において、焼成後のデニッシュペストリーの状態および食感について評価したところ、組成物Aを添加した場合は、チョコレートの積層状態が綺麗であり、口溶けが良好であったが、組成物Aを添加しない場合は、チョコレートの層が斑になっており、口溶けが悪くダマになりやすかったことから、組成物Aの添加効果が明確に認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸モノグリセリド、乳化剤および糖類を含有することを特徴とする、積層生地。
【請求項2】
該有機酸モノグリセリドがラメラ構造体を形成していることを特徴とする、請求項1に記載の積層生地。
【請求項3】
該乳化剤がショ糖脂肪酸エステルおよび/またはポリグリセリン脂肪酸エステルであることを特徴とする、請求項1または2に記載の積層生地。
【請求項4】
該糖類がオリゴ糖であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の積層生地。
【請求項5】
パイ、ペストリーまたはクロワッサン用の生地であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の積層生地。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の積層生地を用いて製造された食品。

【公開番号】特開2012−210178(P2012−210178A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77310(P2011−77310)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(593204214)三菱化学フーズ株式会社 (45)
【Fターム(参考)】