説明

空気用除菌フィルターユニット

【課題】極めて高い除菌効率で、園芸施設内の空気に含まれる病害菌を除菌し、園芸施設内において病害が蔓延することを防止できる、製造が安価で且つその取付けも極めて容易な空気用除菌フィルターユニットを提供する。
【解決手段】細菌捕集用フィルター5の両側を光触媒4フィルターで挟み込むサンドイッチ構造を有し、それぞれの光触媒4フィルターの前面には、光触媒4を励起させる光源3を備え、細菌捕集用フィルター5として、静電フィルター、光触媒4として酸化チタン、光源3とし紫外光、又は可視光を使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニールハウス、温室、育苗施設などの多様な施設園芸において、特定の配列で内蔵されたランプやフィルターなどを有するフィルターユニットを使用することにより、病害及び病害虫を好適に防除する空気用除菌フィルターユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
農業の発展と共に、年中を通して様々な種類の農作物が半閉鎖型施設で栽培され、市場に出荷される。これら農作物は、栽培条件を人工的にコントロールすることで収穫時期の拡大、生産量の増大を可能としてきたが、一方で病害が発生すると施設内全体に蔓延し、農作物が全滅する事例が報告されている。農作物の病害として、糸状菌、細菌、ウィルス、昆虫類などに基因するものが数千種類以上あり、空気を媒介として半閉鎖施設内の作物に対する病害蔓延の原因となる。中でも飛翔性が無い糸状菌、細菌、ウィルスなどは、十分な空気を循環させている半閉鎖施設内の空気の流れに浮遊し、他の植物に付着して発病・蔓延の原因となる。
【0003】
主な病害防除の方法として、薬剤散布、生物的防除、物理的防除、電解水散布などが行われる。薬剤散布は、作業者や周辺環境に対する悪影響、農作物への薬害及び残留農薬による食への影響など疑問や不信感があり、低又は無農薬栽培が期待されている。生物的防除、物理的防除、電解水などは使用条件の維持管理、コストなどの問題があり使用者の選択性が制限される。また、光触媒などの殺菌、抗菌及び防汚機能を利用したシートや壁面塗料が提案されており、部分的、局所的な機能は期待できるが半閉鎖施設全体では困難である。上記の内容を解決する方法として半閉鎖施設内の空気を攪拌及び除菌できる装置が提案されている(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−186364号公報
【特許文献2】特開2004−173607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は園芸施設内において、空気中の浮遊菌を除去する手段を備えるようにした施設園芸作物の病害防除機構であって、前記空気中の浮遊菌を除去する手段として光触媒反応を利用した除菌装置を空気攪拌装置とともに併設するようにしたことを特徴とする施設園芸作物の病害防除機構で、浮遊菌を除去する手段として光触媒反応を利用した除菌装置と併せて、前記施設内の空気を機械的に拡散する空気攪拌装置(サーキュレーター)を設けるものである。
【0006】
特許文献2は空気吸入口からファンによって吸入された空気を、光源によって励起された光触媒体に触れさせて、空気吹出口から吹き出すようにしたハウス栽培用病害菌除去装置であって、前記装置の正面側にそれぞれ左右斜め前方に向けて筒状の風向ガイドを備える空気吹出口を設け、前記装置の中央部に前記空気吹出口の総面積よりも大きな前記空気吸入口を設け、前記光触媒体及び前記光源と、前記空気吹出口との間に区画室を設けるようにしたことを特徴とするハウス栽培用病害菌除去装置で、ハウス栽培用病害菌除去装置の空気の吹出方向を考慮するとともに、吹出風量を多くして吹出到達距離を延ばすことで、空気攪拌装置の有無にかかわらず、略閉鎖された園芸施設内で病害の蔓延を防除することができる。
【0007】
しかしながら、上記いずれの病害菌除去装置に置いて、光触媒を用いた除菌装置は光触媒を担持したシートと光触媒を励起させるための光源からなるもので、例えば特許文献1〜2の実施例では具体的には光触媒として酸化チタンをガラス繊維織布に担持させたものと光源を用いており、その除菌効率は十分なものとは言えなかった。
また特許文献2の装置においては、風向ガイドを備える空気吹出口、装置の中央部に空気吹出口の総面積よりも大きな空気吸入口、光触媒体及び光源と、空気吹出口との間に区画室を設けるという複雑な構造のもので、その装置の製造に費用が要し、また(0008)にもあるように、ビニールハウスの内側壁又はビニールハウス中央に立設される支柱等に設置して使用するもので、その場合にもその取付けに労力と費用を要するものであった。
【0008】
本発明の課題は極めて高い除菌効率で、園芸施設内の空気に含まれる病害菌を除菌し、園芸施設内において病害が蔓延することを防止できる空気用除菌フィルターユニットを提供することにある。
また本発明の課題は極めて簡単な装置で、その製造が安価で且つその取付けも極めて容易な空気用除菌フィルターユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
1.細菌捕集用フィルターの両側を光触媒フィルターで挟み込むサンドイッチ構造を有し、それぞれの光触媒フィルターの前面には、光触媒を励起させる光源を備えた空気用除菌フィルターユニット。
2.光触媒は、酸化チタンを主成分とする光触媒である除菌フィルターユニット。
3.光源は光触媒フィルターを励起させることのできる、紫外光又は可視光を発光するランプである除菌フィルターユニット。
4.空気用除菌フィルターユニットを半閉鎖型施設内に設置された空気循環用ファンに取り付けて、半閉鎖型施設内の空気を循環させることを特徴とする半閉鎖型施設内空気の除菌方法。
5.空気用除菌フィルターユニットを直列に複数取り付けたことを特徴とする除菌方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、光触媒フィルター、細菌捕集用フィルター及び光触媒を励起させる光源を組み合わせることで、捕集・除菌性能の向上により、後記の実施例からも極めて高い除菌効率で細菌類を除菌できることを確認した。実際に農作物に対する除菌効果を確認した結果、本空気用光触媒除菌フィルターユニットにより、細菌類の除菌及び広範囲への蔓延(拡大感染)防止効果を確認できた。上述のユニットは、光触媒と紫外線ランプから発生するラジカル及び紫外線の両方の効果により、細菌類の細胞表面及び内部にダメージを与え成長・繁殖能力の低下を引き起こすことができ、更に中央の細菌捕集用フィルターの存在により極めて高い除菌効率で病害菌を除菌することができる。
【0011】
本発明の光触媒除菌フィルターユニットは、半閉鎖施設において、浮遊する細菌類や病害虫の蔓延(拡大感染)を防除し、既存又は新設設置の循環用ファンの吸引部に、直接取り付けることで細菌類や病害虫の高い防除効果を得ることができる。
本発明においては、循環用ファンに直接取り付け可能な本空気除菌用フィルターユニットを用いることで、薬剤散布、生物的防除、物理的防除、電解水などのコスト、設置スペースおよび作業効率の削減効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例である空気用光触媒除菌フィルターユニットの断面図である。
【図2】図1のフィルター部の構造を説明するための断面図である。
【図3】図1の吸い込み部を説明するための正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の空気用除菌フィルターユニットは、光触媒フィルターで細菌捕集用フィルターを挟み込んだフィルター構造を有し、光触媒を励起させる光源を備えたことを特徴とする。
光源は光触媒フィルターを励起させることのできる、紫外又は可視を発光するランプが好ましい。
本発明の空気用除菌フィルターユニットは半閉鎖型施設内の既存の循環用ファンまたは、新規設置用循環ファンの吸引部に直接取り付けることができる。
【0014】
本フィルター部はサンドイッチ構造となっており、真ん中に糸状菌、細菌、ウィルス、昆虫類などを捕集できるフィルターを配置し、前記フィルターを光触媒担持フィルターで両側から挟み込む構造とする。
本フィルターユニットは、除菌効果をより高めるためにユニットを直列に増設することもできる。
【0015】
図1は、本発明の空気用光触媒除菌フィルターユニットの断面図である。前記フィルターユニットは、半閉鎖型施設の既存及び新設の循環用ファンの吸引部に直接取り付けられ、循環している空気に浮遊する病害(病害虫も含む)の防除を行う。
【0016】
図2は本発明の空気用光触媒除菌フィルターユニットのフィルター部の断面図である。図2において、5は細菌類、病害虫及び塵埃を捕集可能な濾材、4は5の上流及び下流の側面に沿うように密に並べられた光触媒活性殺菌濾材、2及び8は4,5の縁部を隙間なく固定するフィルター固定枠である。この殺菌フィルター部は、空気が矢印aの示す方向に流れるように取り付けられる。
【0017】
4のフィルターに使用される光触媒は、酸化チタンや酸化亜鉛など数多くのものが例示できるが、なかでも酸化チタンを主成分とするものが望ましい。また、光触媒に白金、コバルト、バナジウム、パラジウム、ロジウム、ルビジウム、亜鉛、金、銀、銅などの金属、ケイ素化合物類、アルミナ類又は、リン酸金属塩類の化合物を含むことで、ラジカル発生の増大に寄与する物質が光触媒に含まれることも望ましい。上記物質が含まれる光触媒担持体は、紫外線のような特殊な波長の光を用いなくても励起され細菌類及び病害虫の殺菌、有機物の分解等を行うが、勿論紫外線を用いても良い。フィルターの基材としては、ガラスクロス、紙(生分解性機能を持つものも含む)、多孔質セラミック、金属網(ステンレス、銅、アルミ製)が望ましい。また、5のフィルターは4のフィルターを通過した細菌類及び病害虫を捕集するため不織布フィルター、焼結フィルター、高性能エアフィルター(HEPAフィルター)、表面が正負に永久分極している静電フィルター等が望ましい。
【0018】
図3は、図1の装置の吸い込み部を説明するための正面図であり、3の光触媒を励起させることのできる紫外線のような特殊な波長のランプ、太陽光、又は標準的な可視光のランプを用いて、4のフィルター内の光触媒を励起させることができる。
【実施例】
【0019】
以下に、本発明の実施例及び比較例を示すが、何らこれらの実施例に限定されるものではない。
【0020】
実施例1
アクリル製評価用ボックスと図1の空気用光触媒除菌フィルターユニットを用いた。前記評価用ボックスは、空気用光触媒除菌フィルターユニットの前後に設置し、キュウリの苗が5鉢入る事を想定し400mm×600mm×600mm(縦×横×高さ)に設計し、また、細菌類の除菌試験を行う事を目的としており、不純物を防ぐために機密性に優れた構造とした。前記フィルターユニット吸引側のボックスは、浮遊菌をより浮遊し易くするために、小型ファンを2台内蔵し、出口側のボックスの上部には、ファンを設置しボックス中の気体を外に放出できる構造とした。図1の6のファンは、軸流ファンモーターを使用した。ファン風量は、0.63m/sの通風量を有するものを使用した。開口部は直径115mm、前記ボックスとの接続部は直径90mmとした。3の光源は6Wの殺菌灯(種波長254nm)を2本ずつ並列にフィルターの前後に配置し使用した。図2のフィルター部は、ゴムパッキンを用いてフィルターの固定及び密閉性を保ち、各フィルターは130mm×130mmに切断して使用した。4の酸化チタンを主成分とする光触媒を含むガラスクロス又は紙基材のフィルター、5の細菌捕集用フィルターは静電フィルターを使用した。上記のように本発明の空気用光触媒除菌フィルターユニットを作成した。
【0021】
実施例2
上記の装置を用いて、フィルターの性能差を評価することを目的として行った例を下記に示す。
大気中に浮遊している真菌類を平板寒天培地で培養した後、前記フィルターユニットの吸引側評価用ボックスに設置、出口側評価ボックスに滅菌済み平板寒天培地を設置して1分間フィルターユニット及びファンを稼動した。その結果、下記表1に示すように除菌効果を確認できた。本評価より、「試験項目1」のフィルターの組み合わせより除菌率約97%と高い除菌効果が得られた。
【0022】
【表1】

【0023】
比較例1
上記評価と同時に前記フィルターユニットの吸引側評価用ボックスに滅菌済み平板寒天培地を設置して評価した。本評価は紫外線ランプを停止し、光触媒フィルターと細菌捕集用フィルターの両方のフィルターを取り外して、ファンのみを稼働させた条件で試験を行った。その結果、滅菌済み平板寒天培地からは、浮遊させた培地と同等の繁殖を確認できた。
【0024】
実施例3
本評価は、実際にビニールハウス内で蔓延する、うどんこ病に感染したキュウリの苗を用いた。また、フィルターとして最も除菌率の高かった「試験項目1」の組み合わせを用いた。前記フィルターユニットの吸引側評価用ボックスに感染したキュウリの苗を入れ、出口側評価用ボックスに未感染のキュウリの苗を入れて3分間フィルターユニット及びファンを稼動し評価した。病害虫発生調査基準により、うどんこ病の発病度並びに発病指数を求めた。
【0025】
病害虫発生調査基準に基づき、各葉の病斑面積が葉面を占める割合を目視にて判断し、発生程度に応じて5段階(発生程度の高い物から順にA〜E)で発病指数を求める。指数の基準は以下のとおりである。
A:病斑面積が葉面の76%以上。
B:病斑面積が葉面の51〜75%。
C:病斑面積が葉面の26〜50%。
D:病斑面積が葉面の25%以下。
E:発病が見られない。
【0026】
発病度は0〜100で表され、前記発病指数を用いて以下の式で表される。
発病度=(4A+3B+2C+D)/(4×調査葉数)×100
【0027】
程度別基準は、前記発病度を元に発生程度を5段階(発生程度の少ない物から順に無〜甚)で判別する。基準は以下のとおりである。
無:0。
少:1〜25。
中:26〜50。
多:51〜75。
甚:76〜。
【0028】
下記表2に示すように出口側評価用ボックスのキュウリの苗からは、2週間後にうどんこ病は「発病度:1.5」、「程度別基準:少」を確認した。3週間後は、2週間後の値と変化は無く、うどんこ病の蔓延は確認されなかった。よって、前記空気用光触媒除菌フィルターユニットは、大半を除菌でき、仮に通過した細菌類には、光触媒と紫外線ランプから発生するラジカル及び紫外線の両方の効果により、細菌類の細胞表面及び細胞内にダメージを与え成長・繁殖能力の低下を引き起こすことができる。
【0029】
比較例2
上記評価と同時に前記フィルターユニットの吸引側評価用ボックスに未感染のキュウリの苗を入れ評価した。本評価は、比較例1と同様に「紫外線ランプ停止」、「フィルター無し」、ファンのみ稼動の場合と同条件として判断した。病害虫発生調査基準により、うどんこ病の発病度並びに発病指数を求めた結果、下記表2に示すように吸引側評価用ボックスの苗からは、2週間後にうどんこ病は「発病度:31.3」、「程度別基準:中」を確認した。3週間後には病斑面積が広がり、うどんこ病は「発病度:46.9」、「程度別基準:中」を確認した。病斑面積は経時変化で広範囲に拡大しており、うどんこ病の蔓延を確認できた。
【0030】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の空気用光触媒除菌フィルターユニットは、半閉鎖型施設内の除菌装置、集塵・除菌用フィルターユニットとして、空気浄化システムに利用可能である。また、本発明の空気用光触媒除菌フィルターユニットは、空調システム等にも取り付け可能であり、それらに集塵・除菌効果を付与できることから、例えば食品工場、食品調理施設、病院等の空気の除菌・浄化に利用可能である。
【符号の説明】
【0032】
1 空気用光触媒除菌フィルターユニット
2 固定用枠
3 光源
4 光触媒体
5 細菌捕集用フィルター部
6 循環ファン
7 ファン/フィルターユニット取り付け部
8 フィルター取り付け部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌捕集用フィルターの両側を光触媒フィルターで挟み込むサンドイッチ構造を有し、それぞれの光触媒フィルターの前面には、光触媒を励起させる光源を備えた空気用除菌フィルターユニット。
【請求項2】
細菌捕集用フィルターは、表面が正負に永久分極している静電フィルターである請求項1記載の除菌フィルターユニット。
【請求項3】
光触媒フィルターの基材が、ガラスクロス、紙、多孔質セラミック、金属網からなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項1記載の除菌フィルターユニット。
【請求項4】
紙基材は、生分解性機能を有する請求項3記載の除菌フィルターユニット。
【請求項5】
光触媒は、酸化チタンを主成分とする光触媒である請求項1記載の除菌フィルターユニット。
【請求項6】
光触媒は、酸化チタンの表面又は格子内に白金、コバルト、バナジウム、パラジウム、ロジウム、ルビジウム、亜鉛、金、銀、銅からなる群から選ばれる少なくとも1つの金属を含む光触媒である請求項5記載の除菌フィルターユニット。
【請求項7】
光触媒が、主成分の酸化チタンに、ケイ素化合物類、アルミナ類又はリン酸金属塩類から選ばれる少なくとも1つの化合物を含む光触媒である請求項5記載の除菌フィルターユニット。
【請求項8】
光源は光触媒フィルターを励起させることのできる、紫外光又は可視光を発光するランプである請求項1記載の除菌フィルターユニット。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の空気用除菌フィルターユニットを半閉鎖型施設内に設置された空気循環用ファンに取り付けて、半閉鎖型施設内の空気を循環させることを特徴とする半閉鎖型施設内空気の除菌方法。
【請求項10】
空気用除菌フィルターユニットを直列に複数取り付けたことを特徴とする請求項9記載の除菌方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−284431(P2010−284431A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−142576(P2009−142576)
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【出願人】(000146180)株式会社MORESCO (20)
【Fターム(参考)】