説明

空気注入による地盤の飽和度の計測方法

【課題】地盤に空気を注入して地盤を不飽和化させる地盤の液状化防止方法における地盤の飽和度の計測方法において、所定の地盤全体について2次元または3次元的に計測し、二種の計測方法の組み合わせによって正確な地盤の飽和度の計測を可能とする地盤の飽和度の計測方法を提供すること。
【解決手段】比誘電率計測装置により地盤の比誘電率を計測することで地盤の飽和度を計測し、さらに比抵抗トモグラフィ計測装置により地盤の比抵抗変化率を計測することで地盤の飽和度を計測し、比抵抗トモグラフィ計測装置による計測結果および比誘電率計測装置による計測結果から地盤の飽和度の相関を導出し、比抵抗トモグラフィ計測装置による計測結果を比誘電率計測装置による計測結果に基づき較正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤の液状化防止対策である地盤への空気注入手段における空気注入状態の計測方法に関し、地盤への空気注入により変化する地盤の飽和度を二種類の計測方法を組み合わせて計測する空気注入による地盤の飽和度の計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地盤の液状化防止技術として地盤に空気泡を含有する気液混合流体(例えば、微細空気混合水)を注入し、または地盤に空気のみを直接的に注入するなどして、地盤内に多数の空気泡を滞留させることにより地盤の飽和度を低下させて液状化を防止する提案がなされている。なお、ここでいう地盤の飽和度とは、地盤を構成する土粒子と土粒子との間隙、および該間隙に存在する間隙水(地下水)との体積比率(地盤の地下水体積/土粒子間の間隙体積)を表し、地盤の液状化の可能性の程度を示す指標である。
【0003】
しかし、空気を含有する気液混合流体または空気のみを地盤に注入する方法や装置などの技術については種々提案されているが(例えば、特許文献1)、これら空気注入による地盤内の状態変化、つまり地盤の飽和度の変化を計測する適切な手法が確立していないという問題があった。
【0004】
具体的には、公知の物理探査手法を利用して地盤の飽和度を調査する検討は進められているものの、その調査対象が地盤の浅深度域に限定されていたり、局所的であったり、または比較的大きな空洞部や空隙部の探査に特定されるなどして、所定の地盤について地盤の飽和度を全体的に計測することができないという問題があった。さらには、複数の計測方法の組み合わせによる技術であっても、それぞれの計測方法の計量単位(例えば、電位差や振動数など)が異なることもあって計測値の相互評価が複雑化し、または、同種の計量単位による異なる計測方法の組み合わせによっても、そこで得られる計測値の差異を吸収できる評価法がないことによる計測値の確度低下によって一義的な評価が難しいという問題があった。また、物理探査手法以外にあっては、例えば地盤凍結工法を利用するなどして対象地盤の一部を凍結固化させた後に穿孔して採取し、該固化地盤の試料を調査する手法もあるが、調査終了までに非常に多くの時間を消費するために定量的評価が困難になり、地盤の液状化対策そのものの工期に影響を及ぼし、かつコストが高いことから実施工での採用が不可能であるという問題があった。
【0005】
これより、空気注入時/後の地盤の飽和度が不明瞭であることから、空気注入の方法、注入箇所の決定、注入装置の選定および注入量の適切な制御などができず、また時間がかかるという問題に繋がっている。
【0006】
【特許文献1】特開2007−132061号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、地盤に空気を注入して地盤を不飽和化させる地盤の液状化防止方法における地盤の飽和度の計測方法において、地盤の飽和度を水平方向または鉛直方向共に所定の地盤全体について2次元または3次元的に計測することを可能とし、二種の計測方法の組み合わせによって相互の機能的劣位を補完するように確度の高い計測を可能とすることで、正確な地盤の飽和度の計測を可能とするため空気注入の方法、注入箇所の決定、注入装置の選定および注入量の適切な制御などの地盤への空気注入手段が適正化され、計測に長時間を要しない地盤の飽和度の計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的の達成および課題を解決するために、本発明はつぎのように構成される。
【0009】
本願請求項1にかかる地盤に空気を注入し該地盤を不飽和化する地盤の液状化防止方法における空気注入による地盤の飽和度の計測方法は、
比誘電率計測装置により地盤の比誘電率を計測することで地盤の飽和度を計測し、さらに比抵抗トモグラフィ計測装置により地盤の比抵抗変化率を計測することで地盤の飽和度を計測し、比抵抗トモグラフィ計測装置による前記計測結果および比誘電率計測装置による前記計測結果から地盤の飽和度の相関を導出し、かつ比抵抗トモグラフィ計測装置による前記計測結果を比誘電率計測装置による前記計測結果に基づき較正することで、比抵抗トモグラフィ計測装置による計測方法をもって比誘電率計測装置による計測結果として所定の地盤の飽和度を計測することを特徴とする。
【0010】
本願請求項2にかかる地盤に空気を注入し該地盤を不飽和化する地盤の液状化防止方法における空気注入による地盤の飽和度の計測方法は、請求項1に記載の発明において、
比誘電率計測装置の計測点を部分配置し、かつ比抵抗トモグラフィ計測装置の計測点を広範囲に多点配置して同時に地盤の飽和度を計測することで、高精度かつ広範囲にわたる地盤の飽和度を計測することを特徴とする。
【0011】
本願請求項3にかかる地盤に空気を注入し該地盤を不飽和化する地盤の液状化防止方法における空気注入による地盤の飽和度の計測方法は、請求項1または2に記載の発明において、
(1)地盤内および地表面に比抵抗トモグラフィ計測装置の電極を設置し、さらに地盤内に比誘電率計測装置のプローブおよび空気注入管を設置し、(2)比誘電率計測装置および比抵抗トモグラフィ計測装置によりそれぞれ地盤の飽和度を計測し、(3)地盤内に前記空気注入管から空気注入し、(4−1)比誘電率計測装置の計測値が変化したら空気注入を一旦停止し、比抵抗トモグラフィ計測装置により地盤の飽和度を計測し、(4−2)または、比抵抗トモグラフィ計測装置の計測値が変化したら空気注入を一旦停止し、比誘電率計測装置を該計測値が変化した地盤に新設して地盤の飽和度を計測し、(5)所定の地盤の飽和度または飽和地盤の分布状態を満足しない場合は、前記工程(3)および(4−1)または(4−2)を繰り返す一連の前記工程(1)〜(5)により地盤に空気注入することを特徴とする。
【0012】
本願請求項4にかかる地盤に空気を注入し該地盤を不飽和化する地盤の液状化防止方法における地盤の飽和度の計測方法は、請求項1〜3のうち何れか一項に記載の発明において、
比誘電率計測装置をFDR計測装置、TDR計測装置またはADR計測装置とすることを特徴とする。
【0013】
本願請求項5にかかる地盤に空気を注入し該地盤を不飽和化する地盤の液状化防止方法における地盤の飽和度の計測方法は、請求項1〜4のうち何れか一項に記載の発明において、
比抵抗トモグラフィ計測装置により2次元または3次元的に地盤の飽和度を計測することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、
比誘電率計測装置と比抵抗トモグラフィ計測装置との計測結果の相関を導出した上で、計測精度の高い比誘電率計測装置による計測結果を基に比抵抗トモグラフィ計測装置による計測結果を較正し、較正後は比抵抗トモグラフィ計測装置により地盤の飽和度を計測することとしたため、
二種の計測値の評価に複雑性がなく、計測精度および確度の向上に繋がる。
【0015】
また、設置が容易な比抵抗トモグラフィ計測装置の計測点を広範囲に多点配置するため、
調査対象の地盤が浅深度域または局所に限定されたり、空洞部や空隙部の探査に特定されることなく、地盤の飽和度を広範囲に計測可能であり、このため比誘電率計測装置の計測点を部分的に配置するに留めることができる。
【0016】
また、二種の計測方法は共に地盤内または地表面に計測用の電極やプローブを設置する物理探査方法を採用するため、
地盤の一部を直接採取する方法などに比して短時間で計測できるため液状化対策工の全体工期の短縮に繋がり、かつ低コストで実現できる。
【0017】
また、地盤内および地表面に比抵抗トモグラフィ計測装置の電極を設置し、さらに地盤内に比誘電率計測装置のプローブおよび空気注入管を設置し、比誘電率計測装置および比抵抗トモグラフィ計測装置によりそれぞれの地盤の飽和度を計測し、地盤内に前記空気注入管から空気注入し、比誘電率計測装置の計測値が変化したら空気注入を一旦停止して比抵抗トモグラフィ計測装置の比抵抗値を計測するか、または比抵抗トモグラフィ計測装置の計測値が変化したら空気注入を一旦停止し、比誘電率計測装置を該計測値が変化した地盤に新設して地盤の飽和度を計測し、所定の地盤の飽和度または飽和地盤の分布状態を満足しない場合は、空気注入の工程を繰り返す一連の工程によるため、比誘電率計測装置による高精度計測と比抵抗トモグラフィ計測装置による広域計測との相互の優位性をより効果的に発揮することができる。
【0018】
また、比誘電率計測装置はFDR計測装置、TDR計測装置またはADR計測装置とする自由度があるため、土質や地下水などの地盤状態または他の施工条件に応じた計測方法および計測装置を適宜選定することができる。
【0019】
さらに、比抵抗トモグラフィ計測装置により2次元または3次元の地盤の飽和度分布が明瞭化するため、空気注入の方法、注入箇所の決定、注入装置の選定および注入量の適切な制御などができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の地盤に空気を注入し該地盤を不飽和化する地盤の液状化防止方法における地盤の飽和度の計測方法について、比誘電率計測装置をFDR計測装置とする場合を例示して図面を基に説明する。
【0021】
まず、図1に、本発明の実施形態の対象地盤に空気注入装置、FDR計測装置および比抵抗トモグラフィ計測装置を設備する工程、および空気の注入状況を示すように、地盤の液状化防止を目的とする地盤1の不飽和化対策を講ずる対象地盤1aおよびその周辺の地盤1に、先端部に空気注入孔2aを有する空気注入管2bを(例えば、穿設するなどして)設置し、地上に設備する空気圧縮機2c、空気貯留器2dおよび流量制御装置2eなどから構成される空気製造設備に配管接続することで対象地盤1aを不飽和化するための空気注入装置2を施設する。なお、空気注入孔2aは先端部に限定されず、空気注入管2bの中間位置であっても、また複数箇所にあってもよく、さらに空気注入管2bを前後方向または左右方向に間隔をおいて複数本設置しても構わない。
【0022】
つぎに、対象地盤1aもしくはその近傍の地盤1に穿孔5aを築造し、プローブ3aを対象地盤1a,地盤1に挿設する。プローブ3aには計測結線3bが接続されており、さらに地上に設備するコントローラ3cに接続することで、FDR計測装置3を構成する。ここで、FDR計測装置3のプローブ3aの設置個所は、例えば対象地盤1aの外縁要部およびその中間部に数本を設置すればよい。なお、コントローラ3cは、トラッキングジェネレータ、ディレクティブカプラ、スペクトラムアナライザおよびコンピュータなどから構成される計測ユニットである。
【0023】
また、対象地盤1aから若干の離隔をとって穿孔5bを築造し、電極4aを地盤1に挿設すると共に、地表面1bにも電極4aおよび遠電極4a′を設置する。電極4a,遠電極4a′には計測結線4bが接続されており、さらに地上に設備するコントローラ4cに接続することで、比抵抗トモグラフィ計測装置4を構成する。ここで、電極4aは、穿孔5bの内部において例えば1m間隔を維持して縦列配設し、かつ地表面1bにおいて同様の間隔で前後方向および左右方向に間隔をおいて平面配置することが効率的である。なお、電極4aの設置数または設置間隔は、必要とする計測精度に応じて増減すればよく、また、穿孔5bは対象地盤1aを囲むように複数本を設置すればよい。なお、コントローラ4cは、送受信機、電極切換装置、解析装置およびコンピュータなどから構成される計測ユニットである。
【0024】
ここで、FDR計測装置3(以下、単に「FDR」ともいう)の構成設備である穿孔5aおよび比抵抗トモグラフィ計測装置4(以下、単に「比抵抗トモグラフィ」ともいう)の構成設備である穿孔5bのそれぞれは、プローブ3aまたは電極4aの挿設後に穿孔時に発生した土砂などにより埋め戻せばよく、または地上にて作泥した泥水を充填するなどして孔壁維持してもよい。また、各計測装置は地盤1または対象地盤1aを構成する土砂を使用して、予めそれぞれキャリブレーションすることで、土質に起因する計測誤差を排除しておく。
【0025】
つぎに、図2に、FDRの計測に基づき比抵抗トモグラフィの計測結果を較正する工程を示すように、FDR計測装置3および比抵抗トモグラフィ計測装置4により、対象地盤1a,地盤1に空気6を注入する前の初期比誘電率および初期比抵抗変化率を計測し原地盤の地盤の飽和度の初期値を計測しておく。なお、図示では、FDRの計測点3dの一箇所について、この計測点3dが比抵抗トモグラフィの計測経路4dの中間点として位置するいくつかの計測経路4dにわたって、それぞれ地盤の飽和度を計測する形態としている。もちろん、設置したFDRのプローブ3aの全ての計測点3dについて比抵抗トモグラフィによる地盤の飽和度を計測することが望ましい。
【0026】
これより、FDRのプローブ3aが設置される計測点3dについて、FDR計測装置3および比抵抗トモグラフィ計測装置4によって、かつ比抵抗トモグラフィ計測装置4の計測の場合は通常では複数の計測経路4dにわたって、地盤の飽和度が計測される。ここで、両計測装置による計測精度は、FDR計測装置3がプローブ3aの周囲数mm〜数十mmの局所範囲を誘電率により計測するのに対して、比抵抗トモグラフィ計測装置4は電極4a,4a間の比較的長距離を電気抵抗の変化率を基に計測し、また土質固有のパラメータ(例えば、迂回係数、膠結係数または飽和係数など)に基づいて演算処理していることもあり、FDRによる計測結果が優れている。そこで、比抵抗トモグラフィ計測装置4とFDR計測装置3とによるそれぞれの計測結果から地盤の飽和度の相関を求め、比抵抗トモグラフィによる計測結果をFDRによる計測結果に基づいて較正することで両計測結果を一致させ、比抵抗トモグラフィによる計測結果がFDRによる計測結果を示すようにする。また、破線Rで図示するように、コントローラ3c,4cを結線し、コントローラ4c内においてコントローラ3cからの出力信号(FDRの計測結果)に対して自動較正を可能とするように構成すれば効率的である。
【0027】
このように対象地盤1a,地盤1に空気注入装置2、FDR計測装置3および比抵抗トモグラフィ計測装置4を設備し、先述のように原地盤の地盤の飽和度の初期値を計測した後に、図1に示すように空気注入装置2から空気注入孔2aを空気6の吐出孔として地盤1に空気(圧縮空気)6を注入して空気泡を混入させ対象地盤1aの地盤の不飽和化を開始する。なお、本実施例においては地盤1,対象地盤1aに直接的に空気6を注入する不飽和化手段を示しているが、例えば微細空気泡を含有する気液混合流体を注入する場合などであっても、地盤の飽和度を変化させる手段によるものであればよい。
【0028】
つぎに、ある一定量の空気6の注入の後に一旦空気6の注入を停止し、所定箇所の計測点3dに設置したFDRのプローブ3aにより、図2に示すように地盤の飽和度を計測する。さらに、ここでもFDRによる計測結果に基づいて比抵抗トモグラフィによる計測結果を較正することで、確度の高いデータを採取し、以降の計測についても同様にFDRの計測結果で比抵抗トモグラフィの計測結果を較正しつつ、空気6の注入作業を継続し地盤の不飽和化を進めていく。
【0029】
ただし、注入する空気6は、対象地盤1a,地盤1の内部において常に安定的な拡散を続けることが希有であることから、先述のような当初配置した計測点3dのプローブ3aによる計測が常時可能とは限らない。そこで、このような場合であって、かつ地盤の不飽和化の程度をFDRの高精度な計測により確認する必要がある場合には、先述の計測手順を逆にして、比抵抗トモグラフィによる計測結果を基に(地盤の飽和度が変化している箇所を特定)して、対象地盤1a,地盤1に穿孔5aおよびプローブ3aを新規に増設して計測結線3bによりコントローラ3cに接続しFDRにより計測することで、飽和度の変化点を追求する形態で高精度な飽和度計測を実現可能とする(図示を省略する)。この場合、飽和度が変化している絶対位置に直接的に計測点3dを増設しているため、以降は該計測点3dによって定量的な計測が可能となる。
【0030】
ここで、地盤の飽和度の計測を複数回にわたって繰り返し、その都度FDRの計測結果に基づいて比抵抗トモグラフィによる計測結果を較正する作業を繰り返していると、FDRと比抵抗トモグラフィによる両計測結果から地盤の飽和度の相関が明瞭化され、この相関に基づき比抵抗トモグラフィのみでほぼ安定した計測結果が得られるようになることが多い。
【0031】
そこで、図3に、比抵抗トモグラフィによる地盤の飽和度の計測工程を示すように、安定的計測結果が比抵抗トモグラフィから得られるようになったら、以降は比抵抗トモグラフィのみで地盤の飽和度を計測することが可能となる。つまり、地盤の飽和度の計測方法は比抵抗トモグラフィを採用し、その計測結果はFDRの計測結果に同等の数値を反映させることができ、これより従前の手法による複数計測法の組み合わせによる計測値の評価の複雑性などをはじめとする問題が克服可能となる。なお、FDR計測装置3は常時機能させておき、飽和度変化の瞬時値を確認するなどの計測に充てればよい。
【0032】
ここで、両計測法の特徴として、FDRによる飽和度計測は、瞬時に計測結果が得られ、かつ局所計測を可能とするため対象地盤1a,地盤1の絶対座標における数値を取得することができる一方で、広範な計測にはプローブ3aの設置点数が増加する他、プローブ3a,3a間の計測ができない。他方、比抵抗トモグラフィによる飽和度計測は、広域計測に適しているが、設置する電極4aの必要量などから計測自体にある程度の時間を要し、さらに計測値の解析作業を経て飽和度が算出されるため計測開始から相応のタイムラグが生じ、また電極4a,4a間が長距離化するため対象地盤1a,地盤1の内部に障害物がある場合などは計測経路4dの寸断によって正確な計測に困難を極める。
【0033】
よって、本発明ではFDR計測装置3および比抵抗トモグラフィ計測装置4を組み合わせて地盤の飽和度を計測することにより、両計測法の劣位を相互補完して解消し、正確で広範囲の飽和度計測を可能としたものである。これより、従前のような計測域が浅深度部や局部に限定されたり、または空洞部や空隙部の探査に特定されることなく、地盤1の全体にわたって飽和度計測が可能となる。このとき、FDR計測装置3のプローブ3aは比抵抗トモグラフィの計測結果の較正を主とした機能とするため、部分的に数箇所配置すればよく、対して比抵抗トモグラフィ計測装置4の電極4aは地盤1および地表面1bにわたって必要な計測精度に応じて多点的に配設する。
【0034】
ここで、図4に、FDRの計測結果と比抵抗トモグラフィの計測結果との対応関係を示すように、原地盤の土質状態に対応した高精度の計測法による計測結果を基準として地盤の飽和度を評価する必要があるため、実際の対象地盤1aによるFDR計測装置3の計測結果を基準として、該計測結果(34b)と比抵抗トモグラフィ計測装置4による計測結果(34b)との相関を取得することで、比抵抗トモグラフィの計測結果をFDRの計測結果を基に較正することが可能な較正曲線34aが導出される。よって、比抵抗トモグラフィによる計測結果は、FDRによる高精度な計測結果として置き換えて使用することが可能となる。これより、本来広域計測を得意とする比抵抗トモグラフィに、FDRの高精度な計測法による計測と同等の計測精度を付加することが可能となる。なお、図示は、本出願人による一試験結果であり最も単純な一次の相関にある地盤の例であるが、地盤を構成する土粒子や地下水の性状などによって2次の関数となる場合や、さらに高次の関数として相関を示す場合も存在し、地盤が大きく層変化する場合などは、各層ごとに相関を取得する必要がある場合も存在する。
【0035】
つぎに、図5に、対象地盤1aの任意断面について地盤の飽和度および飽和分布を示すように、地盤の飽和度計測のひとつに比抵抗トモグラフィを組み合わせることの利点として、計測結果を任意の水平または鉛直の2次元断面として切り出すことが可能であり、経時的な対象地盤1a,地盤1の不飽和化の進行を可視化することができることにある。もちろん、この計測結果はFDRの計測結果によって較正されている高精度なものである。
【0036】
さらに、比抵抗トモグラフィによる計測経路4dは、図3に一断面を示したように、電極4aの設置数と設置間隔によって細かな設定ができるため、図示を省略するが縦横断面の可視化に留まらず斜断面を表示することも可能であり、さらに図示を省略するが複数断面をコンピュータ上で立体合成すれば、3次元グラフィックスとして空気(空気泡)6の注入状況および地盤の飽和度の変化が明瞭になり、加えて時間経緯による連続的な不飽和化の進行状況を把握することが可能となる。
【0037】
以上のことは、空気注入管2bの穿設位置を特定することにも繋がり、例えば従来技術にみられる一定間隔による空気注入管2bの設置から、空気6の注入が困難な箇所に集約して空気注入管2bを設置する計画などが可能となる。さらに、種々提案されている空気注入方法について、最も適切な注入方法および装置を選定する要素にもなり、空気6の必要注入量の制御などが適正化され、かつ対象地盤1aを例えば凍結固化させるなどして採取することを必要としないため計測工自体が比較的短時間で終了し、これより定量的な評価が可能となり、かつコスト低下にも繋がり、空気注入による地盤の液状化防止工法の全体としての工期短縮をもたらす。
【0038】
なお、比誘電率計測装置をTDR計測装置またはADR計測装置とする場合についても、計測における計量単位が異なるもののFDR計測装置3とした場合と基本的に実施形態が同様であるため説明を省略することとし、ここでの実施形態に示した構成を適宜設計変更して実施することは本発明の範囲に属する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施形態の対象地盤に空気注入装置、FDR計測装置および比抵抗トモグラフィ計測装置を設備する工程、および空気の注入状況を示す縦断面図である。
【図2】本発明の実施形態のFDRの計測に基づき比抵抗トモグラフィの計測結果を較正する工程を示す縦断面図である。
【図3】本発明の実施形態の比抵抗トモグラフィによる地盤の飽和度の計測工程のイメージを示す縦断面図である。
【図4】本発明の実施形態のFDRの計測に基づき比抵抗トモグラフィの計測結果を較正するための両計測結果の対応関係であり、FDRの計測結果と比抵抗トモグラフィの計測結果とによる地盤の飽和度の相関を示すグラフである。
【図5】本発明の実施形態の地盤の任意断面における地盤の飽和度および飽和分布であり、(A)は対象地盤の2次元水平断面の一部を可視化した映像であり、(B)は対象地盤の2次元鉛直断面の一部を可視化した映像である。
【符号の説明】
【0040】
1 地盤
1a 対象地盤(不飽和化対策地盤)
1b 地表面
2 空気注入装置
2a 空気注入孔
2b 空気注入管
2c 空気圧縮機
2d 空気貯留器
2e 流量制御装置
3 FDR計測装置
3a プローブ
3b 計測結線
3c コントローラ
3d 計測点
34a (FDRと比抵抗トモグラフィの計測結果の相関を示す)較正曲線
34b (対象地盤による)計測結果
4 比抵抗トモグラフィ計測装置
4a 電極
4a′ 遠電極
4b 計測結線
4c コントローラ
4d 計測経路
5a (プローブ3a設置用の)穿孔
5b (電極4a設置用の)穿孔
6 空気
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に空気を注入し該地盤を不飽和化する地盤の液状化防止方法における空気注入による地盤の飽和度の計測方法について、
比誘電率計測装置により地盤の比誘電率を計測することで地盤の飽和度を計測し、
さらに比抵抗トモグラフィ計測装置により地盤の比抵抗変化率を計測することで地盤の飽和度を計測し、
比抵抗トモグラフィ計測装置による前記計測結果および比誘電率計測装置による前記計測結果から地盤の飽和度の相関を導出し、かつ比抵抗トモグラフィ計測装置による前記計測結果を比誘電率計測装置による前記計測結果に基づき較正することで、
比抵抗トモグラフィ計測装置による計測方法をもって比誘電率計測装置による計測結果として所定の地盤の飽和度を計測することを特徴とする
空気注入による地盤の飽和度の計測方法。
【請求項2】
比誘電率計測装置の計測点を部分配置し、かつ比抵抗トモグラフィ計測装置の計測点を広範囲に多点配置して同時に地盤の飽和度を計測することで、
高精度かつ広範囲にわたる地盤の飽和度を計測することを特徴とする
請求項1に記載の空気注入による地盤の飽和度の計測方法。
【請求項3】
(1)地盤内および地表面に比抵抗トモグラフィ計測装置の電極を設置し、さらに地盤内に比誘電率計測装置のプローブおよび空気注入管を設置し、
(2)比誘電率計測装置および比抵抗トモグラフィ計測装置によりそれぞれ地盤の飽和度を計測し、
(3)地盤内に前記空気注入管から空気注入し、
(4−1)比誘電率計測装置の計測値が変化したら空気注入を一旦停止し、比抵抗トモグラフィ計測装置により地盤の飽和度を計測し、
(4−2)または、比抵抗トモグラフィ計測装置の計測値が変化したら空気注入を一旦停止し、比誘電率計測装置を該計測値が変化した地盤に新設して地盤の飽和度を計測し、
(5)所定の地盤の飽和度または飽和地盤の分布状態を満足しない場合は、前記工程(3)および(4−1)または(4−2)を繰り返す
一連の前記工程(1)〜(5)により地盤に空気注入することを特徴とする
請求項1または請求項2に記載の空気注入による地盤の飽和度の計測方法。
【請求項4】
比誘電率計測装置をFDR計測装置、TDR計測装置またはADR計測装置とすることを特徴とする
請求項1〜3のいずれか一項に記載の空気注入による地盤の飽和度の計測方法。
【請求項5】
比抵抗トモグラフィ計測装置により2次元または3次元的に地盤の飽和度を計測することを特徴とする
請求項1〜4のいずれか一項に記載の空気注入による地盤の飽和度の計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−121066(P2009−121066A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−293617(P2007−293617)
【出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【出願人】(000219406)東亜建設工業株式会社 (177)
【出願人】(000236610)株式会社不動テトラ (136)
【出願人】(000103769)オリエンタル白石株式会社 (136)
【出願人】(500355075)株式会社日本地下探査 (3)
【Fターム(参考)】