説明

空気浄化方法及び装置

【課題】ダニ由来のアレルギーの原因物質を失活させて生活空間である室内の空気を浄化する空気浄化方法及び空気浄化装置を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】空気にミストを含ませた状態で紫外線を照射しつつ酸化チタンをベースとする光触媒に接触させて空気中に含まれるダニアレルゲンを失活させる空気浄化方法であり、空気の導入口と排出口を有する匡体と、該匡体中に該導入口からダニアレルゲンを含有する空気を導入する空気導入手段と、ミスト発生手段と、前記匡体中にミストを導入するミスト導入手段と、該匡体中に導入された空気に紫外線を照射する紫外線照射手段と、該匡体中に表面を露出させた、チタンをベースとする光触媒とを含んでなる空気浄化装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中のダニに起因するアレルギーの原因物質を失活させ空気を浄化する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近来、住宅の高断熱や高気密など住環境の変化により室内でダニが一年中生息することが可能となった。また、ダニの餌はフケ、垢、カビなどであり、放置しておくと日常生活の場でダニが爆発的に増加するといわれている。
【0003】
ダニの排泄物や死骸にはアレルギーの原因物質が含有されており、ダニなどを原因とする通年性アレルギー鼻炎の患者は花粉症患者より多いといわれている。
【0004】
このため、空中にただようダニ由来のアレルギーの原因物質を失活させる空気浄化技術の開発が望まれている。
【0005】
アレルギーの原因物質の浄化技術としては、液体を空気中に噴霧してその空気中に空気イオンを放出する方法(例えば、特許文献1参照)、フィルタで空中の塵埃を濾過する方法(例えば、特許文献2参照)、ダニを保持した衣類等を収納容器に入れ、その容器内でオゾン発生装置によりオゾンを発生させる方法(例えば、特許文献3参照)、ホルムアルデヒド等の処理ガスで空気を処理する方法(例えば、特許文献4参照)、が開示されている。
【0006】
しかし、これら方法はダニに起因するアレルギーの原因物質を失活させる方法としては不十分であったり、生活空間である室内の空気を浄化する方法としては未完であったりするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−340843号公報
【特許文献2】特開2006−204571号公報
【特許文献3】特開平5−58826号公報
【特許文献4】特開2005−74023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ダニ由来のアレルギーの原因物質を失活させて生活空間である室内の空気を浄化する空気浄化方法及び空気浄化装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨とするところは、空気に水ミストを含ませた状態で紫外線を照射しつつ酸化チタンをベースとする光触媒に接触させて空気中に含まれるダニアレルゲンを失活させる空気浄化方法であることにある。
【0010】
前記空気浄化方法においては、ダニアレルゲンを含有する空気を、連続的に処理域を通過させ、該処理域で該空気に前記水ミストを含ませた状態で前記紫外線を照射しつつ前記光触媒に接触させ得る。
【0011】
前記ダニアレルゲンを含有する空気は、立毛構造の床面に含まれるダニアレルゲンをブラシで空中に掻き出すことにより得られたものであり得る。
【0012】
また、本発明の要旨とするところは、空気の導入口と排出口を有する匡体と、
該匡体中に該導入口からダニアレルゲンを含有する空気を導入する空気導入手段と、
水ミスト発生手段と、
前記匡体中に水ミストを導入するミスト導入手段と、
該匡体中に導入された空気に紫外線を照射する紫外線照射手段と、
該匡体中に表面を露出させた、チタンをベースとする光触媒と
を含んでなる空気浄化装置であることにある。
【0013】
前記空気浄化装置は、床面を引き及び/又は押し走行可能であり得る。
【0014】
前記空気浄化装置は、さらに、立毛構造の床面をブラシで掻き該立毛構造の床面に含まれるダニアレルゲンを空中に掻き出す掻き出し手段を含み得、
該掻き出し手段により掻き出されたダニアレルゲンを含有する空気が前記導入口から前記匡体中に導入され得る。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、ダニ由来のアレルギーの原因物質を失活させて生活空間である室内の空気を浄化する空気浄化方法及び空気浄化装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の空気浄化装置の態様の一例を示す側面説明図。
【図2】ダニアレルゲンの抗原性の残存率の経時変化を示すグラフ。
【図3】本発明の空気浄化装置の態様の他の一例を示す側面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の空気浄化方法においては、ダニアレルゲンを含有する空気を、水ミスト(以下においては、ミストは水ミストである)を含ませた状態で紫外線を照射しつつ酸化チタンをベースとする光触媒に接触させる。この空気浄化方法に用いる本発明の空気浄化装置の態様の一例を図1に示す。なお、本明細書においては、各図にわたって記される同じ符号は同一又は同様の機能の部材やものを示す。
【0018】
図1において、本発明の空気浄化装置2は匡体4と、匡体4中に導入口6からダニアレルゲン(アレルギーの原因物質)を含有する空気8を導入する空気導入手段9と、ミスト発生手段12と、匡体4中にミスト発生手段12により発生したミスト14を導入するミスト導入手段16と、匡体4中に導入された空気18に紫外線を照射する紫外線照射手段20と、匡体4中に表面を露出させた、チタンをベースとする光触媒22とを含んで構成される。
【0019】
匡体4は空気の導入口6と排出口26を備え、導入口6より匡体4中に空気導入手段により導入された空気が匡体4中を通過して排出口26から排出される。空気導入手段9の態様としては、排出口26に吸引ファン30の吸い込み口32を接続して匡体4中の空気を吸い出して匡体4外に放出する構成などが例示される。この場合、排出口26から匡体4中の空気を吸引することにより導入口6より匡体4外の空気が匡体4内に流入する。
【0020】
かかる装置の構成により、匡体4中に導入された空気18にはミスト14が混入され、同時に紫外線照射手段20により紫外線が照射される。同時に、ミスト14が混入された空気18はチタンをベースとする光触媒22に接触する。
【0021】
紫外線照射手段20としては、低圧水銀ランプなどが挙げられる。紫外線の波長は185nmや254nmが好ましい。
【0022】
ミスト発生手段12は超音波振動子13と貯留タンク15を含んで構成されることが好ましい。超音波振動子13が貯留タンク15に貯留された水17に沈められて作動し水面上にミスト14が発生する。ミスト導入手段16は貯留タンク15の上部に設置されたファン21と、ダクト25から構成される。ダクト25は貯留タンク15の上部側壁を経由して貯留タンク15の内部と匡体4の内部を導通させている。ファン21の風圧で貯留タンク15内のミストが匡体4の内部に導入され匡体4中に導入された空気18に混入する。匡体4中のミストの濃度(空気の体積に対するミストを構成する液体の重量)は0.01〜1g/Lであることが好ましい。
【0023】
本発明において用いられる光触媒とは、光を照射することにより触媒作用を示す物質である。このような光触媒のうち、代表的な光触媒としては、酸化チタン(TiO)が知られている。さらには、光触媒としては、アパタイト被覆酸化チタン、酸化亜鉛(ZnO)、酸化タングステン(WO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、硫化カドミニウム(CdS)、チタン酸バリウム(BaTiO)、ニオブ酸カリウム(KNbO)、酸化鉄(Fe)、酸化タンタル(Ta)、酸化スズ(SnO)、酸化ビスマス(Bi)、酸化ニッケル(NiO)、酸化銅(CuO)、酸化ケイ素(SiO)、硫化モリブデン(MoS)、インジウム鉛(InPb)、酸化ルテニウム(RuO)、酸化セリウム(CeO)などが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0024】
光触媒22は、粒子状をなして金属基板の表面に樹脂系やセラミック系の接着剤などで固定されていてもよい。あるいは、ガラス基板やその他のセラミック基板の表面にコーティングされたものであってもよい。具体的には、日本板硝子社製の商品名クリアテクトなどが挙げられる。
【0025】
紫外線照射手段20としては、低圧水銀ランプ35などが挙げられる。紫外線の線強度は光源から10cm離れた位置で1〜100mW/cm2程度であることが好ましい。低圧水銀ランプ35はガラスで仕切られたランプ室37内に設置される。
符号41は低圧水銀ランプ35や超音波振動子13用の電源部である。電源部41は外部電源と不図示のコードで接続している。
【0026】
一般にダニアレルゲンは紫外線照射によりある程度失活することが知られている。これは紫外線照射により発生したオゾンがダニアレルゲンを失活させるためであると思われる。しかし、このようにして発生したオゾンの寿命はきわめて短時間であるため、この失活効果は限られたものであった。本発明においては、ダニアレルゲンが含有された空気にミストを混入することにより、ダニアレルゲンがミスト粒子に吸着され、このダニアレルゲンを吸着した水粒子を含む空気に紫外線照射することにより、オゾンが水粒子に吸着あるいは吸収されてダニアレルゲンを失活させる効果が持続され、失活効果が増大する。
【0027】
さらに、本発明においては、ダニアレルゲンあるいはダニアレルゲンを吸着した水粒子がチタンをベースとする光触媒22と接触することにより、紫外線照射による失活が促進される。これは、紫外線照射と光触媒22と水とによりダニアレルゲンの化学変化が促進されるためであると推定される。光触媒22は匡体4の内側底面に限らず匡体4の内側側面や内側上面に設けられてもよい。
【0028】
ミスト状の水は匡体4から放出されたのちに蒸散し、オゾンも比較的短時間で消滅するので、本発明においては、処理により化学物質が空気中に恒久的に残るということがない。
【0029】
本発明の効果は以下の実験例により裏付けられる。
【0030】
実験例
試料:ダニ抗原として、コナヒョウヒダニ(dermatophagoides farinae)の糞由来の精製ダニ抗原Der f1 (アサヒビール)を用いた。
失活処理:試料を50μg/mLの濃度の水溶液とし、1ccを50mmφのシャーレに入れ、殺菌灯(波長254nm)(松下電器)、蛍光灯(日立)による照射(照射距離;200mm)を試みた。光触媒:二酸化チタン粉末P−25(日本アエロジル)を用いた。これらの光源にから発生した光線をダニ抗原に所定時間照射し、ダニ抗原の残存活性を測定した。
アレルゲン定量測定:コナヒョウヒダニELISAキット(Der f1)(ニチニチ製薬)を用い、酵素免疫測定法にてダニ抗原性を評価した。マルチモードプレートリーダー(ベックマン・コールターDTX800)を用いて吸収波長415nmで定量した。失活処理前の活性の値に対する、測定時の状態の活性の値の比率を抗原性の残存率とした。
実験水準:ケース1;蛍光灯照射
ケース2;殺菌灯照射
ケース3;蛍光灯照射+二酸化チタン粉末(水溶液に二酸化チタン粉末を1重量%添加して照射)
ケース4;殺菌灯照射+二酸化チタン粉末(水溶液に二酸化チタン粉末を1重量%添加して照射)
【0031】
図2に示す実験結果によれば、120分の蛍光灯照射によりダニ抗原はほとんど失活しない。殺菌灯では、60分照射でダニ抗原の残存率が約20%、120分照射でダニ抗原の残存率が10%以下となった。二酸化チタン粉末の存在下での蛍光灯照射では、照射前ですでにダニ抗原の残存率が約35%であり、30分照射でダニ抗原の残存率が約10%、60分照射で約5%となった。二酸化チタン粉末の存在下での蛍光灯照射では、照射前ですでにダニ抗原の残存率が約35%であり、30分照射でダニ抗原の残存率が約3%となった。このように殺菌灯(紫外線)と光触媒(二酸化チタン粉末)の併用が最も効果があった。
【0032】
本発明の他の態様においては、図3に示す本発明の空気浄化装置2aが用いられる。空気浄化装置2aは匡体4aと、匡体4a中に導入口6からダニアレルゲン(アレルギーの原因物質)を含有する空気8を導入する不図示の空気導入手段と、ミスト発生手段12と、匡体4a中にミスト発生手段12により発生したミスト14を導入するミスト導入手段16と、匡体4a中に導入された空気18に紫外線を照射する紫外線照射手段20と、匡体4a中に表面を露出させた、チタンをベースとする光触媒22とを含んで構成される。
【0033】
匡体4aの底部33には複数の貫通孔34が形成されていて、導入口6aを構成する。排出口26は不図示の、吸引ファンを備えた空気吸引排出器に接続されている。空気吸引排出器は例えば家庭用掃除機であってもよく、家庭用掃除機の吸引口を排出口26に接続することにより匡体4aへの空気の導入と排出がなされる。
【0034】
匡体4aは車輪44を備えたフレーム台40に搭載されて、人力で床面50を引き及び/又は押し走行可能とされている。フレーム台40と匡体4aの底部とが一体であってもよい。
【0035】
さらにフレーム台の匡体4aと反対側の、床面50に面する側には、回転ブラシ55が取り付けられている。回転ブラシ55はフレーム台40に搭載された不図示の駆動手段により回転駆動され、回転により、絨毯などの立毛構造の床面50を掻く。回転ブラシ55により、立毛構造の床面50に含まれるダニアレルゲンが掻き出され空中に放出される。空中に放出されたダニアレルゲンを含有する空気が導入口6aから匡体4a内へ吸い込まれて導入される。
【0036】
導入口6aより匡体4a中に空気導入手段により導入された空気が匡体4a中を通過して排出口26から排出される。匡体4a中に導入された空気18にはミスト14が混入され、同時に紫外線照射手段20により紫外線が照射される。同時に、ミスト14が混入された空気18はチタンをベースとする光触媒22に接触する。
【0037】
符号41aは低圧水銀ランプ35や超音波振動子13や回転ブラシ55の駆動用の電源部である。電源部41aは外部電源と不図示のコードで接続している。
【0038】
このようにして、本発明の空気浄化装置2aにより、立毛構造の床面50に含まれるダニアレルゲンを効率よく除去し失活させることができる。
【0039】
その他、本発明は、主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々なる改良、修正、変更を加えた態様で実施できるものである。例えば、空気浄化装置2、2aにあっては、導入口6、6aあるいは排出口26に塵埃をトラップするフィルタが設けられてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明はダニアレルゲンに限らず空中に含まれる各種のアレルゲンを含む空気の浄化に適用できる。
【符号の説明】
【0041】
2、2a:空気浄化装置
4、4a:匡体
6、6a:導入口
8、18:空気
9:空気導入手段
12:ミスト発生手段
13:超音波振動子
14:ミスト
15:貯留タンク
16:ミスト導入手段
17:水
20:紫外線照射手段
22:光触媒
26:排出口
30:吸引ファン
21:ファン
25:ダクト
34:貫通孔
35:低圧水銀ランプ
37:ランプ室
40:フレーム台
41、41a:電源部
44:車輪
50:床面
55:回転ブラシ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気に水ミストを含ませた状態で紫外線を照射しつつ酸化チタンをベースとする光触媒に接触させて空気中に含まれるダニアレルゲンを失活させる空気浄化方法。
【請求項2】
ダニアレルゲンを含有する空気を、連続的に処理域を通過させ、該処理域で該空気に前記水ミストを含ませた状態で前記紫外線を照射しつつ前記光触媒に接触させる請求項1に記載の空気浄化方法。
【請求項3】
前記ダニアレルゲンを含有する空気が、立毛構造の床面に含まれるダニアレルゲンをブラシで空中に掻き出すことにより得られたものである請求項2に記載の空気浄化方法。
【請求項4】
空気の導入口と排出口を有する匡体と、
該匡体中に該導入口からダニアレルゲンを含有する空気を導入する空気導入手段と、
水ミスト発生手段と、
前記匡体中に水ミストを導入するミスト導入手段と、
該匡体中に導入された空気に紫外線を照射する紫外線照射手段と、
該匡体中に表面を露出させた、チタンをベースとする光触媒と
を含んでなる空気浄化装置。
【請求項5】
床面を引き及び/又は押し走行可能である請求項4に記載の空気浄化装置。
【請求項6】
さらに、立毛構造の床面をブラシで掻き該立毛構造の床面に含まれるダニアレルゲンを空中に掻き出す掻き出し手段を含み、
該掻き出し手段により掻き出されたダニアレルゲンを含有する空気が前記導入口から前記匡体中に導入される請求項5に記載の空気浄化装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−254970(P2011−254970A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131591(P2010−131591)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(507126487)公立大学法人奈良県立医科大学 (12)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】