説明

空調装置の運転方法

【目的】 加湿器による加湿操作,冷却器による冷却操作,加熱器による加熱操作により、外気を予め設定した温度・湿度に調温・調湿し、得られた空調空気を塗装ブースへ送給する際に、外気の状態に応じて、加湿操作,冷却操作,加熱操作のうち不要な操作を省き、無駄な制御操作を行うことなく、エネルギ,ランニングコストを軽減することを目的とする。
【構成】 空調装置内に採り入れる外気の温度,湿度に基づき外気の絶対湿度を検出し、検出された外気の絶対湿度が空調空気より高い場合に、加湿器を停止した状態で、冷却器の表面温度を空調空気の露点温度以下にして冷却操作を行い、絶対湿度が空調空気の絶対湿度まで下がった時点でその空気の温度を検出し、検出された温度が設定温度より低い場合は、加熱器により加熱操作を行うようにした。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、塗装ブース内の雰囲気温度・湿度を一定に維持して同一条件で塗装することができるように、所定の温度及び湿度に調温・調湿された空調空気を塗装ブース内に送給する空調装置の運転方法に関する。
【0002】
【従来の技術】外気を所定の温度に調温・調湿して得られた空調空気を塗装ブース等に送給する空調装置は、装置内に、外気を所定の湿度まで加湿するワッシャ,所定の温度まで冷却するクーラ,所定の温度まで加熱するヒータが設置され、これらワッシャ,クーラ,ヒータを稼動させることにより、予め設定された温度・湿度に調温・調湿するように成されている。
【0003】この場合において、従来は、外気の温度・湿度に関係なく、■飽和状態まで加湿、■飽和状態を維持して空調空気の露点温度まで加熱又は冷却、■設定温度まで加熱の三操作で調温,調湿を行っていた。例えば、図4の空気線図において、空調空気の状態をP0(温度25℃,相対湿度85%RH,絶対湿度0.017kg/kg) に設定した場合に、領域Aは絶対湿度が空調空気より高い状態を示し、領域Bは絶対湿度が空調空気より低く、且つ、エンタルピが空調空気より高い状態を示し、領域Cは絶対湿度が空調空気より低く、且つ、エンタルピが空調空気より低い状態を示す。
【0004】外気が領域Aの状態a1 の場合、外気の絶対湿度が空調空気より高いにもかかわらず、ワッシャを通過する際に加湿されて飽和状態a2 に達する。また、外気が領域Bの状態b1 及び領域Cの状態c1 の場合、外気の絶対湿度が空調空気より低いので、加湿が必要となるが、ワッシャを通過する際に、空調空気の絶対湿度と一致しても、さらに飽和状態b2 ,c2 まで加湿する。そして、飽和状態に達した状態a2 ,b2 ,c2 の温度が空調空気の露点温度T0 より高いので、冷却器で冷却すると、冷却器を通過する際に空気中の水分が結露して除湿されて、且つ、露点温度T0 まで冷却される(a3 )。そして、露点温度T0 に達したところで、今度は加熱器により加熱すると、絶対湿度一定で右方向に推移して設定温度に達し、予め設定された状態P0 の空調空気が得られる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、外気の状態にかかわらず、常にワッシャ,クーラ,ヒータを稼動させて調温・調湿操作を行っているため、例えば、外気がa1 の場合には、絶対湿度がもともと空調空気より高いのに敢えて加湿操作を行い、これを除湿するために冷却操作を行わなければならず、その結果温度が下がるので、さらに加熱操作を行うという無駄な操作を行わなければならない。
【0006】したがって、制御操作に無駄があるだけでなく、応答性が鈍く、エネルギ,ランニングコストが嵩むという問題があった。そこで、本発明は、外気の状態に応じて、加湿操作,冷却操作,加熱操作のうち不要な操作を省き、無駄な制御操作を行うことなく、エネルギ,ランニングコストを軽減することを技術的課題としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】この課題を解決するために、本発明は、加湿器による加湿操作,冷却器による冷却操作,加熱器による加熱操作により、外気を予め設定した温度・湿度に調温・調湿し、得られた空調空気を塗装ブースへ送給するように成された空調装置の運転方法において、採り入れる外気の温度,湿度に基づき外気の絶対湿度を検出し、検出された外気の絶対湿度が空調空気より高い場合に、加湿器を停止した状態で、冷却器の表面温度を空調空気の露点温度以下にして冷却操作を行い、絶対湿度が空調空気の絶対湿度まで下がった時点でその空気の温度を検出し、検出された温度が設定温度より低い場合は加熱器により加熱操作を行うことを特徴とする。
【0008】
【作用】本発明によれば、外気の絶対湿度が空調空気より高い場合は、まず、冷却器表面温度を空調空気の露点温度以下にして冷却操作を行うと、その表面に結露して除湿され、湿度が空調空気の絶対湿度まで低下したところで、加熱器を設定温度より高い温度にして加熱操作を行うことにより調温すれば、所定の温度・湿度の空調空気が得られる。また、外気の絶対湿度の方が空調空気より低い場合は、まず、空調空気の絶対湿度と等しくなるまで加湿操作を行う。そして、外気のエンタルピが空調空気より高い場合は同時に冷却操作を行い、外気のエンタルピが空調空気より低い場合は同時に加熱操作を行うことにより、調温・調湿する。このようにすれば、加湿操作,冷却操作,加熱操作の一つを外気の状態に応じて省略しても、所定の温度・湿度の空調空気が得られる。
【0009】
【実施例】以下、本発明を図面に示す実施例に基づいて具体的に説明する。図1は本発明方法を示す空気線図、図2は空気線図上の状態変化を示す説明図、図3は本発明方法に使用する空調装置である。
【0010】図中1は、採り入れた外気を調温・調湿する空調装置であって、装置1内には、その外気流入口2側から空調空気流出口3側に向かって、外気を所定の湿度まで加湿するワッシャ(加湿器)4,所定の温度まで冷却するクーラ(冷却器)5,所定の温度まで加熱するヒータ(加熱器)6が設置され、空調空気流出口3には送風ファン7が配されている。
【0011】ワッシャ4には、常温の加湿用水を供給する加湿用水供給管8が接続され、当該供給管8にはその流量を調整する加湿水供給バルブ9が介装されている。また、クーラ5には、空調空気の露点温度以下に冷却された冷却水を供給する冷却水供給管10が接続され、当該供給管10にはその流量を調整してクーラ5の表面温度を調整する冷却水供給バルブ11が介装されている。さらに、ヒータ6には、蒸気を供給する蒸気供給管12が接続され、当該供給管12にはその流量を調整する蒸気供給バルブ13が介装されている。
【0012】なお、TH1 〜TH3 は温湿度センサであって、TH1 は外気の状態を検出するように外気流入口2に配され、TH2 はクーラ5を通過した空気の状態を検出するようにクーラ5の下流側に配され、TH3 は空調装置1から流出される空調空気の状態をモニタできるように空調空気流出口3に配されている。
【0013】14は、前記各バルブ9,11,13の開閉操作及び開度調整を行う制御装置であって、その入力側に前記各センサTH1 〜TH3 が接続されると共に、出力側に前記各バルブ9,11,13が接続され、各センサTH1 〜TH3 で検出されたデータを、予め設定されたプログラムに従って演算処理してバルブ開度を決定するようになされている。
【0014】次に、本発明方法について説明する。図1は横軸に温度,縦軸に絶対湿度をとった空気線図であって、空調空気の状態をP0(温度25℃,相対湿度85%RH,絶対湿度0.017kg/kg) に設定した場合に、領域Aは絶対湿度が空調空気より高い状態を示し、領域Bは絶対湿度が空調空気より低く、且つ、エンタルピが空調空気より高い状態を示し、領域Cは絶対湿度が空調空気より低く、且つ、エンタルピが空調空気より低い状態を示す。
【0015】この空気線図において、加湿操作,加熱操作,冷却操作等によって、空気の状態は図2に示すように変化する。例えば、状態P0 の空気を加熱すると矢印gで示すように右方向に推移し、冷却した場合は冷却体の温度によって方向が異なり、状態P0 の空気の露点温度T0 より高い温度の冷却体で冷却すると矢印hで示す左方向に推移し、その露点温度T0 より低い温度Tcで冷却すると矢印iで示す方向に推移する。また、加湿する場合は、熱量の授受の有無によって方向が異なり、受けた熱量をQ(kcal),水分をW(kg)とすると、熱水分比グラフ上で表されるQ/Wの値の方向と等しい方向(矢印j)に推移し、熱量の授受がない場合はQ=0なので、矢印fで示すようにエンタルピ一定(熱水分比=0)の方向に推移する。
【0016】空調装置1の運転を開始すると、温湿度センサTH1 のデータに基づいて外気の絶対湿度が検出され、外気の状態を領域A,B,Cのいずれに属するか判別する。なお、このとき絶対湿度を検出する場合に限らず、外気の露点温度を検出して空調空気の露点温度と比較する場合であってもよい。
【0017】そして、外気が領域Aの状態a1 であったとすると、絶対湿度が空調空気より高いので、除湿する必要はあってもこれ以上加湿する必要はない。したがって、加湿水供給バルブ9を閉じて加湿操作は行わずに、冷却水供給バルブ11を開いてクーラ5に冷却水を供給し冷却操作を行う。このとき、冷却水供給バルブ11の弁開度は、クーラ5を通過した空気の温度・湿度を温湿度センサTH2 で検出し、検出された絶対湿度が空調空気と等しくなるようにフィードバックされて選定される。
【0018】例えば、クーラ5の表面温度が空調空気の露点T0 以下のTcに設定されたとすると、その表面に外気中の水分が結露して除湿され、外気は状態a1 からa4に向かって推移し、クーラ5を通過した時点で、絶対湿度が空調空気の絶対湿度と等しくなり、温度が空調空気の設定温度より低くなる。次いで、蒸気供給バルブ13を開いてヒータ6に蒸気を供給し、設定温度まで加熱すると絶対湿度は変化しないので、状態a4 の空気は図1上で右方向に推移して、空調空気の状態P0 に調温・調湿されることとなる。このとき、蒸気供給バルブ13の弁開度は、流出口3から流出される空調空気の温度・湿度を温湿度センサTH3 で検出し、その温度が空調空気と等しくなるようにフィードバックされて調整される。
【0019】また、外気の絶対湿度がもともと空調空気の絶対湿度と等しい場合も、加湿操作を行う必要はなく、外気の温度と設定温度を比較して、外気の温度が高い場合にはクーラ5により冷却し、外気の温度が低い場合にはヒータ6により加熱する。なお、この場合において、クーラ5により冷却するときは、その表面温度を空調空気の露点温度T0 以下にすると、結露を生じ除湿されてしまうので、表面温度は露点温度T0 以上で且つ設定温度(25℃)以下になるように冷却水供給バルブ11の弁開度を調整する方が好ましい。
【0020】次に、外気が領域Bの状態b1 であったとすると、絶対湿度が空調空気より低いので加湿操作が必要となり、また、エンタルピは空調空気より高いので、熱量を取り除く必要がある。即ち、ワッシャ4による加湿操作と、クーラ5による冷却操作が必要となる。このときワッシャ4により受ける水分量をW,クーラ5により除かれる熱量をQとすると、状態b1 の空気は、熱水分比グラフ上で−Q/Wと等しい方向に推移する。したがって、外気の状態b1 から空調空気の状態P0 に推移させるには、温度の偏差及び絶対湿度の偏差に応じて定まる方向と、熱水分比グラフの方向を一致させて得られる熱水分比で、ワッシャ4及びクーラ5を運転すればよい。
【0021】さらに、外気が領域Cの状態c1 であったとすると、絶対湿度が空調空気より低いので加湿操作が必要となり、また、エンタルピは空調空気より低いので、熱量を与える必要がある。即ち、ワッシャ4による加湿操作と、ヒータ6による加熱操作が必要となる。このときワッシャ4により受ける水分量をW,ヒータ6により受ける熱量をQとすると、状態c1 の空気は、図1の熱水分比グラフ上でQ/Wと等しい方向に推移する。したがって、外気の状態c1 から空調空気の状態P0 に推移させるには、その方向と、熱水分比グラフの方向を一致させて得られる熱水分比Ucで、ワッシャ4及びヒータ6を運転すればよい。
【0022】なお、絶対湿度が空調空気より低く、また、エンタルピが空調空気と等しい場合は、ワッシャ4の加湿水供給バルブ9を開いて、絶対湿度が等しくなるまで加湿すれば、熱の授受はなく、エンタルピ一定で熱水分比=0の方向に推移して空調空気の状態P0 に達するので、TH2 又はTH3 のデータに基づいて、温度,湿度,絶対湿度,露点温度のいずれか一つをモニタし、空調空気のそれと一致するようにワッシャ4の加湿水供給バルブ9の弁開度を調整する。
【0023】このように、外気が領域A,B,Cのいずれに属する場合であっても、必要以上に加湿したり、過加湿された分を除湿するための冷却操作を行ったり、その結果温度が下がりさらに加熱操作を行うというような無駄な操作は一切不要となり、必要に応じて、加湿し、加熱し又は冷却することとしており、外気の状態に応じて加湿操作,加熱操作,冷却操作のうち一つの操作を省き、場合によっては二つの操作を省くことができるので、エネルギの無駄を無くし,ランニングコストを軽減できる。
【0024】
【発明の効果】以上述べたように、本発明によれば、外気の状態が、空調空気の絶対湿度より高いか否かを判別して、高い場合に、加湿操作を行うことなく冷却操作と加熱操作だけで、所定の温度・湿度の空調空気が得られるので、無駄な制御操作を行うことなく、エネルギ,ランニングコストを軽減することができるという非常に優れた効果を有する。さらに、空調空気の絶対湿度より低い場合に、エンタルピが空調空気より高いか否かを判断するようにすれば、エンタルピが高い場合には加熱操作を行うことなく加湿操作及び冷却操作だけで、また、エンタルピが低い場合には冷却操作を行うことなく加湿操作及び加熱操作だけで、所定の温度・湿度の空調空気が得られるので、加湿操作,冷却操作,加熱操作のいずれか一つを外気の状態に応じて省略することができ、エネルギ,ランニングコストを軽減できるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明方法を説明する空気線図。
【図2】各制御操作に対応する空気線図上の状態変化を示す説明図。
【図3】本発明方法に使用する空調装置を示すフローシート。
【図4】従来方法を説明する空気線図。
【符号の説明】
1・・・空調装置
2・・・外気流入口
3・・・空調空気流出口
4・・・ワッシャ(加湿器)
5・・・クーラ(冷却器)
6・・・ヒータ(加熱器)
TH1 〜TH3 ・・・温湿度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 加湿器による加湿操作,冷却器による冷却操作,加熱器による加熱操作により、外気を予め設定した温度・湿度に調温・調湿し、得られた空調空気を塗装ブースへ送給するように成された空調装置の運転方法において、採り入れる外気の温度,湿度に基づき外気の絶対湿度を検出し、検出された外気の絶対湿度が空調空気より高い場合に、加湿器を停止した状態で、冷却器の表面温度を空調空気の露点温度以下にして冷却操作を行い、絶対湿度が空調空気の絶対湿度まで下がった時点でその空気の温度を検出し、検出された温度が設定温度より低い場合は、加熱器により加熱操作を行うことを特徴とする空調装置の運転方法。
【請求項2】 加湿器による加湿操作,冷却器による冷却操作,加熱器による加熱操作により、外気を予め設定した温度・湿度に調温・調湿し、得られた空調空気を塗装ブースへ送給するように成された空調装置の運転方法において、a)採り入れる外気の温度,湿度に基づき外気の絶対湿度を検出し、b)検出された外気の絶対湿度が空調空気より高い場合は、加湿器を停止した状態で、冷却器の表面温度を空調空気の露点温度以下にして冷却操作を行い、絶対湿度が空調空気の絶対湿度まで下がった時点でその空気の温度を検出し、検出された温度が設定温度より低い場合は、加熱器により加熱操作を行い、c)検出された外気の絶対湿度の方が空調空気より低く、且つ、外気のエンタルピが空調空気より高い場合は、加湿器及び冷却器で加湿操作及び冷却操作を行い、加湿操作による加わる水分量と、冷却操作により奪われる熱量の比を、外気温度と設定温度の偏差及び外気湿度と設定湿度の偏差に応じて定まる熱水分比に等しく設定し、d)検出された外気の絶対湿度の方が空調空気より低く、且つ、外気のエンタルピが空調空気より低い場合は、加湿器及び加熱器で加湿操作及び加熱操作を行い、加湿操作による加わる水分量と、加熱操作により与えられる熱量の比を、外気温度と設定温度の偏差及び外気湿度と設定湿度の偏差に応じて定まる熱水分比と等しく設定したことを特徴とする空調装置の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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