説明

空気流通装置

【課題】水との接触を嫌うような機器に対する空気流通をできるだけ水の入り込みを避けることができる、エアスクープを用いた空気流通装置を提供する。
【解決手段】空気流通装置は、作業車の車体に支持されたエンジンとエンジン補機とを収納するエンジンルームを覆うボンネット3に設けられる。ボンネット3のアッパーパネル5に設けられ、車体前方に向けて開口するとともに車体後方に傾斜した開口面を有する空気流通口51を形成するエアスクープ部50と、空気流通口51を内側から覆う多孔板52と、多孔板52を通過した水滴をエンジンルーム内の水滴落下許容領域に案内するために空気流通口51の下方でエンジン高温機器23の上方に設けられた案内板53とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車の車体に支持されたエンジンとエンジン補機とを収納するエンジンルームを覆うボンネットに設けられた空気流通装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の空気流通装置において、ボンネット内外における空気流通性を向上させるためにボンネットに設けられた開口を利用して空気流通口を形成するエアスクープが用いられている。例えば、特許文献1に記載されたトラクタにおける空気導入技術では、ボンネットのアッパーパネルに形成された貫通孔に設けられた外気吸入口を介してボンネット内に流れ込んだ外気が、ボンネットのアッパーパネルにサイドパネルからエアフィルタ部と連通路を通って空調ユニットに送られるように構成されている。ボンネットの表面側ではアッパーパネルの貫通孔を覆う吸気カバーがアッパーパネルから左右のサイドパネルに至るまで延設されており、サイドパネルの領域において吸気用スリットが形成されている。これにより、この技術では、ボンネットの左右から外気を取入れる構成を採用しており、雨露、ゴミやホコリ等がボンネット内に入ることが抑制されている。しかしながら、この構成では、ボンネットの横断方向のほぼ全周囲にわたって吸気カバーが延設しているので、吸気用スリットから外気吸入口に至るまでの外気流通における流れ抵抗が大きくなるという問題が生じる。さらに、そのような吸気カバー存在が外観デザインに及ぼす影響が大きすぎるという付加的な問題も生じる。
【0003】
ボンネット内に配置されたインタークーラに外気を供給するために、アッパーパネルの上面にのみ空気流通路を形成した空気導入技術が特許文献2に記載されている。この技術ではアッパーパネルの上面に形成されたボンネット開口部を覆うカバーは車体前後方向に延びており、そのカバーの前端で外気取り入れ口を形成している。外気取り入れ口のすぐ後方に位置するボンネット開口部を雨や洗車水が直接入り込むのを抑制するために水切り板が設けられている。しかしながら、この構成では、水切り板を乗り越えた水やごみはそのままボンネット開口部を通ってボンネット内に進入し、ボンネット開口部の真下に配置された、水やごみを嫌うエンジンやエンジン補機に容易に達してしまうという問題が残る。
【0004】
さらに、エアスクープを通ってボンネット内に入り込んだ水をボンネット内の電装品などを避けて落下させる空気導入技術が特許文献3に記載されている。この技術では、エアスクープの外気導入口から導入された外気がアッパーパネルに設けられた貫通孔を通じてボンネット内に入り込み、さらに貫通孔の真下に配置されたインタークーラを通過し、放出口から放出されるように冷却風通路が形成されている。従って、外気導入口から冷却風通路に入り込んだ水は電装品などを避けるように位置決めされた放出口から流出する。しかしながら、一旦冷却風通路に入り込んだ水はインタークーラを通過するので、インタークーラに対する防水は全く考慮されていない。従って、水との接触を嫌うような機器に対する空気流通を目的とする空気流通装置には、このような構成を採用することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−1742号公報(段落番号〔0034−0038〕、図4)
【特許文献2】実開昭64−9816号公報(4−8頁、図1)
【特許文献3】実公平5−34977号公報(2−4頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記実情に鑑み、本発明の目的は、水との接触を嫌うような機器に対する空気流通をできるだけ水の入り込みを避けることができる、エアスクープを用いた空気流通装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、作業車の車体に支持されたエンジンとエンジン補機とを収納するエンジンルームを覆うボンネットに設けられた、本発明による空気流通装置は、前記ボンネットのアッパーパネルに設けられ、車体前方に向けて開口する開口面を有する空気流通口を形成するエアスクープ部と、前記空気流通口を内側から覆う多孔板と、前記多孔板を通過した水滴を前記エンジンルーム内の水滴落下許容領域に案内するために前記空気流通口の下方でエンジン高温機器の上方に設けられた案内板とを備える。
【0008】
この構成によると、以下の複合的な利点が得られる。
1)エアスクープがアッパーパネルに設けられているが、その空気流通口が車体前方を向いているので、エンジン高温機器によって加熱された高温空気が空気流通口を通じて放出されても直接運転席や正面ウインドシールドに向かうことはなく、運転席やキャビンが熱風にさらされる危険性がない。
2)空気流通口に入った雨水や洗車水は多孔板によってその大部分がはじき返され、残りの進入した水滴はその流速が減じられるので、エンジンルーム内に拡散せずに、多孔板の下方に落下する。
3)多孔板の孔を通過して落下した水滴は案内板によって受け止められ、エンジンルーム内の水滴が落下しても差し支えのない水滴落下許容領域まで案内され、そこで放出されるので、エンジンやエンジン補機などに対する水滴被害を抑制できる。
【0009】
好適な実施形態の1つとして、前記空気流通口の開口面を車体後方に傾斜させる形態を採用するならば、開口面が上向きとなり、エンジンルームからの高温空気の放出効率が高まる。
【0010】
空気流通口を内側から覆う多孔板の孔を通って進入してきた水滴はその流速が減じられているので、多孔板の後方遠くに飛ぶ可能性は小さく、その多くは多孔板を伝わって多孔板の(車体方向に関して)前端部から滴り落ちる。また、エンジンルーム内に入り込んだ水滴を受け止める案内板は、その水平面積大きい方が水滴受け止め効果が大きくなるが、エンジン高温機器によって加熱された高温空気の空気流通口への流れの邪魔になる。このように水滴防御と高温空気放出とのトレードオフの関係を最適に解決するため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記案内板の後端は前記空気流通口の後縁部の下方に位置し、前記案内板の前端は前記空気流通口の前縁部の下方よりさらに車体前方に位置している。これにより、高温空気の空気流通口への流れ断面積を十分に確保するとともに、多孔板を伝わって多孔板の前端部から滴り落ちる水滴を案内板が確実に受け止めることができる。なお、この明細書における車体方向とは、車体長手方向ないしは車体前後方向を意味している。
【0011】
さらに、具体的で好適な案内板の形態として、前記案内板は、前記エンジンルームの横断方向中央から下向き傾斜しながら右側に延びる流出路を形成する右案内板部と、前記エンジンルームの横断方向中央から下向き傾斜しながら左側に延びる流出路を形成する左案内板部とから構成されることが提案される。これにより、案内板で受け止められた水滴は、水滴落下許容領域であるエンジンルームの左右の側端領域に振り分けて放出することができる。
【0012】
空気流通口との間の空気の流れが案内板によってできるだけ邪魔されにくい場所に高熱源となるエンジン補機を配置しようとすると、その場所は案内板の後方近くとなる。その場合、案内板によって受け止められた水滴が案内板の後端から飛び出すことをできる限り回避しなければならない。この目的のため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記案内板が車体方向に関して前記案内板の前端が後端より低くなる傾斜姿勢で配置されている。
【0013】
ボンネットのアッパーパネル面で車体後方に傾斜した開口面を有する空気流通口を有するエアスクープ部からエンジンルーム内に雨水や洗浄水などが入り込むことは抑制するためには、アッパーパネル面を伝わって入ってくる水をできるだけ阻止することも重要である。この目的のため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記空気流通口の前縁部が前記空気流通口の開口面に沿って上向きに突き出た水切り片部として形成されている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による空気流通装置の基本的な構造を図解する模式図である。
【図2】本発明による空気流通装置を採用したトラクタの全体側面図である。
【図3】ボンネットの外観を示す斜視図である。
【図4】裏側から見たボンネットの一部を示す斜視図である。
【図5】長手中心線で切断したボンネットの縦断面図である。
【図6】ボンネットの平面図である。
【図7】DPFマフラからの排気系統を示す斜視図である。
【図8】多孔板と案内板との位置関係を示す模式的に示す側面図である。
【図9】ボンネット開閉動作を補助するダンパの取り付け要領を示す模式図である。
【図10】別実施形態における、多孔板と案内板とエンジン高温機器との位置関係を示す模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明によるボンネットに設けられた空気流通装置の具体的な実施の形態を説明する前に、図1を用いて、その基本的な構造を説明する。本発明の空気流通装置100は、作業車の車体に支持されたエンジンとエンジン補機とを収納するエンジンルームを覆うボンネット3に設けられ、その基本構成要素は、エアスクープ部50と、多孔板52と、案内板53である。エアスクープ部50は、ボンネットのアッパーパネル5に設けられ、車体前方に向けて開口するとともに車体後方に傾斜した開口面(車体前側から後側に行くほど上がっていく傾斜面)を有する空気流通口51を形成している。多孔板52は、空気流通口51を内側から覆うもので、パンチングメタルや金網シートあるいは種々の空気流通可能であるが、小石などの通過は排除できるものが好ましい。案内板53は、多孔板52を通過した水滴等をエンジンルーム内の水滴落下許容領域に案内するために空気流通口51の下方で、エンジンルーム内に配置されているエンジン高温機器などの高熱源の上方に設けられている。水滴落下許容領域は、水滴がかかることを避けたいエンジン部分やエンジン補機、特にエンジン電装機器が存在しない領域であり、一般的にはボンネット3の左右の側端領域が水滴落下許容領域となっている。
【0016】
空気流通口51が高熱源の上方に位置することで、高熱源によって加熱されて上方に流れ出す高温空気をそのまま空気流通口51が放出することができるが、その位置関係は逆に、雨水や洗車水が高熱源の上に降り注ぐ可能性をもたらす。このため、本発明では、空気流通口51に流れ込んでくる水を多孔板52で部分的に遮るとともに、なおエンジンルーム内に流れ込んでくる水滴の速度を緩やかにする。さらに、多孔板52で運動エネルギーを減じられた多くの水滴が落下する位置に案内板53が配置されており、この案内板53は、落下してきた水滴を受け止め、水滴落下許容領域に排出する。図1の拡大された側面図から理解できるように、案内板53は、高熱源と空気流通口51との間の直線的な空気流れ空間を完全に遮るのではなく、その空気流れ空間の流れ断面の半分程度を遮っている。より具体的には、この水滴との接触と高温空気の放出とのトレードオフを好適にするためには、車体方向に関して、案内板53の後端53bは空気流通口51の後縁部に一致するかまたは空気流通口51の後縁部からさらに車体後方に延びており、案内板53の前端53aは空気流通口51の前縁部からさらに車体前方に延びていることが好ましい。別の条件でいえば、空気流通口51の開口面の鉛直中心線HLが案内板53の後端付近を通り、高熱源に交わるような、空気流通口51と案内板53と高熱源との位置関係が望ましい。
【0017】
図1から理解できるように、エンジンルームの左右の側端領域が水滴落下許容領域である場合、案内板53で受け止めた水滴を当該側端領域へ落下させるために、案内板53を前記エンジンルームの横断方向中央から下向き傾斜しながら左側に延びる流出路を形成する左案内板部53Aと、前記エンジンルームの横断方向中央から下向き傾斜しながら右側に延びる流出路を形成する右案内板部53Bと、から構成するとよい。また、案内板53の後端53bを越えて高熱源に不測に水滴が落下する可能性をできる限り小さくするためには、エンジンルームの上方に配置された高熱源の前側を跨ぐように、かつ車体方向に関して案内板53の前端53aが後端53bより低くなる傾斜姿勢で案内板53を配置するとよい。
【0018】
次に、上述した本発明による空気流通装置100の基本的な構造を、トラクタに適用した、具体的な実施形態を、図を参照しながら説明する。この実施形態では、空気流通装置100は、図2でその全体側面が示されているトラクタのボンネット3に装備されている。このトラクタは、左右一対の前輪11と左右一対の後輪6によって支えられている車体1を備えている。車体1は、車体前後方向に連結された、前部フレーム13、クラッチハウジング14、トランスミッションケース15などによって構築されている。前部フレーム13にはエンジン21やエンジン補機22が搭載されている。車体1の後半分にはキャビン2で覆われた運転部が設けられている。このトラクタには、このトラクタには、エンジン補機のうち特に高熱を発するものとして、DPFマフラ23が備えられている。エンジン補機には、その他、冷却ファン、ラジエータ、インタークーラ、オイルクーラ、エアクリーナ、さらには空調用のコンデンサやバッテリが含まれる。エンジン21やエンジン補機を収納するエンジンルームは前部フレーム13の上方で、ボンネット3によって覆われる空間として形成されている。
【0019】
ボンネット3は、その上方後端部に設けられた揺動クロス軸ユニット17の揺動軸心周りにその全体が開閉揺動するフルオープン式である。揺動クロス軸ユニット17は、クラッチハウジング8に立設された支持フレーム16のクロスビームに設けられている。
【0020】
以下、ボンネット3の構造を図3〜図6を用いて説明する。
ボンネット3は、左右のサイドパネル4と両端部に短いスカート部5aを形成したアッパーパネル5と、フロントグリル6とからなり、それぞれ個別に製作され、その後、1つのボンネット3として組みつけられる。サイドパネル4の上端とアッパーパネル5のスカート部5aの下端が互いの表面がフラットとなるように、ここではボルト連結部9として形成された連結手段を介して連結される。また左右のサイドパネル4とアッパーパネル5とは、それらが作り出す逆U字状の前端に嵌合するように、フロントグリル6が図示されていないボルト連結部を介して連結される。
【0021】
フロントグリル6は、正面視で実質的に四角形状を有し、その中央部にはグリルパンが装着されるグリル開口部60が形成されており、4つのコーナ領域にフロントランプユニット61が装着される。上側の左右のフロントランプユニット61は作業灯として利用するために前輪近くを照らすように設定されており、下側の左右のフロントランプユニット61は前照灯としてトラクタの前方を照らすように設定されている。
【0022】
図4と図5とに明示されているように、アッパーパネル5の内面と左右のサイドパネル4の内面(以下単にボンネット3の内面と称する)には、ボンネット3の長手方向に間隔をあけて数本の突起状リブ30がボンネット3の横断方向に延設されている。突起状リブ30は二段形状の断面を有し、ボンネット3の剛性補強を高めるために幅広の基部30aとこの基部30aから立ち上がった幅狭の突起部30bとからなる。突起状リブ30の配置の原則は、図1を用いて説明したように、このボンネット3を所定の長手方向(前後方向)位置に設定した横断面によって規定される切断線に沿うことである。図4からも明らかなように、基本的には、ボンネット3の内周面にわたって形成されるが、サイドパネル4の内面だけに形成された部分的な突起状リブ30やアッパーパネル5の内面だけに形成された部分的な突起状リブ30も配置されている。また、この実施形態では、アッパーパネル5の内面を斜めに延びる突起状リブ30も配置されている。さらには、必要に応じて、追加的にボンネット3の長手方向に延びる突起状リブ30を配置してもよい。
【0023】
アッパーパネル5の内面と左右のサイドパネル4とをボルト連結するボルト連結部9は、図4に示すように、この実施形態では、サイドパネル4の上端に形成された内方への凹み部91と、この凹み部91に上方から挿入可能にアッパーパネル5の下端に設けられたスリーブ体92と、凹み部91の貫通孔を通ってスリーブ体92のネジ孔に螺合する連結ボルト93からなる。サイドパネル4の凹み部91にアッパーパネル5のスリーブ体92を嵌め合わせながらサイドパネル4にアッパーパネル5を組み付け、連結ボルト93を用いて両者を連結する。これによって出来上がったアッパーパネル5の内面と左右のサイドパネル4との組み付け品の先端部に、同様なボルト連結部9を用いてフロントグリル6を連結することで最終的なボンネット3が作り出される。
【0024】
図4からは、さらに一部の例外を除いて、突起状リブ30はボルト連結部9を起点としてボンネット3の内面をその横断方向に延びていることが理解される。言い換えると、ボルト連結部9は、図1を用いて定義されている横断線CLと、アッパーパネル5と左右のサイドパネル4との分割線連との交点領域に配置されており、これによりボルト連結部周辺の剛性が強化されている。
【0025】
図4及び図6に示されているように、ボンネット3のアッパーパネル5には、横断方向中央を車体1の長手方向に、上方隆起リブ31が形成されている。上方隆起リブ31はその断面がドーム状であり、前方から後方にかけて細くなっており、スピード感を作り出している。さらに、アッパーパネル5に、車体1の長手方向に延びる段差32が上方隆起リブ31の両側に形成されている。この段差32は横断方向で外から内にかけて低くなる段差である。従って、両段差32によって挟まれる領域は、その外側領域より僅かに低くなっている。両段差32の相互間隔は長手方向で後方から前方に向かってが短くなるように延びている。さらにこの両段差32は、フロントグリル6の上面部にも連続的に形成されている。この先狭まりの両段差32とその真ん中を延びている上方隆起リブ31は、運転者の前方中心の目標として好都合である。
【0026】
図2、図3、図7から理解できるように、アッパーパネル5の車体方向後方中央部、つまりDPFマフラ23の上方には、空気流通装置100を構成するエアスクープ部50が形成されている。DPFマフラ23はこのトラクタの排気システムの構成要素の1つであり、排気管23を貫流する排気ガスに含まれる微粒子を捕集するDPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルタ)を備えることで大型化している。図7に示されているように、DPFマフラ23を出た排気管はエンジンルームの側方から水平に突き出し、その最終部分は、立ち上がり排気管部(煙突状排気管)24として、キャビン2の前面の斜め前方をキャビン2に沿って立ち上がっている。DPFマフラ23はエンジン20の上方で、ボンネット3の上面に近接して配置されている。
【0027】
空気流通装置100は、図8に示すように、空気流通口51を形成するエアスクープ部50と、空気流通口51とDPFマフラ23との間に配置された案内板53を備えている。エアスクープ部50は、図3から読み取ることができるように、この実施形態では、アッパーパネル5の1/2幅より少し長い幅、好ましくは3/4幅程度にわたって形成されている。エアスクープ部50は、ボンネットスクープとも呼ばれるものであり、その前部に後方に傾斜した開口面を有する空気流通口51が形成され、空気流通口51の上端から緩やかな流線状を描きながらアッパーパネル5の後端領域につながっている。空気流通口51を遮蔽するように、パンチングシート(パンチングメタルや樹脂ネットからなる多孔板52がアッパーパネル5ないしはエアスクープ部50の内面側に固定ユニット54によって取り付けられている。固定ユニット54は多孔板52を確実に固定するため、アッパーパネル5ないしはエアスクープ部50の内面に形成されたフランジ部を有し、多孔板52はこのフランジ部にボルト固定される屈曲ブラケットを介して取り付けられる。空気流通口51の下端縁を形成するアッパーパネル5の縁部は水切り片部50aとして機能するように、空気流通口51の開口面に沿うように上方斜めに曲げ加工されている。なお、このエアスクープ部50は外気をエンジンルーム内に取り入れるというよりは、DPFマフラ23のような高熱源によって加熱された空気を外部に放出することを目的としている。このため、空気流通口51から排出された高温空気がキャビン2の正面ウインドシールドに直接衝突することを回避するために効果的な、エアスクープ部50の流線形状と空気流通口51の開口姿勢が採用されている。
【0028】
案内板53は、多孔板52を通過した水滴等を受け止めるために、多孔板52の下方に位置しており、その面積は空気流通口51の垂直投影面積を越えるものとなっている。その際、多孔板52を伝わってくる水滴を確実に受け止めるために、案内板53は多孔板52より車体前方側にオフセットしている。つまり、案内板53の車体方向で後側の後端53bは空気流通口51の後縁部の下方に位置し、案内板53の前端53aは空気流通口51の前縁部の下方よりさらに車体前方に位置している。言い換えると、多孔板52の車体方向で前側の前端53aは、多孔板52と一体形成され実質的に多孔板52の先端部となっている屈曲ブラケットよりも側面視で前方に位置している。この案内板53のオフセット配置により、案内板53の後端53bは、側面視で空気流通口51の上端縁と同じ位置かまたはよりわずかに後方の位置となっているが、多孔板52の孔を通過してくる水滴は、その進入流速が遅くなっているので、案内板53内に落下することになる。さらに、水切り片部50aとして形成されている空気流通口51の下端縁と案内板53の後端53bとが側面視でほぼ同じ高さレベルに位置している。このようなの案内板53の配置と姿勢により、高熱源としてのDPFマフラ23によって加熱された空気の空気流通口51への放出流路を大きくできる利点が得られる。案内板53の前端53a及び後端53bは、上方に折り曲げられており、案内板53は車体横断方向に延びる流水溝を作り出している。
【0029】
この実施形態では、エンジンルームの左右の側端領域が水滴落下許容領域として設定されているので、図9に示されているように、案内板53は、エンジンルームの横断方向中央から下向き傾斜しながら左側に延びる左案内板部53Aと、エンジンルームの横断方向中央から下向き傾斜しながら右側に延びる流出路を形成する右案内板部53Bとから構成されている。さらに、案内板53に落下した水滴が案内板53の後端53bを越えて飛び散り、DPFマフラ23に落下する可能性を低くするため、案内板53は車体方向に関して案内板53の前端53aが後端53bより低くなる傾斜姿勢となっている。
【0030】
見やすくするためDPFマフラ23を省略している図9から理解できるように、左案内板部53Aと右案内板部53Bとからなる案内板53は、板材で構成されたボンネット3の骨組み枠体3aに個々では図示されていない固定具または溶接で固定されている。従って、この案内板53はボンネット3の開閉揺動時にボンネット3と一体的に動くので、エンジンルーム内の保守点検の邪魔にはならない。
【0031】
図9ではボンネット3はその骨組み枠体3aだけが示されているだけであるが、ボンネット3の後端部と支持フレーム16とにわたって揺動クロス軸ユニット17が設けられており、ボンネット3を開閉揺動可能にしている。また、支持フレーム16に取り付けられたブラケットと骨組み枠体3aとにわたって、ボンネット3の開閉動作を補助するための左右一対のダンパ37が設けられている。
〔別実施形態〕
【0032】
〔1〕一体的に成形されているボンネット3とエアスクープ部50の材料はFRP(ガラス強化繊維)ベースのものが好ましいが、その他の複合材料や金属材料であってもよい。もちろん、ボンネット3とエアスクープ部50とを別体で構成してもよい。
〔2〕案内板53は開閉揺動するボンネット3側に取り付けられていたが、車体フレーム側に取り付けられてもよい。
〔3〕上述した実施形態では、空気流通口51の開口面は車体後方に傾斜している構成であったが、これに代えて空気流通口51の開口面を垂直に構成してもよい。その際、多孔板52も垂直に配置するのが好ましいが、多孔板52を車体後方傾斜姿勢としておいてもよい。また、多孔板52を垂直姿勢とし、開口面を車体後方傾斜姿勢とすることも可能である。
〔4〕DPFマフラ23の形状や配置は上記実施形態に限定されない。その別な形態の1つが、図10に示されている。この別実施形態では、DPFマフラ23と案内板53は比較的遠くに離れており、DPFマフラ23で加熱された空気が、エアスクープ50の湾曲面に沿って案内板53に下側を案内されるように空気流通口51に流れ込み、外部に放出される。
〔5〕エアスクープ50の下方に配置され、エアスクープ50によって排出される高温空気の発生元としてのエンジン高温機器はDPFマフラ23以外に一般的なマフラやその他の高温エンジン補機などであってもよいし、エンジンそのものであってもよい。
〔6〕上述した実施形態では、ボンネット3は、アッパーパネル5、左右のサイドパネル4、フロントグリル6の4つの分割体から構成されていたが、一体構成でもよいし、その他の分割構成、例えば、フロントグリル6をアッパーパネル5または左右のサイドパネル4と一体化させたり、アッパーパネル5や左右のサイドパネル4をさらに分割させたり、してもよい。または、アッパーパネル5と左右のサイドパネル4を一体化させてもよい。さらには、左右のサイドパネル4を車体1に固定の固定ボンネットとして構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明に係る空気流通装置は、トラクタ、ミッドマウントモーアやフロントモーアなどの草刈機、ホイールローダ、及びバックホウなどに適用することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 車体
2 キャビン
3 ボンネット
4 サイドパネル
5 アッパーパネル
6 フロントグリル
21 エンジン
23 エンジン高温機器(DPFマフラ)
30 突起状リブ
31 上方隆起リブ
32 段部
50 エアスクープ部
50a 水切り片部
51 空気流通口
52 多孔板
53 案内板
53A 左案内板部
53B 右案内板部
53a 前端
53b 後端
100 空気流通装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業車の車体に支持されたエンジンとエンジン補機とを収納するエンジンルームを覆うボンネットに設けられた空気流通装置であって、
前記ボンネットのアッパーパネルに設けられ、車体前方に向けて開口する開口面を有する空気流通口を形成するエアスクープ部と、
前記空気流通口を内側から覆う多孔板と、
前記多孔板を通過した水滴を前記エンジンルーム内の水滴落下許容領域に案内するために前記空気流通口の下方でエンジン高温機器の上方に設けられた案内板と、
を備える空気流通装置。
【請求項2】
前記空気流通口の開口面が車体後方に傾斜している請求項1に記載の空気流通装置。
【請求項3】
前記案内板の後端は前記空気流通口の後縁部の下方に位置し、前記案内板の前端は前記空気流通口の前縁部の下方よりさらに車体前方に位置している請求項1または2に記載の空気流通装置。
【請求項4】
前記案内板は、前記エンジンルームの横断方向中央から下向き傾斜しながら右側に延びる流出路を形成する右案内板部と、前記エンジンルームの横断方向中央から下向き傾斜しながら左側に延びる流出路を形成する左案内板部とから構成される請求項1から3のいずれか一項に記載の空気流通装置。
【請求項5】
前記案内板が、車体方向に関して前記案内板の前端が後端より低くなる傾斜姿勢で配置されている請求項4に記載の空気流通装置。
【請求項6】
前記空気流通口の前縁部が前記空気流通口の開口面に沿って上向きに突き出た水切り片部として形成されている請求項1から5のいずれか一項に記載の空気流通装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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