説明

空気紡績装置及び紡績機

【課題】旋回室内での空気流の乱れを防止し、安定した品質の糸を生成できる空気紡績機を提供する。
【解決手段】空気紡績装置は、ノズルブロック34と、繊維案内部と、中空ガイド軸体20と、を備えている。ノズルブロック34には、旋回室が形成される。また、当該ノズルブロック34には、旋回室内に開口するノズル口27aから圧縮空気を噴射して前記旋回室内に旋回気流を発生させる1つ以上の空気噴射ノズル27が形成される。繊維案内部は、旋回室に連通する繊維導入孔を備える。中空ガイド軸体20は、旋回室で旋回された繊維が通る繊維通過路が内部に形成される。そして、中空ガイド軸体20の軸線を通る平面で切断したときの断面において、旋回室形成面82の断面輪郭のうち、繊維案内部側の部分は、曲線状の曲線部82aとして形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、空気紡績装置に関する。詳細には、空気紡績装置において、旋回気流を発生させる空間の形状に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、旋回気流を利用して繊維に撚りを与え、紡績糸を生成する空気紡績装置を備えた紡績機が知られている。
【0003】
このような紡績機は、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1に開示された紡績装置が備える紡績部は、空気噴射孔が形成されたノズルブロックを備えている。
【0004】
この特許文献1に記載されたノズルブロック近傍の構成の模式的な断面図を、図7に示す。図7に示すように、特許文献1が開示するノズルブロック100には、複数の空気噴射孔105と、透孔101と、が形成されている。前記透孔101は、円柱状空間部102と、円柱状空間部102に連接された第1円錐台状空間部103と、第1円錐台状空間部103に連接された第2円錐台状空間部104と、から構成されている。なお、図7の円柱状空間部102は、その内部に負圧を発生させて繊維導入孔106に吸引流を発生させ、繊維を吸引するための空間であるから、以下の説明では吸引減圧室と呼ぶ。また、図7の第2円錐台状空間部104は、反転繊維を旋回させるための空間であるから、以下の説明では旋回室と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−193337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、空気噴射孔からの噴出空気の作用により、ニードルホルダの繊維導入孔付近に吸引空気流を発生させ、繊維束を繊維導入孔に吸い込むことができる旨が記載されている。当該吸引空気流がスムーズに流れることにより、繊維束をスムーズに吸引することができる。この吸引空気流の流れを、図7に太線の矢印で概念的に示す。
【0007】
ところで、図7の旋回室104内で発生している旋回気流が吸引減圧室102側に流入してしまうと、前記吸引空気流の流れを阻害してしまい、繊維導入孔106で繊維束を吸引することができなくなってしまうという問題がある。この点、特許文献1の構成は、図7に示すように、吸引減圧室102の径よりも旋回室104の径の方が大きく形成されており、吸引減圧室102と旋回室104との間には段差が形成されている。この段差の部分が絞り部として機能するので、旋回室104内の旋回気流が吸引減圧室102側に流入しにくくなっている。これにより、吸引空気流の流れを阻害することが無いので、繊維束を繊維導入孔106に吸引することができると考えられる。
【0008】
一方で、特許文献1の構成のように吸引減圧室102と旋回室104との間に段差を設ける場合、旋回室104は、吸引減圧室102側(繊維導入孔106側)に角張った部分(図7の角部107)を有することになる。本願発明者は、特許文献1の構成では、吸引空気流の流れが角部107で渦を巻いてしまい(図7を参照のこと)、旋回室104で旋回される繊維の挙動が乱れることがあることを見出した。このように繊維の挙動が乱れると、巻付繊維(反転繊維)が芯繊維に対して不規則に巻き付いたり、巻付繊維の自由端(特許文献1で言うところの後端部)同士が絡まったりする結果、生成される糸の品質が不安定となってしまう。
【0009】
一方で、近年は紡績速度を向上させたいという要望があり、これに応えるため、旋回室104内の繊維の旋回速度を向上させるという課題があった。なお、従来の空気紡績装置の一般的な紡績速度は、250m/minから400m/min程度であった。上記の課題を解決する手段としては、旋回室104の径を小さくし、旋回気流の旋回半径を小さくすることにより、繊維の旋回速度を向上させることが考えられる。
【0010】
しかし、旋回室104の径を小さくすると、吸引空気流の乱れが発生している領域(角部107の近傍)と、巻付繊維が旋回している領域(スピンドル108の周囲)とが接近するため、吸引空気流の乱れが旋回繊維に与える影響が更に増大してしまう。従って、図7の構成では、糸品質を保ちながら旋回室の径を小さくすることができなかったので、旋回気流の旋回速度を向上させるという課題を解決することができなかった。即ち、従来の空気紡績装置では、紡績速度を向上させたいというニーズに応えることができなかった。
【0011】
なお、吸引空気流の乱れが巻付繊維の旋回に影響を及ぼさないようにする対策として、旋回室104を径方向において十分に大きく形成することが考えられる。このように構成すれば、吸引空気流の乱れが発生している領域(角部107の近傍)と、巻付繊維が旋回している領域(スピンドル108の周囲)とを離しておくことができるので、吸引空気流の乱れが巻付繊維の旋回に与える影響を小さくすることができる。
【0012】
しかし、旋回室104の径を大きくすると、旋回気流の旋回半径が大きくなる結果、巻付繊維の旋回速度が遅くなってしまうので、紡績速度を向上させたいというニーズに応えることができない。また、空気紡績装置の設置スペースを考えると、吸引空気流の乱れを排除できる程の十分な大きさの旋回室104を形成することは困難である。また、旋回室104の径を大きくし過ぎると、旋回室104内で旋回流を維持するためには旋回室104へと供給する空気の量を多くしなければならず、エネルギ効率が悪くなってしまうという問題もある。
【0013】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、旋回室内での空気流の乱れを防止し、安定した品質の糸を生成できる空気紡績機を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0014】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0015】
本発明の第1の観点によれば、繊維束の繊維を旋回気流により旋回させて紡績糸を製造する空気紡績装置であって、以下のように構成された空気紡績装置が提供される。即ち、この空気紡績装置は、ノズルブロックと、繊維案内部と、スピンドルと、を備える。前記ノズルブロックには、旋回室が形成される。また、当該ノズルブロックには、前記旋回室内に開口するノズル口から圧縮空気を噴射して前記旋回室内に前記旋回気流を発生させる1つ以上の空気噴射ノズルが形成される。前記繊維案内部は、前記旋回室に連通する繊維導入孔を備える。前記スピンドルは、前記旋回室で旋回された繊維が通る繊維通過路が内部に形成される。そして、前記スピンドルの軸線を通る平面で切断したときの断面において、前記旋回室を形成する前記ノズルブロックの内側壁面の断面輪郭のうち、少なくとも前記繊維案内部側の部分は、実質的に曲線状に形成される。
【0016】
これにより、旋回室において、繊維案内部側の壁面に角張った部分が無いように構成することができるので、旋回室内で空気流が乱れることを防止し、当該空気流をスムーズに流すことができる。結果として、巻付繊維が芯繊維に対して不規則に巻き付いたり、巻付繊維の自由端同士が絡まってしまったりすることを防止できるので、生成される糸の品質を安定させることができる。また、上記のように空気流の乱れを防止できるので、旋回室の径を小さくした場合であっても、巻付繊維の挙動に悪影響が出るおそれが少ない。従って、上記の構成によれば、旋回室を小さくすることで繊維の旋回速度を向上させ、糸品質を保ちつつ高速紡績を実現することが可能である。
【0017】
前記の空気紡績装置は、以下のように構成されることが好ましい。即ち前記旋回室を形成する前記ノズルブロックの内側壁面のうち、前記断面輪郭が前記曲線状の部分は、当該断面輪郭が円弧状である。
【0018】
これにより、空気紡績装置の旋回室内における旋回気流の乱れを良好に抑圧することができる。
【0019】
前記の空気紡績装置においては、前記ノズル口の開口輪郭の少なくとも一部は、前記旋回室を形成する前記ノズルブロックの内側壁面のうち、前記断面輪郭が前記曲線状の部分に形成されることが好ましい。
【0020】
このように、断面輪郭が曲線状の壁面にノズル口の少なくとも一部を形成することにより、当該ノズル口の開口輪郭の楕円周長を長くすることができる。これにより、ノズル口から旋回室内へと広がるように圧縮空気を噴射することができ、広い範囲で繊維に旋回気流を当てることができるので、旋回室内で繊維を強い力で効率良く旋回させることができる。
【0021】
前記の空気紡績装置においては、前記ノズル口の開口輪郭の全部が、前記旋回室を形成する前記ノズルブロックの内側壁面のうち、前記断面輪郭が前記曲線状の部分に形成されていることが好ましい。
【0022】
即ち、従来の空気紡績装置のように旋回室の壁面が角張っている場合において、仮に当該角張っている部分にまたがるようにしてノズル口を形成するとすれば、形成位置がわずかにズレただけでノズル口の形状が大きく変わり、空気の流れも変わってしまう。従って、角張った壁面にノズル口を形成する場合、生成される糸の品質は加工精度の影響を受け易い。この点上記のように、ノズル口の全部を、断面輪郭が曲線状の壁面に形成した場合は、当該ノズル口を形成する位置が多少ズレても、噴射ノズルの出口形状はあまり変わらない。即ち、上記のように構成することにより、加工精度によらず、生成される糸の品質を保つことができる。
【0023】
上記の空気紡績装置は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、この空気紡績装置は、吸引減圧室が形成された吸引減圧室部を備える。前記吸引減圧室及び前記旋回室は、略円柱形又は略円筒形である。前記吸引減圧室の半径は前記旋回室の半径よりも小さい。そして、前記旋回室の半径と前記吸引減圧室の半径との差は、前記空気噴射ノズルの直径以下である。
【0024】
即ち、従来の空気紡績装置では、旋回室内で空気の乱れが発生していたので、ノズル口から噴射された圧縮空気が旋回室内で膨張してしまい、当該圧縮空気が旋回室から吸引減圧室に流れて行き易かった。これを防ぐため、従来の空気紡績装置では、旋回室と吸引減圧室との半径の差をある程度大きくしなければならず、空気紡績装置が大型化していた。この点、本発明の構成によれば、旋回室内で空気をスムーズに流すことができるので、ノズル口から噴射される圧縮空気が旋回室内で膨張しくい。この結果、当該圧縮空気が吸引減圧室側に流れて行きにくくなる。従って、従来の空気紡績装置のように旋回室と吸引減圧室との半径の差をある程度大きくする必要が無くなり、例えば上記のように、当該旋回室と吸引減圧室との半径の差を空気噴射ノズルの直径以下とすることができる。このように旋回室を小さくすることができるので、空気紡績装置の小型化を実現することができる。
【0025】
本発明の第2の観点によれば、上記の空気紡績装置と、前記空気紡績装置により製造された紡績糸をパッケージへと巻き取る巻取装置と、を備えた紡績機が提供される。
【0026】
これにより、安定した品質で高速にパッケージを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係る精紡機の全体的な構成を示す正面図。
【図2】精紡機の縦断面図。
【図3】空気紡績装置の模式的な縦断面図。
【図4】ノズルブロックの縦断面図。
【図5】紡績中の様子を示す縦断面図。
【図6】別の実施形態に係る空気紡績装置の模式的な縦断面図。
【図7】従来の空気紡績装置の構成を示す縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、図面を参照して発明の第1実施形態を説明する。図1は本実施形態に係る精紡機1の全体的な構成を示した正面図、図2は精紡機1の縦断面図である。
【0029】
図1に示す紡績機としての精紡機1は、並設された多数の紡績ユニット2を備えている。この精紡機1は、糸継台車3と、ブロアボックス4と、原動機ボックス5と、を備えている。前記糸継台車3は、紡績ユニット2が並べられる方向に走行可能な構成となっている。
【0030】
図1に示すように、各紡績ユニット2は、ドラフト装置7と、空気紡績装置9と、糸送り装置11と、巻取装置12と、を主要な構成として備えている。ドラフト装置7は精紡機1のフレーム6の上部に設けられており、空気紡績装置9は、このドラフト装置7から送られてくる繊維束8を紡績して紡績糸10を生成するように構成されている。空気紡績装置9から送り出された紡績糸10は糸送り装置11で送られた後、巻取装置12によって巻き取られ、パッケージ45を形成する。図1では、巻取装置12はチーズ巻パッケージを形成するように図示されているが、コーン巻パッケージを形成するように構成されていても良い。なお、以下の説明において、単に「上流側」「下流側」と言った場合は、繊維束8(又は紡績糸10)の送り方向における上流側又は下流側を指す。
【0031】
ドラフト装置7は、スライバ13を延伸して繊維束8にするためのものである。このドラフト装置7は図2に示すように、バックローラ14、サードローラ15、エプロンベルト16を装架したミドルローラ17及びフロントローラ18の4つのローラを備えている。
【0032】
フレーム6の適宜位置には電動モータからなるドラフトモータ31が設置されており、前記バックローラ14とサードローラ15は、このドラフトモータ31にベルトを介して連結されている。このドラフトモータ31の駆動及び停止は、紡績ユニット2が備えるユニットコントローラによって制御される。なお、本実施形態の精紡機1では、ミドルローラ17やフロントローラ18を駆動するための電動モータもフレーム6に設けられているが、ここでは図示を省略する。
【0033】
空気紡績装置9は、図2に示すように、2つに分割されたブロック、即ち第1ブロック91及び第2ブロック92により構成されている。第2ブロック92は、第1ブロック91よりも下流側に設けられている。
【0034】
また糸送り装置11は、精紡機1のフレーム6に支持されたデリベリローラ39と、デリベリローラ39に接触するように配置されるニップローラ40と、を備える。この構成で、空気紡績装置9から送出された紡績糸10をデリベリローラ39とニップローラ40との間に挟んでデリベリローラ39を図示しない電動モータで回転駆動することにより、紡績糸10を巻取装置12側へ送ることができる。
【0035】
糸継台車3は、図1及び図2に示すように、スプライサ(糸継装置)43と、サクションパイプ44と、サクションマウス46と、を備えている。糸継台車3は図1に示すように、精紡機1本体のフレーム6に設けられたレール41上を走行するように設けられている。ある紡績ユニット2で糸切れや糸切断が発生すると、糸継台車3は当該紡績ユニット2まで走行し、停止する。サクションパイプ44は、軸を中心に上下方向に回動しながら、空気紡績装置9から送出される糸端を吸い込みつつ捕捉してスプライサ43へ案内する。サクションマウス46は、軸を中心に上下方向に回動しながら、前記巻取装置12に回転自在に支持されたパッケージ45から糸端を吸引しつつ捕捉してスプライサ43へ案内する。スプライサ43は、案内された糸端同士の糸継ぎを行うように構成されている。
【0036】
次に、図3を参照して、空気紡績装置9の構成について詳しく説明する。図3は、中空ガイド軸体20の軸線を通る平面で切断したときの、空気紡績装置9の模式的な縦断面図である。
【0037】
図3に示すように、第1ブロック91は、ノズル部ケーシング53と、当該ノズル部ケーシング53に保持されたノズルブロック34及び繊維案内部23と、を備えている。また第2ブロック92は、中空ガイド軸体(スピンドル)20と、軸体保持部材59と、を備えている。
【0038】
繊維案内部23には繊維導入孔21が形成されており、この繊維導入孔21に、上流側のドラフト装置7でドラフトされた繊維束8を導入するように構成されている。また、繊維案内部23は、繊維導入孔21から導入された繊維束8の流路上に配置されたニードル22を保持している。
【0039】
繊維案内部23よりも下流側の位置には、ノズルブロック(吸引減圧室部、旋回室部)34が配置されている。このノズルブロック34の詳細な断面図を、図4に示す。図4は、図3と同じ平面(中空ガイド軸体20の軸線を通る平面)で切断したノズルブロック34の縦断面図である。図4に示すように、このノズルブロック34には、透孔70が形成されている。この透孔70は、中空ガイド軸体20の中心軸線90と直交する平面(繊維送り方向と直交する平面)で切断したときの断面形状が円形となるように形成されている。
【0040】
図3に示すように、中空ガイド軸体20は、軸体保持部材59によって保持された円筒体56を備えている。この円筒体56の一端には、テーパ状の先端部24が形成されている。また、円筒体56の軸心部には、繊維通過路29が形成されている。なお、この繊維通過路29の下流側端部は出口孔(図略)となっている。繊維通過路29を通過した繊維束8ないし紡績糸10は、空気紡績装置9の下流側に配置された糸送り装置11によって、前記出口孔から空気紡績装置9の外側に向かって送り出される。
【0041】
中空ガイド軸体20の先端部24は、ノズルブロック34から見て繊維案内部23の反対側から、当該ノズルブロック34に形成された透孔70の内部に軸線を一致させつつ挿入される。また、中空ガイド軸体20の先端部24の外周面と、ノズルブロック34の内側壁面(透孔70の壁面)と、の間には、空気流が通過できるように所定の間隔が空けられている。
【0042】
ノズルブロック34には、繊維束8の走行方向上流側から順に、吸引減圧室71と、旋回室72と、テーパ室73と、が形成されている。より厳密に言うと、中空ガイド軸体20の先端部24の外周面と、ノズルブロック34の内側壁面(透孔70の壁面)と、によって、略円柱状の吸引減圧室71と、略円筒状の旋回室72と、略テーパ筒状のテーパ室73と、が形成される。なお、吸引減圧室71は略円柱状としたが、実際には図3に示すように、中空ガイド軸体20の先端部24が、吸引減圧室71の下流側から当該吸引減圧室71の内部に若干挿入されている。
【0043】
図3に示すように、吸引減圧室71と繊維案内部23の繊維導入孔21とは、互いに連通している。また、旋回室72と吸引減圧室71とは、互いに連通している。従って、前記旋回室72は、吸引減圧室71を介して繊維導入孔21に連通していると言うことができる。また、テーパ室73と旋回室72は、互いに連通している。
【0044】
一方、ノズルブロック34の周囲には、供給エア貯留室61が形成されている。また、ノズル部ケーシング53には、図略の圧空源に接続された圧縮空気供給パイプ65が接続されている。これにより、前記圧空源から前記供給エア貯留室61に対して圧縮空気を供給できるようになっている。
【0045】
またノズルブロック34には、旋回室72と供給エア貯留室61とを連通する1つ以上の空気噴射ノズル27が形成される。なお、本実施形態において、空気噴射ノズル27は4つ形成されているが、空気噴射ノズル27が形成される数はこれに限定されない。これら空気噴射ノズル27は、ノズルブロック34に穿設された細長い丸孔として構成されている。供給エア貯留室61に供給された圧縮空気は、空気噴射ノズル27を介して旋回室72内に噴射される。これにより、旋回室72内には、中空ガイド軸体20の軸線周り一方向に旋回するように流れる旋回気流が発生する。
【0046】
上記のような旋回気流を旋回室72内に発生させるため、空気噴射ノズル27は、その長手方向が、平面視で旋回室72の略接線方向に向くように形成されている。なお、図3においては、空気噴射ノズル27の長手方向があたかも旋回室72の中心軸線と同じ平面内にあるように描かれているが、これは図面を分かり易くするために簡略的(概念的)に表現したものであって、空気噴射ノズル27は実際には上記のように旋回室72の接線方向に形成されている。従って、より正確に空気噴射ノズル27を示す断面図は図4のようになる。
【0047】
また、この空気噴射ノズル27は、図3及び図4に示すように、その長手方向が下流側に若干傾斜して形成されている。これにより、空気噴射ノズル27から噴射される圧縮空気を、下流側に向かって流すことができる。
【0048】
以上の構成で、空気噴射ノズル27から噴射される圧縮空気は、旋回室72内において旋回しつつ繊維束8の走行方向下流側に向かって流れる。即ち、旋回室72内に、下流側に向かって流れる螺旋状の旋回気流を発生させることができる。
【0049】
また、ノズル部ケーシング53には空気排出用空間55が形成されている。この空気排出用空間55は、テーパ室73と互いに連通している。この空気排出用空間55には、前記ブロアボックス4に配置されている図略の負圧源(吸引手段)が配管60を通じて接続されている。
【0050】
次に、以上のように構成された空気紡績装置9において、繊維導入孔21に繊維束8を導入する時の様子について説明する。
【0051】
まず、空気紡績装置9内に繊維束8が導入されていない状態(図3の状態)で、図略の圧空源から供給エア貯留室61に圧縮空気を供給する。供給エア貯留室61に供給された圧縮空気は、空気噴射ノズル27を介して旋回室72内に向かって噴射される。これによって旋回室72内に発生した旋回気流は、当該旋回室72内を螺旋状に下流側に流れた後、テーパ室73に流入し、その流速を弱めつつ更に下流側に流れ、最終的に空気排出用空間55から排出される。
【0052】
一方、上記のように旋回室72内で下流側に向かう空気の流れが発生することにより、当該旋回室72の上流側に隣接している吸引減圧室71内が減圧され、繊維導入孔21に吸引空気流が発生する。この吸引空気流は、繊維導入孔21から吸引減圧室71に流入した後、一部が繊維通過路29内に流入して下流側に流れ、残りは旋回室72に流入して旋回気流と合流する。
【0053】
この状態でドラフト装置7から繊維束8を空気紡績装置9側へ送ると、当該繊維束8が繊維導入孔21から吸引され、吸引減圧室71内に案内される。吸引減圧室71内に案内された繊維束8は、繊維通過路29内に流入する吸引空気流の流れに乗って当該繊維通過路29を下流側に案内され、図略の出口孔から空気紡績装置9の外部に送られる。
【0054】
空気紡績装置9の前記出口孔から出た繊維束8ないし紡績糸10の端部は、糸継台車3が備えるサクションパイプ44によって捕捉され、スプライサ43においてパッケージ45側の糸端と糸継ぎされる。これにより、繊維束8ないし紡績糸10は、フロントローラ18から繊維導入孔21、吸引減圧室71及び繊維通過路29を通じて糸送り装置11に至る連続状態となる。この状態で、糸送り装置11により下流側への送り力が付与されることにより、糸に張力が付与されて空気紡績装置9から次々に紡績糸10が引き出されていく。
【0055】
次に、本実施形態の空気紡績装置9において、繊維束8に撚りが加えられて紡績糸10が生成される様子について、図5を参照して説明する。なお、図5には、空気紡績装置9内の空気の流れを、太線の矢印で概念的に示している。
【0056】
繊維束8は、多数の繊維から構成されている。それぞれの繊維は、繊維導入孔21から吸引減圧室71内に導入される。各繊維の下流側の端部は、繊維導入孔21から繊維通過路29内に向かって流れる吸引空気流の流れに乗って当該繊維通過路29内に導入される。これにより、吸引減圧室71内に導入された繊維の少なくとも一部は、繊維導入孔21と繊維通過路29との間で連続状態となる。この状態の繊維を、芯繊維8aと呼ぶ。
【0057】
芯繊維8aは、旋回室72内で旋回する反転繊維8b(後述)に連れられて加撚される。なお、この撚りは上流側(フロントローラ18側)へ伝播しようとするが、その伝播はニードル22によって阻止されるので、フロントローラ18から送り出される繊維束8が上記の撚りによって撚り込まれることがない。このように、ニードル22は撚り伝播防止手段をなしている。
【0058】
吸引減圧室71に導入されてくる各繊維の下流側端部は、加撚されつつある芯繊維8aに撚り込まれている。しかし、各繊維は、その全体が芯繊維8aに撚り込まれている訳ではなく、上流側端部は自由端となっている。
【0059】
各繊維の前記自由端(上流側端部)が吸引減圧室71内に入ってくると、当該自由端は、芯繊維8aから分離して開繊されるとともに、吸引減圧室71から旋回室72に流入する吸引空気流によって旋回室72側(下流側)に流される。このように、繊維の上流側端部が下流側に流されることにより、当該上流側端部の向きが「反転」する。この状態の繊維を反転繊維8bと呼ぶ。なお、芯繊維8aであった繊維も、その上流側端部が吸引減圧室71内に入ってくると、反転繊維8bになり得る。
【0060】
反転繊維8bの自由端は、旋回室72に導入され、下流側に向かって螺旋状に流れる旋回気流の影響を受ける。これにより、反転繊維8bは、図5に示すように、中空ガイド軸体20の先端部24の表面に沿うようにしつつ、当該中空ガイド軸体20の先端部24の周囲を旋回する。従って、反転繊維8bの自由端は、繊維通過路29内部を通っている芯繊維8aの周囲を振り回されることになる。これにより、反転繊維8bは、芯繊維8aの周囲に順次巻き付いて巻付繊維となる。芯繊維8aは繊維通過路29内を下流側に送られているので、これに連れられて、当該芯繊維8aに巻き付いた巻付繊維は繊維通過路29内に順次引きずり込まれる。
【0061】
このようにして、実撚り状の紡績糸10が生成される。紡績糸10は繊維通過路29内を進み、前記出口孔(図略)から糸送り装置11に向かって送り出される。
【0062】
そして、図1に示す糸送り装置11を経て巻取装置12に紡績糸10が巻き取られることにより、最終的にパッケージ45が形成される。なお、上記の開繊及び加撚時に切れるなどして紡績糸10に撚り込まれなかった繊維は、空気流の流れに乗って旋回室72からテーパ室73を経て空気排出用空間55へ送られ、負圧源の吸引によって、配管60を経由して排出される。
【0063】
次に、本実施形態の空気紡績装置9におけるノズルブロック34の構成について詳しく説明する。
【0064】
まず、旋回室72を形成している旋回室形成面82の形状について説明する。
【0065】
図4に示すように、ノズルブロック34の内側壁面(透孔70の壁面)のうち、吸引減圧室71を形成する部分を吸引減圧室形成面81、旋回室72を形成する部分を旋回室形成面82とする。吸引減圧室形成面81は、吸引減圧室71内に面している。また、旋回室形成面82は、旋回室72内に面している。
【0066】
本実施形態におけるノズルブロック34において、中空ガイド軸体20の中心軸線を通る平面で切断したときの断面図(図4)において、旋回室形成面82の上流側(繊維案内部23側)の部分は、その断面輪郭が曲線状となる曲線部82aであり、旋回室形成面82の下流側の部分は、その断面輪郭が直線状となる直線部82bとなっている。
【0067】
本実施形態の空気紡績装置9において、吸引減圧室形成面81の半径R1は、旋回室形成面82の半径R2(正確に言えば、直線部82bの半径)よりも小さくなるように形成されている。言い換えれば、吸引減圧室71の半径(吸引減圧室径R1)は、旋回室72の半径(旋回室径R2)よりも小さくなるよう形成されている。このように、旋回室72よりも吸引減圧室71の径を小さくすることにより、旋回室72内に噴出された圧縮空気が膨張した場合であっても、当該圧縮空気が吸引減圧室71側へ流れにくくすることができる。これにより、吸引空気流を下流側に向かってスムーズに流すことができるので、繊維導入孔21において繊維束8を吸引し、スムーズに吸引減圧室71内に案内することができる。
【0068】
また、図4に示すように、吸引減圧室形成面81の下流側端部と、旋回室形成面82の直線部82bの上流側端部は、曲線部82aによって接続されている。そして、中空ガイド軸体20の中心軸線を通る平面で切断したときの断面図(図4の図)において、曲線部82aと直線部82bの断面輪郭は、滑らかに接続している。このように、旋回室形成面82の上流側(繊維案内部23側)の断面輪郭を曲線状とすることで、旋回室72に角張った部分がないように構成されている。これにより、旋回室内に角張った部分があった従来技術(図7)と比べ、吸引空気流をスムーズに下流側に向かって流すことが可能であり、旋回室72内における空気流の乱れを低減することができる。従って、旋回室72内での反転繊維8bの挙動を安定させることができるので、反転繊維8bの自由端同士の絡み付き等を防止できる。また、このように旋回室72内の空気流の乱れを低減することにより、旋回室72内に噴出された圧縮空気が当該旋回室72内で膨張しにくくすることができる。
【0069】
また、本実施形態において、曲線部82aの断面輪郭は、具体的には、円弧状となっている。このように旋回室72の断面輪郭を円弧状とすることにより、旋回室72内において空気流をスムーズに流すことができる。
【0070】
次に、本実施形態における空気噴射ノズル27について説明する。
【0071】
前述のように、空気噴射ノズル27は、その長手方向が旋回室72の接線方向に向くように形成されている。従って、空気噴射ノズル27が旋回室形成面82に開口した部分(ノズル口27a)の開口輪郭は、図4に示すように略楕円形となる。本実施形態では、このノズル口27aの開口輪郭の周長を、楕円周長と呼ぶ。
【0072】
本実施形態の空気紡績装置9において、空気噴射ノズル27のノズル口27aは、図4に示すように、旋回室形成面82の曲線部82aに形成されている。これにより、例えば直線部82bにノズル口27aを形成する場合と比べて、ノズル口の楕円周長を長くすることができるので、圧縮空気が下流側に向かって広がるようにして噴出することができる。これにより、旋回気流を広い範囲で繊維に作用させることができるので、強い力で効率良く繊維を旋回させることができる。また、このように圧縮空気を下流側に向かって広がるように噴出することができるので、当該圧縮空気が旋回室72内で膨張した場合であっても、当該圧縮空気が上流側(吸引減圧室71側)に向かって流れて行きにくい。これにより、吸引空気流を下流側に向かって更にスムーズに流すことができる。
【0073】
また、従来技術(図7)は、空気噴射孔105のノズル口は、角張った部分(符号109)を跨ぐように形成されているので、ノズル口の形成位置が若干ズレただけで、ノズル口の開口形状が大きく変わってしまうという問題があった。従って、図7の従来技術の構成は、糸品質が加工精度の影響を受け易いという欠点がある。この点、本実施形態においては、ノズル口27aは、その開口輪郭の全てが、旋回室形成面82の曲線部82aに形成されている。即ち、本実施形態では、ノズル口27aは、壁面が角張っている部分を跨がないような位置に形成されている。この本実施形態の構成によれば、ノズル口27aが形成される位置が若干ズレたとしても、当該ノズル口27aの開口輪郭の形はあまり変わらないので、空気噴射ノズル27の加工精度とは独立して紡績糸10の品質を保つことができる。
【0074】
ところで、従来の空気紡績装置では、旋回室内の旋回気流が吸引減圧室に流入しないようにするため、旋回室の外周半径と吸引減圧室の外周半径の差が、ある程度より大きくなるように設計していた。ここで、「ある程度」とは、例えば、空気噴射ノズルの穿孔直径である。というのは、旋回室と吸引減圧室の外周半径の差が空気噴射ノズルの穿孔直径以下となると、空気噴射ノズルから噴射される圧縮空気が、旋回室と吸引減圧室の間の段差から「ハミ出して」しまうので、当該圧縮空気が膨張した場合に吸引減圧室側に流れてしまい易いと考えられるからである。
【0075】
しかしながら、本実施形態では、旋回室形成面82と吸引減圧室形成面81の半径の差(即ち、旋回室径R2−吸引減圧室径R1)を、空気噴射ノズル27の穿孔直径D1以下としている。即ち、本実施形態の空気紡績装置9は、従来の構成と比べて吸引空気流を下流側に向かってスムーズに流すことができるため、旋回室72内に噴出された圧縮空気が膨張しにくい。従って、旋回室72内の旋回気流が吸引減圧室71内に流入しにくくなっている。従って、旋回室径R2と吸引減圧室径R1の差(R2−R1)を従来よりも小さくすることができるのである。これにより、従来よりも旋回室72の半径R2を小さくすることができるので、旋回室72内における反転繊維8bの旋回速度を向上させて高速紡績に対応することができる。なお、高速紡績とは、従来の紡績速度が250m/minから400m/minであったのに対して、紡績速度を500m/minから600m/min程度とした紡績のことである。
【0076】
以上で説明したように、本実施形態の空気紡績装置9は、以下のように構成されている。即ち、空気紡績装置9は、ノズルブロック34と、繊維案内部23と、中空ガイド軸体20と、を備えている。ノズルブロック34には、旋回室72が形成される。また、当該ノズルブロック34には、旋回室72内に開口するノズル口27aから圧縮空気を噴射して当該旋回室72内に旋回気流を発生させる1つ以上の空気噴射ノズル27が形成される。繊維案内部23は、旋回室72に連通する繊維導入孔21を備える。中空ガイド軸体20は、旋回室72で旋回された繊維が通る繊維通過路29が内部に形成される。そして、中空ガイド軸体20の軸線を通る平面で切断したときの断面において、旋回室形成面82の断面輪郭のうち、繊維案内部23側の部分は、曲線状の曲線部82aとして形成される。
【0077】
これにより、旋回室72において、繊維案内部23側の壁面に角張った部分が無いように構成することができるので、旋回室72内の空気流の乱れを防止し、当該空気流をスムーズに流すことができる。結果として、巻付繊維が芯繊維に対して不規則に巻き付いたり、巻付繊維の自由端同士が絡まってしまったりすることを防止できるので、生成される糸の品質を安定させることができる。また、上記のように空気流の乱れを防止できるので、旋回室72の径を小さくした場合であっても、巻付繊維の挙動に悪影響が出るおそれが少ない。従って、上記の構成によれば、旋回室72を小さくすることで繊維の旋回速度を向上させ、糸品質を保ちつつ高速紡績を実現することが可能である。
【0078】
また、本実施形態の空気紡績装置9は、以下のように構成されている。即ち、旋回室形成面82の前記断面輪郭が曲線状である曲線部82aの部分は、当該断面輪郭が円弧状である。
【0079】
これにより、旋回室72内の旋回気流の乱れを好適に抑圧することができる。
【0080】
また、本実施形態の空気紡績装置9において、ノズル口27aの開口輪郭の全部が、旋回室形成面82のうち断面輪郭が曲線状である曲線部82aの部分に形成されている。
【0081】
このように、断面輪郭が曲線状の壁面にノズル口27aを形成することにより、当該ノズル口27aの開口輪郭の楕円周長を長くすることができる。これにより、ノズル口27aから旋回室72内へと広がるように圧縮空気を噴射することができ、広い範囲で繊維に旋回気流を当てることができるので、旋回室72内で繊維を強い力で効率良く旋回させることができる。
【0082】
また上記のように、ノズル口27aの全部を、断面輪郭が曲線状の壁面に形成した場合は、当該ノズル口27aを形成する位置が多少ズレても、空気噴射ノズル27の出口形状はあまり変わらない。即ち、上記のように構成することにより、加工精度によらず、生成される糸の品質を保つことができる。
【0083】
また、本実施形態の空気紡績装置9は、以下のように構成されている。即ち、この空気紡績装置9において、ノズルブロック34には、吸引減圧室71が形成されている。吸引減圧室71及び旋回室72は、略円柱形又は略円筒形である。吸引減圧室径R1は、旋回室径R2よりも小さい。そして、旋回室径R2と吸引減圧室径R1との差は、空気紡績ノズルの穿孔直径D1以下である。
【0084】
即ち、本発明の構成によれば、旋回室72内の空気をスムーズに流すことができるので、ノズル口27aから噴射される圧縮空気が旋回室72内で膨張しにくい。この結果、当該圧縮空気が旋回室72から吸引減圧室71側に流れて行きにくい。従って、従来の空気紡績装置のように旋回室と吸引減圧室との半径の差をある程度大きくする必要が無くなり、例えば上記のように、当該旋回室72と吸引減圧室71との半径の差を空気噴射ノズル27の直径以下とすることができる。このように旋回室72を小さくすることができるので、空気紡績装置9の小型化を実現することができる。
【0085】
そして、本実施形態の精紡機1は、上記の空気紡績装置9と、当該空気紡績装置9により製造された紡績糸10をパッケージ45へと巻き取る巻取装置12と、を備えているので、安定した品質で高速にパッケージ45を形成することができる。
【0086】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、以下の説明において、上記第1実施形態と同一又は類似の構成については、上記第1実施形態と同一の符号を付して説明を省略する。
【0087】
この第2実施形態の精紡機が備える空気紡績装置9の構成を、図6に示す。図6に示すように、本実施形態の空気紡績装置9は、上記第1実施形態において繊維案内部23が備えていたニードル22を省略した構成である。このように、ニードル22は省略することもできる。なお、上記第1実施形態ではニードル22が撚り伝播防止手段としての役割を果たしていたが、本第2実施形態のようにニードル22を省略した場合、繊維案内部23の下流側端部が、上記撚り伝播防止手段としての役割を果たす。
【0088】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0089】
上記実施形態では、中空ガイド軸体20の先端部24が、吸引減圧室71の内部に若干挿入されている構成としたが、これに限らず、吸引減圧室71内に中空ガイド軸体20が挿入されない構成でも良い。
【0090】
上記実施形態では、旋回室72は略円筒状としたが、これに限らない。例えば図7の従来技術のように、旋回室を略テーパ筒状に形成しても良い。ただし、旋回室72は、その内部で旋回気流を発生させる必要があるので、繊維送り方向と直交する平面で切断したときの断面形状が円形であることが好ましい。
【0091】
また、吸引減圧室71の形状は略円柱状としたが、これに限らない。また、吸引減圧室71は、必ずしもその内部で旋回気流を発生させる必要がないので、繊維送り方向と直交する平面で切断したときの断面形状は円形でなくても良い。
【0092】
また、旋回室形成面82の曲線部82aは、中空ガイド軸体20の軸線を通る平面による断面輪郭が円弧状でなくても良く、断面輪郭が滑らかな曲線であればどのような形状であっても良い。要は、旋回室72の繊維案内部23側に角張った部分が無ければ良い。ただし、上記のように、曲線部82aの断面輪郭を円弧状とすることにより、旋回室72内の空気流の乱れを特に良好に抑圧することができる。
【0093】
また、旋回室形成面82は、その断面輪郭の全体が曲線状であっても良い。即ち、直線部82bは省略することもできる。
【0094】
なお、曲線部82aの断面輪郭が実質的に曲線と見なせる場合は、当該断面輪郭が細かい折れ線から構成されていても良い。例えば、曲線部82aの断面輪郭が、鈍角で複数回数折れ曲がった折れ線によって構成されていれば、実質的に曲線であるとみなすことができる。
【0095】
また、吸引減圧室71は省略することができる(旋回室72が繊維導入孔21と直接連通していても良い)。ただし、吸引減圧室71があることにより、繊維をスムーズに反転させることができるので、当該吸引減圧室71は省略しないほうが好ましい。
【0096】
上記実施形態では、空気噴射ノズル27のノズル口27aの開口輪郭の全部が曲線部82aに形成された構成としたが、この構成に限らない。例えば、ノズル口27aの開口輪郭の一部のみが曲線部82aに形成され、残りの一部は直線部82bに形成されていても良い。また、ノズル口27aの開口輪郭の全部が直線部82bに形成されていても良い。ただし、上述したように、ノズル口27aの開口輪郭の少なくとも一部を曲線部82aに形成すれば、ノズル口27aから広がるように空気を噴射できるため好適である。
【0097】
上記実施形態において、ノズルブロック34は、旋回室が形成された旋回室部と、吸引減圧室部と、を兼ねる構成としたが、吸引減圧室部と旋回室部を別の部材としても良い。
【0098】
上記実施形態では、空気排出用空間55はノズル部ケーシング53に形成されているとしたが、この空気排出用空間55は、軸体保持部材59に形成されていても良い。また、空気排出用空間55は、ノズル部ケーシング53と軸体保持部材59とが組み合わさることで形成されていても良い。
【0099】
また、上記実施形態では、繊維束8(又は紡績糸10)が上から下に向けて送られるタイプの精紡機1について説明したが、これに限らず、例えば下から上に向かうタイプの紡績機であっても良い。即ち、繊維束が格納されるケンスを機台下部に配置し、巻取装置が機台上部に配置されているような紡績機に、上記実施形態の空気紡績装置を備えるように構成しても良い。
【0100】
また、精紡機1は、糸送り装置11と巻取装置12との間に、糸貯留装置を設ける構成とすることもできる。この糸貯留装置というのは、簡単に説明すると、回転する糸貯留ローラの周囲に一時的に紡績糸10を巻き付けておくことにより、一定量の紡績糸10を当該糸貯留ローラ上に貯留可能に構成したものである。この糸貯留装置の機能は以下のようなものである。即ち、巻取装置12は、糸継台車3が糸継動作を行っている最中等は紡績糸10を巻き取ることができない。このような場合に、空気紡績装置9から次々と紡績糸10を送出すると、巻き取られない紡績糸10が弛んでしまう。そこで、巻取装置12と糸送り装置11との間に上記糸貯留装置を介在させておき、巻取装置12が糸を巻き取ることができない期間は紡績糸10を糸貯留ローラ上に貯留することにより、紡績糸10が弛んでしまうことを防止することができる。
【0101】
なお、上記の糸貯留装置は、紡績糸を巻き付けて回転する糸貯留ローラを備えているので、この糸貯留ローラを回転させることにより、当該糸貯留ローラに巻き付いている紡績糸10を下流側に向かって送り出すことができる。即ち、糸貯留装置は、紡績糸10を下流側に向かって送る機能を備えているということができる。従って、上記のように糸貯留装置を備えた精紡機1は、糸送り装置11を省略し、空気紡績装置9からの紡績糸10を糸貯留装置によって下流側へ搬送するように構成することもできる。
【符号の説明】
【0102】
1 精紡機(紡績機)
9 空気紡績装置
20 中空ガイド軸体(スピンドル)
21 繊維導入孔
23 繊維案内部
27 空気噴射ノズル
27a ノズル口
34 ノズルブロック
71 吸引減圧室
72 旋回室
81 吸引減圧室形成面
82 旋回室形成面
82a 曲線部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維束の繊維を旋回気流により旋回させて紡績糸を製造する空気紡績装置であって、
旋回室が形成されるとともに、前記旋回室内に開口するノズル口から圧縮空気を噴射して前記旋回室内に前記旋回気流を発生させる1つ以上の空気噴射ノズルが形成されたノズルブロックと、
前記旋回室に連通する繊維導入孔を備えた繊維案内部と、
前記旋回室で旋回された繊維が通る繊維通過路が内部に形成されたスピンドルと、
を備え、
前記スピンドルの軸線を通る平面で切断したときの断面において、前記旋回室を形成する前記ノズルブロックの内側壁面の断面輪郭のうち、少なくとも前記繊維案内部側の部分は、実質的に曲線状に形成されていることを特徴とする空気紡績装置。
【請求項2】
請求項1に記載の空気紡績装置であって、
前記旋回室を形成する前記ノズルブロックの内側壁面のうち、前記断面輪郭が前記曲線状の部分は、当該断面輪郭が円弧状であることを特徴とする空気紡績装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の空気紡績装置であって、
前記ノズル口の開口輪郭の少なくとも一部は、前記旋回室を形成する前記ノズルブロックの内側壁面のうち、前記断面輪郭が前記曲線状の部分に形成されていることを特徴とする空気紡績装置。
【請求項4】
請求項3に記載の空気紡績装置であって、
前記ノズル口の開口輪郭の全部が、前記旋回室を形成する前記ノズルブロックの内側壁面のうち、前記断面輪郭が前記曲線状の部分に形成されていることを特徴とする空気紡績装置。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載の空気紡績装置であって、
吸引減圧室が形成された吸引減圧室部を備え、
前記吸引減圧室及び前記旋回室は、略円柱形又は略円筒形であり、
前記吸引減圧室の半径は前記旋回室の半径よりも小さく、前記旋回室の半径と前記吸引減圧室の半径との差は、前記空気噴射ノズルの直径以下であることを特徴とする空気紡績装置。
【請求項6】
請求項1から5までの何れか一項に記載の空気紡績装置と、
前記空気紡績装置により製造された紡績糸をパッケージへと巻き取る巻取装置と、
を備えたことを特徴とする紡績機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−202312(P2011−202312A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70746(P2010−70746)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】