説明

空包

【課題】火砲に装填した空包が燃焼した状態において、空包と火砲との隙間をより確実に密封し、より安全な空包を提供する。
【解決手段】軸方向における少なくとも一方端が開口している筒状の容器である燃焼容器60と、燃焼容器60における一方端に取り付けられる底部材10と、を有し、底部材10には燃焼容器60の外部と内部を連通する連通孔12が形成されており、燃焼容器60の内部には発射薬K3が装填され、連通孔12には着火用の火管K1が装填され、火管K1と発射薬K3との間には点火薬K2が装填されて、火砲100に装填される空包1において、底部材10における外周面であって火砲100の内周面と対向する面には、底部材10の外周面と火砲100の内周面との隙間を密封する円環状のシール部材80が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射撃訓練や式典等において、実際の砲弾(実包)を射出することなく、衝撃音、または衝撃音と煙及び火炎、を発生させる空包に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、射撃訓練や式典等において、衝撃音、または衝撃音と煙及び火炎、を発生する空包が利用される場合があり、種々の空包が開示されている。
例えば、特許文献1に記載された従来技術には、空包容器の先端の蓋部に、貫通孔の中間部分の径が絞られたノズルが形成されて、このノズルを内側から覆うように緊塞板が配置された空砲弾(空包に相当)が開示されている。ノズルの中間部分の径を絞ることで、噴出される燃焼ガスはこの絞られた部分にて音速に達し、音速に達した燃焼ガスにて空砲(空包)を後方に移動する推力を得て、自動的に装填部から空砲(空包)を排出できるようにしている。
また、特許文献2に記載された従来技術には、発射薬が装填された燃焼容器の頭部を、蓋となる金属性の破裂板にて密閉している空包が開示されている。そして破裂板には、燃焼ガスにて壊れ易くするための切り溝が設けられており、空包の点火後、燃焼容器内部の圧力が所定圧に上昇するまで破裂板は破壊されずに維持され、更なる圧力上昇とともに破裂板は破壊され、衝撃音が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−190698号公報
【特許文献2】特許第4740655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
より安全に空包を使用するためには、火砲に装填した空包を使用した際に発生する燃焼ガスが、全て火砲の前方から排出されることが好ましい。
しかし、特許文献1及び特許文献2に記載された従来技術には、空砲弾(空包)を火砲の薬室に装填した状態において、空砲弾(空包)の周囲と薬室との隙間を密封する構造に関する記載が見受けられず、燃焼ガスが火砲の後方から漏れる可能性が考えられる。
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、火砲に装填した空包が燃焼した状態において、空包と火砲との隙間をより確実に密封し、より安全な空包を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明に係る空包は次の手段をとる。
まず、本発明の第1の発明は、軸方向における少なくとも一方端が開口している筒状の容器である燃焼容器と、前記燃焼容器における前記一方端に取り付けられる底部材とを有し、前記底部材には、前記燃焼容器の外部と内部を連通する連通孔が形成されており、前記燃焼容器の内部には発射薬が装填され、前記連通孔には着火用の火管が装填され、前記火管と前記発射薬との間には点火薬が装填されて、火砲に装填される空包である。
そして、前記底部材における外周面であって前記火砲の内周面と対向する面には、前記底部材の外周面と前記火砲の内周面との隙間を密封する円環状のシール部材が設けられている。
【0006】
この第1の発明によれば、火砲に装填した空包が燃焼した状態において、空包の底部材の外周面と火砲の内周面との隙間を、円環状のシール部材にて、より確実に密封することができる。
これにより、空包を使用した際の燃焼ガスが火砲の後方から漏れることを適切に防止することができるので、より安全な空包を実現することができる。
【0007】
次に、本発明の第2の発明は、上記第1の発明に係る空包であって、前記シール部材は、弾性部材であり、前記底部材における前記外周面に形成されたシール溝に嵌め込まれている。
【0008】
この第2の発明によれば、シール部材を適切に位置決めすることができるので、空包の底部材の外周面と火砲の内周面との隙間を、より確実に密封することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の空包1を構成する各部材を説明する斜視図である。
【図2】空包1を組み付けた状態を説明する断面図である。
【図3】空包1を火砲100の薬室に装填した状態を説明する断面図である。
【図4】空包1を火砲100の薬室に装填した状態を説明する断面図である(シール部材の外周径を火砲筒部101の内周径よりも小さくした場合)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明を実施するための形態を図面を用いて説明する。なお、図1〜図4においてX軸、Y軸、Z軸は直交座標を示しており、Z軸方向は空包1及び火砲100の軸方向(Z軸の向かう方向が砲口方向)を示している。
【0011】
●[空包1を構成する各部材(図1)と、空包1を組み付けた状態(図2)]
図1は空包1を構成する各部材の斜視図を示しており、図2は空包1を組み付けた状態における断面図を示している。
図1及び図2に示すように、空包1は、火管K1、底部材10、シール部材80、点火薬K2、点火薬スペーサ20、支持補助部材30、発射薬K3、飛散防止部材40、オリフィスクロージャ50、貫通孔であるオリフィス62が蓋部63に形成された燃焼容器60、装填ガイド70等にて構成されている。
なお、底部材10、点火薬スペーサ20、支持補助部材30、飛散防止部材40、燃焼容器60、装填ガイド70の材質には、鉄、ステンレス、アルミニウム、真鍮等の種々の金属を使用することができる。
【0012】
底部材10は、空包1の底部を構成しており、燃焼容器60を固定するためのネジ部11と、固定した燃焼容器60の内部と外部を連通するとともに火管K1を装填する孔である連通孔12と、シール部材80を嵌め込むシール溝13と、が形成されている。なおシール溝13は、底部材10における外周面であって、図3に示すように火砲100と対向する面に形成されている。
火管K1は、底部材10の連通孔12に装填される点火具であり、例えば電流が流されると点火し、点火薬K2を着火する。
シール部材80は、例えばゴム等の円環状の弾性部材であり、シール溝13に嵌め込まれて、火砲100の薬室に装填された空包が燃焼した際、火砲100と空包1との隙間を密封する。
ネジ部11には、燃焼容器60の軸方向の一方端の側に形成されたネジ部61がねじ込まれる。
【0013】
点火薬スペーサ20は、底部材10の連通孔12の開口部に点火薬K2を保持するとともに、支持補助部材30を支持している。また点火薬スペーサ20は、点火薬K2の燃焼エネルギーを発射薬K3に伝搬するために、複数の貫通孔21が形成されたパンチングメタルや複数の貫通空間部が形成された金網等にて形成されている。なお、点火薬スペーサ20は省略してもよい。
点火薬K2は、点火薬スペーサ20にて連通孔12の開口部に保持され、火管K1によって着火され、発射薬K3を着火する。
支持補助部材30は、点火薬スペーサ20にて支持され、飛散防止部材40を燃焼容器60のオリフィス62の近傍に保持するように支持するとともに、発射薬K3を燃焼容器60内に均等に配置する収容スペースを形成している。また支持補助部材30は、発射薬K3の燃焼エネルギーを燃焼容器60内に均等に伝搬させるために、複数の貫通孔31が形成されたパンチングメタルや複数の貫通空間部が形成された金網等にて形成されている。なお、点火薬スペーサ20から飛散防止部材40までの空間に発射薬K3がぎっしりと詰められていれば、支持補助部材30を省略してもよい。
また、支持補助部材30を省略して、飛散防止部材40を燃焼容器60の内部に圧入して位置を固定してもよいし、燃焼容器60の内部に飛散防止部材40をろう付けして位置を固定してもよい。
【0014】
飛散防止部材40は、支持補助部材30に支持され、燃焼容器60の他方端に形成された蓋部63の内側の面に近接するように配置されている。また飛散防止部材40は、発射薬K3の燃焼ガスを燃焼容器60のオリフィス62に導くとともに、発射薬K3の未燃物等を通過させずに塞き止めるための所定径の複数の貫通孔41が形成されたパンチングメタルや複数の貫通空間部が形成された金網等にて形成されている。前記所定径は発射薬K3の種類や形状等に応じて設定されるが、例えば4[mm]程度の径である。
なお、飛散防止部材40は省略してもよい。
発射薬K3は、燃焼容器60内における点火薬スペーサ20と飛散防止部材40の間の空間に装填され、点火薬K2によって着火され、空包1の衝撃音、または衝撃音と煙及び火炎を発生させる。
【0015】
オリフィスクロージャ50は、空包1の保管時に燃焼容器60の内部に空気中の水分が通過しにくく、且つ雨中における空包1の取り扱いにおいて雨滴が燃焼容器60の内部に浸入することを防止するものであり、オリフィス62を覆うサイズを有し、オリフィス62を覆うように接着または粘着されてオリフィス62を封止する。
なお、オリフィスクロージャ50は封止が目的であり、着火後の燃焼容器60内の内圧を所定圧まで高めるものではないため、材質としては金属箔、プラスチック板、樹脂板、アルミラミネート箔、防水性を有する紙、等を使用することができる。
オリフィスクロージャ50は、封止が目的であるので、燃焼容器60の外側に取り付けられていてもよいし、燃焼容器60の内側に取り付けられていてもよい。
またオリフィスクロージャ50は、発射薬K3の燃焼による燃焼容器60の内部の圧力が上昇することにより容易に破れ、破片が飛散しない質量とする必要がある。なお、「飛散」とは、本明細書では、破片等が勢いよく飛び出し、飛び出した破片等が、飛び出した方向に直線状に勢いよく飛行する状態を指す。オリフィスクロージャ50の材質として、金属箔またはプラスチック板または樹脂板を使用する場合、厚さは0.5[mm]以下(より好ましくは0.2[mm]以下)とすると、飛び出した破片は直線状に勢いよく飛行せず、はらはらと舞い落ちてくるので「飛散」しない。またオリフィスクロージャ50の材質として、アルミラミネート箔または紙を使用する場合、厚さは1[mm]以下とすると、飛び出した破片は直線状に勢いよく飛行せず、はらはらと舞い落ちてくるので「飛散」しない。
なお、オリフィスクロージャ50は省略してもよい。
【0016】
燃焼容器60は、軸方向における少なくとも一方端が開口している筒状の容器である。開口している一方端には、底部材10のネジ部11にねじ込むネジ部61が形成されている。また他方端の蓋部63には、燃焼容器60の内部と外部を連通するとともに、燃焼容器60の内径よりも小さな径の貫通孔であるオリフィス62が形成されている。オリフィス62は、発射薬K3による燃焼容器60内の圧力を保持し、発射薬K3の安定燃焼と衝撃音を確保する。
なお、燃焼容器60は、底部材10に、ネジ止め、溶接、ろう付け等にて固定可能であるが、発射薬K3や点火薬K2を内部に装填してから固定されるので、熱や火花や火炎等を用いないネジ止めとすることが好ましい。
燃焼容器の前記他方端を開口とし、蓋部63の代わりに固定具により破裂板を開口部を覆うように取り付け、空包が燃焼した際、規定圧力に達したときに破裂板が破れて、燃焼ガスが排出することにより、衝撃音を発生させることも可能である。
【0017】
装填ガイド70は、図3に示すように火砲100の薬室に空包1を装填する際の取り扱いを容易にする、あるいは火砲100に付属する自動装填機による自動装填を可能とするものであり、軸方向における両端が開口した筒状形状を有している。そして図2に示すように装填ガイド70は、燃焼容器60の周囲を覆うように、燃焼容器60の軸ZCと同軸状となるように一方端が底部材10に固定されている。固定方法は、溶接、ろう付け、ネジ止め等、いずれであっても構わない。また、装填ガイド70の他方端は、火砲100の薬室に空包1を装填する際の案内となるテーパ部71を有しており、他方端の開口孔72から衝撃音、煙、火炎が排出される。
また、装填ガイド70は省略してもよい。
【0018】
なお、上述したパンチングメタルは、例えば開孔率が10[%]〜70[%]のものを使用することができる。同様に、上述した金網は、例えば空間率が30[%]〜80[%]のものを使用することができる。
発射薬K3には、シングルベース、ダブルベース、トリプルベース、マルチベースなどを使用することができる。
点火薬K2には、黒色火薬、シングルベース点火薬など一般の弾薬に使用されている点火薬を使用することができる。また点火薬K2は布製の袋に収納されていても良い。
また、燃焼容器60内に火炎を抑制するためにアルカリ金属塩からなる消炎剤を配置しても良い。また消炎剤は布製の袋に収納されていても良い。
【0019】
●[空包1を火砲100の薬室に装填した状態(図3、図4)]
図3及び図4(A)は、空包1を火砲100の薬室(火砲鎖栓102と火砲筒部101にて形成された空間)に装填した状態を示す断面図である。
図3は、シール部材80の外周径を火砲筒部101の内周径よりもわずかに大きくした場合において、空包1を火砲100に装填した状態を示す断面図である。
また図4(A)は、シール部材80の外周径を火砲筒部101の内周径よりもわずかに小さくした場合において、空包1を火砲100に装填した状態を示す断面図であり、図4(B)及び(C)は、図4(A)におけるa部の拡大図である。そして、図4(B)は、空包1を火砲100に装填した状態におけるa部の拡大図であり、図4(C)は、図4(B)の状態から空包1を燃焼させた状態におけるa部の拡大図である。
図3に示すように、底部材10における外周面であって火砲100の内周面(火砲筒部101の内周面)と対向する面には、底部材10の外周面と火砲100の内周面との隙間を密封するための円環状のシール部材80が設けられている。
またシール部材80は、例えばゴム等の弾性部材であり、底部材10における外周面に形成されたシール溝13に嵌め込まれている。
このシール部材80にて、空包1と火砲100との隙間を密封するので、空包1を使用した際の燃焼ガス等が火砲100の後方から漏れることがなく、より安全に空包1を使用することができる。
シール部材80は、図3に示すように、空包1を火砲100に装填した状態で、火砲筒部101の内周面に接するよう、シール部材80の外周径を火砲筒部101の内周径よりもわずかに大きくしても良いし、図4(B)に示すように、シール部材80の外周径を火砲筒部101の内周径よりもわずかに小さくして、装填時にはシール部材80が火砲筒部101の内周面に接しないようにしても良い。
なお、シール部材80の外周径を火砲筒部101の内周径よりもわずかに小さくする場合には、底部材10のシール溝13の砲口側との間に隙間110ができるように取り付ける。こうすることにより、空包1が燃焼を開始すると、図4(C)に示すように、その燃焼ガスが隙間110に入り込み、シール部材80を砲口と反対側に圧縮するため、シール部材80の外周が拡大し、火砲筒部101の内周面に接する。このことにより、燃焼ガス等が火砲100の後方へ漏れることを防止できる。従って、空包1を火砲100へ装填する際、シール部材80が火砲筒部101の内周面に接していないことにより、装填がスムーズに行えると同時に、火砲100への装填時にシール部材80の破損を防ぐことが可能であり、且つ空包1の燃焼時には底部材10の外周面と火砲筒部101の内周面との間を確実にシールすることができる。
なおシール部材80は、ゴムに限定されず、耐熱性を有する樹脂や、金属製のガスケット等、種々の材質のものを用いることができる。
また本実施の形態の説明では、断面形状が略矩形のシール部材80の例を説明したが、断面形状は、矩形に限定されず、円形状、楕円形状等、種々の形状のシール部材を用いることができる。
またシール部材80は、空包1を組み付けた状態であっても交換可能であるので、装填する火砲100の薬室の状態や、現地の天候等に応じて、臨機応変に適切なシール部材80を選定して装着させることができる。
【0020】
本発明の空包1は、本実施の形態で説明した外観、形状、構成、構造等に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。
また、本実施の形態の説明に用いた数値は一例であり、この数値に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0021】
1 空包
10 底部材
11 ネジ部
12 連通孔
13 シール溝
20 点火薬スペーサ
30 支持補助部材
40 飛散防止部材
50 オリフィスクロージャ
60 燃焼容器
61 ネジ部
62 オリフィス
63 蓋部
64 側壁
70 装填ガイド
71 テーパ部
72 開口孔
80 シール部材
100 火砲
K1 火管
K2 点火薬
K3 発射薬



【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向における少なくとも一方端が開口している筒状の容器である燃焼容器と、
前記燃焼容器における前記一方端に取り付けられる底部材とを有し、
前記底部材には、前記燃焼容器の外部と内部を連通する連通孔が形成されており、
前記燃焼容器の内部には発射薬が装填され、前記連通孔には着火用の火管が装填され、前記火管と前記発射薬との間には点火薬が装填されて、火砲に装填される空包において、
前記底部材における外周面であって前記火砲の内周面と対向する面には、前記底部材の外周面と前記火砲の内周面との隙間を密封する円環状のシール部材が設けられている空包。
【請求項2】
請求項1に記載の空包であって、
前記シール部材は、弾性部材であり、前記底部材における前記外周面に形成されたシール溝に嵌め込まれている空包。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−104571(P2013−104571A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246235(P2011−246235)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)