説明

空調ダクトクリーニング用エアランス及び乗り物内空調ダクトクリーニング方法

【課題】 乗り物内に設置された空調ダクトのように強度的に弱い空調ダクトについてダクトの変形や破損を生じることなく容易にクリーニングをすることができるようにする。
【解決手段】 管状のランス本体1の先端に取り付けられた先端ホース2は、全長の途中の位置から先端縁まで複数の切り込み20が形成されることで複数の先端片21に分かれた形状である。ランス本体1の後端を圧縮空気の供給源8を接続し、空調ダクト3に元々形成されている開口30,350を通して進入させて先端ホース2を空調ダクト3内に位置させ、圧縮空気をランス本体1を通して先端ホース2から放出させ、この際の各先端片21の動きにより空調ダクト3の内面を叩いて汚れを落とす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願の発明は、空調ダクトのクリーニングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビル等の空調ダクトにおいては、長期間使用するとダクト内面に塵や埃等の汚れが付着することが避けられない。これら汚れを放置すると、屋内環境の悪化(ハウスダスト等)や空調機器の機能低下、故障等を招く問題がある。このため、従来から、定期的に空調ダクト内をクリーニングして汚れを除去するメンテナンスが行われている。
空調ダクトクリーニングは、専門のクリーニング業者によって行われることが多い。クリーニング業者は、空調ダクトの一部にクリーニング用の孔を開け、そこに集吸引ダクトを取り付け、吸引ダクトを集塵機に接続することで行われる。この際、エアランスと呼ばれる治具により、空調ダクト内面に付着した塵や埃等の汚れを予め叩き落とし、より効率良く十分に汚れを取り除くようにしている。
【0003】
図5は、従来の空調ダクトクリーニング用エアランスの概略図であり、図6は、従来のエアランスを使用した空調ダクトクリーニングについて示した概略図である。
従来のエアランスは、ランス本体1の先端に柔らかい先端ホース2を取り付けた構造となっている。図5に示す例では、先端ホース2は3本取り付けられている。3本の先端ホース2は、ジョイント10を介してランス本体1の先端部に接続されている。
ランス本体1も中空のホース状の部材である。クリーニングのため、天井パネル4に孔(以下、クリーニング用パネル孔)40を開け、空調ダクト3についてもクリーニングのために孔(以下、クリーニング用ダクト孔)300を開ける。そして、図6に示すように、ランス本体1をクリーニング用パネル孔40及びクリーニング用ダクト孔300を通して挿通し、先端ホース2を空調ダクト3内に進入させる。ランス本体1の後端は、不図示のコンプレッサが接続される。コンプレッサにより圧縮空気が送られ、圧縮空気はランス本体1を通って先端ホース2から勢いよく放出される。この際、柔らかい先端ホース2はバタバタと踊るような状態となり、これによって空調ダクト3の内面が叩かれ汚れが落とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録公報第2514418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
空調ダクトクリーニングは、従来はビルやマンション等の建築物におけるだけであったが、現在、電車、飛行機等の乗り物内の空調ダクトについても行うことが検討されている。発明者らの研究によると、これら乗り物内の空調ダクトについては、特別の考慮が必要なことが判ってきた。
具体的に説明すると、乗り物内の空調ダクトは、軽量化のため、ビル等の建築物における空調ダクトとは構造が異なっている。ビル等の建築物における空調ダクトは、スチール製の比較的頑丈なものであり、大きな力で叩いても問題がない場合が多い。しかしながら、乗り物内の空調ダクトは、軽量化のため、強度的に弱いものである場合が多い。例えば、断熱材(グラスウール等)をある程度圧縮して固めた構造のものなどが使用されることがあり、建築物におけるスチール製のものに比べるとかなり弱い。このような強度的に弱い空調ダクトについて従来のエアランスを使用してクリーニングを行うと、空調ダクトが変形したり破損したりする恐れがあることが、発明者らの研究により判明した。コンプレッサによる圧縮空気の送出圧力を調整することで空調ダクトの変形や破損を防止することも考えられるが、微妙な調整が必要になり、非常に面倒な作業になる。
本願の発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、乗り物内に設置された空調ダクトのように強度的に弱い空調ダクトについてダクトの変形や破損を生じることなく容易にクリーニングをすることができるようにすることを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本願の請求項1記載の発明は、圧縮空気を先端から放出する際の動きにより空調ダクトの内面を叩いて汚れを落とす空調ダクトクリーニング用エアランスであって、
後端が圧縮空気の供給源に連通される管状のランス本体と、ランス本体の先端に取り付けられた先端ホースとより成っており、
先端ホースは、先端ホースの全長の途中の位置から先端縁まで長さ方向に複数の切り込みが形成されることで複数の先端片に分かれた形状であるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項2記載の発明は、乗り物内に設置された空調ダクトの内面の汚れを除去する乗り物内空調ダクトのクリーニング方法であって、
ランス本体と、ランス本体の先端に取り付けた先端ホースとより成るエアランスを使用する方法であり、
エアランスの先端ホースは、先端ホースの全長の途中の位置から先端縁まで長さ方向に複数の切り込みが形成されることで複数の先端片に分かれた形状であり、
このエアランスの後端を圧縮空気の供給源に連通させるとともに、エアランスを空調ダクト内に元々形成されている開口を通して進入させて先端ホースを空調ダクト内に位置させ、この状態で圧縮空気を供給することで先端ホースの先端片に空調ダクトの内面を叩かせることで内面に付着した汚れを落とし、
その後、落とした汚れを集塵機で集めることにより行う方法であるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項3記載の発明は、前記請求項2の構成において、記乗り物は、鉄道車両又は飛行機であるという構成を有する。
【発明の効果】
【0007】
以下に説明する通り、本願の請求項1記載の発明によれば、先端ホースが先端縁から長さ方向に複数の切り込みが形成されることで複数の先端片に分かれた形状であるので、圧縮空気の放出により踊って空調ダクトの内面を叩く際、よりソフトに叩く状態になる。このため、断熱材製の空調ダクトのように強度的に弱い空調ダクトのクリーニング用として特に好適なものとなる。また、各切り込みが先端ホースの全長の途中の位置から先端縁まで形成されているので、叩き落とし強度の調節や先端ホースの耐久性等の点で好適な構成となる。さらに、先端片が複数あるので、より広範な領域について効率良く汚れの叩き落としを行うことができる。
また、請求項2記載の発明によれば、乗り物内空調ダクトに元々形成されている開口を通してエアランスを進入させて汚れの叩き落としを行うので、乗り物の安全性を損なうことなく好適に空調ダクトクリーニングが実施され、快適な客室環境を維持することができる。この際、先端ホースが先端縁から長さ方向に複数の切り込みが形成されることで複数の先端片に分かれた形状であるので、圧縮空気の放出により踊って空調ダクトの内面を叩く際、よりソフトに叩く状態になる。このため、軽量化した強度的に弱い空調ダクトについて変形や破損等を生じさせることなく汚れの除去が行える。また、各切り込みが先端ホースの全長の途中の位置から先端縁まで形成されているので、叩き落とし強度の調節や先端ホースの耐久性等の点で好適な構成となる。さらに、先端片が複数あるので、より広範な領域について効率良く汚れの叩き落としを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本願発明の実施形態に係る空調ダクトクリーニング用エアランスの概略図である。
【図2】本願発明の実施形態に係る乗り物内空調ダクトのクリーニング方法が実施される空調ダクトについて示した平面概略図である。
【図3】本願発明の実施形態に係る乗り物内空調ダクトのクリーニング方法が実施される空調ダクトについて示した側面断面概略図である。
【図4】図2及び図3に示す空調ダクトについて本実施形態のクリーニング方法が行われている状況を示した側面断面概略図である。
【図5】従来の空調ダクトクリーニング用エアランスの概略図である。
【図6】従来のエアランスを使用したダクトクリーニングについて示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、本願発明を実施するための形態(以下、実施形態)について説明する。
まず、空調ダクトクリーニング用エアランスの発明の実施形態について説明する。図1は、本願発明の実施形態に係る空調ダクトクリーニング用エアランスの概略図である。図1に示すエアランスは、図4に示す従来のものと同様、ランス本体1と、ランス本体1の先端に取り付けた先端ホース2とより成っている。
ランス本体1は、本実施形態では、アルミ等の金属製である。本実施形態のエアランスは、車両内に設置されたダクトのクリーニング用であり、これを考慮して図1に示すようにランス本体1は予め曲げられている。この理由については後述する。尚、ランス本体1の材質として塑性変形可能なものを使用し、適宜の形状に変形させてから使用する場合もあり得る。
【0010】
先端ホース2は、ポリ塩化ビニル等の樹脂製であり、十分な柔軟性と耐久性を持つものが使用されるが、散水用等で使用される水道ホースと同じものを使用することができる。この先端ホース2は、図1に示すように、先端縁から長さ方向に複数の切り込み20が形成されることで複数の先端片21に分かれた形状となっている。この実施形態では、切り込み20は三つ形成されており、三つの先端片21に分かれている。先端ホース2の断面は円形であり、切り込み20は120度間隔である。したがって、各先端片21の幅は皆同じである。但し、切り込み20の形成間隔を変え、各先端片21の幅が互いに異なるものにする場合もある。
【0011】
各切り込み20は、先端ホース2の全長の途中の位置から先端縁まで形成されている。この実施形態では、各切り込み20は、先端ホース2の全長のほぼ半分の位置から先端縁まで形成されている。但し、これは限定的ではなく、他の位置から切り込み20が開始されることもある。尚、各切り込み20の長さは皆同じであり、したがって各先端片21の長さも同じである。但し、各切り込み20の長さを変え、各先端片21の長さが互いに異なるものにする場合もある。
先端ホース2は、後端部(根元の部分)がランス本体1に嵌め込まれることで取り付けられている。先端ホース2の内径は、ランス本体1の先端部の外径よりも少し大きくなっており、先端ホース2の弾性を利用して先端ホース2の先端部を少し広げながらランス本体1に嵌め込んでいる。尚、先端ホース2のランス本体1に対する接続強度を高めるため、適宜の結束具等が使用される場合もある。
【0012】
次に、乗り物内空調ダクトのクリーニング方法の発明の実施形態について説明する。以下の説明は、上記実施形態のエアランスの使用方法の説明でもある。
図2及び図3は、実施形態の乗り物内空調ダクトのクリーニング方法が実施される空調ダクトの構造について示した図であり、図2は平面概略図、図3は側面断面概略図である。
この実施形態では、乗り物として鉄道車両が想定されており、図2及び図3に示すものは例えば都市部の在来線や地下鉄等を走る電車である。空調ダクト3は、車両の天井パネル4の裏側(上側)に設置されており、客室内からは見えない状態となっている。
【0013】
二つの空調ダクト3は、車両の鉛直な中心線Cを境に左右対称となっており、図3には、一例として左側の車両ダクト3が示されている。各空調ダクト3は、全体としてはほぼロ状の断面形状であり、垂直な姿勢の両側板部31,32と、やや斜めの姿勢になった上板部33と、水平な姿勢の下板部34とを有している。上板部33は、車両の中心線Cに向かって高くなる斜めの形状である。
両側板部31,32のうち、中心線Cに近い側31を中心側側板部と呼び、遠い側32を外側側板部と呼ぶ。外側側板部32は、下板部34の外側の縁から離れた位置に設けられており、外側側板部32の下縁と下板部34との間には大きな隙間がある。この隙間30は、客室内の空調用の開口(以下、ダクト開口と呼ぶ)である。ダクト開口30は、ダクトの長さ方向に延びており、やや幅の広いスリット状である。
【0014】
下板部34をその外側の縁から上方に延設させた部位35が設けられている。この部位35は、ダクト内で空気の供給路を仕切るものであり、以下、内部仕切り部と呼ぶ。内部仕切り部35と外側側板部32とは、図2に示すようにダクト開口30の幅分を隔てて対向している。この対向した空間38は、客室内への下方向の空気の供給路(以下、風路と呼ぶ)となっている。
ダクト開口30には、ルーバー51,52が設けられている。ルーバー51,52は、空調用の風の通り道を形成しつつ、空調ダクト3を客室から見えないようにするためのものである。ルーバーは上下に二つ設けられている(以下、上側ルーバー51、下側ルーバー52)。
【0015】
天井パネル4には、空調ダクト3のダクト開口30の位置に合わせて同様に開口(以下、パネル開口と呼ぶ)が設けられている。上側ルーバー51は、パネル開口の縁に着脱可能に取り付けられている。上側ルーバー51の両端には、脚部61が設けられている。脚部61は、上側ルーバー51の長さ方向(空調ダクト3の長さ方向)において間隔をおいて複数設けられている。各脚部61は、パネル開口の縁にネジ止めされて、これによりパネル開口の縁に上側ルーバー51が取り付けられた状態となっている。
下側ルーバー52は、連結具62により上側ルーバー51に連結している。連結具62は、下側ルーバー52を上側ルーバー51から吊り下げた状態で連結されている。連結具62も、ルーバー51,52の長さ方向において間隔をおいて複数設けられている。両側の各脚部61のネジ(不図示)を取り外し、そのまま引き下げることで、下側ルーバー5ごと上側ルーバー51を天井パネル4から取り外すことができる。
【0016】
また、下側ルーバー52や上側ルーバー51の幅は、外側側板部32と内部仕切り部35との間隔よりも狭くなっており、下側ルーバー52や上側ルーバー51の両側には狭いスリットが形成されている。これらスリットが、客室内に送る空気の送風口となっている。尚、各脚部61や各連結具62は、小さい板状の部材であり、立てた状態で設けられており、各スリットを塞がないようになっている。
また、内部仕切り部35の上端部は、図3に示すように折れ曲がっているが、その上端縁は上板部33には接触しておらず、両者の間に隙間350が形成されている。この隙間350も、長さ方向に延びたスリット状である。この隙間を、以下、上部開口と呼ぶ。
【0017】
このような形状、構造である左右一対の空調ダクト3は、不図示の取付具により車両の天井部の構造部分に取り付けられている。尚、天井パネル4には、各空調ダクト3の取付と補強用のリブ板37が設けられている。リブ板37は、車両の幅方向に沿った姿勢で形成されており、車両の長さ方向において間隔をおいて数カ所設けられている。リブ板37は、空調ダクト3の下板部34を貫通して天井パネル4に固定されており、これにより空調ダクト3を固定、補強している。
【0018】
このような形状、構造である各空調ダクト3は、断熱材をある程度圧縮して固めて成形したものとなっている。即ち、グラスウールのような断熱材を折り曲げながらある程度圧縮して多少の剛性を付与し、上述した両側板部31,32、上板部33、下板部34、内部仕切り部35とから成る形状とする。尚、断熱材の表面はアルミ箔のような表面シートで覆われており、その状態で圧縮されるので、上記空調ダクト3の各部の表面も表面シートで覆われた状態である場合が多い。
【0019】
このような形状、構造である車両内空調ダクト3のクリーニングについて、図4を使用して説明する。図4は、図2及び図3に示す空調ダクトについて本実施形態のクリーニング方法が行われている状況を示した側面断面概略図である。
クリーニングを行う場合、エアランスを圧縮空気の供給源(典型的にはコンプレッサ)8に接続して連通させる。接続は、通常、ランス本体1の後端部と供給源8とを接続チューブ81でつなぐことにより行われる。
【0020】
次に、図4に示すように、エアランスを空調ダクト3内に進入させ、先端ホース2を空調ダクト3内に位置させる。より具体的に説明すると、前述したように上側ルーバー51及び下側ルーバー52を引き抜いて天井パネル4から取り外す。そして、風路38を通してエアランスを空調ダクト3内に進入させ、先端ホース2を上部開口350を通して内部仕切り部35と中心側側板部31との間に位置させる。この際、ランス本体1は、上部開口350内に挿通された姿勢となる。作業者は、風路38内でランス本体1の後端部を保持した状態となる。
【0021】
この状態で、供給源8から圧縮空気を供給すると、先端ホース2から圧縮空気が放出され、この際、図4に示すように先端ホース2の各先端片21が踊るような動きをし、空調ダクト3の内面を叩く。これにより、内面に付着していた汚れ(塵や埃等)が落とされる。ランス本体1が外側スリット54及び上部開口350に挿通されている状態で、エアランスを空調ダクト3の長さ方向に移動させ、別の場所でも同様に先端ホース2の各先端片21を踊らせて空調ダクト3の内面の汚れを叩き落とす。
【0022】
このようにして、空調ダクト3の全長に亘って汚れの叩き落としをした後、空調ダクト3の長さ方向の端部に不図示の吸引ダクトを接続する。空調ダクト3の長さ方向の端部には、車両に設けられた空調機と空調ダクト3とをつなぐ連通ダクトの接続口が設けられている。この接続口から連通ダクトを取り外し、吸引ダクトの一端を接続する。吸引ダクトの他端は、集塵機に接続される。この状態で集塵機を動作させ、叩き落とされた汚れを吸引ダクトを通し、集塵機に吸引させて集める。十分に汚れが吸引、除去されればクリーニングは終了であり、吸引ダクトを外し、連通ダクトを元の通り接続しておく。上側ルーバー51及び下側ルーバー52についても元の通りセットしておく。これにより、一つの空調ダクト3のクリーニングは終了であり、もう一つの空調ダクト3についても同様にクリーニングを行う。尚、圧縮空気を供給して先端ホース2による汚れの叩き落としをしながら同時に集塵機による汚れの吸引を行うこともある。また、吸引ダクトをダクト開口30及び上部開口350を通して空調ダクト3内に挿入して汚れの吸引を行う場合もあり得る。
【0023】
上述した実施形態のエアランス及びこのエアランスを使用した空調ダクト3のクリーニング方法によれば、先端縁から長さ方向に複数の切り込み20が形成されることで複数の先端片21に分かれた先端ホース2を使用するので、圧縮空気の放出により各先端片21が踊って空調ダクト3の内面を叩く際、よりソフトに叩く状態になる。従来のエアランスでは、先端ホース全体が踊って内面を叩くので、先端ホース全体の重さにより叩く状態となり、衝撃が大きい。これに比べると、本実施形態では、切り裂かれて形成された各先端片21が内面を叩くので、従来の比べると衝撃は小さく、ソフトに叩く状態となる。このため、上述した断熱材製の空調ダクトのように強度的に弱い空調ダクトのクリーニング用として特に好適なものとなっている。
【0024】
また、先端ホース2において、各切り込み20が先端ホース2の全長の途中の位置から先端縁まで形成されている点は、叩き落とし強度の調節や先端ホース2の耐久性等の点で好適な構成となっている。切り込み20を全長に亘って形成する構成は、先端ホース2を長さ方向に切り裂いて複数の先端片21とし、これをランス本体1の先端に固定する構成に相当する。このような構成でも、従来に比べると、よりソフトに叩く状態にはできるものの、叩き落とし強度の調節は容易ではない。叩き落とし強度を調節する場合、長さの違う別の先端片21に付け替え、圧縮空気の供給圧力を調節することで行うが、先端片21の付け替えは面倒である。実施形態のエアランスの場合、最初は切り込み20の長さを短くし、圧縮空気の供給圧力は小さくしておき、叩き落とし強度を強くしたい場合には、さらに切り込み20を入れて圧縮空気の供給圧力を大きくしていけば良い。切り込み20は現場でカッターを使用すれば深くできるので、極めて容易である。また、バラバラになった先端片21をランス本体1に固定する構造では、先端片21の幅が狭いため、根元の部分で切れ易く、耐久性の点で問題が生じ得る。切り込み20を途中の長さでとどめておくと、ランス本体1への取付は先端ホース2の根元の部分を嵌め込むことで行えるので、耐久性の点で問題が生じない。尚、先端片21が複数ある点は、より広範な領域について効率良く汚れの叩き落としを行うのに貢献している。
【0025】
また、本実施形態の方法では、空調ダクト3に元々形成されている開口30,350を通してエアランスを進入させて汚れの叩き落としを行う。従来のように、クリーニングのために空調ダクト3に孔開けすることはしない。この点は、乗り物内空調ダクト3のクリーニングである点と密接に関連する。鉄道車両や飛行機等の乗り物は、高速で移動するものであり、各部は衝撃に耐え得るよう設計され、製造されている。一方、空調ダクト3のクリーニングは事後的なものであり、クリーニングのために乗り物内の部材に孔開けをすることは、一般的に好ましくない。ビル等の建築物の場合、クリーニング用の孔を開け(孔開け工事をして)、クリーニング後は専用の蓋でクリーニング用の孔を塞ぐ。乗り物内空調ダクトについてもこのようにしてしても良いのであるが、高速運行する乗り物において蓋が落下しないよう、特別の配慮が必要になるし、乗り物の製造会社にとっては、そのような孔を事後的に開けること(一種の改良に当たる)は許可できないこともある。また、乗り物を運行する交通会社にとっても安全基準上認めていないか好ましくないとする場合もある。このようなことを考慮し、本実施形態では、元々設けられている開口30,350を通してエアランスを進入させて汚れの叩き落としを行うようにしている。
【0026】
上記実施形態において、空調ダクト3は天井パネル4の裏側(上側)に設けられていたが、車両によっては客室の床の下側に設けられている場合もある。この場合も、カバーや蓋のような物を外すだけで特にクリーニング用の孔を開けることなく汚れの叩き落としが行える場合があり、このような空調ダクトについても本願発明は実施が可能である。
また、上記実施形態では、乗り物は電車であったが、電車以外の鉄道車両であっても良く、飛行機やバス等の他の乗り物であっても良い。
尚、空調ダクトクリーニング用エアランスの発明の実施形態については、乗り物内の空調ダクトをクリーニングするためのものである必要はなく、ビル等の建築物内における空調ダクトのクリーニング用であっても良い。
【0027】
先端ホースに設ける切り込みについては、最低二つは必要である(最低でも二つの先端片が形成されることが必要である)が、四つ、五つ、それ以上の切り込みを形成し、四つ、五つ、又はそれ以上の先端片を形成しても良い。
また、先端片の長さについては、前述したように現場でカッターで切り込みを深くすることで調節しても良いが、切り込みの長さが異なる先端ホースを複数種用意し、現場でランス本体に対して付け替えながら調節を行っても良い。さらに、先端ホースの全体の長さが異なるものや、柔軟性が異なるものを複数種用意して付け替えるようにしても好適である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
上述したように、本願発明は、強度的に弱い空調ダクトについて破損等を生じることなく内面のクリーニングが行えるエアランスが提供されるので、乗り物内に設置された空調ダクトのクリーニングを行うクリーニング業者において利用することができ、その産業上の利用可能性は著しい。
【符号の説明】
【0029】
1 ランス本体
2 先端ホース
20 切り込み
21 先端片
3 空調ダクト
31 中心側側板部
32 外側側板部
33 上板部
34 下板部
35 内部仕切り部
350 上部開口
4 天井パネル
8 圧縮空気の供給源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮空気を先端から放出する際の動きにより空調ダクトの内面を叩いて汚れを落とす空調ダクトクリーニング用エアランスであって、
後端が圧縮空気の供給源に連通される管状のランス本体と、ランス本体の先端に取り付けられた先端ホースとより成っており、
先端ホースは、先端ホースの全長の途中の位置から先端縁まで長さ方向に複数の切り込みが形成されることで複数の先端片に分かれた形状であることを特徴とする空調ダクトクリーニング用エアランス。
【請求項2】
乗り物内に設置された空調ダクトの内面の汚れを除去する乗り物内空調ダクトのクリーニング方法であって、
ランス本体と、ランス本体の先端に取り付けた先端ホースとより成るエアランスを使用する方法であり、
エアランスの先端ホースは、先端ホースの全長の途中の位置から先端縁まで長さ方向に複数の切り込みが形成されることで複数の先端片に分かれた形状であり、
このエアランスの後端を圧縮空気の供給源に連通させるとともに、エアランスを空調ダクトに元々形成されている開口を通して進入させて先端ホースを空調ダクト内に位置させ、この状態で圧縮空気を供給することで先端ホースの先端片に空調ダクトの内面を叩かせることで内面に付着した汚れを落とし、
その後、落とした汚れを集塵機で集めることにより行うことを特徴とする乗り物内空調ダクトのクリーニング方法。
【請求項3】
前記乗り物は、鉄道車両又は飛行機であることを特徴とする請求項2記載の乗り物内空調ダクトのクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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