説明

空気入りタイヤ

【課題】静粛性能、破壊特性及び高速耐久性能に優れた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】ブレーカー及びインナーライナーの間にゴム層を有する空気入りタイヤであって、前記ゴム層が、ゴム成分と、平均一次粒子径300nm以下の微粒子酸化亜鉛及び脂肪酸を、前記脂肪酸の融点以上の温度で混合して得られる錯体とを含むゴム組成物からなる空気入りタイヤに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、乗用車の低騒音化、静粛性が強く望まれていることから、乗用車用ラジアルタイヤにも高い静粛性が求められている。タイヤに起因する騒音としては、トレッドパターンに基づくパターンノイズ、路面との間のきしみ音・すべり音、走行時のロードノイズが知られている。
【0003】
従来から、タイヤの静粛性能については、タイヤパターンや接地形状による改善が一般に行われているが、ゴム組成物の配合面からの改良は未だに不充分で改善の余地がある。配合面の改良で静粛性能を向上する手法として、損失正接tanδの高い配合ゴムを使用して減衰特性を高めることが考えられ、具体的には、カーボンブラックの増量が知られている。
【0004】
しかし、このような手法を用いると、高速走行時にゴム組成物が高温になるため、高速耐久性能が悪化するという問題がある。微粒子酸化亜鉛の配合によって破壊特性を高めて高速耐久性能を向上することも考えられるが、微粒子は分散が困難であるため、混練りが不充分な場合は分散不良が生じ、逆に破壊特性が悪化することもある。
【0005】
例えば、特許文献1には、微粒子酸化亜鉛と2種のシリカを含むゴム組成物を用いることにより、性能を向上することが開示されているが、微粒子の分散性が充分ではないため、性能向上という観点からは未だ改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−101127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記課題を解決し、静粛性能、破壊特性及び高速耐久性能に優れた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ブレーカー及びインナーライナーの間にゴム層を有する空気入りタイヤであって、前記ゴム層が、ゴム成分と、平均一次粒子径300nm以下の微粒子酸化亜鉛及び脂肪酸を、前記脂肪酸の融点以上の温度で混合して得られる錯体とを含むゴム組成物からなる空気入りタイヤに関する。
【0009】
前記空気入りタイヤにおいて、前記ゴム層が、ブレーカーとカーカスとの間及び/又はカーカスとインナーライナーとの間に配されていることが好ましい。
前記錯体において、前記微粒子酸化亜鉛及び前記脂肪酸の合計100質量%中の該微粒子酸化亜鉛の含有率が10〜90質量%であることが好ましい。
【0010】
前記空気入りタイヤにおいて、前記ゴム組成物(前記ゴム層)は、前記ゴム成分100質量部に対して、前記微粒子酸化亜鉛を0.1〜6質量部含むことが好ましい。
また、前記ゴム組成物(前記ゴム層)は、前記ゴム成分100質量部に対して、カーボンブラックの含有量が0〜200質量部、シリカの含有量が0〜100質量部、該カーボンブラック及び該シリカの合計含有量が30〜200質量部であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ブレーカー及びインナーライナーの間にゴム層を有する空気入りタイヤにおいて、該ゴム層において、ゴム成分と、平均一次粒子径300nm以下の微粒子酸化亜鉛及び脂肪酸を、該脂肪酸の融点以上の温度で混合して得られる錯体とを含むゴム組成物が使用されているので、優れた静粛性能、破壊特性及び高速耐久性能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の空気入りタイヤにおけるゴム層の挿入位置の一形態を示すタイヤの断面説明図である。
【図2】製造例で調製した錯体のFT−IRの測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の空気入りタイヤは、ブレーカー及びインナーライナーの間にゴム層を有し、該ゴム層が、ゴム成分と、平均一次粒子径300nm以下の微粒子酸化亜鉛及び脂肪酸を該脂肪酸の融点以上の温度で混合して得られる錯体とを含むゴム組成物により形成されたものである。
【0014】
微粒子酸化亜鉛を用いてゴムの破壊核を低減することで、破壊特性を高め、高速耐久性を向上させることが期待されるが、通常の数回程度の混練工程で微粒子酸化亜鉛を充分に分散させることは一般に困難である。そのため、特に平均一次粒子径300nm以下の微粒子を用いるときには、高度な分散技術が必要となり、例えば、多くの混練回数が必要になるなど、生産性が低下してしまう。一方、混練が不充分な場合は、分散不良により、逆に破壊特性が悪化することもある。
【0015】
本発明では、分散が困難な微粒子酸化亜鉛と脂肪酸を脂肪酸の融点以上の温度で混合して得られる錯体とし、予め易分散化してから使用している。つまり、プレ混合により、脂肪酸亜鉛という容易に分散可能な錯体状態にしているため、特段混練回数を多くすることなく、数回程度の混練で高分散化できる。そのため、微粒子酸化亜鉛の均一分散が可能となり、良好な生産性を得ながら、破壊特性を高め、高速耐久性を改善できる。また、このような成分を用いたゴム層をブレーカーとインナーライナーの間に設けているため、優れた静粛性能も得られる。従って、本発明では、静粛性能、破壊特性及び高速耐久性能に優れた空気入りタイヤを提供できる。
【0016】
本発明の空気入りタイヤは、ブレーカー及びインナーライナーの間にゴム層が配されている。ゴム層は、タイヤのブレーカーとインナーライナーの間であれば設けられる位置は特に限定されず、例えば、図1の形態が挙げられる。図1は、本発明におけるゴム層の挿入位置の一形態を示すタイヤの断面説明図である。なお、本発明の空気入りタイヤは、図1の形態に限定されない。
【0017】
図1に示されているタイヤは、第二ブレーカー1、第一ブレーカー2、カーカス3、インナーライナー4を有するもので、本発明におけるゴム層が第二ブレーカー1とインナーライナー4との間に設けられている。具体的には、ゴム層Cが第一ブレーカー2とカーカス3との間に挿入され、ゴム層Dがカーカス3とインナーライナー4との間に挿入されている。
【0018】
ゴム層を、第一ブレーカー2の上(ベーストレッドA)、又は第一ブレーカー2/第二ブレーカー1間Bに配した場合は高速耐久性が悪化し、インナーライナー4の内側Eに配した場合は空気酸化によりゴム層が劣化する。これに対し、本発明におけるゴム層Cを第一ブレーカー2/カーカス3間に配すること、ゴム層Dをカーカス3/インナーライナー4間に配することで、ノイズが抑制され、静粛性能を改善できる。
【0019】
ゴム層C及び/又はゴム層Dは、ゴム成分と、平均一次粒子径300nm以下の微粒子酸化亜鉛及び脂肪酸を該脂肪酸の融点以上の温度で混合して得られる錯体とを含むゴム組成物からなる。
【0020】
ゴム層C、Dに使用できるゴム成分としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合ゴム(SIBR)等のジエン系ゴムが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、高いtanδ、優れた破壊特性が得られるという理由から、NR、SBRが好ましく、これらの併用がより好ましい。
【0021】
NRとしては特に限定されず、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。
【0022】
ゴム成分100質量%中のNRの含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは55質量%以上である。20質量%未満であると、充分な破壊特性が得られない傾向がある。該含有量は、好ましくは95質量%以下、より好ましくは85質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である。95質量%を超えると、tanδが低下する傾向がある。
【0023】
SBRとしては、特に限定されず、例えば、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E−SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S−SBR)等を使用できる。なかでも、ブローアウトが起こりにくいという理由から、S−SBRが好ましい。
【0024】
SBRのスチレン含有量は、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。15質量%未満であると、充分にtanδを高められないおそれがある。また、上記スチレン含有量は、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。40質量%を超えると、発熱しやすくなり、高速耐久性能が低下するおそれがある。
なお、スチレン含有量は、H−NMR測定によって算出される。
【0025】
ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上である。5質量%未満であると、tanδが低下する傾向がある。該含有量は、好ましくは80質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは45質量%以下である。80質量%を超えると、充分な破壊特性が得られない傾向がある。
【0026】
ゴム層C、Dにおいて、上記錯体は、平均一次粒子径が300nm以下の微粒子酸化亜鉛及び脂肪酸を、前記脂肪酸の融点以上の温度で混合して得られるものであり、加硫助剤として使用できる。
【0027】
微粒子酸化亜鉛の平均一次粒子径は、300nm以下、好ましくは150nm以下、より好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下である。微粒子酸化亜鉛の平均一次粒子径の下限は特に限定されないが、好ましくは20nm以上、より好ましくは40nm以上である。上記範囲内であると、優れた破壊特性、高速耐久性能が得られる。
なお、微粒子酸化亜鉛の平均一次粒子径は、窒素吸着によるBET法により測定した比表面積から換算された平均粒子径(平均一次粒子径)である。
【0028】
脂肪酸としては特に限定されず、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸などの飽和脂肪酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの不飽和脂肪酸などが挙げられる。なかでも、優れた破壊特性、高速耐久性能が得られるという理由から、飽和脂肪酸が好ましく、下記式で表されるものがより好ましい。
CH(CHCOOH
(式中、rは10〜30(好ましくは14〜18)の整数を表す。)
このような脂肪酸としては、破壊特性、高速耐久性能が高い次元で得られるという理由から、ステアリン酸が好ましい。
【0029】
上記錯体は、微粒子酸化亜鉛及び脂肪酸を、脂肪酸の融点以上の温度で混合することで調製でき、例えば、40〜100℃で1〜30分間(好ましくは69.6〜80℃で3〜10分間、より好ましくは70〜75℃で3〜10分間)の条件で混合を実施すればよい。混合工程は公知の加熱装置、混合装置を用いて行うことができ、例えば、ヘンシェルミキサー、水浴バス、油浴バスなどを用いて微粒子酸化亜鉛と脂肪酸を攪拌、加熱し、脂肪酸を融解させて微粒子酸化亜鉛と混合することにより錯体を調製できる。
【0030】
得られた錯体は、常温(23℃)で固体状態であることが好ましい。固体状態の錯体をゴム成分と混練りすることで、微粒子酸化亜鉛及び脂肪酸をゴム成分中に良好に分散でき、破壊特性、高速耐久性能を改善できる。
【0031】
上記錯体において、微粒子酸化亜鉛及び脂肪酸の合計100質量%中の微粒子酸化亜鉛の含有率は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは40質量%以上である。10質量%未満であると、破壊特性、高速耐久性能の改善効果が充分に得られないおそれがある。微粒子酸化亜鉛の含有率は、好ましくは90質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。90質量%を超えると、脂肪酸が少なく、前述の改善効果が充分に得られないおそれがある。
【0032】
ゴム層C、Dを形成するゴム組成物において、上記微粒子酸化亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上である。0.1質量部未満では、充分な架橋効率が得られず、優れた破壊特性、高速耐久性能が得られないおそれがある。また、該含有量は、好ましくは6質量部以下、より好ましくは4質量部以下である。6質量部を超えると、微粒子酸化亜鉛が分散せず、破壊核となり、破壊特性が悪化する傾向がある。
【0033】
ゴム層C、Dを形成するゴム組成物において、上記脂肪酸の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上である。0.1質量部未満では、架橋密度が低く、破壊特性が悪化する傾向がある。また、該含有量は、好ましくは6質量部以下、より好ましくは4質量部以下である。6質量部を超えると、加工性が悪化する傾向がある。
【0034】
なお、微粒子酸化亜鉛、脂肪酸は上記錯体の他に別途配合してもよく、その場合、上記各含有量は、ゴム層C、Dを形成するそれぞれのゴム組成物中に含まれる総量を意味する。
【0035】
ゴム層C、Dを形成するゴム組成物は、カーボンブラックを含むことが好ましい。これによる補強効果により、優れた破壊特性、高速耐久性能が得られる。
【0036】
使用できるカーボンブラックとしては、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAFなどが挙げられるが、特に限定されない。なお、カーボンブラックは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は15m/g以上が好ましく、20m/g以上がより好ましい。15m/g未満では、充分にtanδを高められないおそれがある。また、カーボンブラックの窒素吸着比表面積は60m/g以下が好ましく、40m/g以下がより好ましく、35m/g以下が更に好ましい。60m/gを超えると、高速走行時に高温になり、高速耐久性能が悪化するおそれがある。
なお、カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、JIS K 6217−2:2001に準拠して測定される。
【0038】
カーボンブラックのジブチルフタレート(DBP)吸油量は、好ましくは20ml/100g以上、より好ましくは50ml/100g以上、更に好ましくは70ml/100g以上である。20ml/100g未満では、破壊特性が悪化するおそれがある。また、カーボンブラックのDBP吸油量は、好ましくは105ml/100g以下、より好ましくは95ml/100g以下である。105ml/100gを超えると、高速走行時に高温になり、高速耐久性能が悪化するおそれがある。
なお、カーボンブラックのDBP吸油量は、JIS K6217−4:2001に準拠して測定される。
【0039】
ゴム層C、Dを形成するゴム組成物において、カーボンブラックを含む場合、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは60質量部以上、より好ましくは80質量部以上、更に好ましくは90質量部以上である。60質量部未満では、充分なtanδ、破壊特性が得られないおそれがある。また、該カーボンブラックの含有量は、好ましくは200質量部以下、より好ましくは150質量部以下、更に好ましくは120質量部以下である。200質量部を超えると、破壊特性、高速耐久性能が低下するおそれがある。
【0040】
また、ゴム層C、Dを形成するゴム組成物は、シリカを含んでも良い。シリカを含む場合、その含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10〜100質量部、より好ましくは20〜80質量部である。更に、カーボンブラック及び/又はシリカを含む場合、これらの合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは30〜200質量部、より好ましくは50〜160質量部である。以上の範囲に調整することで、本発明の効果が良好に得られる。なお、シリカを配合する場合、更にシランカップリング剤を添加することが望ましい。
【0041】
ゴム層C、Dを形成するゴム組成物は、オイルを含むことが好ましい。これにより、tanδを高め、良好な静粛性能が得られる。オイルとしては、例えば、プロセスオイル、植物油脂、又はその混合物を用いることができる。
【0042】
プロセスオイルとしては、例えば、パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルなどを用いることができる。植物油脂としては、ひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落花生油、ロジン、パインオイル、パインタール、トール油、コーン油、こめ油、べに花油、ごま油、オリーブ油、ひまわり油、パーム核油、椿油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、桐油等が挙げられる。なかでも、アロマ系プロセスオイルが好適に用いられる。
【0043】
ゴム層C、Dを形成するゴム組成物において、オイルの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上である。10質量部未満では、充分にtanδを高められないおそれがある。該オイルの含有量は、好ましくは150質量部以下、より好ましくは80質量部以下、更に好ましくは60質量部以下である。150質量部を超えると、破壊特性が悪化するおそれがある。
【0044】
前記ゴム組成物には、前記成分以外にも、ゴム組成物の製造に一般に使用される配合剤、例えば、ステアリン酸、各種老化防止剤、オゾン劣化防止剤、ワックス、加硫剤、加硫促進剤などを適宜配合できる。
【0045】
図1などに示す本発明の空気入りタイヤは、ブレーカーとインナーライナーとの間にゴム層(第一ブレーカー2とカーカス3との間にゴム層C、カーカス3とインナーライナー4との間にゴム層Dなど)を適用し、通常の方法で製造できる。すなわち、前記成分を配合し、公知の混練方法で作製したゴム組成物を、未加硫の段階でゴム層C、Dの形状にあわせて押出し加工し、他のタイヤ部材とともに、タイヤ成型機で通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することによりタイヤが製造される。
【0046】
本発明の空気入りタイヤは、乗用車用タイヤ、特に乗用車用ラジアルタイヤに好適に使用される。
【実施例】
【0047】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0048】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
NR:TSR20
SBR:住友化学工業(株)製のSBR1502(スチレン含量:23.5質量%)
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN660(NSA:28m/g、DBP吸油量:90ml/100g)
アロマオイル:(株)ジャパンエナジー製のプロセスX140
酸化亜鉛:ハクスイテック(株)製の酸化亜鉛3種(平均一次粒子径:1.0μm)
微粒子酸化亜鉛1:ハクスイテック(株)製のジンコックスーパーF−1(平均一次粒子径:100nm)
微粒子酸化亜鉛2:ハクスイテック(株)製のジンコックスーパーF−3(平均一次粒子径:50nm)
微粒子酸化亜鉛1、2、酸化亜鉛の錯体:下記製造例
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸
硫黄:軽井沢硫黄(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−t−ブチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)
【0049】
(製造例 錯体の調製)
表1に示す配合処方にしたがい、ヘンシェルミキサーを用いて、ステアリン酸を溶解温度(69〜72℃)以上に加熱し、ステアリン酸が融解したことを確認した後に各種酸化亜鉛を添加した。5分間攪拌混合した後に室温にて空冷することで錯体を得た。
【0050】
(錯体の確認:FT−IR)
製造例で調製した微粒子酸化亜鉛とステアリン酸による錯体、酸化亜鉛とステアリン酸による錯体について、FT−IRを用いて錯体の形成を確認したところ、微粒子酸化亜鉛を用いたものでは錯体の形成が確認された(図2)。
【0051】
(実施例及び比較例)
表1に示す配合内容に従い、BP型バンバリーミキサーを用いて、配合材料のうち、硫黄、加硫促進剤以外の材料を150℃の条件下で3分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄、加硫促進剤を添加し、2軸オープンロールを用いて、80℃の条件下で5分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を170℃で12分間プレス加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
【0052】
また、得られた未加硫ゴム組成物を、図1のゴム層C、Dの形状に成形し、他のタイヤ部材と貼り合わせてタイヤに成形し、170℃で15分間プレス加硫することで試験用タイヤ(タイヤサイズ:195/65R15)を製造した。
【0053】
得られた加硫ゴム組成物、試験用タイヤを使用して、下記の評価を行った。それぞれの試験結果を表1に示す。
【0054】
(破壊特性)
加硫ゴム組成物について、JIS K 6251の「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」にしたがって、3号ダンベルを用いて引張試験を実施し、破断強度(TB)、破断時伸び(EB)を測定した。得られた測定値をもとに、(TB×EB)/2の値を算出し、比較例1を100として、各配合の値を指数表示した。数値が大きいほど、ゴム強度に優れる。
【0055】
(高速耐久性能)
ドラム試験機を用い、ECE30により規定された荷重/速度性能テストに準拠して、内圧(260kPa)、リム(6.0JJ)、縦荷重(5.26kN)、キャンバ角(4°)の条件にて、ステップスピード方式により実施した。テストは、逐次走行速度を上昇させるとともに、タイヤが破壊したときの速度(km/H)を測定した。比較例1の破壊速度を100とし、各タイヤを指数表示した。数値が大きいほど、高速耐久性能に優れる。
【0056】
(粘弾性試験)
加硫ゴム組成物について、(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメータを用いて、初期歪10%、動歪2%、振動周波数10Hzの条件下で、60℃における損失正接tanδを測定した。比較例1のtanδを100とし、各配合を指数表示した。数値が大きいほど、減衰特性が高く、静粛性能に優れる。
【0057】
(ロードノイズ性能)
試験用タイヤを、内圧(JISに規定された内圧)の条件下で、自動車の全輪に取付け、スムース路面を速度80km/hで走行させ、運転席左耳許にてオーバーオールの騒音レベルdB(A)を測定し、比較例1を100とする指数で表示した。指数が大きいほどロードノイズが低い。
【0058】
【表1】

【0059】
微粒子酸化亜鉛とステアリン酸による錯体を用いた実施例では、単に微粒子酸化亜鉛とステアリン酸を混練した比較例に比べて、破壊特性と高速耐久性能が改善された。特に、平均一次粒子径50nmの微粒子酸化亜鉛を単に混合した比較例3では、分散性が悪く、通常の酸化亜鉛を用いた比較例1より性能が悪かったが、錯体化した実施例2では、性能が顕著に改善された。また、タイヤの静粛性能も優れていた。また、通常の酸化亜鉛の混合物では、錯体は形成されず、性能が充分に改善されなかった(比較例4、図2)。
また、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの他の脂肪酸及び微粒子酸化亜鉛1、2を用いても、錯体が良好に形成され、性能が良好に改善された。
【符号の説明】
【0060】
1 第二ブレーカー
2 第一ブレーカー
3 カーカス
4 インナーライナー
A ベーストレッド
B 第一ブレーカー2と第二ブレーカー1との間に挿入されているゴム層
C 第一ブレーカー2とカーカス3との間に挿入されているゴム層
D カーカス3とインナーライナー4との間に挿入されているゴム層
E インナーライナー4の内側に配されているゴム層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーカー及びインナーライナーの間にゴム層を有する空気入りタイヤであって、
前記ゴム層が、ゴム成分と、平均一次粒子径300nm以下の微粒子酸化亜鉛及び脂肪酸を、前記脂肪酸の融点以上の温度で混合して得られる錯体とを含むゴム組成物からなる空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記ゴム層が、ブレーカーとカーカスとの間及び/又はカーカスとインナーライナーとの間に配されている請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記錯体において、前記微粒子酸化亜鉛及び前記脂肪酸の合計100質量%中の該微粒子酸化亜鉛の含有率が10〜90質量%である請求項1又は2記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記ゴム組成物は、前記ゴム成分100質量部に対して、前記微粒子酸化亜鉛を0.1〜6質量部含む請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記ゴム組成物は、前記ゴム成分100質量部に対して、カーボンブラックの含有量が0〜200質量部、シリカの含有量が0〜100質量部、該カーボンブラック及び該シリカの合計含有量が30〜200質量部である請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−75934(P2013−75934A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214893(P2011−214893)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】