空気中の二酸化炭素を用いたアルカリ土類金属炭酸塩の製造方法とその利用
【課題】空気中の二酸化炭素を用いてアルカリ土類金属炭酸塩を製造する。
【解決手段】アルカリ土類金属イオン供給源である塩化カルシウム、塩化ストロンチウム又は水酸化バリウムの水溶液にポリアミンを溶解させ、空気と接触させる。水溶液中のポリアミンが空気中の二酸化炭素と反応して炭酸イオンが生成し、それが水溶液中のアルカリ土類イオンと反応して炭酸塩が沈殿する。カルシウムイオンは海水から供給することもでき、その場合は海水にポリアミンを添加して空気と接触させればよい。水溶液が、塩化マグネシウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウムおよび塩化ストロンチウムから選ばれた少なくとも1種をさらに含有すると、ダンベル状、球状などの独特の結晶形状の炭酸カルシウムを製造することができる。
【解決手段】アルカリ土類金属イオン供給源である塩化カルシウム、塩化ストロンチウム又は水酸化バリウムの水溶液にポリアミンを溶解させ、空気と接触させる。水溶液中のポリアミンが空気中の二酸化炭素と反応して炭酸イオンが生成し、それが水溶液中のアルカリ土類イオンと反応して炭酸塩が沈殿する。カルシウムイオンは海水から供給することもでき、その場合は海水にポリアミンを添加して空気と接触させればよい。水溶液が、塩化マグネシウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウムおよび塩化ストロンチウムから選ばれた少なくとも1種をさらに含有すると、ダンベル状、球状などの独特の結晶形状の炭酸カルシウムを製造することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中の二酸化炭素を利用して、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩を製造する方法に関する。金属イオン源としては、海水中に含まれる金属イオンを利用することもできる。従って、本発明は、地球温暖化をもたらす温室効果ガスである大気中の二酸化炭素の削減とともに海水中の微量金属および放射性金属の回収に有効であり、地球環境保全につながる技術を提供する。
【背景技術】
【0002】
炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩は様々な分野で広く利用されており、工業的な需要も大きい。
【0003】
炭酸カルシウムは、製紙、ゴム、プラスチック、化粧品など広範囲な工業分野で、充填剤、顔料、増量剤などとして利用されており、近年その使用量が急増している。炭酸カルシウムの結晶形態には、カルサイト(方解石)、アラゴナイト(アラレ石)、バテライトの3種類がある。そのうち最も安定であるのはカルサイトであり、アラゴナイトは地表環境では徐々にカルサイトに転移する。バテライトは自然界にはほとんど存在しない。
【0004】
同じカルサイトでも、結晶の外観形状(以下、結晶形状という)は多様な形状を呈することが知られている。例えば、紙の充填剤や化粧品などの用途では、結晶形状によって製品の手触りまたは肌触りが異なってくることもあるので、結晶形状の制御が求められている。
【0005】
炭酸カルシウムの製造方法としては、1)炭酸ガスと水酸化カルシウムの水性懸濁液との反応である炭酸ガス法、2)炭酸ナトリウムと塩化カルシウムとの反応による塩化カルシウムソーダ法、3)炭酸ナトリウムと石灰乳との反応による石灰ソーダ法等が知られている。これらの方法では、炭酸イオンの供給源に炭酸ガスや炭酸カルシウムを用いている。そのため結晶化のスピードが速く、結晶形状はもとより、結晶系をコントロールするのも困難である。この問題を解決する手段として、下記特許文献1、2には、球状炭酸カルシウムの製造方法が開示されている。
【0006】
炭酸ストロンチウムはブラウン管やフェライト磁石の原料などとして利用されている。製法としては、天然にセレスタイト鉱石として存在する硫酸ストロンチウムを原料とする炭酸ストロンチウムの生産が行われている。選鉱したセレスタイトから製造した可溶性ストロンチウム塩の水溶液に、炭酸塩を加えるか、水酸化ストロンチウムの水溶液に二酸化炭素を吹き込むと炭酸ストロンチウムが沈殿する。
【0007】
炭酸バリウムは、かつてはブラウン管などのバリウムガラスやバリウムフェライトなどに使用されていたが、純度の高い炭酸バリウムは、最近では電子材料用の原料として幅広く使用されている。製法としては炭酸イオンを含む水溶液に、塩化バリウムの水溶液を加え、難溶性の白色沈殿を得る方法がある。工業的には、天然の硫酸バリウムである重晶石に炭素として石炭かコークスを加えて還元焙焼することにより硫化バリウムを得た後、これを炭酸ナトリウム(ソーダ灰)の水溶液中で反応させて炭酸塩とする方法が取られている。
【0008】
いずれの炭酸塩も、その製造過程で、炭酸ガスや炭酸塩など炭酸イオンの供給が不可欠である。
【0009】
一方、地球温暖化の原因物質と言われている温室効果ガスの中でも、特に影響が大きいのが二酸化炭素(炭酸ガス)であり、大気中の二酸化炭素濃度の増大を防止することが地球温暖化をくい止める切り札となりうる。そのため、大気中の二酸化炭素を吸収・固定する技術について、日本を含む多くの国で盛んに研究されている。これまでに、海洋隔離、地中貯留、Cへの分解、化学品への変換、大規模植林、海洋植物による吸収、珊瑚による吸収など、さまざまな方策が提案され、一部は実施されている。
【0010】
そのような方法の1つとして、二酸化炭素を化学反応により炭酸塩として固定するというアイディアが提案されている。また、工場から大気中に放出される二酸化炭素を削減するために、排ガス中の二酸化炭素を除去する脱炭酸法についても古くから研究が行われ、既に実用化されている。実用化されている脱炭酸法の1つが、アミン、特にアルカノールアミンまたはピペラジンの水溶液中に二酸化炭素を吸収させる方法である。この場合、二酸化炭素を吸収した吸収液は加熱されて二酸化炭素ガスと再生された吸収液とに分離され、吸収液は繰り返し使用されるのが普通である(例えば、下記特許文献3を参照)。この再生工程で消費する熱コストや熱による吸収液の分解が問題となっている。
【0011】
下記特許文献4には、炭酸ガスを含むガス(例、工場排ガス)を水、アルカリ土類金属含有物(例、鉄鋼スラグ)、およびアンモニウム塩と接触させて炭酸塩として固定化することが提案されている。実施例では純二酸化炭素ガスを用いて炭酸塩を沈殿させている。工場排ガスはもとより、二酸化炭素濃度が数百ppmにすぎない空気に適用できる技術であるかどうかは全く不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平1−301511号公報
【特許文献2】特開平7−033433号公報
【特許文献3】特開平7−100333号公報
【特許文献4】特開2005−097072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、空気中の二酸化炭素を利用して炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩を製造する方法を提供することである。
【0014】
本発明の別の目的は、海洋中のカルシウムイオンを利用して炭酸カルシウムを製造することが可能で、最終的に大気中の二酸化炭素濃度の削減に効果のある炭酸カルシウムの新規な製造方法を提供することである。
【0015】
本発明のさらに別の目的は、結晶系および結晶形状の制御が可能で、2種以上の異なる結晶形状を持つ炭酸カルシウムを作りわけることができる、炭酸カルシウムの新規な製造方法を提供することである。
【0016】
本発明のさらなる別の目的は、海水中に含まれている微量金属イオンを炭酸カルシウムの結晶中に取り込んだり吸着させたりすることで、希少金属や放射性物質を海水から取り出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
海洋生物による炭酸カルシウム形成のメカニズムは未だ不明な点が多く、解明には至っていない。本発明者らは、海洋生物の炭酸カルシウム形成解明研究の一環として、炭酸カルシウムの顆粒を形成する海洋細菌の研究を行っていた。この海洋細菌は、カルシウムを含む人工培地で培養すると、菌体外にダンベル状や球状の形をした炭酸カルシウム(カルサイト)を形成する。このメカニズムを研究する過程で、海洋細菌が産生するポリアミンが大きな働きをしていることを究明した。
【0018】
つまり、海洋細菌の培養中にみられるダンベルや球状の炭酸カルシウム顆粒は、海洋細菌の増殖に伴い培地中に増えたポリアミンが、培地中の炭酸イオン濃度を高めることで、炭酸カルシウムの結晶化を促すこと、炭酸カルシウムの結晶形状は、人工培地中に含まれる高濃度のマグネシウムイオンやクエン酸鉄の影響によりダンベル状になることもわかった。
【0019】
炭酸カルシウムの顆粒形成が見られた海洋細菌の培養液のポリアミンを食品衛生検査指針における「食品中の不揮発性腐敗アミンの分析」に準じて、ダンシルクロライドで蛍光誘導化し、HPLCにより分析した結果、プトレッシン、カタベリン、スペルミジンなどのポリアミン類が検出された。
【0020】
以上から、海洋細菌が産生するポリアミンが空気中の二酸化炭素と塩を形成することで、培地中の炭酸イオン濃度が上昇し、炭酸カルシウムが析出するということがわかった。すなわち、海洋生物による炭酸カルシウム形成では、空気中の二酸化炭素が培地中に取り込まれ、炭酸イオン源として利用されて、炭酸カルシウムが生成する。
【0021】
このメカニズムを確認するため、海洋細菌が存在しない水溶液中にポリアミン10mMと塩化カルシウム10mMとを混合して静置したところ、海洋細菌の不存在下でも炭酸カルシウムが生成することが確認できた。また、海水とポリアミンの混合液からも炭酸塩が析出することが明らかとなった。この場合の結晶の形状はダンベル状のものが多く見られた。
【0022】
さらに、海洋細菌の培地中にみられる炭酸カルシウム顆粒の特徴的な形状は、人工培地に栄養塩として含まれているマグネシウムイオンやクエン酸鉄の影響であることが分かった。すなわち、塩化マグネシウム64〜128mMやクエン酸ナトリウム8mMを塩化カルシウムとポリアミン(各10mM)の混合溶液に添加することにより、ダンベル状の炭酸カルシウムを得ることができた。また、クエン酸ナトリウム4mMを同様に添加することにより球状の炭酸カルシウム結晶が得られた。さらに、メタケイ酸ナトリウムや塩化ストロンチウムを添加すると、特徴的な形状の炭酸カルシウムを製造できた。
【0023】
一方、炭酸ストロンチウムは、塩化ストロンチウム1〜128mMを含んだ水溶液に、ポリアミン10mMを添加することで製造できた。同様に、炭酸バリウムも塩化バリウムを含んだ水溶液にポリアミンを添加することにより製造できた。これらも炭酸カルシウムの場合と同様に、空気中の二酸化炭素を水溶液中に取り込んで炭酸塩が生成する。
【0024】
以上の知見に基づく本発明は、カルシウイオン、ストロンチウムイオンおよびバリウムイオンから選ばれた少なくとも1種のアルカリ土類金属イオンとポリアミンとを含有する水溶液を空気と接触させ、析出物を分離することを特徴とする、アルカリ土類金属炭酸塩の製造方法である。好ましいアルカリ土類金属イオンの供給源は、水溶性が高く、かつ安価であることから、塩化カルシウム、塩化ストロンチウムおよび塩化バリウムである。
【0025】
この方法では、まず空気中の二酸化炭素が上記水溶液に吸収され、水溶液中のポリアミンと反応して、水溶液中で炭酸イオンを生ずる。ポリアミンがピペラジンである場合についての推測される反応式を次に示す。すなわち、炭酸イオンが生成し、ポリアミンはカチオンになると推測される。その後、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン又はバリウムイオン (Me2+) が炭酸イオンに作用して、アルカリ土類金属炭酸塩(MeCO3)が析出するので、これを分離して回収する。
【0026】
【化1】
【0027】
アルカリ土類金属がカルシウムである場合について説明すると、析出した炭酸カルシウムを分離した後の水溶液中には、ポリアミンの酸付加塩(カルシウムイオン供給源が塩化カルシウムである場合には塩酸塩)が溶解している。後述するように、この水溶液からポリアミンとカルシウムイオンを含有する反応に用いる水溶液(反応液)を再生することができるので、ポリアミンはその後の反応にも循環使用できる。
【0028】
このように、例えば、塩化カルシウムの水溶液にポリアミンを添加することによって、炭酸ガスや炭酸塩を用いずに、空気中の二酸化炭素を利用して炭酸カルシウムを製造することができる。
【0029】
好ましくは、アルカリ土類金属イオンとポリアミンとを含有する水溶液を30〜50℃の温度で撹拌しながら空気と接触させる。
【0030】
アルカリ土類金属イオンがカルシウムイオンである場合、生成する炭酸カルシウムの結晶形状をコントロールするために、上記水溶液は、塩化マグネシウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、および塩化ストロンチウムから選ばれた少なくとも1種の化合物をさらに含有することができる。
【0031】
また、カルシウムイオンの供給源として海水をそのまま使用することができる。海水は、ナトリウムイオン、マグネシウムイオンに次いで、第3に多い金属イオンとしてカルシウムイオンを含んでいる。本発明に従って、海水にポリアミンを添加し、空気と接触させても、炭酸カルシウムを製造できることが判明した。すなわち、海水中に含まれるナトリウムイオン、塩化物イオンなどの各種イオンは、上述したポリアミンと二酸化炭素とカルシウムイオンとの反応による本発明に係る炭酸カルシウムの製造に著しい悪影響を及ぼさない。また、海水は重炭酸イオン(HCO3−)を含んでおり、この重炭酸イオンも炭酸イオンの供給源として有効利用される。
【0032】
従って、別の側面からは、本発明は、ポリアミンを添加した海水を空気と接触させ、析出物を分離することを特徴とする、炭酸カルシウムの製造方法である。この方法で製造された炭酸カルシウムは、一般にダンベル状と球状とが混ざり合った結晶形状を有する。
【0033】
この方法では、海水中に微量含まれているストロンチウム、バリウムも一緒に炭酸カルシウム結晶中に取り込まれて析出し、また海水に多量に含まれているマグネシウムの一部も同様に析出する。従って、さらに別の側面からは、本発明は、ポリアミンを添加した海水を空気と接触させ、析出物を回収することを特徴とする、海水からのアルカリ土類金属の回収方法である。この方法では、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムといったアルカリ土類金属を炭酸塩として回収することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明では、アルカリ土類金属イオンを含む水溶液にポリアミンを添加することによりポリアミンのアミノ基が空気中の二酸化炭素と反応してイオンとなり、水溶液中の炭酸イオン濃度を上昇させる。その結果、アルカリ土類金属炭酸塩の溶解度積を上回り、炭酸塩の沈殿が生じる。とくに炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウムは溶解度積の値が比較的小さいために、炭酸塩になりやすい。海水は、アルカリ土類金属イオンを多く含んでいるが、とくにマグネシウムやカルシウムは比較的多く存在している。炭酸マグネシウムは溶解度積が他のアルカリ土類金属炭酸塩に比べて大きく、単独で結晶にはなりにくいが、炭酸カルシウムの結晶格子中に多く入り込み、炭酸カルシウムの結晶系や結晶形状に大きな影響を及ぼす。ストロンチウムやバリウムも同様に炭酸カルシウム結晶に入り込み、結晶系、結晶形状に大きく影響をおよぼす。さらにアルカリ土類金属の他の金属イオンやケイ素などの微量成分も炭酸カルシウムに入り込んだり吸着したりする。
【0035】
珊瑚や貝など炭酸カルシウム骨格をもつ海洋生物の多くが、海水中のマグネシウム、ストロンチウムを始めとする様々な微量金属を骨格中に取り込んでいることからもわかるように、本発明を用いることで、空気中の二酸化炭素を利用して海水から炭酸カルシウムを作ることが可能になるとともに、海水中のマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属を始め、Ag、As、Cd、Cu、Hg、Ni、Pb、U等の微量金属イオンを海水から濃縮することが可能になると考えられる。同様に放射性ストロンチウム、放射性バリウムなどの放射性金属物質も炭酸カルシウム結晶中に取り込むことが可能になるものと思われる。
【0036】
本発明に係る炭酸塩製造方法は、炭酸イオンの供給源として空気に含まれる二酸化炭素を利用するので、製造に利用した分だけ、大気中の二酸化炭素濃度を低減することができる。ただし、カルシウムイオン供給源が塩化カルシウムである場合には、塩化カルシウムは炭酸カルシウムから製造されることが多く、二酸化炭素を放出する方法で製造された塩化カルシウムを使用するのであれば、大気中の二酸化炭素削減には寄与しない。しかし、工業製品として流通している塩化カルシウムはソルベー法による炭酸ナトリウム製造の副産物として製造されたものが主であり、この場合には二酸化炭素は再生利用され、二酸化炭素の大気への放出はない。従って、ソルベー法で製造された塩化カルシウムを使用する場合には、大気中の二酸化炭素濃度低減効果が達成される。また、カルシウムイオン供給源として海水を利用する場合も、もともとイオンとして存在しているカルシウムを利用するため、炭酸カルシウムを製造した量だけ大気中の二酸化炭素は削減される。
【0037】
本発明により製造される炭酸カルシウムはその結晶形状を、ダンベル状、球状、又はダンベル状と球状の混合物、というように厳密にコントロールすることができる。従って、用途に合わせて最適の結晶形状を有する炭酸カルシウムを製造することが可能となる。これまで、球状炭酸カルシウムの製造法は知られていたが、本発明ではダンベル状の結晶形状を持つ炭酸カルシウムの製造も可能である。
【0038】
本発明に係る方法で製造された炭酸カルシウムは、紙、ゴム、プラスチックなどの充填剤若しくは顔料、インクや塗料の顔料などとして有用である。
【0039】
本発明に係る炭酸カルシウムの製造方法は、空気以外の原料も比較的安価であり、熱エネルギーもさほど必要ないので、安価に炭酸カルシウムや他のアルカリ土類金属炭酸塩を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例で製造された炭酸カルシウム結晶の光学顕微鏡写真。
【図2】反応温度と炭酸カルシウムの生成量との関係を示すグラフ。
【図3】各種ポリアミンの炭酸カルシウム形成能を示すグラフ。
【図4】(a)は塩化マグネシウム存在下で製造された炭酸カルシウム結晶の光学顕微鏡写真、(b)は海洋細菌の培養で産生された炭酸カルシウム結晶の光学顕微鏡写真。
【図5】異なる濃度のクエン酸ナトリウム[(a)8mM、(b)4mM、(c)2mM、(d)1mM]の存在下で製造された炭酸カルシウム結晶の光学顕微鏡写真。
【図6】異なる濃度のメタケイ酸ナトリウム[(a)32mM、(b)16mM、(c)8mM、(d)4mM]の存在下で製造された炭酸カルシウム結晶の光学顕微鏡写真。
【図7】異なる濃度の塩化ストロンチウム[(a)128mM、(b)64mM、(c)32mM、(d)16mM]の存在下で製造された炭酸カルシウム結晶の光学顕微鏡写真。
【図8】異なる濃度の塩化ストロンチウム[(a)64mM、(b)16mM、(c)4mM、(d)1mM]とピペラジンとの反応で生成した炭酸ストロンチウム結晶の光学顕微鏡写真。
【図9】塩化バリウム[(a)64mM、(b)16mM、(c)4mM、(d)1mM]の存在下で製造された炭酸バリウム結晶の光学顕微鏡写真。
【図10】海水とポリアミンと空気との反応で製造された炭酸カルシウム結晶の光学顕微鏡写真。
【図11】実施例の結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施形態についてより具体的に説明する。以下では、カルシウムイオンの供給源として塩化カルシウム又は海水を使用した態様について説明するが、カルシウムイオンは後述するように塩化物に限られない。
【0042】
カルシウムイオン供給源が塩化カルシウムである場合、まず、塩化カルシウムとポリアミンとを含有する水溶液を調製する。
【0043】
ポリアミンとしては、2以上の第1又は第2アミノ基を有する水溶性化合物を使用することが好ましい。具体例を挙げると、プトレシン(ブタン−1,4−ジアミン)、カダベリン(ペンタン−1,4−ジアミン)、スペルミン(1,11−ジアミノ−4,9−ジアザウンデカン)、スペルミジン(1,8‐ジアミノ‐4‐アザオクタン)などの生体内で合成されるポリアミン、並びにヘキサン−1,4−ジアミンなどのアルキレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミンなどのポリアルキレンポリアミン、さらにはピペラジンなどの飽和若しくは部分飽和環状ポリアミンを挙げることができる。
【0044】
一方、カルシウムイオン供給源としては、塩化カルシウム以外に、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、硝酸カルシウムなどの他の水溶性カルシウム化合物も使用できるが、コストを考えると、塩化カルシウムの使用が有利である。
【0045】
カルシウムイオンとポリアミンを含有する水溶液は、例えば、塩化カルシウムの水溶液とポリアミンの水溶液とを混合することにより調製できる。一方の成分を固体として混合することも可能である。水溶液中の各成分の濃度は、塩化カルシウム(=カルシウムイオン)が5〜1000mM、ポリアミンは5〜1000mMの範囲内とすることが好ましい。より好ましい濃度は、塩化カルシウムが10〜500mM、ポリアミンが10〜500mMである。
【0046】
このカルシウムイオンとポリアミンとを含有する水溶液を空気と接触させる。空気との接触面積を高めるため、水溶液を激しく撹拌する、空気を水溶液中に吹き込むなどの方法を採用することができる。使用する水溶液は人体に有毒な成分を含有していないので、反応容器は開放型でよい。
【0047】
ポリアミンと空気中の二酸化炭素との反応速度は温度によって変化する。例えば、ポリアミンがピペラジンの場合、0〜10℃では反応の進行は遅く、20℃以上で反応の進行が速まり、40℃前後でピークに達し、50℃を超えると反応が再び低下する。従って、反応は25℃前後の室温でも十分に進行するが、好ましい反応温度は30〜50℃の範囲内であり、35〜45℃の範囲内がさらに好ましい。
【0048】
反応時間(上記水溶液と空気との接触時間)は、空気との接触方式や反応温度によっても異なるが、一般には30分〜2時間であり、好ましくは1時間〜24時間である。
【0049】
生成物の炭酸カルシウムは沈殿するので、反応終了後は、ろ過、遠心分離などの適当な固液分離手段により析出物を分離して、生成した炭酸カルシウムを回収する。必要に応じて水洗し、さらに乾燥して、製品とすることができる。
【0050】
炭酸カルシウムが分離された後に残る水溶液(以下、反応濾液という)は、ポリアミン塩酸塩を含有し、さらに未反応の塩化カルシウムやポリアミンを含有している。従って、この反応濾液にカルシウムイオンを補充し、かつ液を中和してポリアミンを遊離状態に戻せば、反応に用いる水溶液が再生される。そのためには、水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムを反応濾液に添加することが好ましい。つまり、生成した炭酸カルシウムと当モル量の水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムを反応濾液に添加することにより、反応に用いる水溶液を再生することができる。式を化2に示す。
【0051】
【化2】
【0052】
上述したように、本発明に係る炭酸カルシウムの製造方法は、生成する炭酸カルシウムの結晶形状を厳密にコントロールできるという利点を有する。そのためには、反応系である上記水溶液に塩化カルシウムとポリアミンに加えて、第3の添加成分を含有させる。そのような第3の添加成分の例は、塩化マグネシウム、塩化ストロンチウム、臭化マグネシウムなどのアルカリ土類ハロゲン化物、メタケイ酸ナトリウムなどのメタケイ酸塩、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウムなどの有機酸塩が挙げられる。
【0053】
前述したように、塩化マグネシウム64〜128mM又はクエン酸ナトリウム8mMを添加すると、ダンベル状の炭酸カルシウムが生成する。一方、クエン酸ナトリウム4mMを添加すると、球状の炭酸カルシウムが生成する。さらに、メタケイ酸ナトリウム又は塩化ストロンチウムを添加すると、ダンベル状に似た特徴的な形状の炭酸カルシウムが生成する。第3成分の添加量は、一般には1〜128mMの範囲内であるが、目的とする形状の炭酸カルシウムが生成するように、実験によりその適当な濃度範囲を決めることができる。
【0054】
本発明に係る方法では、カルシウムイオン源として海水を用いてもよい。この場合には、海水にポリアミンを添加して反応液を調製する。この場合のポリアミンの添加量は、好ましくは5〜1000mM、より好ましくは10〜500mMの濃度となる量である。上記水溶液に代えて、このポリアミンを添加した海水を使用する点を除いて、反応は上記と同様に実施することができる。海水は腐食性が強いので、反応容器その他の反応装置は耐食性の材料から構成することが好ましい。
【0055】
海水は、カルシウムイオン以外に、多量のマグネシウムイオンを含有しているため、生成する炭酸カルシウムの結晶形状は、一般に球状とダンベル状との混合物である。海水から得られた生成物は、海水中に含まれているマグネシウム、ストロンチウムおよびバリウムなど海水中の微量金属を結晶中に含んだ炭酸カルシウム塩である。用途(例、土壌改良剤などの農業分野)によっては、この生成物をそのまま炭酸カルシウムとして使用することも可能である。
【0056】
海水をそのまま使用するのではなく、塩化カルシウムを添加してカルシウムイオン濃度を高めた海水を使用することもできる。すなわち、海水を水の代わりに使用し、海水に塩化カルシウムとポリアミンを添加して反応液を調製し、これを空気と接触させる。塩化カルシウムの添加量は、上述した塩化カルシウムの濃度となるように、海水中に含まれるカルシウムイオン濃度を考慮して決めればよい。ポリアミンの添加量は、水にポリアミンを添加する場合について説明したのと同様でよい。
【0057】
使用する海水は、有機物やリン酸塩の含有量が低いものが好ましいと考えられる。海水を用いた場合には、反応後の濾液はポリアミンを含有しているので、上記したように水酸化カルシウムを補給して再度結晶を製造することも可能である。しかし、濾液を陽イオン交換樹脂などでろ過してポリアミンを回収することが好ましい。こうすれば、ポリアミンの大部分は循環使用できる。
【0058】
本発明の方法は、炭酸カルシウム以外に、水中溶解度積の小さい炭酸ストロンチウムおよび炭酸バリウムの製造にも使用できる。その場合は、塩化カルシウムの水溶液の代わりに塩化ストロンチウム又は塩化バリウムの水溶液を使用することが好ましい。ただし、他の水溶性ストロンチウム化合物又はバリウム化合物も使用可能である。この水溶液にポリアミンを添加し、炭酸カルシウムについて上述したのと同様の方法で反応を行うことができる。
【0059】
本発明の方法はまた、ポリアミンを添加した海水を空気と接触させ、析出物を回収することにより、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムといったアルカリ土類金属を海水から回収する方法として実施することもできる。こうして、カルシウムを主として、マグネシウム、ストロンチウムおよびバリウムを含んだアルカリ土類金属炭酸塩の混合物が回収される。回収物は、例えば、土壌改良剤として農業用途に使用することができる。同時に放射性同位体のストロンチウム、バリウムを海水から取り除くこともできる。
【0060】
以上のいずれの方法においても、空気中の二酸化炭素を水溶液中に溶解させて反応に利用することから、大規模に実施すれば、温室効果ガスである大気中の二酸化炭素の濃度軽減にもつながる。特に、カルシウムイオンまたはアルカリ土類金属イオンの供給源として海水を利用すれば、もともとイオンとして存在しているカルシウムを利用できるため、炭酸塩を製造した量だけ大気中の二酸化炭素は削減されたことになる。
【実施例】
【0061】
(実施例1)
24穴マイクロプレートのウェル内で、塩化カルシウム水溶液とピペラジン水溶液をいずれも1mL量での終濃度が10mMになるように混合した。その後、このマイクロプレートを室温で一晩静置した。
【0062】
その結果、図1に光学顕微鏡写真で示すように、炭酸カルシウムの結晶が確認できた。また、得られた結晶は赤外分光法(IR)による分析の結果、876cm−1に吸収ピークが見られたことから、カルサイトであることが確認された。
【0063】
(実施例2)
ビーカー内で、塩化カルシウム水溶液とピペラジン水溶液をいずれも20mL量での終濃度が50mMになるように混合し、蒸留水を加えて20mLとした。この混合溶液を2℃、10℃、20℃、30℃、40℃、および50℃の各温度でマグネットスターラーにより1時間撹拌した。撹拌終了後、遠心上清のカルシウムイオン濃度をCaキレート滴定法に測定することで、炭酸カルシウムの沈殿量を算出した。図2に結果を示す。図2からわかるように、10℃以下では沈殿量が少なく、20℃を超えると沈殿量が増え、30〜50℃での沈殿量が特に多くなった。ピークは約40℃であった。
【0064】
(実施例3)
96マイクロプレートのウェル内で、下記アミンの水溶液を100μLでの終濃度10mMから5μMまで2倍希釈し、塩化カルシウム水溶液を100μLでの終濃度10mMになるように加え、さらに蒸留水を加えて各ウェルの量を100μLにした:
テトラアミン:スペルミン
トリアミン:スペルミジン
ジアミン:カダベリン、ピペラジン
モノアミン:ピペリジン。
【0065】
その後、マイクロプレートを室温で一晩静置した後、吸光光度計を用いて、各ウェルの570nmにおける吸光度を測定し、生成した炭酸カルシウム結晶の量を求めた。結果を図3に示す。図3から、テトラアミン、トリアミン、ジアミンの順、つまりアミノ基の数が多いほど炭酸カルシウム結晶の生成量が多くなる、すなわち、生成速度が大きくなることが分かる。
【0066】
(実施例4)
96穴マイクロプレートのウェルに、塩化マグネシウム、クエン酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム(9水和物)又は塩化ストロンチウムの水溶液を、各100μL量での終濃度が128〜0.06mMになるように入れ、ピペラジン水溶液と塩化カルシウム水溶液をそれぞれ100μL量での終濃度が10mMとなるように各ウェルに添加した。このマイクロプレートを室温で一晩静置した後、結晶の有無または形状を光学顕微鏡で確認した。
【0067】
その結果、図4(a)に示すように、塩化マグネシウムの添加量が128mM又は64mMでは、図4(b)に示す海洋細菌の培養中にみられるのと同じ、ダンベル状の結晶形状を有する炭酸カルシウム結晶が認められた。IR分析の結果、結晶系は128〜16mMでは856cm−1に吸収ピークが見られたことからアラゴナイト、8〜4mMでは876および856cm−1の両方に吸収ピークが見られたことからアラゴナイト、カルサイトの混合物、2mM以下では876cm−1に吸収ピークが見られたことからカルサイトであることが分かった。
【0068】
図5a)〜d)に示すように、クエン酸ナトリウムを添加した場合にも炭酸カルシウムの特徴的な結晶が見られた。クエン酸ナトリウム濃度は、a)が8mM、b)が4mM、c)が2mM、d)が1mMである。クエン酸ナトリウム濃度8mMではダンベル状(図5a))、4mMでは球状(図5b))、2mMでは球状(図5c))、1mMではダンベル状(図5d))の結晶形状が見られた。IR分析の結果、874cm−1付近に吸収ピークが見られたことから、いずれの濃度でも結晶系はカルサイトであることが分かった。
【0069】
メタケイ酸ナトリウムを添加した場合にも、図6a)〜d)に示すように、炭酸カルシウムの特徴的な結晶形状が見られた。メタケイ酸ナトリウムの濃度は、a)が32mM、b)が16mM、c)が8mM、d)が4mMである。メタケイ酸ナトリウム濃度32mMではダンベル状(図6a))、16mMでは鞘状(図6b))、8mMでは球状(図6c))、4mMでは球状(図6d))の結晶形状が見られた。
【0070】
塩化ストロンチウムを添加した場合にも、図7a)〜d)に示すように、炭酸カルシウムの特徴的な結晶形状が見られた。塩化ストロンチウム濃度は、a)が32mM、b)が16mM、c)が8mM、d)が4mMである。塩化ストロンチウム濃度32mMではダンベル状(図7a))、16mMでは球状(図7b))、8mMでは球状(図7c))、4mMでは球状(図7d))の結晶形状が見られた。IR分析の結果、結晶系は128〜8mMでは856cm−1に吸収ピークが見られたことからアラゴナイト、4〜2mMでは876および856cm−1の両方に吸収ピークが見られたことからアラゴナイト、カルサイトの混合物、1 mM以下では876cm−1に吸収ピークが見られたことからカルサイトであることが分かった。
【0071】
(実施例5)
96穴マイクロプレートのウェル内で、100μL量での終濃度が10mMになる量のピペラジン水溶液と100μL量での終濃度が1〜128mMになる量の塩化ストロンチウム水溶液とを混合した。このマイクロプレートを室温で一晩静置した後、析出した結晶を光学顕微鏡で観察した。
【0072】
その結果、図8a)〜d)の光学顕微鏡写真に示すように、炭酸ストロンチウムの樹枝状の結晶が確認できた。塩化ストロンチウム濃度は、a)が64mM、b)が16mM、c)が4mM、d)が1mMである。原料の塩化ストロンチウム濃度が高いほど、炭酸ストロンチウムが高濃度で生成したことがわかる。
【0073】
(実施例6)
96穴マイクロプレートのウェル内で、100μL量での終濃度が10mMになる量のピペラジン水溶液と100μL量での終濃度が1〜128mMになる量の塩化バリウム水溶液とを混合した。このマイクロプレートを室温で一晩静置した後、析出した結晶を光学顕微鏡で観察した。
【0074】
その結果、図9の光学顕微鏡写真に示すように、炭酸バリウムの樹枝状結晶が確認できた。水酸化バリウム濃度は、a)が64mM、b)が16mM、c)が4mM、d)が1mMである。やはり原料の塩化バリウム濃度が高いほど、炭酸バリウムが高濃度で生成したことがわかる。
【0075】
(実施例7)
96穴マイクロプレートのウェル内で、海水200μLにピペラジンを10mM濃度になるように添加し、1晩静置した。静置後のウェルを光学顕微鏡で観察したところ、特徴的なダンベル状結晶(多量に存在する小径の細長い結晶)と球状結晶(ずっと大径のより少数の結晶)の両方の生成が認められた(図10)。2種類の結晶形態が混在するのは、海水中に共存するマグネシウムイオンおよびストロンチウムイオンなどの微量金属の影響によるものと推測される。得られた結晶はIR測定により856cm−1に吸収ピークが見られたことから、結晶系はアラゴナイトであることが分かった。
【0076】
本例の場合、ピペラジンを10mM濃度になるように添加した海水1Lから0.5〜0.6gの炭酸カルシウムが生成することが分かった。しかし、用いた海水によって結晶量は変化するものと予測される。
【0077】
塩化カルシウムを使用した場合には、ピペラジンを10mM濃度になるように添加した塩化カルシウム10mM濃度の水溶液1Lからは0.3〜0.4gの炭酸カルシウムが得られた。
【0078】
カルシウムイオン供給源として海水を使用した方が炭酸カルシウムの収量が多くなるのは、使用した海水のカルシウムイオン濃度の違いや、マグネシウム、ストロンチウムなど他の炭酸塩を含むためであるためと考えられる。
【0079】
(実施例8)
本実施例では、従来のアミン法に用いられているモノエタノールアミン(MEA)やアンモニア(NH3)と本発明で提唱しているポリアミン(ピペラジン)の炭酸カルシウム形成能力を比較する。
【0080】
10mM CaCl2と10および2.5mMの各種塩基の混合液(40mL)を室温で一晩静置し、炭酸カルシウムが沈殿した後、上清のCa2+濃度をキレート滴定法により測定し、減少したCa2+の割合を算出した。結果を図11に示す。
【0081】
図11からわかるように、ピペラジンはいずれの濃度でも多量の炭酸カルシウム形成が認められ、溶液中のCa2+濃度は10mMで100%、2.5mMで94%減少した。他方、MEAは10mMでは43%減少したが、2.5mMでは3%しか減少しなかった.NH3においては10mMでも6%しか減少せず、2.5mMでは全く減少しなかった。10mM水酸化ナトリウムにおいてはピペラジンより高いpHにも関わらずCa2+濃度の減少は少なく、2.5mMではほとんど沈殿は確認できなかった。
【0082】
炭酸カルシウムが沈殿するためには溶液中に炭酸イオンが安定して存在していると有利である。ポリアミンが炭酸カルシウムをより多く沈殿させるのは、分子内に複数アミノ基を有するため、下記化学式に示すようにカチオンが並んで生じ、炭酸イオンの2つのアニオンをより安定にしているものと考えられる。従来のMEAやアンモニアを用いた炭酸塩形成法は分子内にアミノ基を複数有していないため、高濃度では炭酸イオンを安定化できるが、低濃度では安定化しにくい。従って、分子内に複数のアミノ基を有していない点で、本発明で提案するポリアミンを用いた炭酸塩形成法と従来法は原理が異なる。また、ポリアミンが二酸化炭素を吸収する際、一級アミンはカルバメイト型になる割合が大きく、バイカーボネイト型の割合が大きい二級アミンの方が炭酸塩形成には優れているものと考えられる。
【0083】
さらに、海水を用いた炭酸カルシウム形成は、高濃度の塩基を添加すると水酸化物の沈殿が生じてしまうため、ポリアミンを用いないと困難である。
【0084】
【化3】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中の二酸化炭素を利用して、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩を製造する方法に関する。金属イオン源としては、海水中に含まれる金属イオンを利用することもできる。従って、本発明は、地球温暖化をもたらす温室効果ガスである大気中の二酸化炭素の削減とともに海水中の微量金属および放射性金属の回収に有効であり、地球環境保全につながる技術を提供する。
【背景技術】
【0002】
炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩は様々な分野で広く利用されており、工業的な需要も大きい。
【0003】
炭酸カルシウムは、製紙、ゴム、プラスチック、化粧品など広範囲な工業分野で、充填剤、顔料、増量剤などとして利用されており、近年その使用量が急増している。炭酸カルシウムの結晶形態には、カルサイト(方解石)、アラゴナイト(アラレ石)、バテライトの3種類がある。そのうち最も安定であるのはカルサイトであり、アラゴナイトは地表環境では徐々にカルサイトに転移する。バテライトは自然界にはほとんど存在しない。
【0004】
同じカルサイトでも、結晶の外観形状(以下、結晶形状という)は多様な形状を呈することが知られている。例えば、紙の充填剤や化粧品などの用途では、結晶形状によって製品の手触りまたは肌触りが異なってくることもあるので、結晶形状の制御が求められている。
【0005】
炭酸カルシウムの製造方法としては、1)炭酸ガスと水酸化カルシウムの水性懸濁液との反応である炭酸ガス法、2)炭酸ナトリウムと塩化カルシウムとの反応による塩化カルシウムソーダ法、3)炭酸ナトリウムと石灰乳との反応による石灰ソーダ法等が知られている。これらの方法では、炭酸イオンの供給源に炭酸ガスや炭酸カルシウムを用いている。そのため結晶化のスピードが速く、結晶形状はもとより、結晶系をコントロールするのも困難である。この問題を解決する手段として、下記特許文献1、2には、球状炭酸カルシウムの製造方法が開示されている。
【0006】
炭酸ストロンチウムはブラウン管やフェライト磁石の原料などとして利用されている。製法としては、天然にセレスタイト鉱石として存在する硫酸ストロンチウムを原料とする炭酸ストロンチウムの生産が行われている。選鉱したセレスタイトから製造した可溶性ストロンチウム塩の水溶液に、炭酸塩を加えるか、水酸化ストロンチウムの水溶液に二酸化炭素を吹き込むと炭酸ストロンチウムが沈殿する。
【0007】
炭酸バリウムは、かつてはブラウン管などのバリウムガラスやバリウムフェライトなどに使用されていたが、純度の高い炭酸バリウムは、最近では電子材料用の原料として幅広く使用されている。製法としては炭酸イオンを含む水溶液に、塩化バリウムの水溶液を加え、難溶性の白色沈殿を得る方法がある。工業的には、天然の硫酸バリウムである重晶石に炭素として石炭かコークスを加えて還元焙焼することにより硫化バリウムを得た後、これを炭酸ナトリウム(ソーダ灰)の水溶液中で反応させて炭酸塩とする方法が取られている。
【0008】
いずれの炭酸塩も、その製造過程で、炭酸ガスや炭酸塩など炭酸イオンの供給が不可欠である。
【0009】
一方、地球温暖化の原因物質と言われている温室効果ガスの中でも、特に影響が大きいのが二酸化炭素(炭酸ガス)であり、大気中の二酸化炭素濃度の増大を防止することが地球温暖化をくい止める切り札となりうる。そのため、大気中の二酸化炭素を吸収・固定する技術について、日本を含む多くの国で盛んに研究されている。これまでに、海洋隔離、地中貯留、Cへの分解、化学品への変換、大規模植林、海洋植物による吸収、珊瑚による吸収など、さまざまな方策が提案され、一部は実施されている。
【0010】
そのような方法の1つとして、二酸化炭素を化学反応により炭酸塩として固定するというアイディアが提案されている。また、工場から大気中に放出される二酸化炭素を削減するために、排ガス中の二酸化炭素を除去する脱炭酸法についても古くから研究が行われ、既に実用化されている。実用化されている脱炭酸法の1つが、アミン、特にアルカノールアミンまたはピペラジンの水溶液中に二酸化炭素を吸収させる方法である。この場合、二酸化炭素を吸収した吸収液は加熱されて二酸化炭素ガスと再生された吸収液とに分離され、吸収液は繰り返し使用されるのが普通である(例えば、下記特許文献3を参照)。この再生工程で消費する熱コストや熱による吸収液の分解が問題となっている。
【0011】
下記特許文献4には、炭酸ガスを含むガス(例、工場排ガス)を水、アルカリ土類金属含有物(例、鉄鋼スラグ)、およびアンモニウム塩と接触させて炭酸塩として固定化することが提案されている。実施例では純二酸化炭素ガスを用いて炭酸塩を沈殿させている。工場排ガスはもとより、二酸化炭素濃度が数百ppmにすぎない空気に適用できる技術であるかどうかは全く不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平1−301511号公報
【特許文献2】特開平7−033433号公報
【特許文献3】特開平7−100333号公報
【特許文献4】特開2005−097072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、空気中の二酸化炭素を利用して炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩を製造する方法を提供することである。
【0014】
本発明の別の目的は、海洋中のカルシウムイオンを利用して炭酸カルシウムを製造することが可能で、最終的に大気中の二酸化炭素濃度の削減に効果のある炭酸カルシウムの新規な製造方法を提供することである。
【0015】
本発明のさらに別の目的は、結晶系および結晶形状の制御が可能で、2種以上の異なる結晶形状を持つ炭酸カルシウムを作りわけることができる、炭酸カルシウムの新規な製造方法を提供することである。
【0016】
本発明のさらなる別の目的は、海水中に含まれている微量金属イオンを炭酸カルシウムの結晶中に取り込んだり吸着させたりすることで、希少金属や放射性物質を海水から取り出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
海洋生物による炭酸カルシウム形成のメカニズムは未だ不明な点が多く、解明には至っていない。本発明者らは、海洋生物の炭酸カルシウム形成解明研究の一環として、炭酸カルシウムの顆粒を形成する海洋細菌の研究を行っていた。この海洋細菌は、カルシウムを含む人工培地で培養すると、菌体外にダンベル状や球状の形をした炭酸カルシウム(カルサイト)を形成する。このメカニズムを研究する過程で、海洋細菌が産生するポリアミンが大きな働きをしていることを究明した。
【0018】
つまり、海洋細菌の培養中にみられるダンベルや球状の炭酸カルシウム顆粒は、海洋細菌の増殖に伴い培地中に増えたポリアミンが、培地中の炭酸イオン濃度を高めることで、炭酸カルシウムの結晶化を促すこと、炭酸カルシウムの結晶形状は、人工培地中に含まれる高濃度のマグネシウムイオンやクエン酸鉄の影響によりダンベル状になることもわかった。
【0019】
炭酸カルシウムの顆粒形成が見られた海洋細菌の培養液のポリアミンを食品衛生検査指針における「食品中の不揮発性腐敗アミンの分析」に準じて、ダンシルクロライドで蛍光誘導化し、HPLCにより分析した結果、プトレッシン、カタベリン、スペルミジンなどのポリアミン類が検出された。
【0020】
以上から、海洋細菌が産生するポリアミンが空気中の二酸化炭素と塩を形成することで、培地中の炭酸イオン濃度が上昇し、炭酸カルシウムが析出するということがわかった。すなわち、海洋生物による炭酸カルシウム形成では、空気中の二酸化炭素が培地中に取り込まれ、炭酸イオン源として利用されて、炭酸カルシウムが生成する。
【0021】
このメカニズムを確認するため、海洋細菌が存在しない水溶液中にポリアミン10mMと塩化カルシウム10mMとを混合して静置したところ、海洋細菌の不存在下でも炭酸カルシウムが生成することが確認できた。また、海水とポリアミンの混合液からも炭酸塩が析出することが明らかとなった。この場合の結晶の形状はダンベル状のものが多く見られた。
【0022】
さらに、海洋細菌の培地中にみられる炭酸カルシウム顆粒の特徴的な形状は、人工培地に栄養塩として含まれているマグネシウムイオンやクエン酸鉄の影響であることが分かった。すなわち、塩化マグネシウム64〜128mMやクエン酸ナトリウム8mMを塩化カルシウムとポリアミン(各10mM)の混合溶液に添加することにより、ダンベル状の炭酸カルシウムを得ることができた。また、クエン酸ナトリウム4mMを同様に添加することにより球状の炭酸カルシウム結晶が得られた。さらに、メタケイ酸ナトリウムや塩化ストロンチウムを添加すると、特徴的な形状の炭酸カルシウムを製造できた。
【0023】
一方、炭酸ストロンチウムは、塩化ストロンチウム1〜128mMを含んだ水溶液に、ポリアミン10mMを添加することで製造できた。同様に、炭酸バリウムも塩化バリウムを含んだ水溶液にポリアミンを添加することにより製造できた。これらも炭酸カルシウムの場合と同様に、空気中の二酸化炭素を水溶液中に取り込んで炭酸塩が生成する。
【0024】
以上の知見に基づく本発明は、カルシウイオン、ストロンチウムイオンおよびバリウムイオンから選ばれた少なくとも1種のアルカリ土類金属イオンとポリアミンとを含有する水溶液を空気と接触させ、析出物を分離することを特徴とする、アルカリ土類金属炭酸塩の製造方法である。好ましいアルカリ土類金属イオンの供給源は、水溶性が高く、かつ安価であることから、塩化カルシウム、塩化ストロンチウムおよび塩化バリウムである。
【0025】
この方法では、まず空気中の二酸化炭素が上記水溶液に吸収され、水溶液中のポリアミンと反応して、水溶液中で炭酸イオンを生ずる。ポリアミンがピペラジンである場合についての推測される反応式を次に示す。すなわち、炭酸イオンが生成し、ポリアミンはカチオンになると推測される。その後、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン又はバリウムイオン (Me2+) が炭酸イオンに作用して、アルカリ土類金属炭酸塩(MeCO3)が析出するので、これを分離して回収する。
【0026】
【化1】
【0027】
アルカリ土類金属がカルシウムである場合について説明すると、析出した炭酸カルシウムを分離した後の水溶液中には、ポリアミンの酸付加塩(カルシウムイオン供給源が塩化カルシウムである場合には塩酸塩)が溶解している。後述するように、この水溶液からポリアミンとカルシウムイオンを含有する反応に用いる水溶液(反応液)を再生することができるので、ポリアミンはその後の反応にも循環使用できる。
【0028】
このように、例えば、塩化カルシウムの水溶液にポリアミンを添加することによって、炭酸ガスや炭酸塩を用いずに、空気中の二酸化炭素を利用して炭酸カルシウムを製造することができる。
【0029】
好ましくは、アルカリ土類金属イオンとポリアミンとを含有する水溶液を30〜50℃の温度で撹拌しながら空気と接触させる。
【0030】
アルカリ土類金属イオンがカルシウムイオンである場合、生成する炭酸カルシウムの結晶形状をコントロールするために、上記水溶液は、塩化マグネシウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、および塩化ストロンチウムから選ばれた少なくとも1種の化合物をさらに含有することができる。
【0031】
また、カルシウムイオンの供給源として海水をそのまま使用することができる。海水は、ナトリウムイオン、マグネシウムイオンに次いで、第3に多い金属イオンとしてカルシウムイオンを含んでいる。本発明に従って、海水にポリアミンを添加し、空気と接触させても、炭酸カルシウムを製造できることが判明した。すなわち、海水中に含まれるナトリウムイオン、塩化物イオンなどの各種イオンは、上述したポリアミンと二酸化炭素とカルシウムイオンとの反応による本発明に係る炭酸カルシウムの製造に著しい悪影響を及ぼさない。また、海水は重炭酸イオン(HCO3−)を含んでおり、この重炭酸イオンも炭酸イオンの供給源として有効利用される。
【0032】
従って、別の側面からは、本発明は、ポリアミンを添加した海水を空気と接触させ、析出物を分離することを特徴とする、炭酸カルシウムの製造方法である。この方法で製造された炭酸カルシウムは、一般にダンベル状と球状とが混ざり合った結晶形状を有する。
【0033】
この方法では、海水中に微量含まれているストロンチウム、バリウムも一緒に炭酸カルシウム結晶中に取り込まれて析出し、また海水に多量に含まれているマグネシウムの一部も同様に析出する。従って、さらに別の側面からは、本発明は、ポリアミンを添加した海水を空気と接触させ、析出物を回収することを特徴とする、海水からのアルカリ土類金属の回収方法である。この方法では、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムといったアルカリ土類金属を炭酸塩として回収することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明では、アルカリ土類金属イオンを含む水溶液にポリアミンを添加することによりポリアミンのアミノ基が空気中の二酸化炭素と反応してイオンとなり、水溶液中の炭酸イオン濃度を上昇させる。その結果、アルカリ土類金属炭酸塩の溶解度積を上回り、炭酸塩の沈殿が生じる。とくに炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウムは溶解度積の値が比較的小さいために、炭酸塩になりやすい。海水は、アルカリ土類金属イオンを多く含んでいるが、とくにマグネシウムやカルシウムは比較的多く存在している。炭酸マグネシウムは溶解度積が他のアルカリ土類金属炭酸塩に比べて大きく、単独で結晶にはなりにくいが、炭酸カルシウムの結晶格子中に多く入り込み、炭酸カルシウムの結晶系や結晶形状に大きな影響を及ぼす。ストロンチウムやバリウムも同様に炭酸カルシウム結晶に入り込み、結晶系、結晶形状に大きく影響をおよぼす。さらにアルカリ土類金属の他の金属イオンやケイ素などの微量成分も炭酸カルシウムに入り込んだり吸着したりする。
【0035】
珊瑚や貝など炭酸カルシウム骨格をもつ海洋生物の多くが、海水中のマグネシウム、ストロンチウムを始めとする様々な微量金属を骨格中に取り込んでいることからもわかるように、本発明を用いることで、空気中の二酸化炭素を利用して海水から炭酸カルシウムを作ることが可能になるとともに、海水中のマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属を始め、Ag、As、Cd、Cu、Hg、Ni、Pb、U等の微量金属イオンを海水から濃縮することが可能になると考えられる。同様に放射性ストロンチウム、放射性バリウムなどの放射性金属物質も炭酸カルシウム結晶中に取り込むことが可能になるものと思われる。
【0036】
本発明に係る炭酸塩製造方法は、炭酸イオンの供給源として空気に含まれる二酸化炭素を利用するので、製造に利用した分だけ、大気中の二酸化炭素濃度を低減することができる。ただし、カルシウムイオン供給源が塩化カルシウムである場合には、塩化カルシウムは炭酸カルシウムから製造されることが多く、二酸化炭素を放出する方法で製造された塩化カルシウムを使用するのであれば、大気中の二酸化炭素削減には寄与しない。しかし、工業製品として流通している塩化カルシウムはソルベー法による炭酸ナトリウム製造の副産物として製造されたものが主であり、この場合には二酸化炭素は再生利用され、二酸化炭素の大気への放出はない。従って、ソルベー法で製造された塩化カルシウムを使用する場合には、大気中の二酸化炭素濃度低減効果が達成される。また、カルシウムイオン供給源として海水を利用する場合も、もともとイオンとして存在しているカルシウムを利用するため、炭酸カルシウムを製造した量だけ大気中の二酸化炭素は削減される。
【0037】
本発明により製造される炭酸カルシウムはその結晶形状を、ダンベル状、球状、又はダンベル状と球状の混合物、というように厳密にコントロールすることができる。従って、用途に合わせて最適の結晶形状を有する炭酸カルシウムを製造することが可能となる。これまで、球状炭酸カルシウムの製造法は知られていたが、本発明ではダンベル状の結晶形状を持つ炭酸カルシウムの製造も可能である。
【0038】
本発明に係る方法で製造された炭酸カルシウムは、紙、ゴム、プラスチックなどの充填剤若しくは顔料、インクや塗料の顔料などとして有用である。
【0039】
本発明に係る炭酸カルシウムの製造方法は、空気以外の原料も比較的安価であり、熱エネルギーもさほど必要ないので、安価に炭酸カルシウムや他のアルカリ土類金属炭酸塩を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例で製造された炭酸カルシウム結晶の光学顕微鏡写真。
【図2】反応温度と炭酸カルシウムの生成量との関係を示すグラフ。
【図3】各種ポリアミンの炭酸カルシウム形成能を示すグラフ。
【図4】(a)は塩化マグネシウム存在下で製造された炭酸カルシウム結晶の光学顕微鏡写真、(b)は海洋細菌の培養で産生された炭酸カルシウム結晶の光学顕微鏡写真。
【図5】異なる濃度のクエン酸ナトリウム[(a)8mM、(b)4mM、(c)2mM、(d)1mM]の存在下で製造された炭酸カルシウム結晶の光学顕微鏡写真。
【図6】異なる濃度のメタケイ酸ナトリウム[(a)32mM、(b)16mM、(c)8mM、(d)4mM]の存在下で製造された炭酸カルシウム結晶の光学顕微鏡写真。
【図7】異なる濃度の塩化ストロンチウム[(a)128mM、(b)64mM、(c)32mM、(d)16mM]の存在下で製造された炭酸カルシウム結晶の光学顕微鏡写真。
【図8】異なる濃度の塩化ストロンチウム[(a)64mM、(b)16mM、(c)4mM、(d)1mM]とピペラジンとの反応で生成した炭酸ストロンチウム結晶の光学顕微鏡写真。
【図9】塩化バリウム[(a)64mM、(b)16mM、(c)4mM、(d)1mM]の存在下で製造された炭酸バリウム結晶の光学顕微鏡写真。
【図10】海水とポリアミンと空気との反応で製造された炭酸カルシウム結晶の光学顕微鏡写真。
【図11】実施例の結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施形態についてより具体的に説明する。以下では、カルシウムイオンの供給源として塩化カルシウム又は海水を使用した態様について説明するが、カルシウムイオンは後述するように塩化物に限られない。
【0042】
カルシウムイオン供給源が塩化カルシウムである場合、まず、塩化カルシウムとポリアミンとを含有する水溶液を調製する。
【0043】
ポリアミンとしては、2以上の第1又は第2アミノ基を有する水溶性化合物を使用することが好ましい。具体例を挙げると、プトレシン(ブタン−1,4−ジアミン)、カダベリン(ペンタン−1,4−ジアミン)、スペルミン(1,11−ジアミノ−4,9−ジアザウンデカン)、スペルミジン(1,8‐ジアミノ‐4‐アザオクタン)などの生体内で合成されるポリアミン、並びにヘキサン−1,4−ジアミンなどのアルキレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミンなどのポリアルキレンポリアミン、さらにはピペラジンなどの飽和若しくは部分飽和環状ポリアミンを挙げることができる。
【0044】
一方、カルシウムイオン供給源としては、塩化カルシウム以外に、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、硝酸カルシウムなどの他の水溶性カルシウム化合物も使用できるが、コストを考えると、塩化カルシウムの使用が有利である。
【0045】
カルシウムイオンとポリアミンを含有する水溶液は、例えば、塩化カルシウムの水溶液とポリアミンの水溶液とを混合することにより調製できる。一方の成分を固体として混合することも可能である。水溶液中の各成分の濃度は、塩化カルシウム(=カルシウムイオン)が5〜1000mM、ポリアミンは5〜1000mMの範囲内とすることが好ましい。より好ましい濃度は、塩化カルシウムが10〜500mM、ポリアミンが10〜500mMである。
【0046】
このカルシウムイオンとポリアミンとを含有する水溶液を空気と接触させる。空気との接触面積を高めるため、水溶液を激しく撹拌する、空気を水溶液中に吹き込むなどの方法を採用することができる。使用する水溶液は人体に有毒な成分を含有していないので、反応容器は開放型でよい。
【0047】
ポリアミンと空気中の二酸化炭素との反応速度は温度によって変化する。例えば、ポリアミンがピペラジンの場合、0〜10℃では反応の進行は遅く、20℃以上で反応の進行が速まり、40℃前後でピークに達し、50℃を超えると反応が再び低下する。従って、反応は25℃前後の室温でも十分に進行するが、好ましい反応温度は30〜50℃の範囲内であり、35〜45℃の範囲内がさらに好ましい。
【0048】
反応時間(上記水溶液と空気との接触時間)は、空気との接触方式や反応温度によっても異なるが、一般には30分〜2時間であり、好ましくは1時間〜24時間である。
【0049】
生成物の炭酸カルシウムは沈殿するので、反応終了後は、ろ過、遠心分離などの適当な固液分離手段により析出物を分離して、生成した炭酸カルシウムを回収する。必要に応じて水洗し、さらに乾燥して、製品とすることができる。
【0050】
炭酸カルシウムが分離された後に残る水溶液(以下、反応濾液という)は、ポリアミン塩酸塩を含有し、さらに未反応の塩化カルシウムやポリアミンを含有している。従って、この反応濾液にカルシウムイオンを補充し、かつ液を中和してポリアミンを遊離状態に戻せば、反応に用いる水溶液が再生される。そのためには、水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムを反応濾液に添加することが好ましい。つまり、生成した炭酸カルシウムと当モル量の水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムを反応濾液に添加することにより、反応に用いる水溶液を再生することができる。式を化2に示す。
【0051】
【化2】
【0052】
上述したように、本発明に係る炭酸カルシウムの製造方法は、生成する炭酸カルシウムの結晶形状を厳密にコントロールできるという利点を有する。そのためには、反応系である上記水溶液に塩化カルシウムとポリアミンに加えて、第3の添加成分を含有させる。そのような第3の添加成分の例は、塩化マグネシウム、塩化ストロンチウム、臭化マグネシウムなどのアルカリ土類ハロゲン化物、メタケイ酸ナトリウムなどのメタケイ酸塩、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウムなどの有機酸塩が挙げられる。
【0053】
前述したように、塩化マグネシウム64〜128mM又はクエン酸ナトリウム8mMを添加すると、ダンベル状の炭酸カルシウムが生成する。一方、クエン酸ナトリウム4mMを添加すると、球状の炭酸カルシウムが生成する。さらに、メタケイ酸ナトリウム又は塩化ストロンチウムを添加すると、ダンベル状に似た特徴的な形状の炭酸カルシウムが生成する。第3成分の添加量は、一般には1〜128mMの範囲内であるが、目的とする形状の炭酸カルシウムが生成するように、実験によりその適当な濃度範囲を決めることができる。
【0054】
本発明に係る方法では、カルシウムイオン源として海水を用いてもよい。この場合には、海水にポリアミンを添加して反応液を調製する。この場合のポリアミンの添加量は、好ましくは5〜1000mM、より好ましくは10〜500mMの濃度となる量である。上記水溶液に代えて、このポリアミンを添加した海水を使用する点を除いて、反応は上記と同様に実施することができる。海水は腐食性が強いので、反応容器その他の反応装置は耐食性の材料から構成することが好ましい。
【0055】
海水は、カルシウムイオン以外に、多量のマグネシウムイオンを含有しているため、生成する炭酸カルシウムの結晶形状は、一般に球状とダンベル状との混合物である。海水から得られた生成物は、海水中に含まれているマグネシウム、ストロンチウムおよびバリウムなど海水中の微量金属を結晶中に含んだ炭酸カルシウム塩である。用途(例、土壌改良剤などの農業分野)によっては、この生成物をそのまま炭酸カルシウムとして使用することも可能である。
【0056】
海水をそのまま使用するのではなく、塩化カルシウムを添加してカルシウムイオン濃度を高めた海水を使用することもできる。すなわち、海水を水の代わりに使用し、海水に塩化カルシウムとポリアミンを添加して反応液を調製し、これを空気と接触させる。塩化カルシウムの添加量は、上述した塩化カルシウムの濃度となるように、海水中に含まれるカルシウムイオン濃度を考慮して決めればよい。ポリアミンの添加量は、水にポリアミンを添加する場合について説明したのと同様でよい。
【0057】
使用する海水は、有機物やリン酸塩の含有量が低いものが好ましいと考えられる。海水を用いた場合には、反応後の濾液はポリアミンを含有しているので、上記したように水酸化カルシウムを補給して再度結晶を製造することも可能である。しかし、濾液を陽イオン交換樹脂などでろ過してポリアミンを回収することが好ましい。こうすれば、ポリアミンの大部分は循環使用できる。
【0058】
本発明の方法は、炭酸カルシウム以外に、水中溶解度積の小さい炭酸ストロンチウムおよび炭酸バリウムの製造にも使用できる。その場合は、塩化カルシウムの水溶液の代わりに塩化ストロンチウム又は塩化バリウムの水溶液を使用することが好ましい。ただし、他の水溶性ストロンチウム化合物又はバリウム化合物も使用可能である。この水溶液にポリアミンを添加し、炭酸カルシウムについて上述したのと同様の方法で反応を行うことができる。
【0059】
本発明の方法はまた、ポリアミンを添加した海水を空気と接触させ、析出物を回収することにより、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムといったアルカリ土類金属を海水から回収する方法として実施することもできる。こうして、カルシウムを主として、マグネシウム、ストロンチウムおよびバリウムを含んだアルカリ土類金属炭酸塩の混合物が回収される。回収物は、例えば、土壌改良剤として農業用途に使用することができる。同時に放射性同位体のストロンチウム、バリウムを海水から取り除くこともできる。
【0060】
以上のいずれの方法においても、空気中の二酸化炭素を水溶液中に溶解させて反応に利用することから、大規模に実施すれば、温室効果ガスである大気中の二酸化炭素の濃度軽減にもつながる。特に、カルシウムイオンまたはアルカリ土類金属イオンの供給源として海水を利用すれば、もともとイオンとして存在しているカルシウムを利用できるため、炭酸塩を製造した量だけ大気中の二酸化炭素は削減されたことになる。
【実施例】
【0061】
(実施例1)
24穴マイクロプレートのウェル内で、塩化カルシウム水溶液とピペラジン水溶液をいずれも1mL量での終濃度が10mMになるように混合した。その後、このマイクロプレートを室温で一晩静置した。
【0062】
その結果、図1に光学顕微鏡写真で示すように、炭酸カルシウムの結晶が確認できた。また、得られた結晶は赤外分光法(IR)による分析の結果、876cm−1に吸収ピークが見られたことから、カルサイトであることが確認された。
【0063】
(実施例2)
ビーカー内で、塩化カルシウム水溶液とピペラジン水溶液をいずれも20mL量での終濃度が50mMになるように混合し、蒸留水を加えて20mLとした。この混合溶液を2℃、10℃、20℃、30℃、40℃、および50℃の各温度でマグネットスターラーにより1時間撹拌した。撹拌終了後、遠心上清のカルシウムイオン濃度をCaキレート滴定法に測定することで、炭酸カルシウムの沈殿量を算出した。図2に結果を示す。図2からわかるように、10℃以下では沈殿量が少なく、20℃を超えると沈殿量が増え、30〜50℃での沈殿量が特に多くなった。ピークは約40℃であった。
【0064】
(実施例3)
96マイクロプレートのウェル内で、下記アミンの水溶液を100μLでの終濃度10mMから5μMまで2倍希釈し、塩化カルシウム水溶液を100μLでの終濃度10mMになるように加え、さらに蒸留水を加えて各ウェルの量を100μLにした:
テトラアミン:スペルミン
トリアミン:スペルミジン
ジアミン:カダベリン、ピペラジン
モノアミン:ピペリジン。
【0065】
その後、マイクロプレートを室温で一晩静置した後、吸光光度計を用いて、各ウェルの570nmにおける吸光度を測定し、生成した炭酸カルシウム結晶の量を求めた。結果を図3に示す。図3から、テトラアミン、トリアミン、ジアミンの順、つまりアミノ基の数が多いほど炭酸カルシウム結晶の生成量が多くなる、すなわち、生成速度が大きくなることが分かる。
【0066】
(実施例4)
96穴マイクロプレートのウェルに、塩化マグネシウム、クエン酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム(9水和物)又は塩化ストロンチウムの水溶液を、各100μL量での終濃度が128〜0.06mMになるように入れ、ピペラジン水溶液と塩化カルシウム水溶液をそれぞれ100μL量での終濃度が10mMとなるように各ウェルに添加した。このマイクロプレートを室温で一晩静置した後、結晶の有無または形状を光学顕微鏡で確認した。
【0067】
その結果、図4(a)に示すように、塩化マグネシウムの添加量が128mM又は64mMでは、図4(b)に示す海洋細菌の培養中にみられるのと同じ、ダンベル状の結晶形状を有する炭酸カルシウム結晶が認められた。IR分析の結果、結晶系は128〜16mMでは856cm−1に吸収ピークが見られたことからアラゴナイト、8〜4mMでは876および856cm−1の両方に吸収ピークが見られたことからアラゴナイト、カルサイトの混合物、2mM以下では876cm−1に吸収ピークが見られたことからカルサイトであることが分かった。
【0068】
図5a)〜d)に示すように、クエン酸ナトリウムを添加した場合にも炭酸カルシウムの特徴的な結晶が見られた。クエン酸ナトリウム濃度は、a)が8mM、b)が4mM、c)が2mM、d)が1mMである。クエン酸ナトリウム濃度8mMではダンベル状(図5a))、4mMでは球状(図5b))、2mMでは球状(図5c))、1mMではダンベル状(図5d))の結晶形状が見られた。IR分析の結果、874cm−1付近に吸収ピークが見られたことから、いずれの濃度でも結晶系はカルサイトであることが分かった。
【0069】
メタケイ酸ナトリウムを添加した場合にも、図6a)〜d)に示すように、炭酸カルシウムの特徴的な結晶形状が見られた。メタケイ酸ナトリウムの濃度は、a)が32mM、b)が16mM、c)が8mM、d)が4mMである。メタケイ酸ナトリウム濃度32mMではダンベル状(図6a))、16mMでは鞘状(図6b))、8mMでは球状(図6c))、4mMでは球状(図6d))の結晶形状が見られた。
【0070】
塩化ストロンチウムを添加した場合にも、図7a)〜d)に示すように、炭酸カルシウムの特徴的な結晶形状が見られた。塩化ストロンチウム濃度は、a)が32mM、b)が16mM、c)が8mM、d)が4mMである。塩化ストロンチウム濃度32mMではダンベル状(図7a))、16mMでは球状(図7b))、8mMでは球状(図7c))、4mMでは球状(図7d))の結晶形状が見られた。IR分析の結果、結晶系は128〜8mMでは856cm−1に吸収ピークが見られたことからアラゴナイト、4〜2mMでは876および856cm−1の両方に吸収ピークが見られたことからアラゴナイト、カルサイトの混合物、1 mM以下では876cm−1に吸収ピークが見られたことからカルサイトであることが分かった。
【0071】
(実施例5)
96穴マイクロプレートのウェル内で、100μL量での終濃度が10mMになる量のピペラジン水溶液と100μL量での終濃度が1〜128mMになる量の塩化ストロンチウム水溶液とを混合した。このマイクロプレートを室温で一晩静置した後、析出した結晶を光学顕微鏡で観察した。
【0072】
その結果、図8a)〜d)の光学顕微鏡写真に示すように、炭酸ストロンチウムの樹枝状の結晶が確認できた。塩化ストロンチウム濃度は、a)が64mM、b)が16mM、c)が4mM、d)が1mMである。原料の塩化ストロンチウム濃度が高いほど、炭酸ストロンチウムが高濃度で生成したことがわかる。
【0073】
(実施例6)
96穴マイクロプレートのウェル内で、100μL量での終濃度が10mMになる量のピペラジン水溶液と100μL量での終濃度が1〜128mMになる量の塩化バリウム水溶液とを混合した。このマイクロプレートを室温で一晩静置した後、析出した結晶を光学顕微鏡で観察した。
【0074】
その結果、図9の光学顕微鏡写真に示すように、炭酸バリウムの樹枝状結晶が確認できた。水酸化バリウム濃度は、a)が64mM、b)が16mM、c)が4mM、d)が1mMである。やはり原料の塩化バリウム濃度が高いほど、炭酸バリウムが高濃度で生成したことがわかる。
【0075】
(実施例7)
96穴マイクロプレートのウェル内で、海水200μLにピペラジンを10mM濃度になるように添加し、1晩静置した。静置後のウェルを光学顕微鏡で観察したところ、特徴的なダンベル状結晶(多量に存在する小径の細長い結晶)と球状結晶(ずっと大径のより少数の結晶)の両方の生成が認められた(図10)。2種類の結晶形態が混在するのは、海水中に共存するマグネシウムイオンおよびストロンチウムイオンなどの微量金属の影響によるものと推測される。得られた結晶はIR測定により856cm−1に吸収ピークが見られたことから、結晶系はアラゴナイトであることが分かった。
【0076】
本例の場合、ピペラジンを10mM濃度になるように添加した海水1Lから0.5〜0.6gの炭酸カルシウムが生成することが分かった。しかし、用いた海水によって結晶量は変化するものと予測される。
【0077】
塩化カルシウムを使用した場合には、ピペラジンを10mM濃度になるように添加した塩化カルシウム10mM濃度の水溶液1Lからは0.3〜0.4gの炭酸カルシウムが得られた。
【0078】
カルシウムイオン供給源として海水を使用した方が炭酸カルシウムの収量が多くなるのは、使用した海水のカルシウムイオン濃度の違いや、マグネシウム、ストロンチウムなど他の炭酸塩を含むためであるためと考えられる。
【0079】
(実施例8)
本実施例では、従来のアミン法に用いられているモノエタノールアミン(MEA)やアンモニア(NH3)と本発明で提唱しているポリアミン(ピペラジン)の炭酸カルシウム形成能力を比較する。
【0080】
10mM CaCl2と10および2.5mMの各種塩基の混合液(40mL)を室温で一晩静置し、炭酸カルシウムが沈殿した後、上清のCa2+濃度をキレート滴定法により測定し、減少したCa2+の割合を算出した。結果を図11に示す。
【0081】
図11からわかるように、ピペラジンはいずれの濃度でも多量の炭酸カルシウム形成が認められ、溶液中のCa2+濃度は10mMで100%、2.5mMで94%減少した。他方、MEAは10mMでは43%減少したが、2.5mMでは3%しか減少しなかった.NH3においては10mMでも6%しか減少せず、2.5mMでは全く減少しなかった。10mM水酸化ナトリウムにおいてはピペラジンより高いpHにも関わらずCa2+濃度の減少は少なく、2.5mMではほとんど沈殿は確認できなかった。
【0082】
炭酸カルシウムが沈殿するためには溶液中に炭酸イオンが安定して存在していると有利である。ポリアミンが炭酸カルシウムをより多く沈殿させるのは、分子内に複数アミノ基を有するため、下記化学式に示すようにカチオンが並んで生じ、炭酸イオンの2つのアニオンをより安定にしているものと考えられる。従来のMEAやアンモニアを用いた炭酸塩形成法は分子内にアミノ基を複数有していないため、高濃度では炭酸イオンを安定化できるが、低濃度では安定化しにくい。従って、分子内に複数のアミノ基を有していない点で、本発明で提案するポリアミンを用いた炭酸塩形成法と従来法は原理が異なる。また、ポリアミンが二酸化炭素を吸収する際、一級アミンはカルバメイト型になる割合が大きく、バイカーボネイト型の割合が大きい二級アミンの方が炭酸塩形成には優れているものと考えられる。
【0083】
さらに、海水を用いた炭酸カルシウム形成は、高濃度の塩基を添加すると水酸化物の沈殿が生じてしまうため、ポリアミンを用いないと困難である。
【0084】
【化3】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムイオン、ストロンチウムイオンおよびバリウムイオンから選ばれた少なくとも1種のアルカリ土類金属イオンとポリアミンとを含有する水溶液を空気と接触させ、析出物を分離することを特徴とする、アルカリ土類金属炭酸塩の製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ土類金属イオンの供給源が塩化カルシウム、塩化ストロンチウムおよび水酸化バリウムから選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アルカリ土類金属イオンの供給源の少なくとも一部が海水である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記水溶液を30〜50℃の温度で撹拌しながら空気と接触させる、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記水溶液がカルシウムイオンとポリアミンとを含有する水溶液であって、この水溶液が、塩化マグネシウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、および塩化ストロンチウムから選ばれた少なくとも1種の化合物をさらに含有する、請求項1〜4のいずれかに記載の炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項6】
ポリアミンを添加した海水を空気と接触させ、析出物を分離することを特徴とする、炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項7】
ポリアミンを添加した海水を空気と接触させ、析出物を回収することを特徴とする、海水からのアルカリ土類金属の回収方法。
【請求項1】
カルシウムイオン、ストロンチウムイオンおよびバリウムイオンから選ばれた少なくとも1種のアルカリ土類金属イオンとポリアミンとを含有する水溶液を空気と接触させ、析出物を分離することを特徴とする、アルカリ土類金属炭酸塩の製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ土類金属イオンの供給源が塩化カルシウム、塩化ストロンチウムおよび水酸化バリウムから選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アルカリ土類金属イオンの供給源の少なくとも一部が海水である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記水溶液を30〜50℃の温度で撹拌しながら空気と接触させる、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記水溶液がカルシウムイオンとポリアミンとを含有する水溶液であって、この水溶液が、塩化マグネシウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、および塩化ストロンチウムから選ばれた少なくとも1種の化合物をさらに含有する、請求項1〜4のいずれかに記載の炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項6】
ポリアミンを添加した海水を空気と接触させ、析出物を分離することを特徴とする、炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項7】
ポリアミンを添加した海水を空気と接触させ、析出物を回収することを特徴とする、海水からのアルカリ土類金属の回収方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−47173(P2013−47173A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−168694(P2012−168694)
【出願日】平成24年7月30日(2012.7.30)
【出願人】(598041566)学校法人北里研究所 (180)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年7月30日(2012.7.30)
【出願人】(598041566)学校法人北里研究所 (180)
【Fターム(参考)】
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