説明

空気入りラジアルタイヤ

【課題】周方向ベルトに波型型付けスチールコードを用いた空気入りラジアルタイヤにおいて、かかる波型型付けスチールコードの耐久性の向上を図ることで、入力の増大に起因するスチールコードの疲労破断を防止できる技術を提供する。
【解決手段】左右一対のビード部間にわたりトロイド状に延在するカーカス1を骨格とし、そのタイヤ半径方向外側に、ベルト層2およびトレッド層5が順次積層配置されてなる空気入りラジアルタイヤである。ベルト層2が、タイヤ周方向に沿う向きに伸びる複数本の波型形状またはジグザグ形状の型付けスチールコードからなる周方向ベルト3を少なくとも1層含み、かつ、該周方向ベルトのスチールコードを取り出した場合の取り出したスチールコードの型付けの曲率半径Rが、18mm以上125mm以下の範囲内である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気入りラジアルタイヤ(以下、単に「タイヤ」とも称する)に関し、詳しくは、タイヤ周方向に沿う向きに伸びる複数本の波型形状またはジグザグ形状の型付けスチールコードからなる周方向ベルト層を備える空気入りラジアルタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気入りラジアルタイヤのベルト層として、タイヤ周方向に沿う周方向ベルトを設けることが行われており、かかる周方向ベルトに、波型形状またはジグザク形状に型付けしたコードを適用することも公知である。
【0003】
例えば、特許文献1には、トラックおよびバス用並びにオフザロード用など高内圧で使用される重荷重用ラジアルタイヤ、特に扁平のタイヤにおいて、波形またはジグザグ形をなしてタイヤの赤道面に沿って延びる多数本のコードまたはフィラメントを補強素子として、これら補強素子をゴムで被覆したプライの複数層を、傾斜配置したコードによるベルトに代えて、または該ベルトに追加して用いることが開示されている。
【特許文献1】特開平11−245617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、かかる波型形状またはジグザグ形状に加工されたスチールコードでは、その型付け部において曲率半径Rが局所的に小さくなっているため、この部分でタイヤ周方向の入力による曲げ歪の集中が起こりやすいという問題があった。これは、スチールコードの耐久性能低下の要因となる。
【0005】
また、波型形状またはジグザグ形状の型付けスチールコードからなる周方向ベルトを有するタイヤでは、その構造から周方向ベルトに大きな負担がかかる。周方向ベルトはタイヤ転動時の歪を直接受けるため、タイヤ転動時には繰り返しの歪変形を受けることになる。したがって、今後のタイヤサイズの大型化や偏平化による負担増大に伴い、入力の増大に起因するセパレーション発生等の耐久性の低下が懸念されており、周方向ベルトの耐久性向上を図ることが急務となっている。
【0006】
そこで本発明の目的は、周方向ベルトに波型形状またはジグザグ形状の型付けスチールコードを用いた空気入りラジアルタイヤにおいて、かかる周方向ベルトの耐久性の向上を図ることで、特に今後の入力の増大時に懸念されるスチールコードの疲労破断を防止できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、波型形状またはジグザグ形状の型付けスチールコードの型付け部における曲率半径Rを大きく規定することで、この部分における曲げ歪の集中を分散させて、コードの耐久性を向上することが可能となることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、左右一対のビード部間にわたりトロイド状に延在するカーカスを骨格とし、該カーカスのタイヤ半径方向外側に、ベルト層およびトレッド層が順次積層配置されてなる空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記ベルト層が、タイヤ周方向に沿う向きに伸びる複数本の波型形状またはジグザグ形状の型付けスチールコードからなる周方向ベルトを少なくとも1層含み、かつ、該周方向ベルトのスチールコードを取り出した場合の取り出したスチールコードの型付けの曲率半径Rが、18mm以上125mm以下の範囲内であることを特徴とするものである。
【0009】
本発明においては、前記周方向ベルトのスチールコードが、0.12mm以上0.45mm以下のフィラメント径を有するフィラメントからなる撚りコードであり、1.20mm以上3.00mm以下のコード径を有し、かつ、0.3%以上3.0%以下の範囲の初期伸び歪量を有することが好ましい。また、前記ベルト層が、前記周方向ベルトを1層ないし4層含むことが好ましく、前記ベルト層が、タイヤ周方向に対し傾斜した向きに伸びるコードからなる交錯ベルトを1層ないし3層含むことも好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、上記構成としたことにより、周方向ベルトにおける波型型付けスチールコードの耐久性を向上して、スチールコードの疲労破断を効果的に防止することが可能な空気入りラジアルタイヤを実現することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好適実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1に、本発明の一例の空気入りラジアルタイヤのトレッド部近傍を拡大して示す断面図を示す。図示する本発明の空気入りラジアルタイヤ10は、左右一対のビード部(図示せず)間にわたりトロイド状に延在するカーカス1を骨格とし、そのタイヤ半径方向外側に、ベルト層2およびトレッド層5が順次積層配置されてなるものである。
【0012】
本発明においては、ベルト層2が、タイヤ周方向に沿う向きに伸びる複数本の波型形状またはジグザグ形状の型付けスチールコードからなる周方向ベルト3を少なくとも1層、図示する例では2層含み、形状を変化させることなくタイヤ中の周方向ベルト3から取り出したスチールコードの型付けの曲率半径Rが、18mm以上125mm以下、好適には20mm以上75mm以下の範囲内である。
【0013】
前述したように、波型形状またはジグザグ形状の型付けスチールコードでは型付け部に曲げ歪の集中が起こり、今後のサイズ大型化等に伴う入力の増大によっては、そこを起点としてスチールコードの疲労破断が発生してしまう懸念がある。それを防ぐためには、この型付け部の曲率半径Rを大きくして、曲げ歪の集中を緩和させることが有効である。本発明においては、かかる型付け部の曲率半径Rを上記範囲に規定することで、曲げ歪の集中を効果的に緩和させて、疲労破断の発生を防止することを可能としたものである。
【0014】
ここで、本発明において型付け部の曲率半径Rとは、図2に示すように、波型形状またはジグザグ形状に加工されたスチールコード20(振幅a,波長λ)の型付け部を、円弧で近似して測定した曲率半径として定義される。具体的には、理想的な曲率半径Rは、振幅aおよび波長λより、R=1/a(λ/2π)とする。この曲率半径Rが18mm未満であると、曲げ歪の緩和が不十分となり、一方、125mmを超えると、タイヤに必要なスチール量が確保できなくなるため、他性能面での懸念が生ずる。
【0015】
また、周方向ベルト3を構成する上記スチールコードは、フィラメント径0.12mm以上0.45mm以下、特には0.15mm以上0.36mm以下の範囲のフィラメントからなる撚りコードであり、コード径が1.20mm以上3.00mm以下、特には1.20mm以上2.00mm以下の範囲であって、かつ、初期伸び歪量が0.3%以上3.0%以下、特には0.9%以上2.0%以下の範囲であることが好ましい。このようなスチールコードを用いることで、コード耐久性をより良好に確保することができる。
【0016】
上記スチールコードの初期伸び歪量が0.3%未満であると、内圧時および径成長時にコードが伸びきってしまい、タイヤがバックリングして正常な形状にならず、偏摩耗性悪化の原因となる。一方、コードの初期伸び歪量が3.0%を超えると、内圧による径成長が大きくなり過ぎてしまい、これによりタイヤ表面のトレッドゴムが引張り状態となって、耐摩耗性や耐カット性悪化の不利を招くことになる。ここで、スチールコードの初期伸び歪量は、図3に示すように、コードの歪−荷重曲線において定義される。
【0017】
特には、上記周方向ベルト3のスチールコードとして、上記曲率半径Rが20mm以上30mm以下の範囲には強度2500MPa以上の鋼材、また、上記曲率半径Rが30mmを超えて75mm以下の範囲には強度2900MPa以上の鋼材を用いることが好ましい。強度がこの範囲よりも低い鋼材を用いると、タイヤに必要なスチールコード強度が不足するため好ましくない。
【0018】
本発明において、ベルト層2は、上記周方向ベルト2を少なくとも1層、好適には1層ないし4層含む。周方向ベルト2を5枚以上とすると、全体のゲージが厚くなりすぎて、重量増や発熱耐久性の悪化を招くので、周方向ベルト3の層数は1〜4層とすることが望ましい。
【0019】
また、ベルト層2は、好適には、上記周方向ベルト3に加えて、タイヤ周方向に対し傾斜した向きに伸びるコードからなる交錯ベルト4を、1層ないし3層含む。図示する例では、層間で互いに交錯する交錯ベルト4を、2層にて配置している。交錯ベルト4を配置しない場合、タイヤ幅方向の変形を抑えられずに、偏摩耗性の悪化を生ずる場合がある。一方、交錯ベルト4を4層以上配置すると、全体のゲージが厚くなりすぎて、重量増や発熱耐久性の悪化をもたらすおそれがある。
【0020】
また、本発明のタイヤ10において、カーカス1のクラウン部のタイヤ半径方向外側に配置されるトレッド層5の表面には適宜トレッドパターンが形成され、タイヤの最内層にはインナーライナー(図示せず)が配置される。さらに、本発明のタイヤにおいて、タイヤ内に充填する気体としては、通常のあるいは酸素分圧を変えた空気、または窒素等の不活性ガスを用いることが可能である。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
図1に示す構造を有するタイヤサイズ495/45R22.5の空気入りラジアルタイヤを、周方向ベルトに適用するスチールコード(3層撚り:3+9+15構造)の波型型付けの条件を下記表1,2に示すようにそれぞれ変えて製造した。
【0022】
各供試タイヤにおいて、ベルト層2は、タイヤ周方向の沿う向きに伸びる複数本の波型型付けスチールコードからなる周方向ベルト3の2層と、タイヤ周方向に対し傾斜した向きに伸びるコードからなる交錯ベルト4の2層とからなるものとした。
【0023】
<疲労特性の評価>
各供試タイヤ中のスチールコードの疲労特性を、正規内圧、正規荷重の120%の負荷条件下で60km/hにて7.0万km走行させる室内試験を行った後に、X線検査を実施することにより評価した。X線検査でコード切れなしの場合を◎、コード切れは若干見られるが実用上問題ない場合を○、コード切れありの場合を×とした。その結果を、下記の表1,2中に併せて示す。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
上記表1,2に示すように、本発明に係る条件を満足する波型型付けスチールコードを周方向ベルトに用いた実施例の空気入りラジアルタイヤでは、スチールコードの耐久性を向上できることが確かめられた。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一例の空気入りラジアルタイヤのトレッド部近傍を示す拡大断面図である。
【図2】波型形状に加工されたスチールコードを示す概略図である。
【図3】スチールコードの歪−荷重曲線を示すグラフである。
【符号の説明】
【0028】
1 カーカス
2 ベルト層
3 周方向ベルト
4 交錯ベルト
5 トレッド層
10 空気入りラジアルタイヤ
20 スチールコード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対のビード部間にわたりトロイド状に延在するカーカスを骨格とし、該カーカスのタイヤ半径方向外側に、ベルト層およびトレッド層が順次積層配置されてなる空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記ベルト層が、タイヤ周方向に沿う向きに伸びる複数本の波型形状またはジグザグ形状の型付けスチールコードからなる周方向ベルトを少なくとも1層含み、かつ、該周方向ベルトのスチールコードを取り出した場合の取り出したスチールコードの型付けの曲率半径Rが、18mm以上125mm以下の範囲内であることを特徴とする空気入りラジアルタイヤ。
【請求項2】
前記周方向ベルトのスチールコードが、0.12mm以上0.45mm以下のフィラメント径を有するフィラメントからなる撚りコードであり、1.20mm以上3.00mm以下のコード径を有し、かつ、0.3%以上3.0%以下の範囲の初期伸び歪量を有する請求項1記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項3】
前記ベルト層が、前記周方向ベルトを1層ないし4層含む請求項1または2記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項4】
前記ベルト層が、タイヤ周方向に対し傾斜した向きに伸びるコードからなる交錯ベルトを1層ないし3層含む請求項1〜3のうちいずれか一項記載の空気入りラジアルタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−126436(P2009−126436A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−305437(P2007−305437)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】