説明

空燃比センサ異常診断装置

【課題】 空燃比センサの異常診断を従来よりも精度よく行いつつ、エミッションを可及的に抑制することができる、空燃比センサ異常診断装置を提供すること。
【解決手段】 アクティブ空燃比制御手段により空燃比を変化させたときの空燃比センサの応答性に対応するパラメータを取得し、かかる取得値に基づいて空燃比センサの異常判定を行う装置において、アクティブ空燃比制御手段は、強制的に空燃比をリーン方向及びリッチ方向のうちの一方に変化させた直後の第一の時刻における空燃比の理論空燃比との偏差が、当該第一の時刻の後であって次回リーン方向及びリッチ方向のうちの他方に変化させる前の第二の時刻における空燃比の理論空燃比との偏差よりも大きくなるように、排気ガスの空燃比を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気通路(内燃機関から排出された排気ガスの流路)に配置された空燃比センサの異常を診断する、空燃比センサ異常診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関から排出される排気ガスを浄化する排気浄化システムにおいては、排気ガス中の有害成分の触媒による浄化を有効に行うために、内燃機関における燃焼に供される燃料混合気中の空気と燃料との混合割合(空燃比)を良好に制御することが求められている。こうした空燃比の制御を行うために、内燃機関の排気通路には、排気ガス中の特定成分の濃度に基づいて空燃比を検出する空燃比センサが設けられる。そして、かかる空燃比センサによって検出された空燃比を所定の目標空燃比に近づけるように、フィードバック制御が実施される。
【0003】
かかるシステムにおいて、空燃比センサに劣化や故障等の異常が生じると、正確な空燃比フィードバック制御が実行できなくなり、排気ガスにおけるエミッションが悪化する(上述の有害成分の外気への放出量が増加する)。そこで、空燃比センサの異常診断が従来から行われている。特に、自動車に搭載された内燃機関の場合、エミッションが悪化した状態での走行を未然に防止するため、車載状態(オンボード)で空燃比センサの異常を検出することが、各国法規等からも要請されている。
【0004】
従来の空燃比センサの異常診断装置として、空燃比をリッチ状態とリーン状態との間で強制的に周期変動させる、いわゆる「アクティブ空燃比制御」を行い、かかるアクティブ空燃比制御中における空燃比センサの出力の応答性に基づいてセンサ異常診断を行うものが知られている(例えば、特開2005−121003号公報、特開2010−25090号公報、特開2011−1880号公報、等参照。)。
【発明の概要】
【0005】
ところで、空燃比センサの出力の応答性は、排気ガスの流量(すなわち内燃機関の吸入空気流量)の影響を受ける。具体的には、排気ガスの流量が低いほど、応答性が低くなる。このため、低流量領域においては、センサ応答性の正常値と異常値との差が小さくなる。したがって、低流量領域にてセンサ異常診断を行った場合に、検出されたセンサ応答性が正常値であるのか異常値であるのかの判定が困難になり、診断精度が低下するおそれがある。
【0006】
この点、低流量領域においてセンサ異常診断を禁止してしまうと、診断頻度が低くなり、良好なセンサ異常診断が行われ難くなる。一方、特開2005−121003号公報に開示された装置のように、低負荷(すなわち低流量)領域においてアクティブ空燃比制御における空燃比変動振幅を大きくすると、エミッション悪化を招来するおそれがある。
【0007】
本発明は、かかる課題に対処するためになされたものである。すなわち、本発明は、空燃比センサの異常診断を従来よりも精度よく行いつつ、エミッションを可及的に抑制することができる、空燃比センサ異常診断装置を提供することにある。
【0008】
本発明の空燃比センサ異常診断装置は、排気通路(内燃機関から排出された排気ガスの流路)に配置された空燃比センサの異常を診断するように構成されている。この空燃比センサ異常診断装置は、アクティブ空燃比制御手段と、異常判定手段と、を備えている。
【0009】
前記アクティブ空燃比制御手段は、前記空燃比センサに供給される排気ガスの空燃比を強制的に理論空燃比よりもリーン側とリッチ側との間で交互に変化させるようになっている。前記異常判定手段は、前記空燃比センサの出力に基づいて取得された応答パラメータ(前記アクティブ空燃比制御手段により空燃比を変化させたときの、前記空燃比センサの応答性に対応するパラメータ:例えば出力の変化率あるいは変化速度)に基づいて、前記空燃比センサの異常の有無を判定するようになっている。
【0010】
本発明の特徴は、前記アクティブ空燃比制御手段が、排気ガスの空燃比の強制的な変化の度合い(振幅)を、空燃比の切り換え(前記リッチ側から前記リーン側への転換、あるいは前記リーン側から前記リッチ側への転換)直後において大きくし、その後、次回の切り換え前に小さくするように構成されたことにある。
【0011】
具体的には、例えば、前記アクティブ空燃比制御手段は、強制的に空燃比をリーン側及びリッチ側のうちの一方に変化させた直後の第一の時刻における空燃比の理論空燃比との偏差が、前記第一の時刻の後であって次回リーン側及びリッチ側のうちの前記一方とは異なる他方に変化させる前の第二の時刻における空燃比の理論空燃比との偏差よりも大きくなるように、排気ガスの空燃比を制御する。この場合、前記アクティブ空燃比制御手段は、排気ガスの流量が所定量以下である場合に、上述のような、前記第一の時刻における空燃比の理論空燃比との偏差が前記第二の時刻における空燃比の理論空燃比との偏差よりも大きくなる制御を行ってもよい。
【0012】
あるいは、例えば、前記アクティブ空燃比制御手段は、強制的に空燃比を前記一方に変化させた直後の所定期間において、前記所定期間の後の期間よりも、空燃比を当該一方側により大きく変化させるように、排気ガスの空燃比を制御する。この場合、前記アクティブ空燃比制御手段は、排気ガスの流量が所定量以下である場合に、上述のような、前記所定期間において前記所定期間の後の期間よりも空燃比を前記一方側により大きく変化させる制御を行ってもよい。
【0013】
上述のような構成を有する本発明の空燃比センサ異常診断装置においては、前記アクティブ空燃比制御手段による、排気ガスの空燃比の強制的な変化の度合いが、空燃比の切り換え直後において大きくされ、その後小さくされる。これにより、排気ガスの流量が低い領域においても良好な診断精度が確保されるとともに、エミッションを可及的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態が適用された内燃機関システムの全体構成を示す概略図である。
【図2】図1に示されている上流側空燃比センサの出力と空燃比との関係を示したグラフである。
【図3】図1に示されている下流側空燃比センサの出力と空燃比との関係を示したグラフである。
【図4】図1に示されている電子制御ユニットによって実行されるアクティブ空燃比制御の一例を示すタイムチャートである。
【図5】図1に示されている電子制御ユニット(CPU)によって実行されるセンサ異常診断処理の一具体例を示すフローチャートである。
【図6】図1に示されている電子制御ユニットによって実行されるアクティブ空燃比制御の他の一例を示すタイムチャートである。
【図7】図1に示されている電子制御ユニットによって実行されるアクティブ空燃比制御のさらに他の一例を示すタイムチャートである。
【図8】図1に示されている電子制御ユニットによって実行されるアクティブ空燃比制御のさらに他の一例を示すタイムチャートである。
【図9】図1に示されている電子制御ユニットによって実行されるアクティブ空燃比制御のさらに他の一例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、後述するように、本発明が、以下に説明する実施形態の具体的構成に何ら限定されるものではないことは、全く当然である。本実施形態に対して施され得る各種の変更(変形例:modification)は、当該実施形態の説明中に挿入されると、一貫した実施形態の説明の理解が妨げられるので、末尾にまとめて記載されている。
【0016】
<システムの構成>
図1は、本発明の適用対象である内燃機関システムS(以下、単に「システムS」と称する。例えば車両がこれに該当する。)の概略構成を示す図である。このシステムSは、ピストン往復動型の火花点火式複数気筒4サイクルエンジン1(内燃機関:以下、単に「エンジン1」と称する。)と、本発明の空燃比センサ異常診断装置の一実施形態であるエンジン制御装置2と、を含んでいる。なお、図1には、エンジン1の特定の気筒における、気筒配列方向と直交する面による断面図が示されている。
【0017】
<<エンジン>>
図1を参照すると、エンジン1は、シリンダブロック11とシリンダヘッド12とを備えている。シリンダブロック11とシリンダヘッド12とは、図示しないボルト等によって、互いに固定されている。また、シリンダヘッド12には、吸気通路13及び排気通路14が接続されている。
【0018】
シリンダブロック11には、気筒を構成する略円柱形状の貫通孔であるシリンダボア111が形成されている。上述の通り、シリンダブロック11には、複数のシリンダボア111が、気筒配列方向に沿って一列に配置されている。各シリンダボア111の内側には、ピストン112が、シリンダボア111の中心軸(以下、「シリンダ中心軸」と称する。)に沿って往復移動可能に収容されている。
【0019】
シリンダブロック11内には、クランクシャフト113が、回転可能に支持されている。クランクシャフト113は、気筒配列方向と平行に配置されていて、ピストン112のシリンダ中心軸に沿った往復移動に基づいて回転駆動されるように、コンロッド114を介してピストン112と連結されている。
【0020】
シリンダヘッド12における、シリンダブロック11側の端面には、複数の凹部が、各シリンダボア111に対応する位置に設けられている。すなわち、シリンダヘッド12がシリンダブロック11に接合及び固定された状態における、ピストン112の頂面よりもシリンダヘッド12側(図中上側)のシリンダボア111の内側の空間と、上述の凹部の内側の空間と、によって、燃焼室CCが形成されている。
【0021】
シリンダヘッド12には、吸気ポート121及び排気ポート122が、燃焼室CCに連通するように設けられている。吸気ポート121には、インテークマニホールド及びサージタンク等を含む吸気通路13が接続されている。同様に、排気ポート122には、エキゾーストマニホールドを含む排気通路14が接続されている。また、シリンダヘッド12には、吸気バルブ123と、排気バルブ124と、吸気バルブ制御装置125と、排気カムシャフト126と、点火プラグ127と、イグナイタ128と、インジェクタ129と、が装着されている。
【0022】
吸気バルブ123は、吸気ポート121を開閉するためのバルブである。排気バルブ124は、排気ポート122を開閉するためのバルブである。吸気バルブ制御装置125は、図示しない吸気カム及び吸気カムシャフトの回転角度(位相角度)を制御するための機構(かかる機構の具体的な構成については周知なので、本明細書においてはその説明を省略する。)を備えている。排気カムシャフト126は、排気バルブ124を駆動するように構成されている。
【0023】
点火プラグ127は、その先端部の火花発生電極が、燃焼室CC内に露出するように設けられている。イグナイタ128は、点火プラグ127に与える高電圧を発生するためのイグニッションコイルを備えている。インジェクタ129は、燃焼室CC内に供給するための燃料を、吸気ポート121内にて、エンジン制御装置2による制御下で噴射するように、構成及び配置されている。
【0024】
<<吸排気通路>>
吸気通路13における、エアフィルタ131と吸気ポート121との間の位置には、スロットルバルブ132が装着されている。スロットルバルブ132は、スロットルバルブアクチュエータ133によって回転駆動されることで、吸気通路13の開口断面積を可変とするように構成されている。
【0025】
排気通路14には、上流側触媒コンバータ141及び下流側触媒コンバータ142が装着されている。上流側触媒コンバータ141は、燃焼室CCから排気ポート122に排出された排気ガスが最初に流入する排気浄化触媒装置であって、下流側触媒コンバータ142よりも排気流動方向(排気通路14内における排気ガスの流動方向)における上流側に設けられている。上流側触媒コンバータ141及び下流側触媒コンバータ142は、酸素吸蔵機能を有する三元触媒を内部に備えていて、排気ガス中の有害成分(CO及びHC等の未燃成分、並びにNOx)を同時に浄化可能に構成されている。
【0026】
<<制御装置>>
エンジン制御装置2は、本発明の各手段を構成する電子制御ユニット200(以下、単に「ECU200」と称する。)を備えている。ECU200は、CPU201と、ROM202と、RAM203と、バックアップRAM204と、インターフェース205と、双方向バス206と、を備えている。CPU201、ROM202、RAM203、バックアップRAM204、及びインターフェース205は、双方向バス206によって互いに接続されている。
【0027】
ROM202には、CPU201が実行するルーチン(プログラム)、このルーチンの実行時に参照されるテーブル(ルックアップテーブル、マップを含む)、等が、予め格納されている。RAM203は、CPU201がルーチンを実行する際に、必要に応じてデータを一時的に格納するようになっている。
【0028】
バックアップRAM204は、電源が投入された状態でCPU201がルーチンを実行する際にデータを格納するとともに、格納したデータを電源遮断後も保持するようになっている。具体的には、バックアップRAM204は、取得(検出又は推定)された運転状態パラメータの一部、上述のテーブルの一部、当該テーブルの補正(学習)結果、等を、上書き可能に格納するようになっている。
【0029】
インターフェース205は、システムSにおける動作部(吸気バルブ制御装置125、イグナイタ128、インジェクタ129、スロットルバルブアクチュエータ133、等)及び後述する各種センサと、電気的に接続されている。すなわち、インターフェース205は、後述する各種センサからの検出信号をCPU201に伝達するとともに、上述の動作部を駆動するための駆動信号(これはCPU201にて上述のルーチンの実行時に上述の検出信号に基づいて演算が行われることで発生する。)を当該動作部に伝達するようになっている。
【0030】
システムSには、冷却水温センサ211、カムポジションセンサ212、クランクポジションセンサ213、エアフローメータ214、上流側空燃比センサ215a、下流側空燃比センサ215b、スロットルポジションセンサ216、及びアクセル開度センサ217、等の各種センサが備えられている。
【0031】
冷却水温センサ211は、シリンダブロック11に装着されていて、シリンダブロック11内の冷却水温Twに対応する信号を出力するようになっている。カムポジションセンサ212は、シリンダヘッド12に装着されていて、吸気バルブ123を往復移動させるための上述の不図示の吸気カムシャフト(吸気バルブ制御装置125に含まれている)の回転角度に応じたパルスを有する波形の信号(G2信号)を出力するようになっている。
【0032】
クランクポジションセンサ213は、シリンダブロック11に装着されていて、クランクシャフト113の回転角度に応じたパルスを有する波形の信号を出力するようになっている。エアフローメータ214は、吸気通路13に装着されていて、吸気通路13内を流れる吸入空気の単位時間あたりの質量流量である吸入空気流量Gaに対応する信号を出力するようになっている。
【0033】
上流側空燃比センサ215a及び下流側空燃比センサ215bは、排気通路14に装着されている。上流側空燃比センサ215aは、上流側触媒コンバータ141よりも前記排気流動方向における上流側に配置されている。下流側空燃比センサ215bは、上流側触媒コンバータ141よりも前記排気流動方向における下流側の位置、具体的には、上流側触媒コンバータ141と下流側触媒コンバータ142との間の位置に配置されている。
【0034】
上流側空燃比センサ216a及び下流側空燃比センサ216bは、それぞれが装着された部位を通過する排気ガスの空燃比(酸素濃度)に対応する信号を出力するようになっている。具体的には、上流側空燃比センサ215aは、限界電流式の酸素濃度センサ(いわゆるA/Fセンサ)であって、図2に示されているように、広範囲にわたる空燃比に対してほぼリニアな出力を生じるようになっている。これに対し、下流側空燃比センサ215bは、起電力式(濃淡電池式)の酸素濃度センサ(いわゆるOセンサ)であって、図3に示されているように、理論空燃比にて約0.5Vであってその近傍の空燃比において出力が急変する一方、理論空燃比よりもリッチ側にて約0.9Vで出力が一定となり理論空燃比よりもリーン側にて約0.1Vで出力が一定となるような、空燃比変化に対してステップ状の応答特性(Z特性)を有する出力を生じるようになっている。
【0035】
スロットルポジションセンサ216は、スロットルバルブ132に対応する位置に配置されている。このスロットルポジションセンサ216は、スロットルバルブ132の実際の回転位相(すなわちスロットルバルブ開度TA)に対応する信号を出力するようになっている。アクセル開度センサ217は、運転者によるアクセルペダル220の操作量(アクセル操作量PA)に対応する信号を出力するようになっている。
【0036】
<実施形態の構成による動作の概要>
本実施形態のECU200は、エンジン1の空燃比制御、すなわち、インジェクタ129における燃料噴射量(噴射時間)の制御を行う。
【0037】
具体的には、上流側空燃比センサ215aからの出力信号に基づいて、上流側触媒コンバータ141に流入する排気ガスの空燃比が目標空燃比(要求空燃比)になるように、燃料噴射量がフィードバック制御される(メインフィードバック制御)。また、このメインフィードバック制御と併せて、下流側空燃比センサ215bの出力を燃料噴射量にフィードバックする制御も行われる(サブフィードバック制御)。このサブフィードバック制御においては、下流側空燃比センサ215bの出力に基づいて、上流側触媒コンバータ141に流入する排気ガスの空燃比、すなわち燃焼室CCに供給される燃料混合気の空燃比(要求空燃比)が決定される。さらに、上流側空燃比センサ216aの異常を診断する際には、当該上流側空燃比センサ216aに供給される排気ガスの空燃比を強制的に理論空燃比よりもリーン側とリッチ側との間で交互に変化させる「アクティブ空燃比制御」が実行される(例えば、特開2005−121003号公報、特開2010−25090号公報、特開2011−1880号公報、等参照。)。
【0038】
図4は、図1に示されているECU200によって実行されるアクティブ空燃比制御の一例を示すタイムチャートである。図中、(a)は目標空燃比のタイムチャートを示す(燃料噴射量増減値のタイムチャートも同様となる)。(a)のタイムチャートにおいて、縦軸は空燃比を示し、横軸は時間を示し、水平な一点鎖線は理論空燃比(AFs)を示す。よって、水平な一点鎖線から上方へ向かう空燃比の変位量は、理論空燃比AFsからのリーン側の空燃比偏差ΔAFLに相当する。一方、水平な一点鎖線から下方へ向かう空燃比の変位量は、理論空燃比AFsからのリッチ側の空燃比偏差ΔAFRに相当する。また、(b)はこれに対応する上流側空燃比センサ215aの出力電圧のタイムチャートを示す。さらに、(a)及び(b)において、実線は本実施形態のアクティブ空燃比制御の場合を示し、破線は比較例(従来)のアクティブ空燃比制御の場合を示す。
【0039】
図4の(a)のタイムチャートにおける破線で示されているように、従来のアクティブ空燃比制御においては、空燃比が単純な矩形波状に変化するように制御されていた。すなわち、空燃比がリッチ側に切り換えられる時刻tRと、その次に空燃比がリーン側に切り換えられる時刻tLと、の間で、空燃比が一定(理論空燃比AFsとの偏差ΔAFRが一定:ΔAFR0)であった。同様に、空燃比がリーン側に切り換えられる時刻tLと、その次に空燃比がリッチ側に切り換えられる時刻tR’と、の間で、空燃比が一定(理論空燃比AFsとの偏差ΔAFLが一定:ΔAFL0)であった。なお、かかる従来のアクティブ空燃比制御においては、ΔAFR0とΔAFL0とは等しく、具体的には、例えば、理論空燃比AFsが14.6であって、ΔAFR0=ΔAFL0=0.5である。
【0040】
上述のような従来のアクティブ空燃比制御を用いた場合、排気ガスの流量(すなわち吸入空気流量Ga)が低い運転領域においては、上流側空燃比センサ215aの異常判定の基礎となる応答性が低くなる。具体的には、かかる運転領域においては、空燃比センサ215aの出力の立ち上がりあるいは立ち下がりの部分(図中矢印参照)の勾配が小さくなる。このため、検出されたセンサ応答性が正常値であるのか異常値であるのかの判定が困難になり、診断精度が低下するおそれがある。
【0041】
これに対し、本実施形態のアクティブ空燃比制御においては、tRからtRcまでの期間(tRcはtRとtLとの間の時刻)にて、ΔAFRが、tRcからtLまでの期間(ΔAFR0)よりも大きく設定されている。すなわち、tRとtRcとの間の時刻tR1にて、ΔAFRが、tRcとtLとの間の時刻tR2よりも大きくなるように、アクティブ空燃比制御における空燃比変化パターンが設定されている。
【0042】
同様、本実施形態のアクティブ空燃比制御においては、tLからtLcまでの期間(tLcはtLとtR’との間の時刻:tR’はtLの次に空燃比が再度リッチ側に切り換えられる時刻)にて、ΔAFLが、tLcからtR’までの期間(ΔAFL0)よりも大きく設定されている。すなわち、tLとtLcとの間の時刻tL1にて、ΔAFLが、tLcとtR’との間の時刻tL2よりも大きくなるように、アクティブ空燃比制御における空燃比変化パターンが設定されている。
【0043】
具体的には、本実施形態のアクティブ空燃比制御においては、時刻tRにて、要求空燃比が、リーン側の値(AFs+ΔAFL0)から、リッチ側の極大値(AFs−ΔAFRm:ΔAFRm>ΔAFR0)に切り換えられる。時刻tRから時刻tRcまでの間、ΔAFRが絶対値の最大値ΔAFRmから通常値ΔAFR0まで単調減少する(直線的に減少する)。その後、すなわち、時刻tRcから時刻tLまでの間は、ΔAFRが通常値ΔAFR0に保持される。
【0044】
同様に、本実施形態のアクティブ空燃比制御においては、時刻tLにて、要求空燃比が、リッチ側の値(AFs−ΔAFR0)から、リーン側の極大値(AFs+ΔAFLm:ΔAFLm=ΔAFRm>ΔAFR0)に切り換えられる。時刻tLから時刻tLcまでの間、ΔAFLが絶対値の最大値ΔAFLmから通常値ΔAFL0まで単調減少する(直線的に減少する)。その後、すなわち、時刻tLcから時刻tR’までの間は、ΔAFLが通常値ΔAFL0に保持される。
【0045】
なお、tRからtRcまでの期間の長さ、tRcからtLまでの期間の長さ、tLからtLcまでの期間の長さ、及びtLcからtR’までの期間の長さは、空燃比切り換え後の燃料噴射回数の積算値、空燃比切り換え後の空気量(吸入空気流量Gaあるいはこれから算出される筒内吸入空気量Mc)の積算値、等に応じて適宜設定され得る。
【0046】
このように、本実施形態のアクティブ空燃比制御においては、空燃比の強制的な変化の度合い(振幅)が、空燃比の切り換え直後において大きくされる。これにより、図4における(b)のタイムチャートにおける実線で示されているように、空燃比センサ215aの出力の立ち上がりあるいは立ち下がりの部分(図中矢印参照)の勾配が、従来のアクティブ空燃比制御を用いた場合(図中破線参照)よりも大きくなる。したがって、本実施形態のアクティブ空燃比制御によれば、排気ガスの流量(すなわち吸入空気流量Ga)が低い運転領域においても、良好なセンサ異常判定を行うことが可能になる。また、このような低流量領域においてもセンサ異常判定の実行を可能とすることで、診断頻度が良好に確保される。
【0047】
また、本実施形態のアクティブ空燃比制御においては、空燃比の強制的な変化の度合い(振幅)が、上述のように空燃比の切り換え直後において大きくされた後は、次回の切り換え前に小さくされる。これにより、エミッションを可及的に抑制することができる。なお、排気ガスの流量(すなわち吸入空気流量Ga)が高い運転領域において、本実施形態のアクティブ空燃比制御に代えて、上述のような従来のアクティブ空燃比制御を用いることで、エミッションをよりいっそう抑制することができる。
【0048】
<動作の具体例>
図5は、図1に示されているECU200(CPU201)によって実行されるセンサ異常診断処理の一具体例を示すフローチャートである。なお、各図のフローチャートにおいて、「ステップ」は「S」と略記されている。
【0049】
図5に示されているセンサ異常診断ルーチン500は、所定タイミング毎に繰り返し実行される。このルーチン500が起動されると、まず、ステップ510にて、CPU201は、上述の各種センサ(上流側空燃比センサ215a以外:例えば冷却水温センサ211、クランクポジションセンサ213、アクセル開度センサ217、等)からの検出信号に基づいて、上流側空燃比センサ215aの診断条件(冷却水温、回転速度、等)が成立したか否かを判定する。診断条件が成立している場合(ステップ510=Yes)、処理がステップ520以降に進行する。一方、診断条件が成立していない場合(ステップ510=No)、ステップ520以降の処理がスキップされ、本ルーチンが一旦終了する。よって、以下、診断条件が成立している(ステップ510=Yes)ものとして、動作説明を続行する。
【0050】
ステップ520においては、CPU201は、上述の各種センサ(特にエアフローメータ214)からの検出信号に基づいて、吸入空気流量Gaが所定値Ga0以下であるか否かを判定する。吸入空気流量Gaが所定値Ga0以下である場合(ステップ520=Yes)、処理がステップ530に進行し、図4の(a)のタイムチャートにおける実線で示されているような、本実施形態の(変調された矩形波状の)アクティブ空燃比制御が実行される。一方、吸入空気流量Gaが所定値Ga0よりも大きい場合(ステップ520=No)、処理がステップ535に進行し、図4の(a)のタイムチャートにおける破線で示されているような、従来の単純な矩形波状のアクティブ空燃比制御が実行される。
【0051】
次に、処理がステップ540に進行し、CPU201は、上流側空燃比センサ215aの出力電圧の単位時間あたりの変化量の最大値(すなわちセンサ出力の「傾き」)を、応答性パラメータαとして取得(算出)する。その後、処理がステップ550に進行し、CPU201は、取得した応答性パラメータαが所定値α0よりも大きいか否かを判定する。
【0052】
取得した応答性パラメータαが所定値α0よりも大きい場合(ステップ550=Yes)、処理がステップ560に進行し、CPU201は、上流側空燃比センサ215aが正常であると判定する。一方、 取得した応答性パラメータαが所定値α0以下である場合(ステップ550=No)、処理がステップ570に進行し、CPU201は、上流側空燃比センサ215aが異常であると判定する。以上のようにステップ550の判定結果に応じて正常判定(ステップ560)あるいは異常判定(ステップ570)が行われた後、処理がステップ580に進行してアクティブ空燃比制御が終了され、本ルーチンが一旦終了する。
【0053】
<変形例の例示列挙>
なお、上述の実施形態は、上述した通り、出願人が取り敢えず本願の出願時点において最良であると考えた本発明の代表的な実施形態を単に例示したものにすぎない。よって、本発明はもとより上述の実施形態に何ら限定されるものではない。したがって、本発明の本質的部分を変更しない範囲内において、上述の実施形態に対して種々の変形が施され得ることは、当然である。
【0054】
以下、代表的な変形例について、幾つか例示する。もっとも、言うまでもなく、変形例とて、以下に列挙されたものに限定されるものではない。また、複数の変形例が、技術的に矛盾しない範囲内において、適宜、複合的に適用され得る。
【0055】
本発明(特に、本発明の課題を解決するための手段を構成する各構成要素における、作用的あるいは機能的に表現されているもの)は、上述の実施形態や、下記変形例の記載に基づいて限定解釈されてはならない。このような限定解釈は、(先願主義の下で出願を急ぐ)出願人の利益を不当に害する反面、模倣者を不当に利するものであって、許されない。
【0056】
本発明は、上述の実施形態にて開示された具体的な装置構成に限定されない。例えば、吸気ポート121内に燃料を噴射するインジェクタ129とともに、あるいはこれに代えて、燃焼室CC内に燃料を直接噴射するための筒内噴射弁が設けられていてもよい(例えば特開2007−278137号公報等参照)。かかる構成に対しても、本発明は好適に適用される。また、上流側空燃比センサ216aや下流側空燃比センサ216bは、上流側触媒コンバータ141の筐体に装着されていてもよい。
【0057】
本発明は、上記の実施形態にて開示された具体的な処理態様に限定されない。例えば、或るセンサで取得(検出)された運転状態パラメータは、他のセンサで取得(検出)された他の運転状態パラメータや、これを用いたオンボード推定値に代用され得る。すなわち、例えば、図5におけるステップ520において、吸入空気流量Gaに代えて、負荷率KL、スロットルバルブ開度TA、あるいはアクセル操作量PAが用いられ得る。
【0058】
応答性パラメータαについては、リッチ側からリーン側への転換の際の値αRLと、リーン側からリッチ側への転換の際の値αLRとが、それぞれ取得されてもよい。この場合、αRL及びαLRの双方を用いて、センサ異常判定が行われる。さらに、応答性パラメータαについては、特開2010−25090号公報や特開2011−1880号公報等と同様にして取得されたものも用いられ得る。
【0059】
図5のステップ520及び535の処理は、省略され得る。すなわち、排気ガスの流量(すなわち吸入空気流量Ga)が高い運転領域においても、本実施形態の(すなわち通常のものとは異なる)アクティブ空燃比制御が行われ得る。
【0060】
本実施形態の(すなわち通常のものとは異なる)アクティブ空燃比制御は、図4に示された態様に限定されない。例えば、図4の(a)のタイムチャートにおける実線で示された空燃比変化において、時刻tRやtLの近傍の「角」が若干丸められてもよい(この場合、最大値ΔAFRmやΔAFLmは、時刻tRやtLから微小時間遅れた時刻に発生する。)。また、リッチ側の波形とリーン側の波形とが非対称(ΔAFLm>ΔAFRm、ΔAFLm<ΔAFRm、tRからtRcまでの期間>tLからtLcまでの期間、tRからtRcまでの期間<tLからtLcまでの期間、及びこれらの適宜組み合わせ)であってもよい。さらに、tRからtRcまでの期間やtLからtLcまでの期間に対応する、空燃比が直線状に変化する部分は、ステップ状や曲線状の変化(例えば図6参照)に置き換えられ得る。
【0061】
図7〜図9は、アクティブ空燃比制御の他の例を示すタイムチャートである。例えば、図7に示されているように、時刻tRから時刻tRcまでの間、ΔAFRが絶対値の最大値ΔAFRmに保持され、同様に、時刻tLから時刻tLcまでの間、ΔAFLが絶対値の最大値ΔAFLmに保持されてもよい。また、図8や図9に示されているように、空燃比が、時刻tRから時刻tLまで連続的に変化するとともに、時刻tLから時刻tR’まで連続的に変化するようになっていてもよい(図8においては空燃比が直線的に変化し、図9においては空燃比が曲線的に変化している。)。
【0062】
その他、特段に言及されていない変形例についても、本発明の本質的部分を変更しない範囲内において、本発明の範囲内に含まれることは当然である。
【0063】
また、本発明の課題を解決するための手段を構成する各要素における、作用的あるいは機能的に表現されている要素は、上述の実施形態や変形例にて開示されている具体的構造の他、当該作用あるいは機能を実現可能ないかなる構造をも含む。さらに、本明細書にて引用した各公報の内容(明細書及び図面を含む)は、技術的に矛盾しない範囲において、本明細書の一部を構成するものとして適宜援用され得る。
【符号の説明】
【0064】
S…システム 1…エンジン
11…シリンダブロック 12…シリンダヘッド
13…吸気通路 14…排気通路
129…インジェクタ 132…スロットルバルブ
141…上流側触媒コンバータ 142…下流側触媒コンバータ
2…エンジン制御装置 200…ECU
201…CPU 202…ROM
203…RAM 204…バックアップRAM
205…インターフェース 206…双方向バス
211…冷却水温センサ 212…カムポジションセンサ
213…クランクポジションセンサ 214…エアフローメータ
215a…上流側空燃比センサ 215b…下流側空燃比センサ
216…スロットルポジションセンサ 217…アクセル開度センサ
220…アクセルペダル
【先行技術文献】
【特許文献】
【0065】
【特許文献1】特開2005−121003号公報
【特許文献2】特開2010−25090号公報
【特許文献3】特開2011−1880号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関から排出された排気ガスの流路である排気通路に配置された空燃比センサの異常を診断する、空燃比センサ異常診断装置であって、
前記空燃比センサに供給される排気ガスの空燃比を強制的に理論空燃比よりもリーン側とリッチ側との間で交互に変化させる、アクティブ空燃比制御手段と、
前記空燃比センサの出力に基づいて取得された、前記アクティブ空燃比制御手段により空燃比を変化させたときの前記空燃比センサの応答性に対応するパラメータである応答パラメータに基づいて、前記空燃比センサの異常の有無を判定する、異常判定手段と、
を備え、
前記アクティブ空燃比制御手段は、強制的に空燃比を前記リーン側及び前記リッチ側のうちの一方に変化させた直後の第一の時刻における空燃比の理論空燃比との偏差が、前記第一の時刻の後であって次回前記リーン側及び前記リッチ側のうちの前記一方とは異なる他方に変化させる前の第二の時刻における空燃比の理論空燃比との偏差よりも大きくなるように、排気ガスの空燃比を制御することを特徴とする、空燃比センサ異常診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の、空燃比センサ異常診断装置であって、
前記アクティブ空燃比制御手段は、排気ガスの流量が所定量以下である場合に、前記第一の時刻における空燃比の理論空燃比との偏差が前記第二の時刻における空燃比の理論空燃比との偏差よりも大きくなるように、排気ガスの空燃比を制御することを特徴とする、空燃比センサ異常診断装置。
【請求項3】
請求項1に記載の、空燃比センサ異常診断装置であって、
前記アクティブ空燃比制御手段は、強制的に空燃比を前記一方に変化させた直後の所定期間において、前記所定期間の後の期間よりも、空燃比を当該一方側により大きく変化させることを特徴とする、空燃比センサ異常診断装置。
【請求項4】
請求項3に記載の、空燃比センサ異常診断装置であって、
前記アクティブ空燃比制御手段は、排気ガスの流量が所定量以下である場合に、前記所定期間において前記所定期間の後の期間よりも空燃比を前記一方側により大きく変化させることを特徴とする、空燃比センサ異常診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−108466(P2013−108466A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255742(P2011−255742)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】