説明

空気紡績装置及び紡績機

【課題】巻付繊維の挙動を安定させて、紡績糸の糸強力を向上させることが可能な空気紡績装置を提供する。
【解決手段】空気紡績装置は、ノズルブロック34と、中空ガイド軸体20と、を備える。ノズルブロック34には、吸引減圧室と、当該吸引減圧室より周長が長い旋回室が形成される。また、このノズルブロック34には、旋回室に開口するノズル口27aから圧縮空気を噴射して旋回室内に旋回気流を発生させる1つ以上の空気噴射ノズル27が形成されている。中空ガイド軸体20の内部には、繊維通過路が形成される。また、中空ガイド軸体20は、繊維通過路の入口孔側の先端部が、吸引減圧室内に位置するように配置されている。そして、ノズル口27aは、中空ガイド軸体20の先端部よりも前記繊維束の送り方向下流側に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、空気紡績装置に関する。詳細には、空気紡績装置が備えるスピンドル及び空気噴射ノズルの配置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、旋回気流を利用して繊維に撚りを与え、紡績糸を生成する空気紡績装置を備えた紡績機が知られている。
【0003】
この種の空気紡績装置は、スピンドルと、空気流を噴射することで前記スピンドルの周囲に旋回気流を発生させる空気噴射ノズルと、を備えている。そして、前記旋回気流の作用を受けた繊維がスピンドルの周囲を旋回することにより、繊維に撚りが加えられ、紡績糸が生成される。
【0004】
このように、空気紡績装置では繊維が旋回気流によって加撚されて紡績糸となるので、当該紡績糸の品質は旋回気流の流れ方に大きく左右される。従って、従来から、旋回気流を発生させるための空気噴射ノズルの形成位置等や、周囲に旋回気流が流れるスピンドルの形状等に、工夫が凝らされてきた。
【0005】
例えば特許文献1が開示する紡績装置において、空気噴射ノズル(空気噴射孔)は、当該空気噴射ノズルから噴出された空気が、スピンドル(中空ガイド軸体)の上端角部に形成されているアール部の接線方向で、かつ、下方に噴出されるように設けられている。特許文献1は、この空気噴射ノズルから噴射された空気は、中空ガイド軸体の周囲を螺旋状に下方に向かって流れる旋回気流になるとしている。
【0006】
また特許文献2は、空気噴射ノズル(ノズル)の傾斜角を、繊維束の進行方向に対して70度以上90度以下の角度とする構成を開示している。特許文献2には、これにより、満足できる撚り数の糸が得られると記載されている。なお、当該特許文献2の図2を参照すると、空気噴射ノズルの噴出口はスピンドル先端よりも上流側に設定されている。
【0007】
また特許文献3は、空気噴射ノズル(エアーノズル)の出口が、反転室(吸引減圧室)に面していない(即ち、スピンドルの先端よりも下流側に前記出口が形成されている)構成を開示している。特許文献3は、これにより、空気噴射ノズルから噴射された空気が急速に拡散することが抑えられるとしている。また、特許文献3に開示された紡績機は、スピンドルを、その先端側から所定長さの範囲で円柱形(一定径)とすることにより、前記所定長さの範囲で旋回気流発生室の断面積が一定となるように構成されている。特許文献3は、これにより、全体に安定した旋回気流が与えられ、旋回気流を効果的に発生させることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−193337号公報
【特許文献2】特開平3−241021号公報
【特許文献3】特開2008−297687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1のように、スピンドルの上端角部に形成されているアール部の接線方向に空気を噴射する構成の場合、空気噴射ノズルからの噴出空気がスピンドルの先端に衝突してしまう可能性がある。このように空気が中空ガイド軸体に衝突してしまうと、高速で噴出された圧縮空気が急速に膨張してしまうため、圧縮空気の流速が低下して旋回気流を発生させることができない場合がある。その結果、反転繊維を芯繊維に巻き付けることができずに、紡績糸を生成できないことがあった。
【0010】
また、反転繊維の挙動を安定させるとともに当該反転繊維に適度な張力を与えるという観点からは、反転繊維がスピンドル先端に適度に押し付けられた状態となることが好ましい。しかしながら、特許文献2のようにノズルの噴出口がスピンドルの先端よりも上流側に設定されている場合、ノズルの傾斜角によっては、当該ノズルから噴出される圧縮空気の力でスピンドルの先端に反転繊維を押し付けることができない場合がある。即ち、特許文献2の構成では、ノズルの傾斜角が大きい場合(特に70°〜90°)に、スピンドルの先端よりも上流側を狙って圧縮空気が噴出されることになるため、当該圧縮空気によってスピンドルの先端に反転繊維を十分な力で押し付けることができない。このため、特許文献2の構成では、スピンドル先端から反転繊維が浮き上がった状態となってしまう場合がある。このように反転繊維がスピンドル先端から浮き上がってしまうと、加撚時に十分な張力を巻付繊維に与えることができない。また、浮き上がった反転繊維の端部同士が絡み付いてしまう等の問題も発生する。この結果、生成される紡績糸の糸強力が低下してしまうことがあった。
【0011】
一方で特許文献3は、エアーノズルの出口をスピンドルの先端よりも下流側に形成しているので、当該エアーノズルから噴射される圧縮空気の力によって、反転繊維が過度にスピンドルに押し付けられた状態になることがあり、反転繊維の回転を阻害してしまう。また、特許文献3の構成は、ノズルブロックとスピンドル間のスペースが一定となっているため、エアーノズルから噴射された圧縮空気による旋回気流は、下流側に向かって流れ易い。このため、旋回気流が下流側へ流れるに従い、旋回気流の下流側に向かう流れ(軸流成分)が増大し、反対に、当該旋回気流が反転繊維を旋回させる流れ(旋回成分)は急低下してしまう。結果として、反転繊維の回転速度が低下してしまう場合があった。
【0012】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、巻付繊維の挙動を安定させて、紡績糸の糸強力を向上させることが可能な空気紡績装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0013】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0014】
本発明の第1の観点によれば、繊維束の繊維を旋回気流により旋回させて紡績糸を製造する空気紡績装置であって、以下のように構成された空気紡績装置が提供される。即ち、この空気紡績装置は、吸引減圧室部と、旋回室部と、スピンドルと、を備える。前記吸引減圧室部には、吸引減圧室が形成される。前記旋回室部には、前記吸引減圧室より周長が長い旋回室が形成される。また、前記旋回室部には、前記旋回室内に開口するノズル口から圧縮空気を噴射して前記旋回室内に前記旋回気流を発生させる1つ以上の空気噴射ノズルが形成される。前記スピンドルの内部には、繊維通過路が形成される。また、前記スピンドルは、前記繊維通過路の入口側の先端部が、前記吸引減圧室内に位置するように配置されている。そして、前記ノズル口は、前記スピンドルの先端部よりも前記繊維束の送り方向下流側に設定されている。
【0015】
このように、ノズル口を旋回室側に形成し、スピンドルの先端が吸引減圧室内に位置するように配置することにより、ノズル口から噴出された圧縮空気がスピンドルの先端付近で膨張してしまうことを防止できるので、反転繊維がスピンドル先端で浮き上がることを防止できる。即ち、前記圧縮空気によって、スピンドル先端に対して反転繊維を安定的に押し付けることができる。また、吸引減圧室の周長を旋回室の周長よりも短くすることにより、膨張した圧縮空気が、旋回室から吸引減圧室側に向かって流入しにくくなる。これにより、吸引減圧室内における旋回気流の旋回成分が小さくなり、下流側に向かって穏やかに流れる空気流が吸引減圧室を支配するので、旋回室内における繊維の反転がスムーズになり、芯繊維に巻き付く繊維の適度な張力が安定的に得られる。その結果、生成される紡績糸の糸強力が向上する。また、反転繊維がスピンドル表面から浮き上がりにくいので、繊維の旋回速度を増大させた場合であっても安定した紡績が可能であり、従来の紡績装置(紡績速度は250m/minから400m/min程度)では実現できなかった、500m/minや600m/minの高速紡績に対応することができる。
【0016】
前記の空気紡績装置は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記スピンドルの軸線を通る平面で切断したときの断面において、前記旋回室を形成する前記旋回室部の内側壁面のうち、少なくとも前記吸引減圧室側の部分は、断面輪郭が実質的に曲線状に形成されている。
【0017】
これにより、旋回室において、吸引減圧室側の壁面に角張った部分が無いように構成することができるので、旋回室内で空気流が乱れることを防止し、当該空気流をスムーズに流すことができる。結果として、巻付繊維が芯繊維に対して不規則に巻き付いたり、巻付繊維の自由端同士が絡まってしまったりすることを防止できるので、生成される糸の品質を安定させることができる。
【0018】
前記の空気紡績装置において、前記ノズル口の開口輪郭の少なくとも一部は、前記旋回室を形成する前記旋回室部の内側壁面のうち、前記断面輪郭が前記曲線状の部分に形成されていることが好ましい。
【0019】
このように、断面輪郭が曲線状の壁面にノズル口の少なくとも一部を形成することにより、当該ノズル口の開口輪郭の楕円周長を長くすることができる。これにより、旋回室内に向けてノズル口から広がるように圧縮空気を噴射することができ、広い範囲で繊維に旋回気流を当てることができるので、繊維を強い力で効率良く旋回させることができる。また、従来の空気紡績装置のように旋回室の壁面が角張っている場合において、仮に当該角張っている部分にまたがるようにしてノズル口を形成するとすれば、形成位置がわずかにズレただけでノズル口の形状が大きく変わり、旋回室における空気の流れも変わってしまう。従って、角張った壁面にノズル口を形成する場合、生成される糸の品質は加工精度の影響を受け易い。この点上記のように、断面輪郭が曲線状の壁面にノズル口を形成した場合は、当該ノズル口を形成する位置が多少ズレても、噴射ノズルの出口形状はあまり変わらない。即ち、上記のように空気紡績装置を構成することにより、加工精度によらず、生成される糸の品質を保つことができる。
【0020】
前記の空気紡績装置は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記スピンドルの中心軸線に直交し、且つ前記空気噴射ノズルの長手方向に直交する方向で見たときに、前記空気噴射ノズルの長手方向は、前記スピンドルの中心軸線に対して70度以上80度以下の角度で傾斜している。
【0021】
これにより、旋回室内において、繊維に作用する旋回気流の、旋回方向の速度と、繊維送り方向の速度と、のバランスが、高速紡績時において特に良好となる。即ち、上記のように形成された空気噴射ノズルから噴射させる圧縮空気によって、繊維を繊維送り方向下流側に向かって引っ張る吸引流を発生させつつ、当該繊維を十分な速度で旋回させることができる。この結果、生成される紡績糸の強度を向上させることができる。更に、旋回室内において繊維に作用する空気の旋回成分が保たれているため、浮遊する短繊維が反転繊維に順次キャッチされて巻き付いていき、ファイバーロスを減少させることができる。
【0022】
前記の空気紡績装置において、前記旋回室の下流側端部の流路断面積は、当該旋回室の前記ノズル口が形成された位置における流路断面積よりも小さくなるように形成されていることが好ましい。
【0023】
これにより、旋回室内から旋回気流が排出されるまでの間、当該旋回気流を高速に保つことができる。即ち、旋回室内において繊維を高速で旋回させることができるため、高速紡績の場合であっても、生成される紡績糸の糸強力を向上させることができる。
【0024】
本発明の第2の観点によれば、上記の空気紡績装置と、前記空気紡績装置により製造された紡績糸をパッケージへと巻き取る巻取装置と、を備える紡績機が提供される。
【0025】
これにより、高速紡績の場合であっても、糸強力を向上させた紡績糸を生成できるので、高品質なパッケージを従来の紡績機よりも高速で効率良く形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態に係る精紡機の全体的な構成を示す正面図。
【図2】精紡機の縦断面図。
【図3】空気紡績装置の模式的な縦断面図。
【図4】ノズルブロックの縦断面図。
【図5】紡績中の様子を示す縦断面図。
【図6】別の実施形態に係る空気紡績装置の模式的な縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、図面を参照して発明の第1実施形態を説明する。図1は本実施形態に係る精紡機1の全体的な構成を示した正面図、図2は精紡機1の縦断面図である。
【0028】
図1に示す紡績機としての精紡機1は、並設された多数の紡績ユニット2を備えている。この精紡機1は、糸継台車3と、ブロアボックス4と、原動機ボックス5と、を備えている。前記糸継台車3は、紡績ユニット2が並べられる方向に走行可能な構成となっている。
【0029】
図1に示すように、各紡績ユニット2は、ドラフト装置7と、空気紡績装置9と、糸送り装置11と、巻取装置12と、を主要な構成として備えている。ドラフト装置7は精紡機1のフレーム6の上部に設けられており、空気紡績装置9は、このドラフト装置7から送られてくる繊維束8を紡績して紡績糸10を生成するように構成されている。空気紡績装置9から送り出された紡績糸10は糸送り装置11で送られた後、巻取装置12によって巻き取られ、パッケージ45を形成する。図1では、巻取装置12はチーズ巻パッケージを形成するように図示されているが、コーン巻パッケージを形成するように構成されていても良い。なお、以下の説明において、単に「上流側」「下流側」と言った場合は、繊維束8(又は紡績糸10)の送り方向における上流側又は下流側を指す。
【0030】
ドラフト装置7は、スライバ13を延伸して繊維束8にするためのものである。このドラフト装置7は図2に示すように、バックローラ14、サードローラ15、エプロンベルト16を装架したミドルローラ17及びフロントローラ18の4つのローラを備えている。
【0031】
フレーム6の適宜位置には電動モータからなるドラフトモータ31が設置されており、前記バックローラ14とサードローラ15は、このドラフトモータ31にベルトを介して連結されている。このドラフトモータ31の駆動及び停止は、紡績ユニット2が備えるユニットコントローラによって制御される。なお、本実施形態の精紡機1では、ミドルローラ17やフロントローラ18を駆動するための電動モータもフレーム6に設けられているが、ここでは図示を省略する。
【0032】
空気紡績装置9は、図2に示すように、2つに分割されたブロック、即ち第1ブロック91及び第2ブロック92により構成されている。第2ブロック92は、第1ブロック91よりも下流側に設けられている。
【0033】
また糸送り装置11は、精紡機1のフレーム6に支持されたデリベリローラ39と、デリベリローラ39に接触するように配置されるニップローラ40と、を備える。この構成で、空気紡績装置9から送出された紡績糸10をデリベリローラ39とニップローラ40との間に挟んでデリベリローラ39を図示しない電動モータで回転駆動することにより、紡績糸10を巻取装置12側へ送ることができる。
【0034】
糸継台車3は、図1及び図2に示すように、スプライサ(糸継装置)43と、サクションパイプ44と、サクションマウス46と、を備えている。糸継台車3は図1に示すように、精紡機1本体のフレーム6に設けられたレール41上を走行するように設けられている。ある紡績ユニット2で糸切れや糸切断が発生すると、糸継台車3は当該紡績ユニット2まで走行し、停止する。サクションパイプ44は、軸を中心に上下方向に回動しながら、空気紡績装置9から送出される糸端を吸い込みつつ捕捉してスプライサ43へ案内する。サクションマウス46は、軸を中心に上下方向に回動しながら、前記巻取装置12に回転自在に支持されたパッケージ45から糸端を吸引しつつ捕捉してスプライサ43へ案内する。スプライサ43は、案内された糸端同士の糸継ぎを行うように構成されている。
【0035】
次に、図3を参照して、空気紡績装置9の構成について詳しく説明する。図3は、中空ガイド軸体20の軸線を通る平面で切断したときの、空気紡績装置9の模式的な縦断面図である。
【0036】
図3に示すように、第1ブロック91は、ノズル部ケーシング53と、当該ノズル部ケーシング53に保持されたノズルブロック34及び繊維案内部23と、を備えている。また第2ブロック92は、中空ガイド軸体(スピンドル)20と、軸体保持部材59と、を備えている。
【0037】
繊維案内部23には繊維導入孔21が形成されており、この繊維導入孔21に、上流側のドラフト装置7でドラフトされた繊維束8を導入するように構成されている。また、繊維案内部23は、繊維導入孔21から導入された繊維束8の流路上に配置されたニードル22を保持している。
【0038】
繊維案内部23よりも下流側の位置には、ノズルブロック(吸引減圧室部、旋回室部)34が配置されている。このノズルブロック34の詳細な断面図を、図4に示す。図4は、図3と同じ平面(中空ガイド軸体20の軸線を通る平面)で切断したノズルブロック34の縦断面図である。図4に示すように、このノズルブロック34には、透孔70が形成されている。この透孔70は、中空ガイド軸体20の中心軸線90と直交する平面(繊維送り方向と直交する平面)で切断したときの断面形状が円形となるように形成されている。
【0039】
図3に示すように、中空ガイド軸体20は、軸体保持部材59によって保持された円筒体56を備えている。この円筒体56の一端には、テーパ状のテーパ部24が形成されている。このテーパ部24の先端には入口孔28が形成されている。また、円筒体56の軸心部には、入口孔28と連通する繊維通過路29が形成されている。なお、この繊維通過路29の下流側端部は出口孔(図略)となっている。繊維通過路29を通過した繊維束8ないし紡績糸10は、空気紡績装置9の下流側に配置された糸送り装置11によって、前記出口孔から空気紡績装置9の外側に向かって送り出される。
【0040】
中空ガイド軸体20のテーパ部24は、ノズルブロック34から見て繊維案内部23の反対側から、当該ノズルブロック34に形成された透孔70の内部に軸線を一致させつつ挿入される。また、中空ガイド軸体20のテーパ部24の外周面と、ノズルブロック34の内側壁面(透孔70の壁面)と、の間には、空気流が通過できるように所定の間隔が空けられている。
【0041】
ノズルブロック34には、繊維束8の走行方向上流側から順に、吸引減圧室71と、旋回室72と、テーパ室73と、が形成されている。より厳密に言うと、中空ガイド軸体20のテーパ部24の外周面と、ノズルブロック34の内側壁面(透孔70の壁面)と、によって、略円柱状の吸引減圧室71と、略円筒状の旋回室72と、略テーパ筒状のテーパ室73と、が形成される。なお、吸引減圧室71は略円柱状としたが、実際には図3に示すように、中空ガイド軸体20の先端部(繊維通過路29の入口孔28の先端部)が、吸引減圧室71の下流側から当該吸引減圧室71の内部に若干挿入されている。
【0042】
図3に示すように、吸引減圧室71と繊維案内部23の繊維導入孔21とは、互いに連通している。また、旋回室72と吸引減圧室71とは、互いに連通している。また、テーパ室73と旋回室72は、互いに連通している。
【0043】
一方、ノズルブロック34の周囲には、供給エア貯留室61が形成されている。また、ノズル部ケーシング53には、図略の圧空源に接続された圧縮空気供給パイプ65が接続されている。これにより、前記圧空源から前記供給エア貯留室61に対して圧縮空気を供給できるようになっている。
【0044】
またノズルブロック34には、旋回室72と供給エア貯留室61とを連通する1つ以上の空気噴射ノズル27が形成される。なお、本実施形態において、空気噴射ノズル27は4つ形成されているが、空気噴射ノズル27が形成される数はこれに限定されない。これら空気噴射ノズル27は、ノズルブロック34に穿設された細長い丸孔として構成されている。供給エア貯留室61に供給された圧縮空気は、空気噴射ノズル27を介して旋回室72内に噴射される。これにより、旋回室72内には、中空ガイド軸体20の軸線周り一方向に旋回するように流れる旋回気流が発生する。
【0045】
上記のような旋回気流を旋回室72内に発生させるため、空気噴射ノズル27は、その長手方向が、平面視で旋回室72の略接線方向に向くように形成されている。なお、図3においては、空気噴射ノズル27の長手方向があたかも旋回室72の中心軸線と同じ平面内にあるように描かれているが、これは図面を分かり易くするために簡略的(概念的)に表現したものであって、空気噴射ノズル27は実際には上記のように旋回室72の接線方向に形成されている。従って、より正確に空気噴射ノズル27を示す断面図は図4のようになる。
【0046】
また、この空気噴射ノズル27は、図3及び図4に示すように、その長手方向が下流側に若干傾斜して形成されている。これにより、空気噴射ノズル27から噴射される圧縮空気を、下流側に向かって流すことができる。
【0047】
以上の構成で、空気噴射ノズル27から噴射される圧縮空気は、旋回室72内において旋回しつつ繊維束8の走行方向下流側に向かって流れる。即ち、旋回室72内に、下流側に向かって流れる螺旋状の旋回気流を発生させることができる。
【0048】
また、ノズル部ケーシング53には空気排出用空間55が形成されている。この空気排出用空間55は、テーパ室73と互いに連通している。この空気排出用空間55には、前記ブロアボックス4に配置されている図略の負圧源(吸引手段)が配管60を通じて接続されている。
【0049】
次に、以上のように構成された空気紡績装置9において、繊維導入孔21に繊維束8を導入する時の様子について説明する。
【0050】
まず、空気紡績装置9内に繊維束8が導入されていない状態(図3の状態)で、図略の圧空源から供給エア貯留室61に圧縮空気を供給する。供給エア貯留室61に供給された圧縮空気は、空気噴射ノズル27を介して旋回室72内に向かって噴射される。これによって旋回室72内に発生した旋回気流は、当該旋回室72内を螺旋状に下流側に流れた後、テーパ室73に流入し、その流速を弱めつつ更に下流側に流れ、最終的に空気排出用空間55から排出される。
【0051】
一方、上記のように旋回室72内で下流側に向かう空気の流れが発生することにより、当該旋回室72の上流側に隣接している吸引減圧室71内が減圧され、繊維導入孔21に吸引空気流が発生する。この吸引空気流は、繊維導入孔21から吸引減圧室71に流入した後、一部が繊維通過路29内に流入して下流側に流れ、残りは旋回室72に流入して旋回気流と合流する。
【0052】
この状態でドラフト装置7から繊維束8を空気紡績装置9側へ送ると、当該繊維束8が繊維導入孔21から吸引され、吸引減圧室71内に案内される。吸引減圧室71内に案内された繊維束8は、繊維通過路29内に流入する吸引空気流の流れに乗って当該繊維通過路29を下流側に案内され、図略の出口孔から空気紡績装置9の外部に送られる。
【0053】
空気紡績装置9の前記出口孔から出た繊維束8ないし紡績糸10の端部は、糸継台車3が備えるサクションパイプ44によって捕捉され、スプライサ43においてパッケージ45側の糸端と糸継ぎされる。これにより、繊維束8ないし紡績糸10は、フロントローラ18から繊維導入孔21、吸引減圧室71及び繊維通過路29を通じて糸送り装置11に至る連続状態となる。この状態で、糸送り装置11により下流側への送り力が付与されることにより、糸に張力が付与されて空気紡績装置9から次々に紡績糸10が引き出されていく。
【0054】
次に、本実施形態の空気紡績装置9において、繊維束8に撚りが加えられて紡績糸10が生成される様子について、図5を参照して説明する。なお、図5には、空気紡績装置9内の空気の流れを、太線の矢印で概念的に示している。
【0055】
繊維束8は、多数の繊維から構成されている。それぞれの繊維は、繊維導入孔21から吸引減圧室71内に導入される。各繊維の下流側の端部は、繊維導入孔21から繊維通過路29内に向かって流れる吸引空気流の流れに乗って当該繊維通過路29内に導入される。これにより、吸引減圧室71内に導入された繊維の少なくとも一部は、繊維導入孔21と繊維通過路29との間で連続状態となる。この状態の繊維を、芯繊維8aと呼ぶ。
【0056】
芯繊維8aは、旋回室72内で旋回する反転繊維8b(後述)に連れられて加撚される。なお、この撚りは上流側(フロントローラ18側)へ伝播しようとするが、その伝播はニードル22によって阻止されるので、フロントローラ18から送り出される繊維束8が上記の撚りによって撚り込まれることがない。このように、ニードル22は撚り伝播防止手段をなしている。
【0057】
吸引減圧室71に導入されてくる各繊維の下流側端部は、加撚されつつある芯繊維8aに撚り込まれている。しかし、各繊維は、その全体が芯繊維8aに撚り込まれている訳ではなく、上流側端部は自由端となっている。
【0058】
各繊維の前記自由端(上流側端部)が吸引減圧室71内に入ってくると、当該自由端は、芯繊維8aから分離して開繊されるとともに、吸引減圧室71から旋回室72に流入する吸引空気流によって旋回室72側(下流側)に流される。このように、繊維の上流側端部が下流側に流されることにより、当該上流側端部の向きが「反転」する。この状態の短繊維を反転繊維8bと呼ぶ。なお、芯繊維8aであった繊維も、その上流側端部が吸引減圧室71内に入ってくると、反転繊維8bになり得る。
【0059】
反転繊維8bの自由端は、旋回室72に導入され、下流側に向かって螺旋状に流れる旋回気流の影響を受ける。これにより、反転繊維8bは、図5に示すように、中空ガイド軸体20のテーパ部24の表面に沿うようにしつつ、当該中空ガイド軸体20のテーパ部24の周囲を旋回する。従って、反転繊維8bの自由端は、繊維通過路29内部を通っている芯繊維8aの周囲を振り回されることになる。これにより、反転繊維8bは、芯繊維8aの周囲に順次巻き付いて巻付繊維となる。
【0060】
このとき、反転繊維8bは、旋回気流の下流側へ流れようとする力によって中空ガイド軸体20のテーパ部24の表面に押し付けられるので、自由端が暴れることが防止され、安定して中空ガイド軸体20のテーパ部の周囲を旋回することができる。
【0061】
また、芯繊維8aは繊維通過路29内を下流側に送られているので、これに連れられて、当該芯繊維8aに巻き付いた反転繊維8b(巻付繊維)は繊維通過路29内に順次引きずり込まれる。このとき、反転繊維8bは、旋回気流の下流側へ流れようとする力によって中空ガイド軸体20のテーパ部24の表面に押し付けられているので、繊維通過路29内に引きずり込まれる際に適度な張力が与えられる。これにより、芯繊維8aの周囲に反転繊維8bを強力に巻き付け、糸強力の高い紡績糸10を生成することができる。
【0062】
このようにして、実撚り状の紡績糸10が生成される。紡績糸10は繊維通過路29内を進み、前記出口孔(図略)から糸送り装置11に向かって送り出される。
【0063】
そして、図1に示す糸送り装置11を経て巻取装置12に紡績糸10が巻き取られることにより、最終的にパッケージ45が形成される。なお、上記の繊維の開繊及び加撚時に切れるなどして紡績糸10に撚り込まれなかった繊維は、空気流の流れに乗って旋回室72からテーパ室73を経て空気排出用空間55へ送られ、負圧源の吸引によって、配管60を経由して排出される。
【0064】
次に、本実施形態の空気紡績装置9におけるノズルブロック34の構成について詳しく説明する。
【0065】
まず、旋回室72を形成している旋回室形成面82の形状について説明する。
【0066】
図4に示すように、ノズルブロック34の内側壁面(透孔70の壁面)のうち、吸引減圧室71を形成する部分を吸引減圧室形成面81、旋回室72を形成する部分を旋回室形成面82とする。吸引減圧室形成面81は、吸引減圧室71内に面している。また、旋回室形成面82は、旋回室72内に面している。
【0067】
本実施形態におけるノズルブロック34を、中空ガイド軸体20の中心軸線を通る平面で切断したときの断面図が図4に示されている。この断面図において、旋回室形成面82の上流側(吸引減圧室71側)の部分は、その断面輪郭が曲線状となる曲線部82aであり、旋回室形成面82の下流側の部分は、その断面輪郭が直線状となる直線部82bとなっている。
【0068】
本実施形態の空気紡績装置9において、吸引減圧室形成面81の半径R1は、旋回室形成面82の半径R2(正確に言えば、直線部82bの半径)よりも小さくなるように形成されている。言い換えれば、旋回室72の周長は、吸引減圧室71の周長よりも長くなっている。このように、旋回室72よりも吸引減圧室71の半径を短くすることにより、旋回室72内に噴出された圧縮空気が膨張した場合であっても、当該圧縮空気が吸引減圧室71側へ流れにくくすることができる。これにより、吸引減圧室71内において、空気流を下流側に向かってスムーズに流すことができるので、吸引減圧室71内で繊維をスムーズに反転させることができる。
【0069】
また、図4に示すように、吸引減圧室形成面81の下流側端部と、旋回室形成面82の直線部82bの上流側端部は、曲線部82aによって接続されている。そして、中空ガイド軸体20の中心軸線を通る平面で切断したときの断面図(図4の図)において、曲線部82aと直線部82bの断面輪郭は、滑らかに接続している。このように、旋回室形成面82の上流側(繊維案内部23側)の断面輪郭を曲線状とすることで、旋回室72に角張った部分がないように構成されている。
【0070】
一方、例えば特許文献1において、旋回室(第1円錐台状空間部及び第2円錐台状空間部)には、角張った部分(第1円錐台状空間部と第2円錐台状空間部との接続部分)があった。このように旋回室内に角張った部分があると、当該旋回室内で空気流の乱れが発生し、反転繊維の挙動が不安定となることがあった。
【0071】
この点、本実施形態では、上記のように旋回室72内に角張った部分がないように構成しているので、旋回室72内における空気流の乱れを低減することができる。従って、旋回室72内での反転繊維の挙動を安定させることができるので、反転繊維8bが中空ガイド軸体20のテーパ部24の表面から浮き上がったりすることを防止し、高品質な糸を安定して生成することができる。
【0072】
また、本実施形態において、曲線部82aの断面輪郭は、具体的には、円弧状となっている。このように旋回室72の断面輪郭を円弧状とすることにより、旋回室72内の空気流の乱れを、特に良好に低減させることができる。また、このように旋回室72内の空気流の乱れを低減することにより、旋回室72内に噴出された圧縮空気が当該旋回室72内で膨張しにくくすることができる。
【0073】
また、500m/minや600m/minのように紡績速度が高速である場合、反転繊維を芯繊維に対して確実かつ短時間(高速)で旋回させることは特に重要である。しかしながら、高速紡績になると、反転繊維8bが繊維通過路29に引きずり込まれるまでの時間が短くなるため、旋回室72内における空気流の少しの乱れが反転繊維8bの回転回数に大きな影響を与える。この点、本実施形態のように、旋回室72の曲線部82aの断面輪郭を円弧状に形成することにより、旋回室72内の空気流を安定させることができるため、高速紡績の場合であっても、高品質な紡績糸を安定して生成することができる。
【0074】
次に、本実施形態における空気噴射ノズル27について説明する。
【0075】
前述のように、空気噴射ノズル27は、その長手方向が旋回室72の略接線方向に向くように形成されている。従って、空気噴射ノズル27が旋回室形成面82に開口した部分(ノズル口27a)の開口輪郭は、図4に示すように略楕円形となる。本実施形態では、このノズル口27aの開口輪郭の周長を、楕円周長と呼ぶ。
【0076】
本実施形態の空気紡績装置9において、空気噴射ノズル27のノズル口27aは、図4に示すように、旋回室形成面82の曲線部82aに形成されている。これにより、例えば直線部82bにノズル口27aを形成する場合と比べて、ノズル口の楕円周長を長くすることができるので、圧縮空気が下流側に向かって広がるようにして噴出することができる。これにより、旋回気流を広い範囲で繊維に作用させることができるので、強い力で効率良く繊維を旋回させることができる。また、このように圧縮空気を下流側に向かって広がるように噴出することができるので、当該圧縮空気が旋回室72内で膨張した場合であっても、当該圧縮空気が上流側(吸引減圧室71側)に向かって流れて行きにくい。これにより、旋回気流を下流側に向かって更にスムーズに流し、旋回室72内の空気流の乱れを更に低減することができる。
【0077】
また、例えば特許文献1は、空気噴射孔のノズル口は、角張った部分(円柱状空間部と第1円錐台状空間部との接続部分)を跨ぐように形成されているので、ノズル口の形成位置が若干ズレただけで、ノズル口の開口形状が大きく変わってしまうという問題があった。従って、特許文献1の構成は、糸品質が加工精度の影響を受け易いという欠点がある。この点、本実施形態においては、ノズル口27aは、その開口輪郭の全てが、旋回室形成面82の曲線部82aに形成されている。即ち、本実施形態では、ノズル口27aは、壁面が角張っている部分を跨がないような位置に形成されている。この本実施形態の構成によれば、ノズル口27aが形成される位置が若干ズレたとしても、当該ノズル口27aの開口輪郭の形はあまり変わらないので、空気噴射ノズル27の加工精度とは独立して紡績糸10の品質を保つことができる。
【0078】
また、図3及び図4に示すように、中空ガイド軸体20の先端は、吸引減圧室71内に若干挿入されている。言い換えれば、中空ガイド軸体20の先端は、吸引減圧室形成面81の下流側端部よりも上流側に位置している。そして、空気噴射ノズル27のノズル口27aは、旋回室形成面82に形成されている。即ち、ノズル口27aは、中空ガイド軸体20の先端よりも下流側に形成されている。これにより、ノズル口27aから噴出される圧縮空気が、中空ガイド軸体20の先端に衝突してしまうことを防止できる。従って、噴出空気が中空ガイド軸体20の先端で膨張してしまうことを防ぐことができるので、旋回室72内で旋回気流を良好に発生させることができる。
【0079】
次に、空気噴射ノズル27の傾斜角度について説明する。前述のように、図4は、中空ガイド軸体20の軸線を通る平面で切断した断面図である。また、この平面は、図中の右側の空気噴射ノズル271の長手方向と平行になっている。従って、図4は、中空ガイド軸体20の中心軸線に直交し、且つ空気噴射ノズル271の長手方向に直交する方向で見たときの図であると言える。この図4中において、中空ガイド軸体20の中心軸線90と、空気噴射ノズル271の長手方向とがなす角のことを、傾斜角度αとする。
【0080】
この傾斜角度αが小さい場合(空気噴射ノズル27の角度が急な場合)、噴出空気は下流側に勢い良く流れることになるので、繊維導入孔21に強力な吸引空気流を発生させることができるが、旋回室72内を旋回する流れが弱くなるので、芯繊維8aの周囲に反転繊維8bを十分に巻き付けることができず、糸強力が低下する場合がある。また、芯繊維に撚り込まれない短繊維が増えるため、ファイバーロスが増加するという問題も発生し得る。一方、傾斜角度αが大きい場合(空気噴射ノズル27が寢ている場合)、噴出空気によって旋回室72内に勢い良く旋回する旋回気流を発生させることができるが、下流側に向かう流れが弱くなるので、繊維導入孔21に十分な吸引空気流を発生させることができず、繊維束8を吸引できない場合がある。
【0081】
この点、本願発明者は、本実施形態の空気紡績装置9において、傾斜角度αを70°以上80°以下の範囲とすれば、旋回気流が旋回する流れと、下流側に向かう流れと、のバランスが高速紡績において良好であることを確認した。即ち、傾斜角度αを上記の範囲内とすることにより、繊維導入孔21における繊維束8の吸引と、旋回室72における反転繊維8bの旋回と、を適切に行い、高品質な紡績糸10を生成することができる。従って、本実施形態の空気紡績装置9においては、傾斜角度αを70°以上80°以下の範囲としている。なお、図中において、1つの空気噴射ノズル271についてのみ傾斜角度αを示しているが、ノズルブロック34に複数配置されている空気噴射ノズル27は、全て同じ傾斜角度で形成される。
【0082】
次に、旋回室72の流路面積について説明する。なお、流路面積とは、繊維の送り方向と直交する平面で切断したときの、旋回室72の断面積のことをいう。
【0083】
本実施形態において、旋回室72の内周壁を構成している中空ガイド軸体20のテーパ部24の外周壁面は、下流側に向かって広がるテーパ状に形成されている。これにより、旋回室72の流路面積は、ノズル口27aの形成位置から下流側に行くに従って狭くなるように構成されている。従って、ノズル口27aが形成されている位置の流路面積に比べて、旋回室72の下流側端部の流路面積の方が狭くなっている。
【0084】
このように、旋回室72の流路面積を、下流側で若干絞るように構成しているので、ノズル口27aからの噴出空気が旋回室72内で十分に旋回しないままテーパ室73側に流出してしまうことを防止できる。これにより、旋回室72内からテーパ室73に旋回気流が排出されるまでの間、当該旋回気流の流速を高速に保つことができる。
【0085】
以上で説明したように、本実施形態の空気紡績装置9は、繊維束8の繊維を旋回気流により旋回させて紡績糸10を製造する空気紡績装置であって、ノズルブロック34と、中空ガイド軸体20と、を備える。ノズルブロック34には、吸引減圧室71と、当該吸引減圧室71より周長が長い旋回室72が形成される。また、このノズルブロック34には、旋回室72内に開口するノズル口27aから圧縮空気を噴射して旋回室72内に旋回気流を発生させる1つ以上の空気噴射ノズル27が形成されている。中空ガイド軸体20の内部には、繊維通過路29が形成される。また、中空ガイド軸体20は、繊維通過路29の入口孔28側の先端部が、吸引減圧室71内に位置するように配置されている。そして、ノズル口27aは、中空ガイド軸体20の先端部よりも前記繊維束の送り方向下流側に設定されている。
【0086】
このように、ノズル口27aを旋回室72側に形成し、中空ガイド軸体20の先端が吸引減圧室71内に位置するように配置することにより、ノズル口27aから噴出された圧縮空気が中空ガイド軸体20の先端付近で膨張してしまうことを防止できるので、反転繊維8bが中空ガイド軸体20の先端で浮き上がることを防止できる。即ち、前記圧縮空気によって、中空ガイド軸体20の先端に対して反転繊維8bを安定的に押し付けることができる。また、吸引減圧室71の周長を旋回室72の周長よりも短くすることにより、膨張した圧縮空気が、旋回室72から吸引減圧室71側に向かって流入しにくくなる。これにより、吸引減圧室内における旋回気流の旋回成分が小さくなり、下流側に向かって穏やかに流れる空気流が吸引減圧室を支配するので、旋回室内における繊維の反転がスムーズになり、芯繊維8aに巻き付く繊維の適度な張力が安定的に得られる。その結果、生成される紡績糸10の糸強力が向上する。また、反転繊維8bが中空ガイド軸体20の表面から浮き上がりにくいので、繊維の旋回速度を増大させた場合であっても安定した紡績が可能であり、従来は実現できなかった500m/minや600m/minの高速紡績に対応することができる。
【0087】
また、本実施形態の空気紡績装置9は、以下のように構成されている。即ち、中空ガイド軸体20の軸線を通る平面で切断したときの断面において、旋回室形成面82のうち、吸引減圧室71側の部分は、断面輪郭が実質的に曲線状の曲線部82aとして形成されている。
【0088】
これにより、旋回室72において、吸引減圧室71側の壁面に角張った部分が無いように構成することができるので、旋回室72内で空気流が乱れることを防止し、当該空気流をスムーズに流すことができる。結果として、巻付繊維が芯繊維に対して不規則に巻き付いたり、巻付繊維の自由端同士が絡まってしまったりすることを防止できるので、生成される糸の品質を安定させることができる。
【0089】
また、本実施形態の空気紡績装置9において、ノズル口27aの開口輪郭の全部が、旋回室形成面82のうち曲線部82aに形成されている。
【0090】
このように、曲線部82aにノズル口27aを形成することにより、当該ノズル口27aの開口輪郭の楕円周長を長くすることができる。これにより、旋回室内に向けてノズル口27aから広がるように圧縮空気を噴射することができ、広い範囲で繊維に旋回気流を当てることができるので、繊維を強い力で効率良く旋回させることができる。また上記のように、曲線部82aにノズル口27aを形成した場合は、当該ノズル口27aを形成する位置が多少ズレても、噴射ノズルの出口形状はあまり変わらない。即ち、上記のように空気紡績装置9を構成することにより、加工精度によらず、生成される糸の品質を保つことができる。
【0091】
また、本実施形態の空気紡績装置9は、以下のように構成されている。即ち、中空ガイド軸体20の中心軸線に直交し、且つ空気噴射ノズル27の長手方向に直交する方向で見たときに、前記空気噴射ノズル27の長手方向は、中空ガイド軸体20の中心軸線に対して70度以上80度以下の角度で傾斜している。
【0092】
これにより、旋回室72内で繊維に作用する旋回気流の、旋回方向の速度と、繊維送り方向の速度と、のバランスが、高速紡績時において特に良好となる。即ち、上記のように形成された空気噴射ノズル27から噴射させる圧縮空気によって、繊維を繊維送り方向下流側に向かって引っ張る吸引流を発生させつつ、当該繊維を十分な速度で旋回させることができる。この結果、生成される紡績糸10の強度を向上させることができる。更に、旋回室72内において繊維に作用する空気の旋回成分が保たれているため、浮遊する短繊維が反転繊維に順次キャッチされて巻き付いていき、ファイバーロスを減少させることができる。
【0093】
また、本実施形態の空気紡績装置9において、旋回室72の下流側端部の流路断面積は、当該旋回室72の前記ノズル口27aが形成された位置における流路断面積よりも小さくなるように形成されている。
【0094】
これにより、旋回室72内から旋回気流が排出されるまでの間、当該旋回気流を高速に保つことができる。即ち、旋回室72内において繊維を高速で旋回させることができるため、高速紡績の場合であっても、生成される紡績糸の糸強力を向上させることができる。
【0095】
また、本実施形態の精紡機1は、上記の空気紡績装置9と、当該空気紡績装置9によって製造された紡績糸10をパッケージ45へと巻き取る巻取装置12と、を備えている。
【0096】
これにより、高速紡績の場合であっても、糸強力を向上させた紡績糸10を生成できるので、高品質なパッケージ45を従来の紡績機よりも高速で効率良く形成することができる。
【0097】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、以下の説明において、上記第1実施形態と同一又は類似の構成については、上記第1実施形態と同一の符号を付して説明を省略する。
【0098】
この第2実施形態の精紡機が備える空気紡績装置9の構成を、図6に示す。図6に示すように、本実施形態の空気紡績装置9は、上記第1実施形態において繊維案内部23が備えていたニードル22を省略した構成である。このように、ニードル22は省略することもできる。なお、上記第1実施形態ではニードル22が撚り伝播防止手段としての役割を果たしていたが、本第2実施形態のようにニードル22を省略した場合、繊維案内部23の下流側端部が、上記撚り伝播防止手段としての役割を果たす。
【0099】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0100】
上記実施形態では、旋回室72は略円筒状としたが、これに限らない。例えば特許文献1の従来技術のように、旋回室(第1円錐台状空間部及び第2円錐第状空間部)の外周壁を略テーパ状に形成しても良い。ただし、旋回室72は、その内部で旋回気流を発生させる必要があるので、繊維送り方向と直交する平面で切断したときの断面形状が円形であることが好ましい。
【0101】
また、吸引減圧室71の形状は略円柱状としたが、これに限らない。また、吸引減圧室71内では必ずしもその内部で旋回気流を発生させる必要がないので、繊維送り方向と直交する平面で切断したときの断面形状は円形でなくても良い。ただし、この場合であっても、旋回室72から吸引減圧室71へ空気流が流入しないようにするため、吸引減圧室71の外周長は旋回室72の外周長よりも短くすることが好ましい。
【0102】
また、旋回室形成面82の曲線部82aは、中空ガイド軸体20の軸線を通る平面による断面輪郭が円弧状でなくても良く、断面輪郭が滑らかな曲線であればどのような形状であっても良い。要は、旋回室72の繊維案内部23側に角張った部分が無ければ良い。ただし、上記のように、曲線部82aの断面輪郭を円弧状とすることにより、旋回室72内の空気流の乱れを特に良好に抑圧することができる。
【0103】
また、旋回室形成面82は、その断面輪郭の全体が曲線状であっても良い。即ち、直線部82bは省略することもできる。
【0104】
なお、曲線部82aの断面輪郭が実質的に曲線と見なせる場合は、当該断面輪郭が細かい折れ線から構成されていても良い。例えば、曲線部82aの断面輪郭が、鈍角で複数回数折れ曲がった折れ線によって構成されていれば、実質的に曲線であるとみなすことができる。
【0105】
また、上記実施形態のように旋回室形成面82に曲線部82aが無ければならない訳ではなく、旋回室72に角張った部分があっても良い。例えば、曲線部82aを省略し、旋回室形成面82を直線部82bのみで構成ても良い。
【0106】
上記実施形態では、空気噴射ノズル27のノズル口27aの開口輪郭の全部が曲線部82aに形成された構成としたが、この構成に限らない。例えば、ノズル口27aの開口輪郭の一部のみが曲線部82aに形成され、残りの一部は直線部82bに形成されていても良い。また、ノズル口27aの開口輪郭の全部が直線部82bに形成されていても良い。ただし、ノズル口27aの開口輪郭の少なくとも一部を曲線部82aに形成すれば、旋回室72内に向けてノズル口27aから広がるように圧縮空気を噴射できるため好適である。
【0107】
上記実施形態では、ノズルブロック34が吸引減圧室部と旋回室部とを兼ねる構成としたが、吸引減圧室部と旋回室部を別の部材としても良い。
【0108】
上記実施形態では、空気排出用空間55はノズル部ケーシング53に形成されているとしたが、この空気排出用空間55は、軸体保持部材59に形成されていても良い。また、空気排出用空間55は、ノズル部ケーシング53と軸体保持部材59とが組み合わさることで形成されていても良い。
【0109】
また、上記実施形態では、繊維束8(又は紡績糸10)が上から下に向けて送られるタイプの精紡機1について説明したが、これに限らず、例えば下から上に向かうタイプの紡績機であっても良い。即ち、繊維束が格納されるケンスを機台下部に配置し、巻取装置が機台上部に配置されているような紡績機に、上記実施形態の空気紡績装置を備えるように構成しても良い。
【0110】
また、精紡機1は、糸送り装置11と巻取装置12との間に、糸貯留装置を設ける構成とすることもできる。この糸貯留装置というのは、簡単に説明すると、回転する糸貯留ローラの周囲に一時的に紡績糸10を巻き付けておくことにより、一定量の紡績糸10を当該糸貯留ローラ上に貯留可能に構成したものである。この糸貯留装置の機能は以下のようなものである。即ち、巻取装置12は、糸継台車3が糸継動作を行っている最中等は紡績糸10を巻き取ることができない。このような場合に、空気紡績装置9から次々と紡績糸10を送出すると、巻き取られない紡績糸10が弛んでしまう。そこで、巻取装置12と糸送り装置11との間に上記糸貯留装置を介在させておき、巻取装置12が糸を巻き取ることができない期間は紡績糸10を糸貯留ローラ上に貯留することにより、紡績糸10が弛んでしまうことを防止することができる。
【0111】
なお、上記の糸貯留装置は、紡績糸を巻き付けて回転する糸貯留ローラを備えているので、この糸貯留ローラを回転させることにより、当該糸貯留ローラに巻き付いている紡績糸10を下流側に向かって送り出すことができる。即ち、糸貯留装置は、紡績糸10を下流側に向かって送る機能を備えているということができる。従って、上記のように糸貯留装置を備えた精紡機1は、糸送り装置11を省略し、空気紡績装置9からの紡績糸10を糸貯留装置によって下流側へ搬送するように構成することもできる。
【符号の説明】
【0112】
1 精紡機(紡績機)
9 空気紡績装置
20 中空ガイド軸体(スピンドル)
21 繊維導入孔
23 繊維案内部
27 空気噴射ノズル
27a ノズル口
34 ノズルブロック(旋回室部、吸引減圧室部)
71 吸引減圧室
72 旋回室
81 吸引減圧室形成面
82 旋回室形成面
82a 曲線部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維束の繊維を旋回気流により旋回させて紡績糸を製造する空気紡績装置であって、
吸引減圧室が形成された吸引減圧室部と、
前記吸引減圧室より周長が長い旋回室が形成されるとともに、前記旋回室内に開口するノズル口から圧縮空気を噴射して前記旋回室内に前記旋回気流を発生させる1つ以上の空気噴射ノズルが形成された旋回室部と、
繊維通過路が内部に形成されたスピンドルと、
を備え、
前記スピンドルは、前記繊維通過路の入口側の先端部が、前記吸引減圧室内に位置するように配置されており、
前記ノズル口は、前記スピンドルの先端部よりも前記繊維束の送り方向下流側に設定されていることを特徴とする空気紡績装置。
【請求項2】
請求項1に記載の空気紡績装置であって、
前記スピンドルの軸線を通る平面で切断したときの断面において、前記旋回室を形成する前記旋回室部の内側壁面のうち、少なくとも前記吸引減圧室側の部分は、断面輪郭が実質的に曲線状に形成されていることを特徴とする空気紡績装置。
【請求項3】
請求項2に記載の空気紡績装置であって、
前記ノズル口の開口輪郭の少なくとも一部は、前記旋回室を形成する前記旋回室部の内側壁面のうち、前記断面輪郭が前記曲線状の部分に形成されていることを特徴とする空気紡績装置。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載の空気紡績装置であって、
前記スピンドルの中心軸線に直交し、且つ前記空気噴射ノズルの長手方向に直交する方向で見たときに、
前記空気噴射ノズルの長手方向は、前記スピンドルの中心軸線に対して70度以上80度以下の角度で傾斜していることを特徴とする空気紡績装置。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載の空気紡績装置であって、
前記旋回室の下流側端部の流路断面積は、当該旋回室の前記ノズル口が形成された位置における流路断面積よりも小さくなるように形成されていることを特徴とする空気紡績装置。
【請求項6】
請求項1から5までの何れか一項に記載の空気紡績装置と、
前記空気紡績装置により製造された紡績糸をパッケージへと巻き取る巻取装置と、
を備えることを特徴とする紡績機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−202313(P2011−202313A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70760(P2010−70760)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】