空中浮遊菌の検査方法及びその装置
【課題】生物発光反応による発光量を計測することにより検査試料に含まれるATP量を求め、空中浮遊菌の菌数を算出するに際して、使用するATP発光試薬及び検査結果の信頼性評価を併せて行うことができる空中浮遊菌の検査方法及びその装置を提供すること。
【解決手段】検査試料に含まれる気中から捕集した空中浮遊菌の生菌に由来するATPをもとにATP発光試薬を用いて生物発光反応を行わせ、該生物発光反応による発光量を計測することにより検査試料に含まれるATP量を求め、空中浮遊菌の菌数を算出するようにした空中浮遊菌の検査方法において、ATP発光試薬の発光量を計測し、当該ATP発光試薬の発光量の計測値と該計測値に対応する予め設定した理論値とを対比することによって、使用するATP発光試薬及び検査結果の信頼性評価を併せて行うようにする。
【解決手段】検査試料に含まれる気中から捕集した空中浮遊菌の生菌に由来するATPをもとにATP発光試薬を用いて生物発光反応を行わせ、該生物発光反応による発光量を計測することにより検査試料に含まれるATP量を求め、空中浮遊菌の菌数を算出するようにした空中浮遊菌の検査方法において、ATP発光試薬の発光量を計測し、当該ATP発光試薬の発光量の計測値と該計測値に対応する予め設定した理論値とを対比することによって、使用するATP発光試薬及び検査結果の信頼性評価を併せて行うようにする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空中浮遊菌の検査方法及びその装置に関し、特に、捕集した空中浮遊菌の生菌に由来するATPをもとにATP発光試薬を用いて生物発光反応を行わせ、該生物発光反応による発光量を計測することにより検査試料に含まれるATP量を求め、空中浮遊菌の菌数を算出するに際して、使用するATP発光試薬及び検査結果の信頼性評価を併せて行うようにした空中浮遊菌の検査方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、空中浮遊菌の検査方法としては、本件出願人が先に提案した空中浮遊菌の捕集デバイスとそれを用いた分析システムの中で、ATP発光試薬を用いて生物発光反応を行わせ、該生物発光反応による発光量を計測することにより検査試料に含まれるATP量を求め、空中浮遊菌の菌数を算出する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この空中浮遊菌の検査方法は、容器と、該容器内に収容された温度が、40℃以下、より具体的には、15℃以上35℃以下の範囲でゲル−ゾル間の相転移をする高分子を含む捕集担体とからなる捕集デバイスを、吸気ノズルを備えた捕集装置に取り付け、捕集装置を作動させて空中浮遊菌を捕集する捕集工程、捕集担体をゲル状からゾル状に相転移し、菌懸濁液(試料)とする菌回収工程、試料中の菌外ATPや死菌内のATPを消去するATP消去工程、菌より小さい夾雑物を含む液体成分をろ別し、試料中の生菌をフィルタ上に捕捉するろ過工程、生菌の細胞壁を溶解し、生菌の細胞質に含まれるATPを試料溶液中に抽出するATP抽出工程、生菌から抽出したATPを含む試料溶液を得るATP回収工程を経て、ATP計測工程において試料中のATP含有量を求め、単位体積当たりの空中浮遊菌数として検査結果を提供するもので、ATP計測工程は、以下の手順に従って行われる。
【0004】
まず、ATP計測工程に先立って、計測系の背景ノイズとなるベースラインの発光量の計測を行う。
発光計測は、光電子増倍管とコンパレータを組み合わせ、光電子増倍管に入射する光の1光子あたり1パルスを出力するフォトンカウンティング方式の光電子増倍管を使用し、発光の光量をパルスの発生数(単位はcps:Count Per Seconds)として計数する。
これは、ATPを注入する前の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量を計測することによって求められ、その平均値をC1として記録する。
次いで、既知のATP含有量に調整した所定量のATP試料(以下、「標準ATP試料」という。)を注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量を計測し、最初のピーク値をC2とし、前記C1の値を減じて標準ATP試料の実効発光量を求め、該実効発光量を標準ATP試料のATPの濃度K1及び分注量V1で除することで計測感度である単位ATP当たりの発光係数R1を求める(式1)。
次に、C2を計測後、一定時間経過した後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の平均値C3を記録し、ATP回収工程によって得られた、試料溶液である気中から捕集した空中浮遊菌の生菌に由来するATP試料(以下、「捕集ATP試料」という。)を注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量を計測し、最初のピーク値をC4とし、前記C3の値を減じて、捕集ATP試料の実効発光量を求める。
そして、先に求めた計測感度である単位ATP当たりの発光係数R1を乗じるとともに、捕集ATP試料の分注量V2で除して捕集ATP試料のATPの換算量Sを求める(式2)。
さらに、捕集ATP試料のATPの換算量Sを一生菌当たりのATP含有量の平均値(約2amol)で除算することにより捕集ATP試料中の平均生菌数を求め、捕集ATP試料中の平均生菌数を捕集した気体試料の体積で除算することにより、単位体積の気体試料に含まれる平均生菌数を求めるようにしている。
R1=(C2−C1)/(K1・V1)・・・(式1)
R1:単位ATP当たりの発光係数(cps/(amol・μL))
C1:ATPを注入する前の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の平均値(cps)
C2:所定量のATPを注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値(cps)
K1:所定量のATPの濃度(amol)
V1:所定量のATPの分注量(μL)
S=(C4−C3)・R1/V2(amol)・・・(式2)
S:気中から捕集した空中浮遊菌の生菌に由来するATPの換算量(amol)
C3:所定量のATPを注入し、一定時間経過した後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の平均値(cps)
C4:気中から捕集した空中浮遊菌の生菌に由来するATPを注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値(cps)
V2:気中から捕集した空中浮遊菌の生菌に由来するATPの分注量(μL)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−139115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記従来の空中浮遊菌の検査方法は、ATP発光試薬の発光量を計測し、ATP換算量を求めることによって、空中浮遊菌の菌数を算出することができるが、空中浮遊菌の捕集工程によって捕集された空中浮遊菌は、その後の菌回収工程からATP発光試薬の発光量の計測を行うATP計測工程までの一連の工程は機械化された自動計測装置で行われる。
しかし、計測装置の機械系の調整不良による試薬の分取・分注の精度の劣化、発光量計測手段である光電子増倍管(PMT)の性能劣化、試薬類の劣化、試薬類の品質の不均一、その他の外的な外乱要因等に起因するATP発光試薬の発光量の計測値の信頼性が評価されていない。
そのため、最終的な菌数の算出値や各ATP発光試薬の発光量の計測値は、異常があった場合でも検査結果(単位体積の気体試料に含まれる平均生菌数)が表示されるだけであり、検査結果に異常があるかどうかの判断は作業者の経験に頼るところが大きかった。
【0007】
本発明は、上記従来の空中浮遊菌の検査方法及びその装置の有する課題に鑑み、生物発光反応による発光量を計測することにより検査試料に含まれるATP量を求め、空中浮遊菌の菌数を算出するに際して、使用するATP発光試薬及び検査結果の信頼性評価を併せて行うことができる空中浮遊菌の検査方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本第1発明の空中浮遊菌の検査方法は、検査試料に含まれる気中から捕集した空中浮遊菌の生菌に由来するATPをもとにATP発光試薬を用いて生物発光反応を行わせ、該生物発光反応による発光量を計測することにより検査試料に含まれるATP量を求め、空中浮遊菌の菌数を算出するようにした空中浮遊菌の検査方法において、ATP発光試薬について、次の(1)〜(4)のATP発光試薬の発光量を計測し、当該ATP発光試薬の発光量の計測値と該計測値に対応する予め設定した理論値とを対比することによって、使用するATP発光試薬及び検査結果の信頼性評価を併せて行うようにすることを特徴とする。
(1)ATPを注入する前の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
(2)所定量のATPを注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
(3)所定量のATPを注入し、予め設定した時間経過した後のATP発光反応でATPを消費しATP発光反応が終了した時点での予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
(4)気中から捕集した空中浮遊菌の生菌に由来するATPを注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
【0009】
この場合において、前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数が、40%を超える場合に、計測値に信頼性がないと判定するようにすることができる。
【0010】
また、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値から前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の平均値を減じた値が、所定量のATPの発光量の理論値に対して、−30%〜+30%の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定するようにすることができる。
【0011】
また、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値から任意に選択した2点の計測値の対数の差を該2点の時間差で除して算出した減衰率が、所定量のATPの発光量の減衰率の理論値に対して−0.2dB/秒〜+0.2dB/秒の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定するようにすることができる。
【0012】
また、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値が、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値の点を通り、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値を前半と後半の2つの領域に分け、前半の各計測値の対数の平均値と後半の各計測値の対数の平均値の当該2つの値の平均値を、前半領域と後半領域の時間差で除して算出した減衰率を傾きとする仮想線が示す発光量の値に、該発光量の値に前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数を乗じた値を加減した値の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定するようにすることができる。
【0013】
また、前記(4)のATP発光試薬の発光量の計測値が、前記(4)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値の点を通り、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値を前半と後半の2つの領域に分け、前半の各計測値の対数の平均値と後半の各計測値の対数の平均値の当該2つの値の平均値を、前半領域と後半領域の時間差で除して算出した減衰率に、前記最初のピーク値とその後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の平均値との差を乗じた値を傾きとし、前記予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の平均値を加算してなる仮想線が示す発光量の値に、該発光量の値に前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数を乗じた値を加減した値の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定するようにすることができる。
【0014】
また、前記(4)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値が、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値の発光反応の線形性を維持できる限界である10倍を越える場合に、検査不能又は計測値に信頼性がないと判定するようにすることができる。
【0015】
また、前記(3)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数が、前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数の0.5倍〜1.5倍の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定するようにすることができる。
【0016】
また、前記(4)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値が、前記(3)のATP発光試薬の発光量の計測値の平均値に前記(3)のATP発光試薬の発光量の計測値の標準偏差を加えた値よりも小さい場合に、検査不能又は計測値に信頼性がないと判定するようにすることができる。
【0017】
また、同じ目的を達成するため本第2発明の空中浮遊菌の検査装置は、気中から空中浮遊菌を捕集する空中浮遊菌捕集手段と、該空中浮遊菌捕集手段によって捕集された空中浮遊菌の生菌に由来するATPを抽出した検査試料を生成する検査試料生成手段と、検査試料に含まれる気中から捕集した空中浮遊菌の生菌に由来するATPをもとにATP発光試薬を用いて生物発光反応を行わせ、該生物発光反応による発光量を計測するATP発光試薬の発光量計測手段と、計測されたATP発光試薬の発光量に基づいて検査試料に含まれるATP量を求め、空中浮遊菌の菌数を算出する演算手段とを備えた空中浮遊菌の検査装置において、ATP発光試薬の発光量計測手段によって、ATP発光試薬について、次の(1)〜(4)のATP発光試薬の発光量を計測し、当該ATP発光試薬の発光量の計測値と該計測値に対応する予め設定した理論値とを対比することによって、使用するATP発光試薬及び検査結果の信頼性評価を行う信頼性評価手段を備えたことを特徴とする。
(1)ATPを注入する前の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
(2)所定量のATPを注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
(3)所定量のATPを注入し、予め設定した時間経過した後のATP発光反応でATPを消費しATP発光反応が終了した時点での予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
(4)気中から捕集した空中浮遊菌の生菌に由来するATPを注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
【発明の効果】
【0018】
本第1発明の空中浮遊菌の検査方法によれば、生物発光反応による発光量を計測することにより検査試料に含まれるATP量を求め、空中浮遊菌の菌数を算出するようにした空中浮遊菌の検査をする際に、計測するATP発光試薬の発光量の計測値と該計測値に対応する予め設定した理論値とを対比することによって、使用するATP発光試薬及び検査結果の信頼性評価を行い、使用するATP発光試薬及び検査結果に異常がある場合に、作業者が容易に異常を知ることができる空中浮遊菌の検査方法を提供することができる。
【0019】
ATP発光試薬の発光量を計測する発光量計測手段である光電子増倍管の熱雑音ノイズは有限の値であり、外乱光がない状態ではほぼ一定の値をとり、ATPを注入する前の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の標準偏差を平均値で除した変動係数は、一般的な光電子増倍管とアンプ、コンパレータを組み合わせたものでは30〜40%が正常な値となることから、前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数が、40%を超える場合に、計測値に信頼性がないと判定することによって、光電子増倍管の劣化や故障、計測のハードウエアの異常、ATP発光試薬がATPに汚染の有無、ATP消去試薬の性能が劣化等について、早期に点検、修理等を行って改善し、検査方法によって得られる検査結果の信頼性を維持することができる。
【0020】
標準ATP試料を注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の最初のピーク値は、既知のATP含有量に調整した試料の発光量の計測値であることから、標準ATP試料の濃度の誤差として20%、標準ATP試料の経時劣化や反応温度による変動を10%程度加味し、理論値に対して、−30%〜+30%の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定することによって、光電子増倍管の劣化や故障、計測のハードウエアの異常、標準ATP試料の濃度チェック等について、早期に点検、修理等を行って改善し、検査方法によって得られる検査結果の信頼性を維持することができる。
【0021】
標準ATP試料を注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量は、徐々に減衰し、その減衰率は、標準ATP試料の濃度及び量が一定の場合には固有の値(理論値)をとることから、任意に選択した2点(例えば、予め設定した期間の初期と後期)の計測値の対数の差を該2点の時間差で除して算出した減衰率が、理論値に対して−0.2dB/秒〜+0.2dB/秒の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定することによって、各反応条件の異常、例えば、温度条件が既定の範囲を逸脱していないか否か、外乱光が発光量の計測中に発生していないか否か、振動が発光量の計測中に発生していないか否か等の不具合について、早期に点検、修理等を行って改善し、検査方法によって得られる検査結果の信頼性を維持することができる。
【0022】
標準ATP試料を注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量は、反応開始後に新たにATPが供給された場合や、振動や急激な温度変化がない限り安定して減衰し、前記仮想線と計測値との残差は所定の許容範囲に入るものであることから、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値が、前記仮想線が示す発光量の値に、該発光量の値に前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数を乗じた値を加減した値の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定することによって、光電子増倍管の劣化や故障、各反応条件の異常、不具合について、早期に点検、修理等を行って改善し、検査方法によって得られる検査結果の信頼性を維持することができる。
【0023】
捕集ATP試料を注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量は、反応開始後に新たにATPが供給された場合や、振動や急激な温度変化がない限り安定して減衰し、前記仮想線と計測値との残差は所定の許容範囲に入るものであることから、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値が、前記仮想線が示す発光量の値に、該発光量の値に前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数を乗じた値を加減した値の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定することによって、光電子増倍管の劣化や故障、分取・分注系のノズルの目詰まりや吐出速度を調節する機器の不具合について、早期に点検、修理等を行って改善し、検査方法によって得られる検査結果の信頼性を維持することができる。
【0024】
一般に測定装置には計測範囲が存在し、発光量計測手段である光電子増倍管のダイナミックレンジは100dB以上である。標準ATP試料の発光量の計測値あるいは捕集ATP試料の発光量の計測値が、比例関係の線形性が維持できる範囲を超えた場合でも、捕集ATP試料に含まれる菌数が多い場合には計測値は得られるが、計測結果の相対精度の保証範囲を超えることから、前記(4)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値が、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値の発光反応の線形性を維持できる限界である10倍を越える場合に、検査不能又は計測値に信頼性がないと判定することによって、捕集ATP試料に許容値以上のATPが含まれていることの確認や、ATP消去試薬の性能劣化等について、また、光電子増倍管の劣化や故障等について、早期に点検、修理等を行って改善し、検査方法によって得られる検査結果の信頼性を維持することができる。
【0025】
標準ATP試料を注入する前の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の平均値と、標準ATP試料を注入し、予め設定した時間経過した後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の平均値は、共に背景ノイズの計測であり、大きく変動する場合は、外乱光の漏洩等のハードウエアの異常等が想定できことから、前記(3)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数が、前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数の0.5倍〜1.5倍の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定することによって、早期に試薬の点検、機器の修理等を行って改善し、検査方法によって得られる検査結果の信頼性を維持することができる。
【0026】
捕集ATP試料の発光量の計測値の最初のピーク値と、標準ATP試料を注入し、予め設定した時間経過した後の標準ATP試料のATPの発光反応が終了した予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の平均値である背景ノイズとの値に有意な差が出ない場合には、計測分解能以下の計測であり、無菌状態の計測結果を含めて計測不能であるとみなすことが妥当であることから、前記(4)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値が、前記(3)のATP発光試薬の発光量の計測値の平均値に前記(3)のATP発光試薬の発光量の計測値の標準偏差を加えた値よりも小さい場合に、検査不能又は計測値に信頼性がないと判定することによって、ATP発光試薬の性能劣化等について、早期に試薬の点検を行って改善し、検査方法によって得られる検査結果の信頼性を維持することができる。また、捕集ATP試料が無菌状態であることを確認する(寒天培養等で培養することによって確認することができる。)ことによって、捕集箇所が無菌空間であることを確認することができる。
【0027】
また、本第2発明の空中浮遊菌の検査装置によれば、ATP発光試薬の発光量計測手段によって、ATP発光試薬について、前記(1)〜(4)のATP発光試薬の発光量を計測し、当該ATP発光試薬の発光量の計測値と該計測値に対応する予め設定した理論値とを対比することによって、使用するATP発光試薬及び検査結果の信頼性評価を行う信頼性評価手段を備えているから、一連の工程が機械化された自動検査装置の検査工程の中で、計測値の信頼性を評価し、使用するATP発光試薬及び検査結果に異常がある場合に、作業者が容易に異常を知ることができる空中浮遊菌の検査装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の空中浮遊菌の検査装置の空中浮遊菌捕集手段の概略構成図を示し、(a)は捕集デバイスの断面図、(b)は捕集装置の概略図である。
【図2】本発明の空中浮遊菌の検査装置の概略構成図である。
【図3】本発明の空中浮遊菌の検査方法の概略フロー図である。
【図4】同検査方法のATP計測工程によって計測されるATP発光試薬の発光量を示すグラフである。
【図5】ルール3で規定する減衰率の許容範囲を示し、(a)は説明図、(b)は実際の計測値との比較図である。
【図6】ルール1での異常要因を解析するためのフロー図である。
【図7】ルール2〜4での異常要因を解析するためのフロー図である。
【図8】ルール5〜8での異常要因を解析するためのフロー図である。
【図9】信頼性評価のフロー図である。
【図10】ルール5で規定する許容範囲を示し、(a)は減衰率だけで計算した場合の許容範囲を、(b)は補正を行った場合の許容範囲を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の空中浮遊菌の検査方法及びその装置の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0030】
図1〜図9に、本発明の空中浮遊菌の検査方法及びその装置の一実施例を示す。
この空中浮遊菌の検査方法は、検査試料に含まれる気中から捕集した空中浮遊菌の生菌に由来するATPをもとにATP発光試薬を用いて生物発光反応を行わせ、該生物発光反応による発光量を計測することにより検査試料に含まれるATP量を求め、空中浮遊菌の菌数を算出するようにし、ATP発光試薬について、次の(1)〜(4)のATP発光試薬の発光量を計測し、当該ATP発光試薬の発光量の計測値と該計測値に対応する予め設定した理論値とを対比することによって、使用するATP発光試薬及び検査結果の信頼性評価を併せて行うようにしている。
(1)ATPを注入する前の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
(2)所定量のATPを注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
(3)所定量のATPを注入し、予め設定した時間経過した後のATP発光反応でATPを消費しATP発光反応が終了した時点での予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
(4)気中から捕集した空中浮遊菌の生菌に由来するATPを注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
【0031】
そして、この空中浮遊菌の検査方法に使用する空中浮遊菌の検査装置1は、気中から空中浮遊菌を捕集する空中浮遊菌捕集手段2と、該空中浮遊菌捕集手段2によって捕集された空中浮遊菌の生菌に由来するATPを抽出した検査試料を生成する検査試料生成手段3と、検査試料に含まれる気中から捕集した空中浮遊菌の生菌に由来するATPをもとにATP発光試薬を用いて生物発光反応を行わせ、該生物発光反応による発光量を計測するATP発光試薬の発光量計測手段4と、計測されたATP発光試薬の発光量に基づいて検査試料に含まれるATP量を求め、空中浮遊菌の菌数を算出する演算手段5とを備え、ATP発光試薬の発光量計測手段4によって、ATP発光試薬について、前記(1)〜(4)のATP発光試薬の発光量を計測し、当該ATP発光試薬の発光量の計測値と該計測値に対応する予め設定した理論値とを対比することによって、使用するATP発光試薬及び検査結果の信頼性評価を行う信頼性評価手段6を備えるようにしている。
【0032】
空中浮遊菌捕集手段2は、捕集デバイス2Aと捕集装置2Bとからなり、捕集デバイス2Aをセットした捕集装置2Bを用いて、空中浮遊菌を捕集デバイス2Aの捕集担体21(ここではゲル状)に捕集するようにしている。
【0033】
捕集デバイス2Aは、従来例と同様に、温度が、40℃以下、より具体的には、15℃以上35℃以下の範囲でゲル−ゾル間の相転移をする高分子を含む捕集担体21と該捕集担体21を収容する容器20とからなる。なお、容器20の底面をフィルタFとすることによって、菌捕集後の一連の工程を容易に自動化することができる。
【0034】
捕集装置2Bは、上部部材22aと、下部部材22bと、吸気ノズル23と、捕集デバイス2A用のホルダ24と、温度調節機構25と、吸引ポンプ26と、排気ダクト27と、排気フィルタ28とを備え、装置内部には空隙(空間)29が形成されている。
この捕集装置2Bにおいて、上部部材22aは下部部材22bから着脱可能に構成され、上部部材22aを下部部材22bに装着して捕集装置2Bを形成すると両者の接合部は気密となり、この捕集装置2Bの外部との連通部は、上部部材22aにおける吸気ノズル23及び下部部材22bにおける吸引ポンプ26の排気ダクト27に連なる排気フィルタ28のみとなる。
捕集デバイス2A用のホルダ24、吸引ポンプ26は、下部部材22bの内部が配設され、吸引ポンプ26の排出口から排出される気体は、排気ダクト27を通過し、排気フィルタ28によってろ過された後、捕集装置2B外に排出される。
【0035】
なお、図示を省略したが、捕集装置2Bは、吸引ポンプ26や温度調節機構25のための制御系や電源などを内蔵し、操作ボタンや取っ手等を外面の適所に配置するようにしている。
また、捕集デバイス2A用のホルダ24は、温度調節機構25を備え、捕集デバイス2Aを着脱可能に収納し、捕集デバイス2Aを収納した際は温度調節機構25の上面が捕集デバイス2Aの下面と接触し、捕集担体21の温度を、40℃以下、より具体的には、15℃以上35℃以下の範囲に調節し、捕集担体21のゲル状を維持する。
【0036】
捕集装置2B内部には、吸気ノズル23の出口から捕集デバイス2Aを経由して、吸引ポンプ26の吸入口までを連絡する空隙29が設けられ、また、吸引ポンプ26の排出口から排気フィルタ28までは排気ダクト27が気密を保持して連絡するようにしている。
本実施形態のごときいわゆるインパクタ型の捕集装置2Bは、気中から捕集する試料空気の流量が高いため、所定量の試料を短時間で吸引して空中浮遊菌を捕集できる。
なお、図1(b)において、吸気ノズル23として1穴型の構成を例示したが、本発明で利用可能な吸気ノズル23はこの構成に限定されず、より小さな穴を多く有する多穴型など各種の吸気ノズルを採用することができる。
【0037】
検査試料生成手段3及び発光量計測手段4は、自動測定装置10に含まれるもので、検査試料生成手段3は、捕集担体21に捕集された空中浮遊菌及び夾雑物等から、空中浮遊菌の生菌に由来するATPのみを含む捕集ATP試料を生成するための機器から構成される。
【0038】
より具体的には、捕集装置2Bから取り外した捕集デバイス2Aを取り付ける捕集デバイス2A用のホルダ14と、捕集担体21がゲル状からゾル状に相転転移する温度(例えば、37℃〜40℃)に保温する温度調節機構30と、ゾル状に相転移した菌懸濁液から所定量の試料を回収(菌回収工程)した試料中の菌外ATPや死菌内のATPを消去するATP消去剤を添加混合(ATP消去工程)するためのATP消去剤用分注器D1と、菌より小さい夾雑物を含む液体成分をろ別し、試料中の生菌をフィルタF上に捕捉するためのろ過機構31と、ろ別した生菌の細胞質に含まれるATPを抽出する(ATP抽出工程)ためのATP抽出試薬用分注器D2と、フィルタF上に得られた生菌に由来するATPを回収(ATP回収工程)するためのATP回収用ピペッタD3とからなる。
ろ過機構31は、目皿ホルダ31A、電磁弁31B、廃液トラップ31C及び吸引ポンプ31Dからなる吸引機構と前記フィルタFの下面とを組み合わせて構成される。
【0039】
また、発光量計測手段4は、ATP発光試薬を注入するATP発光試薬用分注器D4と、ATP発光試薬が生物発光反応することによって発光する際の発光量を計測する光子計数器40(例えば、光電子増倍管等)と、試料及び試薬を注入、混合する試験管(図示省略)用の試験管ホルダ41とからなる。
【0040】
なお、ここでは、分注器D1、D2、D3、D4を、それぞれ専用のものとして説明したが、1つの分注器で、分注器D1、D2、D3、D4のいくつか、例えば、ATP消去剤用分注器D1、ATP抽出試薬用分注器D2及びATP発光試薬用分注器D4を兼用(なお、兼用する分注器の組み合わせは、これに限定されない。)することもできる。
【0041】
そして、発光量計測手段4によって、図4に示す、ATP計測工程における、各ATP発光試薬の発光量を計測するようにしている。
以下、具体的にATP計測工程における、発光量の計測の推移を説明する。
【0042】
マーカ1は、標準ATP試料を注入する前のATP発光試薬の発光量(背景ノイズ)の計測開始時刻を示す。
マーカ1からマーカ2の間の領域Aは、ATP量が既知である標準ATP試料の発光量の計測直前に行う背景ノイズを計測する領域とし、領域Aの計測値の平均値を従来と同様にC1、領域Aの計測値の標準偏差をSD1とする。
マーカ2のタイミングで標準ATP試料の発光反応が始まる。
領域Bは、標準ATP試料の発光量を計測する期間を示し、領域Bの最初のピーク値(尖頭値)をC2とする。
領域BBは、領域Bを含む標準ATP試料の発光量の計測における発光量の減衰監視期間を示す。
マーカ3は、標準ATP試料の発光量の計測後で、捕集ATP試料を注入する前のATP発光試薬の発光量(背景ノイズ)の計測開始時刻を示す。
マーカ4は、捕集ATP試料の発光量の計測開始時刻を示す。
マーカ3からマーカ4間での領域Cは、捕集ATP試料の発光量の計測開始前の背景ノイズ計測領域を示し、領域Cの計測値の平均値をC3、領域Cの計測値の標準偏差をSD3とする。
領域Dは、捕集ATP試料の発光量の計測を行う期間を示し、領域Dの最初のピーク値(尖頭値)をC4とする。
領域DDは、領域Dを含む捕集ATP試料の発光量の計測における発光量の減衰監視期間を示す。
各領域の期間は、一例として、領域Aを120秒、領域Bを10秒、領域BBを120秒、領域Cを120秒、領域Dを10秒とする。
領域DDの期間は、捕集ATP試料の計測において常用する計測の範囲が、標準ATP試料よりも捕集ATP試料のATP量の方が小さい場合には、領域DDは領域BBよりも短い期間とし、20〜30秒とする。
一方、捕集ATP試料のATP量が、標準ATP試料と同程度あるいは標準ATP試料よりも多い場合を常用の計測範囲とする場合には、領域DDの期間は、領域BBの期間と同じ値とするようにする。
ここで、常用する計測の範囲とは、空中浮遊菌の計測環境によって異なり、例えば、
無菌製剤の製造環境等での計測の場合には、ATP換算値は0〜数100amol程度となり、0〜数100amolが常用する計測の範囲となる。このとき、標準ATP試料は500amolのものを使用する。
また、無菌製剤の製造環境以外、例えば、食品関係の製造環境等での計測のように1000〜数万amol程度のATP換算値を求める場合には、10000amol程度の標準ATP試料を用いて検査するようにする。
【0043】
演算手段5は、従来例と同様に、式1及び式2を使って、空中浮遊菌の菌数を算出するものであるが、この空中浮遊菌の検査装置1では、演算手段5による式1及び式2を用いた演算処理の前に、信頼性評価手段6によるATP発光試薬及び検査結果の信頼性評価を行い、信頼性を有する計測値と判定した場合に空中浮遊菌の菌数を算出し、その結果を、制御装置11を介し、ディスプレイ等の表示手段13に表示するようにしている。
【0044】
また、ATP消去剤用分注器D1、ATP抽出試薬用分注器D2、ATP回収用ピペッタD3、TP発光試薬用分注器D4は、それぞれ制御装置11からの制御信号によって、各種試薬の分注やピペッティング動作を自動的に行う機構を備えている。
【0045】
電磁弁31Bと吸引ポンプ31Dとは、制御装置11により制御され、ろ過工程を管理するようにしている。
温度調節機構30は、制御装置11の制御の下、自動測定装置10の内部の各所、特に、捕集デバイス2A用のホルダ14の温度を37℃以上40℃以下に制御するようにしている。
また、光子計数器40は、試験管ホルダ41に設置した試験管(図示省略)、で生じるATP発光試薬の発光量を(発光の強度を光子数として)計測し、計測値を制御装置11へ出力するようにしている。
【0046】
なお、自動測定装置10の使用開始に先立ち、滅菌清浄機構12を用いて自動測定装置10の内部を滅菌し、また、オゾンガス(紫外線滅菌法を用いた場合)や微粒子を除去するようにする。
また、自動測定装置10の使用中も滅菌清浄機構12を用いてオゾンガスや微粒子を除去しつつ使用することが好ましい。
【0047】
そして、使用するATP発光試薬及び検査結果の信頼性評価を行う信頼性評価手段6は、発光量計測手段4によって、ATP発光試薬について計測した、前記(1)〜(4)のATP発光試薬の発光量の計測値と該計測値に対応した予め設定した理論値とを制御装置11内で演算(演算手段5を使って演算処理することもできる)を行いながら対比し、計測値が理論値の範囲を外れる場合に信頼性がないと判定するもので、より具体的には、以下の8つのルールに沿って信頼性の評価を行うようにしている。
【0048】
<ルール1>
前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数が、40%を超える場合に、計測値に信頼性がないと判定するようにする。
【0049】
これは、ATP発光試薬の発光量を計測する発光量計測手段4である光電子増倍管の熱雑音ノイズは有限の値であり、外乱光がない状態ではほぼ一定の値をとり、ATPを注入する前の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の標準偏差を平均値で除した変動係数は、一般的な光電子増倍管とアンプ、コンパレータを組み合わせ、1光子の入射で1パルスを出力するフォトンカウンティング方式の計測では30〜40%が正常な値となることから、前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値(領域A)の変動係数(SD1/C1)が、40%を超える場合に、計測値に信頼性がないと判定するようしたものである。
【0050】
ルール1において信頼性がないと判定される要因としては、図6に示すように、試薬の汚染や、発光計測系の故障等が考えられ、光電子増倍管の劣化や故障、計測のハードウエアの異常、ATP発光試薬がATPに汚染の有無、ATP消去試薬の性能が劣化等について、早期に点検、修理等を行って改善し、検査方法によって得られる検査結果の信頼性を維持することができる。
【0051】
<ルール2>
前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値から前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の平均値を減じた値が、所定量のATPの発光量の理論値に対して、−30%〜+30%の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定する。
【0052】
これは、標準ATP試料を注入した直後の予め設定した期間(領域B)のATP発光試薬の発光量の最初のピーク値(C2)は、既知のATP含有量に調整した試料の発光量の計測値であることから、標準ATP試料の濃度の誤差として20%、標準ATP試料の経時劣化や反応温度による変動を10%程度加味し、理論値に対して、−30%〜+30%の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定するようにしたものである。
【0053】
ルール2において信頼性がないと判定される要因としては、図7に示すように、標準ATP試料の濃度が既定値から外れている場合や光計測系の故障等が考えられ、光電子増倍管の劣化や故障、計測のハードウエアの異常、標準ATP試料の濃度チェック等について、早期に点検、修理等を行って改善し、検査方法によって得られる検査結果の信頼性を維持することができる。
【0054】
<ルール3>
前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値から任意に選択した2点の計測値の比の常用対数の10倍の値を、該2点の時間差で除して算出した減衰率が、所定量のATPの発光量の減衰率の理論値に対して−0.2dB/秒〜+0.2dB/秒の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定する。
【0055】
これは、標準ATP試料を注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量は、徐々に減衰し、その減衰率は、標準ATP試料の濃度及び量が一定の場合には固有の値(理論値)をとることから、任意に選択した2点(例えば、予め設定した期間の初期と後期)の計測値の対数の差を該2点の時間差で除して算出した減衰率が、理論値に対して−0.2dB/秒〜+0.2dB/秒の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定するようしたものである。
【0056】
ルール3において信頼性がないと判定される要因としては、図7に示すように、反応条件である温度条件が既定の範囲を逸脱している場合や、外乱光が発光量の計測中に発生している場合の他、振動が発光量の計測中に発生していることがあると考えられ、各反応条件の異常、例えば、温度条件が既定の範囲を逸脱していないか否か、外乱光が発光量の計測中に発生していないか否か、振動が発光量の計測中に発生していないか否か等の不具合について、早期に点検、修理等を行って改善し、検査方法によって得られる検査結果の信頼性を維持することができる。
【0057】
<ルール4>
前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値が、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値の点を通り、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値(領域BB)を前半と後半の2つの領域に分け、前半の各計測値の対数の平均値と後半の各計測値の対数の平均値の2つの値の平均値を、領域BBの時間の1/2、すなわち、前半領域と後半領域の時間差で除して算出した減衰率を傾きとする仮想線が示す発光量の値に、該発光量の値に前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数を乗じた値を加減した値の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定する。仮想線は、減衰率K(dB/s)を式3により、推定値Cn(C2のピークからn秒経過後の減衰を推定する仮想線)を式4により計算する。
K=10×(log(C2R/C2F))/Ts・・・(式3)
K:減衰率(dB/s)
C2F:前半データの平均値
C2R:後半データの平均値
Ts:前半データと後半データの時間差(領域BBの期間の1/2)
log:常用対数
Cn=C2×10(Kn/10)・・・(式4)
【0058】
これは、標準ATP試料を注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量は、反応開始後に新たにATPが供給された場合や、振動や急激な温度変化がない限り安定して減衰し、前記仮想線と計測値との残差は所定の許容範囲に入るものであることから、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値(領域BB)が、前記仮想線が示す発光量の値に、該発光量の値に前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数(SD1/C1)を乗じた値を加減した値の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定するようしたものである。
【0059】
ルール4において信頼性がないと判定される要因としては、図7に示すように、反応条件である外乱光が発光量の計測中に発生している場合や、振動が発光量の計測中に発生している場合の他、発光量計測手段4である光電子増倍管の電源が計測中にON/OFFする不具合が発生していることがあると考えられ、光電子増倍管の劣化や故障、各反応条件の異常、不具合について、早期に点検、修理等を行って改善し、検査方法によって得られる検査結果の信頼性を維持することができる。
【0060】
<ルール5>
前記(4)のATP発光試薬の発光量の計測値が、前記(4)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値の点を通り、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値から任意に選択した2点の計測値の対数の差を該2点の時間差で除して算出した減衰率に、前記最初のピーク値とその後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の平均値との差を乗じた値を傾きとし、前記予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の平均値を加算してなる仮想線が示す発光量の値に、該発光量の値に前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数を乗じた値を加減した値の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定する。
【0061】
これは、標準ATPの発光試薬による発光量については、前述のルール4で判定を行うが、捕集した試料のATP発光にルール4を適用すると判定の許容範囲を大きくとる必要がある。標準ATPでは発光の強度は10,000〜20,000cpsに対して背景光のノイズ分は100〜200cpsであるため減衰率の計算においては背景光のノイズ成分の補正の有無は減衰率の計算で大きな誤差にはならない。減衰率が1%程度誤差を含んだとしても許容範囲は20%の設定であれば1%の計算誤差は許容できる。しかしながら、捕集ATP試料では背景光のノイズ成分と有意な差の出る限界発光から標準ATP発光のような発光強度の強い発光までの範囲に適用できるルールが求められる。
このため、ATP発光試薬の発光量の計測値(領域DD)では、以下のルールを適用する。
ATP換算量の計算(式2)では領域Dを含む領域DDの最初のピーク値C4と領域Cの平均値C3の差を捕集した試料の生菌に由来するATPとして計算している。
これと同様に最初のピーク値C4と領域Cの平均値C3の差分を有効発光強度として、ルール4で求めた減衰率に(C4−C3)を乗じた値を傾きとし、ノイズ成分であるC3を加算した値を仮想線(C4のピークからn秒経過後の減衰を推定する仮想線)とし、式5により計算する。
Cn=(C4−C3)×10(Kn/10)+C3・・・(式5)
この仮想線の推定値に前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数(SD1/C1)を乗じた値を加減した値の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定するようしたものである。
図10(a)に減衰率だけで計算した場合の許容範囲を、図10(b)にC4を漸近線とした補正を行った場合の許容範囲を示す。
減衰係数だけで推定した値は傾斜が一定な直線であり、発光量が少ない場合には時間経過とともにノイズ分であるC3の値に収束する。このため一定傾斜の直線に定数を漸近線として収束する補正を加えることで発光の強度が低下した領域での推定誤差を低減し、小さな許容値で判定することができる。
【0062】
ルール5において信頼性がないと判定される要因としては、図7に示すように、反応条件である外乱光が発光量の計測中に発生している場合や、振動が発光量の計測中に発生している場合の他、分取・分注系のである分注ノズルの吐出速度に異常が発生していることがあると考えられ、光電子増倍管の劣化や故障、分取・分注系のノズルの目詰まりや吐出速度を調節する機器の不具合について、早期に点検、修理等を行って改善し、検査方法によって得られる検査結果の信頼性を維持することができる。
【0063】
ルール5の判定においては、常用する計測範囲を考慮して、発光量の値に乗じる変動係数を変更することができる。
常用する計測範囲が、標準ATP試料よりも大きい場合(低感度計測)には、領域DDの許容値を決定する変動係数は、上記の通り、領域BBと同程度の値(SD1/C1)とする。
一方、常用する範囲が、標準ATP試料よりも小さい領域で使用する場合(高感度計測)には、領域DDの許容値を決定する変動係数は、領域Cでの背景ノイズの標準偏差SD3よりも十分に大きい値で選定するようにすることが好ましい。
これは、領域DDの期間では、発光量の減衰はC3の延長線を漸近線として、C4からC3の延長線に収束するが、高感度のATP計測では短時間でATPが消費されてしまい領域DDの期間で発光が継続されず背景ノイズとの差異が小さい計測値となる傾向にあるためで、そのため、高感度測定においては領域BBの減衰と領域Cを漸近線とした補正計算を導入することで、領域DDの許容値を大きく広げることなく判定を行い、高感度計測及び低感度計測の両方に対応することができる。
【0064】
<ルール6>
前記(4)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値が、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値の発光反応の線形性を維持できる限界である10倍を越える場合に、検査不能又は計測値に信頼性がないと判定する。
【0065】
これは、一般に測定装置には計測範囲が存在し、発光量計測手段4である光電子増倍管のダイナミックレンジは100dB以上であり、標準ATP試料の発光量の計測値と捕集ATP試料の発光量の計測値とが、比例関係の線形性が維持できる範囲を超えた場合でも、捕集ATP試料に含まれる菌数が多い場合には計測値に異常はないが、計測結果の精度の保証範囲を超えることから、前記(4)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値(C4)が、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値(C2)の発光反応の線形性を維持できる限界である10倍を越える場合に、検査不能又は計測値に信頼性がないと判定するようにしたものである。
【0066】
ルール6において検査不能又は信頼性がないと判定される要因としては、図8に示すように、主な要因は、捕集ATP試料に許容値以上のATPが含まれていると考えられるが、他に計測系の異常、捕集ATP試料に異常(ATP消去試薬の性能劣化)も考えられ、光電子増倍管の劣化や故障について、早期に点検、修理等を行って改善し、検査方法によって得られる検査結果の信頼性を維持することができる。
【0067】
<ルール7>
前記(3)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数が、前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数の0.5倍〜1.5倍の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定する。
【0068】
これは、標準ATP試料を注入する前の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の平均値と、標準ATP試料を注入し、予め設定した時間経過した後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の平均値は、共に背景ノイズの計測であり、大きく変動する場合は、外乱光の漏洩等のハードウエアの異常等が想定できことから、前記(3)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数(SD3/C3)が、前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数(SD1/C1)の0.5倍〜1.5倍の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定するようにしたものである。
【0069】
ルール7において信頼性がないと判定される要因としては、図8に示すように、試薬ラック内のATP汚染が発生している場合、分取・分注量が安定していない場合の他、発光計測系の異常が考えられ、早期に試薬の点検、機器の修理等を行って改善し、検査方法によって得られる検査結果の信頼性を維持することができる。
【0070】
<ルール8>
前記(4)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値が、前記(3)のATP発光試薬の発光量の計測値の平均値に前記(3)のATP発光試薬の発光量の計測値の標準偏差を加えた値よりも小さい場合に、検査不能又は計測値に信頼性がないと判定する。
【0071】
これは、捕集ATP試料の発光量の計測値の最初のピーク値と、標準ATP試料を注入し、予め設定した時間経過した後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の平均値である背景ノイズとの値に有意な差が出ない場合には、計測分解能以下の計測であり、無菌状態の計測結果を含めて計測不能であるとみなすことが妥当であることから、前記(4)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値(C4)が、前記(3)のATP発光試薬の発光量の計測値の平均値(C3)に前記(3)のATP発光試薬の発光量の計測値の標準偏差(DS3)を加えた値よりも小さい場合に、検査不能又は計測値に信頼性がないと判定するようにしたものである。
【0072】
ルール8において検査不能又は信頼性がないと判定される要因としては、図8に示すように、捕集ATP試料にATPが含まれていない無菌状態の計測であった場合、ろ過工程で漏洩が発生し、菌を液体系で分取できていなかった場合が、主な理由として考えられろ過工程での漏洩の有無を検査し、漏洩がある場合には、ろ過工程の異常と判定し、漏洩がない場合には、計測限界以下の無菌状態であると判定する。また、この他に、ATP発光試薬の劣化、発光計測系の異常も考えられるため、早期に試薬の点検、機器の修理等を行って改善し、検査方法によって得られる検査結果の信頼性を維持することができる。
【0073】
また、上記8つのルールの他に、ろ過工程での漏洩検査も行うことが好ましい。
これは、ルール8で説明した通り、捕集した空中浮遊菌がろ過工程で漏洩してしまうと、ルール8の判定において、無菌状態の計測と同様に、捕集ATP試料の発光量の計測値の最初のピーク値と、標準ATP試料を注入し、予め設定した時間経過した後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の平均値である背景ノイズとの値に有意な差が出ないこととなる他に、ろ過工程での漏洩によって菌の一部が漏洩する場合には、実際の菌数よりも検査結果による菌数が少なくなり、検査の信頼性を著しく損ねることとなるからである。
【0074】
ろ過工程での漏洩検査は、捕集担体21をゲル状からゾル状に相転移し、菌懸濁液(試料)とする菌回収工程、試料中の菌外ATPや死菌内のATPを消去するATP消去工程を経て、試料中の成分を空中浮遊菌の生菌と夾雑物とした状態から、菌より小さい夾雑物をろ別するろ過工程で、夾雑物と共に菌が排出されることを防止するために行うもので、検査装置1の定期点検時に行うようにしている。
【0075】
ろ過工程での漏洩検査は、試料中の生菌をフィルタ上に捕捉することができるか否かを検査するものであれば、特に限定されるものではないが、本実施例においては、枯草菌等の菌を付着させたフィルタ(検査用捕集カートリッジ)を使ってろ過工程を実施し、存在するはずの枯草菌等のATPが検出できない場合に、ろ過工程で漏洩していると判定するようにしている。
【0076】
ろ過工程で捕集した菌が漏洩していると判定した場合、ろ過工程で使用するろ過機構31の各部材、特に、目皿ホルダ31A、目皿(図示省略)及びフィルタFの取り付け精度の点検や、吸引ポンプ31Dの吸引力を調整し、ろ過工程での漏洩対策を行い、検査方法によって得られる検査結果の信頼性を維持することができる。
【0077】
以上に説明した判定のルール及びろ過工程での漏洩検査を、図9に示すフロー図に沿って、信頼性評価手段6によって判定することで、計測機器の故障や試薬に起因する計測値の異常等の複数の要因から使用するATP発光試薬及び検査結果の信頼性評価を行い、早期に試薬の点検、機器の修理等を行って改善し、検査方法によって得られる検査結果の信頼性を維持することができる。
【0078】
以上、本発明の空中浮遊菌の検査方法及びその装置について、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の空中浮遊菌の検査方法及びその装置は、生物発光反応による発光量を計測することにより検査試料に含まれるATP量を求め、空中浮遊菌の菌数を算出するに際して、使用するATP発光試薬及び検査結果の信頼性評価を併せて行うことができるという特性を有していることから、広く空中浮遊菌の検査方法及びその装置の用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0080】
1 空中浮遊菌の検査装置
2 空中浮遊菌捕集手段
3 検査試料生成手段
4 発光量計測手段
5 演算手段
6 信頼性評価手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、空中浮遊菌の検査方法及びその装置に関し、特に、捕集した空中浮遊菌の生菌に由来するATPをもとにATP発光試薬を用いて生物発光反応を行わせ、該生物発光反応による発光量を計測することにより検査試料に含まれるATP量を求め、空中浮遊菌の菌数を算出するに際して、使用するATP発光試薬及び検査結果の信頼性評価を併せて行うようにした空中浮遊菌の検査方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、空中浮遊菌の検査方法としては、本件出願人が先に提案した空中浮遊菌の捕集デバイスとそれを用いた分析システムの中で、ATP発光試薬を用いて生物発光反応を行わせ、該生物発光反応による発光量を計測することにより検査試料に含まれるATP量を求め、空中浮遊菌の菌数を算出する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この空中浮遊菌の検査方法は、容器と、該容器内に収容された温度が、40℃以下、より具体的には、15℃以上35℃以下の範囲でゲル−ゾル間の相転移をする高分子を含む捕集担体とからなる捕集デバイスを、吸気ノズルを備えた捕集装置に取り付け、捕集装置を作動させて空中浮遊菌を捕集する捕集工程、捕集担体をゲル状からゾル状に相転移し、菌懸濁液(試料)とする菌回収工程、試料中の菌外ATPや死菌内のATPを消去するATP消去工程、菌より小さい夾雑物を含む液体成分をろ別し、試料中の生菌をフィルタ上に捕捉するろ過工程、生菌の細胞壁を溶解し、生菌の細胞質に含まれるATPを試料溶液中に抽出するATP抽出工程、生菌から抽出したATPを含む試料溶液を得るATP回収工程を経て、ATP計測工程において試料中のATP含有量を求め、単位体積当たりの空中浮遊菌数として検査結果を提供するもので、ATP計測工程は、以下の手順に従って行われる。
【0004】
まず、ATP計測工程に先立って、計測系の背景ノイズとなるベースラインの発光量の計測を行う。
発光計測は、光電子増倍管とコンパレータを組み合わせ、光電子増倍管に入射する光の1光子あたり1パルスを出力するフォトンカウンティング方式の光電子増倍管を使用し、発光の光量をパルスの発生数(単位はcps:Count Per Seconds)として計数する。
これは、ATPを注入する前の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量を計測することによって求められ、その平均値をC1として記録する。
次いで、既知のATP含有量に調整した所定量のATP試料(以下、「標準ATP試料」という。)を注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量を計測し、最初のピーク値をC2とし、前記C1の値を減じて標準ATP試料の実効発光量を求め、該実効発光量を標準ATP試料のATPの濃度K1及び分注量V1で除することで計測感度である単位ATP当たりの発光係数R1を求める(式1)。
次に、C2を計測後、一定時間経過した後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の平均値C3を記録し、ATP回収工程によって得られた、試料溶液である気中から捕集した空中浮遊菌の生菌に由来するATP試料(以下、「捕集ATP試料」という。)を注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量を計測し、最初のピーク値をC4とし、前記C3の値を減じて、捕集ATP試料の実効発光量を求める。
そして、先に求めた計測感度である単位ATP当たりの発光係数R1を乗じるとともに、捕集ATP試料の分注量V2で除して捕集ATP試料のATPの換算量Sを求める(式2)。
さらに、捕集ATP試料のATPの換算量Sを一生菌当たりのATP含有量の平均値(約2amol)で除算することにより捕集ATP試料中の平均生菌数を求め、捕集ATP試料中の平均生菌数を捕集した気体試料の体積で除算することにより、単位体積の気体試料に含まれる平均生菌数を求めるようにしている。
R1=(C2−C1)/(K1・V1)・・・(式1)
R1:単位ATP当たりの発光係数(cps/(amol・μL))
C1:ATPを注入する前の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の平均値(cps)
C2:所定量のATPを注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値(cps)
K1:所定量のATPの濃度(amol)
V1:所定量のATPの分注量(μL)
S=(C4−C3)・R1/V2(amol)・・・(式2)
S:気中から捕集した空中浮遊菌の生菌に由来するATPの換算量(amol)
C3:所定量のATPを注入し、一定時間経過した後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の平均値(cps)
C4:気中から捕集した空中浮遊菌の生菌に由来するATPを注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値(cps)
V2:気中から捕集した空中浮遊菌の生菌に由来するATPの分注量(μL)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−139115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記従来の空中浮遊菌の検査方法は、ATP発光試薬の発光量を計測し、ATP換算量を求めることによって、空中浮遊菌の菌数を算出することができるが、空中浮遊菌の捕集工程によって捕集された空中浮遊菌は、その後の菌回収工程からATP発光試薬の発光量の計測を行うATP計測工程までの一連の工程は機械化された自動計測装置で行われる。
しかし、計測装置の機械系の調整不良による試薬の分取・分注の精度の劣化、発光量計測手段である光電子増倍管(PMT)の性能劣化、試薬類の劣化、試薬類の品質の不均一、その他の外的な外乱要因等に起因するATP発光試薬の発光量の計測値の信頼性が評価されていない。
そのため、最終的な菌数の算出値や各ATP発光試薬の発光量の計測値は、異常があった場合でも検査結果(単位体積の気体試料に含まれる平均生菌数)が表示されるだけであり、検査結果に異常があるかどうかの判断は作業者の経験に頼るところが大きかった。
【0007】
本発明は、上記従来の空中浮遊菌の検査方法及びその装置の有する課題に鑑み、生物発光反応による発光量を計測することにより検査試料に含まれるATP量を求め、空中浮遊菌の菌数を算出するに際して、使用するATP発光試薬及び検査結果の信頼性評価を併せて行うことができる空中浮遊菌の検査方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本第1発明の空中浮遊菌の検査方法は、検査試料に含まれる気中から捕集した空中浮遊菌の生菌に由来するATPをもとにATP発光試薬を用いて生物発光反応を行わせ、該生物発光反応による発光量を計測することにより検査試料に含まれるATP量を求め、空中浮遊菌の菌数を算出するようにした空中浮遊菌の検査方法において、ATP発光試薬について、次の(1)〜(4)のATP発光試薬の発光量を計測し、当該ATP発光試薬の発光量の計測値と該計測値に対応する予め設定した理論値とを対比することによって、使用するATP発光試薬及び検査結果の信頼性評価を併せて行うようにすることを特徴とする。
(1)ATPを注入する前の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
(2)所定量のATPを注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
(3)所定量のATPを注入し、予め設定した時間経過した後のATP発光反応でATPを消費しATP発光反応が終了した時点での予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
(4)気中から捕集した空中浮遊菌の生菌に由来するATPを注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
【0009】
この場合において、前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数が、40%を超える場合に、計測値に信頼性がないと判定するようにすることができる。
【0010】
また、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値から前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の平均値を減じた値が、所定量のATPの発光量の理論値に対して、−30%〜+30%の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定するようにすることができる。
【0011】
また、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値から任意に選択した2点の計測値の対数の差を該2点の時間差で除して算出した減衰率が、所定量のATPの発光量の減衰率の理論値に対して−0.2dB/秒〜+0.2dB/秒の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定するようにすることができる。
【0012】
また、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値が、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値の点を通り、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値を前半と後半の2つの領域に分け、前半の各計測値の対数の平均値と後半の各計測値の対数の平均値の当該2つの値の平均値を、前半領域と後半領域の時間差で除して算出した減衰率を傾きとする仮想線が示す発光量の値に、該発光量の値に前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数を乗じた値を加減した値の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定するようにすることができる。
【0013】
また、前記(4)のATP発光試薬の発光量の計測値が、前記(4)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値の点を通り、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値を前半と後半の2つの領域に分け、前半の各計測値の対数の平均値と後半の各計測値の対数の平均値の当該2つの値の平均値を、前半領域と後半領域の時間差で除して算出した減衰率に、前記最初のピーク値とその後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の平均値との差を乗じた値を傾きとし、前記予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の平均値を加算してなる仮想線が示す発光量の値に、該発光量の値に前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数を乗じた値を加減した値の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定するようにすることができる。
【0014】
また、前記(4)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値が、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値の発光反応の線形性を維持できる限界である10倍を越える場合に、検査不能又は計測値に信頼性がないと判定するようにすることができる。
【0015】
また、前記(3)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数が、前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数の0.5倍〜1.5倍の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定するようにすることができる。
【0016】
また、前記(4)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値が、前記(3)のATP発光試薬の発光量の計測値の平均値に前記(3)のATP発光試薬の発光量の計測値の標準偏差を加えた値よりも小さい場合に、検査不能又は計測値に信頼性がないと判定するようにすることができる。
【0017】
また、同じ目的を達成するため本第2発明の空中浮遊菌の検査装置は、気中から空中浮遊菌を捕集する空中浮遊菌捕集手段と、該空中浮遊菌捕集手段によって捕集された空中浮遊菌の生菌に由来するATPを抽出した検査試料を生成する検査試料生成手段と、検査試料に含まれる気中から捕集した空中浮遊菌の生菌に由来するATPをもとにATP発光試薬を用いて生物発光反応を行わせ、該生物発光反応による発光量を計測するATP発光試薬の発光量計測手段と、計測されたATP発光試薬の発光量に基づいて検査試料に含まれるATP量を求め、空中浮遊菌の菌数を算出する演算手段とを備えた空中浮遊菌の検査装置において、ATP発光試薬の発光量計測手段によって、ATP発光試薬について、次の(1)〜(4)のATP発光試薬の発光量を計測し、当該ATP発光試薬の発光量の計測値と該計測値に対応する予め設定した理論値とを対比することによって、使用するATP発光試薬及び検査結果の信頼性評価を行う信頼性評価手段を備えたことを特徴とする。
(1)ATPを注入する前の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
(2)所定量のATPを注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
(3)所定量のATPを注入し、予め設定した時間経過した後のATP発光反応でATPを消費しATP発光反応が終了した時点での予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
(4)気中から捕集した空中浮遊菌の生菌に由来するATPを注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
【発明の効果】
【0018】
本第1発明の空中浮遊菌の検査方法によれば、生物発光反応による発光量を計測することにより検査試料に含まれるATP量を求め、空中浮遊菌の菌数を算出するようにした空中浮遊菌の検査をする際に、計測するATP発光試薬の発光量の計測値と該計測値に対応する予め設定した理論値とを対比することによって、使用するATP発光試薬及び検査結果の信頼性評価を行い、使用するATP発光試薬及び検査結果に異常がある場合に、作業者が容易に異常を知ることができる空中浮遊菌の検査方法を提供することができる。
【0019】
ATP発光試薬の発光量を計測する発光量計測手段である光電子増倍管の熱雑音ノイズは有限の値であり、外乱光がない状態ではほぼ一定の値をとり、ATPを注入する前の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の標準偏差を平均値で除した変動係数は、一般的な光電子増倍管とアンプ、コンパレータを組み合わせたものでは30〜40%が正常な値となることから、前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数が、40%を超える場合に、計測値に信頼性がないと判定することによって、光電子増倍管の劣化や故障、計測のハードウエアの異常、ATP発光試薬がATPに汚染の有無、ATP消去試薬の性能が劣化等について、早期に点検、修理等を行って改善し、検査方法によって得られる検査結果の信頼性を維持することができる。
【0020】
標準ATP試料を注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の最初のピーク値は、既知のATP含有量に調整した試料の発光量の計測値であることから、標準ATP試料の濃度の誤差として20%、標準ATP試料の経時劣化や反応温度による変動を10%程度加味し、理論値に対して、−30%〜+30%の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定することによって、光電子増倍管の劣化や故障、計測のハードウエアの異常、標準ATP試料の濃度チェック等について、早期に点検、修理等を行って改善し、検査方法によって得られる検査結果の信頼性を維持することができる。
【0021】
標準ATP試料を注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量は、徐々に減衰し、その減衰率は、標準ATP試料の濃度及び量が一定の場合には固有の値(理論値)をとることから、任意に選択した2点(例えば、予め設定した期間の初期と後期)の計測値の対数の差を該2点の時間差で除して算出した減衰率が、理論値に対して−0.2dB/秒〜+0.2dB/秒の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定することによって、各反応条件の異常、例えば、温度条件が既定の範囲を逸脱していないか否か、外乱光が発光量の計測中に発生していないか否か、振動が発光量の計測中に発生していないか否か等の不具合について、早期に点検、修理等を行って改善し、検査方法によって得られる検査結果の信頼性を維持することができる。
【0022】
標準ATP試料を注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量は、反応開始後に新たにATPが供給された場合や、振動や急激な温度変化がない限り安定して減衰し、前記仮想線と計測値との残差は所定の許容範囲に入るものであることから、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値が、前記仮想線が示す発光量の値に、該発光量の値に前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数を乗じた値を加減した値の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定することによって、光電子増倍管の劣化や故障、各反応条件の異常、不具合について、早期に点検、修理等を行って改善し、検査方法によって得られる検査結果の信頼性を維持することができる。
【0023】
捕集ATP試料を注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量は、反応開始後に新たにATPが供給された場合や、振動や急激な温度変化がない限り安定して減衰し、前記仮想線と計測値との残差は所定の許容範囲に入るものであることから、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値が、前記仮想線が示す発光量の値に、該発光量の値に前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数を乗じた値を加減した値の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定することによって、光電子増倍管の劣化や故障、分取・分注系のノズルの目詰まりや吐出速度を調節する機器の不具合について、早期に点検、修理等を行って改善し、検査方法によって得られる検査結果の信頼性を維持することができる。
【0024】
一般に測定装置には計測範囲が存在し、発光量計測手段である光電子増倍管のダイナミックレンジは100dB以上である。標準ATP試料の発光量の計測値あるいは捕集ATP試料の発光量の計測値が、比例関係の線形性が維持できる範囲を超えた場合でも、捕集ATP試料に含まれる菌数が多い場合には計測値は得られるが、計測結果の相対精度の保証範囲を超えることから、前記(4)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値が、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値の発光反応の線形性を維持できる限界である10倍を越える場合に、検査不能又は計測値に信頼性がないと判定することによって、捕集ATP試料に許容値以上のATPが含まれていることの確認や、ATP消去試薬の性能劣化等について、また、光電子増倍管の劣化や故障等について、早期に点検、修理等を行って改善し、検査方法によって得られる検査結果の信頼性を維持することができる。
【0025】
標準ATP試料を注入する前の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の平均値と、標準ATP試料を注入し、予め設定した時間経過した後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の平均値は、共に背景ノイズの計測であり、大きく変動する場合は、外乱光の漏洩等のハードウエアの異常等が想定できことから、前記(3)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数が、前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数の0.5倍〜1.5倍の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定することによって、早期に試薬の点検、機器の修理等を行って改善し、検査方法によって得られる検査結果の信頼性を維持することができる。
【0026】
捕集ATP試料の発光量の計測値の最初のピーク値と、標準ATP試料を注入し、予め設定した時間経過した後の標準ATP試料のATPの発光反応が終了した予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の平均値である背景ノイズとの値に有意な差が出ない場合には、計測分解能以下の計測であり、無菌状態の計測結果を含めて計測不能であるとみなすことが妥当であることから、前記(4)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値が、前記(3)のATP発光試薬の発光量の計測値の平均値に前記(3)のATP発光試薬の発光量の計測値の標準偏差を加えた値よりも小さい場合に、検査不能又は計測値に信頼性がないと判定することによって、ATP発光試薬の性能劣化等について、早期に試薬の点検を行って改善し、検査方法によって得られる検査結果の信頼性を維持することができる。また、捕集ATP試料が無菌状態であることを確認する(寒天培養等で培養することによって確認することができる。)ことによって、捕集箇所が無菌空間であることを確認することができる。
【0027】
また、本第2発明の空中浮遊菌の検査装置によれば、ATP発光試薬の発光量計測手段によって、ATP発光試薬について、前記(1)〜(4)のATP発光試薬の発光量を計測し、当該ATP発光試薬の発光量の計測値と該計測値に対応する予め設定した理論値とを対比することによって、使用するATP発光試薬及び検査結果の信頼性評価を行う信頼性評価手段を備えているから、一連の工程が機械化された自動検査装置の検査工程の中で、計測値の信頼性を評価し、使用するATP発光試薬及び検査結果に異常がある場合に、作業者が容易に異常を知ることができる空中浮遊菌の検査装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の空中浮遊菌の検査装置の空中浮遊菌捕集手段の概略構成図を示し、(a)は捕集デバイスの断面図、(b)は捕集装置の概略図である。
【図2】本発明の空中浮遊菌の検査装置の概略構成図である。
【図3】本発明の空中浮遊菌の検査方法の概略フロー図である。
【図4】同検査方法のATP計測工程によって計測されるATP発光試薬の発光量を示すグラフである。
【図5】ルール3で規定する減衰率の許容範囲を示し、(a)は説明図、(b)は実際の計測値との比較図である。
【図6】ルール1での異常要因を解析するためのフロー図である。
【図7】ルール2〜4での異常要因を解析するためのフロー図である。
【図8】ルール5〜8での異常要因を解析するためのフロー図である。
【図9】信頼性評価のフロー図である。
【図10】ルール5で規定する許容範囲を示し、(a)は減衰率だけで計算した場合の許容範囲を、(b)は補正を行った場合の許容範囲を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の空中浮遊菌の検査方法及びその装置の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0030】
図1〜図9に、本発明の空中浮遊菌の検査方法及びその装置の一実施例を示す。
この空中浮遊菌の検査方法は、検査試料に含まれる気中から捕集した空中浮遊菌の生菌に由来するATPをもとにATP発光試薬を用いて生物発光反応を行わせ、該生物発光反応による発光量を計測することにより検査試料に含まれるATP量を求め、空中浮遊菌の菌数を算出するようにし、ATP発光試薬について、次の(1)〜(4)のATP発光試薬の発光量を計測し、当該ATP発光試薬の発光量の計測値と該計測値に対応する予め設定した理論値とを対比することによって、使用するATP発光試薬及び検査結果の信頼性評価を併せて行うようにしている。
(1)ATPを注入する前の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
(2)所定量のATPを注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
(3)所定量のATPを注入し、予め設定した時間経過した後のATP発光反応でATPを消費しATP発光反応が終了した時点での予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
(4)気中から捕集した空中浮遊菌の生菌に由来するATPを注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
【0031】
そして、この空中浮遊菌の検査方法に使用する空中浮遊菌の検査装置1は、気中から空中浮遊菌を捕集する空中浮遊菌捕集手段2と、該空中浮遊菌捕集手段2によって捕集された空中浮遊菌の生菌に由来するATPを抽出した検査試料を生成する検査試料生成手段3と、検査試料に含まれる気中から捕集した空中浮遊菌の生菌に由来するATPをもとにATP発光試薬を用いて生物発光反応を行わせ、該生物発光反応による発光量を計測するATP発光試薬の発光量計測手段4と、計測されたATP発光試薬の発光量に基づいて検査試料に含まれるATP量を求め、空中浮遊菌の菌数を算出する演算手段5とを備え、ATP発光試薬の発光量計測手段4によって、ATP発光試薬について、前記(1)〜(4)のATP発光試薬の発光量を計測し、当該ATP発光試薬の発光量の計測値と該計測値に対応する予め設定した理論値とを対比することによって、使用するATP発光試薬及び検査結果の信頼性評価を行う信頼性評価手段6を備えるようにしている。
【0032】
空中浮遊菌捕集手段2は、捕集デバイス2Aと捕集装置2Bとからなり、捕集デバイス2Aをセットした捕集装置2Bを用いて、空中浮遊菌を捕集デバイス2Aの捕集担体21(ここではゲル状)に捕集するようにしている。
【0033】
捕集デバイス2Aは、従来例と同様に、温度が、40℃以下、より具体的には、15℃以上35℃以下の範囲でゲル−ゾル間の相転移をする高分子を含む捕集担体21と該捕集担体21を収容する容器20とからなる。なお、容器20の底面をフィルタFとすることによって、菌捕集後の一連の工程を容易に自動化することができる。
【0034】
捕集装置2Bは、上部部材22aと、下部部材22bと、吸気ノズル23と、捕集デバイス2A用のホルダ24と、温度調節機構25と、吸引ポンプ26と、排気ダクト27と、排気フィルタ28とを備え、装置内部には空隙(空間)29が形成されている。
この捕集装置2Bにおいて、上部部材22aは下部部材22bから着脱可能に構成され、上部部材22aを下部部材22bに装着して捕集装置2Bを形成すると両者の接合部は気密となり、この捕集装置2Bの外部との連通部は、上部部材22aにおける吸気ノズル23及び下部部材22bにおける吸引ポンプ26の排気ダクト27に連なる排気フィルタ28のみとなる。
捕集デバイス2A用のホルダ24、吸引ポンプ26は、下部部材22bの内部が配設され、吸引ポンプ26の排出口から排出される気体は、排気ダクト27を通過し、排気フィルタ28によってろ過された後、捕集装置2B外に排出される。
【0035】
なお、図示を省略したが、捕集装置2Bは、吸引ポンプ26や温度調節機構25のための制御系や電源などを内蔵し、操作ボタンや取っ手等を外面の適所に配置するようにしている。
また、捕集デバイス2A用のホルダ24は、温度調節機構25を備え、捕集デバイス2Aを着脱可能に収納し、捕集デバイス2Aを収納した際は温度調節機構25の上面が捕集デバイス2Aの下面と接触し、捕集担体21の温度を、40℃以下、より具体的には、15℃以上35℃以下の範囲に調節し、捕集担体21のゲル状を維持する。
【0036】
捕集装置2B内部には、吸気ノズル23の出口から捕集デバイス2Aを経由して、吸引ポンプ26の吸入口までを連絡する空隙29が設けられ、また、吸引ポンプ26の排出口から排気フィルタ28までは排気ダクト27が気密を保持して連絡するようにしている。
本実施形態のごときいわゆるインパクタ型の捕集装置2Bは、気中から捕集する試料空気の流量が高いため、所定量の試料を短時間で吸引して空中浮遊菌を捕集できる。
なお、図1(b)において、吸気ノズル23として1穴型の構成を例示したが、本発明で利用可能な吸気ノズル23はこの構成に限定されず、より小さな穴を多く有する多穴型など各種の吸気ノズルを採用することができる。
【0037】
検査試料生成手段3及び発光量計測手段4は、自動測定装置10に含まれるもので、検査試料生成手段3は、捕集担体21に捕集された空中浮遊菌及び夾雑物等から、空中浮遊菌の生菌に由来するATPのみを含む捕集ATP試料を生成するための機器から構成される。
【0038】
より具体的には、捕集装置2Bから取り外した捕集デバイス2Aを取り付ける捕集デバイス2A用のホルダ14と、捕集担体21がゲル状からゾル状に相転転移する温度(例えば、37℃〜40℃)に保温する温度調節機構30と、ゾル状に相転移した菌懸濁液から所定量の試料を回収(菌回収工程)した試料中の菌外ATPや死菌内のATPを消去するATP消去剤を添加混合(ATP消去工程)するためのATP消去剤用分注器D1と、菌より小さい夾雑物を含む液体成分をろ別し、試料中の生菌をフィルタF上に捕捉するためのろ過機構31と、ろ別した生菌の細胞質に含まれるATPを抽出する(ATP抽出工程)ためのATP抽出試薬用分注器D2と、フィルタF上に得られた生菌に由来するATPを回収(ATP回収工程)するためのATP回収用ピペッタD3とからなる。
ろ過機構31は、目皿ホルダ31A、電磁弁31B、廃液トラップ31C及び吸引ポンプ31Dからなる吸引機構と前記フィルタFの下面とを組み合わせて構成される。
【0039】
また、発光量計測手段4は、ATP発光試薬を注入するATP発光試薬用分注器D4と、ATP発光試薬が生物発光反応することによって発光する際の発光量を計測する光子計数器40(例えば、光電子増倍管等)と、試料及び試薬を注入、混合する試験管(図示省略)用の試験管ホルダ41とからなる。
【0040】
なお、ここでは、分注器D1、D2、D3、D4を、それぞれ専用のものとして説明したが、1つの分注器で、分注器D1、D2、D3、D4のいくつか、例えば、ATP消去剤用分注器D1、ATP抽出試薬用分注器D2及びATP発光試薬用分注器D4を兼用(なお、兼用する分注器の組み合わせは、これに限定されない。)することもできる。
【0041】
そして、発光量計測手段4によって、図4に示す、ATP計測工程における、各ATP発光試薬の発光量を計測するようにしている。
以下、具体的にATP計測工程における、発光量の計測の推移を説明する。
【0042】
マーカ1は、標準ATP試料を注入する前のATP発光試薬の発光量(背景ノイズ)の計測開始時刻を示す。
マーカ1からマーカ2の間の領域Aは、ATP量が既知である標準ATP試料の発光量の計測直前に行う背景ノイズを計測する領域とし、領域Aの計測値の平均値を従来と同様にC1、領域Aの計測値の標準偏差をSD1とする。
マーカ2のタイミングで標準ATP試料の発光反応が始まる。
領域Bは、標準ATP試料の発光量を計測する期間を示し、領域Bの最初のピーク値(尖頭値)をC2とする。
領域BBは、領域Bを含む標準ATP試料の発光量の計測における発光量の減衰監視期間を示す。
マーカ3は、標準ATP試料の発光量の計測後で、捕集ATP試料を注入する前のATP発光試薬の発光量(背景ノイズ)の計測開始時刻を示す。
マーカ4は、捕集ATP試料の発光量の計測開始時刻を示す。
マーカ3からマーカ4間での領域Cは、捕集ATP試料の発光量の計測開始前の背景ノイズ計測領域を示し、領域Cの計測値の平均値をC3、領域Cの計測値の標準偏差をSD3とする。
領域Dは、捕集ATP試料の発光量の計測を行う期間を示し、領域Dの最初のピーク値(尖頭値)をC4とする。
領域DDは、領域Dを含む捕集ATP試料の発光量の計測における発光量の減衰監視期間を示す。
各領域の期間は、一例として、領域Aを120秒、領域Bを10秒、領域BBを120秒、領域Cを120秒、領域Dを10秒とする。
領域DDの期間は、捕集ATP試料の計測において常用する計測の範囲が、標準ATP試料よりも捕集ATP試料のATP量の方が小さい場合には、領域DDは領域BBよりも短い期間とし、20〜30秒とする。
一方、捕集ATP試料のATP量が、標準ATP試料と同程度あるいは標準ATP試料よりも多い場合を常用の計測範囲とする場合には、領域DDの期間は、領域BBの期間と同じ値とするようにする。
ここで、常用する計測の範囲とは、空中浮遊菌の計測環境によって異なり、例えば、
無菌製剤の製造環境等での計測の場合には、ATP換算値は0〜数100amol程度となり、0〜数100amolが常用する計測の範囲となる。このとき、標準ATP試料は500amolのものを使用する。
また、無菌製剤の製造環境以外、例えば、食品関係の製造環境等での計測のように1000〜数万amol程度のATP換算値を求める場合には、10000amol程度の標準ATP試料を用いて検査するようにする。
【0043】
演算手段5は、従来例と同様に、式1及び式2を使って、空中浮遊菌の菌数を算出するものであるが、この空中浮遊菌の検査装置1では、演算手段5による式1及び式2を用いた演算処理の前に、信頼性評価手段6によるATP発光試薬及び検査結果の信頼性評価を行い、信頼性を有する計測値と判定した場合に空中浮遊菌の菌数を算出し、その結果を、制御装置11を介し、ディスプレイ等の表示手段13に表示するようにしている。
【0044】
また、ATP消去剤用分注器D1、ATP抽出試薬用分注器D2、ATP回収用ピペッタD3、TP発光試薬用分注器D4は、それぞれ制御装置11からの制御信号によって、各種試薬の分注やピペッティング動作を自動的に行う機構を備えている。
【0045】
電磁弁31Bと吸引ポンプ31Dとは、制御装置11により制御され、ろ過工程を管理するようにしている。
温度調節機構30は、制御装置11の制御の下、自動測定装置10の内部の各所、特に、捕集デバイス2A用のホルダ14の温度を37℃以上40℃以下に制御するようにしている。
また、光子計数器40は、試験管ホルダ41に設置した試験管(図示省略)、で生じるATP発光試薬の発光量を(発光の強度を光子数として)計測し、計測値を制御装置11へ出力するようにしている。
【0046】
なお、自動測定装置10の使用開始に先立ち、滅菌清浄機構12を用いて自動測定装置10の内部を滅菌し、また、オゾンガス(紫外線滅菌法を用いた場合)や微粒子を除去するようにする。
また、自動測定装置10の使用中も滅菌清浄機構12を用いてオゾンガスや微粒子を除去しつつ使用することが好ましい。
【0047】
そして、使用するATP発光試薬及び検査結果の信頼性評価を行う信頼性評価手段6は、発光量計測手段4によって、ATP発光試薬について計測した、前記(1)〜(4)のATP発光試薬の発光量の計測値と該計測値に対応した予め設定した理論値とを制御装置11内で演算(演算手段5を使って演算処理することもできる)を行いながら対比し、計測値が理論値の範囲を外れる場合に信頼性がないと判定するもので、より具体的には、以下の8つのルールに沿って信頼性の評価を行うようにしている。
【0048】
<ルール1>
前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数が、40%を超える場合に、計測値に信頼性がないと判定するようにする。
【0049】
これは、ATP発光試薬の発光量を計測する発光量計測手段4である光電子増倍管の熱雑音ノイズは有限の値であり、外乱光がない状態ではほぼ一定の値をとり、ATPを注入する前の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の標準偏差を平均値で除した変動係数は、一般的な光電子増倍管とアンプ、コンパレータを組み合わせ、1光子の入射で1パルスを出力するフォトンカウンティング方式の計測では30〜40%が正常な値となることから、前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値(領域A)の変動係数(SD1/C1)が、40%を超える場合に、計測値に信頼性がないと判定するようしたものである。
【0050】
ルール1において信頼性がないと判定される要因としては、図6に示すように、試薬の汚染や、発光計測系の故障等が考えられ、光電子増倍管の劣化や故障、計測のハードウエアの異常、ATP発光試薬がATPに汚染の有無、ATP消去試薬の性能が劣化等について、早期に点検、修理等を行って改善し、検査方法によって得られる検査結果の信頼性を維持することができる。
【0051】
<ルール2>
前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値から前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の平均値を減じた値が、所定量のATPの発光量の理論値に対して、−30%〜+30%の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定する。
【0052】
これは、標準ATP試料を注入した直後の予め設定した期間(領域B)のATP発光試薬の発光量の最初のピーク値(C2)は、既知のATP含有量に調整した試料の発光量の計測値であることから、標準ATP試料の濃度の誤差として20%、標準ATP試料の経時劣化や反応温度による変動を10%程度加味し、理論値に対して、−30%〜+30%の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定するようにしたものである。
【0053】
ルール2において信頼性がないと判定される要因としては、図7に示すように、標準ATP試料の濃度が既定値から外れている場合や光計測系の故障等が考えられ、光電子増倍管の劣化や故障、計測のハードウエアの異常、標準ATP試料の濃度チェック等について、早期に点検、修理等を行って改善し、検査方法によって得られる検査結果の信頼性を維持することができる。
【0054】
<ルール3>
前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値から任意に選択した2点の計測値の比の常用対数の10倍の値を、該2点の時間差で除して算出した減衰率が、所定量のATPの発光量の減衰率の理論値に対して−0.2dB/秒〜+0.2dB/秒の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定する。
【0055】
これは、標準ATP試料を注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量は、徐々に減衰し、その減衰率は、標準ATP試料の濃度及び量が一定の場合には固有の値(理論値)をとることから、任意に選択した2点(例えば、予め設定した期間の初期と後期)の計測値の対数の差を該2点の時間差で除して算出した減衰率が、理論値に対して−0.2dB/秒〜+0.2dB/秒の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定するようしたものである。
【0056】
ルール3において信頼性がないと判定される要因としては、図7に示すように、反応条件である温度条件が既定の範囲を逸脱している場合や、外乱光が発光量の計測中に発生している場合の他、振動が発光量の計測中に発生していることがあると考えられ、各反応条件の異常、例えば、温度条件が既定の範囲を逸脱していないか否か、外乱光が発光量の計測中に発生していないか否か、振動が発光量の計測中に発生していないか否か等の不具合について、早期に点検、修理等を行って改善し、検査方法によって得られる検査結果の信頼性を維持することができる。
【0057】
<ルール4>
前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値が、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値の点を通り、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値(領域BB)を前半と後半の2つの領域に分け、前半の各計測値の対数の平均値と後半の各計測値の対数の平均値の2つの値の平均値を、領域BBの時間の1/2、すなわち、前半領域と後半領域の時間差で除して算出した減衰率を傾きとする仮想線が示す発光量の値に、該発光量の値に前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数を乗じた値を加減した値の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定する。仮想線は、減衰率K(dB/s)を式3により、推定値Cn(C2のピークからn秒経過後の減衰を推定する仮想線)を式4により計算する。
K=10×(log(C2R/C2F))/Ts・・・(式3)
K:減衰率(dB/s)
C2F:前半データの平均値
C2R:後半データの平均値
Ts:前半データと後半データの時間差(領域BBの期間の1/2)
log:常用対数
Cn=C2×10(Kn/10)・・・(式4)
【0058】
これは、標準ATP試料を注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量は、反応開始後に新たにATPが供給された場合や、振動や急激な温度変化がない限り安定して減衰し、前記仮想線と計測値との残差は所定の許容範囲に入るものであることから、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値(領域BB)が、前記仮想線が示す発光量の値に、該発光量の値に前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数(SD1/C1)を乗じた値を加減した値の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定するようしたものである。
【0059】
ルール4において信頼性がないと判定される要因としては、図7に示すように、反応条件である外乱光が発光量の計測中に発生している場合や、振動が発光量の計測中に発生している場合の他、発光量計測手段4である光電子増倍管の電源が計測中にON/OFFする不具合が発生していることがあると考えられ、光電子増倍管の劣化や故障、各反応条件の異常、不具合について、早期に点検、修理等を行って改善し、検査方法によって得られる検査結果の信頼性を維持することができる。
【0060】
<ルール5>
前記(4)のATP発光試薬の発光量の計測値が、前記(4)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値の点を通り、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値から任意に選択した2点の計測値の対数の差を該2点の時間差で除して算出した減衰率に、前記最初のピーク値とその後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の平均値との差を乗じた値を傾きとし、前記予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の平均値を加算してなる仮想線が示す発光量の値に、該発光量の値に前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数を乗じた値を加減した値の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定する。
【0061】
これは、標準ATPの発光試薬による発光量については、前述のルール4で判定を行うが、捕集した試料のATP発光にルール4を適用すると判定の許容範囲を大きくとる必要がある。標準ATPでは発光の強度は10,000〜20,000cpsに対して背景光のノイズ分は100〜200cpsであるため減衰率の計算においては背景光のノイズ成分の補正の有無は減衰率の計算で大きな誤差にはならない。減衰率が1%程度誤差を含んだとしても許容範囲は20%の設定であれば1%の計算誤差は許容できる。しかしながら、捕集ATP試料では背景光のノイズ成分と有意な差の出る限界発光から標準ATP発光のような発光強度の強い発光までの範囲に適用できるルールが求められる。
このため、ATP発光試薬の発光量の計測値(領域DD)では、以下のルールを適用する。
ATP換算量の計算(式2)では領域Dを含む領域DDの最初のピーク値C4と領域Cの平均値C3の差を捕集した試料の生菌に由来するATPとして計算している。
これと同様に最初のピーク値C4と領域Cの平均値C3の差分を有効発光強度として、ルール4で求めた減衰率に(C4−C3)を乗じた値を傾きとし、ノイズ成分であるC3を加算した値を仮想線(C4のピークからn秒経過後の減衰を推定する仮想線)とし、式5により計算する。
Cn=(C4−C3)×10(Kn/10)+C3・・・(式5)
この仮想線の推定値に前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数(SD1/C1)を乗じた値を加減した値の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定するようしたものである。
図10(a)に減衰率だけで計算した場合の許容範囲を、図10(b)にC4を漸近線とした補正を行った場合の許容範囲を示す。
減衰係数だけで推定した値は傾斜が一定な直線であり、発光量が少ない場合には時間経過とともにノイズ分であるC3の値に収束する。このため一定傾斜の直線に定数を漸近線として収束する補正を加えることで発光の強度が低下した領域での推定誤差を低減し、小さな許容値で判定することができる。
【0062】
ルール5において信頼性がないと判定される要因としては、図7に示すように、反応条件である外乱光が発光量の計測中に発生している場合や、振動が発光量の計測中に発生している場合の他、分取・分注系のである分注ノズルの吐出速度に異常が発生していることがあると考えられ、光電子増倍管の劣化や故障、分取・分注系のノズルの目詰まりや吐出速度を調節する機器の不具合について、早期に点検、修理等を行って改善し、検査方法によって得られる検査結果の信頼性を維持することができる。
【0063】
ルール5の判定においては、常用する計測範囲を考慮して、発光量の値に乗じる変動係数を変更することができる。
常用する計測範囲が、標準ATP試料よりも大きい場合(低感度計測)には、領域DDの許容値を決定する変動係数は、上記の通り、領域BBと同程度の値(SD1/C1)とする。
一方、常用する範囲が、標準ATP試料よりも小さい領域で使用する場合(高感度計測)には、領域DDの許容値を決定する変動係数は、領域Cでの背景ノイズの標準偏差SD3よりも十分に大きい値で選定するようにすることが好ましい。
これは、領域DDの期間では、発光量の減衰はC3の延長線を漸近線として、C4からC3の延長線に収束するが、高感度のATP計測では短時間でATPが消費されてしまい領域DDの期間で発光が継続されず背景ノイズとの差異が小さい計測値となる傾向にあるためで、そのため、高感度測定においては領域BBの減衰と領域Cを漸近線とした補正計算を導入することで、領域DDの許容値を大きく広げることなく判定を行い、高感度計測及び低感度計測の両方に対応することができる。
【0064】
<ルール6>
前記(4)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値が、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値の発光反応の線形性を維持できる限界である10倍を越える場合に、検査不能又は計測値に信頼性がないと判定する。
【0065】
これは、一般に測定装置には計測範囲が存在し、発光量計測手段4である光電子増倍管のダイナミックレンジは100dB以上であり、標準ATP試料の発光量の計測値と捕集ATP試料の発光量の計測値とが、比例関係の線形性が維持できる範囲を超えた場合でも、捕集ATP試料に含まれる菌数が多い場合には計測値に異常はないが、計測結果の精度の保証範囲を超えることから、前記(4)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値(C4)が、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値(C2)の発光反応の線形性を維持できる限界である10倍を越える場合に、検査不能又は計測値に信頼性がないと判定するようにしたものである。
【0066】
ルール6において検査不能又は信頼性がないと判定される要因としては、図8に示すように、主な要因は、捕集ATP試料に許容値以上のATPが含まれていると考えられるが、他に計測系の異常、捕集ATP試料に異常(ATP消去試薬の性能劣化)も考えられ、光電子増倍管の劣化や故障について、早期に点検、修理等を行って改善し、検査方法によって得られる検査結果の信頼性を維持することができる。
【0067】
<ルール7>
前記(3)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数が、前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数の0.5倍〜1.5倍の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定する。
【0068】
これは、標準ATP試料を注入する前の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の平均値と、標準ATP試料を注入し、予め設定した時間経過した後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の平均値は、共に背景ノイズの計測であり、大きく変動する場合は、外乱光の漏洩等のハードウエアの異常等が想定できことから、前記(3)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数(SD3/C3)が、前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数(SD1/C1)の0.5倍〜1.5倍の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定するようにしたものである。
【0069】
ルール7において信頼性がないと判定される要因としては、図8に示すように、試薬ラック内のATP汚染が発生している場合、分取・分注量が安定していない場合の他、発光計測系の異常が考えられ、早期に試薬の点検、機器の修理等を行って改善し、検査方法によって得られる検査結果の信頼性を維持することができる。
【0070】
<ルール8>
前記(4)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値が、前記(3)のATP発光試薬の発光量の計測値の平均値に前記(3)のATP発光試薬の発光量の計測値の標準偏差を加えた値よりも小さい場合に、検査不能又は計測値に信頼性がないと判定する。
【0071】
これは、捕集ATP試料の発光量の計測値の最初のピーク値と、標準ATP試料を注入し、予め設定した時間経過した後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の平均値である背景ノイズとの値に有意な差が出ない場合には、計測分解能以下の計測であり、無菌状態の計測結果を含めて計測不能であるとみなすことが妥当であることから、前記(4)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値(C4)が、前記(3)のATP発光試薬の発光量の計測値の平均値(C3)に前記(3)のATP発光試薬の発光量の計測値の標準偏差(DS3)を加えた値よりも小さい場合に、検査不能又は計測値に信頼性がないと判定するようにしたものである。
【0072】
ルール8において検査不能又は信頼性がないと判定される要因としては、図8に示すように、捕集ATP試料にATPが含まれていない無菌状態の計測であった場合、ろ過工程で漏洩が発生し、菌を液体系で分取できていなかった場合が、主な理由として考えられろ過工程での漏洩の有無を検査し、漏洩がある場合には、ろ過工程の異常と判定し、漏洩がない場合には、計測限界以下の無菌状態であると判定する。また、この他に、ATP発光試薬の劣化、発光計測系の異常も考えられるため、早期に試薬の点検、機器の修理等を行って改善し、検査方法によって得られる検査結果の信頼性を維持することができる。
【0073】
また、上記8つのルールの他に、ろ過工程での漏洩検査も行うことが好ましい。
これは、ルール8で説明した通り、捕集した空中浮遊菌がろ過工程で漏洩してしまうと、ルール8の判定において、無菌状態の計測と同様に、捕集ATP試料の発光量の計測値の最初のピーク値と、標準ATP試料を注入し、予め設定した時間経過した後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の平均値である背景ノイズとの値に有意な差が出ないこととなる他に、ろ過工程での漏洩によって菌の一部が漏洩する場合には、実際の菌数よりも検査結果による菌数が少なくなり、検査の信頼性を著しく損ねることとなるからである。
【0074】
ろ過工程での漏洩検査は、捕集担体21をゲル状からゾル状に相転移し、菌懸濁液(試料)とする菌回収工程、試料中の菌外ATPや死菌内のATPを消去するATP消去工程を経て、試料中の成分を空中浮遊菌の生菌と夾雑物とした状態から、菌より小さい夾雑物をろ別するろ過工程で、夾雑物と共に菌が排出されることを防止するために行うもので、検査装置1の定期点検時に行うようにしている。
【0075】
ろ過工程での漏洩検査は、試料中の生菌をフィルタ上に捕捉することができるか否かを検査するものであれば、特に限定されるものではないが、本実施例においては、枯草菌等の菌を付着させたフィルタ(検査用捕集カートリッジ)を使ってろ過工程を実施し、存在するはずの枯草菌等のATPが検出できない場合に、ろ過工程で漏洩していると判定するようにしている。
【0076】
ろ過工程で捕集した菌が漏洩していると判定した場合、ろ過工程で使用するろ過機構31の各部材、特に、目皿ホルダ31A、目皿(図示省略)及びフィルタFの取り付け精度の点検や、吸引ポンプ31Dの吸引力を調整し、ろ過工程での漏洩対策を行い、検査方法によって得られる検査結果の信頼性を維持することができる。
【0077】
以上に説明した判定のルール及びろ過工程での漏洩検査を、図9に示すフロー図に沿って、信頼性評価手段6によって判定することで、計測機器の故障や試薬に起因する計測値の異常等の複数の要因から使用するATP発光試薬及び検査結果の信頼性評価を行い、早期に試薬の点検、機器の修理等を行って改善し、検査方法によって得られる検査結果の信頼性を維持することができる。
【0078】
以上、本発明の空中浮遊菌の検査方法及びその装置について、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の空中浮遊菌の検査方法及びその装置は、生物発光反応による発光量を計測することにより検査試料に含まれるATP量を求め、空中浮遊菌の菌数を算出するに際して、使用するATP発光試薬及び検査結果の信頼性評価を併せて行うことができるという特性を有していることから、広く空中浮遊菌の検査方法及びその装置の用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0080】
1 空中浮遊菌の検査装置
2 空中浮遊菌捕集手段
3 検査試料生成手段
4 発光量計測手段
5 演算手段
6 信頼性評価手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査試料に含まれる気中から捕集した空中浮遊菌の生菌に由来するATPをもとにATP発光試薬を用いて生物発光反応を行わせ、該生物発光反応による発光量を計測することにより検査試料に含まれるATP量を求め、空中浮遊菌の菌数を算出するようにした空中浮遊菌の検査方法において、ATP発光試薬について、次の(1)〜(4)のATP発光試薬の発光量を計測し、当該ATP発光試薬の発光量の計測値と該計測値に対応する予め設定した理論値とを対比することによって、使用するATP発光試薬及び検査結果の信頼性評価を併せて行うようにすることを特徴とする空中浮遊菌の検査方法。
(1)ATPを注入する前の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
(2)所定量のATPを注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
(3)所定量のATPを注入し、予め設定した時間経過した後のATP発光反応でATPを消費しATP発光反応が終了した時点での予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
(4)気中から捕集した空中浮遊菌の生菌に由来するATPを注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
【請求項2】
前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数が、40%を超える場合に、計測値に信頼性がないと判定するようにすることを特徴とする請求項1記載の空中浮遊菌の検査方法。
【請求項3】
前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値から前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の平均値を減じた値が、所定量のATPの発光量の理論値に対して、−30%〜+30%の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定するようにすることを特徴とする請求項1記載の空中浮遊菌の検査方法。
【請求項4】
前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値から任意に選択した2点の計測値の対数の差を該2点の時間差で除して算出した減衰率が、所定量のATPの発光量の減衰率の理論値に対して−0.2dB/秒〜+0.2dB/秒の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定するようにすることを特徴とする請求項1記載の空中浮遊菌の検査方法。
【請求項5】
前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値が、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値の点を通り、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値を前半と後半の2つの領域に分け、前半の各計測値の対数の平均値と後半の各計測値の対数の平均値の当該2つの値の平均値を、前半領域と後半領域の時間差で除して算出した減衰率を傾きとする仮想線が示す発光量の値に、該発光量の値に前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数を乗じた値を加減した値の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定するようにすることを特徴とする請求項1記載の空中浮遊菌の検査方法。
【請求項6】
前記(4)のATP発光試薬の発光量の計測値が、前記(4)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値の点を通り、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値を前半と後半の2つの領域に分け、前半の各計測値の対数の平均値と後半の各計測値の対数の平均値の当該2つの値の平均値を、前半領域と後半領域の時間差で除して算出した減衰率に、前記最初のピーク値とその後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の平均値との差を乗じた値を傾きとし、前記予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の平均値を加算してなる仮想線が示す発光量の値に、該発光量の値に前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数を乗じた値を加減した値の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定するようにすることを特徴とする請求項1記載の空中浮遊菌の検査方法。
【請求項7】
前記(4)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値が、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値の発光反応の線形性を維持できる限界である10倍を超える場合に、検査不能又は計測値に信頼性がないと判定するようにすることを特徴とする請求項1記載の空中浮遊菌の検査方法。
【請求項8】
前記(3)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数が、前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数の0.5倍〜1.5倍の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定するようにすることを特徴とする請求項1記載の空中浮遊菌の検査方法。
【請求項9】
前記(4)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値が、前記(3)のATP発光試薬の発光量の計測値の平均値に前記(3)のATP発光試薬の発光量の計測値の標準偏差を加えた値よりも小さい場合に、検査不能又は計測値に信頼性がないと判定するようにすることを特徴とする請求項1記載の空中浮遊菌の検査方法。
【請求項10】
気中から空中浮遊菌を捕集する空中浮遊菌捕集手段と、該空中浮遊菌捕集手段によって捕集された空中浮遊菌の生菌に由来するATPを抽出した検査試料を生成する検査試料生成手段と、検査試料に含まれる気中から捕集した空中浮遊菌の生菌に由来するATPをもとにATP発光試薬を用いて生物発光反応を行わせ、該生物発光反応による発光量を計測するATP発光試薬の発光量計測手段と、計測されたATP発光試薬の発光量に基づいて検査試料に含まれるATP量を求め、空中浮遊菌の菌数を算出する演算手段とを備えた空中浮遊菌の検査装置において、ATP発光試薬の発光量計測手段によって、ATP発光試薬について、次の(1)〜(4)のATP発光試薬の発光量を計測し、当該ATP発光試薬の発光量の計測値と該計測値に対応する予め設定した理論値とを対比することによって、使用するATP発光試薬及び検査結果の信頼性評価を行う信頼性評価手段を備えたことを特徴とする空中浮遊菌の検査装置。
(1)ATPを注入する前の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
(2)所定量のATPを注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
(3)所定量のATPを注入し、予め設定した時間経過した後のATP発光反応でATPを消費しATP発光反応が終了した時点での予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
(4)気中から捕集した空中浮遊菌の生菌に由来するATPを注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
【請求項1】
検査試料に含まれる気中から捕集した空中浮遊菌の生菌に由来するATPをもとにATP発光試薬を用いて生物発光反応を行わせ、該生物発光反応による発光量を計測することにより検査試料に含まれるATP量を求め、空中浮遊菌の菌数を算出するようにした空中浮遊菌の検査方法において、ATP発光試薬について、次の(1)〜(4)のATP発光試薬の発光量を計測し、当該ATP発光試薬の発光量の計測値と該計測値に対応する予め設定した理論値とを対比することによって、使用するATP発光試薬及び検査結果の信頼性評価を併せて行うようにすることを特徴とする空中浮遊菌の検査方法。
(1)ATPを注入する前の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
(2)所定量のATPを注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
(3)所定量のATPを注入し、予め設定した時間経過した後のATP発光反応でATPを消費しATP発光反応が終了した時点での予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
(4)気中から捕集した空中浮遊菌の生菌に由来するATPを注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
【請求項2】
前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数が、40%を超える場合に、計測値に信頼性がないと判定するようにすることを特徴とする請求項1記載の空中浮遊菌の検査方法。
【請求項3】
前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値から前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の平均値を減じた値が、所定量のATPの発光量の理論値に対して、−30%〜+30%の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定するようにすることを特徴とする請求項1記載の空中浮遊菌の検査方法。
【請求項4】
前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値から任意に選択した2点の計測値の対数の差を該2点の時間差で除して算出した減衰率が、所定量のATPの発光量の減衰率の理論値に対して−0.2dB/秒〜+0.2dB/秒の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定するようにすることを特徴とする請求項1記載の空中浮遊菌の検査方法。
【請求項5】
前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値が、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値の点を通り、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値を前半と後半の2つの領域に分け、前半の各計測値の対数の平均値と後半の各計測値の対数の平均値の当該2つの値の平均値を、前半領域と後半領域の時間差で除して算出した減衰率を傾きとする仮想線が示す発光量の値に、該発光量の値に前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数を乗じた値を加減した値の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定するようにすることを特徴とする請求項1記載の空中浮遊菌の検査方法。
【請求項6】
前記(4)のATP発光試薬の発光量の計測値が、前記(4)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値の点を通り、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値を前半と後半の2つの領域に分け、前半の各計測値の対数の平均値と後半の各計測値の対数の平均値の当該2つの値の平均値を、前半領域と後半領域の時間差で除して算出した減衰率に、前記最初のピーク値とその後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の平均値との差を乗じた値を傾きとし、前記予め設定した期間のATP発光試薬の発光量の平均値を加算してなる仮想線が示す発光量の値に、該発光量の値に前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数を乗じた値を加減した値の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定するようにすることを特徴とする請求項1記載の空中浮遊菌の検査方法。
【請求項7】
前記(4)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値が、前記(2)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値の発光反応の線形性を維持できる限界である10倍を超える場合に、検査不能又は計測値に信頼性がないと判定するようにすることを特徴とする請求項1記載の空中浮遊菌の検査方法。
【請求項8】
前記(3)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数が、前記(1)のATP発光試薬の発光量の計測値の変動係数の0.5倍〜1.5倍の範囲を外れる場合に、計測値に信頼性がないと判定するようにすることを特徴とする請求項1記載の空中浮遊菌の検査方法。
【請求項9】
前記(4)のATP発光試薬の発光量の計測値の最初のピーク値が、前記(3)のATP発光試薬の発光量の計測値の平均値に前記(3)のATP発光試薬の発光量の計測値の標準偏差を加えた値よりも小さい場合に、検査不能又は計測値に信頼性がないと判定するようにすることを特徴とする請求項1記載の空中浮遊菌の検査方法。
【請求項10】
気中から空中浮遊菌を捕集する空中浮遊菌捕集手段と、該空中浮遊菌捕集手段によって捕集された空中浮遊菌の生菌に由来するATPを抽出した検査試料を生成する検査試料生成手段と、検査試料に含まれる気中から捕集した空中浮遊菌の生菌に由来するATPをもとにATP発光試薬を用いて生物発光反応を行わせ、該生物発光反応による発光量を計測するATP発光試薬の発光量計測手段と、計測されたATP発光試薬の発光量に基づいて検査試料に含まれるATP量を求め、空中浮遊菌の菌数を算出する演算手段とを備えた空中浮遊菌の検査装置において、ATP発光試薬の発光量計測手段によって、ATP発光試薬について、次の(1)〜(4)のATP発光試薬の発光量を計測し、当該ATP発光試薬の発光量の計測値と該計測値に対応する予め設定した理論値とを対比することによって、使用するATP発光試薬及び検査結果の信頼性評価を行う信頼性評価手段を備えたことを特徴とする空中浮遊菌の検査装置。
(1)ATPを注入する前の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
(2)所定量のATPを注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
(3)所定量のATPを注入し、予め設定した時間経過した後のATP発光反応でATPを消費しATP発光反応が終了した時点での予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
(4)気中から捕集した空中浮遊菌の生菌に由来するATPを注入した直後の予め設定した期間のATP発光試薬の発光量
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−155970(P2011−155970A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287527(P2010−287527)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]