説明

空気入りタイヤ

【課題】低発熱化が図れ、耐カット−耐疲労性−発熱性を高次元でバランスすることができるゴム組成物の提供。
【解決手段】(A)(i)恒粘度化剤を固形天然ゴム重量に対して0.001重量%以上含み、水溶性アンモニウム塩の添加によってマグネシウム含有量が固形天然ゴム重量に対して0.02重量%以下に低減された天然ゴムラテックスを、パルス波を用いた噴霧乾燥法によって乾燥して得られた固形状の低恒粘度化天然ゴム20重量部以上を含む、天然ゴム又は天然ゴム/ポリイソプレンゴムブレンド20〜70重量部及び(ii)ポリブタジエンゴム30〜80重量部を含むゴム100重量部(但し、成分(i)及び(ii)の合計100重量部)並びに(B)沃素吸着量(IA)が50〜120mg/gでDBP吸収量が60〜140ml/100gのカーボンブラック20〜60重量部を含むゴム組成物をサイドウォールに用いた空気入りタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気入りタイヤに関し、更に詳しくは耐カット性、耐疲労性及び低発熱性が高次元でバランスしたゴム組成物をサイドウォールに用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トラック、バス等の重荷重用タイヤにおいて省メンテナンス、低燃費に対するタイヤへの要求が高まりつつある。タイヤの低燃費化においては、ボリュームが多く路面に接地するトレッド部の転動抵抗を低下することがもっとも有効であるが、重荷重用タイヤトレッドの重要特性である耐摩耗性が低下してしまうことからサイドウォールコンパウンドの低発熱化についての検討も行われている。特許文献1においては、特定のカーボンとシリカをブレンド使用することにより低転がり性と耐摩耗性を改良する方法が提案されており、特許文献2においては、特定のポリマー(DMDT−EPT)を使用することで耐疲労性と低燃費性を改良する方法が提案されているが、加工性を維持しつつ耐カット/耐疲労性・低燃費化を高次元にバランスするには到っていない。
【0003】
【特許文献1】特開平10−36559号公報
【特許文献2】特開2001−123025号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、耐カット性、耐疲労性及び低発熱性の特性が高次にバランスしたゴム組成物をサイドウォールに用いた空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に従えば(A)(i)恒粘度化剤を固形天然ゴム重量に対して0.001重量%以上含み、水溶性アンモニウム塩の添加によってマグネシウム含有量が固形天然ゴム重量に対して0.02重量%以下に低減された天然ゴムラテックスを、パルス波を用いた噴霧乾燥法によって乾燥して得られた固形状の低恒粘度化天然ゴム20重量部以上を含む、天然ゴム又は天然ゴム/ポリイソプレンゴムブレンド20〜70重量部及び(ii)ポリブタジエンゴム30〜80重量部を含むゴム100重量部(但し、成分(i)及び(ii)の合計100重量部)並びに(B)沃素吸着量(IA)が50〜120mg/gでDBP吸収量が60〜140ml/100gのカーボンブラック20〜60重量部を含んでなるゴム組成物をサイドウォールに用いた空気入りタイヤが提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、恒粘度化剤を添加した天然ゴムラテックスをパルス波雰囲気に噴霧することによって得られた固形状のパルス乾燥低恒粘度化天然ゴムを20重量部以上含む天然ゴム又は天然ゴム/ポリイソプレンゴムブレンド20〜70重量部を、ポリブタジエンゴム30〜80重量部と共に用いることにより、低発熱化が図れ、耐カット性、耐疲労性及び低発熱性を高次元でバランスさせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決すべく研究を進めた結果、恒粘度化剤を添加した天然ゴムラテックスをパルス波雰囲気に噴霧することによって得られた固形状のパルス乾燥低恒粘度化天然ゴムを少なくとも20重量部含む天然ゴム又は天然ゴム/ポリイソプレンゴムブレンド20〜70重量部及びポリブタジエンゴムを30〜80重量部を含むゴム(両者の合計)100重量部及び特定のカーボンブラックを配合したゴム組成物によって、前記目的を達成できることを見出した。
【0008】
本発明によれば、金属元素含量が低減された、恒粘度化剤を含む天然ゴムラテックスをパルス波雰囲気に噴霧することにより乾燥した固形状の低恒粘度化天然ゴム20重量部以上、好ましくは30〜50重量部を含む、ゴム100重量部に対し、特定のカーボンブラック20〜60重量部配合することによって、前記目的を達成したゴム組成物を得ることができる。
【0009】
本発明においては、水溶性アンモニウム塩の添加によって金属元素(例えばマグネシウム、鉄)の含有量、特にマグネシウム含有量が0.02重量%以下、好ましくは0.01重量%以下に低減された、恒粘度化剤(例えば硫酸ヒドロキシルアミン、塩酸ヒドロキシルアミン、ヒドロキシルアミン、セミカルバジド、ジメドン、ヒドラジド化合物及び脂肪族多価カルボン酸誘導体のエステル)を、固形天然ゴム重量の0.001重量%以上、好ましくは0.005〜3重量%含む天然ゴムラテックスをパルス乾燥させて得られた固形状低恒粘度化天然ゴムで、前記ジエン系ゴムの少なくとも20重量%、好ましくは30〜50重量%を、置換してゴム分として用いる。この低恒粘度化天然ゴムの配合量が少ないと所望の効果が得られないので好ましくない。
【0010】
前記低恒粘度化天然ゴムは、例えば本発明者らが先に提案した特願2006−228149号明細書に記載した方法によって、得ることができる。具体的には、例えばゴムの木からタッピングによって採取した樹液をろ過した後、得られたラテックスに水溶性のアンモニウム塩(例えばリン酸水素二アンモニウム、硫酸アンモニウムなど)を添加して、例えば10〜50℃で0.2〜24時間撹拌処理し、天然ゴムラテックス中のマグネシウム、鉄(好ましくはマグネシウム)といった金属元素の含有量を低下させ、特に、マグネシウム含有量を乾燥ラテックス重量基準で、0.02重量%以下、好ましくは0.01重量%以下に低下させる。マグネシウム含有量が0.02重量%を超えると十分な加硫速度が得られないので好ましくない。水溶性のアンモニウム塩の添加量には特に限定はないが、ラテックス中の固形物重量に対し0.2〜10重量%であるのが好ましい。次に、金属含有量を低下させた天然ゴムラテックスをパルス雰囲気に噴霧して乾燥する。パルス乾燥は上記天然ゴムラテックスを、例えば特開平7−71875号公報などに記載のパルス衝撃波を発生させるパルス燃焼機を用いて、乾燥してゴムを製造する方法である。本発明では、このようなパルス燃焼機を用いて、好ましくは固形分濃度70重量%以下のラテックスを、好ましくは音圧120〜160デシベル(db)、更に好ましくは130〜150db、好ましくは周波数250〜1200Hz、更に好ましくは300〜1000Hzで、好ましくは温度140℃以下、更に好ましくは40〜100℃の条件下に乾燥室にラテックスを噴射乾燥させる。
【0011】
一方、天然ゴムは、経時的に粘度が増大していくことが一般的に知られている。このため従来から天然ゴム中に恒粘度化剤を含ませることによって天然ゴムの粘度上昇を抑えることが行われている場合がある。本発明においても、パルス燃焼による衝撃波の雰囲気下に噴射乾燥させる天然ゴムラテックス中に恒粘度剤を添加する。恒粘度化剤としては、前記パルス乾燥条件下において分解するおそれのない従来から一般に使用されている任意の恒粘度化剤を用いることができ、具体的には、例えば硫酸ヒドロキシルアミン((NH2OH)2・H2SO4)、塩酸ヒドロキシルアミン、ヒドロキシルアミンなどのヒドロキシルアミン類、セミカルバジド、ジメドン、ヒドラジド化合物(アセトヒドラジド、プロピオン酸ヒドラジド、酪酸ヒドラジド、ラウリン酸ヒドラジド、パルミチン酸ヒドラジド、ステアリン酸ヒドラジド、安息香酸ヒドラジド、乳酸ヒドラジド、フタル酸ヒドラジド)、脂肪族多価カルボン酸誘導体のエステルなどの少なくとも一種を用いることができる。これらの恒粘度剤は原料天然ゴムラテックス中の固形分(乾燥ゴム分)に対し、0.001重量%以上、好ましくは0.01〜3重量%を添加する。
【0012】
本発明によれば、天然ゴムラテックスを、ゴム固形分に対し0.2〜10重量%の水溶性アンモニウム塩で処理し、更にヒドロキシルアミン類、セミカルバジド、ジメドン、ヒドラジド化合物、脂肪族多価カルボン酸誘導体のエステルより選ばれる少なくとも1種の恒粘度化剤をゴム固形分に対して、0.001重量%以上、好ましくは0.005〜3重量%添加してパルス雰囲気に噴霧することで得られる固形状の低恒粘度化天然ゴムを、少なくとも20重量部含むゴム100重量部に対し、沃素吸着量(IA)(JIS K6217−1にて測定)50〜120mg/g、好ましくは70mg/g以上100mg/g未満及びDBP吸収量(JIS K6217−4にて測定)60〜140ml/100g、好ましくは60〜110ml/100gのコロイダル特性を有するカーボンブラックを20〜60重量部、好ましくは30重量部以上50重量部未満配合することによって所望のゴム組成物を得ることができる。なお、かかるカーボンブラックは公知であり、一般の市販品を使用することができる。前記カーボンブラックの配合量が少ないと、耐カット性が低下するので好ましくなく、逆に多いと発熱が高くなるので好ましくない。
【0013】
本発明によれば、パルス乾燥天然ゴムを20重量部以上、通常の天然ゴムに置換して特定のカーボンブラックと組合せて使用することによって低発熱化が図れ耐カット性、耐疲労性及び低発熱性を高次元でバランスさせることができる。
【0014】
本発明によれば、前記ポリブタジエンゴム30〜80重量部のうちの少なくとも20重量部、好ましくはポリブタジエンゴム全体の50〜100重量%が、シス−1,4−ポリブタジエンのマトリックス部分に1,2−ポリブタジエンを主成分とする沸騰n−ヘキサン不溶分5重量%以上を含むポリブタジエンゴムであるのが好ましい。かかるポリブタジエンゴムは例えば特開平5−194658号公報などに記載の通り公知であり、また宇部興産(株)よりUBEPOL VCR412,UBEPOL VCR617などとして市販されている。かかるポリブタジエンゴムの配合量が少ないと耐カット性の改善効果が小さくなるので好ましくない。
【0015】
本発明に係るゴム組成物には、前記した成分に加えて、シリカなどの補強剤(フィラー)、加硫又は架橋剤、加硫又は架橋促進剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などのタイヤ用、その他のゴム組成物用に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0016】
本発明に係るゴム組成物は、例えば図1にその一例を示すように、空気入りタイヤのサイドウォールの部分に、従来方法と同様にして、好適に使用することができる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲をこれらの実施例に限定するものでないことはいうまでもない。
【0018】
調製例1:天然ゴムBの調製
(1)ラテックスの処理
未処理のフィールドラテックス(タイ産、アンモニア濃度=1.0重量%、固形分濃度=約30重量%)にリン酸水素二アンモニウムを1重量%添加して37℃,10時間ゆっくり攪拌した。これをしばらく静置して沈殿物を除いて遠心分離機で12000rpm,30分間遠心分離処理した。得られたクリーム状物に界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム)を約0.1重量%加えて蒸留水にDRC(Dry Rubber Content)が約50%となるように分散した。硫酸ヒドロキシルアミンを0.15重量%加えた。
【0019】
(2)ラテックスの乾燥
上記で得た処理ラテックスを周波数1000Hz、温度60℃、音圧135db(デシベル)の条件でパルス衝撃波乾燥機(パルテック社製ハイパルコン)を用いて乾燥させて天然ゴムBを得た。天然ゴムBのマグネシウム含有量は上記乾燥させて得られた固形天然ゴム重量基準で0.001重量%以下であった。
【0020】
標準例1、実施例1〜5及び比較例1
サンプルの調製
表Iに示す配合において、加硫促進剤と硫黄を除く成分を、3リットルの密閉型ミキサーで温調60℃、回転数60rpm及び放出温度160℃で混合してマスターバッチを得た。このマスターバッチに加硫促進剤と硫黄をオープンロールで左右10回切り返すことによって混練し、ゴム組成物を得た。次に得られたゴム組成物を所定の金型中で150℃で30分間加硫して加硫ゴムシートを作製し、以下に示す試験法で加硫ゴムの物性を測定した。結果は標準例1の値を100として表Iに指数表示した。
【0021】
試験方法
破断伸び:引張り試験はJIS 3号ダンベルを用い、JIS K6251に従って測定した。この指数値が大きい程、破断伸びが高く良好であることを示す。
硬さ:JIS K6253に準拠して、耐カット性の代用特性として測定した。この指数値が高い程良好であることを示す。
【0022】
発熱特性(tanδ):(株)東洋精機製作所製、粘弾性スペクトロメーターを用いて、初期歪10%、振幅±2%、周波数20Hzで測定した。この指数値が低い方が発熱が小さく良好であることを示す。
耐屈曲疲労性:JIS K6260に従ったデマチャ屈曲試験により、室温で10万回屈曲させた後の亀裂の長さを測定した。ストロークは40mm、速度は300±10rpmとした。この指数値が大きい程、亀裂の成長量が少なく耐屈曲疲労性が良好であることを示す。
【0023】
【表1】

【0024】
表I脚注
*1:RSS#3
*2:パルス乾燥天然ゴム(調製例参照)
*3:日本ゼオン(株)製BR1220
*4:宇部興産(株)製VCR412
*5:東海カーボン(株)製シーストN(IA=69mg/g,DBP吸収量94〜108ml/100g)
*6:出光興産(株)製ダイアナプロセスオイルAH−20
*7:住友化学(株)製アンチゲン6C
*8:正同化学工業(株)製酸化亜鉛3種
*9:日本油脂(株)製ビーズステアリン酸
*10:FLEXSYS社製SANTOCURE TBBS
*11:細井化学工業(株)製微粉イオウ(200メッシュ)
【0025】
表Iにおいて標準例1のコントロールに比較して、比較例1はBRにVCRのみを使用した例で、低発熱性が悪化して好ましくない。これに対し、実施例1〜5は本発明の範囲内の例で、破断伸び/硬さ/発熱特性/疲労性が高次元でバランスされている。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明によれば、ゴム100重量部中に、パルス乾燥天然ゴムを20重量部以上用い、そして、特定のカーボンブラックと併用することによって、耐カット性、耐疲労性及び低発熱性が高次元でバランスしたゴム組成物を得ることができるので、空気入りタイヤのサイドウォールなどとして使用するのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る空気入りタイヤの一例のサイドウォールの部分を他の部分と共に示す、子午線方向半断面説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(i)恒粘度化剤を固形天然ゴム重量に対して0.001重量%以上含み、水溶性アンモニウム塩の添加によってマグネシウム含有量が固形天然ゴム重量に対して0.02重量%以下に低減された天然ゴムラテックスを、パルス波を用いた噴霧乾燥法によって乾燥して得られた固形状の低恒粘度化天然ゴム20重量部以上を含む、天然ゴム又は天然ゴム/ポリイソプレンゴムブレンド20〜70重量部及び(ii)ポリブタジエンゴム30〜80重量部を含むゴム100重量部(但し、成分(i)及び(ii)の合計100重量部)並びに(B)沃素吸着量(IA)が50〜120mg/gでDBP吸収量が60〜140ml/100gのカーボンブラック20〜60重量部を含んでなるゴム組成物をサイドウォールに用いた空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記ポリブタジエンゴム30〜80重量部のうちの少なくとも20重量部が、シス1,4−ポリブタジエンのマトリックス成分に1,2−ポリブタジエンを主成分とする沸騰n−ヘキサン不溶分5重量%以上含むポリブタジエンゴムである請求項1に記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2008−255161(P2008−255161A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−96496(P2007−96496)
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】