説明

空気入りタイヤおよびその製造方法

【課題】ブラダーを使用して加硫成形を行う際にタイヤ内面に離型剤を塗布しなくてもエア溜まりやフィルム破損が生じることのない空気入りタイヤ、および該空気入りタイヤの製造方法を提供する。
【解決手段】内面が、50〜600kGyの照射量で電子線を照射したフィルム層または弾性率20〜1000MPaのフィルム層からなることを特徴とする、空気入りタイヤである。この空気入りタイヤは、フィルム層がジエン系成分を含まないことが好ましい。また、フィルム層を未加硫タイヤの内面に配置した状態でブラダーを用いて加硫成形を行う工程を含む空気入りタイヤの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム層を用いたインナーライナーを内面に具えた空気入りタイヤおよびその製造方法に関し、特には、ブラダーを使用する方法で製造する際に内面に離型剤を塗布する必要がない空気入りタイヤ、および該空気入りタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気入りタイヤの内面には、空気漏れを防止してタイヤの空気圧を一定に保つために、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴムなどの低気体透過性ブチル系ゴムを主成分とするインナーライナー層が配設されている。しかし、これらのブチル系ゴムの含有量を増大すると、未加硫ゴムの強度が低下するため、ゴム切れやシート穴あき等を生じ易く、特にインナーライナーを薄ゲージ化する場合には、タイヤ製造時に内面のコードが露出し易いという問題がある。このため、ブチル系ゴムの含有量は自ずから制限されることとなり、該ブチル系ゴムを主原料とするゴム組成物をインナーライナーに使用する場合、未加硫ゴムの強度を保ちつつ空気バリア性を確保するためにインナーライナーの厚さを1mm前後とする必要があった。そのため、タイヤに占めるインナーライナーの重量が約5%程度となり、タイヤの重量を低減して自動車の燃費を向上させる上で障害となっている。
【0003】
そこで、省エネルギー化という近年の社会的な要請に伴い、自動車タイヤの軽量化を目的として、インナーライナーを薄ゲージ化するための手法が提案されており、例えば、従来のブチル系ゴムの代わりにインナーライナーとしてナイロンフィルム層や塩化ビニリデン層を用いる手法が提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。また、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等の熱可塑性樹脂とエラストマーとのブレンドからなる組成物のフィルムをインナーライナーに用いることが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
しかしながら、上記フィルムを用いる方法は、タイヤの軽量化はある程度可能であるとしても、マトリックス材が結晶性の樹脂材料であるために、特に5℃以下の低温での使用時における耐クラック性や耐屈曲疲労性が通常のブチル系ゴムを配合したゴム組成物の層を用いる方法より劣るという欠点があり、また、タイヤの製造工程も複雑となる。
【0005】
一方、エチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHと略記することがある)は、ガスバリア性に優れていることが知られている。該EVOHは、空気透過量がブチル系ゴムを配合したインナーライナー用ゴム組成物の100分の1以下であるため、50μm以下の厚さでも、タイヤの内圧保持性を大幅に向上することができる上、タイヤの重量を低減することが可能である。したがって、空気入りタイヤの空気透過性を改良するために、EVOHをタイヤインナーライナーに用いることは有効であると言え、例えば、EVOHからなるタイヤインナーライナーを有する空気入りタイヤが知られている(例えば、特許文献4参照)。
【0006】
しかしながら、通常のEVOHをインナーライナーとして用いた場合、タイヤの内圧保持性を改良する効果は大きいものの、通常のEVOHはタイヤに通常用いられているゴムに比べて弾性率が大幅に高いため、屈曲時の変形で破断したり、クラックが生じたりすることがあった。そのため、EVOHからなるインナーライナーを用いた場合、タイヤ使用前の内圧保持性は大きく向上するものの、タイヤ転動時に屈曲変形を受けた使用後のタイヤでは、内圧保持性が使用前と比べて低下することがあった。
【0007】
この問題を解決する手段として、例えばエチレン含有量20〜70モル%、ケン化度85%以上のエチレン−ビニルアルコール共重合体60〜99重量%及び疎水性可塑剤1〜40重量%からなる樹脂組成物をインナーライナーに使用する技術が開示されている(例えば、特許分献5参照)。しかしながら、かかるインナーライナーの耐屈曲性は、必ずしも十分に満足し得るものではない。
【0008】
一方、一般に、空気入りタイヤの加硫成形は、金型に未加硫タイヤをセットし、その内側からブラダーを膨張させて未加硫のタイヤを金型内面に押し付けることにより行われているところ、インナーライナーに樹脂フィルムを用いた場合、加硫成形時にタイヤ内面がブラダーに対して滑らないことに起因するエア溜まりやフィルム破損が生じることの無いよう、通常はタイヤ内面に離型剤を塗布した上で加硫成形が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−40702号公報
【特許文献2】特開平7−81306号公報
【特許文献3】特開平10−26407号公報
【特許文献4】特開平6−40207号公報
【特許文献5】特開2002−52904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、タイヤの加硫成形時に離型剤を塗布する場合、製造工程が複雑になると共に、製造コストが高くなるという点で問題があった。
【0011】
そのため、ブラダーを使用して加硫成形する際にタイヤ内面に離型剤を塗布しなくてもエア溜まりやフィルム破損が生じることのない空気入りタイヤ、および該空気入りタイヤの製造方法を提供することが望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の空気入りタイヤは、内面が50〜600kGyの照射量で電子線を照射したフィルム層からなることを特徴とする。このような空気入りタイヤによれば、タイヤの最も内側に位置する部分、即ち、ブラダーを用いて未加硫のタイヤを金型に押しつけて加硫形成する際にブラダーが接触する部分が50〜600kGy、好ましくは100〜500kGy、更に好ましくは150〜400kGyの照射量で電子線を照射したフィルム層からなるので、加硫成形時にタイヤ内面(フィルム層)に離型剤を塗布しなくてもブラダーがタイヤ内面に対してなめらかに滑り、エア溜まりやフィルム破損が生じることがない。従って、本発明によれば、製造時のタイヤ内面への離型剤の塗布工程を省略することが可能な空気入りタイヤを提供することができる。なお、電子線の照射量は、加速電圧と照射時間を変化させることにより制御することができる。
【0013】
また、本発明の空気入りタイヤは、内面が弾性率20〜1000MPaのフィルム層からなることを特徴とする。このような空気入りタイヤによれば、タイヤの最も内側に位置する部分、即ち、ブラダーを用いて未加硫のタイヤを金型に押しつけて加硫形成する際にブラダーが接触する部分が弾性率20〜1000MPaのフィルム層からなるので、加硫成形時にタイヤ内面(フィルム層)に離型剤を塗布しなくてもブラダーがタイヤ内面に対してなめらかに滑り、エア溜まりやフィルム破損が生じることがない。従って、本発明によれば、製造時のタイヤ内面への離型剤の塗布工程を省略することが可能な空気入りタイヤを提供することができる。なお、弾性率とは、株式会社島津製作所製のオートグラフ(AG−A500型)を用いてチャック間距離50mm、引張速度50mm/minの条件で23℃、150%RHにおけるS−Sカーブを測定して、該S−Sカーブの初期傾きから求めた値をいう。
【0014】
ここで、本発明の空気入りタイヤは、前記フィルム層がジエン系成分を含まないことが好ましい。このような空気入りタイヤによれば、ブラダーとの反応性が劣り架橋が進行しない(ブラダーとくっつかない)という効果が得られる。ここで、ジエン系成分とは、二重結合を二つ有する化合物を指し、具体的には、例えばEPDM、NR、BR、SBR、RBR、NBR、CR、IRなどが挙げられる。
【0015】
本発明の空気入りタイヤは、前記フィルム層が、単層または多層の熱可塑性樹脂フィルム層であることが好ましい。フィルム層を多層構造とすることにより、フィルム層に要求される各機能(バリア性、保護性など)を担う層を分離して、様々な機能を有する層の積層体とすることができる。具体的には、例えば、保護層/バリア層/保護層の積層体とすることができる。
【0016】
本発明の空気入りタイヤは、前記フィルム層の20℃、65%RHにおける酸素透過量が、3.0×10−12cm・cm/cm・sec・cmHg以下であることが好ましい。このような酸素透過量のフィルム層を用いれば、タイヤ内面のガスバリア性が十分高くなるので、内圧保持性の優れた空気入りタイヤを提供することができる。
【0017】
本発明の空気入りタイヤは、前記フィルム層が、インナーライナーまたはインナーライナーの一部として空気入りタイヤの内面に位置していることが好ましい。タイヤの内圧保持性が高くなるからである。
【0018】
本発明の空気入りタイヤは、前記フィルム層が、エチレン含有量25〜50モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体100質量部に対して、エポキシ化合物1〜50質量部を反応させて得られる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体からなる層を含むことが好ましい。エチレン−ビニルアルコール共重合体は、優れたガスバリア性を有するところ、エポキシ化合物を用いた変性によりエチレン−ビニルアルコール共重合体の弾性率を大幅に下げることができ、屈曲時の破断性およびクラック発生度合いを改良することができるので、新品時及び走行後の内圧保持性が優れるタイヤを提供することができる。
【0019】
本発明の空気入りタイヤは、前記フィルム層が、エチレン含有量25〜50モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体100質量部に対して、エポキシ化合物1〜50質量部を反応させて得られる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体からなるマトリクス中に23℃におけるヤング率が500MPa以下の柔軟樹脂或いはエラストマーを分散させた樹脂組成物からなる層を含み、前記樹脂組成物中に前記柔軟樹脂或いはエラストマーが10〜80質量%含まれていることが好ましい。ヤング率が500MPa以下の柔軟樹脂或いはエラストマーを分散させた樹脂組成物からなる層を含むことにより、フィルム層の弾性率を低下させることができ、その結果として空気入りタイヤの耐屈曲性を向上させることができる。
【0020】
本発明の空気入りタイヤは、前記フィルム層が架橋されていることが好ましい。フィルム層を架橋することにより、タイヤを製造する際の加硫工程においてフィルム層が著しく変形して均一な層を維持できなくなることを防止することができ、インナーライナーのガスバリア性、耐屈曲性、耐疲労性が優れた空気入りタイヤを提供することができる。
【0021】
本発明の空気入りタイヤは、前記フィルム層の表面が熱可塑性ウレタン系エラストマーの層からなることが好ましい。フィルム層が、樹脂フィルムからなる樹脂フィルム層と、補助層とを備える場合に、熱可塑性ウレタン系エラストマーからなる補助層をフィルム層の表面層に用いることにより、耐屈曲性の優れたインナーライナーを用いた空気入りタイヤを提供することができる。
【0022】
本発明の空気入りタイヤは、前記フィルム層と、該フィルム層に隣接するゴム状弾性体層とを用いた積層体を備え、前記ゴム状弾性体層に、ブチルゴムまたはハロゲン化ブチルゴムを用いたものであることが好ましい。ブチルゴムやハロゲン化ブチルゴムは空気透過性が低いので、ブチルゴムまたはハロゲン化ブチルゴムをゴム状弾性体層に用いることにより、空気入りタイヤの内圧保持性を高めることができる。また、タイヤ内面へのフィルム層の配設がし易くなる。
【0023】
また、本発明の空気入りタイヤは、前記フィルム層と前記ゴム状弾性体層とが接着剤組成物からなる接着剤層を用いて接着されていることが好ましい。このようにすれば、フィルム層とゴム状弾性体層との間の層間剥離を確実に防止することができる。
【0024】
ここで、前記接着剤組成物は、ゴム成分を含み、且つ、該ゴム成分100質量部に対して、架橋剤および架橋助剤として、ポリ−p−ジニトロソベンゼンおよび1,4−フェニレンジマレイミドのうち少なくとも1種を0.1質量部以上配合した組成物であることが好ましい。配合量が0.1質量部未満の場合、加硫後の剥離抗力が十分でないからである。
【0025】
また、前記接着剤組成物は、ゴム成分を含み、且つ、該ゴム成分の10質量%以上がクロロスルホン化ポリエチレンからなる組成物であることが好ましい。このようにすれば、耐候性、耐オゾン性、耐熱性等に優れた組成物を得ることができるからである。
【0026】
前記接着剤組成物は、ゴム成分を含み、且つ、該ゴム成分100質量部に対して充填剤2〜50質量部を配合した組成物であることが好ましい。充填剤の配合量が2質量部未満の場合には補強効果が小さく、配合量が50質量部より多い場合には配合時の作業性が悪くなるからである。なお、充填剤はカーボンブラックであることが好ましい。接着剤層の補強性に優れるからである。
【0027】
前記接着剤組成物は、ゴム成分を含み、且つ、該ゴム成分の50質量%以上がブチルゴムおよび/またはハロゲン化ブチルゴムからなる組成物であることが好ましい。ブチルゴムやハロゲン化ブチルゴムは空気透過性が低いので、ブチルゴムまたはハロゲン化ブチルゴムをゴム状弾性体層に用いることにより、空気入りタイヤの内圧保持性を高めることができるからである。
【0028】
前記接着剤組成物は、ゴム成分を含み、且つ、該ゴム成分100質量部に対して加硫促進剤0.1質量部以上を配合した組成物であることが好ましい。配合量が0.1質量部未満の場合、剥離抗力が十分でないからである。
【0029】
また、本発明の空気入りタイヤの製造方法は、50〜600kGy、好ましくは100〜500kGy、更に好ましくは150〜400kGyの照射量で電子線を照射したフィルム層を内面に配設した未加硫のタイヤを金型に設置する工程と、前記未加硫タイヤの内側にブラダーを設置する工程と、前記ブラダーを膨張させ、前記フィルム層を介して前記未加硫のタイヤを金型に押しつけて該未加硫のタイヤを加硫成形する工程とを含む空気入りタイヤの製造方法であって、前記加硫成形する工程で離型剤を使用しないことを特徴とする。このような空気入りタイヤの製造方法によれば、加硫成形時にエア溜まりやフィルム破損を生じることなく、製造時のタイヤ内面への離型剤の塗布工程を省略することができる。
【0030】
本発明の空気入りタイヤの製造方法は、弾性率20〜1000MPaのフィルム層を内面に配設した未加硫のタイヤを金型に設置する工程と、前記未加硫タイヤの内側にブラダーを設置する工程と、前記ブラダーを膨張させ、前記フィルム層を介して前記未加硫のタイヤを金型に押しつけて該未加硫のタイヤを加硫成形する工程とを含む空気入りタイヤの製造方法であって、前記加硫成形する工程で離型剤を使用しないことを特徴とする。このような空気入りタイヤの製造方法によれば、加硫成形時にエア溜まりやフィルム破損を生じることなく、製造時のタイヤ内面への離型剤の塗布工程を省略することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の空気入りタイヤによれば、ブラダーを使用して加硫成形する際に内面に離型剤を塗布しなくてもエア溜まりやフィルム破損が生じることのない空気入りタイヤを提供することができる。
【0032】
また、本発明の空気入りタイヤの製造方法によれば、エア溜まりやフィルム破損が生じることのない、タイヤ内面への離型剤の塗布工程を省略した空気入りタイヤの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の空気入りタイヤの一実施態様の部分断面図である。
【図2】本発明の空気入りタイヤの製造方法の一例を説明する説明図であり、図2(a)は未加硫タイヤを金型に設置した状態を示し、図2(b)はブラダーを未加硫タイヤ内に設置した状態を示し、図2(c)はタイヤを加硫成形している状態を示し、図2(d)は完成した加硫タイヤ取り出した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に、本発明の空気入りタイヤおよび空気入りタイヤの製造方法を詳細に説明する。本発明に従う空気入りタイヤは、内面が50〜600kGyの照射量で電子線を照射したフィルム層または弾性率20〜1000MPaのフィルム層からなることを特徴とする。
【0035】
<フィルム層>
フィルム層には、弾性率が20〜1000MPaのもの、例えばポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリエステル系樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体系樹脂等からなるフィルムやシートを用いることができる。また、それらの樹脂からなるフィルムやシートに対して50〜600kGyの照射量で電子線を照射したフィルムやシートも用いることが出来る。中でも、フィルム層としては、酸素透過量が、3.0×10−12cm・cm/cm・sec・cmHg以下の樹脂フィルム、例えばエチレン−ビニルアルコール共重合体系樹脂からなるフィルムを好適に用いることができる。ここで、タイヤ軽量化等の観点から、フィルム層の厚さは、0.1〜100μmであることが好ましい。なお、フィルムやシートは、例えば押出成形等により作製することができる。
【0036】
更に、フィルム層には、ジエン系成分を含まない樹脂フィルムを用いても良い。具体的には、フィルム層には、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体系樹脂等を好適に用いることができる。
【0037】
ここで、上述したエチレン−ビニルアルコール共重合体は、エチレン含有量が25〜50モル%であることが必要である。良好な耐屈曲性および耐疲労性を得るためには、エチレン含有量の下限は好適には30モル%以上であり、より好適には35モル%以上である。また、良好なガスバリア性を得るためには、エチレン含有量の上限は48モル%以下であり、より好適には45モル%以下である。なお、エチレン含有量が25モル%未満の場合には、耐屈曲性、耐疲労性、および溶融成形性が悪化する恐れがあり、エチレン含有量が50モル%超過の場合には、所望のガスバリア性が得られない恐れがある。
【0038】
なお、エチレン−ビニルアルコール共重合体のけん化度は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上であり、最適には99%以上である。けん化度が90%未満の場合、ガスバリア性およびフィルム層形成時の熱安定性が不十分となる恐れがある。
【0039】
エチレン−ビニルアルコール共重合体は、メルトフローレート(MFR)が190℃、2160g荷重下で0.1〜30g/10分であることが好ましく、0.3〜25g/10分であることが更に好ましい。なお、融点が190℃付近または190℃以上のエチレン−ビニルアルコールについては、2160g荷重下、融点以上の温度でMFRの測定を行い、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットして190℃に外挿した値が上記範囲内となるものを好適なエチレン−ビニルアルコール共重合体とする。
【0040】
また、エチレン−ビニルアルコール共重合体系樹脂としては、エチレン−ビニルアルコール共重合体にエポキシ化合物を反応させて得られる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体からなるマトリクス中に、23℃におけるヤング率が500MPa以下の柔軟樹脂或いはエラストマーを分散させた樹脂組成物を好適に用いることができる。この樹脂組成物を用いれば、フィルム層の弾性率を低下させてフィルム層の耐屈曲性を向上させることができ、フィルム層の屈曲時の破断性およびクラックの発生度合いを改良することができる。
【0041】
上記柔軟樹脂或いはエラストマーは、水酸基と反応する官能基を有することが好ましい。上記柔軟樹脂或いはエラストマーが水酸基と反応する官能基を有することで、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体中に柔軟樹脂或いはエラストマーが均一に分散するようになる。ここで、水酸基と反応する官能基としては、無水マレイン酸残基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基等が挙げられる。かかる水酸基と反応する官能基を有する柔軟樹脂としては、具体的には、無水マレイン酸変性水素添加スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、無水マレイン酸変性超低密度ポリエチレン等が挙げられる。更に、上記柔軟樹脂は、平均粒径が2μm以下であることが好ましい。柔軟樹脂の平均粒径が2μmを超えてしまうと、フィルム層の耐屈曲性を十分に改善できないおそれがあり、ガスバリア性の低下、延いてはタイヤの内圧保持性の悪化をもたらすことがある。なお、樹脂組成物中の柔軟樹脂の平均粒径は、例えば、サンプルを凍結し、該サンプルをミクロトームにより切片にして、透過電子顕微鏡(TEM)で観察することにより測定できる。
【0042】
ここで、上記樹脂組成物における柔軟樹脂或いはエラストマーの含有率は、10〜80質量%の範囲であることが好ましい。柔軟樹脂或いはエラストマーの含有率が10質量%未満では、耐屈曲性を向上させる効果が小さく、一方、80質量%を超えると、ガスバリア性が低下することがある。
【0043】
また、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は、具体的には、エチレン−ビニルアルコール共重合体100質量部に対して、エポキシ化合物1〜50質量部、好ましくは2〜40質量部、より好ましくは5〜35質量部を反応させて得ることができる。
【0044】
ここで、上記エチレン−ビニルアルコール共重合体に反応させるエポキシ化合物としては、一価のエポキシ化合物が好ましい。二価以上のエポキシ化合物は、エチレン−ビニルアルコール共重合体と架橋反応し、ゲル、ブツ等を発生して、インナーライナーの品質を低下させることがある。なお、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の製造容易性、ガスバリア性、耐屈曲性及び耐疲労性の観点から、一価のエポキシ化合物の中でも、グリシドール及びエポキシプロパンが特に好ましい。
【0045】
そして、上記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の製造方法としては、特に限定されないが、エチレン−ビニルアルコール共重合体とエポキシ化合物とを溶液中で反応させる製造方法が好適に挙げられる。より詳しくは、エチレン−ビニルアルコール共重合体の溶液に、酸触媒又はアルカリ触媒存在下、好ましくは酸触媒存在下で、エポキシ化合物を添加し、エチレン−ビニルアルコール共重合体とエポキシ化合物とを反応させることによって変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を製造することができる。ここで、反応溶媒としては、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド及びN-メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒が挙げられる。また、酸触媒としては、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、硫酸及び三フッ化ホウ素等が挙げられ、アルカリ触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、ナトリウムメトキシド等が挙げられる。なお、触媒量は、エチレン−ビニルアルコール共重合体100質量部に対し、0.0001〜10質量部の範囲が好ましい。
【0046】
また、上記製造方法以外にも、エチレン−ビニルアルコール共重合体とエポキシ化合物とを反応溶媒に溶解した後、反応溶媒を加熱処理することによっても上記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を製造することができる。
【0047】
良好な耐屈曲性および耐疲労性を得るという観点からは、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は、特に限定されないが、メルトフローレート(MFR)が190℃、2160g荷重下で0.1〜30g/10分であることが好ましく、0.3〜25g/10分であることがより好ましく、0.5〜20g/10分であることが更に好ましい。なお、融点が190℃付近または190℃以上の変性エチレン−ビニルアルコールについては、2160g荷重下、融点以上の温度でMFRの測定を行い、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットして190℃に外挿した値が上記範囲内となるものを好適な変性エチレン−ビニルアルコール共重合体とする。
【0048】
変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を用いたフィルム層は、20℃、65%RHにおける酸素透過量が3.0×10-12cm3・cm/cm2・sec・cmHg以下であることが好ましく、1.0×10-12cm3・cm/cm2・sec・cmHg以下であることがより好ましく、5.0×10-13cm3・cm/cm2・sec・cmHg以下であることが更に好ましい。20℃、65%RHにおける酸素透過量が3.0×10-12cm3・cm/cm2・sec・cmHgを超えると、フィルム層をインナーライナーとして用いる際に、タイヤの内圧保持性を高めるために層を厚くせざるを得ず、タイヤの重量が大きくなる。
【0049】
変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を用いたフィルム層は、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を溶融成形によりフィルムやシートへ成形することで得ることができる。具体的には、例えばTダイ法、インフレーション法等の押出成形を用いて作製することができる。なお、溶融成形時の溶融温度は、当該変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の融点等により異なるが、150℃〜270℃が好ましい。
【0050】
上記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は、架橋されていることが好ましい。架橋されていない変性エチレン−ビニルアルコール共重合体をフィルム層に用いた場合、タイヤを製造する際の加硫工程において変性エチレン−ビニルアルコール共重合体からなる層が著しく変形して均一な層を維持できなくなり、フィルム層のガスバリア性、耐屈曲性、耐疲労性を悪化させることがある。
【0051】
ここで、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の架橋方法としては、特に限定されないが、エネルギー線を照射する方法が挙げられる。そして、該エネルギー線としては、紫外線、電子線、X線、α線、γ線等の電離放射線が挙げられ、これらの中でも電子線が特に好ましい。
【0052】
電子線の照射は、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を上述の方法でフィルムやシート等の成形体に加工した後に行うことが好ましい。ここで、架橋のために照射する電子線の線量は、10〜60Mradの範囲が好ましく、20〜50Mradの範囲が更に好ましい。照射する電子線の線量が10Mrad未満では、架橋が進み難く、一方、60Mradを超えると、成形体の劣化が進み易くなる。
【0053】
また、本発明の空気入りタイヤに用いるフィルム層は、上述した樹脂フィルムまたはシートを積層した積層構造、或いは樹脂フィルムまたはシートと、補助層とを積層した積層構造を有しても良い。
【0054】
ここで、補助層は、エラストマーからなることが好ましく、補助層としては、例えばブチルゴム、ジエン系エラストマー等を用いることができる。
【0055】
そして、ジエン系エラストマーとしては、好ましくは天然ゴム、ブタジエンゴムを用いることができるが、ガスバリア性向上の観点からは、ブチルゴムを用いることがより好ましく、ハロゲン化ブチルゴムを用いることが更に好ましい。
【0056】
また、補助層にクラックが発生した場合に当該クラックの伸展を抑制するという観点からは、ブチルゴムとジエン系エラストマーとの混合物を用いることが好ましい。このような混合物を用いることにより、補助層に微小なクラックが発生した場合でも、空気入りタイヤの内圧保持性を高く保つことができる。
【0057】
その他、補助層に用いるエラストマーとしては、熱可塑性ウレタン系エラストマーも好ましい。熱可塑性ウレタン系エラストマーを用いれば、補助層のクラック発生および伸展を抑制することができ、補助層を薄くして空気入りタイヤの軽量化を図ることができる。ここで、熱可塑性ウレタン系エラストマーを補助層として用いる場合には、フィルム層の表面層が熱可塑性ウレタン系エラストマーの補助層であることが更に好ましい。熱可塑性ウレタン系エラストマーをフィルム層の表面層に用いることにより、耐屈曲性の優れたフィルム層を用いた空気入りタイヤを提供することができるからである。
【0058】
なお、補助層としては、熱可塑性ウレタン系エラストマーからなる層と、ブチルゴムおよびジエン系エラストマーの混合物からなる層とを多層化したものが、より好ましい。
【0059】
また、補助層は、20℃、65%RHにおける酸素透過量が3.0×10-9cm3・cm/cm2・sec・cmHg以下であることが好ましく、1.0×10-9cm3・cm/cm2・sec・cmHg以下であることがより好ましい。20℃、65%RHにおける酸素透過量が3.0×10-9cm3・cm/cm2・sec・cmHg以下であると、補助層も空気バリア層として機能するので、樹脂フィルムのガスバリア性に対する補強効果が十分に発揮され、フィルム層をインナーライナーとして用いた際にタイヤの高い内圧保持性を維持することが可能となる。更に、仮に樹脂フィルムにクラックが発生しても良好な内圧保持が可能となる。なお、空気透過性の低い補助層としては、ブチルゴムやハロゲン化ブチルゴムを用いた補助層がある。
【0060】
更に、補助層は、クラックの発生および成長の防止のために、300%伸び時における引張応力が10MPa以下であることが好ましく、8MPa以下であることが更に好ましく、7MPa以下であることが一層好ましい。300%伸び時における引張応力が10MPaを超えると、補助層を用いた際のフィルム層の耐屈曲性及び耐疲労性が低下することがあるからである。
【0061】
ここで、樹脂フィルムと補助層とは、少なくとも1層の接着剤層を介して張り合わせることができる。なお、樹脂フィルムにエチレン−ビニルアルコール共重合体を用いる場合、エチレン−ビニルアルコール共重合体はOH基を有するので、補助層との接着を容易に行うことができる。そして、接着剤層に用いる接着剤としては、例えば塩化ゴム・イソシアネート系の接着剤がある。
【0062】
また、その他にも、上記フィルム層を製造する方法としては、特に限定されないが、例えば変性エチレン−ビニルアルコール共重合体からなるフィルム、シート等の成形物(樹脂フィルム)に補助層を形成するエラストマーおよび接着剤層を溶融押出する方法、補助層を形成するエラストマーの基材に変性エチレン−ビニルアルコール共重合体および接着剤層を溶融押出する方法、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体と、補助層と、必要に応じて接着剤層とを共押出成形する方法、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体より得られた成形物と補助層とを接着剤層を用いて貼り合わせる方法、およびタイヤ成型時に、ドラム上で変性エチレン−ビニルアルコール共重合体より得られた成形物と、補助層と、必要に応じて接着剤層とを張り合わせる方法等が挙げられる。
【0063】
そして、樹脂フィルムまたはシートと、補助層とを積層してフィルム層とする場合、樹脂フィルムは変性エチレン−ビニルアルコール共重合体からなることが好ましく、その厚さは、0.1μm以上、100μm以下であることが好ましく、1〜40μmであることがより好ましく、5〜30μmであることが更に好ましい。また、補助層の厚さの合計が50〜2000μmであることが好ましく、100〜1000μmであることがより好ましく、300〜800μmであることが更に好ましい。
【0064】
これは、樹脂フィルムの厚さが100μmを超えるフィルム層をインナーライナーとして用いる場合、ブチルゴムやハロゲン化ブチルゴムなどを空気バリア層に使用したインナーライナーと比較して重量低減効果が小さくなると共に、樹脂フィルム層の耐屈曲性および耐疲労性が低下して屈曲変形により破断・亀裂が生じ易く、また、生じた亀裂が伸展し易くなってしまうためにタイヤに設置して走行した場合に内圧保持性が低下することがあるからである。なお、厚さが0.1μm未満の場合、十分なガスバリア性が確保できない。
【0065】
また、補助層の厚さの合計が2000μmを超える場合にはタイヤの重量が大きくなり、50μm未満の場合にはフィルム層の耐屈曲性および耐疲労性が低下して破断や亀裂が生じ易くなると共に亀裂が伸展し易くなるため、当該フィルム層を用いたタイヤの内圧保持性が低下してしまう恐れがあるからである。なお、タイヤのベルト下部の補助層の厚みの合計を50μm未満にすることは、タイヤの製造上の観点からも困難である。
【0066】
<インナーライナー>
本発明の空気入りタイヤの内面に配設されたフィルム層は、それ自身がインナーライナーまたはインナーライナーの一部となっても良い。具体的には、本発明の空気入りタイヤは、フィルム層と、ゴム状弾性体からなるゴム状弾性体層とを積層した積層体をインナーライナーとしたものであって、フィルム層がタイヤ内表面(タイヤの加硫成形時にブラダーと接触する面)に位置するようにインナーライナーが配設されているものであっても良い。
【0067】
ここで、上記ゴム状弾性体層は、ゴム成分としてブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴムを含むことが好ましい。ここで、上記ハロゲン化ブチルゴムとしては、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴム及びそれらの変性ゴム等が挙げられる。また、上記ハロゲン化ブチルゴムは、市販品を利用することができ、市販品としては、例えば、「Enjay Butyl HT10−66」(登録商標)[エンジェイケミカル社製,塩素化ブチルゴム]、「Bromobutyl 2255」(登録商標)[JSR(株)製,臭素化ブチルゴム]、「Bromobutyl 2244」(登録商標)[JSR(株)製,臭素化ブチルゴム]を挙げることができる。また、塩素化又は臭素化した変性ゴムの例としては、「Expro50」(登録商標)[エクソン社製]が挙げられる。
【0068】
上記ゴム状弾性体層におけるゴム成分中のブチルゴム及び/又はハロゲン化ブチルゴムの含有率は、耐空気透過性を向上させる観点から、50質量%以上であるのが好ましく、70〜100質量%であるのが更に好ましい。ここで、上記ゴム成分としては、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴムの他、ジエン系ゴムやエピクロロヒドリンゴム等を用いることができる。これらゴム成分は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
上記ジエン系ゴムとして、具体的には、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、シス-1,4-ポリブタジエン(BR)、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン(1,2BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)等が挙げられる。これらジエン系ゴムは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
上記ゴム状弾性体層には、上記ゴム成分の他に、ゴム業界で通常使用される配合剤、例えば、補強性充填剤、軟化剤、老化防止剤、加硫剤、ゴム用加硫促進剤、スコーチ防止剤、亜鉛華、ステアリン酸等を目的に応じて適宜配合することができる。これら配合剤としては、市販品を好適に使用することができる。
【0071】
本発明の積層体においては、上記フィルム層の厚さが200μm以下で、上記ゴム状弾性体層の厚さが200μm以上であることが好ましい。ここで、フィルム層の厚さは、より好ましくは下限が1μm程度であり、10〜150μmの範囲であることが更に好ましく、20〜100μmの範囲であることが一層好ましい。フィルム層の厚さが200μmを超えると、本発明の積層体をインナーライナーとして用いる際に、耐屈曲性及び耐疲労性が低下し、タイヤ転動時の屈曲変形により破断・亀裂が生じ易くなる。一方、1μm未満では、ガスバリア性を十分に確保できないことがある。また、ゴム状弾性体層の厚さが200μm未満では、補強効果が十分に発揮されず、フィルム層に破断・亀裂が生じた際に亀裂が伸展し易くなるため、大きな破断及びクラック等の弊害を抑制することが困難となる。
【0072】
ここで、フィルム層と、ゴム状弾性体層とは、接着剤組成物からなる接着剤層を介して接合することができる。そして、接着剤層の厚さは、5〜100μmの範囲であることが好ましい。接着剤層の厚さが5μm未満では、接着不良を起こすおそれがあり、100μmを超えると、軽量化メリット及びコストメリットが小さくなる。
【0073】
なお、接着剤組成物としては、クロロスルホン化ポリエチレン、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、ジエン系ゴム等が挙げられ、これらの中でもクロロスルホン化ポリエチレン、並びにブチルゴム及び/又はハロゲン化ブチルゴムが好ましい。
【0074】
ここで、接着剤組成物は、上述したブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、ジエン系ゴム等のゴム成分を含む場合、ゴム成分100質量部に対して、架橋剤および架橋助剤として、ポリ−p−ジニトロソベンゼンおよび1,4−フェニレンジマレイミドのうち少なくとも1つを0.1質量部以上、カーボンブラック、湿式シリカ、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、モンモリロン石、マイカ等の充填剤を2〜50質量部、チウラム系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤等の加硫促進剤を0.1質量部以上配合した組成物であることが好ましい。なお、ゴム成分は、10質量%以上がクロロスルホン化ポリエチレンであることが好ましく、また、50質量%以上がブチルゴムおよび/またはハロゲン化ブチルゴムからなることが好ましい。
【0075】
その他、インナーライナーは、タイヤの内面に配設された場合に、屈曲による変形が大きいタイヤのサイド部付近で破断、亀裂およびクラックが発生することが多い。そのため、タイヤのサイド部の内側部分に当たる部分にある補助層を厚くしたインナーライナーとすれば、インナーライナーを設置したタイヤの内圧保持性をより高めつつ、インナーライナーの重量低減を図ることができる。
【0076】
<空気入りタイヤ>
本発明の空気入りタイヤは、例えば、図1に示すような、トレッド部1と、一対のビード部2と、該トレッド部1と各ビード部2との間に延在する一対のサイドウォール部3とを有し、前記一対のビード部2間にトロイド状に延在してこれら各部を補強するカーカス4と、該カーカス4のクラウン部のタイヤ半径方向外側に配置された2枚のベルト層からなるベルト5と、該カーカス4の内側に配設されたインナーライナー6とを備えるものである。そして、この空気入りタイヤの内面は上述したフィルム層よりなる。
【0077】
ここで、この空気入りタイヤは、補助層の厚さの合計が、タイヤのベルトの端からビード部までの領域で、少なくとも30mmの半径方向幅に相当する該補助層の部分が、ベルトの下部に対応する該補助層の部分より0.2mm以上厚いことが好ましい。これは、ベルト端からビード部までの領域が最も歪が厳しくクラックが発生し易い領域であり、かかる領域の耐久性を向上させるためには、上記特定領域における補助層を厚くするのが効果的であるからである。
【0078】
そして、この空気入りタイヤは、例えば以下のようにして製造することができる。
【0079】
まず、インナーライナーのフィルム層を最内面に有する、通常の方法で作製した未加硫タイヤ12を、離型剤を塗布することなく、タイヤ軸方向が鉛直となるように上部金型11と下部金型13との間に設置する(図2(a)参照)。ここで、上部金型11の上にはロッド16が設けられており、下部金型13の下側には、ブラダー14を有するシリンダ15が設けられている。なお、ブラダー14には、例えば特開2008−179676号公報に開示されているようなブラダーを用いることができる。具体的には、ブラダー14は、例えばブチルゴム95質量部、クロロプレンゴム5質量部、カーボンブラック48質量部、樹脂5.5質量部、ひまし油8質量部、亜鉛華5質量部の配合処方のゴム組成物を通常の方法で加硫成形したものからなる。
【0080】
次に、上部金型11を押し下げると共に、シリンダ15の下部から例えば蒸気等の加熱流体を供給してブラダー14を持ち上げ、ブラダー14を未加硫タイヤ12の内側(フィルム層の内側)に設置する(図2(b)参照)。
【0081】
その後、ロッド16を用いて上部金型11を更に下方へ押して上部金型11と下部金型12とを密接させ、蒸気の供給により膨張させたブラダー14で未加硫タイヤ12を金型に押しつける(図2(c)参照)。この際、ブラダー14と未加硫タイヤ12の内面には上述したフィルム層が位置するので、離型剤を使用しなくても、エア溜まりやフィルムの破損が生じることが無い。
【0082】
そして、ブラダー14による金型への押圧およびブラダー14に供給された蒸気の熱により未加硫タイヤ12が加硫成形されて加硫タイヤ17となる(図2(d)参照)。
【実施例】
【0083】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0084】
<製造例1 変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の合成>
加圧反応槽に、エチレン含量44モル%、ケン化度99.9%のエチレン−ビニルアルコール共重合体(190℃、21.18N荷重下でのMFR:5.5g/10分)2質量部及びN-メチル-2-ピロリドン8質量部を仕込み、120℃で2時間加熱撹拌して、エチレン−ビニルアルコール共重合体を完全に溶解させた。これにエポキシ化合物としてエポキシプロパン0.4質量部を添加後、160℃で4時間加熱した。加熱終了後、蒸留水100質量部に析出させ、多量の蒸留水で充分にN-メチル-2-ピロリドン及び未反応のエポキシプロパンを洗浄し、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を得た。更に、得られた変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を粉砕機で粒子径2mm程度に細かくした後、再度多量の蒸留水で十分に洗浄した。洗浄後の粒子を8時間室温で真空乾燥した後、二軸押出機を用いて200℃で溶融し、ペレット化した。
【0085】
なお、上記エチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン含有量及びケン化度は、重水素化ジメチルスルホキシドを溶媒とした1H-NMR測定[日本電子社製「JNM−GX−500型」を使用]で得られたスペクトルから算出した値である。また、上記エチレン−ビニルアルコール共重合体のメルトフローレート(MFR)は、メルトインデクサーL244[宝工業株式会社製]の内径9.55mm、長さ162mmのシリンダにサンプルを充填し、190℃で溶融した後、重さ2160g、直径9.48mmのプランジャーを使用して均等に荷重をかけ、シリンダの中央に設けた径2.1mmのオリフィスより単位時間あたりに押出される樹脂量(g/10分)から求めた。但し、エチレン−ビニルアルコール共重合体の融点が190℃付近あるいは190℃を超える場合は、2160g荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿して算出した値をメルトフローレート(MFR)とした。
【0086】
<製造例2 3層フィルムの作製>
製造例1で得られた変性EVOHと、熱可塑性ポリウレタン(TPU)[(株)クラレ製クラミロン3190]とを使用し、2種3層共押出装置を用いて、下記共押出成形条件で3層構造のフィルム層(TPU層/変性EVOH層(樹脂フィルム)/TPU層)を作製した。各層の厚みは、TPU層、変性EVOH層ともに20μmである。
【0087】
各樹脂の押出温度:C1/C2/C3/ダイ=170/170/220/220℃
各樹脂の押出機仕様:
熱可塑性ポリウレタン:25mmφ押出機P25−18AC[大阪精機工作株式会社製]
変性EVOH:20mmφ押出機ラボ機ME型CO−EXT[株式会社東洋精機製]
Tダイ仕様:500mm幅2種3層用[株式会社プラスチック工学研究所製]
冷却ロールの温度:50℃
引き取り速度:4m/分
【0088】
<製造例3 未加硫ゴム状弾性体層の作製>
下記の配合のゴム組成物を調製し、厚さ500μmの未加硫ゴム状弾性体シートを作製した。
(ゴム組成物)
天然ゴム ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30質量部
臭素化ブチルゴム[JSR(株)製,Bromobutyl 2244] ・・・70質量部
GPFカーボンブラック[旭カーボン(株)製,#55] ・・・60質量部
SUNPAR2280[日本サン石油(株)製] ・・・・・・・7質量部
ステアリン酸[旭電化工業(株)製] ・・・・・・・・・・・・1質量部
加硫促進剤[ノクセラーDM、大内新興化学工業(株)製] ・・1.3質量部
酸化亜鉛[白水化学工業(株)製] ・・・・・・・・・・・・・3質量部
硫黄[軽井沢精錬所製] ・・・・・・・・・・・・・・・・・・0.5質量部
【0089】
<製造例4 未加硫ゴム状弾性体層の作製>
下記の配合のゴム組成物を調製し、厚さ500μmの未加硫ゴム状弾性体シートを作製した。
(ゴム組成物)
天然ゴム ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・100質量部
GPFカーボンブラック[旭カーボン(株)製,#55] ・・・60質量部
SUNPAR2280[日本サン石油(株)製] ・・・・・・・7質量部
ステアリン酸[旭電化工業(株)製] ・・・・・・・・・・・・1質量部
加硫促進剤[ノクセラーDM、大内新興化学工業(株)製] ・・1.3質量部
酸化亜鉛[白水化学工業(株)製] ・・・・・・・・・・・・・3質量部
硫黄[軽井沢精錬所製] ・・・・・・・・・・・・・・・・・・0.5質量部
【0090】
<製造例5 接着剤組成物−1および塗工液の調製>
下記の配合に従って常法により混練りした接着剤組成物を、トルエン(δ値:18.2MPa1/2)1000質量部に添加し、分散又は溶解して、塗工液を調製した。
(接着剤組成物)
臭素化ブチルゴム[JSR(株)製,Bromobutyl 2244] ・・・・・・・90質量部
クロロスルホン化ポリエチレン[デュポン・ダウ エラストマー社製,ハイパロン]
・・・10質量部
カーボンブラック[東海カーボン(株)製,シーストNB] ・・・・・10質量部
フェノール樹脂[住友ベークライト(株)製,PR−SC−400] ・・20質量部
ステアリン酸[新日本理化(株)製,50S] ・・・・・・・・・・・1質量部
酸化亜鉛[白水化学工業社製,ハクスイテック] ・・・・・・・・・・3質量部
P−ジニトロソベンゼン[大内新興化学工業(株)製,バルノックDNB]
・・・3質量部
1,4フェニレンジマレイミド[大内新興化学工業(株)製,バルノックPM]
・・・3質量部
加硫促進剤[大内新興化学工業(株)製,ノクセラーZTC] ・・・・1質量部
加硫促進剤[大内新興化学工業(株)製,ノクセラーDM] ・・・・0.5質量部
加硫促進剤[大内新興化学工業(株)製,ノクセラーD] ・・・・・・1質量部
硫黄[鶴見化学(株)製,金華印微粉硫黄] ・・・・・・・・・・・1.5質量部
【0091】
<製造例6 接着剤組成物−2および塗工液の調製>
下記の配合に従って常法により混練りした接着剤組成物を、トルエン(δ値:18.2MPa1/2)1000質量部に添加し、分散又は溶解して、塗工液を調製した。
(接着剤組成物)
臭素化ブチルゴム[JSR(株)製,Bromobutyl 2244] ・・・・・・・80質量部
クロロスルホン化ポリエチレン[デュポン・ダウ エラストマー社製,ハイパロン]
・・・20質量部
カーボンブラック[東海カーボン(株)製,シーストNB] ・・・・・10質量部
フェノール樹脂[住友ベークライト(株)製,PR−SC−400] ・・20質量部
ステアリン酸[新日本理化(株)製,50S] ・・・・・・・・・・・1質量部
酸化亜鉛[白水化学工業社製,ハクスイテック] ・・・・・・・・・・6質量部
P−ジニトロソベンゼン[大内新興化学工業(株)製,バルノックDNB]
・・・6質量部
1,4フェニレンジマレイミド[大内新興化学工業(株)製,バルノックPM]
・・・6質量部
加硫促進剤[大内新興化学工業(株)製,ノクセラーZTC] ・・・・1質量部
加硫促進剤[大内新興化学工業(株)製,ノクセラーDM] ・・・・0.5質量部
加硫促進剤[大内新興化学工業(株)製,ノクセラーD] ・・・・・・1質量部
硫黄[鶴見化学(株)製,金華印微粉硫黄] ・・・・・・・・・・・1.5質量部
【0092】
<製造例7 接着剤組成物−3および塗工液の調製>
下記の配合に従って常法により混練りした接着剤組成物を、トルエン(δ値:18.2MPa1/2)1000質量部に添加し、分散又は溶解して、塗工液を調製した。
(接着剤組成物)
臭素化ブチルゴム[JSR(株)製,Bromobutyl 2244] ・・・・・・・70質量部
クロロスルホン化ポリエチレン[デュポン・ダウ エラストマー社製,ハイパロン]
・・・30質量部
カーボンブラック[東海カーボン(株)製,シーストNB] ・・・・・10質量部
フェノール樹脂[住友ベークライト(株)製,PR−SC−400] ・・20質量部
ステアリン酸[新日本理化(株)製,50S] ・・・・・・・・・・・1質量部
酸化亜鉛[白水化学工業社製,ハクスイテック] ・・・・・・・・・・6質量部
P−ジニトロソベンゼン[大内新興化学工業(株)製,バルノックDNB]
・・・8質量部
1,4フェニレンジマレイミド[大内新興化学工業(株)製,バルノックPM]
・・・8質量部
加硫促進剤[大内新興化学工業(株)製,ノクセラーZTC] ・・・・1質量部
加硫促進剤[大内新興化学工業(株)製,ノクセラーDM] ・・・・0.5質量部
加硫促進剤[大内新興化学工業(株)製,ノクセラーD] ・・・・・・1質量部
硫黄[鶴見化学(株)製,金華印微粉硫黄] ・・・・・・・・・・・1.5質量部
【0093】
<実施例1>
日新ハイボルテージ株式会社製電子線照射装置「生産用キュアトロンEBC200-100」を使用して、製造例2で得られた3層フィルム(TPU/変性EVOH/TPU)に、加速電圧200kV、照射量60kGyの条件で電子線を照射して架橋処理を施した。得られた多層熱可塑性樹脂フィルムの片面に、製造例5で得た塗工液を塗布し、乾燥処理した後、製造例3で得た厚さ500μmの未加硫ゴム状弾性体シートを張り合わせてインナーライナーを作製した。そのインナーライナーを用い、既に上述した、加硫時に離型剤を使用しない以外は常法と同様の製造方法により、乗用車用空気入りタイヤ(195/65R15)を作製した。そして、以下の方法により、3層フィルムの酸素透過量、弾性率および空気入りタイヤの加硫後のタイヤ内面性状を測定および評価した。結果を表1に示す。
【0094】
(酸素透過量)
作製した3層フィルムを20℃、65%RHで5日間調湿した。得られた調湿済のフィルム2枚を使用して、モダンコントロール社製MOCON OX−TRAN2/20型を用い、20℃、65%RHの条件下でJIS K7126(等圧法)に準拠して酸素透過量を求めた。
【0095】
(弾性率)
作製した3層フィルムに対し、株式会社島津製作所製のオートグラフ(AG−A500型)を用いてチャック間距離50mm、引張速度50mm/minの条件で23℃、150%RHにおけるS−Sカーブの測定を行った。そして、S−Sカーブの初期傾きから弾性率を求めた。
【0096】
(タイヤ内面性状の評価)
ブラダーを用いて加硫成形を行った後の空気入りタイヤについて、インナーライナーの外観を目視にて観察し、下記の評価基準に基づいてフィルム層の破損の状況等を評価した。
◎:非常に良好(作製したタイヤ10本全てでフィルム層の破損無し)
○:良好(作製したタイヤ10本中1本のみに軽度のフィルム層の破損があるが、耐久性上は問題なし。)
×:不良(フィルム層の破損あり)
【0097】
<実施例2>
3層フィルムへの電子線の照射量を100kGyに変更した以外は実施例1と同様にして乗用車用空気入りタイヤを作製し、評価を行った。
【0098】
<実施例3>
3層フィルムへの電子線の照射量を200kGyに変更した以外は実施例1と同様にして乗用車用空気入りタイヤを作製し、評価を行った。
【0099】
<実施例4>
3層フィルムへの電子線の照射量を500kGyに変更した以外は実施例1と同様にして乗用車用空気入りタイヤを作製し、評価を行った。
【0100】
<比較例1>
3層フィルムを使用することなく、製造例3で得た厚さ500μmの未加硫ゴム状弾性体シートのみをインナーライナーとして用いた以外は実施例1と同様にして乗用車用空気入りタイヤ(195/65R15)を作製した。そして、実施例1と同様の方法により、インナーライナーの摩擦係数および空気入りタイヤの加硫後のタイヤ内面性状を測定および評価した。結果を表1に示す。
【0101】
<比較例2>
加硫時に離型剤(松本油脂製薬株式会社製のマイカ粉末を水で50質量%に希釈したもの)を使用した以外は比較例1と同様にして乗用車用空気入りタイヤ(195/65R15)を作製した。そして、実施例1と同様の方法により、インナーライナーの摩擦係数および空気入りタイヤの加硫後のタイヤ内面性状を測定および評価した。結果を表1に示す。
【0102】
<比較例3>
3層フィルムへの電子線の照射量を20kGyに変更した以外は実施例1と同様にして乗用車用空気入りタイヤを作製し、評価を行った。
【0103】
【表1】

【0104】
表1の比較例1、2より、従来の空気入りタイヤでは製造時に離型剤を用いなければインナーライナーが破損してしまうことが分かる。一方、本発明に係る、表1の実施例1〜4によれば、製造時に離型剤を使用しなくてもインナーライナーの破損が生じないことが分かる。また、表1の実施例1〜4および比較例3より、電子線の照射量が20kGyのフィルムでは離型剤を用いなければインナーライナーが破損してしまうことが分かる。
【符号の説明】
【0105】
1 トレッド部
2 ビード部
3 サイドウォール部
4 カーカス
5 ベルト
6 インナーライナー
11 上部金型
12 未加硫タイヤ
13 下部金型
14 ブラダー
15 シリンダ
16 ロッド
17 加硫タイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面が50〜600kGyの照射量で電子線を照射したフィルム層からなることを特徴とする、空気入りタイヤ。
【請求項2】
内面が弾性率20〜1000MPaのフィルム層からなることを特徴とする、空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記フィルム層がジエン系成分を含まないことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記空気入りタイヤが、離型剤を使用せずに、未加硫のタイヤをブラダーで金型に押しつける工程を含む製造方法により製造したものであることを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記フィルム層が、単層または多層の熱可塑性樹脂フィルム層であることを特徴とする、請求項1〜4の何れかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記フィルム層の20℃、65%RHにおける酸素透過量が、3.0×10−12cm・cm/cm・sec・cmHg以下であることを特徴とする、請求項1〜5の何れかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記フィルム層が、インナーライナーまたはインナーライナーの一部として空気入りタイヤの内面に位置していることを特徴とする、請求項1〜6の何れかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記フィルム層が、エチレン含有量25〜50モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体100質量部に対して、エポキシ化合物1〜50質量部を反応させて得られる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体からなる層を含む、請求項1〜7の何れかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記フィルム層が、エチレン含有量25〜50モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体100質量部に対してエポキシ化合物1〜50質量部を反応させて得られる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体からなるマトリクス中に23℃におけるヤング率が500MPa以下の柔軟樹脂或いはエラストマーを分散させた樹脂組成物からなる層を含み、
前記樹脂組成物中に前記柔軟樹脂或いはエラストマーが10〜80質量%含まれていることを特徴とする、請求項1〜7の何れかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項10】
前記フィルム層が架橋されていることを特徴とする、請求項1〜9の何れかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項11】
前記フィルム層の表面が熱可塑性ウレタン系エラストマーの層からなることを特徴とする、請求項1〜10の何れかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項12】
前記空気入りタイヤが、前記フィルム層と、該フィルム層に隣接するゴム状弾性体層とを用いた積層体を備え、
前記ゴム状弾性体層に、ブチルゴムまたはハロゲン化ブチルゴムを用いたことを特徴とする、請求項1〜11の何れかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項13】
前記フィルム層と前記ゴム状弾性体層とを接着剤組成物からなる接着剤層を用いて接着したことを特徴とする、請求項12に記載の空気入りタイヤ。
【請求項14】
前記接着剤組成物が、ゴム成分を含み、且つ、該ゴム成分100質量部に対して、架橋剤および架橋助剤として、ポリ−p−ジニトロソベンゼンおよび1,4−フェニレンジマレイミドのうち少なくとも1種を0.1質量部以上配合した組成物であることを特徴とする、請求項13に記載の空気入りタイヤ。
【請求項15】
前記接着剤組成物が、ゴム成分を含み、且つ、該ゴム成分の10質量%以上がクロロスルホン化ポリエチレンからなる組成物であることを特徴とする、請求項13または請求項14に記載の空気入りタイヤ。
【請求項16】
前記接着剤組成物が、ゴム成分を含み、且つ、該ゴム成分100質量部に対して充填剤2〜50質量部を配合した組成物であることを特徴とする、請求項13〜15の何れかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項17】
前記充填剤がカーボンブラックである、請求項16に記載の空気入りタイヤ。
【請求項18】
前記接着剤組成物が、ゴム成分を含み、且つ、該ゴム成分の50質量%以上がブチルゴムおよび/またはハロゲン化ブチルゴムからなる組成物であることを特徴とする、請求項13〜17の何れかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項19】
前記接着剤組成物が、ゴム成分を含み、且つ、該ゴム成分100質量部に対して加硫促進剤0.1質量部以上を配合した組成物であることを特徴とする、請求項13〜18の何れかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項20】
50〜600kGyの照射量で電子線を照射したフィルム層を内面に配設した未加硫のタイヤを金型に設置する工程と、
前記未加硫タイヤの内側にブラダーを設置する工程と、
前記ブラダーを膨張させ、前記フィルム層を介して前記未加硫のタイヤを金型に押しつけて該未加硫のタイヤを加硫成形する工程と、
を含む空気入りタイヤの製造方法であって、
前記加硫成形する工程で離型剤を使用しないことを特徴とする、方法。
【請求項21】
弾性率20〜1000MPaのフィルム層を内面に配設した未加硫のタイヤを金型に設置する工程と、
前記未加硫タイヤの内側にブラダーを設置する工程と、
前記ブラダーを膨張させ、前記フィルム層を介して前記未加硫のタイヤを金型に押しつけて該未加硫のタイヤを加硫成形する工程と、
を含む空気入りタイヤの製造方法であって、
前記加硫成形する工程で離型剤を使用しないことを特徴とする、方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−247618(P2010−247618A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−98169(P2009−98169)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】