説明

空気入りラジアルタイヤ

【課題】 外径成長を抑制しながら、スチールコードの芯抜けによるセパレーション故障の発生を抑制することを可能にした空気入りラジアルタイヤを提供する。
【解決手段】 癖付けを施していない1本のスチールフィラメント11からなるコア10と、該コア10の周囲に同一ピッチで同一方向に最密状態で撚り合わされた複数本のスチールフィラメント21,31からなる複数層のシース20,30とを備えたスチールコードSを、タイヤ構成部材の補強材として用いた空気入りラジアルタイヤにおいて、スチールコードSのコア10及び最内側のシース20を構成するスチールフィラメント11,21のうち少なくとも1本のスチールフィラメントの表面に螺旋状に延長する少なくとも1本の筋部41を加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1本のスチールフィラメントからなるコアと複数本のスチールフィラメントからなる複数層のシースとを備えたスチールコードをタイヤ構成部材の補強材として用いた空気入りラジアルタイヤに関し、更に詳しくは、外径成長を抑制しながら、スチールコードの芯抜けによるセパレーション故障の発生や芯抜けにより形の崩れた部分に応力が集中してスチールコードが早期に破断する不具合を抑制することを可能にした空気入りラジアルタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トラック・バス用空気入りラジアルタイヤのベルト層のスチールコードとして、複数本のスチールフィラメントを撚り合わせてなる1×N構造のオープンコードが使用されている。このような1×N構造のオープンコードはゴム浸透性が良好であるため耐腐食性に優れ、しかも低コストで製造することができるという利点がある。ところが、1×N構造のオープンコードは低荷重時の伸びが大きいため、タイヤの外径成長を助長し、延いては、タイヤの耐久性を低下させるという欠点がある。
【0003】
これに対して、癖付けを施していない1本のスチールフィラメントからなるコアと、該コアの周囲に同一ピッチで同一方向に最密状態で撚り合わされた複数本のスチールフィラメントからなる複数層のシースとを備えたバンチド構造(一度撚り構造)を有するスチールコードが種々提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。このようなスチールコードは、低コストで製造可能であると共に、外径成長抑制の点では非常に有効であるが、芯抜けが発生し易く、その芯抜けに起因してセパレーション故障を生じ易いという問題がある。また、コアのスチールフィラメントに癖付けを施した場合、芯抜けを抑えることは可能であるものの、外径成長の抑制効果が低下することになる。そのため、外径成長の抑制と芯抜けの抑制とを両立することは困難である。
【特許文献1】特開2004−9879号公報
【特許文献2】特開2004−42791号公報
【特許文献3】特開2005−336664号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、外径成長を抑制しながら、スチールコードの芯抜けによるセパレーション故障の発生や芯抜けにより形の崩れた部分に応力が集中してスチールコードが早期に破断する不具合を抑制することを可能にした空気入りラジアルタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための本発明の空気入りラジアルタイヤは、癖付けを施していない1本のスチールフィラメントからなるコアと、該コアの周囲に同一ピッチで同一方向に最密状態で撚り合わされた複数本のスチールフィラメントからなる複数層のシースとを備えたスチールコードを、タイヤ構成部材の補強材として用いた空気入りラジアルタイヤにおいて、前記スチールコードのコア及び最内側のシースを構成するスチールフィラメントのうち少なくとも1本のスチールフィラメントの表面に螺旋状に延長する少なくとも1本の筋部を加工したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明では、スチールコードを構成するコアのスチールフィラメントを癖付けなしの直線状とすることにより、タイヤの外径成長を抑制するようにしているが、その一方で、コア及び最内側のシースを構成するスチールフィラメントのうち少なくとも1本のスチールフィラメントの表面に螺旋状に延長する少なくとも1本の筋部を加工することにより、最内側のシースに対するコアの相対的な移動を抑制するので、スチールコードの芯抜けによるセパレーション故障の発生を抑制することができ、更には芯抜けにより形の崩れた部分に応力が集中してスチールコードが早期に破断する不具合を抑制することができる。
【0007】
本発明において、筋部は平坦面で構成することが好ましい。このような筋部はスチールフィラメントを軸廻りに回転させながらローラー等によりスチールフィラメントの周上の一部を圧延加工することで簡単に形成することができる。
【0008】
シースの撚りピッチPsに対して筋部の螺旋ピッチPcは0.3≦Pc/Ps≦0.7の関係を満足することが好ましい。筋部の螺旋ピッチPcをシースの撚りピッチPsに対して相対的に小さくすることにより、スチールコードの芯抜けをより効果的に抑制することができる。
【0009】
シースの撚り方向と筋部の旋回方向とは同方向であることが好ましい。シースの撚り方向と筋部の旋回方向とを同方向とすることにより、シースとコアとの過度の擦れを回避し、耐フレッティング性を向上することができる。
【0010】
スチールコードとしては1+18構造又は1×19構造を採用することが好ましい。1+18構造のスチールコードは、1本のスチールフィラメントからなるコアと、該コアのスチールフィラメントよりも細い18本のスチールフィラメントからなる2層のシースを一度に撚り合わせたものである。1×19構造のスチールコードは、1本のスチールフィラメントからなるコアと、該コアのスチールフィラメントと同径の18本のスチールフィラメントからなる2層のシースを一度に撚り合わせたものである。
【0011】
また、少なくとも1本のスチールフィラメントの表面に筋部を設けるにあたって、スチールコードのコアを構成するスチールフィラメントの表面に筋部を加工したり、スチールコードの最内側のシースを構成する全てのスチールフィラメントの表面に筋部を加工したり、或いは、スチールコードのコア及び最内側のシースを構成する全てのスチールフィラメントの表面に筋部を加工することが好ましい。これにより、スチールコードの芯抜けをより効果的に抑制することができる。
【0012】
上記スチールコードを適用するタイヤ構成部材としては、ベルト層、カーカス層、ビード部補強層等を挙げることができるが、特にベルト層に上記スチールコードを適用することが好ましい。これは、ベルト層を構成するスチールコードには外径成長の抑制と芯抜けの抑制が強く求められるからである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。図1は本発明の実施形態からなる空気入りラジアルタイヤを示し、1はトレッド部、2はサイドウォール部、3はビード部である。左右一対のビード部3,3間にはカーカス層4が装架され、そのカーカス層4の端部がビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されている。トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層のベルト層6が埋設されている。これらベルト層6は補強コードがタイヤ周方向に対して傾斜し、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。ベルト層6の補強コードとしては、1+18構造のスチールコード、又は、1×19構造のスチールコードが使用されている。
【0014】
図1はトラック・バス用の空気入りラジアルタイヤを図示するものであるが、本発明は図2に示すような乗用車用のほか、ライトトラック(小型トラック)用の空気入りラジアルタイヤにも適用することが可能である。
【0015】
図3は本発明の空気入りラジアルタイヤのベルト層に使用される1+18構造のスチールコードを示す斜視図であり、図4は図3に示すスチールコードの断面図である。また、図5は図3のスチールコードのコアを構成するスチールフィラメントを示す斜視図であり、図6は図3のスチールコードの最内側のシースを構成するスチールフィラメントを示す斜視図である。
【0016】
図3〜図6に示すように、スチールコードSは、癖付けが施されていない1本のスチールフィラメント11からなるコア10と、該コア10の周囲に同一ピッチで同一方向に最密状態で撚り合わされた18本のスチールフィラメント21,31からなる2層のシース20,30とから構成されている。より具体的には、最内側のシース20は6本のスチールフィラメント21から構成され、最外側のシース30は12本のスチールフィラメント31から構成されている。このようにして撚り合わされたスチールコードSは、実質的に六角形の断面形状をなしている。ベルトコードとして、スチールコードSのスチールフィラメント11,21,31の素線径は0.15mm〜0.30mmの範囲にすると良い。
【0017】
図5に示すように、コア10を構成するスチールフィラメント11の表面には螺旋状に延長する少なくとも1本の筋部41が加工されている。また、図6に示すように、最内側のシース20を構成するスチールフィラメント21の表面には螺旋状に延長する少なくとも1本の筋部41が加工されている。図5及び図6に示す例ではスチールフィラメント11,21の表面にそれぞれ2本の筋部41が加工されているが、筋部41の本数は3本や4本としても良い。これら筋部41の本数が多いほどスチールコードSの芯抜けを抑制する効果が増大するが、多過ぎると最内側のシース20のスチールフィラメント21とコア10のスチールフィラメント11との擦れが増大し、耐フレッティング性が低下する要因となる。そのため、筋部41の本数は2〜4本とすることが望ましい。スチールフィラメント11,21の表面に複数本の筋部41を設ける場合、スチールコードSの芯抜けをより効果的に抑制するために、複数本の筋部41をスチールフィラメント11,21の周上で等間隔に配置すると良い。
【0018】
筋部41は平坦面で構成されている。即ち、スチールフィラメント11,21の横断面における筋部41の輪郭形状は実質的に直線になっている。このような筋部41はスチールフィラメント11,21を軸廻りに回転させながらローラー等によりスチールフィラメント11,21の周上の一部を圧延加工することで形成されている。なお、スチールフィラメント11,21の横断面における筋部41の輪郭形状は、芯抜け抑制効果を奏するものであれば、厳密に直線である必要はない。
【0019】
上述した空気入りラジアルタイヤでは、スチールコードSのコア10を構成するスチールフィラメント11を癖付けなしの直線状とすることにより、タイヤの外径成長を抑制するようにしている。その一方で、コア10及び最内側のシース20を構成するスチールフィラメント11,21の表面に螺旋状に延長する少なくとも1本の筋部41を加工することにより、最内側のシース20に対するコア10の相対的な移動を抑制し、スチールコードSの芯抜けによるセパレーション故障の発生や芯抜けにより形の崩れた部分に応力が集中してスチールコードが早期に破断する不具合を抑制することができる。
【0020】
また、スチールフィラメント11,21の表面に平坦面で構成される複数本の筋部41を設けることにより、ゴムがスチールフィラメント11,21の間に浸透し易くなり、これらフィラメントとゴムとの間の摩擦力(抵抗力)を付加的に強めることもできる。この場合には、スチールコードSの芯抜けを一層抑制することができる。
【0021】
上記空気入りラジアルタイヤにおいて、スチールコードSのシース20,30の撚りピッチPs(図3参照)に対して筋部41の螺旋ピッチPc(図5、図6参照)は0.3≦Pc/Ps≦0.7の関係を満足している。このように筋部41の螺旋ピッチPcをシース20,30の撚りピッチPsに対して相対的に小さくすることにより、スチールコードSの芯抜けをより効果的に抑制することができる。ここで、Pc/Ps<0.3であるとスチールコードSの製造効率が悪くなる。また、Pc/Ps>0.7であると芯抜け抑制効果が低下する要因となる。
【0022】
また、シース20,30の撚り方向と筋部41の旋回方向とは同方向であると良い。シース20,30の撚り方向と筋部41の旋回方向とが逆方向であると最内側のシース20のフィラメント21とコア10のフィラメント11との擦れが増大し、耐フレッティング性が低下する要因となる。
【0023】
上述した実施形態では、スチールコードのコア及び最内側のシースを構成する全てのスチールフィラメントの表面に筋部を加工した場合について説明したが、本発明ではスチールコードのコア及び最内側のシースを構成するスチールフィラメントのうち少なくとも1本のスチールフィラメントの表面に筋部を設けることにより、スチールコードの芯抜けを抑制することができる。
【実施例】
【0024】
タイヤサイズ295/75R22.5で、癖付けを施していない1本のスチールフィラメントからなるコアと、該コアの周囲に同一ピッチで同一方向に最密状態で撚り合わされた複数本のスチールフィラメントからなる複数層のシースとを備えたスチールコード(1×0.22+18×0.20)を、4層のベルト層のうちカーカス層側から数えて2番目及び3番目のベルト層の補強材として用いた空気入りラジアルタイヤにおいて、コアフィラメントへの癖付け(波状)の有無、コアフィラメントにおける螺旋状の筋部の有無、シースフィラメントにおける螺旋状の筋部の有無、筋部の本数、筋部の構造、筋部の旋回方向、シースの撚り方向、シースの撚りピッチPs、筋部の螺旋ピッチPcを表1のように種々異ならせた従来例1、比較例1及び実施例1〜6の空気入りラジアルタイヤを製作した。
【0025】
上述した従来例1、比較例1及び実施例1〜6の空気入りラジアルタイヤについて、下記の方法により、ベルトエッジセパレーション、外径成長量を測定すると共に、耐フレッティング性を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0026】
ベルトエッジセパレーション:
各試験タイヤを車両に装着し、一般の舗装路を15万km走行した後、各試験タイヤを分解し、3番ベルト層のエッジにおける剥離量を全周にわたって測定し、その最大剥離量(mm)を求め、従来例1を100とする指数で示した。この指数値が小さいほど、耐ベルトエッジセパレーション性が優れていることを意味する。
【0027】
外径成長量:
各試験タイヤを車両に装着し、一般舗装路を15万km走行した後、タイヤ周長と残溝高さを測定し、その測定されたタイヤ周長を摩耗が生じなかった場合のタイヤ周長に換算し、その換算値から外径成長量を算出した。評価結果は、従来例1の外径成長量を100とする指数にて示した。この指数値が小さいほど外径成長抑制効果に優れていることを意味する。
【0028】
耐フレッティング性:
各試験タイヤを車両に装着し、一般の舗装路を15万km走行した後、各試験タイヤを分解し、3番ベルト層から1本のスチールコードを該ベルト層の一方の端部から他方の端部までの長さで取り出し、該スチールコードを構成する全ての側素線に付いたフレッティングによる傷の深さを計測し、最も深い傷の深さに基づいて耐フレッティング性を5点満点で評価した。この値が大きいほど耐フレッティング性が優れていることを意味する。
【0029】
【表1】

【0030】
この表1から明らかなように、実施例1〜6のタイヤは、耐ベルトエッジセパレーション性、外径成長抑制効果、耐フレッティング性がいずれも優れていた。これに対して、従来例1のタイヤは、ベルト層を構成するスチールコードのコアフィラメントに癖付けが施されておらず、かつコアフィラメントやシースフィラメントの表面に螺旋状の筋部が加工されていないので、スチールコードに芯抜けを生じ易く、その結果として、耐ベルトエッジセパレーション性が悪いものであった。比較例1のタイヤは、ベルト層を構成するスチールコードのコアフィラメントに波状の癖付けが施されているため、耐ベルトエッジセパレーション性が良好であるものの、外径成長抑制効果が不十分になっていた。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態からなる空気入りラジアルタイヤを示す子午線半断面図である。
【図2】本発明の他の実施形態からなる空気入りラジアルタイヤを示す子午線半断面図である。
【図3】本発明の空気入りラジアルタイヤのベルト層に使用される1+18構造のスチールコードを示す斜視図である。
【図4】図3に示すスチールコードの断面図である。
【図5】図3のスチールコードのコアを構成するスチールフィラメントを示す斜視図である。
【図6】図3のスチールコードの最内側のシースを構成するスチールフィラメントを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0032】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ベルト層
10 コア
11 コアのスチールフィラメント
20 最内側シース
21 最内側シースのスチールフィラメント
30 最外側シース
31 最外側シースのスチールフィラメント
41 筋部
S スチールコード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
癖付けを施していない1本のスチールフィラメントからなるコアと、該コアの周囲に同一ピッチで同一方向に最密状態で撚り合わされた複数本のスチールフィラメントからなる複数層のシースとを備えたスチールコードを、タイヤ構成部材の補強材として用いた空気入りラジアルタイヤにおいて、前記スチールコードのコア及び最内側のシースを構成するスチールフィラメントのうち少なくとも1本のスチールフィラメントの表面に螺旋状に延長する少なくとも1本の筋部を加工したことを特徴とする空気入りラジアルタイヤ。
【請求項2】
前記筋部を平坦面で構成したことを特徴とする請求項1に記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項3】
前記シースの撚りピッチPsに対して前記筋部の螺旋ピッチPcが0.3≦Pc/Ps≦0.7の関係を満足することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項4】
前記シースの撚り方向と前記筋部の旋回方向とが同方向であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項5】
前記スチールコードが1+18構造又は1×19構造であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項6】
前記スチールコードのコアを構成するスチールフィラメントの表面に前記筋部を加工したことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項7】
前記スチールコードの最内側のシースを構成する全てのスチールフィラメントの表面に前記筋部を加工したことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項8】
前記タイヤ構成部材がベルト層であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の空気入りラジアルタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−115974(P2010−115974A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289136(P2008−289136)
【出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】