説明

空気浮上式ローラレスベルトコンベヤのトラフエキスパンション継手部構造

【課題】トラフ部材の膨張・収縮を確実に吸収しつつ、裏当トラフによるシール性を向上し得、且つ地震発生時における裏当トラフの破損を回避し得る空気浮上式ローラレスベルトコンベヤのトラフエキスパンション継手部構造を提供する。
【解決手段】温度差に伴う膨張・収縮が吸収されるよう長手方向所要箇所で分割された一方のトラフ部材4の端部に、少なくとも液密性を保持するよう裏当トラフ13を取り付け、該裏当トラフ13を前記分割された他方のトラフ部材4の端部側へ張り出させて前記トラフ部材4間に形成されるクリアランスcを裏側から覆うようにすると共に、前記裏当トラフ13と前記分割された他方のトラフ部材4の端部との間に、加圧空気供給手段から内部に加圧空気が供給される弾性チューブ部材17を介装する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気浮上式ローラレスベルトコンベヤのトラフエキスパンション継手部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、鉱石や石炭等のバラ物を搬送する搬送装置として、キャリアベルトを空気層によって浮上保持する空気浮上式ローラレスベルトコンベヤが利用されている。
【0003】
前記空気浮上式ローラレスベルトコンベヤは、例えば、図4及び図5に示されるように、所要間隔をあけてそれぞれ回転自在に配置された駆動プーリ1と従動プーリ2との間にキャリアベルト3を無端状に掛け回し、該キャリアベルト3の下面側にトラフ部材4,5を延設し、該トラフ部材4,5の幅方向中央下面側に、ブロワ6によって空気が供給される空気ダクト7,8を設けると共に、前記トラフ部材4,5の幅方向中央部に、前記空気ダクト7,8に供給される空気をトラフ部材4,5の上面側に噴出させる吹出口9,10を穿設し、更に、前記キャリアベルト3の往路(バラ物を搬送する側)における上流端位置に、バラ物をキャリアベルト3上に供給する供給シュート11を設置し、前記キャリアベルト3の往路における下流端位置に、キャリアベルト3によって搬送されたバラ物を払い出す排出シュート12を設置してなる構成を有している。
【0004】
前記空気浮上式ローラレスベルトコンベヤにおいては、前記駆動プーリ1を回転駆動しつつ、ブロワ6によって空気を空気ダクト7,8へ供給すると、該空気ダクト7,8へ供給された空気が吹出口9,10からトラフ部材4,5の上面側に噴出し、該トラフ部材4,5とキャリアベルト3との間に空気層が形成されキャリアベルト3が浮上した状態で往路と復路とを循環移動する形となり、この状態で、前記供給シュート11からキャリアベルト3上にバラ物を供給すると、該バラ物は前記キャリアベルト3によって搬送され排出シュート12へ払い出される。
【0005】
尚、前記キャリアベルト3の断面形状は、図5の例では往路は上面側が谷状に凹む円弧形状、復路は上面側が山状に突出する円弧形状となっているが、復路を上面側が谷状に凹むV字形状とするものもある。
【0006】
このような構成により、前記空気浮上式ローラレスベルトコンベヤにおいては、極めて低抵抗で騒音や振動を生ずることなくキャリアベルト3を移動させることができ、一般的なキャリアベルトをキャリアローラで支持する形式のローラベルトコンベヤのようにローラの回転によって生ずる騒音や振動によって作業環境や周囲環境に影響を与えることがない。
【0007】
ところで、前述の如き空気浮上式ローラレスベルトコンベヤでは、前記トラフ部材4,5は搬送距離の全長に亘って連続する長い構造物となり、夏季と冬季における温度差に伴う膨張・収縮を吸収する必要があるため、前記トラフ部材4,5の長手方向所要箇所にエキスパンション継手部が設けられるようになっている。
【0008】
図6及び図7は従来の空気浮上式ローラレスベルトコンベヤのトラフエキスパンション継手部構造の一例を示すものであって、その長手方向所要箇所で互いに対向するよう分割されたトラフ部材4の一方に、該トラフ部材4の下面の曲率に倣うよう湾曲形成された裏当カバー部材としての裏当トラフ13を、前記トラフ部材4間に形成されるクリアランスcが裏側から覆われるよう、ボルト・ナット等の締結部材14,15により取り付け、前記トラフ部材4の膨張・収縮によりクリアランスcが変化しても、前記裏当トラフ13が固定されていない側の他方のトラフ部材4と裏当トラフ13とが相対的にスライドすることにより、前記トラフ部材4の膨張・収縮が吸収されるようになっている。
【0009】
尚、従来の空気浮上式ローラレスベルトコンベヤの一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献1がある。
【特許文献1】特開平10−316244号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前述の如き従来の空気浮上式ローラレスベルトコンベヤのトラフエキスパンション継手部構造において、前記裏当トラフ13は鋼板をプレスで曲げ加工することによって形成されるため、製作精度を充分に高めることが難しく、前記裏当トラフ13が固定されていない側の他方のトラフ部材4と裏当トラフ13との密着性が悪く、シール性が劣っており、特に、雨水で濡れた石炭等を搬送する際には、前記他方のトラフ部材4と裏当トラフ13との隙間から前記石炭等の粉塵を含む水が滲み出ることがあった。
【0011】
本発明は、斯かる実情に鑑み、トラフ部材の膨張・収縮を確実に吸収しつつ、裏当トラフによるシール性を向上し得る空気浮上式ローラレスベルトコンベヤのトラフエキスパンション継手部構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、所要間隔をあけてそれぞれ回転自在に配置された駆動プーリと従動プーリとの間にキャリアベルトを無端状に掛け回し、該キャリアベルトの下面側に、湾曲形成されるトラフ部材を延設し、該トラフ部材上面側に空気を供給することにより、前記キャリアベルトを前記トラフ部材から浮上させつつ循環移動させる空気浮上式ローラレスベルトコンベヤのトラフエキスパンション継手部構造において、
温度差に伴う膨張・収縮が吸収されるよう長手方向所要箇所で分割されたトラフ部材と、
該分割された一方のトラフ部材の端部に少なくとも液密性を保持するよう取り付けられ且つ前記トラフ部材間に形成されるクリアランスを裏側から覆うよう前記分割された他方のトラフ部材の端部側へ張り出す裏当トラフと、
内部に加圧空気が供給され且つ前記裏当トラフと前記分割された他方のトラフ部材の端部との間に少なくとも液密性を保持するよう介装される弾性チューブ部材と、
該弾性チューブ部材に加圧空気を供給する加圧空気供給手段と
を備えたことを特徴とする空気浮上式ローラレスベルトコンベヤのトラフエキスパンション継手部構造にかかるものである。
【0013】
上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【0014】
前記裏当トラフは、長手方向所要箇所で互いに対向するよう分割された一方のトラフ部材の端部に少なくとも液密性を保持するよう取り付けられ且つ前記トラフ部材間に形成されるクリアランスを裏側から覆うよう前記分割された他方のトラフ部材の端部側へ張り出しており、更に、前記裏当トラフと前記分割された他方のトラフ部材の端部との間には、加圧空気供給手段から内部に加圧空気が供給される弾性チューブ部材が介装されて少なくとも液密性が保持されており、この状態で前記トラフ部材の膨張・収縮によりクリアランスが変化した場合には、前記他方のトラフ部材と前記弾性チューブ部材とが相対的にスライドすることにより、前記トラフ部材の膨張・収縮が吸収される。
【0015】
この結果、従来の空気浮上式ローラレスベルトコンベヤのトラフエキスパンション継手部構造のように、裏当トラフを鋼板のプレス曲げ加工によって単に形成してスライドさせるのとは異なり、裏当トラフは、その製作精度を充分に高めなくても、前記加圧空気供給手段から内部に加圧空気が供給される弾性チューブ部材により、トラフ部材の分割箇所に対する密着性が良くなって、シール性が向上し、特に、雨水で濡れた石炭等を搬送する際にも、前記トラフ部材と裏当トラフとの隙間から前記石炭等の粉塵を含む水が滲み出る心配がなくなる。
【0016】
又、地震発生時に、前記トラフ部材と裏当トラフとが衝撃力を伴って相対的に大きくスライドしたとしても、該裏当トラフと前記他方のトラフ部材との間には前記弾性チューブ部材が介装されているため、前記裏当トラフは破損することなく前記トラフ部材の動きに追従可能となる。
【0017】
前記空気浮上式ローラレスベルトコンベヤのトラフエキスパンション継手部構造においては、前記加圧空気供給手段を、加圧空気の圧力源と、該圧力源と前記弾性チューブ部材とをつなぐ加圧空気ラインと、該加圧空気ライン途中に設けられた圧力調節弁とから構成することができ、このようにすると、前記加圧空気供給手段の圧力調節弁の開度を調節することにより、圧力源から加圧空気ラインを介して弾性チューブ部材に供給される加圧空気の圧力を適正値に保持することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の空気浮上式ローラレスベルトコンベヤのトラフエキスパンション継手部構造によれば、トラフ部材の膨張・収縮を確実に吸収しつつ、裏当トラフによるシール性を向上し得、且つ地震発生時における裏当トラフの破損を回避し得るという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0020】
図1〜図3は本発明を実施する形態の一例であって、図中、図4〜図7と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、基本的な構成は図4〜図7に示す従来のものと同様であるが、本図示例の特徴とするところは、図1〜図3に示す如く、温度差に伴う膨張・収縮が吸収されるよう長手方向所要箇所で分割された一方のトラフ部材4の端部に、少なくとも液密性を保持するよう裏当トラフ13を取り付け、該裏当トラフ13を前記分割された他方のトラフ部材4の端部側へ張り出させて前記トラフ部材4間に形成されるクリアランスcを裏側から覆うようにすると共に、前記裏当トラフ13と前記分割された他方のトラフ部材4の端部との間に、加圧空気供給手段16から内部に加圧空気が供給される弾性チューブ部材17を介装することにより、トラフエキスパンション継手部を構成した点にある。
【0021】
本図示例の場合、前記加圧空気供給手段16は、加圧空気の圧力源16aと、該圧力源16aと前記弾性チューブ部材17とをつなぐ加圧空気ライン16bと、該加圧空気ライン16b途中に設けられた圧力調節弁16cとから構成してある。
【0022】
尚、前記裏当トラフ13の基端側にはフランジ部13aを形成し、該フランジ部13aを、前記一方のトラフ部材4の端部において外周に張り出させたフランジ部4aに対しボルト・ナット等の締結部材15を用いて接合するようになっているが、前記フランジ部4a,13a間にガスケット(図示せず)を介在させることにより、液密性を保持することは可能となっている。又、前記裏当トラフ13の基端と先端の中間部外周には補強フランジ部13bを形成してある。
【0023】
次に、上記図示例の作用を説明する。
【0024】
前記裏当トラフ13は、長手方向所要箇所で互いに対向するよう分割された一方のトラフ部材4の端部に少なくとも液密性を保持するよう取り付けられ且つ前記トラフ部材4間に形成されるクリアランスcを裏側から覆うよう前記分割された他方のトラフ部材4の端部側へ張り出しており、更に、前記裏当トラフ13と前記分割された他方のトラフ部材4の端部との間には、加圧空気供給手段16から内部に加圧空気が供給される弾性チューブ部材17が介装されて少なくとも液密性が保持されており、この状態で前記トラフ部材4の膨張・収縮によりクリアランスcが変化した場合には、前記他方のトラフ部材4と前記弾性チューブ部材17とが相対的にスライドすることにより、前記トラフ部材4の膨張・収縮が吸収される。
【0025】
この結果、従来の空気浮上式ローラレスベルトコンベヤのトラフエキスパンション継手部構造のように、裏当トラフ13を鋼板のプレス曲げ加工によって単に形成してスライドさせるのとは異なり、裏当トラフ13は、その製作精度を充分に高めなくても、前記加圧空気供給手段16から内部に加圧空気が供給される弾性チューブ部材17により、トラフ部材4の分割箇所に対する密着性が良くなって、シール性が向上し、特に、雨水で濡れた石炭等を搬送する際にも、前記トラフ部材4と裏当トラフ13との隙間から前記石炭等の粉塵を含む水が滲み出る心配がなくなる。
【0026】
ここで、前記加圧空気供給手段16の圧力調節弁16cの開度を調節することにより、圧力源16aから加圧空気ライン16bを介して弾性チューブ部材17に供給される加圧空気の圧力は適正値に保持されるようになっている。
【0027】
又、地震発生時に、前記トラフ部材4と裏当トラフ13とが衝撃力を伴って相対的に大きくスライドしたとしても、該裏当トラフ13と前記他方のトラフ部材4との間には前記弾性チューブ部材17が介装されているため、前記裏当トラフ13は破損することなく前記トラフ部材4の動きに追従可能となる。
【0028】
こうして、トラフ部材4の膨張・収縮を確実に吸収しつつ、裏当トラフ13によるシール性を向上し得、且つ地震発生時における裏当トラフ13の破損を回避し得る。
【0029】
尚、本発明の空気浮上式ローラレスベルトコンベヤのトラフエキスパンション継手部構造は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明を実施する形態の一例を示す正断面図である。
【図2】本発明を実施する形態の一例を示す側面図であって、図1のII−II矢視相当図である。
【図3】本発明を実施する形態の一例を示す平面図であって、図2のIII−III断面相当図である。
【図4】従来の空気浮上式ローラレスベルトコンベヤの一例を示す全体概要構成図である。
【図5】従来の空気浮上式ローラレスベルトコンベヤの一例を示す要部断面斜視図である。
【図6】従来の空気浮上式ローラレスベルトコンベヤのトラフエキスパンション継手部構造の一例を示す正断面図である。
【図7】従来の空気浮上式ローラレスベルトコンベヤのトラフエキスパンション継手部構造の一例を示す側面図であって、図6のVII−VII矢視相当図である。
【符号の説明】
【0031】
1 駆動プーリ
2 従動プーリ
3 キャリアベルト
4 トラフ部材
13 裏当トラフ
13a フランジ部
13b 補強フランジ部
15 締結部材
16 加圧空気供給手段
16a 圧力源
16b 加圧空気ライン
16c 圧力調節弁
17 弾性チューブ部材
c クリアランス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所要間隔をあけてそれぞれ回転自在に配置された駆動プーリと従動プーリとの間にキャリアベルトを無端状に掛け回し、該キャリアベルトの下面側に、湾曲形成されるトラフ部材を延設し、該トラフ部材上面側に空気を供給することにより、前記キャリアベルトを前記トラフ部材から浮上させつつ循環移動させる空気浮上式ローラレスベルトコンベヤのトラフエキスパンション継手部構造において、
温度差に伴う膨張・収縮が吸収されるよう長手方向所要箇所で分割されたトラフ部材と、
該分割された一方のトラフ部材の端部に少なくとも液密性を保持するよう取り付けられ且つ前記トラフ部材間に形成されるクリアランスを裏側から覆うよう前記分割された他方のトラフ部材の端部側へ張り出す裏当トラフと、
内部に加圧空気が供給され且つ前記裏当トラフと前記分割された他方のトラフ部材の端部との間に少なくとも液密性を保持するよう介装される弾性チューブ部材と、
該弾性チューブ部材に加圧空気を供給する加圧空気供給手段と
を備えたことを特徴とする空気浮上式ローラレスベルトコンベヤのトラフエキスパンション継手部構造。
【請求項2】
前記加圧空気供給手段を、加圧空気の圧力源と、該圧力源と前記弾性チューブ部材とをつなぐ加圧空気ラインと、該加圧空気ライン途中に設けられた圧力調節弁とから構成した請求項1記載の空気浮上式ローラレスベルトコンベヤのトラフエキスパンション継手部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−269749(P2009−269749A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−124200(P2008−124200)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【出願人】(000198363)石川島運搬機械株式会社 (292)
【Fターム(参考)】