説明

空気入りタイヤ

【課題】 ビードコアの構造に基づいてユニフォミティを良好に維持しながら軽量化を可能にした空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】 少なくとも1本のビードワイヤ10を環状に複数周巻回してなるビードコア5をビード部3に埋設した空気入りタイヤにおいて、ビードワイヤ10の引張強さを2200MPa以上にすると共に、ビードワイヤ10にその軸廻りに捩りを与え、該ビードワイヤ10の軸方向に対するワイヤ表面捩り角θを1°以上にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1本のビードワイヤを環状に複数周巻回してなるビードコアをビード部に埋設した空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、ビードコアの構造に基づいてユニフォミティを良好に維持しながら軽量化を可能にした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気入りタイヤのビードコアを構成するビードワイヤとしては、レギュラーテンサイル材(引張強さ:2000MPa程度)からなるビードワイヤが使用されている(例えば、特許文献1〜2参照)。ここで、引張強さを更に高めた高強度のビードワイヤを使用し、その替わりにワイヤ使用量を削減することにより、空気入りタイヤを軽量化することが可能である。
【0003】
しかしながら、高強度のビードワイヤを得るには伸線加工を十分に行う必要であり、そのような伸線加工により表面歪が大きくなると、ビードワイヤの真直性が悪化し、それが空気入りタイヤのユニフォミティを悪化させるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−195189号公報
【特許文献2】特開平10−219395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ビードコアの構造に基づいてユニフォミティを良好に維持しながら軽量化を可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、少なくとも1本のビードワイヤを環状に複数周巻回してなるビードコアをビード部に埋設した空気入りタイヤにおいて、前記ビードワイヤの引張強さを2200MPa以上にすると共に、前記ビードワイヤにその軸廻りに捩りを与え、該ビードワイヤの軸方向に対するワイヤ表面捩り角を1°以上にしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、少なくとも1本のビードワイヤを環状に複数周巻回してなるビードコアをビード部に埋設した空気入りタイヤにおいて、ビードワイヤの引張強さを2200MPa以上にするので、ワイヤ使用量の削減により空気入りタイヤを軽量化することが可能になる。その際、ビードワイヤに捩りを与え、そのワイヤ表面捩り角を規定するので、伸線加工によるビードワイヤの表面歪が大きい場合であっても、ビードワイヤの真直性を高めて空気入りタイヤのユニフォミティを改善することができる。これにより、ビードコアの構造に基づいてユニフォミティを良好に維持しながら空気入りタイヤの軽量化を図ることができる。
【0008】
ビードワイヤの真直性を改善するには上記ワイヤ表面捩り角を大きくすることが望ましいが、それが過大であるとビードワイヤの生産性が悪化する。そのため、ビードワイヤの軸方向に対するワイヤ表面捩り角は1°〜15°にすることが好ましい。
【0009】
特にビードワイヤの引張強さを3000MPa以上にし、ビードワイヤの素線径を0.25mm〜0.50mmにすることが好ましい。このようにビードワイヤの引張強さを高めた上でビードワイヤを細径化することにより、ビードワイヤの強度を確保しながら、その曲げ剛性を低下させ、空気入りタイヤのリム組み性を改善することができる。
【0010】
ビードワイヤは個別にゴム被覆した状態でその周回部分をタイヤ径方向に積み重ねることが好ましい。これにより、ビードコアとしての一体性を確保すると共に、ビードワイヤの周回部分同士の擦れを防止することができる。
【0011】
上記ビードワイヤは撚りを掛けていない状態で環状に複数周巻回することが好ましいが、上記ビードワイヤを撚り合わせた少なくとも1本のコードを環状に複数周巻回することでビードコアを構成しても良い。この場合も、コードとしての真直性が良好になるため、空気入りタイヤのユニフォミティを改善することができる。
【0012】
本発明において、ワイヤ表面捩り角θは以下のようにして測定される。先ず、空気入りタイヤからビードワイヤを取り出し、そのワイヤを有機溶剤に浸漬して表面に付着するゴムを膨潤させた後、そのゴムを除去する。そして、光学顕微鏡にてビードワイヤを観察し、ビードワイヤの素線径d(mm)を測定すると共に、ワイヤ表面に形成された伸線痕から捩りピッチP(mm)の1/2の値を測定し、それを2倍して捩りピッチPを求める。捩りピッチPは少なくとも10箇所での測定値の平均値とする。これら素線径d及び捩りピッチPに基づいて下記(1)式からワイヤ表面捩り角θを算出する。なお、ビードワイヤが撚り合わされてコードを形成している場合、コードを分解して得られるビードワイヤを直線状に固定した状態で寸法測定を行えば良い。
θ=ATAN(π×d/P)×180/π・・・(1)
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線半断面図である。
【図2】本発明でビードコアに使用されるビードワイヤを示す側面図である。
【図3】図2のビードワイヤの一部を拡大して示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。図1は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示し、図2及び図3は本発明でビードコアに使用されるビードワイヤを示すものである。
【0015】
図1において、1はトレッド部、2はサイドウォール部、3はビード部である。左右一対のビード部3,3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されている。カーカス層4の補強コードとしては、一般には有機繊維コードが使用されるが、スチールコードを使用しても良い。ビードコア5は少なくとも1本のビードワイヤ10(スチールワイヤ)を環状に複数周巻回することで構成されている。例えば、1本のビードワイヤ10を複数の周回部分がタイヤ幅方向に並ぶと共にタイヤ径方向に積み重なるように連続的に巻回したり、或いは、タイヤ幅方向に引き揃えられた複数本のビードワイヤ10を複数の周回部分がタイヤ径方向に積み重なるように連続的に巻回することができる。ビードコア5の外周上にはビードフィラー6が配置され、このビードフィラー6がカーカス層4の本体部分と折り返し部分により包み込まれている。
【0016】
一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層のベルト層8が埋設されている。これらベルト層8はタイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。ベルト層8において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°〜40°の範囲に設定されている。
【0017】
ベルト層8の外周側には、高速耐久性の向上を目的として、補強コードをタイヤ周方向に対して5°以下の角度で配列してなる少なくとも1層のベルトカバー層9が配置されている。このベルトカバー層9は少なくとも1本の補強コードを引き揃えてゴム被覆してなるストリップ材をタイヤ周方向に連続的に巻回したジョイントレス構造とすることが望ましい。また、ベルトカバー層9は図示のようにベルト層8の幅方向の全域を覆うように配置しても良く、或いは、ベルト層8の幅方向外側のエッジ部のみを覆うように配置しても良い。ベルトカバー層9の補強コードとしては、ナイロン、PET、アラミド等の有機繊維を単独で又は複合して用いたコードを使用すると良い。
【0018】
上記空気入りタイヤにおいて、ビードコア5を構成するビードワイヤとして、引張強さが2200MPa以上であると共に、軸廻りに捩りを与えたビードワイヤ10(図2及び図3参照)が使用されている。図2及び図3において、ビードワイヤ10の表面には伸線加工に起因する伸線痕11が形成されているが、その伸線痕11に基づいて判定される捩りピッチP(mm)とビードワイヤ10の素線径d(mm)とから算出されるビードワイヤ10の軸方向に対するワイヤ表面捩り角θは1°以上の範囲、より好ましくは、1°〜15°の範囲、更に好ましくは、4°〜12°の範囲になっている。
【0019】
上述のように少なくとも1本のビードワイヤ10を環状に複数周巻回してなるビードコア5をビード部3に埋設した空気入りタイヤにおいて、ビードワイヤ10の引張強さを2200MPa以上にするので、例えば、従来に比べてビードワイヤ10の周回数を減らしたりビードワイヤ10を細径化したりしてワイヤ使用量を削減することにより、空気入りタイヤを軽量化することができる。しかも、ビードワイヤ10にその軸廻りに捩りを与え、該ビードワイヤ10の軸方向に対するワイヤ表面捩り角θを規定することにより、伸線加工によるビードワイヤ10の表面歪が大きい場合であっても、ビードワイヤ10の真直性を高めて空気入りタイヤのユニフォミティを改善することができる。
【0020】
ここで、ワイヤ表面捩り角θが1°未満であるとビードワイヤ10の真直性の改善効果が不十分になる。一方、ワイヤ表面捩り角θを15°より大きくしても、それ以上の改善効果が得られず、ビードワイヤ10の生産性が悪化することになる。
【0021】
ビードワイヤ10の引張強さは、2200MPa以上、より好ましくは、3000MPa以上とする。ビードワイヤ10の引張強さが小さ過ぎると、空気入りタイヤを軽量化することが困難になる。ビードワイヤ10の引張強さの上限値は特に限定されるものではないが、例えば、4500MPaとする。
【0022】
上記空気入りタイヤにおいて、ビードワイヤ10の素線径dは0.25mm〜0.50mmであると良い。ビードワイヤ10を細径化することにより、ビードワイヤ10の曲げ剛性が低下し、空気入りタイヤのリム組み性が良化する。この素線径dが0.25mm未満であるとビードワイヤとしては切断荷重が低くなり、ビード部3の強度を確保するためにビードコア5を構成するビードワイヤ10の本数を多くする必要があり、それに伴って空気入りタイヤのユニフォミティが悪化する。逆に、素線径dが0.50mmを超えるとビードワイヤ10の捩り加工が困難になり、ビードワイヤ10の生産性が悪化する。
【0023】
ビードワイヤ10は個別にゴム被覆した状態でその周回部分をタイヤ径方向に積み重ねると良い。つまり、ビードコア5を成形する際に未加硫ゴムで被覆されたビードワイヤ10を用意し、そのゴム被覆されたビードワイヤ10を環状に巻回することでビードコア5を成形することが望ましい。これにより、ビードコア5としての一体性を確保すると共に、ビードワイヤ10の周回部分同士の擦れを防止することができる。その結果、ビードコア5の耐久性を向上することができる。
【0024】
上述した実施形態において、ビードワイヤ10は撚りを掛けていない状態で環状に複数周巻回されているが、本発明ではビードワイヤ10を撚り合わせた少なくとも1本のコードを用意し、そのコードを環状に複数周巻回することでビードコア5を構成することも可能である。この場合も、コードとしての真直性が良好になるため、空気入りタイヤのユニフォミティを改善することができる。コードの撚り構造としては、例えば、1×N構造、N+M構造、N×M構造を採用することができる。また、コードを構成する複数本の素線の全てに上記ビードワイヤ10を用いることが望ましいが、コードを構成する複数本の素線のうち一部だけに上記ビードワイヤ10を用いることも可能である。
【実施例】
【0025】
タイヤサイズ195/65R15で、1本のビードワイヤを環状に複数周巻回してなるビードコアをビード部に埋設した空気入りタイヤにおいて、ビードワイヤの素線径d、強力、引張強さ、ワイヤ表面捩り角θを表1のように設定した従来例1、比較例1及び実施例1〜5のタイヤを製作した。
【0026】
従来例1のタイヤは、素線径dが1.20mmのビードワイヤを用いたものである。比較例1のタイヤは、素線径dが1.00mmのビードワイヤを用いたものである。一方、実施例1〜5のタイヤは、素線径dが0.20mm〜1.00mmのビードワイヤを用い、そのビードワイヤにその軸廻りに捩りを与えたものである。従来例1、比較例1及び実施例1〜5においては、ビードワイヤの周回数を変化させることでビードコアの総強力を一定にしている。
【0027】
これら試験タイヤについて、下記の評価方法により、ビード部のワイヤ重量、ユニフォミティ及びリム組み性を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0028】
ビード部のワイヤ重量:
各試験タイヤのビードコアを構成するビードワイヤの重量を測定した。評価結果は、従来例1を100とする指数にて示した。この指数値が小さいほど軽量であることを意味する。
【0029】
ユニフォミティ:
各試験タイヤをリムサイズ15×6JJのリムに組付け、空気圧を200kPaにしてユニフォミティ試験機に取り付け、ラジアル・フォース・バリエーション(RFV)を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用い、従来例1を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどユニフォミティが優れていることを意味する。
【0030】
リム組み性:
各試験タイヤをリムに組み付けて空気圧を増加させ、タイヤがリムに対して完全に嵌合したときの空気圧に基づいてリム組み性を評価した。より具体的には、嵌合時の空気圧に基づいて従来例1を「3」とする5段階評価を行った。この評価値が大きいほどリム組み性が優れていることを意味する。
【0031】
【表1】

【0032】
表1から判るように、実施例1〜5のタイヤは、従来例1との対比において、ユニフォミティを良好に維持しながら軽量化を達成することができた。特に、実施例2〜5では、リム組み性が顕著に改善されていた。これに対して、比較例1のタイヤは、軽量化は達成されているものの、ユニフォミティが悪化していた。
【符号の説明】
【0033】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
8 ベルト層
9 ベルトカバー層
10 ビードワイヤ
11 伸線痕

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1本のビードワイヤを環状に複数周巻回してなるビードコアをビード部に埋設した空気入りタイヤにおいて、前記ビードワイヤの引張強さを2200MPa以上にすると共に、前記ビードワイヤにその軸廻りに捩りを与え、該ビードワイヤの軸方向に対するワイヤ表面捩り角を1°以上にしたことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記ビードワイヤの軸方向に対するワイヤ表面捩り角を1°〜15°にしたことを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記ビードワイヤの引張強さを3000MPa以上にし、前記ビードワイヤの素線径を0.25mm〜0.50mmにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記ビードワイヤを個別にゴム被覆した状態でその周回部分をタイヤ径方向に積み重ねたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記ビードワイヤを撚り合わせた少なくとも1本のコードを環状に複数周巻回することで前記ビードコアを構成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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