説明

空気入りタイヤ

【課題】高速耐久性及び高荷重耐久性に優れた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】一対のビード部1及び一対のサイドウォール部2と、両サイドウォール部2に連なるトレッド部3とを有し、前記一対のビード部1間にトロイド状に延在してこれら各部を補強するラジアルカーカス4と、該カーカス4のクラウン部の半径方向外側に配置したベルト5とを備えた空気入りタイヤにおいて、前記カーカス4に、177℃における熱収縮応力が2.0mN/dtex以上のポリエチレンナフタレートからなるコードをコーティングゴムで被覆してなるコード−ゴム複合体を用い、前記コーティングゴムに、30℃における1%歪時の動的弾性率(E’)が5〜15MPaで、かつ30℃における1%歪時の損失正接(tanδ)が0.10〜0.20であるゴム組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤ、特に高速耐久性及び高荷重耐久性に優れた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、乗用車用ラジアルタイヤのカーカスには、補強コードとして、ポリエチレンテレフタレート(PET)コードが多用されている。これは、ポリエチレンテレフタレートコードが、有機繊維コードの中でも高弾性率でありながら低コストな材質であることによる。しかし、ポリエチレンテレフタレートコードは、常温時に高い弾性率を有するコードであっても、高温時での弾性率の低下が大きく、高温時に高い弾性率を維持することができない。このため、ポリエチレンテレフタレートコードをカーカスに用いた場合、高速走行時や高荷重走行時におけるタイヤの耐久性の悪化が問題となる。
【0003】
また、ポリエチレンテレフタレートコード等の有機繊維コードは、該コードを被覆するコーティングゴムとの接着性を改善するために接着剤処理が施されている。ここで、ポリエチレンテレフタレートコードの接着剤処理としては、レゾルシンとホルムアルデヒドとラテックスとを混合してなる接着剤液(以下、RFL接着剤液と称す)による処理が一般的である。しかし、ポリエチレンテレフタレートからなるフィラメントは、表面に官能基を有していないため、通常のRFL接着剤液による接着剤処理では、コーティングゴムとの接着性が十分に得られず、とりわけ130℃以上の高温下では極端に接着力が低下してしまうという問題を有していた。
【0004】
【特許文献1】特開平9−156313号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、高速耐久性及び高荷重耐久性に優れた空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、カーカスを構成する補強材として、一定値以上の熱収縮応力を有するポリエチレンナフタレート(PEN)コードを適用し、更に、該コードを被覆するコーティングゴムに特定の物性を有するゴム組成物を適用したタイヤにおいて、高速耐久性及び高荷重耐久性が改善されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち、本発明の空気入りタイヤは、一対のビード部及び一対のサイドウォール部と、両サイドウォール部に連なるトレッド部とを有し、前記一対のビード部間にトロイド状に延在してこれら各部を補強するラジアルカーカスと、該カーカスのクラウン部の半径方向外側に配置したベルトとを備えた空気入りタイヤにおいて、
前記カーカスに、177℃における熱収縮応力が2.0mN/dtex以上のポリエチレンナフタレートからなるコードをコーティングゴムで被覆してなるコード−ゴム複合体を用い、
前記コーティングゴムに、30℃における1%歪時の動的弾性率(E’)が5〜15MPaで、かつ30℃における1%歪時の損失正接(tanδ)が0.10〜0.20であるゴム組成物を用いたことを特徴とする。
【0008】
本発明の空気入りタイヤの好適例において、前記コードは、熱可塑性重合体(A)、熱反応型水性ウレタン樹脂(B)、エポキシ化合物(C)及びゴムラテックス(D)を含み、前記熱可塑性重合体(A)の主鎖が付加反応性のある炭素−炭素二重結合を実質的に有せず、ペンダント基として架橋性を有する官能基を少なくとも一つ有する接着剤組成物で接着剤処理されてなる。
【0009】
本発明の空気入りタイヤの他の好適例において、前記コードは、総繊度が500〜10,000dtexである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、カーカスに、177℃における熱収縮応力が一定値以上であるポリエチレンナフタレートからなるコードを、特定の物性を有するゴム組成物からなるコーティングゴムで被覆したコード−ゴム複合体を用い、高速耐久性及び高荷重耐久性に優れた空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、図を参照しながら本発明を詳細に説明する。図1は、本発明の空気入りタイヤの一実施態様の断面図である。図1に示すタイヤは、左右一対のビード部1及び一対のサイドウォール部2と、両サイドウォール部2に連なるトレッド部3とを有し、前記一対のビード部1間にトロイド状に延在して、これら各部1,2,3を補強するラジアルカーカス4と、該カーカス4のクラウン部のタイヤ半径方向外側に配置した二枚のベルト層からなるベルト5とを備える。
【0012】
図示例のタイヤにおいて、上記ベルト5は、二枚のベルト層からなるが、本発明の空気入りタイヤにおいては、ベルト5を構成するベルト層の枚数はこれに限られるものではない。ここで、ベルト層は、通常、タイヤ赤道面に対して傾斜して延びるコードのゴム引き層からなり、二枚のベルト層は、該ベルト層を構成するコードが互いに赤道面を挟んで交差するように積層されてベルト5を構成する。また、本発明の空気入りタイヤは、上記ベルト5のタイヤ半径方向外側にベルト5の全体を覆う構造のベルト補強層を備えてもよい。ここで、ベルト補強層は、通常、タイヤ周方向に対し実質的に平行に配列したコードのゴム引き層からなる。
【0013】
更に、図示例のタイヤにおいて、ラジアルカーカス4は、平行に配列された複数のコードをコーティングゴムで被覆してなるカーカスプライ一枚から構成され、加えて、該カーカスは、上記一対のビード部1に夫々埋設されたビードコア6間にトロイド状に延びる本体部と、ビードコア6の周りでタイヤ幅方向内側から外側に向けて半径方向外方に巻上げた折り返し部とからなるが、本発明の空気入りタイヤにおいて、カーカス4の構造及びプライ数は、これに限られるものではない。
【0014】
本発明の空気入りタイヤにおいては、上記ラジアルカーカス4に、177℃における熱収縮応力が2.0mN/dtex以上のポリエチレンナフタレート(PEN)からなるコードをコーティングゴムで被覆してなるコード−ゴム複合体を用い、前記コーティングゴムに、30℃における1%歪時の動的弾性率(E’)が5〜15MPaで、かつ30℃における1%歪時の損失正接(tanδ)が0.10〜0.20であるゴム組成物を用いたことを特徴とする。
【0015】
現在、空気入りタイヤにおいては、その骨格をなすカーカスを構成する補強材として、ポリエチレンテレフタレート(PET)コードを用いることが通例である。しかしながら、該ポリエチレンテレフタレートコードは、常温時における弾性率は高いものの高温時での弾性率の低下が大きいので、高速走行するに従ってタイヤの内部温度が上昇した際に、タイヤの耐久性が悪化し、タイヤ故障を起こすおそれがある。故に、カーカスを構成する補強コードとしては、高温時での弾性率を高度に維持することが、タイヤの高速耐久性を改良する上で重要な意義を持つ。そこで、本発明者が検討したところ、ポリエチレンテレフタレートコードに比較して弾性率が高いポリエチレンナフタレートコードを用い、該PENコードの177℃における熱収縮応力を2.0mN/dtex以上に調整することで、熱による弾性率の低下を抑え、高温時における弾性率の維持を実現し、タイヤの高速耐久性が向上できることを見出した。
【0016】
また、本発明の空気入りタイヤにおいては、上記物性を有するゴム組成物を上記ポリエチレンナフタレートコードのコーティングゴムに適用することで、走行時のタイヤ発熱によるコードの弾性率の低下を抑制し、高速耐久性の低下を好適に抑制することができる。
【0017】
本発明の空気入りタイヤのカーカスに適用するポリエチレンナフタレートからなるコードは、177℃における熱収縮応力が2.0mN/dtex以上であることを要する。ポリエチレンナフタレートコードの177℃における熱収縮応力が2.0mN/dtex未満では、十分な高速耐久性及び高荷重耐久性を得ることができない。
【0018】
上記ポリエチレンナフタレートコードは、下撚りを施したポリエチレンナフタレート繊維を二本以上合わせて上撚りを施した諸撚り構造を有することが好ましい。ここで、下撚り及び上撚りの際にコードに付与する撚り数及び諸撚り構造は、コードの強度、収束性及びその他諸物性を考慮して決定されるが、本発明においては、熱収縮応力を高めるのに重要な要因となる。例えば、ポリエチレンナフタレートコードが、下撚りを施したポリエチレンナフタレート繊維を二本合わせて上撚りを施した双撚り構造である場合、下撚り及び上撚りの撚り数はいずれも36回/10cm以上であるのが好ましい。このように、撚り数及び諸撚り構造を調整することで、コードの熱収縮応力を高め、タイヤの高速耐久性及び高荷重耐久性を向上させることができる。
【0019】
また、上記ポリエチレンナフタレートコードは、総繊度が500〜10,000dtexであるのが好ましい。該コードの総繊度が500dtex未満では、カーカスを十分に補強する強度が得られず、一方、10,000dtexを超えると、打ち込みを密にできず、単位幅当たりの剛性が十分に確保できないことがある。
【0020】
一方、上記ポリエチレンナフタレートコードのコーティングゴムに用いるゴム組成物は、30℃における1%歪時の動的弾性率(E’)が5〜15MPaである。30℃における1%歪時の動的弾性率(E’)が5MPa未満では、カーカスプライコードの変形を抑制できなくなり、15MPaを超えると、ゴムがもろくなって、プライセパレーションが発生し、タイヤ組立時の作業性が悪くなる。
【0021】
また、上記ゴム組成物は、30℃における1%歪時の損失正接(tanδ)が0.10〜0.20である。30℃における1%歪時の損失正接(tanδ)が0.10未満では、十分にプライ性能を発揮できなくなり、0.20を超えると、発熱し易い傾向になるため、繊維コードの溶解を防止できなくなる。
【0022】
上記ゴム組成物の動的弾性率及び損失正接は、該ゴム組成物を構成するゴム成分及び充填剤等の各種配合剤の種類及び配合割合を適宜選択して、上記の範囲に調整することができる。
【0023】
上記ゴム組成物に用いる配合剤としては、カーボンブラック等の充填剤の他、加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、スコーチ防止剤、軟化剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、シランカップリング剤等のゴム業界で通常使用される配合剤が挙げられる。これら配合剤は、市販品を好適に使用することができる。なお、上記ゴム組成物は、ゴム成分と、必要に応じて適宜選択した各種配合剤とを混練り、熱入れ、押出等することにより製造することができる。
【0024】
本発明において、上記コード−ゴム複合体の製造方法は、例えば、上記ポリエチレンナフタレートコードを特定の接着剤組成物で接着剤処理した後に、該ポリエチレンナフタレートコードを上記ゴム組成物からなるコーティングゴムで被覆する方法が挙げられる。ここで、接着剤組成物としては、熱可塑性重合体(A)、熱反応型水性ウレタン樹脂(B)、エポキシ化合物(C)及びゴムラテックス(D)を含む接着剤組成物であって、前記熱可塑性重合体(A)の主鎖が付加反応性のある炭素−炭素二重結合を実質的に有せず、ペンダント基として架橋性を有する官能基を少なくとも一つ有する接着剤組成物であることが好ましい。上記接着剤組成物は、上述した通常のRFL接着剤液に比較して耐熱接着性に優れ、180℃以上の高温下でもゴムとの接着性を十分に確保することができ、高速耐久性及び高荷重耐久性の低下を抑制することができる。
【0025】
上記熱可塑性重合体(A)の主鎖は、直鎖状構造を主体とし、該主鎖としては、例えば、アクリル系重合体、酢酸ビニル系重合体、酢酸ビニル・エチレン系重合体などのエチレン性付加重合体、またはウレタン系高分子重合体が好ましい。但し、熱可塑性重合体(A)は、ペンダント基の官能基が架橋することにより、高温下での樹脂流動性を抑制し、樹脂の破壊強力を確保するという機能を有していればよく、エチレン性付加重合体及びウレタン系高分子重合体に限定されるものではない。
【0026】
また、上記熱可塑性重合体(A)のペンダント基の官能基としてはオキソザリン基、ビスマレイミド基、(ブロックド)イソシアネート基、アジリジン基、カルボジイミド基、ヒドラジノ基、エポキシ基、エピチオ基等が好ましい。
【0027】
前記エチレン性付加重合体を構成する単量体としては、炭素−炭素二重結合を1つ有するエチレン性不飽和単量体、炭素−炭素二重結合を2つ以上含有する単量体が挙げられる。ここで、炭素−炭素二重結合を1つ有するエチレン性不飽和単量体としては、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン等のα-オレフィン類;スチレン、α-メチルスチレン、モノクロロスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン、スチレンスルホン酸ナトリウム等のα,β-不飽和芳香族単量体類;イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、ブテントリカルボン酸等のエチレン性カルボン酸類及びその塩;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-アミノエチル等の不飽和カルボン酸のエステル類;イタコン酸モノエチルエステル、フマル酸モノブチルエステル、マレイン酸モノブチルエステル等のエチレン性ジカルボン酸のモノエステル類;イタコン酸ジエチルエステル、フマル酸ジブチルエステル等のエチレン性ジカルボン酸のジエステル類;アクリルアミド、マレイン酸アミド、N-メチロールアクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)メタクリルアミド、マレイン酸アミド等のα,β-エチレン性不飽和酸のアミド類;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有モノマー;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、フマロニトリル、α-クロロアクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;ビニルケトン;ビニルアミド;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等の含ハロゲンα,β−不飽和単量体類;酢酸ビニル、吉草酸ビニル、カプリル酸ビニル、ビニルピリジン等のビニル化合物;2-イソプロペニル-2-オキサゾリン等の付加重合性オキサゾリン類;ビニルピロリドン等の複素環式ビニル化合物;ビニルエトキシシラン、α-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の不飽和結合含有シラン化合物等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。本発明においては、これら単量体のラジカル付加重合により重合体(A)を得ることが好ましい。また、主鎖骨格を構成する単量体で、炭素−炭素二重結合を2つ以上含有する単量体としては、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、クロロプレン等のハロゲン置換ブタジエン等の共役ジエン系単量体等が挙げられ、また、非共役ジエン系単量体としては、ビニルノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4-ヘキサジエン等の非共役ジエン系単量体等が挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
前記エチレン性付加重合体は、炭素−炭素二重結合を1つ有するエチレン性不飽和単量体及び炭素−炭素二重結合を2つ以上含有する単量体由来の単位からなり、全単量体の仕込み量を基準として硫黄反応性のある炭素−炭素二重結合が、単量体組成比で10mol%以下であるのが好ましく、0mol%であるのが更に好ましい。
【0029】
上記エチレン性付加重合体に、架橋性を有する官能基を導入して、上記熱可塑性重合体(A)とする方法は、特に限定されない。例えば、オキサゾリンを有する付加重合性単量体、エポキシ基を有する付加重合性単量体、マレイミドを有する付加重合性単量体、ブロックドイソシアネート基を有する付加重合性単量体、エピチオ基を有する付加重合性単量体等を、上記エチレン性付加重合体を重合する際に共重合させる方法等を採用することができる。
【0030】
また、前記ウレタン系高分子重合体は、主に、ポリイソシアネートと、2個以上の活性水素を有する化合物とを重付加反応させて得られるウレタン結合や、ウレア結合等のイソシアネート基と活性水素の反応に起因する結合を、多数分子内に有する高分子重合体である。なお、イソシアネート基と活性水素の反応に起因する結合のみならず、活性水素化合物分子内に含まれるエステル結合、エーテル結合、アミド結合、および、イソシアネート基同士の反応で生成するウレトジオン、カルボジイミド等をも含む重合体であってもよい。
【0031】
上記熱反応型水性ウレタン樹脂(B)としては、一分子中に、2個以上の熱解離性のブロックされたイソシアネート基を有する樹脂が好ましい。例えば、下記一般式(I):
【化1】

[式中、Aは官能基数3〜5の有機ポリイソシアネート化合物のイソシアネート残基を示し、Yは熱処理によりイソシアネート基を遊離するブロック剤化合物の活性水素残基を示し、Zは分子中、少なくとも1個の活性水素原子および少なくとも1個のアニオン形成性基を有する化合物の活性水素残基を示し、Xは2〜4個の水酸基を有し平均分子量が5,000以下のポリオール化合物の活性水素残基であり、nは2〜4の整数であり、p+mは2〜4の整数(m≧0.25)である]で表される熱反応型水性ポリウレタン化合物等が特に好ましい。
【0032】
上記エポキシ化合物(C)は、1分子中に2個以上、好ましくは4個以上のエポキシ基を含む化合物であればよく、エポキシ基を含む化合物、多価アルコール類とエピクロロヒドリンとの反応生成物が好ましい。エポキシ化合物の具体例としては、ジエチレングリコール・ジグリシジルエーテル、ポリエチレン・ジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコール・ジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコール・ジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオール・ジグリシジルエーテル、グリセロール・ポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパン・ポリグリシジルエーテル、ポリグリセロール・ポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトール・ポリグリシジルエーテル、ジグリセロール・ポリグリシジルエーテル、ソルビトール・ポリグリシジルエーテル等の多価アルコール類とエピクロロヒドリンとの反応生成物;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0033】
上記ゴムラテックス(D)としては、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合ラテックス、スチレン−ブタジエン共重合ラテックス等が好ましいが、特に限定されるものではない。
【0034】
本発明の空気入りタイヤは、カーカスに、上記ポリエチレンナフタレートコードを、上記ゴム組成物を含むコーティングゴムで被覆してなるコード−ゴム複合体を適用し、常法により製造することができる。なお、本発明の空気入りタイヤにおいて、タイヤ内に充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を変えた空気、又は窒素等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0036】
(実施例1〜2及び比較例1〜4)
表1に示す構造のコードに対し、2浴処理にてディップ処理を行った。ディップ処理の1浴は、16.5質量%(固形分)のエポクロスK1010E[(株)日本触媒製、固形分濃度40%、2-オキソザリン基を含有するアクリル・スチレン系共重合体エマルジョン、ポリマーTg:-50℃、オキサゾリン基量:0.9mmol/g・solid]と、6質量%(固形分)のエラストロンBN27[第一工業製薬(株)製、固形分濃度30%、メチレンジフェニルの分子構造を含む熱反応型水性ウレタン樹脂]と、7.5質量%のデナコールEX614B[ナガセ化成工業(株)製、ソルビトールポリグリシジルエーテル]と、70質量%の水とからなる。
【0037】
また、ディップ処理の2浴は、水524.01質量部と、レゾルシン15.12質量部と、37%のホルムアルデヒド16.72質量部と、10%の苛性ソーダ4.00質量部とからなるレゾルシン・ホルムアルデヒド熟成液556.85質量部に、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス[JSR0655、JSR(株)製、固形分濃度41%]233.15質量部と、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス[JSR2108、JSR(株)製、固形分濃度40%]207.00質量部とを添加した後、室温で16時間熟成して調製した。
【0038】
上記1浴及び2浴を用い、1浴のドライ温度205℃、1浴のドライ時間60秒、1浴のドライ処理時の張力1.2kg/本、2浴のドライ温度150℃、2浴のドライ時間160秒、2浴のドライ処理時の張力1.2kg/本でドライ処理を行い、ディップコードとした。なお、上記コードの熱収縮応力を下記の方法で測定した。
【0039】
(1)熱収縮応力
株式会社島津製作所製オートグラフにより、サンプル長250mmで固定し、177℃の恒温槽で放置したときに得られる最大の応力を測定した。
【0040】
また、表1に記載の物性を示すコーティングゴム用ゴム組成物を調製した。なお、得られたコーティングゴム用ゴム組成物の動的弾性率(E’)及び損失正接(tanδ)を下記の方法で測定した。
【0041】
(2)動的弾性率(E’)及び損失正接(tanδ)
上記ゴム組成物を160℃、12分間の条件で加硫して得られた厚さ2mmのスブラシートから、幅5mm、長さ40mmのシートを切り出し、試料とした。この試料について、上島製作所(株)製スペクトロメーターを用い、チャック間距離10mm、初期歪み200μm、動的歪1%、周波数52Hz、測定温度30℃の条件で、動的弾性率(E’)及び損失正接(tanδ)を測定した。
【0042】
次に、上記ディップコードを打ち込み数51.7本/5cmで用い、上下から上記ゴム組成物よりなるコーティングゴムをトッピングしてコード−ゴム複合体を作製し、該コード−ゴム複合体をカーカスに用いて、図1に示す構造でサイズ:215/45R17の乗用車用ラジアルタイヤを常法に従って製造した。得られたタイヤについて、下記の方法で、高速耐久性及び高荷重耐久性を評価した。結果を表1に示す。
【0043】
(3)高速耐久性
各試作タイヤをリム組みし、内圧200kPaに調整してから速度150km/hで30分間走行した後、速度を6km/hずつ段階的に加速し、各速度の維持時間を30分間とする走行テストを行った。故障が発生した際の速度を測定し、比較例1の故障発生速度を100として指数表示した。指数値が大きい程、耐久限界速度が高く、高速耐久性に優れることを示す。
【0044】
(4)高荷重耐久性
測定温度30±3℃、空気圧300kPa、荷重12.74kN、速度60km/hの条件で、タイヤに故障が発生するまでの距離を測定し、比較例1の該距離を100として指数表示した。指数値が大きくなる程、故障に至るまでの距離が長く、高荷重耐久性が良好であることを示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1から明らかのように、コードの材質としてPETの代わりにPENを用い、上撚り及び下撚りの撚り数をいずれも36回/10cm以上とすることで、177℃でのコードの熱収縮応力を2.0mN/dtex以上にすることができ、該コードを本発明で規定する物性を有するゴム組成物で被覆してなるコード−ゴム複合体をカーカスに適用することで、比較例のタイヤよりも高速耐久性及び高荷重耐久性を向上できることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の空気入りタイヤの一実施態様の断面図である。
【符号の説明】
【0048】
1 ビード部
2 サイドウォール部
3 トレッド部
4 カーカス
5 ベルト
6 ビードコア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビード部及び一対のサイドウォール部と、両サイドウォール部に連なるトレッド部とを有し、前記一対のビード部間にトロイド状に延在してこれら各部を補強するラジアルカーカスと、該カーカスのクラウン部の半径方向外側に配置したベルトとを備えた空気入りタイヤにおいて、
前記カーカスに、177℃における熱収縮応力が2.0mN/dtex以上のポリエチレンナフタレートからなるコードをコーティングゴムで被覆してなるコード−ゴム複合体を用い、
前記コーティングゴムに、30℃における1%歪時の動的弾性率(E’)が5〜15MPaで、かつ30℃における1%歪時の損失正接(tanδ)が0.10〜0.20であるゴム組成物を用いたことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記コードが、熱可塑性重合体(A)、熱反応型水性ウレタン樹脂(B)、エポキシ化合物(C)及びゴムラテックス(D)を含み、前記熱可塑性重合体(A)の主鎖が付加反応性のある炭素−炭素二重結合を実質的に有せず、ペンダント基として架橋性を有する官能基を少なくとも一つ有する接着剤組成物で接着剤処理されてなることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記コードは、総繊度が500〜10,000dtexであることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2010−120400(P2010−120400A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−293166(P2008−293166)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】