説明

空気入りタイヤ

【課題】耐久性が高く且つスチールコードとコーティングゴムとの接着性が安定した空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】ベルト5がコーティングゴムで被覆したスチールコードよりなる層を含む空気入りタイヤにおいて、前記スチールコードを被覆するコーティングゴムに、ゴム成分100質量部に対し、硫黄3.5〜7.0質量部と、アジピン酸ビス(3-ヒドロキシフェニル)エステル0.1〜5.0質量部と、有機酸コバルト塩を0.05〜1.5質量部と、ヘキサメトキシメチルメラミン0.5〜5.0質量部とを配合し、更にフェノール系樹脂を前記ヘキサメトキシメチルメラミンの配合量の0.5〜2.5倍の質量配合してなるゴム組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤや工業用ベルト等のゴム物品に用いられるスチールコード等の金属補強材との接着耐久性に優れたゴム組成物をベルト用コーティングゴムに用いた空気入りタイヤに関するものである。更に詳しくは、本発明は、経時変化が小さく、金属補強材に対する初期接着性及び耐湿熱接着性が良好なゴム組成物をベルト用コーティングゴムに用いることで、ゴムの劣化による破壊特性の低下に伴いベルト端部に発生するクラック及びセパレーションの進展を抑制することにより、耐久性を向上させた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤにおいては、コーティングゴムで被覆したスチールコードの層を含むベルトを用いた場合、スチールコードを被覆するコーティングゴムが、タイヤの耐久性に関与する重要なゴムとなり、ここで、該コーティングゴムに求められる性能としては、ベルト端部の歪抑制、ゴムの耐劣化性、劣化に伴いベルト端部から発生するクラック(セパレーション)の抑制、スチールコードとの接着性等が挙げられる。
【0003】
これに対し、ベルト端部の層間せん断歪抑制と、コーティングゴムの劣化によるベルト端(スチールコード端)からの亀裂成長の抑制に関しては、コーティングゴムとして用いるゴム組成物の弾性率を向上させて、ベルト端部の層間せん断歪を抑制し、且つ、ゴム劣化に伴う破壊特性の低下を抑制することが、有効な手段となる。ここで、ゴム組成物の弾性率を向上させる手段としては、(a)ゴム組成物に配合するカーボンブラック等の充填剤の配合量を増量する手法、(b)ゴム組成物に樹脂等の硬化剤を添加する手法等が挙げられ、また、ゴム組成物の弾性率を向上させると共に、スチールコードとの接着性を向上させる手段としては、(c)ゴム組成物に配合する硫黄等の架橋剤の配合量を増量する手法、(d)ゴム組成物に配合する加硫促進剤の配合量を増量する手法等が挙げられるが、上記したベルト用コーティングゴムに求められる性能の全てを高度にバランスさせることは非常に困難であった。
【0004】
また、国際公開第2005/087860号パンフレット(特許文献1)及び特開2005−290373号公報(特許文献2)には、カーカス及びベルトに用いるスチールコードに対し、該スチールコードを被覆するコーティングゴムの初期接着性及び耐湿熱接着性が低下すると、カーカス及びベルトの少なくとも一方の耐久性が低下し、延いては、タイヤの耐久性に問題が生じることが報告されている。
【0005】
【特許文献1】国際公開第2005/087860号パンフレット
【特許文献2】特開2005−290373号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、耐湿熱接着性の向上効果があるレゾルシンやレゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂(RF樹脂)を配合したゴム組成物と同等以上の耐湿熱接着性を有し、従来の手法では困難であった初期接着性、耐湿熱接着性及び老化特性(破壊特性)を高度にバランスした、弾性率が高いゴム組成物を、ベルトのスチールコードの層のコーティングゴムに適用することにより、ベルト端部から発生するセパレーションに対する耐久性及びベルト層間の剥離耐久性が高く且つスチールコードとコーティングゴムとの接着性が安定した空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、硫黄、アジピン酸ビス(3-ヒドロキシフェニル)エステル、有機酸コバルト塩、ヘキサメトキシメチルメラミン及びフェノール系樹脂をゴム成分に所定量配合したゴム組成物を、ベルトのスチールコードの層のコーティングゴムに適用することにより、スチールコードとコーティングゴムとの接着安定性を高め、製造されたタイヤが高い耐久性を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明の空気入りタイヤは、一枚以上のカーカスプライからなるカーカスと、該カーカスのタイヤ半径方向外側に配設した二枚以上のベルト層からなるベルトとを備え、該ベルトがコーティングゴムで被覆したスチールコードよりなる層を含む空気入りタイヤにおいて、
前記スチールコードを被覆するコーティングゴムに、ゴム成分100質量部に対し、硫黄3.5〜7.0質量部と、アジピン酸ビス(3-ヒドロキシフェニル)エステル0.1〜5.0質量部と、有機酸コバルト塩を0.05〜1.5質量部と、ヘキサメトキシメチルメラミン0.5〜5.0質量部とを配合し、更にフェノール系樹脂を前記ヘキサメトキシメチルメラミンの配合量の0.5〜2.5倍の質量配合してなるゴム組成物を用いたことを特徴とする。
【0009】
本発明の空気入りタイヤの好適例においては、前記ゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対して、1,6-ヘキサメチレンジチオ硫酸ナトリウム・2水和物を0.5〜2.0質量部配合する。
【0010】
本発明の空気入りタイヤにおいては、前記ゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対し、硫黄4.0〜5.5質量部と、アジピン酸ビス(3-ヒドロキシフェニル)エステル0.5〜2.0質量部と、有機酸コバルト塩を0.3〜1.0質量部と、ヘキサメトキシメチルメラミン0.5〜3.5質量部と、フェノール系樹脂0.5〜6.0質量部とを配合してなることが好ましい。
【0011】
本発明の空気入りタイヤの他の好適例においては、前記スチールコードがモノフィラメントからなる。この場合、コーティングゴムで被覆したスチールコードよりなる層を薄くすることができ、転がり抵抗が低下する。
【0012】
本発明の空気入りタイヤの他の好適例においては、前記コーティングゴムで被覆したスチールコードよりなる層内で隣接するスチールコード間の距離が0.7〜1.3mmの範囲である。この場合、タイヤの耐久性を大幅に向上させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ベルトがコーティングゴムで被覆したスチールコードの層を含む空気入りタイヤにおいて、該スチールコードを被覆するコーティングゴムに、硫黄、アジピン酸ビス(3-ヒドロキシフェニル)エステル、有機酸コバルト塩、ヘキサメトキシメチルメラミン及びフェノール系樹脂を所定量配合したゴム組成物を適用することにより、ベルト端部から発生するセパレーションに対する耐久性及びベルト層間の剥離耐久性、並びにスチールコードとコーティングゴムとの接着安定性を高め、高い耐久性を有する空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、図を参照しながら本発明を詳細に説明する。図1は、本発明の空気入りタイヤの一例の断面図である。図1に示すタイヤは、一対のビード部1及び一対のサイドウォール部2と、両サイドウォール部2に連なるトレッド部3とを有し、上記一対のビード部1間にトロイド状に延在してこれら各部1,2,3を補強するカーカス4と、該カーカス4のクラウン部のタイヤ半径方向外側に位置するベルト5とを備える。
【0015】
図示例のタイヤにおいて、カーカス4は、一枚のカーカスプライからなり、また、上記ビード部1内に夫々配設した一対のビードコア6間にトロイド状に延在する本体部と、各ビードコア6の周りでタイヤ幅方向の内側から外側に向けて半径方向外方に巻上げた折り返し部とからなる。なお、図示例のカーカス4は、一枚のカーカスプライよりなるが、本発明の空気入りタイヤにおいては、カーカスプライの枚数は複数であってもよい。
【0016】
また、図示例のタイヤにおいては、該カーカス4のクラウン部のタイヤ半径方向外側に二枚のベルト層からなるベルト5が配置されており、該ベルト層は、通常、タイヤ赤道面に対して傾斜して延びるコードのゴム引き層からなり、二枚のベルト層は、該ベルト層を構成するコードが互いに赤道面を挟んで交差するように積層されてベルト5を構成する。なお、図中のベルト5は、二枚のベルト層からなるが、本発明の空気入りタイヤにおいて、ベルトを構成するベルト層の枚数は二枚以上であればよく、これに限られるものではない。更に、本発明の空気入りタイヤは、ベルト5のタイヤ半径方向外側に、タイヤ周方向に対し実質的に平行に配列したコードのゴム引き層からなるベルト補強層を備えてもよく、ベルト5の端部と該ベルト補強層の間に更に層間ゴムを備えることもできる。
【0017】
本発明の空気入りタイヤにおいて、ベルト5は、コーティングゴムで被覆したスチールコードよりなる層を含む。即ち、ベルト5を構成するベルト層の少なくとも一層が、スチールコードの層であればよく、複数のベルト層がスチールコードの層であってもよい。
【0018】
また、図2は、本発明の空気入りタイヤのベルトを構成するスチールコードの層を示す一例の断面図である。図示例のスチールコードの層7は、複数のスチールコード8をコーティングゴム9で被覆してなる。ここで、スチールコード8はモノフィラメントからなることが好ましい。スチールコード8がモノフィラメントからなれば、スチールコードの層7を薄くすることができ、コーティングゴムの重量の低減が可能となる。その結果、タイヤの転がり抵抗を低減することができる。なお、スチールコードの層7の厚さは0.8〜1.2mmの範囲が好ましい。
【0019】
上記スチールコードの層7において、スチールコード8の線径は0.17〜0.35mmの範囲が好ましい。該線径が0.17mm未満では、タイヤの耐久性を十分に確保することができず、一方、0.35mmを超えると、コーティングゴムの重量の低減効果が十分に得られない。
【0020】
上記スチールコードの層7において、層内で隣接するスチールコード8間の距離Dは0.7〜1.3mmの範囲であることが好ましい。ここで、距離Dは、コーティングゴムで被覆したスチールコードよりなる層内で隣接するスチールコード間の最短距離である。該距離Dが上記した範囲内にあれば、軽量化により転がり抵抗の低減が可能となり、タイヤの耐久性が向上する。また、距離Dが0.7mm未満では、重量が重くなり軽量化による効果が得られず、一方、1.3mmを超えると、ベルトの剛性が不足し、耐久性能、操縦安定性等が低下するおそれがある。
【0021】
そして、本発明の空気入りタイヤは、ベルト5においてスチールコードを被覆するコーティングゴムに、ゴム成分100質量部に対し、硫黄3.5〜7.0質量部と、アジピン酸ビス(3-ヒドロキシフェニル)エステル(3HPAD)0.1〜5.0質量部と、有機酸コバルト塩を0.05〜1.5質量部と、ヘキサメトキシメチルメラミン(HMMM)0.5〜5.0質量部とを配合し、更にフェノール系樹脂を前記ヘキサメトキシメチルメラミンの配合量の0.5〜2.5倍の質量配合してなるゴム組成物を用いる。ここで、上記コーティングゴムに用いるゴム組成物は、硫黄、アジピン酸ビス(3-ヒドロキシフェニル)エステル、有機酸コバルト塩、ヘキサメトキシメチルメラミン及びフェノール系樹脂がゴム成分に所定量配合されており、初期接着性及び耐湿熱接着性を十分に確保しつつ、弾性率を確保しているため、タイヤのベルト端部の歪を低減することができる。更に、上記ゴム組成物は、上記特性の確保に加えて、老化後の破壊特性の低下が抑制されているため、タイヤのベルト端部でのセパレーションの原因となるクラックの進展からのベルト−ベルト間の剥離を抑制することができる。
【0022】
上記コーティングゴムに用いられるゴム組成物のゴム成分としては、ゴム弾性を示すものであれば特に制限はないが、天然ゴムの他;ビニル芳香族炭化水素/共役ジエン共重合体、ポリイソプレンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム等の合成ゴム等の公知のゴムの総てを用いることができる。該ゴム成分は1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。金属補強材との接着特性及びゴム組成物の破壊特性の観点から、該ゴム成分は、天然ゴム及びポリイソプレンゴムの少なくとも一方よりなるか、50質量%以上の天然ゴムを含み残部が合成ゴムであるのが好ましい。
【0023】
上記コーティングゴムに用いられるゴム組成物に配合される硫黄に特に制限はないが、通常粉体を用いる。該ゴム組成物に配合される硫黄の配合量は、ゴム成分100質量部に対して3.5〜7.0質量部の範囲であり、4.0〜5.5質量部の範囲が好ましい。硫黄の配合量が上記の特定した範囲内にあれば、スチールコード等の金属補強材との接着性に優れる。また、硫黄の配合量がゴム成分100質量部に対して7.0質量部を超えると、弾性率の高いゴム組成物が得られる一方で、該ゴム組成物の老化後の破壊特性が著しく低下する。更に、硫黄の配合量がゴム成分100質量部に対して3.5質量部未満では、初期接着速度が遅くなる上、接着耐久性も悪化し、更には、ゴム組成物の弾性率をも著しく低減する。
【0024】
上記コーティングゴムに用いられるゴム組成物に配合されるアジピン酸ビス(3-ヒドロキシフェニル)エステル(3HPAD)は、接着促進剤として好適な化合物である。ここで、アジピン酸(3-ヒドロキシフェニル)エステルは、特に制限されないが、例えば、レゾルシンと、塩化アジポイルとを、必要に応じて塩基の存在下で反応させて製造される。また、上記アジピン酸ビス(3-ヒドロキシフェニル)エステルの配合量は、ゴム成分100質量部に対して0.1〜5.0質量部の範囲であり、0.5〜2.0質量部の範囲が好ましい。3HPADの配合量が上記の特定した範囲内にあれば、ゴム組成物の湿熱接着性が向上し、3HPADのブルームを抑制することができる。また、3HPADの配合量がゴム成分100質量部に対して5.0質量部を超えると、ブルームの発生により、外観や他の部材の性能を低下させるおそれがあり、一方、0.1質量部未満では、十分な湿熱接着性の改良効果が期待できない。
【0025】
上記コーティングゴムに用いられるゴム組成物に配合される有機酸コバルト塩としては、特に制限されるものではないが、例えば、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ロジン酸コバルト、バーサチック酸コバルト、トール油酸コバルト等が挙げられる。該有機酸コバルト塩は、有機酸の一部をホウ酸等で置き換えた複合塩でもよい。具体的には、マノボンド(商標:OM Group Inc.製)等が挙げられる。有機酸コバルト塩の配合量は、上記ゴム成分100質量部に対して0.05〜1.5質量部の範囲であり、0.3〜1.0質量部の範囲が好ましい。有機酸コバルト塩の配合量が上記の特定した範囲内にあれば、ゴム組成物と金属補強材との接着性が向上すると共に、ゴム組成物の老化が抑制される。また、有機酸コバルト塩の配合量がゴム成分100質量部に対して1.5質量部を超えると、耐老化特性が大幅に低下するおそれがあり、一方、0.05質量部未満では、十分な接着性が得られず、また、加硫速度が遅くなる。
【0026】
上記コーティングゴムに用いられるゴム組成物には、樹脂硬化剤として、ヘキサメトキシメチルメラミン(HMMM)が配合される。ヘキサメトキシメチルメラミンの配合量は、ゴム成分100質量部に対して0.5〜5.0質量部の範囲であり、0.5〜3.5質量部の範囲が好ましい。HMMMの配合量がゴム成分100質量部に対して5.0質量部を超えると、湿熱接着性が低下し、また、加硫速度が遅くなる。一方、HMMMの配合量がゴム成分100質量部に対して0.5質量部未満では、十分な弾性率が得られず、ベルト端部から発生するクラックの抑制の低下が懸念される。
【0027】
上記コーティングゴムに用いられるゴム組成物には、フェノール系樹脂が配合される。ここで、該ゴム組成物に配合されるフェノール系樹脂の配合量は、上記ヘキサメトキシメチルメラミンの配合量の0.5〜2.5倍の質量であることを要する。フェノール系樹脂の配合量がヘキサメトキシメチルメラミンの配合量の2.5倍の質量を超えると、即ち、フェノール系樹脂に対するヘキサメトキシメチルメラミンの割合が低すぎると、フェノール系樹脂の硬化反応が十分に進行しないため、ゴム組成物の弾性率を十分に確保することができず、一方、フェノール系樹脂の配合量がヘキサメトキシメチルメラミンの配合量の0.5倍の質量より少ないと、即ち、フェノール系樹脂に対するヘキサメトキシメチルメラミンの割合が高すぎると、ヘキサメトキシメチルメラミンとアジピン酸ビス(3-ヒドロキシフェニル)エステルとの硬化反応が起こり、本来得られる接着耐久性が低下することになる。また、フェノール系樹脂の配合量が少なすぎると、ゴム組成物の弾性率が十分に確保することができない場合があり、これに対して、フェノール系樹脂の配合量が多すぎると、走行/劣化後のゴム組成物(ベルトコーティングゴム)の耐クリープ性が悪化し、ベルト端部からのクラックの発生が助長されるおそれがある。以上のことより、フェノール系樹脂の配合量は、ゴム成分100質量部に対して0.5〜6.0質量部の範囲が好ましい。
【0028】
上記フェノール系樹脂としては、特に制限されるものではないが、例えば、アルキルフェノールホルムアルデヒド系樹脂及びそのロジン変性体、アルキルフェノールアセチレン系樹脂、変性アルキルフェノール樹脂、テルペンフェノール樹脂等が挙げられる。なお、これらフェノール系樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
上記コーティングゴムに用いられるゴム組成物には、更に1,6-ヘキサメチレンジチオ硫酸ナトリウム・2水和物(HTS)を配合することができる。1,6-ヘキサメチレンジチオ硫酸ナトリウム・2水和物は、架橋剤であり、ゴム成分等のポリマーと反応する一方、上記スチールコードがコーティングゴムとの接着を良好にするためにメッキ処理されている場合においては、該スチールコードのメッキ中の金属とも反応するため、コーティングゴムとスチールコードとの接着性の向上に有効に作用し得る。HTSの配合量は、上記ゴム成分100質量部に対して0.5〜2.0質量部の範囲が好ましい。HTSの配合量がゴム成分100質量部に対して0.5質量部未満では、上記した効果が十分に得られず、一方、2.0質量部を超えると、加硫速度が遅くなり、十分な物性が得られない。
【0030】
上記コーティングゴムに用いられるゴム組成物には、上記ゴム成分、硫黄、アジピン酸ビス(3-ヒドロキシフェニル)エステル、有機酸コバルト塩、ヘキサメトキシメチルメラミン、フェノール系樹脂、1,6-ヘキサメチレンジチオ硫酸ナトリウム・2水和物の他、カーボンブラック及びシリカ等の充填剤、アロマオイル等の軟化剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、老化防止剤剤等のゴム業界で通常使用される配合剤を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して配合することができる。これら配合剤としては、市販品を好適に使用することができる。
【0031】
上記コーティングゴムに用いられるゴム組成物の調製方法に特に制限はなく、例えば、バンバリーミキサーやロール等を用いて、ゴム成分に、硫黄、アジピン酸ビス(3-ヒドロキシフェニル)エステル、有機酸コバルト塩、ヘキサメトキシメチルメラミン、フェノール系樹脂、及び各種配合剤を練りこんで調製することができる。混練りされたゴム組成物は、ロール等でシート状に加工され、更に加工されたゴムシート2枚がスチールコードを挟んだ状態に成形加工されて、ベルト層が形成される。形成されたベルト層は常法に従ってカーカスのタイヤ半径方向外側に積層され、その他の部材と共に本発明の空気入りタイヤを構成する。本発明の空気入りタイヤのトレッド踏面部、サイドウォール部及びビード部等には、通常のタイヤのそれらの部分に使用される材料、形状、配置を適宜採用することができる。
【0032】
本発明の空気入りタイヤのベルトに用いられるゴム組成物と接着されるスチールコードは、ゴムとの接着を良好にするために黄銅、亜鉛或いはこれらにニッケルやコバルトを含有する金属でメッキ処理されているのが好ましく、黄銅メッキ処理されているのが特に好ましい。また、該コードのサイズ、撚り数、撚り条件等は、タイヤの要求性能に応じて適宜選択される。
【0033】
また、本発明の空気入りタイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0034】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0035】
<アジピン酸ビス(3-ヒドロキシフェニル)エステル(3HPAD)の製造例>
レゾルシン330.6g(3.0mol)をピリジン600.0gに溶解させた溶液を氷浴上で15℃以下に保ちながら、塩化アジポイル54.9g(0.30mol)を徐々に滴下した。滴下終了後、得られた反応混合物を室温まで昇温し、一昼夜放置して反応を完結させた。反応混合物から、ピリジンを減圧下で留去し、残留物に水1200gを加えて氷冷すると固体が析出した。析出した固体をろ過し、水洗し、減圧乾燥して、白色から淡黄色の固体84gを得た。この固体を分取装置を備えた液体クロマトグラフィー(HPLC)で下記の条件にて処理し、主たる成分を含む溶離液を分取した。この溶離液を濃縮し、析出した結晶をろ過して回収し、減圧乾燥して、融点140〜143℃の結晶(アジピン酸ビス(3-ヒドロキシフェニル)エステル)を得た。なお、得られた化合物は、MSスペクトル、IRスペクトル、1H-NMRスペクトル及び13C-NMRスペクトルにより得られたデータにより同定された。
【0036】
なお、HPLCの分取条件は、次の通りである。
カラム :Shim−pack PREP−ODS(島津製作所製)
カラム温度 :25℃
溶離液 :メタノール/水混合溶剤(85/15(w/w%))
溶離液の流速:流量3mL/分
検出器 :UV検出器(254nm)
【0037】
<実施例1〜2及び比較例1〜6>
バンバリーミキサーで混練して、表1に示す配合処方のゴム組成物を調製し、該ゴム組成物に対して、下記の方法で弾性率、耐老化性、初期接着性を測定・評価した。また、該ゴム組成物でスチールコードを被覆してベルト層を形成し、図1の構造でサイズ:185/70 R14のタイヤを常法により試作し、該タイヤのベルト層におけるスチールコードとコーティングゴムとの接着耐久性を下記の方法で評価した。更に、上記ベルト層に加えて、ベルト補強層及び層間ゴムを備えた、サイズ:185/70 R14のタイヤを常法により試作し、該タイヤのベルト端部のクラック長さを下記の方法で評価した。以上の結果を表1に示す。
【0038】
(1)弾性率評価
上記ゴム組成物を160℃で14分間加硫して得た加硫ゴムに対し、JIS K6301−1995(3号形試験片)に準拠して25℃にて測定試験を行い、100%伸張時の引張応力を測定し、比較例1のゴム組成物の引張応力を100として指数表示した。指数値が大きい程、引張応力が高く、弾性率も高いことを示す。
【0039】
(2)耐老化性評価
上記ゴム組成物を160℃で14分間加硫して得た加硫ゴムに対し、JIS K6301−1995(3号形試験片)に準拠して、老化前と老化後の伸びEB(%)を測定し、下記式にて保持率を算出した。保持率が大きい程、耐老化特性が高く良好であることを示す。なお、上記老化は、上記加硫ゴムを100℃にて24時間空気中で放置劣化することにより行われた。
保持率 = 100×(老化後のEB)/(老化前のEB)
【0040】
(3)初期接着性評価
黄銅(Cu;63質量%、Zn;37質量%)メッキしたスチールコード(1×5構造、素線径0.25mm)を12.5mm間隔で平行に並べ、該スチールコードを上下両側から各ゴム組成物でコーティングして、これを160℃×10分の条件で加硫し、サンプルを作製した。該サンプルに対し、ASTM−D−2229に準拠して、スチールコードを引き抜き、引き抜かれたコードのゴムの被覆状態を目視で観察し、その被覆率を0〜100%で表示して初期接着性の指標とした。数値が大きい程、初期接着性が高く良好であることを示す。
【0041】
(4)接着耐久性評価
供試タイヤを、100℃、95%RHに保持した恒温恒湿槽中に5週間放置した後、タイヤからベルト層を取り出し、ベルト層中のスチールコードを引張試験機により50mm/minの速度で引張り、露出したスチールコードのゴムの被覆状態を目視で観察し、その被覆率を0〜100%で表示して湿熱接着性の指標とした。数値が大きい程、接着性が高く良好であることを示す。
【0042】
(5)ベルト端部のクラック長さ
上記ゴム組成物で被覆したスチールコードのベルト層からなるベルトと該ベルト端部のベルト補強層との間に厚み0.5mmで幅15mmの層間ゴムを挿入したタイヤをリム組みし、酸素を充填して、60℃にて2週間熱処理した後、ドラム速度:90km/h、スリップアングル:±2度、荷重:480kg、内圧:220kPaの条件で、20000km走行後のベルト端部のクラック長さを測定し、比較例1のゴム組成物のベルト端部のクラック長さを100として指数表示した。指数値が小さい程、クラックの進展が小さいことを示す。
【0043】
【表1】

【0044】
*1 OMG製,マノボンドC22.5.
*2 N-1,3-ジメチルブチル-N'-フェニル-p-フェニレンジアミン.
*3 住友ベークライト(株)製,Phenolic resin スミライトレジンPR−50235.
*4 N,N'-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド.
【0045】
表1から、ゴム成分に対し、硫黄、アジピン酸ビス(3-ヒドロキシフェニル)エステル、有機酸コバルト塩、ヘキサメトキシメチルメラミン及びフェノール系樹脂を所定量配合した実施例1〜2のゴム組成物は、弾性率が十分に確保されており、また、比較例1〜6のゴム組成物に比べて、耐老化性、初期接着性及び接着耐久性が高度にバランスされていることが分かる。更に、実施例1〜2のゴム組成物を用いたタイヤは、比較例1〜6のゴム組成物を用いたタイヤに比べて、ベルト端部のクラックの進展が抑制されていることが分かる。
【0046】
<実施例3〜6及び比較例7>
実施例1〜2及び比較例1のタイヤについて、ベルト層を構成するスチールコードを表2に示す条件に変更した以外は、上記方法と同様にして実施例3〜4及び比較例7のタイヤを試作した。また、実施例3のタイヤについて、隣接するスチールコード間の距離及びベルト層の重量差を表2に示す条件にした以外は、上記方法と同様にして実施例5〜6のタイヤを試作した。得られたタイヤについて、転がり抵抗を下記の方法で評価し、ベルト端部のクラック長さを上記の方法で評価した。結果を表2に示す。
【0047】
(6)転がり抵抗
正規荷重及び内圧の下、80km/hでの転がり抵抗を測定し、比較例1の転がり抵抗を100として指数表示した。指数値が小さい程、転がり抵抗が小さいことを示す。
【0048】
【表2】

【0049】
*5 比較例1のタイヤのベルト層を基準とし,各タイヤのベルト層の重量差を示す.
*6 ベルト端部のクラック長さ及び転がり抵抗の評価について,比較例1のタイヤとの比較から,両方の評価が改良されたものを「◎」とし,ベルト端部のクラック長さの評価のみが改良されたものを「○」とし,ベルト端部のクラック長さの評価が悪化したものを「×」とした.
【0050】
表2から、ベルト層を形成するスチールコードをモノフィラメントとした実施例3〜6のタイヤは、ベルト端部のクラックの進展が抑制されることに加えて、転がり抵抗を低減できることが分かる。また、実施例3〜4のタイヤは、同様にスチールコードをモノフィラメントとした比較例7のタイヤに比べて、転がり抵抗の低減効果が高いことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の空気入りタイヤの一例の断面図である。
【図2】本発明の空気入りタイヤのベルトを構成するスチールコードの層を示す一例の断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 ビード部
2 サイドウォール部
3 トレッド部
4 カーカス
5 ベルト
6 ビードコア
7 スチールコードの層
8 スチールコード
9 コーティングゴム
D 隣接するスチールコード間の距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一枚以上のカーカスプライからなるカーカスと、該カーカスのタイヤ半径方向外側に配設した二枚以上のベルト層からなるベルトとを備え、該ベルトがコーティングゴムで被覆したスチールコードよりなる層を含む空気入りタイヤにおいて、
前記スチールコードを被覆するコーティングゴムに、ゴム成分100質量部に対し、硫黄3.5〜7.0質量部と、アジピン酸ビス(3-ヒドロキシフェニル)エステル0.1〜5.0質量部と、有機酸コバルト塩を0.05〜1.5質量部と、ヘキサメトキシメチルメラミン0.5〜5.0質量部とを配合し、更にフェノール系樹脂を前記ヘキサメトキシメチルメラミンの配合量の0.5〜2.5倍の質量配合してなるゴム組成物を用いたことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記ゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対して、1,6-ヘキサメチレンジチオ硫酸ナトリウム・2水和物を0.5〜2.0質量部配合してなることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記ゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対し、硫黄4.0〜5.5質量部と、アジピン酸ビス(3-ヒドロキシフェニル)エステル0.5〜2.0質量部と、有機酸コバルト塩を0.3〜1.0質量部と、ヘキサメトキシメチルメラミン0.5〜3.5質量部と、フェノール系樹脂0.5〜6.0質量部とを配合してなることを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記スチールコードがモノフィラメントからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記コーティングゴムで被覆したスチールコードよりなる層内で隣接するスチールコード間の距離が0.7〜1.3mmの範囲であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−57535(P2009−57535A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−59902(P2008−59902)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】