説明

空気入りラジアルタイヤ

【課題】ベルト補強層を備えた空気入りラジアルタイヤにおいて、操縦安定性及び高速耐久性の向上と軽量化を実現することができるものを提供する。
【解決手段】ベルト補強層7,8に片撚り構造のポリエステル(PET)コードであって、((1)公称繊度(D)が1000〜2000dtexであり、(2)下記(I)式で表される撚り係数(K)が700〜2000であり、(3)ブロックドイソシアネート水溶液及びエポキシ化合物分散液のうちの少なくとも一方と、レゾルシン−ホルムアルデヒド−ラテックス(RFL)混合液とを、少なくとも用いてディップ処理(接着性のコーティング処理)がなされたものを用いる。
K=T・(D/1.38)1/2 ……(I);
ここで、Tは10cm当りの撚り数(回/10cm)、Dはコード全体としての公称繊度(デシテックス(dtex))、1.38はポリエステルの比重である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱接着性を改良した片撚りポリエステルコードをベルト補強層(バンド層、キャッププライ)の補強材として用いた空気入りラジアルタイヤに関する。特には、操縦安定性と高速運転での耐久性に優れるとともに、軽量化を達成することのできる空気入りラジアルタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りラジアルタイヤにおいて、高速耐久性や転がり抵抗、ロードノイズの改善を目的として、ベルト層の外周側に、補強コードをタイヤ周方向に配列してなるベルト補強層を配置することが行われている。このベルト補強層は、特には、高速走行時において、スチールコードなどからなるベルト層の浮き上がりを防止するために設けられる。特に、ベルト層の幅方向両端部(ショルダー部近傍)での浮き上がりを防止すべく、ベルト補強層は、少なくともベルト層の幅方向両端部を覆うように配置される。
【0003】
ベルト補強層には、従来、双撚り構造の有機繊維コードが主として用いられる。すなわち、ナイロンやポリエステル(PETその他)などの有機繊維の素線(フィラメント)の束に下撚りを施した上で、このように得られた「ヤーン」を複数本束ねて、さらに上撚りによって撚り合わせたコードが主として用いられている(例えば特許文献1)。
【0004】
このような双撚り構造の繊維コードは、下撚りと上撚りとの撚り方向が互いに逆のため、形態保持性は良好であるものの撚り工程が多く製造コストが高くなる。また、コードの径が太くなるなどの理由からコード重量の増加を招き、さらには、断面形状が複雑となるためにプライ厚さを増大させるなど、タイヤ重量増加の原因ともなっている。
【0005】
そこで、例えば下記特許文献2においては、片撚り構造の有機繊維コードをベルト補強層(バンド層)の補強材として用いるとともに、所定荷重時の伸び率や、「残留張力」、コード打ち込み本数などの各種条件を特定の範囲とすることが提案されている。具体的な実施例(表1の実施例1〜2)によると、ナイロン66の1400〜2100dtxの、素線(フィラメント)の束に、10cmあたり16〜20の撚りを掛けて得たコードであって、種々の条件に合致するものを用いている。そして、このような有機繊維コードを採用することにより、「低コスト化や軽量化を達成しながら、高速操縦安定性、高速耐久性、及びノイズ性能を向上しうる」としている。
【0006】
特許文献2の請求項1、0020段落などによると、片撚り構造の有機繊維コードについて、「コード太さDの平方根に10cm当たりのコード撚り数Nを掛けた撚り係数T(=N・D1/2)を150〜750」と、従来よりも小さい範囲にに減じる必要があるとしている。そして、撚り係数Tが大きいと、「締め付け力の向上効果等が充分に達成され」ないので、撚り係数Tは、「200〜600の範囲が好ましい」としている。
【0007】
しかし、特許文献2の構成では、操縦安定性を維持しつつ、タイヤの高速耐久性を向上する上で必ずしも充分でなかった。そのため、依然として、双撚り構造などの繊維コードが、一般にベルト補強層に用いられている。
【0008】
一方、特許文献3には、「ショルダー部ベルト補強層4にヤング率が8GPa以上の」ポリケトンからなる有機繊維コードを用い、センター部のベルト補強層には、これよりヤング率の小さい一般的な有機繊維コードを用いることが提案されている。特許文献3の0057段落には、有機繊維が片撚り構造であってもよいと記載されている。しかし、片撚り構造とする場合にどのような条件を採用する必要があるかという点につき、何ら記載がない。
【0009】
他方、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル繊維をベルト補強層に用いた場合、弾性率及び寸法安定性において優れていることから、ナイロンコードを用いる場合に比べて、高い剛性を実現でき、操縦安定性において有利である。しかし、ポリエステル繊維のコードを用いた場合には、タイヤの耐久性が低くなりがちであった。そのため、ベルト補強層用のコードとしては、依然としてナイロンコードが主として用いられているのが実状である。耐久性が低くなる原因としては、ポリエステルコードとゴムとの接着耐久性が不十分であることが挙げられている。そのため、ポリエステルコードを反応性樹脂液に浸漬(ディップ処理)する際の、樹脂液の組成や条件について種々の検討が行われている。
【0010】
例えば、下記特許文献4においては、オキサゾリン化合物を、エポキシ化合物及びラテックスとともに内層(下塗り層)用の処理液として用い、レゾルシン−ホルムアルデヒド−ラテックス(RFL)を外層(上塗り層)用の処理液として用いることが提案されている。しかし、接着性や接着耐久性を付与するための処理液の工夫だけでは、高速で連続走行した場合のタイヤの耐久性(タイヤ高速耐久性)が必ずしも充分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−022455公報
【特許文献2】特開2002−154304公報
【特許文献3】特開2007−196754公報
【特許文献4】特開2009−203594公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、ベルト補強層に用いるポリエステルの繊維コードの構成などを改良することで、低コスト化や軽量化を達成しながら、操縦安定性及び高速耐久性を向上させた空気入りラジアルタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題に鑑み、ポリエチレンテレフタレート(PET)その他のポリエステルの繊維コードにおける撚り係数、繊度、熱収縮応力、乾熱収縮率などについて、鋭意検討していく中で、偶然に、ある特定の条件を採用することにより、非常に優れた効果が得られることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明に係る空気入りラジアルタイヤは、トレッド部に設けたベルト層と、該ベルト層の半径方向外側に、少なくとも該ベルト層の両端部(トレッドの幅方向両端部に対応)を覆うように配置されたベルト補強層とを備え、ベルト補強層にポリエステルの片撚り構造の繊維コードを用いた空気入りラジアルタイヤにおいて、該繊維コードとして、(1)公称繊度(D)が1000〜2000dtexであり、(2)下記(I)式で表される撚り係数(K)が700〜2000であり、(3)ブロックドイソシアネート水溶液及びエポキシ化合物分散液のうちの少なくとも一方と、レゾルシン−ホルムアルデヒド−ラテックス(RFL)混合液とを、少なくとも用いてディップ処理(接着性のコーティング処理)がなされたものを用いる。
K=T・(D/1.38)1/2 ……(I);
ここで、Tは10cm当りの撚り数(回/10cm)、Dはコード全体としての公称繊度(デシテックス(dtex))、1.38は、ポリエステルの比重である。
【0015】
好ましくは、上記の繊維コードは、ベルト補強層用のゴム材料でゴム引きし140℃40分で加硫成形した後にゴム層からの剥離試験を行った場合に、ゴム付着率(剥離面のゴム被覆率)が90%以上であり、170℃×120分の過加硫を行った後にゴム層からの剥離試験を行った場合には、ゴム付着率が80%以上である。また、上記の繊維コードは、好ましくは、撚り数(T)が21より大きく50以下である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、特には、片撚り構造のポリエステルコードをベルト補強層に用いるにあたり、撚り係数(K)の値が比較的大きいものを用いるとともに、特定の公称繊度(D)及び熱収縮特性を持ったものを用いることにより、低コスト化及び軽量化を達成しながら、操縦安定性及び高速耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態の空気入りラジアルタイヤを軸方向に切断した半断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は本発明の一実施形態に係る乗用車用の空気入りラジアルタイヤ(以下、ラジアルタイヤという)Tの概略半断面図である。
【0019】
ラジアルタイヤTは、一対のビード部1およびサイドウォール部2と、その両サイドウォール部2に連なるトレッド部3とからなり、ビード部1に埋設したビードコア4、4間にわたり補強する2プライのラジアルカーカス5が、カーカス5の端部をビードコア4の周りにタイヤ内側から外側に折り返されビードフィラー9に沿って巻き上げられサイドウォール部2で係止されている。ラジアルカーカス5のクラウン部外周に設けられる2層のコード交差層からなるベルト6、該ベルト6の外周に沿って巻回したポリエステルコードよりなるベルト補強層7、8を備えている。
【0020】
ベルト補強層7、8の有機繊維コードは、タイヤ加硫成形において熱収縮することでベルト2を周方向に締め付け、タイヤ周方向の剛性やベルト拘束力を高めて、高速走行時の遠心力によるベルトのせり上がりや径成長、ベルト端部の歪みを抑制し、高速で耐久性と操縦安定性を良好にすることができる。
【0021】
カーカス5としては、ポリエステル、ナイロン、レーヨンなどの有機繊維コードが、またベルト2には、フィラメント径が0.20〜0.30mm程度の1×4、1×5、2+2、2+1構造などのスチールコード、あるいはアラミドコードなどの剛直な有機繊維コードが使用されている。なお、カーカス、ベルト、ベルト補強層の積層枚数は、タイヤサイズや用途により適宜増減し使用することができる。
【0022】
図示の例において、ベルト補強層7、8は、ベルト6の外周上において内側のベルト補強層7はベルト6の全幅(A+B)を、折り返された外側のベルト補強層8はベルト6の両端部Bを覆っている。ベルト補強層7、8は下記の所定のナイロンコードをタイヤ周方向に対してほぼ0°の角度でスパイラル状に巻回することで、ベルト6を周方向に締め付け、タイヤ周方向及び径方向の剛性やベルト拘束力を高めるタガ効果を得て、高速走行時の遠心力によるベルトのせり上がりや径成長、ベルト端部の歪みを抑制し、高速での耐久性能と操縦安定性を良好にしている。ベルト補強層7、8は、例えば有機繊維コードを引き揃えてゴムで被覆されたリボン状の帯状部材を、タイヤ成型の際に成型ドラム1周毎に側端部同士を突き合わせながらスパイラル状に巻き付けることにより行われる。また、接着処理済みのシングルコードをタイヤ幅方向にずらせながらスパイラル状に巻き付けたものでもよい。
【0023】
ベルト補強層7、8に用いるポリエステルコードは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)その他の比重が1.38前後のポリエステル繊維からなるものであり、複数種のポリエステル繊維を組み合わせた複合繊維などからなるのであっても良い。ポリエステルコードの公称繊度(D)、すなわちコード全体としての見かけの繊度(重量/単位長さ)が、1000〜2000dtex、好ましくは1050〜1700dtexである。ポリエステルコードコードの公称繊度(D)がこの範囲より低い場合には、コードの強度(N)が低下することから、ベルト補強層7、8の強度を確保するために、コードの打ち込み本数や補強層数を増加する必要がある。例えば、コード打ち込み本数について、セパレーションなどの故障が生じやすくなるまで多くする必要がある。そのため、接着性、発熱性に不利となるとともに耐久性が低下する。一方、ポリエステルコードコードの公称繊度(D)が上記範囲を超える場合には、コード径が大きくなってしまうために、ベルト補強層7、8の厚みが大きくなってしまう。このため、タイヤの軽量化を達成することができず、結果的に燃費にも不利となる。
【0024】
ベルト補強層7、8に用いるポリエステルコードは、上記(I)式で表される撚り係数(K)が700〜2000、好ましくは800〜2000、より好ましくは800〜1700、さらに好ましくは800〜1300である。この範囲に撚り係数を設定することで、加硫成形時の熱収縮により適度にベルト6を締め付け、上記のタイヤ周方向の剛性とベルト拘束性を向上し、高速耐久性と操縦安定性とを確保することができる。
【0025】
ポリエステルコードの撚り係数(K)が上記範囲より低い場合、耐疲労性が低下し、挫屈疲労からコード破断やトレッドセパレーションなどを起こしやすくなる。また、撚り係数が上記範囲を超えると、ゴムとの複合体とした際の剛性が小さくなることから、タイヤ装着時の操縦安定性が低下する。
【0026】
ベルト補強層7、8に用いるポリエステルコードには、少なくとも、下記の接着性樹脂液を用いたディップ処理(接着性のコーティング処理)がなされたものを用いる。すなわち、(1)ブロックドイソシアネート水溶液及びエポキシ化合物分散液の少なくとも一方と、(2)レゾルシン−ホルムアルデヒド−ラテックス(RFL)混合液とを、同時にまたは逐次に用いて、一段または複数段の処理のディップ処理を行ったものを用いる。好ましくは、上記(1)を含む第1処理液によるディップ処理、及び、上記(2)を含む第2処理液によるディップ処理を順次行うのが好ましく、特に、この順番で行うのが好ましい。
【0027】
ディップ処理についての好ましい第1の実施形態によると、第1処理液として(A)キャリアーを含む処理液と(B)ブロックドイソシアネート水溶液とを含むものを用い、第2処理液としては、(B)ブロックドイソシアネート水溶液と(C)エポキシ化合物の分散液及び(D)レゾルシン−ホルムアルデヒド−ラテックス(RFL)混合液を含むものを用いる。ディップ処理の好ましい第2の実施形態によると、第1処理液として(E)オキサゾリン基を含む化合物、(C)エポキシ化合物、及び(F)ゴムラテックスを含むものを用い、第2処理液として、(D)レゾルシン−ホルムアルデヒド−ラテックス(RFL)混合液を含むものを用いる。なお、第2処理液によるディップ処理の後、再度、第1処理液によるディップ処理を行っても良い。このようなディップ処理により、ポリエステルコードに耐熱接着性を付与することができる。
【0028】
上記(A)キャリアーを含む処理液としては、キャリアーを水に溶解、分散または乳化させたものであり、キャリアー以外の溶剤、分散液、乳化剤あるいは安定剤等の助剤や紡糸油剤等が含有されていてもよい。キャリアーとは、ポリエステル繊維内部に浸入拡散し、ポリエステル繊維の膨潤を高め、繊維内部構造を接着剤分子が入りやすいよう変化せしめる物質であり、キャリアー作用を活用してブロックドイソシアネート水溶液、エポキシ化合物の分散液およびRFL溶液をポリエステル繊維により強固に結合させ耐熱接着性を向上させるものである。キャリアーとして好ましいものは、p−クロルフェノール、o−フェニルフェノール等のフェノール誘導体類、モノクロルベンゼン、トリクロルベンゼン等のハロゲン化ベンゼン類およびレゾルシンとp−クロルフェノールとホルムアルデヒドとの反応生成物等が挙げられる。特に好ましい例はレゾルシンとp−クロルフェノールとホルムアルデヒドとの反応生成物である。
【0029】
(B)ブロックドイソシアネート含有水溶液は、含まれるイソシアネート成分としては特に限定されないが、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート系のポリイソシアネートが好ましく、更には、ジフェニルメタンジイソシアネート系ポリイソシアネート混合体が耐熱性能に優れ好ましい。
【0030】
(C)エポキシ化合物は特に限定されないが、好ましくは2官能以上の多官能エポキシを用いることで、樹脂の架橋密度が高くなり、優れた耐熱接着性が得られる。エポキシ化合物の好ましい例としては、グリセロール・ポリグリシジルエーテル、ジグリセロール・ポリグリシジルエーテル、ポリグリセロール・ポリグリシジルエーテル、ソルビトール・ポリグリシジルエーテル等、脂肪族多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物が挙げられる。
【0031】
(D)RFL混合液はレゾルシンとホルマリンを酸またはアルカリ触媒下で反応させて得られる初期縮合物とスチレンブタジエンラテックス、カルボキシ変性スチレンブタジエンラテックス、スチレンブタジエンビニルピリジンラテックス、カルボキシ変性スチレンブタジエンビニルピリジンラテックス、天然ゴム、ポリブタジエンラテックス等の1種または2種以上の混合水溶液が用いられる。好ましくはスチレンブタジエンビニルピリジンラテックス、カルボキシ変性スチレンブタジエンビニルピリジンラテックスを用いることで、優れた耐熱接着性を得ることが出来る。レゾルシン、ホルマリン、ラテックスの配合比率は公知技術のいずれを適用してもよい。
【0032】
ディップ処理についての好ましい第1の実施形態においては、上記第1処理液で処理することで、イソシアネートによるアミンバリア層が、キャリアー効果で繊維と強固に結合し、繊維および繊維と隣接する接着剤層およびそれらの界面の劣化を著しく抑制させ、次いで、第2処理液は、イソシアネートおよびエポキシによるラテックスの架橋改質効果により、RFL樹脂の耐熱性が向上し、これら全体の効果により優れた耐熱接着性および強力保持率が得られるものとなる。
【0033】
なお、前記第1処理液は、総固形分100重量部に対し、(B)ブロックドイソシアネート固形分が40〜95重量部配合されていることが好ましい。40重量部より少ないと樹脂の架橋が不十分であり充分な耐熱接着性が得られず、95重量部より多いとキャリアー成分が少なくなり、この場合も充分な耐熱接着性が得られない。また、前記第2処理液は、総固形分100重量部に対し、(B)ブロックドイソシアネート固形分が5〜40重量部配合されていることが好ましい。5重量部より少ないと、樹脂の架橋が不十分であり充分な耐熱接着性が得られず、40重量部より多いとRFL成分が少なくなり過ぎるため充分な初期接着性が得られない。更に第2処理液は、総固形分100重量部に対して、(C)エポキシ化合物固形分が0.5〜10重量部配合されていることが好ましい。この範囲より少なくても多くても、良好な接着性は得られない。
【0034】
ディップ処理についての好ましい第2の実施形態に用いる(E)オキサゾリン基を含む化合物は、一般の有機化合物または有機ポリマー、オリゴマーを主骨格とした物質の末端または側鎖にオキサゾリン基(好ましくは2−オキサゾリン基)を、好ましくは多数含む化合物である。また、これとともに第1処理液に用いる(F)ゴムラテックスは、好ましくは、スチレン−ブタジエン−エチレン系不飽和酸単量体共重合ラテックスである。
【0035】
また、接着処理装置は、特に限定されることがなく、ゴム業界で通常に使用されるディッピング処理装置によることができる。例えば、コードを処理液中でディップ処理を施した後、所定温度の乾燥処理(ドライ)ゾーンで処理液の乾燥処理を行った後、連続して配置された緊張熱処理(ヒートストレッチ)ゾーン及び緊張緩和熱処理(ヒートリラックス)ゾーンの中を所定張力下で順次通過させて熱処理して熱セットさせコード物性が調整される方法が挙げられる。これらの装置はシングルコード処理機、複数のシングルコードを同時に処理できるコードセッター、あるいはすだれ織物を処理することができる、いわゆるディッピングマシンなどのゴム工業で通常に使用される公知のディップ処理機によることができる。
【0036】
上記の接着処理により、ポリエステルコードは、ベルト補強層を成形して初期加硫した後(140℃×40分加硫)における剥離接着試験後のゴム被覆率が、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上となり、過加硫後(170℃×120分加硫)における剥離接着試験後のゴム被覆率が、好ましくは80%以上、より好ましくは82%以上、さらに好ましくは85%以上となる。
【0037】
ベルト補強層7、8に用いるポリエステルコードは、撚り数(T)が、好ましくは21より大きく50以下である。このように撚り数(T)を適度に大きくすることで、ポリエステルコードの耐疲労性を良好なものとし、これにより、耐疲労性を大きくすることができる。撚り数(T)が21以下であると、タイヤ高速耐久性を向上することが困難となり、50を超えると、操縦安定性を維持するのが困難になる。
【実施例】
【0038】
タイヤサイズが205/65R15であって、図1に示すようにベルト補強層7,8を設けたタイヤ構造を有する空気入りラジアルタイヤを試作した。カーカス5は、ポリエステル(PET)コード1670dtex/2、打ち込み数24本/25mmの2プライとし、ベルト6はスチールコード2+2×0.25(エンド数23本/25mm)の2プライ(コード角度21度)とし、ベルト補強層以外は共通の構造、部材とした。
【0039】
ベルト補強層の補強コードとしてのポリエステル(PET)コードは、東洋紡績(株)製の「エステル」の所定品種のものをそのまま用いた。各実施例で用いたポリエステルコードの構成及び条件は、下記表1に示すとおりである。
【0040】
なお、比較対照に用いた従来例の空気入りラジアルタイヤは、ポリエステル(PET)コードに代えてナイロンコード(Ny66)とし、旭化成(株)製の「レオナ66」940dtex/2(撚り数29×29回/10cm)を使用した。すなわち、総繊度が940dtxであるフィラメントの束に下撚りを加えてヤーンとし、2本のヤーンを合わせて下撚りとは逆の向きに上撚りを加えることで得られた双撚り構造のナイロンコードである。
【0041】
ベルト補強層の補強コードとしてのポリエステル(PET)コードには、下記の第1及び第2処理液により、順に、ディップ処理を行った。すなわち、耐熱接着性付与のための処理を行った。なお、比較対照に用いた従来例及び比較例5では、レゾルシン−ホルムアルデヒド−ラテックス(RFL)混合液による1回のディップ処理のみを行った。
【0042】
・第1処理液:キャリアー(p−クロルフェノール・ホルマリンレゾルシン縮合物のアンモニア水溶液;ナガセケムテックス(株)デナボンド)を固形分換算で1.5重量%含み、また、ブロックドイソシアネート水溶液(ポリウレタンプレポリマーブロック化体、固形分30%;第一工業製薬(株)エラストロンBN−27)を固形分換算で22重量%含む。
【0043】
・第2処理液:ブロックドイソシアネート水溶液(ポリウレタンプレポリマーブロック化体、固形分30%;第一工業製薬(株)エラストロンBN−27)を固形分換算で9重量%含み、エポキシ化合物の分散液(ソルビトール・ポリグリシジル・エーテル;ナガセケムテックス(株)デナコールEX−614)を固形分換算で1重量%あまり含み、界面活性剤(ジアルキルスルホコハク酸エステルソーダ塩、固形分75%;第一工業製薬(株)ネオコールP)を固形分換算で0.1〜0.2重量%含み、レゾルシン−ホルマリン−ラテックス(RFL)の混合液を固形分換算で約15重量%含む。
【0044】
【表1】

【0045】
ベルト補強層に用いるポリエステル(PET)コード、及び、得られたタイヤについての評価は下記のとおりに行った。
【0046】
・引っ張り強度(コード強力)及び2%伸長モジュラス:JIS L1017に準拠した引張試験を22℃雰囲気中で行うことにより測定した。
【0047】
・剥離接着試験:接着処理コードを打ち込み密度を22本/25mmで配列しゴム被覆したものをコード方向を平行に積層し、140℃×40分(初期接着)、または、170℃×120(耐熱接着)加硫した後、幅25mmの剥離接着試験片に調製し、万能試験機を用いて22℃雰囲気中で層間を50mm/分の速度で剥離試験を行い、剥離接着力(N/25mm)を測定するとともに、剥離後のゴム被覆率を目視により評価した。完全にゴム被覆されているものを100%とし、全くゴムに被覆されていないものを0%とする。
【0048】
・タイヤ高速耐久性:FMVSS109(UTQG)に準拠し、表面が平滑な鋼製の直径1700mmの回転ドラムを有するドラム試験機により、次のようにして測定した。試験タイヤを内圧220kPa(2.2kgf/cm2 )で、JIS規定の標準リムに組み付け、荷重は、JATMA規定の最大荷重の88%とした。80km/hrの速度で慣らし走行させた後、一旦放冷し、再度空気圧を調整した後に、本走行を行った。本走行は、120km/hrから開始し、以降、30分間経過毎に走行速度を8km/hrずつ増加させつつ、故障が発生するまで走行させた。故障発生までの、本走行の総走行距離について、従来例を100とする指数で表1に示す。この指数値が大きいほど高速耐久性に優れる。
【0049】
・実車操縦安定性:各タイヤをJIS規定の標準リムを用いて内圧200kPaに調整し、排気量2000ccの乗用車に装着した。そして、操縦安定性評価用のテストコースにて、訓練された3名のテストドライバーにより、ハンドル応答性、剛性感、グリップ感等の操縦安定性を総合的に官能評価した。この際、従来例を6点として10点満点で相対比較にて行い、3名の平均点を、従来例を100とする指数で示した。数値の大きいほど操縦安定性が良好であることを示している。
【0050】
表1の結果に示すとおり、実施例1〜4では、実車操縦安定性及びタイヤ高速耐久性を向上させることができた。また、タイヤ軽量化の効果も大きかった。これらの効果は、撚り係数が800〜2000の範囲内にある実施例1〜3で、実施例4の場合より大きく、より係数が800〜1700の範囲内にある実施例1〜2で、実施例3〜4の場合より大きかった。特には、実施例2により最も顕著な効果が得られた。
【0051】
比較例1〜5の空気入りラジアルタイヤは、下記に言及する構成を除き、実施例1〜2のタイヤと同一である。比較例1のタイヤは、ポリエステル(PET)コードとして、公称繊度(D)が840dtxと前述の所定範囲より低く、撚り係数(K)も691と低いものを用いた結果、コード打ち込み本数が44本/25mmと顕著に大きくなる。このため、ポリエステル(PET)コードのカットエンド部では接着破壊が起こり易くなり、高速耐久性が大きく低下している。但し、データは示さないが、操縦安定性には問題がなかった。比較例2のタイヤは、ポリエステル(PET)コードとして、公称繊度(D)が2200dtxと前述の所定範囲を超えるものを用いた結果、高速耐久性が向上しているものの、タイヤ重量が増大してしまった。
【0052】
比較例3のタイヤは、ポリエステル(PET)コードとして、撚り係数(K)が661と、前述の所定範囲より低いものを用いた結果、タイヤ高速耐久性が大きく低下した。これは、ポリエステルコードの撚り数が19と低くなったためにポリエステル(PET)コードの耐疲労性が低下したためと考えられる。比較例4のタイヤは、ポリエステル(PET)コードとして、撚り係数(K)が2018と、前述の所定範囲を超えるものを用いた結果、タイヤ高速耐久性は向上しているものの、実車操縦安定性が低かった。これは、撚り数が58と過度に多くなっており、このためタイヤの剛性が低下したためと考えられる。
【0053】
比較例5では、ポリエステル(PET)コードに、前述の第1及び第2処理液に浸漬することによる耐熱接着性付与を行わず、レゾルシン−ホルムアルデヒド−ラテックス(RFL)混合液による1回のディップ処理のみを行った結果、高速耐久性が顕著に低かった。これは、過加硫後のゴム付着率が顕著に低いことから知られるように、耐熱接着性が顕著に低いためと考えられる。
【0054】
上記実施例においては、ベルト6の全幅(A+B)を覆うベルト補強層7を設けるものとして説明したが、ベルト6の両端部(B)すなわちショルダ部に対応する領域のみに設けるものであっても良い。すなわち、折り返し部に相当するベルト補強層8のみが設けられるのであっても、上記のポリエステル(PET)コードを用いることにより、操縦安定性及びタイヤ高速耐久性の向上、及びタイヤ軽量化を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上の通り、本発明の空気入りラジアルタイヤは、操縦安定性や乗り心地性、耐久性に優れるとともに軽量化を実現するもので、特には各種乗用車用タイヤに好適である。
【符号の説明】
【0056】
3……トレッド部、 5……カーカス、 6……ベルト、 7、8……ベルト補強層
T……空気入りラジアルタイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部に設けたベルト層と、該ベルト層の半径方向外側に、少なくとも該ベルト層の両端部を覆うように配置されたベルト補強層とを備え、ベルト補強層にポリエステルの片撚り構造の繊維コードを用いた空気入りラジアルタイヤにおいて、該繊維コードとして、(1)公称繊度(D)が1000〜2000dtexであり、(2)下記(I)式で表される撚り係数(K)が700〜2000であり、(3)ブロックドイソシアネート水溶液及びエポキシ化合物分散液のうちの少なくとも一方と、レゾルシン−ホルムアルデヒド−ラテックス(RFL)混合液とを、少なくとも用いてディップ処理がなされたものを用いる。
K=T・(D/1.38)1/2 ……(I);
ここで、Tは10cm当りの撚り数(回/10cm)、Dはコード全体としての公称繊度(デシテックス(dtex))、1.38はポリエステルの比重である。
【請求項2】
前記繊維コードは、ベルト補強層用のゴム材料でゴム引きし140℃40分で加硫成形した後にゴム層からの剥離試験を行った場合に、ゴム付着率が90%以上であり、170℃120分の過加硫を行った後にゴム層からの剥離試験を行った場合には、ゴム付着率が80%以上である請求項1記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項3】
前記繊維コードの10cm当りの撚り数(T)が21より大きく50以下である請求項1または2記載の空気入りラジアルタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2011−218982(P2011−218982A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−90875(P2010−90875)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】