説明

空気入りラジアルタイヤ

【課題】タイヤ製造時の伸張性を確保しつつ、製品時に必要な周方向剛性を有し、耐久と限界性能を高めた空気入りラジアルタイヤを提供する。
【解決手段】スチールコードを補強材として用いた周方向ベルト層を有する空気入りラジアルタイヤである。スチールコードが1×Nのオープン撚り構造で、スチール素線本数が7以上であり、かつ、スチールコードの伸び率−引張荷重曲線の2次微分が最大となるときの伸び率Hが4.5%以上であり、スチールコードの拡張率を次式、
拡張率(%)=[(タイヤ製品時のスチールコード長)−(タイヤ成型前のスチールコード長)]/(タイヤ成型前のスチールコード長)×100
としたとき、周方向ベルト層中央部分のスチールコードの拡張率A、端部より20mmの位置のスチールコードの拡張率Bが、下記式、
(H−4)≦A≦(H−0.1)
(H−1.5)≦B≦(H−0.1)
で表される関係を満足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りラジアルタイヤ(以下、単に「タイヤ」とも称する)に関し、詳しくは、タイヤ製造時の伸張性を確保しつつ、製品時に必要な周方向剛性を有し、耐久性と限界性能を高めた空気入りラジアルタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤの周方向補強層は、タイヤが高速回転した際に生じる遠心力で、タイヤのクラウン部分がせり出すのを防ぎ、タイヤの耐久性を向上させる働きをしている。また、コーナリングの際も、周方向の剛性は、ベルトの面内剛性にも寄与し、横力発揮に寄与している。
【0003】
このような周方向補強層の補強部材としては、従来はケブラーやナイロン等の有機繊維が用いられているが、スチールコードを適用することにより、さらに周方向剛性を高めることができる。特に、モータースポーツ用タイヤとして強い面内剛性が必要とされる場合があり、このような場合には有効である。しかし、スチールコードは剛性が高いために、タイヤ成型、加硫等の工程で伸縮性がないために歩留まりを悪くするなどの問題を有している。
【0004】
このような問題を解決する手法としては、複撚りの高伸張性コード(HEコード:High Elongation)や、波形に型付けしたコードを周方向に螺旋巻きしたコードが提案されている。すなわち、タイヤ製造工程においては伸縮性を有し、製品時に高い剛性を発揮するコードが理想的であるといえる。例えば、特許文献1には、1×N構造で、スチール素線本数が6〜12本であり、かつ、スチール素線径が0.08〜0.21mmである可撓性を有するスチールコードが開示されており、また、特許文献2には、タイヤ幅方向端部におけるスチールコードの初期伸び歪とタイヤ幅方向中央部におけるスチールコードの初期伸び歪との差を、周方向ベルトのタイヤ幅方向中央部におけるスチールコードの初期伸び歪の±2%以内である伸縮性を有するスチールコードが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−162163号公報
【特許文献2】特開2008−155733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、乗用車に適用される高性能タイヤや、レーシング用のタイヤでは、コーナリング限界性能を高めるため、タイヤを扁平とする場合がある。かかる場合、扁平なタイヤは内圧時にトレッド中央部に相対的に大きな張力がかかるため、ショルダー部に比べ、トレッド中央部の剛性が低いと、クラウン部の曲率半径が小さくなり、ショルダー部の接地が悪く限界性能が低下してしまうという問題を有している。
【0007】
また、タイヤ製造工程おいては、ショルダー部は成型工程におけるエア入り不良を防止するため、カーカス部分と十分に圧着させる必要がある。このようにトレッド中央部とショルダー部では、製造プロセスで掛かる負荷が異なるため、上記文献に記載されている手法をもっても十分であるとはいい難く、製品時に同じ物性を発揮させるには、さらなる改良が必要であった。
【0008】
そこで本発明の目的は、タイヤ製造時の伸張性を確保しつつ、製品時に必要な周方向剛性を有し、耐久性と限界性能を高めた空気入りラジアルタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、スチールコードを下記構成とすることにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の空気入りラジアルタイヤは、スチールコードを補強材として用いた周方向ベルト層を有する空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記スチールコードが1×Nのオープン撚り構造で、スチール素線本数が7本以上であり、かつ、
前記スチールコードの伸び率−引張荷重曲線の2次微分が最大となるときの伸び率Hが4.5%以上であり、前記スチールコードの拡張率を下記式、
拡張率(%)=[(タイヤ製品時のスチールコード長)−(タイヤ成型前のスチールコード長)]/(タイヤ成型前のスチールコード長)×100
としたとき、前記周方向ベルト層中央部分の前記スチールコードの拡張率A、前記周方向ベルト層の端部より20mmの位置のスチールコードの拡張率Bが、下記式(I)および(II)、
(H−4)≦A≦(H−0.1) (I)
(H−1.5)≦B≦(H−0.1) (II)
で表される関係を満足することを特徴とするものである。
【0011】
本発明においては、前記スチールコードを構成するスチール素線の径が0.15〜0.45mmであることが好ましく、また、前記スチール素線本数が9〜15本であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、タイヤ製造時の伸張性を確保しつつ、製品時に必要な周方向剛性を有し、耐久性と限界性能を高めた空気入りラジアルタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の空気入りラジアルタイヤの一好適例の幅方向断面図である。
【図2】本発明に係るスチールコードの一好適例の断面図である。
【図3】実施例における伸び率−引張荷重曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は本発明の空気入りラジアルタイヤの一好適例の断面図である。図示するタイヤは、少なくとも一対のビードコア1間に跨ってトロイド状に延在する1層のカーカス2を骨格とし、その外周に、コード方向が層間で互いに交錯する少なくとも2層の交錯ベルト層3a,3bと、周方向ベルト層4a,2bとを、順次配置した構造を有している。図中、符号11はトレッド部、符号12はサイドウォール部、符号13はビード部をそれぞれ示す。
【0015】
本発明の空気入りラジアルタイヤにおいては、周方向ベルト層4を構成するスチールコードが1×Nのオープン撚り構造で、スチール素線本数が7本以上であることが肝要である。図2に、本発明に係るスチールコードの断面図の一好適例を示す。本発明に係るスチールコード10は、スチール素線5は7本以上、図示例では9本のスチール素線5からなり、癖付をしたオープン撚り構造を有している。このような構造をとることにより、製造工程における伸縮性が得られ、かつ、製品時では、コード内部に浸透したゴムが加硫され非圧縮の物性を持つことから、スチールコードが本来持つ高い剛性を発揮することになる。スチール素線本数が7本未満であると、加硫前の伸縮性と加硫後の剛性が両立できなくなってしまう。好ましくは9〜15本である。
【0016】
また、本発明に係るスチールコードは、伸び率−引張荷重曲線の2次微分が最大となるときの伸び率Hが4.5%以上であることも肝要である。2次微分が最大となるときの伸び率Hを4.5%以上とし、過大に癖付したオープン撚り構造とすることにより、タイヤ成型時の伸縮に追従でき、エア入り不良をなくすことができる。図3に、後述する本発明の実施例1に係るスチールコードの伸び率−引張荷重曲線(SS曲線)およびその2次微分曲線を一例として示す。
【0017】
さらに、本発明に係るスチールコードは、スチールコードの拡張率を下記式、
拡張率(%)=[(タイヤ製品時のスチールコード長)−(タイヤ成型前のスチールコード長)]/(タイヤ成型前のスチールコード長)×100
としたとき、周方向ベルト層中央部分のスチールコードの拡張率A、周方向ベルト層の端部より20mmの位置のスチールコードの拡張率Bが、下記式(I)および(II)、
(H−4)≦A≦(H−0.1) (I)
(H−1.5)≦B≦(H−0.1) (II)
で表される関係を満足することもまた重要である。
【0018】
周方向ベルト層の中央部と端部のスチールコードの拡張率を上記範囲に調整することにより、タイヤショルダー部対比、タイヤ中央部の剛性を維持して、限界性能を向上させることができる。
【0019】
拡張率Aが(H−4)%未満であると製品時でも、スチール素線間の隙間が大きく、ゴムがコード内部に閉じ込められず、ばねのような変形をしてしまい、十分な周方向剛性が発揮されない。一方、拡張率Aが(H−0.1)%より大きくなると、コード内部に十分ゴムが浸透せず、タイヤが釘ふみなどで外傷を受けた際の腐食が広がってしまう。
【0020】
また、拡張率Bが(H−1.5)%未満であると製品時でも、スチール素線間の隙間が大きく、ゴムがコード内部に閉じ込められず、ばねのような変形をしてしまい、十分な周方向剛性が発揮されない。一方、拡張率Aが(H−0.1)%より大きくなると、コード内部に十分ゴムが浸透せず、タイヤが釘ふみなどで外傷を受けた際の腐食が広がってしまう。
【0021】
また、本発明においては、スチールコードを構成するスチール素線の径が0.15〜0.45mmであることが好ましい。スチール素線の径が0.15mm未満であると、得られるコードの強力が低いので、ベルト層としての周方向剛性を確保するためにはコードの打ち込み数を大幅に増加する必要があり、ゴムとコードとのセパレーションが生じやすくなる。あるいは、高速走行時の径成長により高速耐久性が損なわれるおそれがある。一方、直径が0.45mmを超えるスチール素線は曲げ剛性が高過ぎるので、高性能ラジアルタイヤのベルト補強材として用いたときに、十分に低い面外曲げ剛性を確保することが困難となる。
【0022】
本発明のタイヤにおいては、かかる周方向ベルト層に、上記スチールコードが適用されているものであればよく、これにより本発明の所期の効果を得ることができるものであり、周方向補強層における補強材の打ち込み数や、周方向補強層以外の具体的なタイヤ構造や材質等については、常法に従い適宜設定することができ、特に制限されるものではない。
【実施例】
【0023】
下記表1、2に示す条件に従い、実施例1〜3および比較例1〜3のスチールコードを作製した。得られたスチールコードを周方向ベルト層4a、4bに適用して、図1のタイヤ構造を有するタイヤサイズ225/45ZR17の各供試タイヤを作製した。比較例2については、下記表1中に示す条件のナイロンコードを用いた。各供試タイヤは、交錯ベルト3をそれぞれ複数本のスチールコードから構成し、その外周側に、補強コードをタイヤ赤道面に対して実質的に0°で螺旋巻き形成した周方向ベルト層4a、4bを設けた構造を有する。得られたタイヤにつき、高速耐久性、コーナリング限界フィーリング、エア入り不良、腐食伝播性につき評価をおこなった。結果を表1、2に併記する。
【0024】
(高速耐久性)
各供試タイヤをリムサイズ7.5J×17のリムに空気圧300kPaにて装着し、JATMA規格のテスト法に準じてステップスピード法で行った。結果は、従来例1の供試タイヤの故障時の速度を基準として、同等以上の場合を○、劣っている場合を×として評価した。
【0025】
(コーナリング限界フィーリング)
各供試タイヤを空気圧205.8kPa(2.1kgf/cm)で乗用車の4輪に装着し、このテスト車輌にてテストドライバーがテストコースを走行させ、テストドライバーによるコーナリングについてのフィーリング結果を、10点満点として評価した。
【0026】
(エア入り不良)
各供試タイヤ製造工程において、エア入り不良が発生した場合を×、発生しなかった場合を○とした。
【0027】
(腐食伝播性)
各供試タイヤを、JATMA規格に定める標準リムに装着後、JATMA YEAR BOOKにおける最大負荷能力に対応する内圧を充填し、乗用車に装着した。舗装路を10000km走行した後、タイヤを解剖してカット傷からのコードの腐食長さを調査した。結果は、比較例1を基準として、同等以上の場合を○、劣っている場合を×として評価した。
【0028】
【表1】

※1:伸び率−引張荷重曲線の2次微分が最大となるときの伸び率
※2:周方向ベルト層中央部分のスチールコードの拡張率A
※3:周方向ベルト層の端部より20mmの位置のスチールコードの拡張率B
【0029】
【表2】

※1:伸び率−引張荷重曲線の2次微分が最大となるときの伸び率
※2:周方向ベルト層中央部分のスチールコードの拡張率A
※3:周方向ベルト層の端部より20mmの位置のスチールコードの拡張率B
【0030】
上記表1、2より本発明の空気入りラジアルタイヤは、タイヤ製造時の伸張性を確保しつつ、製品時に必要な周方向剛性を有し、耐久性と限界性能が向上していることが確かめられた。また、あわせて十分な腐食伝播性も維持できていることがわかる。
【符号の説明】
【0031】
1 ビードコア
2 カーカス
3a、3b 交錯ベルト層
4a、4b 周方向ベルト層
5 スチール素線
10 スチールコード
11 トレッド部
12 サイド部
13 ビード部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチールコードを補強材として用いた周方向ベルト層を有する空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記スチールコードが1×Nのオープン撚り構造で、スチール素線本数が7本以上であり、かつ、
前記スチールコードの伸び率−引張荷重曲線の2次微分が最大となるときの伸び率Hが4.5%以上であり、前記スチールコードの拡張率を下記式、
拡張率(%)=[(タイヤ製品時のスチールコード長)−(タイヤ成型前のスチールコード長)]/(タイヤ成型前のスチールコード長)×100
としたとき、前記周方向ベルト層中央部分の前記スチールコードの拡張率A、前記周方向ベルト層の端部より20mmの位置のスチールコードの拡張率Bが、下記式(I)および(II)、
(H−4)≦A≦(H−0.1) (I)
(H−1.5)≦B≦(H−0.1) (II)
で表される関係を満足することを特徴とする空気入りラジアルタイヤ。
【請求項2】
前記スチールコードを構成するスチール素線の径が0.15〜0.45mmである請求項1記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項3】
前記スチール素線本数が9〜15本である請求項1または2記載の空気入りラジアルタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−179773(P2010−179773A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25022(P2009−25022)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】