説明

空気清浄装置及びフィルタユニット

【課題】雑菌の繁殖に起因して悪臭が発生するのを抑制可能とすることを目的とする。
【解決手段】本発明の空気清浄装置20は、フィルタ基材と、前記フィルタ基材に担持され、マイエナイト構造を有する化合物とを含んだエアフィルタ2071と、前記エアフィルタ2071に水を供給する水供給機構205,206とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気清浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用の空気調和装置は、冷房モードでの運転時には、エバポレータにおける冷媒との熱交換によって空気を冷却し、冷却した空気を吹き出し口から排出する。この際、エバポレータでは、空気中の水分の凝縮を生じる。
【0003】
凝縮した水分は、エバポレータ上で水滴を形成する。これら水滴の多くは、重力によって下方へ移動し、最終的には排水口から装置外部へと排出されるが、一部の水滴は空気によって自動車室内へと運び出される。
【0004】
エバポレータは、外気の温度及び湿度が高い気候条件では、雑菌の繁殖に適した環境を提供する。それ故、特許文献1に記載されているように、自動車用の空気調和装置は、このような気候条件のもとで悪臭を放つことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−220916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、雑菌の繁殖に起因して悪臭が発生するのを抑制可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1側面によると、フィルタ基材と、前記フィルタ基材に担持され、マイエナイト構造を有する化合物とを含んだエアフィルタと、前記エアフィルタに水を供給する水供給機構とを具備した空気清浄装置が提供される。
【0008】
本発明の第2側面によると、フィルタ基材と、前記フィルタ基材に担持され、マイエナイト構造を有する化合物とを含んだエアフィルタと、一方の主面が前記エアフィルタの一方の主面と接触している吸水性フィルタとを備えたフィルタユニットが提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、雑菌の繁殖に起因して悪臭が発生するのを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る空気清浄装置の一態様としての空気調和装置を搭載した自動車の一例を概略的に示す斜視図。
【図2】図1に示す空気調和装置の一部の断面を概略的に示す図。
【図3】図2に示す構造のIII−III線に沿った断面図。
【図4】図1乃至図3に示す空気調和装置において使用可能なエアフィルタの一例を概略的に示す断面図。
【図5】図1乃至図3に示す空気調和装置において使用可能なエアフィルタの他の例を概略的に示す断面図。
【図6】マイエナイト構造を有しているカルシウムアルミネートの分子構造を示す図。
【図7】マイエナイト構造を有しているカルシウムアルミネートの量がフィルタの抗菌性に及ぼす影響の一例を示すグラフ。
【図8】マイエナイト構造を有しているカルシウムアルミネート及び他の抗菌剤の抗菌性の一例を示すグラフ。
【図9】マイエナイト構造を有しているカルシウムアルミネートの抗菌性に他の抗菌剤が及ぼす影響の一例を示すグラフ。
【図10】マイエナイト構造を有しているカルシウムアルミネートの抗菌性に他の抗菌剤が及ぼす影響の他の例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には全ての図面を通じて同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0012】
図1は、本発明に係る空気清浄装置の一態様としての空気調和装置を搭載した自動車の一例を概略的に示す斜視図である。図2は、図1に示す空気調和装置の一部の断面を概略的に示す図である。図3は、図2に示す構造のIII−III線に沿った断面図である。
【0013】
図1乃至図3において、X方向は自動車1の幅方向であり、Y方向は自動車1の長さ方向であり、Z方向は自動車1の高さ方向である。図1乃至図3では、理解を容易にするために、一部の構成要素を省略している。
【0014】
なお、以下の説明において、用語「前」及び「後」は、自動車1の進行方向を基準として使用することとする。また、用語「上流」及び「下流」は、空気調和装置20における空気の流れを基準として使用することとする。
【0015】
図1に示す自動車1は、ガソリンエンジンを乗員室の前方に搭載した後輪駆動車である。この自動車1は、車両本体10と空気調和装置20とを含んでいる。
【0016】
車両本体10は、フレームと車体とを含んでいる。フレーム及び車体は、一体化されていてもよい。即ち、車両本体10には、モノコック構造を採用してもよい。
【0017】
フレームには、駆動装置、足回り装置、加速装置、ブレーキ装置及びステアリング装置などが搭載されている。
【0018】
駆動装置は、エンジン、給気装置、排気装置、燃料供給装置及び動力伝導装置などを含んでいる。
【0019】
エンジンは、上記の通り、ガソリンエンジンである。エンジンは、ディーゼルエンジン又はハイブリッドエンジンであってもよい。
【0020】
給気装置は、エアフィルタと給気管とを含んでいる。吸気装置は、車両の外部から空気を取り入れ、これを、エアフィルタによって塵などを除去した後に、給気管を介して後述するキャブレタへと供給する。
【0021】
排気装置は、排気管と浄化装置とを含んでいる。排気装置は、エンジンにおける燃料の燃焼によって生じた排ガスを、排気管を介して浄化装置へと送り、浄化装置において浄化した後に車両外部へと排出する。
【0022】
燃料供給装置は、燃料タンクと燃料管とキャブレタとを含んでいる。燃料供給装置は、燃料タンクに収容されているガソリンを、燃料管を介してキャブレタへと送る。キャブレタは、ガソリンを気化させるとともに、給気装置が供給する空気と混合し、この燃料−空気混合物をエンジンの燃焼室へと供給する。また、キャブレタは、その絞り弁によって、燃料−空気混合物の混合比及び/又は量を制御する。燃料供給装置は、キャブレタの代わりに燃料噴射装置を含んでいてもよい。
【0023】
動力伝導装置は、変速機と駆動軸と差動装置と後輪用の車軸とを含んでいる。動力伝達装置は、例えば、エンジンの回転運動を、変速機、駆動軸及び差動装置を介して後輪用の車軸へと伝達する。
【0024】
足回り装置は、懸架装置と前輪用の車軸と車輪とタイヤとを含んでいる。懸架装置は、フレームに固定されており、前輪用及び後輪用の車軸を回転可能に支持している。車輪は、車軸に接続されており、タイヤをそれらの内側から支持している。
【0025】
加速装置は、アクセルペダルを含んでいる。加速装置は、例えば、アクセルペダルの変位に応じて絞り弁の開き具合を変化させる。
【0026】
ブレーキ装置は、ブレーキペダルとブレーキ本体とを含んでいる。ブレーキ本体は、例えば、懸架装置に取り付けられたブレーキキャリパと車軸に取り付けられたブレーキディスクとを含んだディスクブレーキである。ブレーキ装置は、例えば、ブレーキペダルの変位に応じてブレーキ本体の制動力を変化させる。
【0027】
ステアリング装置は、ステアリングホイールとステアリングアームとステアリングギアとピットマンアームとタイロッドとを含んでいる。ステアリング装置は、ステアリングの回転角に応じて前輪の向きを変化させる。
【0028】
車両本体10は、ダッシュボードと座席とを更に含んでいる。ダッシュボードは、エンジン及び給気装置などが配置されたエンジン室と、座席が配置された乗員室とを仕切っている。ダッシュボードには、速度計などの各種計器が取り付けられている。
【0029】
空気調和装置20は、図1に示すコンデンサ201、コンプレッサ202及びレシーバタンク203と、図2に示すエアフィルタ204と、図1乃至図3に示すブロワ205、クーラユニット206、フィルタユニット207及びヒータユニット208と、図2及び図3に示すエアダクト210及びダンパ220a乃至220eとを含んでいる。
【0030】
コンデンサ201、コンプレッサ202及びレシーバタンク203は、エンジン室に配置されている。
【0031】
コンプレッサ202は、例えば、エンジンからベルト及びマグネットクラッチを介して供給される動力によって動作する。空気調和装置20の冷房モード又は除湿モードでの運転時には、コンプレッサ202は、低温低圧ガスとしての冷媒を圧縮して高温高圧ガスを生成し、これをコンデンサ201へと供給する。
【0032】
コンデンサ201は、エンジンの前方に設置されている。コンデンサ201は、チューブと、これに接合されたフィンとを含んでいる。チューブの一端には、コンプレッサ202から高温高圧ガスとしての冷媒が供給される。
【0033】
典型的には、コンデンサ201の前方には、外気をコンデンサ201へ向けて送風するファンが設置されている。コンデンサ201は、このファンが供給する空気との熱交換によって冷媒を冷却し、これを液化させる。
【0034】
レシーバタンク203は、コンデンサ201によって液化された冷媒が供給されるタンク本体と、その内部空間を仕切るストレーナと、ストレーナによって仕切られた空間の1つの中に配置された乾燥剤とを含んでいる。レシーバタンク203は、冷媒を一時的に貯蔵するとともに、冷媒からガス及び水分を分離する。
【0035】
図2及び図3に示すエアダクト210は、エンジンと乗員室との間に設置されている。エアダクト210には、吸い込み口210a及び210bと、吹き出し口210c乃至210eと、排水口210fとが設けられている。
【0036】
吸い込み口210aは、乗員室内の空気をエアダクト210内へと導くために設けられている。他方、吸い込み口210bは、車両外部の空気をエアダクト210内へと導くために設けられている。ダンパ220aは、吸い込み口210a及び210bの近傍に設置されている。ダンパ220aは、吸い込み口210aを塞ぐことなしに吸い込み口210bを塞ぐこと、及び、吸い込み口210bを塞ぐことなしに吸い込み口210aを塞ぐことが可能である。
【0037】
吹き出し口210c乃至210eの近傍には、それぞれ、ダンパ220c乃至220eが配置されている。ダンパ220c乃至220eは、それぞれ、吹き出し口210c乃至210eの開閉に利用する。具体的には、ダンパ220cは、通常は吹き出し口210cを塞いでおり、空気調和装置20をデフロスタモードで運転する場合に吹き出し口210cを開く。そして、ダンパ220d及び220eは、それぞれ、乗員の上半身及び足もとへの送風を制御する。
【0038】
排水口210fは、吸い込み口210a及び210bの下流であり且つ吹き出し口210c乃至210eの上流であって、ダクト210の底部に設けられている。排水口210fは、エアダクト210内で生じた余剰の水分を外部へと排出する。
【0039】
エアダクト210内であって、吸い込み口210a及び210bの下流には、エアフィルタ204、ブロワ205、クーラユニット206及びフィルタユニット207が、この順に配置されている。
【0040】
エアフィルタ204は、吸い込み口210a又は210bからエアダクト210a内へと供給された空気から塵などを除去する。送風機であるブロワ205は、エアダクト210内に、吸い込み口210a及び210bから吹き出し口210c乃至210eへ向いた空気流を生じさせる。
【0041】
クーラユニット206は、エキスパンションバルブとエバポレータとを含んでいる。
エキスパンションバルブは、空気調和装置20の冷房モード又は除湿モードでの運転時において、レシーバタンク203から供給される高温高圧液体としての冷媒を膨張させる。これにより、エキスパンションバルブは、低温低圧の霧状の冷媒を生じさせる。
【0042】
エバポレータは、熱交換器である。エバポレータは、チューブと、これに接合されたフィンとを含んでいる。エバポレータのチューブの一端には、エキスパンションバルブから低温低圧の霧状の冷媒が供給される。エバポレータは、ブロワ205が供給する空気を、この冷媒との熱交換によって冷却する。
【0043】
なお、低温低圧の霧状の冷媒は、この熱交換によって、低温低圧ガスとしての冷媒へと変化する。この低温低圧ガスとしての冷媒は、図1を参照しながら説明したコンプレッサ202によって高温高圧ガスへと圧縮される。
【0044】
また、エバポレータの表面では、空気中の水分が凝縮し、水滴を生成する。これら水滴の多くは、重力によって下方へ移動する。そして、一部の水滴は、ブロワ205が生成する空気流に乗ってフィルタユニット207へと供給される。
【0045】
フィルタユニット207は、エアフィルタ2071と吸水性フィルタ2072とを含んでいる。
【0046】
エアフィルタ2071は、フィルタ基材と、このフィルタ基材に担持された抗菌剤とを含んでいる。エアフィルタ2071の詳細については、後で説明する。
【0047】
吸水性フィルタ2072は、一方の主面がエアフィルタ2071の一方の主面と接触している。吸水性フィルタと2072は、クーラユニット206とエアフィルタ2071との間に設置されている。
【0048】
吸水性フィルタ2072は、空気流によって運ばれた水滴を受け止め、これを一時的に保持する。具体的には、吸水性フィルタ2072は、まず、ブロワ205が生じさせた空気流によってエバポレータから吹き飛ばされた水滴を受け止め、次いで、毛管現象によって、この水分を吸水性フィルタ2072の主面に平行な方向へ拡散させるとともに、エアフィルタ2071へと供給する。吸水性フィルタ2072は、これにより、エアフィルタ2071の全体へ水分が均等に行き渡るのを確実にする。
【0049】
また、吸水性フィルタ2072の下端は、排水口210fへと続く排水路内に位置している。吸水性フィルタ2072は、その上側部分、即ち、エアフィルタ2071に対応した部分において水が不足している場合には排水路内の水を吸い上げ、この上側部分において水が余剰している場合には余剰の水を排水路へと排出する。これにより、吸水性フィルタ2072は、空気調和装置20を冷房モード又は除湿モードで運転している間、その上側部分の水分量を適正量に維持する。即ち、吸水性フィルタ2072は、これにより、エアフィルタ2071の全体に水分が行き渡るのを更に確実にする。
【0050】
吸水性フィルタ2072は、エアフィルタ2071と比較して親水性がより高い。吸水性フィルタ2072は、例えば、セルロースを主成分とした織布、不織布又はそれらの組み合わせである。吸水性フィルタ2072としては、例えば、リネン及び綿布などの植物性繊維又はレーヨンなどの再生繊維を使用することができる。
【0051】
吸水性フィルタ2072は、空気流の圧力損失を考慮して、ガーゼのように目の粗い織布であることが好ましい。また、吸水性フィルタ2072は、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。
【0052】
フィルタユニット207の下流には、ダンパ220b及びヒータユニット208が配置されている。ダンパ220bは、フィルタユニット207を通過した空気の流れを制限する。例えば、空気調和装置20を冷房モード又は送風モードで運転しているときには、図2及び図3に示すように、ダンパ220bは、ヒータユニット208の吸気口を塞ぐ。これにより、フィルタユニット207を通過した空気の流れのほぼ全てを、ヒータユニット208へ供給することなしに、例えば吹き出し口210eへと供給する。また、空気調和装置20を除湿モード又は暖房モードで運転しているときには、ダンパ220bは、フィルタユニット207を通過した空気の流れの少なくとも一部を、ヒータユニット208へ供給する。
【0053】
ヒータユニット208は、ラジエータを含んでいる。ラジエータは、チューブと、これに接合されたフィンとを含んでいる。ラジエータのチューブには熱媒が供給される。ラジエータは、熱媒との熱交換によって、ブロワ205が供給する空気を加熱する。
【0054】
次に、エアフィルタ2071の構造及びそれに使用する材料について説明する。
図4は、図1乃至図3に示す空気調和装置において使用可能なエアフィルタの一例を概略的に示す断面図である。
【0055】
このエアフィルタ2071は、層状のフィルタ材2071aを含んでいる。エアフィルタ2071は、フィルタ材2071aからなる単層構造を有していてもよい。或いは、エアフィルタ2071は、フィルタ材2071aを含んだ多層構造を有していてもよい。後者の場合、フィルタ材2071aと他の層とを積層してもよく、フィルタ材2071aを重ね合わせてもよい。
【0056】
フィルタ材2071aは、フィルタ基材2071a1と抗菌剤2071a2とを含んでいる。
【0057】
フィルタ基材2071a1は、例えば、不織布である。図4に示すエアフィルタ2071では、フィルタ基材2071a1は二層構造を有している。フィルタ基材2071a1として、織布、紙又は多孔質フィルムを使用してもよい。
【0058】
抗菌剤2071a2は、フィルタ基材2071a1を構成している2つの層に担持されている。ここでは、抗菌剤2071a2は、フィルタ基材2071a1の層間に分布している。このような構造は、例えば、フィルタ基材2071a1を構成する一方の層の上に抗菌剤2071a2を散布し、その上に、フィルタ基材2071a1を構成する他方の層を設け、それら層を一体化することにより得られる。抗菌剤2071a2をフィルタ基材2071a1の層間に配置すると、抗菌剤2071a2の脱落を防止できる。
【0059】
図4に示す構造から、フィルタ基材2071a1を構成する一方の層を省略してもよい。この場合、例えば、エアフィルタ2071と吸水性フィルタ2072とを、抗菌剤2071a2側の面が吸水性フィルタ2072と接触するように一体化すれば、抗菌剤2071a2の脱落を防止できる。
【0060】
図5は、図1乃至図3に示す空気調和装置において使用可能なエアフィルタの他の例を概略的に示す断面図である。
【0061】
このエアフィルタ2071では、抗菌剤2071a2は、フィルタ基材2071a1の全体に亘って分布している。この構造を採用した場合、抗菌剤2071a2は、フィルタ基材2071a1から脱落する可能性がある。そこで、このエアフィルタ2071では、層状のフィルタ材2071aに加え、一対の表層材2071bを更に設けている。
【0062】
このエアフィルタ2071のフィルタ基材2071a1は、例えば、以下の方法により得られる。まず、フィルタ基材2071a1として、芯鞘型の繊維からなる不織布又は織布を準備する。次いで、このフィルタ基材2071a1に、熱風を利用して抗菌剤2071a2を送り込む。これにより、芯部を構成している樹脂を軟化させることなしに、鞘部を構成している熱可塑性樹脂を軟化させ、そこに抗菌剤2071a2を付着させる。抗菌剤2071a2の粒径が繊維の隙間と比較して十分に小さければ、フィルタ基材2071a1の全体に抗菌剤2071a2を分布させることができる。
【0063】
表層材2071bは、それぞれ、フィルタ材2071aの表面と裏面とに接合されている。表層材2071bは、例えば、不織布である。
【0064】
表層材2071bのフィルタ材2071aへの接合には、例えば熱融着を利用することができる。表層材2071bは、接着剤を利用してフィルタ材2071aに接合してもよく、ニードルパンチを利用してフィルタ材2071aに接合してもよい。
【0065】
表層材2071bとして、織布、紙又は多孔質フィルムを使用してもよい。また、表層材2071bの一方又は双方を省略してもよい。
【0066】
これらエアフィルタ2071において、フィルタ基材2071a1は、例えば、織布、不織布、又はそれらの組み合わせである。この場合、フィルタ基材2071a1を構成する繊維としては、例えば、合成繊維、無機繊維又はそれらの組み合わせを使用することができる。合成繊維としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリエチレンなどのポリオレフィン、ナイロン、ポリエステル又はポリウレタンなどの樹脂からなる繊維を使用することができる。無機繊維としては、例えば、ガラス繊維などのセラミック繊維又は炭素繊維を使用することができる。或いは、鞘部が芯部と比較して軟化点がより低い芯鞘型の繊維を使用してもよい。芯部の材料としては、例えば、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレンなどの軟化点が高いポリオレフィン、又は無機繊維を使用することができる。鞘部の材料としては、例えば、ポリエチレンなどの軟化点が高いポリオレフィン又はポリウレタンを使用することができる。
【0067】
抗菌剤2071a2は、例えば、粒子の形態でフィルタ基材2071a1に担持させる。例えば、フィルタ基材2071a1に接着剤を噴霧し、その上にマイエナイト構造を有する化合物を散布する。或いは、上記の通り、フィルタ基材2071a1として芯鞘型の繊維からなる不織布又は織布を準備し、このフィルタ基材2071a1に、熱風を利用してマイエナイト構造を有する化合物を送り込む。これにより、芯部を構成している樹脂を軟化させることなしに、鞘部を構成している熱可塑性樹脂を軟化させ、そこに抗菌剤2071a2を付着させる。
【0068】
図4及び図5に示すエアフィルタ2071は、抗菌剤2071a2の少なくとも一部として、マイエナイト構造を有している化合物、例えば、マイエナイト構造を有しているカルシウムアルミネートを使用している。この化合物について、図6を参照しながら説明する。
【0069】
図6は、マイエナイト構造を有しているカルシウムアルミネートの分子構造を示す図である。
【0070】
マイエナイト構造を有しているカルシウムアルミネートは、化学式12CaO・7Al23で表される化合物である。以下、この化合物を「C12A7」と略記する。
【0071】
C12A7の構成原子は、図6に示すように、三次元的に連結された複数の籠(ケージ)構造を形成している。これらケージは、直径が約0.4nmの内部空間を有しており、O-、O2-及びO2-などの活性酸素種を包接することが可能である。これら活性酸素種は、C12A7の骨格を構成している酸素原子とは異なり、高い酸化力を示す。また、C12A7は、銀及び銀化合物などの抗菌剤と比較して遥かに安価である。従って、先の酸化力を殺菌に利用することができれば、安価であり且つ抗菌性に優れた空気調和装置を実現できる可能性がある。
【0072】
C12A7は、水分の不存在下では、高い酸化力を発現することはなく、それ故、高い殺菌力を示さない。しかしながら、C12A7は、十分な量の水分を供給することにより、極めて高い殺菌力を示す。なお、水分が殺菌力に影響を及ぼす理由は必ずしも明らかになっている訳ではないが、本発明者らは、酸素活性種と水との反応によってOH-イオンが発生し、このOH-イオンが殺菌に寄与しているためであると考えている。
【0073】
図1乃至図3を参照しながら説明した空気調和装置20には、冷房モード又は除湿モードでの運転時に、エバポレータ上で凝縮した水分がエアフィルタ2071に供給される構成を採用している。即ち、この空気調和装置20は、外気の温度及び湿度が高い気候条件、換言すれば、エバポレータが雑菌の繁殖に適した環境を提供する条件下において、C12A7に水分を供給する。それ故、このエアフィルタ2071は、そのような条件下で優れた抗菌性を発現する。
【0074】
なお、この空気調和装置20を送風モード、暖房モード又はデフロスタモードで運転している間、C12A7には、水分が供給されないか、又は、冷房モード若しくは除湿モードでの運転時と比較してより少量の水分が供給される。それ故、C12A7は、送風モード、暖房モード又はデフロスタモードでの運転時には、冷房モード又は除湿モードでの運転時ほど優れた抗菌性を示さない。
【0075】
しかしながら、空気調和装置20を送風モード、暖房モード又はデフロスタモードで運転する季節は、通常、外気の温度及び/又は湿度が低い。それ故、C12A7に高い抗菌性が要求されることはない。しかも、暖房モード又はデフロスタモードでの運転時には、エバポレータを通過した空気が雑菌を同伴していたとしても、ヒータユニット208の熱によって、雑菌を死滅させることができる。
【0076】
それ故、この空気調和装置20では、季節に拘らず、雑菌の繁殖に起因して悪臭が発生することは殆どない。
【0077】
また、この空気調和装置20では、エアフィルタ2071に水を供給する水供給機構として、一般的な空気調和装置において必須の構成要素であるブロワ205及びエバポレータを利用している。ブロワ205及びエバポレータとは別に水供給機構を設けてもよいが、ブロワ205及びエバポレータを水供給機構として利用すると、装置を簡略化することができる。
【0078】
しかも、この空気調和装置20では、空気中の水分をエバポレータ上で凝縮させ、これをC12A7へ供給する水として利用する。それ故、この空気調和装置20は、水供給機構へ水を補給する作業が不要である。
【0079】
フィルタユニット207とエバポレータとの距離は、例えば5mm乃至400mmの範囲内とし、典型的には30mm乃至200mmの範囲内とする。この距離が短い場合、フィルタユニット207とエバポレータとが部分的に接触し、フィルタユニット207における水分量の分布が不均一になる可能性がある。また、この距離が長い場合、空気流が同伴している水分の多くが、フィルタユニット207へと到達せずに、エアダクト210の内壁に付着する可能性がある。
【0080】
エアフィルタ2071の面積に対するC12A7の量は、例えば5g/m2以上とし、典型的には27g/m2以上とする。また、先の面積に対するC12A7の量は、例えば100g/m2以下とし、典型的には30g/m2以下とする。C12A7の量が少ない場合、高い抗菌性を発現させることが難しい。また、C12A7が過剰量である場合、それらの全てに高い抗菌性を発現させるためにはエアフィルタ2071に多量の水分を供給しなければならず、その結果、エアフィルタ2071による空気流の圧力損失が大きくなる。
【0081】
C12A7としては、例えば、レーザ回折散乱法によって測定した平均粒径が0.5μm乃至50μmの範囲内にあるものを使用する。平均粒径が小さなC12A7を使用すると、C12A7と細菌との接触確率が高くなる。但し、平均粒径が著しく小さなC12A7は、取扱いが難しく、また、フィルタ基材2071a1に担持させることが難しい。
【0082】
C12A7のカルシウム原子は、ストロンチウム原子によって少なくとも部分的に置換されていてもよい。即ち、抗菌剤2071a2は、マイエナイト構造を有しているカルシウムアルミネートを含んでいてもよく、マイエナイト構造を有しているストロンチウムアルミネートを含んでいてもよく、それらの双方を含んでいてもよい。
【0083】
また、カルシウム原子及び/又はストロンチウム原子の一部は、マグネシウム原子及びバリウム原子の少なくとも一方によって置換されていてもよい。
【0084】
C12A7のアルミニウム原子は、珪素原子、ゲルマニウム原子及びガリウム原子の少なくとも1つによって部分的に置換されていてもよい。
【0085】
抗菌剤2071a2として、マイエナイト構造を有している化合物と他の抗菌剤とを併用してもよい。マイエナイト構造を有している化合物は、水分の不存在下でも抗菌性を示す可能性があるが、十分な量の水分が供給されないと高い抗菌性を示さない。他の抗菌剤として、水分量がその性能に大きな影響を及ぼさないものを使用すれば、マイエナイト構造を有している化合物が高い抗菌性を発現しない条件下であっても、優れた抗菌効果を達成することができる。
【0086】
そのような抗菌剤としては、例えば、銀、銀化合物、酸化チタン、酸化マグネシウム、ドロマイト、ゼオライト、又は、それらの2つ以上を含んだ混合物を使用することができる。特に、マイエナイト構造を有している化合物と、銀、銀化合物、酸化マグネシウム及びドロマイトの少なくとも1つとを併用すると、マイエナイト構造を有している化合物が高い抗菌性を示す期間における抗菌性能も向上する。なお、酸化マグネシウムを使用する場合、C12A7に対するその質量比は、約1以下とすることが好ましく、0.5乃至1の範囲内とすることがより好ましい。
【0087】
上記の通り、マイエナイト構造を有している化合物と併用する抗菌剤は、抗菌性に関して補助的な役割を果たす。従って、マイエナイト構造を有している化合物に対する追加の抗菌剤の質量比は、例えば0.1乃至1の範囲内とする。
【0088】
この空気調和装置20には、様々な変形が可能である。
例えば、吸水性フィルタ2072は、下端が排水路内に位置していなくてもよい。吸水性フィルタ2072の下端が排水路内に位置していない場合、排水路内の水分をエアフィルタ2071へ供給することはできない。但し、この場合であっても、空気流が同伴する水分は、吸水性フィルタ2072を介してエアフィルタ2071へと供給される。従って、この場合、吸水性フィルタ2072の下端を排水路内に位置させた場合と比較して、エアフィルタ2071への水分供給の安定性に劣る可能性はあるが、上述したのとほぼ同様の効果を得ることができる。
【0089】
また、吸水性フィルタ2072は省略してもよい。吸水性フィルタ2072を省略すると、エアフィルタ2071へ水分を均等に供給することが難しくなる可能性がある。それ故、この場合、吸水性フィルタ2072を使用した場合と比較して、C12A7の抗菌性を最大限に引き出すことは難しくなる可能性はあるが、上述したのとほぼ同様の効果を得ることができる。
【0090】
図2及び図3に示す構成では、吸水性フィルタ2072はエバポレータとエアフィルタ2071との間に配置しているが、エアフィルタ2071をエバポレータと吸水性フィルタ2072との間に配置してもよい。この場合も、吸水性フィルタ2072をエバポレータとエアフィルタ2071との間に配置した場合ほどではないが、エアフィルタ2071へ水分をほぼ均等に供給することができる。
【0091】
ここでは、自動車として、エンジンを乗員室の前方に搭載した後輪駆動車を例示したが、エンジンの搭載位置は、フレームの中央又は後方であってもよく、床下であってもよい。また、自動車は、前輪駆動車であってもよく、四輪駆動車であってもよい。空気調和装置20の配置は、例えば、これら構成の相違に応じて適宜変更することができる。
【0092】
上記の通り、自動車のエンジンは、ディーゼルエンジン又はハイブリッドエンジンであってもよい。或いは、自動車は、モータの動力を推進力として利用する電気自動車であってもよい。
【0093】
ここでは、自動車用の空気調和装置20について説明したが、空気調和装置20は、鉄道車両、船舶及び航空機などの他の自動推進車両に搭載してもよい。或いは、上述した技術を適用した空気調和装置は、固定設備において使用してもよい。
【0094】
また、ここでは、空気清浄装置の一例として空気調和装置20を例示したが、上述した技術は、空気清浄を行う他の装置に適用してもよい。例えば、上述した技術は、冷房装置又は除湿装置に適用してもよい。この場合、ブロワ205及びエバポレータを水供給機構として利用してもよく、ブロワ205及びエバポレータとは別に水供給機構を設けてもよい。或いは、上述した技術は、冷房機能及び除湿機能を有していない空気清浄装置又は加湿装置に適用してもよい。この場合、フィルタユニット207への水の供給には、例えば、噴霧、吸い上げ、又はそれらの組み合わせを利用することができる。
【0095】
なお、ここで説明したフィルタユニット207は、外部から十分な量の水分が供給される環境において使用されるのであれば、水供給機構を含んでいない空気清浄装置において使用してもよい。
【実施例】
【0096】
以下に、上述したエアフィルタ2071に関して行った試験の結果を示す。
【0097】
<抗菌剤A1の製造>
炭酸カルシウム粉末とアルミナ粉末とを、炭酸カルシウムとアルミナとのモル比が12:7となるように十分に混合した。この混合物を、酸素雰囲気中、1350℃で6時間に亘って焼成した。次いで、ボールミルを用いて焼成品を粉砕して、平均粒径が約10μmの粉末を得た。この粉末についてX線回折解析を行ったところ、化学式12CaO・7Al23で表されるマイエナイト構造のカルシウムアルミネートであることが確認された。以下、このカルシウムアルミネートを「抗菌剤A1」と呼ぶ。
【0098】
<フィルタFA1の作成>
繊維の芯部及び鞘部がそれぞれポリプロピレン及びポリエチレンからなる不織布を裁断し、面積が50cm2の不織布片を2枚準備した。次に、0.15gの抗菌剤A1を、一方の不織布片の上に均一に散布した。次いで、この不織布片上に他方の不織布片を重ね、この積層体に、アイロンを用いて熱と圧力とを加えた。これにより、不織布片同士を熱融着させた。以上のようにして、フィルタを得た。以下、このフィルタを「フィルタFA1」と呼ぶ。
【0099】
<フィルタの抗菌性試験1>
1mL当たり約105個の大腸菌(NBRC3972)を含んだ菌液を準備し、その0.1mLをフィルタFA1上に噴霧した。室温で5分間に亘って放置した後、フィルタFA1に付着している大腸菌を10mLの緩衝液で洗い流した。ここでは、pH値が4の緩衝液を使用した。次いで、緩衝液によって洗い流した大腸菌をSCD寒天培地に塗沫した。そして、30℃で24時間に亘って培養し、形成されたコロニーの数から大腸菌の数を求めた。
【0100】
また、抗菌剤A1を省略したこと以外はフィルタFA1と同様の方法によりフィルタを作成した。以下、このフィルタを「フィルタFB1」と呼ぶ。このフィルタFB1をフィルタFA1の代わりに用いたこと以外は、上述したのと同様の抗菌性試験を行った。
これらの結果を下記表1に纏める。
【0101】
【表1】

【0102】
表1において、「E.coli生存率」は、フィルタFB1を用いた場合に得られた結果を基準とした大腸菌数の相対値である。
【0103】
表1に示すように、C12A7を含んだフィルタFA1は、フィルタFB1と比較して遥かに優れた抗菌性を示した。
【0104】
<市販の抗菌フィルタの抗菌性試験>
抗菌剤A1の代わりに下記表2に示す抗菌剤をそれぞれ含んだ市販のフィルタFB2乃至FB6を用いたこと以外は、フィルタFA1について上述したのと同様の抗菌性試験を行った。
これらの結果を下記表2に纏める。
【0105】
【表2】

【0106】
表1及び表2に示すデータの比較から明らかなように、C12A7を含んだフィルタFA1は、市販のフィルタと比較して優れた抗菌性を示した。
【0107】
<C12A7の量がフィルタの抗菌性に及ぼす影響1>
抗菌剤A1の散布量を0.05gとしたこと以外は、フィルタFA1について上述したのと同様の方法によりフィルタを作成した。以下、このフィルタを「フィルタFA2」と呼ぶ。このフィルタFA2をフィルタFA1の代わりに用いたこと以外は、フィルタFA1について上述したのと同様の抗菌性試験を行った。
【0108】
また、抗菌剤A1の散布量を0.3gとしたこと以外は、フィルタFA1について上述したのと同様の方法によりフィルタを作成した。以下、このフィルタを「フィルタFA3」と呼ぶ。このフィルタFA3をフィルタFA1の代わりに用いたこと以外は、フィルタFA1について上述したのと同様の抗菌性試験を行った。
これらの結果を下記表3に纏める。
【0109】
【表3】

【0110】
表3に示すように、C12A7の担持量を10g/m2乃至60g/m2の範囲内とした場合、優れた抗菌性を達成することができた。
【0111】
<活性酸素量がフィルタの抗菌性に及ぼす影響>
焼成を酸素雰囲気中で行う代わりに大気雰囲気中で行ったこと以外は、抗菌剤A1について上述したのと同様の方法により、平均粒径が約10μmの粉末を得た。この粉末についてX線回折解析を行ったところ、化学式12CaO・7Al23で表されるマイエナイト構造のカルシウムアルミネートであることが確認された。以下、このカルシウムアルミネートを「抗菌剤A2」と呼ぶ。
【0112】
次いで、抗菌剤A1及びA2の各々について、活性酸素量を測定した。具体的には、抗菌剤A1及びA2の各々について、77Kで電子スピン共鳴スペクトルを測定し、このスペクトルからO2-イオンラジカル及びO-イオンラジカルの濃度を求めた。
【0113】
次に、抗菌剤A1の代わりに抗菌剤A2を用いたこと以外は、フィルタFA1について上述したのと同様の方法によりフィルタを作成した。以下、このフィルタを「フィルタFA4」と呼ぶ。このフィルタFA4をフィルタFA1の代わりに用いたこと以外は、上述したのと同様の抗菌性試験を行った。
これらの結果を下記表4に纏める。
【0114】
【表4】

【0115】
上記表4において、「抗菌剤」の欄には、使用したC12A7の活性酸素量、即ち、抗菌剤A1及びA2のO2-イオンラジカル濃度又はO-イオンラジカル濃度を括弧書きしている。
表4に示すように、活性酸素量がより多い抗菌剤A1を使用した場合、特に優れた抗菌性を達成することができた。そして、活性酸素量がより少ない抗菌剤A2を使用した場合でも、十分な抗菌性を達成することができた。
【0116】
<フィルタの抗菌性試験2>
1mL当たり約105個の黄色ブドウ球菌(NBRC13276)を含んだ菌液を準備し、その0.1mLをフィルタFA1上に噴霧した。室温で5分間に亘って放置した後、フィルタFA1に付着している大腸菌を10mLの緩衝液で洗い流した。ここでは、pH値が4の緩衝液を使用した。次いで、緩衝液によって洗い流した大腸菌をSCD寒天培地に塗沫した。そして、30℃で24時間に亘って培養し、形成されたコロニーの数から黄色ブドウ球菌の数を求めた。
【0117】
また、フィルタFA1の代わりにフィルタFB1を用いたこと以外は、上述したのと同様の抗菌性試験を行った。
これらの結果を下記表5に纏める。
【0118】
【表5】

【0119】
表5において、「S.aureus生存率」は、フィルタFB1を用いた場合に得られた結果を基準とした黄色ブドウ球菌数の相対値である。
【0120】
表5に示すように、C12A7を含んだフィルタFA1は、フィルタFB1と比較して遥かに優れた抗菌性を示した。
【0121】
<水分が抗菌性に及ぼす影響>
抗菌剤A1を十分に乾燥させ、その0.5gに約104個の大腸菌を接触させた。室温で5分間に亘って放置した後、これを緩衝液中に懸濁させた。ここでは、pH値が4の緩衝液を使用した。次いで、抗菌剤を沈降させ、この液の上澄みの一部を、SCD寒天培地に塗布した。続いて、30℃で24時間に亘る培養を行い、形成されたコロニーの数から大腸菌の数を求めた。
【0122】
また、大腸菌に接触させる前に抗菌剤A1を含水させたこと以外は、これと同様の試験を行った。ここでは、抗菌剤A1の含水量は、抗菌剤A1に対して0.2、1.0、5.0及び10.0質量%とした。
これらの結果を下記表6に纏める。
【0123】
【表6】

【0124】
表6において、「N.D.」は、大腸菌を検出できなかったこと、即ち、大腸菌の数が200個以下であったことを表している。
【0125】
表6に示すように、C12A7は、水分の存在下では、水分の不存在下と比較して、遥かに優れた抗菌性を示した。具体的には、C12A7の含水量が0.2質量%と少ない場合であっても、含水量を0質量%とした場合と比較して、C12A7の抗菌性は向上した。そして、C12A7の含水量を1.0質量%以上としたC12A7は、極めて優れた抗菌性を示した。
【0126】
<フィルタFA5乃至FA8及びFB7の作成>
フィルタFA1の製造において使用したのと同様の不織布上に抗菌剤A1を均一に散布した。ここでは、抗菌剤A1は、不織布の単位面積当たりの量が0.41mg/cm2となるように散布した。次いで、これに100℃乃至150℃の熱処理を施して、抗菌剤A1を不織布に接着させることにより、フィルタを得た。以下、このフィルタを「フィルタFA5」と呼ぶ。
【0127】
抗菌剤A1を不織布の単位面積当たりの量が0.80mg/cm2、1.60mg/cm2、及び2.72mg/cm2となるように散布したこと以外は、フィルタFA5について上述したのと同様の方法により、フィルタを作成した。以下、抗菌剤A1の散布量を0.80mg/cm2としたフィルタを「フィルタFA6」と呼び、抗菌剤A1の散布量を1.60mg/cm2としたフィルタを「フィルタFA7」と呼び、抗菌剤A1の散布量を2.72mg/cm2としたフィルタを「フィルタFA8」と呼ぶ。
【0128】
また、抗菌剤A1を省略したこと以外は、フィルタFA5について上述したのと同様の方法により、フィルタを作成した。以下、このフィルタを「フィルタFB7」と呼ぶ。
【0129】
<C12A7の量がフィルタの抗菌性に及ぼす影響2>
フィルタFA5を約5mm×5mmの寸法へと断片化した。これら断片化したフィルタFA5を、不織布の質量が3gとなるように量り取り、直系が14.2cmの円盤上に広げた。そして、大腸菌(NBRC3972)を含んだ菌液を準備し、フィルタFA5の断片上に25μLの菌液を噴霧した。室温で2分間に亘って放置した後、フィルタFA5の断片に付着している大腸菌を50mLの緩衝液で洗い流した。ここでは、50mMのクエン酸緩衝液を使用した。次いで、緩衝液によって洗い流した大腸菌をSCD寒天培地に塗沫した。そして、30℃で24時間に亘って培養し、形成されたコロニーの数から大腸菌の数を求めた。
【0130】
次に、菌液の噴霧量を30μL及び35μLとしたこと以外は、上述したのと同様の抗菌性試験を行った。そして、菌液の噴霧量を25μL、30μL及び35μLとした場合に得られた大腸菌の数を相加平均し、これを用いて大腸菌の生存率を算出した。なお、噴霧量を25μL乃至35μLとすることは、不織布に対して0.83質量%乃至1.17質量%の水分を大腸菌とともに供給していることに相当している。
【0131】
また、フィルタFA5の代わりにフィルタFA6乃至FA8及びFB7を使用したこと以外は、上述したのと同様の抗菌性試験を行った。そして、フィルタFA6乃至FA8及びFB7の各々について、菌液の噴霧量を25μL、30μL及び35μLとした場合に得られた大腸菌の数を相加平均し、これを用いて大腸菌の生存率を算出した。
【0132】
下記表7に、使用した菌液の量と、その菌液が含んでいた大腸菌の数とを纏める。また、フィルタFA5乃至FA8及びFB7の各々について得られた試験結果を、下記表8と図7とに纏める。
【0133】
【表7】

【0134】
【表8】

【0135】
表8において、「E.coli生存率」は、上記の相加平均によって得られた大腸菌数と、30μLの菌液が含んでいた大腸菌の数との比である。
【0136】
表8及び図7に示すように、フィルタ基材にC12A7を担持させた場合、フィルタ基材にC12A7を担持させなかった場合と比較して、大腸菌の生存率を低くすることができた。特に、C12A7の担持量を約2.7mg/cm2とした場合、フィルタ基材にC12A7を担持させなかった場合と比較して、大腸菌の生存率を著しく低くすることができた。
【0137】
<C12A7と他の抗菌剤との性能の比較>
まず、比較のために、以下の試験を行った。
5mLの生理食塩水に20μLの菌液を添加して、それらを混和させた。ここでは、大腸菌(NBRC3972)を含んだ菌液を使用した。30℃の温度で20分間に亘って静置した後、この混和物の100μLをSCD寒天培地に塗沫した。そして、36±1℃で20時間に亘って培養し、形成されたコロニーの数から大腸菌の数を求めた。その結果、大腸菌の数は、約1×103個であった。
【0138】
次に、以下に記載するように、各種抗菌剤を用いて同様の試験を行った。
50mLのイオン交換水に、25mgの抗菌剤A1を加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0139】
50mLのイオン交換水に、25mgの銀粉末を加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0140】
50mLのイオン交換水に、25mgの酸化マグネシウム粉末を加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0141】
50mLのイオン交換水に、25mgの二酸化チタン粉末を加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0142】
50mLのイオン交換水に、25mgのゼオライト粉末を加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
上記試験の結果を、下記表9と図8とに纏める。
【0143】
【表9】

【0144】
表9において、「E.coli生存率」は、生理食塩水を用いた場合に得られた結果を基準とした大腸菌数の相対値である。
【0145】
表9及び図8に示すように、C12A7を使用した場合、酸化マグネシウム、二酸化チタン及びゼオライトを使用した場合と比較して、優れた性能を達成することができた。また、C12A7を使用した場合、銀を使用した場合とほぼ同等の性能を達成することができた。
【0146】
<C12A7の性能に他の抗菌剤が及ぼす影響1>
比較のために、以下の試験を行った。
5mLの生理食塩水に20μLの菌液を添加して、それらを混和させた。ここでは、大腸菌(NBRC3972)を含んだ菌液を使用した。30℃の温度で20分間に亘って静置した後、この混和物の100μLをSCD寒天培地に塗沫した。そして、36±1℃で20時間に亘って培養し、形成されたコロニーの数から大腸菌の数を求めた。
【0147】
また、以下に記載するように、各種抗菌剤を用いて同様の試験を行った。
50mLのイオン交換水に、25mgの抗菌剤A1を加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0148】
50mLのイオン交換水に、2.5mgの銀粉末を加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0149】
50mLのイオン交換水に、2.5mgの酸化マグネシウム粉末を加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0150】
50mLのイオン交換水に、2.5mgの二酸化チタン粉末を加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0151】
50mLのイオン交換水に、2.5mgのゼオライト粉末を加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0152】
更に、以下に記載するように、C12A7と他の抗菌剤とを組み合わせて同様の試験を行った。
50mLのイオン交換水に、25mgの抗菌剤A1と2.5mgの銀粉末とを加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0153】
50mLのイオン交換水に、25mgの抗菌剤A1と2.5mgの酸化マグネシウム粉末とを加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0154】
50mLのイオン交換水に、25mgの抗菌剤A1と2.5mgの二酸化チタン粉末とを加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0155】
50mLのイオン交換水に、25mgの抗菌剤A1と2.5mgのゼオライト粉末とを加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
上記試験の結果を、下記表10と図9とに纏める。
【0156】
【表10】

【0157】
表10において、「E.coli生存率」は、生理食塩水を用いた場合に得られた結果を基準とした大腸菌数の相対値である。
【0158】
表10及び図9に示すように、抗菌剤の少なくとも一部としてC12A7を使用した場合、抗菌剤として、銀、酸化マグネシウム、二酸化チタン及びゼオライトの何れかを使用した場合と比較して、優れた性能を達成することができた。また、抗菌剤としてC12A7と銀又は酸化マグネシウムとを組み合わせて使用した場合、抗菌剤としてC12A7のみを使用した場合と比較して、優れた性能を達成することができた。
【0159】
<C12A7の性能に他の抗菌剤が及ぼす影響2>
比較のために、以下の試験を行った。
5mLの生理食塩水に20μLの菌液を添加して、それらを混和させた。ここでは、大腸菌(NBRC3972)を含んだ菌液を使用した。30℃の温度で20分間に亘って静置した後、この混和物の100μLをSCD寒天培地に塗沫した。そして、36±1℃で20時間に亘って培養し、形成されたコロニーの数から大腸菌の数を求めた。
【0160】
また、以下に記載するように、各種抗菌剤を用いて同様の試験を行った。
50mLのイオン交換水に、25mgの抗菌剤A1を加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0161】
50mLのイオン交換水に、25mgの銀粉末を加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0162】
50mLのイオン交換水に、25mgの酸化マグネシウム粉末を加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0163】
更に、以下に記載するように、C12A7と他の抗菌剤とを組み合わせて同様の試験を行った。
50mLのイオン交換水に、25mgの抗菌剤A1と2.5mgの銀粉末とを加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0164】
50mLのイオン交換水に、25mgの抗菌剤A1と12.5mgの銀粉末とを加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0165】
50mLのイオン交換水に、25mgの抗菌剤A1と25mgの銀粉末とを加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0166】
50mLのイオン交換水に、25mgの抗菌剤A1と2.5mgの酸化マグネシウム粉末とを加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0167】
50mLのイオン交換水に、25mgの抗菌剤A1と12.5mgの酸化マグネシウム粉末とを加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0168】
50mLのイオン交換水に、25mgの抗菌剤A1と25mgの酸化マグネシウム粉末とを加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0169】
上記試験の結果を、下記表11と図10とに纏める。
【表11】

【0170】
表11において、「E.coli生存率」は、生理食塩水を用いた場合に得られた結果を基準とした大腸菌数の相対値である。
【0171】
表11及び図10に示すように、C12A7と銀とを組み合わせた場合、銀の添加量を多くすると、抗菌性が向上した。他方、C12A7と酸化マグネシウムとを組み合わせた場合、酸化マグネシウムの添加量が少ない場合には、抗菌性は殆ど向上せず、酸化マグネシウムの添加量を250ppm及び500ppmとした場合に、抗菌剤としてC12A7のみを使用した場合と比較して優れた抗菌性を達成できた。
【符号の説明】
【0172】
1…自動車、10…車両本体、20…空気調和装置、201…コンデンサ、202…コンプレッサ、203…レシーバタンク、204…エアフィルタ、205…ブロワ、206…クーラユニット、207…フィルタユニット、208…ヒータユニット、210…エアダクト、210a…吸い込み口、210b…吸い込み口、210c…吹き出し口、210d…吹き出し口、210e…吹き出し口、210f…排水口、220a…ダンパ、220b…ダンパ、220c…ダンパ、220d…ダンパ、220e…ダンパ、2071…エアフィルタ、2071a…フィルタ材、2071a1…フィルタ基材、2071a2…抗菌剤、2071b…表層材、2072…吸水性フィルタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルタ基材と、前記フィルタ基材に担持され、マイエナイト構造を有する化合物とを含んだエアフィルタと、
前記エアフィルタに水を供給する水供給機構と
を具備した空気清浄装置。
【請求項2】
前記水供給機構は、冷媒と空気との間で熱交換させて、前記空気が含んでいる水蒸気を液体としての水へと凝縮させる熱交換器を含み、凝縮した前記水を前記フィルタに供給する請求項1に記載の空気清浄装置。
【請求項3】
前記水供給機構は、前記空気を前記熱交換器及び前記フィルタへとこの順に供給する送風機を更に含み、凝縮した前記水を前記空気の流れに同伴させることによって前記フィルタに水を供給する請求項2に記載の空気清浄装置。
【請求項4】
前記エアフィルタと比較してより高い親水性を示し、一方の主面が前記エアフィルタの前記空気が供給される主面と接触している吸水性フィルタを更に具備した請求項3に記載の空気清浄装置。
【請求項5】
自動推進車両用である請求項1乃至4の何れか1項に記載の空気清浄装置。
【請求項6】
フィルタ基材と、前記フィルタ基材に担持され、マイエナイト構造を有する化合物とを含んだエアフィルタと、
一方の主面が前記エアフィルタの一方の主面と接触している吸水性フィルタと
を備えたフィルタユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−25279(P2012−25279A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−166239(P2010−166239)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【出願人】(503210740)株式会社Oxy Japan (12)
【出願人】(510195582)雙寶有限公司 (2)
【Fターム(参考)】