説明

積層複合材板及び構造体

【課題】積層複合材板を折り曲げ加工することによって構造体を成形する際に、均質な構造体を確実に成形する。
【解決手段】積層複合材板1の各繊維層の繊維方向を曲げ軸と同じ方向及び曲げ軸に直交する方向以外の方向となるように設定する。これにより、積層複合材板1に含まれる繊維を曲げ荷重に対抗しないようにし、ひいては積層複合材板1の各繊維層を隣接する繊維層との間で曲げ荷重の増大に対して徐々に滑るようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維からなる複数の繊維層を積層した積層複合材板及びその積層複合材板を折り曲げ加工することによって成形される構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、エポキシ樹脂等の合成樹脂(以下、マトリックスともいう)を炭素繊維等の高強度繊維(以下、強化繊維ともいう)によって強化した繊維強化複合材は、種々の用途に用いられており、一例として航空機の機体部品を挙げることができる。
【0003】
こうした繊維強化複合材製の部品を製造する方法の1つとして、その繊維方向を同一方向にそろえた強化繊維にマトリックスを予め含浸した長尺シート状のプリプレグ(プリプレグテープ)を用いて平板状の繊維強化複合材を製造すると共に、その平板状の繊維強化複合材を、所定の断面形状となるように折り曲げ加工する方法がある。
【0004】
具体的に、プリプレグテープを用いて、平板状の繊維強化複合材を製造する方法は、例えば、プリプレグテープをその幅方向に並べて配置して繊維層を構成すると共に、その繊維方向が、全周(360°方向)に対して均等に分配されるように(例えば4方向に均等に分配する場合は、縦方向(0°方向)、縦方向に直交する横方向(90°方向)、縦方向と横方向との間の斜め方向(±45°方向)の4方向にされる)繊維層を積層することによって疑似等方性を有するように構成することにより、平板状の繊維強化複合材(以下、積層複合材板ともいう)を製造することができる。
【0005】
そして、この積層複合材板を航空機の機体等に使用すべく、例えば横断面ハット状となるように曲げ部を有する長尺の構造体とするときには、例えば特許文献1に開示されているような賦形装置を用いて、前述の積層複合材板に対して、前記縦方向(0°方向)を曲げ軸とする折り曲げ加工を施すことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−291582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記積層複合材板を折り曲げ加工すべく、曲げ方向の荷重を加えたときには、積層複合材板の各繊維層が隣接する繊維層との間で滑ることによって各繊維層間にずれが生じ、それによって積層複合材板は折れ曲がる。ここで、前記積層複合材板においては、擬似等方性を有するように繊維方向が均等に分配されていることから、その複数の繊維方向の内のいずれか1方向は曲げ荷重の方向と一致すると共に、その曲げ荷重の方向に直交する繊維方向も存在するため、それらの繊維が曲げ荷重に対抗するようになる。このように積層複合材板の一部の繊維層が曲げ荷重を直接に受けることによって、曲げ荷重の増大に伴い繊維層間が徐々に滑らず、所定の曲げ荷重に達したところで急激に滑ることになる。このような急激な変形は、繊維分布が崩れたり、皺が形成されたりした不均質な構造体が成形され易いという問題がある。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、折り曲げ加工の際に不均質性が生じ難い積層複合材板及びその積層複合材板を折り曲げ加工した構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る積層複合材板は、繊維層を、疑似等方性になるように且つ、その繊維方向が、構造体を曲げ成形する際の曲げ軸と同じ方向及びその曲げ軸に直交する方向以外の方向になるように積層することによって、曲げ荷重を直接に受ける繊維を無くすようにし、そのことにより、積層複合材板の曲げ性を向上させるようにした。
【0010】
具体的には、第1の発明では、積層複合材板は、それぞれ所定の一方向に延びるように並んで配置された多数の強化繊維からなる繊維層を複数有すると共に、当該複数の繊維層がその繊維方向を互いに異ならせながら積層されることによって疑似等方性を有するように構成された、繊維強化複合材からなる平板状の積層体を備え、前記積層体は、所定の曲げ軸に沿うように折り曲げ加工されることによって、所定の断面形状を有する構造体に成形されるものであり、前記各繊維層の繊維方向は、前記曲げ軸と同じ方向及び前記曲げ軸に直交する方向以外の方向に設定されている。
【0011】
この構成によると、積層体の繊維層の繊維方向は、曲げ軸が仮に0°方向を向いているとすれば、0°方向及び90°方向以外の方向に設定されていると共に、疑似等方性を有するように全周(360°方向)に対して均等に分配されている。これにより、積層複合材板に含まれている繊維の方向が、曲げ荷重の方向及び曲げ荷重の方向に直交する方向とは一致しないため、積層複合材板を折り曲げ加工する際に、繊維が曲げ荷重に対抗せず、積層複合材板の各繊維層は、隣接する繊維層との間で曲げ荷重の増大に対して徐々に滑ることになる。そのため、この積層複合材板を折り曲げ加工することによって、繊維分布が崩れたり、皺が形成されたりした不均質な構造体が成形されることが回避され、均質な構造体を確実に成形することができる。
【0012】
第2の発明では、第1の発明において、前記積層体は、前記曲げ軸に直交する方向に延びるように並んで配置された多数の強化繊維からなる、少なくとも1の強化層をさらに有し、前記強化層は、前記平板状の積層体の一部に設けられている。
【0013】
こうすることで、強化層の繊維により補強されることによって、積層複合材板において曲げ軸に直交する方向の強度が向上する。従って、この積層複合材板を折り曲げ加工した構造体もまた、その曲げ軸に直交する方向の強度が強化層の繊維によって向上することになる。また、強化層を、平板状の積層体の全面に亘って設けるのではなく、その積層体の一部に対してのみ設けているので、積層複合材板を折り曲げ加工する際に、その強化層の繊維が曲げ荷重に対抗することが抑制され、前記第1の発明と同様に、不均質な構造体が成形されることが回避される。そのため、この積層複合材板を折り曲げ加工することによって、曲げ軸に直交する方向の強度が比較的強く且つ、均質な構造体を成形することができる。
【0014】
第3の発明では、第1又は第2の発明において、前記積層体は、前記曲げ軸に沿う方向に延びるように並んで配置された多数の強化繊維からなる、少なくとも1の強化層をさらに有し、前記強化層は、前記平板状の積層体の一部に設けられている。
【0015】
こうすることで、第2の発明と同様に、強化層の繊維によって補強されることによって、積層複合材板において曲げ軸方向の強度が向上し、この積層複合材板を折り曲げ加工した構造体もまた、その曲げ軸と同じ方向の強度が強化層の繊維によって補強されることになる。また、強化層を積層体の一部に対してのみ設けているので、前記第2の発明と同様に、積層複合材板を折り曲げ加工する際に、強化層の繊維が曲げ荷重にほとんど対抗せず、その結果、この積層複合材板を折り曲げ加工することによって、曲げ軸と同じ方向の強度が比較的強く且つ、均質な構造体を成形することができる。
【0016】
尚、第2又は第3の発明のように補強用の強化層を設けて、構造体において所望の方向の強度を高めることによって、構造体の断面積を小さくしても、所定の強度が得られることになる。つまり、積層複合材板の板厚を部分的に薄くすることが可能であり、このことは材料効率を向上すると共に、構造体の軽量化の点で有利になる。
【0017】
第4の発明では、第2又は第3の発明において、前記強化層は、その繊維方向が、当該強化層に隣り合う層の繊維方向とは異なるように、設けられている。
【0018】
疑似等方性を有する積層体は、隣り合う繊維層間でその繊維方向が互いに異なるように複数の繊維層を積層している一方で、曲げ軸と同じ方向又は/及び曲げ軸に直交する方向の強化層を、その強化層に隣合う層の繊維方向と異なるように設けることで、積層体の隣り合う全ての層(繊維層及び強化層)の繊維方向が異なることなる。つまり、強化層は、繊維方向が同じ強化層同士が隣り合わないように設ける。これにより、積層複合材板を折り曲げ加工する際に、各層間の層間滑り量が略均一となり、均質な積層複合材板をより確実に成形することができる。
【0019】
第5の発明では、構造体は、第1ないし第4の何れかの発明に係る積層複合材板を折り曲げ加工することによって成形されたものである。
【0020】
こうすることで成形された構造体は、繊維分布が崩れたり、皺が形成された不均質なものになることが回避されるので、均質なものとなり易い。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明によると、積層複合材板の繊維層を、疑似等方性になるように且つ、その繊維方向が構造体を曲げ成形する際の曲げ軸と同じ方向及びその曲げ軸に直交する方向以外の方向になるように積層することによって、曲げ荷重を直接に受ける繊維が無くなり、その積層複合材板を折り曲げ加工したときに、均質な構造体を確実に成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態1に係る積層複合材板と構造体とを説明する図である。
【図2】本発明の実施形態2に係る積層複合材板と構造体とを説明する図である。
【図3】本発明の実施形態3に係る積層複合材板と構造体とを説明する図である。
【図4】実施形態3に係り、構造体の変形例を示す曲げ軸に直交する断面図である。
【図5】実施形態3に係る構造体をキール部材として利用したときの斜視図である。
【図6】図5のキール部材に対して頭頂部側への曲げ荷重が加わったときの曲げを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。
【0024】
(実施形態1)
本発明の実施形態1に係る積層複合材板1は、図1に示すように、横方向(図1の90°方向)の長さが、縦方向(図1の0°方向)の長さに比べて短い平面視で矩形状の板材
であり、縦方向に延びる曲げ軸(図1の1点鎖線)に沿うように折り曲げ加工されることによって、長尺の構造体2に成形されるものである。
【0025】
積層複合材板1は、図1に示すように、平板状の繊維強化複合材であり、強化繊維にマトリックスを含浸すると共に、繊維方向を同一方向にそろえた長尺シート状のプリプレグテープを用いて製造される。詳しくは、積層複合材板1は、図示省略のテープ積層装置によって、プリプレグテープをその幅方向に並べて配置して1つの繊維層を構成すると共に、その繊維方向が縦方向(0°方向)と横方向(90°方向)との間の22.5°方向、22.5°方向と直交する−67.5°方向、22.5°方向と−67.5°方向との間の67.5°方向及び−22.5°方向の4方向になるように、その順番で繊維層を積層することによって疑似等方性を有する平板状に形成される。尚、図1は、積層複合材板1及び構造体2を概念的に示す図であり、例えば繊維層の数を限定するものではない。このようにこの積層複合材1では、その繊維方向が、縦方向(0°方向)及び横方向(90°方向)以外の方向に設定されつつ、疑似等方性を有するように全周(360°方向)に対して均等に分配されている。尚、本実施形態では、強化繊維として炭素繊維を、マトリックスとしてエポキシ樹脂をそれぞれ採用している。
【0026】
構造体2は、曲げ軸に直交する断面形状が曲げ方向の異なる2つの曲げ部をそれぞれ2つずつ有する略ハット形状の部材であり、その中心軸は、積層複合材板1における0°方向に一致する。この構造体2は、図示省略の成形装置によって、積層複合材板1を曲げ軸に沿って折り曲げ加工することにより成形される。具体的には、平板状の積層複合材板1を図示省略の成形型に対して押し付けるように、この積層複合材板1に曲げ荷重が加えられることによって、その略中央部の2つの山折り軸(図1の2点鎖線)で山折りされると共に、その両端部付近の2つの谷折り軸(図1の2点鎖線)で谷折りされることになる。ここで、積層複合材板1は、その繊維層の繊維方向が曲げ軸と同じ方向(つまり、0°方向)及び曲げ軸に直交する方向(つまり、90°方向)以外の方向に設定されて構成されている。そのため、積層複合材板1を折り曲げ加工する際に、積層複合材板1に含まれている繊維が曲げ荷重に対抗せず、積層複合材板1の各繊維層は、隣接する繊維層との間で曲げ荷重の増大に対して徐々に滑ることになる。また、積層複合材板1の隣合う全ての繊維層の繊維方向が異なることにより、各繊維層間の層間滑り量が略均一となる。そのため、構造体2は、繊維分布が崩れたり、皺が形成されたりした不均質なものになることが回避され、均質なものになる。
【0027】
(実施形態2)
次に、本発明の実施形態2について説明する。本発明の実施形態2は、実施形態1の積層複合材板に強化層を追加した実施形態である。そこで、実施形態1と同様の構成については適宜説明を省略し、実施形態1と異なる構成を中心に説明する。
【0028】
本発明の実施形態2に係る積層複合材板11は、図2に示すように、縦方向(0°方向)に延びる曲げ軸(図2の1点鎖線)に沿うように折り曲げ加工されることによって、前記実施形態1と同様に、その略中央部の2つの山折り軸(図2の2点鎖線)で山折りされると共に、その両端部付近の2つの谷折り軸(図2の2点鎖線)で谷折りされて構造体12に成形されるものである。従って、構造体12の曲げ軸に直交する断面形状は、前記実施形態1と同様に、その幅方向の略中央部が頭頂部12aとなり、その幅方向の両端部が鍔部12bとなった、全体として略ハット形状となる。
【0029】
積層複合材板11は、図2に示すように、多数の強化繊維からなると共に、その強化繊維の繊維方向が縦方向及び横方向にそろえられた強化層13を有している。図2では強化層13の繊維のみを図示し、繊維層の繊維の図示は省略する。尚、本実施形態では、強化層13の強化繊維として炭素繊維を採用している。
【0030】
縦方向の繊維方向を有する強化層13(以下、単に縦方向の強化層ともいう)は、積層複合材板11の横方向においては、2つの谷折り軸で挟まれた第1領域、一側の端から一側の谷折り軸までの第2領域及び他側の端から他側の谷折り軸までの第3領域の3つの領域に設けられている一方、積層複合材板11の縦方向においては、両端部以外の全領域に設けられている。
【0031】
第1領域の縦方向の強化層13は、構造体12において頭頂部12aに設けられる強化層13を構成し、この強化層13は、積層された繊維層(以下、積層繊維層ともいう)の各層間に対してそれぞれ1層ずつ設けられている。
【0032】
第2領域及び第3領域の縦方向の強化層13は、構造体12において各鍔部12bに設けられる強化層13を構成し、この強化層13は、それぞれの領域において積層繊維層の表裏(つまり、積層複合材板11の両表面)それぞれに対して1層ずつ設けられている。
【0033】
尚、縦方向の強化層13の層数はこれに限られるものではなく、少なくとも1層以上設けられていればよい。
【0034】
横方向の繊維方向を有する強化層13(以下、単に横方向の強化層ともいう)は、積層複合材板11の縦方向においては、略中央部に対してのみ設けられている一方、積層複合材板11の横方向においては、一端から他端までの全領域に亘って設けられている。この横方向の強化層13は、層間に設けられてもよいし、積層複合材板11の表面に設けられていてもよい。また横方向の強化層13は、少なくとも1層以上設けられていればよい。
【0035】
尚、縦方向及び横方向の強化層13は、その繊維方向が当該強化層13に隣合う層の繊維方向と異なるように設けられていればよい。ここで、各繊維層の繊維方向は、それぞれ22.5°方向、−22.5°方向、67.5°方向、−67.5°方向であり、強化層13の繊維方向は、0°方向又は90°方向であるので、繊維層の繊維方向と強化層13の繊維方向とは一致することはない。そのため、強化層13を当該強化層13と同じ繊維方向を有する他の強化層13と隣合わないように設けることで、当該強化層13の繊維方向とその強化層13に隣合う層の繊維方向とが異なることになり、ひいては積層複合材板11の隣合う全ての層(繊維層及び強化層13)の繊維方向が異なることになる。この点について、強化層13を積層繊維層の層間に対してそれぞれ1層ずつ設けることや、積層繊維層の表裏それぞれに対して1層ずつ設けることは有効である。
【0036】
こうした強化層13は、プリプレグテープをテープ積層装置を利用して配設することにより積層複合材板11を形成する場合には、通常の積層複合材板11を形成する場合と比較して、該当箇所にプリプレグテープを追加して配設することにより、容易に設けることが可能である。
【0037】
構造体12は、前述したように、積層複合材板11を前記実施形態1と同様に曲げ軸に沿って折り曲げ加工することにより成形されるものである。ここで、強化層13は、その繊維方向が曲げ軸と同じ方向(つまり、0°方向)、及び、曲げ軸に直交する方向(つまり、90°方向)に設定されているため、積層複合材板11を折り曲げ加工する際に、強化層13の繊維は曲げ荷重に対抗することになるが、これらの強化層13は、積層複合材板11の一部に対してのみ設けられているため、実際には、その影響はほとんど無く、前記実施形態1と同様に、積層複合材板11の各繊維層及び強化層13は、隣接する層間で曲げ荷重の増大に対して徐々に滑るようになる。また、前述したように、積層複合材板11の隣合う全ての層(繊維層及び強化層13)の繊維方向が異なることにより、各層間の層間すべり量が略均一となる。そのため、構造体12は、繊維分布が崩れたり、皺が形成されたりした不均質なものになることが回避され、均質なものになる。このように成形された構造体12は、その曲げ軸方向の両端部以外の箇所において、ハット形状の頂に相当する頭頂部12a及びハット形状の鍔に相当する鍔部12bに縦方向の強化層13が設けられていると共に、その曲げ軸方向の略中央部においてハット形状の全体に亘って横方向の強化層13が設けられている。これにより、構造体12の曲げ軸と同じ方向及び曲げ軸に直交する方向の強度を向上することができる。
【0038】
(実施形態3)
次に、本発明の実施形態3について説明する。本発明の実施形態3は、積層複合材板に付加される強化層の付加位置が実施形態2と異なる。そこで、実施形態2と同様の構成については適宜説明を省略し、実施形態2と異なる構成を中心に説明する。
【0039】
本発明の実施形態3に係る積層複合材板21は、図3に示すように、縦方向(0°方向)に延びる曲げ軸(図3の1点鎖線)に沿うように折り曲げ加工されることによって、前記実施形態1,2と同様に、その略中央部の2つの山折り軸(図3の2点鎖線)で山折りされると共に、その両端部付近の2つの谷折り軸(図3の2点鎖線)で谷折りされて構造体22に成形されるものである。従って、構造体22の曲げ軸に直交する断面形状は、前記実施形態1,2と同様に、頭頂部22a、鍔部22b及び頭頂部22aと鍔部22bとを結ぶ側頭部22cを含んだ略ハット形状となる。
【0040】
積層複合材板21は、図3に示すように、強化繊維の繊維方向が縦方向及び横方向にそろえられた強化層23を有している。尚、図3も、強化層23の繊維のみを図示し、繊維層の繊維の図示は省略する。
【0041】
縦方向の強化層23は、積層複合材板21の横方向においては、一側の谷折り軸と山折り軸との略中央位置から他側の谷折り軸と山折り軸との略中央位置までの領域に対して設けられている一方、積層複合材板21の縦方向においては、両端部以外の全領域に設けられている。また、縦方向の強化層23は、積層繊維層の各層間に対してそれぞれ1層ずつ設けられている。尚、縦方向の強化層23は、少なくとも1層以上設けられていればよい。
【0042】
横方向の強化層23は、積層複合材板21の縦方向においては、略中央部に対してのみ設けられている一方、積層複合材板21の横方向においては、一端から他端までの全領域に亘って設けられている。この横方向の強化層23は、層間に設けられてもよいし、積層複合材板21の表面に設けられていてもよい。また横方向の強化層23は、少なくとも1層以上設けられていればよい。
【0043】
尚、縦方向及び横方向の強化層23は、その繊維方向が当該強化層23に隣合う層の繊維方向と異なるように設けられていればよい。前記実施形態2と同様に強化層23を当該強化層23と同じ繊維方向を有する他の強化層23と隣合わないように設けることで、当該強化層23の繊維方向とその強化層23に隣合う層の繊維方向とが異なることになり、ひいては積層複合材板21の隣合う全ての層(繊維層及び強化層23)の繊維方向が異なることになる。
【0044】
構造体22は、前述したように、積層複合材板21を前記実施形態1,2と同様に曲げ軸に沿って折り曲げ加工することにより成形されるものである。ここで、強化層23は、その繊維方向が曲げ軸と同じ方向(つまり、0°方向)及び曲げ軸に直交する方向(つまり、90°方向)に設定されているが、前記実施形態2と同様に、積層複合材板21の一部に対してのみ設けられているため、積層複合材板21を折り曲げ加工する際に、強化層23の強化繊維は、曲げ荷重に対抗することはほとんどない。そのため、前記実施形態2と同様に、積層複合材板21の各繊維層及び各強化層23は、隣接する層間で曲げ荷重の増大に対して徐々に滑ることになる。また、積層複合材板21の隣合う全ての層(繊維層及び強化層23)の繊維方向が異なることにより、各層間の層間すべり量が略均一となる。そのため、構造体22は、繊維分布が崩れたり、皺が形成されたりした不均質なものになることが回避され、均質なものになる。このように成形された構造体22は、その曲げ軸方向の両端部以外の箇所において、ハット形状の頭頂部22a及びハット形状の頭頂部22aと鍔部22bとを結ぶ側頭部22cの一部に縦方向の強化層23が設けられていると共に、その曲げ軸方向の略中央部においてハット形状の全体に亘って横方向の強化層23が設けられている。これにより、構造体22の曲げ軸と同じ方向及び曲げ軸に直交する方向の強度を高めることができる。
【0045】
尚、構造体22は、強化層23を有することによって、頭頂部22a及び側頭部22cの一部が、強化層23が設けられていない箇所に比べてハット幅方向の外側に膨らんだ形状を有するが、図4に示すように、頭頂部22a及び側頭部22cの一部が、強化層23が付加されていない箇所に比べてハット幅方向の内側に膨らんだ形状を有するように強化層23を付加してもよい。
【0046】
この構造体22は、例えば飛行艇のキール部材として採用することができる。この場合には、例えば図5に示すように、航空機本体である母材24の形状に合わせて、構造体22の構造軸(つまり、曲げ軸)を曲げ、その曲げられた構造体22を母材24に取り付けて使用することになる。このように構成されたキール部材には、図6に示すように、母材24側が引張側に、頭頂部22a側が圧縮側となるような曲げ荷重が加わる場合がある。このとき母材24を含めた中立軸は、構造体22単体での中央位置よりも母材24側に位置するため、頭頂部22aに設けられた強化層23は、その中立軸から離れた位置となり、曲げ荷重に対して効率的に対抗することが可能である。また、こうした強化層23を設けることは、構造体22の断面積を縮小しても所定の強度を得ることを実現させる。このことは、積層複合材板21の板厚を部分的に薄くすることを可能にし、材料効率を向上させる。また、構造体22が軽量化するから、航空機の部品として有利になる。
【0047】
本発明に係る構造体は、前記において例示されたような曲げ軸に直交する断面形状が略ハット形状のものに限らない。例えば、曲げ軸に直交する断面形状が所定の間隔を空けて略平行に並ぶ2つの腕部と、両腕部を結ぶ接続部とを有する略コ字状の構造体であってもよい。この場合には、例えば航空機のスパー部材やスティフナー部材として採用することができる。また、強化層は、両腕部及び接続部の曲げ部分に対して付加するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、積層複合材板を折り曲げ加工することによって構造体を成形するときにおいて、均質な構造体を確実に成形することができるため、例えば航空機、船舶、車両をはじめとする各種輸送機器の構造体や、風力発電用風車の翼等の構造体に利用できる点で有用である。
【符号の説明】
【0049】
1,11,21 積層複合材板(積層体)
2,12,22 構造体
13,23 強化層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ所定の一方向に延びるように並んで配置された多数の強化繊維からなる繊維層を複数有すると共に、当該複数の繊維層がその繊維方向を互いに異ならせながら積層されることによって疑似等方性を有するように構成された、繊維強化複合材からなる平板状の積層体を備え、
前記積層体は、所定の曲げ軸に沿うように折り曲げ加工されることによって、所定の断面形状を有する構造体に成形されるものであり、
前記各繊維層の繊維方向は、前記曲げ軸と同じ方向及び前記曲げ軸に直交する方向以外の方向に設定されている積層複合材板。
【請求項2】
請求項1に記載の積層複合材板において、
前記積層体は、前記曲げ軸に直交する方向に延びるように並んで配置された多数の強化繊維からなる、少なくとも1の強化層をさらに有し、
前記強化層は、前記平板状の積層体の一部に設けられている積層複合材板。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の積層複合材板において、
前記積層体は、前記曲げ軸に沿う方向に延びるように並んで配置された多数の強化繊維からなる、少なくとも1の強化層をさらに有し、
前記強化層は、前記平板状の積層体の一部に設けられている積層複合材板。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の積層複合材板において、
前記強化層は、その繊維方向が、当該強化層に隣り合う層の繊維方向とは異なるように、設けられている積層複合材板。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載の積層複合材板を折り曲げ加工することによって成形された構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−37006(P2011−37006A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183316(P2009−183316)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(000002358)新明和工業株式会社 (919)
【Fターム(参考)】