説明

空気清浄装置

【課題】抗体フィルタに紫外線が照射することをによるフィルタ効果の低減を防止でき、風量の低下を防止できる空気清浄装置を提供する。
【解決手段】光触媒を用いて有機物質を分解する空気清浄装置であって、内部に空気を取り込む吸気部21と、外部に空気を送り出すための排気部23とを有するケース本体11と、吸気部21から排気部23の間に形成された流路に空気を送風する送風部16と、光触媒を含む層を有し、流路に配置された光触媒フィルタ12a,12bと、光触媒フィルタ12a,12bに光を照射する光照射部14a,14bと、担体に抗体を担持してなる有害物質除去材を含み、流路に配置された抗体フィルタ15と、を備え、光照射部14a,14bが指向性光源142を備え、指向性光源142の照射方向が光触媒フィルタ12a,12bの被照射面に対する垂直方向から該垂直方向に対して傾斜した方向の範囲であり、光の照射方向に抗体フィルタ15が存在しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消臭、脱臭、除菌等を目的とし、光触媒を用いて有機物質を分解し、抗体フィルタによって細菌、ウイルスなどを選択的に不活性する空気清浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ウイルスの不活性化を目的とする光触媒フィルタや、このような光触媒フィルタを備えた空気清浄装置としては、例えば、下記特許文献に示すものがある。特許文献1の空気清浄装置は、免疫抗体反応によりウイルスを不活性化して死滅させるウイルス除去能力に加えて、型の異なるウイルスを静電フィルタ又は光触媒フィルタにより不活性化効果を維持する空気清浄装置である。
【0003】
【特許文献1】特開2005−342142号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、光触媒フィルタに光を照射する光源として、一般的に紫外線が用いられるが、抗体フィルタに紫外線が照射されると、抗体フィルタに含まれる抗体が破壊され、ウイルスや細菌を捕捉する効果が低下してしまう。上記従来の空気清浄装置は、空気の流路において最上流側又は最下流側に抗体フィルタを配置する構成であるが、最下流側に配置した場合、抗体フィルタに光源部からの紫外線が照射されることで、抗体フィルタのフィルタ効果が低減することが予想される。一方、抗体フィルタに対する紫外線の影響を考慮して、抗体フィルタと光源部との間に遮蔽板などを設けると、空気の流れが妨げられることで、風量が低下してしまうことが懸念される。
また、抗体は、例えば動物の血清から製造する場合、血清中に溶解した状態で抗体1kgあたり700万円と高価格である。目的に応じて更に精製、粉末化などが行われ、さらに高価格となる。そのため、抗体が破壊されると大きなコストアップとなる。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、抗体フィルタに紫外線が照射することをによるフィルタ効果の低減を防止でき、風量の低下を防止できる空気清浄装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記目的は、下記構成によって達成される。
(1)光触媒を用いて有機物質を分解する空気清浄装置であって、
内部に空気を取り込む吸気部と、外部に空気を送り出すための排気部とを有するケース本体と、
前記吸気部から前記排気部の間に形成された流路に空気を送風する送風部と
光触媒を含む層を有し、前記流路に配置された光触媒フィルタと、
前記光触媒フィルタに光を照射する光照射部と、
担体に抗体を担持してなる有害物質除去材を含み、前記流路に配置された抗体フィルタと、を備え、
前記光照射部が指向性光源を備え、前記指向性光源の照射方向が前記光触媒フィルタの被照射面に対する垂直方向から該垂直方向に対して傾斜した方向の範囲であり、前記光の照射方向に前記抗体フィルタが存在しないことを特徴とする空気清浄装置。
(2)前記光照射部が、前記ケース本体における前記光触媒フィルタの近傍の前記流路に面する底面に設けられていることを特徴とする上記(1)に記載の空気清浄装置。
(3)前記光照射部が長尺状の基板を有し、該基板の長手方向に複数の前記指向性光源が並べられた構成であり、前記光触媒フィルタの前記被照射面に対して前記長手方向が平行になるように配置されていることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の空気清浄装置。
(4)前記光照射部が紫外線を含む光を照射する発光ダイオードであることを特徴とする上記(1)から(3)のいずれか1つに記載の空気清浄装置。
【0007】
本発明にかかる空気清浄装置は、光照射部が指向性光源を備え、指向性光源から照射された光が、光触媒フィルタの被照射面にのみ照射され、抗体フィルタには照射されないように構成されている。こうすれば、光に含まれる紫外線によって、抗体フィルタの抗体が破壊されてしまうことを回避でき、抗体フィルタのフィルタ効果が低下してしまうことを防止することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、抗体フィルタに紫外線が照射することをによるフィルタ効果の低減を防止でき、風量の低下を防止できる空気清浄装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1は、本発明にかかる空気清浄装置の一実施形態の構成を示す図である。図2は、図1の空気清浄装置を吸気側からみた図である。図3は、図1の空気清浄装置を排気側からみた図である。図4は、図1の空気清浄装置の空気の流路と平行な断面で切断した断面図である。
【0010】
空気清浄装置10は、内部に所定の空間を有する略長方体形状を有するケース本体11を備えている。図2に示すように、ケース本体11の吸気側の側面11aには、複数の吸気口21が形成されており、これら吸気口21がケース本体11の内部に空気を取り入れるための吸気部として機能する。また、図3に示すように、ケース本体11の排気側の側面11bには、複数の排気口23が形成されており、これら排気口23がケース本体11の外部に空気を送り出すための排気部として機能する。
【0011】
ケース本体11の内部には、吸気口21から排気口23に連通する流路が形成されている。空気清浄装置10の駆動時には、吸気口21から取り込まれた空気が図1中の矢印Fの方向に流れ、排気口23から送り出される。以下、本発明にかかる実施形態において、流路に対して吸気側を上流側とし、排気側を下流側とする。
【0012】
ケース本体11の流路には、光触媒フィルタ12が配置されている。本実施形態の光触媒フィルタ12は、略長方対形状を有し、流路の断面積と略等しい面積で且つ互い平行な平面を有し、該平面を流路を流れる空気の流れ(矢印F)に対して垂直になるように配置されている。なお、本実施形態では、上流側に光触媒フィルタ12aを配置し、下流側に光触媒フィルタ12bを配置した。
【0013】
光触媒フィルタ12は、不織布等のように多孔質の繊維層と、不活性チタン層と、不活性チタン層上に活性チタン層を有する。
光触媒としては、主に、酸化チタン(TiO)を主体として使用するが、木の他に酸化亜鉛(ZnO)、酸化セリウム(Ce)、酸化テルビウム(Tb)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化エルピウム(Er)、タンタル酸カリウム(KTaO)、硫化カドミウム(CdS)、セレン化カドミウム(CdSe)、および[Ru(bpy)3]2+やCo錯体等が適用可能である。なお、活性酸化チタンとしては、アナターゼ結晶の微粒子を用いるのが望ましい。
繊維層としては、目付けが100g/m〜300g/mのものであって、圧力損失が標準風速2.5m/sでの初期圧力損失が、20〜90Paのものを用いることが好ましい。
【0014】
また、光触媒フィルタ12の下流側には、抗体フィルタ15が設けられている。抗体フィルタ15は、上記光触媒フィルタ12と同一寸法及び形状とすることができる。
【0015】
抗体フィルタ15は、担体に抗体を担持してなる有害物質除去材を含む。
担体は、例えば、調質性素材で形成することができる。かかる調湿性素材としては、例えば繊維を挙げることができ、織布、不織布などの形態で担体を構成することができる。
【0016】
抗体は、特定の有害物質(抗原)に対して特異的に反応(抗原抗体反応)するタンパク質であり、分子サイズが7〜8nmであって、Y字状の分子形態を有する。抗体のY字状の分子形態の一対の枝部分をFab、幹部分をFcといい、これらのうち、Fabの部分で有害物質を捕捉する。
【0017】
抗体の種類は、捕捉しうる有害物質の種類に対応する。抗体により捕捉される有害物質としては、例えば、細菌、カビ、ウイルス、アレルゲン及びマイコプラズマを挙げることができる。具体的には、細菌としては、例えば、グラム陽性菌であるブドウ球菌属(黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌)、ミクロコッカス属、炭疽菌、セレウス菌、枯草菌、アクネ菌などや、グラム陰性菌である緑膿菌、セラチア菌、セパシア菌、肺炎球菌、レジオネラ菌、結核菌を挙げることができる。カビとしては、例えば、酵母、アスペルギルス、ペニシリウス、クラドスポリウムを挙げることができる。ウイルスとしては、インフルエンザウイルス、コロナウイルス(SARSウイルス)、アデノウイルス、ライノウイルスを挙げることができる。アレルゲンとしては、花粉、ダニアレルゲン(ダニ分解物)、カビ胞子、ネコアレルゲン(ペットのふけ)を挙げることができる。これらのうち細菌及びカビについては、抗体により不活化されないものの、高い吸着効果により静菌するのに対し、ウイルス及びアレルゲンについては、殺菌・不活化される。
【0018】
抗体の製造方法としては、例えば、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ウサギ等の動物に抗原を投与し、その血液からポリクローナル抗体を精製する方法、抗原を投与した動物の脾臓細胞と培養癌細胞とを細胞融合し、その培養液又は融合細胞を植え込んだ動物の体液(腹水等)からモノクローナル抗体を精製する方法、抗体産生遺伝子を導入した遺伝子組み換え細菌、植物細胞、動物細胞の培養液から抗体を精製する方法、ニワトリに抗原を投与して免疫卵を生ませ、卵黄液を殺菌及び噴霧乾燥して得た卵黄粉末から鶏卵抗体を精製する方法を挙げることができる。これらのうちでも、鶏卵から抗体を得る方法は、容易に且つ大量に抗体が得られ、有害物質除去材の低コスト化を図ることができる。
【0019】
担体には、抗菌剤を含有するコーティングを行うなどの抗菌加工及び/又は抗カビ剤を含有するコーティングを行うなどの抗カビ加工が施されていることが望ましい。抗体は、基本的にはタンパク質であり、特に鶏卵抗体は食物であり、また、抗体以外のタンパク質を伴う場合もあり、それらは細菌やカビが増殖するための恰好の餌となるが、担体に抗菌加工及び/又は抗カビ加工が施されていれば、かかる細菌やカビの増殖が抑制され、長期間の保管も行うことができる。抗菌/抗カビ剤としては、有機シリコン第4級アンモニウム塩系、有機第4級アンモニウム塩系、ビグアナイド系、ポリフェノール系、キトサン、銀担持コロイダルシリカ、ゼオライト担持銀系などを挙げることができる。そして、その加工法としては、繊維からなる担体に抗菌/抗カビ剤を含浸させる又は塗布する後加工法や、担体を構成する繊維の合成段階で抗菌/抗カビ剤を練り混む原糸原綿改質法などがある。
【0020】
担体に抗体を固定する方法としては、担体をγ-アミノプロピルトリエトキシシランなどを用いてシラン化した後、グルタールアルデヒドなどで担体表面にアルデヒド基を導入し、アルデヒド基と抗体とを共有結合させる方法、未処理の担体を抗体の水溶液中に浸漬してイオン結合により抗体を担体に固定する方法、特定の官能基を有する担体にアルデヒド基を導入し、アルデヒド基と抗体とを共有結合させる方法、特定の官能基を有する担体に抗体をイオン結合させる方法、特定の官能基を有するポリマーで担体をコーティングしたのちにアルデヒド基を導入し、アルデヒド基と抗体とを共有結合させる方法を挙げることができる。ここで、上記の特定の官能基としては、NHR基(RはH以外のメチル、エチル、プロピル、ブチルのうちいずれかのアルキル基)、NH2基、C65NH2基、CHO基、COOH基、OH基を挙げることができる。
【0021】
また、担体表面の官能基を、BMPA(N-β-Maleimidopropionic acid)などを用いて他の官能基に変換した後、その官能基と抗体とを共有結合させる方法もある(BMPAではSH基がCOOH基に変換される)。
【0022】
さらに、抗体のFcの部分に選択的に結合する分子(Fcレセプター、プロテインA/Gなど)を担体表面に導入し、それに抗体のFcを結合させる方法もある。この場合、有害物質を捕捉するFabが担体に対して外向きとなり、Fabへの有害物質の接触確率が高くなるので、効率よく有害物質を捕捉することができる。
【0023】
光触媒フィルタ12a,12b及び抗体フィルタ15は、フィルタカセット50に保持され、該フィルタカセット50をケース本体11に装着することで、所定の位置に配置されている。本実施形態では、光触媒フィルタ12a,12b及び抗体フィルタ15は、長尺板形状を有し、流路Fに対して垂直方向に延在し、空気の流れを許容しつつ、肉眼視した状態で遮蔽するように配置されている。
【0024】
図1及び図4に示すように、ケース本体11の流路の下流で、排気口23の直前(上流側近傍)には、送風部16が設けられている。本実施形態では、送風部16として軸流ファンを用いている。駆動時には、ファンの回転によって送風部16が流路内部の空気を下流側の排気口23から送り出すことで、流路において、空気を上流側の吸気口21から取り込み、流路に沿って空気を送って下流側の排気口23から送り出すといった図1で矢印Fで示す空気の流れが発生する。送風部16としては、軸流ファンに限らず、シロッコファンなどを用いてもよい。なお、本実施形態では、流路の下流側に送風部16を設ける構成としたが、流路の上流側に送風部16を設ける構成としてもよく、または、流路の上流側及び下流側の両方に送風部16を設ける構成としてもよい。
【0025】
また、空気清浄装置10には、ケース本体11の内部には、光照射部14a,14bや送風部16に電気を供給する電源回路32と、モータ制御部33と、光照射部14a,14bの電圧を個別に又は同時に変換可能な変圧器34とが設けられている。ケース本体11の排気側の側面11bには、電源スイッチ24が設けられている。また、ケース本体11の吸気側11aには、送風部16から送風される空気の流量を使用者が調整可能な、ノズル状の風量調節部26とが設けられている。
【0026】
また、図4に示すように、流路の上流側で、かつ、吸気口21の下流側には、光照射部14a,14bからの光が吸気口21からケース本体11の外部に漏れ出ることを防止するため、光を遮蔽するケース本体11の内側面に設けられた庇状の遮蔽部18が設けられている。こうすれば、駆動時に紫外線などの人体に有害な光が外部に照射されてしまうことを防止でき、安全性を確保することができる。
【0027】
次に、本実施形態の空気清浄装置10の制御系を説明する。
図5は、本実施形態の空気清浄装置の制御系を示すブロック図である。なお、以下に説明する実施形態において、すでに説明した部材などと同等な構成・作用を有する部材等については、図中に同一符号又は相当符号を付すことにより、説明を簡略化或いは省略する。空気清浄装置10の駆動時には、電源回路32を起動することで、所定の電圧がモーター制御部33、光照射部14a,14bと、変圧器34に供給される。変圧器34を所定の周波数(例えば、周波数50Hzと60ヘルツ)に設定することで光照射部14a,14bの駆動にかかる電圧を切り替えることができる。モーター制御部33を駆動することで、送風部16が駆動し、ケース本体11の流路に沿って、空気が流動し始める。送風部16の駆動開始と同時、または、その駆動開始の前後で光照射部14a,14bを駆動して、光の照射を開始し、光触媒フィルタ12で活性酸素を発生させるとともに、送風部16によって流動する空気によって活性酸素を空気清浄装置10の周囲雰囲気に拡散させる。
【0028】
ここで、空気清浄装置10には、雰囲気中の有機物質の量を検出するセンサ部36と、光照射部14a,14bと送風部16との少なくとも一方に信号の入出力が可能な状態で接続された駆動制御部38とが設けられている。センサ部36は、有機物質を検出した場合に、検出信号を駆動制御部38に出力する。駆動制御部38は、有機物質の検出信号に基づいて光照射部14a,14bと送風部16との少なくとも一方を制御することができる。光照射部14a,14bを制御する場合には、照射する光の量や、光を照射する時間を制御することができる。また、光照射部14a,14bの点灯を間欠運転に設定することや、照射を終了するタイマー機能を有していてもよい。送風部16を制御する場合には、送風する空気の量や、送風する時間を制御することができる。また、送風部16の駆動を間欠運転に設定することや、送風を終了するタイマー機能を有していてもよい。
【0029】
センサ部36で検出する臭気としては、例えば、人体からの体臭や口臭、アルコール物質や、愛玩動物の糞尿から生じた有機物質などがある。また、センサ部は、臭気に限定されず、例えば、ダニなどのハウスダスト、塵埃、花粉を検出することもできる。
【0030】
本実施形態の光照射部14a,14bはそれぞれ、長尺状の基板141と、該基板141の長手方向に間隔をおいて複数の指向性光源142が配置された構成である。光照射部14a,14bはそれぞれ、光触媒フィルタ12a,12bの被照射面に対して基板141の長手方向(図1において上下方向)が平行になるように配置されている。ここで、光触媒フィルタ12a,12bの被照射面とは、光触媒フィルタ12a,12bそれぞれの光照射部14a,14bが照射する側の面を指し、光触媒フィルタ12aの被照射面は、光照射部14a側の面(図4において右側の面)が相等し、光触媒フィルタ12bの被照射面は、光照射部14b側の面(図4において右側の面)が相等する。本発明で用いる指向性光源142は、各指向性光源の指向方向(照射方向)の光強度と、該指向方向から90°の角度の光強度の比(角度90°の光強度/角度0°の光強度)が0.01以下である。指向性光源142の照射方向が光触媒フィルタ12a,12bの被照射面に対する垂直方向から該垂直方向に対して傾斜した方向の範囲であり、光の照射方向に抗体フィルタ15が存在しない。
【0031】
図6は、光照射部の配置の変形例を示す断面図である。図6は、図1に示す空気清浄装置の流路と平行な切断面で切断した場合の断面図において、光触媒フィルタ12a,12bと光照射部14a,14bを含む要部を拡大して示している。図6に示すように、光照射部14a,14bが、ケース本体11における光触媒フィルタ12a,12bの近傍の流路に面する底面に設けられている。こうすれば、流路を流れる空気と光照射部14a,14bが干渉してしまうことを抑制することができ、光触媒フィルタ12a,12bに照射される光量を確保しつつ、空気清浄装置10の風量を向上させることができる。
【0032】
(実施例)
次に、本実施形態の空気清浄装置に基づいて、下記のように実施例と比較例とを測定する試験を行った。なお、実施例及び比較例で用いる空気清浄装置は、特段説明しない限り、上記で説明した空気清浄装置と同じ構成であるとして、説明を省略或いは簡易化する。
【0033】
実施例及び比較例で用いる抗体フィルタを下記手順によって作成した。
【0034】
(抗体フィルタの作成)
セルロースアセテート(アルドリッチ製、全置換度2.4、数平均分子量3万)のアセトン:水(97:3)溶液(25質量%)を60℃に加温し、直径0.1mmのノズルから、紡速500m/mの速度で空気とともに噴出させ不織布を形成し膜厚85μmの不織布N−1を得た。紡糸筒はヒーターで100℃に加温した。SEMで平均繊維径を測定したところ、8μmであった。
【0035】
(抗体の固定化)
抗原を投与したニワトリが産んだ免疫卵を精製して作製したインフルエンザウイルス抗体(IgY抗体)をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解させ、抗体濃度100ppmになるように調製した。調製した液に前記N−1のサンプルを室温で16〜24時間浸漬させ、繊維表面に抗体を付与させた。得られた試料を25℃20%RHの環境下で24時間静置し、次に25℃90%RHの環境下で24時間静置した。この操作を交互に3回ずつ、合計6条件の間で繰返した。
【0036】
(光触媒フィルタの作成)
ポリエステル/アクリル系からなる線径20μ、膜厚7mmの不織布に光触媒コーティング剤(TKC−304:テイカ製)を1mあたり7.5gとなるよう担持させ、100℃で3分乾燥させ光触媒フィルタを作成した。
【0037】
(空気清浄機へのフィルタ配置および評価)
光触媒および抗体フィルタに枠を作成し、着脱可能に保持するフィルタ保持部が設けられた、上記実施形態の図1及び図4に示すように、作成した抗体ナノフィルタN−1を空気の流れの最下流に配置し、上流側に光触媒を一対配置した。送風部として最下流に軸流ファン3機配置した。
【0038】
(実施例1)
それぞれの光触媒フィルタに対して下流側に、光触媒フィルタの被照射面に対して光指向方向が90度となるように光照射部として機能するUVLEDを配置した。光照射部の構成及び配置は、図1及び図4に示す上記実施形態のものと同じとした。
【0039】
(実施例2)
それぞれの光触媒フィルタに対して下流側に、被照射面に対して光指向方向が45度となるように、光触媒フィルタの近傍のケース本体の底面に、光照射部として機能するUVLEDを配置した。光照射部の構成及び配置は、図6に示す上記実施形態のものと同じとした。
【0040】
(比較例1)
光触媒フィルタ同士の間に、指向性光源を備えていないUV冷陰極管のみを配置した。図7は、指向性を有しない光源を配置した構成例を示す図である。ケース本体1の光触媒フィルタ2aと2bとの間に光源4が配置されている。図7においてはケース本体1の左側から空気が吸気され、右側から排出されるものとする。光触媒フィルタ2a,2bの下流側に抗体フィルタ5が配置されている。光触媒フィルタ2a,2b及び抗体フィルタ5は、上記実施例1,2と同じ構成のものを使用する。また、下流側の光触媒フィルタ2bと抗体フィルタ5との間には、特に何も設けない。
【0041】
(比較例2)
光触媒フィルタ同士の間に、指向性光源を備えていないブラックライトのみを配置した。光触媒フィルタ及び光源の配置は図7と同じである。
【0042】
(消臭効果評価)
空気清浄装置の、消臭効果をアンモニア濃度で評価した。試験を行う閉ざされた空間(5.0m)初期アンモニア(NH)濃度を10ppmに調節した後、空気清浄装置を駆動し、アンモニア濃度が1ppmになる時間を測定した。アンモニア濃度は検知管にて測定した。
【0043】
(風量評価)
風量は、縦26cm横7cm長さ30cmの筒を作成し、吹き出し口につけ、10点の風速(m/s)を測定し、平均値から風量(m/min)を求めた。
【0044】
(抗体フィルタでのUV強度評価)
浜松フォトニクス社製のUV−パワーメーター(C9536−01/H9958)により測定した。
【0045】
(ウイルス不活性化効率評価)
同一環境下で、前記条件の空気清浄機を2週間運転した後、それぞれの抗体フィルタのウイルス不活性化評価を実施した。
供試ウイルス液は精製インフルエンザウイルスをPBSで10倍希釈したものを使用した。前記各サンプルを5cm角に切り、ウイルス噴霧試験装置の中央に取り付け固定した。上流側に設置したネブライザーに供試ウイルス液を入れ、下流側にウイルス回収用装置を取り付けた。エアーコンプレッサーから圧縮空気を送り、ネブライザーの噴霧口から供試ウイルスを噴霧した。マスク下流側には、ゼラチンフィルターを設置し、10L/分の吸引流量で5分間試験装置内空気を吸引し、通過ウイルスミストを捕集した。
【0046】
試験後、ウイルスを捕集したゼラチンフィルターを回収し、MDCK細胞を用いたTCID50法(50%細胞感染量測定法)により、サンプル通過後のウイルス感染価を求めた。サンプル有り無しでのゼラチンフィルターのウイルス感染価の比較から、各サンプルのウイルスの一過性除去率を算出した。本測定の結果を下記表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
実施例1及び2では、指向性光源を有するUVLEDを光照射部として用いたことで、抗体フィルタにおけるUV強度を0μW/cm2とすることができ、ウイルスの一過性除去率が87%と高い値を示し、フィルタ効果が高かった。特に、実施例2では、UVLEDをケース本体の底面に設けたため、流路を流れる空気との干渉を低減することができ、風量が0.7m3/minとなり、実施例1よりも大きくなる。このため、10ppmのNH3濃度が1ppmになる時間が、実施例1の60分から30分と半分になり、空気清浄性能の大幅な向上が認められた。
【0049】
比較例1及び2は、指向性を有しない光源を用いたため、抗体フィルタにおいてUV強度がいずれも100μW/cm2と非常に高く、紫外線による抗体の破壊現象が生じた。そして、ウイルスの一過性除去率が40%と低く、フィルタ効果の低減が見受けられた。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】空気清浄装置の一実施形態の構成を示す図である。
【図2】図1の空気清浄装置を吸気側からみた図である。
【図3】図1の空気清浄装置を排気側からみた図である。
【図4】図1の空気清浄装置の空気の流路と平行な断面で切断した断面図である。
【図5】空気清浄装置の制御系を示すブロック図である。
【図6】光照射部の配置の変形例を示す断面図である。
【図7】比較例の装置構成を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
10 空気清浄装置
11 ケース本体
12(12a,12b) 光触媒フィルタ
14a,14b 光照射部
15 抗体フィルタ
16 送風部
142 指向性光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒を用いて有機物質を分解する空気清浄装置であって、
内部に空気を取り込む吸気部と、外部に空気を送り出すための排気部とを有するケース本体と、
前記吸気部から前記排気部の間に形成された流路に空気を送風する送風部と
光触媒を含む層を有し、前記流路に配置された光触媒フィルタと、
前記光触媒フィルタに光を照射する光照射部と、
担体に抗体を担持してなる有害物質除去材を含み、前記流路に配置された抗体フィルタと、を備え、
前記光照射部が指向性光源を備え、前記指向性光源の照射方向が前記光触媒フィルタの被照射面に対する垂直方向から該垂直方向に対して傾斜した方向の範囲であり、前記光の照射方向に前記抗体フィルタが存在しないことを特徴とする空気清浄装置。
【請求項2】
前記光照射部が、前記ケース本体における前記光触媒フィルタの近傍の前記流路に面する底面に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の空気清浄装置。
【請求項3】
前記光照射部が長尺状の基板を有し、該基板の長手方向に複数の前記指向性光源が並べられた構成であり、前記光触媒フィルタの前記被照射面に対して前記長手方向が平行になるように配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の空気清浄装置。
【請求項4】
前記光照射部が紫外線を含む光を照射する発光ダイオードであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の空気清浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−72430(P2009−72430A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−245470(P2007−245470)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】