説明

空気入りタイヤ

【課題】転がり抵抗及び乗心地性を悪化させることなく、空洞共鳴音及びタイヤ質量を低減することを可能にした空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】
サイドウォール部2におけるカーカス層4のタイヤ幅方向外側に位置するサイドゴム層20を外層20A、中層20B、及び内層20Cに分割し、中層20Bに含まれるゴム組成物のtanδ及び硬度を外層20A及び内層20Cに含まれるゴム組成物のtanδ及び硬度よりも高くすると共に、中層20Bに含まれるゴム組成物のtanδを0.17以上、且つ硬度を58以上にし、外層20A及び内層20Cに含まれるゴム組成物のtanδを0.05以上0.20以下、且つ硬度を40以上60以下にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、転がり抵抗及び乗心地性を悪化させることなく、空洞共鳴音及びタイヤ質量を低減することを可能にした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤにおいて、騒音を発生させる原因の一つにタイヤ内部に充填された空気の振動による空洞共鳴音がある。この空洞共鳴音は、タイヤを転動させたときにトレッド部が路面の凹凸によって振動し、トレッド部の振動がタイヤ内部の空気を振動させることによって生じるものである。
【0003】
従来、このような空洞共鳴音を低減する手法として、多孔質材料からなる吸音材を空気入りタイヤのトレッド部の内面に設置することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、このような吸音材を設置する方法は、空洞共鳴現象自体を抑制するものではなく、空洞共鳴現象により発生した空洞共鳴音を吸収すると云うものであるため、空洞共鳴音を低減することは出来ても、空洞共鳴現象に対する根本的な解決にはなっていなかった。また、タイヤに新たな部材として吸音材を付加することが必須であるため、タイヤ質量の増加、ユニフォミティの低減、コスト増などが発生するという問題がある。
【0004】
或いは、上記のような吸音材を用いずに空洞共鳴音を低減する手法として、タイヤ最大幅付近のゴム厚さや密度を他の部分よりも大きくすることが提案されている(例えば、特許文献2参照)。即ち、ゴム厚さや密度を大きくすることで、空洞共鳴音の原因となるサイドウォール部の振動を抑制している。しかしながら、このようにゴム厚さや密度を増加した場合、タイヤ質量の増加が発生したり、ゴムの厚さや密度の増加に伴う縦剛性の増加によって乗心地性や転がり抵抗が悪化するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4148977号公報
【特許文献2】特開平4−43107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上述する問題点を解決するもので、転がり抵抗及び乗心地性を悪化させることなく、空洞共鳴音及びタイヤ質量を低減することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、一対のビード部と、これらビード部からそれぞれ径方向外側に延びるサイドウォール部と、これらサイドウォール部の半径方向外側同士を連結する円筒状のトレッド部とを備え、前記一対のビード部間に少なくとも1層のカーカス層を装架し、該カーカス層の両端部をそれぞれビードコアの廻りにビードフィラーを挟むようにタイヤ内側から外側へ巻き上げた空気入りタイヤにおいて、前記サイドウォール部における前記カーカス層のタイヤ幅方向外側に位置するサイドゴム層をタイヤ径方向外側に位置する外層とタイヤ径方向内側に位置する内層と前記外層及び前記内層との間に位置する中層とに分割し、前記中層に含まれるゴム組成物の60℃におけるtanδを前記外層及び前記内層に含まれるゴム組成物の60℃におけるtanδよりも高くし、且つ前記中層に含まれるゴム組成物の20℃における硬度を前記外層及び前記内層に含まれるゴム組成物の20℃における硬度よりも高くすると共に、前記中層に含まれるゴム組成物の60℃におけるtanδを0.17以上、且つ20℃における硬度を58以上にし、前記外層及び前記内層に含まれるゴム組成物の60℃におけるtanδを0.05以上0.20以下、且つ20℃における硬度を40以上60以下にしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、上述のように、サイドウォール部を構成するサイドゴム層をタイヤ径方向に積層する3層に分割し、中層に含まれるゴム組成物の60℃におけるtanδを外層及び内層に含まれるゴム組成物の60℃におけるtanδよりも高くし、且つ中層に含まれるゴム組成物の20℃における硬度を外層及び内層に含まれるゴム組成物の20℃における硬度よりも高くしているので、転がり抵抗及び乗心地性を悪化させることなく空洞共鳴音及びタイヤ質量を低減することが出来る。具体的には、中層を高tanδ且つ高硬度にすることで、中層が高ヒステリシスロス且つ高剛性になるので、空洞共鳴音への寄与が大きい中層が振動し難くなり、更に、振動が発生してもその振動を吸収することが出来るようになるので、空洞共鳴音を効果的に抑制することが出来る。また、高tanδ且つ高硬度化により、転がり抵抗及び乗心地性の悪化が懸念されるが、高tanδ且つ高硬度化する領域を中層に限定して、外層及び内層を相対的に低tanδ且つ低硬度にしているので、中層の高tanδ且つ高硬度化による転がり抵抗及び乗心地性の悪化を相殺し、転がり抵抗及び乗心地性を向上することが出来る。更に、サイドゴム層のゴム組成物の物性のみにより空洞共鳴音、転がり抵抗、及び乗心地性に対応しているので、新たに吸音材を追加したりゴムの厚さや密度を増大させる従来のタイヤに比べてタイヤの質量を低減することが出来る。特に、各層に含まれるゴム組成物のtanδ及び硬度を上記の範囲に設定しているので、上述のタイヤ性能を高度に両立することが出来る。
【0009】
本発明においては、中層と内層との境界Liの高さHLiをタイヤ断面高さSHの20%〜25%の範囲にすると共に、中層と外層との境界Loの高さHLoをタイヤ断面高さSHの45%〜50%にし、且つタイヤ最大幅位置Pの高さHP をタイヤ断面高さSHの30%〜40%の範囲にすることが好ましい。
【0010】
このように中層と内層との境界Liの高さHLiと中層と外層との境界Loの高さHLoとタイヤ最大幅位置Pの高さHP とを設定することで、タイヤの撓みが最大になる部位であるタイヤ最大幅位置Pがタイヤ径方向の低い位置に配置され、且つタイヤ最大幅位置Pが中層のタイヤ径方向中心付近に位置することになるので、更に空洞共鳴音を低減することが出来る。
【0011】
本発明においては、ビードフィラーのタイヤ径方向外側端部の高さHF をタイヤ断面高さSHの25%〜45%の範囲にすることが好ましい。
【0012】
このようにビードフィラーのタイヤ径方向外側端部の高さHF を設定することで、中層のタイヤ最大幅位置Pよりタイヤ径方向内側の部分にビードフィラーのタイヤ径方向外側端部を配置することが出来るので、空洞共鳴音を低く維持したまま、更に乗心地性を向上すると共にタイヤ質量を低減することが出来る。
【0013】
本発明においては、扁平率が50%以上であることが好ましい。扁平率が50%以上の高扁平率のタイヤであると、タイヤ断面高さSHが大きくなるので、各タイヤ性能への寄与の大きいサイドゴム層の断面積が大きくなり、上述のタイヤ性能をより高度に両立することが出来る。
【0014】
尚、本発明でいう60℃におけるtanδとは、JIS K6394に準拠して、粘弾性スペクトロメーター(東洋精機製作所製)を使用し、温度60℃、周波数20Hz、静歪10%、動歪±2%の条件した値である。また、本発明でいう硬度とは、JIS K6253に規定されるデュロメータ硬さであって、タイプAのデュロメータにより温度20℃において測定した硬さである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線半断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
図1において、1はトレッド部、2はサイドウォール部、3はビード部である。左右一対のビード部3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されている。また、ビードコア5の外周上にはビードフィラー6が配置され、このビードフィラー6がカーカス層4の本体部分と折り返し部分により包み込まれている。
【0018】
一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層のベルト層7が埋設されている。これらベルト層7はタイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。ベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°〜40°の範囲に設定されている。更に、ベルト層7の外周側にはベルト補強層8が設けられている。ベルト補強層8のタイヤ周方向に対するコード角度は5°以下、より好ましくは、3°以下である。
【0019】
尚、本発明において、タイヤの断面形状は図1の態様に限定されず、一般的な空気入りタイヤであればどのようなものであっても構わない。
【0020】
本発明においては、サイドウォール部2におけるカーカス層4のタイヤ幅方向外側に位置するサイドゴム層20が3分割され、タイヤ径方向外側に位置する外層20Aと、タイヤ径方向内側に位置する内層20Cと、外層20Aと内層20Cとの間に位置する中層20Bから構成されている。そして、中層20Bに含まれるゴム組成物の60℃におけるtanδが外層20A及び内層20Cに含まれるゴム組成物の60℃におけるtanδよりも高く、且つ中層20Bに含まれるゴム組成物の20℃における硬度が外層20A及び内層20Cに含まれるゴム組成物の20℃における硬度よりも高く設定されている。
【0021】
このようにサイドゴム層20の中層20Bを相対的に高tanδ且つ高硬度にすることで、中層20Bが高ヒステリシスロス且つ高剛性になるので、空洞共鳴音への寄与が大きい中層20Bが振動し難くなり、更に、振動が発生してもその振動を吸収することが出来るようになるので、空洞共鳴音を効果的に抑制することが出来る。また、高tanδ且つ高硬度化により、転がり抵抗及び乗心地性の悪化が懸念されるが、高tanδ且つ高硬度化する領域を中層20Bに限定して、外層20A及び内層20Cを相対的に低tanδ且つ低硬度にしているので、中層20Bの高tanδ且つ高硬度化による転がり抵抗及び乗心地性の悪化を相殺し、転がり抵抗及び乗心地性を向上することが出来る。更に、サイドゴム層20のゴム組成物の物性のみにより空洞共鳴音、転がり抵抗、及び乗心地性に対応しているので、新たに吸音材を追加したりゴムの厚さや密度を増大させる従来のタイヤに比べてタイヤの質量を低減することが出来る。このようにして、転がり抵抗及び乗心地性を向上すると共に、空洞共鳴音及びタイヤ質量を低減し、これらタイヤ性能を両立することが出来る。このとき、tanδ及び硬度の大小関係が逆転すると、転がり抵抗及び乗心地性が悪化し、且つ空洞共鳴音を低減することが出来ない。
【0022】
本発明では、上述のtanδと硬度の大小関係において、中層20Bに含まれるゴム組成物の60℃におけるtanδを0.17以上、且つ20℃における硬度を58以上に設定する。また、外層20A及び内層20Cに含まれるゴム組成物の60℃におけるtanδを0.05以上0.20以下、且つ20℃における硬度を40以上60以下に設定する。
【0023】
これにより、上述のタイヤ性能をより高度に両立することが出来る。中層20Bに含まれるゴム組成物の60℃におけるtanδが0.17より小さいと、中層20Bを充分に高ヒステリシスロス化することが出来ず、空洞共鳴音を充分に低減することが出来ない。同様に、中層20Bに含まれるゴム組成物の20℃における硬度が58より小さいと、中層20Bを充分に高剛性化することが出来ず、空洞共鳴音を低減する効果が充分に得られない。尚、実用上、中層20Bに含まれるゴム組成物の60℃におけるtanδは0.30以下、20℃における硬度は70以下であることが好ましい。
【0024】
また、外層20A及び内層20Cに含まれるゴム組成物の60℃におけるtanδが0.05より小さいと、これら外層20A及び内層20Cのヒステリシスロスが低くなり過ぎるため、充分な破断強度が得られなくなる。逆に、外層20A及び内層20Cに含まれるゴム組成物の60℃におけるtanδが0.20より大きいと、これら外層20A及び内層20Cのヒステリシスロスを充分に低くすることが出来ず、転がり抵抗及び乗心地性が悪化する。外層20A及び内層20Cに含まれるゴム組成物の20℃における硬度が40より小さいと、これら外層20A及び内層20Cの剛性が低くなり過ぎ、タイヤの耐久性が低下する。逆に、外層20A及び内層20Cに含まれるゴム組成物の20℃における硬度が60より大きいと、これら外層20A及び内層20Cの剛性を充分に低くすることが出来ず、転がり抵抗及び乗心地性が悪化する。
【0025】
特に、各層のtanδ及び硬度を上述の範囲に設定したうえで、更に、中層20Bに含まれるゴム組成物の60℃におけるtanδと、外層20A及び内層20Cに含まれるゴム組成物の60℃におけるtanδとの差を0.1〜0.2の範囲に設定することが好ましい。同様に、中層20Bに含まれるゴム組成物の20℃における硬度と、外層20A及び内層20Cに含まれるゴム組成物の20℃における硬度との差を5〜15の範囲に設定することが好ましい。このように、各層のtanδ及び硬度の差を特定の範囲に収めることで、空洞共鳴音の低減と転がり抵抗及び乗心地性の向上をより高度に両立することが出来る。
【0026】
ここで、中層20Bは、外層20Aと内層20Cとの間に配置されるが、中層20Bと内層20Cとの境界Liの高さHLiをタイヤ断面高さSHの20%〜25%の範囲にすると共に、中層20Bと外層20Aとの境界Loの高さHLoをタイヤ断面高さSHの45%〜50%の範囲にすることが好ましい。更に、このように配置した中層20Bに対して、タイヤ最大幅位置Pの高さHP をタイヤ断面高さSHの30%〜40%の範囲にすることが好ましい。尚、高さHLi,HLoとは、ビードヒールから境界Li,Loまでの高さであり、境界Li,Loがタイヤ軸方向に対して傾斜している場合、高さHLi,HLoは、境界Li,Loのそれぞれの中点の高さとする。
【0027】
このように中層20Bと内層20Cとの境界Liの高さHLiと中層20Bと外層20Aとの境界Loの高さHLoとタイヤ最大幅位置Pの高さHP とを設定することで、タイヤの撓みが最大になる部位であるタイヤ最大幅位置Pがタイヤ径方向の低い位置に配置され、且つタイヤ最大幅位置Pが中層20Bの中心付近に位置することになるので、更に空洞共鳴音を低減することが出来る。そのため、タイヤ最大幅位置Pの高さHP をタイヤ断面高さSHの35%程度として、上述の範囲に配置された中層20Bのタイヤ径方向の中心と一致する位置に配置することが特に好ましい。
【0028】
このとき、境界Liの高さHLiがタイヤ断面高さSHの20%より小さいと、高ヒステリシスロス且つ高剛性である中層20Bがタイヤ径方向内側に増大するため転がり抵抗及び乗心地性が悪化する。逆に、境界Liの高さHLiがタイヤ断面高さSHの25%より大きいと、高ヒステリシスロス且つ高剛性である中層20Bが減少するため空洞共鳴音を低減する効果が充分に得られない。また、境界Loの高さHLoがタイヤ断面高さSHの45%より小さいと、高ヒステリシスロス且つ高剛性である中層20Bが減少するため空洞共鳴音を低減する効果が充分に得られない。逆に、境界Loの高さHLoがタイヤ断面高さSHの50%より大きいと、高ヒステリシスロス且つ高剛性である中層20Bがタイヤ径方向外側に増大するため転がり抵抗及び乗心地性が悪化する。更に、タイヤ最大幅位置Pの高さHP がタイヤ断面高さSHの30%より小さくなると、カーカスラインに無理が生じてタイヤ最大幅位置P付近の剛性が低下する。逆に、タイヤ最大幅位置Pの高さHP がタイヤ断面高さSHの40%より大きくなると、偏心変形が増大するため空洞共鳴音が悪化する。
【0029】
尚、上述のように中層20Bの位置を設定した上で、更に、外層20Aのタイヤ径方向外側端部20Aoの高さをタイヤ断面高さの75%〜85%の範囲にし、且つ内層20Cのタイヤ径方向内側端部20Ciの高さをタイヤ断面高さの10%〜15%の範囲にすることが出来る。
【0030】
また、本発明においては、ビードフィラー6のタイヤ径方向外側端部6oの高さHF をタイヤ断面高さSHの25%〜45%の範囲にすることが好ましい。このようにビードフィラー6のタイヤ径方向外側端部6oの高さHF を設定することで、中層20Bのタイヤ最大幅位置Pよりタイヤ径方向内側の部分にビードフィラー6のタイヤ径方向外側端部6oを配置することが出来るので、空洞共鳴音を低く維持したまま、更に乗心地性を向上すると共にタイヤ質量を低減することが出来る。
【0031】
このとき、ビードフィラー6のタイヤ径方向外側端部6oの高さHF がタイヤ断面高さSHの25%より小さいと、タイヤ最大幅位置P付近の剛性が低下し、空洞共鳴音が悪化する。逆に、ビードフィラー6のタイヤ径方向外側端部6oの高さHF がタイヤ断面高さSHの45%より大きいと、ビードフィラー6の使用量を抑えることが出来ず、タイヤ質量を充分に低減することが出来ない。
【0032】
本発明では、中層20Bの厚さGB を外層20Aの厚さGA 及び内層20Cの厚さGC よりも薄くすると共に、外層20Aの厚さGA を3.0mm以上6.0mm以下にし、中層20Bの厚さGB を1.0mm以上4.0mm以下にし、内層20Cの厚さGC を3.0mm以上6.0mm以下にすることが好ましい。
【0033】
このようにサイドゴム層20における各層20A,20B,20Cのそれぞれのゴム厚さGA ,GB ,GC を設定することで、各層のゴム使用量のバランスを取り、上述のタイヤ性能をより高度に両立することが出来る。特に、タイヤ質量を低減することが出来る。このとき、外層20Aの厚さGA が3.0mmより小さいと耐カット性能が悪化する。逆に、外層20Aのゴム厚さGA が6.0mmより大きいと、タイヤ質量を充分に低減することが出来ない。また、中層20Bの厚さGB が1.0mmより小さいと、中層20Bに含まれる高tanδ且つ高硬度であるゴム組成物が減少して、充分に振動を抑制して空洞共鳴音を低減する効果が得られない。逆に、中層20Bの厚さGB が4.0mmより大きいと、タイヤ質量を充分に低減することが出来ない。更に、内層20Cの厚さGC が3.0mmより小さいと空洞共鳴音を充分に低減することが出来ない。逆に、内層20Cの厚さGC が6.0mmより大きいと、タイヤ質量を充分に低減することが出来ない。尚、サイドゴム層20における各層20A,20B,20Cのそれぞれの厚さGA ,GB ,GC とは、カーカス層4に対して垂直に測ったサイドゴム層の厚さであり、各層20A,20B,20C内での最大値である。
【0034】
本発明では、タイヤの扁平率が50%以上であることが好ましい。扁平率が50%以上の高扁平率のタイヤであると、タイヤ断面高さSHが大きくなるので、各タイヤ性能へ対する寄与の大きいサイドゴム層の断面積が大きくなり、上述のタイヤ性能をより高度に両立することが出来る。
【実施例】
【0035】
タイヤサイズ205/60R16 92Vの空気入りタイヤにおいて、サイドゴム層の分割の有無、外層、中層、及び内層のそれぞれに含まれるゴム組成物の60℃におけるtanδ、20℃における硬度、厚さGA ,GB ,GC 、端部或いは境界の高さ、更に、タイヤ最大幅位置の高さ及びビードフィラー外端部の高さを表1,2のように異ならせた従来例1、比較例1〜5、実施例1〜14の20種類の試験タイヤを製作した。
【0036】
これら20種類の試験タイヤについて、下記の評価方法によりタイヤ質量、転がり抵抗、乗心地性、空洞共鳴音を評価し、その結果を表1,2に併せて示した。
【0037】
タイヤ質量
各試験タイヤの重量を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用い、従来例1を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどタイヤ重量が軽量であることを意味する。
【0038】
転がり抵抗
各試験タイヤを、リムサイズ16×6.5Jのアルミホイールに組み付け、空気圧230kPaを充填し、ISO28580に準拠して、ドラム径1707.6mmのドラム試験機を用い、JATMAで規定される最大負荷能力の70%の荷重を負荷し、速度80km/h走行時の転がり抵抗を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用い、従来例1を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど転がり抵抗が低いことを意味する。
【0039】
乗心地性
各試験タイヤを、リムサイズ16×6.5Jのアルミホイールに組み付け、空気圧230kPaを充填し、排気量2.0LのFFミニバンに装着し、一部に凹凸面を含むテストコースを速度50km/hにて走行させ、1名のパネラーによる官能評価を実施した。評価結果は、従来例1を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど乗心地性が優れていることを意味する。
【0040】
空洞共鳴音
各試験タイヤをリムサイズ16×6.5Jのアルミホイールに組み付け、空気圧230kPaを充填し、排気量2.0LのFFミニバンに装着し、コンクリート路を時速40km/hで走行し、運転席の位置で車内騒音を測定し、周波数225Hz付近の空洞共鳴音のピークレベル(狭帯域)(dB)を求めた。評価結果は、測定された実数値の差(従来例1との差)にて示した。この値が小さいほど空洞共鳴音が小さいことを意味する。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
表1,2から判るように、実施例1〜14はいずれも、タイヤ質量を低減し、転がり抵抗及び乗心地性を改善すると共に、空洞共鳴音を低減した。特に、タイヤ最大幅位置の高さ及び/又はビードフィラーの外端部の高さを好ましい範囲に設定した実施例5,9,11は、これら性能をより高度に両立した。
【0044】
一方、サイドゴム層が外層、中層、内層の3層に分割されない比較例1,2、各層のtanδと硬度の大小関係が本発明の規定から外れる比較例3,4は、タイヤ質量を低減することは出来るものの、転がり抵抗、乗心地性、空洞共鳴音のいずれか又は全てが悪化した。
【符号の説明】
【0045】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 ベルトカバー層
20 サイドゴム層
20A 外層
20B 中層
20C 内層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビード部と、これらビード部からそれぞれ径方向外側に延びるサイドウォール部と、これらサイドウォール部の半径方向外側同士を連結する円筒状のトレッド部とを備え、前記一対のビード部間に少なくとも1層のカーカス層を装架し、該カーカス層の両端部をそれぞれビードコアの廻りにビードフィラーを挟むようにタイヤ内側から外側へ巻き上げた空気入りタイヤにおいて、
前記サイドウォール部における前記カーカス層のタイヤ幅方向外側に位置するサイドゴム層をタイヤ径方向外側に位置する外層とタイヤ径方向内側に位置する内層と前記外層及び前記内層との間に位置する中層とに分割し、前記中層に含まれるゴム組成物の60℃におけるtanδを前記外層及び前記内層に含まれるゴム組成物の60℃におけるtanδよりも高くし、且つ前記中層に含まれるゴム組成物の20℃における硬度を前記外層及び前記内層に含まれるゴム組成物の20℃における硬度よりも高くすると共に、前記中層に含まれるゴム組成物の60℃におけるtanδを0.17以上、且つ20℃における硬度を58以上にし、前記外層及び前記内層に含まれるゴム組成物の60℃におけるtanδを0.05以上0.20以下、且つ20℃における硬度を40以上60以下にしたことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記中層と前記内層との境界Liの高さHLiをタイヤ断面高さSHの20%〜25%の範囲にすると共に、前記中層と前記外層との境界Loの高さHLoをタイヤ断面高さSHの45%〜50%にし、且つタイヤ最大幅位置Pの高さHP をタイヤ断面高さSHの30%〜40%の範囲にしたことを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記ビードフィラーのタイヤ径方向外側端部の高さHF をタイヤ断面高さSHの25%〜45%の範囲にしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
扁平率が50%以上であることを特徴とする請求項1,2又は3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2013−95233(P2013−95233A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238725(P2011−238725)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)