説明

空気入りタイヤ

【課題】軽量化を図り、耐リム外れ性を低下することなくタイヤをホイールに装着する際の嵌合圧を低減するようにした空気入りタイヤ10を提供すること。
【解決手段】カーカス22の本体部22Aと折り返し部22Bとの境の箇所22Cでタイヤ径方向内側かつタイヤ軸方向外側の箇所に、凹部30が設けられている。複数のスチールワイヤ32Aが、本体部22Aと折り返し部22Bと境の箇所22Cとで囲まれた領域に配置されると共に、複数の有機繊維コード32Bが凹部30内に配置されている。凹部30は、側面部2204と第2の底面部2206とで構成されている。スチールワイヤ32Aと有機繊維コード32Bとにより、側面部2204はタイヤ軸方向において挟持され、第2の底面部2206はタイヤ径方向において挟持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量化を図り耐リム外れ性を確保しつつタイヤをホイールに装着する際の嵌合圧を低減するようにした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
今般、低燃費化の観点から車両の軽量化だけでなく、タイヤにおいても軽量化の要求が高まっている。タイヤの軽量化の要求が高まるにつれ、その一環としてビードコアの重量も問題となってきており、ビードコアの重量を低減することが望まれている。
一方、ビード部はホイールのリム上に嵌合した状態を保つ役割を有しており、耐リム外れ性が高いことが望まれる。
従来、ビードコアを構成するビード線に、スチールワイヤと有機繊維コードとを用い、ビードコアの強度を確保しつつビードコアの軽量化を図るようにした空気入りタイヤが種々提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−280119
【特許文献2】特開2002−2237
【特許文献3】特開平07−96720
【特許文献4】特開平04−183613
【特許文献5】特開2011−136668
【特許文献6】特開2002−67629
【特許文献7】特開2002−67630
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、耐リム外れ性を高めると、タイヤをホイールに装着し難くなる。例えば、ビードコアの内径を小さくすると、耐リム外れ性は向上するが、ホイールへの装着時にリムに対してのビード部の嵌合圧が高くなり、タイヤをホイールに装着し難くなる。
すなわち、タイヤをホイールに装着する際、装着作業が効率良く行われるためには、リムに対してのビード部の嵌合圧が低いことが望ましい。
このようなビード部の耐リム外れ性と嵌合圧は背反性能であるため、両性能を両立することは難しい。
本発明は前記事情に鑑み案出されたものであって、本発明の目的は、軽量化を図り、耐リム外れ性を確保しつつタイヤをホイールに装着する際の嵌合圧を低減するようにした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため本発明は、トレッド部からサイドウォール部を経てビード部に至る本体部と、前記ビード部で折り返され前記サイドウォール部側に向かって延在する折り返し部とを有するカーカスと、前記ビード部に設けられたビードコアとを備え、前記ビードコアをタイヤ周方向と直交する平面で切断した断面は、複数のビード線がタイヤ軸方向およびタイヤ径方向に並べられて構成され、前記ビード線に、複数のスチールワイヤと複数の有機繊維コードとが用いられた空気入りタイヤであって、前記カーカスの前記本体部と前記折り返し部との境の箇所でタイヤ径方向内側かつタイヤ軸方向外側の箇所に、タイヤ径方向内側かつタイヤ軸方向外側に開放状の凹部が設けられ、前記複数のスチールワイヤが、本体部と折り返し部と前記境の箇所とで囲まれた領域に配置されると共に、前記複数の有機繊維コードが前記凹部内に配置され、前記凹部を構成する前記カーカスの箇所が前記スチールワイヤと前記有機繊維コードで挟持されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明では、ビードコアのタイヤ軸方向の内側の箇所に位置するビード線は、全てスチールワイヤで形成されているので、ビード部のタイヤ軸方向の内側に位置する箇所の剛性を確保し、耐リム外れ性を確保する上で有利となる。
また、ビードコアのタイヤ軸方向の外側かつタイヤ径方向の内側の箇所に位置するビード線が全て有機繊維コードで形成されているので、ビード部のタイヤ軸方向の外側に位置する箇所の剛性を低くし、空気入りタイヤの装着時にハンプを乗り越え易くなり、嵌合圧を低く抑える上で有利となる。
また、凹部を構成するカーカスの部分が、スチールワイヤと有機繊維コードで挟持されているので、カーカスとビードコアとの係合力が増加し、耐リム外れ性を確保する上で有利となる。
したがって、本発明の空気入りタイヤによれば、軽量化を図り、耐リム外れ性を確保しつつタイヤをホイールに装着する際の嵌合圧を低減する上で有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】空気入りタイヤの半部断面図である。
【図2】ビード部の拡大図である。
【図3】(A)〜(D)はビードコアの説明図である。
【図4】本発明の試験結果を示す図である。
【図5】本発明の試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を図面にしたがって説明する。
図1に示すように、空気入りタイヤ10はトレッド部12と、トレッド部12の両端からタイヤ半径方向内側に延びるサイドウォール部14と、各サイドウォール部14のタイヤ半径方向内側の端部に位置するビード部16とを備えている。
カーカス22は、トレッド部12からサイドウォール部14を経てビード部16に至る本体部22Aと、ビード部16で折り返されサイドウォール部14側に向かって延在する折り返し部22Bとを有している。
各ビード部16にはビードコア18が設けられ、ビードコア18の半径方向外側にタイヤ径方向外側に先細り状に延びるビードフィラー20が設けられ、ビードコア18の一部とビードフィラー20は、カーカス22の本体部22Aと折り返し部22Bとで挟まれている。
トレッド部12には、カーカス22のタイヤ半径方向外側にベルト層24が設けられている。
【0009】
図2に示すように、カーカス22の本体部22Aと折り返し部22Bとの境の箇所22Cは、第1の底面部2202と、側面部2204と、第2の底面部2206とで構成されている。
第1の底面部2202は、本体部22Aのタイヤ径方向内側の端部からタイヤ軸方向外側に延在し、タイヤ径方向内側を向いている。
側面部2204は、第1の底面部2202のタイヤ軸方向外側の端部からタイヤ径方向外側に延在し、タイヤ軸方向外側を向いている。
第3の底面部2206は、側面部2204のタイヤ径方向外側の端部からタイヤ軸方向外側に延在しそのタイヤ軸方向外側の端部が折り返し部22Bのタイヤ径方向内側の端部に接続され、タイヤ径方向内側を向いている。
そして、本体部22Aと折り返し部22Bの境の箇所22Cでタイヤ径方向内側かつタイヤ軸方向外側の箇所に、側面部2204と第2の底面部2206とにより、タイヤ径方向内側かつタイヤ軸方向外側に開放状の凹部30が形成されている。
なお、当然のことながら、凹部30はタイヤ軸方向両側の各ビード部16に位置するカーカス22の箇所に設けられ、それぞれビード部16の全周にわたって延在しており、第1の底面部2202および第2の底面部2206は円筒状を呈し、側面部2204は環板状を呈している。
【0010】
ビードコア18をタイヤ周方向と直交する平面で切断した断面は、複数のビード線32がタイヤ径方向およびタイヤ軸方向に並べられ矩形の輪郭をなすように構成されている。
ビード線32には、複数のスチールワイヤ32Aと複数の有機繊維コード32Bとが用いられ、ビードコア18の軽量化が図られている。なお、図中、スチールワイヤ32Aを白丸で示し、有機繊維コード32Bを黒色系の色付きの丸で示している。
【0011】
複数のスチールワイヤ32Aは、本体部22Aと折り返し部22Bと境の箇所22Cとで囲まれた領域に配置されている。
より詳細には、本体部22Aと折り返し部22Bと境の箇所22Cとで囲まれた領域に、2本のスチールワイヤ32Aがタイヤ軸方向に並べられた第1の軸方向列42がタイヤ径方向に並べられて2つ設けられ、また、第1の軸方向列42のタイヤ径方向外側に、4本のスチールワイヤ32Aがタイヤ軸方向に並べられた第2の軸方向列44がタイヤ径方向に並べて2つ設けられている。
2つの第1の軸方向列42のうちタイヤ径方向内側に位置する第1の軸方向列42を構成する2本のスチールワイヤ32Aは、第1の底面部2202に係止している。
【0012】
また、2つの第2の軸方向列44のうちタイヤ径方向内側に位置する第2の軸方向列44を構成するタイヤ軸方向外側の2本のスチールワイヤ32Aは、第2の底面部2206に係止している。
また、2つの第1の軸方向列42および2つの第2の軸方向列44を構成するスチールワイヤ32Aのうちタイヤ軸方向の内側に位置する4本のスチールワイヤ32Aは本体部22Aに係止している。
また、2つの第1の軸方向列42を構成するスチールワイヤ32Aのうちタイヤ軸方向外側に位置する2本のスチールワイヤ32Aは側面部2204に係止している。
また、2つの第2の軸方向列44を構成するスチールワイヤ32Aのうちタイヤ軸方向外側に位置する2本のスチールワイヤ32Aは折り返し部22Bに係止している。
【0013】
複数の有機繊維コード32Bは凹部30内に配置されている。
より詳細には、側面部2204のタイヤ軸方向外側かつ第2の底面部2206のタイヤ径方向内側に、2本の有機繊維コード32Bがタイヤ軸方向に並べられた第3の軸方向列46がタイヤ径方向に並べられて2つ設けられている。
タイヤ径方向内側に位置する第3の軸方向列46は、タイヤ径方向内側に位置する第1の軸方向列42と同一直線上を延在し、また、タイヤ径方向外側に位置する第3の軸方向列46は、タイヤ径方向外側に位置する第1の軸方向列42と同一直線上を延在している。
また、各有機繊維コード32Bは、それらのタイヤ径方向外側に配置された第2の軸方向列44を構成するスチールワイヤ32Aとタイヤ径方向において同一直線上に位置するように配置されている。
【0014】
2つの第3の軸方向列46のうちタイヤ径方向外側の第3の軸方向列46を構成する2本の有機繊維コード32Bは、第2の底面部2206に係止している。
また、2つの第3の軸方向列46を構成する有機繊維コード32Bのうちタイヤ軸方向内側に位置する2本の有機繊維コード32Bは、側面部2204に係止している。
したがって、有機繊維コード32Bは、側面部2204に係止してタイヤ径方向に並べられた複数の有機繊維コード32Bと、第2の底面部2206に係止してタイヤ軸方向に並べられた複数の有機繊維コード32Bを含んで構成されている。
また、互いに隣り合うスチールワイヤ32Aと有機繊維コード32Bの箇所では、それらスチールワイヤ32Aと有機繊維コード32Bとでカーカス22を挟持しており、側面部2204と第2の底面部2206の双方が挟持されている。詳細には、側面部2204は、タイヤ軸方向において挟持され、第2の底面部2206はタイヤ径方向において挟持されている。
すなわち、本実施の形態ではビードコア18がカーカス22により分割されており、カーカス22の内側にスチールワイヤ32Aが配置されると共にカーカス22の外側に有機繊維コード32Bが配置され、それらスチールワイヤ32Aと有機繊維コード32Bでカーカス22をタイヤ軸方向およびタイヤ径方向の双方において挟持しており、カーカス22とビードコア18との係合力が高められ、リム外れ性の低下を抑制している。
【0015】
図3(A)乃至(D)に、本発明のビードコア18の他の実施の形態を示している。
図3(A)乃至(D)に示すビードコア18は、図2に示すビードコア18と同様に、ビードコア18をタイヤ周方向と直交する平面で切断した断面は、複数のビード線32がタイヤ径方向およびタイヤ軸方向に並べられ矩形の輪郭をなすように構成されている。
図3(A)に示すビードコア18では、本体部22Aと折り返し部22Bと境の箇所22Cとで囲まれた領域に、3本のスチールワイヤ32Aがタイヤ軸方向に並べられた第1の軸方向列42がタイヤ径方向に並べられて2つ設けられ、また、第1の軸方向列42のタイヤ径方向外側に、5本のスチールワイヤ32Aがタイヤ軸方向に並べられた第2の軸方向列44が1つ設けられている。
複数の有機繊維コード32Bは凹部30内に配置されている。すなわち、側面部2204の軸方向外側かつ第2の底面部2206のタイヤ径方向内側に、2本の有機繊維コード32Bがタイヤ軸方向に並べられた第3の軸方向列46がタイヤ径方向に並べられて2つ設けられている。
それらスチールワイヤ32Aと有機繊維コード32Bの本体部22A、第1の底面部2202、側面部2204、第2の底面部2206、折り返し部22Bへの係止は、図2に示すビードコア18と同様であり、互いに隣り合うスチールワイヤ32Aと有機繊維コード32Bの箇所では、それらスチールワイヤ32Aと有機繊維コード32Bとでカーカス22を挟持している。
【0016】
図3(B)に示すビードコア18では、本体部22Aと折り返し部22Bと境の箇所22Cとで囲まれた領域に、3本のスチールワイヤ32Aがタイヤ軸方向に並べられた第1の軸方向列42がタイヤ径方向に並べられて2つ設けられ、また、第1の軸方向列42のタイヤ径方向外側に、5本のスチールワイヤ32Aがタイヤ軸方向に並べられた第2の軸方向列44がタイヤ径方向に並べて2つ設けられている。
複数の有機繊維コード32Bは、図3(A)と同様に、凹部30内に配置されている。
それらスチールワイヤ32Aと有機繊維コード32Bの本体部22A、第1の底面部2202、側面部2204、第2の底面部2206、折り返し部22Bへの係止は、図2に示すビードコア18と同様であり、互いに隣り合うスチールワイヤ32Aと有機繊維コード32Bの箇所では、それらスチールワイヤ32Aと有機繊維コード32Bとでカーカス22を挟持している。
【0017】
図3(C)に示すビードコア18では、本体部22Aと折り返し部22Bと境の箇所22Cとで囲まれた領域に、3本のスチールワイヤ32Aがタイヤ軸方向に並べられた第1の軸方向列42がタイヤ径方向に並べられて2つ設けられ、また、第1の軸方向列42のタイヤ径方向外側に、5本のスチールワイヤ32Aがタイヤ軸方向に並べられた第2の軸方向列44がタイヤ径方向に並べて3つ設けられている。
複数の有機繊維コード32Bは、図3(A)と同様に、凹部30内に配置されている。
それらスチールワイヤ32Aと有機繊維コード32Bの本体部22A、第1の底面部2202、側面部2204、第2の底面部2206、折り返し部22Bへの係止は、図2に示すビードコア18と同様であり、互いに隣り合うスチールワイヤ32Aと有機繊維コード32Bの箇所では、それらスチールワイヤ32Aと有機繊維コード32Bとでカーカス22を挟持している。
【0018】
図3(D)に示すビードコア18では、本体部22Aと折り返し部22Bと境の箇所22Cとで囲まれた領域に、3本のスチールワイヤ32Aがタイヤ軸方向に並べられた第1の軸方向列42がタイヤ径方向に並べられて2つ設けられ、また、第1の軸方向列42のタイヤ径方向外側に、6本のスチールワイヤ32Aがタイヤ軸方向に並べられた第2の軸方向列44がタイヤ径方向に並べて2つ設けられている。
複数の有機繊維コード32Bは凹部30内に配置されている。すなわち、側面部2204の軸方向外側かつ第2の底面部2206のタイヤ径方向内側に、3本の有機繊維コード32Bがタイヤ軸方向に並べられた第3の軸方向列46がタイヤ径方向に並べられて2つ設けられている。
それらスチールワイヤ32Aと有機繊維コード32Bの本体部22A、第1の底面部2202、側面部2204、第2の底面部2206、折り返し部22Bへの係止は、図2に示すビードコア18と同様であり、互いに隣り合うスチールワイヤ32Aと有機繊維コード32Bの箇所では、それらスチールワイヤ32Aと有機繊維コード32Bとでカーカス22を挟持している。
【0019】
本実施の形態では、カーカス22の本体部22Aと折り返し部22Bとの境の箇所22Cでタイヤ径方向内側かつタイヤ軸方向外側の箇所に、タイヤ径方向内側かつタイヤ軸方向外側に開放状の凹部30が設けられ、複数のスチールワイヤ32Aは、本体部22Aと折り返し部22Bとそれらの境の箇所22Cとで囲まれた領域に配置され、複数の有機繊維コード32Bは凹部30内に配置されているので、次の効果が奏される。
空気入りタイヤ10がホイールのリムに装着された状態で、耐リム外れ性は、ビード部16のタイヤ軸方向の内側に位置する箇所の剛性に起因することが知られている。すなわち、ビード部16のタイヤ軸方向の内側に位置する箇所の剛性を高めると、ビード部16が変形しにくくなってハンプを乗り越えにくくなり、耐リム外れ性が確保される。
本実施の形態では、ビードコア18のタイヤ軸方向の内側の箇所に位置するビード線32を、全てスチールワイヤ32Aで形成することで、ビード部16のタイヤ軸方向の内側に位置する箇所の剛性を確保し、耐リム外れ性を確保している。
【0020】
また、凹部30を設け、凹部30を構成する側面部2204と第2の底面部2206とを、スチールワイヤ32Aと有機繊維コード32Bで挟持するようにしたので、カーカス22とビードコア18との係合力が増加し、耐リム外れ性の低下を抑制する上で有利となる。
また、空気入りタイヤ10がホイールのリムに装着された状態で、空気入りタイヤ10に作用するせん断応力は、タイヤ軸方向の内側かつタイヤ径方向内側の箇所により大きく作用することが知られている。
本実施の形態では、せん断応力に対して強いスチールワイヤ32Aを、タイヤ軸方向内側かつタイヤ径方向内側に多く配置しており、せん断応力に対処する上で有利となり、軽量化を図り、耐リム外れ性を確保している。
【0021】
また、空気入りタイヤ10をホイールのリムに装着する際、ビード部16のタイヤ軸方向の外側に位置する箇所の剛性を低くすると、ビード部16が変形し易くなってハンプを乗り越え易くなることが考えられる。
本実施の形態では、ビードコア18のタイヤ軸方向の外側かつタイヤ径方向の内側の箇所に位置するビード線32を全て有機繊維コード32Bで形成することで、ビード部16のタイヤ軸方向の外側に位置する箇所の剛性を低くし、空気入りタイヤ10の装着時にハンプを乗り越え易くし、嵌合圧を低く抑えるようにしている。
したがって、本実施の形態の空気入りタイヤ10によれば、軽量化を図り、耐リム外れ性を確保しつつタイヤをホイールに装着する際の嵌合圧を低減する上で有利となる。
【0022】
ビード線32に用いる有機繊維コード32Bとして、スチールワイヤ32Aよりも比重が小さく、タイヤの回転駆動時に生じる前記カーカス22の高張力に耐え得る引張強度を有するものであれば、従来公知の様々なコードを使用できるが、その中でもアラミド繊維コードが好適である。
また、スチールワイヤ32Aと有機繊維コード32Bとに同一直径のものを用いると、ビード線32を整然と並べやすくビードコア18を簡単に製造する上で有利となり、また、タイヤユニフォミティを確保し、操縦安定性を高める上でより有利となる。本実施の形態では、同一直径のスチールワイヤ32Aと有機繊維コード32Bとが用いられている。
【0023】
また、ビードコア18をタイヤ周方向と直交する平面で切断した断面において、ビードコア18を構成する全てのビード線32に対する有機繊維コード32Bの占有率を大きくし過ぎると、耐リム外れ性の効果が小さくなり、反対に有機繊維コード32Bの占有率を小さくし過ぎると、軽量化効果が小さく、嵌合圧の低減効果も小さくなる。
したがって、ビードコア18を構成する全てのビード線32に対する有機繊維コード32Bの占有率を5%以上30%以下に形成すると、軽量化を図り、耐リム外れ性を確保しつつタイヤをホイールに装着する際の嵌合圧を低減する上でより有利となる。
【実施例】
【0024】
重量、耐リム外れ性、嵌合圧についての試験を行ない、その結果を図4に示す。
試験条件は以下の通りである。
タイヤサイズ:215/55R17
リム:17×7J
従来例、比較例、実施例のビードコア18の断面構造は図4に示す通りである。
スチールワイヤ32Aと有機繊維コード32Bとして同一直径(1.2mm)のものを用い、有機繊維コード32Bとしてアラミド繊維コードを用いた。
【0025】
重量比、耐リム外れ性、嵌合圧の評価方法は次の通りである。
[重量比]
重量比は従来例のビードコア18の重量を100とする指数で示し、指数値が大きいほど軽量化が図れていることを意味している。
[嵌合圧]
タイヤをホイールに装着する際、リムに対してのビード部16の嵌合圧を、従来例のビードコア18を100とする指数で示し、指数値が大きいほど嵌合圧が小さく、ホイールへの装着が簡単になされることを意味している。この嵌合圧は、弊社テストパネラーによる官能評価である。
[耐リム外れ性]
タイヤがホイールに装着された状態のビードアンシーティング値(kN)をJIS D4230の規定に準拠して測定し、公的規格を100(基準)とした指数で示し、この値が大きいほど耐リム外れ性に優れていることを意味している。
【0026】
従来例、比較例1〜3、実施例1では、ビードコア18を構成するビード線32は全て20本であり、矩形の輪郭をなすように配置されている。
従来例、比較例1、比較例2では、カーカス22の本体部22Aと折り返し部22Bとの境の箇所22Cに凹部30を設けておらず、本体部22Aと折り返し部22Bとの境の箇所22Cとで囲まれた領域に全てのビード線32を配置している。
従来例は、ビードコア18を構成するビード線32は全てスチールワイヤ32Aであり、比較例1では、ビードコア18を構成するビード線32は全て有機繊維コード32Bである。
比較例2では、タイヤ軸方向外側かつタイヤ径方向内側の箇所に位置する4本のビード線32に有機繊維コード32Bを用い、残りのビード線32は全てスチールワイヤ32Aである。
比較例3では、カーカス22に凹部30を設けているが、本体部22Aと折り返し部22Bとの境の箇所22Cとで囲まれた領域と、凹部30との双方に全てスチールワイヤ32Aを配置している。
実施例1は、図3(B)に示す実施の形態と同一の構成であり、本体部22Aと折り返し部22Bと境の箇所22Cとで囲まれた領域に、3本のスチールワイヤ32Aがタイヤ軸方向に並べられた第1の軸方向列42がタイヤ径方向に並べられて2つ設けられ、また、第1の軸方向列42のタイヤ径方向外側に、5本のスチールワイヤ32Aがタイヤ軸方向に並べられた第2の軸方向列44がタイヤ径方向に並べて2つ設けられている。また、複数の有機繊維コード32Bは、凹部30内に配置され、側面部2204の軸方向外側かつ第2の底面部2206のタイヤ径方向内側に、2本の有機繊維コード32Bがタイヤ軸方向に並べられた第3の軸方向列46がタイヤ径方向に並べられて2つ設けられている。
【0027】
比較例1では、従来例に比べ重量比、嵌合圧が向上しているものの、耐リム外れ性は低下している。
比較例2では、従来例に比べ重量比、嵌合圧が向上しているものの、耐リム外れ性は低下している。
比較例3では、重量比が従来例と同等であり、耐リム外れ性が向上しているものの、嵌合圧が低下している。
実施例1では、耐リム外れ性を従来例と同等に確保しつつ、重量比、嵌合圧を向上させている。
【0028】
また、本実施の形態において、ビードコア18を構成する全てのビード線32に対する有機繊維コード32Bの占有率が、軽量化、嵌合圧、耐リム外れ性に与える影響についての試験を行ない、その結果を図5に示す。
試験条件は以下の通りである。
タイヤサイズ:215/55R17
リム:17×7J
実施例11〜15のビードコア18の断面構造は図5に示す通りである。
スチールワイヤ32Aと有機繊維コード32Bとして同一直径(1.2mm)のものを用い、有機繊維コード32Bとしてアラミド繊維コードを用いた。
【0029】
実施例11から実施例15まで図5に示すように占有率を段階的に上昇させた。
重量比、耐リム外れ性、嵌合圧の評価方法は次の通りである。
[重量比]
重量比は実施例13のビードコア18の重量を100とする指数で示し、指数値が大きいほど軽量化が図れていることを意味している。
[嵌合圧]
タイヤをホイールに装着する際、リムに対してのビード部16の嵌合圧を、実施例13のビードコア18を100とする指数で示し、指数値が大きいほど嵌合圧が小さく、ホイールへの装着が簡単になされることを意味している。この嵌合圧は、弊社テストパネラーによる官能評価である。
[耐リム外れ性]
タイヤがホイールに装着された状態のビードアンシーティング値(kN)をJIS D4230の規定に準拠して測定し、実施例13の測定値を100(基準)とした指数で示し、この値が大きいほど耐リム外れ性に優れていることを意味している。
【0030】
図5から明らかなように、ビードコア18を構成する全てのビード線32に対する有機繊維コード32Bの占有率を大きくし過ぎると、耐リム外れ性の効果が小さくなり、反対に有機繊維コード32Bの占有率を小さくし過ぎると、軽量化効果が小さく、嵌合圧の低減効果も小さくなる。
したがって、有機繊維コード32Bの占有率を5%以上30%以下の範囲に入れると、軽量化を図り、耐リム外れ性を確保しつつタイヤをホイールに装着する際の嵌合圧を低減する上でより有利となる。
【符号の説明】
【0031】
10……空気入りタイヤ、12……トレッド部、14……サイドウォール部、16……ビード部、18……ビードコア、20……ビードフィラー、22……カーカス、22A……本体部、22B……折り返し部、22C……境の箇所、2202……第1の底面部、2204……側面部、2206……第2の底面部、30……凹部、32……ビード線、32A……スチールワイヤ、32B……有機繊維コード。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部からサイドウォール部を経てビード部に至る本体部と、前記ビード部で折り返され前記サイドウォール部側に向かって延在する折り返し部とを有するカーカスと、
前記ビード部に設けられたビードコアとを備え、
前記ビードコアをタイヤ周方向と直交する平面で切断した断面は、複数のビード線がタイヤ軸方向およびタイヤ径方向に並べられて構成され、前記ビード線に、複数のスチールワイヤと複数の有機繊維コードとが用いられた空気入りタイヤであって、
前記カーカスの前記本体部と前記折り返し部との境の箇所でタイヤ径方向内側かつタイヤ軸方向外側の箇所に、タイヤ径方向内側かつタイヤ軸方向外側に開放状の凹部が設けられ、
前記複数のスチールワイヤが、本体部と折り返し部と前記境の箇所とで囲まれた領域に配置されると共に、前記複数の有機繊維コードが前記凹部内に配置され、
前記凹部を構成する前記カーカスの箇所が前記スチールワイヤと前記有機繊維コードで挟持されている、
ことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記凹部は、タイヤ軸方向外側に向いた側面部と、前記側面部のタイヤ径方向外側の端部に接続されタイヤ径方向内側に向いた第2の底面部とで構成され、
前記有機繊維コードは、前記側面部に係止してタイヤ径方向に並べられた複数の有機繊維コードと、前記第2の底面部に係止してタイヤ軸方向に並べられた複数の有機繊維コードを含んで構成され、
前記側面部はタイヤ軸方向において前記スチールワイヤと前記有機繊維コードで挟持され、
前記第2の底面部はタイヤ径方向において前記スチールワイヤと前記有機繊維コードで挟持されている、
ことを特徴とする請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記ビードコアをタイヤ周方向と直交する平面で切断した断面は、複数のスチールワイヤと複数の有機繊維コードとで矩形の輪郭を形成するように配置されている、
ことを特徴とする請求項1または2記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記ビードコアをタイヤ周方向と直交する平面で切断した断面において、前記複数のビード線に対して前記複数の有機繊維コードが占有する占有率は5%以上30%以下である、
ことを特徴とする請求項1乃至3に何れか1項記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記スチールワイヤの直径と前記有機繊維コードの直径は同一である、
ことを特徴とする請求項1乃至4に何れか1項記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−103644(P2013−103644A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249698(P2011−249698)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)