説明

空気入りラジアルタイヤ

【課題】フラットスポット現象の発生が低減された空気入りラジアルタイヤを提供する。
【解決手段】主ベルト1のタイヤ半径方向外側に配置され、タイヤ周方向に対し実質的に平行に配列した補強素子のゴム引き層からなる少なくとも一層のベルト補強層2とを備える空気入りラジアルタイヤにおいて、前記ベルト補強層を構成する補強素子として、フィラメント束1本あたりの繊度が500〜1400dtexのポリエチレン-2,6-ナフタレートのフィラメント束を1本又は複数本撚り合わせてなる有機繊維コードを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りラジアルタイヤに関し、特にフラットスポット現象の発生が低減された空気入りラジアルタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の車輌の高級化、高品質化に伴い、特に乗用車においては車輌の低振動化、乗心地性の改良が急激に進みつつある中、タイヤに対しても低騒音、高乗心地化が求められている。即ち、乗心地性の改良と共に、特に車内に生じるノイズの低減が望まれており、かかるノイズの一つとして、走行中のタイヤが路面の凹凸をひろい、その振動が伝達されて車内の空気を振動させることに基づいて発生する所謂ロードノイズを低減することが強く要求されるようになってきた。
【0003】
また一方、欧州や北米等、車輌が高速で走行する機会の多い市場においては、高速走行に伴いタイヤの温度が一旦上昇し、その後、駐停車時にタイヤが空冷されることによりタイヤに「型付き」が生じ、再走行時に振動が発生する所謂フラットスポット現象の発生を低減することが求められている。
【0004】
上記ロードノイズを低減する方法としては、様々な手法が考案されているが、その一つとして高剛性繊維であるポリエチレン-2,6-ナフタレート(PEN)からなるコードをゴム引きし、交差ベルト層(主ベルト)の上部に螺旋状に巻き付けてベルト補強層を形成してベルト部の振動を抑える手法が知られている。なお、一般に、コードは繊度が大きい程、剛性が高く、ロードノイズの低減効果が大きいことから、繊度が1670dtexである繊維のフィラメント束を2本撚り合わせて、ベルト補強層に用いることが多い。
【0005】
また、ポリエチレン-2,6-ナフタレートは、一般にタイヤコードの接着剤として広く使用されている、レゾルシンとホルムアルデヒドとラテックスとを混合してなる接着剤組成物(以下、RFLと称す)に対して不活性である。そこで、PENコードとゴムとの接着性を改善し、ベルト補強層の耐久性を十分に確保するため、コードの撚り係数を高めに設定し、且つ、ノボラック反応により得られるフェノール類・ホルムアルデヒド縮合物等のメチレンジフェニル類からなる鎖状構造を分子内に含有する化合物(接着改良剤)を、RFLと混合して得られる接着剤組成物(特許文献1参照)により処理した、PENコードがベルト補強層に配置されている。
【0006】
【特許文献1】国際公開第97/13818号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者が検討したところ、例えばPENコード等の高剛性の有機繊維コードをベルト補強層に適用した場合、タイヤの転動時にコードが伸び縮みする際に発生する熱量が大きくなり、その結果、高速走行時におけるタイヤの温度が上昇し、フラットスポット現象の悪化を招くことが分かった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、フラットスポット現象の発生が低減された空気入りラジアルタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、ベルト補強層の補強素子として、特定の繊度を有するポリエチレン-2,6-ナフタレートのフィラメント束を1本又は複数本撚り合わせた有機繊維コードを用いることにより、高速走行時における発熱元の体積を小さくすることで、タイヤの温度上昇を抑え、フラットスポット現象の発生を低減できることを見出した。
【0010】
即ち、本発明の空気入りラジアルタイヤは、一対のビード部及び一対のサイドウォール部と、両サイドウォール部に連なるトレッド部とを有し、前記一対のビード部間にトロイド状に延在させたカーカスと、該カーカスのクラウン部のタイヤ半径方向外側に配置した少なくとも二層のベルト層からなる主ベルトと、該主ベルトのタイヤ半径方向外側に配置され、タイヤ周方向に対し実質的に平行に配列した補強素子のゴム引き層からなる少なくとも一層のベルト補強層とを備え、
前記ベルト補強層を構成する補強素子は、フィラメント束1本あたりの繊度が500〜1400dtexのポリエチレン-2,6-ナフタレートのフィラメント束を1本又は複数本撚り合わせてなる有機繊維コードであることを特徴とする。
【0011】
本発明の空気入りラジアルタイヤの好適例において、前記有機繊維コードは、下記式(I):
R=N×(0.125×D/ρ)1/2×10-3 ・・・ (I)
[式中、Nはコードの撚り数(回/10cm)で、Dはコードの総表示デシテックス数(dtex)で、ρはコードの比重(g/cm3)である]で定義される撚り係数Rが0.35〜0.60である。この場合、有機繊維コードの剛性の低下を抑制し、ロードノイズの低減効果を確実に得ることができる。
【0012】
本発明の空気入りラジアルタイヤの他の好適例においては、前記有機繊維コードが、ペンダント基に架橋性官能基を含有し、アリル位に水素基を有する炭素−炭素二重結合を主鎖に実質的に含有しない熱可塑性高分子重合体(A)、水溶性高分子(B)、及び極性官能基を有する芳香族類をメチレン結合した構造を含有する化合物(C)を含む接着剤組成物、前記熱可塑性高分子重合体(A)及び芳香族類をメチレン結合した構造を含有する有機ポリイソシアネート化合物(α)と、複数の活性水素を有する化合物(β)と、イソシアネート基に対する熱解離性ブロック化剤(γ)とを反応させて得られる水性ウレタン化合物(D)を含む接着剤組成物、又は前記水溶性高分子(B)及び前記水性ウレタン化合物(D)を含む接着剤組成物で接着処理されてなる。この場合、コードとゴムとの接着性が改善され、高速耐久性を向上させることができる。
【0013】
本発明の空気入りラジアルタイヤの他の好適例において、前記有機繊維コードは、室温での100%伸長時のモジュラスが2.0〜4.0MPaであるコーティングゴムで被覆されている。この場合、コードとゴムの剥離を抑制し、高速耐久性を向上させることができる。
【0014】
本発明の空気入りラジアルタイヤの他の好適例において、前記有機繊維コードは、反発弾性率が60%以上であるコーティングゴムで被覆されている。この場合、タイヤの高速耐久性を向上しながら、フラットスポット現象の発生を確実に低減することができる。
【0015】
本発明の空気入りラジアルタイヤの他の好適例においては、前記ベルト補強層が、前記主ベルトの全体を覆う一層以上のセンター部ベルト補強層からなる。この場合、主ベルトの全体を覆うことで、タイヤの接地面積が大きくなる結果、タイヤの摩耗特性の低下を抑制することができる。
【0016】
本発明の空気入りラジアルタイヤの他の好適例においては、前記ベルト補強層が、前記主ベルトの端部のみをそれぞれ覆う一対で且つ一層以上のショルダー部ベルト補強層からなる。この場合、車体への振動の伝播を抑え、タイヤのロードノイズを十分に低減することができる。
【0017】
本発明の空気入りラジアルタイヤの他の好適例においては、前記ベルト補強層が、前記主ベルトの全体を覆う一層以上のセンター部ベルト補強層と、前記主ベルトの端部のみをそれぞれ覆う一対で且つ一層以上のショルダー部ベルト補強層とからなる。この場合、タイヤの摩耗特性の低下を抑制し、ロードノイズを十分に低減することができる。
【0018】
本発明の空気入りラジアルタイヤにおいて、前記ベルト補強層は、該ベルト補強層の配設幅よりも狭い幅寸法を有する1本以上の補強素子をゴム引きしたリボン状シートを、所定の幅寸法になるまでタイヤの幅方向に複数回螺旋巻回することにより形成されたものであることが好ましい。この場合、タイヤ周方向にジョイント部が生じず、均一に主ベルトを補強することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ベルト補強層の補強素子として、特定の繊度を有するポリエチレン-2,6-ナフタレートのフィラメント束を1本又は複数本撚り合わせた有機繊維コードを用いることで、フラットスポット現象の発生を低減できる。また、上記の有機繊維コードに最適な撚り係数を設定することで、コードの剛性の低下を抑制し、ロードノイズを十分に低減できる。更に、上記の有機繊維コードを、特定の接着剤組成物により接着処理してから用いることで、高速耐久性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、図を参照しながら本発明を詳細に説明する。図1は、本発明の空気入りラジアルタイヤのトレッド部の一例の部分断面図である。本発明の空気入りラジアルタイヤは、一対のビード部及び一対のサイドウォール部と、両サイドウォール部に連なるトレッド部とを有し、前記一対のビード部間にトロイド状に延在させたカーカスと、該カーカスのクラウン部のタイヤ半径方向外側に配置した少なくとも二枚のベルト層からなる主ベルト1と、該主ベルト1のタイヤ半径方向外側に配置され、タイヤ周方向に対し実質的に平行に配列した補強素子のゴム引き層からなる少なくとも一層のベルト補強層2とを備える。
【0021】
図示例のタイヤにおいて、上記ベルト補強層2は、主ベルト1の全体を覆う一層のセンター部ベルト補強層3と、主ベルト1の端部のみをそれぞれ覆う一層のショルダー部ベルト補強層4の一対とからなるが、本発明の空気入りラジアルタイヤにおいては、ベルト補強層2が、センター部ベルト補強層3のみからなるものであってもよいし、ショルダー部ベルト補強層4のみからなるものであってもよい。また、図示例のタイヤでは、センター部ベルト補強層3は一層からなるが、本発明のタイヤのセンター部ベルト補強層3は二層以上であってもよい。更に、図示例のタイヤでは、ショルダー部ベルト補強層4は一層からなるが、本発明のタイヤのショルダー部ベルト補強層4は二層以上であってもよい。なお、図示例のタイヤのセンター部ベルト補強層3及びショルダー部ベルト補強層4は、タイヤ幅方向外側端部が揃っているが、本発明の空気入りラジアルタイヤにおいて、ショルダー部ベルト補強層の各層のタイヤ幅方向外側端部は、不揃いであってもよい。
【0022】
本発明のタイヤのベルト補強層2が、主ベルト1の全体を覆う一層以上のセンター部ベルト補強層3からなる場合、タイヤの接地面積が大きくなる結果、タイヤの摩耗特性の低下を抑制することができる。また、本発明のタイヤのベルト補強層2が、主ベルト1の端部のみをそれぞれ覆う一対で且つ一層以上のショルダー部ベルト補強層からなる場合、車体への振動の伝播を抑え、タイヤのロードノイズを低減することができる。更に、本発明のタイヤのベルト補強層2が、上記センター部ベルト補強層3と、上記ショルダー部ベルト補強層4とからなる場合、それぞれの補強層を配設した際の効果が得られるため、タイヤの摩耗特性の低下を抑制し、ロードノイズを低減することができる。
【0023】
また、上記ベルト補強層2は、該ベルト補強層の配設幅よりも狭い幅寸法を有する1本以上の補強素子をゴム引きしたリボン状シートを、所定の幅寸法になるまでタイヤの幅方向に複数回螺旋巻回することにより形成されたものであることが好ましい。リボン状シートを連続して螺旋巻回してセンター部ベルト補強層3及び/又はショルダー部ベルト補強層4を形成することにより、タイヤ周方向にジョイント部が生じず、均一に主ベルト1を補強することができる。
【0024】
上記主ベルト1を構成するベルト層1a,1bは、通常、タイヤ赤道面に対して傾斜して延びるコードのゴム引き層、好ましくは、スチールコードのゴム引き層からなり、更に、図示例のタイヤでは、二枚のベルト層1a,1bが、該ベルト層を構成するコードが互いにタイヤ赤道面を挟んで交差するように積層されて主ベルト1を構成している。なお、図示例のタイヤの主ベルト1は、二枚のベルト層1a,1bからなるが、本発明のタイヤにおいて、主ベルト1を構成するベルト層の枚数はこれに限られるものではない。
【0025】
本発明の空気入りラジアルタイヤにおいて、ベルト補強層2は、タイヤ周方向に対し実質的に平行に配列した補強素子のゴム引き層からなり、該ベルト補強層2を構成する補強素子は、フィラメント束1本あたりの繊度が500〜1400dtex、好ましくは1050〜1380dtexのポリエチレン-2,6-ナフタレン(PEN)のフィラメント束を1本又は複数本撚り合わせてなる有機繊維コードである。ここで、高剛性であるPENコードを用いることで、ロードノイズを低減することができる。また、PENの繊度を上記した範囲内に限定することで、高速走行時における発熱元の体積が小さくなり、タイヤの温度上昇を抑え、フラットスポット現象の発生を低減することができる。該PENのフィラメント束1本あたりの繊度が500dtex未満では、ベルト補強層2の剛性が不十分となり、タイヤのロードノイズを十分に低減できず、一方、該PENのフィラメント束1本あたりの繊度が1400dtexを超えると、フラットスポット現象の発生の低減効果が十分に得られない。更に、上記有機繊維コードは、上記ポリエチレン-2,6-ナフタレンのフィラメント束を1本又は複数本撚り合わせてなるが、これにより、有機繊維コードの剛性の低下を抑制し、ロードノイズの低減効果を維持することができる。
【0026】
本発明の空気入りラジアルタイヤにおいて、ベルト補強層2を構成する上記有機繊維コードは、上記式(I)で定義される撚り係数Rが0.35〜0.60であることが好ましい。本発明に用いる有機繊維コードは、ベルト補強層に通常使用されるコードと比較して繊度が低く、コードが細くなっているため、剛性の低下を招くおそれがあり、この場合、十分なロードノイズの低減効果が得られない。したがって、本発明の空気入りラジアルタイヤにおいては、有機繊維コードの撚り係数の最適化をし、上記式(I)で定義される撚り係数Rを0.35〜0.60と低く設定することで、コードの剛性の低下を抑制し、ロードノイズの低減効果を維持することができる。また、有機繊維コードの撚り係数Rが0.35未満では、主ベルトに対する拘束力が低く、高速耐久性を悪化させる場合があり、一方、0.60を超えると、コードの剛性が低くなり、タイヤのロードノイズを十分に低減できない場合がある。
【0027】
本発明の空気入りラジアルタイヤにおいて、上記有機繊維コードは、ペンダント基に架橋性官能基を含有し、アリル位に水素基を有する炭素−炭素二重結合を主鎖に実質的に含有しない熱可塑性高分子重合体(A)、水溶性高分子(B)、及び極性官能基を有する芳香族類をメチレン結合した構造を含有する化合物(C)を含む接着剤組成物、上記熱可塑性高分子重合体(A)及び芳香族類をメチレン結合した構造を含有する有機ポリイソシアネート化合物(α)と、複数の活性水素を有する化合物(β)と、イソシアネート基に対する熱解離性ブロック化剤(γ)とを反応させて得られる水性ウレタン化合物(D)を含む接着剤組成物、又は上記水溶性高分子(B)及び上記水性ウレタン化合物(D)を含む接着剤組成物で接着処理されてなることが好ましい。上記のように、上記式(I)で定義される撚り係数Rを低く設定した場合、コードの剛性は保持されるものの、コードとゴムとの接着性が低下し、十分な高速耐久性を確保することができないおそれがある。そこで、本発明においては、上記有機繊維コードを特定の接着剤組成物で接着剤処理することで、コードとゴムとの接着性が改善され、十分な高速耐久性を得ることができる。
【0028】
上記接着剤組成物に用いる熱可塑性高分子重合体(A)は、ペンダント基に架橋性官能基を含有し、アリル位に水素基を有する炭素−炭素二重結合を主鎖に実質的に含有しないことを特徴とし、化合物(C)、水性ウレタン化合物(D)、脂肪族エポキシド化合物(E)等の架橋成分により、硬く脆くなりがちな接着剤組成物マトリックスの可撓性を高める目的で、改質剤として作用する。
【0029】
なお、「ペンダント基」とは、高分子鎖を修飾する官能基である。また、高分子鎖へのペンダント基の導入は、ペンダントさせる基を含む単量体を重合させる方法の他、ペンダント基を高分子鎖に化学的修飾反応で導入する方法等、既知の方法で行うことができる。
【0030】
上記熱可塑性高分子重合体(A)は、ペンダント基に架橋性官能基を含有するが、この理由は、接着剤層−コード表面間の結合が得られるほか、熱可塑性高分子重合体(A)の分子内架橋などにより高温時の分子流動が抑制され、高温時接着力を向上できるからである。しかし、架橋性官能基の量が過度になると化学的耐熱性が低下する。上記ペンダント基の架橋性官能基としては、オキサゾリン基、ヒドラジノ基、または(ブロックド)イソシアネート基が好ましい。
【0031】
なお、「(ブロックド)イソシアネート」は、「ブロックドイソシアネートまたはイソシアネート」を意味し、イソシアネート基に対するブロック化剤と反応して生じたブロックドイソシアネート、イソシアネート基に対するブロック化剤と未反応のイソシアネート、あるいはブロックドイソシアネートのブロック化剤が解離して生じたイソシアネートなどを含む。
【0032】
上記熱可塑性高分子重合体(A)に含まれる架橋性官能基の好ましい量は、熱可塑性高分子重合体(A)の主鎖骨格の分子量、ペンダント基に含まれる架橋性官能基の種類やペンダント基の分子量などに依存するが、一般的には、熱可塑性高分子重合体(A)の乾燥総重量に対し、0.01ミリモル/g〜8.0ミリモル/gの範囲が好ましく、0.01ミリモル/g〜6.0ミリモル/gの範囲が更に好ましい。
【0033】
上記熱可塑性高分子重合体(A)は、主鎖に、アリル位に水素基を有する炭素−炭素二重結合を実質的に含有しないが、この理由は、主鎖に硫黄反応性があると、硫黄を含むゴム物品の使用等において、硫黄架橋に伴う接着の熱劣化が大きくなるので、これを回避するためである。なお、熱可塑性高分子重合体(A)は、側鎖など主鎖以外の構造がある場合に、炭素−炭素二重結合をもつことができるが、この二重結合も主鎖と同様に、硫黄との反応性が低い、例えば、共鳴構造により安定的な、芳香性の炭素−炭素二重結合などであることが好ましい。
【0034】
上記熱可塑性高分子重合体(A)は、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算重量平均分子量が10,000以上であることが好ましく、20,000以上であることが更に好ましい。なお、熱可塑性高分子重合体(A)は、水性ウレタン化合物(D)と同じ原材料から合成できるが、水性ウレタン化合物(D)の分子量は、後述のとおり、好ましくは比較的低〜中分子量領域であり、特に好ましくは9,000以下である。
【0035】
上記熱可塑性高分子重合体(A)が水分散性であれば、水を溶剤に使用できるので、環境への汚染が少なくでき、好ましい。また、熱可塑性高分子重合体(A)のガラス転移温度は、-90℃〜180℃であることが好ましい。なお、「水分散性」とは、水中あるいは本発明に用い得る接着剤組成物の水溶液中で分散することを意味する。
【0036】
上記熱可塑性高分子重合体(A)の主鎖には、アクリル系重合体、酢酸ビニル系重合体、酢酸ビニル・エチレン系重合体などのエチレン性付加重合体、および直鎖構造を主体とするウレタン系高分子重合体を好ましく用いることができる。なお、これら重合体は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
上記エチレン性付加重合体を構成する単量体としては、炭素−炭素二重結合を1つ有するエチレン性不飽和単量体、及び炭素−炭素二重結合を2つ以上含有する単量体が挙げられる。炭素−炭素二重結合を1つ有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン等のα-オレフィン類;スチレン、α-メチルスチレン、モノクロルスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン、スチレン、スルホン酸ナトリウム等のα,β−不飽和芳香族単量体類;イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、ブテントリカルボン酸等のエチレン性カルボン酸類及びその塩;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチエレングリコール、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-アミノエチル等の不飽和カルボン酸のエステル類;イタコン酸モノエチルエステル、フマル酸モノブチルエステル、マレイン酸モノブチルエステル等のエチレン性ジカルボン酸のモノエステル類;イタコン酸ジエチルエステル、フマル酸ジブチルエステル等のエチレン性ジカルボン酸のジエステル類;アクリルアミド、マレイン酸アミド、N-メチロールアクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)メタクリルアミド、マレイン酸アミド等のα,β−エチレン性不飽和酸のアミド類;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有モノマー;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、フマロニトリル、α-クロロアクリルニトリル等の不飽和ニトリル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;ビニルケトン;ビニルアミド;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等の含ハロゲンα,β−不飽和単量体類;酢酸ビニル、吉草酸ビニル、カプリル酸ビニル、ビニルピリジン等のビニル化合物;2-イソプロペニル-2-オキサゾリン等の付加重合性オキサゾリン類;ビニルピロリドン等の複素環式ビニル化合物;ビニルエトキシシラン、α-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の不飽和結合含有シラン化合物等が挙げられる。一方、炭素−炭素二重結合を2つ以上含有する単量体としては、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、クロロプレン等のハロゲン置換ブタジエン等の共役ジエン系単量体や、ビニルノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4-ヘキサジエン等の非共役ジエン系単量体が挙げられる。なお、これら単量体は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。さらに、ラジカル付加重合により熱可塑性高分子重合体(A)を得ることが好ましい。
【0038】
上記エチレン性付加重合体に、架橋性官能基を導入して、上記熱可塑性高分子重合体(A)とする方法としては、特に限定されない。例えば、オキサゾリンを有する付加重合性単量体、エポキシ基を有する付加重合性単量体、マレイミドを有する付加重合性単量体、ブロックドイソシアネート基を有する付加重合性単量体、エピチオ基を有する付加重合性単量体等を、上記エチレン性付加重合体を重合する際に共重合させる方法等を採用することができる。
【0039】
上記ウレタン系高分子重合体は、主に、ポリイソシアネートと2個以上の活性水素を有する化合物とを重付加反応させて得られるウレタン結合や、ウレア結合等のイソシアネート基と活性水素の反応に起因する結合を、多数分子内に有する高分子重合体である。なお、イソシアネート基と活性水素の反応に起因する結合のみならず、活性水素を有する化合物の分子内に含まれるエステル結合、エーテル結合、アミド結合、およびイソシアネート基同士の反応で生成するウレトジオン、カルボジイミド等をも含む重合体であってもよい。
【0040】
上記ウレタン系高分子重合体の合成に用いるポリイソシアネートとしては、特に制限されるものではなく、一般に用いられる芳香族、脂肪族及び脂環族の有機ポリイソシアネートが挙げられる。一方、上記ウレタン系高分子重合体の合成に用いる2個以上の活性水素を有する化合物としては、分子末端又は分子内に2個以上のヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、メルカプト基等を有する化合物が挙げられ、具体的には、一般に公知のポリエーテル、ポリエステル、ポリエーテルエステル、ポリチオエーテル、ポリアセタール、ポリシロキサン等が挙げられる。
【0041】
エポキシ基を有するウレタン系高分子重合体は、例えば、後述の方法で製造する末端にイソシアネート基を有するウレタン系高分子重合体の末端イソシアネート基に、グリシドール、グリセリンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテルビスフェノールA等、ジグリシジルエーテルの水酸基とエポキシ基を有する化合物を重付加反応させることにより得ることができる。また、例えば、ブロックドイソシアネート基を有するウレタン系高分子重合体は、末端イソシアネート基を有するウレタン系高分子重合体を公知のブロック化剤で処理することで得られる。
【0042】
一方、ヒドラジノ基を有するウレタン系高分子重合体の具体的な合成方法は、特に限定されない。例えば、ヒドラジノ基を有するウレタン系高分子重合体は、2個以上の活性水素を有する化合物と、過剰量のポリイソシアネートを重付加反応等で反応させて末端イソシアネート基を有するウレタン系高分子重合体を製造し、これを第三級アミン等の中和剤によって中和した後、水を加え転相させて、多官能カルボン酸ポリヒドラジドによる鎖延長と、末端イソシアネート封鎖の処理を行うことで合成することができる。なお、2個以上の活性水素を有する化合物と、過剰量のポリイソシアネートとの反応は、従来から公知の一段式又は多段式イソシアネート付加反応法により、室温又は40〜120℃程度の温度条件下で行うことができる。
【0043】
上記接着剤組成物に用いる水溶性高分子(B)は、改質剤として接着剤組成物に添加され、接着剤組成物マトリックスと相互作用することにより接着剤組成物を補強し、接着剤組成物の延性や破壊靭性を高める。特に、水溶性高分子(B)がカルボキシル基を含有する場合は、マトリックスを構成する脂肪族エポキシド化合物(E)や水性ウレタン化合物(D)などの架橋性官能基との架橋反応作用により、また金属塩(F)や金属酸化物(G)とのイオン的相互作用により、上記延性や破壊靭性をさらに高めることができる。
【0044】
上記水溶性高分子(B)は、水又は電解質を含む水溶液に溶解性を示し、その構造に特に制限はなく、直鎖であっても、分岐していても、あるいは二次元、三次元に架橋していてもよいが、性能の点から直鎖又は分岐鎖の構造のみの重合体であることが好ましい。
【0045】
上記水溶性高分子(B)は、分子内に水酸基、カルボキシル基、アミノ基、イミノ基、第三級アミノ基、第四級アンモニウム塩基、オキサゾリン基、ヒドラジノ基、及びアジド基の親水性官能基のうち少なくとも1つを含有することが好ましい。また、水溶性高分子(B)は、比較的高分子量域の高分子重合体であることが好ましく、その重量平均分子量が3,000以上であることが好ましく、10,000以上であることが更に好ましく、80,000以上であることが一層好ましい。
【0046】
上記水溶性高分子(B)として、具体的には、ポリアクリル酸;ポリ(α-ヒドロキシカルボン酸);アクリルアミド−アクリル酸;(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル;酢酸ビニル−無水マレイン酸;スチレン−マレイン共重合体;エチレン−アクリル酸共重合体;(メタ)アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体;イソブテン−無水マレイン酸等のα-オレフィン−無水マレイン酸共重合体;メチルビニルエーテル−無水マレイン酸、アリルエーテル−無水マレイン酸等のアルキルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体;スチレン−アクリル共重合体;α-オレフィン−(メタ)アクリル酸エステル−マレイン酸共重合体又はこれら水溶性高分子の塩基性物質による中和物が挙げられ、これらの中でも、イソブテン−無水マレイン酸共重合体又はその塩基性物質による中和物が好ましい。
【0047】
上記接着剤組成物に用いる化合物(C)は、極性官能基を有する芳香族類をメチレン結合した構造の化合物であって、主に有機繊維コードへの接着剤組成物の接着を促進する作用を有する。
【0048】
上記化合物(C)の極性官能基としては、接着剤組成物中に含まれるカルボキシル基、架橋性成分であるエポキシ基、又は(ブロックド)イソシアネート基等と反応する官能基であることが好ましい。具体的には、エポキシ基、(ブロックド)イソシアネート基等の架橋性官能基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基等を挙げることができる。
【0049】
上記化合物(C)において、芳香族類をメチレン結合した分子構造としては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネート、又はフェノール類とホルムアルデヒドとの縮合物等にみられる分子構造が挙げられる。
【0050】
上記化合物(C)は、比較的低〜中分子量領域の化合物であることが好ましく、その分子量は、9,000以下であることが好ましい。また、化合物(C)は、水性(水溶性又は水分散性)であることが好ましい。
【0051】
上記化合物(C)としては、芳香族ポリイソシアネートと熱解離性ブロック化剤を含む化合物、ジフェニルメタンジイソシアネート又は芳香族ポリイソシアネートを熱解離性ブロック化剤でブロック化した成分を含む水分散性化合物、ビスフェノール系エポキシド化合物、フェノール類とホルムアルデヒドとの縮合物又はその変性体、ノボラック化反応により得られるレゾルシンとホルムアルデヒドとの縮合物、クロロフェノール・レゾルシノール・ホルムアルデヒド縮合物、エポキシ基を有するクレゾールノボラック樹脂等のフェノール樹脂類又はその変性体、水性ウレタン化合物(D)等が挙げられる。
【0052】
上記芳香族ポリイソシアネートと熱解離性ブロック化剤とを含む化合物としては、ジフェニルメタンジイソシアネートと公知のイソシアネートブロック化剤を含むブロックドイソシアネート化合物等が好適に挙げられる。上記ジフェニルメタンジイソシアネート又は芳香族ポリイソシアネートを熱解離性ブロック化剤でブロック化した成分を含む水分散性化合物としては、ジフェニルメタンジイソシアネート又はポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートを、前述のイソシアネート基をブロックする公知のブロック化剤でブロックした反応物が挙げられる。具体的には、エラストロンBN69(第一工業製薬(株)製)やDELION社製PAS−037等の市販のブロックドポリイソシアネート化合物を用いることができる。
【0053】
フェノール類とホルムアルデヒドとの縮合物として、具体例には、ノボラック化反応により得られるレゾルシンとホルムアルデヒドとの縮合物、アミノフェノールとクレゾールとホルムアルデヒドとの縮合物、p-クロロフェノールとホルムアルデヒドとの縮合物、クロロフェノールとレゾルシンとホルムアルデヒドとの縮合物等が挙げられるが、これらの中でも、ノボラック化反応により得られるレゾルシンとホルムアルデヒドとの縮合物、p-クロロフェノールとレゾルシンとホルムアルデヒドとの縮合物が好ましい。具体的には、ノボラック化反応により得られるレゾルシンとホルムアルデヒドとの縮合物として、国際公開第97/13818号パンフレットの実施例に記載のノボラック化反応により得られるレゾルシンとホルムアルデヒドとの縮合物が挙げられ、p-クロロフェノールとレゾルシンとホルムアルデヒドとの縮合物としては、ナガセ化成工業(株)製のデナボンド、デナボンド−AL、デナボンド−AF等が挙げられる。
【0054】
また、上記フェノール類とホルムアルデヒドとの縮合物を、エポキシ化、スルホメチル化、スルフィルメチル化等により変性した誘導体(変性体)として用いてもよい。かかる変性体は、例えば、フェノール類とホルムアルデヒドとの縮合反応の反応前、反応中又は反応後に、例えばスルホメチル化剤を加熱反応させることにより得られる。スルホメチル化剤としては、亜硫酸又は重亜硫酸と塩基性物質との塩等が挙げられる。スルホメチル化した変性体として、具体的には、特願平10−203356号公報の実施例に記載のフェノール類とホルムアルデヒドとの縮合物のスルホメチル化変性物等が挙げられる。
【0055】
エポキシ基を有するクレゾールノボラック樹脂としては、旭チバ(株)製のアラルダイトECN1400、ナガセ化成工業(株)製のデナコールEM−150等の市販の製品を用いることができる。このエポキシ基を有するクレゾールノボラック樹脂は、エポキシド化合物であることから、接着剤組成物の高温での流動化を抑制する接着剤分子の分子間架橋成分としても作用する。
【0056】
なお、上記フェノール類としては、特に制限されるものではないが、例えば、フェノール;アルキルフェノール類;ハロフェノール;アミノフェノール、ニトロフェノール、ジニトロフェノール、m-メトキシフェノール等の一価フェノール;レゾルシン、アルキルレゾルシン、ピロガロール、カテコール、ハイドロキノン、ビスフェノール、天然のフェノール樹脂類等の多価フェノール類等が挙げられる。
【0057】
上記接着剤組成物に用いる水性ウレタン化合物(D)は、主に接着剤組成物の有機繊維コードへの接着促進作用を目的とする接着改良剤として使用されており、芳香族類をメチレン結合した構造を含有する有機ポリイソシアネート化合物(α)と、複数の活性水素を有する化合物(β)と、イソシアネート基に対する熱解離性ブロック化剤(γ)とを反応させて得られる。また、水性ウレタン化合物(D)は、その可撓性のある分子構造から、接着改良剤としての作用のみならず、可撓性のある架橋剤として接着剤の高温時流動化を抑止する作用も有する。
【0058】
なお、「水性」とは、水溶性または水分散性であることを示し、「水溶性」とは必ずしも完全な水溶性を意味するのではなく、部分的に水溶性のもの、あるいは本発明の接着剤組成物の水溶液中で相分離しないことをも意味する。
【0059】
また、上記水性ウレタン化合物(D)としては、例えば、下記一般式(II):
【化1】

[式中、Aは芳香族類をメチレン結合した構造を含有する有機ポリイソシアネート化合物(α)の活性水素が脱離した残基を示し、Yはイソシアネート基に対する熱解離性ブロック化剤(γ)の活性水素が脱離した残基を示し、Zは化合物(δ)の活性水素が脱離した残基を示し、Xは複数の活性水素を有する化合物(β)の活性水素が脱離した残基であり、nは2〜4の整数であり、p+mは2〜4の整数(m≧0.25)である]で表される水性ウレタン化合物が好ましい。
【0060】
上記芳香族類をメチレン結合した構造を有する有機ポリイソシアネート(α)としては、メチレンジフェニルポリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート等が挙げられ、特に、分子量が6,000以下、好ましくは4,000以下のポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートが好ましい。
【0061】
上記複数の活性水素を有する化合物(β)は、好ましくは2〜4個の活性水素を有し、平均分子量が5,000以下の化合物である。かかる化合物(β)としては、(i)2〜4個の水酸基を有する多価アルコール類、(ii)2〜4個の第一級及び/又は第二級アミノ基を有する多価アミン類、(iii)2〜4個の第一級及び/又は第二級アミノ基と水酸基を有するアミノアルコール類、(iv)2〜4個の水酸基を有するポリエステルポリオール類、(v)2〜4個の水酸基を有するポリブタジエンポリオール類及びそれらと他のビニルモノマーとの共重合体、(vi)2〜4個の水酸基を有するポリクロロプレンポリオール類及びそれらと他のビニルモノマーとの共重合体、(vii)2〜4個の水酸基を有するポリエーテルポリオール類であって、多価アミン、多価フェノール及びアミノアルコール類のC2〜C4のアルキレンオキサイド重付加物、C3以上の多価アルコール類のC2〜C4のアルキレンオキサイド重付加物、C2〜C4のアルキレンオキサイド共重合物、又はC3〜C4のアルキレンオキサイド重合物等が挙げられる。
【0062】
上記イソシアネート基に対する熱解離性ブロック化剤(γ)は、熱処理によりイソシアネート基を遊離することが可能な化合物であり、公知のイソシアネートブロック化剤が挙げられる。
【0063】
上記化合物(δ)は、少なくとも1つの活性水素とアニオン性及び/又は非イオン性の親水性基を有する化合物である。少なくとも1つの活性水素とアニオン性の親水基を有する化合物としては、例えば、タウリン、N−メチルタウリン、N−ブチルタウリン、スルファニル酸等のアミノスルホン酸類、グリシン、アラニン等のアミノカルボン酸類等が挙げられる。一方、少なくとも1つの活性水素と非イオン性の親水基を有する化合物としては、例えば、親水性ポリエーテル鎖を有する化合物類が挙げられる。
【0064】
水性ウレタン化合物(D)は、具体的には、特公昭63−51474号公報に記載の方法等、公知の方法で製造できる。
【0065】
上記接着剤組成物が、上記熱可塑性高分子重合体(A)、水溶性高分子(B)及び化合物(C)を含有する場合、乾燥質量で、接着剤組成物中、熱可塑性高分子重合体(A)の含有率は2〜75質量%が好ましく、6〜65質量%が更に好ましく、10〜55質量%が一層好ましく、水溶性高分子(B)の含有率は5〜75質量%が好ましく、15〜60質量%が更に好ましく、18〜45質量%が一層好ましく、化合物(C)の含有率は15〜77質量%が好ましく、15〜55質量%が更に好ましく、18〜55質量%が一層好ましい。また、上記接着剤組成物が、上記熱可塑性高分子重合体(A)及び水性ウレタン化合物(D)を含有する場合、熱可塑性高分子重合体(A)については上記した含有率と同様であるが、水性ウレタン化合物(D)の含有率は、乾燥質量で、接着剤組成物中、15〜87質量%が好ましく、15〜60質量%が更に好ましく、18〜45質量%が一層好ましい。更に、上記接着剤組成物が、上記水溶性高分子(B)及び水性ウレタン化合物(D)を含有する場合、水溶性高分子(B)については上記した含有率と同様であるが、水性ウレタン化合物(D)の含有率は、乾燥質量で、接着剤組成物中、15〜77質量%が好ましく、15〜55質量%が更に好ましく、18〜55質量%が一層好ましい。
【0066】
上記接着剤組成物は、上記熱可塑性高分子重合体(A)、水溶性高分子(B)及び化合物(C)との三成分系、熱可塑性高分子重合体(A)及び水性ウレタン化合物(D)、又は水溶性高分子(B)及び水性ウレタン化合物(D)の二成分系の他、これら三成分系、二成分系にさらに必要に応じて、脂肪族エポキシド化合物(E)、金属塩(F)、金属酸化物(G)、ゴムラテックス(H)、及び2つ以上の(ブロックド)イソシアネート基を有するベンゼン誘導体(I)より選択される少なくとも1種の成分を含有させることができる。
【0067】
上記脂肪族エポキシド(E)は、接着剤組成物の架橋剤として作用する化合物であって、分子中に2個以上、好ましくは4個以上のエポキシ基を有する化合物である。脂肪族エポキシド(E)として、具体的には、ジエチレングリコール・ジグリシジルエーテル、ポリエチレン・ジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコール・ジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコール・ジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオール・ジグリシジルエーテル、グリセロール・ポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパン・ポリグリシジルエーテル、ポリグリセロール・ポリグリシジルエーテル、ペンタエリチオール・ポリグリシジルエーテル、ジグリセロール・ポリグリシジルエーテル、ソルビトール・ポリグリシジルエーテル等の多価アルコール類とエピクロルヒドリンとの反応生成物が挙げられる。脂肪族エポキシド(E)の含有率は、乾燥質量で、接着剤組成物中、70質量%以下であることが好ましく、45質量%であることが更に好ましく、10〜30質量%であることが一層好ましい。
【0068】
上記金属塩(F)及び金属酸化物(G)は、接着剤組成物の安価な充填剤として作用し、接着剤組成物に延性や、強靭性を付与することができる。なお、ここで「金属」とは、ホウ素や、珪素等の類金属をも包含する。金属塩(F)としては、例えば、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、バリウム、アルミニウム、鉄、ニッケル等の金属の硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩、塩化物、水酸化物、珪酸塩等が挙げられる。一方、金属酸化物(G)としては、例えば、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、アルミニウム、チタン、ホウ素、珪素、ビスマス、マンガン、鉄、ニッケル等の酸化物、又はこれら酸化物が構成要素となるベントナイト、シリカ、ゼオライト、クレー、タルク、サテン白、スメクタイト等が挙げられる。また、金属塩(E)の含有率は、乾燥質量で、接着剤組成物中、50質量%以下であることが好ましく、3〜40質量%であることが更に好ましく、5〜25質量%であることが一層好ましい。一方、金属塩酸化物(F)の含有率は、乾燥質量で、接着剤組成物中、50質量%以下であることが好ましく、3〜40質量%であることが更に好ましく、5〜25質量%であることが一層好ましい。
【0069】
上記ゴムラテックス(H)は、特に制限されず、公知のゴムラテックスを用いることができる。例えば、ビニルピリジン−共役ジエン化合物系共重合体ラテックス又はその変性ラテックス、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス又はその変性ラテックス、アクリロニトリル−ブタジエン系共重合体ラテックス又はその変性ラテックス等の合成ラテックスや、天然ゴムラテックス等が挙げられる。なお、これらゴムラテックス(H)は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、ビニルピリジン−共役ジエン化合物系共重合体ラテックスとしては、国際公開第97/13818号パンフレット等で開示の、接着性能を損なわずに低ブタジエン量化した、マルチステージフィード重合方法で得られる共重合体を用いることができる。更に、ゴムラテックス(H)の含有率は、乾燥質量で、接着剤組成物中、18質量%以下であることが好ましく、15質量%であることが更に好ましい。
【0070】
上記ベンゼン誘導体(I)は、2つ以上の(ブロックド)イソシアネート基を有することを特徴とし、具体例としては、トリレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、イソプロペニルジメチルベンジルジイソシアネート等のベンゼン類のイソシアネート誘導体又はその2量体等が挙げられる。ベンゼン誘導体(I)の含有率は、乾燥質量で、接着剤組成物中、50質量%以下であることが好ましく、20質量%であることが更に好ましい。
【0071】
本発明において、コードにコーティングゴムを被覆する方法としては、例えば、上記有機繊維コードを上記接着剤組成物で接着処理した後に、特定の物性を有するコーティングゴムで被覆する方法等が挙げられる。
【0072】
上記有機繊維コードのコーティングゴムは、室温での100%伸長時のモジュラスが2.0〜4.0MPaであることが好ましい。室温での100%伸長時のモジュラスが2.0MPa未満では、PENコードとコーティングゴムの剛性に差が生じ易く、この場合、タイヤ転動時のコーティングゴムに応力が集中してしまう結果、ゴムの破壊が起こり、高速耐久性が低下する。一方、室温での100%伸長時のモジュラスが4.0MPaを超えると、タイヤ転動時に、上記接着剤組成物を接着処理した際に形成される接着層に応力が集中し、その結果、コードとゴムが剥離を起こし、高速耐久性を低下する場合がある。
【0073】
上記有機繊維コードのコーティングゴムは、反発弾性率が60%以上であることが好ましい。ここで、反発弾性率が60%以上であれば、タイヤ転動時におけるコーティングゴムの発熱が抑制されるため、タイヤの高速耐久性を向上させつつ、フラットスポット現象の発生を低減することができる。
【0074】
なお、上記コーティングゴムを構成するゴム組成物としては、コーティングゴムが上記物性を満たす限り特に制限されるものではなく、ゴム工業界で通常使用されるゴム成分及び充填剤等の配合剤の種類及び配合割合を適宜選択して用いることができる。
【0075】
本発明の空気入りラジアルタイヤは、ベルト補強層2に、上記接着剤組成物により接着処理を施した上記有機繊維コードに上記コーティングゴムを被覆したコード−ゴム複合体を適用する他、常法により製造することができる。なお、本発明の空気入りラジアルタイヤにおいて、タイヤ内に充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を変えた空気、又は窒素等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0076】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0077】
(接着剤組成物Aの調製)
エポクロスK1010E[(株)日本触媒製,固形分濃度40%,2-オキサゾリン基を含有するアクリル・スチレン系共重合体エマルジョン]及びエラストロンBN77[第一工業製薬(株)製,固形分濃31%,メチレンジフェニルの分子構造を含む熱反応型水性ウレタン樹脂]について、それぞれを固形分濃度が10%になるように水で希釈した。また、デナコールEX614B[ナガセ化成工業(株)製,ソルビトールポリグリシジルエーテル]10質量部を水90質量部に添加し、十分攪拌することで、固形分濃度が10%になるように溶解した。次に、固形分濃度が10%に調製された溶液を用いて、2-オキサゾリン基を含有するアクリル・スチレン系共重合体45質量%、メチレンジフェニルの分子構造を含む熱反応型水性ウレタン樹脂30質量%及びソルビトールポリグリシジルエーテル25質量%からなる接着剤組成物Aの接着剤液を調製した。(特開2000−248254号公報の実施例30に記載の接着剤組成物S−67を参照)
【0078】
(接着剤組成物Bの調製)
接着剤組成物Bとして、国際公開97/13818号パンフレットの実施例1に記載の接着剤組成物を調製した。
【0079】
(実施例1〜4及び比較例1)
上記接着剤組成物を用いて、表1に示す有機繊維コードに接着剤処理(ディップ処理)を施し、次いで、得られた接着剤組成物処理コードを打ち込み数10本/1cmで用い、上下から表1に示すコーティングゴムで被覆してコード−ゴム複合体を作製した。そして、該コード−ゴム複合体をセンター部ベルト補強層3及びショルダー部ベルト補強層4に用い、図1に示す構造でサイズ:205/65R15の乗用車用ラジアルタイヤを常法に従って作製した。得られたタイヤについて、下記の方法で、ロードノイズ、100km/h走行時のトレッド表面温度、フラットスポット、及び高速耐久性を評価した。なお、コーティングゴムの物性の測定方法については、下記に示す通りである。結果を表1に示す。
【0080】
(1)コーティングゴムの室温での100%伸長時のモジュラス
JIS K6251に準拠して、室温にて測定試験を行い、コーティングゴムの100%伸び時における引張応力を求めた。
【0081】
(2)コーティングゴムの反発弾性率
JIS K6255に準拠して、リュプケ式反発弾性試験を行い、コーティングゴムの反発弾性を求めた。
【0082】
(3)ロードノイズ
供試タイヤをリム(リムサイズ:6J−15)に組み付け、2.0kgf/cm2の内圧を充填し、排気量2000ccのセダンタイプの乗用車の4輪総てに装着し、2名乗車してロードノイズ評価路のテストコースを60km/hの速度で走行させながら、運転席の背もたれの中央部分に取り付けた集音マイクを介して周波数100〜500Hzの全音圧(デシベル)を測定し、該測定値からロードノイズを評価した。ここで、比較例1のタイヤのロードノイズを100として指数表示し、指数値が大きい程、ロードノイズが小さく良好であることを示す。
【0083】
(4)100km/h走行時のトレッドの表面温度
6J15リムに組み付け、2.0kgf/cm2の内圧を充填し、ドラム表面が平滑で且つ直径が1.707mであるドラム試験機を用い、内圧2.0kgf/cm2、荷重5.0kN、温度38±3℃の条件下、100km/hの速度で30分走行時に、赤外線式温度計にて測定した。
【0084】
(5)フラットスポット
JIS D4233に準拠して、ラジアルフォースバリエーション(RFV)1次成分のフラットスポット試験前後の差をフラットスポット値として評価した。具体的には、6J15リムに組み付け、2.0kgf/cm2の内圧を充填し、ドラム表面が平滑で且つ直径が1.707mであるドラム試験機を用い、内圧2.0kgf/cm2、荷重5.0kN、温度38±3℃の条件下、150km/hの速度で30分走行した後、荷重5.0kNをかけたまま1時間ドラム試験機を停止し、ドラム走行前後でのタイヤの真円性を測定した。ここで、比較例1のタイヤのフラットスポット値の逆数を100として指数表示し、指数値が大きい程、フラットスポット現象の発生が低減されることを示す。
【0085】
(6)高速耐久性
タイヤの高速耐久性の評価は、米国規格FMVSS No.109のテスト方法に準拠し、ステップスピード方式にて行い、即ち、30分毎にスピードを増して故障するまで行い、故障した時の速度(km/h)及びその速度での経過時間(分)を測定した。ここで、比較例1のタイヤの高速耐久性を100として指数表示し、指数値が大きい程、高速耐久性が良好であることを示す。
【0086】
【表1】

【0087】
実施例1〜4のタイヤは、ベルト補強層の補強素子として、フィラメント束1本あたりの繊度が500〜1400dtexのポリエチレン-2,6-ナフタレートのフィラメント束を2本撚り合わせてなる有機繊維コードを用いることで、比較例1のタイヤに比べてフラットスポット現象の発生を低減できることが分かる。また、実施例1〜2及び4のタイヤは、上記した範囲の繊度を有する有機繊維コードの撚り係数Rが0.35〜0.60の範囲に設定されており、実施例3のタイヤに比べて、ロードノイズを低減できることが分かる。更に、実施例1〜2のタイヤは、上記の有機繊維コードを、特定の接着剤組成物により接着処理してから用いることで、実施例4のタイヤに比べて高速耐久性を大幅に改善できることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の空気入りラジアルタイヤのトレッド部の一例の部分断面図である。
【符号の説明】
【0089】
1 主ベルト
1a 主ベルトを構成するベルト層
1b 主ベルトを構成するベルト層
2 ベルト補強層
3 センター部ベルト補強層
4 ショルダー部ベルト補強層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビード部及び一対のサイドウォール部と、両サイドウォール部に連なるトレッド部とを有し、前記一対のビード部間にトロイド状に延在させたカーカスと、該カーカスのクラウン部のタイヤ半径方向外側に配置した少なくとも二層のベルト層からなる主ベルトと、該主ベルトのタイヤ半径方向外側に配置され、タイヤ周方向に対し実質的に平行に配列した補強素子のゴム引き層からなる少なくとも一層のベルト補強層とを備える空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記ベルト補強層を構成する補強素子は、フィラメント束1本あたりの繊度が500〜1400dtexのポリエチレン-2,6-ナフタレートのフィラメント束を1本又は複数本撚り合わせてなる有機繊維コードであることを特徴とする空気入りラジアルタイヤ。
【請求項2】
前記有機繊維コードは、下記式(I):
R=N×(0.125×D/ρ)1/2×10-3 ・・・ (I)
[式中、Nはコードの撚り数(回/10cm)で、Dはコードの総表示デシテックス数(dtex)で、ρはコードの比重(g/cm3)である]で定義される撚り係数Rが0.35〜0.60であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項3】
前記有機繊維コードが、ペンダント基に架橋性官能基を含有し、アリル位に水素基を有する炭素−炭素二重結合を主鎖に実質的に含有しない熱可塑性高分子重合体(A)、水溶性高分子(B)、及び極性官能基を有する芳香族類をメチレン結合した構造を含有する化合物(C)を含む接着剤組成物、前記熱可塑性高分子重合体(A)及び芳香族類をメチレン結合した構造を含有する有機ポリイソシアネート化合物(α)と、複数の活性水素を有する化合物(β)と、イソシアネート基に対する熱解離性ブロック化剤(γ)とを反応させて得られる水性ウレタン化合物(D)を含む接着剤組成物、又は前記水溶性高分子(B)及び前記水性ウレタン化合物(D)を含む接着剤組成物で接着処理されてなることを特徴とする請求項1に記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項4】
前記有機繊維コードは、室温での100%伸長時のモジュラスが2.0〜4.0MPaであるコーティングゴムで被覆されていることを特徴とする請求項1に記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項5】
前記有機繊維コードは、反発弾性率が60%以上であるコーティングゴムで被覆されていることを特徴とする請求項1に記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項6】
前記ベルト補強層が、前記主ベルトの全体を覆う一層以上のセンター部ベルト補強層からなることを特徴とする請求項1に記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項7】
前記ベルト補強層が、前記主ベルトの端部のみをそれぞれ覆う一対で且つ一層以上のショルダー部ベルト補強層からなることを特徴とする請求項1に記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項8】
前記ベルト補強層が、前記主ベルトの全体を覆う一層以上のセンター部ベルト補強層と、前記主ベルトの端部のみをそれぞれ覆う一対で且つ一層以上のショルダー部ベルト補強層とからなることを特徴とする請求項1に記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項9】
前記ベルト補強層は、該ベルト補強層の配設幅よりも狭い幅寸法を有する1本以上の補強素子をゴム引きしたリボン状シートを、所定の幅寸法になるまでタイヤの幅方向に複数回螺旋巻回することにより形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の空気入りラジアルタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2009−51280(P2009−51280A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−218027(P2007−218027)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】