説明

空気ろ過フィルタ

【課題】機能を有する色素を効率よく合成繊維布帛表面に安定して局在配置することができる空気ろ過フィルタを提供すること。
【解決手段】合成繊維からなるフィルタ表面に、交互積層法を利用し、繊維表面に高分子電解質と前記高分子電解質とは反対の電荷を有する機能を有する有機化合物が積層されており、外気に触れるように機能を有する高分子電解質又は有機化合物色素がフィルタ表面に安定して配置されており、性能を効果的に発現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気清浄機などの空気濾過フィルタに関し、さらに詳しくは、交互積層法を利用してイオン性を有する消臭、防臭、抗菌、抗アレルゲンからなる群の少なくとも一種の機能をもつ、高分子電解質層若しくは有機化合物層を繊維表面に積層させた合成繊維からなる空気ろ過フィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、空気ろ過フィルタに対し、空気清浄や消臭・抗菌・防カビやアレルゲン物質除去性を有する要望が強まっている。さらに、フィルタを装着するエアコンといった家電製品にお掃除ロボットといったフィルタの手入れを簡便にする機能が備わった製品が多く上市されている。
【0003】
こうした要求に鑑み、フィルタに種々の抗菌・殺菌剤等の機能化剤が使用され、特許文献1、2ではフィルタに消臭・抗菌・抗アレルゲン効果が知られるポリカルボン酸金属フタロシアニン)を付着させることを特徴とする消臭フィルタが提案されている。
【特許文献1】特開2000−152982
【特許文献2】特許第3858080
【0004】
従来、繊維に機能剤を付着させる方法としては、紡糸時に機能剤を練りこむ方法、後加工による方法が提案されている。例えば、特許文献3では、繊維形成樹脂に、疎水性ゼオライトを必須成分とする脱臭剤を配合し、紡糸してなる消臭機能をもつ合成繊維を製造する方法が提案されている。
【特許文献3】特開平7−310226
【0005】
また、後加工による方法としては、特許文献4では繊維材料と機能剤を液状の高圧二酸化炭素中で反応させて、機能剤を付与させ、繊維材料に対して機能性付与と共に染色を行うこともできる方法、特許文献5では、酸化チタン等の光触媒と、カテキンや鉄フタロシアニン系化合物等の消臭剤と、銀スルホネート系化合物等の抗菌剤をバインダー樹脂あるいはイオン的に固着する方法等を用いて繊維表面に固着する方法が提案されている。
【特許文献4】特開2002−201570
【特許文献5】特開2003−342871
【0006】
ポリエステル繊維に機能剤を付与する方法に関しては、例えば特許文献6では、Fe(III)又はCo(III)フタロシアニン多価カルボン酸を担持せしめた二酸化チタン微粒子をポリエステルポリマー中に練りこみ、紡糸することでポリエステル繊維内部および表面に微分散させる方法や、特許文献7では、ポリエステル繊維に、活性炭、無機酸化物及び有機窒素系化合物が樹脂バインダーを介して繊維表面に固着する方法が提案されている。
【特許文献6】特公平7−81206
【特許文献7】特開平10−292268
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
機能剤を染色と同時に繊維に吸着させる方法や紡糸時に機能剤を練りこむ方法では、繊維内部に大部分の機能剤が存在するため、外気に直接機能剤が触れることが少なく、機能の効率が低いという問題がある。
【0008】
バインダーを用いて繊維表面にパディングする方法では、機能剤をフィルタ表面に被膜を形成させる際、機能の発現効率を良くする為にバインダーを厚くしなければならず、この厚みにより目の細かいフィルタにおいては、目詰まりが生じ、空気透過性能が低下するという問題がある。さらにはバインダーの厚さにより、形状が変化し、繊維の硬化や摩擦等により機能剤が容易に脱落してしまうという耐久性の問題がある。
【0009】
ポリエステル繊維に機能剤を加工する場合は、紡糸時に機能剤を練りこむことはできるが、染色は高温高圧下で行われるため、染色と同時に機能剤を繊維に吸着することは難しいという問題がある。
【0010】
本発明は、上記従来技術の有する問題点を解消し、消臭、防臭、抗菌、抗アレルゲンからなる群の少なくとも一種の機能をもつ、高分子電解質層若しくは有機化合物層を効率よく合成繊維表面に安定して局在配置することができるフィルタ製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、合成繊維からなるフィルタの表面に、交互積層法を利用して、互いに反対のイオン性を有する高分子電解質と有機化合物が積層されていることを特徴とする空気ろ過フィルタである。
【0012】
本発明でいう交互積層法とは、基板の表面に、電荷を帯びている分子とそれとは反対の電荷を帯びている分子を、静電相互作用を利用することにより、交互に一層ずつ積み上げ多層薄膜を作製していく方法である。
【0013】
本発明でいう空気ろ過フィルタとは、空気中のアレルゲン物質や細菌などを取り除くための空気透過を有する空気ろ過機能をなすものであり、例えば、エアコン、空気清浄機、掃除機のフィルタおよびソックスフィルタ、空調システム用エアフィルタが挙げられ、本発明では特にエアコン用としての合成繊維からなるエアコン用フィルタとして有用であるがそれに限られたものではない。
【0014】
本発明における合成繊維とは、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系繊維、ナイロン6やナイロン66、アラミドなどのポリアミド系繊維、ポリアクリロニトリルを主成分とするアクリル系繊維、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維などが挙げられ、本発明では特にポリエステル系繊維が好ましい。
【0015】
また、本発明でいう高分子電解質とは、水中にてカチオンやアニオンに電離するイオン性をもつ高分子のことをいう。具体的には、カチオン性を有するものでは、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリアリルアミン塩酸塩、ポリエチルイミン、ポリビニルピリジン、ポリリジンが挙げられ、アニオン性を有するものではポリスチレンスルホン酸、ポリビニル硫酸、デキストラン硫酸、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸などが挙げられる。
【0016】
これらの中で特に、カチオン性を有する高分子電解質としてポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドが、ポリエステル系繊維の表面上で自己組織的配列によって強固な層を形成できるため、特に好ましく用いられる。また、発明者らがJIS L1902の抗菌性試験方法に従って確認した結果、繊維表面に形成されたポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド層は、未処理の対照試料と比較して黄色ブドウ球菌の増殖を1万分の1以下に抑制でき、大腸菌に関しては検出限界以下に抑制できる抗菌作用を有することが分かっている。ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドは次の化学式(1)で示される。
【0017】
【化1】

【0018】
本発明におけるイオン性を有する有機化合物は、消臭、防臭、抗菌、抗アレルゲンからなる群の少なくとも一種の機能を有する物質である。具体的には、金属フタロシアニンの誘導体、フェノール性水酸基を含有するフラボノイド、ポルフィリンの誘導体、メチレンブルー、マカライトグリーンなどが挙げられる。
【0019】
これらの中で金属フタロシアニンの誘導体は、優れた消臭・防臭機能を有することが知られており、本発明において好ましく用いることができる。この金属フタロシアニンに関しては、銅、鉄、アルミニウム、ニッケル、コバルト、亜鉛、チタン、バナジウム、ロジウム、ルテニウム、ケイ素、モリブデン、タングステン、オスミウムからなる金属の群の一種を中心金属として含有するものが好ましく、化学構造中にカルボキシル基やスルホン基を導入してアニオン性とした誘導体であることが推奨される。
【0020】
また、フェノール性水酸基を含有するフラボノイドは、スギ花粉などのアレルゲン物質に吸着して不活化させる抗アレルゲン機能を有することが知られており、本発明において好ましく用いることができる。ここでのフラボノイドとはフラバンの基本骨格を有する化合物の総称であり、アントシアニン類、フラバン類、プロアントシアニジン類、C−グリコシルフラボノイド類、バイフラボノイド類、トリフラボノイド類、イソフラボノイド類、ネオフラボノイド類、フラボン類およびフラボノール類とそれらの配糖体、カルコン、オーロン、フラバノンといった微量フラボノイド類が挙げられる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によって、消臭、防臭、抗菌、抗アレルゲンからなる群の少なくとも一種の機能を有する高分子電解質若しくは有機化合物を、外気に接触するフィルタ表面に多層薄膜構造で安定的に局在配置することにより、フィルタとして高い効率性が得られるとともに、ブラシ等によるフィルタ清掃によって下層を新たに表出させることで機能を回復できることを特徴に持つフィルタを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、フィルタ10は、繊維11の表面上に、交互積層した高分子電解質層12および有機化合物層13を備える。フィルタ10としては、エアコン、空気清浄機、掃除機のフィルタおよびソックスフィルタ、空調システム用エアフィルタが挙げられる。繊維11はポリエステル等の合成繊維から構成される織物、編物、樹脂繊維混、不織布により形成される。高分子電解質層12中の高分子電解質からなり、この高分子電解質としてはポリジアリルジメチルアンモニウム塩又はポリスチレンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。有機化合物層13中の有機化合物としては、金属フタロシアニンの誘導体、フェノール性水酸基を含有するフラボノイド、ポルフィリン誘導体、メチレンブルー、マカライトグリーン等が挙げられる。金属フタロシアニンの誘導体としては、銅、鉄、アルミニウム、ニッケル、コバルト、亜鉛、チタン、バナジウム、ロジウム、ルテニウム、ケイ素、モリブデン、タングステン、オスミウムからなる金属の群の一種を含有する金属フタロシアニンの誘導体を用いることが好ましい。
高分子電解質層12、有機化合物層13の組み合わせからなる積層の繰り返しの数は、範囲限定されるものではないが、高分子電解質層12、有機化合物層13を2層以上積層させること、特に5層以上が好ましい。
このように構成されたフィルタ10の積層方法を説明する。先ず合成繊維により構成されたフィルタ11を用意する。このフィルタ11の表面に高分子電解質をコーティングして高分子電解質層12を形成する。この高分子電解質層のコーティング方法として、浸漬法が挙げられる。ここで、高分子電解質層の表面に、有機化合物をコーティングすることにより、有機化合物層13が形成される。次いで有機化合物層13の表面に高分子電解質、さらに高分子電解質層の表面に、有機化合物をコーティングすることを繰り返し、高分子電解質および有機化合物を積層したフィルタ10を得る。
ここで交互積層法の基本原理を示す概念図として図2を示す。図2において、溶液21には、カチオン性電解質溶液、溶液22には、アニオン性の電解質溶液が入れられている。ここで、被成膜材料として、基板21を溶液22内に入れると、基板10の表面にカチオン性電解質が吸着し、さらにこの基板10を溶液23内に入れると、吸着していたカチオン性電解質の表面にアニオン性電解質が静電相互作用により吸着する。このように、基板21を溶液21と溶液23とに交互に浸漬させてゆけば、基板21の表面には、カチオン性電解質からなる層とアニオン性電解質からなる層とが交互に積層されてゆくことになり、最終的に多層構造が形成される。
【実施例1】
【0023】
以下に、発明の実施の形態を実施例に基づき、図面を参照して説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。図3に示すように、先ず繊度23デニールのポリエステル繊維を100本/インチの密度で組織した平織物からなる布帛31を用意した。次に布帛31をポリジアリルジメチルアンモニウム塩水溶液に浸漬させ、高分子電解質層32を形成した。ここで、ポリジアリルジメチルアンモニウム塩(PDDA)は1wt%水溶液となるように水を加えて調整したものである。この溶液の中に布帛21を浸漬し、高分子電解質層32を形成した。次いで過剰の高分子電解質を取り除くために水で布帛21を洗った。その後、布帛21を銅フタロシアニンスルホン酸ナトリウム水溶液に浸漬させることにより、色素層23を形成した。具体的には、銅フタロシアニンスルホン酸ナトリウム色素を水に溶かし、2×10−3mol・L−1となるように調整した。この溶液の中に布帛31を浸漬し、色素層33を形成した。なお、銅フタロシアニンスルホン酸ナトリウムは次の化学式(2)で示される。
【0024】
【化2】

その後過剰の色素を取り除くために水で布帛31を洗った。これらの工程を5回繰り返すことにより布帛31を5回積層した多層積層構造とした。この積層体を実施例1とした。
【実施例2】
【0025】
本発明の実施例2を以下に示す。実施例1と同様に、先ず繊度75デニールのポリエステル繊維を40本/インチの密度で組織した平織物からなる布帛を用意した。次に布帛をポリジアリルジメチルアンモニウム塩水溶液に浸漬させ、高分子電解質層を形成した。ここで、ポリジアリルジメチルアンモニウム塩(PDDA)は1wt%水溶液となるように水を加えて調整したものである。この溶液の中に布帛を浸漬し、高分子電解質層を形成した。次いで過剰の高分子電解質を取り除くために水で布帛を洗った。その後、布帛をコバルトフタロシアニンスルホン酸ナトリウム水溶液に浸漬させることにより、色素層を形成した。具体的には、コバルトフタロシアニンスルホン酸ナトリウム色素を水に溶かし、0.5g・L−1となるように調整した。この溶液の中に布帛を浸漬し、色素層を形成した。なお、コバルトフタロシアニンスルホン酸ナトリウムは次の化学式(3)で示される。その後過剰の色素を取り除くために水で布帛を洗った。これらの工程を5回繰り返すことにより布帛を5回積層した多層積層構造とした。
【0026】
【化3】

【実施例3】
【0027】
本発明の実施例3を以下に示す。実施例1、2と同様に、先ず繊度75デニールのポリエステル繊維を40本/インチの密度で組織した平織物からなる布帛を用意した。次に布帛をポリジアリルジメチルアンモニウム塩水溶液に浸漬させ、高分子電解質層を形成した。ここで、ポリジアリルジメチルアンモニウム塩(PDDA)は1wt%水溶液となるように水を加えて調整したものである。この溶液の中に布帛を浸漬し、高分子電解質層を形成した。次いで過剰の高分子電解質を取り除くために水で布帛を洗った。その後、布帛をアレルノンST(大和化学)水溶液に浸漬させることにより、色素層を形成した。具体的には、アレルノンSTを水に溶かし、10wt%となるように調整した。この溶液の中に布帛を浸漬し、色素層を形成した。なお、アレルノンSTは次の化学式(4)で示されるフラボノイドである。その後過剰の色素を取り除くために水で布帛を洗った。これらの工程を5回繰り返すことにより布帛を5回積層した多層積層構造とした。
【0028】
【化4】

(評価)
【0029】
実施例のポリエステル繊維布帛を、分光光度計により測色し,得られた分光反射率から数(1)より表面染色濃度(K/S値)を算出して評価した。
【数1】

K/S値は値が高いほど色濃度は高くなり、値が低いほど色濃度は低くなる。算出したK/S値を縦軸にとり、横軸に波長をとった結果を実施例1、2、3について、それぞれ図4、図5及び図6に示す。図4、図5及び図6から積層回数につれてK/S値が大きくなっており、色素層の積層による色濃度の増大が認められる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】フィルタの縦断面図である。
【図2】交互積層法基本原理概念図である。
【図3】実施例の交互積層縦断面図である。
【図4】実施例1のK/Sスペクトルである。
【図5】実施例2のK/Sスペクトルである。
【図6】実施例3のK/Sスペクトルである。
【符号の説明】
【0031】
10 フィルタ
11 繊維
12 高分子電解質層
13 有機化合物層
20 交互積層操作方法
21 基板
22 カチオン性高分子電解質溶液
23 アニオン性高分子電解質溶液
31 ポリエステル繊維布帛
32 PDDA層
33 銅フタロシアニンスルホン酸層



【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維からなる布帛又は不織布の表面に、互いに反対のイオン性を有する高分子電解質および有機化合物が交互積層して薄膜を形成しており、前記高分子電解質および/又は前記有機化合物が、消臭、防臭、抗菌、抗アレルゲンからなる群の少なくとも一種の機能を有していることを特徴とする空気ろ過フィルタ材。
【請求項2】
合成繊維からなる布帛又は不織布の表面に、互いに反対のイオン性を有する高分子電解質および有機化合物が交互積層して薄膜を形成しており、前記高分子電解質がカチオン性のジアリルジメチルアンモニウム塩重合体であることを特徴とする、請求項1記載の空気ろ過フィルタ材。
【請求項3】
合成繊維からなる布帛又は不織布の表面に、互いに反対のイオン性を有する高分子電解質および有機化合物が交互積層して薄膜を形成しており、前記有機化合物が銅、鉄、アルミニウム、ニッケル、コバルト、亜鉛、チタン、バナジウム、ロジウム、ルテニウム、ケイ素、モリブデン、タングステン、オスミウムからなる金属の群の一種を含有する、アニオン性の金属フタロシアニン誘導体であることを特徴とする、請求項1記載の空気ろ過フィルタ材。
【請求項4】
合成繊維からなる布帛又は不織布の表面に、互いに反対のイオン性を有する高分子電解質および有機化合物が交互積層して薄膜を形成しており、前記有機化合物がアニオン性のフェノール性水酸基を含有するフラボノイドであることを特徴とする、請求項1記載の空気ろ過フィルタ材。
【請求項5】
合成繊維からなる布帛が、繊度23−75デニールのポリエステル繊維を40−100本/インチの密度で組織した織物である、ことを特徴とする請求項1−4記載のエアコン用フィルタ材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−125697(P2009−125697A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−305172(P2007−305172)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(591032703)群馬県 (144)
【出願人】(503325745)長産業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】