説明

空気入りラジアルタイヤ

【課題】良好な操縦安定性および耐久性と、さらなるタイヤの軽量化とを両立させた空気入りラジアルタイヤを提供する。
【解決手段】扁平形状金属線20の単線または束がベルト幅方向に間隔を空けて平行かつ平面的にベルト幅方向に配列されゴム中に埋設されて傾斜ベルト層を形成し、扁平形状金属線の単線または束の幅W(mm)と厚みT(mm)とが、
0.334×(W/T)−0.3449≦T≦0.342×(W/T)−0.2539
で表される関係を満足し、かつ、傾斜ベルト層に対する扁平形状金属線の単線または束の打込み本数P(本/50mm)が、
−9.258×Ln(W/T)+40.187≦P≦−10.487×Ln(W/T)+45.848
で表される関係を満足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数本の金属線をタイヤ赤道面に対し傾斜配列してなる1層の傾斜ベルト層と、この傾斜ベルト層上に位置し、有機繊維コードをタイヤ赤道面に対し実質上平行に配列してなる少なくとも1層の周方向ベルト層と、からなる補強ベルトを有する空気入りラジアルタイヤ(以下、単に「タイヤ」とも称する)に関し、特に、乗用車用ラジアルタイヤとして好適な空気入りラジアルタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の燃費を向上させるために、タイヤを軽量化する要求は、ますます高まってきている。空気入りラジアルタイヤは、カーカスのクラウン部外周に、少なくとも2層の傾斜ベルト層を、それぞれの補強材が互いに交差するように積層した、いわゆる交差ベルトを有することが一般的であるが、最近では、タイヤの軽量化の観点から、1層の傾斜ベルト層と、この傾斜ベルト層上に位置し、軽量である有機繊維コードをタイヤ赤道面に対し実質上平行に配列した周方向ベルト層とでベルトを構成したタイヤが開発されている。
【0003】
このような傾斜ベルト層と周方向ベルト層との組合せからなるベルトを適用したタイヤは、例えば、特許文献1〜4に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−323704号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開平8−164703号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献3】特開平9−156313号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献4】特開平9−156315号公報(特許請求の範囲等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の従来技術は、いずれも未だ十分なものではなく、さらに軽量化を図ったタイヤを実現することが求められていた。
【0006】
そこで本発明の目的は、上記問題を解消して、良好な操縦安定性および耐久性と、さらなるタイヤの軽量化とを両立させた空気入りラジアルタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、金属線を用いる補強ベルトの構造、材質および配列について鋭意検討した結果、特殊な断面形状を有する金属線を単線または引き揃えた束として傾斜ベルト層に適用することで、上記問題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の空気入りラジアルタイヤは、少なくとも一対のビードコア間に跨がってトロイド状をなすカーカスのクラウン部外周に、複数本の金属線をタイヤ赤道面に対し傾斜配列してなる1層の傾斜ベルト層と、該傾斜ベルト層上に位置し、有機繊維コードをタイヤ赤道面に対し実質上平行に配列してなる少なくとも1層の周方向ベルト層と、からなる補強ベルトで強化されたトレッド部を備える空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記傾斜ベルト層が、該傾斜ベルト層内の少なくとも大部分の金属線が、その長手方向に直交する断面で見たときにベルト幅方向に長い扁平形状を呈する1本または複数本の金属線を撚り合わせることなくベルト幅方向に並列に引き揃えてなる金属単線または金属線束として存在し、該扁平形状金属線の単線または束がベルト幅方向に単線間または束間で間隔を空けて平行かつ平面的にベルト幅方向に配列されゴム中に埋設されて形成されてなり、
前記扁平形状金属線の単線または束の幅W(mm)と厚みT(mm)とが次式(1)、
0.334×(W/T)−0.3449≦T≦0.342×(W/T)−0.2539 (1)
(式中、Wは、扁平形状金属線の幅をWf(mm)とし、束の本数をNとしたとき、W=N×Wfで表され、Nは2または3である)で表される関係を満足し、かつ、
前記傾斜ベルト層に対する前記扁平形状金属線の単線または束の打込み本数P(本/50mm)が次式(2)、
−9.258×Ln(W/T)+40.187≦P≦−10.487×Ln(W/T)+45.848 (2)
(式中、WおよびTは前記と同じものであり、Lnは自然対数を示す)で表される関係を満足することを特徴とするものである。
【0009】
本発明においては、前記扁平形状金属線の単線または束の幅W(mm)と厚みT(mm)との比が次式、
0.1≦T/W≦0.34
で表される関係を満足することが好ましい。また、前記扁平形状金属線の断面形状が、一対の平行な直線部と、その外側に凸となって対向する一対の円弧部と、を有するトラック形であることが好ましく、特には、前記扁平形状金属線の断面形状が、一対の平行な直線部と、その外側に凸となって対向する一対の円弧部と、さらに該直線部から該円弧部に推移する部位にもう一対の円弧部と、を有するトラック形であることがより好ましい。
【0010】
さらにまた、本発明においては、前記扁平形状金属線の、厚みTfが0.15〜0.26mmであり、幅Wfと厚みTfとの比が次式、
0.12≦Tf/Wf≦0.34
で表される関係を満足することが好ましい。さらにまた、前記扁平形状金属線の抗張力は、3300〜4000MPaであることが有利である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上記構成としたことにより、良好な操縦安定性および耐久性と、さらなるタイヤの軽量化とを両立させた空気入りラジアルタイヤを実現することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の空気入りラジアルタイヤの一例を示す幅方向断面図である。
【図2】本発明に係る扁平形状金属線の3本束の例を示す幅方向断面図である。
【図3】本発明に係る扁平形状金属線の単線の例を示す幅方向断面図である。
【図4】本発明に係る扁平形状金属線の2本束の例を示す幅方向断面図である。
【図5】従来の断面円形の金属線を1×3構造に撚り合わせた例を示す幅方向断面図である。
【図6】従来の断面円形の金属線を等間隔に配列した例を示す幅方向断面図である。
【図7】従来の断面円形の金属線の3本束の例を示す幅方向断面図である。
【図8】各実施例および比較例における金属線の単線または束の幅と厚みとの比W/Tと厚みTとの関係を示すグラフである。
【図9】各実施例および比較例における金属線の単線または束の幅と厚みとの比W/Tと打込み本数Pとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1に、本発明の空気入りラジアルタイヤの一例の幅方向断面図を示す。図示するように、本発明の空気入りラジアルタイヤ10は、少なくとも一対、図示例では一対のビードコア1間に跨がってトロイド状をなすカーカス2のクラウン部外周に、1層の傾斜ベルト層3と、傾斜ベルト層3上に位置する少なくとも1層、図示例では1層の周方向ベルト層4と、からなる補強ベルトで強化されたトレッド部を備えている。
【0014】
本発明において、傾斜ベルト層3は、複数本の金属線をタイヤ赤道面に対し傾斜配列してなる。より具体的には、本発明に係る傾斜ベルト層3においては、傾斜ベルト層内の少なくとも大部分の金属線が、その長手方向に直交する断面で見たときにベルト幅方向に長い扁平形状を呈する1本または複数本の金属線を撚り合わせることなくベルト幅方向に並列に引き揃えてなる金属単線または金属線束として存在しており、この扁平形状金属線の単線または束が、ベルト幅方向に単線間または束間で間隔を空けて平行かつ平面的にベルト幅方向に配列され、ゴム中に埋設されて、傾斜ベルト層3が形成されている。
【0015】
図2に、本発明に係る扁平形状金属線20の一例の断面図を示す。従来一般的に、傾斜ベルト層3に使用されていた金属線は、図5〜7にその一例を示すように、その長さ方向に直交する断面の形状が略円形であったが、本発明において傾斜ベルト層3に使用される金属線は、図2〜図4に示すように、その断面が扁平形状である点に特徴を有する。同一断面積で比較した場合、このような扁平形状金属線は円形断面金属線に比べて、長さ方向の引張り弾性率は略同等であるが、厚さ方向の曲げ変形に際して曲げ弾性率が低く、表面に発生する歪も小さい。したがって、扁平形状金属線20を、図2に示すように、その長径がベルト層に平行になるように並べて用いた本発明に係る傾斜ベルト層3は、補強ベルトとしての周方向剛性は充分に保持しながら、繰り返し曲げ変形に対しては、表面での歪が小さいので線折れが発生しにくい、耐久性の良いベルトとなる。
【0016】
傾斜ベルト層3の補強材として断面形状が扁平である扁平形状金属線を使用するその他の利点は、断面積を大きくして伸線加工の生産性を向上することができ、トリート材の加工効率が良くなり、コードの表面凹凸が少なくなり、ベルト引張り剛性の強化および操縦安定性の向上に役立つことなどが挙げられる。
【0017】
また、本発明においては、扁平形状金属線の単線または束の幅W(mm)と厚みT(mm)とが次式(1)、
0.334×(W/T)−0.3449≦T≦0.342×(W/T)−0.2539 (1)
(式中、Wは、扁平形状金属線の幅をWf(mm)とし、束の本数をNとしたとき、W=N×Wfで表され、Nは2または3である)で表される関係を満足することが必要である。ここで、ベルトプライが、扁平形状金属線11の単線からなる場合には、単線の幅Wf=Wであって、厚みTf=Tである。束の厚みTが常にT=Tfとならないのは、実際のトリート材内では、束を構成する扁平形状金属線が若干ずれると考えられるためである。厚みTが0.334×(W/T)−0.3449未満では、タイヤの補強用ベルトとして用いた場合の強度を確保するためには、金属線の抗張力を高くする必要があり、製造が困難となる。一方、厚みTが0.342×(W/T)−0.2539を超えると、曲げ大変形時にワイヤ表面歪が大きくなって、車両急旋回時などの際にワイヤの折れが発生しやすくなってしまう。また、扁平形状金属線の束の本数Nを2本または3本とするのは、束の本数が4本以上になると、トリート材を製造する工程で平面的に引き揃える加工作業が難しくなるためである。
【0018】
さらに、本発明においては、傾斜ベルト層に対する扁平形状金属線の単線または束の打込み本数P(本/50mm)が次式(2)、
−9.258×Ln(W/T)+40.187≦P≦−10.487×Ln(W/T)+45.848 (2)
(式中、WおよびTは前記と同じものであり、Lnは自然対数を示す)で表される関係を満足することも必要である。打込み本数Pが−9.258×Ln(W/T)+40.187未満では、タイヤの補強用ベルトとして用いた際の強度が不足する。一方、打込み本数Pが−10.487×Ln(W/T)+45.848を超えると、扁平形状金属線をベルト幅方向に単線間または束間で間隔を空けて平行かつ平面的に配置した際の隣り合う単線間または束間の間隙が狭くなり、ベルト層端部の剥離の発生と伝播を抑制できなくなる。
【0019】
本発明においては、上記に加えて、扁平形状金属線の単線または束の幅W(mm)と厚みT(mm)との比が次式、
0.1≦T/W≦0.34
で表される関係を満足することが好ましい。T/Wが0.1未満では、トリート材を製造する工程で平面的に引き揃える加工作業が難しくなる。一方、T/Wが0.34を超えると、タイヤの補強ベルトとして用いた場合の強度を確保するためには扁平形状金属線の厚みTfが厚くなり、その結果、扁平形状金属線の単線または束の厚みTも厚くなって、タイヤ軽量化に不利となる。
【0020】
扁平形状金属線20の断面形状としては、具体的には例えば、図2に示すように、一対の平行な直線部11と、その外側に凸となって対向する一対の円弧部12と、を有するトラック形であることが好ましい。この場合の円弧部12の曲率半径R(mm)は、好適には、厚みT(mm)に対し、下記式、
0.6354×T≦R≦0.77×T+0.019
で表される関係を満足するものとする。円弧部12の曲率半径Rが0.6354×T未満では、曲率半径が小さ過ぎるために金属線とゴムとの接着界面に発生する剪断応力が局所的に大きくなって、セパレーションが生じ易くなる。一方、曲率半径Rが0.77×T+0.019を超えると、直線部11と円弧部12との境界領域において金属線とゴムとの接着界面に発生する剪断応力が局所的に大きくなって、セパレーションが生じ易くなる。
【0021】
また、本発明においては、特には、図3に示すように、一対の平行な直線部21と、その外側に凸となって対向する一対の円弧部22と、さらに直線部21から円弧部22に推移する部位にもう一対の円弧部23と、を有するトラック形の断面形状を有する扁平形状金属線30を用いることで、車両の急旋回時などの際の曲げ大変形時のワイヤの折れをより効果的に抑制でき、好適である。この場合の円弧部22の曲率半径Ra(mm)は、好適には厚みT(mm)に対し、下記式、
0.5×T≦Ra≦0.77×T+0.019
で表される関係式を満足するものとする。この曲率半径Raが0.5×T未満では、曲率半径が小さすぎるために金属線とゴムの接着界面に発生する剪断応力が局所的に大きくなって、セパレーションが生じ易くなる。一方、曲率半径Raが0.77×T+0.019を超えると、円弧部23との境界領域において金属線とゴムとの接着界面に発生する剪断応力が局所的に大きくなって、セパレーションが生じ易くなる。さらに、円弧部23の曲率半径Rbは、好適には厚みT(mm)に対し、下記式、
T≦Rb≦2.5×T
で表される関係式を満足するものとする。円弧の曲率半径RbがT未満では、曲率半径が小さすぎるために曲げ大変形時に円弧部23の局所歪が大きくなって、車両の急旋回時などの際にワイヤの折れが発生しやすくなってしまう。一方、曲率半径Rbが2.5×Tを超えると、ワイヤの円弧部22との境界領域において金属線とゴムとの接着界面に発生する剪断応力が局所的に大きくなって、セパレーションが生じ易くなる。また、直線部21との境界領域において曲げ大変形時に発生する歪が局所的に大きくなって、車両の急旋回時などの際に金属線の折れが発生しやすくなってしまう。
【0022】
また、扁平形状金属線の、長手方向に直交する断面の厚みTfは、0.15〜0.26mmであることが好ましい。厚みTfが0.15mm未満では、ベルト層の剛性が不足して、タイヤの操縦安定性が損なわれる。一方、厚みTfが0.26mmを超えると、曲げ大変形時の扁平形状金属線の表面歪が大きくなり、車両の急旋回時などの際に金属線の折れが発生しやすくなる。
【0023】
さらに、扁平形状金属線の幅Wfと厚みTfとの比が次式、
0.12≦Tf/Wf≦0.34
で表される関係を満足することが好ましい。Tf/Wfが0.12未満である高扁平率の金属線の圧延加工では、金属線材の割れが発生しやすい。一方、Tf/Wfが0.34を超えると、タイヤの補強用ベルトとして用いた場合の強度を確保するためには金属線の厚みTfが厚くなり、その結果、金属線の単線または束の厚みTも厚くなって、タイヤの軽量化に不利となる。
【0024】
さらに、本発明に用いる扁平形状金属線の抗張力は、3300〜4000MPaであることが好ましい。抗張力が3300MPa未満では、ベルト層強力を確保するためには金属線の使用量が増大し、タイヤの軽量化に不利となる。あるいは、打込み本数を増加させる必要が生じ、隣り合う金属線または束間の間隔が狭くなって、ベルト層端部の剥離の発生および伝播を抑止できなくなる。一方、抗張力が4000MPaを超える金属線は、その製造が難しく、量産に適さない。
【0025】
本発明に係る扁平形状金属線は、通常の円形断面の金属線を製造するための従来の設備および工程をそのまま利用して、その伸線加工の後半部においてローラ間で圧延するか、または、扁平穴のダイスを通す等により扁平化することで、経済的かつ簡便に製造することが可能である。
【0026】
本発明においては、傾斜ベルト層3に用いる金属線について、上記条件を満足するものであればよく、それ以外のタイヤ構造の詳細や各部材の材質等については特に制限されず、従来公知のもののうちから適宜選択して構成することができる。例えば、図示するタイヤは、トレッド部5と、その両側に連なる一対のサイドウォール部6およびビード部7とからなり、カーカス2は、これら各部をビード部7内にそれぞれ埋設された一対のビードコア1間にわたり補強している。
【0027】
また、本発明において、傾斜ベルト層3を構成するベルトプライのコード角度は、好適には、タイヤ周方向に対し40°〜60°である。さらに、本発明において、カーカス2の補強コードとしては、ナイロン、ポリエステル、レーヨンまたは芳香族ポリアミドなどの各種有機繊維のコードを用いることができる。カーカス2は、少なくとも1層のカーカスプライよりなるが、カーカスプライは2層以上で配置してもよく、通常は図示するように、ビードコア1の周りにタイヤ内側から外側に折り返して係止される。
【0028】
さらにまた、本発明において傾斜ベルト層3の上に配置する周方向ベルト層4は、有機繊維コードをタイヤ赤道面に対し実質上平行に配列してなり、少なくとも1層、軽量化の観点から好適には1層にて配置される。周方向ベルト層7に用いる有機繊維コードとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ナイロン、ビニロン、アラミド等が挙げられる。周方向ベルト層4は、通常、帯状のベルト部材をタイヤ周方向にスパイラル状に螺旋巻回することにより形成されるため、実際にはタイヤ赤道線に対して若干の傾斜角を有する。また、本発明において、周方向ベルト層4におけるコードの打込み数は、補強性等の面から、40〜70本/50mmとすることが好ましい。
【0029】
さらに、本発明において、トレッド部5の表面には適宜トレッドパターンが形成され、ビードコア1のタイヤ半径方向外側にはビードフィラー(図示せず)が配置され、タイヤの最内層にはインナーライナーが配設される。さらにまた、本発明のタイヤにおいて、タイヤ内に充填する気体としては、通常のあるいは酸素分圧を変えた空気、または窒素等の不活性ガスを用いることが可能である。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
図1に示す構造を有する空気入りラジアルタイヤ(タイヤサイズ195/65R15)を、タイヤ赤道面に対し右50°の角度で傾斜する1層の傾斜ベルト層3と、タイヤ赤道面に対しほぼ平行な1層の周方向ベルト層4とを適用して作製した。各々の傾斜ベルト層には、下記表中のコード仕様欄に示されたスペックに従うコードをそれぞれ用いた。
【0031】
従来例1で用いたベルトコードは、図5に示すように、断面が円形である従来の金属線を1×3構造に撚り合せたものである。また、比較例1,2で用いたベルトは、断面が円形である従来の金属線を、比較例1では図6に示すように均一に打ち込んだもの、比較例2では6本の金属線束として打ち込んだもの(図示せず)である。さらに、扁平形状金属線を、実施例1〜3,6,7、比較例3,5で用いたベルトについては均一に、実施例4、比較例6,8,10で用いたベルトについては2本束配列で、実施例5,8、比較例4,7,11で用いたベルトについては3本束配列で、比較例9で用いたベルトについては4本束配列で、比較例12で用いたベルトについては6本束配列で、それぞれ打ち込んだ。さらにまた、比較例3,6については抗張力が高く、比較例4,11については抗張力が低い扁平形状金属線を用いた。
【0032】
得られた各供試タイヤにつき、以下に従い各性能試験を実施した。その結果を、下記表中に併せて示す。また、図8,9に、各実施例および比較例(比較例1,2を除く)における、金属線の単線または束の幅と厚みとの比W/Tと厚みTとの関係を示すグラフ、および、金属線の単線または束の幅と厚みとの比W/Tと打込み本数Pとの関係を示すグラフを、それぞれ示す。なお、各グラフ中の2本の曲線は、それぞれ、前記式(1),(2)の上限値および下限値に対応する。
【0033】
<耐ベルト端部剥離試験>
各供試タイヤを正規リムに組み付け、1.5kgf/cmの内圧を充填してテスト用乗用車に装着し、一般道路を6万km走行させた後、タイヤを解剖して、ベルトの端部に発生している亀裂の長さを測定した。結果は、各供試タイヤの亀裂長さの逆数を算出して、従来例1のタイヤの逆数値を100とした指数で示した。この指数が大きいほど、耐ベルト端部セパレーション性に優れている。また、この指数が90以上であれば、実用上問題とならない。
【0034】
<操縦安定性試験>
JIS規格D4202に準じて調整した各供試タイヤを、外径3mのドラム試験機に設置して、所定サイズおよび内圧により決定される荷重を負荷し、30km/hの速度で30分間予備走行させた後、昇温による内圧増加の影響を除くため、荷重を除いて内圧を規格値に再調整した。その後、再び同一速度および同一荷重の下にスリップ角度を±1°から±4°まで1°ごとに正負連続して付けて、正負各角度での単位角度あたりのコーナリングフォース(CF)を測定し、それらの平均値を算出してコーナリングパワー(CP)を求めた。結果は、各供試タイヤのCPを、従来例1のタイヤのCPで除して指数化して表示した。この数値が大きいほど、操縦安定性は良好である。
【0035】
<ベルト折れ試験>
各供試タイヤを実車に装着して、一定間隔で曲折するつづら折れ道路を時速60kmで2万km走行させた後、タイヤを解剖して傾斜ベルト層内のベルトコードを採取し、折れた状態にあるベルトコードの本数を調査して、その逆数を従来例1のタイヤを100として指数表示した。この数値が大きいほど、耐ベルト折れ性が良好である。また、この数値が95以上であれば、実用上問題とならない。
【0036】
<圧延加工作業性試験>
ベルトコードとゴムとを複合する前の、ベルトコードの準備作業および圧延(カレンダー)作業に要する時間を測定して、従来例1のベルトコードの作業時間との比較で、20%以内の時間増加を「○」で、それ以上の時間増加を「×」で示した。
【0037】
<ベルト重量>
各供試タイヤに用いた傾斜ベルト層の単位面積あたりの重量を測定し、従来例1を100として指数表示した。この数値が小さいほど傾斜ベルト層の重量が小さく、軽量であるといえる。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
【表4】

【0042】
【表5】

【0043】
上記表中に示すとおり、本発明の条件を満足する実施例1〜8のタイヤにおいては、耐ベルト端部剥離性や耐ベルト折れ性が実用上問題とならない程度の低下に抑えられ、かつ、従来例1対比で軽量化が達成されている。これに対し、比較例3のタイヤは、金属線の抗張力が4000MPaを越えるため、製造が難しく、量産に向かないことがわかる。また、比較例4のタイヤは、金属線の抗張力が3300MPa未満で、ベルト層の強力を確保するために金属線の使用量が増加したため、軽量化に不利となっている。さらに、比較例5〜12のタイヤについては、本発明の条件を満足しないために、耐ベルト端部剥離性や耐ベルト折れ性、圧延作業性のいずれかが悪い結果となっている。
【0044】
以上により、本発明の空気入りラジアルタイヤによれば、軽量化に起因する種々の問題点、すなわち、ベルト端部の耐剥離性や操縦安定性、耐ベルト折れ性等の諸性能を改善した軽量空気入りラジアルタイヤが得られることが確かめられた。
【符号の説明】
【0045】
1 ビードコア
2 カーカス
3 傾斜ベルト層
4 周方向ベルト層
5 トレッド部
6 サイドウォール部
7 ビード部
10 空気入りタイヤ
11,21 直線部
12,22,23 円弧部
20,30 扁平形状金属線
W 金属線の単線または束の幅
T 金属線の単線または束の厚み
Wf 金属線の幅
Tf 金属線の厚み
Ra 金属線の円弧部22の曲率半径
Rb 金属線の円弧部23の曲率半径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一対のビードコア間に跨がってトロイド状をなすカーカスのクラウン部外周に、複数本の金属線をタイヤ赤道面に対し傾斜配列してなる1層の傾斜ベルト層と、該傾斜ベルト層上に位置し、有機繊維コードをタイヤ赤道面に対し実質上平行に配列してなる少なくとも1層の周方向ベルト層と、からなる補強ベルトで強化されたトレッド部を備える空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記傾斜ベルト層が、該傾斜ベルト層内の少なくとも大部分の金属線が、その長手方向に直交する断面で見たときにベルト幅方向に長い扁平形状を呈する1本または複数本の金属線を撚り合わせることなくベルト幅方向に並列に引き揃えてなる金属単線または金属線束として存在し、該扁平形状金属線の単線または束がベルト幅方向に単線間または束間で間隔を空けて平行かつ平面的にベルト幅方向に配列されゴム中に埋設されて形成されてなり、
前記扁平形状金属線の単線または束の幅W(mm)と厚みT(mm)とが次式(1)、
0.334×(W/T)−0.3449≦T≦0.342×(W/T)−0.2539 (1)
(式中、Wは、扁平形状金属線の幅をWf(mm)とし、束の本数をNとしたとき、W=N×Wfで表され、Nは2または3である)で表される関係を満足し、かつ、
前記傾斜ベルト層に対する前記扁平形状金属線の単線または束の打込み本数P(本/50mm)が次式(2)、
−9.258×Ln(W/T)+40.187≦P≦−10.487×Ln(W/T)+45.848 (2)
(式中、WおよびTは前記と同じものであり、Lnは自然対数を示す)で表される関係を満足することを特徴とする空気入りラジアルタイヤ。
【請求項2】
前記扁平形状金属線の単線または束の幅W(mm)と厚みT(mm)との比が次式、
0.1≦T/W≦0.34
で表される関係を満足する請求項1記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項3】
前記扁平形状金属線の断面形状が、一対の平行な直線部と、その外側に凸となって対向する一対の円弧部と、を有するトラック形である請求項1または2記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項4】
前記扁平形状金属線の断面形状が、一対の平行な直線部と、その外側に凸となって対向する一対の円弧部と、さらに該直線部から該円弧部に推移する部位にもう一対の円弧部と、を有するトラック形である請求項3記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項5】
前記扁平形状金属線の、厚みTfが0.15〜0.26mmであり、幅Wfと厚みTfとの比が次式、
0.12≦Tf/Wf≦0.34
で表される関係を満足する請求項1〜4のうちいずれか一項記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項6】
前記扁平形状金属線の抗張力が3300〜4000MPaである請求項1〜5のうちいずれか一項記載の空気入りラジアルタイヤ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−91614(P2012−91614A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239286(P2010−239286)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】