説明

空気入りタイヤ

【課題】 低発熱性及び耐摩耗性に優れたトレッドに好適なコム組成物を使用した空気入りタイヤ。
【解決手段】 天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴムに下記で表される特定構造の含水ケイ酸、分散改良剤としてヒドラジド化合物及びオキサゾリン、チアゾリン、アルコキシシラン、アリルスズ部分と双極性の窒素含有部分とを有する化合物の少なくとも1種を含有するゴム組成物をトレッドに用いる。
セチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(CTAB)(m/g)と音響式粒度分布測定によって求められる一次凝集体の数の最頻値の直径Aac(nm)とが下記式(A)、(B)を満たす。
ac≧−0.76×(CTAB)+274・・・(A)
熱減量(750℃で3時間加熱した時の質量減少%)と加熱減量(105℃で2時間加熱した時の質量減少%)が
(灼熱減量)−(加熱減量)≦3・・・(B)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強用充填剤として特定構造の含水ケイ酸を用い、充填剤の分散性を改善することができる分散改良剤を用いた低発熱性、耐摩耗性に優れたゴム組成物を使用した空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギーの社会的な要請及び環境問題への関心の高まりに伴う世界的な二酸化炭素排出規制の動きに関連して、自動車の低燃費化に対する要求はより過酷なものとなりつつある。このような要求に対応するため、タイヤ性能についても転がり抵抗を減らした低発熱性のタイヤが求められてきている。タイヤの転がり抵抗を下げる手法としては、タイヤ構造の最適化による手法についても検討されてきたものの、ゴム組成物としてより発熱性の低い材料を用いることが最も一般的な手法として行われている。
【0003】
これまで、かかる低発熱性のゴム組成物を得る方法として、補強用充填剤を改良すること及びゴム成分を改良することが行われている。
従来から、ゴム用補強充填剤としては、カーボンブラックが使用されている。これは、カーボンブラックがゴム組成物に高い耐摩耗性を付与し得るからである。カーボンブラックの単独使用で低発熱化を図ろうとする場合、カーボンブラックの充填量を減らす、あるいは、粒径の大きいものを使用することが考えられるが、いずれの場合も耐摩耗性、湿潤路面でのグリップ性が低下するのを避けられないことが知られている。一方、低発熱性を向上させるために充填剤としてシリカが知られているが(例えば、特許文献1〜4)、シリカは、その表面官能基であるシラノール基の水素結合により粒子同士が凝集する傾向にあり、また、ゴム分子とのぬれ性も劣り、ゴム中へのシリカの分散は良くない。これをよくするためには混練時間を長くする必要がある。また、ゴム中へのシリカの分散が不十分であるとゴム組成物のムーニー粘度が高くなり、押出しなどの加工性に劣る。さらに、シリカ粒子の表面は酸性であることから、ゴム組成物を加硫する際に、加硫促進剤として使用される塩基性物質を吸着し、加硫が十分行われず、弾性率が上がらないという問題も有していた。
【0004】
これらの欠点を改良するために、シランカップリング剤が開発されたが、依然としてシリカの分散は十分なレベルには達しておらず、特に工業的に良好なシリカ粒子の分散を得ることは困難であった。そこで、疎水性化剤で表面を処理したシリカを混練してシランカップリング剤の反応を促進することが行われている(特許文献5)。
【0005】
また、特許文献6には、疎水性沈降ケイ酸を用いることが開示されているが、完全疎水化処理した沈降ケイ酸を用いているため、シランカップリング剤が反応する表面シラノール基が存在しなくなるため、ゴムの補強が十分にとれないという問題があった。さらに、低発熱性を高めるため、シリカを大粒径化することが行われているが、大粒径化することでシリカの比表面積が低下し、補強性が悪くなる。特許文献7には、特殊形状のシリカを用いることが開示されているが、ゴム組成物の低発熱性、耐摩耗性が十分ではない。
【0006】
また、補強用充填剤のゴムへの分散性を改良し、低発熱性改良に加えて、ポリマー間の相互作用を強固なものとすることで耐摩耗性、低発熱性を与える特定の化合物を添加することが行われる。それらの化合物として、ヒドラジド(特許文献8)やニトロソキノリン化合物(特許文献9)が挙げられ、ヒドラジド化合物は、トレッドゴムに好適なゴム組成物に配合すると、加硫戻りによる過加硫に起因する弾性率の低下を抑え、低発熱性、耐摩耗性の低下を抑制する作用を有することが知られている。
【0007】
一方、ゴム成分を改良する方法として、シリカやカーボンブラックなどの充填剤と相互作用する変性ゴムの技術開発が多くなされてきた。その中でも特に、有機リチウムを用いたアニオン重合で得られる共役ジエン系重合体の重合活性末端を充填剤と相互作用する官能基を含有するアルコキシシラン誘導体で変性する方法が有効なものとして提案されている(例えば、特許文献10、11)。しかし、シリカやカーボンブラックを配合したゴム組成物における変性効果は必ずしも充分なものが得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−248116号公報
【特許文献2】特開平7−70369号公報
【特許文献3】特開平8−245838号公報
【特許文献4】特開平3−252431号公報
【特許文献5】特開平6−248116号公報
【特許文献6】特開平6−157825号公報
【特許文献7】特開2006−37046号公報
【特許文献8】特開2002−146102号公報
【特許文献9】特開昭60−82406号公報
【特許文献10】特公平6−53763号公報
【特許文献11】特公平6−57767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる実情に鑑みなされたもので、補強用充填剤及びそのゴム成分への分散性を改良し、転がり抵抗の小さい、低発熱性及び耐摩耗性に優れたトレッドに好適なゴム組成物を用いたタイヤを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のタイヤは、補強用充填剤として特定構造のシリカを用いて、転がり抵抗を小さくして低発熱性と共に耐摩耗性を向上させ、分散改良剤で充填剤のゴム成分への分散性をよくして、耐摩耗性をさらに高めたゴム組成物を用いたタイヤである。
【0011】
本発明のタイヤに用いるゴム組成物は、天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴムにシリカとして特定構造の含水ケイ酸、及び分散改良剤を配合混練してなるゴム組成物である。
【0012】
本発明で使用する構造性含水ケイ酸は、次のような指標で表すことができる構造(一次凝集)を持つことが特徴である。
即ち、セチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(CTAB)(m/g)と音響式粒度分布測定によって求められる一次凝集体の直径(nm)の最頻値Aacとが下記式(A)
ac≧−0.76×(CTAB)+274・・・(A)
を満たし、さらに灼熱減量(750℃で3時間加熱した時の質量減少%)と加熱減量(105℃で2時間加熱した時の質量減少%)とが下記式(B)
(灼熱減量)−(加熱減量)≦3・・・(B)
を満たすことが好ましく、このような含水ケイ酸を含有するゴム組成物は、低発熱性と耐摩耗性がともに優れる。
【0013】
本発明で使用する含水ケイ酸は、ケイ酸ナトリウム等のケイ酸アルカリ塩水溶液を硫酸等の鉱酸で中和することにより含水ケイ酸を析出、沈殿させる方法、いわゆる沈殿法含水ケイ酸の製造方法に準じた方法により得られる。
【0014】
本発明では下記一般式(I)又は(II)で表されるヒドラジド化合物及び一般式(III)で表される化合物の少なくとも1種を分散改良剤として使用する。
【化1】

〔式(I)中、Arは芳香環、置換されているか、置換されていないヒダントイン環、炭素数1〜18の飽和又は不飽和直鎖状炭化水素からなる群より選んだ1種であり、Wは
【化2】

より選んだ少なくとも1種であり、R〜Rは、水素及び炭素数1〜18からなる直鎖状又は分岐状のアルキル基、シクロアルキル基、芳香族環であり、それぞれ同じでも、異なっていてもよい。〕
【0015】
【化3】

〔式(II)中、R〜Rは、炭素数1〜18のアルキル基、シクロアルキル基、アリールきで、O、S、N原子を含んでいてもよい。〕
【0016】
Q−A−B (III)
〔式(III)中、Qは、不飽和炭素−炭素結合に1,3−双極子することが可能な双極性の窒素含有部分、Bはオキサゾリン部分、チアゾリン部分、アルコキシシラン部分又はアリルスズ部分であり、AはQとBの間に橋かけを形成する連結原子又は基である。〕
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、低発熱性、耐摩耗性に優れたゴム組成物が得られ、これをタイヤトレッド部材として用いるとき、低燃費で省エネルギーに大きく寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。
本発明のタイヤに用いるゴム組成物のゴム成分としては、天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴムが好ましい。ジエン系合成ゴムの具体例は、合成ポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム等が挙げられる。これらのゴム成分は、単独でも2種以上混合して用いてもよい。
【0019】
本発明で用いる構造性含水ケイ酸は、シリカやカーボンブラックなどで一般に測定されている方法で測定した特性値が、次のよう関係を満たすことで確認できる。
【0020】
即ち、セチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(CTAB)(m/g)と音響式粒度分布測定によって求められる一次凝集体の数の最頻値の直径Aac(nm)とが下記式(A)
ac≧−0.76×(CTAB)+274・・・(A)
を満たし、好ましくは灼熱減量(750℃で3時間加熱した時の質量減少%)と加熱減量(105℃で2時間加熱した時の質量減少%)とが下記式(B)
(灼熱減量)−(加熱減量)≦3・・・(B)
を満たす含水ケイ酸である。
【0021】
セチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(CTAB)は、含水ケイ酸表面に対するセチルトリメチルアンモニウムブロミドの吸着量から算出した含水ケイ酸の比表面積(m/g)である。
CTABの測定は、ASTM D3765−92記載の方法に準拠して行うことができる。ASTM D3765−92記載の方法は、カーボンブラックのCTABを測定する方法であるので、若干の修正を加える。即ち、カーボンブラックの標準品を使用せず、セチルトリメチルアンムニウムブロミド(以下、CE−TRABと略記する)標準液を調製し、これによって含水ケイ酸OT(ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム)溶液の標定を行い、含水ケイ酸表面に対するCE−TRAB1分子当たりの吸着断面積を0.35nmとしてCE−TRABの吸着量から、比表面積を算出する。
【0022】
本発明で用いる含水ケイ酸は、CTABが50〜250m/g、好ましくは100〜200m/gであることが望ましい。CTABが50m/g未満であるとゴム組成物の貯蔵弾性率が著しく低下し、250m/gより大きいと未加硫時のゴム組成物の粘度が上昇するおそれがある。
【0023】
含水ケイ酸の粒子径として、音響式粒度分布測定装置によって測定した径(音響式粒度分布径)が構造性の発達の指標になる。含水ケイ酸の粒子は、微粒径の粒子が一次凝集したものと、僅かに二次凝集しているものも含んでいる。
音響式粒度分布測定装置による測定は、含水ケイ酸の0.01M KCl水溶液を超音波で5分間分散処理し、泡を除去して二次凝集体を破壊した後、測定する。含水ケイ酸の一次凝集体の粒径と粒子数の分布が得られ、このうち、最も頻度が多く現われた粒子の直径をAac(nm)とすると、
ac≧−0.76×(CTAB)+274・・・(A)
を満足するとき、ゴム組成物の低発熱性と耐摩耗性が共に改善される。Aacが、この条件を満たさない時、低発熱性と耐摩耗性のどちらか又は両方が低下する。さらに、Aacは、1μm以下であることが好ましい。1μmより大きいと含水ケイ酸が破壊核となり、ゴム組成物の力学的特性が損なわれる虞がある。
【0024】
さらに、本発明で用いる含水ケイ酸を加熱した時の質量の減少(%)と灼熱した時の質量減少(%)の差が、
(灼熱減量)−(加熱減量)≦3・・・(B)
であることが好ましい。
加熱減量及び灼熱減量は、JIS K6220−1ゴム用配合剤の試験方法に準じて行い、加熱減量は通常105±2℃で2時間加熱した時の質量の減少%、灼熱減量は通常750±25℃で3時間強熱した時の質量の減少%である。
【0025】
本発明で使用する含水ケイ酸は、沈殿法含水ケイ酸の製造方法に準じて製造される。例えば、予め一定量の温水を張り込んだ反応容器中に、pH、温度を制御しながらケイ酸ナトリウムおよび硫酸を入れ、一定時間して含水ケイ酸スラリーを得る。
続いて、該含水ケイ酸スラリーをフィルタープレス等のケーキ洗浄が可能なろ過機により濾別、洗浄して副生電解質を除去した後、得られた含水ケイ酸ケーキをスラリー化し、噴霧乾燥機等の乾燥機を用いて乾燥し製造される。
【0026】
本発明で用いる含水ケイ酸の使用量は、好ましくはゴム成分100質量部に対して、10〜150質量部である。この配合量が10質量部未満であると、転がり抵抗の低減効果が小さく、低発熱性が向上しない。また、150質量部超過では、耐摩耗性が悪化するため好ましくない。
【0027】
本発明では、シランカップリング剤を使用することが好ましい。シランカップリング剤は、含水ケイ酸の表面に残在するシラノール基とゴム成分ポリマーと反応して含水ケイ酸とゴムとの結合橋として作用し補強相を形成する。
シランカップリング剤の使用量は、含水ケイ酸の量に対して、1〜20質量%が好ましい。使用量が1質量%未満では、十分なカップリング効果が得られないことがあり、20質量%を超えると、ポリマーのゲル化を引き起こすことがある。
【0028】
本発明で用いるゴム組成物には、上記の含水ケイ酸以外の充填剤を配合することができる。それらの充填剤としては、特に限定されるものではないが、カーボンブラック、酸化カーボンブラック、タルク、カオリン、クレー、金属酸化物、アルミニウム水和物、マイカ等の反応性の表面基を有する鉱物系充填剤、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0029】
カーボンブラックとしては、窒素吸着比表面積(N2SA)が30〜180m2 /gで、かつ、ジブチルフタレート吸油量(DBP)が60〜200ml/100gの特性を有するものが使用でき、好ましくは、窒素吸着比表面積が105〜160m2/gで、かつ、DBPが85〜140ml/100gである。カーボンブラックのN2SAが30未満、DBPが60未満では発熱性の改良効果が少ない。また、N2SA>180、DBP>200では未加硫ゴム粘度が上昇し作業性が悪くなる。
【0030】
ケイ酸以外の充填剤の配合量は、含水ケイ酸と合わせた総量で150質量部以下、好ましくは120質量部以下である。この配合量で低発熱性と耐摩耗性を両立させることができる。
【0031】
次に、本発明で用いる分散改良剤は、下記一般式(I)又は(II)で表されるヒドラジド化合物及び一般式(III)で表される化合物の少なくとも1種を使用する。
【化4】

〔式(I)中、Arは芳香環、置換されているか、置換されていないヒダントイン環、炭素数1〜18の飽和又は不飽和直鎖状炭化水素からなる群より選んだ1種 であり、Wは
【化5】

より選んだ少なくとも1種であり、R〜Rは、水素及び炭素数1〜18からなる直鎖状又は分岐状のアルキル基、シクロアルキル基、芳香族環であり、それぞれ同じでも、異なっていてもよい。〕
【0032】
【化6】

〔式(II)中、R〜Rは、炭素数1〜18のアルキル基、シクロアルキル基、アリールきで、O、S、N原子を含んでいてもよい。〕
【0033】
Q−A−B (III)
〔式(III)中、Qは双極性の窒素含有部分、Bはオキサゾリン部分、チアゾリン部分、アルコキシシラン部分又はアリルスズ部分であり、AはQとBの間に橋かけを形成する連結原子又は基である。〕
【0034】
一般式(I)又は(II)で表されるヒドラジド化合物は、ゴム組成物の低発熱性を維持しながら粘度増加を抑制する作用を有するもので、その作用機構はゴムポリマーの反応性を低下させ、かつ、カーボンブラックとの反応性を向上させるものである。
【0035】
一般式(I)で表わされる化学物質の内で、好ましくは、一般式(I)中のArが芳香族環、Wが下記式及びヒドロキシ基、アミノ基より選んだ少なくとも1種であり、R1〜R4は、水素及び炭素数1〜18からなる直鎖状又は分岐状のアルキル基、シクロアルキル基、芳香族環(それぞれ同じでも、異なっていてもよい)より選択された化学物質の少なくとも1種であることが望ましい。
【化7】

【0036】
一般式(I)で表わされる具体的な化学物質としては、例えば、N2,N4−ジ(1−メチルエチリデン)イソフタル酸ジヒドラジド、N2,N4−ジ(1−メチルプロピリデン)イソフタル酸ジヒドラジド、N2,N4−ジ(1,3−ジメチルブチリデン)イソフタル酸ジヒドラジド、N’−(1−メチルエチリデン)サリチル酸ヒドラジド、N’−(1−メチルプロピリデン)サリチル酸ヒドラジド、N’−(1−メチルブチリデン)サリチル酸ヒドラジド、N’−(1,3−ジメチルブチリデン)サリチル酸ヒドラジド、N’−(2−フリルメチレン)サリチル酸ヒドラジド等が挙げられる。
【0037】
また、一般式(II)で表わされる具体的な化学物質としては、例えば、1−ヒドロキシ−N’−(1−メチルエチリデン)−2−ナフトエ酸ヒドラジド、1−ヒドロキシ−N’−(1−メチルプロピリデン)−2−ナフトエ酸ヒドラジド、1−ヒドロキシ−N’−(1−メチルブチリデン)−2−ナフトエ酸ヒドラジド、1−ヒドロキシ−N’−(1,3−ジメチルブチリデン)−2−ナフトエ酸ヒドラジド、1−ヒドロキシ−N’−(2−フリルメチレン)−2−ナフトエ酸ヒドラジド、3−ヒドロキシ−N’−(1−メチルエチリデン)−2−ナフトエ酸ヒドラジド、3−ヒドロキシ−N’−(1−メチルプロピリデン)−2−ナフトエ酸ヒドラジド、3−ヒドロキシ−N’−(1−メチルブチリデン)−2−ナフトエ酸ヒドラジド、3−ヒドロキシ−N’−(1,3−ジメチルブチリデン)−2−ナフトエ酸ヒドラジド、3−ヒドロキシ−N’−(2−フリルメチレン)−2−ナフトエ酸ヒドラジド等が挙げられる。
【0038】
好ましい一般式(I)又は(II)で表される化学物質は、合成の容易性及びコスト面と得られる分散性効果から、一般式(I)ではN’−(1−メチルエチリデン)サリチル酸ヒドラジド、N’−(1−メチルプロピリデン)サリチル酸ヒドラジド、N’−(1,3−ジメチルブチリデン)サリチル酸ヒドラジド、N’−(2−フリルメチレン)サリチル酸ヒドラジドであり、また、一般式(II)では、1−ヒドロキシ−N’−(1−メチルエチリデン)−2−ナフトエ酸ヒドラジド、1−ヒドロキシ−N’−(1−メチルプロピリデン)−2−ナフトエ酸ヒドラジド、1−ヒドロキシ−N’−(1,3−ジメチルブチリデン)−2−ナフトエ酸ヒドラジド、1−ヒドロキシ−N′−(2−フリルメチレン)−2−ナフトエ酸ヒドラジド、3−ヒドロキシ−N’−(1−メチルエチリデン)−2−ナフトエ酸ヒドラジド、3−ヒドロキシ−N’−(1−メチルプロピリデン)−2−ナフトエ酸ヒドラジド、3−ヒドロキシ−N′−(1,3−ジメチルブチリデン)−2−ナフトエ酸ヒドラジド、3−ヒドロキシ−N’−(2−フリルメチレン)−2−ナフトエ酸ヒドラジドが望ましい。
【0039】
これらの一般式(I)又は(II)で表される化学物質は、原料となる3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ヒドラジド等と、アセトン、メチルイソブチルケトン等とを加温して反応させることにより容易に合成することができる。なお、これらの化学物質のうち代表的な化合物の合成例を後述する実施例の欄で更に説明する。
【0040】
一般式(III)で表される化合物で、Qはニトロン、ニトリルオキシド及びニトリルイミンからなる部分から選ばれる。かかる部分は、ポリマーの分子構造中の不飽和炭素−炭素結合に付加できる。Bはオキサゾリン部分、チアゾリン部分、アルコキシシラン部分又はアリルスズ部分であり、充填剤の凝集体及び/又は粒子上の一又は複数の反応性表面基に結合する。従って、Q−A−B化合物はポリマーの全分子構造に沿って充填剤の凝集体及び/又は粒子を結合させることによって、充填剤の分散を促進することができる。
【0041】
一般式(III)で表される化合物において、オキサゾリン部分及びチアゾリン部分とは、下記式(IV)〜(VI)
【化8】

〔式中、Xは酸素又は硫黄であって、R、R、R、R10、R11、R12、及びR13は、それぞれ独立して水素、分岐状又は直鎖状のC1−C20アルキル基、分岐状又は直鎖状のC3−C20シクロアルキル基、分岐状又は直鎖状のC6−C20アリール基、分岐状又は直鎖状のC7−C20アルキルアリール基、又はA(ここで、Aは、QとBの間に橋かけを形成する連結原子又は基である)である。〕で表される構造を含む。
【0042】
アリルスズ部分は、式:−CH=CHCH2Sn(R20)3
〔式中、R20は、それぞれ独立して分岐状又は直鎖状のC1−C20アルキル基、分岐状又は直鎖状のC3−C20シクロアルキル基、分岐状又は直鎖状のC6−C20アリール基及び分岐状又は直鎖状のC7−C20アルキルアリール基からなる群から選択される〕で表される。
アリルスズ部分の−CH部位は、前記化合物中のAに結合する。
【0043】
アルコキシシラン部分は、式:−Si(OR21)3
〔式中、R21は、それぞれ独立して1から6個の炭素原子を含む〕で表される。
アルコキシシラン部分の−Si部位は、前記化合物中のAに結合する。
【0044】
式(III)中のQは、ニトロン、ニトリルオキシド又はニトリルイミンを含むことができる。例えば、Qは、それぞれ、式(VII)〜(IX)
【化9】

〔式中、R14、R15、R16、R17、R18、及びR19は、それぞれ独立してA、水素、分岐状又は直鎖状のC1−C20アルキル基、分岐状又は直鎖状のC3−C20シクロアルキル基、分岐状又は直鎖状のC6−C20アリール基、式(X)
【化10】

(式中、Yは、ニトロ基、シアノ基、クロロ基、ブロモ基、分岐状又は直鎖状のC1−C20アシル基、分岐状又は直鎖状のC1−C20アルコキシカルボニル基、分岐状又は直鎖状のC1−C20アルコキシ基、及び分岐状又は直鎖状のC7−C20アルキルアリール基からなる群から選択される)で表わされる置換フェニル基である〕で表されるニトロン、ニトリルオキシド又はニトリルイミンを含む。
【0045】
式(III)中のAで表される連結原子又は基は、分岐状又は直鎖状のC1−C20アルキレン、分岐状又は直鎖状のC3−C20シクロアルキレン、分岐状又は直鎖状のC6−C20アリーレニル、分岐状又は直鎖状のC7−C20アルキルアリーレニルであることができる。
更に、Aは、[A'−(Z−A”)k]
(式中、A'及びA”は、それぞれ独立して分岐状又は直鎖状のC1−C20アルキレン、分岐状又は直鎖状のC3−C20シクロアルキレン、分岐状又は直鎖状のC6−C20アリーレニル、分岐状または直鎖状のC7−C20アルキルアリーレニルであり、Zは、酸素、硫黄又はC=Oであり、kは、1から約4である)を含むことができる。
例えば、Aは、Q及び/又はBとのオルト、メタもしくはパラ結合を有するフェニル基を含むことができる。他の例では、Aは、(CH2)(式中、mは、1から約10である)を含むことができる。
【0046】
式(III)で表される化合物の一実施態様は、式(XI)
【化11】

で表わされる4-(2-オキサゾリル)-フェニル-N-メチル-ニトロン(4OPMN)である。
【0047】
他の一実施態様としては、式(XII)
【化12】

で表わされる4-(2-オキサゾリル)-フェニル-N-フェニル-ニトロン(4OPPN)が挙げられる。
【0048】
さらなる実施態様例としては、式(XIII)
【化13】

で表わされるフェニル-N-[4-(2-オキサゾリル)フェニル]ニトロン(P4OPN)が挙げられる。
【0049】
さらに、式(III)で表される化合物として、4-(2-オキサゾリル)-フェニル-N-メチル-ニトロン、4-(2-チアゾリル)-フェニル-N-メチル-ニトロン、4-(2-オキサゾリル)-フェニル-N-フェニル-ニトロン、4-(2-チアゾリル)-フェニル-N-フェニル-ニトロン、フェニル-N-4-(2-オキサゾリル)-フェニル-ニトロン、フェニル-N-4-(2-チアゾリル)-フェニル-ニトロン、4-トリル-N-4-(2-オキサゾリル)-フェニル-ニトロン、4-トリル-N-4-(2-チアゾリル)-フェニル-ニトロン、4-メトキシフェニル-N-4-(2-オキサゾリル)-フェニル-ニトロン、4-メトキシフェニル-N-4-(2-チアゾリル)-フェニル-ニトロン、4-(2-オキサゾリル)-フェニル-ニトリルオキシド、4-(2-チアゾリル)-フェニル-ニトリルオキシド、4-(2-オキサゾリル)-フェニル-N-メチル-ニトリルイミン、4-(2-チアゾリル)-フェニル-N-メチル-ニトリルイミン、4-(2-オキサゾリル)-フェニル-N-フェニル-ニトリルイミン、4-(2-チアゾリル)-フェニル-N-フェニル-ニトリルイミン、フェニル-N-4-(2-オキサゾリル)-フェニル-ニトリルイミン、フェニル-N-4-(2-チアゾリル)-フェニル-ニトリルイミン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
通常の化学合成法を用いて、過度の実験を行うことなく、前記典型的な化合物及び他のQ−A−B化合物を製造することができる。4OPPN、4OPMN及びP4OPNの典型的な製造方法を実施例の欄で説明する。しかしながら、他の出発物質及び中間体を用いた他の公知の化学合成法を用いても、これら及び他のQ−A−B化合物を製造できる。
【0051】
Bがアリルスズ部分であるQ−A−B化合物の典型的な製造法として、以下の方法が挙げられる。
アルキルスズリチウム化合物(RSnLi)を1-ブロモ-4-クロロブタ-2-エン(Cl−CH2CH=CHCH2−Br)と反応させて、RSn−CH2CH=CHCH2−Cl(a)を生成させる。次に、テトラヒドロフラン(THF)の存在下、(a)をリチウムと反応させて、RSn−CH2CH=CHCH2−Li(b)を生成させる。次に、(b)をジブロムキシレン(Br−CH2−フェニレン−CH2−Br)と反応させて、モノ付加体RSn−CH2CH=CHCH2−CH2−フェニル−CH2−Br(c)を生成させ、若干のジ付加体及び未反応の原料ジブロモキシレンとを得る。次に、生成物(c)を分離し、ヘキサメチレンテトラアミン及び酸と反応させて、RSn−CH2CH=CHCH2−CH2−フェニル−CH=O(d)を生成させる。次いで、(d)を、NH2OHと反応させてニトリルオキシド(e)を生成させ、或いはRNHOHと反応させてニトロン(f)を生成させる。
【0052】
Bがアルコキシシラン部分であるQ−A−B化合物の典型的な製造法としては、上記で得た化合物(e)又は(f)を使用できる。例えば、アリルスズと過剰のSiCl4との反応、及びその後のアルコールROHによる個々の生成物の処理によって、(e)又は(f)の一方からシランを生成させ、トリアルコキシシロキサン−ニトリルオキシド又は−ニトロンを生成させる。これら典型ルートの夫々において、AはCH2であり、各Bは、結合したアリル基を含む。上述のように、上記化合物の合成は単なる一例であり、他の出発物質及び中間体を用いた他の公知の化学合成法を用いても、これら及び他のQ−A−B化合物を製造できるので、製造法は特に限定されない。
【0053】
上記一般式(I)、(II)又は(III)で表わされる化学物質は、単独又は2種以上を併用することができ、これらはゴム成分100重量部に対し、0.05〜5重量部の範囲で用いられ、好ましくは、0.1〜3.0重量部である。上記化合物が0.05重量部未満では、耐発熱性の改良効果なく、5重量部より多い場合は未加硫ゴムの粘度上昇を生じるため、好ましくない。
【0054】
ゴム組成物には、必要に応じて、ゴム工業で通常使用される配合剤、例えば、加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、亜鉛華、ステアリン酸、ワックス、軟化剤等を適宜配合することができる。
【0055】
本発明で使用するゴム組成物は、ロール等の開放式混練機やバンバリーミキサー等の密閉式混練機等を用いて混練することにより得られる。
【0056】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物をトレッド部材に適用することを特徴とする。該ゴム組成物をトレッド部材に用いたタイヤは、ゴム組成物が低発熱性であるため転がり抵抗が低く、耐摩耗性に優れている。本発明のタイヤに充填する気体としては、通常又は酸素分圧を変えた空気、又は窒素等の不活性ガスも使用できる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
以下の実施例、比較例において、含水ケイ酸の物性及びゴム組成物の低発熱性、耐摩耗性を下記の方法により測定、評価した。
【0058】
含水ケイ酸の物性
(1)音響式粒度分布径の測定
含水ケイ酸の0.01M KCl水溶液を超音波で5分間分散処理し、泡を除去した後、超音波式粒度分布測定装置DT1200(Dispertion Technology社製)を用いて、含水ケイ酸の1次凝集体の直径の最頻値Aac(nm)を測定した。
【0059】
(2)CTABの測定
ASTM D3765−92記載の方法に準拠して実施した。ASTM D3765−92記載の方法は、カーボンブラックのCTABを測定する方法であるので、若干の修正を加えた。すなわち、カーボンブラックの標準品であるIRB#3(83.0m2/g)を使用せず、別途セチルトリメチルアンムニウムブロミド(以下、CE−TRABと略記する)標準液を調製し、これによって含水ケイ酸OT(ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム)溶液の標定を行い、含水ケイ酸表面に対するCE−TRAB1分子当たりの吸着断面積を0.35nmとしてCE−TRABの吸着量から、比表面積(m/g)を算出した。これは、カーボンブラックと含水ケイ酸とでは表面が異なるので、同一表面積でもCE−TRABの吸着量に違いがあると考えられるからである。
【0060】
(3)加熱減量及び灼熱減量の測定
含水ケイ酸サンプルを秤量し、加熱減量の場合は105℃でサンプルを2時間加熱し、灼熱減量の場合は750℃でサンプルを3時間加熱した後、質量を測定し、加熱前のサンプル質量との差を加熱前の質量に対して%で表した。
【0061】
(4)低発熱性
粘弾性スペクトロメーター(東洋精機株式会社製)を使用し、温度60℃、歪1%、周波数50Hzでtanδを測定した。比較例1の値を100として指数で表示した。この数値が小さい程、低発熱性に優れる。
【0062】
(5)耐摩耗性
ランボーン型摩耗試験機を用い、JIS K6264に従い、室温におけるスリップ率60%の摩耗量を測定し、摩耗量の逆数を比較例1を100として指数で表示した。この数値が大きい程、耐摩耗性が良好である。
【0063】
含水ケイ酸の製造
製造例A
攪拌機を備えた容量180Lのジャケット付ステンレス製反応槽に、水93Lとケイ酸ナトリウム水溶液(SiO 160g/L、SiO/NaOモル比3.3)0.6Lを入れ96℃に加熱した。得られた溶液中のNaO濃度は0.005mol/Lであった。
この溶液の温度を96℃に維持しながら、上記と同じのケイ酸ナトリウム水溶液を540ml/分、硫酸(18mol/L)を24ml/分の流量で同時に滴下した。流量を調整しながら、反応溶液中のNaO濃度を0.00〜0.01mol/Lの範囲に維持して中和反応を行なった。反応途中から白濁をはじめ、47分目に粘度が上昇してゲル状溶液となった。さらに添加を続けて90分で反応を停止した。反応停止後、反応液温度を96℃に30分間維持した。生じた溶液中のシリカ濃度は55g/Lであった。引き続いて、上記濃度の硫酸を溶液のpHが3になるまで添加してケイ酸スラリーを得た。得られたケイ酸スラリーをフィルタープレスで濾過、水洗を行なって湿潤ケーキを得た。次いで、湿潤ケーキを乳化装置を用いてスラリーとして、噴霧式乾燥機で乾燥して湿式法含水ケイ酸Aを得た。
得られた含水ケイ酸の物性は、以下の通りであった。
CTAB:112m/g、 −0.76×CTAB+274:189
粒度分布径Aac:208nm、 灼熱減量−加熱減量:2.6質量%
【0064】
ヒドラジド化合物の合成
製造例B
3−ヒドロキシ−N’−(1−メチルエチリデン)−2−ナフトエ酸ヒドラジドの合成
温度計、還流冷却器及び撹拌機を取り付けた四つ口フラスコ(3リットル)に、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ヒドラジド121.2g(0.6モル)、p−トルエンスルホン酸1.14g(0.006モル)及びアセトン2リットルを加え、5時間加熱還流した。反応液を20℃以下に冷却した後、析出した結晶を濾別し、減圧乾燥して微黄色結晶を得た〔130.5g(0.54モル)、収率90%〕。この微黄色結晶は、下記に示すように、NMR分析の結果、3−ヒドロキシ−N’(1−メチルエチリデン)−2−ナフトエ酸ヒドラジドであることが分かった。
融点241℃
1H−NMR(DMSO)1.96(s,3H)、2.03(s,3H)、7.32(m,2H)、7.50(m,1H)、7.75(m,1H)、7.95(m,1H)、8.57(s,1H)、11.20(b,1H)、11.62(b,1H)
【0065】
製造例C
3−ヒドロキシ−N’−(1−メチルプロピリデン)−2−ナフトエ酸ヒドラジドの合成
温度計、還流冷却器及び撹拌機を取り付けた四つ口フラスコ(3リットル)に、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ヒドラジド121.2g(0.6モル)及びメチルエチルケトン2リットルを加え、5時間加熱還流した。反応液を20℃以下に冷却した後、析出した結晶を濾別し、減圧乾燥して微黄色結晶を得た〔135.1g(0.53モル)、収率88%〕。この微黄色結晶は、下記に示すように、NMR分析の結果、3−ヒドロキシ−N’−(1−メチルプロピリデン)−2−ナフトエ酸ヒドラジドであることが分かった。
融点240℃
1H−NMR(DMSO)0.92〜1.15(m,3H)、1.90〜2.05(m,3H)、2.25〜2.42(m,2H)、7.75〜8.60(m,6H)、11.00〜11.80(b,2H)
【0066】
式Q−A−Bで表される化合物の合成
製造例D
4−(2−オキサゾリル)−フェニル−N−フェニルニトロン(4OPPN)の合成
300mlのクロロホルム中に15.0gの4−ホルミル−ベンゾイルクロライド(1当量、eq.)を含む混合物に、攪拌しながら、−10℃で、2−アミノエタノール(2eq.)をクロロホルム(200ml)中に溶解させた溶液10.9gを滴下した。添加後、得られた混合物を25℃で2時間撹拌し、生成した白色の沈殿物を濾過で除去した。次に、濾液をロータべーパー(rotavapor)で乾燥し、17.4gの黄色液体、4−ホルミル−N−(2−ヒドロキシエチル)−ベンズアミドを得た。
【0067】
濃硫酸(50ml)を、4−ホルミル−N−(2−ヒドロキシエチル)−ベンズアミド(17.4g)に撹拌しながら滴下し、混合物を100℃で1時間加熱した。この溶液を、水酸化ナトリウム(20%,500ml)及びクロロホルム(500ml)の混合液に撹拌しながら滴下し、15℃未満に冷却して温度を維持した。次に、有機相を分離し、乾燥した。6.3gの4−(2−オキサゾリル)−ベンズアルデヒドを回収した。
【0068】
4−(2−オキサゾリル)−ベンズアルデヒド(1eq.6.3g)とN−フェニル−ヒドロキシアミン(1eq.,3.9g)との混合物を、エタノール(100ml)中で30分間還流し、50mlの体積に濃縮した。等量(50ml)の水を加え、混合物を冷蔵庫中5℃で一晩冷却した。濾過によって単離し、乾燥して白色の結晶を得た。6.7gの4−(2−オキサゾリル)−フェニル−N−フェニルニトロンが生成した。
【0069】
製造例E
フェニル−N−[4−(2−オキサゾリル)フェニル]ニトロン(P4OPN)の製造
450mlの暖かいベンゼン中にp−ニトロ−ベンゾイルクロライド(185.6g,1.00mol)を溶解させた溶液を、1350mlの水中にエタノールアミン(63.5g,1.04mol)を含む混合物に添加した。次に、5%の水酸化ナトリウム溶液830mlを徐々に加えた。p−ニトロ−N−(2−ヒドロキシエチル)ベンズアミドを含む白色の沈殿物が生成し、この沈殿物を濾過及び乾燥した。乾燥したp−ニトロ−N−(2−ヒドロキシエチル)ベンズアミド粉末の重量は、196g(0.93mol)であった(収率93%)。
【0070】
チオニルクロライド(132ml,1.8mol)を撹拌しながら196gのp−ニトロ−N−(2−ヒドロキシエチル)ベンズアミド粉末に滴下した。激しい反応の後、生成した混合物を1Lのエーテル中に注いだ。p−ニトロ−N−(2−クロロエチル)ベンズアミドを含む不溶性の物質がエーテル中に生成し、この不溶性物質を濾過及び乾燥して、白色の粉末を得た。192g(0.84mol)のp−ニトロ−N−(2−クロロエチル)ベンズアミドが得られた(収率90%)。
【0071】
192gのp−ニトロ−N−(2−クロロエチル)ベンズアミドを1Lのメタノールに加え、溶液を還流した。5%の水酸化ナトリウム900mlを、撹拌しながら還流溶液に加えた。生成した溶液を2kgの氷及び水中に注いだ。p−ニトロ−フェニル−2−オキサゾリンを含む不溶性の物質が氷及び水中に生成し、この不溶性物質を濾過及び乾燥すると、白色の粉末が残った。150g(0.78mol)のp−ニトロ−フェニル−2−オキサゾリンを得た(収率93%)。
【0072】
150gのp−ニトロ−フェニル−2−オキサゾリン及び46g(0.86mol)のアンモニウムクロライドを、1Lのメタノール及び1Lの水に加えた。この溶液を60℃に加熱した。加熱された溶液に、102g(1.56mol)の亜鉛粉末をゆっくりと加え、生成した混合物を濾過、冷却及び乾燥した。薄黄色の結晶性沈殿物が生成し、この沈殿物は、105g(0.51mol)のp−N−(ヒドロキシ−アミノ)−フェニル−2−オキサゾリンを含んでいた(収率65%)。
【0073】
1Lのエタノール中に105gのp−N−(ヒドロキシ−アミノ)−フェニル−2−オキサゾリン及び53g(0.51mol)のベンズアルデヒドを含む混合物を30分間還流し、500mlの体積に濃縮した。この混合物に150mlの水を加え、混合物を冷却した。薄黄色の沈殿物が生成し、該沈殿物を濾過及び乾燥した。この沈殿物は、83g(0.31mol)のフェニル−N−[4−(2−オキサゾリル)フェニル]ニトロンを含んでいた(収率60%,全体での反応収率31%)。
【0074】
実施例1〜6及び比較例1
実施例1〜6においては、それぞれ製造例Aで製造した含水ケイ酸A又はローディア社製プレミアム200MPと製造例B〜Eで製造した分散改良剤を使用したゴム組成物を、比較例1においては市販のシリカを使用したゴム組成物を、表1及び表2に示す種類と量のゴム成分及び配合剤を使用して常法により調製した。
各実施例、比較例において調製したゴム組成物の評価結果を表2に示した。
【0075】
【表1】


1)SBR#1712〔JSR社製〕ゴム成分100質量部に対して37.5質量部のアロマ油で油展
2)BR 150L〔宇部興産製〕
3)シースト7HM〔東海カーボン社製〕
4)ニップシールAQ〔日本シリカ工業社製〕
5)表2に記載
6)シランカップリング剤Si69〔Degussa社製〕
7)表2に記載
8)N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン
9)ジフェニルグアニジン
10)N−t−ブチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド
【0076】
【表2】


1)ニップシールAQ〔日本シリカ工業社製〕
2)製造例Aで製造した含水ケイ酸A
3)ローディア社製 プレミアム200MP
4)3−ヒドロキシ−N’−(1−メチルエチリデン)−2−ナフトエ酸ヒドラジド
5)3−ヒドロキシ−N’−(1−メチルプロピリデン)−2−ナフトエ酸ヒドラジド
6)Q−A−B化合物:4−(2−オキサゾリル)−フェニル−N−フェニルニトロン
7)Q−A−B化合物:フェニル−N−[4−(2−オキサゾリル)フェニル]ニトロン
【0077】
含水ケイ酸及び分散改良剤を含む実施例のゴム組成物では、これらの一部又はいずれも含有しない比較例のゴム組成物に比べて、低発熱性と耐摩耗性が大幅に向上している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分100質量部に対して、充填剤としてセチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(CTAB)(m/g)と音響式粒度分布測定によって求められる一次凝集体の直径(nm)の最頻値Aacとが下記式(A)を、灼熱減量(750℃で3時間加熱した時の質量減少%)と加熱減量(105℃で2時間加熱した時の質量減少%)との差が下記式(B)を満たす含水ケイ酸10〜150質量部、
ac≧−0.76×(CTAB)+274・・・(A)
(灼熱減量)−(加熱減量)≦3・・・・・・・(B)
及び下記一般式(I)又は(II)で表されるヒドラジド化合物及び一般式(III)で表される化合物の少なくとも1種を0.05〜5質量部を含有するゴム組成物をトレッドに用いることを特徴とする空気入りタイヤ。
【化1】

〔式(I)中、Arは芳香環、置換されているか、置換されていないヒダントイン環、炭素数1〜18の飽和又は不飽和直鎖状炭化水素からなる群より選んだ1種 であり、Wは
【化2】

より選んだ少なくとも1種であり、R〜Rは、水素及び炭素数1〜18からなる直鎖状又は分岐状のアルキル基、シクロアルキル基、芳香族環であり、それぞれ同じでも、異なっていてもよい〕
【化3】

〔式(II)中、R〜Rは、炭素数1〜18のアルキル基、シクロアルキル基、アリールきで、O、S、N原子を含んでいてもよい〕
Q−A−B (III)
〔式(III)中、Qは、双極性の窒素含有部分、Bはオキサゾリン部分、チアゾリン部分、アルコキシシラン部分又はアリルスズ部分であり、AはQとBの間に橋かけを形成する連結原子又は基である〕
【請求項2】
充填剤として、含水ケイ酸以外に、さらにカーボンブラック、酸化カーボンブラック、タルク、カオリン、クレー、金属酸化物、アルミニウム水和物、マイカ又はそれらの混合物を配合したゴム組成物をトレッドに用いることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
含水ケイ酸以外の充填剤の配合量が、含水ケイ酸と合わせた総重量で150質量部以下であることを特徴とする請求項2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
カーボンブラックが、窒素吸着比表面積(N2SA)が30〜180m2 /g、かつ、ジブチルフタレート吸油量(DBP)が60〜200ml/100gの特性を有することを特徴とする請求項2又は3に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
一般式(I)又は(II)で表されるヒドラジド化合物が、N’−(1−メチルエチリデン)サリチル酸ヒドラジド、N’−(1−メチルプロピリデン)サリチル酸ヒドラジド、N’−(1,3−ジメチルブチリデン)サリチル酸ヒドラジド、N’−(2−フリルメチレン)サリチル酸ヒドラジド、1−ヒドロキシ−N’−(1−メチルエチリデン)−2−ナフトエ酸ヒドラジド、1−ヒドロキシ−N’−(1−メチルプロピリデン)−2−ナフトエ酸ヒドラジド、1−ヒドロキシ−N’−(1,3−ジメチルブチリデン)−2−ナフトエ酸ヒドラジド、1−ヒドロキシ−N′−(2−フリルメチレン)−2−ナフトエ酸ヒドラジド、3−ヒドロキシ−N’−(1−メチルエチリデン)−2−ナフトエ酸ヒドラジド、3−ヒドロキシ−N’−(1−メチルプロピリデン)−2−ナフトエ酸ヒドラジド、3−ヒドロキシ−N′−(1,3−ジメチルブチリデン)−2−ナフトエ酸ヒドラジド、3−ヒドロキシ−N’−(2−フリルメチレン)−2−ナフトエ酸ヒドラジドから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
一般式(III)で表される化合物のQが、ニトロン、ニトリルオキシド又はニトリルイミンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
一般式(III)で表される化合物のQが、式(VII)〜(IX)からなる群から選ばれることを特徴とする請求項6に記載の空気入りタイヤ。
【化4】

〔式中、R14、R15、R16、R17、R18、及びR19は、それぞれ独立してA、水素、分岐状又は直鎖状のC1−C20アルキル基、分岐状又は直鎖状のC3−C20シクロアルキル基、分岐状又は直鎖状のC6−C20アリール基、式(X)
【化5】

(式中、Yは、ニトロ基、シアノ基、クロロ基、ブロモ基、分岐状又は直鎖状のC1−C20アシル基、分岐状又は直鎖状のC1−C20アルコキシカルボニル基、分岐状又は直鎖状のC1−C20アルコキシ基、及び分岐状又は直鎖状のC7−C20アルキルアリール基からなる群から選択される)で表わされる置換フェニル基である。〕
【請求項8】
一般式(III)で表される化合物において、Bのオキサゾリン部分及びチアゾリン部分が、下記式(IV)〜(VI)からなる群から選ばれることを特徴とする請求項6または7に記載の空気入りタイヤ。
【化6】

〔式中、Xは酸素又は硫黄であって、R、R、R、R10、R11、R12、及びR13は、それぞれ独立して水素、分岐状又は直鎖状のC1−C20アルキル基、分岐状又は直鎖状のC3−C20シクロアルキル基、分岐状又は直鎖状のC6−C20アリール基、分岐状又は直鎖状のC7−C20アルキルアリール基、又はAである。〕
【請求項9】
一般式(III)で表される化合物において、Bのアリルスズ部分が、
式:−CH=CHCH2Sn(R20)3
〔式中、R20は、それぞれ独立して分岐状又は直鎖状のC1−C20アルキル基、分岐状又は直鎖状のC3−C20シクロアルキル基、分岐状又は直鎖状のC6−C20アリール基及び分岐状又は直鎖状のC7−C20アルキルアリール基からなる群から選択される〕
を含むことを特徴とする請求項6または7に記載の空気入りタイヤ。
【請求項10】
一般式(III)で表される化合物において、Bのアルコキシシラン部分が、
式:−Si(OR21)3
〔式中、R21は、それぞれ独立して1から6個の炭素原子を含む〕
を含むことを特徴とする請求項6または7に記載の空気入りタイヤ。
【請求項11】
一般式(III)で表される化合物において、Aで表される連結原子又は基が、分岐状又は直鎖状のC1−C20アルキレン、分岐状又は直鎖状のC3−C20シクロアルキレン、分岐状又は直鎖状のC6−C20アリーレニル、または分岐状又は直鎖状のC7−C20アルキルアリーレニルであることを特徴とする請求項6〜10のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項12】
一般式(III)で表される化合物において、Aで表される連結原子又は基が、
[A'−(Z−A”)k]
(式中、A'及びA”は、それぞれ独立して分岐状又は直鎖状のC1−C20アルキレン、分岐状又は直鎖状のC3−C20シクロアルキレン、分岐状又は直鎖状のC6−C20アリーレニル、分岐状または直鎖状のC7−C20アルキルアリーレニルであり、Zは、酸素、硫黄又はC=Oであり、kは、1から約4である)を含むことを特徴とする請求項6〜11のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項13】
一般式(III)で表される化合物が、4-(2-オキサゾリル)-フェニル-N-メチル-ニトロン、4-(2-チアゾリル)-フェニル-N-メチル-ニトロン、4-(2-オキサゾリル)-フェニル-N-フェニル-ニトロン、4-(2-チアゾリル)-フェニル-N-フェニル-ニトロン、フェニル-N-4-(2-オキサゾリル)-フェニル-ニトロン、フェニル-N-4-(2-チアゾリル)-フェニル-ニトロン、4-トリル-N-4-(2-オキサゾリル)-フェニル-ニトロン、4-トリル-N-4-(2-チアゾリル)-フェニル-ニトロン、4-メトキシフェニル-N-4-(2-オキサゾリル)-フェニル-ニトロン、4-メトキシフェニル-N-4-(2-チアゾリル)-フェニル-ニトロン、4-(2-オキサゾリル)-フェニル-ニトリルオキシド、4-(2-チアゾリル)-フェニル-ニトリルオキシド、4-(2-オキサゾリル)-フェニル-N-メチル-ニトリルイミン、4-(2-チアゾリル)-フェニル-N-メチル-ニトリルイミン、4-(2-オキサゾリル)-フェニル-N-フェニル-ニトリルイミン、4-(2-チアゾリル)-フェニル-N-フェニル-ニトリルイミン、フェニル-N-4-(2-オキサゾリル)-フェニル-ニトリルイミン、フェニル-N-4-(2-チアゾリル)-フェニル-ニトリルイミンからなる群から選ばれた少なくとも1つであることを特徴とする請求項1〜8、11、12のいずれかに記載の空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2010−241898(P2010−241898A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−89999(P2009−89999)
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】