説明

空気浮上式コンベヤベルト

【課題】ガスハイドレートペレットのような−20℃以下−50℃超の温度の運搬物を、円滑に搬送することができる空気浮上式コンベヤベルトを提供する。
【解決手段】ガスハイドレートペレットが載置される上面層6を天然ゴムとブタジエンゴムをゴム成分とするガラス転移温度Tgが−50℃以下のゴム組成物から構成すると共に、下面層7を天然ゴムとスチレン・ブタジエンゴムをゴム成分とするゴム組成物から構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気浮上式コンベヤベルトに関し、更に詳しくは、ガスハイドレートペレットのような−20℃以下−50℃超の温度の運搬物を円滑に搬送することができる空気浮上式コンベヤベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、天然ガスの安全かつ経済的な輸送・貯蔵方法として、天然ガスを固体状の水和物であるガスハイドレートの形態にして取り扱う方法が注目されている。特に、海底に存在する中小規模の天然ガス田においては、製造プラント等に高額の初期投資を要するLNG(液化天然ガス)輸送が経済的に成り立たないため、固体状のガスハイドレート(以下、「ガスハイドレートペレット」という。)にして輸送することが有望視されている。
【0003】
このガスハイドレートペレットの輸送・貯蔵については、分解して天然ガスと原料水に戻ることを防ぐため、常圧下で−20℃以下−50℃超の低温に保持したまま輸送・貯蔵する必要がある。そのため輸送方法としては、温度制御が可能で、かつ分解して天然ガスが発生した場合でも安全に輸送ができるという理由から、特許文献1のように、円筒状のフレーム内にコンベヤベルトを挿入し、そのコンベヤベルトの下側から圧縮空気を吹き付けて浮上させつつ運搬物を搬送する、いわゆる空気浮上式ベルトコンベヤの使用が検討されている。
【0004】
しかし、従来の空気浮上式ベルトコンベヤでは、ガスハイドレートペレットのような−20℃以下−50℃超の温度の運搬物を搬送すると、コンベヤベルトのゴム硬度が高くなって幅方向の剛性が過剰に大きくなるため、無負荷運転時にコンベヤベルトが異常に浮上して運転が困難になるという問題があった。このような問題を解決するには、コンベヤベルトを耐寒性のゴム組成物から構成することが考えられるが、一般に耐寒性のゴム組成物は粘着性を有するため、ベルトの耳部が円筒状フレームの内面と摺動接触すると、コンベヤベルトがフレームに粘着してベルトコンベヤの円滑な運転を妨げてしまうという問題があった。
【特許文献1】特開2001−354314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ガスハイドレートペレットのような−20℃以下−50℃超の温度の運搬物を円滑に搬送することを可能にする空気浮上式コンベヤベルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成する第1の本発明の空気浮上式コンベヤベルトは、円筒状フレームの内側にコンベヤベルトを挿入し、該コンベヤベルトの下側から圧縮空気を吹き付けて浮上させつつ、上面側に−20℃以下−50℃超の運搬物を載せて搬送する空気浮上式コンベヤベルトにおいて、前記コンベヤベルトを上下2層構造にすると共に、上面層を天然ゴムとブタジエンゴムとを主成分とするガラス転移温度Tgが−50℃以下の第1のゴム組成物で構成し、下面層を天然ゴムとスチレン・ブタジエンゴムとを主成分とする第2のゴム組成物で構成したことを特徴とする。
【0007】
前記第1のゴム組成物のゴム成分は、天然ゴム50〜80質量%、ブタジエンゴム50〜20質量%からなることが望ましく、更にゴム成分100質量部に対してカーボンブラックを40〜80質量部配合するのがよい。
【0008】
前記第2のゴム組成物のゴム成分は、天然ゴム20〜75質量%、スチレン・ブタジエンゴム80〜25質量%からなることが望ましく、更にゴム成分100質量部に対してカーボンブラックを55〜95質量部配合するのがよい。
【0009】
上記の目的を達成する第2の本発明の空気浮上式コンベヤベルトは、円筒状フレームの内側にコンベヤベルトを挿入し、該コンベヤベルトの下側から圧縮空気を吹き付けて浮上させつつ、上面側に−20℃以下−50℃超の運搬物を載せて搬送する空気浮上式コンベヤベルトにおいて、前記コンベヤベルトを上下2層構造にすると共に、上面層を天然ゴムとブタジエンゴムとを主成分とするガラス転移温度Tgが−50℃以下の第1のゴム組成物で構成し、下面層を繊維シートで構成したことを特徴とするものである。
【0010】
前記繊維シートは、織物又は編物であることが望ましい。
【0011】
なお、「ガラス転移温度Tg」は、JIS K7121−1987 に準拠し、示差熱分析機器を用いて20℃/分の昇温温度で熱流速の変化を測定した時に得られる曲線において、変曲点を読み取った値である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のうち第1発明によれば、コンベヤベルトを上下2層構造にすると共に、上面層を天然ゴムとブタジエンゴムとを主成分とするガラス転移温度Tgが−50℃以下の第1のゴム組成物で構成し、下面層を天然ゴムとスチレン・ブタジエンゴムとを主成分とする第2のゴム組成物で構成したので、ガスハイドレートペレットのような−20℃以下−50℃超の温度の運搬物であっても、上面層のガラス転移温度が−50℃以下であるので、コンベヤベルトの幅方向の剛性は過剰に大きくならず、かつ下面層が天然ゴムとスチレン・ブタジエンゴムを主成分とすることにより、コンベヤベルトがフレームと摺動接触した場合でも、フレームにゴムが粘着することがないため、ガスハイドレートペレットのような−20℃以下−50℃超の温度の運搬物を円滑に搬送することができる。
【0013】
第2発明によれば、前記コンベヤベルトを上下2層構造にすると共に、上面層を天然ゴムとブタジエンゴムとを主成分とするガラス転移温度Tgが−50℃以下の第1のゴム組成物で構成し、下面層を繊維シートで構成したので、ガスハイドレートペレットのような−20℃以下−50℃超の温度の運搬物であっても、上面層のガラス転移温度が−50℃以下であるので、コンベヤベルトの幅方向の剛性は過剰に大きくならず、かつ繊維シートがフレームと下面層との間の摩擦係数を低減することにより、コンベヤベルトがフレームと摺動接触した場合でもフレームにゴムが粘着することがないため、−20℃以下の温度の運搬物を円滑に搬送することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、ガスハイドレートペレットを搬送する空気浮上式ベルトコンベヤの一例を示す。
【0016】
この空気浮上式ベルトコンベヤは、円筒状の金属製のフレーム1の内部を、空気浮上式コンベヤベルト2(以下、単に「コンベヤベルト」という。)がフレームに沿って浮上しつつガスハイドレートペレット3を搬送するものである。フレーム1の下部には、長手方向に沿って多数の空気孔4が設けられており、図示しないコンプレッサーから圧縮空気5を送風してコンベヤベルト2の裏面に吹き付けることにより、コンベヤベルト2を浮上させるようになっている。コンベヤベルト2の幅方向はフレーム1の下部内面に沿って湾曲しており、その長手方向は図示しない電動機により回転駆動される一対のプーリに掛け回されている。ガスハイドレートペレット3の搬送時には、フレーム1の内部を−20℃以下−50℃超の温度に維持すると共に、窒素などの不活性ガスを循環させることにより、ガスハイドレートペレット3の分解を抑制し、かつ分解して天然ガスが発生した場合でも燃焼等させることなく容易に除去することができるようになっている。
【0017】
図2は、第1発明の実施形態からなる空気浮上式コンベヤベルトの例を示す。
【0018】
この空気浮上式コンベヤベルト2(以下、単に「コンベヤベルト」という。)は、ガスハイドレートペレット3と接する搬送面を形成する上面層6、圧縮空気が吹き付けられる下面層7、及びそれらの間に配置された補強層8を備えた上下2層の構成を有する。
【0019】
このようなコンベヤベルトにおいて、上面層6は、天然ゴム(NR)とブタジエンゴム(BR)とを主成分とし、かつガラス転移温度Tgが−50℃以下となるゴム組成物から構成されている。このゴム組成物のゴム成分は、天然ゴムが50〜80質量%で、ブタジエンゴムが50〜20質量%以上とすることが望ましい。
【0020】
また、下面層7は、天然ゴムとスチレン・ブタジエンゴム(SBR)のみを主成分とし、ブタジエンゴムを含有しないゴム組成物から構成される。ブタジエンゴムを含有しないことにより、ゴム組成物は低い粘着性を有するようになる。このゴム組成物のゴム成分は、天然ゴムが20〜75質量%であり、スチレン・ブタジエンゴムが25〜80質量%とすることが望ましい。(特開2005−139344号公報を参照)。
【0021】
このように上面層6を天然ゴムとブタジエンゴムを主成分とするガラス転移温度Tgが−50℃以下のゴム組成物から構成すると共に、下面層7を天然ゴムとスチレン・ブタジエンゴムを主成分とするゴム組成物から構成したことにより、ガスハイドレートペレット3のような−20℃以下−50℃超の温度の運搬物であっても、上面層6のガラス転移温度が−50℃以下であるので、コンベヤベルト2の幅方向の剛性は過剰に大きくならず、かつ下面層7が天然ゴムとスチレン・ブタジエンゴムを主成分としているので、コンベヤベルト2がフレーム1と摺動接触した場合でも、フレーム1にゴムが粘着することがないため、ガスハイドレートペレット3のような−20℃以下−50℃超の温度の運搬物を円滑に搬送することができる。
【0022】
図3は、第2発明の実施形態からなる空気浮上式コンベヤベルトの例を示す。
【0023】
このコンベヤベルト2は、上面層6を天然ゴムとブタジエンゴムを主成分とするガラス転移温度が−50℃以下となるゴム組成物から構成すると共に、下面層を繊維シート9から構成したものである。補強層8は、上面層6内に埋設される。このような下面層は、未加硫状態の上面層6の下面に繊維シート9を貼り付け、加硫工程において金型等で加圧することにより形成することができる。従って、繊維シート9は、天然ゴムとブタジエンゴムからなるゴム組成物の加硫温度である約180℃で溶融しないように、ナイロン又はポリエステルを用いることが好ましい。また、繊維シートの形状は、織物又は編物とすることが望ましい。
【0024】
このように、上面層6を、天然ゴムとブタジエンゴムを主成分とするガラス転移温度Tgが−50℃以下のゴム組成物から構成すると共に、下面層を繊維シート9から構成したことにより、ガスハイドレートペレット3のような−20℃以下−50℃超の温度の運搬物であっても、上面層6のガラス転移温度が−50℃以下であるので、コンベヤベルト2の幅方向の剛性は過剰に大きくならず、かつ繊維シート9がフレーム1とコンベヤベルト2との間の摩擦係数を低減するので、コンベヤベルト2がフレーム1と摺動接触した場合でも、フレーム1にゴムが粘着することがないため、ガスハイドレートペレット3のような−20℃以下−50℃超の温度の運搬物を円滑に搬送することができる。
【0025】
以上に説明した第1及び第2発明の実施形態における補強層8の材料及び形状は特に限定するものではなく、材料としてはポリエステル、ポリアミド及びアラミド繊維が、形状としては帆布及びスチールコードがコンベヤベルトの長手方向に埋設された形状が、それぞれ例示される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】ガスハイドレートペレットを搬送する空気浮上式ベルトコンベヤの一例の断面図である。
【図2】第1発明の実施形態からなる空気浮上式コンベヤベルトの断面図である。
【図3】第2発明の実施形態からなる空気浮上式コンベヤベルトの断面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 フレーム
2 空気浮上式コンベヤベルト
3 ガスハイドレートペレット
4 空気孔
5 圧縮空気
6 上面層
7 下面層
8 補強層
9 繊維シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状フレームの内側にコンベヤベルトを挿入し、該コンベヤベルトの下側から圧縮空気を吹き付けて浮上させつつ、上面側に−20℃以下−50℃超の運搬物を載せて搬送する空気浮上式コンベヤベルトにおいて、
前記コンベヤベルトを上下2層構造にすると共に、上面層を天然ゴムとブタジエンゴムとを主成分とするガラス転移温度Tgが−50℃以下の第1のゴム組成物で構成し、下面層を天然ゴムとスチレン・ブタジエンゴムとを主成分とする第2のゴム組成物で構成した空気浮上式コンベヤベルト。
【請求項2】
前記第1のゴム組成物のゴム成分が、天然ゴム50〜80質量%、ブタジエンゴム50〜20質量%からなる請求項1に記載の空気浮上式コンベヤベルト。
【請求項3】
前記第1のゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対してカーボンブラックを40〜80質量部配合している請求項1又は2に記載の空気浮上式コンベアベルト。
【請求項4】
前記第2のゴム組成物のゴム成分が、天然ゴム20〜75質量%、スチレン・ブタジエンゴム80〜25質量%からなる請求項1〜3のいずれかに記載の空気浮上式コンベヤベルト。
【請求項5】
前記第2のゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対してカーボンブラックを55〜95質量部配合している請求項1〜4のいずれかに記載の空気浮上式コンベヤベルト。
【請求項6】
円筒状フレームの内側にコンベヤベルトを挿入し、該コンベヤベルトの下側から圧縮空気を吹き付けて浮上させつつ、上面側に−20℃以下−50℃超の運搬物を載せて搬送する空気浮上式コンベヤベルトにおいて、
前記コンベヤベルトを上下2層構造にすると共に、上面層を天然ゴムとブタジエンゴムとを主成分とするガラス転移温度Tgが−50℃以下の第1のゴム組成物で構成し、下面層を繊維シートで構成した空気浮上式コンベヤベルト。
【請求項7】
前記繊維シートが、織物又は編物である請求項6に記載の空気浮上式コンベヤベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−102152(P2009−102152A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−277792(P2007−277792)
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】