説明

空中に浮遊している化学物質、生体物質、及び爆発性物質をリアルタイムで分析するための分析方法及び分析装置

空中に浮遊している化学物質、生体物質、及び爆発性物質をリアルタイムで分析するためのリアルタイム分析装置は、ガス分析センサ(4)と、蛍光/冷光センサ(1)と、粒子の粒子数及び粒径を検出するための粒子センサ(2)とを少なくとも備えたものである。それらセンサは、その各々が、開放型測定パスを構成している多重反射セル(5)(マルチパスレーザセル)に結合されている。この分析装置は更に、化学物質、生体物質、及び爆発性物質をリアルタイムで分析するための評価ユニットを備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空中に浮遊している化学物質、生体物質、及び爆発性物質をリアルタイムで分析するための分析方法及び分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
個々の危険物質を検出するための公知の検出装置では、一般的に、その物質を分析するための閉塞型の試料収容チャンバを備えており、物質の分析作業には、数分間程度の時間を要する。また、例えば、バクテリア、ウイルス、その他の微細粒子を検出するための検出装置では、検出作業の前に予め検出対象の微細粒子をフィルタで収集してマーキングを施すことにより、自動的に検出することができる。
【0003】
特許文献1(ドイツ特許DE10306900A1号公報)には、スペクトル分析装置が開示されており、このスペクトル分析装置は、レーザ機構を利用してガスの分析を行うようにしたものである。このスペクトル分析装置は、ガスを収容するチャンバと、このチャンバの中に電位降下を発生させる装置と、レーザ光源と、光共振器とを備えている。その光共振器は、対向する一対のミラーから成るものでもよく、或いは、リング光共振器として構成したものでもよい。チャンバの内部でレーザビームを発生させて、ガスをイオン化する。そして、加速したイオンを、イオンコレクタ(イオン収集器)を用いて検出する。
【0004】
特許文献2(ドイツ特許DE10247272A1号公報)にも、これと同様の構成の装置が開示されているが、ただしこの装置には、対向する一対のミラーで構成した光共振器は用いられておらず、その替わりに、多重反射セルが装備されている。この多重反射セルは複数のミラーを備えており、それら複数のミラーは、レーザビームが1つのミラーから次のミラーへ次々と反射して行くように配設されている。これによって、ガスとの間に相互作用を生じるレーザビームの経路長を長大化しており、もって、イオンコレクタにより大きな電流が流れるようにしている。複数のミラーにより構成された光学系は、1つの反射点から次の反射点まで延在するレーザビームを多数形成するものであり、それら多数のレーザビームは、中央領域において互いに交わり、そして、そこから複数のミラーへ向かって扇形に広がるように形成される。
【0005】
従来公知の検出装置ないし分析装置に付随していた短所の1つに、その装置によって検出ないし分析することのできる危険物質が、通常、数多くの種類の危険物質のうちのただ一種類の危険物質だけに限られているということがあった。また、従来公知の検出装置ないし分析装置は、環境空気中に浮遊している物質をその状態のままで直接検出することができず、前処理としての濃縮処理を必要としていた。更に、従来公知の検出装置ないし分析装置では、サンプリングタイムが分単位の長さになるため、例えばトランジット制御、ポータル監視、災害監視などの特定の用途に用いるには不適当であった。また更に、従来公知の様々な検出装置ないし分析装置は、多くの場合、重量が大きく、体積も大きく、高額の初期コストを要していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】ドイツ特許DE10306900A1号公報
【特許文献2】ドイツ特許DE10247272A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の目的の1つは、例えば遺伝子病原菌、ウイルス、バクテリア、胞子、化学戦用薬剤、爆発性物質、有毒化合物、それに薬物などの様々な危険物質の検出及び検証を高速且つ高精度で行うことのできる、空中に浮遊している化学物質、生体物質、及び爆発性物質をリアルタイムで分析するための改良された分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、この目的は、空中に浮遊している化学物質、生体物質、及び爆発性物質をリアルタイムで分析するための本発明に係る分析方法ないし分析装置により達成される。本発明は少なくとも、ガス分析センサと、蛍光/冷光センサと、粒子の粒径及び粒子数を検出するための粒子センサとを備えるものである。それらセンサは、その各々が、開放型測定パスとして構成された多重反射セルに結合されており、また、本発明に係る装置は、更に評価ユニットを備えるものである。
【0009】
これによって、従来公知の技法に付随していた短所が解消されており、空中に浮遊している化学物質、生体物質、及び爆発性物質をリアルタイムで分析するための改良された課題解決手段が提供されている。特に本発明は、空中に浮遊している様々な危険物質の検出及び検証を高速且つ高精度で行うものであり、それら危険物質には、例えば、遺伝子病原菌、ウイルス、バクテリア、胞子、化学戦用物質、爆発性物質、有毒化合物、それに薬物などがある。また、病原菌の菌数や放射性粒子の粒子数を容易に検出することができる。そのため本発明によれば、従来公知のセンサでは検出することのできなかった相対密度の計測も可能である。更に、計測した粒子の、その粒径の比、蛍光信号、及びガス成分に基づいて、脅威の等級及び種別を判定することも可能である。
【0010】
本発明に用いられている計測原理のうちの1つは、スペクトル分析装置として構成されたガス分析センサの技術に基づいており、このセンサは、空中のドリフト電界の影響を受けてイオンが運動する際のイオンの速度に基づいて分析を行うものである。物質が異なれば、そこから発生するイオンの質量及び断面積が夫々に異なるため、それを利用して、様々な物質を区別することができる。その計測のための信号は、様々な種類のイオンの到来時刻スペクトルとして計測され、この点に関しては飛行時間スペクトル分析と同様であるが、ただし、大がかりな機器や真空ポンプなどを必要としない。
【0011】
このようなイオンモビリティ分光(IMS)は、本発明にとって有用なものである。この種の目的に用いられている公知の機器の多くは、メンブレン型の導入システムと、放射線を利用したイオン発生源とを備えた構成とされている。その構成は、機器を、水分、蒸気、及び、考えられる限りのその他全ての空気中の汚染物質から保護するものである。また、そのような公知の機器に採用されているイオン化方式は、電荷移動反応機構に基づいたものであり、これは化学イオン化法とも呼ばれている。
【0012】
本発明の重要な特徴の1つとして、高感度のイオン検出手段と、レーザを利用した高選択度のイオン化機構とを、組合せて用いているということがある。また、そのイオン化のプロセスは2光子イオン化過程であり、これによってイオンの詳細なスペクトルが得られるため、イオン形成ステップにおける選択度が高く、またその検出感度レベルも、ppt(1兆分の1)レンジに至るほどの高感度レベルとなっている。
【0013】
また、イオンモビリティ分光装置の分析部は、酵素反応の生成物質、生体分子の熱分解反応の初期生成物質、それに有毒化学物質などを検出することが可能である。
【0014】
また一方で、生体細胞内の生体系や生体分子などは、UV光を照射されたときに蛍光反応を呈する。そのため本発明では、生体細胞内の蛍光反応機構を検出するための優れた手段となり得る、バイオエアロゾルを検出するための検出手段を備えており、この検出手段は具体的には、例えばチューナブルレーザイオン化源(tunable laser ionization source:TULIS)などから成るものである。
【0015】
また更に、本発明においては、高強度のレーザ照射を行うと共に、検出装置の測定パスを長大化しており、それらによって、粒子に反射されて発生した後方散乱を計測するための簡明な計測手段が提供されている。この後方散乱から得られる信号に基づいて、粒子の粒子数及び粒径を検出することができる。
【0016】
以上に述べた計測手段を組合せて装備したということも、本発明の特徴の1つである。より具体的には、本発明は、1)ガス成分ないし化学物質成分を検出するための小型のイオンモビリティセンサと、2)生体分子を検出するための蛍光検出ユニットと、3)粒子の粒子数及び粒径を検出するための後方散乱検出ユニットとを備えるものである。そして、小型のチューナブルレーザ源を備えた多重反射セルが、それら構成要素を結合するための結合要素を成している。また、計測のためのユニットは開放系として構成されており、サンプリングと分析との間に時間的な遅れが存在しない。
【0017】
CCDと、イオンモビリティ分光計と、多重反射セルと、レーザ装置とを組合せて一体化することによって、コンパクトな一体型の装置とすることができる。
【0018】
多重反射セル(マルチパスレーザセル(multipass laser cell:MLC))は、ガス分析センサ(IMS)と、蛍光及び/または冷光センサと、粒子の粒径及び粒子数を計測するためのセンサとが、夫々にサンプリングを行うための場所であると共に、それらセンサを結合する結合箇所でもある。この多重反射セルの中にレーザビームを入射させる。入射したレーザビームは多重反射セルの内部で2つのミラーの間で何度も反射し、それによって長大化したビーム経路長が得られる。
【0019】
多重反射セルの長手方向の寸法は約9cmである。ミラーで反射させることによってビーム経路長を約3m〜9mの範囲内の長さにまで、大きな損失なしに長大化するようにしている。使用するレーザ照射源は、その波長を200nm〜350nmの範囲内(好ましくは260nm〜270nmの範囲内)とし、その反復周波数を10Hz〜50Hzの範囲内とするのがよい。また、使用するレーザ照射源は、そのパルス持続時間を2n秒とし、その平均パルスエネルギを約60μJとするのがよい。レーザ照射源としては、例えば、励起及びイオン化のためのパッシブQスイッチのダイオードポンプ固体レーザなどを使用することができる。
【0020】
多重反射セルには、線形低電界領域で動作する小型のイオンモビリティ分光計が結合されている。低電界IMS技術を用いることによって、高電界IMS技術を用いた場合と比較して、計測時間がより短くなり、より詳細なスペクトルが得られる。また、信号対雑音比が良好であるため、検出感度レベルがサブppt(1兆分の1以下)の計測を容易に行うことができる。
【0021】
更に、イオン化過程を、選択的2光子イオン化駆動方式のイオン化過程とすることによって、より高い感度が得られ、イオン化に伴う悪影響も格段に低減することが可能なものとなっている。このことも、この分析装置の重要な特徴の1つである。また本発明は、いわゆる開放系で動作するものであり、メンブレンを使用しておらず、分離過程を含んでいない。その結果、従来公知の様々なシステムと比べて、より高い感度が得られ、クロスオーバーの影響が小さく、リアルタイムの計測が可能なものとなっている。
【0022】
本発明においては、レーザ素子が射出するレーザ光は赤外線レーザ光であるが、そのレーザ光に周波数変調を施して、それをUV領域に達するレーザ光にしている。また、レーザ照射源が照射するレーザ光は、出力が1.5mW以上の疑似連続波とすれば、生体物質を十分に検出することができる。
【0023】
レーザビームでの励起によって多重反射セルの内部で光子吸収が行われるとき、放出される蛍光信号の強度が、散乱光を除去するための適当なフィルタを介してフォトダイオードで構成した検出ユニットで収集される。レーザとしてチューナブルレーザを使用する際に、アジャスタブル液晶フィルタ(LCTF)または分光計が、出力を増大し、より高い分解能を得るために用いられる。
【0024】
また更に、この蛍光を利用して行う検出の検出対象が抗体である場合には、蛍光色素を用いることによって、その検出特性を更に改善することができる。蛍光色素は高い量子収率及び高いストークス効率を有する蛍光マーカーである。ストークス効率は、励起に用いるレーザ光の波長と放出される蛍光の波長との差である波長変化量が大きいことを意味し、その波長変化量は、例えば200nmにも達する。その結果として、励起に用いるレーザ光の波長と放出される蛍光の波長とを、フィルタを用いて分離することが極めて容易になる。
【0025】
多重反射セルには更に、粒子による後方散乱を検出するセンサを組合せてあり、このようにしたのは、エアロゾル、バクテリア、それに胞子などの粒子にレーザビームがあたることによって、それら粒子が高強度の後方散乱信号を発生するからである。
【0026】
多重反射セルの中のレーザビームの経路長が長大化されていることから、非常に多くの反射信号が、レーザビームの経路方向に対して垂直方向へ放出される。そこで、CCD検出素子を併せて用いることによって、それら反射信号に基づいて、粒子の粒径及び粒子数を計測できるようにしている。また更に、いわゆる粒子画像流速測定法(PIV)を併用するようにしてもよい。PIV法を実行するためのソフトウェアは、夫々に異なった時刻における粒子の位置を示す複数の瞬間画像を取得し、それら画像に基づいて流速モデルを算出する。尚、PIV法は、検査対象の空気流の流量制御及び流量計測を行う上でも、また粒子数の算出を行う上でも有用である。
【0027】
有毒揮発性物質(エアロゾル)やそれに類するその他の物質の検出は、イオン運動スペクトル分析装置によって行われる。それら物質の検出は、特性ドリフト時間を利用して行われ、加えて物質選択性を有するイオン化過程を利用して行われるため、検査対象の過程を高い分解能で把握した、リアルタイムの計測が可能となっている。
【0028】
胞子及びバクテリアの検出は、高強度の緑色レーザ光またはIR(赤外線)レーザ光を多重反射セルの中へ入射させて熱分解反応を発生させ、それによって放出される揮発性物質を検出することによって行われる。物質の区別を良好に行えるようにするには、入射させるレーザ光を、連続的供給方式と、断続的供給方式との、いずれの供給方式でも供給できるようにしておくとよい。そうすれば、バクテリアの細胞膜が熱分解することによって発生する熱分解生成物の量が極めて少量の場合でも、その熱分解生成物を良好に検出することができる。この場合、熱分解により生成して検出される揮発性成分は、例えば、アンモニアや、オルトニトロフェノール(ONP)などである。一方、胞子に関しては、ジピコリン酸カルシウム塩(ジピコリン酸含有量5〜15%)や、ピコリン酸(PA)などが観察されることによって検出される。また、それら熱分解生成物の計測は、イオン運動スペクトル分析装置や、蛍光センサによって行われる。
【0029】
バクテリア、胞子、それにエアロゾルなどの物質は、粒子といえる大きさを有する物質であり、それらは、照射されたレーザビームを反射して後方散乱信号を発生するため、その後方散乱信号を計測することによって検出される(LIDAR)。また、その計測によって観察された粒子の粒径及び粒子数に基づいてそれら物質が区別され、その粒径ないし粒子数が所定のスレショルド値を超えたならば警告信号が発せられる。
【0030】
ウイルスは、大きさが10nm〜300nmの範囲内にある微細な物質であるため、散乱信号に基づいて検出することは困難である。ウイルスを検出するには、電圧をかけてウイルスを帯電させるか、或いは、レーザ照射源を用いてウイルスをイオン化するようにし、そうすれば、様々なウイルスを、イオンモビリティ分光装置のドリフト電界によって個々に分離して同定することができる。
【0031】
生物戦(BW)用病原菌は、その殆どが、環境中に散布するのに好都合な幾何学的な形状を有する。これらは、通常、0.5μm〜5μmの範囲内の粒径を有する懸濁液の液滴の形を有する。その懸濁液には、これらの病原菌に加えて、例えば安定剤や溶剤などの化学物質をはじめとする、その他の様々な物質が配合されている。生物戦用病原菌の多くは、溶剤などの既知の化学物質がいかなる配合パターンで配合されているかを判定することによって、同定することができる。
【0032】
以上に述べた様々なセンサは、その各々が、物質の同定のための電子回路部及びインターフェースのための電子回路部を備えており、それら電子回路部は、信号処理装置を備え信号評価アルゴリズムが組込まれたハードウェアと連係して動作する。
【0033】
イオンモビリティ分光装置による検出は、その検出感度を、pptレンジ(1兆分の1レンジ)の検出が可能なほどの高感度にすることができる。また、その検出感度を、低ppbレンジ(千億分の1レンジ)にしたときのSN比は約100であり、このSN比の値は、適当なアルゴリズムを適用することによって更に向上させることができる。BW(生物戦)に用いられる物質は高濃度で検出され、また、本発明ではレーザ照射による揮発性物質の脱離段階で、その脱離した揮発性物質を検出することになるため、特に高濃度で検出される。
【0034】
粒子状態の物質も高感度で検出され、それには3つの理由がある。第1の理由は、高強度のレーザを照射し、しかも計測開始位置までの距離が短いため、レーザビームと物質との相互作用が生じている状態で、高感度で良好に検出を行える環境が整っていることである。第2の理由は、粒子の速度を計測するようにしていることである。第3の理由は、レーザ照射源から照射するレーザの波長を、現在用いられている波長のうちでも短い方の波長にしていることである。以上によって、非常に小さな粒子を検出する場合にも、良好な感度が得られるようになっている。
【0035】
また、励起が2光子駆動方式で行われるようにすることによって、励起が1光子駆動方式で行われる場合と比べて、より大きな量子利得が得られる。
【0036】
また、共鳴増幅多光子イオン化(REMPI)により、従来の一般的なイオン化の場合と比べて、レーザを利用したイオンモビリティ分光の感度が更に向上する。尚、必要に応じて、2ないし3色イオン化過程を用いて、更に増幅度を増大させるようにするのもよい。
【0037】
複数の異なった波長のレーザを粒子に照射するようにすれば、それによって、様々な種類の粒子を粒径と分布とに応じて区別する上で効果的な変化を生じさせることができる。また更に、高分解能の複数のCCDを用いて、様々な角度からの後方散乱信号を受信するようにすれば、多次元全体画像を得ることができる。
【0038】
そして、励起が共鳴2光子駆動方式で行われるようにすることによって、励起が非共鳴1光子駆動方式で行われる場合と比べて、より高い感度が得られる。また、レーザによるエネルギ供給の方式をパルス方式とすることによって、エネルギ供給の波長と放出される波長とのオーバーラップの問題を緩和することができる。
【0039】
既述のごとく、イオンモビリティ分光によって検出を行う際の計測時間は極めて短い。その計測が極めて短時間で行えるのは、SN比に優れているため、いわゆる「ワンショット計測フレーム」方式(即ち、一度の「露出」により取得したデータに基づいて計測を行う方式)を採用できるからである。その結果、スペクトル検出のための計測に要する時間は20m秒となっている。更には、粒子の種類の同定に要する時間も非常に短く(<1m秒)、ただしその実際の所要時間は使用するCCDによって異なる。CCDとしては、例えばCCDアレイなどを使用することができる。同様に、蛍光を検出するために要する時間は、また非常に短く(<20m秒)、使用するCCDや、反復ないし同定技術によっても異なる。
【0040】
以上に説明したどのセンサも、検出動作を反復して実行し、その反復周期は25m秒〜100m秒の範囲内にある。反復周期がこの範囲内にあれば、最長の計測時間は100m秒になり、最短の計測時間は25m秒になる。要求される計測時間の限度(1分間以下)と比べて、この範囲内の計測時間は格段に短く、この範囲内の計測時間に対応したタイムフレームで計測を実行するならば、1分間に600回〜2400回の範囲内の反復速度で計測を行うことができ、このことが、信号系及び蓄積ルーチンを大きく改善することになる。
【0041】
更に加えて、放射性物質からの放射を検出するために、核放射センサを装備するようにしてもよく、その核放射センサとしては、例えば、超小型のシリコンドリフト検出器などを用いるとよい。
【0042】
また、本発明に係る分析方法は、請求項1に記載の分析装置を用いて、空中に浮遊している化学物質、生体物質、爆発性物質、及び/または放射性物質をリアルタイムで分析するための分析方法であって、以下のステップを含むものである。
−前記多重反射セルの中の試料にUVレーザを照射するステップ、
−可能であるならば、前記試料をイオン化して、電荷、移動度、及び波長を検出するステップ、
−可能であるならば、前記試料の蛍光を計測して、色、持続時間、及び波長を検出するステップ、
−可能であるならば、前記試料の後方散乱を計測して、粒子数及び粒径を検出するステップ。
【0043】
本発明のその他の目的、その他の利点、並びにその他の新規な特徴は、以下に提示する本発明の詳細な説明を添付図面と併せて参照することにより明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】空中に浮遊している化学物質、生体物質、爆発性物質、及び放射性物質をリアルタイムで分析するための本発明に係る分析装置の好適な実施の形態を示した模式図である。
【図2】本発明に係る分析装置に用いられる、空気中に浮遊している様々な生体物質を同定するためのアルゴリズムを示したフローチャートである。
【図3】同定パターンを示したデータテーブルである。
【発明を実施するための形態】
【0045】
図1は、空中に浮遊している化学物質、生体物質、及び爆発性物質をリアルタイムで分析するための本発明に係る分析装置の好適な実施の形態を示した模式図である。図中右側に示したレーザユニット6は、検出を良好に行うために多重反射セル5の中へ、緑光レーザビームを入射させている。多重反射セル5は開放型測定パスとして構成されており、即ち、この多重反射セル5は、従来公知のこの種のデバイスと異なり、環境空気がその中を流通できるように構成されている。図示例において、多重反射セル5は、その全体形状が略々直方体であり、その測定パスの長さは僅か9cmである。多重反射セル5は、その長手方向の両端に、夫々複数のミラー(不図示)を備えており、それらミラーは、レーザビームが1つのミラーから次のミラーへ次々と反射して行くように配設されている。これによって、ガスとの間に相互作用を生じるレーザビームの経路長を長大化しており、図示例ではそのレーザビームの経路長が6mとなっている。それら複数のミラーにより構成された光学系のために、1つの反射点から次の反射点まで延在するレーザビームが多数形成され、それら多数のレーザビームは、中央領域において互いに交わり、そして、そこから複数のミラーへ向かって扇形に広がるように形成される。また図示例では、個々のレーザビームの経路は、略々平行となっている。
【0046】
多重反射セル5のミラーはケイ素ガラスで製作されており、また、それらミラーはUV(紫外線)波長領域及び緑光波長領域において高い表面反射率を有するように製作されている。更に、それらミラーの表面は非伝導性の蒸着層から成り、この蒸着層は特に、レーザビームが照射されることによって発生する歪みを考慮に入れて形成されている。この装置の各々の構成部品は、セラミック製のフレームに高精度で嵌着されて取付けられており、そのため、完成後に個々の構成部品の調整を行う必要がない。
【0047】
多重反射セル5の、レーザユニット6が配設されている端部とは反対側の端部には、吸収検出器7が配設されている。尚、レーザユニット6は、チューナブル紫外線レーザイオン化源として構成されている。
【0048】
多重反射セル5の測定パスの上方からこの測定パスの中へ突出させるようにして、蛍光センサ1と、後方散乱センサ2とが配設されている。後方散乱センサ2は、CCD検出器から成るものである。更に、図示例では、多重反射セル5の測定パスの下方にシリコンドリフトセンサから成る核放射センサ3が配設されている。また、多重反射セル5の測定パスの下方にレーザIMSから成る化学物質センサ4が配設されている。
【0049】
以上に述べたセンサ1、2、3、及び4は、デジタル演算論理ユニット10から成る評価デバイスに接続されており、この評価デバイスは、それらセンサ1、2、3、及び4から受取る信号をリアルタイムで評価し、必要に応じて危険警告信号を発生する。
【0050】
粒子センサ(後方散乱センサ2)は、電荷結合素子(CCD)から成るものであって、レーザ信号が照射されることにより発生して様々な角度で到来する後方散乱を検出する。
【0051】
イオン移動度技術は、ドリフト電界発生機構を組込んだ平行平板電極と、増幅器と、マイクロメカニクスにより製作された幾つかの構成部品とを備える。
【0052】
レーザ要素は、単一周波数、あるいは多重周波数、或いはまた、可変周波数レンジを有する光学的パラメトリック発振器(OPO:optically parametric oscillator)で構成されてもよい。
【0053】
以上に述べた夫々のセンサは、その各々が固有の利点を有するものである。化学物質センサ4は、高い感度と、高い選択度とを備えている。また蛍光センサ1は、冷光ないし蛍光に対する特有の反応特性を備えていることから、多数の種類の生体物質を効率的に同定することのできる装置となっている。
【0054】
以上に述べた夫々のセンサは、その各々が計測をリアルタイムで行う能力を備えているため、基本的な同定パターンを判定するソフトウェアにとっては、処理がオーバーラップすることが予測される時間が短いながらも存在する。そのような場合に備えて、検査対象の試料をその他の物理的手段によっても検出できるようにおくことも、基本的に考えられることである。
【0055】
図2は、評価ユニット(評価デバイス10)が実行する同定アルゴリズムを示したフローチャートである。図3は、同定パターンを示したデータテーブルである。同定アルゴリズムは、イオン化(事象A)、蛍光(事象B)、それに、レーザ信号の後方散乱(事象C)に基づいて同定を行い、8通りの基本的な同定パターンに応じた信号を出力する。イオン化(事象A)に関するステップでは、電荷、移動度、波長についての信号が参照され、蛍光(事象B)に関するステップでは、色、持続時間、波長についての信号が参照され、後方散乱(事象C)に関するステップでは、粒径、粒子数についての信号が参照される。それらの信号は、その各々が固有の特性を表しており、その特性とは、例えば、密度ないし濃度、波長、移動度、粒径、発生量、放出量、等々であり、これらは図3に示した通りである。そして、判定基準となるそれらの信号の行列に対して、計測環境に応じたパラメータによる重み付けが施される。
【0056】
以上の開示は、本発明を具体的に説明することのみを目的として提示したものであり、本発明を限定することを意図したものではない。当業者であれば、本発明の概念及び本質を備えた、以上に開示した実施の形態の様々な変更形態にも想到し得ることは当然のことであり、本発明は、特許請求の範囲に包含されるあらゆる形態、並びに、それらと均等なあらゆる形態を包含するものと解釈されねばならない。
【符号の説明】
【0057】
1 蛍光センサ
2 後方散乱センサ
3 核放射センサ
4 化学物質センサ
5 多重反射セル(多重パスレーザセル)
6 レーザユニット
7 吸収検出器
A イオン化
B 蛍光
C 後方散乱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空中に浮遊している化学物質、生体物質、及び爆発性物質をリアルタイムで分析するためのリアルタイム分析装置において、
ガス分析センサと、
蛍光/冷光センサと、
粒子の粒子数及び粒径を検出するための粒子センサと、
前記ガス分析センサ、前記蛍光/冷光センサ、及び前記粒子センサの出力を受取るように接続された評価ユニットとを備え、
前記ガス分析センサ、前記蛍光/冷光センサ、及び前記粒子センサは、その各々が、開放型測定パスを構成している多重反射セルに結合されている、
ことを特徴とするリアルタイム分析装置。
【請求項2】
放射性物質を分析するための核放射センサを更に備えたことを特徴とする請求項1記載のリアルタイム分析装置。
【請求項3】
前記ガス分析センサはレーザイオンモビリティ分光装置から成ることを特徴とする請求項1記載のリアルタイム分析装置。
【請求項4】
前記多重反射セルはチューナブルUVレーザ照射源を備えていることを特徴とする請求項1記載のリアルタイム分析装置。
【請求項5】
前記レーザ照射源の波長が200nm〜350nmの範囲内にあることを特徴とする請求項4記載のリアルタイム分析装置。
【請求項6】
前記レーザ照射源の波長が260nm〜270nmの範囲内にあることを特徴とする請求項4記載のリアルタイム分析装置。
【請求項7】
前記レーザ照射源の反復周波数が10Hz〜50Hzの範囲内にあることを特徴とする請求項1記載のリアルタイム分析装置。
【請求項8】
前記多重反射セルの中のビーム経路長が3m〜9mの範囲内にあることを特徴とする請求項1記載のリアルタイム分析装置。
【請求項9】
前記多重反射セルの中のビーム経路長が6mであることを特徴とする請求項1記載のリアルタイム分析装置。
【請求項10】
前記粒子数及び粒径を検出するための粒子センサは後方散乱センサから成ることを特徴とする請求項1記載のリアルタイム分析装置。
【請求項11】
前記核放射測定のための核放射センサはシリコンドリフト検出器から成ることを特徴とする請求項1記載のリアルタイム分析装置。
【請求項12】
空中に浮遊している化学物質、生体物質、爆発性物質、及び/または放射性物質をリアルタイムで分析するための分析方法において、
多重反射セルの中の試料にUVレーザを照射するステップと、
前記試料をイオン化して、電荷、移動度、及び波長を検出するステップと、
前記試料の蛍光を計測して、色、持続時間、及び波長を検出するステップと、
前記試料の後方散乱を計測して、粒子数及び粒径を検出するステップと、
前記イオン化ステップ、前記蛍光計測ステップ、及び前記後方散乱計測ステップにより得られた検出結果に基づいて前記試料を同定するステップと、
を含むことを特徴とする分析方法。
【請求項13】
評価ユニットが、前記イオン化ステップ、前記蛍光計測ステップ、及び前記後方散乱計測ステップにおいて生成されたセンサ信号を検出すると共に、評価アルゴリズムに従って危険物質の存在の有無を判定することを特徴とする請求項12記載の分析方法。
【請求項14】
前記評価アルゴリズムに従って危険物質の存在の有無を判定する際に、
イオン化の発生を事象Aとし、蛍光の発生を事象Bとし、後方散乱の発生を事象Cとするとき、
事象A、事象B、及び事象Cが存在するならば、全種類の危険物質が存在するものと判定し、
事象A及び事象Bが存在するならば、バクテリア胞子が存在するものと判定し、
事象A及び事象Cが存在するならば、浮遊する有毒物質が存在するものと判定し、
事象Aが存在するならば、無機物質の粒子が存在するものと判定し、
事象B及び事象Cが存在するならば、有毒揮発性有機物質(VOS)が存在するものと判定し、
事象Bが存在するならば、ウイルスが存在するものと判定し、
事象Cが存在するならば、有機及び無機揮発性化合物(VCs)が存在するものと判定する、
ことを特徴とする請求項13記載の分析方法。
【請求項15】
空中に浮遊している化学物質、生体物質、及び爆発性物質をリアルタイムで分析するための分析装置において、
ガス分析センサと、
蛍光と冷光との少なくとも一方を検出するための蛍光/冷光センサと、
粒子の粒子数及び粒径を検出するための粒子センサと、
前記ガス分析センサ、前記蛍光/冷光センサ、及び前記粒子センサが少なくとも作用的に結合された多重反射セルと、
前記多重反射セルの中へレーザ照射光を入射させるように配設されたレーザ照射源と、
前記ガス分析センサ、前記蛍光/冷光センサ、及び前記粒子センサから出力される出力信号を受取るように接続された評価ユニットとを備え、
前記粒子センサ及び前記蛍光/冷光センサは、前記レーザ照射光と前記多重反射セルの中に存在する試料との間の相互作用を検出するように配設されており、
前記多重反射セルは、周囲の環境空気に対して開放された開放型測定パスを構成している、
ことを特徴とする分析装置。
【請求項16】
前記ガス分析センサは、レーザによる共鳴増幅多光子イオン化機構を用いた低電界イオンモビリティ分光センサから成ることを特徴とする請求項15記載の分析装置。
【請求項17】
前記粒子センサ及び前記蛍光/冷光センサはCCDアレイから成ることを特徴とする請求項15記載の分析装置。
【請求項18】
前記評価ユニットは、前記ガス分析センサ、前記蛍光/冷光センサ、及び前記粒子センサから出力される前記出力信号を分析すると共に、前記物質の特性データを示した格納されているデータテーブルに基づき、検出アルゴリズムに従って前記多重反射セル内の環境空気中の化学物質、生体物質、または爆発性物質の有無を検出することを特徴とする請求項15記載の分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−534847(P2010−534847A)
【公表日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−518648(P2010−518648)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【国際出願番号】PCT/EP2008/059916
【国際公開番号】WO2009/016169
【国際公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(503025786)エーアーデーエス・ドイッチェランド・ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (8)
【Fターム(参考)】