説明

空気入りタイヤ

【課題】操縦安定性及び乗心地性を両立しながら、プライステアを抑制するようにした空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】トレッド部1におけるカーカス層5の外周側にベルト層6を配置した構成を有すると共に、車両に対する装着方向が指定された空気入りタイヤTにおいて、ベルト層6が円弧状の補強コード7からなり、該円弧状の補強コード7が車両装着時外側(OUT)に向かって凸になるように配列されたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操縦安定性及び乗心地性を両立しながら、プライステアを抑制するようにした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に空気入りタイヤには、操縦安定性と乗心地性とを高いレベルで両立させることが求められる。しかし操縦安定性を改良するためにはタイヤ剛性を高くする必要があるのに対し、乗心地性を改良するにはタイヤ剛性を低くする必要があるため、両者は相反する関係にある。したがって操縦安定性及び乗心地性を両立させることは難しい課題であった。
【0003】
一方、トレッド部におけるカーカス層の外周側にベルト層を配置した空気入りタイヤでは、ハンドルから手を離して車両を直進させたとき、車両が片側に曲がって流れるという車両流れの問題がある。車両流れの原因としては、ベルト層の補強コードがタイヤ周方向に傾斜していることに伴って発生するプライステアが挙げられる。
【0004】
このため特許文献1は、ベルト層の補強コードが一方の端部から他方の端部に延長するときタイヤ赤道線で折り返すことによりプライステアの発生を抑制するようにした空気入りタイヤを提案している。しかし、この空気入りタイヤでは、補強コードの傾斜がタイヤ赤道で不連続に変化するため、直進から旋回走行或いは旋回から直進走行への過渡的状態では挙動が急激に変化するという問題がある。またすべての補強コードを赤道線で折り返すため生産性が低下する問題があると共に、操縦安定性及び乗心地性を共に改良するという問題を解決することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−90675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、操縦安定性及び乗心地性を両立しながら、プライステアを抑制するようにした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明の空気入りタイヤは、トレッド部におけるカーカス層の外周側にベルト層を配置した構成を有し、かつ車両に対する装着方向が指定された空気入りタイヤにおいて、前記ベルト層が円弧状の補強コードを含み、該円弧状補強コードが車両装着時外側に向かって凸になるように配列されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の空気入りタイヤは、ベルト層中の円弧状の補強コードを車両装着時外側に向かって凸になるように配列するようにしたので、ベルト層の車両装着時外側では補強コードのタイヤ周方向に対する角度が小さくなると共に密度が高くなるため面内曲げ剛性が高くなり操縦安定性が向上する。またベルト層の車両装着時内側には円弧状補強コードの端部が配置されるのでタイヤ周方向に対する角度が大きくなると共に配置密度が低くなるため面外内曲げ剛性が低くなり乗心地性が向上する。これは一般に空気入りタイヤが車両にネガティブキャンバーに装着されるため、直進時には主に面外曲げ剛性が低い車両内側が接地するため乗心地性が向上し、旋回時には面内曲げ剛性が高い車両外側が接地しそこに荷重が掛るので操縦安定性が向上する。更に直進時には主に車両内側が接地しベルト層の補強コードの傾斜に起因するプライステア成分が小さくなるので車両流れを抑制することができる。また補強コードが円弧状に配置されているため、補強コードの傾斜角度が徐々に変化するため、直進から旋回走行或いは旋回から直進走行への過渡的状態での挙動変化を穏やかにすることができる。
【0009】
前記円弧状補強コードの端部が前記ベルト層の車両装着時内側端部に位置し、かつ前記円弧状補強コードのタイヤ幅方向外側の頂点が前記ベルト層の車両装着時外側端部に位置することが好ましい。
【0010】
前記ベルト層の車両装着時内側端部における前記円弧状補強コードの接線のタイヤ周方向に対する角度θが50〜90°であることが好ましい。
【0011】
前記ベルト層の車両装着時内側端部において、前記円弧状補強コードの端部がタイヤ周方向に隣り合う円弧状補強コードの端部とのタイヤ周方向距離Pが1.5〜4.5mmであることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の空気入りタイヤの実施形態の一例を示すタイヤ子午線方向の断面図である。
【図2】本発明の空気入りタイヤのベルト層の実施形態の一例を模式的に示す説明図である。
【図3】図2のベルト層において、1本の補強コードの配置を模式的に示す説明図である。
【図4】本発明の空気入りタイヤのベルト層の実施形態の他の例を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の空気入りタイヤの実施形態の一例を示す子午線方向断面図である。
【0014】
図1において、空気入りタイヤTは車両に対する装着方向が指定され符号INは車両装着時内側、符号OUTは車両装着時外側を表わす。この空気入りタイヤTはトレッド部1、サイドウォール部2、ビード部3から構成され、ビード部3に埋設された左右一対のビードコア4間にカーカス層5が装架され、その両端部がそれぞれビードコア4の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されている。トレッド部1のカーカス層5の外周側にベルト層6がタイヤ1周にわたって配置されている。
【0015】
本発明の空気入りタイヤは、少なくとも1層のベルト層6は、図2,3に示すように、円弧状の補強コード7を含み、それぞれの円弧状補強コード7は車両装着時外側OUTに向かって凸になるように配列される。すなわち図3において1本の補強コードに着目して示すように、円弧状補強コード7の端部eがベルト層6の車両装着時内側端部6iに位置し、かつ円弧状補強コード7のタイヤ幅方向外側の頂点aがベルト層6の車両装着時外側端部6oに位置するとよい。なお円弧状補強コード7の両方の端部eがベルト層6の車両装着時内側端部6iに位置することが好ましいが、少なくとも一つの端部eがベルト層6の車両装着時内側端部6iに位置していれば他方の端部がベルト層6の周方向端部に位置してもよい。これはベルト層6を巻き付ける工程を含む成形加工の便宜上許容される形態である。
【0016】
本発明では、ベルト層6を構成するすべての円弧状補強コード7の配列を車両装着時外側OUTに向かって凸にしたので、ベルト層6の車両装着時外側では補強コード7のタイヤ周方向Rに対する角度が小さくなると共に密度が高くなるため面内曲げ剛性が高くなる。またベルト層6の車両装着時内側には円弧状補強コード7の端部eが配置されるのでタイヤ周方向に対する角度が大きくなると共に配置密度が低くなるため面外内曲げ剛性が低くなる。本発明の空気入りタイヤは車両にネガティブキャンバーに装着される。このため、車両の直進時には、空気入りタイヤの車両内側が主に接地し、この車両内側の面外曲げ剛性を低くしたので乗心地性が向上する。また、車両の旋回時には、空気入りタイヤの車両外側に主に荷重が掛り、この車両外側の面内曲げ剛性を高くしたので操縦安定性が向上する。
【0017】
また本発明において、車両の直進時に主に車両内側が接地するため、ベルト層の補強コードの傾斜に起因するプライステア成分が小さくなる。このようにプライステア成分を抑制したので車両流れを抑制することができる。更に補強コードの傾斜角度が徐々に変化するように、補強コードを円弧状に配置したので、車両が直進から旋回走行へ移行し空気入りタイヤの装着時内側から外側へ荷重が移るとき、或いは旋回から直進走行へ移行し空気入りタイヤの装着時外側から内側へ荷重が移るときに、荷重が掛かる領域の過渡的状態での挙動変化を穏やかにすることができる。
【0018】
図4は、本発明の空気入りタイヤの他の実施形態を構成するベルト層を模式的に示した説明図である。符号は、図2,3に示した符号と共通する。
【0019】
図4において、本発明の空気入りタイヤは、ベルト層6の車両装着時内側端部6iにおける円弧状補強コード7の接線のタイヤ周方向Rに対する角度θが、好ましくは50°〜90°、より好ましくは80°〜90°であるとよい。角度θが50°未満であると車両装着時内側の面外剛性が高くなるため乗心地性を改良する効果が十分に得られない。また補強コードの傾斜角度に起因するプライステア成分も徐々に増加するので車両流れを抑制するのが難しくなる。
【0020】
また本発明の空気入りタイヤは、図4に示すように、ベルト層6の車両装着時内側端部6iにおいて、円弧状補強コード7の端部eがタイヤ周方向Rに隣り合う円弧状補強コード7の端部eとのタイヤ周方向距離Pが、好ましくは1.5〜4.5mm、より好ましくは2.2〜2.8mmであるとよい。距離Pが1.5mm未満であるとベルト層6の車両装着時外側における円弧状補強コード7の頂点aの周囲の密度が過大になり、ベルト層の剛性が大きくなり過ぎる。また距離Pが4.5mmを超えると。ベルト層6の車両装着時内側におけるベルト剛性が小さくなり過ぎる。いずれの場合も空気入りタイヤの運動性能が悪化するだけでなく、タイヤ耐久性も低下する。なおタイヤ周方向に隣り合う円弧状補強コードとは、互いに円弧の凸部の頂点近くで重なり合う補強コード同士をいうものとする。また補強コード間の距離は、二つの補強コードの中心点同士のタイヤ周方向の距離とする。
【0021】
補強コードの材質は、特に制限されるものではないが、好ましくはスチールコードがよい。補強コードをスチールコードで構成することにより、円弧状にした補強コードの配置形態を保持しやすくなる。
【0022】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0023】
タイヤサイズ225/55R17の空気入りタイヤにおいて、ベルト層における補強コードの構成を表1に示すように異ならせた7種類の空気入りタイヤ(実施例1〜5、比較例1,2)を製造した。表1において、補強コードの形態は、補強コードが直線状又は円弧状のいずれかの形態のスチールコードであることを示す。補強コードの凸部の向きは、円弧状補強コードにおいて円弧の凸部の向きが車両装着時外側又は内側のいずれの向きであるかを示す。補強コードの角度θは、直線状補強コードではタイヤ周方向に対する傾斜角度、円弧状補強コードでは、その端部における接線のタイヤ周方向に対する傾斜角度を示す。また補強コード間の距離Pは、直線状補強コードではタイヤ周方向に隣り合う補強コード間のタイヤ周方向距離、円弧状補強コードでは、タイヤ周方向に隣り合う補強コード同士のその端部間のタイヤ周方向距離を示す。
【0024】
得られた7種類の空気入りタイヤについて、下記に示す方法で操縦安定性、乗心地性及び車両流れを評価した。
【0025】
操縦安定性
得られた空気入りタイヤをリムサイズ17×71/2Jのホイールに組付け、国産SUVのネガティブキャンバーの試験車両に装着し、空気圧230kPaの条件で、4kmの周回テストコースを120km/hで実車走行させ、専門パネラー3名による感応評価を行った。評価結果は、比較例1を3(標準)にした5点満点の評点とし「操縦安定性」の欄に示した。この評点の値が大きいほど操縦安定性が優れていることを意味する。
【0026】
乗心地性
得られた空気入りタイヤをリムサイズ17×71/2Jのホイールに組付け、国産SUVのネガティブキャンバーの試験車両に装着し、空気圧230kPaの条件で、凹凸を有する直進テストコースを50km/hで実車走行させ、専門パネラー3名による感応評価を行った。評価結果は、比較例1を3(標準)にした5点満点の評点とし「乗心地性」の欄に示した。この評点の値が大きいほど乗心地性能が優れていることを意味する。
【0027】
車両流れ
得られた空気入りタイヤをリムサイズ17×71/2Jのホイールに組付け、国産SUVのネガティブキャンバーの試験車両に装着し、空気圧230kPaの条件で、平坦な直進テストコースを100km/hで実車走行させ、直進走行時にハンドルから手を離したときから100mm走行後に、直進ラインから左右に外れた距離(偏向量)を測定した。得られた結果は、比較例1の逆数を100にする指数として「車両流れ」の欄に示した。車両流れの指数が大きいほど偏向量が小さく、車両流れが抑制されていることを意味する。
【0028】
【表1】

【符号の説明】
【0029】
1 トレッド部
5 カーカス層
6 ベルト層
6i ベルト層の車両装着時内側端部
6o ベルト層の車両装着時外側端部
7 円弧状補強コード
a 円弧状補強コードの凸部の頂点
e 円弧状補強コードの端部
T 空気入りタイヤ
R タイヤ周方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部におけるカーカス層の外周側にベルト層を配置した構成を有し、かつ車両に対する装着方向が指定された空気入りタイヤにおいて、
前記ベルト層が円弧状の補強コードを含み、該円弧状補強コードが車両装着時外側に向かって凸になるように配列されたことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記円弧状補強コードの端部が前記ベルト層の車両装着時内側端部に位置し、前記円弧状補強コードのタイヤ幅方向外側の頂点が前記ベルト層の車両装着時外側端部に位置することを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記ベルト層の車両装着時内側端部における前記円弧状補強コードの接線のタイヤ周方向に対する角度θが50〜90°であることを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記ベルト層の車両装着時内側端部において、前記円弧状補強コードの端部がタイヤ周方向に隣り合う円弧状補強コードの端部とのタイヤ周方向距離Pが1.5〜4.5mmであることを特徴とする請求項1,2又は3に記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−86689(P2013−86689A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230086(P2011−230086)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)