説明

空気精製装置の監視方法および監視システム

【課題】負荷変動や吸着剤の劣化を適確に判別することができる空気精製装置の監視方法および監視システムを提供する。
【解決手段】加熱した再生空気によって水分を離脱して吸着剤を再生する空気精製装置の監視方法において、吸着剤の再生時に筒状体の出口に導入される再生空気の温度を温度センサ40Dで、筒状体の内部の温度を温度センサ40Eで測定すると共に、排出される再生空気の温度を温度センサ40Fによって測定し、再生開始から第1の時間が経過すると温度センサ40Dおよび温度センサ40Eがそれぞれ測定した温度の温度差と第1の基準温度差との比較を基に吸着剤の劣化診断を行い、劣化診断により前記吸着剤が正常ではないと判定したときに、再生開始から第2の時間が経過すると、温度センサ40Dおよび温度センサ40Fがそれぞれ測定した温度の差と第2の基準温度差との比較を基に吸着剤の劣化または負荷量の過大を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気精製装置の監視方法および監視システムに関し、詳しくは、水分を吸着する吸着剤の加熱再生を行う空気精製装置の監視方法および監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
温度スイング(TSA)式や圧力温度スイング(PTSA)式のような、吸着剤を充填した吸着筒を複数本用いて、水分の吸着と加熱による水分の離脱とを繰り返す空気精製装置では、吸着剤が経年劣化する。したがって、空気精製装置による空気精製の処理能力が低下する前に、吸着剤を交換する必要がある。吸着剤の交換は、精製空気質が低下する直前で行うことが経済的である。このためには、吸着剤の交換時期を適確に知る必要がある。
【0003】
吸着剤の劣化状況を診断する従来の方法として、以下の技術がある。
a.吸着処理後の空気である精製空気の露点温度を露点計で測定する方法
b.吸着筒に取り付けた測定ポートから精製途中の空気を採取し、露点計で測定する方法(例えば、特許文献1参照。)
c.吸着剤の再生時の温度変化により劣化を診断する方法(例えば、特許文献2、3参照。)
上記aの方法は、吸着筒からの精製空気の露点温度を測定する。また、上記bの方法は、吸着筒から採取した空気(露点温度:−60℃以上)の温度を測定して、吸着筒内に形成される吸着帯の上昇を確認し、出口空気つまり精製空気の露点温度が上昇する前に警報を出力する。露点温度が−60℃よりも高い場合には、安価な露点計の利用が可能である。上記cの方法における特許文献2の技術は、吸着剤の再生時に吸着剤の温度を測定し、吸着剤温度の上昇特性から吸着剤の劣化を診断する。つまり、吸着剤は水分の脱着によって温度が低下する、という特性を利用している。また、上記cの方法における特許文献3の技術は、吸着剤の再生時に、吸着剤の排気温度を温度センサで測定し、基準時間内に排気温度が基準温度を超えた場合に、吸着剤の劣化と判断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−319727号公報
【特許文献2】特開平9−47630号公報
【特許文献3】特開2004−188371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記a〜上記cの各方法には次の課題がある。上記aの方法により、露点温度が−100℃以下の超低露点の空気を測定するには、数百万円もする高額な露点計を必要とする。
【0006】
上記bの方法によれば、精製途中の空気(露点温度−60℃以上)を測定して、吸着筒内での吸着帯の上昇を確認し、出口空気の露点温度が上昇する前に警報を出力するので、数十万円の露点計で計測が可能である。この結果、上記aの方法に比べれば低コストではあるが、それでも高額な機器を必要とする。また、露点計自体の信頼性を確保するために、露点計の定期的な保守が必要である。
【0007】
上記cの方法では、吸着剤の再生時の温度変化を熱電対等の安価な温度センサで測定するので、低コスト化が可能である。上記cの方法における特許文献2の技術は、吸着筒内の温度上昇特性を計測する。そして、あらかじめ設定された温度上昇変化率よりも低下した場合に、吸着剤が劣化したと診断する。この方法では、原料空気の量が過大または原料空気の露点上昇等の高負荷時においても、再生温度上昇率が低下するために、実際には吸着剤が劣化していないのに、劣化したと誤認するおそれがある。
【0008】
上記cの方法における特許文献3の技術は、吸着剤の排気温度(再生出口空気)の温度を測定し、基準時間内に基準温度を超えたときに、吸着剤の劣化と判断する。吸着剤の排気温度が基準温度よりも上昇するということは、通常よりも脱着熱が小さくなったこと、つまり、装置の処理能力が低下したことを意味するために、警報時にはすでに精製空気質が低下しているおそれがある。また、原料空気が少ない等のような、負荷が小さい時に、基準温度以上になることがあるために、この方法では吸着剤の劣化を誤認するおそれがある。
【0009】
本発明の目的は、前記の課題を解決し、負荷変動や吸着剤の劣化を適確に判別することができる空気精製装置の監視方法および監視システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するために、請求項1の発明は、水分を吸着する吸着剤を充填した筒状体の入口から導入した原料空気を、前記吸着剤で精製して前記筒状体の出口から導出し、加熱した再生空気によって前記吸着剤に吸着された水分を離脱して前記吸着剤を再生する空気精製装置の監視方法において、前記吸着剤の再生時に、前記筒状体の出口に導入される再生空気の温度を第1の温度センサによって測定し、1または2以上の第2の温度センサによって前記筒状体の内部の温度を測定すると共に、前記筒状体の入口から排出される再生空気の温度を第3の温度センサによって測定し、前記吸着剤の再生開始から第1の時間が経過すると、前記第1の温度センサおよび前記第2の温度センサがそれぞれ測定した温度の温度差と第1の基準温度差との比較結果を基に、前記吸着剤の劣化診断を行い、劣化診断により前記吸着剤が正常ではないと判定したときに、前記吸着剤の再生開始から第2の時間が経過すると、前記第1の温度センサおよび前記第3の温度センサがそれぞれ測定した温度の温度差と第2の基準温度差との比較結果を基に、前記吸着剤の劣化または負荷量の過大を判定する、ことを特徴とする。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1に記載の空気精製装置の監視方法において、新品吸着剤の再生時に前記第1の温度センサと前記第2の温度センサとが測定した各温度の差を基にして前記第1の基準温度差を設定し、前記第1の時間で測定した温度差が前記第1の基準温度差に比べて小さいときに前記吸着剤が正常と判定し、前記吸着剤の再生終了時点または終了前後を前記第2の時間に設定すると共に、前記新品吸着剤の再生時に前記第1の温度センサと前記第3の温度センサとが測定した各温度の差を基にして前記第2の基準温度差を設定し、前記第2の時間で測定した温度差が前記第2の基準温度差に比べて小さいときに前記吸着剤の劣化と判定し、大きいときに前記吸着剤の負荷量が過大であると判定する、ことを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明は、水分を吸着する吸着剤を充填した筒状体の入口から導入した原料空気を、前記吸着剤で精製して前記筒状体の出口から導出し、加熱した再生空気によって前記吸着剤に吸着された水分を離脱して前記吸着剤を再生する空気精製装置の監視システムにおいて、前記筒状体の出口に設置され、前記筒状体の出口に導入される再生空気の温度を測定する第1の温度センサと、前記筒状体に設置され、前記筒状体の内部の温度を測定する1または2以上の第2の温度センサと、前記筒状体の入口に設置され、前記筒状体の入口から排出される再生空気の温度を測定する第3の温度センサと、前記吸着剤の再生開始から第1の時間が経過すると、前記第1の温度センサおよび前記第2の温度センサがそれぞれ測定した温度の温度差と第1の基準温度差との比較結果を基に、前記吸着剤の劣化診断を行い、劣化診断により前記吸着剤が正常ではないと判定したときに、前記吸着剤の再生開始から第2の時間が経過すると、前記第1の温度センサおよび前記第3の温度センサがそれぞれ測定した温度の温度差と第2の基準温度差との比較結果を基に、前記吸着剤の劣化または負荷量の過大を判定する劣化診断手段と、を備えることを特徴とする空気精製装置の監視システムである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1および請求項3の発明によれば、露点計を用いて精製空気の露点温度を計測する従来の技術に比べて、高価な露点計を不要にするので、低コスト化を可能にする。また、本発明によれば、筒状体内部での温度測定を含む各温度測定で吸着剤の劣化と負荷量の過大とを判定するので、露点計の定期的な保守等の必要がなく、精製空気が悪化する前に吸着剤の劣化を的確に判定して、吸着剤の無駄な交換を回避することを可能にする。さらに、本発明によれば、温度測定で吸着剤の劣化および負荷変動を的確に判定できる。
【0014】
請求項2の発明によれば、新品吸着剤を用いて第1の基準温度差および第2の基準温度差を設定するので、基準温度差の設定が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施の形態1による監視システムを示す概略構成図である。
【図2】基本的な圧力温度スイング吸着サイクルを説明する説明図である。
【図3】基本的な圧力温度スイング吸着サイクルを説明する説明図である。
【図4】空気精製装置の精製と再生の際の原料空気および精製空気の流れを示す図である。
【図5】吸着剤の劣化を説明する説明図である。
【図6】吸着剤が新品のときの吸着筒の様子を示す図であり、図6(a)は水分吸着量分布を示す図、図6(b)は再生時の筒内温度変化を示す図である。
【図7】吸着剤が劣化したときの吸着筒の様子を示す図であり、図7(a)は水分吸着量分布を示す図、図7(b)は再生時の筒内温度変化を示す図である。
【図8】高負荷時の吸着筒の様子を示す図であり、図8(a)は水分吸着量分布を示す図、図8(b)は再生時の筒内温度変化を示す図である。
【図9】劣化診断処理の一例を示すフローチャートである。
【図10】実施の形態2による吸着筒の一例を示す図である。
【図11】実施の形態3による劣化診断処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳しく説明する。以下の実施の形態では、2つの吸着筒ごとに配管とセンサ、弁類が対称関係で配置され、吸着剤再生手段と監視手段、給気源と排気先を共用するシステムに対して、本発明の空気精製装置の監視方法および監視システムが適用されている。
【0017】
(実施の形態1)
実施の形態1による監視システムの構成の概略を図1に示す。本実施の形態による監視システム1は、2本の吸着筒10A、10Bと、逆止弁U1、U2と電磁バルブV1〜V7とを含む配管系20と、加熱ヒータ30と、温度センサ40A〜40Fと、制御盤50とを備えている。吸着筒10A、10Bは、吸着装置として機能して同一構成である。吸着筒10Aの筒体10Aの内部には、例えばシリカゲル、ゼオライト、活性アルミナ等の、空気精製の際に使用される吸着剤が充填されている。
【0018】
逆止弁U1、U2と電磁バルブV1〜V7とを含む配管系20は、配管21A、21B、24、25A、25Bと、合流管22A〜22Dと、精製空気導出管23と、原料ガス導入管26と、再生ガス排出管27とを備えている。吸着筒10A、10Bの上部には、配管21A、21Bが接続され、合流管22Aによって配管21A、21Bが合流している。合流管22Aには精製空気導出管23が接続されている。また、配管21A、21B間には、合流管22Bが接続されている。さらに、精製空気導出管23と合流管22Bとの間には、配管24が接続されている。
【0019】
合流管22Aには、精製空気導出管23との接続部を挟んで、逆止弁U1、U2がそれぞれ設けられている。逆止弁U1、U2の作用により、逆止弁U1が相対する吸着筒10A側への流路が閉止されていると共に逆止弁U2が相対する吸着筒10B側への流路が閉止されている。これにより、合流管22Aを流れる気体は、精製空気導出管23側へのみ流れる。したがって、合流管22Aは、精製空気の導出系に使用される。
【0020】
配管24には、電磁バルブV3と加熱ヒータ30とがそれぞれ設けられている。電磁バルブV3の作用により、精製空気導出管23を流れる精製空気の一部が分岐され、分岐された精製空気は、加熱ヒータ30で加熱され、再生空気として合流管22Bに流れる。
【0021】
合流管22Bには、配管24との接続部を挟んで、電磁バルブV1、V2がそれぞれ設けられている。電磁バルブV1、V2の作用により、配管24からの再生空気は、吸着筒10Aまたは吸着筒10Bに流れる。
【0022】
吸着筒10A、10Bの下部には配管25A、25Bが接続され、配管25A、25Bは合流管22Cによって合流している。合流管22Cには原料ガス導入管26が接続されている。合流管22Cには、原料ガス導入管26の接続部を挟んで電磁バルブV4、V5がそれぞれ設けられている。電磁バルブV4、V5の作用により、原料ガス導入管26からの原料ガスである原料空気が吸着筒10Aまたは吸着筒10Bに流れる。
【0023】
配管25A、25B間には、合流管22Dが接続されている。合流管22Dによって配管25A、25Bが合流している。合流管22Dには再生ガス排出管27が接続され、再生ガス排出管27との接続部を挟んで電磁バルブV6、V7がそれぞれ設けられている。電磁バルブV6、V7の作用により、吸着筒10A、10Bから排出されて合流管22Dを流れる再生空気は、再生ガス排出管27を経てシステム外に排出される。
【0024】
温度センサ40A〜40Cは吸着筒10Aおよび配管21A、25Aに設けられ、温度センサ40D〜40Fは吸着筒10Bおよび配管21B、25Bに設けられている。温度センサ40D〜40Fは温度センサ40A〜40Cと同一である。温度センサ40Aは、吸着筒10Aと配管21Aとの接続部付近に、かつ、配管21A側に設けられている。温度センサ40Aは、主に、電磁バルブV1から配管21Aを流れる再生空気の入口温度を測定し、測定信号を制御盤50に送る。温度センサ40Bは、吸着筒10A内の上部つまり筒体10Aの筒上部に位置し、筒を貫通して感温部が筒内部に至るように設けられている。温度センサ40Bは、吸着剤が充填されている筒体10Aの筒上部温度を測定し、測定信号を制御盤50に送る。温度センサ40Cは、吸着筒10Aと配管25Aとの接続部付近に、かつ、配管25A側に設けられている。温度センサ40Cは、主に、吸着筒10Aから排出される再生空気の温度つまり出口温度を測定し、測定信号を制御盤50に送る。
【0025】
制御盤50は、吸着筒10A、10Bと、配管系20と、加熱ヒータ30とで構成される空気精製装置の運転を制御する。つまり、制御盤50は、電磁バルブV1〜V7の開閉を制御して、図2に示すPTSAサイクルを行わせる。つまり、制御盤50は、吸着筒10Aで吸着を行うと共に吸着筒10Bの水分脱着を行う第1の工程(図2の左図)と、吸着筒10Bで吸着を行うと共に吸着筒10Aの水分脱着を行う第2の工程(図2の右図)とを交互に行う。このとき、図3に示すように、吸着筒10Aが行う筒A工程で、原料空気の精製を行っているときに、吸着筒10Bが行う筒B工程では、精製空気の一部を利用して、吸着筒10Bの加熱による再生と、再生が済んだ後の冷却・スタンバイとを行っている。また逆に、筒B工程で原料空気の精製を行っているときに、筒A工程では吸着筒10Aの再生・冷却・スタンバイを行っている。
【0026】
このように、制御盤50は、吸着剤を充填した2本の吸着筒10A、10Bの筒切替により、吸着筒10A、10Bの精製と再生の指示とを一定時間毎に繰り返している。
【0027】
制御盤50は、温度センサ40A〜40Fからの各測定信号を基にして、吸着筒10A、10Bの筒体10A、10Bに充填されている吸着剤の劣化を診断する。例えば図4に示すように、制御盤50の指示により上記第1の工程が行われている場合、再生空気が流れる際の各所における温度を温度センサ40D〜40Fがそれぞれ測定する。このとき、温度センサ40D〜40Fがそれぞれ測定する温度をT1、T2、T3とする。なお、原料空気を精製する際の各所における温度であって、温度センサ40A〜40Cがそれぞれ測定する温度をT4、T5、T6としている。なお、図2と図4では、原料空気と、原料空気を精製した精製空気との流路を太い実線で示し、吸着剤の再生に利用される精製空気と、再生空気との流路を破線で示している。また、温度センサ40A〜40Cを用いた吸着剤の劣化診断は、温度センサ40D〜40Fを用いた劣化診断と同じであるので、以下では、吸着筒10Bの温度T1〜T3を用いた、吸着剤の劣化診断について説明する。
【0028】
ここで、制御盤50が行う劣化診断の基本的な手法について説明する。吸着剤を充填した空気精製装置では、安全面から、つまり、空気の確実な精製を行うために、必要量よりも多めに吸着剤を充填している。吸着剤が新品の状態では、吸着筒10Bの筒上部は、余裕部分であるために、常に水分量が少ない状態にある。この様子を図5に示す。水分の吸着および脱着が頻繁に繰り返される吸着筒10Bの下部、つまり、筒高さの低い筒下部から吸着剤が劣化していくことが、一般的に知られている。そして、吸着剤が劣化すると、新品のときに比べて水分の吸着量が減少する。図5において、筒内の右方への膨らみ部分は吸着剤による吸着への寄与量を模式的に示している。吸着剤が新品の状態にあるときには、図5左図に示すように、筒下部での水分吸着量が多いので、筒上部においては、図6(a)に示すように、水分吸着量が少なく、図6(b)に示すように、再生時の脱着熱が小さいために、温度(T2)上昇が速い。なお、図6(b)と、後述の図7(b)および図8(b)とは、筒の再生空気の入口に近い温度センサ40Eの検出値(温度T2)と、入口の温度T1と、出口の温度T3との状態を示している。また、吸着筒10Bの筒下部の吸着剤が劣化すると、図5中央図と図5右図に示すように、筒下部での水分吸着量が少なくなるので、筒上部においては、図7(a)に示すように、筒上部まで水分が吸着し、図7(b)に示すように、吸着剤が新品であるときに比べて温度(T2)上昇が遅くなる。
【0029】
したがって、再生時の加熱途中に基準時間t1を設定し、基準時間t1における再生空気の入口温度T1と、吸着剤が新品であるときの吸着筒10Bの筒上部温度T2との温度差ΔT12(新品)、および、吸着剤が劣化しているときの温度差ΔT12(劣化)を算出する。そして、2つの温度差を比較すると、
ΔT12(新品)<ΔT12(劣化)
となり、吸着剤の再生時での温度差の増加から、温度T2を測定する温度センサ40Eの挿入部における水分吸着量の増加を判別することができる。
【0030】
ところで、吸着筒10Bの吸着剤が劣化していなくても、精製空気の使用先での使用量(負荷)が増大したなどの場合、原料空気の量が増大した場合、また、外気条件等により原料空気の露点が上昇した場合、といった高負荷時においても、図8(a)に示すように、温度センサ40Eの挿入部まで水分が吸着する可能性がある。このときにも、図8(b)に示すように、
ΔT12(新品)<ΔT12(劣化)
となる。このために、この温度差条件では、吸着筒10Bの吸着剤が劣化しているのか、または、負荷が過大であるのかを判別することが困難である。
【0031】
そこで、本願発明者は、吸着剤を再生するための加熱完了時(基準時間t2)において、吸着筒10Bから排出される再生空気の出口温度T3が負荷量によって変動することに着目した。吸着筒10Bに供給された再生空気の熱は、吸着筒10Bからの放熱ロスおよび吸着剤の加熱と水分の脱着熱の受け入れに使われる。吸着筒10Bからの放熱ロスが一定であるとすると、吸着剤の状態(新品または劣化)によらず、筒全体の水分吸着量(負荷量)が同じとき、吸着剤の加熱完了時の出口温度T3が同じになるため、入口温度T1と吸着剤が新品であるときの吸着筒10Bの出口温度T3の温度差ΔT13(新品)と、吸着剤が劣化しているときの温度差ΔT13(劣化)とは、
ΔT13(新品)=ΔT13(劣化)
のように同じになる(図6と図7参照)。ここで、筒全体の水分吸着量が同じときとは、吸着剤が新品の状態で吸着している全水分量と、劣化している状態で吸着している全水分量が同じであるときである。吸着筒10Bの出口温度は、筒全体に吸着されている水分量に影響される。このために、吸着剤の状態が新品でも劣化していても、全水分量が同じであれば、再生の際の加熱完了時において、出口温度は、吸着剤の状態によらず同じになる。一方、高負荷時では脱着熱量が増加するため、高負荷時における入口温度T1と吸着筒10Bの出口温度T3の温度差ΔT13(高負荷)については、
ΔT13(新品)<ΔT13(高負荷)
ΔT13(劣化)<ΔT13(高負荷)
となる。
【0032】
つまり、基準時間t1における基準温度差をΔTset1とし、基準時間t2における基準温度差をΔTset2とすると、
基準時間t1:ΔT12≦ΔTset1
であるとき(条件1)、吸着剤が正常である状態を示している。また、
基準時間t1:ΔT12>ΔTset1
基準時間t2:ΔT13≦ΔTset2
の両方が成立するとき(条件2)、吸着剤が劣化している状態を示している。さらに、
基準時間t1:ΔT12>ΔTset1
基準時間t2:ΔT13>ΔTset2
の両方が成立するとき(条件3)、高負荷である状態を示している。なお、温度差ΔTset1、ΔTset2としては、例えば吸着剤が新品の場合と劣化した場合との蓄積データから設定された値や、吸着剤の交換直後の値などがある。
【0033】
上述した、基本的な手法を基に制御盤50は吸着剤の劣化診断をする。このために、制御盤50は図9に示す劣化診断処理を行う。制御盤50は、劣化診断処理を開始すると、吸着剤の再生における加熱開始からの経過時間を測り(ステップS1)、経過時間が1時間になったかどうかを判定する(ステップS2)。なお、本実施の形態では、基準時間t1が1時間に設定されている。ステップS2で経過時間が1時間に達しない場合に、制御盤50は処理をステップS1に戻す。また、ステップS2で経過時間が1時間に達したと判定すると、制御盤50は、温度センサ40D、40Eがそれぞれ測定した温度T1、T2から、再生空気の入口温度を250℃と想定した場合、この入口温度と吸着筒10Bの筒上部温度との差ΔT12を算出し(ステップS3)、温度差が、
ΔT12>50℃
であるかどうかを判定する(ステップS4)。つまり、ステップS4で上記の条件1が成り立つかどうかを、制御盤50が判定している。なお、本実施の形態では、基準時間t1における基準温度差ΔTset1が50℃に設定されている。
【0034】
ステップS4で温度差ΔT12が50℃を超える場合、加熱開始からの経過時間が3時間になったかどうかを判定する(ステップS5)。なお、本実施の形態では、基準時間t2が3時間に設定されている。ステップS5で加熱時間が3時間を経過していないと判定すると、制御盤50は3時間が経過するまで待つ。また、ステップS5で加熱時間が3時間に達したと判定すると、制御盤50は、温度センサ40D、40Fがそれぞれ測定した温度T1、T3から、再生空気の入口温度と出口温度との差ΔT13を算出し(ステップS6)、温度差が、
ΔT13≦100℃
であるかどうかを判定する(ステップS7)。つまり、ステップS7で上記条件2および上記条件3のどちらかが成り立つかどうかを、制御盤50が判定している。なお、本実施の形態では、基準時間t2における基準温度差ΔTset2が100℃に設定されている。
【0035】
ステップS7で、
ΔT13≦100℃
である場合、上記の条件2が成り立つので、制御盤50は、吸着剤の劣化を示す吸着剤劣化警報の出力を警報装置50Aに対して行い(ステップS8)、劣化診断処理を終了する。また、ステップS7で、
ΔT13≦100℃
が成り立たない場合、つまり、
ΔT13>100℃
である場合、上記条件3が成り立つので、制御盤50は、高負荷であることを示す高負荷警報の出力を警報装置50Aに対して行い(ステップS9)、劣化診断処理を終了する。
【0036】
一方、ステップS4で、
ΔT12>50℃
が成り立たない場合、つまり、
ΔT12≦50℃
である場合、上記条件1が成り立つので、制御盤50は、吸着剤が正常であることを示す吸着剤正常の出力を警報装置50Aに対して行い(ステップS10)、劣化診断処理を終了する。
【0037】
警報装置50Aは、制御盤50からの出力に応じて、吸着剤劣化警報、高負荷警報、吸着剤正常を、点灯表示などによって担当者等に知らせる。
【0038】
次に、本実施の形態による空気精製装置の監視システムの作用について説明する。制御盤50は、加熱ヒータ30と電磁バルブV1〜V7とを制御して、空気精製装置の運転を制御する。これにより、制御盤50は、吸着筒10Aで吸着を行うと共に吸着筒10Bの水分脱着を行う第1の工程と、吸着筒10Aの水分脱着を行うと共に吸着筒10Bで吸着を行う第2の工程とを交互に行う。
【0039】
また、制御盤50は、温度センサ40A〜40Fが測定した、再生空気の入口温度、吸着筒10Bの筒上部温度、再生空気の出口温度の信号を受け取り、水分の脱着を行って吸着剤を再生している吸着筒に対して劣化診断処理を行い、診断結果を警報装置50Aに出力する。警報装置50Aは、制御盤50からの出力に応じて、吸着剤劣化警報、高負荷警報、吸着剤正常を担当者等に知らせる。この後、担当者は、例えば吸着剤劣化警報により、吸着剤を交換する。このとき、吸着剤の価格や交換頻度に応じて、吸着剤の一部交換か全交換を行う。なお、吸着剤の一部交換を行うためには、吸着剤を複数パッケージ化する方法などがある。
【0040】
本実施の形態によれば、露点計を用いて精製空気の露点温度を測定する従来の技術に比べて、高価な露点計を不要にするので、大幅な低コスト化を可能にする。また、本実施の形態によれば、負荷変動による高負荷と、吸着剤の劣化とを的確に判断することができる。これにより、吸着剤の無駄な交換を回避することが可能になる。
【0041】
(実施の形態2)
本実施の形態では、実施の形態1の吸着筒10A、10Bに対して複数の温度センサを用いる。以下では、吸着筒10Bを例として説明する。なお、本実施の形態では、先に説明した実施の形態1と同一もしくは同一と見なされる構成要素には、それと同じ参照符号を付けて、その説明を省略する。図10に示すように、吸着筒10Bに対して実施の形態1の温度センサ40Eの代わりに、n個の温度センサ40E〜40Eを設ける。
【0042】
制御盤50は、再生時の加熱途中(基準時間t1)において、温度センサ40E〜40Eが測定した温度T2〜T2を受け取る。この後、制御盤50は、再生時の加熱途中で温度センサ40Dが測定した温度T1との温度差を算出し、温度差が最も大きいものを温度差ΔT12として、劣化診断処理のステップS3を行う。
【0043】
本実施の形態によれば、温度差が最も大きいものを温度差ΔT12として劣化診断処理を行うので、吸着剤の交換時期をより精度よく判断することができる。また、最も大きい温度差ΔT12に係る温度センサの位置を、吸着帯のある位置とすることができる。
【0044】
(実施の形態3)
実施の形態1では、条件1〜条件3を基に制御盤50が劣化診断処理を行ったが、本実施の形態では、条件1〜条件3の代わりに次の条件を用いる。なお、本実施の形態では、先に説明した実施の形態1と同一もしくは同一と見なされる構成要素には、それと同じ参照符号を付けて、その説明を省略する。本実施の形態では、再生時の加熱途中(基準時間t1)で温度センサ40Eが測定した、筒体10Aの筒上部温度T2と、再生時の加熱完了(基準時間t2)で温度センサ40Fが測定した、吸着筒10Bから排出される再生空気の出口温度T3とが基準温度に達しているか否かで、吸着剤の劣化および高負荷を判断する。
【0045】
つまり、基準時間t1における筒上部の基準温度をT2setとし、基準時間t2における再生空気の出口温度をT3setとすると、
基準時間t1:T2>T2set
であるとき(条件11)、吸着剤が正常である状態を示している。また、
基準時間t1:T2≦T2set
基準時間t2:T3≧T3set
の両方が成立するとき(条件12)、吸着剤が劣化している状態を示している。さらに、
基準時間t1:T2≦T2set
基準時間t2:T3<T3set
の両方が成立するとき(条件13)、高負荷である状態を示している。なお、温度差ΔTset2、ΔTset3としては、例えば吸着剤が新品の場合と劣化した場合との蓄積データから設定された値や、吸着剤の交換直後の値などがある。
【0046】
これらの条件11〜条件13を基に、制御盤50は例えば次の劣化診断処理を行う。制御盤50は図11に示す劣化診断処理を開始すると、再生時の加熱開始からの経過時間を測り(ステップS21)、経過時間が1時間(基準時間t1)になったかどうかを判定する(ステップS22)。ステップS22で経過時間が1時間に達しない場合に、制御盤50は処理をステップS21に戻す。また、ステップS22で経過時間が1時間に達したと判定すると、制御盤50は、温度センサ40Eが測定した温度T2が、
T2>200℃
であるかどうかを判定する(ステップS23)。つまり、ステップS23で上記の条件11が成り立つかどうかを、制御盤50が判定している。なお、本実施の形態では、基準時間t1における基準温度T2setが200℃に設定されている。
【0047】
ステップS23で筒上部の温度T2が、
T2≦200℃
である場合、加熱開始からの経過時間が3時間(基準時間t2)になったかどうかを判定する(ステップS24)。ステップS24で加熱時間が3時間を経過していないと判定すると、制御盤50は3時間が経過するまで待つ。また、ステップS24で加熱時間が3時間に達したと判定すると、制御盤50は、温度センサ40Fが測定した温度T3が
T3≧150℃
であるかどうかを判定する(ステップS25)。つまり、ステップS25で上記の条件12および条件13のどちらかが成り立つかどうかを、制御盤50が判定している。なお、本実施の形態では、基準時間t2における基準温度T3setが150℃に設定されている。
【0048】
ステップS25で、
T3≧150℃
である場合、上記の条件12が成り立つので、制御盤50は、吸着剤の劣化を示す吸着剤劣化警報の出力を警報装置50Aに対して行い(ステップS26)、劣化診断処理を終了する。また、ステップS25で、
T3≧150℃
が成り立たない場合、つまり、
T3<150℃
である場合、上記の条件13が成り立つので、制御盤50は、高負荷であることを示す高負荷警報の出力を警報装置50Aに対して行い(ステップS27)、劣化診断処理を終了する。
【0049】
一方、ステップS23で、
T2>200℃
である場合、上記の条件11が成り立つので、制御盤50は、吸着剤が正常であることを示す吸着剤正常の出力を警報装置50Aに対して行い(ステップS28)、劣化診断処理を終了する。
【0050】
本実施の形態によれば、制御盤50が行う劣化診断処理のステップ数を減らし、制御盤50の負担を軽くして、吸着剤の劣化診断を行うことができる。また、吸着筒10A、10Bの温度センサ40A、40Dを省くことができ、装置構成の簡単化が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、PTSA式やTSA式に限らず、加圧下での吸着を行う圧力スイング(PSA)式のドライヤにおいても、定格負荷を吸着剤に吸着させた状態から、吸着剤の加熱再生を行うことにより、吸着剤の再生と劣化診断を同時に行うことを可能にする。
【符号の説明】
【0052】
1 監視システム
10A、10B 吸着筒
10A 筒体(筒状体)
20 配管系
21A、21B、24、25A、25B 配管
22A〜22D 合流管
23 精製空気導出管
26 原料ガス導入管
27 再生ガス排出管
U1、U2 逆止弁
V1〜V7 電磁バルブ
30 加熱ヒータ
40A〜40F 温度センサ
50 制御盤(劣化診断手段)
50A 警報装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分を吸着する吸着剤を充填した筒状体の入口から導入した原料空気を、前記吸着剤で精製して前記筒状体の出口から導出し、加熱した再生空気によって前記吸着剤に吸着された水分を離脱して前記吸着剤を再生する空気精製装置の監視方法において、
前記吸着剤の再生時に、前記筒状体の出口に導入される再生空気の温度を第1の温度センサによって測定し、1または2以上の第2の温度センサによって前記筒状体の内部の温度を測定すると共に、前記筒状体の入口から排出される再生空気の温度を第3の温度センサによって測定し、
前記吸着剤の再生開始から第1の時間が経過すると、前記第1の温度センサおよび前記第2の温度センサがそれぞれ測定した温度の温度差と第1の基準温度差との比較結果を基に、前記吸着剤の劣化診断を行い、
劣化診断により前記吸着剤が正常ではないと判定したときに、前記吸着剤の再生開始から第2の時間が経過すると、前記第1の温度センサおよび前記第3の温度センサがそれぞれ測定した温度の温度差と第2の基準温度差との比較結果を基に、前記吸着剤の劣化または負荷量の過大を判定する、
ことを特徴とする空気精製装置の監視方法。
【請求項2】
新品吸着剤の再生時に前記第1の温度センサと前記第2の温度センサとが測定した各温度の差を基にして前記第1の基準温度差を設定し、前記第1の時間で測定した温度差が前記第1の基準温度差に比べて小さいときに前記吸着剤が正常と判定し、
前記吸着剤の再生終了時点または終了前後を前記第2の時間に設定すると共に、前記新品吸着剤の再生時に前記第1の温度センサと前記第3の温度センサとが測定した各温度の差を基にして前記第2の基準温度差を設定し、前記第2の時間で測定した温度差が前記第2の基準温度差に比べて小さいときに前記吸着剤の劣化と判定し、大きいときに前記吸着剤の負荷量が過大であると判定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の空気精製装置の監視方法。
【請求項3】
水分を吸着する吸着剤を充填した筒状体の入口から導入した原料空気を、前記吸着剤で精製して前記筒状体の出口から導出し、加熱した再生空気によって前記吸着剤に吸着された水分を離脱して前記吸着剤を再生する空気精製装置の監視システムにおいて、
前記筒状体の出口に設置され、前記筒状体の出口に導入される再生空気の温度を測定する第1の温度センサと、
前記筒状体に設置され、前記筒状体の内部の温度を測定する1または2以上の第2の温度センサと、
前記筒状体の入口に設置され、前記筒状体の入口から排出される再生空気の温度を測定する第3の温度センサと、
前記吸着剤の再生開始から第1の時間が経過すると、前記第1の温度センサおよび前記第2の温度センサがそれぞれ測定した温度の温度差と第1の基準温度差との比較結果を基に、前記吸着剤の劣化診断を行い、劣化診断により前記吸着剤が正常ではないと判定したときに、前記吸着剤の再生開始から第2の時間が経過すると、前記第1の温度センサおよび前記第3の温度センサがそれぞれ測定した温度の温度差と第2の基準温度差との比較結果を基に、前記吸着剤の劣化または負荷量の過大を判定する劣化診断手段と、
を備えることを特徴とする空気精製装置の監視システム。

【図1】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−98308(P2011−98308A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255693(P2009−255693)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【出願人】(000169499)高砂熱学工業株式会社 (287)
【Fターム(参考)】