説明

空気入りタイヤ

【課題】優れた低燃費性や操縦安定性を有するとともに、走行前後における性能変化が少ない、高性能の空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】一対のビード部11間でトロイド状に延びるカーカス1を骨格とし、そのクラウン部ラジアル方向外側に、スチールコードをゴム引きしてなる少なくとも2層の交錯ベルト層2とトレッドゴム3が順次配置された空気入りタイヤである。スチールコードが、素線径0.10〜0.20mmのスチール素線6〜10本からなる単撚り構造またはコア−単層シース構造を有し、スチールコードの打ち込み本数が40本/50mm以上であり、ベルト層2内で隣接する該スチールコード間の距離が0.3mm以上であり、かつ、トレッドゴムの、30℃における動的貯蔵弾性率E’(MPa)および30℃における損失正接tanδが、10≦E’および0.300≦tanδ≦0.700で表される関係を満足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」とも称する)に関し、詳しくは、優れた操縦安定性を有するとともに、走行前後における性能変化の抑制を図った乗用車用空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、空気入りタイヤは、一対のビード部間にトロイド状に延在するカーカスを骨格とし、そのタイヤ半径方向外側には、補強層として、ゴム引きされたスチールコードからなるベルト層が配置される。また、ベルト層のタイヤ半径方向外側には、トレッドゴムが配置されて踏面部を形成している。
【0003】
近年、車両の安全性を向上させるために、タイヤの乾燥路面および湿潤路面の双方における摩擦係数(μ)を上昇させて、タイヤのドライ性能およびウェット性能を同時に向上させることが求められており、このドライ性能およびウェット性能に関する改善要求に対して、種々の技術が開発されてきている。例えば、タイヤのドライ性能およびウェット性能に直接寄与するタイヤのトレッド用ゴム組成物の開発にあたっては、0℃付近での損失正接(tanδ)と30℃付近での損失正接(tanδ)とを指標とすることが一般的に有効であり、具体的には、0℃付近でのtanδが高いゴム組成物をトレッドに用いることで、タイヤの湿潤路面での摩擦係数(μ)を上昇させてウェット性能を向上させることができ、一方、30℃付近でのtanδが高いゴム組成物をトレッドに用いることで、タイヤの乾燥路面での摩擦係数(μ)を上昇させてドライ性能を向上させることができる。
【0004】
また、昨今の環境問題への関心の高まりに伴う世界的な二酸化炭素排出規制の動きに関連して、自動車の低燃費化に対する要求も強まりつつある。このような要求に対応するために、タイヤ性能についても転がり抵抗の低減が求められている。
【0005】
これに対し、低発熱性と湿潤路面でのグリップ性とを両立させることのできる充填材としてシリカが知られており、トレッドゴムの充填材としてシリカを用いることで、タイヤの発熱を抑制して転がり抵抗の低減を図るとともに、湿潤路面でのグリップ性を向上することが可能となる(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また一方、ベルト層に用いられるスチールコードに関しては、操縦安定性の向上や乗心地の向上等の観点から、従来より種々検討がなされてきており、例えば、特許文献2に、素線径の細い(素線径0.06〜0.10mm)特定のスチールコードを用いることによりコーナリング時の操縦性、安定性等を向上させる技術が記載されている。また、特許文献3には、曲げ抵抗および引張り伸びによりスチールコードを規定したタイヤが、特許文献4〜6には、ベルト層を、コード直径と1本のコード内のフィラメント数とベルト層の打ち込みコード数との関係式により規定したタイヤが、夫々開示されている。
【0007】
さらに、特許文献7には、所定のスチールフィラメントからなるスチールコードであって、ベルト曲げ剛性、コード強力およびベルトコードの空隙量により定義される値の範囲を所定に規定したタイヤが開示され、特許文献8〜10には、所定の撚り構造を有し、コード強力、コード破断時伸びおよびコード曲げ剛性により定義される値の範囲を所定に規定したタイヤ補強用スチールコードが開示されている。さらにまた、特許文献11には、ベルトコードの撚り合わせ構造および素線径並びにベルトコード打ち込み数によりベルトを規定したタイヤが、特許文献12には、撚り構造、曲げ剛性/コード強力比、コード強力および素線径について所定の要件を満足するタイヤが、特許文献13には、ベルトコード構造および打ち込み本数を所定に規定したベルトプライを、緩衝ゴムを介して配置したタイヤが、夫々開示されている。
【特許文献1】特開2002−097309号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開昭59−38102号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献3】特開昭60−185602号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献4】特開昭63−2702号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献5】特開昭63−2703号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献6】特開昭63−2704号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献7】特開昭64−85381号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献8】特開昭64−85382号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献9】特開昭64−85383号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献10】特開昭64−85384号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献11】特開平1−141103号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献12】特開平3−74206号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献13】特開平3−143703号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したように、充填剤としてシリカを配合することで、低燃費性および湿潤路面での操縦安定性能に優れたトレッドゴムを得ることは可能である。しかしながら、シリカ配合系のトレッドゴムは、走行に伴う性能変化(タレ)が大きいという難点があり、高性能タイヤの配合には多くの量を使用することができないという問題を有するものであった。したがって、かかる問題を解消して、低燃費性および操縦安定性等のタイヤ性能に優れ、かつ、走行前後においても物性変化が小さいタイヤを実現するための技術の確立が望まれていた。
【0009】
そこで本発明の目的は、上記問題を解消して、優れた低燃費性や操縦安定性を有するとともに、走行前後における性能変化が少ない、高性能の空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は鋭意検討した結果、低燃費系配合のトレッドゴムと、所定のベルト構造とを組み合わせることで、上記問題を解消できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の空気入りタイヤは、一対のビード部間でトロイド状に延びるカーカスを骨格とし、該カーカスのクラウン部ラジアル方向外側に、スチールコードをゴム引きしてなる少なくとも2層の交錯ベルト層とトレッドゴムが順次配置された空気入りタイヤにおいて、前記スチールコードが、素線径0.10〜0.20mmのスチール素線6〜10本からなる単撚り構造またはコア−単層シース構造を有し、該スチールコードの打ち込み本数が40本/50mm以上であり、ベルト層内で隣接する該スチールコード間の距離が0.3mm以上であり、かつ、前記トレッドゴムの、30℃における動的貯蔵弾性率E’(MPa)および30℃における損失正接tanδが、夫々次式、
10≦E’
0.300≦tanδ≦0.700
で表される関係を満足することを特徴とするものである。
【0012】
本発明においては、前記トレッドゴムにおいて、ゴム成分100質量部に対し白色充填剤が20〜120質量部配合されていることが好ましく、また、前記トレッドゴムが、下記式(I)、
HOOC−CH=CH−COO−R−CO−CH=CH−COOH (I)
(式中、Rは、式−RO−で示される基、式−(RO)−で示される基、式−CHCH(OH)CHO−で示される基又は式−(RO−COR−COO−)O−で示される基である。Rは炭素数2〜36のアルキレン基,アルケニレン基又は2価の芳香族炭化水素基、Rは炭素数2〜4のアルキレン基、sはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す1〜60の数、Rは炭素数2〜18のアルキレン基,アルケニレン基,2価の芳香族炭化水素基又は−(RO)−(Rは炭素数2〜4のアルキレン基、uはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す1〜30の数)、Rは炭素数2〜18のアルキレン基,アルケニレン基又は2価の芳香族炭化水素基、tは平均値で1〜30の数である。)で表される構造を有する化合物を含有することも好ましい。
【0013】
また、本発明においては、前記スチールコードが、コード最外層に位置する少なくとも1組の隣接するスチール素線間において、ゴムが侵入可能な隙間を有するよう撚合わされてなる構造を有することが好ましく、前記スチールコードの断面形状が扁平であり、かつ、該扁平断面の長径方向が、前記ベルト層の幅方向に沿って配列していることも好ましい。特には、前記スチールコードが、互いに撚り合わされずに並列して配置された2本のスチール素線をコアとし、該コアの周囲に、残りのスチール素線が、少なくとも1組の隣接するスチール素線間にゴムが侵入可能な隙間を有するよう撚り合わされてなるコア−単層シース構造を有する。さらにまた、好適には、前記スチールコードの打ち込み本数が40〜60本/50mmであり、前記ベルト層内で隣接するスチールコード間の距離が0.4〜1.0mmである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、上記構成としたことにより、優れた低燃費性や操縦安定性を有するとともに、走行前後における性能変化が少ない、高性能の空気入りタイヤを実現することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
図1に、本発明の空気入りラジアルタイヤの一例の概略断面図を示す。図示するように、本発明のタイヤは、一対のビード部11間でトロイド状に延びるカーカス1を骨格とし、そのクラウン部ラジアル方向外側に、スチールコードをゴム引きしてなる少なくとも2層の交錯ベルト層2(2a,2b)と、トレッドゴム3とが順次配置されてなる。
【0016】
本発明においては、トレッドゴム3として、30℃における動的貯蔵弾性率E’(MPa)および30℃における損失正接tanδが、夫々次式、
10≦E’
0.300≦tanδ≦0.700
で表される関係を満足するものを用いる。これにより、低燃費性を確保するとともに、湿潤路面での操縦安定性およびHSP性を向上することができる。
【0017】
30℃における動的貯蔵弾性率E’が10.0MPa未満では、乾燥路面での操縦安定性の向上効果が不十分となる。この動的貯蔵弾性率E’は、好適にはさらに、次式、
13≦E’
を満足するものとする。また、30℃における損失正接tanδが0.300未満では湿潤路面における操縦安定性が不足し、一方、0.700を超えるとHSP性(ハイスピード:耐久性)が悪化してしまう。
【0018】
また、本発明のタイヤにおいては、交錯ベルト層2が後述する所定のベルト構造を有することにより、高い周方向引っ張り剛性および面内曲げ剛性を発揮するとともに、低い面外曲げ剛性を有するという特性を有する。
【0019】
ベルト層が高い周方向の引っ張り剛性を有することで、ベルト部材が内圧による張力を負担して、たが効果を発揮することができ、また、高い面内曲げ剛性を有することで、コーナリング時における面内曲げ変形が小さくなることから大きなコーナリングフォースを発生して、良好な操縦安定性を発揮することができる。
【0020】
また、ベルト層は、コーナリング限界点近傍では大きな面内方向への曲げ変形を受け、この変形により、曲げ変形内側では大きな圧縮変形を受けることになって、バックリングが発生する。しかし、本発明においては、2層ベルト層の面外曲げ剛性を低下させることで、圧縮に伴う面外変形圧力が低下して、タイヤ内部圧力によってバックリング変形を抑えることができ、結果として接地圧力の抜けを抑制して接地性を向上し、かつ、踏面内で接地圧分布を均一化することができる。これにより、トレッドゴムに加わる入力についても均一化することができ、走行前後において物性変化を抑制する効果を得ることができる。前述したように、シリカ配合系のトレッドゴムは走行による性能変化(タレ)が大きく、高性能系の配合には多くの量を使用できないという不具合があったが、かかるベルト層と組み合わせて用いることでこれが解消され、高シリカ配合の高性能タイヤへの適用が可能となる。
【0021】
本発明においては、ベルト層2のスチールコードが、素線径0.10〜0.20mm、好適には0.15〜0.20mmのスチール素線6〜10本からなる単撚り構造またはコア−単層シース構造を有する。
【0022】
素線径を0.10〜0.20mmとしたのは、素線径が0.20mmを超えるとコードの曲げ剛性が高くなり、ベルト層の面外曲げ剛性を低くすることが困難になるためである。一方、素線径が0.10mm未満であると、本発明に適合する素線数および隣接コード間距離の条件の下で、高い周方向引張剛性を得ることが困難になるとともに、コスト高となる。
【0023】
また、素線本数が多いと、コードが曲げられたときの素線同士の干渉によって曲げ剛性が増大するが、本発明では素線本数が10本以下と少ないので、素線同士の干渉の曲げ剛性に対する影響が小さい。一方、素線本数が6本未満であると、本発明に適合する素線数および隣接コード間距離の条件の下で、高い周方向引張剛性を得ることが困難になる。
【0024】
さらに、本発明においては、スチールコードを、スチール素線6〜10本からなる単撚り構造またはコア−単層シース構造とし、最大素線数を制限するとともに単純な撚り構造としたので、ゴムペネ性の確保が容易である。特には、スチールコードを、コード最外層に位置する少なくとも1組の隣接するスチール素線間において、ゴムが侵入可能な隙間を有するよう撚り合わされてなるオープン構造とすることが好ましい。これにより、複撚コードに比べて生産性が高く、低コスト化が可能であるというメリットも得られる。
【0025】
また、本発明においては、スチールコードの打ち込み本数が40本/50mm以上、好適には40〜60本/50mmである。打ち込み本数を40本/50mm以上としたのは、(1)必要な周方向引張剛性および周方向引張剛性を得るためには、最低限必要なスチール占有率を確保する必要があること、(2)交錯ベルト層の周方向引張剛性および周方向引張剛性は、同じスチール占有率であっても、上下のベルト層によって形成されるスチールコードの網目が小さく、かつ数が多いほど高くなること、によるものである。
【0026】
ここで、素線径が小さいほど、また、素線数が少ないほど、打込み本数を多くして、特に上記(2)の効果を有効に利用することが好ましいが、ベルト層内で隣接するスチールコード間の距離は、0.3mm以上とすることが肝要である。ベルト層内での隣接スチールコード間の距離が0.3mm未満であると、スチールコード端部で発生した微細なクラックが隣接するスチールコード相互間にまたがって成長し、その後、ベルトの積層相互間にもつながって急拡大して、ベルトセパレーションに至る亀裂進展速度が格段に速くなってしまう。かかる隣接スチールコード間の距離は、0.4〜1.0mm程度とすることが好ましい。
【0027】
また、好ましくは、スチールコードの断面形状を扁平とし、その扁平断面の長径方向をベルトの層の幅方向に沿って配列させることにより、より高い面内曲げ剛性と、より低い面外曲げ剛性を得ることができる。また、ゴムペネ性の確保に対しても有効である。
【0028】
断面形状が扁平なスチールコード構造としては、素線の螺旋形状が一方向に押しつぶされた単撚り構造や、互いに撚り合わされずに並列して配置された2本のスチール素線をコアとし、その周囲にスチール素線を撚り合わせてシースを形成した構造等を適用することができる。特に、2並列+4〜7等の、互いに撚り合わされずに並列して配置された2本のスチール素線をコアとし、その周囲に残りのスチール素線が、少なくとも1組の隣接するスチール素線間にゴムが侵入可能な隙間を有するよう撚り合わされてなるコア−単層シース構造のスチールコードを適用することは、より高い面内曲げ剛性と、より低い面外曲げ剛性、および良好なゴムペネ性を得ることができるので、特に好ましい。
【0029】
本発明に用いるトレッドゴム3としては、具体的には、ゴム成分100質量部に対し白色充填剤を20〜120質量部含有するものを好適に用いることができる。白色充填剤の部数が20質量部未満であると、湿潤路面における操縦安定性の向上効果が不足し、一方、120質量部を超えると、ゴムシートのまとまりが悪くなるなど、加工性に劣ることとなる。
【0030】
トレッドゴム3のゴム成分としては、具体的には例えば、スチレン・ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、天然ゴム(NR)や、スチレン・イソプレン共重合体ゴム(SIR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム(IIR)およびエチレン・プロピレン共重合体等の合成ゴムが挙げられる。
【0031】
また、白色充填剤としては、シリカや水酸化アルミニウム等が挙げられ、これらの中でも、シリカが好ましい。シリカとしては、特に限定されず、例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられ、これらの中でも、破壊特性の改良効果並びにウェットグリップ性および低転がり抵抗性の両立効果に優れる点で、湿式シリカが好ましい。なお、白色充填剤としてシリカを用いる場合、その補強性を更に向上させる観点から、配合時にシランカップリング剤を添加することが好ましい。かかるシランカップリング剤としては、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシラン、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリエトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、ビス(3−ジエトキシメチルシリルプロピル)テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、ジメトキシメチルシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド等が挙げられ、これらの中でも、補強性改善効果の観点から、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドおよび3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィドが好ましい。これらシランカップリング剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
また、トレッドゴム3は、好適には、下記式(I)、
HOOC−CH=CH−COO−R−CO−CH=CH−COOH (I)
(式中、Rは、式−RO−で示される基、式−(RO)−で示される基、式−CHCH(OH)CHO−で示される基又は式−(RO−COR−COO−)O−で示される基である。ここでRは炭素数2〜36のアルキレン基,アルケニレン基又は2価の芳香族炭化水素基であって、好ましくは炭素数2〜18のアルキレン基又はフェニレン基、さらに好ましくは炭素数4〜12のアルキレン基である。またRは炭素数2〜4のアルキレン基、好ましくはエチレン基又はプロピレン基であり、sはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す1〜60の数であり、好ましくは2〜40、さらに好ましくは4〜30の数である。Rは炭素数2〜18のアルキレン基、アルケニレン基、2価の芳香族炭化水素基又は−(RO)−であり(Rは炭素数2〜4のアルキレン基、uはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す1〜30の数であり、好ましくは1〜20、さらに好ましくは2〜15の数である)、Rは炭素数2〜18のアルキレン基、アルケニレン基又は2価の芳香族炭化水素基であって、好ましくは炭素数2〜12のアルキレン基又はフェニレン基、さらに好ましくは炭素数2〜8のアルキレン基である。tは平均値で1〜30、好ましくは1〜20、さらに好ましくは1〜15の数である。)で表される構造を有する化合物を含有する。トレッドゴム3に上記式(I)の化合物を配合することで、走行に伴うタレを抑制して性能変化を防止することができる。式(I)で表される化合物の具体例としては、グリセリンジマレエート、1,4−ブタンジオールジマレエート,1,6−ヘキサンジオールジマレエート等のアルキレンジオールのジマレエート、1,6−ヘキサンジオールジフマレート等のアルキレンジオールのジフマレート、PEG200ジマレエート,PEG600ジマレエート等のポリオキシアルキレングリコールのジマレエート(ここでPEG200、PEG600とは、それぞれ平均分子量200又は600のポリエチレングリコールを示す)、両末端にカルボキシル基を有するポリブチレンマレエート、両末端にカルボキシル基を有するポリ(PEG200)マレエート等の両末端カルボン酸型ポリアルキレングリコール/マレイン酸ポリエステル、両末端にカルボキシル基を有するポリブチレンアジペートマレエート、PEG600ジフマレート等のポリオキシアルキレングリコールのジフマレート、両末端にカルボキシル基を有するポリブチレンフマレート、両末端にカルボキシル基を有するポリ(PEG200)フマレート等の両末端カルボン酸型ポリアルキレングリコール/フマル酸ポリエステル等が挙げられる。この化合物としては、分子量250以上であることが好ましく、さらには250〜5000の範囲であること、特には250〜3000の範囲であることが好ましい。この範囲であると引火点が高く、安全上望ましいばかりでなく、発煙が少なく作業環境上も好ましい。尚、本発明において、かかる化合物は単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。その配合量としては、好適には、ゴム成分100質量部に対して1.0〜4.0質量部の範囲である。配合量が1.0質量部未満であるとタレ抑制の効果が得られず、一方、4.0質量部を超えると耐摩耗性低下の懸念があるため、いずれも好ましくない。
【0033】
上記の他、トレッドゴム3には、充填剤としてカーボンブラックを配合することができる。かかるカーボンブラックとしては、特に限定されるものではないが、FEF,SRF,HAF,ISAF,SAFグレードのものなどを用いることができ、中でも特に、ヨウ素吸着量(IA)が60mg/g以上でかつ、ジブチルフタレート(DBP)吸油量が80mL/100g以上のものが好適である。カーボンブラックを配合することで、ゴム組成物の諸物性を改善することができるが、耐摩耗性を向上させる観点からは、HAF,ISAF,SAFグレードのものがより好ましい。カーボンブラックの配合量としては、好適には、ゴム成分100質量部に対して30〜90質量部の範囲である。カーボンブラックの配合量が30質量部未満であると熱入れ性等において加工性に劣ることとなり、一方、90質量部を超えると湿潤路面における操縦安定性のメリットが低下してしまう。
【0034】
また、トレッドゴム3は、軟化剤を含有してもよく、その配合量としては、ゴム成分100質量部に対して0〜30質量部の範囲である。軟化剤の配合量が30質量部を超えると、加硫ゴムの引っ張り強度および低発熱性が悪化する傾向がある。軟化剤としては、プロセスオイル等を用いることができ、かかるプロセスオイルとして、より具体的には、パラフィンオイル、ナフテン系オイル、アロマオイル等が挙げられる。これらの中でも、引っ張り強度および耐摩耗性の観点からは、アロマオイルが好ましく、ヒステリシスロスおよび低温特性の観点からは、ナフテン系オイルおよびパラフィンオイルが好ましい。
【0035】
トレッドゴム3には、一般的なゴム用架橋系を用いることができ、架橋剤と加硫促進剤とを組み合わせて用いることが好ましい。架橋剤としては硫黄等を用いることができ、その使用量としては、ゴム成分100質量部に対し、硫黄分として0.1〜10質量部の範囲が好ましく、1〜5質量部の範囲がより好ましい。架橋剤の配合量が、ゴム成分100質量部に対し硫黄分として0.1質量部未満では、加硫ゴムの破壊強度、耐摩耗性および低発熱性が低下し、一方、10質量部を超えると、ゴム弾性が失われる。また、加硫促進剤としては、特に限定されるものではないが、2−メルカプトベンゾチアゾール(M)、ジベンゾチアジルジスルフィド(DM)、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド(CZ)、N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(NS)等のチアゾール系加硫促進剤、ジフェニルグアニジン(DPG)等のグアニジン系加硫促進剤などが挙げられる。加硫促進剤の使用量としては、ゴム成分100質量部に対して0.1〜5質量部の範囲が好ましく、0.2〜3質量部の範囲がより好ましい。これら加硫促進剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
トレッドゴム3には、上記の他、例えば、老化防止剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤等のゴム業界で通常用いられる添加剤を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して配合することができる。
【0037】
本発明においては、上記トレッドゴム3およびベルト層2に係る条件を満足することにより所期の効果を得ることができるものであり、上記以外の他部材の構造や材質等については、特に制限されるものではない。例えば、図示するように、本発明のタイヤの一対のビード部11には夫々ビードコア4が埋設され、カーカス1はこのビードコア4の周りにタイヤ内側から外側に折り返して係止されている。また、ベルト層2のクラウン部外周にはトレッドゴム3からなるトレッド部12が、カーカス1のサイド部にはサイドウォール部13が、夫々配置されている。さらに、タイヤに充填する気体としては、通常の空気または酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
図1に示すような、カーカス1のクラウン部ラジアル方向に、スチールコードをゴム引きしてなる2層の交錯ベルト層2a,2bと、トレッドゴム3とを順次備える空気入りラジアルタイヤを作製した。各実施例および比較例のベルト層としては、夫々下記表2,3に従う条件を満足するものを用いた。タイヤサイズは225/45R17とし、交錯ベルト層2a,2bの角度は、タイヤ幅方向に対し±63°とした。使用したトレッドゴムの配合を、下記表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
得られた各供試タイヤにつき、下記に従い評価を行った。その結果を、トレッドゴムの30℃における動的貯蔵弾性率E’および30℃における損失正接tanδの測定値とともに、下記の表3中に併せて示す。
【0042】
(E’およびtanδの測定)
レオメトリックス社製の粘弾性測定装置を用いて、周波数15Hz、歪5%の条件で、30℃における動的貯蔵弾性率(E’)および30℃における損失正接(tanδ)を測定した。
【0043】
(操縦安定性)
各供試タイヤを実車に装着して、乾燥状態(ドライ)および湿潤状態(ウェット)のサーキットにおけるドライバーのフィーリング走行により、操縦安定性の評価を行った。結果は、10点満点の評点で示した。数値が大なるほど操縦安定性に優れ、良好である。乾燥路面における操縦安定性については、50000kmの実地走行後に再度評価し(走行後期)、走行初期との差を算出した。なお、ドライ操縦安定性については、0.5点の差異は性能上大きく、一般ドライバーにおいて性能差を認識できるレベルである。
【0044】
(HSP性(高速耐久性))
HSP性の評価を、下記に従い行った。
各供試タイヤに対しドラム試験を実施し、速度を10km/hずつ上げていき、故障発生時の速度によりHSP性を評価した。実用上使用に耐え得るレベルを○、耐え得ないレベルを×とした。
【0045】
(加工性)
加工性の評価を、下記に従い行った。
シーティングロール上で未加硫ゴムをシーティングの後、10cm×2cm×2mmの型に打ち抜き、24時間の放置後に打ち抜き後からの収縮変化を測定した。収縮量が40%以下の場合を○(良好)、40%を超え60%以下の場合を△、60%を超える場合を×とした。
【0046】
【表3】

*1)シリカ(白色充填剤)のゴム成分100質量部に対する部数(質量部)を示す。
*2)式(I)において、Rが−(RO−COR−COO−)O−で示される基であり、Rが−(RO)−(Rがエチレン基、u=3.5)であり、Rが−CH=CH−、t=4の化合物である。
【0047】
上記表3に示すように、ベルト層のスチールコードおよびトレッドゴムとして、本発明に従う所定条件を満足するものを用いた実施例の空気入りタイヤにおいては、優れた低燃費性や操縦安定性を実現するとともに、走行前後における性能変化を抑制することが可能となることが確かめられた。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施の形態に係る空気入りタイヤを示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1 カーカス
2(2a,2b) 交錯ベルト層
3 トレッドゴム
4 ビードコア
11 ビード部
12 トレッド部
13 サイドウォール部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビード部間でトロイド状に延びるカーカスを骨格とし、該カーカスのクラウン部ラジアル方向外側に、スチールコードをゴム引きしてなる少なくとも2層の交錯ベルト層とトレッドゴムが順次配置された空気入りタイヤにおいて、
前記スチールコードが、素線径0.10〜0.20mmのスチール素線6〜10本からなる単撚り構造またはコア−単層シース構造を有し、該スチールコードの打ち込み本数が40本/50mm以上であり、ベルト層内で隣接する該スチールコード間の距離が0.3mm以上であり、かつ、
前記トレッドゴムの、30℃における動的貯蔵弾性率E’(MPa)および30℃における損失正接tanδが、夫々次式、
10≦E’
0.300≦tanδ≦0.700
で表される関係を満足することを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記トレッドゴムにおいて、ゴム成分100質量部に対し白色充填剤が20〜120質量部配合されている請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記トレッドゴムが、下記式(I)、
HOOC−CH=CH−COO−R−CO−CH=CH−COOH (I)
(式中、Rは、式−RO−で示される基、式−(RO)−で示される基、式−CHCH(OH)CHO−で示される基又は式−(RO−COR−COO−)O−で示される基である。Rは炭素数2〜36のアルキレン基,アルケニレン基又は2価の芳香族炭化水素基、Rは炭素数2〜4のアルキレン基、sはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す1〜60の数、Rは炭素数2〜18のアルキレン基,アルケニレン基,2価の芳香族炭化水素基又は−(RO)−(Rは炭素数2〜4のアルキレン基、uはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す1〜30の数)、Rは炭素数2〜18のアルキレン基,アルケニレン基又は2価の芳香族炭化水素基、tは平均値で1〜30の数である。)で表される構造を有する化合物を含有する請求項1または2記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記スチールコードが、コード最外層に位置する少なくとも1組の隣接するスチール素線間において、ゴムが侵入可能な隙間を有するよう撚合わされてなる構造を有する請求項1〜3のうちいずれか一項記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記スチールコードの断面形状が扁平であり、かつ、該扁平断面の長径方向が、前記ベルト層の幅方向に沿って配列している請求項1〜4のうちいずれか一項記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記スチールコードが、互いに撚り合わされずに並列して配置された2本のスチール素線をコアとし、該コアの周囲に、残りのスチール素線が、少なくとも1組の隣接するスチール素線間にゴムが侵入可能な隙間を有するよう撚り合わされてなるコア−単層シース構造を有する請求項5記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記スチールコードの打ち込み本数が40〜60本/50mmである請求項1〜6のうちいずれか一項記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記ベルト層内で隣接するスチールコード間の距離が0.4〜1.0mmである請求項1〜7のうちいずれか一項記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2008−143486(P2008−143486A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−336234(P2006−336234)
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】