説明

空気精製装置及びその空気精製装置を用いた全有機体炭素測定装置

【課題】設置面積が小さく維持コストも低減された空気精製装置及びTOC測定装置を提供する。
【解決手段】空気精製装置1は、空気精製部2に空気を供給するポンプ14、空気精製部2の出口にフィルタ16及びこれらを接続する配管12a,12bからなる。空気精製部2はガラス管内に粒状の活性炭8を充填した活性炭管4と、ガラス管内に粒状のソーダライム10を充填したソーダライム管6とを備えている。好ましい形態では、活性炭管4、ソーダライム管6はそれぞれ3本ずつ設けられ、最上流部に活性炭管4、最下流部にソーダライム管6がくるように、チューブ13によって交互に直列に接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素を除去した空気を生成するための空気精製装置、及びその空気精製装置の用途の一例としてその空気精製装置を用いた全有機体炭素(TOC)測定装置に関するものである。二酸化炭素の含有量が少ない空気は、例えばTOC測定装置において採取した試料水中に存在する二酸化炭素(IC)を除去するための通気処理に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
TOC測定装置は、試料水に含まれる有機体炭素を酸化分解して二酸化炭素に変換した後、二酸化炭素濃度を計測することにより試料水の有機体炭素を測定する装置である。試料水には有機体炭素を酸化分解する前から二酸化炭素が含まれており、その状態で有機物炭素を二酸化炭素に変換して二酸化炭素濃度を計測すると、全炭素(TC)を測定することができる。TCとICを別個に測定し、(TC−IC)としてTOCを求めることもできる。一方、TOCを直接測定しようとすると、ICを除去しない場合は有機体炭素の測定値は実際よりも大きくなってしまう。そのため、TOC測定装置には試料水中に既存する二酸化炭素を除去するための二酸化炭素除去部が設けられている。
【0003】
二酸化炭素除去部において行なわれる処理としては、試料水中に通気ガス(スパージガス)を供給する通気処理が一般的である(例えば、特許文献1参照。)。そのような二酸化炭素除去部に通気ガスを供給するために、従来では、二酸化炭素やTOCの濃度が極低濃度の高純度空気ボンベを装置に接続するほか、空気を700℃〜900℃で燃焼してその空気中のTOCを二酸化炭素に変換し、その空気をソーダライムに通すことで二酸化炭素をソーダライムに吸収させて二酸化炭素やTOCが除去された空気を精製する空気精製装置を設置するなどしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−139229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、高純度空気ボンベを装置に接続すると、高純度空気ボンベの高純度空気がなくなったときにボンベを取り換えなければならず、ボンベを交換するための費用が必要となり維持コストが高くなるという問題があった。また、空気を燃焼後にソーダライムに通す空気精製装置は空気を燃焼させるための燃焼炉が必要なために設置面積が大きくなるという問題があった。
【0006】
そこで本発明は、設置面積が小さく維持コストも低減された空気精製装置及びTOC測定装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の空気精製装置は、粒状のソーダライムを導入口と排出口を有する容器内に充填したソーダライム管と粒状の活性炭を導入口と排出口を有する容器内に充填した活性炭管が直列に接続された空気精製部を備え、空気を空気精製部のソーダライム管及び活性炭管に通すことにより精製するものである。
【0008】
活性炭は主にTOCを吸着させ、ソーダライムは主に二酸化炭素を吸着させるものであり、これらを一定量のユニットにし、交互に接続させることで空気からTOCと二酸化炭素を効率的に除去することができる。
【0009】
ところで、活性炭にはソーダライムに比べて多くの二酸化炭素やTOCの量が吸着している。空気精製装置の最下流部に活性炭管があると、活性炭に初めから吸着していた二酸化炭素やTOCが精製された空気とともに出てくることがある。そこで、最下流部の管にはソーダライム管を接続しておくことが好ましい。そうすれば、活性炭管から出てきた二酸化炭素をソーダライムに吸着させることができる。
【0010】
1つのソーダライム管と1つの活性炭管とを直列に接続して空気精製部を構成した場合、ごく稀に空気中の二酸化炭素やTOCが空気精製部に吸着されずに出てくることがあり、その二酸化炭素やTOCを含んだ空気をTOC測定装置などの測定装置に供給すると、正確な測定ができなくなる。そこで、空気精製部はソーダライム管と活性炭管とをそれぞれ2つ以上備え、ソーダライム管と活性炭管が交互に接続されていることが好ましい。そうすれば、仮に上流側のソーダライム管や活性炭管で吸着さなかった二酸化炭素やTOCが存在したとしてもそれよりも下流側のソーダライム管や活性炭管に吸着させることができる。また、ソーダライム管と活性炭管を交互に接続することにより、活性炭表面の一部がアルカリ性となり酸性有機ガスや二酸化炭素の吸着能力が付加され、交互に接続することにより、効率的にTOCと二酸化炭素が除去される。
【0011】
本発明のTOC測定装置は、通気ガスを試料水中で通気することにより試料水中に含まれる二酸化炭素を通気ガスによる通気処理により除去する二酸化炭素除去部、二酸化炭素除去部を経た試料水中の有機体炭素を二酸化炭素に変換する酸化反応部及び酸化反応部を経た試料水中の二酸化炭素濃度を計測する二酸化炭素計測部を備えたものであって、二酸化炭素除去部に本発明の空気精製装置が接続されており、空気精製装置で精製された空気が通気ガスとして試料水中に供給されるように構成されているものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の空気精製装置は、粒状のソーダライムを導入口と排出口を有する容器内に充填したソーダライム管と粒状の活性炭を導入口と排出口を有する容器内に充填した活性炭管が直列に接続された空気精製部を備えたものであって、高純度空気ボンベや燃焼炉が不要であるので、従来の空気精製装置に比べて設置コストを安くすることができるとともに設置面積を小さくすることができる。
【0013】
本発明のTOC測定装置は本発明の空気精製装置を用いて二酸化炭素除去部に通気ガスを供給するものであるので、従来よりも小型でかつ維持コストを安くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】空気精製装置の一実施例を概略的に示す流路構成図である。
【図2】同実施例における空気精製部を詳細に示す平面図である。
【図3】TOC測定装置の一実施例を概略的に示す流路構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
空気精製装置の一実施例を図1及び図2により説明する。
空気精製装置1は、空気精製部2に空気を供給するポンプ14、空気精製部2の出口にフィルタ16及びこれらを接続する配管12a,12bからなる。空気精製部2は複数の二酸化炭素吸収管3がチューブ13により直列に接続されたものである。ポンプ14は空気を吸引して空気精製部2へ送り込むために設けられており、フィルタ16は空気精製部2を経た空気から固形物を除去するために設けられている。
【0016】
図2に示されているように、空気精製部2は二酸化炭素吸収管3として、例えば内径が10〜20mm、長さが15cm程度のガラス管内に直径が1〜3mm程度の粒状の活性炭8が20〜50g封入された活性炭管4と、例えば内径が10〜20mm、長さが15cm程度のガラス管内に直径が1〜3mm程度の粒状のソーダライム10が20〜50g封入されたソーダライム管6とを備えている。なお、活性炭8やソーダライム10を収容して活性炭管4、ソーダライム管6を構成する容器はガラス以外の無機素材からなるものであってもよい。
【0017】
活性炭管4及びソーダライム管6のガラス管は一端がキャップによって封止されるとともにその近傍の側壁に突起状の開口部が設けられている。ガラス管の他端にも突起状の開口部が設けられている。これらの突起状の開口部はチューブ13の穴に挿入され、チューブ13を介して他の活性炭管4又はソーダライム管6に接続されている。それぞれのガラス管で、上流側の開口部が導入口、下流側の開口部が排出口である。最上流側の活性炭管4の突起状開口部には配管12aが挿入され、配管12aはポンプ14に接続されている。最下流側のソーダライム管6の突起状開口部には配管12bが挿入され、配管12bはフィルタ16に接続されている。活性炭管4、ソーダライム管6はそれぞれ3本ずつ設けられ、最上流部に活性炭管4、最下流部にソーダライム管6がくるように、チューブ13によって交互に直列に接続されている。
【0018】
なお、活性炭管4に封入されている活性炭8は、なるべく活性炭管4に封入される前の段階で二酸化炭素やTOCの吸着量が少なくなるように、予め不活性ガス雰囲気下において500〜600℃で2〜3時間焼成したものを用いることが好ましい。また、ソーダライム管6に封入されているソーダライム10は水分率が2〜10%程度のものが好ましく、さらにはソーダライム管6に封入されるまでに空気に触れて二酸化炭素を吸着させないように、アルミパウチなどの無機素材によって包装されていたものを用いることが好ましい。
【0019】
この空気精製装置1において、活性炭管4は主に空気中の有機性ガスの吸着に作用し、ソーダライム管6は主に二酸化炭素の吸着に作用する。
【0020】
なお、この実施例では活性炭管4とソーダライム管6がそれぞれ3本ずつ設けられて交互に接続されているが、活性炭管4とソーダライム管6の数はそれぞれ1本、2本又は4本以上であってもよい。また、活性炭管4とソーダライム管6が必ずしも交互に接続されていなくともよい。例えば、活性炭管4−活性炭管4−ソーダライム管6―ソーダライム管6と接続したり、ソーダライム管6−活性炭管4−活性炭管4−ソーダライム管6と接続したりすることも可能である。なお、最下流の二酸化炭素吸収管3はソーダライム管6であることが好ましい。活性炭はソーダライムよりも初期の二酸化炭素吸着量が多いため、その二酸化炭素が精製された空気とともにこの空気精製装置1から出ていくのを防止するためである。
【0021】
この空気精製装置1は、ポンプ14により供給された空気を空気精製部2の活性炭管4及びソーダライム管6を順に通過させることにより、空気中に含まれる二酸化炭素やTOCが活性炭8及びソーダライム10に吸着して除去され、二酸化炭素やTOCの含有量の少ない空気を精製することができる。このように、複数本の活性炭管4及びソーダライム管6とポンプ14、フィルタ16だけで構成されている空気精製装置1は、燃焼炉で空気を燃焼した後でソーダライムによって二酸化炭素を吸収させる方式の空気精製装置よりも小型であるとともに安価であり、TOC測定装置などの装置の大きさを増大化させることなく組み込むことができる。
【0022】
上記の空気精製装置1を用いたTOC測定装置の一例を図3により説明する。
流路を切り替えるための切替えバルブ20は中央に設けられた共通のポートと、共通のポートに切り替えて接続される複数のポートを備えている。切替えバルブ20の共通のポートにはシリンジ14が接続され、共通のポートに切り替えて接続されるポートに試料流路22、酸供給流路24、ドレイン流路26、及び酸化反応部30へ繋がる測定流路28がそれぞれ接続されている。酸化反応部30はCO2検出部32に接続されている。シリンジ14は吸引・吐出口が上方を向き、プランジャ16が上下方向に摺動するように配置されている。シリンジ14内部の空間の下部に空気精製装置1が配管12を介して接続されており、プランジャ16が配管の接続位置よりも下方にあるときに空気精製装置1からの空気がシリンジ14内に供給されるように構成されている。
【0023】
このTOC測定装置では、まずシリンジ14と試料流路22とを接続するように切替えバルブ20を切り替え、プランジャ16を配管12との接続位置よりも下にある状態で、プランジャ16を吸引側へ駆動してシリンジ14内に試料を吸引する。次に、シリンジ14と酸供給流路24とを接続とを接続するように切替えバルブ20を切り替え、プランジャ16をさらに吸引側へ駆動してシリンジ14の試料に酸を加える。
【0024】
シリンジ14とドレイン流路26とを接続するように切替えバルブ20を切り替え、シリンジ14内に空気精製装置1から通気ガスを供給し、シリンジ14内で試料の通気処理を行なう。この通気処理により、試料中の二酸化炭素がドレイン流路26を介して外部へ排出される。通気処理が終了した後、シリンジ14内の上部の気相をドレイン流路26から排出するようにプランジャ16を吐出側へ駆動した後、シリンジ14と測定流路28とを接続するように切替えバルブ20を切り替え、プランジャ16をさらに吐出側へ駆動して試料を酸化反応部30に注入する。
【0025】
酸化反応部30を経た試料はCO2検出部32に導入される。酸化反応部30では注入された試料中の全有機体炭素が二酸化炭素に変換され、CO2検出部32では全有機体炭素から変換された二酸化炭素の濃度が検出される。試料における全有機体炭素濃度とCO2検出部32による二酸化炭素濃度の検出値は予め検量線により関係付けられており、試料の二酸化炭素濃度を検出することで全有機体炭素濃度を測定することができる。
【0026】
同実施例のTOC測定装置(<実施例>と表す)と、同実施例の空気精製装置1に代えて高純度空気ボンベを用いたTOC測定装置(<比較例>と表す)を用いて、純水を試料として空気精製装置1又は高純度空気ボンベの温度(精製カラム温度と表す)を7℃、25℃、40℃にしたときのTOC測定を1ヶ月(31日)間行なった結果を表1に示す。測定条件は、通気ガス供給流量100ml/min、1回の測定での通気時間90秒、試料量2000μLであった。
【0027】
【表1】

【0028】
表1に示されているように、精製カラム温度が7℃、25℃、40℃のいずれの場合においても、実施例と比較例の測定値との差が1ppb以下であった。TOC測定装置における測定値の許容誤差は純水測定時における1ppb以下であるとされており、上記の測定結果はいずれの精製カラム温度においてもこの条件を満たしている。このことから、実施例の空気精製装置1はTOC測定装置での1ヶ月間の使用にも耐えうる性能を有するものであることを確認することができた。
【符号の説明】
【0029】
1 空気精製装置
2 空気精製部
3 二酸化炭素吸収管
4 活性炭管
6 ソーダライム管
8 活性炭
10 ソーダライム
12 配管
13 チューブ
14 シリンジ
16 プランジャ
20 切替えバルブ
22 試料流路
24 酸供給流路
26 ドレイン流路
28 測定流路
30 酸化反応部
32 CO2検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状のソーダライムを導入口と排出口を有する容器内に充填したソーダライム管と粒状の活性炭を導入口と排出口を有する容器内に充填した活性炭管が直列に接続された空気精製部を備え、空気を前記空気精製部の前記ソーダライム管及び活性炭管に通すことにより精製する空気精製装置。
【請求項2】
前記空気精製部の最下流部にはソーダライム管が接続されている請求項1に記載の空気精製装置。
【請求項3】
前記空気精製部は前記ソーダライム管と活性炭管とをそれぞれ2つ以上備え、ソーダライム管と活性炭管が交互に接続されている請求項1又は2に記載の空気精製装置。
【請求項4】
通気ガスを試料水中で通気することにより試料水中に含まれる二酸化炭素を通気ガスによる通気処理により除去する二酸化炭素除去部、二酸化炭素除去部を経た試料水中の有機体炭素を二酸化炭素に変換する酸化反応部及び酸化反応部を経た試料水中の二酸化炭素濃度を計測する二酸化炭素計測部を備えた全有機体炭素測定装置において、
前記二酸化炭素除去部に請求項1から3のいずれか一項に記載の空気精製装置が接続されており、前記空気精製装置で精製された空気が前記通気ガスとして試料水中に供給される全有機体炭素測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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