説明

空気膜構造

【課題】雨水を処理する為の勾配を常に確保して、雨水が溜まり難く、所謂ポンディング現象が生じない空気膜構造を提供する。
【解決手段】円周方向のケーブル又はリングトラスに突き上げ機構が設けられている。突き上げ機構は、ケーブル又はリングトラスに複数本の圧縮材の上端部が連結され、各々の圧縮材の下端部は引張リングで束ねられている。各々の圧縮材の下端部に、放射方向に配置され、且つ圧縮材の下端部より高い位置に吊り支点を確保した引張材が連結されて成る。引張材を引っ張って圧縮材を吊り上げ、更にケーブル又はリングトラスを突き上げ、ケーブル又はリングトラス周辺の膜材を上方へ膨らませている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ケーブル等が放射方向と円周方向に配置されたケーブルネットの上面に膜材が接合されて成り、ドーム屋根等の円形屋根構造に採用される空気膜構造の技術分野に属し、更に云うと、雨水を処理する為の勾配を常に確保して、雨水が溜まり難く、所謂ポンディング現象が生じない空気膜構造に関する。
【背景技術】
【0002】
円形屋根構造に採用される通例の空気膜構造は、ケーブル等が放射方向と円周方向に配置されたケーブルネットの上面に膜材が接合された構成であり、雨水を処理する為の勾配を確保するために、むくり形状に形成されている。
【0003】
しかし、通例の空気膜構造は、円周方向のケーブル等に沿った部分や、ケーブル等の密度が高い屋根の中央部分が屋根内部の空気圧で十分に支持しきれずに当該部分に凹みが生じ、上記の勾配が確保できずに雨水が溜まる欠点がある。一度、雨水が溜まるとその重さで、更に凹みが大きくなり、結果として次々に雨水が溜まっていく所謂ポンディング現象が生じる虞があった。
【0004】
ところが、上記ポンディング現象を良好に解消できる構成の空気膜構造は見聞することができない。
【0005】
なお、本出願人が先に出願した空気膜構造は、ケーブルトラスの上面に膜材を接合した構成とすることで、屋根内部の圧力を昇圧させることなく屋根の剛性、安定性を保てる構成としているが、雨水を処理する為の勾配を確保して、ポンディング現象の発生を防止する技術的思想は開示されていない(特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開平10−159391号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって本発明の目的は、屋根の局部的な凹みが生じず、雨水を処理する為の勾配を常に確保でき、それ故に雨水が溜まり難く、所謂ポンディング現象の発生を防止できる、空気膜構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記背景技術の課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係る空気膜構造は、
ケーブル等が放射方向と円周方向に配置されて成るケーブルネットの上面に膜材が接合され、ドーム屋根等の円形屋根構造として採用される空気膜構造において、
円周方向のケーブル又はリングトラスに突き上げ機構が設けられていること、
前記突き上げ機構は、前記ケーブル又はリングトラスに複数本の圧縮材の上端部が連結され、各々の圧縮材の下端部は引張リングで束ねられており、前記各々の圧縮材の下端部に、放射方向に配置され、且つ前記圧縮材の下端部より高い位置に吊り支点を確保した引張材が連結されて成り、前記引張材を引っ張って圧縮材を吊り上げ、更に上記ケーブル又はリングトラスを突き上げ、前記ケーブル又はリングトラス周辺の膜材を上方へ膨らませていることを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載した空気膜構造において、
引張材は、一端が屋根外部又は屋根外周構造の頂部の張力導入機構に連結されており、他端は屋根外周構造の頂部に確保した吊り支点から斜め下方に延び圧縮材の下端部に、又は放射方向のケーブルに沿って延び、更に所定の位置に確保した吊り支点から斜め下方に延び圧縮材の下端部に連結されていることを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2に記載した空気膜構造において、
リングトラスと圧縮材との間にダンパーが設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る空気膜構造は、円周方向のケーブル又はリングトラスに突き上げ機構が設けられており、同突き上げ機構の引張材を引っ張って圧縮材を吊り上げることで、前記ケーブル又はリングトラスを突き上げ、それに伴い前記ケーブル又はリングトラス周辺の膜材を突き上げている。そのため、屋根に局部的な凹みが生じず、雨水を処理する為の勾配を常に確保できるので、雨水が溜まり難く、所謂ポンディング現象の発生を防止できる。
【0011】
また、本発明に係る空気膜構造はケーブル配置が円周・放射型の円形屋根とされているので、ケーブル配置が格子型の矩形屋根に比べて、屋根を構成する部材(例えば膜材を構成する膜片)を規格化し易く、同部材の種類を少なくできるので、施工性が良い。また、矩形屋根の場合は最下位の膜片が大きな三角形状となり、同膜片に大きな応力が作用する問題が生じるが、円形屋根の場合は前記のような問題が生じない。しかも矩形屋根に比べてケーブル交差部が少ないので、同交差部を固定する部材(通例クランプ)の個数を少なくでき、屋根荷重の軽減とコストの削減等に寄与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
円周方向のケーブル又はリングトラスに突き上げ機構が設けられる。前記突き上げ機構は、前記ケーブル又はリングトラスに複数本の圧縮材の上端部が連結され、各々の圧縮材の下端部は引張リングで束ねられる。前記各々の圧縮材の下端部に、放射方向に配置され、且つ前記圧縮材の下端部より高い位置に吊り支点を確保した引張材が連結される。前記引張材を引っ張って圧縮材を吊り上げ、更に上記ケーブル又はリングトラスを突き上げ、前記ケーブル又はリングトラス周辺の膜材を上方へ膨らませる。
【実施例1】
【0013】
以下に、請求項1、2に記載した発明に係る空気膜構造の実施例を、図面に基づいて説明する。本発明に係る空気膜構造は、ドーム屋根等の円形屋根構造として好適に採用される。
【0014】
図1(A)、(B)に示す空気膜構造1は、通例の空気膜構造と略同様に、ケーブル2a、2bが円周方向と放射方向に配置され、更に円周方向のケーブル2aの内部に格子状配置でケーブル2cが配置されて成るケーブルネットの上面に膜材3が接合された円形屋根として構成されている。しかし、円周方向のケーブル2aの重量を屋根(以下、本実施例では空気膜構造1と同一符号を付する。)1の内部の空気圧では十分に支持できずに、前記円周方向のケーブル2aが垂れ下がり、それに伴い膜材3が引っ張られて屋根1に凹みが生じるので、前記円周方向のケーブル2aに突き上げ機構4が設けられている。
【0015】
突き上げ機構4は、円周方向のケーブル2aに複数本の圧縮材5の上端部が連結され、同圧縮材5の下端部は引張リング6で束ねられている。各々の圧縮材5の下端部に、放射方向に配置され、且つ前記圧縮材5の下端部より高い位置(本実施例では屋根1の外周構造7の頂部)に吊り支点Aを確保した引張材8が連結されている。この引張材8を引っ張って圧縮材5を吊り上げ、更に円周方向のケーブル2aを突き上げ、それに伴い前記円周方向のケーブル2a周辺の膜材3を突き上げている(図2及び図3を参照)。
【0016】
圧縮材5は円周方向のケーブル2aを突き上げるのに十分な強度を有する鋼管などから成り、前記円周方向のケーブル2aに連結された状態で、屋根1の外周構造7の頂部より低い位置まで到達する長さを有する。この圧縮材5は略等間隔の配置で、上下端部が連結金具(図示を省略)を用いて前記円周方向のケーブル2a(本実施例では円周方向のケーブル2aと放射方向のケーブル2bとの交差部)及び引張リング6に連結されている。
【0017】
引張材8…の一端は、屋根1の外部に設置された張力導入機構9(例えば、ウインチ等の巻き取り機)に連結されている。引張材8の他端は、屋根1の外周構造7の頂部に設けられた滑車(図示を省略)を吊り支点Aとし、同吊り支点Aから斜め下方に延び圧縮材5の下端部(即ち、圧縮材5と引張リング6とを連結する連結金具)に連結されている(図1(B)等を参照、請求項2記載の発明)。
【0018】
その結果、突き上げ機構4は360°(2πrad)全方向から引張材8によって引っ張られて安定した状態に維持されている。しかも引張材8の吊り支点Aは圧縮材5の下端部より高い位置に確保され、引張材8を引っ張ると、所謂滑車機構により圧縮材5を良好に吊り上げることができる構成とされている。
【0019】
つまり、上記突き上げ機構4はテンセグリティ理論に基づいてガイガー氏が発明したケーブルドーム構造(特許第1979658号公報を参照)を応用した構成とされており、張力導入機構9で引張材8を引っ張って圧縮材5を吊り上げることで、円周方向のケーブル2aを突き上げ、それに伴い前記円周方向のケーブル2a周辺の膜材3を突き上げているのである。よって、屋根1に局部的な凹みが生じず、雨水を処理する為の勾配を常に確保できるので、雨水が溜まり難く、所謂ポンディング現象の発生を防止できる(図1(B)、図3を参照)。
【0020】
また、図1(A)、(B)等に示した空気膜構造1はケーブル配置が円周・放射型の円形屋根とされているので、ケーブル配置が格子型の矩形屋根(例えば東京ドーム等の平面形状)に比べて、屋根1を構成する部材(例えば膜材を構成する膜片)を規格化し易く、同部材の種類を少なくできるので、施工性が良い。また、矩形屋根の場合は最下位の膜片が大きな三角形状となり、同膜片に大きな応力が作用する問題が生じるが、円形屋根の場合は前記のような問題が生じない。しかも矩形屋根に比べてケーブル交差部が少ないので、同交差部を固定する部材(通例クランプ)の個数を少なくでき、屋根荷重の軽減とコストの削減等に寄与できる。
【0021】
なお、上記実施例の張力導入機構9は屋根1の外部に設置されているが、図4に示すように屋根1の外周構造7の頂部に設置されていても良い。
【実施例2】
【0022】
図5(A)、(B)に示す空気膜構造10は、上記図1(A)、(B)等に示した空気膜構造1と略同様の構成であるが、最上位(平面的に見て屋根(以下、本実施例では空気膜構造10と同一符号を付する。)10の中央部分)に剛強なリングトラス11が配置されている。前記リングトラス11はケーブルに比べて重量があり、屋根10の内部の空気圧では十分に支持できずに、前記リングトラス11が垂れ下がり、それに伴い膜材3が引っ張られて屋根10の中央部分に凹みが生じるので、円周方向のケーブル2aだけでなく、リングトラス11にも突き上げ機構12が設けられている。
【0023】
前記突き上げ機構12は、上記実施例1の突き上げ機構4と略同様の構成とされ、リングトラス11に複数本の圧縮材13…の上端部が連結され、同圧縮材13の下端部は引張リング14で束ねられている。各々の圧縮材13の下端部に、放射方向に配置され、且つ前記圧縮材13の下端部より高い位置に吊り支点Bを確保した引張材15…が連結されているが、引張材15の配置が異なる(図5(B)及び図6を参照)。つまり、引張材15の一端は、屋根10の外部に設置された張力導入機構16に連結されている。引張材15の他端は、屋根10の外周構造17の頂部を通って放射方向のケーブル2bに沿って延び、更にリングトラス11の外側に隣接する円周方向のケーブル2aに連結された圧縮材5の上端部を吊り支点Bとし、同吊り支点Bから斜め下方に延び圧縮材13の下端部に連結されている(請求項2記載の発明)。その結果、引張材15の吊り支点Bは圧縮材13の下端部より高い位置に確保されている。
【0024】
つまり、上記突き上げ機構12もテンセグリティ理論に基づいて発明されたケーブルドーム構造と略同様の構成とされており、張力導入機構16で引張材15を引っ張って圧縮材13を吊り上げることで、リングトラス11を突き上げ、それに伴い前記リングトラス11周辺の膜材3を突き上げているのである。よって、屋根1に局部的な凹みが生じず、雨水を処理する為の勾配を常に確保できるので、雨水が溜まり難く、所謂ポンディング現象の発生を防止できる(図5(B)、図7を参照)。
【0025】
なお、上記実施例の張力導入機構9、16は屋根10の外部に設置されているが、図8に示すように屋根10の外周構造17の頂部に設置されていても良い。
【0026】
また、上記実施例の空気膜構造10はリングトラス11の外側に円周方向のケーブル2aが配置された構成であるが、図9(A)、(B)に示す空気膜構造100のようにリングトラス18が配置されていても同様に実施できる。この場合、図8に示した空気膜構造10と同様に、張力導入機構9、16が屋根1の外周構造17の頂部に設置されていても良い。
【実施例3】
【0027】
図5(B)や図9(B)に示した突き上げ機構12(4)はリングトラス11(18)に直接、圧縮材13(5)が連結されているが、図10に示すように、リングトラス11(18)と圧縮材13(5)との間にダンパー19が設けられた構成とされていると、膜材3の振動性状の改善、安全性の向上を図ることができる(請求項3記載の発明)。
【0028】
また、図11に示すようにリングトラス11(18)の下端部にキャットウォーク20等を設置したり、図12に示すように照明機器21等を設置することで、屋根の機能性を大きく向上させることができる。
【実施例4】
【0029】
以上に本発明の実施例を説明したが、本発明はこうした実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施し得る。例えば、圧縮材と各ケーブル又は引張材との連結部を回転可能な構成としたり、隣接する圧縮材の相互を補強材で連結する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】(A)は実施例1の空気膜構造を概略的に示した平面図である。(B)は(A)の縦断面図である。
【図2】屋根のケーブルと突き上げ機構との関係を示した斜視図である。
【図3】突き上げ機構によって膜材が突き上げられた状態を模式的に示した断面図である。
【図4】実施例1の異なる空気膜構造を概略的に示した縦断面図である。
【図5】(A)は実施例2の空気膜構造を概略的に示した平面図である。(B)は(A)の縦断面図である。
【図6】屋根のケーブルと突き上げ機構との関係を示した斜視図である。
【図7】突き上げ機構によって膜材が突き上げられた状態を模式的に示した断面図である。
【図8】実施例2の異なる空気膜構造を概略的に示した縦断面図である。
【図9】(A)は実施例2の更に異なる空気膜構造を概略的に示した平面図である。(B)は(A)の縦断面図である。
【図10】リングトラスと圧縮材との間にダンパーを設けた形態を示した立面図である。
【図11】リングトラスの下端部にキャットウォークを設置した形態を示した立面図である。
【図12】リングトラスの下端部に照明機材を吊り下げた形態を示した立面図である。
【符号の説明】
【0031】
1、10、100 空気膜構造(屋根)
2a 円周方向に配置されたケーブル
2b 放射方向に配置されたケーブル
3 膜材
4、12 突き上げ機構
5、13 圧縮材
6、14 引張リング
8、15 引張材
7、17 屋根の外周構造
9、16 張力導入機構
11、18 リングトラス
19 ダンパー
A、B 吊り支点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーブル等が放射方向と円周方向に配置されて成るケーブルネットの上面に膜材が接合され、ドーム屋根等の円形屋根構造として採用される空気膜構造において、
円周方向のケーブル又はリングトラスに突き上げ機構が設けられていること、
前記突き上げ機構は、前記ケーブル又はリングトラスに複数本の圧縮材の上端部が連結され、各々の圧縮材の下端部は引張リングで束ねられており、前記各々の圧縮材の下端部に、放射方向に配置され、且つ前記圧縮材の下端部より高い位置に吊り支点を確保した引張材が連結されて成り、前記引張材を引っ張って圧縮材を吊り上げ、更に上記ケーブル又はリングトラスを突き上げ、前記ケーブル又はリングトラス周辺の膜材を上方へ膨らませていることを特徴とする、空気膜構造。
【請求項2】
引張材は、一端が屋根外部又は屋根外周構造の頂部の張力導入機構に連結されており、他端は屋根外周構造の頂部に確保した吊り支点から斜め下方に延び圧縮材の下端部に、又は放射方向のケーブルに沿って延び、更に所定の位置に確保した吊り支点から斜め下方に延び圧縮材の下端部に連結されていることを特徴とする、請求項1に記載した空気膜構造。
【請求項3】
リングトラスと圧縮材との間にダンパーが設けられていることを特徴とする、請求項1又は2に記載した空気膜構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−169924(P2007−169924A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−365727(P2005−365727)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】