説明

穴埋め用導体ペースト、導体穴埋め基板、導体穴埋め基板の製造方法、回路基板、電子部品、半導体パッケージ

【課題】焼成による体積変化が小さく、導電性や熱伝導性の高い導体を形成することができる穴埋め用導体ペーストを提供する。
【解決手段】銀を主成分とする導電性金属粒子と、ガラス及び無機酸化物のうち少なくとも一方と、有機ビヒクルとを含有して形成され、耐熱基板に設けられた貫通又は非貫通の穴に充填して焼成することによって、導体で穴埋めをするための導体ペーストに関する。導電性金属粒子は、中心粒径0.25μm以上の金属粉と、中心粒径150nm以下の金属ナノ粒子とを含有する。また導体ペースト中の金属を含む無機物含有量が導体ペースト全量の93質量%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に複数層形成された配線回路の導通を得るために、または熱の高速伝達経路としてのサーマルビアを得るために、基板の穴に充填して使用される穴埋め用導体ペースト、及びこの穴埋め用導体ペーストを基板の穴に充填した導体穴埋め基板及びその製造方法に関するものであり、またこの導体穴埋め基板を用いた回路基板、電子部品、半導体パッケージに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子部品の小型化、高機能化に伴い、多層基板や表裏両面配線基板の要求は益々高まっている。これらの基板においては、表裏両面又は表面と内層の導体回路間の電気的な導通のために、基板に穴を設けて穴に導体を設けることにより行なっている。また、近年半導体素子や半導体集積回路の出力や処理速度は大きく増大しており、使用中の半導体素子や半導体集積回路(以下半導体素子等という)から生じた大量の熱を速やかに放散させ、半導体素子等を一定温度以下に保たなければ半導体素子等の機能及び寿命は著しく低下してしまう恐れがある。半導体素子等を搭載する基板は通常十分な熱伝導性を有しないので、半導体素子等の直下又はその近くに、貫通穴を設けて、穴に高熱伝導性の導体を充填することにより、半導体素子等から発生した熱を高熱伝導性導体を通して基板の反対側に伝わるサーマルビアの利用が広く知られている。
【0003】
基板に設けた穴に導体を設ける方法には、以下の幾つかの方法がある。すなわち(1)基板にあけた穴に、電解又は無電解メッキにより、金属を充填させるメッキ法、(2)基板にあけた穴に、スパッタや蒸着により金属を充填する乾式法、(3)液状エポキシ樹脂などの樹脂溶液に高含有量に分散させた金属粉からなるペーストを基板の穴に充填し、300℃以下の温度で樹脂を硬化させる非焼成タイプの導電ペースト法、(4)金属粉、セラミックス粉、ガラス粉、樹脂溶液などからなる焼成タイプの導電ペーストを、セラミックスグリーンシートにあけた穴に充填し、セラミックスグリーンシートと一緒に焼成してするようにした同時焼成導電ペースト法、(5)金属粉、ガラス粉、樹脂溶液などからなる焼成タイプの導電ペーストを、セラミックス基板にあけた穴に充填し、300℃以上の温度で焼成して樹脂を分解させ、金属粉を焼結するようにした後焼成ペースト法、が挙げられる。
【0004】
上記の方法(1)において、絶縁体である基板の穴のみに金属をメッキにより充填させることは、非常に煩雑な工程が必要で、高コストになる。(2)の方法は、工程が煩雑であるとともに高価な真空設備が必要であるため、非常に高価になる。また、基板サイズの制限もある。(3)の方法は、安価であるが、金属粉間にポリマーが存在するため、導電性、熱伝導性が不十分である。また、耐熱性など信頼性の面も劣っている。(4)の方法は、耐熱性、信頼性の面は優れているが、セラミックスグリーンシートの焼成挙動(焼結温度や収縮率など)とマッチングさせる必要があるため、ペーストに多量の非金属無機物粉を配合する必要がある。その結果、焼成されたビア導体の導電性及び熱伝導性が低下する。また、セラミックスは焼成時に大きく収縮するので、この同時焼成法では焼成品の寸法精度が悪く、高精度、小型化の要求には対応しにくい問題がある。
【0005】
そして(5)の後焼成ペースト法は、幾つかの問題点はあるが、信頼性、コスト、寸法精度、小型化対応などの面において優れている。この後焼成ペースト法には、次のような方法がある。
【0006】
すなわち、基板のスルーホールの内壁面に導体ペーストを塗布し、これを焼成することによって、スルーホールの内壁面に導体層を形成する方法があり、このようにスルーホールに形成した導体層で導体回路間の導通をとることができる。
【0007】
しかし、スルーホールの内壁面に形成される導体層は断面積が小さいので、大電流を流すことができず、また熱を逃がす効果も低いという問題がある。例えば、大型車の電動パワーステアリング用の基板では、50〜60A程度の電流を流す必要があるが、スルーホールの導体層では許容電流値はせいぜい1A程度であり、用途が限定されるものである。
【0008】
このため、電気抵抗が低く大電流の使用が可能であり、かつ素子等から発生した熱を逃がすこともできるように、スルーホールのような貫通した穴や、あるいは未貫通の穴に導体を完全充填する方法が行なわれている。
【0009】
この完全充填法は、基板の貫通又は未貫通の穴内に導体ペーストを完全に充填してから焼成することによって、穴内を導体で完全に充填するようにしたものであり、断面の面積が大きな導体を得ることができるので、大電流を流すことが可能になり、また放熱性も高く得ることができるものである。
【0010】
しかしこのように、基板の貫通又は未貫通の穴内を導体ペーストからなる導体で充填する場合、穴に導体ペーストを充填した後、乾燥し、さらに焼成する過程で、導体ペースト中の溶媒の揮発や、金属粉の焼結などにより、体積収縮が起こる。このため、穴に充填された導体の表面が凹んだり、導体が穴から脱落したり、また脱落しないまでも穴の内周から導体が剥離して導通不良や断線が発生するおそれがあり、導通信頼性が大幅に低下するおそれがある。
【0011】
そこでこのような収縮の問題を解決するために、導体ペースト中の金属粉の含有量を高めることが行なわれているが、金属含有量が90%以上になるとペースト粘度が急激に上昇して充填作業性が著しく低下するので、金属含有量を高めるのにも限界がある。
【0012】
このため従来から、導体ペーストに焼結性の低い金属粉を使用すると共に、膨張剤を導体ペーストに配合することが提案されている(特許文献1〜3等参照)。すなわち、導体ペーストを基板の貫通又は未貫通の穴に充填して焼成する際に、膨張剤が膨張することによって、穴に充填された導体が収縮することを防ぐようにしているのである。
【0013】
しかし上記のように膨張剤を導体ペーストに含有させると、穴に充填された導体は膨張によって緻密性が低下し、ボイド等も発生し易くなるため、導体の導電性、熱伝導性、気密性等が顕著に低下し、信頼性に問題が生じるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平09−046013号公報
【特許文献2】特開平07−094840号公報
【特許文献3】特開2007−087712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、焼成による体積変化が小さく、導電性や熱伝導性の高い導体を形成することができる穴埋め用導体ペーストを提供することを目的とするものであり、この穴埋め用導体ペーストを用いた導体穴埋め基板、導体穴埋め基板の製造方法、回路基板、電子部品、半導体パッケージを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る穴埋め用導体ペーストは、銀を主成分とする導電性金属粒子と、ガラス及び無機酸化物のうち少なくとも一方と、有機ビヒクルとを含有して形成され、耐熱基板に設けられた貫通又は非貫通の穴に充填して焼成することによって、導体で穴埋めをするための導体ペーストであって、導電性金属粒子は、中心粒径0.25μm以上の金属粉と、中心粒径150nm以下の金属ナノ粒子とを含有し、導体ペースト中の金属を含む無機物含有量が導体ペースト全量の93質量%以上であることを特徴とするものである。
【0017】
導電性金属粒子の構成をこのように設定することによって、流動性が良好な導体ペーストを得ることができ、小さい穴への充填性が良好になるものであり、また焼成による体積変化が小さく、導電性の高い導体を形成することができるものである。そして体積変化が小さいので導体ペースト中に膨張剤や焼結抑制剤を配合する必要がなく、導電性や熱伝導性の高い導体を形成することができるものである。
【0018】
また本発明は、乾燥状態の体積に対する、600℃で焼成した後の体積の変化率が−5%〜+10%の範囲であることを特徴とするものである。
【0019】
導体ペーストを焼成して形成される導体の収縮や膨張による体積変化がこのように小さいと、基板の穴に充填された導体の表面の凹みやフクレ、穴の内壁と導体との間の隙間の発生などの不具合をなくすことができるものであり、導通等の信頼性を高く得ることができるものである。
【0020】
また本発明は、600℃で焼成した後の導体の電気抵抗率が10μΩ・cm以下であることを特徴とするものであり、さらに、600℃で焼成した後の導体の電気抵抗率が4μΩ・cm以下であることを特徴とするものである。
【0021】
このように電気抵抗率が小さいことによって、高導電性で信頼性の高い導体を形成することができるものである。
【0022】
また本発明は、600℃で焼成した後の導体の熱伝導率が150W/m・K以上であることを特徴とするものである。
【0023】
このように熱伝導率が高いことによって、放熱性の高い導体を形成することができ、放熱性が要求される用途に使用することができるものである。
【0024】
また本発明の導体ペーストは、導電性金属粒子の含有率が93〜97質量%、ガラス及び無機酸化物のうち少なくとも一方の含有率が0.05〜5質量%、有機ビヒクルの含有率が2〜6.9質量%であることを特徴とするものである。
【0025】
このように、導体ペースト中の導電性金属の含有率が高く、ガラスや無機酸化物のような非導電性無機成分の含有率が低い配合にすることによって、一層高い導電性を有する導体を得ることができるものである。
【0026】
また本発明において、上記の中心粒径0.25μm以上の金属粉は、中心粒径が3倍以上異なる2種以上の金属粉を併用したものであることを特徴とするものである。
【0027】
このように、中心粒径0.25μm以上の金属粉として、中心粒径が異なる金属粉を併用することによって、金属粉の充填性を高めることができると共に、焼成時の導体ペースト内部の通気性を向上することができ、焼成時にフクレなどの不具合の発生を防ぐことができるものであり、高緻密性で導電性の高い導体を形成することができるものである。
【0028】
また本発明において、上記の中心粒径0.25μm以上の金属粉は、中心粒径1μm以上の金属粉の含有率が50〜80質量%であることを特徴とするものである。
【0029】
このような金属粉を用いることによって、焼成時のボイドやフクレなどの不具合を低減することができ、緻密性が高く導電性の高い導体を形成することができるものである。
【0030】
また本発明において、上記の導電性金属粒子中、中心粒径0.25μm以上の金属粉は50〜90質量%、中心粒径150nm以下の金属ナノ粒子は10〜50質量%含有していることを特徴とするものである。
【0031】
このような導電性金属粒子を用いることによって、充填性が良好で、焼成後の体積変化率が小さい導体を形成できる導体ペーストを得ることができるものである。
【0032】
また本発明において、上記の中心粒径150nm以下の金属ナノ粒子は、1〜200nmの範囲内に粒径分布を有するナノ粒子であることを特徴とするものであり、さらに、中心粒径が10〜50nmの範囲にあることを特徴とするものである。
【0033】
金属ナノ粒子の粒径がこの範囲であることによって、金属ナノ粒子の充填性がより顕著に発揮され、高導電性、低収縮の導体を容易に得ることができるものである。
【0034】
また本発明は、上記の金属ナノ粒子の表面に、金属ナノ粒子の分散性を安定させるための保護コロイドを、金属ナノ粒子に対して0.5〜15質量%の量で、有することを特徴とするものである。
【0035】
このように金属ナノ粒子の表面に保護コロイドを有することによって、導体ペースト中の導電性金属粒子の高濃度化と導体ペーストの流動性を両立して得ることができるものである。
【0036】
また本発明において、上記の金属ナノ粒子は、少なくとも銀ナノ粒子を含むことを特徴とするものである。
【0037】
銀ナノ粒子は、より安価に入手することができ、電気特性や熱伝導性の高い導体を容易に形成することができるものである。
【0038】
また本発明において、上記のガラスは、軟化点550℃以下のビスマス系ガラスであることを特徴とするものである。
【0039】
このようなガラスフリットを用いることによって、焼成の際の収縮を抑制しつつ導体を形成することができるものである。
【0040】
また本発明において、上記のビスマス系ガラスは、酸化物換算で酸化ビスマスの含有量が70質量%以上であることを特徴とするものである。
【0041】
このように酸化ビスマスの含有量が多いビスマス系ガラスであることによって、焼成の際の収縮を抑制しつつ導体を形成することができる効果を顕著に得ることができるものである。
【0042】
また本発明の導体ペーストは、400〜950℃の温度で焼成されることを特徴とするものである。
【0043】
この温度で焼成することによって、焼成後の体積変化率がより小さい焼結導体を得ることができるものである。
【0044】
本発明に係る導体穴埋め基板の製造方法は、耐熱基板に設けられた貫通又は非貫通の穴に、上記の導体ペーストを充填する工程と、穴に充填した導体ペーストを乾燥する工程と、乾燥した導体ペーストを空気雰囲気下で、400〜950℃の温度で焼成する工程とを有することを特徴とするものである。
【0045】
この発明によれば、焼成による体積変化が小さく、穴内への充填性で良好であり、且つ高導電性、高熱伝導性の信頼性の高い導体で穴を埋めた導体穴埋め基板を得ることができるものである。
【0046】
また本発明において、上記耐熱基板は、セラミックス基板、ガラス基板、シリコン基板、ホーロー基板から選ばれたものであることを特徴とするものである。
【0047】
このような高耐熱性の基板を用いることによって、より信頼性の高い導体穴埋め基板を得ることができるものである。
【0048】
本発明に係る導体穴埋め基板は、耐熱基板に設けられた貫通又は非貫通の穴が、上記の導体ペーストが焼成された導体で充填されていることを特徴とするものである。
【0049】
この発明によれば、焼成による体積変化が小さく、穴内への充填性で良好であり、且つ高導電性、高熱伝導性の信頼性の高い導体で穴を埋めた導体穴埋め基板を得ることができるものである。
【0050】
そして上記のような導体穴埋め基板を用いて、回路基板、電子部品、半導体パッケージを作製することができるものである。
【発明の効果】
【0051】
本発明によれば、流動性が良好で、小さい穴への充填性が良好になる導体ペーストを得ることができものであり、また焼成による体積変化が小さく、導電性の高い導体を形成できる導体ペーストを得ることができるものである。このため、耐熱基板の貫通又は非貫通の穴に、焼成による体積変化が小さく、導電性や熱伝導性の高い導体を埋め込んで、信頼性の高い導体穴埋め基板を得ることができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0053】
本発明の導体ペーストは、導電性金属粒子と、ガラス及び無機酸化物のうち少なくとも一方との粉末と、有機ビヒクルを少なくとも配合して調製されるものである。
【0054】
そして導電性金属粒子は、銀を主成分として含むものであるが、銀の比率や、他の導電性金属の種類や量に関しては特に限定されるものではなく、要求される焼結性、電気特性、物理的・化学的特性などに応じて設定することができるものである。コストや焼結性、電気特性などからすると、導電性金属粒子中に、銀が60質量%以上含有されることが好ましく、80質量%以上含有されることがさらに好ましく、90質量%以上含有されることが一層好ましい。導電性金属粒子の総てが銀であってもよい。導電性金属粒子において、銀以外の金属としては、耐マイグレーション性の向上、信頼性の向上、密着力の向上、焼結性の調整、電気抵抗値の調整などを目的として適宜のものを選択して配合することができる。金属種としては、例えばパラジウム(Pd)、白金(Pt)、金(Au)、ルテニウム(Ru)、インジウム(In)などを挙げることができるものであり、配合量はそれぞれの目的に応じて適宜設定することができる。
【0055】
そして本発明において導電性金属粒子は、中心粒径0.25μm以上の金属粉と、中心粒径150nm以下の金属ナノ粒子とからなるものである。中心粒径0.25μm以上の金属粉において、中心粒径の上限は特に限定されるものではないが、導体ペーストの充填性や作業性などを考慮すると、中心粒径が100μm以下であることが好ましく、50μm以下が更に好ましく、20μm以下が一層好ましい。
【0056】
このように、導電性金属粒子が、中心粒径0.25μm以上の金属粉と、中心粒径150nm以下の金属ナノ粒子とからなることによって、中心粒径0.25μm以上の金属粉の間に中心粒径150nm以下の金属ナノ粒子が入り込み、導電性金属粒子の充填密度を高めることができるものであり、緻密で導電性が高く、焼成の際に体積変化が少ない導体を形成できる導体ペーストを得ることができるものである。
【0057】
ここで、中心粒径0.25μm以上の金属粉は、中心粒径が3倍以上異なる2種以上の金属粉を併用するのが好ましい。本発明の導体ペーストにおいて、乾燥収縮や焼成収縮を最大限に抑えるために、導体ペースト中の金属粉の充填密度を高めることが必要であるが、このように中心粒径が3倍以上異なる2種以上の金属粉を併用することによって、金属粉の充填密度を高めることができるものである。中心粒径の差の上限は特に設定されるものではないが、実用的には、中心粒径は3倍以上、30倍以下の範囲が好ましい。また中心粒径が異なる金属粉は2種以上であればよく、上限は特に設定されるものではないが、実用的には4種程度が上限である。
【0058】
また、中心粒径0.25μm以上の金属粉のうち、中心粒径1μm以上の金属粉が50〜80質量%を占めることが好ましい。このように設定することによって、導体ペーストが適度な焼結性を有するようになると共に、焼成時のボイドの発生やフクレの発生などの不具合を低減することができるものである。中心粒径1μm以上の金属粉の含有率が50質量%未満であると、焼結性が高くなり過ぎて、導体ペーストの乾燥や焼成の際の収縮が大きくなる傾向があり、またガス抜きがされ難くなってボイドやフクレが発生し易くなるものであり、この結果、焼成した導体の体積変化率のばらつきが大きくなって、導体内部にボイドが生成されるおそれがある。逆に、中心粒径1μm以上の金属粉の含有率が80質量%を超えると、導体ペーストの焼成時のパッキング性が低下し、焼成した導体に細孔が形成され難くなって、焼成時の収縮が大きくなるおそれがある。
【0059】
この中心粒径0.25μm以上の金属粉の形状は、球状、フレーク状、多角形状、繊維状など、従来から公知のいずれのものであってもよく特に限定されるものではないが、導体ペースト中の導電性金属粒子の充填密度や、導体ペーストの充填作業性の観点から、主に球状のものを用いるのが好ましい。またこの金属粉の製法も特に限定されるものではなく、湿式還元法、乾式還元法、電解法、アトマイズ法、機械粉砕法など、公知の任意の方法で製造されたものを使用することができる。
【0060】
一方、中心粒径150nm以下の金属ナノ粒子は、本発明の導体ペーストに配合する導電性金属粒子の必須構成要素の一つであり、この金属ナノ粒子を用いることによる効果として少なくとも次の2つのものを挙げることができる。まず一つ目は、導体ペースト中に存在する金属ナノ粒子は粒径が非常に小さく、且つ流動性が優れているので、大粒径である中心粒径0.25μm以上の金属粉の粒子間に入り込んで充填され、有機ビヒクルの使用量を低減して導体ペースト中の金属コンテンツを高めることができることである。この結果、基板の穴に導体ペーストを充填した後の乾燥収縮や焼成収縮をともに低減することができ、さらに焼成して得られた導体の緻密性、導電性、熱伝導性を向上することができるものである。二つ目は、金属ナノ粒子は焼成時にガラスや金属酸化物と作用し、焼成して得られた焼結導体中に微細な細孔を形成させ、焼成による収縮をさらに低減させることである。金属ナノ粒子の添加による細孔の形成機構は明らかではないが、貴金属ナノ粒子と低融点ガラスの組み合わせの場合に細孔の形成が顕著になる傾向があることからして、ガラスなどの酸化物が金属ナノ粒子の焼結体に閉じ込められ、一定の温度条件下でガラスが溶融することにより、ガラス中に存在するガスが放出され、それにより焼結導体中に細孔が形成されるものと推測される。
【0061】
この金属ナノ粒子の種類は特に制限されるものではないが、空気中での焼成用に導体ペーストを形成する場合には、貴金属であることが好ましい。貴金属ナノ粒子としては、Ag,Au,Pt,Pdなどのナノ粒子を挙げることができ、これらのなかでもAgナノ粒子は、コスト、導電性、熱伝導性などの面から優れているので、特に好ましい。
【0062】
金属ナノ粒子の製造方法は特に限定されるものではなく、湿式還元法、気相沈殿法など、公知の任意の方法で製造されたものを使用することができる。そして金属ナノ粒子の表面には、導体ペーストを乾燥・焼成するまでの間、導体ペースト内に金属ナノ粒子が安定して分散した状態に存在するために、表面を保護コロイドなどの安定化剤で被覆しておくのが好ましい。金属ナノ粒子を保護する保護コロイドの量は特に限定されるものではないが、金属ナノ粒子に対して0.5〜15質量%の範囲に設定するのが好ましい。保護コロイドの被覆量が金属ナノ粒子に対して0.5質量%未満では、安定化の効果が不十分であって、導体ペーストを保管している間に金属ナノ粒子が凝集するなどして成長(焼結)してしまうおそれがある。逆に保護コロイドの量が15質量%を超えると、導体ペースト中の有機分が増加することになるので、焼成による収縮の発生が大きくなるおそれがある。保護コロイドの量は、金属ナノ粒子に対して0.5〜5質量%の範囲がより好ましい。
【0063】
この保護コロイドとしては、特に限定されるものではないが、カルボキシル基を有する有機化合物と、高分子分散剤とで構成さるものを用いることができる。
【0064】
代表的な有機化合物には、カルボン酸が含まれる。このようなカルボン酸としては、例えば、モノカルボン酸、ポリカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸(又はオキシカルボン酸)などが挙げられる。モノカルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、カプリル酸、カプロン酸、ヘキサン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、シクロヘキサンカルボン酸、デヒドロコール酸、コラン酸などが挙げられる。ポリカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などが挙げられる。ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、グリコール酸、乳酸、オキシ酪酸、グリセリン酸、6−ヒドロキシヘキサン酸、コール酸、デオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、12−オキソケノデオキシコール酸、グリココール酸、リトコール酸、ヒオデオキシコール酸、ウルソデオキシコール酸、アポコール酸、タウロコール酸などが挙げられる。
【0065】
代表的な高分子分散剤としては、親水性モノマーで構成された親水性ユニット(又は親水性ブロック)を含む樹脂(又は水溶性樹脂、水分散性樹脂)が含まれる。親水性モノマーとしては、例えば、カルボキシル基又は酸無水物基含有単量体(アクリル酸、メタクリル酸などの(メタ)アクリル系単量体、マレイン酸などの不飽和多価カルボン酸、無水マレイン酸など)、ヒドロキシル基含有単量体(2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ビニルフェノールなど)などの付加重合系モノマー、アルキレンオキシド(エチレンオキシドなど)などの縮合系モノマーなどが例示できる。前記縮合系モノマーは、ヒドロキシル基などの活性基(例えば、前記ヒドロキシル基含有単量体など)との反応により、親水性ユニットを形成していてもよい。
【0066】
樹脂としては、スチレン系樹脂(スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体など)、アクリル系樹脂((メタ)アクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸などの(メタ)アクリル酸系樹脂など)、水溶性ウレタン樹脂、水溶性アクリルウレタン樹脂、水溶性エポキシ樹脂、水溶性ポリエステル系樹脂などが挙げられる。
【0067】
また、高分子分散剤は、合成したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。以下に、市販の高分子分散剤(又は少なくとも両親媒性の分散剤で構成された分散剤)を具体的に例示すると、ソルスパース13240、ソルスパース13940、ソルスパース32550、ソルスパース31845、ソルスパース24000、ソルスパース26000、ソルスパース27000、ソルスパース28000、ソルスパース41090などのソルスパースシリーズ[アビシア(株)製];ディスパービック160、ディスパービック161、ディスパービック162、ディスパービック163、ディスパービック164、ディスパービック166、ディスパービック170、ディスパービック180、ディスパービック182、ディスパービック184、ディスパービック190、ディスパービック191、ディスパービック192、ディスパービック193、ディスパービック194、ディスパービック2001、ディスパービック2050などのディスパービックシリーズ[ビックケミー(株)製];EFKA−46、EFKA−47、EFKA−48、EFKA−49、EFKA−1501、EFKA−1502、EFKA−4540、EFKA−4550、ポリマー100、ポリマー120、ポリマー150、ポリマー400、ポリマー401、ポリマー402、ポリマー403、ポリマー450、ポリマー451、ポリマー452、ポリマー453[EFKAケミカル(株)製];アジスパーPB711、アジスパーPAl11、アジスパーPB811、アジスパーPB821、アジスパーPW911などのアジスパーシリーズ[味の素(株)製];フローレンDOPA−158、フローレンDOPA−22、フローレンDOPA−17、フローレンTG−700、フローレンTG−720W、フローレン−730W、フローレン−740W、フローレン−745Wなどのフローレンシリーズ[共栄社化学(株)製];ジョンクリル678、ジョンクリル679、ジョンクリル62などのジョンクリルシリーズ[ジョンソンポリマー(株)製]などが挙げられる。
【0068】
本発明において金属ナノ粒子は中心粒径150nm以下のものが使用されるが、粒径が小さいほど保存安定性が低下し、金属ナノ粒子の安定化に必要となる保護コロイドの量が多くなる。保護コロイドの量が多くなると導体ペースト中の有機分が増大し、焼成による収縮の発生が大きくなる恐れがある。従って、金属ナノ粒子は中心粒径が10nm以上であることが好ましい。また金属ナノ粒子は中心粒径が150nmを超えると、前記ナノ粒子から由来する高充填性、低収縮性、高導電性、高熱伝導性といった特性が低下する恐れがある。金属ナノ粒子の中心粒径は100nm以下であることがより好ましく、50nm以下であればさらに好ましい。
【0069】
また、上記のように金属ナノ粒子の中心粒径が好ましい10〜50nmの範囲にあるように、各種の合成条件で得られた金属ナノ粒子の粒径分布を分析した結果、金属ナノ粒子の粒径分布は、1〜200nmの範囲内にあることが好ましい。実質的に1〜200nmの範囲内にあればよく、性能に影響しない程度に微量に1nm未満のものや、200nmを超えるものを含んでいても良い。
【0070】
本発明において導電性金属粒子は上記のように、中心粒径0.25μm以上の金属粉と、中心粒径150nm以下の金属ナノ粒子とからなるが、導電性金属粒子中、中心粒径0.25μm以上の金属粉の含有率が50〜90質量%、中心粒径150nm以下の金属ナノ粒子の含有率が10〜50質量%になるように、配合割合を設定するのが好ましい(両者の合計100質量%)。中心粒径0.25μm以上の金属粉と、中心粒径150nm以下の金属ナノ粒子の配合割合がこの範囲を外れると、導体ペーストを焼成する際の焼成収縮が大きくなる傾向がある。
【0071】
そして本発明において、導電性金属粒子と、ガラス及び無機酸化物のうち少なくとも一方と、有機ビヒクルの配合割合は特に限定されるものではないが、導電性金属粒子の含有率が93〜97質量%、ガラスや無機酸化物の含有率が0.05〜5質量%、有機ビヒクルの含有率が2〜6.9質量%となるように設定するのが好ましい。導電性金属粒子の含有率が93質量%未満であると、導体ペーストの乾燥や焼成の際の体積収縮が大きくなる傾向がある。逆に導電性金属粒子の含有率が97質量%を超えると、導体ペーストの粘度が高くなり過ぎて、基板の穴への充填などの作業性が低下することになる。
【0072】
上記のように本発明の導体ペーストにおいて、ガラス及び無機酸化物のうち少なくとも一方を配合することが必要である。このガラスや無機酸化物は、焼成した導体と基板との間の接合力を高める役割があるだけでなく、焼成した導体を微量に発泡させ、焼成収縮を低減させる作用をする。ガラスや無機酸化物の種類は特に限定されるものではなく、金属ナノ粒子と組み合わせて発泡性を有するものであればよい。
【0073】
ガラスとしては、酸化ビスマスを含有するビスマス系ガラス、酸化亜鉛を含有する亜鉛系ガラス、ホウケイ酸亜鉛系ガラス、酸化鉛を含有する鉛系ガラスなどを挙げることができる。これらのなかでも、金属成分との濡れ性、焼成導体の半田濡れ性、微細孔形成の有効性と安定性などから、ビスマス系ガラスフリットを使用するのが好ましい。より好ましいのは軟化点550℃以下のビスマス系ガラスであり、さらに一層好ましいのは酸化物換算で酸化ビスマス含有率が70質量%以上のビスマス系ガラスである。
【0074】
ここで、ガラスは、導体ペーストの焼成中に適切な温度で溶融し、焼成の過程において金属成分との作用により焼成した導体に微細な細孔を形成させ、金属の焼結収縮を補償して焼成による収縮を低減する役割をなすものであるが、軟化点が上記のように550℃以下のガラスを使用することによって、銀を主成分とする金属粒子の焼結温度と合致し、金属の焼結促進と細孔の形成に寄与することができるものである。またビスマス成分は銀との相溶性がよく、フラックスとして焼結中の銀粉に拡散し、焼結をより一層促進する効果があると共に、焼結された銀の金属相中に取り込まれた酸化ビスマスが焼成中に還元することで微量の酸素を発生し、細孔形成及び収縮の低減に一層寄与することができるものである。ビスマス系ガラスの軟化点の下限は特に設定されるものでないが、実用上、300℃程度がビスマス系ガラスの軟化点の下限である。
【0075】
また酸化ビスマス含有率が70質量%以上と、酸化ビスマスの含有量が多いことによって、上記の収縮制御効果を一層顕著に得ることができるものである。ビスマス系ガラスにおいて、酸化ビスマス含有率の上限は特に設定されるものでないが、実用上、90質量%程度が酸化ビスマス含有率の上限である。
【0076】
また無機酸化物としては、酸化ビスマス、酸化亜鉛、酸化鉛などを例示することができる。
【0077】
上記のガラスや無機酸化物は、1種のみを使用するようにしてもよいが、2種以上を併用してもよい。特に、上記のような細孔形成のためのものと、焼結性向上、密着性向上など他の目的に有効なガラスや無機酸化物を併用するようにしてもよい。
【0078】
ガラスや金属酸化物は、少量の配合でも十分な効果が得られるようにするために、粒径が20μm以下であることが好ましい。10μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることが更に好ましく、3μm以下でありことが最も好ましい。ガラスや金属酸化物の粒子の粒径の下限は特に制限されない。尚、本発明において粒径は中心粒径をいうものである。
【0079】
ガラスや金属酸化物の配合量は、特に限定するものではないが、高い導電性、熱伝導性を得るために、上記のように、導体ペースト中、ガラス及び金属酸化物の総量が0.02〜5質量%の範囲内になるように設定するのが好ましいものであり、0.05〜2質量%の範囲がさらに好ましく、0.1〜1質量%の範囲が最も好ましい。配合量が0.02質量%未満であると、焼成した導体の細孔の形成が不十分になり、焼成による収縮が大きくなる傾向がある。逆に配合量が5質量%を超えると、ガラス自身の発泡によってボイドが生成され、焼成後の導体に必要以上の膨張が生じて体積変化率が大きくなり、また電気抵抗や熱抵抗が増大するなどの問題が生じるおそれがある。
【0080】
本発明の導体ペーストにおいて、副成分として上記のように、導電性金属粒子等を分散させておく有機媒質として作用する有機ビヒクルが必要である。この有機ビヒクルとしては、導電性金属粉末を良好に分散させ得るものであればよく、従来から導体ペーストに用いられているものを特に制限なく使用することができる。例えば、ミネラルスピリット等の石油系炭化水素(特に脂肪族炭化水素)、エチレングリコール、ジエチレングリコール、及びトリエチレングリコール又はそれらの誘導体、ターピネオール等の高沸点有機溶媒などを挙げることができ、これらを1種類又は複数種組み合わせて使用することができる。また、これらの有機溶媒にポリブチルメタクリレート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル類、ニトロセルロース、エチルセルロース、酢酸セルロース、ブチルセルロース等のセルロース類、ポリオキシメチレン等のポリエーテル類、ポリブタジエン、ポリイソプレン等のポリビニル類、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等の高分子を溶解したものを使用することもできる。有機ビヒクルの含有量は特に限定されるものではないが、上記のように導体ペースト全体中、2〜6.9質量%の範囲であることが好ましい。
【0081】
上記の銀を主成分とする導電性金属粒子、ガラスや無機酸化物粉末、有機ビヒクル、さらに必要に応じて表面活性剤、酸化防止剤などを配合し、これらを混合することによって、本発明の穴埋め用導体ペーストを調製することができるものである。
【0082】
このように調製される本発明の導体ペーストは、耐熱基板に設けた貫通又は非貫通の穴に完全に充填して使用される。このように耐熱基板の穴に導体ペーストを充填した後、まず加熱して導体ペースト中の溶剤を除去し、乾燥する。溶剤を除去するための加熱は200℃未満の温度、例えば150℃程度の温度で行なうことができる。
【0083】
溶剤除去による導体ペーストの収縮(乾燥収縮)が大きい場合、乾燥後に再び導体ペーストを充填するようにしてもよい。本発明の導体ペーストは焼成による体積変化は非常に小さいが、乾燥収縮は導体ペースト中の溶剤量によっては大きい場合がある。その場合は乾燥後に繰り返して充填を行なうことによって、所望の充填量で穴を導体ペーストによって完全に充填することができる
次に、空気中などの酸化性雰囲気で焼成して、穴に充填した導体ペースト中の有機物を焼失させると共に、金属成分を焼結させることによって、高導電性、高熱伝導性の導体材料へと変換させ、このように形成される導体で耐熱性基板の穴を充填することができるものである。基板の貫通又は非貫通の穴に導体を完全充填することによって、基板の表裏や層間の配線の電気的な導通を実現することができ、またこの穴に充填した導体による熱伝導で放熱を実現することができるものである。
【0084】
焼成温度は特に制限されるものではないが、400〜950℃の範囲が好ましく、500〜800℃の範囲がより好ましい。焼成温度が400℃未満では焼成して得られる導体中の細孔の形成が不十分であり、焼成後の収縮率が大きくなる傾向がある。逆に焼成温度が950℃を超えると、銀を主成分とした導電性金属粒子に過焼結が起こり、焼成による体積変化率のバラツキが大きくなる傾向がある。尚、焼成の時間は特に限定されるものではないが、上記温度下で10〜60分程度保持することが一般的に好ましい。
【0085】
本発明で使用される耐熱基板としては、導体ペーストを基板に設けた穴に充填した後に焼成する高温に耐えるものであればよく、特に限定されるものではない。例えば、セラミックス基板、ガラス基板、シリコン基板、ホーロー基板などを挙げることができる。セラミックスとしては、アルミナ、ジルコニア、ベリリア、ムライト、ホルステライト、コーディライト、チタン酸鉛、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛等の酸化物系セラミックス、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素等の非酸化物系セラミックス等を挙げることができる。
【0086】
また、耐熱基板に設けた貫通又は非貫通の穴への導体ペーストの充填は、任意の方法で行なうことができるものであり、例えばスクリーン印刷、ディスペンサー充填、プレス注入などによって行なうことができる。
【0087】
上記のように、耐熱基板の貫通又は非貫通の穴に導体ペーストを充填し、これを乾燥した後に焼成することによって、焼成により形成される導体が穴に充填された、導体穴埋め基板を製造することができるものである。そしてこのように穴に充填された導体は、導体ペーストの乾燥状態の体積に対して、焼成した後の体積の変化率が−5%〜+10%の範囲であることが好ましい。体積変化率がこのように小さい範囲内であることによって、耐熱基板の穴に充填された導体の表面の凹みやフクレが小さくなり、また穴の内壁と導体との間の隙間の発生などの不具合をなくすことができるものであり、導通信頼性等の信頼性を高く得ることができるものである。
【0088】
また耐熱基板の穴に充填された導体は、600℃、10分の条件で焼成した後の導体の電気抵抗率が10μΩ・cm以下であることが好ましく、6μΩ・cm以下であることがより好ましく、4μΩ・cm以下であることがさらに好ましい。このように電気抵抗率が小さいことによって、高導電性で信頼性の高い導体を形成することができるものである。電気抵抗率は低いほど望ましく、下限は設定されない。
【0089】
また耐熱基板の穴に充填された導体は、600℃、10分の条件で焼成した後の導体の熱伝導率が150W/m・K以上であることが好ましく、200W/m・K以上であることがより好ましい。このように熱伝導率が高いことによって、放熱性の高い導体を形成することができ、放熱性が要求される用途に使用することができるものである。熱伝導率は高いほど好ましく、上限は設定されない。
【0090】
上記のようにして作製した導体穴埋め基板を用い、耐熱基板に電子回路等の回路を形成することによって、回路基板を得ることができるものである。またこの回路基板の耐熱基板に電子素子を実装することによって、電子部品を得ることができるものである。さらにこの回路基板の耐熱基板に半導体素子を実装して封止することによって、半導体パッケージを得ることができるものである。
【実施例】
【0091】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0092】
(中心粒子径が30nmの銀ナノ粒子の合成)
硝酸銀66.8g、酢酸(和光純薬工業(株)製)10g、高分子分散剤(ビッグケミー社製「ディスパービック190」、親水性ユニットであるポリエチレンオキサイド鎖と疎水性ユニットであるアルキル基とを有する両親媒性分散剤、溶媒:水、不揮発成分40質量%、酸価10mgKOH/g、アミン価0)2gを、イオン交換水1000gに投入し、激しく撹拌した。これに2−ジメチルアミノエタノール(和光純薬工業(株)製)100gを加えた後、70℃で2時間加熱撹拌した。この反応物を高速遠心分離器(Kokusan製「H−200 SERIES」)を用い、7000rpmで1時間遠心分離し、保護コロイドにより保護された銀ナノ粒子が凝集した沈殿物を回収した。透過型電子顕微鏡(TEM)による測定によれば、得られた銀ナノ粒子の中心粒子径は30nmであった。
【0093】
また保護コロイドの含有量を、熱重量測定装置(TG/DTA、セイコーインスツルメンツ(株)製「EXSTAR6000」)で測定したところ、銀100質量部に対して3質量部の含有率であった。尚、TG/DTAによる測定は、1分間に10℃の速さで30℃から550℃まで試料を昇温させる条件で行ない、このときの質量減少から保護コロイドの含有量を算出した。
【0094】
(中心粒子径が4nmの銀ナノ粒子の合成)
硝酸銀2.5g、n−オクチルアミン4.9g、リノール酸4.9gをトリメチルペンタン1.0Lに加え、攪拌混合して溶解した。この混合溶液に、0.03モル/Lの水素化ホウ素ナトリウムを含むプロパノール溶液1.0Lを、1時間かけて滴下することによって、銀を還元した。さらに、これを3時間攪拌して黒色の液体を得た。得られた黒色の液体をエバポレータによって濃縮した後、これにメタノール2.0Lを加えて褐色の沈殿物を生成させた後、吸引ろ過により沈殿物を回収した。生成した沈殿物をトリメチルペンタンに再分散させ、さらにろ過した後、乾燥することによって、保護コロイドにより保護された銀ナノ粒子を黒色の固体として得た。透過型電子顕微鏡(TEM)によれば、得られた銀ナノ粒子の中心粒子径は4nmであった。
【0095】
また保護コロイドの含有量を、上記と同様に熱重量測定装置で測定したところ、銀100質量部に対して25質量部の含有率であった。
【0096】
(穴埋め用導体ペーストの調製)
導電性金属粒子として上記の銀ナノ粒子、銀粉、パラジウム粉を用い、ガラスとして低融点ガラス(ビスマス系ガラス(Bi−ZnO−B)、ビスマス含有量は酸化ビスマス換算で81質量%、軟化点460℃)を用い、有機ビヒクルの溶媒としてペンタンジオールを用い、これらを表1に示す配合量でミキサーにより混合した後、三本ロールで均一に混練することによって、実施例1〜10及び比較例1〜7の穴埋め用導体ペーストを得た。
【0097】
上記の穴埋め用導体ペーストについて、穴への充填性を評価した。すなわち、直径0.15mmの貫通穴を多数形成した厚み0.635mmのアルミナ基板に、導体ペーストを、スキージ角30度、スキージ速度15mm/秒、印圧0.25MPaの条件で穴充填印刷した。そして、3回以内の印刷で穴を完全に充填することができた場合を「○」、4回〜10回の印刷で完全に充填することができた場合を「△」、10回以上の印刷が必要な場合を「×」と判定した。
【0098】
次に、上記のように穴に導体ペーストを充填した基板を、150℃、20分間の条件で送風乾燥機により乾燥した後、基板表面より突き出していたり、基板表面に残っていたりした導体ペーストをバフ研磨により完全に取り除いた。次にこの基板を連続焼成炉に入れ、空気雰囲気下、ピーク温度600℃で10分間保持して焼成した。焼成炉の投入口から出口までの基板の滞留時間は60分であった。このように焼成した後の基板について、充填導体の焼成強度を評価した。すなわち、導体が充填された穴を実態顕微鏡により観察し、導体の脱落の有無を確認した後、基板を超音波装置に入れ、20分間処理した後、もう一度実態顕微鏡により導体の脱落の有無を確認した。導体の脱落や5μm以上大きさの欠けがない場合を「○」、5μm以上10μm未満の欠けがある場合を「△」、脱落あるいは10μm以上の欠けがある場合を「×」と判定した。
【0099】
また、穴埋め用導体ペーストについて、焼成体積変化率、焼成導体電気抵抗率、焼成導体熱伝導率を測定した。これらの測定は、穴に導体ペーストを充填した状態で行なうのは困難であるので、アルミナ基板の表面に下記の条件で導体ペーストを印刷して、焼成することによって評価した。
【0100】
まず、96%アルミナ基板の表面に250メッシュのスクリーンを用いて、導体ペーストを5×5mm、10×10mmのパターン形状に印刷し、150℃で10分間加熱して導体ペースト中の有機溶剤を除去する乾燥を行なった。次に、これを連続焼成炉に入れ、空気中で、ピーク温度600℃の温度下で10分間保持することによって焼成した。焼成炉の投入口から出口までの基板の滞留時間は60分であった。
【0101】
そして、焼成体積変化率は、5×5mmのパターンを用いて、焼成前のパターンの厚みと、焼成後のパターンの厚みをそれぞれ触針式膜厚計(ビーコ社製「Dektak6m」)で測定し、次の式で焼成前後の膜厚値を比較することによって求めた。
【0102】
体積変化率(%)=[(焼成後膜厚−焼成前膜厚)/焼成前膜厚]×100
また焼成導体電気抵抗率は、10×10mmのパターンについて、四端子抵抗率計(東洋テクニカ社製「2002 MULTIMETER」)を用いて抵抗値を測定し、体積抵抗率として求めた。
【0103】
また焼成導体熱伝導率の評価は次のようにして行なった。まず、96%アルミナ基板の表面に250メッシュのスクリーンを用いて、導体ペーストを10mm四角のパターン形状に印刷し、150℃で10分間加熱して有機溶剤を除去する乾燥をした後、この印刷と乾燥を繰り返して重ね印刷することによって、厚み1mmの導体膜を作製し、後は上記と同じ条件で焼成した。このようにして得られた導体膜を基板から剥がし、レーザフラッシュ法により熱伝導率を測定した。そして200W/m・K以上のものを「○」、150W/m・K以上、200W/m・K未満のものを「△」、150W/m・k未満のものを「×」と判定した。
【0104】
上記の各測定結果や評価結果を表1に示す。尚、本発明は、判定「△」以上のものを目標とするものである。
【0105】
【表1】

【0106】
表1にみられるように、本発明の要件を満たす実施例1〜実施例10の穴埋め用導体ペーストはいずれも、良好な充填性を有するものであり、また高い導体強度、小さい体積変化率、小さい電気抵抗率、及び高い熱伝導性を有する導体を形成することができるものであった。
【0107】
一方、比較例1は、低融点ガラスを配合しなかった以外は実施例1と同じであるが、焼成体積変化率が−9.6%と、大きく収縮するものであり、焼成後の充填導体が容易に穴から脱落するものであった。
【0108】
比較例2は、金属ナノ粒子を配合しないものであり、焼成体積変化率が−18.3%と、大きく収縮するものであり、焼成後の充填導体は容易に穴から脱落するものであった。また、充填性も金属ナノ粒子を配合した各実施例のものより劣っていた。
【0109】
比較例3は、金属ナノ粒子の代わりに、中心粒径0.25μmの小粒径の銀粒子を使用したものであるが、金属ナノ粒子のような膨張効果がなく、焼成体積変化率が−22.1%と、大きく収縮し、焼成後の充填導体は容易に穴から脱落するものであった。また、充填性も金属ナノ粒子を配合した各実施例のものより劣っていた。
【0110】
比較例4は、中心粒径0.25μm以上の金属粒子を配合せず、金属ナノ粒子のみを導電性金属粒子として配合したものであるが、焼成体積変化率が−16.9%と、大きく収縮し、焼成後の充填導体は容易に穴から脱落するものであった。また、充填性も中心粒径0.25μm以上の金属粒子を配合した各実施例のものより劣っていた。
【0111】
比較例5は、有機ビヒクルとなる有機溶媒の量が過剰である以外は、実施例1と同じ配合であるが、有機溶媒の使用量が増加する結果、導体ペースト中の金属濃度が92.1質量%と低くなった。このため、導体ペーストの充填性は良好であるが、溶媒乾燥による収縮が大きく発生し、焼成体積変化率が−8.8%と大きいものであり、焼成後の充填導体は容易に穴から脱落するものであった。
【0112】
比較例6は、中心粒径が4nmと小さい銀ナノ粒子を用いるようにした以外は、実施例3と同じ配合であるが、銀ナノ粒子に含まれる保護コロイド量が多過ぎるので、導体ペースト中の金属濃度は90.9質量%に低下した。このため、焼成収縮が大きく発生し、充填導体は容易に穴から落ちるものであった。尚、表1にデータとして示していないが、金属濃度を上げるために溶媒量を減らすように試みたところ、導体ペーストの流動性が著しく低下し、穴への充填が困難になるものであった。
【0113】
比較例7は、従来公知の技術と同様に、多量のガラス成分を配合して、焼成中の導体ペーストを膨張させて焼成収縮をなくすようにしたものである。このものでは、焼成による体積変化率が6.4%と満足することができるものであるが、焼成導体の電気抵抗率が14.9μΩ・cmと高く、導電性に問題を有するものであり、また超音波で処理すると銀導体の一部は欠けて脱落するものであった。
【0114】
次に、実施例1の配合の導体ペーストを用い、上記のように600℃の焼成温度で焼成する他に、焼成温度を変えて、500℃、700℃、800℃の温度で焼成を行なった。そして上記と同様にして、焼成体積変化率、焼成導体電気抵抗率、焼成導体焼成後強度を測定した。結果を表2に示す。
【0115】
【表2】

【0116】
表2にみられるように、本発明に係る実施例1の配合の導体ペーストは、幅広い温度域で焼成しても、安定した体積変化率、導体強度を示し、高い同導電性を有するものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀を主成分とする導電性金属粒子と、ガラス及び無機酸化物のうち少なくとも一方と、有機ビヒクルとを含有して形成され、耐熱基板に設けられた貫通又は非貫通の穴に充填して焼成することによって、導体で穴埋めをするための導体ペーストであって、導電性金属粒子は、中心粒径0.25μm以上の金属粉と、中心粒径150nm以下の金属ナノ粒子とを含有し、導体ペースト中の金属を含む無機物含有量が導体ペースト全量の93質量%以上であることを特徴とする穴埋め用導体ペースト。
【請求項2】
乾燥状態の体積に対する、600℃で焼成した後の体積の変化率が−5〜+10%の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の穴埋め用導体ペースト。
【請求項3】
600℃で焼成した後の導体の電気抵抗率が10μΩ・cm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の穴埋め用導体ペースト。
【請求項4】
600℃で焼成した後の導体の電気抵抗率が4μΩ・cm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の穴埋め用導体ペースト。
【請求項5】
600℃で焼成した後の導体の熱伝導率が150W/m・K以上であることを特徴とする請求項1乃至4に記載の穴埋め用導体ペースト。
【請求項6】
導電性金属粒子の含有率が93〜97質量%、ガラス及び無機酸化物のうち少なくとも一方の含有率が0.05〜5質量%、有機ビヒクルの含有率が2〜6.9質量%であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の穴埋め用導体ペースト。
【請求項7】
上記の中心粒径0.25μm以上の金属粉は、中心粒径が3倍以上異なる2種以上の金属粉を併用したものであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の穴埋め用導体ペースト。
【請求項8】
上記の中心粒径0.25μm以上の金属粉は、中心粒径1μm以上の金属粉の含有率が50〜80質量%であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の穴埋め用導体ペースト。
【請求項9】
上記の導電性金属粒子中、中心粒径0.25μm以上の金属粉は50〜90質量%、中心粒径150nm以下の金属ナノ粒子は10〜50質量%含有していることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の穴埋め用導体ペースト。
【請求項10】
上記の中心粒径150nm以下の金属ナノ粒子は、1〜200nmの範囲内に粒径分布を有するナノ粒子であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の穴埋め用導体ペースト。
【請求項11】
上記の中心粒径150nm以下の金属ナノ粒子は、中心粒径が10〜50nmの範囲にあることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の穴埋め用導体ペースト。
【請求項12】
上記の金属ナノ粒子の表面に、金属ナノ粒子の分散性を安定させるための保護コロイドを、金属ナノ粒子に対して0.5〜15質量%の量で、有することを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の穴埋め用導体ペースト。
【請求項13】
上記の金属ナノ粒子は、少なくとも銀ナノ粒子を含むことを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載の穴埋め用導体ペースト。
【請求項14】
上記のガラスは、軟化点550℃以下のビスマス系ガラスであることを特徴とする請求項1乃至13のいずれかに記載の穴埋め用導体ペースト。
【請求項15】
上記のビスマス系ガラスは、酸化物換算で酸化ビスマスの含有量が70質量%以上であることを特徴とする請求項14に記載の穴埋め用導体ペースト。
【請求項16】
400〜950℃の温度で焼成されることを特徴とする請求項1乃至15のいずれかに記載の穴埋め用導体ペースト。
【請求項17】
耐熱基板に設けられた貫通又は非貫通の穴に、上記の請求項1乃至16のいずれかに記載の導体ペーストを充填する工程と、穴に充填した導体ペーストを乾燥する工程と、乾燥した導体ペーストを空気雰囲気下で、400〜950℃の温度で焼成する工程とを有することを特徴とする導体穴埋め基板の製造方法。
【請求項18】
上記耐熱基板は、セラミックス基板、ガラス基板、シリコン基板、ホーロー基板から選ばれたものであることを特徴とする請求項17に記載の導体穴埋め基板の製造方法。
【請求項19】
耐熱基板に設けられた貫通又は非貫通の穴が、上記の請求項1乃至16のいずれかに記載の導体ペーストが焼成された導体で充填されていることを特徴とする導体穴埋め基板。
【請求項20】
上記の請求項17又は18に記載の方法で製造されたことを特徴とする導体穴埋め基板。
【請求項21】
請求項19又は20に記載の導体穴埋め基板を備えた回路基板。
【請求項22】
請求項19又は20に記載の導体穴埋め基板を備えた電子部品。
【請求項23】
請求項19又は20に記載の導体穴埋め基板を備えた半導体パッケージ。

【公開番号】特開2011−77177(P2011−77177A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225196(P2009−225196)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】