説明

空気清浄機

【課題】
光触媒をプラズマで励起させて汚染物質を分解する際に、光触媒となるアナターゼ型酸化チタンを強固に担持させて剥がれを防止し、さらに、光触媒に接する機会を増大させて、光触媒による浄化処理効率を格段に向上させる。
【解決手段】
空気流路(2)となるプラズマ発生空間(4)内に光触媒フィルタ(F)が配され,光触媒フィルタ(F)は、チタン箔(11)に通気孔となる多数の微細流路(12)が形成されると共にその表面に陽極酸化皮膜による酸化チタンベース層(13)を形成したチタンメッシュ(14)にアナターゼ型酸化チタン粒子を焼き付けて光触媒層(15)を形成した一枚以上のフィルタエレメント(E)を備え、少なくとも一のフィルタエレメント(E)に、チタンメッシュ(14)を折曲成形又はプレス成形した周期的又はランダム周期の起伏を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理しようとする空気を流す流路となるプラズマ発生空間内に光触媒フィルタが配されてなる空気清浄機に関し、特に、冷蔵庫、エアコンディショナー、掃除機、加湿器、除湿機などの家庭用電化製品に組み込んで使用するタイプの空気清浄機に好適である。
【背景技術】
【0002】
従来より、空気などに含まれている汚染物質を分解処理する際に、常温大気圧プラズマにより汚染物質を分解すると共に、プラズマ発光により光触媒である酸化チタンを励起させて光触媒作用により汚染物質を分解するプラズマ/光触媒併用タイプの空気清浄機が提案されている。
【0003】
図13は、このようなプラズマ−光触媒併用タイプの空気清浄機41を示し、例えば、プラズマ発生電極となる内筒電極42と外筒電極43の間を空気流路とし、外筒電極42の内面に光触媒層44を設けている(特許文献1参照)。
しかしながら、これによれば、光触媒が外筒電極43の内周面に形成されていることから、光触媒層に多量の光触媒粒子を混入しても、光触媒層の表面しか空気に接触しないため表面積を増やして処理効率を向上させることができない。
また、処理しようとする空気を有効に光触媒に接触させようとすると、その流路となる内筒電極42と外筒電極43の隙間を広くすることができず、狭くしなければならないので処理風量を多くすることもできない。
【0004】
このため、図14に示すように、空気流路となる絶縁筒51の中心に線状の高圧パルス電極52を設けると共に、その外周面に接地電極53を設け、多孔質光触媒シート54を巻回した光触媒体55を電極52,53間に放電空間を確保するように挿入した空気清浄機も提案されている(特許文献2参照)。
この多孔質光触媒シート54は、シート状の基材、ガラス繊維、セラミックス繊維、金属繊維、炭素繊維などで形成した不織布状(フェルト状)の基材に、光触媒であるアナターゼ型酸化チタン/フッ素系樹脂のディスパ−ジョンを塗布乾燥後、あるいは、前記基材をディスパージョンに浸漬して引上げ乾燥後、焼成して、基材に光触媒多孔質膜を形成している。
しかしながら、光触媒となるアナターゼ型の酸化チタンをこれらの基材に担持させようとしても、光触媒多孔質膜と基材との結合性が極めて弱く、多孔質光触媒シート54を巻回したり手で屈曲させたりするだけで多孔質膜が基材から簡単に剥離するため、製品寿命が短く、有害臭気成分を効率的に分解することができないという問題がある。
【0005】
また、一般にプラズマを発生させる際には、必要電流の低い順に、コロナ放電、グロー放電、アーク放電のいずれかを起こさせる必要があり、家庭用の空気清浄機としては、小型の電源装置で放電を維持できるコロナ放電によるタイプが使用される。
しかし、コロナ放電によるプラズマはエネルギーが比較的低いから、相対的に、プラズマにより分子又は原子を解離させることができない程度に結合エネルギー(BDE)の大きな汚染物質の種類が増えてしまい、処理効率が低下する。
また、アーク放電によるプラズマはエネルギーが高いため、分解能力が高くなるが、必要電流がより高くなることから電源が大型化し、家庭電化製品に組み込むことが困難とされていた。
さらに、空気清浄機を家庭電化製品に組みことができる程度に小型化させた場合、空気を浄化処理するプラズマ発生空間も小さくなり、その分、処理効率が低下するという問題も生ずる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−187319号公報
【特許文献2】特開平11−47558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、光触媒をプラズマで励起させて空気中に含まれる汚染物質を分解する際に、光触媒となるアナターゼ型酸化チタンを強固に担持させて剥がれを防止し、また、光触媒に接する機会を増大させて、光触媒による浄化処理効率を格段に向上させ、さらには、小型の電源でも均一なグロー放電プラズマを発生させることができ、家庭電化製品に組みことができる程度に小型化させた場合でも処理効率を低下させないようにすることを技術的課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、本発明は、浄化処理しようとする空気の流路となるプラズマ発生空間内に光触媒フィルタが配されてなる空気清浄機において、前記光触媒フィルタは、チタン箔に通気孔となる多数の微細流路が形成されると共にその表面に陽極酸化皮膜による酸化チタンベース層を形成したチタンメッシュにアナターゼ型酸化チタン粒子を焼き付けて光触媒層を形成した一枚以上のフィルタエレメントを備え、少なくとも一のフィルタエレメントには、そのチタンメッシュを折曲成形又はプレス成形した周期的又はランダム周期の起伏が形成されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、酸化チタン粒子を担持させる基材として、チタン箔を用いているので、フレキシブルなシート状に形成することができ、空気清浄機の仕様に応じて任意の形状に折り曲げたり巻回したりすることができる。
また、多数の通気孔を形成することにより表面積を大きくすることができるので、アナターゼ型酸化チタン粒子を焼き付けたときに、空気に触れる表面積が大きくなり、処理効率が向上する。
特に、請求項11に記載されているように、エッチング処理により非周期性海綿構造に形成した場合は、より表面積を大きくすることができるので、さらに処理効率が向上する。
【0010】
光触媒フィルタは、チタンメッシュの表面に陽極酸化皮膜による酸化チタンベース層を形成し、これに光触媒となるアナターゼ型酸化チタン粒子を焼き付けているので、酸化チタンベースと光触媒層は、酸化チタン同士が結合することとなり、その結合性が極めて強く、光触媒層が剥がれ難い。
また、光触媒フィルタは、導体であるチタンメッシュを基材としているので、そのチタンメッシュの部分は等電位となり、プラズマ発生空間を狭くすることなく、実質放電ギャップを狭くすることができ、これにより、低電力、低電流で大気圧グロー放電を起こさせることができる。
特に、請求項5に記載されているように、フィルタエレメントの起伏を誘電体層に接触させれば、実質放電ギャップは誘電体層の厚さまで小さくすることができる。
【0011】
そして、プラズマ発生空間に導入された処理空気は、プラズマにより分解処理されるだけでなく、プラズマ励起された光触媒により分解反応が促進されるので、空気清浄機を小型化することによりプラズマ発生空間の容積が小さくなっても処理効率が低下することがない。
【0012】
なお、請求項2のように、プラズマ発生空間の内壁面に非光励起型の触媒を直接担持させ、あるいは、プラズマ発生空間に非光励起型の触媒を担持した触媒担体が配することにより、プラズマ発生空間に導入された処理空気はプラズマによる分解処理され、プラズマ励起された光触媒による分解反応が促進され、さらに、非光励起型の通常触媒により分解反応が促進されるという三重の浄化処理が行われるので、空気清浄機を小型化することによりプラズマ発生空間の容積が小さくなっても処理効率が低下することがない。
【0013】
請求項3のように、前記流路に沿って配された板状電極と、前記光触媒フィルタとを反対極性の電圧が印加される一対のプラズマ発生電極とすれば、空気流路となるプラズマ発生空間を狭くすることなく電極間距離を短くすることができるので、実質放電ギャップを狭くすることができる。その結果、大気圧グロー放電によるプラズマを生じさせる場合でも低電力ひいては低電流で安定放電を維持することができるので、大型の電源装置を使用することなく稼動させることができ、空気清浄機を家庭電化製品に組み込む程度に小型化することができる。
なお、請求項4に記載されているように、流路に沿って配された板状電極とプラズマ発生空間の間に誘電体層を設けておけば、光触媒フィルタと板状電極とのショートを確実に防止できる。
【0014】
請求項6に記載されているように、プラズマ発生空間を円筒状管路で形成し、その管路内に前記フィルタエレメントをロール状に巻回した光触媒フィルタを配してもよく、この場合、管路に外装された板状電極と、前記管路内に配された光触媒フィルタを、それぞれ反対極性の電圧が印加される一対のプラズマ発生電極とすれば、前述同様に、実質放電ギャップを狭くして、低電力、低電流で大気圧グロー放電を起こさせることができる。
【0015】
請求項7に記載されているように、交流電源に接続されて反対極性の電圧が印加される一対のプラズマ発生電極を、流路を挟んで前記プラズマ発生空間の両側に配する場合でもよい。この場合も、光触媒フィルタのチタンメッシュが等電位となるので、やはり、プラズマ発生空間の実質放電ギャップを狭くして、低電力、低電流で大気圧グロー放電を起こさせることができる。
【0016】
請求項8に記載されているように、フィルタエレメントに形成される起伏は、チタンメッシュの縦又は横の一方向に連続する波型に形成することができる。
この場合、請求項12に記載されたように、波型の起伏が露出する断面を空気の流入方向に対向して設ければ、プラズマ発生空間内に多数の流路が形成され、この流路を流れる空気が光触媒に接触する機会が増大するので、処理効率が向上する。
また、これと直交する方向に配すると、チタンメッシュを透過する回数が増大するので処理効率が向上する。
【0017】
請求項9に記載されたように、フィルタエレメントに形成される起伏が、マトリックス状に縦横に所定間隔で形成された突起であってもよい。
この場合、プラズマ発生空間内を流れる空気が突起にぶつかることにより、光触媒に接触する機会が増大するので、処理効率が向上する。
【0018】
請求項10に記載されたように、起伏が形成されたフィルタエレメントと、起伏が形成されていないフィルタエレメントを交互に積層することにより、プラズマ発生空間の容積に応じた光触媒フィルタを形成することができる。
したがって、プラズマ発生空間が広くても、光触媒フィルタのチタンメッシュにより実質放電ギャップを狭くすることができるので、低電力、低電流で大気圧グロー放電によるプラズマを発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る空気清浄機の一例を示す説明図。
【図2】その流入口側から見た正面図。
【図3】光触媒フィルタを示す説明図。
【図4】フィルタエレメントの製造方法を示す説明図。
【図5】プラズマ発生空間の水平断面図。
【図6】給電態様が異なる他の実施例を示す説明図。
【図7】電極の配置が異なる他の実施例を示す説明図。
【図8】プラズマ発生空間の形状が異なる他の実施例を示す説明図。
【図9】チタンメッシュの起伏が異なる他の実施例を示す説明図。
【図10】光触媒フィルタの構成が異なる他の実施例を示す説明図。
【図11】他の実施例を示す説明図。
【図12】その実験結果を示すグラフ。
【図13】従来装置を示す説明図。
【図14】従来装置を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、光触媒をプラズマで励起させて汚染物質を分解する際に、光触媒となるアナターゼ型酸化チタンを強固に担持させて剥がれを防止し、さらに、光触媒に接する機会を増大させて、光触媒による浄化処理効率を格段に向上させる目的を達成するために、浄化処理しようとする空気の流路となるプラズマ発生空間内に光触媒フィルタが配されている。
光触媒フィルタは、チタン箔に通気孔となる多数の微細流路が形成されると共にその表面に陽極酸化皮膜による酸化チタンベース層を形成したチタンメッシュにアナターゼ型酸化チタン粒子を焼き付けて光触媒層を形成した一枚以上のフィルタエレメントを備え、少なくとも一のフィルタエレメントには、そのチタンメッシュを折曲成形又はプレス成形した周期的又はランダム周期の起伏が形成されている。
【実施例1】
【0021】
図1及び図2に示すように、本発明に係る空気清浄機1は、浄化処理しようとする空気を流すスリット状の流路2が形成された誘電体でなる絶縁ケーシング3の内部にプラズマ発生空間4が形成され、ケーシング3の外周面には流路2を挟んでプラズマ発生空間4の両側に平板状電極5A、5Bが配されている。
【0022】
プラズマ発生空間4には、前記電極5A又は5Bに挟まれる位置にこれと略同じ平面形状の光触媒フィルタFが絶縁ケーシング3に接触するように配されると共に、少なくとも一方の電極5A又は5B側の絶縁ケーシング3内面に、白金系、ニッケル系、酸化物系など処理しようとする汚染物質に応じた非光励起型の触媒を担持させた触媒層(触媒担体)7が形成されている。
【0023】
そして、光触媒フィルタFは交流電源6の交流出力端子に接続され、平板状電極5A及び5Bは接地電極として交流電源6のアース側に接続されており、光触媒フィルタFと、平板状電極5A及び5Bに、反対極性の電圧が印加されてこれらが一対のプラズマ発生電極として機能する。
すなわち、プラズマ発生空間4では、電極5A及び5Bを取り付けた絶縁ケーシング3が誘電体層として機能し、絶縁ケーシング3の電極5A側の内面に非光励起型の触媒による触媒層7が形成されており、絶縁ケーシング3と接するように光触媒フィルタFが配されており、電極5A及び5Bと、その反対極である光触媒フィルタFは、絶縁ケーシング3で形成される誘電体層の厚さしか離れていないので、低電力、低電流で安定放電を維持することができるというメリットがある。
また、この場合、ケーシング3の外部に露出している電極5A、5Bいずれもアース電位に落ちるので、安全性が高いというメリットがある。
【0024】
光触媒フィルタFは、図3に示すように、チタン箔11に通気孔/通水孔となる多数の微細流路12が形成されると共にその表面に陽極酸化皮膜による酸化チタンベース層13を形成したチタンメッシュ14にアナターゼ型酸化チタン粒子を焼き付けて光触媒層15を形成した一枚以上のフィルタエレメントEを備えており、少なくとも一のフィルタエレメントEは、そのチタンメッシュ14に折曲成形あるいはプレス成形による起伏が周期的にあるいはランダム周期で形成されている。
どの起伏も、高さ(エレメントEの厚さ)が略一定になるように均一の高さで形成されており、その高さは光触媒フィルタFをプラズマ発生空間4に装着したときに、光触媒フィルタFの表裏両面が絶縁ケーシング3の内表面に当接されるように成っている。
本例では、光触媒フィルタFは一枚のフィルタエレメントEからなり、チタンメッシュ14に形成される起伏が、縦又は横の一方向に連続する波型に形成されて成る。
【0025】
図4はそのフィルタエレメントEの製造方法を示す説明図である。
まず、フラットなチタン箔11に通気孔となる微細流路12を形成するエッチング処理を行う。エッチング処理は、純チタンを圧延して形成したチタン箔11の表裏両面にフォトレジスト剤16を塗布する塗布工程(図4(a))と、レジスト剤16の上から非周期的パターンが形成されたマスキングフィルム17、17を重ねて露光する露光工程(図4(b))と、露光後、レジスト剤の感光していない部分を洗浄して感光した部分をチタン箔表面に残す洗浄工程(図4(c))と、レジスト剤16で非周期網目パターンがマスキングされたチタン箔11をエッチング液に浸漬し、表裏両面からチタン箔11の厚さの半分まで浸食させることにより表裏を貫通する多数の微細流路12…を形成する浸漬工程(図4(d))からなる。
【0026】
このように、チタン箔11の両面からエッチング処理を施せば、そのマスキングパターンに周期性がないことから、チタン箔の表側と裏側から異なるパターンの孔が形成される。その結果、図2に示すように、チタン箔11の厚さ方向に複雑なラビリンス状の微細流路2が形成され、単純なメッシュ構造よりも比表面積が著しく大きくなる。
なお、チタンメッシュ14の空隙率(エッチング処理後の重量/エッチング処理前の重量)は20%程度である。
また、その表面を拡大観察すると、この時点では、図4(e)に示すように、概ねフラットな状態となっている。
【0027】
次いで、その表面に酸化チタンベース層13を形成する陽極酸化処理を行う。
陽極酸化処理は、リン酸浴(例えばリン酸3%水溶液)中で、陽極となるチタン箔11と陰極との間に所定電圧を印加して行われ、その結果、図4(f)に示すように、チタン箔11の表面が酸化されて陽極酸化皮膜が形成される。
このとき、酸化皮膜は、チタン箔11の表裏両面だけでなく、微細流路2の内壁面などリン酸浴に曝されている全表面に形成される。
その後、このチタン箔11を大気中で550℃、3時間加熱する加熱処理を施し、陽極酸化皮膜が加熱された酸化チタンベース層13が形成される。
その表面を拡大観察すると、エッチング処理した時点でフラットだった表面に、陽極酸化処理及び加熱処理によるひび割れ8が多数出現する。
なお、チタンを陽極酸化処理した場合、その酸化皮膜の厚さに応じて光の干渉により異なる色が発色し、厚さ70nm程度で紫色、150nm程度で緑色、200nm程度でピンク色を呈することが知られている。本例では、厚さ70nmの皮膜を形成した。
【0028】
そして最後に、アナターゼ型酸化チタン粒子4を担持させる焼き付け処理を行う。
表面に酸化チタンベース層13が形成されたチタン箔11を、アナターゼ型酸化チタン粒子4を分散したスラリー中にディッピングした後、これを550℃で焼き付けると、図4(g)に示すように、チタン箔11の表裏両面及び微細流路12の内壁面に光触媒層15が形成される。
【0029】
なお本例では、フィルタエレメントを波型に形成するため、陽極酸化処理を施した後、加熱処理を施す前に、プレス加工により起伏を周期的にまたはランダム周期で形成する起伏成形処理を施す。
本例では、チタンメッシュ14の長手方向に沿って連続するピッチ約5mm、波高約5mmの波型起伏を折曲形成している。
【0030】
このように製造されたフィルタエレメントEの酸化チタンベース層13と光触媒層15は、酸化チタン同士が結合することになるので、その結合性が極めて強くなり、その結果、光触媒層15が剥がれ難くなる。
さらに、エッチング処理により微細流路12を形成したことにより表面が複雑な凹凸形状をなし、陽極酸化皮膜でなる酸化チタンベース層13はミクロンオーダーの微細なひび割れ13aを生ずるため、その上に光触媒層15が強固に結合するだけでなく、表面積が増え、処理効率が格段に向上する。また、UV光を照射したときに光触媒層15の表面及び酸化チタンベース層13との界面で乱反射/光散乱が起き、UV光を効率よく利用できる。
さらにまた、チタン箔を使用したことでチタンメッシュ14自体を軽量に形成することができることから設計の自由度が大きくなり、耐熱性、耐薬品にも優れるため、過酷な使用条件の下でも使用に耐え得る。
【0031】
そして、図1及び図2に示すように、このように製造された一枚のフィルタエレメントEを光触媒フィルタFとして、波型の起伏が露出する断面を処理しようとする空気の流入方向に対向して設けている。
図5は、このときの流路2の水平断面を模式的に示している。
フィルタエレメントEを波型に形成したことにより、流路2が複数の平行流路2a、2b…に分岐されることとなる。
また、平行流路2a、2b…の内壁には多数の微細流路12が形成されているので、各平行流路2a、2b…を流れる空気は、内壁に当たると微細流路12を通って隣接する平行流路2a、2b…に流出し、あるいは、隣接する空気流路2a、2b…から微細流路12を通って流入するなどの複雑な流れが形成される。
チタンメッシュ14の表面には、微細流路12の内壁面も含めて、光触媒層15が形成されているので、平行流路2a、2b…を流れる空気が光触媒層15に接触する機会は格段に増え、処理効率が向上する。
【0032】
なお、光触媒フィルタFのチタンメッシュ14は導体であるが、その表面に形成された陽極酸化皮膜からなる酸化チタンベース層13と光触媒層15は物性的に絶縁体であるので、光触媒フィルタFをプラズマ発生電極として機能させるためには、チタンメッシュ14に電力を供給すればよい。
【0033】
以上が本発明の一構成例であって、次に、その作用を説明する。
交流電源6により所定電圧の高周波電圧を印加すると、光触媒フィルタFと、平板状電極5A,5Bが反対極性のプラズマ発生電極として機能して放電を生じ、プラズマ発生空間4内が大気圧常温プラズマ状態となる。
このとき、光触媒フィルタFを絶縁ケーシング3に接触させることにより空気流路となるプラズマ発生空間4を狭くすることなく電極間距離を最も近づけることができるので、実質放電ギャップを狭くすることができる。
その結果、大気圧グロー放電によるプラズマを生じさせる場合でも低電力ひいては低電流で安定放電を維持することができるので、大型の電源装置を使用することなく稼動させることができ、空気清浄機を家庭電化製品に組み込む程度に小型化することができる。
【0034】
これにより、平板状電極5A,5Bと、これに平面形状が略等しい光触媒フィルタFとの間でプラズマを発生させるので、プラズマ発生空間4全体にプラズマが略均一に発生し、光触媒フィルタF全体がプラズマに曝される。
このとき、大気圧グロー放電によるプラズマを生じさせれば、そのエネルギーが空気中に一般的に含まれる汚染物質の結合エネルギーより大きいので、汚染物質をプラズマエネルギーにより二以上の分子又は原子に分解させることができる。
【0035】
また、窒素及び酸素を含む大気圧プラズマは、酸化チタン光触媒を励起可能な波長300〜380nmにいくつかのピークを有する紫外光を発するため、光触媒フィルタFが励起される。
この状態で、プラズマ発生空間4に、例えば室内空気や冷蔵庫内空気を通過させると、その空気は、波型のチタンメッシュ14により形成された光触媒層15に接触しながらその平行流路2a、2b…を通過する間に、光触媒作用により分解が促進されて無害/無臭化される。
【0036】
さらに、プラズマ発生区間4の絶縁ケーシング3の内壁面に非光励起型の触媒をコーティングさせた触媒層7が形成されているので、流路2を通過する処理空気がその触媒層7に接することとなり、その触媒作用により汚染物質が酸化・分解が促進されて無害/無臭化される。
【0037】
このように、本例では、プラズマにより分解され、プラズマ励起された光触媒により分解反応が促進され、さらに、非光励起型の通常触媒により分解反応が促進されるという三重の浄化処理が行われる。
したがって、空気清浄機を小型化することによりプラズマ発生空間の容積が小さくなって、個々の浄化処理の処理能力が多少低下することがあっても、全体として処理効率が低下することがない。
【0038】
なお、光触媒フィルタFは、酸化チタン粒子を担持させる基材として、チタン箔11を用いているので、フレキシブルなシート状に形成することができ、空気清浄機の仕様に応じて任意の形状に折り曲げたり巻回したりすることができる。
また、多数の通気孔を形成することにより表面積を大きくすることができ、特に、エッチング処理により非周期性海綿構造に形成した場合は、より表面積を大きくすることができるので、アナターゼ型酸化チタン粒子を焼き付けたときに、空気に触れる表面積が大きくなり、処理効率が向上する。
【実施例2】
【0039】
図6は、給電形態のみが実施例1と異なる他の実施例を示している。
本例では、光触媒フィルタFをプラズマ発生電極として使用せず、空気の流路2に沿って絶縁ケーシング3の外周面に配された平板状電極5A、5Bを交流電源6の反対極に接続し、一対のプラズマ発生電極として用いている。
この場合、光触媒フィルタFは、平板状電極5A、5Bの反対極とはならないが、その表裏両側が絶縁ケーシング3に接していれば、光触媒フィルタFは等電位となるので、やはり、プラズマ発生空間4を狭くすることなく実質放電ギャップを狭くして、低電力、低電流で大気圧グロー放電を起こさせることができる。
本例でも、プラズマ発生空間4に導入された空気に含まれている汚染物質が、プラズマ発生空間3で生成されたプラズマにより二以上の分子又は原子に分解されて無害/無臭化されると同時に、光触媒フィルタFがプラズマ励起されて汚染物質の分解が促進されて無害/無臭化され、さらには、流路2に形成された非光励起型の触媒層7の触媒作用により分解が促進されて無害/無臭化される。
【実施例3】
【0040】
図7(a)は他の実施例を示す。図1と重複する部分は同一符号を付して詳細説明は省略する。
本例では、プラズマ発生空間4に、光触媒フィルタFと、非光励起型の触媒を担持させた触媒フィルタCを配している。
触媒フィルタCは、例えば、陽極酸化処理を施したチタンメッシュその他の多孔質金属メッシュを触媒担体として用い、これに、白金系、酸化物系、ニッケル系、その他処理しようとする汚染物質に適合した非光励起型の触媒を担持させている。
【0041】
なお、プラズマ発生空間4には、触媒フィルタCを挟んでその両側に光触媒フィルタF、Fがケーシング3内面に接するように配されている。
この場合に、プラズマ発生電極は、光触媒フィルタFと、平板状電極5A,5Bを反対極性とする場合でも、触媒フィルタCと、平板状電極5A,5Bを反対極性とする場合でも、両側の平板状電極5A,5Bをそれぞれ反対極性とする場合でもよい。
【0042】
これによれば、流路2を通過する処理空気が非光励起型の触媒に接触する機会が増えるので、非光励起型の触媒での処理効率が高い汚染物質が多く含まれている空気を浄化する場合に効果的である。
【実施例4】
【0043】
図7(b)は、さらに他の実施例を示す。図1と重複する部分は同一符号を付して詳細説明は省略する。
本例では、プラズマ発生空間4にプラズマ発生電極となる金属板18が配され、その金属板18の両面に非光励起型の触媒19を担持させている。
そして、金属板18と、平板状電極5A,5Bがプラズマ発生電極として、交流電源6の反対極に接続されている。
【実施例5】
【0044】
図8はプラズマ発生空間の形状が異なる他の実施例を示す。
本例の空気清浄機21は、プラズマ発生空間22が誘電体で形成された円筒状管路23に形成され、その管路23内にフィルタエレメントEをロール状に巻回した光触媒フィルタF2が配されている。
具体的には、波型の起伏が形成されたフィルタエレメントEと、起伏が形成されていない平板状のフィルタエレメントE2を一枚ずつ重ねたものを巻回している。
そして、交流電源6に接続されて反対極性の電圧が印加される一対のプラズマ発生電極24A、24Bのうち、一方の電極24Aが管路23に外装されると共に、接地電極として交流電源6のアース側端子に接続され、他方の電極24Bとなる光触媒フィルタF2のチタンメッシュ14が交流電源6の交流電圧出力端子に接続されている。
また、管路23の内周面には、必要に応じて、非光励起型の触媒がコーティングされた触媒層7が形成されている。
【0045】
これによれば、交流電源6により所定電圧の高周波電圧を印加すると、プラズマ発生電極24A,24Bが反対極性となって放電を生じ、プラズマ発生空間22内が大気圧常温プラズマ状態となる。
このとき、光触媒フィルタFを管路23に接触させることにより空気流路となるプラズマ発生空間22を狭くすることなく電極間距離を最も近づけることができるので、実質放電ギャップを狭くすることができ、大型の電源装置を使用することなく稼動させることができ、空気清浄機を家庭電化製品に組み込む程度に小型化することができる。
【0046】
この状態で、プラズマ発生空間22に、処理しようとする室内空気や冷蔵庫内空気を通過させると、空気に含まれている汚染物質が、プラズマ発生空間22で生成されたプラズマにより二以上の分子又は原子に分解されて無害/無臭化されると同時に、光触媒作用により分解が促進されて無害/無臭化され、さらには、管路23の内周面に形成された非光励起型の触媒層7の触媒作用により分解が促進されて無害/無臭化される。
【実施例6】
【0047】
さらに、上述の説明では、いずれの実施例1〜4でも、フィルタエレメントEのチタンメッシュ14の起伏が、波型に形成されている場合について説明したが、本発明はこれに限るものではない。
例えば、図9(a)及び(b)に示すように、フィルタエレメントE3のチタンメッシュ14の起伏として、プレス成形により、直線流路Lを塞ぐように複数の突起25…を齟齬させてマトリックス状に縦横に所定間隔で配したものでもよい。
このフィルタエレメントE3を上記各実施例のフィルタエレメントEに替えて使用することができる。
【0048】
例えば、突起25…が形成されたフィルタエレメントE3を実施例1のタイプのような空気清浄機1の光触媒フィルタFに用いた場合、図9(b)に示すように、流路2の水平断面には流入口26から流出口27に至る直線流路L上に必ず突起が形成されるため突起25のチタンメッシュ14を通過する際に触媒層15に接触し、流入口26から流出口27に至る曲線流路Cに沿って流れる場合も、各突起25…の表面に形成された触媒層15に形成しながら流出口27に向かい、いずれの場合も空気の流れは複雑化し、触媒層15に接触する機会が著しく増大する。
しかも、チタンメッシュ14を透過せずに流入口26から流出口27に至る曲線流路Cが確保されているので、圧力損失が小さく大流量で処理することができ、その結果、処理効率が極めて高い。
【実施例7】
【0049】
また、光触媒フィルタFは、一枚のフィルタエレメントE、E3で構成する場合に限らず、図10(a)に示すように、プラズマ発生空間4の大きさ(高さ)に応じて起伏が形成された複数枚のエレメントE(E3)を重ねたり、図10(b)に示すように、起伏が形成されたフィルタエレメントE(E3)と、起伏が形成されていないフィルタエレメントE2を交互に積層して形成する場合でもよい。
【実施例8】
【0050】
図11は最もシンプルな実施例を示し、本例では、プラズマ発生空間4の両側に配された平板状電極5A、5Bの間に、光触媒フィルタFを挟んだだけの構成となっており、前記平板状電極5A、5Bの夫々が交流電源6の反対極に接続されている。
【0051】
これによれば、プラズマ発生空間22に、処理しようとする室内空気や冷蔵庫内空気を通過させると、空気に含まれている汚染物質が、プラズマ発生空間22で生成されたプラズマにより二以上の分子又は原子に分解されて無害/無臭化されると同時に、光触媒作用により分解が促進されて無害/無臭化される。
本例では、非光励起型の触媒による触媒層が形成されていないので、処理しようとする空気中に、非光励起型の触媒により処理するよりも光触媒で処理した方が浄化効率が高い汚染物質が主として含まれる場合に適している。
【0052】
なお、図12(a)〜(b)は、このタイプの空気清浄機1をセットした1mのアクリルチャンバ内に所定量のタバコの煙を封じ込めて浄化処理したときに、臭気成分となるアセトアルデヒド、酢酸、アンモニアの濃度変化と、プラズマの発生に伴って生じるオゾン濃度の変化を示すグラフである。
本実施例による実験結果を実線で示し、本実施例から光触媒フィルタを外した装置による対照実験結果を一点鎖線で示す。
臭気成分となるアセトアルデヒド、酢酸、アンモニアのいずれも本実施例の方が処理能力が高く、プラズマ発生に伴って生じるオゾンの濃度は1/2程度に抑えられていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、冷蔵庫、エアコンディショナー、掃除機、加湿器、除湿機などの家庭用電化製品に組み込んで使用する空気清浄機に用いて好適である。
【符号の説明】
【0054】
1 空気清浄機
2 流路
3 絶縁ケーシング
4 プラズマ発生空間
5A、5B プラズマ発生電極
F 光触媒フィルタ
6 交流電源
7 触媒層
11 チタン箔
12 微細流路
13 酸化チタンベース層
14 チタンメッシュ
15 光触媒層
E フィルタエレメント



【特許請求の範囲】
【請求項1】
浄化処理しようとする空気の流路となるプラズマ発生空間内に光触媒フィルタが配されてなる空気清浄機において、
前記光触媒フィルタは、チタン箔に通気孔となる多数の微細流路が形成されると共にその表面に陽極酸化皮膜による酸化チタンベース層を形成したチタンメッシュにアナターゼ型酸化チタン粒子を焼き付けて光触媒層を形成した一枚以上のフィルタエレメントを備えており、
少なくとも一のフィルタエレメントには、そのチタンメッシュを折曲成形又はプレス成形した周期的又はランダム周期の起伏が形成されたことを特徴とする空気清浄機。
【請求項2】
前記プラズマ発生空間の内壁面に非光励起型の触媒が担持され、あるいは、前記プラズマ発生空間に非光励起型の触媒を担持した触媒担体が配されてなる請求項1記載の空気清浄機。
【請求項3】
前記流路に沿って配された板状電極と、前記プラズマ発生空間内に配された光触媒フィルタが、それぞれ交流電源に接続されて反対極性の電圧が印加される一対のプラズマ発生電極となる請求項1又は2記載の空気清浄機。
【請求項4】
前記流路に沿って配された板状電極とプラズマ発生空間の間に誘電体層が設けられてなる請求項3記載の空気清浄機。
【請求項5】
前記フィルタエレメントが、その起伏を前記誘電体層に接した状態でプラズマ発生空間に配されて成る請求項4記載の空気清浄機。
【請求項6】
前記プラズマ発生空間が円筒状管路に形成され、その管路内に前記フィルタエレメントをロール状に巻回した光触媒フィルタが配され、
前記管路に外装された板状電極と、前記管路内に配された光触媒フィルタが、それぞれ交流電源に接続されて反対極性の電圧が印加される一対のプラズマ発生電極となる請求項1又は2記載の空気清浄機。
【請求項7】
前記流路を挟んで前記プラズマ発生空間の両側に配される平板状電極が、それぞれ交流電源に接続されて反対極性の電圧が印加される一対のプラズマ発生電極となり、当該電極間に前記光触媒フィルタが配されてなる請求項1又は2記載の空気清浄機。
【請求項8】
前記フィルタエレメントに形成される起伏が、チタンメッシュの縦又は横の一方向に連続する波型に形成されて成る請求項1乃至7いずれか記載の空気清浄機。
【請求項9】
前記フィルタエレメントに形成される起伏が、マトリックス状に縦横に所定間隔で形成された突起である請求項1乃至7記載の空気清浄機。
【請求項10】
前記光触媒フィルタは、起伏が形成されたフィルタエレメントと、起伏が形成されていないフィルタエレメントを交互に積層して成る請求項1乃至9いずれか記載の空気清浄機。
【請求項11】
前記チタンメッシュは、チタン箔の片面又は両面から非周期的パターンによるエッチング処理を施して表裏を貫通する多数の微細流路が形成された非周期性海綿構造を有する請求項1乃至10いずれか記載の空気清浄機。
【請求項12】
前記光触媒フィルタは、波型の起伏を連続形成した一枚以上のフィルタエレメントが巻回され又はその起伏の方向を揃えて積層され、波型の起伏が露出する断面が空気の流入方向に対向して配されてなる請求項8記載の空気清浄機。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−34760(P2012−34760A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175999(P2010−175999)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(506308633)ユーヴィックス株式会社 (11)
【出願人】(504414787)インパクトワールド株式会社 (5)
【Fターム(参考)】