説明

空気膜構造物

【課題】降雪時に内部の空気圧を高める必要が無く、しかも簡易な構造によって確実に雪を膜材の表面から滑雪させることができてデフレートを防止することができる空気膜構造物を提供する。
【解決手段】少なくとも屋根部分が膜材1によって覆われ、内部に空気が充填されることにより膜材1の凸曲面形状が保持される空気膜構造物において、膜材1の上記凸曲面の頂部1aに、膜材1に鉛直荷重が作用した際に頂部1aにおける鉛直下向きの変形を拘束する拘束手段5、7、8、10を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋根部分が膜材によって形成されて内部に空気が充填されることによりに、上記膜材の凸曲面形状が保持される空気膜構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、廃棄物処理場や大規模な物品の集配場においては、降雨や降雪の影響を避けたり、あるいは廃棄物等の飛散を防止したりするために、簡易的な構造物によって内部を覆うことが要請されている。
このため、近年上記構造物として、屋根部分を膜材で構成して、内部に大気圧よりも若干高めの加圧空気を充填した様々な形態の空気膜構造物が提案されている。
【0003】
ところで、このような空気膜構造物においては、図10に実線で示すように、内部の空気圧によって屋根部分の膜材30の形状が保持されているために、膜材30が全体として断面円弧状あるいはこれに近似した凸曲面形状になる。そして、一般に上記廃棄物処理場等においてはその平面積が広いことから、当該膜材30の凸曲面形状の頂部30aの近傍における傾斜が極めて緩やかなものになる。
【0004】
このため、降雪時に、頂部30aおよびその近傍に積雪31が生じ易く、内圧とのバランスから頂部30aが鉛直下向きに変形して膜材の傾斜が一層緩くなる傾向が生じる(図中点線で示す状態A)。この結果、積雪31が一層成長し易くなり、これにより頂部30aの鉛直下向きの変形が進むと、その傾斜が逆勾配になって頂部30aが他の部分よりも低くなってしまう(状態B)。このため、頂部30aに荷重が集中してさらに変形が進行する現象が生じ(進行性ポンディング)、最終的には膜材30が完全に萎んでしまうことになる(状態C:デフレート)。
【0005】
そこで、このような進行性ポンディングの発生を防止するために、降雪時に内部の空気圧を高めて膜材30の凸曲面形状を保持する方法も考えられるものの、膜材30の強度を考慮すると、無制限に上記空気圧を高めることはできない。このため、積雪量が多いときは、上記方法によっては対応することができないという問題点が生じる。
【0006】
これに対して、下記特許文献1においては、この種の空気膜構造物において、屋根骨組の上下に屋根膜を配置し、上下の屋根膜で囲われた天井裏空間を断熱空間とするとともに、前記空間内に温風送風機から供給される温風を循環させることを特徴とする屋根構造体が提案されている。
【0007】
上記従来の屋根構造体によれば、冬期に降雪があった場合には、温風送風機を駆動し、温風を均一に分配しながら天井裏空間内に吹込むことで、屋根膜は加温され、特に外側屋根膜の外部に付着した雪は屋根膜に接触することで順次溶かされ、水となって屋根勾配に沿って流下し、除雪または除霜がなされることになる。
【特許文献1】特開2002−146963号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の屋根構造体においては、内部構造が複雑化するとともに、廃棄物処理場等に適用した場合には、上記断熱空間の容積が極めて大きいために、温風送風機として送風容量が極端に大きなものを用いるか、あるいは多数の温風送風機を設置する必要があり、設備コストやランニングコストが嵩んで、簡易的な構造物としての要請には対応することが難しいという問題点がある。
【0009】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、降雪時に内部の空気圧を高める必要が無く、しかも簡易な構造によって確実に雪を膜材の表面から滑雪させることができてデフレートを防止することができる空気膜構造物を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、少なくとも屋根部分が膜材によって覆われ、内部に空気が充填されることにより上記膜材の凸曲面形状が保持される空気膜構造物において、上記膜材の上記凸曲面の頂部に、当該膜材に鉛直荷重が作用した際に上記頂部における鉛直下向きの変形を拘束する拘束手段を設けたことを特徴とするものである。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記拘束手段が、上記膜材の一水平方向における上記凸曲面の頂部に沿って一体的に設けられた棟ケーブルと、上記膜材の両端部外方に立設された一対の支柱と、これら支柱間に上記膜材の上記頂部の上方に沿って張設されたケーブルと、このケーブルの延在方向の複数箇所から垂設されて下端部が上記棟ケーブルに連結された吊りケーブルとを備えてなることを特徴とするものである。
【0012】
これに対して、請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記拘束手段が、当該空気膜構造物内の上記膜材の上記頂部に向けて立設されるとともに、上端部と上記膜材との間に間隙が形成された支柱であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1〜3のいずれかに記載の発明によれば、少なくとも屋根部分を構成して凸曲面形状をなす膜材の頂部に、当該膜材に鉛直荷重が作用した際に上記頂部における鉛直下向きの変形を拘束する拘束手段を設けているために、降雪時に膜材の頂部に積雪して鉛直荷重が作用した際にも、上記拘束手段によって膜材の頂部の鉛直下向きの変形が抑えられる。このため、当該頂部における傾斜が緩くなることが無く、円滑に膜材表面に沿って滑雪させることができる。
【0014】
この結果、降雪時に内部の空気圧を高める必要が無く、しかも簡易な構造によって確実に雪を膜材の表面から滑雪させることができるために、デフレートすることを防止することができる。
また、上記拘束手段によって、膜材の頂部における鉛直下向きの変形を拘束することができるために、上記膜材の頂部に、排気口、散水装置あるいは照明装置等の重量物を設置することも可能になる。
【0015】
また、請求項2に記載の発明においては、膜材の一水平方向における凸曲面の頂部に沿って一体的に設けられた棟ケーブルの複数箇所を、膜材の両端部外方に立設された一対の支柱間に張設されたケーブルから垂らした吊りケーブルによって吊っているために、上記膜材の頂部に積雪して鉛直荷重が作用した場合においても、上記吊りケーブルによって棟ケーブルが降下することがない。なお、上記一水平方向としては、当該空気膜構造物における長手方向の水平方向を採用することが好適である。
【0016】
さらに、上記膜材における棟ケーブルの近傍は、積雪によって下方に撓むために、その水平に対する傾斜角度が大きくなり、この結果より一層円滑に滑雪を生じさせることができる。
加えて、上記吊りケーブルによって、強風時に膜材が水平方向に撓むことも抑制することが可能になる。
【0017】
他方、請求項3に記載の発明においては、空気膜構造物内の膜材の頂部の下方に、上端部と上記膜材との間に間隙が形成された支柱を立設しているために、上記膜材の頂部に積雪して鉛直荷重が作用して上記膜材が鉛直下向きに撓もうとする際に、上記膜材の頂部が上記支柱によって支持されて、それ以上の降下が阻止される。
そして、同様に上記膜材の頂部近傍は、積雪によって下方に撓む結果水平に対する傾斜角度が大きくなるために、より一層円滑に滑雪を生じさせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(第1の実施形態)
図1〜図7は、本発明に係る空気膜構造物の第1の実施形態およびその変形例を示すものである。
図1〜図5に示すように、この空気膜構造物は、平面視長方形状の廃棄物処理場を覆うように設置されたもので、その全体が膜材1によって構成されている。そして、図5に示すように、膜材1の下端部は、基礎部分2に立設されて廃棄物処理場の外周を矩形状に画成する壁部2aの上端面に、アンカー3を介して固定されている。
【0019】
ここで、膜材1の下端部は、その上面に壁部2aの全周にわたって配置された封止板4と壁部2aの上端面との間に挟持されており、これにより内部が閉じられた状態になっている。そして、この膜材1の内部に大気圧よりも僅かに高圧の空気が充填されることにより、長手方向の断面および短手方向の断面が、いずれも円弧またはこれに近似した凸曲面形状をなす屋根部分が形成されている。
【0020】
他方、この膜材1の長手方向の両端部側に位置する壁部2aには、支柱5が立設されている。ここで、各支柱5は、膜材1の長手方向における頂部1aの延長上に位置するように、壁部2aの延在方向の中央に立設されている。そして、各支柱5は、これら支柱5間に張設された支持ワイヤ6aおよび各支柱5と地盤との間に張設された2本の支持ワイヤ6bの合計3本の支持ワイヤ6a、6bによって、立設姿勢が保持されている。
【0021】
さらに、これら支柱5間には、膜材1の長手方向の頂部1aの上方に沿ってケーブル7が張設されている。そして、このケーブル7の延在方向にほぼ等間隔をおいて、複数本(図では9本)の吊りケーブル8が配置され、その上端部が連結金物9によってケーブル7に固定されることにより、ケーブル7に垂設されている。
【0022】
他方、膜材には、頂部1aに沿って棟ケーブル10が一体的に設けられている。すなわち、図4に示すように、膜材1の上面には、頂部1aに沿って一対の帯布材11が対向配置されるとともにミシン縫いによって膜材1に固定されている。
【0023】
ここで、これら帯布材11の相対向する上端部には、それぞれ多数の穴11aが長手方向に間隔をおいて穿設されるとともに、両方の帯布材11を縫い合わせるように、両者の穴11aにラッキングロープ12が挿通されており、このラッキングロープ12内に、棟ケーブル10が挿通されている。
【0024】
そして、この棟ケーブル10に、吊りケーブル8の下端部が連結金物13によって固定されている。これにより、膜材1の頂部1aは、棟ケーブル10および吊りケーブル8を介してケーブル7に吊設されている。ここで、上記支柱5、ケーブル7、吊りケーブル8および棟ケーブル10によって、膜材1の凸曲面の頂部1aに鉛直荷重が作用した際に、頂部1aにおける鉛直下向きの変形を拘束する拘束手段が構成されている。
【0025】
また、この空気膜構造物においては、膜材1の内周面には、当該膜材1の短手方向に向けて延在する複数本の補強ケーブル14が設けられている。ちなみに、各々の補強ケーブル14は、棟ケーブル10と吊りケーブル8との連結位置において棟ケーブル10と直交するように配置されており、図4に示した棟ケーブル10と同様に、膜材1の内周面にミシン縫いによって対向配置された一対の帯布材がラッキングロープによって縫い合わされるとともに、当該ラッキングロープ内に挿通されることにより、膜材1の内周面に設けられている。なお、この補強ケーブル14は、空気膜構造物の長手方向の寸法が比較的短い場合には、省略することが可能である。
【0026】
以上の構成からなる空気膜構造物によれば、屋根部分を構成して凸曲面形状をなす膜材1の長手方向の頂部1aに沿って棟ケーブル10を一体的に設け、この棟ケーブル10の複数箇所を、膜材1の両端部外方に立設された一対の支柱5間に張設されたケーブル7に垂設した吊りケーブル8によって吊っているために、膜材1の頂部1aに積雪して鉛直荷重が作用した場合においても、吊りケーブル8によって棟ケーブル10が降下することがない。
【0027】
この結果、降雪時に膜材1の頂部1aに積雪して鉛直荷重が作用した際にも、吊りケーブル8等によって膜材1の頂部1aの鉛直下向きの変形を抑えることができるために、頂部1aにおける傾斜が緩くなることが無く、円滑に膜材1の表面に沿って滑雪させることができる。これにより、降雪時に膜材1の内部の空気圧を高める必要が無く、しかも簡易な構造によって確実に雪を膜材1の表面から滑雪させることができるために、デフレートすることを防止することができる。
【0028】
さらに、膜材1における棟ケーブル10の近傍は、積雪によって下方に撓むために、当該部分における水平に対する傾斜角度が逆に大きくなり、よって一層円滑に滑雪を生じさせることができる。また、図7に示すように、吊りケーブル8によって、強風時に膜材1が水平方向に撓むことも抑制することができる。
【0029】
加えて、上記吊りケーブル8等により、膜材1の頂部1aにおける鉛直下向きの変形を拘束することができるために、構造上、膜材1の頂部に、排気口、散水装置あるいは照明装置等の重量物を設置することも可能になる。
【0030】
ところで、上記構成からなる空気膜構造物を大規模な廃棄物処理場等に適用した場合に、特にケーブル7に吊りケーブル8を長いスパンで垂設すると、隣接する吊りケーブル8間において、図6に点線Lで示すように、膜材1の頂部1aに鉛直下方への撓みが発生する。
【0031】
この場合には、同図に示す変形例のように、隣接する吊りケーブル8間に、補助ケーブル15を張設し、当該補助ケーブル15から複数本(図では3本)の補助吊りケーブル16を垂設して棟ケーブル10を吊り上げるようにすれば、上記撓みの発生を防止することができる。
【0032】
(第2の実施形態)
図8および図9は、本発明に係る空気膜構造物の第2の実施形態を示すもので、図1〜図7に示したものと同一構成部分については、同一符号を付してその説明を簡略化する。
この空気膜構造物においては、膜材1の内部であって頂部1aの下方に、膜材1の上記長手方向に所定の間隔をおいて上記拘束手段となる複数本(図では7本)の支柱20が立設されている。そして、これら支柱20の上端部20a間には、支柱間ケーブル22が架設されている。ここで、各支柱20間に架設された支柱間ケーブル22と膜材1の頂部1aの内周面1bとの間には、平常時において間隙21が形成されている。
【0033】
上記構成からなる空気膜構造物によれば、膜材1の頂部1aの下方に、上端部20aと膜材1の内周面1bとの間に間隙21が形成された複数本の支柱20を、膜材1の長手方向に沿って間隔をおいて立設しているために、図9に点線で示すように、膜材1の頂部1aに積雪して鉛直荷重が作用することにより、膜材1が鉛直下向きに撓もうとする際に、膜材1の頂部1aを、支柱20の上端部20a間に架設した支柱間ケーブル22によって支持して、それ以上の降下を阻止することができる。
【0034】
このため、第1の実施形態に示したものと同様に作用効果を得ることができる。
加えて、膜材1の頂部1aの近傍も、第1の実施形態と同様に積雪によって下方に撓む結果、水平に対する傾斜角度が大きくなるために、より一層円滑に滑雪を生じさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す全体斜視図である。
【図2】図1の正面図である。
【図3】図1の頂部近傍を拡大して示す斜視図である。
【図4】図3の棟ケーブルの取り付け構造を拡大して示す斜視図である。
【図5】図1の膜材下部の取り付け構造を示す断面図である。
【図6】図1の第1の実施形態の変形例における頂部近傍を拡大して示す斜視図である。
【図7】図1の空気膜構造物が強風を受けた際の変形を示す模式図である。
【図8】本発明の第2の実施形態を示す全体斜視図である。
【図9】図8の膜材の頂部と支柱の上端部との位置関係を示す縦断面図である。
【図10】一般的な空気膜構造物に積雪があった場合の変形状態を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 膜材
1a 頂部
5 支柱
7 ケーブル
8 吊りケーブル
10 棟ケーブル
20 支柱
20a 上端部
21 間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも屋根部分が膜材によって覆われ、内部に空気が充填されることにより上記膜材の凸曲面形状が保持される空気膜構造物において、
上記膜材の上記凸曲面の頂部に、当該膜材に鉛直荷重が作用した際に上記頂部における鉛直下向きの変形を拘束する拘束手段を設けたことを特徴とする空気膜構造物。
【請求項2】
上記拘束手段は、上記膜材の一水平方向における上記凸曲面の頂部に沿って一体的に設けられた棟ケーブルと、上記膜材の両端部外方に立設された一対の支柱と、これら支柱間に上記膜材の上記頂部の上方に沿って張設されたケーブルと、このケーブルの延在方向の複数箇所から垂設されて下端部が上記棟ケーブルに連結された吊りケーブルとを備えてなることを特徴とする請求項1に記載の空気膜構造物。
【請求項3】
上記拘束手段は、当該空気膜構造物内の上記膜材の上記頂部に向けて立設されるとともに、上端部と上記膜材との間に間隙が形成された支柱であることを特徴とする請求項1に記載の空気膜構造物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2010−90657(P2010−90657A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−263925(P2008−263925)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】