空気調和機
【課題】空気調和機において、ファン性能を維持しつつ、長期間にわたって貫流ファンの清掃が不要とすること。
【解決手段】空気調和機は、熱交換器33と、その上流に配置されたフィルタ231、231’と、このフィルタ231、231’を通過した空気を熱交換器33で熱交換するように送風する貫流ファン311と、この貫流ファン311からの気流を案内するスクロール部289と、このスクロール部289に連続して配置された吹出し口29と、この吹出し口29に配置された風向板291とを備える。貫流ファン311は樹脂母材の表面に金属皮膜を形成して成る。
【解決手段】空気調和機は、熱交換器33と、その上流に配置されたフィルタ231、231’と、このフィルタ231、231’を通過した空気を熱交換器33で熱交換するように送風する貫流ファン311と、この貫流ファン311からの気流を案内するスクロール部289と、このスクロール部289に連続して配置された吹出し口29と、この吹出し口29に配置された風向板291とを備える。貫流ファン311は樹脂母材の表面に金属皮膜を形成して成る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気調和機に係り、特に内部を清潔に維持するのに好適な空気調和機に関する。
【背景技術】
【0002】
空気調和機は、室内空気を熱交換器に循環させて、加熱、冷却または除湿した調和空気にし、これを室内に吹出すことにより室内環境を快適なものとする。このとき、循環空気中の塵埃を除去するフィルタを熱交換器の吸込み側に配置しているので、循環空気中の塵埃はフィルタで大半が捕集されるが、その一部はフィルタの網目を潜って空気調和機の内部に入る。
【0003】
この塵埃は、空気調和機内の風路に面したあらゆる壁に衝突し、跳ね返されて再び気流中に戻る。気流中に戻った塵埃は空気調和機の吹出し口から室内に戻ってゆく。しかし、塵埃中のあるものは、静電気的な力、重力の作用、化学的な親和力などの影響で跳ね返されずに壁に付着する。壁に付着した塵埃は、あるものは比較的短時間のうちに気流その他の影響で壁から剥離し、気流に乗って空気調和機の外に運び出され、あるものは、比較的長時間壁に付着したままとなる。このように、付着してから長時間経つと塵埃の種類によっては物理化学的に変化し、付着力を増すものや含まれるカビなどの菌類が成長し、その分泌物や菌糸などで壁に強固に付着するようになる。このようになると付着した塵埃で壁面の凹凸が大きくなったり、分泌物の粘性で空気中の塵埃が更に壁に付着し易くなると共に、菌類から悪臭が生じたり、カビ等の胞子が飛散するなどして室内の環境を悪化させる。
【0004】
内部の脱臭を目的とした従来の空気調和機としては、特開2000−320855号公報(特許文献1)に示されたものがある。この特許文献1には、貫流ファンにおけるアルミの羽根の表面に光触媒層を形成し、貫流ファン内部に光源を配置すると共に、本体の樹脂内壁にアルミやステンレスの箔や薄板を張り付けるか、めっき処理して反射材を形成することが述べられている。
【0005】
【特許文献1】特開2000−320855号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の空気調和機では、アルミの羽根を用いているため、羽根形状を流線形にすることができず、流線形の樹脂羽根に比較してファン性能が劣ると、いう課題があった。また、流線形の樹脂羽根に光触媒層を形成することが考えられるが、この場合には光触媒作用により樹脂羽根が劣化してしまう、という課題が生ずる。一方、横幅寸法が大きい空気調和機において、本体の樹脂内壁にアルミやステンレスの箔や薄板を張り付けると、アルミやステンレスと樹脂内壁との熱膨張差による熱収縮によってアルミやステンレスが破損するおそれがあった。
【0007】
本発明の第1の目的は、ファン性能を維持しつつ、長期間にわたって貫流ファンの清掃が不要な空気調和機を提供することにある。
【0008】
本発明の第2の目的は、長期間にわたって吹出し風路の清掃が不要な空気調和機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の第1の目的を達成するための本発明の第1の態様は、熱交換器と、前記熱交換器の上流に配置されたフィルタと、前記フィルタを通過した空気を前記熱交換器で熱交換するように送風する貫流ファンと、この貫流ファンからの気流を案内するスクロール部と、このスクロール部に連続して配置された吹出し口と、この吹出し口に配置された風向板とを備える空気調和機において、前記貫流ファンは樹脂母材の表面に金属皮膜を形成して成るものである。
【0010】
係る本発明の第1の態様におけるより好ましい具体的構成例は次の通りである。
(1)前記貫流ファンは樹脂母材の表面にステンレスをスパッタリングして前記金属皮膜を形成して成ること。
(2)前記貫流ファンは、軸方向に間隔を空けて複数設けられた円板と、前記円板の間に延び且つ前記円板の周縁に沿って多数設けられた羽根と、ゴム部材を介して前記円板の一つに取付けられたボスとを備え、前記円板及び前記羽根はその樹脂製母材の表面に前記ゴム部材をマスキングした状態でステンレスをスパッタリングして成ること。
(3)前記フィルタは樹脂母材の少なくとも空気吸込み側の表面にステンレスをスパッタリングして成ること。
(4)前記スクロール部は、ステンレス板を樹脂スクロール部の風路側に重ね合わせて前記樹脂スクロール部との熱膨張差を吸収可能な構造で取付けたこと。
(5)前記吹出し口の風路面の少なくとも一面は樹脂製母材の表面に金属皮膜を形成して成ること。
(6)、前記吹出し口を構成する露受皿の熱交換器から流下する凝縮水を受ける水受け面若しくは前記吹出し口を構成する部材の電気品取付け面に金属皮膜を形成しないこと。
(7)前記風向板は空気調和機運転時に前記吹出し口から吹出す風向を上下方向に変えると共に空気調和機停止時に前記吹出し口を閉じる上下風向板を備え、前記上下風向板は、ステンレス板を樹脂風向板の裏側に重ね合わせて前記樹脂風向板との熱膨張差を吸収可能な構造で取付けたこと。
【0011】
また、前述の第2の目的を達成するための本発明の第2の態様は、前記熱交換器の上流に配置されたフィルタと、前記フィルタを通過した空気を前記熱交換器で熱交換するように送風する貫流ファンと、この貫流ファンからの気流を案内するスクロール部と、このスクロール部に連続して配置された吹出し口と、この吹出し口に配置された風向板とを備える空気調和機において、前記スクロール部は、ステンレス板を樹脂スクロール部の風路側に重ね合わせて前記樹脂スクロール部との熱膨張差を吸収可能な構造で取付けたものである。
【0012】
また、前述の第2の目的を達成するための本発明の第3の態様は、熱交換器と、前記熱交換器の上流に配置されたフィルタと、前記フィルタを通過した空気を前記熱交換器で熱交換するように送風する貫流ファンと、この貫流ファンからの気流を案内するスクロール部と、このスクロール部に連続して配置された吹出し口と、この吹出し口に配置された風向板とを備える空気調和機において、前記風向板は空気調和機運転時に前記吹出し口から吹出す風向を上下方向に変えると共に空気調和機停止時に前記吹出し口を閉じる上下風向板を備え、前記上下風向板は、ステンレス板を樹脂風向板の裏側に重ね合わせて前記樹脂風向板との熱膨張差を吸収可能な構造で取付けたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ファン性能を維持しつつ、長期間にわたって貫流ファンの清掃が不要な空気調和機を提供することができる。
【0014】
また、本発明によれば、長期間にわたって吹出し風路の清掃が不要な空気調和機を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施例に係る空気調和機について図を用いて説明する。
【0016】
まず、本実施例の空気調和機1の全体構成を、図1〜3を用いて説明する。図1は本実施例の空気調和機1の構成図、図2は図1の室内機2の化粧枠23を取外して左方向から見た斜視図、図3は図1の室内機2の側断面斜視図である。
【0017】
図1において、空気調和機1は、室内機2と室外機6とを接続配管8で繋いで構成され、室内を空気調和する。室内機2の筐体21には貫流ファン311、フィルタ231、231’、熱交換器33、露受皿35、上下風向板291、左右風向板295等の基本的な内部構造体が取付けられる。そして、筐体21の内側に取付けられた貫流ファン311等の基本的な内部構造体は、化粧枠23を取付けることにより室内機2内に内包される。化粧枠23の前面には前面パネル25が取付けられている。前面パネル25の下方には運転状況を表示する表示部397と、別体のリモコン5からの赤外線の操作信号を受ける受光部396とが配置されている。
【0018】
室内機2には、室内空気を吸い込む空気吸込み口27と、温湿度が調和された空気を吹出す空気吹出し口29とが上下に位置して設けられている。そして、貫流ファン311からの吹出し気流を貫流ファン311の長さに略等しい幅を持つ吹出し風路290に流し、吹出し風路290途中に配した左右風向板295で気流の左右方向を偏向し、更に、吹出し口29に付けた上下風向板291によって気流の上下方向を偏向し、室内に吹出すように構成されている。
【0019】
化粧枠23の下面に形成される空気吹出し口29は、前面パネル25との分割部に隣接して配置され、奥の吹出し風路290に連通している。2枚の上下風向板291は閉鎖状態で吹出し風路290をほぼ隠蔽して、室内機2の底面に連続した大きな曲面を形成する。そして、上下風向板291は両端部に設けた回動軸を支点にして、リモコン5からの指示に応じて、駆動モータにより、空気調和機の運転時に所要の角度回動し空気吹出し口29を開き、その状態を保持する。空気調和機の運転停止時には、空気吹出し口29を閉じるように制御される。
【0020】
また、左右風向板295は下端部に設けた回動軸を支点にして、図示しない駆動モータにより回動可能に構成され、リモコン5からの指示に応じて回動してその状態を保持し、吹出し空気を左右の所望の方向に吹出させる。なお、リモコン5から指示することにより、空気調和機の運転中に上下風向板291、左右風向板295を周期的に揺動させ、室内の広範囲に周期的に吹出し空気を送ることもできる。
【0021】
また、吸込み側の可動パネル251は駆動モータを回転させることにより、下部に設けた回動軸を支点として回動される。この可動パネル251は、空気調和機の運転時に前側空気吸込部230’を開き、前側空気吸込部230’からも室内空気を室内機内に吸引し、空気調和機の停止時には、前側空気吸込部230’を閉じるように制御される。
【0022】
そして、本実施例に係る室内機2によれば、停止時は空気吹出し風路290と前側空気吸込部230’を上下風向板291と可動パネル251で隠蔽してインテリアに調和させている。運転時には上下風向板291、左右風向板295をリモコン5からの指示に応じて回動させる。これと共に、可動パネル251を開いて前側空気吸込部230’及び上側空気吸込部230から室内空気を吸込む。吸込んだ室内空気を内部の熱交換器33で冷風または温風にして前記空気吹出口29から吹出すことができる。
【0023】
この空気調和機1を運転する時には、電源をオンしてリモコン5を操作し、所望の冷房、除湿、暖房等の運転を行う。
【0024】
冷房等の運転の場合、貫流ファン311の前方の部分の熱交換器33に室内空気を通すため、図3の如く、前面パネル25の一部を構成する可動パネル251を回動させて開く。上側空気吸込部230及び開いた可動パネル251の奥の化粧枠23の前側空気吸込部230’を通して熱交換器33に室内空気を流通させる。
【0025】
室内機2は、内部に図示しない電装品ボックスに制御基板を備え、該制御基板に制御装置であるマイコンが設けられる。該マイコンは図示しない室内温度センサ、室内湿度センサ等の各種のセンサからの信号を受け、リモコン5からの操作信号を受光部396で受けると共に、貫流ファン311、可動パネル駆動モータ、上下風向板駆動モータ、左右風向板駆動モータ等を制御し、且つ、室外機との通信を司るなど、室内機2を統括して制御する。
【0026】
室内機2は、運転停止状態で、図13に一点鎖線で示すように、可動パネル251及び上下風向板291が閉鎖された状態となっている。この状態で、リモコン5から運転操作の信号がなされると、マイコンは、リモコン5からの操作信号または自動運転が設定されていれば各種センサからの情報に基づいて冷房、または暖房等の運転モードを決定する。該決定に基づいて可動パネル251及び上下風向板291を動作させて、気流の通路を開放状態にする。このとき、空気吸込み口230’が開放されるが室内からの視線は可動パネル251で遮られて室内機2の内部までは届かず、室内の雰囲気を崩すことは無い。
【0027】
つまり、マイコンは、図示しない駆動モータを動作させ、上下風向板291、左右風向板295をリモコン5からの指示に対応した吹出し角度まで回動する。また、マイコンは、前記上下風向板291の動作に連動して可動パネル251を開く可動パネル駆動モータを動作させる。
【0028】
次に、マイコンは、貫流ファン311を回転させ、上側及び前側の空気吸込部230、230’から室内空気を吸込み、この室内空気を熱交換器33で温風または冷風あるいは熱交換しないで空気吹出口29から吹出させるように制御する。一方、運転を停止する際は、マイコンは、貫流ファン311を停止させた後に、可動パネル251の駆動モータ及び上下風向板291の駆動モータを逆回転させ、閉の状態に戻すように制御する。
【0029】
フィルタ231は、吸い込まれた室内空気中に含まれる塵埃を取り除くためのものであり、熱交換器33の吸込側を覆うように配置されている。貫流ファン311は、室内空気を空気吸込み口27から吸い込んで空気吹出し口29から吹出すように室内機2内の中央に配置されている。熱交換器33は貫流ファン311の吸込側に配置され、略逆V字状に形成されている。
【0030】
露受皿35は、熱交換器33の前後両側の下端部下方に配置され、冷房運転時や除湿運転時に熱交換器33に発生する凝縮水を受ける。受けて集められた凝縮水はドレン配管37を通して室外に排出される。
【0031】
これらによって、空調される室内空気を流す主風路が形成される。即ち、貫流ファン311を運転することで、室内空気は空気吸込み口27から吸い込まれ、フィルタ231、231’を介し、熱交換器33にて熱交換された後、空気吹出し口29から室内に吹出される。
【0032】
次に、フィルタ231について図4〜図8を用いて説明する。図4はフィルタの樹脂繊維網にスパッタリング加工を施した状態を表す図である。図5はフィルタの樹脂繊維網にスパッタリング加工を施し、さらにカレンダーロール加工を施した状態の説明図である。図6はフィルタの好適範囲説明図である。図7はフィルタの線径とオープニングの関係を示したグラフである。図8はフィルタのスパッタリング加工を施した樹脂繊維網の抗菌試験結果である。
【0033】
フィルタ231に埃が多く付着すると空気の流れの抵抗となり熱交換器33の熱交換性能が低下するため冷凍サイクルの能力が低下してしまう。このため、定期的にフィルタ231を清掃する必要がある。フィルタ231の清掃は、掃除機等を使用して埃を除去した後、スポンジや柔らかいブラシなどに洗剤等を付け、吸引しきれなかった埃や汚れを洗い落としていた。
【0034】
一般的に、フィルタ231はラウンドしている空気調和機1正面及び上面の空気吸込み口230、230’の全面を塞ぐように取付けてあり、定期的な洗浄を必要とするため使用者の着脱作業が頻繁に行われる。この際、空気調和機1への取付けガイドに沿って滑らせるように着脱する。このため、着脱の際の取扱が小さな力で容易にできるように、また、繰返し変形でも破断しないようにフィルタ枠232、樹脂繊維網231a共にPP、PET、ABS等樹脂で成形する必要がある。
【0035】
また、フィルタ枠232に対する樹脂繊維網231aの取付面は、室内空気の吸気気流に対して上流側、下流側のどちら側に取付けてもよい。しかし、前述のように、従来はフィルタ231清掃のための着脱時にはフィルタ231の表面がガイドに接触し傷付きやすいため、室内空気の吸気気流の上流側にフィルタ枠232を取付け、樹脂繊維網231aの傷付を防止していた。
【0036】
また、従来のフィルタ231の網は、PP、PET、ABS等樹脂が露出した表面である。このフィルタ231を構成する網の成型方法は、溶解した樹脂をノズルから射出し、冷却硬化する手法である。このため、樹脂が露出した網表面は、平滑に見えても細孔が沢山ある。これらの細孔に空気中を浮遊する粉塵やタバコの煙等が付着し、細孔に入り込むため、フィルタ231を定期的に洗浄しても細孔に入ってしまった粉塵等の汚れは容易に落とすことができない。
【0037】
また、樹脂繊維でできた網は、線径が細く、擦った際に傷付きやすい。このため、柔らかい刷毛で掃いても塵埃が取れるようにする必要がある。また、近年、清潔志向が高まる中、ハンドモップなど手軽に掃除できるツールが発売され、ハンドモップを使って汚れをサッと拭き取りたいというニーズが出てきた。また、自動でフィルタについた汚れを吸い取る掃除機構が開発されてきている。このお掃除機構の吸引力は床面を掃除する掃除機と比較して格段に弱い。このような弱い吸引力でもフィルタ231、231’についた汚れを剥離させる必要がある。このように、弱い力でフィルタ231を掃いてもフィルタ231に付いた汚れを剥離させ、汚れを落とすことができるフィルタ231が求められている。
【0038】
また、このような清潔志向に加え、安全志向も高まっており、その中でも抗菌機能をもつ抗菌加工製品の市場は年々拡大している。近年では住宅の高気密化に伴い湿気の増大や換気不足などの原因によって、細菌が繁殖しやすい生活環境となってきている。快適で衛生的な生活環境を実現するため、空気調和機による抗菌ニーズも増加している。
【0039】
本実施例のフィルタ231、231’の構成は、図3に示す通り、樹脂繊維網231a、231a’と樹脂繊維網231aを支持固定するためのフィルタ枠232、232’で構成される。従来のフィルタ231の樹脂繊維網231aは、PP、PET、ABS等樹脂が露出した表面であり、繊維の成型方法が溶解した樹脂をノズルから射出し、冷却され硬化する手法のため、樹脂が露出した表面は、平滑に見えても細孔が沢山ある。これらの穴に空気中を浮遊する粉塵やタバコの煙等が付着し細孔に入り込むため、フィルタ231をこまめに清掃しても細孔に入ってしまった粉塵等の汚れは落とすことができない。
【0040】
そこで、図4に示す樹脂繊維網231aの断面図のとおり、真空中でイオン化したアルゴンガスなどの不活性ガスをステンレスなどの金属に衝突させ、はじき飛ばされた金属粒子を樹脂繊維網231aに成膜させるスパッタリング加工により、樹脂繊維網231a表面にステンレスなどの金属皮膜231dを形成する。これにより樹脂繊維網231a表面の細孔を埋め、表面をナノサイズで平滑化することで、埃、汚れが剥離し易く、汚れの浸透を防ぐことができる。
【0041】
ここで、スパッタリング加工を施す面は、室内空気の吸気気流に対し、上流、下流の両面となる樹脂繊維網231a表面全体に施すことで、より埃の剥離性向上、汚れの浸透性を抑えることができるが、室内空気の吸気気流に対し上流側への加工のみでも充分に効果を得ることができ、低コスト化することも可能となる。
【0042】
さらに図5のように、樹脂繊維網231aに熱をかけながらローラで潰すカレンダーロール加工を施すことにより、縦繊維231bと横繊維231cの交差部分に平面部を形成することができ、樹脂繊維網231aをさらに平滑にすることで埃の剥離をしやすくさせることができる。
【0043】
また、樹脂製のフィルタ231を使用し、スポンジ、ブラシやハンドモップ等の軟質樹脂性の清掃用具を長時間、樹脂繊維網231aに接触させた時に起きる樹脂成分の移行がステンレスのスパッタリング部分で阻止され、フィルタ231面の荒れや毛先の変形などの、不具合を起こす恐れも無くなる。
【0044】
ここで、図6に樹脂繊維網231aの線のピッチを横軸に、線径を縦軸に取り、開口率、網強度と目開きの許容範囲を示す。網強度は線径を太くすれば上げることができる。清掃が適正に行われるためには網強度が8.5N/cm以上である必要がある。網強度が不足するとフィルタ231の変形が大きくなり清掃のときに掃き取れない部分が生じ、掃き残しができる。
【0045】
また、樹脂繊維網231aの全面積におけるメッシュの開口率は、空気調和機1の圧力損失を確保するためには、55%以上としなければならない。これは、空気調和機用のフィルタ231は、熱交換器33を目詰まりさせる比較的大きな埃を取り除くことを主目的としているためである。従って、熱交換器33の能力を落とすような開口率には設定することができない。開口率が決まっている場合、線材の線径を太くすると目開き(樹脂繊維網231aの糸と糸の距離、網目の大きさ)が広くなり、大きな埃が通過してしまうこととなる。この開口率60%における線径と目開きの関係を図7に示す。
【0046】
図6及び図7から次のことが分かる。開口率を一定にして線径を太くすれば網231aの強度は向上するが、目開きが大きくなり、大きな埃が通過してしまう。反対に線径を細くすれば目開きは小さくなるものの、今度は網231aの強度が低下して網の変形が大きくなる。
【0047】
例えば、線径が230μmを超えるとフィルタ231の網231aの強度は良好であるが、目開きが800μmとなり塵埃の捕集効率が低下する。
【0048】
このため、フィルタ231の線径を230μmに設定すると、800μm以下の塵埃は、原理的にフィルタ231のメッシュを通過してしまう。しかし、フィルタ231には、800μm以上の長繊維(糸くず)などが付着し、付着した糸くずに微細な塵埃もついて捕集することができるが、800μm以上の塵埃を通過させることは好ましくない。これは、一般的に熱交換器33のフィン間の距離は1.2mm前後であり、800μmはフィン間の隙間の65%よりも大きい67%の寸法の塵埃となる。このように大きな埃が同時に2個フィン間を通過することは困難であり、熱交換器33の目詰まりの原因となってしまう。そこで、本実施例では、一段階下の線径220μmで計算した目開き765μmを目開きの上限とした。これはフィン間距離の64%である。
【0049】
これらのことから、樹脂繊維網231aとしては樹脂繊維網231aの引張強さが8.5N/cm以上で且つ開口率が55%以上、目開きが765μm以下であることが望ましい。
【0050】
樹脂繊維網231aの引張強さが8.5N/cm未満では樹脂繊維網231aの強度が不足し、撓みやすくなり清掃に支障が出る。樹脂繊維網231aの材質がポリエチレンテレフタレートの場合を例に取り、これを図6に示すと、好適な範囲はAの曲線の上側の範囲となる。尚、Aの曲線は樹脂繊維網231aの材質によって上下し、概ね、材料の引張強度に応じて変化する。
【0051】
開口率が55%未満では樹脂繊維網231aを通る気流の速度の増減が大きく、通風抵抗が増加し好ましくない。好適な範囲を図6に示すと、Bの曲線の下側の範囲となる。
【0052】
目開きが765μmを超えると、熱交換器33のフィンの間に引っ掛かってしまう塵埃がフィルタ231を通過してしまい不都合である。また、目開きが大きいと自動清掃するときに、樹脂繊維1本毎に清掃用具がこれを乗り越える如くギクシャクと動き、滑らかに移動できず、騒音や振動の原因となり、フィルタ231上の塵埃を意図せずに落下させ、周囲を汚してしまう。好適な範囲を図6に示すと、Cの曲線の左側の範囲となる。
【0053】
以上により、好適な樹脂繊維網231aの範囲は図6の曲線A、B、Cに囲まれた領域となる。このように、網強度を8.5N/cm以上、目開き765μm以下開口率55%以上とすることで、網強度を適性に保持しつつ、大きな塵埃を通過させない、塵離れ汚れ落ちのよいフィルタ231を提供することができる。
【0054】
なお、前記スパッタリング加工及びカレンダーロール加工は、樹脂繊維網231aの一般的な構造であるハニカム織り、平織りどちらに施してもよい。
【0055】
ここで、樹脂繊維網231aの構造が、立体的に織ったハニカム構造であると、埃が樹脂繊維網231aにぶつかりやすく埃の捕集効率が高いが、平滑ではないため清掃用具で汚れを拭き取っても凹凸の凹の部分に埃が残ってしまう。
【0056】
そこで、フィルタ231の構造を平織り構造にすることでフィルタ231の表面をより平滑にすることができ、清掃しやすくなる。
【0057】
また、フィルタ枠232に対する樹脂繊維網231aの取付面は、室内空気の吸気気流に対し上流側、下流側のどちら側に取付けてもよい。ただし、フィルタ231は一般的にラウンドしている空気調和機1正面及び上面の空気吸込み口230、230’の全面を塞ぐように取付けてあり、定期的な洗浄を必要とするため使用者の着脱作業が頻繁に行われる。この際、空気調和機1への取付けガイドに沿って滑らせるように着脱するがフィルタ231の表面がガイドに接触し傷付きやすいため、室内空気の吸気気流の上流側にフィルタ枠232を取付け樹脂繊維網231aの傷付を防止していた。
【0058】
実施例のように、少なくともガイドと接触する樹脂繊維網231a、231a’の摺動部分にスパッタリング加工を施すことで金属皮膜231dで保護することができ、樹脂繊維網231a、231a’の傷付きを防止することができ、さらには、フィルタ枠232を室内空気の吸気気流の下流側に配置することができるため、埃が付着する面にフィルタ枠232による凹凸がなくなり掃除がしやすくなるというメリットがある。
【0059】
図8は、JISZ2801の規定に基づきステンレス材をスパッタリング加工した樹脂繊維網231aとスパッタリング加工なしの樹脂繊維網231aの抗菌性能評価の結果である。この測定は、公的な機関に依頼して行った。
【0060】
この結果によれば、黄色ブドウ球菌及び大腸菌の抗菌活性値である基準値2.0以上を満たし、前記菌の繁殖を抑制する効果が得られることが分かった。これにより、樹脂繊維網231aの表面にステンレス材の金属皮膜231dをスパッタリング加工で形成することで抗菌効果を得ることができ、近年の安全志向に対する抗菌ニーズに対応し快適で衛生的な生活環境を実現するため空気調和機を提供することができる。
【0061】
次に、図9、図10を参照しながら貫流ファン311について述べる。図9は貫流ファン311の斜視図、図10はステンレスのスパッタリングの有無を比較して示す貫流ファン表面の拡大写真である。
【0062】
一般に、空気調和機1の室内機2には、送風モータ313により駆動される貫流ファン311が使用され、送風騒音を低減するために羽根311aの翼形に工夫を凝らし、翼形の先端は丸みを有し、後部は先細りにし、いわゆる流線形に形成することが行われている。こうするために、貫流ファン311の材質を合成樹脂とし、射出成形などの方法で成形し、所望の翼型形状の羽根311aを得ている。
【0063】
しかし、合成樹脂を使用する成型方法は、溶解した樹脂をノズルから射出し、冷却硬化する手法であるため、樹脂の露出表面は、平滑に見えても細孔が沢山ある。特に、貫流ファン311は性能上羽根311aの厚さはできるだけ薄くすることが求められる一方、高速で回転するためその遠心力に耐えられ強度も求められている。このため、成形材料にガラス繊維などを加え強度を上げることが行われている。このように、ガラス繊維などで強化した樹脂を使用した成形品は、その表面に凹凸が生じ、更に、細孔が増える。これらの細孔に空気中を浮遊する塵埃が付着し、細孔に入り込み、細孔に入ってしまった塵埃は容易に落とすことができない。このように、樹脂表面に付着した塵埃は、前述のように時間が経過するにつれてより強固に付着するようになって、貫流ファン311に堆積し、カビの胞子を飛散させたり、悪臭を発したりするようになる。
【0064】
また、貫流ファン311は、前述の流線形の翼型形状の羽根311aが狭い間隔で多数並んでいるため、これを清掃する場合は、羽根311aの一枚づつを拭いたりして掃除しなければならず、羽根311aを変形させたり、折ったりする恐れが多分にある。また、貫流ファン311は横長の形状をしているため、清掃時の取扱で、捻ったりして変形させることも多く、このような場合、貫流ファン311の回転バランスが崩れ、室内機2に組み込んで運転した時に大きな振動を発してしまう。このように、貫流ファン311の清掃は困難が多い。
【0065】
本実施例では、貫流ファン311を樹脂製にしてステンレスのスパッタリングを施す。スパッタリング加工では、前述のようにステンレスの粒子が方向性無く降り注ぐので、貫流ファン311の羽根311aの翼面の全周に亘ってステンレスの薄い層が形成される。
【0066】
貫流ファン311は、具体的には、軸方向に間隔を空けて複数設けられた円板311bと、円板311bの間に延び且つ円板311bの周縁に沿って多数設けられた羽根311aと、ゴム部材311cを介して円板311bの一つに取付けられたボスとを備える。そして、円板311b及び羽根311bは、その樹脂製母材の表面にゴム部材311cをマスキングした状態でステンレスをスパッタリングして成る。これによって、ゴム部材311cの信頼性の低下を招くことがない。
【0067】
図10に示すようにステンレスのスパッタリングを施すと、貫流ファン311の表面の細孔が埋まり、凹凸が少なくなって表面の面粗さが6.0μmから2.8μmに減少し、平滑化されることで、塵埃が入り込む細孔が減少し、付着しにくくなる。また、かろうじて細孔に入り込んだ塵埃も他に足がかりにする細孔が近くにないので少しの力で剥離しやすくなり、貫流ファン311の回転時に起きる気流で吹き飛ばされるようになる。このように、付着した塵埃もすぐに剥離するのと、ステンレスのスパッタリング皮膜の抗菌作用で、塵埃に含まれているカビ等の成長が抑制され、菌糸を伸ばして貫流ファン311に固着することも無くなる。また、貫流ファン311の表面に塵埃が堆積しないので、貫流ファン311の空力性能が保持され、騒音の増加や風量の低下を招くこともない。
【0068】
次に、図11〜図14を用いて貫流ファン311下流のスクロール部289について説明する。図11は筐体の斜視図、図12は貫流ファン風路のスクロール部斜視図、図13は貫流ファンから下流の表面ステンレス化部品の分解斜視図、図14は室内機の側断面図である。
【0069】
図11に示すように、貫流ファン311の下流のスクロール部289は、筐体21に設けられた後縁287から下方に滑らかに続き、貫流ファン311から気流が安定して吹出されるように形成されている。このスクロール部289は後縁287に近づくにつれ貫流ファン311の羽根311aとの距離が近くなり、清掃のために、手の指を入れようとしても入り難く、無理に清掃を行うと貫流ファン311の羽根311aを変形させる恐れが多い。
【0070】
本実施例では、スクロール部289は、後縁287から下方に続く樹脂スクロール部の風路側にステンレス板を重ね合わせて構成されている。このステンレス板は、樹脂スクロール部との熱膨張差を吸収可能な取付け構造により複数箇所が取付けられている。この取付け構造は、具体的には、風路側からねじをステンレス板を貫通して樹脂スクロール部にねじ込み、ステンレス板とねじ頭部との間にワッシャを介在させると共に、ステンレス板のねじ貫通孔をねじの外径より大きくした構造である。これによって、室内温度の変化や冷房運転、暖房運転による通風空気温度の変化があっても、ステンレス板と樹脂スクロール部との熱膨張差を吸収することができ、信頼性を維持して固定状態を維持できる。
【0071】
ステンレス板により、スクロール部289が金属の平滑面となり、塵埃が付着しにくくなり、仮に付着しても貫流ファン311の回転時に起きる気流で吹き飛ばされるようになる。このように、付着した塵埃もすぐに剥離するのと、ステンレスの抗菌作用で、塵埃に含まれているカビ等の成長が抑制される。また、スクロール部289の表面に塵埃が堆積しないので、通風路の抵抗が増えず、貫流ファン311の空力性能が保持され、騒音の増加や風量の低下を招くこともない。
【0072】
また、筐体21を樹脂製にして筐体21にもスクロール部215を設け、図12に示すようなステンレス板のスクロール部289をこれに重ね合わせて設ける。
【0073】
これにより、複雑な形状のため、樹脂を成形して形成された筐体21の通風路面がステンレス板で覆われるため、前述と同様な効果が生ずる。更に、筐体21がステンレス板で補強されるため、筐体21が丈夫になり、輸送、取扱がし易くなる。また、ステンレス板の裏も筐体21の樹脂で構成されるので、ステンレス板より熱伝導が抑制され、無駄に逃げる熱が少なくなる。また、ステンレス板の背面に開口が設けられないからステンレス板と筐体21の間から調和空気が漏れ出すことが無く、洩れ周辺に露が付いたり、熱が無駄になったりすることがない。
【0074】
次に、図13〜図17を用いて室内機2の吹出し口29について説明する。図15は室内機2の化粧枠23を取外して右方向から見た斜視図、図16は露受皿35を下方から見た斜視図、図17は露受皿35を上方から見た斜視図である。
【0075】
一般に、空気調和機1の吹出し口29は、空気調和機1の使用時に使用者に見られる部分であるため曲線を多用した流麗な形状を持たせる必要がある。吹出し風路290の上壁290aは、貫流ファン311の前縁286から続いて、熱交換器33の下に設けられた凝縮水の露受皿35の受皿下面35bと、吹出し口の開口上縁290dに続く天井面290eで構成されている。吹出し風路290の下壁290bはスクロール先端部298、左右風向板295を支持する風向板ベース294などで構成されている。吹出し風路290の左右側壁290c、290c’は、露受皿35の受皿下面35bと天井面290eで構成された吹出し風路の上壁290aと風向板ベース294とを繋ぎ、上下風向板291の軸支部を備えた連結部297で構成されている。吹出し風路290内には、上下風向板291、左右風向板295、露受皿35の下面35bと風向板ベース294とを繋ぐ中間連結部297aなどが設けられている。このように、複雑な形状であるのに加えて、冷房時の冷風による露付きを軽減する必要があるため、吹出し口の構成部品は樹脂で射出成形されることが多い。
【0076】
吹出し風路290の側壁290c、290c’の片側の外側には、上下風向板291を駆動する上下風向板モ−タ111の取付部297bが設けられている。天井面290eの上面と露受皿35の前面の部分には、表示関係の電気品などの取付部35cが設けられている。
【0077】
本実施例では、吹出し風路の上壁290a(受皿下面35b、天井面290e)、吹出し風路の下壁290b(スクロール先端部298、風向板ベース294)、吹出し風路の左右側壁290c、290c’(連結部297)などの吹出し風路290に面している部分の樹脂製部品にステンレスのスパッタリングを施して金属皮膜を形成している。
【0078】
これにより、吹出し口29の表面の細孔を埋め、表面を平滑化することで、塵埃が入り込む細孔が激減し、付着しにくくなる。かろうじて細孔に入り込んだ塵埃も他に足がかりにする細孔が近くにないので少しの力で剥離しやすくなり、貫流ファン311の回転時に起きる気流で吹き飛ばされるようになる。このように、付着した塵埃もすぐに剥離するのと、ステンレスのスパッタリング皮膜の抗菌作用で、塵埃に含まれているカビ等の成長が抑制され、菌糸を伸ばして吹出し口に固着することも無くなる。また、吹出し口の表面に塵埃が堆積しないので、吹出し風路290の抵抗が増加せず、貫流ファン311の空力性能が保持され、騒音の増加や風量の低下を招くこともない。
【0079】
ここで、ステンレスのスパッタリングを施さないほうが良い部分について述べる。一般に、空気調和機1を接地すると、熱交換器33はこの接地電位になるよう構成されている。これは、熱交換器33が冷凍サイクルの構成部品で室内機2から室外機6に亘り、冷媒配管8で接続されているため、接地端子と容易に接触できることと、室内機2と室外機6との間を結ぶ冷媒配管8を接地の導体として利用できるためである。また、電気品の接地は、本体の接地端子と同電位の部分にするのが一般的である。このように、電気品の接地電位は熱交換器33の接地電位と同じになるので、空気調和機1の本体の接地が不完全な場合、浮遊容量により、熱交換器33の静電電位が上昇することが考えられ、このような場合に熱交換器33に触れても、危険の無い通電量に制限されるようになっている。
【0080】
しかし、近年、各種部品を駆動するアクチュエータとして小型のパルスモータが広く使用されるようになり、例えば、上下風向板291を駆動するモータ111、左右風向板295を左右のブロック別に駆動するモータ、可動パネル251を駆動するモータなどが使用されている。これらは、低圧の直流電源で駆動されていて、絶縁距離が短く、例えばその外筐が100V単位の高電位になると、外筐と内部端子との間で放電して、そのノイズが容易にリード線を伝わって、モータを制御している電子部品に伝わり、絶縁距離の小さなところで再び放電を起こしたり、誤動作を引き起こしたりする恐れがある。
【0081】
本実施例では、吹出し口29を構成する部品が熱交換器33から流下する凝縮水を受ける受皿部35a若しくは電気品取付部を有する面においては、ステンレスのスパッタリング部を有しない。
【0082】
これにより、空気調和機1の本体の接地が不完全な場合でも、熱交換器33の接地電位は受皿部35a内の凝縮水までに留まり、ステンレスのスパッタリングが施された受皿下面35bの吹出し風路上壁290aには達しない。また、電気品の取付け面にはステンレススパッタリングが施されていないので、電気部品の外筐などにノイズが乗るのを防ぐことができ、誤動作を防止できる。
【0083】
このため、ステンレスのスパッタリングが施されている吹出し口に手を触れても静電的なショックを回避できる。
【0084】
次に、図14を参照しながら風向板291について述べる。上下風向板291は、ステンレス板291aを樹脂風向板291bの裏側に重ね合わせて構成されている。ステンレス板291aにより、風向板291が金属の平滑面となり、塵埃が付着しにくくなり、仮に付着しても貫流ファン311の回転時に起きる気流で吹き飛ばされるようになる。このように、付着した塵埃もすぐに剥離するのと、ステンレスの抗菌作用で、塵埃に含まれているカビ等の成長が抑制される。また、風向板291の表面に塵埃が堆積しないので、通風路の抵抗が増えず、貫流ファン311の空力性能が保持され、騒音の増加や風量の低下を招くこともない。
【0085】
このステンレス板291aは、樹脂風向板291bとの熱膨張差を吸収可能な構造により取付けられている。この取付け構造は、具体的には、ステンレス板291aの一側端部がフック状に折り曲げられて樹脂風向板291bの一側端部を挟むように取付けられ、ステンレス板291aの他側端部が折返されて二重に形成され、その折返された先端部が樹脂風向板291bの他側端部の近傍に形成された段部に係止される構造である。これによって、室内温度の変化や冷房運転、暖房運転による通風空気温度の変化があっても、ステンレス板と樹脂スクロール部との熱膨張差を吸収することができ、信頼性を維持して固定状態を維持できる。
【0086】
なお、風向板291、295にステンレスをスパッタリングして金属皮膜を形成してもよい。これにより、上下風向板291、左右風向板295表面の細孔を埋め、表面を平滑化することで、塵埃が入り込む細孔が激減し、付着しにくくなる。かろうじて細孔に入り込んだ塵埃も他に足がかりにする細孔が近くにないので少しの力で剥離しやすくなり、貫流ファン311の回転時に起きる気流で吹き飛ばされるようになる。このように、付着した塵埃もすぐに剥離するのと、ステンレスのスパッタリング皮膜の抗菌作用で、塵埃に含まれているカビ等の成長が抑制され、菌糸を伸ばして上下風向板291、左右風向板295に固着することも無くなる。また、上下風向板291、左右風向板295の表面に塵埃が堆積しないので、上下風向板291、左右風向板295の通風路の抵抗が増加せず、貫流ファン311の空力性能が保持され、騒音の増加や風量の低下を招くこともない。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の一実施例に係る空気調和機の構成図である。
【図2】図1の室内機の化粧枠を取外して左方向から見た斜視図である。
【図3】図2の室内機の側断面斜視図である。
【図4】図3のフィルタの樹脂繊維網にスパッタリング加工を施した状態を表す図である。
【図5】図4のフィルタカレンダーロー加工を施した状態を表す図である。
【図6】のフィルタの好適範囲説明図である。
【図7】フィルタの線径とオープニングの関係を示したグラフである。
【図8】フィルタのスパッタリング加工を施した樹脂繊維網の抗菌試験結果である。
【図9】図3の貫流ファンの斜視図である。
【図10】図9の貫流ファンの表面の拡大写真である。
【図11】図3の室内機の筐体の斜視図である。
【図12】図3の室内機の貫流ファン風路のスクロール部の分解斜視図である。
【図13】図3の室内機の貫流ファンから下流の表面ステンレス化部品の分解斜視図である。
【図14】図3の室内機の側断面図である。
【図15】図3の室内機の化粧枠を取外して右方向から見た斜視図である。
【図16】図3の室内機の露受皿を下方から見た斜視図である。
【図17】図3の室内機の露受皿を上方から見た斜視図である。
【符号の説明】
【0088】
1…空気調和機、2…室内機、5…リモコン、6…室外機、8…接続配管、21…筐体、23…化粧枠、25…前面パネル、27…空気吸込み口、29…空気吹出し口、33…熱交換器、35…露受皿、35a…受皿部、35b…受皿下面、35c…電気品取付部、37…ドレン配管、111…上下風向板モータ、215…筐体のスクロール部、230、230’…空気吸込み部、231、231’…フィルタ、231a、231a’…樹脂繊維網、231b…縦繊維、231c…横繊維、231d…金属皮膜、232、232’…フィルタ枠、251…可動パネル、286…前縁、287…後縁、289…スクロール部、290…吹出し風路、290a…吹出し風路上壁、290b…吹出し風路下壁、290c…吹出し風路側壁、290d…開口上縁、290e…天井面、291…上下風向板、294…風向板ベース、295…左右風向板、297…連結部、297a…中間連結部、298…スクロール先端部、311…貫流ファン、311a…羽根、313…送風モータ、396…受光部、397…表示部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気調和機に係り、特に内部を清潔に維持するのに好適な空気調和機に関する。
【背景技術】
【0002】
空気調和機は、室内空気を熱交換器に循環させて、加熱、冷却または除湿した調和空気にし、これを室内に吹出すことにより室内環境を快適なものとする。このとき、循環空気中の塵埃を除去するフィルタを熱交換器の吸込み側に配置しているので、循環空気中の塵埃はフィルタで大半が捕集されるが、その一部はフィルタの網目を潜って空気調和機の内部に入る。
【0003】
この塵埃は、空気調和機内の風路に面したあらゆる壁に衝突し、跳ね返されて再び気流中に戻る。気流中に戻った塵埃は空気調和機の吹出し口から室内に戻ってゆく。しかし、塵埃中のあるものは、静電気的な力、重力の作用、化学的な親和力などの影響で跳ね返されずに壁に付着する。壁に付着した塵埃は、あるものは比較的短時間のうちに気流その他の影響で壁から剥離し、気流に乗って空気調和機の外に運び出され、あるものは、比較的長時間壁に付着したままとなる。このように、付着してから長時間経つと塵埃の種類によっては物理化学的に変化し、付着力を増すものや含まれるカビなどの菌類が成長し、その分泌物や菌糸などで壁に強固に付着するようになる。このようになると付着した塵埃で壁面の凹凸が大きくなったり、分泌物の粘性で空気中の塵埃が更に壁に付着し易くなると共に、菌類から悪臭が生じたり、カビ等の胞子が飛散するなどして室内の環境を悪化させる。
【0004】
内部の脱臭を目的とした従来の空気調和機としては、特開2000−320855号公報(特許文献1)に示されたものがある。この特許文献1には、貫流ファンにおけるアルミの羽根の表面に光触媒層を形成し、貫流ファン内部に光源を配置すると共に、本体の樹脂内壁にアルミやステンレスの箔や薄板を張り付けるか、めっき処理して反射材を形成することが述べられている。
【0005】
【特許文献1】特開2000−320855号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の空気調和機では、アルミの羽根を用いているため、羽根形状を流線形にすることができず、流線形の樹脂羽根に比較してファン性能が劣ると、いう課題があった。また、流線形の樹脂羽根に光触媒層を形成することが考えられるが、この場合には光触媒作用により樹脂羽根が劣化してしまう、という課題が生ずる。一方、横幅寸法が大きい空気調和機において、本体の樹脂内壁にアルミやステンレスの箔や薄板を張り付けると、アルミやステンレスと樹脂内壁との熱膨張差による熱収縮によってアルミやステンレスが破損するおそれがあった。
【0007】
本発明の第1の目的は、ファン性能を維持しつつ、長期間にわたって貫流ファンの清掃が不要な空気調和機を提供することにある。
【0008】
本発明の第2の目的は、長期間にわたって吹出し風路の清掃が不要な空気調和機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の第1の目的を達成するための本発明の第1の態様は、熱交換器と、前記熱交換器の上流に配置されたフィルタと、前記フィルタを通過した空気を前記熱交換器で熱交換するように送風する貫流ファンと、この貫流ファンからの気流を案内するスクロール部と、このスクロール部に連続して配置された吹出し口と、この吹出し口に配置された風向板とを備える空気調和機において、前記貫流ファンは樹脂母材の表面に金属皮膜を形成して成るものである。
【0010】
係る本発明の第1の態様におけるより好ましい具体的構成例は次の通りである。
(1)前記貫流ファンは樹脂母材の表面にステンレスをスパッタリングして前記金属皮膜を形成して成ること。
(2)前記貫流ファンは、軸方向に間隔を空けて複数設けられた円板と、前記円板の間に延び且つ前記円板の周縁に沿って多数設けられた羽根と、ゴム部材を介して前記円板の一つに取付けられたボスとを備え、前記円板及び前記羽根はその樹脂製母材の表面に前記ゴム部材をマスキングした状態でステンレスをスパッタリングして成ること。
(3)前記フィルタは樹脂母材の少なくとも空気吸込み側の表面にステンレスをスパッタリングして成ること。
(4)前記スクロール部は、ステンレス板を樹脂スクロール部の風路側に重ね合わせて前記樹脂スクロール部との熱膨張差を吸収可能な構造で取付けたこと。
(5)前記吹出し口の風路面の少なくとも一面は樹脂製母材の表面に金属皮膜を形成して成ること。
(6)、前記吹出し口を構成する露受皿の熱交換器から流下する凝縮水を受ける水受け面若しくは前記吹出し口を構成する部材の電気品取付け面に金属皮膜を形成しないこと。
(7)前記風向板は空気調和機運転時に前記吹出し口から吹出す風向を上下方向に変えると共に空気調和機停止時に前記吹出し口を閉じる上下風向板を備え、前記上下風向板は、ステンレス板を樹脂風向板の裏側に重ね合わせて前記樹脂風向板との熱膨張差を吸収可能な構造で取付けたこと。
【0011】
また、前述の第2の目的を達成するための本発明の第2の態様は、前記熱交換器の上流に配置されたフィルタと、前記フィルタを通過した空気を前記熱交換器で熱交換するように送風する貫流ファンと、この貫流ファンからの気流を案内するスクロール部と、このスクロール部に連続して配置された吹出し口と、この吹出し口に配置された風向板とを備える空気調和機において、前記スクロール部は、ステンレス板を樹脂スクロール部の風路側に重ね合わせて前記樹脂スクロール部との熱膨張差を吸収可能な構造で取付けたものである。
【0012】
また、前述の第2の目的を達成するための本発明の第3の態様は、熱交換器と、前記熱交換器の上流に配置されたフィルタと、前記フィルタを通過した空気を前記熱交換器で熱交換するように送風する貫流ファンと、この貫流ファンからの気流を案内するスクロール部と、このスクロール部に連続して配置された吹出し口と、この吹出し口に配置された風向板とを備える空気調和機において、前記風向板は空気調和機運転時に前記吹出し口から吹出す風向を上下方向に変えると共に空気調和機停止時に前記吹出し口を閉じる上下風向板を備え、前記上下風向板は、ステンレス板を樹脂風向板の裏側に重ね合わせて前記樹脂風向板との熱膨張差を吸収可能な構造で取付けたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ファン性能を維持しつつ、長期間にわたって貫流ファンの清掃が不要な空気調和機を提供することができる。
【0014】
また、本発明によれば、長期間にわたって吹出し風路の清掃が不要な空気調和機を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施例に係る空気調和機について図を用いて説明する。
【0016】
まず、本実施例の空気調和機1の全体構成を、図1〜3を用いて説明する。図1は本実施例の空気調和機1の構成図、図2は図1の室内機2の化粧枠23を取外して左方向から見た斜視図、図3は図1の室内機2の側断面斜視図である。
【0017】
図1において、空気調和機1は、室内機2と室外機6とを接続配管8で繋いで構成され、室内を空気調和する。室内機2の筐体21には貫流ファン311、フィルタ231、231’、熱交換器33、露受皿35、上下風向板291、左右風向板295等の基本的な内部構造体が取付けられる。そして、筐体21の内側に取付けられた貫流ファン311等の基本的な内部構造体は、化粧枠23を取付けることにより室内機2内に内包される。化粧枠23の前面には前面パネル25が取付けられている。前面パネル25の下方には運転状況を表示する表示部397と、別体のリモコン5からの赤外線の操作信号を受ける受光部396とが配置されている。
【0018】
室内機2には、室内空気を吸い込む空気吸込み口27と、温湿度が調和された空気を吹出す空気吹出し口29とが上下に位置して設けられている。そして、貫流ファン311からの吹出し気流を貫流ファン311の長さに略等しい幅を持つ吹出し風路290に流し、吹出し風路290途中に配した左右風向板295で気流の左右方向を偏向し、更に、吹出し口29に付けた上下風向板291によって気流の上下方向を偏向し、室内に吹出すように構成されている。
【0019】
化粧枠23の下面に形成される空気吹出し口29は、前面パネル25との分割部に隣接して配置され、奥の吹出し風路290に連通している。2枚の上下風向板291は閉鎖状態で吹出し風路290をほぼ隠蔽して、室内機2の底面に連続した大きな曲面を形成する。そして、上下風向板291は両端部に設けた回動軸を支点にして、リモコン5からの指示に応じて、駆動モータにより、空気調和機の運転時に所要の角度回動し空気吹出し口29を開き、その状態を保持する。空気調和機の運転停止時には、空気吹出し口29を閉じるように制御される。
【0020】
また、左右風向板295は下端部に設けた回動軸を支点にして、図示しない駆動モータにより回動可能に構成され、リモコン5からの指示に応じて回動してその状態を保持し、吹出し空気を左右の所望の方向に吹出させる。なお、リモコン5から指示することにより、空気調和機の運転中に上下風向板291、左右風向板295を周期的に揺動させ、室内の広範囲に周期的に吹出し空気を送ることもできる。
【0021】
また、吸込み側の可動パネル251は駆動モータを回転させることにより、下部に設けた回動軸を支点として回動される。この可動パネル251は、空気調和機の運転時に前側空気吸込部230’を開き、前側空気吸込部230’からも室内空気を室内機内に吸引し、空気調和機の停止時には、前側空気吸込部230’を閉じるように制御される。
【0022】
そして、本実施例に係る室内機2によれば、停止時は空気吹出し風路290と前側空気吸込部230’を上下風向板291と可動パネル251で隠蔽してインテリアに調和させている。運転時には上下風向板291、左右風向板295をリモコン5からの指示に応じて回動させる。これと共に、可動パネル251を開いて前側空気吸込部230’及び上側空気吸込部230から室内空気を吸込む。吸込んだ室内空気を内部の熱交換器33で冷風または温風にして前記空気吹出口29から吹出すことができる。
【0023】
この空気調和機1を運転する時には、電源をオンしてリモコン5を操作し、所望の冷房、除湿、暖房等の運転を行う。
【0024】
冷房等の運転の場合、貫流ファン311の前方の部分の熱交換器33に室内空気を通すため、図3の如く、前面パネル25の一部を構成する可動パネル251を回動させて開く。上側空気吸込部230及び開いた可動パネル251の奥の化粧枠23の前側空気吸込部230’を通して熱交換器33に室内空気を流通させる。
【0025】
室内機2は、内部に図示しない電装品ボックスに制御基板を備え、該制御基板に制御装置であるマイコンが設けられる。該マイコンは図示しない室内温度センサ、室内湿度センサ等の各種のセンサからの信号を受け、リモコン5からの操作信号を受光部396で受けると共に、貫流ファン311、可動パネル駆動モータ、上下風向板駆動モータ、左右風向板駆動モータ等を制御し、且つ、室外機との通信を司るなど、室内機2を統括して制御する。
【0026】
室内機2は、運転停止状態で、図13に一点鎖線で示すように、可動パネル251及び上下風向板291が閉鎖された状態となっている。この状態で、リモコン5から運転操作の信号がなされると、マイコンは、リモコン5からの操作信号または自動運転が設定されていれば各種センサからの情報に基づいて冷房、または暖房等の運転モードを決定する。該決定に基づいて可動パネル251及び上下風向板291を動作させて、気流の通路を開放状態にする。このとき、空気吸込み口230’が開放されるが室内からの視線は可動パネル251で遮られて室内機2の内部までは届かず、室内の雰囲気を崩すことは無い。
【0027】
つまり、マイコンは、図示しない駆動モータを動作させ、上下風向板291、左右風向板295をリモコン5からの指示に対応した吹出し角度まで回動する。また、マイコンは、前記上下風向板291の動作に連動して可動パネル251を開く可動パネル駆動モータを動作させる。
【0028】
次に、マイコンは、貫流ファン311を回転させ、上側及び前側の空気吸込部230、230’から室内空気を吸込み、この室内空気を熱交換器33で温風または冷風あるいは熱交換しないで空気吹出口29から吹出させるように制御する。一方、運転を停止する際は、マイコンは、貫流ファン311を停止させた後に、可動パネル251の駆動モータ及び上下風向板291の駆動モータを逆回転させ、閉の状態に戻すように制御する。
【0029】
フィルタ231は、吸い込まれた室内空気中に含まれる塵埃を取り除くためのものであり、熱交換器33の吸込側を覆うように配置されている。貫流ファン311は、室内空気を空気吸込み口27から吸い込んで空気吹出し口29から吹出すように室内機2内の中央に配置されている。熱交換器33は貫流ファン311の吸込側に配置され、略逆V字状に形成されている。
【0030】
露受皿35は、熱交換器33の前後両側の下端部下方に配置され、冷房運転時や除湿運転時に熱交換器33に発生する凝縮水を受ける。受けて集められた凝縮水はドレン配管37を通して室外に排出される。
【0031】
これらによって、空調される室内空気を流す主風路が形成される。即ち、貫流ファン311を運転することで、室内空気は空気吸込み口27から吸い込まれ、フィルタ231、231’を介し、熱交換器33にて熱交換された後、空気吹出し口29から室内に吹出される。
【0032】
次に、フィルタ231について図4〜図8を用いて説明する。図4はフィルタの樹脂繊維網にスパッタリング加工を施した状態を表す図である。図5はフィルタの樹脂繊維網にスパッタリング加工を施し、さらにカレンダーロール加工を施した状態の説明図である。図6はフィルタの好適範囲説明図である。図7はフィルタの線径とオープニングの関係を示したグラフである。図8はフィルタのスパッタリング加工を施した樹脂繊維網の抗菌試験結果である。
【0033】
フィルタ231に埃が多く付着すると空気の流れの抵抗となり熱交換器33の熱交換性能が低下するため冷凍サイクルの能力が低下してしまう。このため、定期的にフィルタ231を清掃する必要がある。フィルタ231の清掃は、掃除機等を使用して埃を除去した後、スポンジや柔らかいブラシなどに洗剤等を付け、吸引しきれなかった埃や汚れを洗い落としていた。
【0034】
一般的に、フィルタ231はラウンドしている空気調和機1正面及び上面の空気吸込み口230、230’の全面を塞ぐように取付けてあり、定期的な洗浄を必要とするため使用者の着脱作業が頻繁に行われる。この際、空気調和機1への取付けガイドに沿って滑らせるように着脱する。このため、着脱の際の取扱が小さな力で容易にできるように、また、繰返し変形でも破断しないようにフィルタ枠232、樹脂繊維網231a共にPP、PET、ABS等樹脂で成形する必要がある。
【0035】
また、フィルタ枠232に対する樹脂繊維網231aの取付面は、室内空気の吸気気流に対して上流側、下流側のどちら側に取付けてもよい。しかし、前述のように、従来はフィルタ231清掃のための着脱時にはフィルタ231の表面がガイドに接触し傷付きやすいため、室内空気の吸気気流の上流側にフィルタ枠232を取付け、樹脂繊維網231aの傷付を防止していた。
【0036】
また、従来のフィルタ231の網は、PP、PET、ABS等樹脂が露出した表面である。このフィルタ231を構成する網の成型方法は、溶解した樹脂をノズルから射出し、冷却硬化する手法である。このため、樹脂が露出した網表面は、平滑に見えても細孔が沢山ある。これらの細孔に空気中を浮遊する粉塵やタバコの煙等が付着し、細孔に入り込むため、フィルタ231を定期的に洗浄しても細孔に入ってしまった粉塵等の汚れは容易に落とすことができない。
【0037】
また、樹脂繊維でできた網は、線径が細く、擦った際に傷付きやすい。このため、柔らかい刷毛で掃いても塵埃が取れるようにする必要がある。また、近年、清潔志向が高まる中、ハンドモップなど手軽に掃除できるツールが発売され、ハンドモップを使って汚れをサッと拭き取りたいというニーズが出てきた。また、自動でフィルタについた汚れを吸い取る掃除機構が開発されてきている。このお掃除機構の吸引力は床面を掃除する掃除機と比較して格段に弱い。このような弱い吸引力でもフィルタ231、231’についた汚れを剥離させる必要がある。このように、弱い力でフィルタ231を掃いてもフィルタ231に付いた汚れを剥離させ、汚れを落とすことができるフィルタ231が求められている。
【0038】
また、このような清潔志向に加え、安全志向も高まっており、その中でも抗菌機能をもつ抗菌加工製品の市場は年々拡大している。近年では住宅の高気密化に伴い湿気の増大や換気不足などの原因によって、細菌が繁殖しやすい生活環境となってきている。快適で衛生的な生活環境を実現するため、空気調和機による抗菌ニーズも増加している。
【0039】
本実施例のフィルタ231、231’の構成は、図3に示す通り、樹脂繊維網231a、231a’と樹脂繊維網231aを支持固定するためのフィルタ枠232、232’で構成される。従来のフィルタ231の樹脂繊維網231aは、PP、PET、ABS等樹脂が露出した表面であり、繊維の成型方法が溶解した樹脂をノズルから射出し、冷却され硬化する手法のため、樹脂が露出した表面は、平滑に見えても細孔が沢山ある。これらの穴に空気中を浮遊する粉塵やタバコの煙等が付着し細孔に入り込むため、フィルタ231をこまめに清掃しても細孔に入ってしまった粉塵等の汚れは落とすことができない。
【0040】
そこで、図4に示す樹脂繊維網231aの断面図のとおり、真空中でイオン化したアルゴンガスなどの不活性ガスをステンレスなどの金属に衝突させ、はじき飛ばされた金属粒子を樹脂繊維網231aに成膜させるスパッタリング加工により、樹脂繊維網231a表面にステンレスなどの金属皮膜231dを形成する。これにより樹脂繊維網231a表面の細孔を埋め、表面をナノサイズで平滑化することで、埃、汚れが剥離し易く、汚れの浸透を防ぐことができる。
【0041】
ここで、スパッタリング加工を施す面は、室内空気の吸気気流に対し、上流、下流の両面となる樹脂繊維網231a表面全体に施すことで、より埃の剥離性向上、汚れの浸透性を抑えることができるが、室内空気の吸気気流に対し上流側への加工のみでも充分に効果を得ることができ、低コスト化することも可能となる。
【0042】
さらに図5のように、樹脂繊維網231aに熱をかけながらローラで潰すカレンダーロール加工を施すことにより、縦繊維231bと横繊維231cの交差部分に平面部を形成することができ、樹脂繊維網231aをさらに平滑にすることで埃の剥離をしやすくさせることができる。
【0043】
また、樹脂製のフィルタ231を使用し、スポンジ、ブラシやハンドモップ等の軟質樹脂性の清掃用具を長時間、樹脂繊維網231aに接触させた時に起きる樹脂成分の移行がステンレスのスパッタリング部分で阻止され、フィルタ231面の荒れや毛先の変形などの、不具合を起こす恐れも無くなる。
【0044】
ここで、図6に樹脂繊維網231aの線のピッチを横軸に、線径を縦軸に取り、開口率、網強度と目開きの許容範囲を示す。網強度は線径を太くすれば上げることができる。清掃が適正に行われるためには網強度が8.5N/cm以上である必要がある。網強度が不足するとフィルタ231の変形が大きくなり清掃のときに掃き取れない部分が生じ、掃き残しができる。
【0045】
また、樹脂繊維網231aの全面積におけるメッシュの開口率は、空気調和機1の圧力損失を確保するためには、55%以上としなければならない。これは、空気調和機用のフィルタ231は、熱交換器33を目詰まりさせる比較的大きな埃を取り除くことを主目的としているためである。従って、熱交換器33の能力を落とすような開口率には設定することができない。開口率が決まっている場合、線材の線径を太くすると目開き(樹脂繊維網231aの糸と糸の距離、網目の大きさ)が広くなり、大きな埃が通過してしまうこととなる。この開口率60%における線径と目開きの関係を図7に示す。
【0046】
図6及び図7から次のことが分かる。開口率を一定にして線径を太くすれば網231aの強度は向上するが、目開きが大きくなり、大きな埃が通過してしまう。反対に線径を細くすれば目開きは小さくなるものの、今度は網231aの強度が低下して網の変形が大きくなる。
【0047】
例えば、線径が230μmを超えるとフィルタ231の網231aの強度は良好であるが、目開きが800μmとなり塵埃の捕集効率が低下する。
【0048】
このため、フィルタ231の線径を230μmに設定すると、800μm以下の塵埃は、原理的にフィルタ231のメッシュを通過してしまう。しかし、フィルタ231には、800μm以上の長繊維(糸くず)などが付着し、付着した糸くずに微細な塵埃もついて捕集することができるが、800μm以上の塵埃を通過させることは好ましくない。これは、一般的に熱交換器33のフィン間の距離は1.2mm前後であり、800μmはフィン間の隙間の65%よりも大きい67%の寸法の塵埃となる。このように大きな埃が同時に2個フィン間を通過することは困難であり、熱交換器33の目詰まりの原因となってしまう。そこで、本実施例では、一段階下の線径220μmで計算した目開き765μmを目開きの上限とした。これはフィン間距離の64%である。
【0049】
これらのことから、樹脂繊維網231aとしては樹脂繊維網231aの引張強さが8.5N/cm以上で且つ開口率が55%以上、目開きが765μm以下であることが望ましい。
【0050】
樹脂繊維網231aの引張強さが8.5N/cm未満では樹脂繊維網231aの強度が不足し、撓みやすくなり清掃に支障が出る。樹脂繊維網231aの材質がポリエチレンテレフタレートの場合を例に取り、これを図6に示すと、好適な範囲はAの曲線の上側の範囲となる。尚、Aの曲線は樹脂繊維網231aの材質によって上下し、概ね、材料の引張強度に応じて変化する。
【0051】
開口率が55%未満では樹脂繊維網231aを通る気流の速度の増減が大きく、通風抵抗が増加し好ましくない。好適な範囲を図6に示すと、Bの曲線の下側の範囲となる。
【0052】
目開きが765μmを超えると、熱交換器33のフィンの間に引っ掛かってしまう塵埃がフィルタ231を通過してしまい不都合である。また、目開きが大きいと自動清掃するときに、樹脂繊維1本毎に清掃用具がこれを乗り越える如くギクシャクと動き、滑らかに移動できず、騒音や振動の原因となり、フィルタ231上の塵埃を意図せずに落下させ、周囲を汚してしまう。好適な範囲を図6に示すと、Cの曲線の左側の範囲となる。
【0053】
以上により、好適な樹脂繊維網231aの範囲は図6の曲線A、B、Cに囲まれた領域となる。このように、網強度を8.5N/cm以上、目開き765μm以下開口率55%以上とすることで、網強度を適性に保持しつつ、大きな塵埃を通過させない、塵離れ汚れ落ちのよいフィルタ231を提供することができる。
【0054】
なお、前記スパッタリング加工及びカレンダーロール加工は、樹脂繊維網231aの一般的な構造であるハニカム織り、平織りどちらに施してもよい。
【0055】
ここで、樹脂繊維網231aの構造が、立体的に織ったハニカム構造であると、埃が樹脂繊維網231aにぶつかりやすく埃の捕集効率が高いが、平滑ではないため清掃用具で汚れを拭き取っても凹凸の凹の部分に埃が残ってしまう。
【0056】
そこで、フィルタ231の構造を平織り構造にすることでフィルタ231の表面をより平滑にすることができ、清掃しやすくなる。
【0057】
また、フィルタ枠232に対する樹脂繊維網231aの取付面は、室内空気の吸気気流に対し上流側、下流側のどちら側に取付けてもよい。ただし、フィルタ231は一般的にラウンドしている空気調和機1正面及び上面の空気吸込み口230、230’の全面を塞ぐように取付けてあり、定期的な洗浄を必要とするため使用者の着脱作業が頻繁に行われる。この際、空気調和機1への取付けガイドに沿って滑らせるように着脱するがフィルタ231の表面がガイドに接触し傷付きやすいため、室内空気の吸気気流の上流側にフィルタ枠232を取付け樹脂繊維網231aの傷付を防止していた。
【0058】
実施例のように、少なくともガイドと接触する樹脂繊維網231a、231a’の摺動部分にスパッタリング加工を施すことで金属皮膜231dで保護することができ、樹脂繊維網231a、231a’の傷付きを防止することができ、さらには、フィルタ枠232を室内空気の吸気気流の下流側に配置することができるため、埃が付着する面にフィルタ枠232による凹凸がなくなり掃除がしやすくなるというメリットがある。
【0059】
図8は、JISZ2801の規定に基づきステンレス材をスパッタリング加工した樹脂繊維網231aとスパッタリング加工なしの樹脂繊維網231aの抗菌性能評価の結果である。この測定は、公的な機関に依頼して行った。
【0060】
この結果によれば、黄色ブドウ球菌及び大腸菌の抗菌活性値である基準値2.0以上を満たし、前記菌の繁殖を抑制する効果が得られることが分かった。これにより、樹脂繊維網231aの表面にステンレス材の金属皮膜231dをスパッタリング加工で形成することで抗菌効果を得ることができ、近年の安全志向に対する抗菌ニーズに対応し快適で衛生的な生活環境を実現するため空気調和機を提供することができる。
【0061】
次に、図9、図10を参照しながら貫流ファン311について述べる。図9は貫流ファン311の斜視図、図10はステンレスのスパッタリングの有無を比較して示す貫流ファン表面の拡大写真である。
【0062】
一般に、空気調和機1の室内機2には、送風モータ313により駆動される貫流ファン311が使用され、送風騒音を低減するために羽根311aの翼形に工夫を凝らし、翼形の先端は丸みを有し、後部は先細りにし、いわゆる流線形に形成することが行われている。こうするために、貫流ファン311の材質を合成樹脂とし、射出成形などの方法で成形し、所望の翼型形状の羽根311aを得ている。
【0063】
しかし、合成樹脂を使用する成型方法は、溶解した樹脂をノズルから射出し、冷却硬化する手法であるため、樹脂の露出表面は、平滑に見えても細孔が沢山ある。特に、貫流ファン311は性能上羽根311aの厚さはできるだけ薄くすることが求められる一方、高速で回転するためその遠心力に耐えられ強度も求められている。このため、成形材料にガラス繊維などを加え強度を上げることが行われている。このように、ガラス繊維などで強化した樹脂を使用した成形品は、その表面に凹凸が生じ、更に、細孔が増える。これらの細孔に空気中を浮遊する塵埃が付着し、細孔に入り込み、細孔に入ってしまった塵埃は容易に落とすことができない。このように、樹脂表面に付着した塵埃は、前述のように時間が経過するにつれてより強固に付着するようになって、貫流ファン311に堆積し、カビの胞子を飛散させたり、悪臭を発したりするようになる。
【0064】
また、貫流ファン311は、前述の流線形の翼型形状の羽根311aが狭い間隔で多数並んでいるため、これを清掃する場合は、羽根311aの一枚づつを拭いたりして掃除しなければならず、羽根311aを変形させたり、折ったりする恐れが多分にある。また、貫流ファン311は横長の形状をしているため、清掃時の取扱で、捻ったりして変形させることも多く、このような場合、貫流ファン311の回転バランスが崩れ、室内機2に組み込んで運転した時に大きな振動を発してしまう。このように、貫流ファン311の清掃は困難が多い。
【0065】
本実施例では、貫流ファン311を樹脂製にしてステンレスのスパッタリングを施す。スパッタリング加工では、前述のようにステンレスの粒子が方向性無く降り注ぐので、貫流ファン311の羽根311aの翼面の全周に亘ってステンレスの薄い層が形成される。
【0066】
貫流ファン311は、具体的には、軸方向に間隔を空けて複数設けられた円板311bと、円板311bの間に延び且つ円板311bの周縁に沿って多数設けられた羽根311aと、ゴム部材311cを介して円板311bの一つに取付けられたボスとを備える。そして、円板311b及び羽根311bは、その樹脂製母材の表面にゴム部材311cをマスキングした状態でステンレスをスパッタリングして成る。これによって、ゴム部材311cの信頼性の低下を招くことがない。
【0067】
図10に示すようにステンレスのスパッタリングを施すと、貫流ファン311の表面の細孔が埋まり、凹凸が少なくなって表面の面粗さが6.0μmから2.8μmに減少し、平滑化されることで、塵埃が入り込む細孔が減少し、付着しにくくなる。また、かろうじて細孔に入り込んだ塵埃も他に足がかりにする細孔が近くにないので少しの力で剥離しやすくなり、貫流ファン311の回転時に起きる気流で吹き飛ばされるようになる。このように、付着した塵埃もすぐに剥離するのと、ステンレスのスパッタリング皮膜の抗菌作用で、塵埃に含まれているカビ等の成長が抑制され、菌糸を伸ばして貫流ファン311に固着することも無くなる。また、貫流ファン311の表面に塵埃が堆積しないので、貫流ファン311の空力性能が保持され、騒音の増加や風量の低下を招くこともない。
【0068】
次に、図11〜図14を用いて貫流ファン311下流のスクロール部289について説明する。図11は筐体の斜視図、図12は貫流ファン風路のスクロール部斜視図、図13は貫流ファンから下流の表面ステンレス化部品の分解斜視図、図14は室内機の側断面図である。
【0069】
図11に示すように、貫流ファン311の下流のスクロール部289は、筐体21に設けられた後縁287から下方に滑らかに続き、貫流ファン311から気流が安定して吹出されるように形成されている。このスクロール部289は後縁287に近づくにつれ貫流ファン311の羽根311aとの距離が近くなり、清掃のために、手の指を入れようとしても入り難く、無理に清掃を行うと貫流ファン311の羽根311aを変形させる恐れが多い。
【0070】
本実施例では、スクロール部289は、後縁287から下方に続く樹脂スクロール部の風路側にステンレス板を重ね合わせて構成されている。このステンレス板は、樹脂スクロール部との熱膨張差を吸収可能な取付け構造により複数箇所が取付けられている。この取付け構造は、具体的には、風路側からねじをステンレス板を貫通して樹脂スクロール部にねじ込み、ステンレス板とねじ頭部との間にワッシャを介在させると共に、ステンレス板のねじ貫通孔をねじの外径より大きくした構造である。これによって、室内温度の変化や冷房運転、暖房運転による通風空気温度の変化があっても、ステンレス板と樹脂スクロール部との熱膨張差を吸収することができ、信頼性を維持して固定状態を維持できる。
【0071】
ステンレス板により、スクロール部289が金属の平滑面となり、塵埃が付着しにくくなり、仮に付着しても貫流ファン311の回転時に起きる気流で吹き飛ばされるようになる。このように、付着した塵埃もすぐに剥離するのと、ステンレスの抗菌作用で、塵埃に含まれているカビ等の成長が抑制される。また、スクロール部289の表面に塵埃が堆積しないので、通風路の抵抗が増えず、貫流ファン311の空力性能が保持され、騒音の増加や風量の低下を招くこともない。
【0072】
また、筐体21を樹脂製にして筐体21にもスクロール部215を設け、図12に示すようなステンレス板のスクロール部289をこれに重ね合わせて設ける。
【0073】
これにより、複雑な形状のため、樹脂を成形して形成された筐体21の通風路面がステンレス板で覆われるため、前述と同様な効果が生ずる。更に、筐体21がステンレス板で補強されるため、筐体21が丈夫になり、輸送、取扱がし易くなる。また、ステンレス板の裏も筐体21の樹脂で構成されるので、ステンレス板より熱伝導が抑制され、無駄に逃げる熱が少なくなる。また、ステンレス板の背面に開口が設けられないからステンレス板と筐体21の間から調和空気が漏れ出すことが無く、洩れ周辺に露が付いたり、熱が無駄になったりすることがない。
【0074】
次に、図13〜図17を用いて室内機2の吹出し口29について説明する。図15は室内機2の化粧枠23を取外して右方向から見た斜視図、図16は露受皿35を下方から見た斜視図、図17は露受皿35を上方から見た斜視図である。
【0075】
一般に、空気調和機1の吹出し口29は、空気調和機1の使用時に使用者に見られる部分であるため曲線を多用した流麗な形状を持たせる必要がある。吹出し風路290の上壁290aは、貫流ファン311の前縁286から続いて、熱交換器33の下に設けられた凝縮水の露受皿35の受皿下面35bと、吹出し口の開口上縁290dに続く天井面290eで構成されている。吹出し風路290の下壁290bはスクロール先端部298、左右風向板295を支持する風向板ベース294などで構成されている。吹出し風路290の左右側壁290c、290c’は、露受皿35の受皿下面35bと天井面290eで構成された吹出し風路の上壁290aと風向板ベース294とを繋ぎ、上下風向板291の軸支部を備えた連結部297で構成されている。吹出し風路290内には、上下風向板291、左右風向板295、露受皿35の下面35bと風向板ベース294とを繋ぐ中間連結部297aなどが設けられている。このように、複雑な形状であるのに加えて、冷房時の冷風による露付きを軽減する必要があるため、吹出し口の構成部品は樹脂で射出成形されることが多い。
【0076】
吹出し風路290の側壁290c、290c’の片側の外側には、上下風向板291を駆動する上下風向板モ−タ111の取付部297bが設けられている。天井面290eの上面と露受皿35の前面の部分には、表示関係の電気品などの取付部35cが設けられている。
【0077】
本実施例では、吹出し風路の上壁290a(受皿下面35b、天井面290e)、吹出し風路の下壁290b(スクロール先端部298、風向板ベース294)、吹出し風路の左右側壁290c、290c’(連結部297)などの吹出し風路290に面している部分の樹脂製部品にステンレスのスパッタリングを施して金属皮膜を形成している。
【0078】
これにより、吹出し口29の表面の細孔を埋め、表面を平滑化することで、塵埃が入り込む細孔が激減し、付着しにくくなる。かろうじて細孔に入り込んだ塵埃も他に足がかりにする細孔が近くにないので少しの力で剥離しやすくなり、貫流ファン311の回転時に起きる気流で吹き飛ばされるようになる。このように、付着した塵埃もすぐに剥離するのと、ステンレスのスパッタリング皮膜の抗菌作用で、塵埃に含まれているカビ等の成長が抑制され、菌糸を伸ばして吹出し口に固着することも無くなる。また、吹出し口の表面に塵埃が堆積しないので、吹出し風路290の抵抗が増加せず、貫流ファン311の空力性能が保持され、騒音の増加や風量の低下を招くこともない。
【0079】
ここで、ステンレスのスパッタリングを施さないほうが良い部分について述べる。一般に、空気調和機1を接地すると、熱交換器33はこの接地電位になるよう構成されている。これは、熱交換器33が冷凍サイクルの構成部品で室内機2から室外機6に亘り、冷媒配管8で接続されているため、接地端子と容易に接触できることと、室内機2と室外機6との間を結ぶ冷媒配管8を接地の導体として利用できるためである。また、電気品の接地は、本体の接地端子と同電位の部分にするのが一般的である。このように、電気品の接地電位は熱交換器33の接地電位と同じになるので、空気調和機1の本体の接地が不完全な場合、浮遊容量により、熱交換器33の静電電位が上昇することが考えられ、このような場合に熱交換器33に触れても、危険の無い通電量に制限されるようになっている。
【0080】
しかし、近年、各種部品を駆動するアクチュエータとして小型のパルスモータが広く使用されるようになり、例えば、上下風向板291を駆動するモータ111、左右風向板295を左右のブロック別に駆動するモータ、可動パネル251を駆動するモータなどが使用されている。これらは、低圧の直流電源で駆動されていて、絶縁距離が短く、例えばその外筐が100V単位の高電位になると、外筐と内部端子との間で放電して、そのノイズが容易にリード線を伝わって、モータを制御している電子部品に伝わり、絶縁距離の小さなところで再び放電を起こしたり、誤動作を引き起こしたりする恐れがある。
【0081】
本実施例では、吹出し口29を構成する部品が熱交換器33から流下する凝縮水を受ける受皿部35a若しくは電気品取付部を有する面においては、ステンレスのスパッタリング部を有しない。
【0082】
これにより、空気調和機1の本体の接地が不完全な場合でも、熱交換器33の接地電位は受皿部35a内の凝縮水までに留まり、ステンレスのスパッタリングが施された受皿下面35bの吹出し風路上壁290aには達しない。また、電気品の取付け面にはステンレススパッタリングが施されていないので、電気部品の外筐などにノイズが乗るのを防ぐことができ、誤動作を防止できる。
【0083】
このため、ステンレスのスパッタリングが施されている吹出し口に手を触れても静電的なショックを回避できる。
【0084】
次に、図14を参照しながら風向板291について述べる。上下風向板291は、ステンレス板291aを樹脂風向板291bの裏側に重ね合わせて構成されている。ステンレス板291aにより、風向板291が金属の平滑面となり、塵埃が付着しにくくなり、仮に付着しても貫流ファン311の回転時に起きる気流で吹き飛ばされるようになる。このように、付着した塵埃もすぐに剥離するのと、ステンレスの抗菌作用で、塵埃に含まれているカビ等の成長が抑制される。また、風向板291の表面に塵埃が堆積しないので、通風路の抵抗が増えず、貫流ファン311の空力性能が保持され、騒音の増加や風量の低下を招くこともない。
【0085】
このステンレス板291aは、樹脂風向板291bとの熱膨張差を吸収可能な構造により取付けられている。この取付け構造は、具体的には、ステンレス板291aの一側端部がフック状に折り曲げられて樹脂風向板291bの一側端部を挟むように取付けられ、ステンレス板291aの他側端部が折返されて二重に形成され、その折返された先端部が樹脂風向板291bの他側端部の近傍に形成された段部に係止される構造である。これによって、室内温度の変化や冷房運転、暖房運転による通風空気温度の変化があっても、ステンレス板と樹脂スクロール部との熱膨張差を吸収することができ、信頼性を維持して固定状態を維持できる。
【0086】
なお、風向板291、295にステンレスをスパッタリングして金属皮膜を形成してもよい。これにより、上下風向板291、左右風向板295表面の細孔を埋め、表面を平滑化することで、塵埃が入り込む細孔が激減し、付着しにくくなる。かろうじて細孔に入り込んだ塵埃も他に足がかりにする細孔が近くにないので少しの力で剥離しやすくなり、貫流ファン311の回転時に起きる気流で吹き飛ばされるようになる。このように、付着した塵埃もすぐに剥離するのと、ステンレスのスパッタリング皮膜の抗菌作用で、塵埃に含まれているカビ等の成長が抑制され、菌糸を伸ばして上下風向板291、左右風向板295に固着することも無くなる。また、上下風向板291、左右風向板295の表面に塵埃が堆積しないので、上下風向板291、左右風向板295の通風路の抵抗が増加せず、貫流ファン311の空力性能が保持され、騒音の増加や風量の低下を招くこともない。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の一実施例に係る空気調和機の構成図である。
【図2】図1の室内機の化粧枠を取外して左方向から見た斜視図である。
【図3】図2の室内機の側断面斜視図である。
【図4】図3のフィルタの樹脂繊維網にスパッタリング加工を施した状態を表す図である。
【図5】図4のフィルタカレンダーロー加工を施した状態を表す図である。
【図6】のフィルタの好適範囲説明図である。
【図7】フィルタの線径とオープニングの関係を示したグラフである。
【図8】フィルタのスパッタリング加工を施した樹脂繊維網の抗菌試験結果である。
【図9】図3の貫流ファンの斜視図である。
【図10】図9の貫流ファンの表面の拡大写真である。
【図11】図3の室内機の筐体の斜視図である。
【図12】図3の室内機の貫流ファン風路のスクロール部の分解斜視図である。
【図13】図3の室内機の貫流ファンから下流の表面ステンレス化部品の分解斜視図である。
【図14】図3の室内機の側断面図である。
【図15】図3の室内機の化粧枠を取外して右方向から見た斜視図である。
【図16】図3の室内機の露受皿を下方から見た斜視図である。
【図17】図3の室内機の露受皿を上方から見た斜視図である。
【符号の説明】
【0088】
1…空気調和機、2…室内機、5…リモコン、6…室外機、8…接続配管、21…筐体、23…化粧枠、25…前面パネル、27…空気吸込み口、29…空気吹出し口、33…熱交換器、35…露受皿、35a…受皿部、35b…受皿下面、35c…電気品取付部、37…ドレン配管、111…上下風向板モータ、215…筐体のスクロール部、230、230’…空気吸込み部、231、231’…フィルタ、231a、231a’…樹脂繊維網、231b…縦繊維、231c…横繊維、231d…金属皮膜、232、232’…フィルタ枠、251…可動パネル、286…前縁、287…後縁、289…スクロール部、290…吹出し風路、290a…吹出し風路上壁、290b…吹出し風路下壁、290c…吹出し風路側壁、290d…開口上縁、290e…天井面、291…上下風向板、294…風向板ベース、295…左右風向板、297…連結部、297a…中間連結部、298…スクロール先端部、311…貫流ファン、311a…羽根、313…送風モータ、396…受光部、397…表示部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱交換器と、前記熱交換器の上流に配置されたフィルタと、前記フィルタを通過した空気を前記熱交換器で熱交換するように送風する貫流ファンと、この貫流ファンからの気流を案内するスクロール部と、このスクロール部に連続して配置された吹出し口と、この吹出し口に配置された風向板とを備える空気調和機において、
前記貫流ファンは樹脂母材の表面に金属皮膜を形成して成ることを特徴とする空気調和機。
【請求項2】
請求項1において、前記貫流ファンは樹脂母材の表面にステンレスをスパッタリングして前記金属皮膜を形成して成ることを特徴とする空気調和機。
【請求項3】
請求項2において、前記貫流ファンは、軸方向に間隔を空けて複数設けられた円板と、前記円板の間に延び且つ前記円板の周縁に沿って多数設けられた羽根と、ゴム部材を介して前記円板の一つに取付けられたボスとを備え、前記円板及び前記羽根はその樹脂製母材の表面に前記ゴム部材をマスキングした状態でステンレスをスパッタリングして成ることを特徴とする空気調和機。
【請求項4】
請求項1または2において、前記フィルタは樹脂母材の少なくとも空気吸込み側の表面にステンレスをスパッタリングして成ることを特徴とする空気調和機。
【請求項5】
請求項1または2において、前記スクロール部は、ステンレス板を樹脂スクロール部の風路側に重ね合わせて前記樹脂スクロール部との熱膨張差を吸収可能な構造で取付けたことを特徴とする空気調和機。
【請求項6】
請求項1または2において、前記吹出し口の風路面の少なくとも一面は樹脂製母材の表面に金属皮膜を形成して成ることを特徴とする空気調和機。
【請求項7】
請求項6において、前記吹出し口を構成する露受皿の熱交換器から流下する凝縮水を受ける水受け面若しくは前記吹出し口を構成する部材の電気品取付け面に金属皮膜を形成しないことを特徴とする空気調和機。
【請求項8】
請求項1または2において、前記風向板は空気調和機運転時に前記吹出し口から吹出す風向を上下方向に変えると共に空気調和機停止時に前記吹出し口を閉じる上下風向板を備え、前記上下風向板は、ステンレス板を樹脂風向板の裏側に重ね合わせて前記樹脂風向板との熱膨張差を吸収可能な構造で取付けたことを特徴とする空気調和機。
【請求項9】
熱交換器と、前記熱交換器の上流に配置されたフィルタと、前記フィルタを通過した空気を前記熱交換器で熱交換するように送風する貫流ファンと、この貫流ファンからの気流を案内するスクロール部と、このスクロール部に連続して配置された吹出し口と、この吹出し口に配置された風向板とを備える空気調和機において、
前記スクロール部は、ステンレス板を樹脂スクロール部の風路側に重ね合わせて前記樹脂スクロール部との熱膨張差を吸収可能な構造で取付けたことを特徴とする空気調和機。
【請求項10】
熱交換器と、前記熱交換器の上流に配置されたフィルタと、前記フィルタを通過した空気を前記熱交換器で熱交換するように送風する貫流ファンと、この貫流ファンからの気流を案内するスクロール部と、このスクロール部に連続して配置された吹出し口と、この吹出し口に配置された風向板とを備える空気調和機において、
前記風向板は空気調和機運転時に前記吹出し口から吹出す風向を上下方向に変えると共に空気調和機停止時に前記吹出し口を閉じる上下風向板を備え、前記上下風向板は、ステンレス板を樹脂風向板の裏側に重ね合わせて前記樹脂風向板との熱膨張差を吸収可能な構造で取付けたことを特徴とする空気調和機。
【請求項1】
熱交換器と、前記熱交換器の上流に配置されたフィルタと、前記フィルタを通過した空気を前記熱交換器で熱交換するように送風する貫流ファンと、この貫流ファンからの気流を案内するスクロール部と、このスクロール部に連続して配置された吹出し口と、この吹出し口に配置された風向板とを備える空気調和機において、
前記貫流ファンは樹脂母材の表面に金属皮膜を形成して成ることを特徴とする空気調和機。
【請求項2】
請求項1において、前記貫流ファンは樹脂母材の表面にステンレスをスパッタリングして前記金属皮膜を形成して成ることを特徴とする空気調和機。
【請求項3】
請求項2において、前記貫流ファンは、軸方向に間隔を空けて複数設けられた円板と、前記円板の間に延び且つ前記円板の周縁に沿って多数設けられた羽根と、ゴム部材を介して前記円板の一つに取付けられたボスとを備え、前記円板及び前記羽根はその樹脂製母材の表面に前記ゴム部材をマスキングした状態でステンレスをスパッタリングして成ることを特徴とする空気調和機。
【請求項4】
請求項1または2において、前記フィルタは樹脂母材の少なくとも空気吸込み側の表面にステンレスをスパッタリングして成ることを特徴とする空気調和機。
【請求項5】
請求項1または2において、前記スクロール部は、ステンレス板を樹脂スクロール部の風路側に重ね合わせて前記樹脂スクロール部との熱膨張差を吸収可能な構造で取付けたことを特徴とする空気調和機。
【請求項6】
請求項1または2において、前記吹出し口の風路面の少なくとも一面は樹脂製母材の表面に金属皮膜を形成して成ることを特徴とする空気調和機。
【請求項7】
請求項6において、前記吹出し口を構成する露受皿の熱交換器から流下する凝縮水を受ける水受け面若しくは前記吹出し口を構成する部材の電気品取付け面に金属皮膜を形成しないことを特徴とする空気調和機。
【請求項8】
請求項1または2において、前記風向板は空気調和機運転時に前記吹出し口から吹出す風向を上下方向に変えると共に空気調和機停止時に前記吹出し口を閉じる上下風向板を備え、前記上下風向板は、ステンレス板を樹脂風向板の裏側に重ね合わせて前記樹脂風向板との熱膨張差を吸収可能な構造で取付けたことを特徴とする空気調和機。
【請求項9】
熱交換器と、前記熱交換器の上流に配置されたフィルタと、前記フィルタを通過した空気を前記熱交換器で熱交換するように送風する貫流ファンと、この貫流ファンからの気流を案内するスクロール部と、このスクロール部に連続して配置された吹出し口と、この吹出し口に配置された風向板とを備える空気調和機において、
前記スクロール部は、ステンレス板を樹脂スクロール部の風路側に重ね合わせて前記樹脂スクロール部との熱膨張差を吸収可能な構造で取付けたことを特徴とする空気調和機。
【請求項10】
熱交換器と、前記熱交換器の上流に配置されたフィルタと、前記フィルタを通過した空気を前記熱交換器で熱交換するように送風する貫流ファンと、この貫流ファンからの気流を案内するスクロール部と、このスクロール部に連続して配置された吹出し口と、この吹出し口に配置された風向板とを備える空気調和機において、
前記風向板は空気調和機運転時に前記吹出し口から吹出す風向を上下方向に変えると共に空気調和機停止時に前記吹出し口を閉じる上下風向板を備え、前記上下風向板は、ステンレス板を樹脂風向板の裏側に重ね合わせて前記樹脂風向板との熱膨張差を吸収可能な構造で取付けたことを特徴とする空気調和機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2008−116143(P2008−116143A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−300305(P2006−300305)
【出願日】平成18年11月6日(2006.11.6)
【出願人】(399048917)日立アプライアンス株式会社 (3,043)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年11月6日(2006.11.6)
【出願人】(399048917)日立アプライアンス株式会社 (3,043)
【Fターム(参考)】
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