説明

空冷式ポリッシャー

【課題】研磨中に塗膜及びバフのほぼ全体が冷却され、塗膜の昇温が効果的に抑制される空冷式ポリッシャーを提供する。
【解決手段】バフ(13)を回転させるためのエアーモータ(2)を駆動するために使用される作動気体を利用してバフ(13)及び塗膜(14)を冷却する。エアーモータの回転軸に連結したディスクパッドの周囲を包囲するように円筒状のカバー(15)を設け、当該カバーとディスクパッド(11)との間に環状のエアー流路(16)を形成する。エアーモータに連結した排気ポートと上記環状のエアー流路との間をホース(17)により接続する。ポリッシャーの動作中、エアーモータ(2)から排気される作動気体は、ホースを介して常時バフに形成した貫通孔に流入し、バフと塗膜との間を流通し、その間にバフ及び塗膜が冷却される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種塗膜を補修するのに好適なポリッシャー(研磨装置又はポリシングサンダ)、特に研磨中にバフ及び塗膜表面が有効に冷却される空冷式ポリッシャーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の塗装技術においては、塗装時に付着したゴミやブツ等の異物欠陥を補修する必要がある。この補修方法では、初めにナイフの刃先や研磨紙を用いてゴミやブツ等の異物を取り除き、続いて研磨し、異物が除去された部位を部分的に塗装及び焼き付けし、最後にポリッシャーを用いて塗膜表面がバフ研磨されている。この補修方法では、回転するバフと塗膜との間に摩擦熱が発生するため、塗膜が摩擦熱により過剰に加熱されると、塗膜が白濁する不具合が発生する。特に、上塗り塗膜として透明樹脂のクリアー塗膜が形成されている場合、クリアー塗膜表面に白ボケが形成されてしまう。一方、摩擦熱による昇温を防止するため、バフ研磨を休止させながら行ったのでは、研磨時間がかかり過ぎる不都合が発生する。従って、塗膜の補修部位を自動的に冷却しながらバフ研磨できるポリッシャーの開発が強く要請されている。
【0003】
塗膜をバフ研磨により補修するポリッシャーとして、エアーモータが内蔵されたポリッシャーが既知である(例えば、特許文献1参照)。この既知のポリッシャーでは、エアーモータを通過した作動気体の一部が回転するバフの周縁から塗膜に向けて放出され、放出された作動気体により塗膜表面が冷却されている。
【特許文献1】特開2006−26475
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したポリッシャーでは、研磨中に作動気体が塗膜表面に吹き付けられるため、塗膜表面を冷却することができる。しかしながら、作動気体は、バフの周縁からしか噴射されないため、バフの中央部で発生した摩擦熱を有効に除去することができず、依然として塗膜が白濁する欠点があった。特に、スクラッチガードコートのように軟化点の低いクリアー塗膜を研磨する場合、摩擦熱によりクリアー塗膜に白ボケが発生する不具合があった。
【0005】
本発明の目的は、研磨中に塗膜及びバフのほぼ全体が冷却され、塗膜の昇温が効果的に抑制される空冷式ポリッシャーを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による空冷式ポリッシャーは、作動気体により回転駆動するエアーモータが内蔵されると共に、エアーモータに作動気体を供給する給気ポート及びエアーモータから排気される作動気体を排出する排気ポートを有するポリッシャー本体と、
前記エアーモータの回転軸に連結されたディスクパッドと、
ディスクパッドに結合され、被研磨体の表面を研磨するバフと、
前記ディスクパッドを包囲するように前記ポリッシャー本体に連結され、前記ディスクパッドとの間にエアー流路を形成するカバーと、
前記排気ポートとエアー流路とを連通するホースとを具え、
前記ディスクパッド及びバフは、エアーモータの回転軸の周りに沿って形成した複数の貫通孔を有し、
エアーモータから排気された作動気体は、前記排気ポート、ホース、エアー流路、並びに、ディスクパッド及びバフに形成された貫通孔を介して被研磨体表面に噴射されることを特徴とする。
【0007】
ポリッシャーの動作中、エアーモータを回転駆動するために供給される作動気体は、エアーモータの駆動に利用された後エアーモータから連続的に排出される。本発明では、エアーモータから連続的に排出される作動気体を利用してバフを空冷する。エアーモータには、作動気体を排気する排気流路を連結し、排気流路の端部に排気ポートを設ける。エアーモータの回転軸に連結したディスクパッド及びバフには、エアーモータの回転軸線に沿って等間隔で複数の貫通孔を形成する。ディスクパッドの周囲を包囲するようにカバーを取付け、環状のエアー流路を形成する。そして、排気ポートと、ディスクパッドとカバーとの間に形成した環状のエアー流路とをホースを用いて連通させる。このような作動気体の流路を形成すれば、エアーモータの駆動に使用された作動気体は、排気ポート及びホースを介してバフに流入し、回転するバフと塗膜表面との間の間隙を流通する。この結果、エアーモータから排気される作動気体を利用してバフ及び塗膜表面を有効に空冷することが可能になり、ポリッシャーの動作期間中に常時バフ及び塗膜を冷却することが可能になる。特に、本発明では、バフ及び塗膜を冷却するために、特別な冷媒を用いるのではなく、エアーモータを駆動するために使用した作動気体を用いているので、安価なランニングコストでポリッシャー及び塗膜が過剰に加熱されるのが防止される。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、ポリッシャーの動作中、エアーモータを駆動させるために用いられる作動気体を利用してバフ及び塗膜を常時冷却することができる。特に、作動気体は、バフの内部を通過して、バフと塗膜との間の間隙を流通するので、動作中バフのほぼ全体が冷却される効果が達成される。
さらに、本発明では、特別な冷媒を用いるのではなく、エアーモータを駆動するために用いた作動気体を利用してバフを空冷しているので、ランニングコストを安価にすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明による空冷式ポリッシャーの一例を示す線図的平面図である。
【図2】エアーモータの回転軸Lを含む面で切って示す線図的断面図である。
【図3】ディスクパッド、フィニシングパッド及びバフの結合体の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は本発明による空冷式ポリッシャー(研磨装置、又はポリシングサンダ)の一例を示す線図的平面図であり、図2はエアーモータの回転軸線Lを含む面で切って示す線図的断面図である。空冷式ポリッシャーは、ポリッシャー本体1を有する。ポリッシャー本体1は、エアーモータ2が内蔵されているモータ収納部1aと、ポリッシャーを手で保持及び操作するための把持部1bとを有する。把持部1bの端部には、エアーモータ2に作動気体を供給するための給気ポート3及びエアーモータから排出される作動気体を排出するための排気ポート4を設ける。作動気体として、例えば所定の圧力に圧縮された汎用作業用のエアーを用いることができる。給気ポート3に供給された作動気体は、把持部1b内に形成された給気流路5を介してエアーモータ2に供給され、エアーモータ2から排気される作動気体は排気流路6を介して排気ポート4に排気される。ポリッシャー本体1にはトリガ7を設け、作業者はトリガ7をオンオフすることにより、作動気体をエアーモータ2に供給してエアーモータを回転させ又はエアーモータを停止させることができる。
【0011】
エアーモータ2は回転軸10を有し、この回転軸10にラッパ形状のディスクパッド11を取り付ける。ディスクパッド11には、フィニシングパッド12及びディスク状のバフ13を取り付ける。バフ13は塗膜14の表面と直接接触し、塗膜表面を研磨する。バフの材料は、研磨される塗膜(被研磨体)の材質及び研磨の目的に応じて適切な材料で構成され、例えば人工羊毛、天然羊毛、不織布、スポンジで構成することができる。また、研磨される塗膜は、一例としてウレタン・アクリル系のスクラッチガートコートやアクリル・メラミン系の一般のクリアーコートを対象とする。尚、本例では、ディスクパッド11とバフ13との間にフィニシングパッド12を介在させたが、バフ13をディスクパッド11に直接結合することも可能である。
【0012】
ポリッシャー本体1のモータ収納部1aの下端には、下方に向けてラッパ状に拡がる円筒状のカバー15を取り付ける。このカバー15は、ディスクパッド11の周囲を包囲し、ディスクパッド11との間に環状のエアー流路16を形成する。カバー15には貫通孔(インレット)を形成し、排気ポート4とカバーに形成した貫通孔との間にホース17を接続する。従って、排気ポート4から排出される作動気体は、ホース17を介してカバー15とディスクパッド11との間に形成された環状のエアー流路16に流入する。
【0013】
図3は、ディスクパッド11、フィニシングパッド12及びバフ13の結合体の一例を示し、図3(A)は線図的平面図、図3(B)は図(A)のII線断面図である。ディスクパッド11、フィニシングパッド12及びバフ13は、エアーモータ2の回転軸線の周りに沿ってそれぞれ等間隔で4個の貫通孔を有する。尚、図面上ディスクパッドに形成した貫通孔11a〜11dを符号を以て示す。ディスクパッド11、フィニシングパッド12及びバフ13にそれぞれ形成した4個の孔は、互いに位置的に整合する。従って、排気ポートからホース17を介して環状流路16に流入した作動気体は、ディスクパッド11、フィニシングパッド12及びバフ13に形成した4個の貫通孔を介して塗膜14の表面に吹き付けられる。
【0014】
次に、上述した空冷式ポリッシャーの操作について説明する。初めに、操作者は、トリガ7をオンに設定し、エアーモータ2を作動させ、ディスクパッド及びバフを回転させる。続いて、ポリッシャーを塗膜14の研磨すべき部位に接触させ、バフを回転させながら塗膜表面を研磨する。トリガ7をオンにすると、所定の圧力に圧縮された作動気体が給気ポート3に流入し、給気流路5を経てエアーモータ2に流入する。圧縮された作動気体によりエアーモータが回転を開始し、ディスクパッド及びバフが回転する。エアーモータの回転駆動に用いられた作動気体は、排気流路6を介して排気ポート4に流入し、ホース17を通過し、カバー15に設けたインレットを介してカバー15とディスクパッド11との間に形成された環状のエアー流路16に流入する。流入した作動気体は、環状のエアー流路16を進行し、ディスクパッド11、フィニシングパッド12及びバフ13に形成した4個の貫通孔を介して塗膜14の表面に噴射される。そして、塗膜14の表面とバフとの間の間隙を流通してバフの周囲から消散する。
【0015】
回転するバフ13が塗膜と接触すると、塗膜14との間に摩擦熱を発生する。しかし、バフの回転中に作動気体がバフに形成された4個を貫通孔を通過し、さらに塗膜14の表面とバフとの間の間隙を流通してバフの周縁から消散するので、バフのほぼ全体が作動気体により空冷される。特に、作動気体は、バフと塗膜との間の間隙を流通するため、バフのほぼ全体が空冷される。従って、バフと塗膜との摩擦により発生した摩擦熱は、バフと塗膜表面との間を流通する作動気体により消散し、クリアーコートに白ボケ等が発生する不具合が解消される。
【符号の説明】
【0016】
1 ポリッシャー本体
2 エアーモータ
3 給気ポート
4 排気ポート
5 給気流路
6 排気流路
7 トリガ
10 回転軸
11 ディスクパッド
12 フィニシングパッド
13 バフ
14 カバー
15 エアー流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動気体により回転駆動するエアーモータが内蔵されると共に、エアーモータに作動気体を供給する給気ポート及びエアーモータから排気される作動気体を排出する排気ポートを有するポリッシャー本体と、
前記エアーモータの回転軸に連結されたディスクパッドと、
ディスクパッドに結合され、被研磨体の表面を研磨するバフと、
前記ディスクパッドを包囲するように前記ポリッシャー本体に連結され、前記ディスクパッドとの間にエアー流路を形成するカバーと、
前記排気ポートとエアー流路とを連通するホースとを具え、
前記ディスクパッド及びバフは、エアーモータの回転軸の周りに沿って形成した複数の貫通孔を有し、
エアーモータから排気された作動気体は、前記排気ポート、ホース、エアー流路、並びに、ディスクパッド及びバフに形成された貫通孔を介して被研磨体表面に噴射されることを特徴とする空冷式ポリッシャー。
【請求項2】
請求項1に記載の空冷式ポリッシャーにおいて、前記ポリッシャー本体は、エアーモータが収納されているモータ収納部と、エアーモータの軸線と直交する方向に延在し、ポリッシャーを手で保持及び操作するための把持部とを有し、
前記把持部は、給気ポートから供給される作動気体をエアーモータに供給する給気流路と、エアーモータから排気された作動気体を排気ポートに供給する排気流路とを有することを特徴とする空冷式ポリッシャー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の空冷式ポリッシャーにおいて、エアーモータの作動中に、前記排気ポートから被研磨体表面に供給される作動気体により、バフのほぼ全体が空冷されることを特徴とする空冷式ポリッシャー。
【請求項4】
請求項1、2又は3に記載の空冷式ポリッシャーにおいて、前記作動気体として、汎用作業用の圧縮エアーを用いることを特徴とする空冷式ポリッシャー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−264573(P2010−264573A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−119415(P2009−119415)
【出願日】平成21年5月18日(2009.5.18)
【出願人】(000150774)株式会社槌屋 (56)
【出願人】(509138556)株式会社レボリューション (1)
【出願人】(592149820)ダイヤ精工株式会社 (4)
【Fターム(参考)】