説明

空気入りタイヤ

【課題】操縦安定性に優れ、加工性、耐偏摩耗性および低燃費性の向上を図った空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】スチールコードが、素線径0.10〜0.20mmのスチール素線6〜10本からなる単撚り構造またはコア−単層シース構造を有し、スチールコードの打ち込み本数が40本/50mm以上であり、ベルト層2内で隣接する該スチールコード間の距離が0.3mm以上であり、かつ、トレッドゴム3が、天然ゴム及び/または合成ジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部に対して、無機充填剤を含有する充填剤20〜150質量部と、前記無機充填剤と結合可能な元素もしくは官能基、及び保護されたメルカプト基を少なくとも含む化合物からなるシランカップリング剤1〜30質量部と、を配合してなるゴム組成物からなる空気入りタイヤである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」とも称する)に関し、詳しくは、操縦安定性に優れ、なおかつ、加工性、耐偏摩耗性および低燃費性の向上を図った空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、空気入りタイヤは、一対のビード部間にトロイド状に延在するカーカスを骨格とし、そのタイヤ半径方向外側には、補強層として、ゴム引きされたスチールコードからなるベルト層が配置される。また、ベルト層のタイヤ半径方向外側には、トレッドゴムが配置されて踏面部を形成している。
【0003】
近年、環境問題への関心の高まりに伴う世界的な二酸化炭素排出規制の動きに関連して、自動車の低燃費化に対する要求が強まりつつある。このような要求に対応するために、タイヤ性能についても転がり抵抗の低減が求められている。ここで、タイヤの転がり抵抗に寄与するタイヤのトレッド用ゴム組成物の開発にあたっては、60℃付近での損失正接(tanδ)を指標とすることが一般に有効であり、具体的には、60℃付近でのtanδが低いゴム組成物をトレッドに用いることで、タイヤの発熱を抑制して転がり抵抗を低減し、結果として、タイヤの低燃費性を向上させることができる。
【0004】
かかる低燃費性を兼ね備えたタイヤを実現するための技術としては、例えば、特許文献1に、スチレン・ブタジエン共重合体ゴムを含むゴム成分(A)100質量部に対して、カーボンブラックおよび白色充填剤からなる群から選択される少なくとも一種の充填剤(B)20〜70質量部と、軟化剤(C)0〜30質量部と、ポリスチレン換算重量平均分子量が2×10〜50×10である(メタ)アクリレート系(共)重合体(D)3〜30質量部とを配合してなるゴム組成物が開示されている。
【0005】
また一方、ベルト層に用いられるスチールコードに関しては、操縦安定性の向上や乗心地の向上等の観点から、従来より種々検討がなされてきており、例えば、特許文献2に、素線径の細い(素線径0.06〜0.10mm)特定のスチールコードを用いることによりコーナリング時の操縦性、安定性等を向上させる技術が記載されている。また、特許文献3には、曲げ抵抗および引張り伸びによりスチールコードを規定したタイヤが、さらに、特許文献4〜6には、ベルト層を、コード直径と1本のコード内のフィラメント数とベルト層の打ち込みコード数との関係式により規定したタイヤが、夫々開示されている。
【特許文献1】特開2006−274049号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開昭59−38102号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献3】特開昭60−185602号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献4】特開昭63−2702号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献5】特開昭63−2703号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献6】特開昭63−2704号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、一般に、上記したような低燃費性に優れるトレッドゴムは、その一方で、耐偏摩耗性に劣るという難点を有することが知られている。また、シリカ配合系において、タイヤの転がり抵抗を低くするためには、充填剤量を低減すればよいことが知られているが、充填剤量を低減するとゴム組成物の弾性率が低下し、操縦安定性が低下するという問題があった。さらに、ゴム成分のガラス転移温度を下げることにより転がり抵抗を低下させることができることも知られているが、その場合、同時に湿潤路面での制動性が低下するという問題があった。一方、ベルト層に用いられるスチールコードの改良により操縦安定性および乗り心地性の向上を図ることはできても、同時に転がり抵抗を低下させ低燃費性能の向上を図ることはできなかった。このように、これまでは耐偏摩耗性等の諸性能を悪化させることなく操縦安定性と低燃費性能とを高い次元で両立させることは極めて困難であったのが実状である。
【0007】
そこで本発明の目的は、上記問題を解消して、操縦安定性に優れ、なおかつ、加工性、耐偏摩耗性および低燃費性の向上を図った空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意検討した結果、トレッドゴムを所定のゴム組成物から構成し、かつ、ベルト構造を所定のベルト構造とすることで、上記問題を解消できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の空気入りタイヤは、一対のビード部間でトロイド状に延びるカーカスを骨格とし、該カーカスのクラウン部ラジアル方向外側に、スチールコードをゴム引きしてなる少なくとも2層の交錯ベルト層とトレッドゴムが順次配置された空気入りタイヤにおいて、
前記スチールコードが、素線径0.10〜0.20mmのスチール素線6〜10本からなる単撚り構造またはコア−単層シース構造を有し、該スチールコードの打ち込み本数が40本/50mm以上であり、ベルト層内で隣接する該スチールコード間の距離が0.3mm以上であり、かつ、
前記トレッドゴムが、天然ゴム及び/または合成ジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部に対して、無機充填剤を含有する充填剤20〜150質量部と、前記無機充填剤と結合可能な元素もしくは官能基、及び保護されたメルカプト基を少なくとも含む化合物からなるシランカップリング剤1〜30質量部と、を配合してなるゴム組成物からなることを特徴とするものである。
【0010】
本発明においては、前記無機充填剤と結合することのできる官能基がアルコキシシラン基であることが好ましい。さらに、前記シランカップリング剤が、下記一般式(I)、

[一般式(I)中、Rは−Cl、−Br、RO−、RC(=O)O−、RC=NO−、RN−又は−(OSiR(OSiR)(ただし、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜18の一価の炭化水素基である)、RはR、水素原子又は炭素数1〜18の一価の炭化水素基、RはR、R又は−[O(RO)0.5−基(ただし、Rは炭素数1〜18のアルキレン基、aは1〜4の整数である)、Rは炭素数1〜18の二価の炭化水素基、Rは炭素数1〜18の一価の炭化水素基を示し、x、y及びzは、x+y+2z=3、0≦x≦3、0≦y≦2、0≦z≦1の関係を満たす数である]及び/又は下記一般式(II)、

[一般式(II)中、Rは炭素数1〜20の直鎖もしくは、分岐、環状のアルキル基であり、Gはそれぞれ独立して炭素数1〜9のアルカンジイル基又はアルケンジイル基であり、Zはそれぞれ独立して二つの珪素原子と結合することのできる基で、[−O−]0.5、[−O−G−]0.5又は[−O−G−O−] 0.5から選ばれる基であり、Zはそれぞれ独立して二つの珪素原子と結合することのできる基で、[−O−G−O−] 0.5で表される官能基であり、Zはそれぞれ独立して−Cl、−Br、−OR10、R10C(=O)O−、R1011C=NO−、R1011N−,R10−,HO−G−O−で表される官能基であり、Gは前記表記と一致し、R10及びR11はそれぞれ独立に炭素数1〜20の直鎖もしくは、分岐、環状のアルキル基であり、m、n、u、v、wはそれぞれ独立して1≦m≦20、0≦n≦20、0≦u≦3、0≦v≦2、0<w≦1であり、かつ1/2u+v+2w=2又は3であり、A部が複数である場合、複数のA部におけるZ、Z及びZそれぞれにおいて、同一でも異なっていてもよく、B部が複数である場合、複数のB部におけるZ、Z及びZそれぞれにおいて、同一でも異なってもよい]で表されるシランカップリング剤であることが好ましく、前記一般式(II)で表されるシランカップリング剤が、下記化学式(III)、

下記化学式(IV)、

および下記化学式(V)、

(式中Lはそれぞれ独立して炭素数1〜9のアルカンジイル基又はアルケンジイル基である)で表される化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種以上であることが好ましい。
【0011】
また、本発明においては、前記トレッドゴムの60℃における損失正接tanδが次式、
0<tanδ<0.240
で表される関係を満足することが好ましい。さらに、前記ゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対して、5000〜400000の重量平均分子量(ゲル浸透クロマトグラフィーによるポリスチレン換算)を有する芳香族ビニル化合物−ジエン化合物共重合体2〜70質量部を含んでなり、該共重合体が5〜80質量%の芳香族ビニル化合物からなり、かつジエン化合物の部分のビニル結合量が10〜80質量%であることが好ましく、さらにまた、ゴム成分100質量部に対して前記芳香族ビニル化合物−ジエン化合物共重合体および軟化剤を合計量で5〜80質量部含んでなることが好ましい。
【0012】
また、本発明においては、総充填剤量の内、前記無機充填剤比率が30〜100質量%であることが好ましい。さらに、前記無機充填剤がシリカであることが好ましい。
【0013】
さらにまた、本発明においては、前記スチールコードが、コード最外層に位置する少なくとも1組の隣接するスチール素線間において、ゴムが侵入可能な隙間を有するよう撚合わされてなる構造を有することが好ましく、前記スチールコードの断面形状が扁平であり、かつ、該扁平断面の長径方向が、前記ベルト層の幅方向に沿って配列していることも好ましい。特には、前記スチールコードが、互いに撚り合わされずに並列して配置された2本のスチール素線をコアとし、該コアの周囲に、残りのスチール素線が、少なくとも1組の隣接するスチール素線間にゴムが侵入可能な隙間を有するよう撚り合わされてなるコア−単層シース構造を有する。さらにまた、好適には、前記スチールコードの打ち込み本数が40〜60本/50mmであり、前記ベルト層内で隣接するスチールコード間の距離が0.4〜1.0mmである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、操縦安定性に優れ、なおかつ、加工性、耐偏摩耗性および低燃費性(低転がり抵抗)の向上を図った空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
図1に、本発明の空気入りラジアルタイヤの一例の概略断面図を示す。図示するように、本発明のタイヤは、一対のビード部11間でトロイド状に延びるカーカス1を骨格とし、そのクラウン部ラジアル方向外側に、スチールコードをゴム引きしてなる少なくとも2層の交錯ベルト層2(2a,2b)と、トレッドゴム3とが順次配置されてなる。
【0016】
また、本発明のタイヤにおいては、交錯ベルト層2が後述する所定のベルト構造を有することにより、高い周方向引っ張り剛性および面内曲げ剛性を発揮するとともに、低い面外曲げ剛性を有するという特性を有する。
【0017】
ベルト層が高い周方向の引っ張り剛性を有することで、ベルト部材が内圧による張力を負担して、たが効果を発揮することができ、また、高い面内曲げ剛性を有することで、コーナリング時における面内曲げ変形が小さくなることから大きなコーナリングフォースを発生して、良好な操縦安定性を発揮することができる。
【0018】
また、ベルト層は、コーナリング限界点近傍では大きな面内方向への曲げ変形を受け、この変形により、曲げ変形内側では大きな圧縮変形を受けることになって、バックリングが発生する。しかし、本発明においては、2層ベルト層の面外曲げ剛性を低下させることで、圧縮に伴う面外変形圧力が低下して、タイヤ内部圧力によってバックリング変形を抑えることができ、結果として接地圧力の抜けを抑制して接地性を向上し、かつ、踏面内で接地圧分布を均一化することができる。これにより、トレッドゴムに加わる入力についても均一化することができ、耐偏摩耗性および耐摩耗性を向上することができるのである。前述したように、本発明に用いる低燃費系配合のトレッドゴムは耐偏摩耗性に劣るが、かかるベルト層と組み合わせて用いることで、低燃費系配合のトレッドゴムを、偏摩耗を発生させることなく適用することが可能となる。
【0019】
本発明においては、ベルト層2のスチールコードが、素線径0.10〜0.20mm、好適には0.15〜0.20mmのスチール素線6〜10本からなる単撚り構造またはコア−単層シース構造を有する。
【0020】
素線径を0.10〜0.20mmとしたのは、素線径が0.20mmを超えるとコードの曲げ剛性が高くなり、ベルト層の面外曲げ剛性を低くすることが困難になるためである。一方、素線径が0.10mm未満であると、本発明に適合する素線数および隣接コード間距離の条件の下で、高い周方向引張剛性を得ることが困難になるとともに、コスト高となる。
【0021】
また、素線本数が多いと、コードが曲げられたときの素線同士の干渉によって曲げ剛性が増大するが、本発明では素線本数が10本以下と少ないので、素線同士の干渉の曲げ剛性に対する影響が小さい。一方、素線本数が6本未満であると、本発明に適合する素線数および隣接コード間距離の条件の下で、高い周方向引張剛性を得ることが困難になる。
【0022】
さらに、本発明においては、スチールコードを、スチール素線6〜10本からなる単撚り構造またはコア−単層シース構造とし、最大素線数を制限するとともに単純な撚り構造としたので、ゴムペネ性の確保が容易である。特には、スチールコードを、コード最外層に位置する少なくとも1組の隣接するスチール素線間において、ゴムが侵入可能な隙間を有するよう撚り合わされてなるオープン構造とすることが好ましい。これにより、複撚コードに比べて生産性が高く、低コスト化が可能であるというメリットも得られる。
【0023】
また、本発明においては、スチールコードの打ち込み本数が40本/50mm以上、好適には40〜60本/50mmである。打ち込み本数を40本/50mm以上としたのは、(1)必要な周方向引張剛性を得るためには、最低限必要なスチール占有率を確保する必要があること、(2)交錯ベルト層の周方向引張剛性は、同じスチール占有率であっても、上下のベルト層によって形成されるスチールコードの網目が小さく、かつ数が多いほど高くなること、によるものである。
【0024】
ここで、素線径が小さいほど、また、素線数が少ないほど、打込み本数を多くして、特に上記(2)の効果を有効に利用することが好ましいが、ベルト層内で隣接するスチールコード間の距離は、0.3mm以上とすることが肝要である。ベルト層内での隣接スチールコード間の距離が0.3mm未満であると、スチールコード端部で発生した微細なクラックが隣接するスチールコード相互間にまたがって成長し、その後、ベルトの積層相互間にもつながって急拡大して、ベルトセパレーションに至る亀裂進展速度が格段に速くなってしまう。かかる隣接スチールコード間の距離は、0.4〜1.0mm程度とすることが好ましい。
【0025】
また、好ましくは、スチールコードの断面形状を扁平とし、その扁平断面の長径方向をベルトの層の幅方向に沿って配列させることにより、より高い面内曲げ剛性と、より低い面外曲げ剛性を得ることができる。また、ゴムペネ性の確保に対しても有効である。
【0026】
断面形状が扁平なスチールコード構造としては、素線の螺旋形状が一方向に押しつぶされた単撚り構造や、互いに撚り合わされずに並列して配置された2本のスチール素線をコアとし、その周囲にスチール素線を撚り合わせてシースを形成した構造等を適用することができる。特に、2並列+4〜7等の、互いに撚り合わされずに並列して配置された2本のスチール素線をコアとし、その周囲に残りのスチール素線が、少なくとも1組の隣接するスチール素線間にゴムが侵入可能な隙間を有するよう撚り合わされてなるコア−単層シース構造のスチールコードを適用することは、より高い面内曲げ剛性と、より低い面外曲げ剛性、および良好なゴムペネ性を得ることができるので、特に好ましい。
【0027】
また、本発明においては、トレッドゴム3が、天然ゴム及び/または合成ジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部に対して、無機充填剤を含有する充填剤20〜150質量部、好ましくは30〜90質量部と、無機充填剤と結合可能な元素もしくは官能基、及び保護されたメルカプト基を少なくとも含む化合物からなるシランカップリング剤1〜30質量部、好ましくは1〜15質量部と、を配合してなるゴム組成物からなることが肝要である。
【0028】
かかるシランカップリング剤が、保護されたメルカプト基を有することで、加硫工程以前の加工中に初期加硫(スコーチ)の発生を防止することができるため、加工性が良好になり、かつ、無機充填剤と結合可能な元素もしくは官能基を有しているため、無機充填剤の分散性が良好となる。この中でも、無機充填剤と結合することのできる官能基がアルコキシシラン基であると、上記効果に優れているため好ましい。
【0029】
また、本発明において、上記シランカップリング剤としては、下記一般式(I)、

[一般式(I)中、Rは−Cl、−Br、RO−、RC(=O)O−、RC=NO−、RN−又は−(OSiR(OSiR)(ただし、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜18の一価の炭化水素基である)、RはR、水素原子又は炭素数1〜18の一価の炭化水素基、RはR、R又は−[O(RO)0.5−基(ただし、Rは炭素数1〜18のアルキレン基、aは1〜4の整数である)、Rは炭素数1〜18の二価の炭化水素基、Rは炭素数1〜18の一価の炭化水素基を示し、x、y及びzは、x+y+2z=3、0≦x≦3、0≦y≦2、0≦z≦1の関係を満たす数である]で表されるシランカップリング剤を用いることができる。
【0030】
上記一般式(I)において、炭素数1〜18の一価の炭化水素基としては、例えば、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜18のアルケニル基、炭素数6〜18のアリール基、炭素数7〜18のアラルキル基等を挙げることができる。ここで、上記アルキル基及びアルケニル基は、直鎖状、枝分かれ状、環状のいずれであってもよく、前記アリール基及びアラルキル基は、芳香環上に低級アルキル基などの置換基を有していてもよい。
【0031】
上記一般式(I)において、炭素数1〜18の一価の炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ビニル基、プロペニル基、アリル基、ヘキセニル基、オクテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。
【0032】
上記一般式(I)において、Rで表される炭素数1〜18のアルキレン基は、直鎖状、枝分かれ状、環状のいずれであってもよいが、特に直鎖状のものが好適である。この直鎖状のアルキレン基の例としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、デカメチレン基、ドデカメチレン基等が挙げられる。
【0033】
また、上記一般式(I)において、Rで表される炭素数1〜18の二価の炭化水素基としては、例えば、炭素数1〜18のアルキレン基、炭素数2〜18のアルケニレン基、炭素数5〜18のシクロアルキレン基、炭素数6〜18のシクロアルキルアルキレン基、炭素数6〜18のアリーレン基、炭素数7〜18のアラルキレン基を挙げることができる。上記アルキレン基及びアルケニレン基は、直鎖状、枝分かれ状のいずれであってもよく、上記シクロアルキレン基、シクロアルキルアルキレン基、アリーレン基及びアラルキレン基は、環上に低級アルキル基などの置換基を有していてもよい。
【0034】
上記Rとしては、炭素数1〜6のアルキレン基が好ましく、特に、直鎖状のアルキレン基、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基を好ましく挙げることができる。
【0035】
上記一般式(I)で表されるシランカップリング剤の例としては、3−ヘキサノイルチオプロピルトリエトキシシラン、3−オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン、3−デカノイルチオプロピルトリエトキシシラン、3−ラウロイルチオプロピルトリエトキシシラン、2−ヘキサノイルチオエチルトリエトキシシラン、2−オクタノイルチオエチルトリエトキシシラン、2−デカノイルチオエチルトリエトキシシラン、2−ラウロイルチオエチルトリエトキシシラン、3−ヘキサノイルチオプロピルトリメトキシシラン、3−オクタノイルチオプロピルトリメトキシシラン、3−デカノイルチオプロピルトリメトキシシラン、3−ラウロイルチオプロピルトリメトキシシラン、2−ヘキサノイルチオエチルトリメトキシシラン、2−オクタノイルチオエチルトリメトキシシラン、2−デカノイルチオエチルトリメトキシシラン、2−ラウロイルチオエチルトリメトキシシランなどを挙げることができる。
【0036】
さらに、本発明において、上記シランカップリング剤として、下記一般式(II)、

[一般式(II)中、Rは炭素数1〜20の直鎖もしくは、分岐、環状のアルキル基であり、Gはそれぞれ独立して炭素数1〜9のアルカンジイル基又はアルケンジイル基であり、Zはそれぞれ独立して二つの珪素原子と結合することのできる基で、[−O−]0.5、[−O−G−]0.5又は[−O−G−O−] 0.5から選ばれる基であり、Zはそれぞれ独立して二つの珪素原子と結合することのできる基で、[−O−G−O−] 0.5で表される官能基であり、Zはそれぞれ独立して−Cl、−Br、−OR10、R10C(=O)O−、R1011C=NO−、R1011N−,R10−,HO−G−O−で表される官能基であり、Gは前記表記と一致し、R10及びR11はそれぞれ独立に炭素数1〜20の直鎖もしくは、分岐、環状のアルキル基であり、m、n、u、v、wはそれぞれ独立して1≦m≦20、0≦n≦20、0≦u≦3、0≦v≦2、0<w≦1であり、かつ1/2u+v+2w=2又は3であり、A部が複数である場合、複数のA部におけるZ、Z及びZそれぞれにおいて、同一でも異なっていてもよく、B部が複数である場合、複数のB部におけるZ、Z及びZそれぞれにおいて、同一でも異なってもよい]で表されるシランカップリング剤であることが好ましく、かかる一般式(II)で表されるシランカップリング剤を用いることができる。
【0037】
上記一般式(II)で表されるシランカップリング剤としては、下記化学式(III)、

下記化学式(IV)、

および下記化学式(V)、

(式中Lはそれぞれ独立して炭素数1〜9のアルカンジイル基又はアルケンジイル基である)を挙げることができ、(III)〜(V)で表される化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種以上であることが好ましい。
【0038】
上記化学式(III)で表されるシランカップリング剤としては、例えば、Momentive Performance Materials社製、商標「NXT Low−V Silane」、が挙げられ、また、上記化学式(IV)で表されるシランカップリング剤としては、例えば、Momentive Performance Materials社製、商標「NXT Ultra Low−V Silane」、が挙げられる。さらに、上記化学式(V)で表されるシランカップリング剤としては、例えば、Momentive Performance Materials社製、商標「NXT_Z」が挙げられる。上記化学式(IV)及び(V)で表されるシランカップリング剤は、アルコキシシランのアルキル炭素数が多いため揮発性化合物VOD(特にアルコール)の発生が少なく、作業環境上好ましく、特に、化学式(V)のシランカップリング剤は低発熱性を得ることからさらに好ましい。
【0039】
また、ゴム組成物中、天然ゴム及び/または合成ジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部に対して、シランカップリング剤1〜30質量部、好ましくは1〜15質量部を配合してなる。本発明に係るシランカップリング剤の配合量が、1質量部未満では作業性改良効果が不十分であり、一方、30質量部を超えるとポーラス等の押し出し加工性の悪化を招くことになる。なお、このシラン化合物はゴムポリマーをカップリングするため、最終練り工程中に、DPG(N,N’−ジフェニルグアニジン)などに代表されるプロトンドナーを配合することがより好ましい。さらに、本発明において、上記シランカップリング剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組合せて用いてもよい。
【0040】
さらにまた、本発明において、ゴム組成物中、天然ゴム及び/または合成ジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部に対して、無機充填剤を含有する充填剤20〜150質量部、好ましくは30〜90質量部を配合してなる。無機充填剤の配合量が20質量部未満では湿潤路面での転がり抵抗が上昇し低燃費性の向上効果が十分ではなく、一方、150質量部を超えると作業性が悪化し、また転がり抵抗の上昇により低燃費性能が悪化する。
【0041】
上記無機充填剤としては、シリカはじめ、例えば、下記一般式(VI)、
mM・xSiOy・zHO (VI)
(一般式(VI)中、Mは、アルミニウム、マグネシウム、チタン、カルシウム、及びジルコニウムからなる群から選ばれる金属、これらの金属の酸化物又は水酸化物、及びそれらの水和物、又はこれらの金属の炭酸塩から選ばれる少なくとも一種であり、m、x、y及びzは、それぞれ1〜5の整数、0〜10の整数、2〜5の整数、及び0〜10の整数であり、上記式において、x、zがともに0である場合には、該無機化合物はアルミニウム、マグネシウム、チタン、カルシウム及びジルコニウムから選ばれる少なくとも1つの金属、金属酸化物又は金属水酸化物となる)で表される化合物を挙げることができる。
【0042】
上記一般式(VI)で表わされる無機充填剤としては、γ−アルミナ、α−アルミナ等のアルミナ(Al)、ベーマイト、ダイアスポア等のアルミナ一水和物(Al・HO)、ギブサイト、バイヤライト等の水酸化アルミニウム[Al(OH)]、炭酸アルミニウム[Al(CO]、水酸化マグネシウム[Mg(OH)]、酸化マグネシウム(MgO)、炭酸マグネシウム(MgCO)、タルク(3MgO・4SiO・HO)、アタパルジャイト(5MgO・8SiO・9HO)、チタン白(TiO)、チタン黒(TiO2n−1)、酸化カルシウム(CaO)、水酸化カルシウム[Ca(OH)]、酸化アルミニウムマグネシウム(MgO・Al)、クレー(Al・2SiO)、カオリン(Al・2SiO・2HO)、パイロフィライト(Al・4SiO・HO)、ベントナイト(Al・4SiO・2HO)、ケイ酸アルミニウム(AlSiO・Al・3SiO・5HO等)、ケイ酸マグネシウム(MgSiO・MgSiO等)、ケイ酸カルシウム(Ca・SiO等)、ケイ酸アルミニウムカルシウム(Al・CaO・2SiO等)、ケイ酸マグネシウムカルシウム(CaMgSiO)、炭酸カルシウム(CaCO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、水酸化ジルコニウム[ZrO(OH)・nHO]、炭酸ジルコニウム[Zr(CO]、各種ゼオライトのように電荷を補正する水素、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む結晶性アルミノケイ酸塩等が使用できる。また、上記一般式(VI)中のMがアルミニウム金属、アルミニウムの酸化物又は水酸化物、及びそれらの水和物、又はアルミニウムの炭酸塩から選ばれる少なくとも一つである場合が好ましい。
【0043】
一般式(VI)で表されるこれらの無機化合物は、単独で使用してもよいし、二種以上を混合して使用してもよい。
【0044】
本発明において、上記無機充填剤の中でもシリカが好ましい。このシリカとしては特に制限はなく、従来ゴムの補強用充填剤として慣用されているものの中から任意に選択して用いることができる。このシリカとしては、例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられ、これらの中でも、破壊特性の改良効果並びにウェットグリップ性および低転がり抵抗性の両立効果に優れる点で、湿式シリカが好ましい。なお、シリカの他に、水酸化アルミニウムや炭酸カルシウム等の無機充填剤を適宜組み合わせて用いることができる。
【0045】
また、本発明においては、トレッドゴム3の60℃における損失正接tanδが次式、0<tanδ<0.240
で表される関係を満足することが好ましい。これにより、低燃費性を確保するとともに、乾燥路面における操縦安定性を向上させることができる。
【0046】
さらに、本発明においては、トレッドゴム3のゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対して、5000〜400000の重量平均分子量(ゲル浸透クロマトグラフィーによるポリスチレン換算)を有する芳香族ビニル化合物−ジエン化合物共重合体2〜70質量部を含んでなり、この共重合体が5〜80質量%の芳香族ビニル化合物からなり、かつジエン化合物の部分のビニル結合量が10〜80質量%であることが好ましい。より好ましくは、この共重合体を5〜40質量部含む。この配合量が2質量部未満では、操縦安定性の更なる改良効果が十分ではなく、一方、70質量部を超えると耐摩耗性能の悪化を招き、好ましくない。かかる芳香族ビニル化合物−ジエン化合物共重合体を上記好適範囲内で配合することで、アロマオイルなどの軟化剤の配合と比較した際、高温域でのヒステリシスロスを損なうことなく、弾性率の向上と加工性の維持との両立が可能となる。
【0047】
さらにまた、本発明においては、トレッドゴム3のゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対して前記芳香族ビニル化合物−ジエン化合物共重合体および軟化剤を合計量で、好ましくは5〜80質量部、より好ましくは5〜60質量部含む。この合計量が5質量部未満であると本発明の所望の効果が得られにくく、一方、80質量部を超えると加工性の悪化を招き、好ましくない。
【0048】
さらにまた、本発明においては、トレッドゴム3のゴム組成物の総充填剤量の内、無機充填剤比率は、好ましくは30〜100質量%、より好ましくは50〜100質量%である。この比率が30質量%未満であると制動性、特には湿潤路面での制動性と低燃費性能とを高度に両立させることが困難となり、好ましくない。
【0049】
トレッドゴム3のゴム成分としては、具体的には、例えば、スチレン・ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、天然ゴム(NR)や、スチレン・イソプレン共重合体ゴム(SIR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム(IIR)およびエチレン・プロピレン共重合体等の合成ゴムが挙げられる。
【0050】
本発明においては、通常のシランカップリング剤ではなく、上記シラン化合物を使用することにより高い加工性と低転がり抵抗との両立が可能となる。但し、かかるシラン化合物は、ポリマーとのゲル化を抑制し、加工性を改善するとともに、分散改良により、低ロス化の効果が得られることが知られているが、同時にゴム成分の弾性率が低下し、操縦安定性が低下する不具合がある。しかし、本発明に係るベルト構造を併用することで操縦安定性を向上させることできることが分かった。
【0051】
トレッドゴム3のゴム組成物に使用し得る軟化剤としては特に限定されるものではないが、アスファルトやプロセスオイル等を用いることができ、かかるプロセスオイルとして、より具体的には、パラフィンオイル、ナフテン系オイル、アロマオイル等が挙げられる。これらの中でも、引っ張り強度および耐摩耗性の観点からは、アロマオイルが好ましく、ヒステリシスロスおよび低温特性の観点からは、ナフテン系オイルおよびパラフィンオイルが好ましい。
【0052】
トレッドゴム3には、一般的なゴム用架橋系を用いることができ、架橋剤と加硫促進剤とを組み合わせて用いることが好ましい。架橋剤としては硫黄等を用いることができ、その使用量としては、ゴム成分100質量部に対し、硫黄分として0.1〜10質量部の範囲が好ましく、1〜5質量部の範囲がより好ましい。架橋剤の配合量が、ゴム成分100質量部に対し硫黄分として0.1質量部未満では、加硫ゴムの破壊強度、耐摩耗性および低発熱性が低下し、一方、10質量部を超えると、ゴム弾性が失われる。また、加硫促進剤としては、特に限定されるものではないが、2−メルカプトベンゾチアゾール(M)、ジベンゾチアジルジスルフィド(DM)、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド(CZ)、N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(NS)等のチアゾール系加硫促進剤、ジフェニルグアニジン(DPG)等のグアニジン系加硫促進剤などが挙げられる。加硫促進剤の使用量としては、ゴム成分100質量部に対して0.1〜5質量部の範囲が好ましく、0.2〜3質量部の範囲がより好ましい。これら加硫促進剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0053】
トレッドゴム3には、上記の他、例えば、老化防止剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、酸化防止剤、カーボンブラック、オゾン劣化防止剤等のゴム業界で通常用いられる添加剤を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して配合することができる。
【0054】
本発明においては、上記トレッドゴム3およびベルト層2に係る条件を満足することにより所期の効果を得ることができるものであり、上記以外の他部材の構造や材質等については、特に制限されるものではない。例えば、図示するように、本発明のタイヤの一対のビード部11には夫々ビードコア4が埋設され、カーカス1はこのビードコア4の周りにタイヤ内側から外側に折り返して係止されている。また、ベルト層2のクラウン部外周にはトレッドゴム3からなるトレッド部12が、カーカス1のサイド部にはサイドウォール部13が、夫々配置されている。さらに、タイヤに充填する気体としては、通常の空気または酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
図1に示すような、カーカス1のクラウン部ラジアル方向に、スチールコードをゴム引きしてなる2層の交錯ベルト層2a,2bと、トレッドゴム3とを順次備える空気入りラジアルタイヤを作製した。各実施例および比較例のベルト層としては、夫々下記表1〜6に従う条件を満足するものを用いた。タイヤサイズは225/45R17とし、交錯ベルト層2a,2bの角度は、タイヤ幅方向に対し±63°とした。使用したトレッドゴムの配合処方(質量部)を下記表2〜6に示す。なお、下記表2〜6中、SBR JSR#1712およびSBR JSR#1500は、油展したものであり、SBR JSR#1712およびSBR JSR#1500の合計量118.75質量部中、ゴム成分は100質量部である。
【0056】
【表1】

【0057】
得られた各供試タイヤにつき、下記に従い評価を行った。その結果を、トレッドゴムの60℃における損失正接tanδの測定値とともに、下記の表2〜6中に併せて示す。
【0058】
(tanδの測定)
レオメトリックス社製の粘弾性測定装置を用いて、周波数15Hz、歪5%の条件で、
トレッドゴムの60℃における損失正接(tanδ)を測定した。
【0059】
(操縦安定性)
各供試タイヤを実車に装着して、乾燥状態(ドライ)のサーキットにおけるドライバーのフィーリング走行により、操縦安定性の評価を行った。結果は、比較例1を100として指数表示した。数値が大なるほど操縦安定性に優れ、良好である。
【0060】
(偏摩耗性)
耐偏摩耗性の評価を、下記に従い行った。
図2に示す形状のサンプルを作製して、ランボーン試験機を用いて摩耗試験を実施し、試験後に(b−a)の値を測定し、オリジナルの差(=4mm)からの変化分の小さい方が耐偏摩耗性に優れると判断した。試験条件はスリップ率:45%、試験時間:30分/サンプルとし、オリジナルの値はa:46mm、b:50mmであった。結果は、比較例1を100として指数表示した。数値が大なるほど結果が良好である。
【0061】
(加工性)
JIS K6300に準拠し、130℃にてムーニー粘度(ML1+4/130℃)を測定し、その逆数を比較例1対比の指数とした。結果は、数値が大なるほど良好である。
【0062】
(転がり抵抗)
供試タイヤに対し、規格に沿って測定法にて転がり抵抗を測定し、その逆数を比較例1対比の指数とした。結果は、数値が大なるほど良好である。
【0063】
【表2】

*1)次式で表わされるシラン化合物(GE製シリコーン)

*2)未変性共重合体分子量8万、ミクロ構造St/Vi=25/65
*3)スズ変性共重合体分子量8万、ミクロ構造St/Vi=25/65
*4)窒素含有共重合体分子量8万、ミクロ構造St/Vi=25/65
【0064】
【表3】

【0065】
下記表4〜6に記載の実施例および比較例については、押出し加工性についても評価し、押出し加工性が良好な場合を○、良好でない場合を×で示した。結果を表4〜6に記載した。なお、比較のため、表4に上記実施例2、表6に上記比較例5と上記実施例2を併記した。
【0066】
【表4】

*5)シランカップリング剤(Momentive Performance Materials社製、商標「NXT_Z」)
【0067】
【表5】

【0068】
【表6】

【0069】
上記表2〜6に示すように、ベルト層のスチールコードおよびトレッドゴムとして、本発明に従う所定条件を満足するものを用いた実施例の空気入りタイヤにおいては、低燃費性と耐偏摩耗性とを両立させつつ、加工性および操縦安定性についても優れた性能を得ることができることが確かめられた。また、上記表4および5に示すように、無機充填剤と結合可能な元素もしくは官能基、及び保護されたメルカプト基を少なくとも含む化合物からなるシランカップリング剤を、30質量部を超えて配合すると、押出し加工性が良好でなかった。さらに、表6に示すように、実施例17および実施例2は、比較例5と比較して、ベルト構造とトレッドで偏摩耗性が格段に向上した。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の一実施の形態に係る空気入りタイヤを示す概略断面図である。
【図2】実施例における耐偏摩耗性の評価試験に用いたサンプル形状を示す概略図で ある。
【符号の説明】
【0071】
1 カーカス
2(2a,2b) 交錯ベルト層
3 トレッドゴム
4 ビードコア
11 ビード部
12 トレッド部
13 サイドウォール部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビード部間でトロイド状に延びるカーカスを骨格とし、該カーカスのクラウン部ラジアル方向外側に、スチールコードをゴム引きしてなる少なくとも2層の交錯ベルト層とトレッドゴムが順次配置された空気入りタイヤにおいて、
前記スチールコードが、素線径0.10〜0.20mmのスチール素線6〜10本からなる単撚り構造またはコア−単層シース構造を有し、該スチールコードの打ち込み本数が40本/50mm以上であり、ベルト層内で隣接する該スチールコード間の距離が0.3mm以上であり、かつ、
前記トレッドゴムが、天然ゴム及び/または合成ジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部に対して、無機充填剤を含有する充填剤20〜150質量部と、前記無機充填剤と結合可能な元素もしくは官能基、及び保護されたメルカプト基を少なくとも含む化合物からなるシランカップリング剤1〜30質量部と、を配合してなるゴム組成物からなることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記無機充填剤と結合することのできる官能基がアルコキシシラン基である請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記シランカップリング剤が、下記一般式(I)、

[一般式(I)中、Rは−Cl、−Br、RO−、RC(=O)O−、RC=NO−、RN−又は−(OSiR(OSiR)(ただし、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜18の一価の炭化水素基である)、RはR、水素原子又は炭素数1〜18の一価の炭化水素基、RはR、R又は−[O(RO)0.5−基(ただし、Rは炭素数1〜18のアルキレン基、aは1〜4の整数である)、Rは炭素数1〜18の二価の炭化水素基、Rは炭素数1〜18の一価の炭化水素基を示し、x、y及びzは、x+y+2z=3、0≦x≦3、0≦y≦2、0≦z≦1の関係を満たす数である]及び/又は下記一般式(II)、

[一般式(II)中、Rは炭素数1〜20の直鎖もしくは、分岐、環状のアルキル基であり、Gはそれぞれ独立して炭素数1〜9のアルカンジイル基又はアルケンジイル基であり、Zはそれぞれ独立して二つの珪素原子と結合することのできる基で、[−O−]0.5、[−O−G−]0.5又は[−O−G−O−] 0.5から選ばれる基であり、Zはそれぞれ独立して二つの珪素原子と結合することのできる基で、[−O−G−O−] 0.5で表される官能基であり、Zはそれぞれ独立して−Cl、−Br、−OR10、R10C(=O)O−、R1011C=NO−、R1011N−,R10−,HO−G−O−で表される官能基であり、Gは前記表記と一致し、R10及びR11はそれぞれ独立に炭素数1〜20の直鎖もしくは、分岐、環状のアルキル基であり、m、n、u、v、wはそれぞれ独立して1≦m≦20、0≦n≦20、0≦u≦3、0≦v≦2、0<w≦1であり、かつ1/2u+v+2w=2又は3であり、A部が複数である場合、複数のA部におけるZ、Z及びZそれぞれにおいて、同一でも異なっていてもよく、B部が複数である場合、複数のB部におけるZ、Z及びZそれぞれにおいて、同一でも異なってもよい]で表されるシランカップリング剤である請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記一般式(II)で表されるシランカップリング剤が、下記化学式(III)、

下記化学式(IV)、

および下記化学式(V)、

(式中Lはそれぞれ独立して炭素数1〜9のアルカンジイル基又はアルケンジイル基である)で表される化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種以上である請求項3に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記トレッドゴムの60℃における損失正接tanδが次式、
0<tanδ<0.240
で表される関係を満足する請求項1〜4のうちいずれか一項記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記ゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対して、5000〜400000の重量平均分子量(ゲル浸透クロマトグラフィーによるポリスチレン換算)を有する芳香族ビニル化合物−ジエン化合物共重合体2〜70質量部を含んでなり、該共重合体が5〜80質量%の芳香族ビニル化合物からなり、かつジエン化合物の部分のビニル結合量が10〜80質量%である請求項1〜5のうちいずれか一項記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記ゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対して前記芳香族ビニル化合物−ジエン化合物共重合体および軟化剤を合計量で5〜80質量部含んでなる請求項1〜6のうちいずれか一項記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
総充填剤量の内、前記無機充填剤比率が30〜100質量%である請求項1〜7のうちいずれか一項記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記無機充填剤がシリカである請求項1〜8に記載の空気入りタイヤ。
【請求項10】
前記スチールコードが、コード最外層に位置する少なくとも1組の隣接するスチール素線間において、ゴムが侵入可能な隙間を有するよう撚合わされてなる構造を有する請求項1〜9のうちいずれか一項記載の空気入りタイヤ。
【請求項11】
前記スチールコードの断面形状が扁平であり、かつ、該扁平断面の長径方向が、前記ベルト層の幅方向に沿って配列している請求項1〜10のうちいずれか一項記載の空気入りタイヤ。
【請求項12】
前記スチールコードが、互いに撚り合わされずに並列して配置された2本のスチール素線をコアとし、該コアの周囲に、残りのスチール素線が、少なくとも1組の隣接するスチール素線間にゴムが侵入可能な隙間を有するよう撚り合わされてなるコア−単層シース構造を有する請求項11記載の空気入りタイヤ。
【請求項13】
前記スチールコードの打ち込み本数が40〜60本/50mmである請求項1〜12のうちいずれか一項記載の空気入りタイヤ。
【請求項14】
前記ベルト層内で隣接するスチールコード間の距離が0.4〜1.0mmである請求項1〜13のうちいずれか一項記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−260517(P2008−260517A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−66692(P2008−66692)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】